特許第6270110号(P6270110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6270110シークヮーサー由来フラボノイド−O−メチル転移酵素(FOMT)及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6270110
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】シークヮーサー由来フラボノイド−O−メチル転移酵素(FOMT)及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20180122BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20180122BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20180122BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20180122BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180122BHJP
   C12P 7/22 20060101ALI20180122BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P7/22
   C12N9/10
【請求項の数】11
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2013-214464(P2013-214464)
(22)【出願日】2013年10月15日
(65)【公開番号】特開2015-77072(P2015-77072A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】戸田 弘
【審査官】 柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】 J. Korean Soc. Appl. Biol. Chem., (2012), 55, [6], p.749-755
【文献】 Planta, (2012), 236, [3], p.839-849
【文献】 J. Biotech., (2006), 126, [2], p.241-247
【文献】 Plant Physiol. Biochem., (2006), 44, [4], p.236-241
【文献】 Citrus sinensis x Citrus reticulata O-methyltransferase mRNA, complete cds. [online]. 2007-APR-29 uploaded. NCBI Entrez Nucleotide, ACCESSION No.EF520737 (GI:145695036) [Retrieved on 2017-AUG-09]. Retrived from the internet:<URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/EF520737.1>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00−9/99
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(a)から(f)のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質又は以下の(g)から(i)のいずれかのアミノ酸配列を有するタンパク質を含む、フラボノイドの少なくとも1〜3箇所の水酸基をメチル化する酵素剤。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号:1に記載の塩基配列と96%以上の同一性を有し、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を含み、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と96%以上の同一性を有し、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(g)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列;
(h)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸配列;及び
(i)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して96%以上の同一性を有し、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸配列;
(1)ケルセチンに作用して、ケルセチンの少なくとも1箇所の水酸基をメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性。
【請求項2】
(1)に記載の活性が、ケルセチンの少なくとも1〜3箇所の水酸基をメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性である、請求項1に記載の酵素剤
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酵素剤を、フラボノイド及び/又はその類似体に作用させる工程、及び生成される化合物を回収する工程を含む、メトキシフラボノイド及び/又はその類似体の製造方法。
【請求項4】
以下(j)から(o)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
j)配列番号:3に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド;
k)配列番号:3に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有し、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
l)配列番号:3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
m)配列番号:4に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
n)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を含み、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;及び
o)配列番号:4に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(2)ケルセチンに作用して、ケルセチンの3'位の水酸基を選択的にメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性。
【請求項5】
下記の(p)から(r)のいずれかのアミノ酸配列を有するタンパク質。
p)配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列;
q)配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸配列;
r)配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸配列;
(2)ケルセチンに作用して、ケルセチンの3'位の水酸基を選択的にメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性。
【請求項6】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項7】
請求項4に記載のポリヌクレオチド又は請求項6に記載のベクターが導入された、形質転換細胞。
【請求項8】
請求項7に記載の形質転換細胞を培養し、その培養物から請求項4に記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を回収する工程を含む、請求項4に記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質又は請求項5に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載のタンパク質又は請求項7に記載の形質転換細胞を、フラボノイド及び/又はその類似体に作用させる工程、及び生成される化合物を回収する工程を含む、メトキシフラボノイド及び/又はその類似体の製造方法。
【請求項10】
フラボノイド及び/又はその類似体が、ケンフェロール、ケルセチン、ミリセチン、フィセチン、ガランギン、ゴシペチン、モリン、アピゲニン、ルテオリン、ナリンゲニン、タキシフォリン、ブチン、エリオジクチオール、ピノセムブリン、シアニジン、デルフィニジン、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、エピアフゼレキン、フィセチニドール、グイブルチニドール、メスキトール、ロビネチニドール/又はその類似体、から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項3又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
求項5に記載のタンパク質を含む、酵素剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種フラボノイド類の水酸基をメチル化してメトキシ基に変換する活性を有する、シークヮーサー由来フラボノイド-O-メチル転移酵素(以下、FOMTと略記することがある)に関する。さらに本発明は、前記フラボノイドO-メチル転移酵素をコードするDNA、前記DNAによりコードされるタンパク質、前記タンパク質の製造方法等に関する。さらに本発明は、前記タンパク質又はFOMTをコードするDNAを含むベクターで形質転換された形質転換細胞を利用したメチル化フラボノイドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラボノイドは植物に広く存在する二次代謝産物であり、およそ8000種が知られている。その中でもメチル化フラボノイドは、抗ガン作用や高脂血症予防、抗炎症作用などの生理活性をもつことが近年明らかになり、機能性食品素材や医薬品としての利用が期待されている。ケルセチンの7位がメチル化したラムネチンは、ケルセチンよりもMDA-MB-231ヒト乳癌細胞中でのアポトーシス誘導能が高い。メチル化フラボノイドは、柑橘類の果皮や茶、ポプラなどに多く含まれる。しかし、植物体におけるメチル化フラボノイドの含量は低く、代謝されやすいことから高価であり、利用の障害になっている。
【0003】
フラボノイドのメチル化は、主にS-アデノシルメチオニン(SAM)依存型メチル基転移酵素(FOMT)によって触媒される。これまでに、フラボノイドメチル転移酵素の研究は盛んになされており、その配列や基質特異性により大きく二つのクラスに大別されている。すなわち、カフェ酸CoAエステルに対してメチル化活性を示す金属イオン依存型(クラスI)と、フラボノイドやアルカロイド類に活性を示す金属イオン非依存型(クラスII)に分けられる。ポプラ由来7-O-メチル転移酵素(POMT7)やトマト由来3-O-メチル転移酵素(3-OMT)(非特許文献1、2)などが知られている。その他にも植物由来のメチル転移酵素は知られている(特許文献1、2)。
【0004】
ところで、ポリメトキシフラボノイドの一種であるノビレチンは、シークヮーサーなどの柑橘類の未成熟果実の果皮に多く含まれており、生理活性について様々な研究がなされている。しかしながら、シークヮーサーにおけるノビレチン生合成経路はいまだ解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2003/062428(メチルトランスフェラーゼ活性を有する遺伝子配列及びそのための使用)
【特許文献2】WO2010/069004(変更された花部を有する植物)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B. G. Kima, H. Kima, H. G. Hurb, Y. Lima, and J. H. Ahna,(2006) Regioselectivity of 7-O-methyltransferase of poplar to flavones. J. Biotechnol., 126, 241-247.
【非特許文献2】A. Schmids, C. Li, A. D. Jones, and E. Pichersky, (2012) Characterization of a flavonol 3-O-methyltransferase in the trichomes of the wild tomato species Solanum habrochaites. Plant, 236, 839-849.
【非特許文献3】Lavid, N., et al., 2002. O-Methyltransferases involved in the biosynthesis of volatile phenolic derivatives in rose petala. Plant Physiology, 129:1899-1907.
【非特許文献4】Tuskan, G.A., et al., 2006. The genome of black cottonwood, Populus trichocarpa (Torr. & Gray). Science, 313:1596-1604.
【非特許文献5】Pellegrini, L., et al., 1993. Molecular cloning and expression of a new class of orth-diphenol-O-methyltransferases induced in Tobacco leaves by infection or elicitor treatment. Plant Physiology, 103:509-517.
【非特許文献6】GenBank: ABP94018: Lluch,Y.P., et al., 2007. O-methyltransferase [Citrus sinensis x Citrus reticulata].
