(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0015】
本発明の蓄電デバイス電極用スラリーは、(A)電解質粒子と(B)活物質粒子と(C)分散媒体とを含有する。本発明の蓄電デバイス電極用スラリーは、(A)電解質粒子と(B)活物質粒子と(C)分散媒体とを含有する組成物から調製することができる。本発明の蓄電デバイス電極用スラリーは、該スラリーについてレーザー回折法によって測定した粒径分布において、0.01μm以上100μm未満の粒径区間に全粒子の80容積%以上が存在し、0.01μm以上50μm未満の粒径区間に全粒子の60容積%以上98容積%以下が存在し、そして50μm以上100μm未満の粒径区間に全粒子の1容積%以上35容積%以下が存在する。上記のような粒径構成とすることにより、形成される活物質層において、50μm以上100μm未満の粒径区間にある大きい粒子の粒子間間隙を、0.01μm以上50μm未満の粒径区間にある小さい粒子が充当するとともに、活物質層に適度な空隙が維持されることとなる。そしてこれらのことにより、大きい粒子が小さい粒子を介する導電パスが十分に確保されるとともに、イオンの移動抵抗も小さくなるから、電極活物質層の電子伝導性およびイオン伝導性の双方ともが向上すると考えられる。
【0016】
そして、0.01μm以上100μm未満の粒径区間にある粒子の割合が全粒子の80容積%以上であることにより、上記のような効果に寄与しない粒子の割合を低くすることができるのである。上記0.01μm以上100μm未満の粒径区間には、全粒子の90容積%以上が存在することが好ましい。0.01μm以上50μm未満の粒径区間にある粒子の割合は、全粒子の65容積%以上97容積%以下であることが好ましく、70容積%以上95容積%以下であることがより好ましく;50μm以上100μm未満の粒径区間にある粒子の割合は、全粒子の3容積%以上30容積%以下であることが好ましく、5容積%以上25容積%以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明の蓄電デバイス電極用スラリーを調製するための組成物中の上記(A)電解質粒子のメジアン径(Da)に対する上記(B)活物質粒子のメジアン径(Db)の比(Db/Da)は、0.1〜10.0の範囲にあることが好ましく、0.1〜7.5の範囲にあることがより好ましく、0.1〜5.0の範囲にあることがさらに好ましく、0.1〜2.5の範囲にあることが特に好ましく、就中0.1〜1.0の範囲にあることが好ましい。このような粒径の組み合わせを採用することにより、電極の活物質層における導電パスが確保されて電極の電子導電性が高くなるとともに、金属イオンの移動抵抗が低くなって電極のイオン導電性も高くなるため、好ましい。上記メジアン径とは、レーザー回折法によって測定した粒径分布において、累積度数で50%となる粒子径(D50)である(以下同じ)。
【0018】
レーザー回折法を測定原理とする粒度分布測定装置としては、例えばHORIBA LA−300シリーズ、HORIBA LA−920シリーズ(以上、(株)堀場製作所製)などを挙げることができる。
【0019】
以下、本発明の蓄電デバイス電極用スラリーに含有される各成分について詳細に説明する。
【0020】
1.1.(A)電解質粒子
本発明における(A)電解質粒子としては、イオン伝導性を有する無機化合物である固体電解質材料を使用することが好ましい。伝導されるイオン種としては、リチウムイオン、銀イオンなどの金属イオンを挙げることができる。
【0021】
リチウムイオン伝導性の固体電解質材料としては、例えばリチウム原子を含有する非晶質酸化物系固体電解質材料、リチウム原子を含有する非晶質硫化物系固体電解質材料、リチウム原子を含有する結晶質固体電解質材料などを挙げることができる。上記リチウム原
子を含有する非晶質酸化物系固体電解質材料としては、例えばLi
2O−B
2O
3−P
2O
5、Li
2O−SiO
2、Li
2O−B
2O
3、Li
2O−B
2O
3−ZnOなどが挙げられる。上記リチウム原子を含有する非晶質硫化物系固体電解質材料としては、例えばLi
2S−SiS
2、LiI−Li
2S−SiS
2、LiI−Li
2S−P
2S
5、LiI−Li
2S−B
2S
3、Li
3PO
4−Li
2S−Si
2S、Li
3PO
4−Li
2S−SiS
2、Li
3PO
4−Li
2S−SiS、LiI−Li
2S−P
2O
5、LiI−Li
3PO
4−P
2S
5、Li
2S−P
2S5などが挙げられる。上記リチウム原子を含有する結晶質固体電解質材料としては、例えばLiI、LiI−Al
2O
3、Li
3N、Li
3N−LiI−LiOH、Li
1+xAl
xTi
2−x(PO
4)
3(0≦x≦2)、Li
1+x+yA
xTi
2−xSi
yP
3−yO
12(A=AlまたはGa;0≦x≦0.4;0<y≦0.6)、[(A
1/2Li
1/2)
1−xB
x]TiO
3(A=La、Pr、NdまたはSm;B=SrまたはBa;0≦x≦0.5)、Li
5La
3Ta
2O
12、Li
7La
3Zr
2O
12、Li
6BaLa
2Ta
2O
12、Li
3PO
(4−3/2x)N
x(x<1)、Li
3.6Si
0.6P
0.4O
4などが挙げられる。
【0022】
銀イオン伝導性の固体電解質材料としては、例えばMAg
4I
5(M=RbまたはK)、Ag
6I
4WO
4、5AgI−3Ag
2O−2V
2O
5、4AgI−Ag
2O−V
2O
5、3AgI−Ag
4SiO
4、AgI−Ag
2O−2B
2O
3、AgI−Ag
2O−MoO
3、AgI−Ag
2O−WO
3−B
2O
3、AgI−Ag
2O−CrO
3、AgI−Ag
2O−P
2O
5、AgCl−Ag
2WO
4、AgBr−Ag
2WO
4などが挙げられる。これらのうち、水分、酸素および高温に対する安定性が高いことから、Ag
6I
4WO
4が好ましい。
【0023】
(A)電解質粒子のメジアン径(Da)は、10〜50μmであることが好ましく、20〜45μmであることがより好ましい。電解質粒子のイオン伝導性は、表面の方が内部よりも高いと考えられている。そのため、上記粒径範囲の(A)電解質粒子を使用することにより、イオン伝導性に寄与する表面積を適正な値に設定するとともに、上記の導電パスを確保し、金属イオンの移動抵抗を低減するとの要請も満たすこととなり、好ましい。
