(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(Mc)の質量をWMc、前記不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(Md)の質量をWMdとしたときに、WMc/WMdが0.2〜1の範囲内にある、請求項1に記載の蓄電デバイス用電極。
前記(A)重合体の平均粒子径(Da)と前記(B)活物質の平均粒子径(Db)との比(Db/Da)が20〜100の範囲内にあり、かつ曳糸性が30〜80%の範囲内にある、請求項6に記載の電極用スラリー。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。以下、図面を参照しながら、本実施の形態に係る蓄電デバイス用電極について説明する。
【0027】
1.蓄電デバイス用電極
図1は、本実施の形態に係る蓄電デバイス用電極を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、蓄電デバイス用電極100は、集電体10と、集電体10の表面に形成された活物質層20と、を備えている。
【0028】
集電体10の形状は特に制限されないが、通常、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが使用される。集電体10の材質は、導電性材料からなるものであれば特に制限されない。リチウムイオン二次電池の場合、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等の金属箔が挙げられるが、正極にはアルミニウムを、負極には銅を用いることが好ましい。ニッケル水素二次電池の場合、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板等が挙げられる。
【0029】
活物質層20は、集電体10の表面に後述する電極用スラリーを塗布して、さらに乾燥して形成された層である。この電極用スラリーは、(A)重合体、(B)活物質および(C)液状媒体を含有するため、活物質層20には(A)重合体および(B)活物質が少なくとも含まれている。活物質層20の厚さは特に制限されないが、通常0.005〜5mm、好ましくは0.01〜2mmである。なお、
図1における蓄電デバイス用電極100では、集電体10の一方の面にのみ活物質層20が形成されているが、集電体10の両方の面に活物質層20が形成されてもよい。
【0030】
集電体10の表面に電極用スラリーを塗布する方法については特に制限されない。たとえばドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬法、刷毛塗り法等の方法が挙げられる。塗布する電極用スラリーの量は、形成される活物質層の厚さが前述の厚さとなるように適宜調整すればよい。
【0031】
塗布した電極用スラリーの乾燥方法についても特に制限されない。たとえば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線等の照射による乾燥法が挙げられる。乾燥速度は、通常は応力集中によって活物質層に亀裂が入ったり、活物質層が集電体から剥離しない程度の速度範囲の中で、できるだけ速く液状媒体が除去できるように調整する。
【0032】
さらに、乾燥後の塗膜をプレスすることにより、活物質層の密度を高めてもよい。プレス方法は、金型プレスやロールプレス等の方法が挙げられる。
【0033】
以下、活物質層中に含まれる(A)重合体および(B)活物質について詳細に説明する。
【0034】
1.1.(A)重合体
(A)重合体は、(B)活物質を集電体に結着させるためのバインダーとして機能する成分である。(A)重合体は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(Ma)と、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(Mb)と、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(Mc)と、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(Md)と、を有する。以下、(A)重合体に含まれる各繰り返し単位について詳細に説明する。
【0035】
1.1.1.共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(Ma)
(A)重合体が共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(Ma)を有することにより、粘弾性および強度に優れたバインダーとして機能することができる。すなわち、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(Ma)を有する重合体を使用すると、重合体が強い結着力を有することができる。共役ジエン化合物に由来するゴム弾性が重合体に付与されるため、シリコン系活物質のリチウムの吸蔵および放出に伴う体積収縮や拡大等の変化に追従することが可能となる。これにより、集電体と活物質層との結着性を向上させて、さらには長期にわたり充放電特性を維持できる蓄電デバイス用電極が得られる。
【0036】
共役ジエン化合物としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。共役ジエン化合物としては、上記のうち1,3−ブタジエンが特に好ましい。
【0037】
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(Ma)の含有割合は、(A)重合体100質量部中、25〜60質量部であることが好ましく、30〜50質量部であることがより好ましく、35〜45質量部であることが特に好ましい。繰り返し単位(Ma)の含有割合が前記範囲にあると、集電体と活物質層との結着性のさらなる向上が可能となる。
【0038】
1.1.2.芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(Mb)
(A)重合体が芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(Mb)を有することにより、活物質層中に含まれる活物質に対する親和性をより良好にすることができる。特に活物質層中に活物質である炭素材料および/または導電付与剤が含まれる場合には、これに対する親和性をより良好にすることができる。
【0039】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。芳香族ビニル化合物としては、上記のうちスチレンが特に好ましい。
【0040】
芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(Mb)の含有割合は、(A)重合体100質量部中、15〜45質量部であることが好ましく、20〜40質量部であることがより好ましい。繰り返し単位(Mb)の含有割合が前記範囲にあると、炭素材料である活物質および/または導電付与剤に対して重合体(A)が適度な結着性を有することができる。これにより、活物質層中に炭素材料である活物質および/または導電付与剤が含まれる場合には、集電体と活物質層との結着性のさらなる向上が可能となる。
【0041】
1.1.3.不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(Mc)
(A)重合体が不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(Mc)を有することにより
、活物質層中に含まれるシリコン系活物質に対する親和性をより良好にすることができる。
【0042】
不飽和カルボン酸の具体例としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のモノまたはジカルボン酸を挙げることができ、これらから選択される1種以上であることができる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等の1種以上のモノカルボン酸と、フマル酸、イタコン酸等の1種以上のジカルボン酸と、を併用することが特に好ましい。
【0043】
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(Mc)の含有割合は、(A)重合体100質量部中、3〜15質量部であり、3.5〜14質量部であることが好ましい。繰り返し単位(Mc)の含有割合が前記範囲にあると、(A)重合体とシリコン系活物質との結着性および(A)重合体と集電体との結着性の両方が良好となる。また、モノカルボン酸はシリコン系活物質との結着性を向上させる効果が高く、ジカルボン酸は集電体との結着性を向上させる効果が高いことから、これらを併用することが特に好ましい。
【0044】
1.1.4.不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(Md)
(A)重合体が不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(Md)を有することにより、電解液との親和性が良好となり、蓄電デバイス中でバインダーが電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制するとともに、電解液を過大に吸収することによる結着性の低下を防ぐことができる。
【0045】
このような不飽和カルボン酸エステルの具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸アリル、ジ(メタ)アクリル酸エチレン、下記一般式(1)で表される化合物、(メタ)アクリル酸3[4〔1−トリフルオロメチル−2,2−ビス〔ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル〕エチニルオキシ〕ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピルなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルおよび(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルから選択される1種以上であることが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルであることが特に好ましい。
【0046】
【化1】
(一般式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2はフッ素原子を含有する炭素数1〜18の炭化水素基である。)
【0047】