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
植物由来FOMTはそのメチル化部位の選択性が高いことから、高度にメチル化を受けたフラボノイド類(ポリメトキシフラボノイド)の生合成には、部位選択性の異なる複数のFOMTが関与していると推測される。しかし、シークヮーサーにおけるノビレチン生合成経路はいまだ解明されておらず、シークヮーサーに由来するFOMTも知られていない。
【0008】
そこで本発明の目的は、植物由来の新規FOMT遺伝子を単離すること、得られたFOMT遺伝子を発現する形質転換体を得ること、得られた形質転換体から植物由来FOMTを得ること、得られたFOMT又は形質転換体を用いてメチル化フラボノイドの製造方法を提供すること、並びにそれらに付随する技術を提供することを目的とする。
【0009】
得られた植物由来FOMTを用いることにより、種々のメチル化フラボノイド(天然型及び非天然型のメチル化フラボノイド)の創出が期待される。非天然型のメチル化フラボノイドは天然型と比較し、より高い生理活性を持つ可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、各種植物からのフラボノイド類のメチル転移酵素の単離・解析を行ってきた。その過程において沖縄産シークヮーサー(Citrus depressa)より2種類の新規メチル転移酵素(CdFOMT5及びCdFOMT6と命名)を発見した。さらにこのメチル転移酵素が各種フラボノイドのメチル転移反応を触媒することを見出し、この事実が本発明を完成する基礎となった。
【0011】
従前より、フラボノイド、カテキン、コーヒー酸などのフェノール性水酸基をメチル化する酵素は知られている(非特許文献3、4、5)。しかし、本発明の新規メチル転移酵素の遺伝子は、その何れとも同一性が低く明らかに異なるものであった。特許文献1及び2に記載の植物由来のメチル転移酵素は、クラスI型のMg2+を要求する酵素であり、本発明の酵素との同一性は6-15%程度であった。また、本発明の一方のメチル転移酵素(CdFOMT5)は、遺伝子配列からの機能推定においてO-メチル転移酵素と推定されたアミノ酸配列(非特許文献6)と同一性が95%のものがある。しかし、その翻訳産物の基質特異性は知られておらず、またフラボノイド-O-メチル転移酵素であったとしても、そのメチル転移の位置選択性等についても全く知られていない。
本発明は、以下を提供する。
【0012】
[1]以下(a)から(f)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号:1に記載の塩基配列と96%以上の同一性を有し、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を含み、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と96%以上の同一性を有し、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(1)ケルセチンに作用して、ケルセチンの少なくとも1箇所の水酸基をメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性。
[2](1)に記載の活性が、ケルセチンの少なくとも1〜3箇所の水酸基をメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性である、[1]に記載のポリヌクレオチド。
[3]以下(g)から(l)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(g)配列番号:3に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(h)配列番号:3に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有し、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(i)配列番号:3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(j)配列番号:4に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(k)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を含み、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;及び
(l)配列番号:4に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(2)ケルセチンに作用して、ケルセチンの3'位の水酸基を選択的にメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性。
[4][1]から[3]のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされる、タンパク質。
[5]下記の(m)から(p)のいずれかのアミノ酸配列を有するタンパク質。
(m)配列表の配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列;
(n)配列表の配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、かつ下記(1)又は(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸配列;
(o)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して96%以上の同一性を有し、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸配列;又は
(p)配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸配列;
(1)ケルセチンに作用して、ケルセチンの少なくとも1箇所の水酸基をメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性。
(2)ケルセチンに作用して、ケルセチンの3'位の水酸基を選択的にメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性。
[6](1)に記載の活性が、ケルセチンの少なくとも1〜3箇所の水酸基をメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性である、[5]に記載のタンパク質。
[7][1]から[3]のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[8][1]から[3]のいずれかに記載のポリヌクレオチド又は[7]に記載のベクターが導入された、形質転換細胞。
[9]8に記載の形質転換細胞を培養し、その培養物から[1]から[3]のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を回収する工程を含む、[1]から[3]のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質又は[4]から[6]のいずれかに記載のタンパク質の、製造方法。
[10][4]から[6]のいずれかに記載のタンパク質又は[8]に記載の形質転換細胞を、フラボノイド及び/又はその類似体に作用させる工程、及び生成される化合物を回収する工程を含む、メトキシフラボノイド及び/又はその類似体の製造方法。
[11]フラボノイド及び/又はその類似体が、ケンフェロール、ケルセチン、ミリセチン、フィセチン、ガランギン、ゴシペチン、モリン、アピゲニン、ルテオリン、ナリンゲニン、タキシフォリン、ブチン、エリオジクチオール、ピノセムブリン、シアニジン、デルフィニジン、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、エピアフゼレキン、フィセチニドール、グイブルチニドール、メスキトール、ロビネチニドール/又はその類似体、から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、[10]に記載の製造方法。
[12][1]から[3]のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質又は[4]から[6]のいずれかに記載のタンパク質を含む、酵素剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の2種類のFOMTは、フラボノイドを基質とするO-メチル転移酵素である点では共通する。しかし、フラボノイドの位置選択性に大きな違いがある。詳細は後述するが、CdFOMT5 は、ケルセチン(5箇所の水酸基を有する)に対して、複数の水酸基においてメチル転移反応を触媒する活性を有する。一方、CdFOMT6は、ケルセチンに対して、そのB環の3'位の水酸基のみに対し特異的にメチル転移反応を示す。
これらの酵素触媒は、メチル化フラボノイドの工業的生産に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】組換えCdFOMT5 及びCdFOMT6 発現プラスミド
図2】組換えCdFOMT5 及びCdFOMT6 のSDS-PAGE による分析(A: pET-CdFOMT5及びpET-CdFOMT6 発現菌体 細胞破砕液(M: 分子量マーカー、H: 宿主 (E. coli BL21(DE3))、C:コントロール(pET-21b(+)/E. coli BL21(DE3))、Cd5: pET-CdFOMT5/E. coli BL21(DE3)、Cd6: pET-CdFOMT6/E. coli BL21(DE3))、B: pMAL-CdFOMT6発現菌体 細胞破砕液(M: 分子量マーカー、C:コントロール(pMAL-c5x/E. coli JM109)、H: 宿主(E. coli JM109)、Cd6: pMALc5-CdFOMT6/E. coli JM109))
図3】精製CdFOMT5 及びCdFOMT6 のSDS-PAGE 分析(A: pET-CdFOMT5発現菌体 Niカラム精製(M: 分子量マーカー、C: 細胞破砕液上清、U: 非吸着画分、Cd5: 精製CdFOMT6)、B: pMAL-CdFOMT6発現菌体 アミロースカラム精製(M: 分子量マーカー、C: 細胞破砕液上清、U: 非吸着画分、Cd6: 精製CdFOMT6(溶出画分1-4)))
図4】CdFOMT5及び6によるケルセチンのメチル化(Q: ケルセチン、3MQ: 3-メトキシケルセチン、A: アザレアチン(5-メトキシケルセチン)、R: ラムネチン(7-メトキシケルセチン)、I: イソラムネチン(3’-メトキシケルセチン)
図5】CdFOMT5によるケルセチンメチル化産物のLC-MS分析結果(最上段: HPLC クロマトグラム(UV254 nm)、A-D: 各ピークにおけるマススペクトル)
図6】CdFOMT5及びCdFOMT6のメチル化活性へのpHの影響(A: CdFOMT5、B: CdFOMT6)
図7】CdFOMT5及びCdFOMT6の反応至適温度(A: CdFOMT5、B: CdFPMT6)
図8】CdFOMT5のフラボン骨格化合物に対するメチル化部位検討(A: 5-ヒドロキシフラボン、B: 6-ヒドロキシフラボン、C: 7-ヒドロキシフラボン、D: 7,8-ジヒドロキシフラボン)
図9】CdFOMT6の基質特異性(A: ミリセチン、B: ルテオリン、C: エピガロカテキン3-O-ガレート、D: エピカテキン)
図10】CdFOMT5 発現菌体によるケルセチンメチル化産物のLC-MS分析(最上段: HPLCクロマトグラム(UV254 nm)、A〜C: ピークA〜Cのマススペクトル)
図11】CdFOMT5及びCdFOMT6の配列
