(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正面側壁に設けられた補強部は、前記正面エッジにおいて、その幅方向の少なくとも一部に延びるように設けられている請求項1及至9の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤとも呼ばれる冬用タイヤは、雪や氷で覆われた冬の路面を走行することの出来るタイヤとしてよく知られている。冬用タイヤは、一般的に、接地面に開口する複数の細い切れ込み、いわゆるサイプを設け、いわゆるエッジ効果と、水膜を除去する効果と共に、冬用でないタイヤと比較して柔らかいコンパウンドを使用することにより、冬の路面との密着性を向上させている。
【0003】
冬用タイヤにおける路面との摩擦力を発生させるメカニズムは、現実には路面が雪の場合と氷の場合とで異なるので、氷上性能を向上させるために柔らかいコンパウンドを使用し、接地要素であるブロックに多数の細い切れ込みを設けても、結果としてブロック剛性を低下させてしまい、雪上性能の向上を妨げてしまうことが知られている。
【0004】
冬用タイヤにおいて、良好な氷上性能及び雪上性能を同時に得るための手段として、ブロックの側壁に補強部を導入することが効果的であることは知られている。
例えば、特許文献1(主に
図3)には、3本の細い切れ込みと1本の副溝が設けられたブロックの、横溝及び副横溝に面したブロックの側壁に、JIS A硬度が80から95度のゴムを用いた補強部を設けることにより、雪上性能と氷上性能を両立するようにした空気入りタイヤが記載されている。
【0005】
また、特許文献2(主に
図2)には、ガラス転移点温度が-60℃以上のゴム成分を30重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に、カーボンブラック及びシリカから選ばれる少なくとも1種を50重量部以上配合した組成にすると共に、脆化温度を-30℃以下にしたゴムを用いた補強部を、ブロックの側壁に設けることにより、雪上性能と氷上性能を両立するようにした技術が開示されている。
【0006】
また、先行出願である特許文献3(主に
図1)には、ブロックの側壁の50%以上の領域にわたって200MPa以上の材料のモジュラス(弾性率)を有する補強層(補強部)を0.5mm未満の厚さにて設けることにより、雪上性能と氷上性能を両立するようにした空気入りタイヤ用トレッドが記載されている。
【0007】
同じように良好な氷上性能及び雪上性能を同時に得るための手段として、例えば特許文献43(主に
図3)には、ブロックを回転方向に傾けることにより雪上性能と氷上性能を両立するようにした空気入りタイヤが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4に開示された空気入りタイヤでは、雪上性能及び氷上性能の高いレベルの両立は難しく、特に雪上性能の向上が十分でなく、冬の路面走行時の安全性の観点から、雪上性能及び氷上性能をより高いレベルで両立させることが出来る空気入りタイヤへの要望がなされている。
【0010】
そこで本発明は、上述した従来技術が抱える問題点を解決するためになされたものであり、雪上性能及び氷上性能をより高いレベルで両立させることが出来る、ブロックの側壁に補強部が設けられた空気入りタイヤ用トレッド及びそのようなトレッドを有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、少なくとも1つのゴム組成物により形成された空気入りタイヤ用トレッドであって、少なくとも1つのゴム組成物は弾性率Etを有し、トレッドは、少なくとも1本の周方向主溝と、複数の副溝と、これらの周方向主溝及び副溝によって区切られた複数のブロックと、を有し、複数のブロックのうち少なくとも1つのブロックは、その一部がタイヤ転動時に路面と接触する接地面となる上面と、タイヤ周方向に沿ってそれぞれ位置する2つの正面側壁と、タイヤ軸線方向に沿ってそれぞれ位置する2つの側面側壁と、を有し、ブロックの上面は、2つの正面側壁と交差する位置に形成された2つの正面エッジを有し、ブロックは、2つの正面側壁のうち少なくとも1つの正面側壁に設けられた補強部を有し、この補強部は、弾性率Efを有する材料により形成され、この補強部の弾性率Ef及びゴム組成物の弾性率Etはそれぞれ規格ASTM D882-09に規定された引張試験から得られる値であり、補強部の弾性率Efは、ゴム組成物の弾性率Etより少なくとも20倍大きく、ブロックの補強部は、0.1mm以上且つ2.0mm以下の平均厚さを有し、さらに、正面側壁の70%以上の領域にわたって少なくとも副溝に面するように設けられ、2つの正面側壁は、上面に対する角度がそれぞれ角度T1及び角度T2をなすように形成され、それらの角度T1及び角度T2はどちらも90度未満であることを特徴としている。