【0024】
1.2.(B)活物質粒子
本発明における(B)活物質粒子としては、金属イオンを吸蔵し、放出できる活物質材料であることが好ましい。吸蔵・放出される金属イオン種は、上記(A)電解質粒子によってイオン伝導されるイオン種と同じものであることが好ましく、従って例えばリチウムイオン、銀イオンなどである。
【0025】
リチウムイオンを吸蔵・放出する活物質材料としては、例えばリチウム原子を含有する金属系活物質、リチウム原子を含有する酸化物系活物質、リチウム原子を含有する硫化物系活物質、リチウムコバルト窒化物系活物質などを挙げることができる。上記リチウム原子を含有する金属系活物質としては、例えばリチウム金属、リチウム合金(例えばLiM、M=Sn、Si、Al、Ge、SbおよびPよりなる群から選択される少なくとも1種)などが挙げられる。リチウム原子を含有する酸化物系活物質としては、例えばコバルト酸リチウム(Li
(1−x)CoO
2、x=0〜0.5)、ニッケル酸リチウム(Li
(1−x)NiO
2、x=0〜0.5)、LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、Li
1+xMn
2−x−yM
yO
4(M=Al、Mg、Co、Fe、NiおよびZnよりなる群から選択される1種以上;0≦x+y≦2)、Li
xCo
ySn
zO
2(x=0.05〜1.1、y=0.85〜1、z=0.001〜0.1)、Li
(1−x)Co
(1−y)Ni
yO
2(0.5<x≦1、y=0〜1)、チタン酸リチウム、リン酸リチウム(LiMPO
4、M=Fe、Mn、CoおよびNiよりなる群から選択される1種以上)、リチウムシリコン酸化物などが挙げられる。
【0026】
銀イオンを吸蔵・放出する活物質材料としては、例えば銀金属、銀シェブレル化合物、五酸化バナジウム−銀化合物(Ag
xV
2O
5、x=0.1〜0.9)などが挙げられる。
【0027】
リチウムイオンおよび銀イオンの双方を吸蔵・放出する活物質材料としては、例えばリチウム原子および銀原子のいずれも含有しない合金系活物質、リチウム原子および銀原子のいずれも含有しない酸化物系活物質、リチウム原子および銀原子のいずれも含有しない硫化物系活物質、リチウム原子および銀原子のいずれも含有しないハロゲン化金属系活物質、カーボン系活物質、導電性高分子系活物質、フッ素化合物などを使用することができる。上記リチウムおよび銀のいずれも含有しない合金としては、例えばMgM(M=Sn、GeおよびSbよりなる群から選択される少なくとも1種)、NSb(N=In、CuおよびMnよりなる群から選択される少なくとも1種)などが挙げられる。上記リチウム原子および銀原子のいずれも含有しない酸化物系活物質としては、例えば酸化バナジウム(V
2O
5)、酸化モリブデン(MoO
3)、MnO
2、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13、Fe
2O
3、Fe
3O
4、スズ酸化物などが挙げられる。上記リチウム原子および銀原子のいずれも含有しない硫化物系活物質としては、例えばTiS
2、TiS
3、MoS
3、FeS
2などが挙げられる。上記リチウム原子および銀原子のいずれも含有しないハロゲン化金属系活物質としては、例えばCuF
2、NiF
2などが挙げられる。上記カーボン系活物質としては、例えばフッ化カーボン、グラファイト、ハードカーボン、気相成長炭素繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などが挙げられる。上記導電性高分子系活物質としては、例えばポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどが挙げられる。
【0028】
本発明における(B)活物質粒子には、正極用活物質粒子および負極用活物質粒子としての明確な区別はない。正負の電極用として同じ種類の活物質粒子を用いてもよいし、相異なる種類の活物質粒子を用いてもよい。正負の電極用として同じ種類の活物質粒子を用いる場合には、正負極の膜厚に差を設けて用いることが好ましい。正負の電極用として相異なる種類の活物質粒子を用いる場合には、フェルミ準位の高い方の材料からなる電極を正極用として用いる。
【0029】
(B)活物質粒子のメジアン径(Da)は、5〜100μmであることが好ましく、15〜50μmであることがより好ましい。上記粒径範囲の(B)活物質粒子を使用することにより、形成される活物質層において、電子パスの形成効率と、電荷移動を担う金属イオンに要求される拡散距離の低減効果とのバランスが良好となり、電子抵抗およびイオン抵抗の双方が低減されることとなり、好ましい。
【0030】
1.3.(C)分散媒体
本発明における(C)分散媒体としては、上記(A)電解質粒子および(B)活物質粒子を安定に分散し、且つこれらの変質を可及的に抑制するとの観点から、非極性の液状有機媒体を使用することが好ましい。上記非極性液状有機媒体としては、例えば脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素などを挙げることができる。上記脂肪族炭化水素としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカンなどが挙げられる。上記脂環式炭化水素としては、例えばシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、シクロドデカンなどが挙げられる。上記芳香族炭化水素としては、例えばトルエン、キシレン、メシチレン、クメンなどが挙げられる。(C)分散媒体としては、これらのうちから選択される1種以上を好適に使用することができる。
【0031】
1.4.その他の添加剤
本発明の蓄電デバイス電極用スラリーは、上記のような(A)電解質粒子、(B)活物質粒子および(C)分散媒体を必須の成分として含有する組成物から調製できるが、前記組成物は、必要に応じてこれら以外のその他の添加剤を含有していてもよい。このような
その他の添加剤としては、例えば結着剤、電極劣化防止剤、導電助剤などを挙げることができる。
【0032】
1.4.1.結着剤