図12】CdFOMT1、CdFOMT3、及びCdFOMT4の配列
【発明を実施するための形態】
【0015】
[フラボノイドO-メチル転移酵素(FOMT)]
本発明は、シークヮーサーに由来するフラボノイドを基質とするO-メチル転移酵素(flavonoid:S-adenosyl L-methionine O-methyltransferase)であるCdFOMT5 及びCdFOMT6並びにそれらに関連するタンパク質に関する。このタンパク質は、下記のいずれかのアミノ酸配列を有するタンパク質である。なお、本明細書では、CdFOMT5 及びCdFOMT6並びにそれらに関連するタンパク質を、「本発明のタンパク質」ということがある。
(m)配列表の配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列;
(n)配列表の配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、かつ下記(1)又は(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸配列;
(o)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して96%以上の同一性を有し、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸配列;又は
(p)配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸配列;
(1)ケルセチンに作用して、ケルセチンの少なくとも1箇所の水酸基をメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性。
(2)ケルセチンに作用して、ケルセチンの3'位の水酸基を選択的にメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性。
【0016】
CdFOMT5及びCdFOMT6は、フラボノイドを基質とするO-メチル転移酵素である点では共通する。しかし、フラボノイドの位置選択性に大きな違いがある。詳細は後述する。
【0017】
CdFOMT5は、上記(m)の配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質であり、CdFOMT5に関連するタンパク質は、上記(n)の配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、かつ上記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸を有するタンパク質、及び上記(o)の配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して96%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ上記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸配列を有するタンパク質である。
【0018】
(1)に記載の活性は、ケルセチンに作用して、ケルセチンの少なくとも1箇所の水酸基をメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性であり、この活性は、ケルセチンの少なくとも1〜3箇所の水酸基をメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性であることができる。ケルセチンに作用して、ケルセチンの少なくとも1箇所の水酸基をメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性の測定は、後述の実験方法の「1.9 FOMT活性測定」の項に記載の方法に従って、基質としてケルセチンを用いることで実施できる。
【0019】
本発明のCdFOMT5の酵素学的性質を以下に説明する。なおCdFOMT5と酵素学的性質が同一であるタンパク質も本発明の範囲に含まれる。
(1) 作用、基質特異性
CdFOMT5は、後述する実施例において具体的に記載するように、ケルセチン(5箇所の水酸基を有する)に対して、複数の水酸基においてメチル転移反応を触媒する活性を有する。実施例においては、最大4箇所の水酸基をメチル化(メトキシ化)したケルセチンの生成が確認されている。さらにCdFOMT5は、5-ハイドロキシフラボン、6-ハイドロキシフラボン、7-ハイドロキシフラボン及び7,8-ジハイドロキシフラボンが有する水酸基に対するメチル転移反応を触媒する活性を有することも実施例において確認されている。実施例の結果は、CdFOMT5は少なくともフラボンの3,5,6,7位のOH基をメチル化することを示唆する。
【0020】
(2) 至適反応pH、温度
CdFOMT5の、ケルセチンを基質としたときの至適なpHは、5.5〜8.0であり、より特定するとpH6.0〜7.8である。最適pHは7.0付近である。またCdFOMT5は、至適pHにおいては、ケルセチンを基質として、25〜60℃で、最大時の約60%以上の活性を発揮しうる。より特定すると、35〜55℃で、最大時の約80%以上の活性を発揮しうる。さらに特定すると、42〜52℃で、最大時の約90%以上の活性を発揮しうる。最適温度は45℃付近である。
【0021】
(3) 分子質量
CdFOMT5の分子質量は、SDS-PAGEから約40kDaと算出される。
【0022】
(4) その他
CdFOMT5は、ケルセチンを基質としたときには、3か所のメチル基(3,5,7 OH)がメチル化したトリメトキシケルセチンを生成することができる。CdFOMT5精製酵素によるヒドロキシフラボンのメチル化では、3,5,6,7位OHへのメチル化が確認されている。さらに、CdFOMT5発現大腸菌としてケルセチンに作用させると、3,3’,5,7-テトラメトキシケルセチンを生成することができる。連続的なケルセチンのメチル化反応には、SAM(S-アデノシルメチオニン)の供給が好ましい。
CdFOMT5は、Citrus属に属する生物、より特定するとシークヮーサー(Citrus depressa)に由来する。
【0023】
CdFOMT6は、上記(m)の配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質であり、CdFOMT6に関連するタンパク質は、上記(n)の配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、かつ上記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸を有するタンパク質、及び上記(o)の配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ上記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするアミノ酸配列を有するタンパク質である。
【0024】
(2)に記載の活性は、ケルセチンに作用して、ケルセチンの3'位の水酸基を選択的にメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性である。ケルセチンに作用して、ケルセチンの3'位の水酸基を選択的にメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性の測定は、後述の実験方法の「1.9 FOMT活性測定」の項に記載の方法に従って、基質としてケルセチンを用いることで実施できる。
【0025】
本発明のCdFOMT6の酵素学的性質を以下に説明する。なおCdFOMT6と酵素学的性質が同一であるタンパク質も本発明の範囲に含まれる。
(1) 作用、基質特異性
CdFOMT6は、後述する実施例において具体的に記載するように、ケルセチン(5箇所の水酸基を有する)に対して、3'位の水酸基のメチル転移反応を選択的に触媒する活性を有する。実施例においては、ケルセチンの3'位の水酸基をメチル化(メトキシ化)したケルセチン(イソラムネチン(3'-メトキシケルセチン))の生成が確認されている。さらにCdFOMT6は、フラボン類としてケルセチン、ミリセチン、ルテオリン、フラバノール類としてエピカテキン、エピガロカテキン3-O-ガレート(EGCg)が有する水酸基に対するメチル転移反応を触媒する活性を有することも実施例において確認されている。しかし、フラボン類としてケンフェロール(3,5,7,4'-テトラヒドロキシフラボン)、その他の基質としてカフェ酸、レスベラトロール、没食子酸メチルエステルに対してメチル化活性を示さなかった。ケンフェロール(3,5,7,4'-テトラヒドロキシフラボン)に対してメチル化活性を示さなかったことから、CdFOMT6はフラボン及びフラバン類の3'OHを特異的にメチル化することが示唆された。また、フラボノイドのB環に2つの水酸基を有するルテオリン及びエピカテキンに対する活性が、3つの水酸基を有するミリセチン及びEGCgに対する活性よりも高いことから、B環のOH基が2つの基質に対して高い基質特異性を示すことが示唆される。
【0026】
(2) 至適反応pH、温度
CdFOMT6の、ケルセチンを基質としたときの至適なpHは、7.0〜9.6であり、より特定するとpH7.5〜8.5である。最適pHは8.0付近である。またCdFOMT6は、至適pHにおいては、ケルセチンを基質として、37〜53℃で、最大時の約60%以上の活性を発揮しうる。より特定すると、38〜51℃で、最大時の約80%以上の活性を発揮しうる。さらに特定すると、40〜49℃で、最大時の約90%以上の活性を発揮しうる。最適温度は45℃付近である。
【0027】
(3) 融合タンパクとしての分子質量
マルトース結合タンパク(MBP:分子質量 42.5 kDa)との融合タンパクとして発現させたCdFOMT6の分子質量は、SDS-PAGEから約80kDaと算出される。
【0028】
(4) その他
連続的なケルセチンのメチル化反応には、SAM(S-アデノシルメチオニン)の供給が好ましい。
CdFOMT5は、Citrus属に属する生物、より特定するとシークヮーサー(Citrus depressa)に由来する。
【0029】
上記(l)における「1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1個、2個、3個又は4個を意味する。
【0030】
タンパク質においてアミノ酸残基を置換する場合、特に、側鎖の化学的性質が類似したアミノ酸による置換、いわゆる保存的なアミノ酸置換を行うことが好ましい。アミノ酸は、それらの側鎖の化学的性質に従い、例えば、次のように分類される:
(1)中性疎水性側鎖(アラニン、トリプトファン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン、ロイシン);
(2)中性極性側鎖(アスパラギン、グリシン、グルタミン、システイン、セリン、チロシン、トレオニン);
(3)塩基性側鎖(アルギニン、ヒスチジン、リシン);
(4)酸性側鎖(アスパラギン酸、グルタミン酸);
(5)脂肪族側鎖(アラニン、イソロイシン、グリシン、バリン、ロイシン);
(6)脂肪族水酸基側鎖(セリン、トレオニン);
(7)アミン含有側鎖(アスパラギン、アルギニン、グルタミン、ヒスチジン、リシン);
(8)芳香族側鎖(チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン);及び
(9)硫黄含有側鎖(システイン、メチオニン)。
【0031】