【0012】
ここで、「溝」とは、通常の使用条件下で相互に接触することのない二つの対向する面(壁面、側壁)を、他の面(底面)により接続して構成された、幅及び深さを持つ空間のことを言う。
また、「主溝」とは、流体の排水を主に受け持つ、トレッドに形成される種々の溝の中で比較的広い幅を持つ溝のことを言う。主溝は、多くの場合、直線状、ジグザグ状又は波状にタイヤ周方向に延びる溝を意味するが、タイヤ回転方向に対して角度を持って延びる、流体の排水を主に受け持つ比較的広い幅を持つ溝も含まれる。
また、「主溝」以外の溝を「副溝」と言う。
【0013】
また、「エッジ」とは、ブロックの上面と正面側壁又は側面側壁との交差部(ブロックの上面の各縁部、又は、ブロックの上面における正面側壁又は側面側壁との境界)のことを言う。一部が接地面となるブロックの上面はこのようなエッジにより区画されている。上面と正面側壁又は側面側壁との間に面取りが形成されている場合、このような面取り部は上面の一部と解される。ブロックの上面を区画するエッジのうち、回転方向側における、ブロック上面と正面側壁との交差部を「正面エッジ」と言う。
【0014】
また、「弾性率」とは、規格ASTM D882-09に規定された引張試験から求められた引張試験曲線から算出される引張弾性率Eのことをいう。即ち、ゴム組成物の弾性率Et、及び、補強部の弾性率Efは、規格ASTM D882-09に規定された引張試験から求められた引張試験曲線から算出される。このような引張弾性率Eは、例えば“POLYMER PHYSICS"(Oxford、ISBN 978-0-19-852059-7、Chapter7.7、Page 296)に記載のように、せん断弾性率Gと下記の関係性を有する。
ここで、υはポアソン比であり、ゴム材料のポアソン比は0.5に非常に近い値となる。
【0015】
なお、補強部を形成する材料の弾性率Efが、トレッドを形成するゴム組成物の弾性率Etより少なくとも20倍高いこと等を確認する場合は、上述した弾性率Et及び弾性率Efを、複素弾性率(材料の動的せん断複素弾性率、dynamic shear modulus:G*)Mにそれぞれ置き換えて確認することも可能である。既知の動的性質である、G'で表される貯蔵弾性率及びG''で表される損失弾性率は、粘性分析器(viscoanalyzer: Metravib VB4000)によって、生の組成物から成形された試験片もしくは加硫後の組成物と共に結合された試験片を用いて測定される。試験片は、規格ASTM D 5992-96(2006年9月に公開された、当初1996年に承認されたバージョン)の
図X2.1(円形の方式 a circular method)に記載のものが使用される。試験片の直径''d''は10mm(故に試験片は78.5mm
2の円形断面を有する)であり、ゴムコンパウンドのそれぞれの部分の厚さ''L''は2mmであり、(ASTM規格の段落X2.4に記載されている、規格ISO 2856が推奨する比率''d/L''の2とは異なり)比率''d/L''は5とされる。試験では、10Hzの周波数において単純な交互正弦波のせん断荷重を受ける加硫ゴム組成物の試験片の応答を記録する。試験中に付加される最大せん断応力は0.7MPaである。測定は、ゴム材料のガラス転移点温度(Tg)より低い温度であるTminから、100℃付近の最大温度Tmaxまでの間で、1分間に1.5℃の割合で変化させて行われる。試験片は、試験片内の良好な温度均一性を得るために、試験開始前にTminにて約20分安定化される。得られる結果は、規定された温度での貯蔵弾性率(G')および損失弾性率(G'')である。複素弾性率G*は、貯蔵弾性率及び損失弾性率の絶対値より、下記式にて定義される:
【0016】
上記のように構成された本発明においては、正面側壁と上面とのなす角度T1、T2をどちらも90度未満としているので、雪上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに十分な路面を走行する際、少なくとも1つの正面側壁の70%以上の領域にわたって設けられた補強部の効果によりブロックのバックリング変形を防止することが出来、これにより、局所的に高いエッジ圧力を得ることが出来る。従って、正面エッジを効果的に雪に食い込ませることが可能となり、その結果、雪上性能を向上させることが出来る。
【0017】
さらに、本発明においては、正面側壁と上面とのなす角度T1、T2をどちらも90度未満としているので、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに不十分な路面を走行する際、ブロックの正面エッジ部近傍に、接地圧力を減少させる方向のモーメント力を発生させることが出来る。従って、氷上における摩擦係数を低下させる原因の一つとしてよく知られている、トレッドと氷との間での水膜の発生を防止することが可能となり、その結果、氷上性能を向上させることが出来る。
【0018】
本発明において、好ましくは、角度T1、T2はどちらも85度以下である。
【0019】
本発明において、好ましくは、角度T1、T2はどちらも60度以上である。
このように構成された本発明においては、タイヤに求められる諸性能を発揮させるための十分なブロック剛性を確保することが出来る。
本発明において、より好ましくは、角度T1、T2はどちらも70度以上である。
【0020】
本発明において、好ましくは、T1とT2は互いに異なる角度である。
【0021】
本発明において、好ましくは、角度T2は角度T1よりも大である。
このように構成された本発明においては、タイヤ転動時、相対的に角度が大である角度T2の側の正面エッジが、特に、蹴り出し側の正面エッジとなるとき、そのような蹴り出し側の正面エッジ近傍に発生するブロックの接地面積を減少させる方向のモーメント力を減少させることが出来るので、ブロックの接地面積を効果的に増やすことが出来る。その結果、より氷上性能を向上させることが出来る。
ここで、「踏込み側正面エッジ」とは、正面エッジのうち、タイヤ転動時、その回転方向側にある正面エッジのことを言い、「蹴り出し側正面エッジ」とは、その反対に、正面エッジのうち、タイヤ転動時、その回転方向の反対側にある正面エッジのことを言う。
【0022】
本発明において、好ましくは、角度T1とT2とが、
の関係性を満たす。
このように構成された本発明においては、より効果的に、氷上性能と雪上性能の両立を図ることが出来る。
【0023】
本発明において、好ましくは、角度T1は80度以下である。
このように構成された本発明においては、雪上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに十分な路面を走行する際、特に、角度T1の側の正面エッジが踏み込み側正面エッジであるとき、その正面エッジを雪に十分食い込ませるための高いエッジ圧力を得ることにより雪上性能を向上しつつ、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに不十分な路面を走行する際、正面エッジにおける高すぎる接地圧力の発生を防止することにより氷上性能を向上することが出来る。
【0024】
本発明において、好ましくは、角度T2は75度以上且つ85度以下である。
このように構成された本発明においては、特に、タイヤ転動時、角度T2の側の正面エッジが蹴り出し側正面エッジであるとき、その蹴り出し側正面エッジ近傍に発生するブロックの接地面積を減少させる方向のモーメント力を減少させることが出来るので、ブロックの接地面積を増やすことが出来、その結果、雪上性能の向上を図りながら、より氷上性能を向上させることが出来る。
【0025】
本発明において、好ましくは、正面側壁に設けられた補強部が、正面エッジにおいて、その幅方向の少なくとも一部に延びるように設けられている。