結着剤は、(A)電解質粒子と(B)活物質粒子との間、およびこれらと集電体との間の結着を強固とし、電極に柔軟性を付与するために、本発明において使用することができる。
【0033】
このような結着剤としては、例えばメチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチルセルロース(EC)などのセルロース類;ポリビニルアルコール;ポリアクリル酸塩;ポリアルキレンオキサイド(例えばポリエチレンオキサイド);ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)などのフッ素系ポリマー;(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリブタジエンの水素添加物、ポリオレフィン、ポリアミック酸、ポリイミドなどの、蓄電デバイス電極用スラリーにおけるバインダーとして公知の材料のほか、ポリ乳酸、キチン、キトサンなどを使用することができる。
【0034】
結着剤は、上記のような材料からなり、そのガラス転移温度(Tg)が、好ましくは−80℃〜+50℃、より好ましくは−75℃〜+30℃、さらに好ましくは−70℃〜+10℃のエラストマーであることが好適である。特には、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン−エチレン系エラストマー、スチレン−ブタジエン系エラストマー、ポリアミド−ポリエーテル系エラストマー、ポリエステル−ポリエーテル系エラストマーおよびポリウレタン−ポリエステル系エラストマーよりなる群から選択される1種以上を使用することが好ましい。なお、本明細書において「エラストマー」とは、エラストマーが水素添加のように変性された重合体を含む概念である。
【0035】
1.4.2.電極劣化防止剤
電極劣化防止剤は、本発明の蓄電デバイス電極用スラリーを調製するための組成物が上記のような結着剤を含有する場合に該結着剤の劣化を防止し、もって(A)電解質粒子および(B)活物質粒子の機能を維持することにより、電極の劣化を防止するために使用することができる。このような電極劣化防止剤としては、例えばマレイミド化合物を好適に使用することができ、具体的には下記一般式(1)および(2)のそれぞれで表される化合物を挙げることができる。
【0036】
【化1】
(上記式(1)中のX
1は、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、カルボキシフェニル基、ニトロフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルケニル基もしくはシクロヘキシル基であるか、あるいは炭素数1〜5のアルキル基を有するアルキルフェニル基であり;上記式(2)中のX
2は、1,6−へキシレン基、フェニレン基もしくは3−メチル−1,2−フェニレン基であるか、あるいは下記式(下記式中のYは、酸素原子、メチレン基または−SO
2−である。)で表される2価の基である。)
【0038】
上記電極劣化防止剤が固体状である場合、メジアン径が100μm以下、好ましくは0.001〜10μmの粉末状態で使用することが好ましい。
【0039】
1.4.3.導電助剤
導電助剤としては、炭素材料、金属(ただし、リチウムおよび銀を除く。)などを使用することができる。上記炭素材料としては、例えばアセチレンブラックなどのカーボンブラックなどが挙げられる。上記金属としては、例えばニッケルなどが挙げられる。導電助剤は、メジアン径が100μm以下、好ましくは0.001〜50μmの粉末状態で使用することが好ましい。
【0040】
1.5.蓄電デバイス電極用スラリーの調製
1.5.1.蓄電デバイス電極用スラリーを調製するための組成物
本発明の蓄電デバイス電極用スラリーを調製するために用いられる組成物における各成分の好ましい含有割合は、それぞれ以下のとおりである。
・(A)電解質粒子と(B)活物質粒子との使用割合:(A)電解質粒子の質量(Ma)と(B)活物質粒子の質量(Mb)との比(Ma/Mb)として、好ましくは70/30
〜1/99、より好ましくは50/50〜5/95
・結着剤:電極用スラリーの全量に対して、好ましくは30容積%以下、より好ましくは20容積%以下
・電極劣化防止剤:結着剤100質量部に対して、好ましくは80質量部以下、より好ましくは50質量部以下
・導電助剤:(B)活物質粒子100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下
・(C)分散媒体:組成物の固形分濃度(組成物中の(C)分散媒体以外の成分の合計質量が組成物の全質量に対して占める割合)として、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜80質量%
【0041】
1.5.2.蓄電デバイス電極用スラリーの調製方法
本発明の蓄電デバイス電極用スラリーは、上記のような各成分を含有する組成物(原料組成物)を粉砕処理する工程を含む方法によって調製することができる。
【0042】
原料組成物の粉砕処理は、例えばボールミル、ビーズミル、リボンミキサー、ピンミキサーなどの公知の混合・粉砕装置を用いて行うことができる。
【0043】
ここで、(A)電解質粒子および(B)活物質粒子は、材質によって硬さおよび脆さが異なる。従って、粉砕処理によってどちらの粒子がより細かく粉砕され、どちらの粒子が相対的に粗い状態を維持するかは、使用する材料ごとに区々である。しかしながら、得られたスラリーにおける全粒子についての粒径分布が、本発明所定の要件に合致すれば、所期の効果が発現されるのである。
【0044】
また、(A)電解質粒子および(B)活物質粒子は、材質によってはその後の混合処理において何らかの反応が発生し、新たな結晶構造に変化する可能性もある。この場合、新たな結晶構造が充放電特性を悪化させない材料を選択することが好ましい。
【0045】
好適な粉砕条件は、使用する材料の種類および割合、ならびに混合・粉砕装置によって異なる。最適の条件は、当業者による少しの予備実験により、容易に知ることができる。例えばジルコニアボールを用いてポリプロピレン製遮光瓶中で行う粉砕処理の場合、後述の実施例で採用の条件においては0.5〜8時間程度、好ましくは1〜6時間程度の粉砕処理を行うことが適当である。