不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(Md)の含有割合は、(A)重合体100質量部中、5〜30質量部であることが好ましく、8〜25質量部であることがより好ましく、10〜20質量部であることが特に好ましい。繰り返し単位(Md)の含有割合が前記範囲にあると、得られる(A)重合体は電解液との親和性が適度なものとなり、蓄電デバイス中でバインダーが電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制するとともに、電解液を過大に吸収することによる結着性の低下を防ぐことができる。
【0048】
なお、(A)重合体に含まれる不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(Mc)の質量をWMc、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(Md)の質量をWMdとしたときに、WMc/WMdが0.2〜1の範囲内にあることが好ましく、0.2〜0.85の範囲にあることがより好ましい。WMc/WMdが前記範囲内にあると、(A)重合体のシリコン系活物質との結着性および(A)重合体の電解液との親和性のバランスが非常に良好となる結果、蓄電デバイスの充電容量や充放電レート特性が相乗的に向上する。
【0049】
1.1.5.その他の繰り返し単位
(A)重合体は、上記以外の繰り返し単位を有してもよい。上記以外の繰り返し単位としては、例えばα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位、その他の繰り返し単位が挙げられる。
【0050】
(A)重合体がα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位を有することにより、(A)重合体の電解液に対する膨潤性をより向上させることができる。すなわち、ニトリル基の存在によって重合体鎖からなる網目構造に溶媒が侵入し易くなって網目間隔が広がるため、溶媒和したリチウムイオンがこの網目構造をすり抜けて移動し易くなる。これにより、リチウムイオンの拡散性が向上すると考えられ、その結果、電極抵抗が低下してより良好な充放電特性を実現することができるのである。
【0051】
α,β−不飽和ニトリル化合物の具体例としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどを挙げることができ、これらから選択される1種以上であることができる。これらのうち、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルから選択される1種以上であることが好ましく、アクリロニトリルであることがより好ましい。
【0052】
α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合は、(A)重合体100質量部中、35質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合が前記範囲にあると、使用する電解液との親和性に優れ、かつ膨潤率が大きくなりすぎず、電池特性の向上に寄与することができる。
【0053】
(A)重合体は、以下に示す化合物に由来する繰り返し単位をさらに有してもよい。このような化合物としては、例えば、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレン等のエチレン性不飽和結合を有する含フッ素化合物;(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸のアルキルアミド;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;アミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、メチルアミノプロピルメタクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸のアミノアルキルアミド等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。
【0054】
1.2.(B)活物質
(B)活物質には、シリコン系活物質が含まれる。シリコン(Si)を活物質として使用する場合、シリコンは5原子あたり最大22個のリチウムを吸蔵することができる(5Si+22Li→Li
22Si
5)。この結果、シリコン理論容量は4200mAh/gにも達する。しかしながら、シリコンはリチウムを吸蔵する際に大きな体積変化を生じる。具体的には、黒鉛系活物質はリチウムを吸蔵することにより最大1.2倍程度に体積膨張するのに対して、シリコン系活物質はリチウムを吸蔵することにより最大4.4倍程度に体積膨張する。このためシリコン系活物質は膨張と収縮の繰り返しによって微粉化、集電体からの剥離や、活物質同士の乖離を引き起こし、活物質層内部の導電ネットワークが寸断される。したがって短時間でサイクル特性が極端に劣化してしまう。
【0055】
しかしながら、本実施の形態に係る蓄電デバイス用電極では、シリコン系活物質を使用した場合でも上述のような問題が発生することなく、良好な電気的特性を示すことができる。これは、(A)重合体がシリコン系活物質を強固に結着させることができると同時に、リチウムを吸蔵することによりシリコン系活物質が体積膨張しても(A)重合体が伸び縮みしてシリコン系活物質を強固に結着させた状態を維持することができるためであると考えられる。
【0056】
このようなシリコン系活物質としては、例えばSiC、SiO
xC
y(0<x≦3、0<y≦5)、Si
3N
4、Si
2N
2O、SiO
x(0<x≦2)で表記されるSi酸化物複合体(例えば特開2004−47404号公報や特開2005−259697号公報に記載されている材料など)、特開2004−185810号公報に記載されているシリコン材料を使用することができる。
【0057】
また、活物質層中には、シリコン系活物質以外の活物質を含んでもよい。このような活物質としては、例えばアモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維等の炭素系活物質;ポリアセン等の導電性高分子;A
XB
YO
Z(但し、Aはアルカリ金属または遷移金属、Bはコバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ、マンガン等の遷移金属から選択される少なくとも1種、Oは酸素原子を表し、X、YおよびZはそれぞれ1.10>X>0.05、4.00>Y>0.85、5.00>Z>1.5の範囲の数である。)で表される複合金属酸化物や、その他の金属酸化物等が例示される。これらの中でも、リチウムの吸蔵および放出に伴う体積変化が小さいことから、炭素系活物質を併用することが好ましい。
【0058】
(B)活物質としてシリコン系活物質と炭素系活物質とを併用する場合、シリコン系活物質の使用量は、十分な結着性を維持する観点から、(B)活物質の全質量を100質量部としたときに4〜40質量部であること好ましく、5〜35質量部であることがより好ましく、5〜30質量部であることが特に好ましい。シリコン系活物質の使用量が前記範囲であると、リチウムの吸蔵に伴うシリコン系活物質の体積膨張に対する炭素系活物質の体積膨張が小さいため、これらの活物質を含有する活物質層の充放電に伴う体積変化を低
減させることができ、集電体と活物質層との結着性をより向上させることができる。
【0059】
本実施の形態に係る蓄電デバイス用電極においては、活物質層100質量部中のシリコン元素の含有割合が2〜30質量部であり、2〜20質量部であることが好ましく、3〜10質量部であることがより好ましい。活物質層中のシリコン元素の含有量が前記範囲であると、それを用いて作製される蓄電デバイスの蓄電容量が向上することに加え、シリコン元素の分布が均一な活物質層が得られる。活物質層中のシリコン元素の含有量が前記範囲未満であると、蓄電デバイスの蓄電容量が低下するため好ましくない。活物質層中のシリコン元素の含有量が前記範囲を超えると、蓄電デバイスの蓄電容量は増大するものの、充放電を繰り返すに従い電極より活物質層が剥離しやすくなり電極劣化が発生する。しかも、シリコン元素含有量が多いと、シリコン元素含有成分同士の凝集が発生しやすく、活物質層内のシリコン元素の分布が不均一となるため、活物質層全体としての結着性に劣り、粉落ち性も不十分となるため好ましくない。
【0060】
本発明において活物質層中のシリコン元素の含有量は、以下の手順により測定することができる。すなわち、
(1)蛍光X線分析装置(スペクトリス社製、製品名「パナリティカルMagixPRO」)にて、あらかじめ準備しておいたシリコン元素の含有量既知のサンプルを複数点測定し、検量線を作成する。
(2)蓄電デバイス用電極から活物質層の全体(深さ方向の一部のみを採取しないようにする)をスパチュラなどで3g掻き取り、全体が均一になるように乳鉢などで混合した後に直径3cmの円盤状のプレートにプレスする。活物質層単独では成形できない場合は、元素組成既知の凝着剤を適宜使用してもよい。このような凝着剤としては、例えばスチレン・マレイン酸樹脂、ホウ酸粉末、セルロース粉などを使用できる。また、シリコン含有量が高く検量線のリニアリティが確保できない場合も、上記凝着剤を用いてサンプルを希釈して測定することができる。なお、上記凝着剤を使用する際は、マトリックス効果による検量線のズレを回避するため、検量線作成サンプルも同様に凝着剤を使用することが好ましい。
(3)得られたプレートを蛍光X線分析装置にセットして分析し、上記検量線からシリコン元素含有量を算出する。上記凝着剤を使用した場合は、凝着剤の重量を差し引いた上でシリコン元素含有量を算出する。
【0061】
1.3.活物質層の物性
本実施の形態に係る蓄電デバイス用電極においては、活物質層の重合体分布係数が0.6〜1.0であることが好ましく、0.7〜1.0であることがより好ましく、0.75〜0.95であることが特に好ましい。
【0062】
本発明において「重合体分布係数」とは、以下の測定方法から定義される係数である。
図1の蓄電デバイス用電極100を参照しながら説明する。すなわち、
(1)上述した方法により、集電体10の一方の面に活物質層20を形成させる。これを二つに分割して、同じ活物質層20を有する蓄電デバイス用電極100を二つ作製する。(2)あらかじめ準備しておいたアルミ板上に両面テープ(ニチバン株式会社製、品番「NW−25」)を貼り付け、さらに同両面テープの上にカプトンテープ(株式会社テラオカ製、品番「650S」)を粘着面が上になるようにして貼り付ける。
(3)(2)で用意したもののカプトンテープの粘着面上に、(1)で作製した電極の一つの活物質層側と貼り合わせ、ローラーで圧着させる。
(4)集電体10を上に向けて(3)で作製されたアルミ板を水平面に固定した後、集電体10を上方向にアルミ板との角度が90度となるように一定速度で引き上げ、集電体10と活物質層20との接着面から集電体10を剥離する。
(5)剥離した界面の両側、すなわち集電体10に残存した活物質層の表面から深さ1.