このように構成された本発明においては、雪上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに十分な路面を走行する際より確実に正面エッジ部において高いエッジ圧力を得ることが可能であり、これにより、より確実に正面エッジを雪に食い込ませることが出来、その結果、より雪上性能を向上させることが出来る。
【0026】
本発明において、好ましくは、補強部は少なくとも1つの正面側壁の90%以上の領域にわたって設けられている。
このように構成された本発明においては、雪上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに十分な路面を走行する際、より確実に正面エッジ部において高いエッジ圧力を得ることが可能であり、これにより、より確実に正面エッジを雪に食い込ませることが出来る。その結果、より雪上性能を向上させることが出来る。
本発明において、より好ましくは、補強部は少なくとも1つの正面側壁の全領域にわたって設けられ、更により好ましくは、補強部は二つの正面側壁の全領域にわたって設けられる。
これらのように構成された本発明においては、より確実に、雪上性能を向上させることが出来る。
【発明の効果】
【0027】
本発明による空気入りタイヤ用トレッド及びそのようなトレッドを有する空気入りタイヤによれば、雪上性能及び上性能をより高いレベルで両立させることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態による空気入りタイヤ用トレッド及びこのトレッドを使用した空気入りタイヤを説明する。
先ず、
図1及至
図2により、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを模式的に示す斜視図であり、
図2は、
図1のII-II線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドのブロックの拡大断面図である。
【0030】
先ず、
図1に示すように、符号1は、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドである。なお、この空気入りタイヤ用トレッド1が適用される空気入りタイヤのタイヤサイズの例は205/55R16である。
【0031】
次に、
図1及び
図2により、トレッド1の全体構造を説明する。
このトレッド1は、弾性率Etを有するゴム組成物から成り、タイヤ転動時に路面と接触する接地面2を有し、2本の周方向主溝3及び複数の副溝4が形成されている。これらの周方向主溝3及び副溝4により、複数のブロック5が区画形成されている。
このブロック5は、接地面2の一部を形成する上面51と、タイヤ周方向に沿った縦方向にそれぞれ位置し、副溝4に面するように形成された2つの側壁(正面側壁)52,53と、タイヤ回転軸線方向に沿った横方向にそれぞれ位置し、周方向溝3に面するように形成された2つの側壁(側面側壁)54,55と、を有している。
【0032】
上面51には、その正面側壁52,53と交差する縁部において、正面エッジ521,531が形成されている。
【0033】
次に、2つの正面側壁52,53には、トレッド1を形成するゴム組成物の弾性率Etより少なくとも20倍高い、好ましくは少なくとも50倍高い弾性率Efを有する材料から成る補強部6が設けられている。本実施形態においては、トレッド1を形成するゴム組成物の弾性率Etは5.4MPaである。この弾性率Etは、好ましくは、1.5MPa以上、且つ、15MPa以下である。また、本実施形態においては、補強部6を形成する材料の弾性率Efは270MPaである。従って、トレッド1を形成するゴム組成物の弾性率Efは、補強部6を形成する材料の弾性率Etより50倍高くなるように形成されている。
ここで、トレッド1を形成するゴム組成物の弾性率Et、及び、補強部6を形成する材料の弾性率Efは、規格ASTM D882-09に規定された引張試験から求められた引張試験曲線から算出可能である。
【0034】
次に、トレッド1のブロック5の補強部6の配置を説明する。
本実施形態では、各補強部6は、正面側壁52,53の領域の70%以上、好ましくは、正面側壁52,53の全ての領域にわたって副溝4に面するように設けられる。また、各補強部6は、その平均厚さt(