本発明でアミノ酸配列に関し「同一性」というときは、特に記載した場合を除き、2つの配列を最適の態様で整列させた場合に、2つの配列間で共有する一致したアミノ酸の個数の百分率を意味する。すなわち、同一性=(一致した位置の数/位置の全数)×100で算出でき、市販されているアルゴリズムを用いて計算することができる。また、このようなアルゴリズムは、Altschul et al.,J.Mol.Biol.215(1990)403−410に記載されるNBLASTおよびXBLASTプログラム中に組込まれている。より詳細には、アミノ酸配列の同一性に関する検索・解析は、当業者には周知のアルゴリズムまたはプログラム(例えば、BLASTN、BLASTP、BLASTX、ClustalW)により行うことができる。プログラムを用いる場合のパラメーターは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法もまた、当業者には周知である。
【0032】
上記(o)における「配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して96%以上の同一性を有するアミノ酸配列」における同一性は、96%以上であれば特に限定されないが、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%である。
【0033】
上記(p)における「配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列」における同一性は、90%以上であれば特に限定されないが、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%、さらに好ましくは98%、特に好ましくは99%以上である。
【0034】
本発明のタンパク質の取得方法は特に制限されず、化学合成により合成したタンパク質でもよいし、遺伝子組み換え技術により作製した組み換えタンパク質でもよい。組み換えタンパク質を作製する場合には、先ず、後述する本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを取得する。このポリヌクレオチドを適当な発現系に導入して得られた形質転換細胞を用いることにより、本発明のタンパク質を産生することができる。発現系でのタンパク質の発現についても本明細書中で後記する。
【0035】
遺伝子工学的な手法により製造されたタンパク質は、当該タンパク質を含む生物材料から回収される。例えば、タンパク質が宿主細胞外に分泌される場合には、当該細胞を培養した培地からタンパク質が回収される。宿主がトランスジェニック生物の場合にはその体液から目的のタンパク質を回収できる。あるいは細胞内に産生される場合には細胞を溶解した溶解物よりタンパク質を回収する。
【0036】
回収されたタンパク質は、該タンパク質を天然において産生する細胞から精製する場合と同様の手段により精製することができる。すなわち、公知の塩析、蒸留、各種クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、ゲル濾過、限外濾過、再結晶、酸抽出、透析、免疫沈降、溶媒沈澱、溶媒抽出、硫安又はエタノール沈澱等の精製手法を組み合わせて、目的とするタンパク質を精製することができる。当業者は、例えば次のような各種のクロマトグラフィーを組み合わせて利用することができる。これらのクロマトグラフィーには、HPLC及びFPLC等の液相クロマトグラフィーシステムを用いることができる。
アフィニティークロマトグラフィー、
アニオン又はカチオン交換等のイオン交換クロマトグラフィー、
逆相クロマトグラフィー、
吸着クロマトグラフィー、
ゲル濾過、
疎水性クロマトグラフィー、
ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー
【0037】
また、本発明のタンパク質(FOMT)をタグとの融合タンパク質として発現させれば、タグに結合するカラムを利用して回収することができる。例えばGSTタグを有する融合タンパク質は、グルタチオンカラムを用いて容易に分離することができる。あるいはヒスチジンタグとの融合タンパク質は、ニッケルカラムを用いて精製することができる。タグとタンパク質(FOMT)の間にプロテアーゼ認識配列を挿入することができる。プロテアーゼには、例えばトロンビンやファクターXa等を利用することができる。融合タンパク質をカラムに結合させた後、必要に応じてカラムを洗浄する。次いでこれらのプロテアーゼを作用させると、目的とするタンパク質がタグから切断される。その後、切断されたタンパク質を回収することによって、目的とするタンパク質を容易に精製することができる。
【0038】
本発明のタンパク質は、安定剤、緩衝剤、溶解補助剤、酸化防止剤、希釈剤等の酵素以外の成分を加えて、酵素剤(酵素およびそれ以外の成分を含む組成物)とすることができる。
【0039】
[フラボノイドO-メチル転移酵素(FOMT)遺伝子]
本発明は、CdFOMT5及びCdFOMT6並びにそれらに関連するタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドに関する。
【0040】
CdFOMT5及びそれらに関連するタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、以下(a)から(f)のいずれかに記載のポリヌクレオチドである。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号:1に記載の塩基配列と96%以上の同一性を有し、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を含み、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と96%以上の同一性を有し、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(1)ケルセチンに作用して、ケルセチンの少なくとも1箇所の水酸基をメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性。
【0041】
(e)の配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を含み、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素、並びに(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と96%以上の同一性を有し、かつ下記(1)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素は、さらには(1)に記載の活性については、前述のタンパク質としてのCdFOMT5の説明で記載した通りである。
【0042】
(c)に記載の「配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし」における「高度にストリンジェントな条件」とは、例えばECL direct nucleic acid labeling and detection system(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、マニュアルに記載の条件(例えば、wash:42℃、0.5×SSCを含むprimary wash buffer。なお、1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)においてハイブリダイズすることを言う。より具体的な「高度にストリンジェントな条件」とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、 0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、さらに好ましくは、65℃、0.1×SSC及び0.1% SDSの条件である。あるいは、2×SSCおよび50%ホルムアミドの存在下、45℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1×SSCを用い、60℃でフィルターを洗浄する条件を用いるか、または2×SSCおよび50%ホルムアミドの存在下、50℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1×SSC溶液を用い、65℃でフィルターを洗浄する条件を用いればよい。これら塩濃度、温度に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、反応時間を含む複数の要素がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する。当業者であればこれら要素を適宜選択することでストリンジェンシーを調節することができる。
【0043】
例えばハイブリダイゼーションに使用するプローブの塩基配列は、配列番号:1又は3に記載の塩基配列から選択することができる。例えば、少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば40、60又は100個の連続した塩基配列を有するポリヌクレオチドをプローブとすることができる。あるいは、配列番号:1に記載した塩基配列の全長を有するポリヌクレオチドをプローブとすることもできる。
【0044】
高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるポリヌクレオチドは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と高い同一性(相同性)を有するアミノ酸配列をコードしている可能性が高い。具体的には、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と96%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、本発明におけるポリヌクレオチドに含まれる。このような高い同一性を有するタンパク質同士は、同じ又は類似した活性を有する可能性が高い。
【0045】
CdFOMT6及びそれらに関連するタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、以下(g)から(l)のいずれかに記載のポリヌクレオチドである。
(g)配列番号:3に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(h)配列番号:3に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有し、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(i)配列番号:3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(j)配列番号:4に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(k)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を含み、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;及び
(l)配列番号:4に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ下記(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素をコードするポリヌクレオチド;
(2)ケルセチンに作用して、ケルセチンの3'位の水酸基を選択的にメチル化したメトキシケルセチンを生成する活性。
【0046】
(k)に記載の配列番号:4に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を含み、かつ(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素、並びに(j)配列番号:4に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ(2)に記載の活性を有するフラボノイド-O-メチル転移酵素は、さらには(2)に記載の活性については、前述のタンパク質としてのCdFOMT6の説明で記載した通りである。