5μm(1.5μm以下の厚さしか残存しなかった場合はその残存した全て)までの活物質層20および、粘着テープ側に残存した活物質層表面から深さ1.5μmまでの活物質層20を掻き取り、それを「測定試料A」とする。
(6)(1)で作製したもう一方の蓄電デバイス用電極100から活物質層20を全て掻き取り、それを「測定試料B」とする。
(7)測定試料Aおよび測定試料Bのそれぞれについて、高周波誘導加熱方式パイロライザーを有する熱分解ガスクロマトグラフィを用いて分析し、各試料の単位重量当たりの重合体成分の含有量(質量%)を算出する。得られた値を下記式(2)に代入することにより、重合体分布係数を算出する。
重合体分布係数=(測定試料Aの重合体含有量:質量%)/(測定試料Bの重合体含有量:質量%) ・・・・・(2)
【0063】
なお、上記式(2)によると、重合体分布係数が1であれば、活物質層20中の重合体成分が均一に分布していることを表す。また、重合体分布係数が1を超える値であれば、集電体10と活物質層20との剥離界面近傍に重合体成分が偏在しており、1未満の値であれば、集電体10と活物質層20との剥離界面近傍の重合体成分が疎になっていると解釈できる。
【0064】
したがって、活物質層の重合体分布係数が0.6〜1.0であると、重合体(A)が集電体と活物質層との界面近傍に十分に存在するため、集電体と活物質層間の結着性が良好となり、粉落ち性に優れ、かつ電気的特性にも優れた蓄電デバイス用電極が得られる。活物質層の重合体分布係数が前記範囲未満であると、集電体と活物質層との界面にバインダーとして機能する重合体(A)の量が相対的に少なくなるため、集電体と活物質層との密着性が低下する。また、このようなブリード(移行)が起こることにより、活物質層表面の平滑性が損なわれる傾向がある。一方、重合体分布係数が前記範囲を超えると、集電体と活物質層との界面に絶縁体であるバインダー成分が局在化することにより、電極の内部抵抗が上昇して電気的特性が損なわれる。
【0065】
本実施の形態に係る蓄電デバイス用電極においては、活物質層の密度が1.3〜1.8g/cm
3であることが好ましく、1.4〜1.8g/cm
3であることがより好ましく、1.5〜1.7g/cm
3であることが特に好ましい。活物質層の密度が前記範囲にあると、集電体および活物質層間の結着性が良好となり、粉落ち性に優れ、かつ電気的特性にも優れた電極が得られやすい。活物質層の密度が前記範囲未満であると、活物質層中において重合体(A)が十分にバインダーとして機能せず、活物質層が凝集剥離するなどして粉落ち性が低下することがある。活物質層の密度が前記範囲を超えると、活物質層中において重合体(A)をバインダーとして活物質の接着が強固になりすぎるため、集電体の柔軟性に活物質層が追随し難くなる。その結果、集電体と活物質層との界面が剥離することがある。
【0066】
本発明において「活物質層の密度」とは、以下の測定方法から測定される値である。すなわち、上述した方法により、集電体の一方の面に、面積C(cm
2)で厚さD(μm)の活物質層を形成させて蓄電デバイス用電極を作製する。集電体の質量がA(g)、作製された蓄電デバイス用電極の質量がB(g)である場合、活物質層の密度は下記式(3)により算出される。
活物質層の密度(g/cm
3)
=(B(g)−A(g))/(C(cm
2)×D(μm)×10
−4) ・・・・・(3)
【0067】
なお、上述した物性を有する活物質層を備えた蓄電デバイス用電極を作製するためには、後述する電極用スラリーを多層塗工して活物質層を形成する方法により作製することが好ましい。以下、かかる方法について
図2(A)および
図2(B)を参照しながら具体的に説明する。
【0068】
まず、
図2(A)に示すように、集電体110の表面に後述する電極用スラリーを塗布した後、好ましくは100℃以上の温度で乾燥させて、活物質層の下層となる第1活物質層122を形成する。次いで、
図2(B)に示すように、前記第1活物質層122の表面に後述する電極用スラリーを塗布した後、好ましくは100℃以上の温度で乾燥させて、活物質層の上層となる第2活物質層124を形成する。すなわち、後述する電極用スラリーを集電体10の表面に多層塗工することにより活物質層120を形成する。なお、100℃以上の温度で乾燥させることが好ましい理由は、電極用スラリー中に含まれる水を蒸発させる必要があるからである。
【0069】
活物質層120の第1活物質層122は、多孔質構造を有していると考えられる。そうすると、第1活物質層122の表面に電極用スラリーを塗布することで、当該電極用スラリーが第1活物質層122中に染み込んでいくと考えられる。これにより、集電体110と接する第1活物質層122中の重合体(A)の含有量が高まる。したがって、かかる方法によれば、集電体110と活物質層120との結着性が良好となる蓄電デバイス用電極200を容易に作製することが可能となる。
【0070】
上記方法によれば、第1活物質層122を形成する際に使用する電極用スラリーおよび第2活物質層124を形成する際に使用する電極用スラリーについては、それぞれ重合体(A)の含有量を変える必要はなく、同一の電極用スラリーを用いればよい。これにより、上記方法において塗布工程を簡便にすることができる。
【0071】
上記方法により作製された活物質層120において、第1活物質層122の厚みは、第2活物質層124の厚みよりも薄くすることが好ましい。後述する電極用スラリーには多量の水が含まれているため、第1活物質層122の表面に当該電極用スラリーを塗布すると、第1活物質層122中に水が染み込んでいくと考えられる。この状態で乾燥させて形成された第2活物質層124は、表面がざらついた状態となりやすい。しかしながら、第1活物質層122の厚みを第2活物質層124の厚みよりも薄くすることで、水の染み込み量が適量となり、第2活物質層124の表面のざらつきが低減された良好な表面状態を形成することができる。
【0072】
また、上記方法において、第2活物質層124の上方には、後述する電極用スラリーを塗布した後、好ましくは100℃以上の温度で乾燥することにより、活物質層120の上層となる1以上の活物質層をさらに形成してもよい。
【0073】
2.電極用スラリー
本実施の形態に係る電極用スラリーは、上述の蓄電デバイス用電極を作製するために使用されるものであり、より具体的には集電体の表面に塗布・乾燥させて活物質層を形成するための分散液である。
【0074】
本実施の形態に係る電極用スラリーは、(A)重合体と、(B)活物質と、(C)液状媒体と、を含有する。上述の蓄電デバイス用電極でも説明したように、前記(A)重合体は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(Ma)と、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(Mb)と、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(Mc)と、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(Md)と、を有する重合体であり、前記(A)重合体100質量部中に前記不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(Mc)を3〜15質量部含有する。また、上述の蓄電デバイス用電極でも説明したように、前記(B)活物質としてシリコン系活物質を含有する。
【0075】
2.1.(A)重合体
本実施の形態に係る電極用スラリーに含まれる(A)重合体の構成については、上述の蓄電デバイス用電極で説明したとおりである。本実施の形態に係る電極用スラリーに含まれる(A)重合体は、(C)液状媒体中に粒子として分散されたラテックス状であることが好ましい。(A)重合体がラテックス状であると、(B)活物質と混合して作製される電極用スラリーの安定性が良好となり、また電極用スラリーの集電体への塗布性が良好となるため好ましい。次に(A)重合体の粒子の好ましい物性や調製方法について説明する。
【0076】
2.1.1.テトラヒドロフラン(THF)不溶分
(A)重合体のTHF不溶分は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。THF不溶分は、蓄電デバイスで使用する電解液への不溶分量とほぼ比例すると推測される。このため、THF不溶分が前記範囲であれば、蓄電デバイスを作製して、長期間にわたり充放電を繰り返した場合でも電解液への(A)重合体の溶出を抑制できるため良好であると推測できる。
【0077】
2.1.2.平均粒子径
(A)重合体の粒子の平均粒子径(Da)は、0.05〜0.4μmの範囲にあることが好ましく、0.06〜0.39μmの範囲にあることがより好ましく、0.07〜0.38μmの範囲にあることが特に好ましい。(A)重合体の粒子の平均粒子径(Da)が前記範囲にあると、(A)重合体の粒子の(B)活物質表面への吸着量のバランスが良好となり、マイグレーションの発生を抑制することができる。
【0078】
また、(A)重合体の粒子は、下記の[1]および[2]の要件を満たしていることが好ましい。
[1]0.01μm以上0.25μm未満の粒径区間に(A)重合体の粒子が2〜60容積%、好ましくは3〜55容積%、より好ましくは4〜50容積%存在すること。
[2]0.25μm以上0.5μm以下の粒径区間に(A)重合体の粒子が40〜98容積%、好ましくは45〜97容積%、より好ましくは50〜96容積%存在すること。
【0079】
