特許第6269942号(P6269942)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6269942p38MAPキナーゼγおよび/またはδ阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6269942
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】p38MAPキナーゼγおよび/またはδ阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4709 20060101AFI20180122BHJP
   C07D 417/12 20060101ALI20180122BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180122BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20180122BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20180122BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20180122BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   A61K31/4709
   C07D417/12
   A61P43/00 111
   A61P3/04
   A61P3/06
   A61P3/10
   A61P29/00
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-30769(P2014-30769)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-155389(P2015-155389A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(72)【発明者】
【氏名】長田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】須藤 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 恭光
【審査官】 馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−513192(JP,A)
【文献】 Registry,[オンライン],2000年10月19日,Registry Number:295787-58-5,[平成27年8月2日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4709
A61P 3/04
A61P 3/06
A61P 3/10
A61P 29/00
A61P 43/00
C07D 417/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY
/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分とする、p38MAPキナーゼγおよび/またはδ阻害剤。
【化1】
Rは主鎖の炭素数が7である直鎖または分岐鎖の脂肪族炭化水素基を示し、該脂肪族炭化水素基の1つ以上の水素は水酸基、アミノ基、カルボキシル基またはハロゲンで置換されていてもよく、Xはハロゲンを示す。
【請求項2】
以下のいずれかの化合物又はその塩を含むp38MAPキナーゼγおよび/またはδ阻害剤。
【化2】
【請求項3】
以下のいずれかの化合物又はその塩。
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p38MAPキナーゼγおよび/またはδ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
p38MAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase)は、細胞外刺激を細胞応答へと導く過程で重要な機能を持つリン酸化酵素である。p38MAPキナーゼには、主な酵素として、α、β、γ、δの4種類がある。この中で、α、βは、SB203580に代表される酵素活性
阻害剤に感受性であり、しかもほとんどの組織で発現している。一方、γ(筋肉)、δ(腎
、肝,肺)は組織特異的な発現パターンを示すものの、特異的な阻害剤が報告されていな
いのでそれらの生理機能は不明である。
しかし、ノックアウトマウスの解析からp38MAPキナーゼδがインスリン分泌やグルコースホメオスタシスにおいてPKDの制御により関与しているという報告(非特許文献1)も
あり、p38MAPキナーゼのγやδの阻害剤を開発すれば、生理機能解析が加速し、薬の開発が可能になることが期待される。
特許文献1では、p38MAPキナーゼγの阻害剤が開示されているが、阻害活性は十分ではなく、αも阻害するので特異性は低い。
特許文献2では、チアジアゾール誘導体を有効成分とするJAKプロテインキナーゼの阻
害剤が開示されているが、p38MAPキナーゼに対する阻害活性は示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009-517390号公報
【特許文献2】特表2006-513192号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Cell 136, 235−248, January 23, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これまでに特異的な阻害剤が知られていなかったp38MAPキナーゼγおよび/またはδに対する阻害剤として使用しうる化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、新規化合物を含むチアジアゾール誘導体を合成し、それらがp38MAPキナーゼγおよび/またはδの特異的阻害剤として使用しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は下記一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分とする、p38MAPキナーゼγおよび/またはδの阻害剤並びにそれらを含む医薬に関する。本発明は