【0047】
(i)に記載の「配列番号:4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし」における「高度にストリンジェントな条件」は、CdFOMT5の(c)についての「高度にストリンジェントな条件」と同様である。
【0048】
高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるポリヌクレオチドは、配列番号:4に記載のアミノ酸配列と高い同一性(相同性)を有するアミノ酸配列をコードしている可能性が高い。具体的には、配列番号:4に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、本発明におけるポリヌクレオチドに含まれる。このような高い同一性を有するタンパク質同士は、同じ又は類似した活性を有する可能性が高い。
【0049】
本発明で塩基配列(ヌクレオチド配列ということもある。)に関し「同一性」というときは、特に記載した場合を除き、2つの配列を最適の態様で整列させた場合に、2つの配列間で共有する一致したヌクレオチドの個数の百分率を意味する。すなわち、同一性=(一致した位置の数/位置の全数)×100で算出でき、市販されているアルゴリズムを用いて計算することができる。また、このようなアルゴリズムは、Altschul et al.,J.Mol.Biol.215(1990)403−410に記載されるNBLASTおよびXBLASTプログラム中に組込まれている。より詳細には、塩基配列の同一性に関する検索・解析は、当業者には周知のアルゴリズムまたはプログラム(例えば、BLASTN、BLASTP、BLASTX、ClustalW)により行うことができる。プログラムを用いる場合のパラメーターは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法もまた、当業者には周知である。
【0050】
上記(b)における同一性は、96%以上であれば特に限定されないが、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%である。
【0051】
上記(h)における同一性は、90%以上であれば特に限定されないが、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%、さらに好ましくは98%、特に好ましくは99%以上である。
【0052】
本発明のポリヌクレオチドの取得方法は特に限定されない。本明細書中の配列表の配列番号1から4に記載したアミノ酸配列及び塩基配列の情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いてシークヮーサーのcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより本発明のポリヌクレオチドを単離することができる。cDNAライブラリーは、シークヮーサーの葉などの細胞から常法により作製することができる。
【0053】
PCR法により本発明のポリヌクレオチドを取得することもできる。シークヮーサーの染色体DNAライブラリー又はcDNAライブラリーを鋳型として使用し、配列番号1又は2に記載した塩基配列を増幅できるように設計した1対のプライマーを用いてPCRを行う。PCRの反応条件は適宜設定することができ、例えば、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)からなる反応工程を1サイクルとして、例えば30サイクル行った後、72℃で7分間反応させる条件などを挙げることができる。次いで、増幅されたDNA断片を、大腸菌等の宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。
【0054】
上記したプローブ又はプライマーの調製、cDNAライブラリーの構築、cDNAライブラリーのスクリーニング、並びに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、常法に準じて行うことができる。
【0055】
また、配列表の配列番号3又は4に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、所定のメチル転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;並びに配列表の配列番号1又は2に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、所定のメチル転移酵素をコードする塩基配列を有する遺伝子(以下、これらの遺伝子を変異遺伝子と称する)については、配列番号1〜4に記載のアミノ酸配列及び塩基配列の情報に基づいて、化学合成、遺伝子工学的手法又は突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することができる。
【0056】
例えば、配列表の配列番号1又は2に記載の塩基配列を有するDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法等を用いて行うことができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用である。
【0057】
[組み換えベクター]
本発明のポリヌクレオチドは適当なベクター中に挿入して使用することができる。本発明で用いるベクターの種類は特に限定されず、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミド等)でもよいし、あるいは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。好ましくは、本発明で用いるベクターは発現ベクターである。適当なベクターとして、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ等の種々のベクターを挙げることができる。発現ベクターにおいて本発明の遺伝子は、転写に必要な要素(例えば、プロモーター等)が機能的に連結されている。プロモーターは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0058】
本発明の組換えベクターは、分子生物学、生物工学及び遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて構築することができる。微生物等を宿主として、本発明のポリヌクレオチドを発現させるためには、まず、当該微生物中において安定に存在するプラスミドベクター又はファージベクター中に該DNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。そのためには、通常、プロモーターを本発明のポリヌクレオチドの5’側上流に配置する。プロモーターは、転写・翻訳を制御するユニットである。
【0059】
そして本発明のポリヌクレオチドの3’側下流には、ターミネーターを配置するのが好ましい。プロモーター及びターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能するものを選択することができる。その他、必要に応じて、エンハンサー、オペレーター配列、開始シグナル、ポリアデニル化シグナル、リボソーム結合部位等の転写及び/又は翻訳に必要な制御配列を組込むことができる。本発明のベクターは、好ましくは、挿入された本発明のポリヌクレオチドの発現に必要とされる制御配列の全ての構成成分を含むものである。さらに、本発明のベクターは、該ベクターが導入された宿主細胞を選択するための選択マーカーを含むことができる。
【0060】
本発明においては、本発明のポリヌクレオチドに、シグナルペプチドをコードする配列を付加することもできる。シグナルペプチドの付加によって、宿主細胞内で発現されたタンパク質を小胞体内腔に移行させることができる。あるいは、グラム陰性菌を宿主とする場合には、シグナルペプチドによって、宿主細胞内で発現されたタンパク質を、ペリプラズム内、又は細胞外へと移行させることができる。利用する宿主細胞において機能することができる任意のシグナルペプチドを利用することができる。従って、宿主にとって異種由来のシグナルペプチドを利用することもできる。さらに必要に応じ、本発明のポリヌクレオチドのベクターへの導入に当たって、リンカー、開始コドン(ATG)、終止コドン(TAA、TAG又はTGA)等を付加することもできる。
【0061】
[宿主、形質転換細胞]
本発明のポリヌクレオチドを発現させるための宿主は、該ポリヌクレオチドを含む組換えベクターによって形質転換することができ、かつメチル転移酵素を有するタンパク質を発現することができる生物であれば特に制限されない。本発明は、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターにより形質転換された形質転換体(形質転換細胞)を提供する。本発明の形質転換体の対象となる微生物としては、例えば以下のような微生物を示すことができる。
(1)宿主ベクター系の開発されている細菌
・エシェリヒア(Escherichia)属
・バチルス(Bacillus)属
・シュードモナス(Pseudomonas)属
・セラチア(Serratia)属
・ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属
・コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属
・ストレプトコッカス(Streptococcus)属
・ラクトバチルス(Lactobacillus)属など
(2)宿主ベクター系の開発されている放線菌
・ロドコッカス(Rhodococcus)属
・ストレプトマイセス(Streptomyces)属など
(3)宿主ベクター系の開発されている酵母
・サッカロマイセス(Saccharomyces)属
・クライベロマイセス(Kluyveromyces)属
・シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属
・チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属
・ヤロウイア(Yarrowia)属
・トリコスポロン(Trichosporon)属
・ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属
・ピキア(Pichia)属
・キャンディダ(Candida)属など
(4)宿主ベクター系の開発されているカビ
・ノイロスポラ(Neurospora)属
・アスペルギルス(Aspergillus)属
・セファロスポリウム(Cephalosporium)属
・トリコデルマ(Trichoderma)属など
【0062】
例えばエシェリヒア属、特に大腸菌(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとして、pET、pBR、pUC系プラスミドを利用でき、lac(β-ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc (lac、trpの融合)、λファージ PL、PR等に由来するプロモーターが利用できる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーターを用いることができる。特に、市販のpSE420(Invitrogen製)のマルチクローニングサイトを一部改変したベクターpSE420Dは、エシェリヒア属細菌を宿主とした場合の好適なベクターである。
【0063】
バチルス属においては、ベクターとしてpUB110系プラスミド、pC194系プラスミド等が利用可能であり、これらのベクターを利用した場合、本発明のポリヌクレオチドを宿主染色体にインテグレートすることもできる。また、プロモーター、ターミネーターとしては、apr(アルカリプロテアーゼ)、npr(中性プロテアーゼ)、amy(α-アミラーゼ)等が利用できる。