上記[1]および[2]の要件における(A)重合体の粒子の存在割合が前記範囲にあると、得られる活物質層と空気との界面に(A)重合体の粒子が偏在することを効果的に抑制することができるため、電解液の活物質層への浸透を促進させることができる。これにより、充放電特性等の電気的特性が良好になると共に、集電体と活物質層との結着性を向上させて剥離等を抑制できるため好ましい。さらに、上記[1]および[2]の要件における(A)重合体の粒子の存在割合が前記範囲にあると、粉落ち性を向上できる傾向がある。
【0080】
(A)重合体の粒子の平均粒子径(Da)および粒度分布測定は、光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いることにより行われる。このような粒度分布測定装置としては、たとえば、コールターLS230、LS100、LS13 320(以上、コールター社製)や、FPAR−1000(大塚電子株式会社製)等が挙げられる。この粒度分布測定装置は、(A)重合体の粒子の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価対象とする。したがって、この粒度分布測定装置によって得られた粒度分布は、電極用スラリー中に含まれる(A)重合体の粒子の分散状態の指標とすることができる。
【0081】
なお、(A)重合体の粒子の平均粒子径(Da)および粒度分布は、電極用スラリーを遠心分離して(B)活物質を沈降させた後、その上澄み液を上記の方法で測定することに
より得られる。
【0082】
2.1.3.転移温度
(A)重合体の粒子は、JIS K7121に準拠する示差走査熱量測定(DSC)によって測定したときに、−50〜250℃の温度範囲において吸熱ピークを1つしか有さないものであることが好ましい。この吸熱ピークの温度は、−80〜50℃の範囲にあることがより好ましく、−50〜15℃であることがより好ましい。(A)重合体の粒子の有する1つのみの吸熱ピークの温度が上記範囲にある場合、活物質層に対してより良好な柔軟性と粘着性とを付与することができ、従って密着性をより向上させることができる点で好ましい。
【0083】
2.1.4.(A)重合体の粒子の調製方法
(A)重合体の粒子の合成方法については特に限定されず、たとえば乳化重合、播種乳化重合、懸濁重合、播種懸濁重合、溶液析出重合等が挙げられる。重合体の粒子を溶剤に溶解ないし膨潤させ、該溶媒と相溶しない媒体中で攪拌混合した後、脱溶剤する溶解分散法も可能である。また、これらにより得られた重合体粒子に対して化学修飾や電子線照射等の物理的変性を行ってもよい。
【0084】
(A)重合体の粒子は、前記重合法のうち乳化重合や懸濁重合等を用いて、反応中に分散安定剤を重合系に別添加することにより1段階で合成することができる。上記[1]および[2]の要件を満たすような、0.01μm以上0.25μm未満の粒径区間に2〜60容積%および、0.25μm以上0.5μm以下の粒径区間に40〜98容積%存在する分布を有する重合体の粒子が液状媒体中に分散された液状媒体分散液を1段階で合成する方法は、生産性向上の観点から好ましい。このような分散液は、上述した公知の合成方法により重合体の粒子の粒度分布をコントロールすることにより作製することができる。
【0085】
また(A)重合体の粒子は、上述のように1段階で合成された重合体粒子を含有する液状媒体分散液を使用するだけでなく、小粒径重合体粒子成分と大粒径重合体粒子成分とを前記重合法により別々に得て、それらを混合することにより2段階で得ることもできる。
【0086】
上記[1]および[2]の要件を満たすような(A)重合体の粒子を得るための具体的方法としては、最頻粒径が0.01μm以上0.25μm未満である重合体の粒子の液状媒体分散液(I)を重合体粒子換算で2〜60質量部と、最頻粒径が0.25μm以上0.5μm以下である重合体の粒子の液状媒体分散液(II)を重合体粒子換算で40〜98質量部と、を混合する方法が挙げられる。但し、液状媒体分散液(I)と液状媒体分散液(II)とを混合した後の重合体の粒子は、合計で100質量部である。ここで、「最頻粒径」とは、液状媒体分散液について光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布から求めた最も頻度の大きい区間の中央値のことをいう。
【0087】
前述の具体的方法において、最頻粒径が0.01μm以上0.25μm未満である重合体粒子の液状媒体分散液(I)が重合体粒子基準で60質量部より多くなると(最頻粒径が0.25μm以上0.5μm以下である重合体の粒子の液状媒体分散液が重合体の粒子基準で40質量部よりも少なくなることと同じ)と、電極用スラリーを集電体に塗布して乾燥させる際に、液状媒体の蒸発に伴いその表面張力の影響を受けて、相対的に小さな重合体粒子が空気界面方向へと移動(マイグレーション)する。その結果、重合体の粒子が電極表面に偏在することになるため、電解液との電子の授受が阻害される傾向がある。一方、活物質層と集電体との界面では、重合体粒子の量が相対的に少なくなるため、活物質層と集電体との接着力が低下して結着性が損なわれる傾向がある。以上のように、電極用スラリーに含まれる重合体粒子のバランスが崩れると、電気的特性や、活物質層と集電体
との結着性が損なわれる傾向が見られる。
【0088】
2.2.(B)活物質
本実施の形態に係る電極用スラリーに含まれる(B)活物質については、上述の蓄電デバイス用電極で説明したとおりである。本実施の形態に係る電極用スラリーに含まれる(B)活物質は、通常(C)液状媒体中に粒子として分散されている。以下、(B)活物質の粒子の好ましい物性について説明する。
【0089】
2.2.1.平均粒子径
(B)活物質の粒子の平均粒子径(Db)は、後述する比(Db/Da)の値を満足するように選択されるが、通常1〜200μmの範囲であり、1〜100μmの範囲であることが好ましく、5〜50μmの範囲であることがより好ましい。
【0090】
ここで、(B)活物質の粒子の平均粒子径(Db)とは、レーザー回折法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、累積度数が体積百分率で50%となる粒子径(D50)の値である。なお、このようなレーザー回折式粒度分布測定装置としては、たとえば、HORIBA LA−300シリーズ、HORIBA LA−920シリーズ(以上、株式会社堀場製作所製)等が挙げられる。この粒度分布測定装置は、(B)活物質の粒子の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価対象とする。したがって、この粒度分布測定装置によって得られた平均粒子径(Db)は、電極用スラリー中に含まれる(B)活物質の粒子の分散状態の指標とすることができる。
【0091】
なお、(B)活物質の粒子の平均粒子径(Db)は、電極用スラリーを遠心分離して(B)活物質の粒子を沈降させた後、その上澄み液を除去し、沈降した(B)活物質の粒子を上記の方法により測定することにより得られる。
【0092】
2.3.(C)液状媒体
本実施の形態に係る電極用スラリーは、(C)液状媒体を含有する。(C)液状媒体としては、水を含有することが好ましい。水を含有することにより電極用スラリーの安定性が良好となり、再現性良く電極を作製することが可能となる。
【0093】
(C)液状媒体には、水以外の非水系媒体を含有させることもできる。このような非水系媒体としては、例えばアミド化合物、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、アミン化合物、ラクトン、スルホキシド、スルホン化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
【0094】
上記例示した非水系媒体の中でも、電極用スラリーの塗布性を改善する観点から、80〜350℃の標準沸点を有する非水系媒体を添加することが好ましい。非水系媒体の具体例としては、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド化合物;トルエン、キシレン、n−ドデカン、テトラリン等の炭化水素;2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル;o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン等のアミン化合物;γ−ブチロラクトン、δ−ブチロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン化合物等が挙げられる。これらは単独もしくは二種以上の混合溶媒として使用することができる。これらの中でも、(A)重合体の粒子の安定性や、塗布する際の作業性の点で、N−メチルピロリドンが特に好ましい。
【0095】
(C)液状媒体が水および水以外の非水系媒体を含有する場合、(C)液状媒体100質量部中、90質量部以上が水であることが好ましく、98質量部以上が水であることがより好ましい。このような(C)液状媒体を使用することにより、環境に対して悪影響を及ぼす程度が低くなり、取扱作業者に対する安全性も高くなる。
【0096】
2.4.その他の添加剤
本実施の形態に係る電極用スラリーには、前述した(A)重合体、(B)活物質、(C)液状媒体以外にも、必要に応じて導電付与剤や増粘剤等を添加してもよい。
【0097】
導電付与剤の具体例としては、リチウムイオン二次電池では、グラファイト、活性炭等のカーボンが用いられる。また、ニッケル水素二次電池では、正極では酸化コバルト、負極ではニッケル粉末、酸化コバルト、酸化チタン、カーボン等が用いられる。上記両電池において、カーボンとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレン類等が挙げられる。これらの中でも、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラックが好ましい。導電付与剤の使用量は、通常、(B)活物質100質量部に対して1〜20質量部、好ましくは2〜10質量部である。