また、下記のSU-005、SU-010、SU-011、SU-012、SU-013、SU-014から選択される化合物又はそれらの塩に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の化合物はp38MAPキナーゼのγおよび/またはδの特異的な阻害剤として使用することができる。本発明の化合物は特許文献1に記載された化合物と比べて特異性が高く、強力な薬理活性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】インビトロキナーゼアッセイによる各化合物(SU-001〜SU-008)のp38MAPキナーゼα、α変異体(T106M)、γおよびδに対する阻害効果を示す図(写真)。DはDMSOを示し、SはSB202190を示す。
図2】Flag-p38MAPKδを強制発現したHeLa細胞における各化合物(SU-001〜SU-008)のp38MAPキナーゼδに対する阻害効果を示す図(写真)。DはDMSOを示し、SはSB202190を示す。
図3】Flag-p38MAPKγを強制発現したHEK293T細胞における各化合物(SU-001〜SU-008)のp38MAPキナーゼγに対する阻害効果を示す図(写真)。DはDMSOを示し、SBはSB202190を示す。
図4】HEK293T細胞における各化合物(SU-001〜SU-018)の内在性p38MAPキナーゼγに対する阻害効果を示す図(写真)。DはDMSOを示し、SはSB202190を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の化合物は下記一般式(I)で表される。
【化1】
ここで、Rは主鎖の炭素数が7である直鎖または分岐鎖の脂肪族炭化水素基を示し、該脂肪族炭化水素基の1つ以上の水素は水酸基、アミノ基、カルボキシル基、またはハロゲン(塩素、臭素、フッ素、ヨウ素など)で置換されていてもよい。また、脂肪族炭化水素基は、二重結合や三重結合を1以上有してもよい。脂肪族炭化水素基が、分岐鎖を有するとき、分岐鎖の炭素数は1〜5が好ましい。Xはハロゲンであり、好ましくは塩素、臭素、フッ素またはヨウ素であり、より好ましくは塩素である。
【0011】
具体的には、以下の化合物が例示される。
【化2】
【0012】
これらの化合物は、後述の実施例に記載の方法によって合成することができる。
【0013】
一般式(I)で表される化合物の塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;又
はp-トルエンスルホン酸塩等の有機酸塩等を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0014】
本発明の化合物またはその塩は、p38MAPキナーゼのγおよび/またはδの阻害剤として使用することができる。γとδのいずれか片方を阻害するものでもよいし、両方を阻害するものでもよい。使用濃度は化合物の種類やキナーゼの種類に応じて適宜設定されるが、
0.1nM〜10μMの低濃度でも効果を発揮し得る。
【0015】
本発明の化合物またはその塩を有効成分とするp38MAPキナーゼのγおよび/またはδ阻害剤は、医薬や研究用試薬として使用することができる。医薬としては、p38MAPキナーゼのγおよび/またはδの活性を阻害することによって治療できる疾患の治療薬が例示される。具体的には、特許文献1に記載されたような、炎症性疾患や線維症疾患、もしくは、糖尿病、肥満、高脂血症、高血圧などの代謝性疾患などが挙げられる。
【0016】
医薬として使用される場合、本発明の化合物またはその塩は、薬理学的に許容される担体と混合して医薬組成物とすることができる。
本発明の化合物またはその塩を有効成分とする医薬の製剤形態は、使用目的や使用対象に応じて適宜選択することができ、例えば、注射剤(液剤、懸濁剤等)、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤等の形態で用いることができる。上記担体としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、可溶化剤、分散剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、安定剤、等張剤等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。腑形剤としては、乳糖、白糖、ブドウ糖などの糖類、デンプン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等の無機物、結晶セルロース、蒸留水、精製水、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油等の一般に使用されているものを例示することができる。本発明の薬剤は、これらの添加物を用いて常法によって製剤化することができる。また、本発明の抗癌剤は、他の医薬品(例えば、他の抗癌剤など)と併用することもできる。
【0017】
本発明の化合物またはその塩を患者に投与する場合の投与量は、患者の年齢、体重、癌の種類と進行度、症状等に応じて適宜設定することができるが、一般的には、成人一人一日当たり有効成分として0.1〜1000mg/kg体重、特に1〜100mg/kg体重を1〜数回に分けて投与することができる。投与経路は、特に限定されず、例えば、経口投与、又は注射などの非経口投与により投与することができる。注射による投与を行う場合は、静脈注射、動脈注射、皮下注射、皮内注射、腹腔内注射、筋肉内投与等を行うことができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様に限定されない。
【0019】
<化合物の合成>
【化3】
チアジアゾール誘導体1は米国特許7271179号明細書に記載の方法に準じて 4,7-dichloroquinolineおよび5-amino-1,3,4-thiadiazolo-2-thiolから合成した。
チアジアゾール誘導体1のスペクトルは以下のとおりである。
【0020】
1: 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ7.23 (d, J = 4.6 Hz, 1H), 7.77 (dd, J = 9.1, 2.3 Hz, 1H), 7.82 (bs, 2H), 8.14 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 8.20 (d, J = 9.1 Hz, 1H), 8.79 (d, J = 4.6 Hz, 1H).
13C NMR, (125 MHz, CDCl3) δ1 119.8, 123.9, 125.4, 128.1, 128.4, 135.0, 141.8, 144.2, 147.9, 151.4, 173.2.