【0046】
上記原料組成物の粉砕処理は、その工程の少なくとも一部(好ましくは全部)を減圧下で行うことが好ましい。そうすることにより、形成される電極活物質層の内部に気泡が生じることを防止することができる。
【0047】
減圧の程度としては、絶対圧として、5kPa以下とすることが好ましく、0.01〜1kPaとすることがより好ましい。粉砕処理中の組成物を減圧下におく時間としては、1分以上とすることが好ましく、10分〜6時間とすることがより好ましい。
【0048】
2.蓄電デバイス電極
本発明の蓄電デバイス電極用スラリーは、固体電解質を用いた蓄電デバイス電極を形成するために極めて好適である。本発明の蓄電デバイス電極用スラリーを用いて形成される電極は、好ましくは、集電体と、該集電体上に形成された活物質層と、を備えるものである。
【0049】
2.1.集電体
蓄電デバイス電極を構成する集電体の材料としては、電子伝導性を有するものであれば
特に限定されずに使用することができる。集電体としては、金属材料、カーボン材料を挙げることができる。
【0050】
上記金属材料としては、例えばCu、Ni、V、Au、Pt、Al、Mg、Fe、Ti、Co、Zn、Ge、In、Li、Ni、Taなどのほか、これらのうちの1種以上を含有する合金などを挙げることができる。これらのうち、Al、Al合金、Cu、Cu合金またはステンレスを使用することが好ましい。上記カーボン材料としては、例えば炭素繊維からなる織布または不織布、グラフェンシート、カーボンシートなどを挙げることができる。集電体としては、上記の金属材料、上記カーボン材料を蒸着したものであってもよい。
【0051】
本発明における集電体としては、金属材料を用いることが好ましく、該金属材料を金属箔、エッチング金属箔、エキスパンドメタルなどの形態で使用することがより好ましい。
【0052】
集電体の厚みは特に限定されるものではないが、例えば0.5〜50μmの範囲とすることが好ましい。
【0053】
2.2.活物質層
本発明における活物質層は、本発明の蓄電デバイス電極用スラリーを用いて集電体上に形成される層である。
【0054】
活物質層は、集電体上に直接形成されてもよいし、あるいは一旦基材シートの表面上に形成した後に集電体上に転写してもよい。後者の場合、基材シートとしては、例えばPET、ポリオレフィン、フッ素樹脂などからなるシートを使用することができる。
【0055】
集電体上または基材シート表面上に活物質層を形成するには、例えば以下の方法によることができる。すなわち、集電体上または基材シート表面上に上記蓄電デバイス電極用スラリーを塗布して塗膜を形成し、形成された塗膜から(C)分散媒体を除去する方法によることができる。(C)分散媒体除去後の塗膜に対して、任意的にプレス加工を行ってもよい。
【0056】
上記の塗布に際しては、例えばドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法などを適用することができる。
【0057】
(C)分散媒体の除去は、塗布によって形成された塗膜を所定の温度下に所定時間静置する方法によって行うことができる。このときの温度は、20〜250℃であることが好ましく、50〜150℃であることがより好ましく;時間は1〜120分であることが好ましく、5〜60分であることがより好ましい。
【0058】
(C)分散媒体除去後の塗膜に対してプレス加工を行うには、例えば高圧スーパープレス、ソフトカレンダー、1トンプレス機などの適宜の加工機を使用することができる。プレス加工の条件は、用いる加工機および所望の相対密度(後述)に応じて、適宜に設定することができる。
【0059】
このようにして形成される活物質層は、その膜厚が0.1〜1,000μmであることが好ましく、20〜500μmであることがより好ましく、40〜100μmであることがさらに好ましく、20〜50μmであることが特に好ましい。
【0060】
活物質層の密度は、1〜15g/cm
3であることが好ましく、1.5〜12g/cm
3であることがより好ましい。活物質層の相対密度は、70%以上の範囲内であることが
好ましく、80%以上であることがより好ましい。活物質層の相対密度は、下記数式(1)によって算出することができる。
相対密度(%)=σ
C÷{σ
A×M
A+σ
B×M
B}×100 (1)
(式(1)中、σ
Cは活物質層の現実の密度である。σ
Aは(A)電解質粒子の密度である。σ
Bは(B)活物質粒子の密度である。M
Aは(A)電解質粒子および(B)活物質粒子の合計に対する(A)電解質粒子の体積割合である。M
Bは(A)電解質粒子および(B)活物質粒子の合計に対する(B)活物質粒子の体積割合である。ただし、上記σ
A、σ
B、M
AおよびM
Bは、いずれも、(A)電解質粒子および(B)活物質粒子がそれぞれ単結晶であると仮定して計算した値である。)
【0061】
上記の定義から明らかなように、活物質層の相対密度の計算において、(A)電解質粒子および(B)活物質粒子以外の成分の寄与は考慮されない。相対密度に対する(A)(B)以外の成分の寄与は極めて小さいため、これを無視することができるからである。
【0062】
3.蓄電デバイス
本発明の蓄電デバイス電極用スラリーを用いて上記のようにして形成された電極は、固体電解質を備える蓄電デバイス用の電極として好適である。上記蓄電デバイスは、例えば正極と負極との間に固体電解質層が挟持されてなる積層体を、外装体で覆った構造であることができる。
【0063】
3.1.固体電解質層
本発明における固体電解質層は、少なくとも固体電解質材料を含有する固体状の層である。固体電解質層の形態は、例えば薄膜状、粉末の圧縮体状などであることができる。固体電解質層の厚みは、好ましくは0.1〜1,000μmであり、より好ましくは1〜100μmである。
【0064】
上記固体電解質材料としては、例えば本発明の蓄電デバイス電極用スラリーに含有される(A)電解質粒子として上記に例示した材料と同じもの、特開平11−86899号公報の段落[0004]〜[0008]および[0024]〜[0025]に記載されたもの、リチウムイオン伝導性の無機粉体を含むグリーンシートの焼成物などを挙げることができる。上記リチウムイオン伝導性の無機粉体としては、特開2007−134305号公報に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの粉砕物などを使用することができる。