【0098】
本実施の形態に係る電極用スラリーには、塗工性を改善する観点から、増粘剤を添加してもよい。増粘剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類、およびこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸等のポリカルボン酸類、およびこれらのアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびフマル酸等の不飽和カルボン酸とビニルエステルとの共重合体の鹸化物;等の水溶性ポリマーが挙げられる。これらの中でも特に好ましい増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩等である。
【0099】
本実施の形態に係る電極用スラリーが増粘剤を含有する場合、増粘剤の使用割合は、全重合体質量(全固形分量)100質量部に対して、通常5〜200質量部、好ましくは10〜150質量部、より好ましくは20〜100質量部である。
【0100】
2.5.電極用スラリーの特徴
本実施の形態に係る電極用スラリーは、(A)重合体の粒子の平均粒子径(Da)と(B)活物質の粒子の平均粒子径(Db)との比(Db/Da)が20〜100の範囲にあることが好ましく、それが25〜95の範囲にあることがより好ましく、30〜90の範囲にあることが特に好ましい。
【0101】
集電体の表面に電極用スラリーを塗布して乾燥させる工程において、(A)重合体の粒子および/または(B)活物質の粒子が表面張力の作用を受けることにより塗膜の厚み方向に沿って移動すること(本明細書において「マイグレーション」ともいう。)が確認されている。具体的には、(A)重合体の粒子および/または(B)活物質の粒子が、塗膜の集電体と接する面とは反対側、すなわち水が蒸発する気固界面側へと移動する傾向がある。
【0102】
その結果、(A)重合体の粒子および(B)活物質の粒子の分布が塗膜の厚み方向で不均一となるため、電極特性が劣化したり、集電体と活物質層との密着性が損なわれるなどの問題が発生する。たとえば、バインダーとして作用する(A)重合体の粒子が活物質層
の気固界面側へとブリード(移行)して、集電体と活物質層との界面における(A)重合体の粒子の量が相対的に少なくなる場合には、活物質層への電解液の浸透が阻害されることにより電気的特性が劣化すると共に、集電体と活物質層との結着性が低下して剥離が発生する傾向がある。さらに、このように(A)重合体の粒子がブリードすることにより、活物質層表面の平滑性が損なわれる傾向がある。
【0103】
しかしながら、比(Db/Da)が前記範囲にあると、前述したような問題の発生を抑制することができ、良好な電気的特性と密着性とを両立させた電極の作製が可能となる。なお、比(Db/Da)が前記範囲未満では、(A)重合体の粒子と(B)活物質の粒子との平均粒子径の差が小さくなるため、(A)重合体の粒子と(B)活物質の粒子とが接触する面積が小さくなり粉落ち性が低下する傾向がある。一方、比(Db/Da)が前記範囲を超えると、(A)重合体の粒子と(B)活物質の粒子との平均粒子径の差が大きくなることにより、(A)重合体の粒子の接着力が不十分となり集電体と活物質層との結着性が低下する傾向がある。
【0104】
また、本実施の形態で使用される電極用スラリーは、曳糸性が30〜80%であることが好ましく、33〜79%であることがより好ましく、35〜78%であることが特に好ましい。曳糸性が前記範囲未満であると、電極用スラリーを集電体上へ塗工する際、レベリング性が不足するため、電極厚みの均一性が得られにくい。このような厚みが不均一な電極を使用すると、充放電反応の面内分布が発生するため、安定した電池性能の発現が困難となる。一方、曳糸性が前記範囲を超えると、電極用スラリーを集電体上に塗工する際、液ダレが起き易くなり、安定した品質の電極が得られにくい。曳糸性が前記範囲にあれば、これらの問題の発生を抑制することができ、良好な電気的特性と結着性とを両立させた電極の作製が可能となる。
【0105】
なお、本願発明における「曳糸性」は、以下のようにして測定することができる。
まず、直径5.2mmの開口部を底部に有するザーンカップ(太佑機材株式会社製、ザーンビスコシティーカップNo.5)を準備する。このザーンカップの開口部を閉じた状態で、ザーンカップに電極用スラリーを40g流し込む。その後、開口部を開放すると、開口部から電極用スラリーが流れ出す。ここで、開口部を開放した時をT
0、電極用スラリーの曳糸が終了した時をT
A、電極用スラリーの流出が終了した時をT
Bとした場合に、本願発明における「曳糸性」は下記式(4)から求めることができる。
曳糸性(%)=((T
A−T
0)/(T
B−T
0))×100 ・・・・・(4)
【0106】
2.6.電極用スラリーの製造方法
本実施の形態に係る電極用スラリーは、(A)重合体と、(B)活物質と、(C)液状媒体と、必要に応じて用いられる添加剤とを混合することにより作製することができる。これらの混合には通常の手法を用いて混合攪拌することができ、たとえば、攪拌機、脱泡機、ビーズミル、高圧ホモジナイザー等を利用することができる。また、電極用スラリーの調製は、減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる活物質層内に大きな気泡が生じることを防止することができる。
【0107】
本実施の形態に係る電極用スラリーを調製するための混合撹拌には、スラリー中に(B)活物質の粒子の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μmより大きい凝集物がなくなるように混合分散すべきである。混合機としては、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー等を例示できる。
【0108】
3.電極用バインダー組成物
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物(以下、単に「バインダー組成物」ともいう。)は、上述の電極用スラリーを作製するために使用されるものであり、より具体的には(B)活物質等を集電体に結着するためのバインダーとなる(A)重合体が(C)液状媒体中に粒子状で分散している分散液である。
【0109】
本実施の形態に係るバインダー組成物は、(A)重合体および(C)液状媒体を含有する。上述の蓄電デバイス用電極で説明したように、前記(A)重合体は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(Ma)と、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(Mb)と、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(Mc)と、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(Md)と、を有する重合体であり、前記(A)重合体100質量部中に前記不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(Mc)を3〜15質量部含有する。(A)重合体および(C)液状媒体については、上述の蓄電デバイス用電極および電極用スラリーで詳細に説明したので説明を省略する。
【0110】
本実施の形態に係るバインダー組成物には、塗工性を改善する観点から、さらに増粘剤を添加してもよい。増粘剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類、およびこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸等のポリカルボン酸類、およびこれらのアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびフマル酸等の不飽和カルボン酸とビニルエステルとの共重合体の鹸化物;等の水溶性ポリマーが挙げられる。これらの中でも、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸およびそのアルカリ金属塩が好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸およびそのアルカリ金属塩がより好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸が特に好ましい。
【0111】
本実施の形態に係るバインダー組成物が増粘剤を含有する場合、増粘剤の使用割合は、全重合体の粒子質量(全固形分量)100質量部に対して、通常5〜200質量部、好ましくは10〜150質量部である。
【0112】
本実施の形態に係るバインダー組成物は、上記の(A)重合体の粒子と(C)液状媒体とを含有する液状媒体分散液を用いて作製することができる。このような分散液は、液状媒体分散液を作製する際に、公知の合成方法により重合体の粒子の粒度分布をコントロールすることにより作製することができる。
【0113】