図2に示す)が2.0mm未満、好ましくは1.0mm未満となるように設けられる。ここで、補強部6の厚さ(t)は、補強部6が設けられている正面側壁52,53の副溝4に面した表面に垂直な方向の厚さであり、補強部6の「平均厚さ」は、補強部6における、副溝4の底面側からブロック5の上面51側までの間で測定される平均値、即ち、補強部6のほぼ全面での平均値である。本実施形態においては、補強部6は、正面エッジ521,531および正面側壁52,53の全領域(100%)にわたって設けられ、平均厚さtは0.5mmである。ここで、補強部6の平均厚さtは、0.2mm以上であることが好ましい。
【0035】
次に、トレッド1のブロック5の上面51を説明する。
上面51は、タイヤ転動時に路面と接触するトレッド1の接地面2の一部を形成し、この上面51は、特定の条件下で、その一部が路面と接触可能なブロック5の領域として定義される。上面51は、タイヤ周方向において、2つの周方向エッジ(正面エッジ)521,531を有し、上面51は、これらの周方向エッジ521,531により、その領域が制限されている。言い換えると、上面51は、そのタイヤ周方向側のそれぞれの縁部に2つの周方向エッジ521、531を有している。
【0036】
次に、トレッド1のブロック5の補強部6及びこの補強部6が設けられた正面側壁52,53の寸法関係を説明する。
本実施形態では、補強部6が設けられた正面側壁52,53は、半径方向に測定される補強部6の最外側の位置(補強部6の半径方向外方の縁部)と、正面エッジ521,531との間の距離が2.0mm以下となるように形成されている。この補強部6は、好ましくは、少なくとも部分的に正面エッジ521,531を含み、より好ましくは、正面エッジ521,531全てを含むように形成されている。
図2に示す例では、補強部6の半径方向最外側の位置と正面エッジ521,531の位置との間の距離はゼロ(0mm)であり、且つ、正面側壁52,53に設けられた補強部6の半径方向の最外側の縁部が、正面エッジ521,531の幅方向の全てにわたって存在するよう設けられている。一方、正面側壁52,53に設けられた補強部6の半径方向の最外側の縁部が、正面エッジ521,531の幅方向において少なくとも部分的に正面エッジ521,531に存在するよう設けられていても良い。
【0037】
また、ブロック5において、補強部6は、正面側壁52,53の一部の領域(この一部の領域は、上述したように、正面側壁52,53の領域の70%以上の領域である)のみに設けられているが、補強部6の効果を最大限発揮させるために、正面側壁52,53の全領域にわたって設けられるのが好ましい。このような補強部6は、当然に、本実施形態と同様に、正面エッジ521,531全てを含むように設けられることになる。
【0038】
次に、
図2により、ブロック5の上面51と、正面側壁52,53との寸法関係を説明する。
本実施形態では、タイヤ回転軸線に垂直な断面視において、ブロック5の上面51と、2つの正面側壁52,53との間には、
図2に示すように角度T1、角度T2が形成されている。これらの角度T1、T2は、どちらも90度未満(90度を含まない)である。また、これらの角度T1、T2は、好ましくはどちらも85度以下であり、好ましくはどちらも70度以上であり、好ましくはどちらも60度以上である。
図2に示す例では、上述した角度T1、T2はどちらも同じ70度である。
【0039】
ここで、角度T1は、上面51上で、一方の正面エッジ521と他方の正面エッジ531とをタイヤ周方向に結ぶ直線(
図2の断面視における直線)と、正面側壁52上で、正面エッジ521とトレッドウエアインジケータの高さよりも半径方向1.6mm内側の高さ位置とを正面エッジ521に垂直な方向に結ぶ直線との角度で測定される。
角度T2も同様に、上面51上で、一方の正面エッジ521と他方の正面エッジ531とをタイヤ周方向に結ぶ直線(
図2の断面視における直線)と、正面側壁53上で、正面エッジ531とトレッドウエアインジケータの高さよりも半径方向1.6mm内側の高さ位置とを正面エッジ531に垂直な方向に結ぶ直線との角度で測定される。
なお、例えば、正面エッジ(521、531)がタイヤ回転軸方向に対して斜めの方向に延びている場合(副溝4がタイヤ回転軸方向に対して斜めに延びている場合)は、上述した測定手法のうち、「タイヤ周方向に結ぶ直線」は、「正面エッジが延びる方向と垂直な方向に結ぶ直線」となる。