【0064】
シュードモナス属においては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia) 等で宿主ベクター系が開発されている。トルエン化合物の分解に関与するプラスミドTOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010等に由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240等が利用可能であり、プロモーター・ターミネーターとして、リパーゼ遺伝子由来のものが利用できる。
【0065】
ブレビバクテリウム属、特にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、pAJ43(Gene (1985) 39:281)等のプラスミドベクターが利用可能である。プロモーター・ターミネーターとしては、大腸菌で使用されているプロモーター、ターミネーターがそのまま利用可能である。
【0066】
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、pCS11(特開昭57-183799)、pCB101(Mol Gen Genet (1984) 196:175)等のプラスミドベクターが利用可能である。
【0067】
ストレプトコッカス属においては、pHV1301(FEMS Microbiol Lett (1985) 26:239)、pGK1(Appl Environ Microbiol (1985) 50:94)等がプラスミドベクターとして利用可能である。
【0068】
ラクトバチルス属においては、ストレプトコッカス属用に開発されたpAMβ1(J Bacteriol (1979) 137: 614)等がベクターとして利用可能であり、プロモーターとしては、大腸菌で利用されているものが利用可能である。
【0069】
ロドコッカス属においては、Rhodococcus opacusやRhodococcus erythropolisに加え、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)から単離されたプラスミドベクターが使用可能である (J Gen Microbiol (1992) 138:1003)。
【0070】
ストレプトマイセス属においては、HopwoodらのGenetic Manipulation of Streptomyces: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratories (1985) に記載の方法に従って、プラスミドを構築することができる。特に、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans) においては、pIJ486 (Mol Gen Genet (1986) 203: 468-78)、pKC1064(Gene (1991) 103:97-9)、pUWL-KS (Gene (1995) 165:149-50)が使用できる。また、ストレプトマイセス・バージニア(Streptomyces virginiae)においても、同様のプラスミドを使用することができる(Actinomycetol (1997) 11:46-53)。
【0071】
サッカロマイセス属、特にサッカロマイセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミドが利用可能である。また、染色体内に多コピー存在するリボソームDNAとの相同組換えを利用したインテグレーションベクター(EP537456等)は、多コピーで遺伝子を導入でき、かつ安定に遺伝子を保持できるため極めて有用である。また、 ADH(アルコール脱水素酵素)、GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素)、PHO(酸性フォスファターゼ)、GAL(β-ガラクトシダーゼ)、PGK(ホスホグリセレートキナーゼ)、ENO(エノラーゼ)等のプロモーター・ターミネーターが利用可能である。
【0072】
クライベロマイセス属、特にクライベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)においては、サッカロマイセス・セレビジアエ由来2μm系プラスミド、pKD1系プラスミド(J Bacteriol (1981) 145:382-90)、キラー活性に関与するpGKl1由来プラスミド、クライベロマイセス属における自律増殖遺伝子KARS系プラスミド、リボソーム DNA等との相同組換えにより染色体中にインテグレート可能なベクタープラスミド(EP537456等)等が利用可能である。また、ADH、PGK等に由来するプロモーター・ターミネーターが利用可能である。
【0073】
シゾサッカロマイセス属においては、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe) 由来のARS (自律複製に関与する遺伝子)及びサッカロマイセス・セレビジアエ由来の栄養要求性を相補する選択マーカーを含むプラスミドベクターが利用可能である(Mol Cell Biol (1986) 6:80)。また、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のADHプロモーター等が利用できる(EMBO J (1987) 6:729)。特に、pAUR224は、宝酒造から市販されており容易に利用できる。
【0074】
チゴサッカロマイセス属においては、チゴサッカロマイセス・ロウキシ(Zygosaccharomyces rouxii)由来のpSB3(Nucleic Acids Res. 13:4267(1985))等に由来するプラスミドベクターが利用可能であり、サッカロマイセス・セレビジアエ由来 PHO5 プロモーター、及びチゴサッカロマイセス・ロウキシ由来 GAP-Zr(グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素)のプロモーター(Agri Biol Chem (1990) 54:2521)等が利用可能である。
【0075】
ピキア属においては、ピキア・アンガスタ(Pichia angusta;旧名:ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha))を用いた宿主ベクター系が開発されている。ベクターとしては、ピキア・アンガスタ由来自律複製に関与する遺伝子(HARS1、HARS2)も利用可能であるが、比較的不安定であるため、染色体への多コピーインテグレーションが有効である(Yeast (1991) 7:431-43)。また、メタノール等で誘導されるAOX(アルコールオキシダーゼ)、FDH(ギ酸脱水素酵素)のプロモーター等が利用可能である。また、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等について、ピキア由来自律複製に関与する遺伝子(PARS1、PARS2)等を利用した宿主ベクター系が開発されており(Mol Cell Biol (1985) 5:3376)、高濃度培養とメタノールで誘導可能なAOX等の強いプロモーターが利用できる(Nucleic Acids Res (1987) 15:3859)。
【0076】
キャンディダ属においては、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ウチルス(Candida utilis) 等について宿主ベクター系が開発されている。キャンディダ・マルトーサにおいては、キャンディダ・マルトーサ由来ARSがクローニングされ(Agri Biol Chem (1987) 51:1587)、これを利用したベクターが開発されている。また、キャンディダ・ウチルスにおいては、染色体インテグレートタイプのベクターでは、強力なプロモーターが開発されている(特開平08-173170)。
【0077】
アスペルギルス属においては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリジー(Aspergillus oryzae) 等が最もよく研究されている。これらを宿主とするプラスミドが利用可能であり、染色体への所望遺伝子のインテグレーションを行うことができる。菌体外プロテアーゼ及びアミラーゼ由来のプロモーターも利用可能である(Trends in Biotechnology (1989) 7:283-7)。
【0078】
トリコデルマ属においては、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)を利用した宿主ベクター系が開発されており、菌体外セルラーゼ遺伝子由来プロモーター等が利用できる(Biotechnology (1989) 7:596-603)。
【0079】
また、微生物以外でも、植物及び動物を宿主とする様々な宿主ベクター系が開発されている。例えば、大量に異種タンパク質を発現させる系として、蚕を用いた昆虫ベクター系(Nature (1985) 315:592-4)、並びに、菜種、トウモロコシ及びジャガイモ等の植物ベクター系が開発されており、好適に利用できる。
【0080】
ベクターへの本発明のポリヌクレオチドの導入は、制限酵素サイトを利用したリガーゼ反応により行うことができる。また、使用する宿主のコドン使用頻度を考慮し、必要に応じ本発明のポリヌクレオチド配列の改変を行い、発現効率の高いベクターを設計するようにしてもよい。
【0081】
上述のように、様々な細胞が宿主細胞株として確立されている。そして、各細胞株に適した発現ベクターの導入法も公知であり、当業者であれば、各選択した宿主細胞に好適な導入法を選択することができる。例えば、原核細胞については、カルシウム処理、エレクトポレーションによる形質転換等が知られている。また、植物細胞については、アグロバクテリウムを用いた方法が公知であり、哺乳動物細胞についてはリン酸カルシウム沈降法を例示することができる。本発明は特にこれらの方法に限定されるわけではなく、選択した宿主に応じ、その他公知の核マイクロインジェクション、プロトプラスト融合、DEAE-デキストラン法、細胞融合、電気パルス穿孔法、リポフェクタミン法(GIBCO BRL)、FuGENE6試薬(Boehringer-Mannheim)を用いた方法をはじめとする種々の公知の方法により発現ベクターの導入を行うことができる。
【0082】
以上のようにして本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクターにより形質転換された形質転換体を培養することにより、本発明の所定のメチル転移活性を有するタンパク質を製造することができる。よって、本発明の好ましい一態様として、本発明の上記形質転換体を培養し、その培養物から前記ポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質を回収する工程を含む、メチル転移酵素の製造方法が提供される。形質転換体の培養方法は特に限定されず、選択した各宿主細胞の生育に適し、かつ、本発明の酵素の生産に最も適した培地、温度、時間等の条件を選択することが望ましい。例えば実施例に記載の条件が挙げられるがこれに限定されない。
【0083】
[タンパク質の製造方法]
本発明は、
上記本発明の形質転換細胞を培養し、その培養物から本発明のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を回収する工程を含む、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質又は本発明のタンパク質(FOMT)の製造方法に関する。
【0084】
[メトキシフラボノイド及び/又はその類似体の製造方法]