本実施の形態に係るバインダー組成物は、上述のように重合体の粒子の合成段階であらかじめ粒度分布をコントロールした重合体の粒子を含有する液状媒体分散液を使用するだけでなく、異なる粒子径分布を示す2種類以上の液状媒体分散液を混合することによっても作製することができる。たとえば、0.01μm以上0.25μm未満の粒径区間に2〜60容積%および0.25μm以上0.5μm以下の粒径区間に40〜98容積%存在する分布を有する重合体の粒子は、最頻粒径が0.01μm以上0.25μm未満である重合体の粒子の液状媒体分散液(I)を重合体の粒子換算で2〜60質量部と、最頻粒径が0.25μm以上0.5μm以下である重合体の粒子の液状媒体分散液(II)を重合体粒の子換算で40〜98質量部と、を混合することによって得られる。但し、分散液(I)と分散液(II)とを混合した後の重合体の粒子は、合計で100質量部である。ここで「最頻粒径」とは、液状媒体分散液について光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布から求めた最も頻度の大きい区間の中央値のことをいう。
【0114】
最頻粒径が0.01μm以上0.25μm未満である重合体の粒子の液状媒体分散液(I)が重合体の粒子基準で60質量部より多くなる(最頻粒径が0.25μm以上0.5μm以下である重合体の粒子の液状媒体分散液が重合体の粒子基準で40質量部よりも少なくなることと同じ)と、バインダー組成物に活物質を混合して作製されたスラリーを集電体に塗布して乾燥させる際に、液状媒体の蒸発に伴いその表面張力の影響を受けて、相対的に小さな重合体の粒子が空気界面方向へと移動してしまう。その結果、重合体の粒子が電極表面に偏在することになるため、電解液との電子の授受が阻害される傾向がある。一方、活物質層と集電体との界面では、重合体の粒子の量が相対的に少なくなるため、活物質層と集電体との接着力が低下して結着性が損なわれる傾向がある。以上のように、バインダー組成物に含まれる(A)重合体の粒子のバランスが崩れると、電気特性や、活物質層と集電体との密着性が損なわれる傾向が見られる。
【0115】
前記重合体の粒子の製造方法は、特に限定されず、たとえば乳化重合、播種乳化重合、懸濁重合、播種懸濁重合、溶液析出重合等が挙げられる。重合体の粒子を溶剤に溶解ないし膨潤させ、該溶媒と相溶しない媒体中で攪拌混合した後、脱溶剤する溶解分散法も可能である。また、これらにより得られた重合体の粒子に対して化学修飾や電子線照射等の物理的変性を行ってもよい。
【0116】
また、本実施の形態に係るバインダー組成物は、小粒径重合体の粒子成分と大粒径重合体の粒子成分とを前記重合法により別々に得て、それらを混合することによって2段階で得てもよいが、前記重合法のうち、乳化重合や懸濁重合等を用いて、反応中に分散安定剤を重合系に別添加することにより1段階で得ることもできる。
【0117】
上記重合体の粒子を得るための重合性不飽和単量体としては、上記粒度分布上の条件を満たす重合体の粒子を与えることのできる単量体であれば特に限定されず、上述の単量体成分を適時使用することができる。
【0118】
さらに上述した乳化重合や懸濁重合等によって得られる重合体の粒子の液状媒体分散液には、アンモニア、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等)水酸化物、無機アンモニウム化合物(塩化アンモニウム等)、有機アミン化合物(エタノールアミン、ジエチルアミン等)等の水溶液を加えてpH調整することができる。なかでも、アンモニアまたはアルカリ金属水酸化物を用いて、pHを5〜13、好ましくは6〜12の範囲になるように調整すると、集電体と活物質との結着性を向上できる点で好ましい。
【0119】
以上のように、本実施の形態に係るバインダー組成物は、乳化重合や懸濁重合等によって得られた重合体の粒子の液状媒体分散液をそのままバインダー組成物として用いることができるが、これに限定されない。たとえば液状媒体が水である場合、水を非水系液状媒体に分散媒置換して、非水系液状媒体に重合体の粒子を分散させた組成物とすることもできる。バインダーである重合体の粒子が粉末粒子の場合には、これを分散媒に分散させて本実施の形態に係るバインダー組成物を調製してもよい。また、分散媒置換する場合は、水性分散液に非水系液状媒体を加えた後、分散媒中の水分を蒸留、限外濾過等により除去する。残存水分が5質量%以下、好ましくは0.5質量%以下になるまで除去して分散媒に用いると、優れた初期電池容量が得られる。なお、本実施の形態に係るバインダー組成物中の全重合体の粒子の濃度、すなわち固形分濃度は、通常0.5〜80質量%、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは1〜60質量%である。
【0120】
4.蓄電デバイス
本実施の形態に係る蓄電デバイスは、上述した蓄電デバイス用電極を備えたものであり、さらに電解液を含み、セパレータ等の部品を用いて、常法に従って製造されるものである。具体的な製造方法としては、たとえば、負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型などいずれであってもよい。
【0121】
電解液は、通常の蓄電デバイスに用いられるものであれば、液状でもゲル状でもよく、負極活物質、正極活物質の種類に応じて電池としての機能を発揮するものを選択すればよい。
【0122】
電解質としては、リチウムイオン二次電池では、従来から公知のリチウム塩がいずれも使用でき、LiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiB
10Cl
10、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiB(C
2H
5)
4、LiCF
3SO
3、LiCH
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、低級脂肪酸カルボン酸リチウム等が挙げられる。また、ニッケル水素二次電池では、たとえば従来公知の濃度が5モル/リットル以上の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。
【0123】
これらの電解質を溶解させる溶媒は、特に制限されるものではない。具体例としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類が挙げられ、これらは単独もしくは二種以上の混合溶媒として使用することができる。
【0124】
5.実施例
以下、本発明を実施例に基いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0125】
5.1.重合体の合成および調製
5.1.1.重合体の粒子分散液Aの合成
反応器に水100部と、ブタジエン37部、スチレン30部、アクリロニトリル8部、メタクリル酸メチル18部、イタコン酸4部およびアクリル酸3部からなる単量体100部と、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン1部と、界面活性剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1.5部と、開始剤として過硫酸カリウム0.4部と、炭酸ナトリウム0.3部とを仕込み、攪拌しながら70℃で8時間重合し、重合転化率96%で反応を終了した。続いて、この反応器に水10部と、ブタジエン14部と、スチレン15部と、メタクリル酸メチル6部およびアクリル酸5部からなる単量体類と、界面活性剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.1部と、開始剤として過硫酸カリウム0.2部と、炭酸ナトリウム0.1部とを添加して80℃にて8時間重合反応を継続した後、反応を終了させた。このときの重合転化率は98%であった。得られた重合体の粒子分散液から未反応単量体を除去し、濃縮後10%水酸化ナトリウム水溶液および水を添加して、重合体の粒子分散液の固形分濃度およびpHを調整し、固形分濃度42%、pH7.3の重合体の粒子分散液Aを得た。
【0126】
5.1.2.重合体の粒子分散液B〜Rの合成
一般に乳化重合法では、界面活性剤の使用量を増大させると重合体の粒子の粒子径を小さくすることができ、逆に界面活性剤の使用量を減少させると重合体の粒子の粒子径を大きくすることができる。この性質を利用して、上記「5.1.1.重合体の粒子分散液Aの合成」において、界面活性剤の使用量を適宜増減させることによって、重合体の粒子分散液B〜Fを調製した。さらに、重合体の合成における単量体の使用量を表1のとおり変
量し、界面活性剤の使用量を適宜増減させることによって、重合体の粒子分散液G〜Rを調製した。
【0127】
5.1.3.重合体の粒子分散液の最頻粒径の測定
得られた重合体の粒子分散液A〜Rのそれぞれについて、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、形式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から最頻粒径を求めた。なお、データは体積基準で計算した。その結果は、以下のようになった。ここで便宜上、最頻粒径が0.01μm以上0.25μm未満である重合体の粒子分散液を「液状媒体分散液(I)」と、最頻粒径が0.25μm以上0.5μm以下である重合体の粒子分散液を「液状媒体分散液(II)」と分類することにする(表2において同じ)。
<液状媒体分散液(I)>
・重合体の粒子分散液A;最頻粒径0.15μm
・重合体粒の子分散液E;最頻粒径0.20μm
・重合体の粒子分散液F;最頻粒径0.08μm
・重合体の粒子分散液G;最頻粒径0.17μm
・重合体の粒子分散液H;最頻粒径0.15μm
・重合体の粒子分散液I;最頻粒径0.14μm
・重合体の粒子分散液J;最頻粒径0.14μm
・重合体の粒子分散液K;最頻粒径0.16μm
・重合体の粒子分散液L;最頻粒径0.15μm
<液状媒体分散液(II)>
・重合体の粒子分散液B;最頻粒径0.37μm
・重合体の粒子分散液C;最頻粒径0.40μm
・重合体の粒子分散液D;最頻粒径0.26μm
・重合体の粒子分散液M;最頻粒径0.35μm