また、例えば、正面エッジ(521、531)のどちらか一方又は両方が、少なくとも2つの辺からなるような正面エッジがブロック(5)に形成される場合にも、上述した実施形態が適用可能であり、その場合は、その上面(51)上で、それらの2つの辺が平均して延びる方向を基準にして、上述したような手法と同様に「タイヤ周方向に結ぶ直線」又は「正面エッジが平均して延びる方向と垂直な方向に結ぶ直線」で測定される。
なお、トレッドウエアインジケータは、タイヤの摩耗限度を示すものである。
【0040】
次に、上述した本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドによる作用効果を説明する。
通常、タイヤ転動時にブロック(5)に垂直荷重が付加されるとき、ブロック(5)には、雪上性能の向上には好ましくない、正面エッジ(521、531)にかかるエッジ圧力を減少させるようなバックリング変形が発生する。この現象は、雪上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに十分な路面を走行する際に、タイヤの回転方向に発生する駆動力、又は、制動力により、より顕著に現れる。
このような現象に対し、本実施形態のトレッド1では、補強部6を正面側壁52,53の大部分の領域に設けるようにしているので、雪上路面では、上述したブロック5のバックリング変形の発生を防止することが出来ると共に、正面エッジ521,531において高いエッジ圧力を発生することが出来、その結果、雪上性能を向上させることが出来る。
【0041】
一方、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに不十分な路面を走行する際に、タイヤの回転方向に発生する駆動力、制動力が付加されるときには、本実施形態のように、補強部6が正面側壁52,53の大部分の領域に設けられていても、正面エッジ部521,531において高いエッジ圧力が発生することが抑制される。さらに、角度T1、T2が90度未満となるように形成されているので、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに不十分な路面を走行する際に、ブロック5には、幾何学的に正面エッジ部521,531におけるエッジ圧力を減少させる方向に作用するモーメント力が発生する。これらにより、本実施形態のトレッド1では、氷上における摩擦係数を低下させる原因の一つとしてよく知られている、トレッドと氷との間での水膜の発生を防止することが可能となり、その結果、氷上性能を向上させることが出来る。
【0042】
次に、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの変形例を説明する。
補強部6の平均厚さtは2.0mm未満であり、好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下である。この補強部6の平均厚さtは、同一のブロック5の正面側壁52,53とで互いに異なるようにしてもよい。
また、上述したように正面側壁52,53の70%以上の領域に設けられる補強部6は、同一ブロック5の正面側壁52,53とでそれぞれ異なる割合の領域に設けるようにしてもよい。
【0043】
補強部6の材料としては、上述した天然樹脂を基にした材料(ゴム材料を含む)の他に、天然樹脂を基にした材料に繊維を混合または含浸させたもの、熱可塑性樹脂、及びそれらを積層または混合したもの等も使用することができる。さらに、ブロック5との接着性の向上、又は、ブロック5の更なる補強を目的として、天然樹脂を基にした材料に含浸させた織布、不織布等と、上述した材料とを組み合わせて使用することもできる。これらのような天然樹脂を基にした材料に含浸させた織布、不織布等の繊維材料は、単独で補強部6として使用しても構わない。また、同一のブロック5の正面側壁52,53とで互いに異なる材料を使用してもよい。
【0044】
また、本実施形態においては副溝4の底面は補強部6によって覆われていないが、補強部6を設ける際の生産性の向上などを目的として、補強部6のタイヤ半径方向内方の縁部を延長して、補強部6が溝3、4の底面の一部又は全部を覆うように構成しても良い。
【0045】