本発明は、本発明のタンパク質又は本発明の形質転換細胞をフラボノイド及び/又はその類似体に作用させる工程、及び生成される化合物を回収する工程を含む、メトキシフラボノイド及び/又はその類似体の製造方法に関する。
【0085】
フラボノイド及び/又はその類似体は、ケンフェロール、ケルセチン、ミリセチン、フィセチン、ガランギン、ゴシペチン、モリン、アピゲニン、ルテオリン、ナリンゲニン、タキシフォリン、ブチン、エリオジクチオール、ピノセムブリン、シアニジン、デルフィニジン、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、エピアフゼレキン、フィセチニドール、グイブルチニドール、メスキトール、ロビネチニドール/又はその類似体、から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0086】
本発明のタンパク質又は本発明の形質転換細胞をフラボノイド及び/又はその類似体に作用させる工程は、例えば、以下の条件で実施することができる。
溶媒:M9最少培地(1%グルコース、10mM L−メチオニン含有)
pH:7.0
温度:30℃
時間:3時間
タンパク質又は本発明の形質転換細胞の使用量:1%(w/v)
基質:100μM〜10mM
【0087】
前記工程で生成される化合物を回収する工程は、具体的に以下のように実施できる。
反応終了した反応液に、等量の酢酸エチルを加えて混和後、酢酸エチル相を分離・回収する。これを数回繰り返し、回収した酢酸エチル相を合わせて硫酸ナトリウムにより脱水後、減圧下において溶媒を除去することにより乾燥物を得る。得られた乾燥物を再度酢酸エチルに溶解後、シリカゲルクロマトグラフィーなどを用いて分離・精製することにより目的のメトキシフラボノイドを得ることができる。
このようにして、メトキシフラボノイド及び/又はその類似体の製造することができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
1 実験方法
1.1 使用宿主、ベクター
FOMT遺伝子源としては沖縄県産のシークヮーサーを用いた。クローニング宿主として大腸菌Escherichia coli JM109を、発現宿主としてE. coli JM109 及びE. coli BL21(DE3)をそれぞれ用いた。クローニングベクターとしてpGEM-T Easy(プロメガ)を、発現ベクターとしてpET-21b(+) (Novagen)及びpMAL-c5x (New England BioLabs)をそれぞれ用いた。
【0090】
1.2 ゲノムDNAの調製
シークヮーサーからのゲノムDNAの調製はDellaportaらの手法に従い行った。シークヮーサーの葉10グラムを液体窒素下、乳鉢乳棒で磨砕し、CTAB 抽出溶液40 mlを添加・混和した。65℃で60分間保温後、等量のクロロホルム-イソアミルアルコール(24:1)を添加し混和した。遠心(7,500 rpm, 5 分間)により分離し、上層の水相を新しいチューブに回収した。回収した水相に1/10 容のCTAB/NaCl 溶液 を添加し、65℃で30分間保温・撹拌した。等量のクロロホルム-イソアミルアルコールを添加・混和し、遠心(7,500 rpm, 5分間) により分離、上層を回収した。上層に等量のCTAB沈殿溶液を加え混和し、65℃で30分間保温した。遠心(500 x g, 4℃, 5分間)により核酸を沈殿させ、上清を取り除いた。核酸ペレットに高塩TE緩衝液1 mlを添加し、溶解した。ペレットを溶解後、0.6倍容のイソプロピルアルコールを加えて混和し、遠心(7,500 rpm, 4℃, 5分間)により核酸を沈殿させた。核酸のペレットを80%エタノール溶液で洗い、乾燥後TE緩衝液1 mlに溶解し、ゲノムDNAサンプルとした。
【0091】
1.3 Total RNA の調製
シークヮーサーからのTotal RNA の調製は、コスモバイオ社のTRI ReagentTM を用いて行った。抽出作業はコスモバイオ社の推奨プロトコルに従い行った。
【0092】
1.4 PCRによるFOMT遺伝子の単離
データベースより取得した各種植物由来FOMTのアミノ酸配列を基にアライメントを作成し、保存領域に対応する縮重プライマーを作成した。作成した縮重プライマーを表1に記載する。これらのプライマーを任意の組合せで用いてシークヮーサーのゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、FOMT遺伝子の部分配列を含む遺伝子断片の増幅を行った。増幅したDNA断片をアガロースゲル電気泳動により分離後、ゲルより抽出・回収した。回収したPCR断片をpGEM-T Easy ベクター(プロメガ社)へクローニングし、E. coli JM109へ形質転換した。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、シークエンスにより挿入したPCR増幅断片の配列を確認した。既知のFOMTと類似する配列を持つ断片がクローニングできていることを確認後、得られたDNA配列を基にTAIL-PCR (Thermal Asymmetric Interlaced PCR)に用いるプライマーを作成した(表1)。TAIL-PCR により5種のFOMT(FOMT1,3,4,5,6)に対応する遺伝子の全長配列を決定後、推定されるORF両末端配列を基にプライマーを設計し、シークヮーサーTotal RNA に対してRT-PCRを行った。RT-PCRにより各FOMTのcDNA断片を増幅、クローニングし、配列の決定とイントロンの決定を行った。
【0093】
【表1】
【0094】
1.5 組換えCdFOMT5, CdFOMT6発現プラスミドの構築
表1に示したcDNA 増幅用プライマーを用いて増幅したCdFOMT5及びCdFOMT6 PCR断片をそれぞれ制限酵素BamH I/Sal I(CdFOMT5)及びSma I/BamH I(CdFOMT6)で処理し、同様に制限酵素処理を行ったpET-21b(+)及びpMAL-c5x とそれぞれライゲーションした。ライゲーションしたDNAサンプルをE. coli JM109 にエレクトロポレーション法により導入し、抗生物質を含むLB寒天培地にまいて37℃で培養した。得られた形質転換体を単離、プラスミド抽出及び制限酵素処理により目的のインサートが任意のベクターに挿入されていることを確認した。構築した発現プラスミドをそれぞれpET-CdFOMT5及びpMAL-CdFOMT6 とし、pET-CdFOMT5は発現用宿主であるE. coli BL21(DE3)へ形質転換した。pMAL-CdFOMT6はE. coli JM109をそのまま発現宿主として用いた。得られた形質転換体を単離し、以降の発現実験へ供した。
【0095】
1.6 組換え酵素の発現
pET-CdFOMT5及びpMAL-CdFOMT6を含む形質転換大腸菌の培養及び組換え酵素の発現誘導は下記の手順に従い行った。
【0096】
1.6.1 組換えCdFOMT5の発現誘導
E. coli BL21(DE3)/pET-CdFOMT5組換え菌体を4 mlのLB培地(50μg/ml アンピシリン)に一白金耳稙菌し、37℃で一晩前培養した。前培養液500μlを500 ml LB培地(50μg/ml アンピシリン)に稙菌し、37℃、200 rpmで培養した。OD660 が0.5に到達した時点で誘導物質であるIPTG(イソプロピル-β-チオ-D-ガラクトシド)を終濃度0.1 mMになるように添加し、18℃、200 rpmで24時間誘導を行った。誘導終了後、菌体を遠心(4℃、12,000 rpm、10分間)で回収し、50 mM リン酸カリウムバッファー(KPB, pH 7.2)で洗菌した。洗菌後、再度遠心により菌体を回収し、以降の実験に供した。
【0097】
1.6.2 組換えCdFOMT6 の発現誘導
E. coli JM109/pMAL-CdFOMT6 組換え菌体を4 mlのLB培地(50μg/ml アンピシリン、2%(w/v)グルコース)に一白金耳稙菌し、30℃で一晩前培養した。前培養液500μlを500 ml LB培地(50μg/ml アンピシリン、2%(w/v) グルコース)に稙菌し、30℃、200 rpmで培養した。OD660 が2.0に到達した時点で誘導物質であるIPTGを終濃度0.3 mMになるように添加し、18℃、200 rpmで24時間誘導を行った。誘導終了後、菌体を遠心(4℃、12,000 rpm、10分間)で回収し、50 mM KPB (pH 7.5)で洗菌した。洗菌後、再度遠心により菌体を回収し、以降の実験に供した。
【0098】
1.7 組換え酵素の精製
組換えCdFOMT5及びCdFOMT6の精製は以下の通り行った。
【0099】
1.7.1 組換えCdFOMT5の精製
1.6.1で発現誘導を行った組換え菌体を、Ni-Sepharose binding buffer(50 mM KPB, 200 mM NaCl, 10% glycerol, 10 mM imidazole, pH 7.2)に懸濁し、超音波処理により菌体を破砕した。細胞破砕液を遠心し(4℃、17,000 rpm、20分間)、上清を新しいチューブに移した。再度同条件により遠心処理を行い、上清を回収した。細胞破砕液上清をbinding buffer で平衡化したNi-Sepharose カラム(10 ml ベッド)にアプライし、目的タンパクを吸着させた。カラムを100 mlのbinding bufferで洗浄後、elution buffer(50 mM KPB, 200 mM NaCl, 10% glycerol, 250 mM imidazole, pH 7.2)で目的タンパク質を溶出した。分画は10 ml x 10本とした。Brad-ford法によりタンパク濃度を定量後、目的タンパク溶出画分を以降のSDS-PAGE及び活性測定実験に供した。
【0100】
1.7.2 組換えCdFOMT6 の精製
1.6.2で発現誘導を行った組換え菌体を、amylose resin binding buffer(20 mM Tris-HCl, 200 mM NaCl, 10% glycerol, 1 mM EDTA, 1 mM DTT, pH 7.4)に懸濁し、1.7.1と同様に超音波処理による細胞破砕、上清の回収を行った。Amylose resin binding buffer で平衡化したamylose regin カラム(2 ml ベッド)に破砕液上清をアプライし、非吸着画分を回収した。カラムを12 ml のbinding bufferで洗浄後、20 mM maltose を含む溶出バッファーを用いて吸着タンパクの溶出を行った。分画は2 ml x 10本とした。Brad-ford法によりタンパク濃度を定量後、目的タンパクを含む画分を以降のSDS-PAGE及び活性測定実験に供した。
【0101】
1.8 SDS-PAGEによる組換えタンパクの確認
1.7にて精製した組換えCdFOMTタンパクをSDS-PAGEにより確認した。SDS-PAGEは常法に従い行い、アクリルアミドゲル濃度はそれぞれ12.5%(CdFOMT5)及び10%(CdFOMT6)とした。それぞれ20μg タンパク相当の細胞破砕液、カラム非吸着画分及び2μg タンパク相当の精製画分をSDS-PAGEに供した。泳動後、ゲルはクマシーブリリアントブルー染色を行い、目的タンパクの発現及び精製を確認した。
【0102】
1.9 FOMT活性測定
FOMTの活性測定は以下の反応条件を基本として行い、実験項目ごとに適宜条件を変更して行った。
【0103】
反応液組成
50 mM KPB (pH 7.5)
100μM 基質 (10 mM DMF溶液5μlを添加)
500μM SAM (S-アデノシルメチオニン)
100μl 酵素サンプル
Total 500μl
【0104】
30℃、1時間反応後、500μlのメタノールを添加・ボルテックスをして反応停止。
4℃、15,000 rpm、20分間遠心後、上清を回収し、HPLCで分析した。
【0105】
HPLC条件
HPLC分析には島津社製LC-10システムを用いた。