HRMS(ESI): calcd. for C11H8ClN4S2, 294.9879; found, 294.9879.
【0021】
チアジアゾール誘導体3a〜3gは以下の手順で合成した。
【化4】
【0022】
5mlのTHFに0.2mmolのチアジアゾール誘導体1を溶解させ、その溶液に、RCOOH (R
はそれぞれ上記のa〜g)(0.25 mmol) と N-(3-dimethylaminopropyl)-N'-ethylcarbodiimide hydrochloride (EDC) (0.3 mmol) を室温で加えた。チアジアゾール誘導体1が完
全に消費されるまで50℃で3〜12時間反応液を撹拌した。室温まで冷却した後、反応物をCHCl3で希釈し、1N NaHCO3 水溶液、水、飽和食塩水で洗浄した後、Na2SO4を用いて乾
燥させた。溶媒を減圧留去させ、残渣をpreparative TLC(CHCl3 : MeOH)で精製して上記3a〜3gの無色の固体を得た。各化合物のスペクトルは以下のとおり。
【0023】
SU-002 (3a): 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ0.84 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 1.24 − 1.34 (m, 8H), 1.73 (m, 2H), 2.64 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 7.40 (d, J = 4.6 Hz, 1H), 7.60 (dd, J = 9.2, 1.7 Hz, 1H), 8.16 (d, J = 1.7 Hz, 1H), 8.24 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 8.80 (d, J = 4.6 Hz, 1H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ14.0, 22.6, 25.1, 28.9, 29.0, 31.6, 36.2, 122.8, 125.4 (x 2), 128.7, 129.3, 136.5, 141.8, 148.9, 150.8, 154.7, 162.8, 171.9.
HRMS(ESI): calcd. for C19H22ClN4S2O, 429.0924; found, 429.0915.
【0024】
SU-005 (3b): 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ0.83 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 1.27 (m, 4H), 1.51 (tt, J = 7.4, 6.9 Hz, 2H), 2.26 (dt, J = 7.4, 6.9 Hz, 2H), 6.46 (d, J = 15.5
Hz, 1H), 7.25 (dt, J = 15.5, 6.9 Hz, 1H), 7.42 (d, J = 4.6 Hz, 1H), 7.60 (dd, J
= 9.2, 1.7 Hz, 1H), 8.16 (d. J = 1.7 Hz, 1H), 8.24 (d. J = 9.2 Hz, 1H), 8.80 (d, J = 4.6 Hz, 1H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ13.9, 22.4, 27.4, 31.3, 32.5, 121.2, 122.6, 125.3 (x 2), 128.7, 129.2, 136.4, 141.9, 148.8, 150.8, 151.9, 154.6, 163.8, 164.0.
HRMS(ESI): calcd. for C19H20ClN4S2O, 419.0767; found, 419.0763.
【0025】
SU-010 (3c): 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ1.32 − 1.45 (m, 4H), 1.74 (btt, J = 7.4,
6.9 Hz, 2H), 2.01 (bdt, J = 6.9, 6.3 Hz, 2H), 2.68(t, J = 7.2 Hz, 2H), 4.89(dd,
J = 10.3, 1.1 Hz, 1H), 4.95(dd, J = 17.2, 1.7 Hz, 1H), 5.75(ddt, J = 17.2, 10.3, 6.9 Hz, 1H), 7.40(d, J = 4.6 Hz, 1H), 7.60(dd, J = 8.6, 1.7 Hz, 1H), 8.16(d, J
= 1.7 Hz, 1H), 8.24(d, J = 8.6 Hz, 1H), 8.80(d, J = 4.6 Hz, 1H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ25.0, 28.4, 28.5, 33.5, 36.0, 114.5, 122.9, 125.4, 128.7, 129.3, 136.5, 138.6, 141.7, 148.9, 150.8, 154.7, 163.2, 172.0
HRMS(ESI): calcd. for C19H20ClN4OS2, 419.0767; found, 419.0751.