【0065】
固体電解質層は、固体電解質材料のみからなっていてもよく、あるいは固体電解質材料以外のその他の成分を含有していてもよい。このその他の成分としては、例えば網状体、織布、不織布などを挙げることができる。これらのうち、網状体が好ましい。
【0066】
上記網状体は、固体電解質層の機械的強度を補強する目的で固体電解質層に使用することができる。網状体を使用する場合、固体電解質層は、該網状体の開口部に固体電解質および使用する場合にはその他の成分(ただし網状体を除く。)を充填し、該充填後の網状体の上下を厚み5〜25μm程度の固体電解質層で挟持した構造とすることができる。網状体は、その開口率が15〜65面積%であることが好ましい。網状体の厚みは、10〜150μmとすることが好ましい。網状体を構成する材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロンなどを挙げることができる。
【0067】
固体電解質層における固体電解質材料の含有割合は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。
【0068】
3.2.外装体
上記外装体は、正極、負極および固体電解質層からなる積層体を収納し、正負極間の短絡を防止し、積層体内部への水分の侵入を防止する機能を有する。
【0069】
外装体としては、ラミネートフィルムを用いることが好ましい。このラミネートフィルムの構成としては、例えば第1樹脂層と第2樹脂層との間に金属層が挟持された構造であることが好ましい。上記第1樹脂層を構成する樹脂の材質としては、例えばポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などが挙げられる。上記第2樹脂層を構成する樹脂の材質としては、例えばエチレンビニルアセテート共重合体系樹脂、オレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリラクチド系樹脂、ポリグリコリド系樹脂、ポリカプロラクトン系樹脂、ポリ(サッカリド)系樹脂、ポリ(エチレンオキシド)系樹脂、ポリ(エチレングリコール)系樹脂など、およびこれらのコポリマーなどが挙げられる。上記金属層を構成する金属種としては、例えばアルミニウム、ステンレスなどが挙げられる。
【0070】
各層の好ましい厚みは、例えば以下のとおりである。
・第1樹脂層および第2樹脂層:それぞれ、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜50μm
・金属層:好ましくは10〜200μm、より好ましくは50〜100μm
【0071】
3.3.蓄電デバイスの製造方法
本発明における蓄電デバイスは、上記のような構造を有する限り、その製造方法は特に限定されない。蓄電デバイスは、例えば以下の方法によって製造することができる。すなわち、先ず、固体電解質層を介して正極および負極を積層し、次いで得られた積層体を外装体によって密閉する方法である。上記において、積層体を形成した後、ホットプレスなどを用いて該積層体を熱圧縮してもよい。上記のようにして製造された蓄電デバイスは、起電力が高く、充放電特性に優れるとともに、充放電の繰り返しによっても起電力および充放電特性が劣化することがない。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例の形式により本発明をより詳細に説明する。
【0073】
1.電解質粒子および活物質粒子の調製
以下に記載の各粒子の調製は、必要に応じて下記の操作を下記のスケールで繰り返すことにより、以降の使用における必要量を確保した。
【0074】
(1)電解質粒子の調製1
一軸型自動乳鉢(日陶科学(株)製、型番「ANM−1000」)を用いて、電解質粒子としてのAg
6I
4WO
4(日本無機化学工業(株)製、純度98%)50gを、大気中、25℃および50%RHの環境下において、120rpmの条件で1時間粉砕処理を行った後、ふるいを用いて分級することにより、8〜185μmの範囲で異なったメジアン径(D50)を有する留分に電解質粒子を分割した。なお、Ag
6I
4WO
4について、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、型番「SmartLab」)を用いて測定したX線回析パターンを
図5に示す。
【0075】
(2)電解質粒子の調製2
アルゴン雰囲気下で露点が−80℃以下となるよう制御されたグローブボックス内で、28gのSi((株)高純度化学研究所製、純度99.99%)および64gのS((株)高純度化学研究所製、純度99.999%)の各結晶粉末を、ジルコニアボールとともにジルコニア製の容器に入れ、遊星ボールミル装置(Fritsch社製、型番「P−5」)を用いて160時間処理し、SiS
2を調製した。
【0076】
引き続き、アルゴン雰囲気下で露点が−80℃以下となるよう制御されたグローブボックス内で、上記で調製したSiS
2およびこれと等モル数のLi
2S(フルウチ化学(株)製、純度99.9%)の粉末を、合計で50gとなるように合わせて混合し、一軸型自動乳鉢(日陶科学(株)製、型番「ANM−1000」)を用いて、120rpmの条件で1時間粉砕を行った後、ふるいを用いて分級することにより、3〜70μmの範囲で異なったメジアン径(D50)を有する留分に電解質粒子を分割した。
【0077】
(3)活物質粒子の調製1
一軸型自動乳鉢(日陶科学(株)製、型番「ANM−1000」)を用いて、活物質粒子としてのAg
0.7V
2O
5(日本無機化学工業(株)製、純度98%)50gを、大気中、25℃および50%RHの環境下において、120rpmの条件で1時間粉砕処理を行った後、ふるいを用いて分級することにより、5〜120μmの範囲で異なったメジアン径(D50)を有する留分に活物質粒子(Ag
0.7V
2O
5)を分割した。なお、Ag
0.7V
2O
5について、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、型番「SmartLab」)を用いて測定したX線回析パターンを