また、本実施形態においては副溝4に面したブロックの正面側壁52,53のみに補強部6を設けているが、補強部6は、同様に、周方向主溝3に面したブロックの側壁(側面側壁)54,55にも設けても良い。これにより、主に、側面側壁54,55に設けた補強部6によるタイヤ幅方向の雪上性能効果を向上させて、特に操舵性能を向上させることも可能である。
【0046】
次に、
図3及至
図4により、本発明の第2実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを説明する。
図3は、本発明の第2実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを模式的に示す斜視図であり、
図4は、
図3のIV-IV線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドのブロックの拡大断面図である。
【0047】
図3に示すように、第2実施形態によるトレッド1には、上述した第1実施形態と同様に、タイヤ転動時に路面と接触する接地面2を有し、2本の周方向主溝3及び複数の副溝4が形成されている。複数のブロック5は、これら周方向主溝及び副溝により区画形成されている。これらのブロック5は、接地面2の一部を形成する上面51と、タイヤ周方向に対応する縦方向に離間した2つの側壁(正面側壁)52,53、および、タイヤ軸線方向に対応する横方向に離間した2つの側壁(側面側壁)54,55とを有している。上面51は正面側壁52,53と交差し、正面エッジ521,531を形成している。
【0048】
また、この第2実施形態によるトレッド1のブロック5には、上面51に開口し、タイヤ幅方向に延びると共にタイヤ半径方向(又は実質的に半径方向であっても良い)に延びる細い切れ込み7が形成されている。この細い切れ込み7は、側面側壁54,55にも開口している。なお、細い切れ込み7は、その諸機能を発揮する範囲で、半径方向に対して所定の角度をもって延びるものでも良い。ここで、「タイヤ幅方向」とは、本実施形態では、タイヤ周方向に垂直な方向であるが、タイヤ周方向に対して所定の角度をもって斜めに延びるものも含む。2つの正面側壁52,53には補強部6が設けられている。
【0049】
本実施形態では、各補強部6は、正面側壁52,53の70%以上、好ましくは90%以上の領域にわたって副溝4に面するように設けられている。また、、各補強部6の平均厚さt(
図4参照)は2.0mm未満、好ましくは1.0mm未満となるように設けられている。補強部6の設けられた正面側壁52,53は、タイヤ半径方向に測定される補強部6の最外側の位置と、正面エッジ521,531との間の距離が2.0mm以下となるように設けられている。
図3に示す例においては、補強部6は、一方の正面側壁52では、その全領域、即ち、100%の領域に設けられ、他方の正面側壁53では、その90%の領域にわたって設けられている。その平均厚さtは、一方の正面側壁52においては0.7mm、他方の正面側壁53においては0.5mmである。
【0050】
ブロック5の上面51には、上述した第1実施形態と同様に正面エッジ521,531が形成されており、上面51は、タイヤ周方向に沿った2つの周方向エッジ(正面エッジ)521,531により、その周方向の領域の範囲が制限されている。即ち、上面51は、そのタイヤ周方向側のそれぞれの縁部に2つの周方向エッジ521,531を有している。
【0051】
本実施形態では、
図4に示すように、第1実施形態と同様に、タイヤ回転軸線に垂直な断面視において、ブロック5の上面51と、2つの正面側壁52,53との間にそれぞれ角度T1、角度T2がつくようにブロック5が形成されている。これらの角度T1、角度T2は、「2つの正面エッジ部521、531を互いに結ぶ直線」と、「正面エッジ部521または531と、各正面側壁52、53において、トレッドウエアインジケータの高さよりも半径方向1.6mm内側の点」とを結ぶ直線とが互いになす角度として測定可能である。
本実施形態では、これらの角度T1、T2は、どちらも90度未満(90度を含まない)、且つ、互いに異なる角度となるように形成されている。
図4に示す例では、角度T1は65度、T2は80度である。