【0026】
SU-011 (3d): 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.94 (d, J = 6.3 Hz, 3H), 1.9 − 1.28 (m
,1H), 1.35 − 1.44 (m, 1H), 1.55 (bs, 3H), 1.63 (bs, 3H), 1.90 − 2.06 (m, 2H), 2.05 − 2.14 (m, 1H), 2.50 (dd, J = 14.3, 8.0 Hz, 1H), 2.66 (dd, J = 14.3,5.7 Hz), 5.03 (bt, J = 6.9 Hz, 1H), 7,43 (d, J = 4.6 Hz, 1H), 7.59 (dd, J = 9.2, 2.3 Hz, 1H), 8.15 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 8.21 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 8.80 (d, J = 4.6 Hz,
1H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ17.7, 19.4, 25.3, 25.7, 30.6, 36.6, 43.5, 123.1, 124.0, 125.5, 128.7, 129.3, 131.7, 136.4, 141.5, 148.9, 150.8, 154.7, 163.0, 171.6
HRMS(ESI): calcd. for C21H24ClN4OS2, 447.1080; found, 447.1070.
【0027】
SU-012 (3e): 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.82 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 0.86 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.08−1.33 (m, 6H), 1.40 − 1.49 (m, 1H), 1.49 − 1.58 (m, 1H), 1.73
− 1.81 (m, 1H), 2.66 (ddt, J = 15.5, 9.7, 6.9 Hz, 1H), 2.72 (ddt, J = 15.5, 8.7, 5.7 Hz, 1H), 7.39 (d, J = 4.6 Hz, 1H), 7.59 (dd, J = 9.2, 2.3 Hz, 1H), 8.15 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 8.23 (d, J = 9.2, 1H), 8.79 (d, J = 4.6 Hz, 1H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ14.1, 19.2, 22.9, 29.1, 32.0, 32.4, 34.0, 36.3, 122.8, 125.4, 128.7, 129.3, 136.5, 141.8, 148.9, 150.7, 154.6, 163.3, 172.5.
HRMS(ESI): calcd. for C20H24ClN4OS2, 435.1080; found, 435.1075.
【0028】
SU-013 (3f): 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.86 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 1.24 − 1.36 (m, 4H), 2.03 (bdt, J = 6.9, 6.9 Hz, 2H), 3.36 (dd, J = 6.9, 1.1 Hz, 2H), 5.56 (dtt, J = 15.5, 6.9, 1.1 Hz, 1H), 5.72 (dtt, J = 15.5, 6.9, 1.1 Hz, 1H), 7.40 (d,
J = 4.6 Hz, 1H), 7.59 (dd, J = 9.2, 2.3 Hz, 1H), 8.15 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 8.24
(d, J = 9.2 Hz, 1H), 8.79 (d, J = 4.6 Hz, 1H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ13.9, 22.2, 31.1, 32.2, 39.8, 120.1, 122.9, 125.4, 125.5, 128.7, 129.2, 136.5, 137.6, 141.7, 148.9, 150.8, 154.9, 162.9, 170.2
HRMS(ESI): calcd. for C19H20ClN4OS2, 419.0767; found, 419.0773.
【0029】
SU-014 (3g): 1H-NMR (500 MHz, CD3OD) δ1.35 (m, 6H), 1.48 − 1.54(tt, J = 6.9, 6.9 Hz, 2H), 1.69 (tt, J = 6.9, 6.9 Hz, 2H), 2.51 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 3.52 (t, J
= 6.3 Hz, 2H), 7.38 (d, J = 4.6 Hz, 1H), 7.71 (dd, J = 9.2, 1.7 Hz, 1H), 8.08 (d, J = 1.7 Hz, 1H), 8.31 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 8.73 (d, J = 4.6 Hz, 1H).
13C NMR (125 MHz, CD3OD) δ26.0, 26.7, 30.1, 31.2, 33.5, 36.3, 62.9, 123.0, 126.3, 126.8, 129.1, 129.8, 137.8, 145.5, 149.3, 152.1, 154.5, 164.0, 174.0
HRMS(ESI): calcd. for C19H22ClN4O2S2, 437.0873; found, 437.0867.