図6に示す。
【0078】
(4)活物質粒子の調製2
一軸型自動乳鉢(日陶科学(株)製、型番「ANM−1000」)を用いて、活物質粒子としてのLiCoO
2(ハヤシ化成(株)製、純度99%)50gを、大気中、25℃および50%RHの環境下において、120rpmの条件で1時間粉砕処理を行った後、ふるいを用いて分級することにより、2〜35μmの範囲で異なったメジアン径(D50)を有する留分に活物質粒子を分割した。
【0079】
(5)活物質粒子の調製3
一軸型自動乳鉢(日陶科学(株)製、型番「ANM−1000」)を用いて、活物質粒子としてのグラファイト(日立化成(株)製)50gを、大気中、25℃および50%RHの環境下において、120rpmの条件で1時間粉砕処理を行った後、ふるいを用いて分級することにより、3〜32μmの範囲で異なったメジアン径(D50)を有する留分に活物質粒子を分割した。
【0080】
実施例1
2.蓄電デバイス電極用スラリーの調製
容量100mLのポリプロピレン製遮光瓶((株)サンプラテック製)中で、上記「1.(1)電解質粒子の調製1」において得た電解質粒子のうちメジアン径(D50)が45μmの留分37g、上記「1.(3)活物質粒子の調製1」において得た活物質粒子のうちメジアン径(D50)が5μmの留分37g、4,4’−ビスマレイミドジフェニルメタン0.2g、スチレン−ブタジエン系エラストマー(JSR(株)製、商品名「TR2000」)0.3g、スチレン−ブタジエン系エラストマー(クレイトンポリマージャパン(株)製、商品名「G1652」)2gおよびトルエン23.5gを混合した。
【0081】
容量100mLのポリプロピレン製遮光瓶((株)サンプラテック製)中に、上記で得た混合物の全量(100g)および直径5mmのジルコニアボール30gを仕込み、瓶を密栓した。この密栓後の瓶を、ペイントシェーカー((株)東洋精機製作所製)に取り付け、大気中、25℃および50%RHの環境下において1.5時間混合した。次いで、ステンレススチール#80ふるい(JIS Z 8801)を用いてジルコニアボールを分離することにより、固形分濃度76.5質量%の蓄電デバイス電極用スラリーを得た。
【0082】
得られた蓄電デバイス電極用スラリーについて、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置((株)堀場製作所製、型番「LA−300」)を用い、JIS Z 8900−1に
準拠して粒径分布を測定したところ、該スラリーは、0.01μm以上50μm未満の粒径区間に78容積%、50μm以上100μm未満の粒径区間に21容積%の粒子がそれぞれ存在するスラリーであった。
【0083】
3.蓄電デバイス電極の製造
上記「2.蓄電デバイス電極用スラリーの調製」において調製したスラリーを、厚さ18μmの圧延銅箔(日本製箔(株)製、型番「TCU−H−18−RT−250−200−W」)上へ、塗工機((株)安田精機製作所製、型番「No.542−AB」)を用いて大気中、25℃および50%RHの環境下、塗工ギャップ250μmおよび塗工速度5.8cm/秒の条件にてドクターブレード法によって均一に塗布して成膜した。
【0084】
上記成膜された圧延銅箔を、防爆オーブン(楠本化成(株)製、型番「HT220S」)中で、大気中、80℃の条件で0.5時間加熱して溶媒を留去することにより、厚さ130μmおよび目付量18mg/cm
2の活物質層を備えた蓄電デバイス電極を製造した。
【0085】
4.蓄電デバイス電極の評価
(1)イオン伝導度の測定
上記「3.蓄電デバイス電極の製造」で製造した電極を治具に挟み、25℃および50%RHの環境下で、帯域幅0.2MHz〜10Hz、振幅500mVおよび周波数あたり3回測定の条件における交流インピーダンス法により、電極のイオン伝導度を測定した。上記測定結果から、実数抵抗を横軸とし、虚数抵抗を縦軸とするCole−Coleプロットのグラフを作成し、該グラフが横軸と接する点の値を抵抗値とした。電極のイオン伝導度は、上記の抵抗値が3mS/cm以上であるとき「良好」と判断することができ、上記の抵抗値が3mS/cm未満であるとき「不良」と判断される。
【0086】
(2)電子抵抗の測定
上記「3.蓄電デバイス電極の製造」で製造した電極を治具に挟み、25℃および50%RHの環境下で、印加電流を0.1、0.2および1.0mAとしてこの順で増大させつつ、電流印加時間0.05秒および電流遮断時間0.05秒の条件における電流遮断法により、電極の電子抵抗を測定した。上記測定結果から、経過時間を横軸、応答電圧を縦軸とするグラフを作成し、各電流値の印可開始から0.05秒時点における応答電圧値を結んだ直線の勾配を調べ、該勾配値から電子抵抗の値を算出した。電極の電子抵抗は、その値が35kΩ・cm未満であるとき「良好」と判断することができ、35kΩ・cm以上であるとき「不良」と判断される。
【0087】
5.蓄電デバイスの製造
(1)電解質用スラリーの調製
容量100mLのポリプロピレン製遮光瓶((株)サンプラテック製)中で、上記「1.(1)電解質粒子の調製1」において調製した電解質粒子のうちメジアン径(D50)が45μmの留分56g、4,4’−ビスマレイミドジフェニルメタン4g、スチレン−ブタジエン系エラストマー(JSR(株)製、商品名「TR2000」)1g、スチレン−ブタジエン系エラストマー(クレイトンポリマージャパン(株)製、商品名「G1652」)4gおよびトルエン35gを混合した。
【0088】
容量100mLのポリプロピレン製遮光瓶((株)サンプラテック製)中に、上記で得た混合物の全量(100g)および直径5mmのジルコニアボール30gを仕込み、瓶を密栓した。この密栓後の瓶を、ペイントシェーカー((株)東洋精機製作所製)に取り付け、大気中、25℃および50%RHの環境下において1.5時間混合した。次いで、ステンレススチール#80ふるい(JIS Z 8801)を用いてジルコニアボールを分
離することにより、固形分濃度65質量%の電解質用スラリーを得た。
【0089】
(2)電解質層の形成
上記「5.(1)電解質用スラリーの調製」において調製したスラリーを、厚さ38μmのPETフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、型番「A71」)上へ、塗工機((株)安田精機製作所製、型番「No.542−AB」)を用いて大気中、25℃および50%RHの環境下、塗工ギャップ170μmおよび塗工速度5.8cm/秒の条件にてドクターブレード法によって均一に塗布して成膜した。