・重合体の粒子分散液N;最頻粒径0.35μm
・重合体の粒子分散液O;最頻粒径0.37μm
・重合体の粒子分散液P;最頻粒径0.36μm
・重合体の粒子分散液Q;最頻粒径0.38μm
・重合体の粒子分散液R;最頻粒径0.37μm
【0128】
5.1.4.電極用バインダー組成物P1〜P16の調製
上記のようにして得られた重合体の粒子分散液Aと重合体の粒子分散液Bとを固形分質量比10:90の割合で混合して電極用バインダー組成物P1を得た。得られた電極用バインダー組成物P1について、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、形式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定したところ、電極用バインダー組成物P1の平均粒子径(Da)は0.35μmであった。また、電極用バインダー組成物P1は、粒径が0.01μm以上0.25μm未満の重合体の粒子を11容積%含有し、粒径が0.25μm以上0.5μm以下の重合体の粒子を89容積%含有することが確認された。なお、データは体積基準で計算した。
【0129】
なお、表2に示す組成とした以外は、上記の電極用バインダー組成物P1と同様にして電極用バインダー組成物P2〜P16を作製し、それらの粒度分布を測定した。その測定結果を表2に併せて示す。なお、P16には、重合体の粒子100部に対して、水溶性ポリマーとしてポリアクリル酸(ACROS社製、品番「185012500」、平均分子量240,000)を10部添加して使用した。
【0132】
5.2.電極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に増粘剤(商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製)1部(固形分換算)、負極活物質としてグラファイトおよびシリコンの活物質混合粒子100部(固形分換算)、水68部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。その後、上記の電極用バインダー組成物P1を1部(固形分換算)加え、さらに1時間攪拌しペーストを得た。得られたペーストに水を投入し、固形分を50%に調製した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに真空下において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより電極用スラリーS1を調製した。
【0133】
なお、表3において(B)活物質として使用したグラファイトおよびシリコンの活物質混合粒子は、特開2004−185810号公報に準じて作製した。すなわち、シリコンインゴットをめのう乳鉢で磨り潰し、粉砕処理して得られた平均粒径10ミクロンのシリコン粉末(99.6%)と、市販品のグラファイト(日立化成工業株式会社製、製品名「MAGD」)を表3に記載した質量比で混合し、媒体撹拌ミル装置にて窒素中3時間粉砕した。その後、室温まで冷却し、酸化防止被膜処理を行なわずに空気中に取り出し、グラファイトおよびシリコンの活物質混合粒子を得た。適時、粉砕時間を変化させて微粒化を行うことにより、表3に記載の平均粒子径(Db)が異なるグラファイトおよびシリコンの活物質混合粒子をそれぞれ得た。
【0134】
<平均粒子径(Da)と平均粒子径(Db)との比(Db/Da)>
(A)重合体の粒子の平均粒子径(Da)は、得られた電極用スラリーの一部を遠心分離して、その上澄み液を動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、形式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定することにより求めた値である。(B)活物質として使用したグラファイトおよびシリコンの活物質混合粒子の平均粒子径(Db)は、得られた電極用スラリーを遠心分離してグラファイトおよびシリコンの活物質混合粒子を沈降させて上澄み液を除去し、その沈降物をレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、HORIBA LA−300シリーズ)で測定することにより求めた値である。このようにして求めた平均粒子径(Da)と平均粒子径(Db)とから、比(Db/Da)を計算した。得られた比(Db/Da)の値を表3に併せて示す。
【0135】
<曳糸性の測定>
作製した電極用スラリーの曳糸性は、以下のように測定した。
まず、容器の底辺に直径5.2mmの開口部が存在するザーンカップ(太佑機材株式会社製、ザーンビスコシティーカップNo.5)を準備した。このザーンカップの開口部を閉じた状態で、電極用スラリーを40g流し込み、再度開口部を開放するとスラリーが流れ出す。開放した瞬間の時間をT
0とし、目視で電極用スラリーが曳糸し続けるまでの時間T
Aを測定した。さらに、曳糸しなくなってからも測定を継続し、電極用スラリーが流れ出なくなるまでの時間T
Bを測定した。測定したT
0、T
A、T
Bを用いて、下記式(4)により曳糸性を求めた。
曳糸性(%)=((T
A−T
0)/(T
B−T
0))×100 ・・・・・(4)
【0136】
表3に示す組成とした以外は、電極用スラリーS1と同様にして電極用スラリーS2〜S17を作製した。作製した電極用スラリーの特性を表3に併せて示す。
【0137】
5.3.蓄電デバイス用電極およびリチウムイオン二次電池の作製
5.3.1.蓄電デバイス用電極(負極)の作製
銅箔よりなる集電体の表面に、上記で調製した電極用スラリーS1を、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥処理した。その後、該膜の密度が1.50g/cm
3となる条件でロールプレス機(テスター産業株式会社製、ギャップ間調整式ロールプレス機「SA−601」)によりプレス加工することにより、実施例1の蓄電デバイス用電極(負極)を得た。
【0138】
また、表3に記載した電極用スラリーを用いて、表3に記載の活物質層の密度となるようにロールプレス機の圧縮条件を変更したこと以外は、実施例1の蓄電デバイス用負極と同様にして実施例2〜4、6〜15および比較例1〜5の蓄電デバイス用負極を得た。得られた蓄電デバイス用負極における活物質層の重合体分布係数および密度を表3に併せて示す。
【0139】
実施例5においては、銅箔よりなる集電体の表面に、上記で調製した電極用スラリーS5を、乾燥後の膜厚が40μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥処理した。さらに、同じ電極用スラリーS5を、乾燥後の合計膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥処理した。その後、該膜の密度が1.70g/cm
3となる条件でロールプレス機(テスター産業株式会社製、ギャップ間調整式ロールプレス機「SA−601」)によりプレス加工することにより、実施例5の蓄電デバイス用電極(負極)を得た。
【0140】
<活物質層中のシリコン元素含有量の測定>
得られた蓄電デバイス用負極における活物質層のシリコン元素の含有量は、以下の方法により測定した。すなわち、
(1)蛍光X線分析装置(スペクトリス社製、製品名「パナリティカルMagixPRO」)にて、あらかじめ準備しておいたシリコン元素の含有量既知のサンプル複数点のシリコンの蛍光X線(Kα線)を測定し、検量線を作成した。なお、マトリックス効果による検量線のズレを回避するため、シリコン元素の含有量既知のサンプルは、元素組成既知の凝着剤として用いるスチレン・マレイン酸樹脂(スペクトリス社製、商品名「パナリティカルPXパウダー」)にてサンプルを5倍希釈し、乳鉢で均一になるよう混合した後に直径3cmの円盤状のプレートにプレス成形したものを用いた。測定条件は以下のとおりである。照射X線管球電圧および電流は、それぞれ32kV、125mAとした。シリコンの蛍光X線は、分光結晶としてペンタエリスリトール(面間隔=4.375Å 面指数(0,0,2))を使用してブラッグ反射(ブラッグ条件:2θ=109.1244°)させることにより分光し、ガスフロー型の検出器にて検出した。
(2)得られた蓄電デバイス用負極から活物質層の全体(深さ方向の一部のみを採取しないようにする)をスパチュラなどで1g掻き取り、さらに元素組成既知の凝着剤としてスチレン・マレイン酸樹脂(スペクトリス社製、商品名「パナリティカルPXパウダー」)を4g加え、全体が均一になるように乳鉢で混合した後に直径3cmの円盤状のプレートにプレス成形した。
(3)得られたプレートを蛍光X線分析装置にセットして上記測定条件にて分析し、上記検量線から活物質層のシリコン元素含有量を算出した。
【0141】
<活物質層の重合体分布係数の測定>
得られた蓄電デバイス用負極における活物質層の重合体分布係数を以下のようにして算出した。まず、得られた蓄電デバイス用負極を二つに分割した。次いで、あらかじめ準備しておいた70mm×150mmのアルミ板に、両面テープ(株式会社ニチバン製、品番「NW−25」)を120mm、さらに同両面テープの上にカプトンテープ(株式会社テラオカ製、品番「650S」)を粘着面が上になるようにして貼り付けた固定用ステージを作製した。この固定用ステージの上に、得られた蓄電デバイス用負極を20mm×100mmの大きさに切り出した試験片の活物質層側を貼り付け、ローラーで圧着させた。この試験片が固定された固定ステージを水平面に載置し、試験片を上方向に固定用ステージとの角度が90度となるように一定速度で引き上げ、接着面から集電体を剥離させた。その後、集電体側に残存した活物質層の表面から深さ1.5μmおよび粘着テープ側に残存した活物質層表面から深さ1.5μmまでの活物質層を掻き取り、これを測定試料Aとした。一方、分割しておいたもう一つの電極から活物質層を全て掻き取り、これを測定試料Bとした。測定試料Aおよび測定試料Bのそれぞれについて、高周波誘導加熱方式パイロライザーを有する熱分解ガスクロマトグラフィにて分析し、各試料の単位重量当たりの重合体成分の含有量(質量%)を算出した。得られた値を下記式(2)に代入することにより、重合体分布係数を算出した。