【0030】
<p38MAPK阻害活性の評価>
上記で合成したSU-002およびSU-005を含む様々な化合物の存在下、p38MAPキナーゼタンパク質を用いたインビトロのキナーゼアッセイを、DMSO(D)をコントロールに使用して行
った。まず、GST融合タンパク質で基質ATF2のリン酸化を検証したところ、図1上に示すように、ヒトp38MAPキナーゼαは公知のp38MAPキナーゼα阻害剤であるSB202190(S)(1μM)により阻害された。一方、ヒトp38MAPKαT106M(106位のTがMに置換された変異体)はSB202190に阻害されなかった。これは、106位のアミノ酸がp38MAPキナーゼ阻害剤のサ
ブタイプ特異性に重要であることを示し、アミノ酸配列のアラインメントから、p38MAPキナーゼのαとβは106位がTであり、p38MAPキナーゼのγとδはαの106位に相当するアミノ酸がMであるため、SB202190はαとβに特異的な阻害剤であることを示している。
【0031】
一方、p38MAPKαT106Mは、キナーゼ阻害剤の認識においては、p38MAPキナーゼのγとδを模しているが、1μM SU-002および-005により明らかに阻害された。1μM SU-002および-005は野生型p38MAPキナーゼαは阻害しなかったので、p38MAPキナーゼのγとδの選択的阻害剤として働くことが考えられた。
【0032】
次に、His融合タンパク質として作製したヒトp38MAPキナーゼα、γ、δを用いてイン
ビトロキナーゼアッセイを行った。p38 MAPキナーゼδについては、基質ATF2をほとんど
リン酸化できなかったので、MBPを基質として用いた。その結果、図1下に示すように、SU-002とSU-005は、p38 MAPキナーゼγ及びδを阻害できることが明らかになった。
なお、SU-004、SU-006はいずれのタイプのp38 MAPキナーゼも阻害しなかった。SU-004
、SU-006の構造は以下のとおりであることから、チアジアゾール骨格に結合したアミド基の側鎖の炭素数が7であることが重要であることがわかった。
なお、阻害活性を示さなかったSU-001、SU-003、SU-007、SU-008については、ここでは構造は示さない。
【化5】
【0033】
次に、培養細胞に対する活性を検討するために、これら薬剤の評価系を構築した。HeLa細胞にFlag-hp38MAPKδ(Flag付加ヒトp38MAPキナーゼδ)を過剰発現させ、IL-1β刺激
によるp38MAPキナーゼδ活性化(自己リン酸化)に対するこれらの化合物の効果を評価した。
前日にFlag-hp38MAPKδ発現用プラスミドをトランスフェクションしたHeLa細胞に終濃
度10μMで各化合物を添加し、一時間後に終濃度100 ng/mlのIL-1βで20分刺激し、細胞を回収し、抗リン酸化抗体を用いて評価した。その結果、図2に示すように、過剰発現のp38MAPキナーゼδの自己リン酸化が、SU-005によって阻害された。弱いながらも、SU-002でもこの傾向は見られる。これにより、ヒト培養細胞に対してもSU-005やSU-002がp38MAPキナーゼδの阻害効果を発揮できることが明らかになった。
【0034】
次に、HEK293T細胞にFlag-hp38MAPKγ(Flag付加ヒトp38MAPキナーゼγ)を過剰発現させ、p38γ自己リン酸化に対する化合物の効果を評価した。
Flag-hp38MAPKγ発現用プラスミドをトランスフェクションしたHEK293T細胞を回収し、抗リン酸化抗体を用いて評価した。その結果、図3に示すように、過剰発現のp38γの自
己リン酸化が、SU-002およびSU-005によって阻害された。これにより、ヒト培養細胞に対してもSU-005やSU-002がp38MAPキナーゼγの阻害効果を発揮できることが明らかになった。この実験の際にHEK293T細胞においてp38MAPキナーゼγが内在的に発現していることも
明らかとなった。
【0035】
次に、内在性p38MAPキナーゼγの発現を確認したHEK293T細胞に対して、各化合物を終
濃度10μMで加えて1時間培養した後、20分間の0.2 M NaCl処理によるp38MAPキナーゼγのリン酸化を抗リン酸化抗体で検出した。結果を図4に示す。
上記のSU-002およびSU-005に加えて、SU-010, SU-011, SU-012, SU-013, SU-014にもp38MAPKγのリン酸化を抑制する活性がみられた。
なお、SU-001、SU-003、SU-007、SU-008、SU-009、SU-015、SU-016、SU-017、SU-018に
ついては、ここでは構造は示さない。
【0036】
また、データは示さないが、上記のp38MAPキナーゼδ/γの阻害活性を有する化合物は細胞毒性が低いことが確認できた。
図1
図2
図3
図4