このように、本実施形態においては、角度T1、T2は、互いに異なる角度であり、好ましくは、角度T2が角度T1よりも大である。また、好ましくは、角度T1は80度以下であり、角度T2は75度以上且つ85度以下である。
また、好ましくは、これらの角度T1、T2は、
の関係性を満たす。なお、この式中「°」は、角度の単位「度」である。
【0052】
次に、上述した本発明の第2実施形態による空気入りタイヤ用トレッドによる作用効果を説明する。
本実施形態では、上面51と正面側壁52,53とがなす角度T1、T2を異なる角度としかつ角度T2が角度T1よりも大きくなるように構成している。これにより第2実施形態では、上述した第1実施形態における作用効果に加えて、例えば、タイヤ転動時、相対的に角度が大の角度T2側の正面エッジ521が蹴り出し側正面エッジとなるとき、その正面エッジ521の近傍に発生するブロック5の接地面積を減少させる方向のモーメント力を減少させることが出来るので、ブロック5の接地面積を増やすことが出来る。その結果、雪上のように路面の摩擦係数がブロック5を変形させるのに十分高い路面を走行する際、補強部6の効果により、ブロック5の正面エッジ部521おいて局所的に高いエッジ圧力を得ながらも、氷上のように路面の摩擦係数がブロック5を変形させるのに不十分な路面を走行する際、ブロック5の上面51の接地面積を増やすことが出来るので、より効果的に氷上性能および雪上性能を向上させることが出来る。
このような理由により、上面51と正面側壁52,53とがなす角度T1、T2は蹴り出し側正面エッジを意図する側をより大きい角度とすることが好ましい。
【0053】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について記述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【0054】
なお、
図5は従来の空気入りタイヤ用トレッドのブロックを模式的に示す拡大断面図である。この従来の空気入りタイヤ用トレッド101のブロック105は、接地面102の一部を構成する上面151を有し、正面側壁152,153との交差部において正面エッジ1521,1531を形成している。このブロック105には、上面151に開口し、横方向及びタイヤの内側半径方向に延びる細い切れ込み107が形成されている。2つの正面側壁152,153には、正面エッジ1521,1531を全て含むように補強部106が設けられている。補強部106の平均厚さtは0.5mmであり、補強部106は、正面側壁152,153の84%の領域にわたって副溝104に面するように設けられている。
【実施例】
【0055】
次に、本発明の効果を明確にするため、公知の形態の補強部を設けた従来例および本発明の実施例に係る3種類の空気入りタイヤ用トレッドのブロックを、市販のコンピューターソフトウェアを使用したシミュレーション(有限要素法)用いて行った検証結果について説明する。
【0056】
実施例1は第1実施形態にかかる補強部の設けられたブロックモデルであり、実施例2および実施例3は第2実施形態にかかる補強部の設けられたブロックモデルであり、ブロックの上面と正面側壁との間の角度を3種類の異なる値の組み合わせとしている。
従来例および実施例に係る4種類のブロックモデルのサイズは、いずれも、同一のゴム系材料(弾性率5.4MPa)で形成された短辺長さ10mm、長辺長さ20mm、高さ10mmの立方体とし、細い切れ込みを、それぞれ、ブロックの上面に開口する幅0.4mm、深さ7mmとした。補強部に関しても、同一の材料(弾性率270MPa)にて形成されており、平均厚さを0.5mmにて正面側壁の全領域にわたって設けられており、補強部の材料の弾性率が、ブロックのゴム系材料の弾性率の50倍となるように設定した。
【0057】
このように設定したブロックモデルを、適切な荷重を付加したうえで、雪上に相当する路面条件での接地要素に発生する最大接地圧力と、氷上に相当する路面条件での摩擦係数を求めた。この計算結果を表1に示す。表1において、各計算値は従来例を100とする指数で表され、数値の大きいほうが良好である。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示される如く、実施例1及至3による空気入りタイヤ用トレッドによれば、雪上性能および氷上性能を効果的に向上しうるのが確認できる。