重合体分布係数=(測定試料Aの重合体含有量:質量%)/(測定試料Bの重合体含有量:質量%) ・・・・・(2)
【0142】
<活物質層の密度の測定>
集電体の質量A(g)、作製された蓄電デバイス用負極の質量B(g)、集電体上の形成された活物質層の面積C(cm
2)、厚さD(μm)を測定し、下記式(3)により活物質層の密度(g/cm
3)を算出した。
活物質層の密度(g/cm
3)
=(B(g)−A(g))/(C(cm
2)×D(μm)×10
−4) ・・・・・(3)
【0143】
5.3.2.対電極(蓄電デバイス用正極)の作製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に電極用バインダー(株式会社クレハ製、商品名「KFポリマー#1120」)4.0部(固形分換算)、導電助剤(電気化学工業株式会社製、商品名「デンカブラック50%プレス品」)3.0部、正極活物質として粒径5μmのLiCoO
2(ハヤシ化成株式会社製)100部(固形分換算)、N−メチルピロリドン(NMP)36部を投入し、60rpmで2時間攪拌を行った。得られたペーストにNMPを投入し、固形分を65%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに真空下において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、電極用スラリーを調製した。アルミ箔よりなる集電体の表面に、調製した電極用スラリーを、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥処理した。その後、該膜の密度が3.0g/cm
3となるようにロールプレス機(テスター産業株式会社製、ギャップ間調整式ロールプレス機「SA−601」)によりプレス加工することにより、対電極(蓄電デバイス用正極)を得た。
【0144】
5.3.3.リチウムイオン二次電池の組立て
露点が−80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、2極式コインセル(宝泉株式会社製、商品名「HSフラットセル」)に、上記で作製した蓄電デバイス用負極を直径15.95mmに打ち抜き成形したものを載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード株式会社製、商品名「セルガード#2400」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した。その後、上記で作製した対電極(蓄電デバイス用正極)を直径16.16mmに打ち抜き成形したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することによりリチウムイオン二次電池を組み立てた。なお、使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1の溶媒に、LiPF
6を1モル/リットルの濃度で溶解した溶液である。
【0145】
5.4.評価方法
(1)塗布性(平滑性)の評価
上記で作製した蓄電デバイス用負極より幅12cm×長さ12cmの試験片を切り出し、2cm×2cm寸法の36マスを、膜厚計(ミツトヨ製、DIGIMATIC MICROMETER IP65)で測定し、その膜厚の平均値に対する標準偏差の割合(平滑性)を算出した。
なお、活物質層の標準偏差の値が2%を超える場合、電極用スラリーが均一に塗布されていないことを意味する。かかる場合、電極用スラリーを大面積に塗布して作製した電極では、集電体の表面に形成される活物質層の平滑性が損なわれる。そのため、電気的特性が電極面で一様とならず、特に大量生産した場合に安定した電気的特性を発現させることができない。一方、活物質層の標準偏差の値が2%以下である場合、電極用スラリーが均一に塗布されていることを意味する。かかる場合、電極用スラリーを大面積に塗布して作製した電極では、集電体の表面に形成される活物質層の平滑性が良好となる。そのため、電気的特性が電極面で一様となり、特に大量生産した場合に安定した電気的特性を発現させることができる。このような理由から、電極用スラリーの塗布性の評価基準を以下のように定めた。その結果を表3に併せて示す。
○:平滑性が2%以下であり良好。
×:平滑性が2%を超えて不良。
【0146】
(2)粉落ち性の評価
上記で作製した蓄電デバイス用負極より10cm×5cmのサンプルを5枚切り出し、それらを重ね合わせた。実験台の上に市販の上質紙を置き、その上に100メッシュのステンレスメッシュを置いた。そのメッシュ上で5枚重ねた電極試験片をハサミで長辺方向より1cm間隔で9回切断し、その際にステンレスメッシュを通過し上質紙上にこぼれ落ちた活物質粉末の状態を観察した。その観察結果によって以下のように評価した。その結果を表3に併せて示す。
○:全く粉落ちがない、あるいはごくわずかに粉落ちが観察される。良好。
×:多量の粉落ちが観察される。不良。
【0147】
(3)結着性の評価
上記で作製した蓄電デバイス用負極より10cm四方のサンプル5枚を切り出し、120℃の熱プレスで5分間圧縮し成型した。その蓄電デバイス用負極表面にナイフを用いて、活物質層から集電体に達する深さまでの切り込みを2mm間隔で縦横それぞれ6本入れて碁盤目状に25マスの切り込みを入れた。この切り込みを入れた部分の表面に粘着テープを貼り付けて直ちに引き剥がし、活物質層が銅箔より剥離したマス目の数をカウントした。1サンプル(片面)について1回実施して、計5サンプルの合計125マスの内、剥離したマス目の個数をカウントした。この脱落したマスの個数が0個に近い方が結着性が良好であることを示し、20個以下であれば許容される範囲であると考えられる。その結果を表3に併せて示す。
【0148】
(4)充電容量の評価
上記で作製したリチウムイオン二次電池を定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)として0.2Cでの充電容量を測定した。その測定結果により、次のように評価した。その結果を表3に併せて示す。
○:充電容量が380mAh/g以上で良好。
×:充電容量が380mAh/g未満で不良。
【0149】
(5)充放電レート特性の評価
上記のとおり0.2Cでの充電容量を測定した後、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0.2Cでの放電容量を測定した。0.2Cでの放電容量に対する3Cでの放電容量の割合(%)を計算し、放
電レート特性(%)を算出した。
【0150】
次に、同じセルを定電流(3C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)として3Cでの充電容量を測定した。その後、定電流(3C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、3Cでの放電容量を測定した。0.2Cでの充電容量に対する3Cでの充電容量の割合(%)を計算し、充電レート特性(%)を算出した。
○:放電レート特性および充電レート特性が80%以上で良好。
×:放電レート特性または充電レート特性が80%未満で不良。
【0152】
5.5.評価結果
表3に示すように、実施例1〜15の蓄電デバイス用負極によれば、集電体および活物質層間の結着性が良好であり、粉落ち性にも優れていた。また、実施例1〜15の蓄電デバイス用負極を備えたリチウムイオン二次電池は、電気的特性の一つである充電容量および充放電レート特性が良好であった。
【0153】
一方、比較例1の蓄電デバイス用負極では、重合体における不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(Mc)が3質量%未満であるため、集電体および活物質層間の結着性が不良となり、粉落ち性も不良となった。
【0154】
比較例2の蓄電デバイス用負極では、重合体における不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(Mc)が15質量%を超えているため、平滑な電極を得ることができず、結着性および粉落ち性が不良となった。
【0155】
比較例3の蓄電デバイス用負極では、重合体が不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(Md)を含有していないため、重合体と電解液との親和性があまり良好ではなかったものと考えられる。その結果、この蓄電デバイス用負極を備えるリチウムイオン二次電池では、充放電レート特性が不良となった。
【0156】
比較例4の蓄電デバイス用負極では、活物質層100質量部中のシリコン元素の含有量が1質量部未満であるため、この蓄電デバイス用負極を備えるリチウムイオン二次電池では充電容量が不良となった。
【0157】
比較例5の蓄電デバイス用電極では、活物質層100質量部中のシリコン元素の含有量が30質量部を超えるため、平滑な電極を得ることができず、結着性および粉落ち性が不良となった。また、この蓄電デバイス用負極を備えるリチウムイオン二次電池では充放電レート特性が不良となった。
【0158】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。