【0090】
上記成膜されたPETフィルムを、防爆オーブン(楠本化成(株)製、型番「HT220S」)中で、大気中、80℃の条件で0.5時間加熱して溶媒を留去することにより、PETフィルム上に厚さ60μmおよび目付量14mg/cm
2の電解質層を形成した。
【0091】
(3)蓄電デバイスの製造
打ち抜き器((有)タクミ技研製)を用いて、大気中、25℃および50%RHの環境下で、銀箔((株)ニラコ製、商品名「AG−403211」、純度99.98%、厚さ20μm)を15.95mmφに打ち抜いた。この打ち抜いた銀箔を、二極式コインセル(宝泉(株)製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。
【0092】
次いで、上記「5.(2)電解質層の形成」で得られた電解質層付きPETフィルムを上記銀箔の打ち抜きと同じ条件で打ち抜き、PETフィルムを剥離除去した後の電解質層を上記の銀箔上に載置した。さらに、上記「3.蓄電デバイスの電極の製造」で得られた電極を上記銀箔の打ち抜きと同じ条件で打ち抜いて、上記電解質層上に載置した。
【0093】
以上のようにして、銀箔、電解質層および電極をこの順に載置したコインセルを外層ボディーによって封止した。その後、充電式ドリルドライバ(DEWALT社製、商品名「DC740KZ」)を用いて、コインセルの両面を2.9N・cm(規格「2」)の条件下で加圧して各層を密着することにより、蓄電デバイス(ハーフセル)を製造した。
【0094】
6.蓄電デバイスの評価
(1)充放電サイクル特性の評価
上記「5.(3)蓄電デバイスの製造」において製造した蓄電デバイスにつき、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で引き続き定電圧(0.01V)にて充電を続行し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)として、初回充放電を終了した。
【0095】
次に、初回充放電を行った上記の蓄電デバイスにつき、0.5Cの充放電を、次のようにして行った。
【0096】
先ず定電流(0.5C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で引き続き定電圧(0.01V)にて充電を続行し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0.5Cにおける放電容量(1サイクル目の0.5C放電容量=A)を測定した。
【0097】
この0.5Cの充放電を繰り返し行い、100サイクル目の0.5C放電容量をBとしたとき、100サイクル後の容量維持率を下記数式(2)によって算出した。
容量維持率(%)=B/A×100 (2)
評価結果は第1表に示した。
【0098】
100サイクル後の容量維持率の値が80%以上であれば充放電サイクル特性は「良好」であると判断することができる。容量維持率の値が80%未満であれば充放電サイクル特性は「不良」と判断される。
【0099】
なお、測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値のことを示す。例えば「0.1C」とは10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、「10C」とは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
【0100】
実施例2〜5ならびに比較例1および2
上記実施例1において、「2.蓄電デバイス電極用スラリーの調製」で使用した電解質粒子の留分および活物質粒子の留分が有するメジアン径(D50)の値を、それぞれ、第1表に記載のとおりとしたほかは実施例1と同様にして、蓄電デバイス電極用スラリーを調製し、蓄電デバイスを製造して、各種の評価を行った。評価結果は第1表に示した。
【0101】
実施例6および7ならびに比較例3および4
上記実施例1において、「2.蓄電デバイス電極用スラリーの調製」で使用した電解質粒子の留分および活物質粒子の留分が有するメジアン径(D50)の値、ならびに遮光瓶中の混合時間を、それぞれ、第1表に記載のとおりとしたほかは実施例1と同様にして、蓄電デバイス電極用スラリーを調製し、蓄電デバイスを製造して、各種の評価を行った。評価結果は第1表に示した。
【0102】
また、これらの実施例および比較例で得られた蓄電デバイス電極用スラリーについて、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置((株)堀場製作所製、型番「LA−300」)を用い、JIS Z 8900−1に準拠して粒径分布を測定した粒径分布を
図1〜4にそれぞれ示した。図中、実施例番号および比較例番号の後のカッコ内には、遮光瓶中の混合時間を示した。
【0103】
実施例10
一軸型自動乳鉢(日陶科学(株)製、型番「ANM‐1000」)を用いて、上記「1.(1)電解質粒子の調製1」において得た電解質粒子のうちメジアン径(D50)が185μmの留分25gと、上記「1.(3)活物質粒子の調製1」において得た活物質粒子のうちメジアン径(D50)が32μmの留分25gを混合し、大気中、25℃および50%RHの環境下において、120rpmの条件で6時間処理を行った。
【0104】
次に、容量100mLのポリプロピレン製遮光瓶((株)サンプラテック製)中で、処理を行った電解質粒子と活物質粒子の混合物20g、4,4’−ビスマレイミドジフェニルメタン0.1g、スチレン−ブタジエン系エラストマー(JSR(株)製、商品名「TR2000」)0.1g、スチレン−ブタジエン系エラストマー(クレイトンポリマージャパン(株)製、商品名「G1652」)0.5gおよびトルエン6.4gを混合した。
【0105】
容量100mLのポリプロピレン製遮光瓶((株)サンプラテック製)中に、上記で得た混合物の全量(27g)および直径5mmのジルコニアボール30gを仕込み、瓶を密栓した。この密栓後の瓶を、ペイントシェーカー((株)東洋精機製作所製)に取り付け、大気中、25℃および50%RHの環境下において1.5時間混合した。次いで、ステンレススチール#80ふるい(JIS Z 8801)を用いてジルコニアボールを分離することにより、固形分濃度74質量%の蓄電デバイス電極用スラリーを得た。
【0106】
このようにして作製した蓄電デバイス電極用スラリーを使用した以外は、実施例1と同
様にして、蓄電デバイスを製造して、各種の評価を行った。評価結果は第1表に示した。
【0107】
なお、上述の一軸型自動乳鉢を用いた処理時間と遮光瓶を用いた処理時間の合計時間を表中、混合時間として示した。また、得られた蓄電デバイス電極用スラリーを、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、型番「SmartLab」)を用いて測定した結果のX線回析パターンを
図7に示す。図中、ヨウ化銀の回折パターンと考えられる2θに▼を示した。
【0108】
実施例11
遊星ボールミル装置((株)伊藤製作所製、型番「LP−1」)を用いて、上記「1.(1)電解質粒子の調製1」において得た電解質粒子としてののうちメジアン径(D50)が185μmの留分10gと活物質粒子上記「1.(3)活物質粒子の調製1」において得た活物質粒子のうちメジアン径(D50)が32μmの留分10g、トルエン10gを混合し、直径5mmのジルコニアボールとともに容量80mLのジルコニア製の容器に入れ、250rpmの条件で6時間処理を行った。その後、真空検体乾燥器((株)石井理化機器製作所 型番「HD−3H」)を用いて80℃で減圧乾燥を行い溶媒を留去した。
【0109】
次に、4,4’−ビスマレイミドジフェニルメタン0.1g、スチレン−ブタジエン系エラストマー(JSR(株)製、商品名「TR2000」)0.1g、スチレン−ブタジエン系エラストマー(クレイトンポリマージャパン(株)製、商品名「G1652」)0.5gおよびトルエン6.4gを加え、引く続き遊星ボールミル装置((株)伊藤製作所製、型番「LP‐1」)を用いて1.5時間混合し、次いで、ステンレススチール#80ふるい(JIS Z 8801)を用いてジルコニアボールを分離することにより、固形分濃度74質量%の蓄電デバイス電極用スラリーを得た。
【0110】
このようにして作製した蓄電デバイス電極用スラリーを使用した以外は、実施例1と同様にして、蓄電デバイスを製造して、各種の評価を行った。評価結果は第1表に示した。
【0111】
なお、ジルコニア製の容器中での処理時間の合計を表中、混合時間として示した。また、得られた電極用スラリーを、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、型番「SmartLab」)を用いて測定した結果のX線回析パターンを
図8に示す。図中、ヨウ化銀の回折パターンに相当する2θの位置に▼を示した。
【0112】
実施例8ならびに比較例5および6
上記実施例1において、「2.蓄電デバイス電極用スラリーの調製」で使用した電解質粒子および活物質粒子の種類および使用留分が有するメジアン径(D50)の値を、それぞれ、第1表に記載のとおりとしたほかは実施例1と同様にして、蓄電デバイス電極用スラリーを調製し、蓄電デバイス電極を製造して、(1)イオン伝導度の測定および(2)電子抵抗の測定を行った。
【0113】
さらに、上記で製造した電極を使用し、「5.(3)蓄電デバイスの製造」で銀箔の代わりにLi箔(純度99.98%、厚さ20μm)を用いたほかは実施例1と同様にして蓄電デバイスを製造し、以下の方法によって充放電サイクル特性の評価を行った。
【0114】
上記で製造した蓄電デバイスにつき、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が3.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)として、初回充放電を終了した。
【0115】
次に、初回充放電を行った上記の蓄電デバイスにつき、0.5Cの充放電を、次のようにして行った。
【0116】
先ず定電流(0.5C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が3.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0.5Cにおける放電容量(1サイクル目の0.5C放電容量=A)を測定した。評価結果は第1表に示した。
【0117】
実施例9および比較例7
上記実施例1において、「2.蓄電デバイス電極用スラリーの調製」で使用した電解質粒子および活物質粒子の種類および使用留分が有するメジアン径(D50)の値を、それぞれ、第1表に記載のとおりとしたほかは実施例1と同様にして蓄電デバイス電極用スラリーを調製し、蓄電デバイス電極を製造して、(1)イオン伝導度の測定および(2)電子抵抗の測定を行った。
【0118】
さらに、上記で製造した電極を使用し、「5.(3)蓄電デバイスの製造」で銀箔の代わりにLi箔(純度99.98%、厚さ20μm)を用いたほかは実施例1と同様にして蓄電デバイスを製造し、該蓄電デバイスを用いて実施例1における「6.(1)充放電サイクル特性の評価」に記載したのと同じ方法によって充放電サイクル特性の評価を行った。評価結果は第1表に示した。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
第1表中の「混合時間」とは、上記「2.蓄電デバイス電極用スラリーの調製」において、電解質粒子、活物質粒子および分散媒を遮光瓶中で混合した時間である。
【0122】
実施例1〜11のように、本願発明に係る蓄電デバイス電極用スラリーを用いて作製された蓄電デバイス電極および蓄電デバイスの特性は良好であった。
【0123】
また、
図5および
図6に示す活物質粒子と電解質粒子のXRDパターンと、
図7および
図8に示す実施例10と11の蓄電デバイス電極用スラリーに係るXRDパターンを比較することにより、混合処理により、活物質粒子と電解質粒子が単に混合されているだけでなく、混合処理により何らかの反応が発生し、新たな結晶構造に由来するXRDパターンとなっていることが推測される。このような十分な混合処理により新たな結晶が生成することで、さらに良好な充放電特性が得られるとも考えられる。