分析カラムにはIntakt社のCadenza CD-C18(4.6 mm x 75 mm, 粒子径3μm)を用いた。
分析は下記の条件を基本として行った。
【0106】
移動相 A: 0.01% ギ酸
B: 100% アセトニトリル
流速 0.5 ml/min
カラム温度 40℃
サンプル注入量 1μl
プログラム 0-10 min 15%
(% B) 10-25 min 15-55%
25-40 min 55-75%
40-45 min 75-15%
45-55 min 15%
検出器 UV 254 nm ないし375 nm
【0107】
1.10 LC-MSによるメチル化産物の分析
LC-MS分析はMicrOTOF (Burker daltonics)及びAgilent HPLC 1200を用いて行った。HPLCは1.9と同じ条件で行った。イオン源にはESIを用い、ポジティブモードにてデータ採取を行った。
【0108】
1.11 CdFOMT5 発現菌体を用いたポリメトキシケルセチンの生産
1.6.1により培養、誘導を行ったCdFOMT5発現菌体を用いて、ケルセチンのメチル化反応を行った。回収した菌体をM9培地で洗浄後、遠心回収し再度M9培地に懸濁した。この際菌体濃度が1%(wet weight/vol)になるように調製した。変換反応は下記の組成により行った。
【0109】
M9培地
10 mM L-メチオニン
100 μM ケルセチン
1%(w/v) グルコース
1%(w/v) CdFOMT5 組換え菌体
(有機溶媒・界面活性剤)
total 50 mL
【0110】
反応は30℃、200 rpm、3時間行った。
サンプル500μlを回収して等量のメタノールを添加、ボルテックスして反応を停止し、4℃、15,000 rpm、10分間遠心して上清を回収した。上清を再度遠心後、HPLCサンプルとして分析した。
【0111】
1.12 NMR 分析
メチル化産物のNMR分析は、Bruker 社の400 MHz NMR分光器を用いて行った。溶媒には重メタノール(0.01% TMS含有)を用いた。
2 実験結果
2.1 シークヮーサーからのFOMT 遺伝子の単離
表1に記載した縮重プライマーを任意の組合せで用いて、シークヮーサーの本葉より調製したゲノムDNAを鋳型としたPCRを行った(1st PCR)。その結果、複数のバンドの増幅が確認された。そこでさらに内部配列を基にしたプライマーを組合せ、1st PCR産物を鋳型としたnested PCRを行い、増幅バンドの絞り込みを行った(2nd PCR)。2回のPCR操作により絞り込まれたバンドを精製後、pGEM-T Easy ベクターにクローニングし塩基配列の確認を行った。この結果、いくつかのPCR断片が既知の植物由来FOMTのアミノ酸配列と相同性を示すことが明らかとなった。そこでこれらの塩基配列を基にプライマーを設計し、TAIL-PCRによる周辺領域のクローニングを行った。これにより、4種類のFOMT遺伝子の全長配列を取得することができた(CdFOMT1,3,4,5)。推定されたアミノ酸配列より開始コドン及び終止コドンを推測し、全長cDNA 配列を取得するためのプライマーを設計した。シークヮーサー本葉より調製したtotal RNA を用いて逆転写反応を行い、合成した1st strand cDNA を鋳型としてPCRを行った。RT-PCRを行った結果、CdFOMT3のホモログと考えられるCdFOMT6が新たにクローニングされ、これにより5種のFOMTの全長cDNA 配列とアミノ酸配列が決定された(図11および12)。また、先に決定したゲノム配列とcDNA 配列との比較からイントロンの挿入位置を決定した。
【0112】
CdFOMT1は内部に1ヶ所のイントロンを含む全長1254塩基対のORFからなり、362アミノ酸残基(推定40505.9 Da)をコードしていた。CdFOMT3は内部に3ヶ所のイントロンを含む全長2514塩基対のORFからなり、352アミノ酸残基(推定38849.9 Da)をコードしていた。CdFOMT4は内部に1ヶ所のイントロンを含む全長1664塩基対のORFからなり、335アミノ酸残基(推定37459.8 Da)をコードしていた。CdFOMT5は内部に3ヶ所のイントロンを含む全長1586塩基対のORFからなり、353アミノ酸残基(推定38977.6 Da)をコードしていた。CdFOMT6は1056塩基対のORFからなり、352アミノ酸残基(推定39024.4 Da)をコードしていた。それぞれのアミノ酸配列をBLAST検索(NCBI BLAST.P, Matrix.: BLOSUM62, Gap lots: Existence 11, Extension 1)により解析した結果、既知の植物由来FOMT及びカテコールメチル転移酵素と約60〜95%の同一性を有することが明らかとなった(表2)。これら遺伝子のアミノ酸配列は、既知の植物由来O-メチル基転移酵素と約60〜95%の同一性を示した。また、CdFOMTはそれぞれ互いに30〜80%程度の同一性を有していた。また、これらのFOMTはすべて金属イオン非依存性のクラスII O-メチル転移酵素群に属していた。
【0113】
【表2】
【0114】
2.2 組換えCdFOMTの異宿主発現
構築した発現プラスミド(図1)を宿主であるE. coli BL21(DE3) 及びE. coli JM109にてそれぞれ発現させた。当初、両遺伝子ともpET-21b(+)による発現を試みたが、CdFOMT5でのみ目的とする約40 kDa のバンドが確認され、CdFOMT6については可溶性タンパク画分に有意な組換え酵素を得ることができなかった(図2a)。そこでより組換えタンパクの可溶化能が高いマルトース結合タンパク(MBP)との融合タンパクとして発現することができる、pMAL-c5xを発現ベクターとして用いたところ、約80 kDa付近に有意な可溶性タンパクのバンドを得ることができた(図2b)。これらの組換えタンパクをアフィニティーカラムを用いて精製したところ、それぞれ約40 kDa 及び80 kDaの精製タンパクを得ることができた(図3ab)。これらの精製酵素を用いて以降の活性測定を行った。
【0115】
2.3 組換えCdFOMT のフラボノイドメチル化活性
各精製組換え酵素を用いて、ケルセチンを基質としてメチル化活性を確認した。HPLCによる酵素反応サンプルの分析の結果、両酵素ともケルセチンのメチル化によると推測される特異的なピークが得られた(図4)。標準化合物との比較から、CdFOMT6 はケルセチンの3'位のOH基をメチル化し、イソラムネチン(3'-O-メトキシケルセチン)へと変換することが明らかとなった。一方、CdFOMT5 は複数のピークが確認されたことから、1か所ではなく複数ヶ所のOH基をメチル化していることが示唆された。これらのピークは標準化合物との比較から、3-O-メトキシケルセチン、アザレアチン(5-O-メトキシケルセチン)ないしラムネチン(7-O-メトキシケルセチン)であることが示唆された(アザレアチン及びラムネチンはHPLCによるピーク分離が困難なため同定に至っていない)。また、その他にもCdFOMT5 との反応産物に特異的な複数のピークが見出されたことから、複数ヶ所のOH基がメチル化されたポリメトキシケルセチンが生産されていることが示唆された。
【0116】
2.4 CdFOMT5によるケルセチンメチル化産物のLC-MS分析
CdFOMT5 によるケルセチンの複数ヶ所のOH基のメチル化活性を確認するため、反応サンプルのLC-MS分析を行った(図5)。ポジティブモードによる測定のため、ケルセチンの分子量は302.24 + 1である。よってメチル化された産物は303.24 + 14n(n=メチル化のヶ所)の分子量になると推測される。LC-MS による分子量の解析の結果、317, 331, 345 の分子量を示すピークが得られた。このことから、CdFOMT5反応産物における特異的ピークは、1〜3か所のOH基がメチル化されたものであることが示唆される。
【0117】
2.5 CdFOMT5及びCdFOMT6のメチル化活性へのpHの影響
ケルセチンを基質としたときの、各酵素の至適pHを検討した(図6)。ケルセチンを基質としたときにCdFOMT5及びCdFOMT6 はそれぞれpH7及び8が至適pHであった。
【0118】
2.6 CdFOMT5及びCdFOMT6 のメチル化活性への温度の影響
ケルセチンを基質としたとき、各酵素はそれぞれ45℃が反応指摘温度であった(図7)。
【0119】
2.7 CdFOMT5のメチル化部位特異性
CdFOMT5に対し、各種基質を用いてメチル化部位の検討を行った。基質として5-ハイドロキシフラボン、6-ハイドロキシフラボン、7-ハイドロキシフラボン及び7,8-ジハイドロキシフラボンを用いた。各基質においてCdFOMT5 と反応させたとき、特異的なピークが見出された。これらは標準化合物との比較から、対応する各OH基がメチル化されたモノメトキシフラボンであることが明らかとなった。これらの結果から、CdFOMT5 は少なくともフラボンの3,5,6,7位のOH基をメチル化することが示唆される。
【0120】
2.8 CdFOMT6 の基質特異性
CdFOMT6を用いて、各種フラボノイドに対するメチル化活性を検討した。フラボン類としてケンフェロール、ケルセチン、ミリセチン、ルテオリンを、フラバノール類としてエピカテキン及びエピガロカテキン3-O-ガレート(EGCg)を用いた。またその他の基質としてカフェ酸、レスベラトロール、没食子酸メチルエステルを用いた。これらのうち、ケルセチン、ミリセチン、ルテオリン、エピカテキン、EGCgに対してメチル化されたとみられるピークが反応産物中に見出された(図9)。ケンフェロール(3,5,7,4'-テトラヒドロキシフラボン)に対してメチル化活性を示さなかったことから、CdFOMT6はフラボン及びフラバン類の3'OHを特異的にメチル化することが示唆された。また、ルテオリン・エピカテキンに対する活性がミリセチン・EGCgに対する活性よりも高いことから、フラボノイドのB環のOH基が2つの基質に対して高い活性を示すことが示唆される。
【0121】
2.9 CdFOMT5発現菌体を用いたポリメトキシケルセチンの生産
CdFOMT5発現菌体を用いたケルセチンのメチル化反応を行い、ポリメトキシケルセチンの生産を試みた。メチル化を受けていると推測される複数のピークが得られたことから、LC-MSによる分析を行った。その結果、1〜4か所のOH基がメチル化されたポリメトキシフラボノイドの生産が確認された(図10)。CdFOMT5精製酵素によるヒドロキシフラボンのメチル化では、3,5,6,7位OHへのメチル化が確認されている。このことから、ケルセチンを基質としたときに本来ならば3か所のメチル基(3,5,7 OH)がメチル化したトリメトキシケルセチンが得られるはずである。しかしながら、E. coli BL21(DE3) をコントロールとした反応において、3'位OHがメチル化されたイソラムネチンのピークが見出されたことから(図4)、E. coli 自身がもつカテコールメチル転移酵素などの反応により3'OHがメチル化されていることが示唆される。そこで、この産物の構造を確認するため、4か所のOH基がメチル化を受けていると推測される反応産物をHPLCにより精製し、NMRによる分析を行った。分析結果を以下に示す。
【0122】
1H NMR (acetone-d6, 400 MHz), δ(ppm): 7.79 (dd, J = 2.1, 8.6 Hz, 1H), 7.74 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 7.13 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 6.66 (d, J = 2.2 Hz, 1H), 6.36 (d, J = 2.2 Hz, 1H), 3.93 (s, 3H), 3.92 (s, 3H), 3.90 (s, 3H), 3.83 (s, 3H).
【0123】
NMRスペクトル分析の結果、メトキシ基に由来するピークが3.83〜3.93 ppmに4本得られた。このことから、分離した化合物はケルセチンの4か所のOH基がメチル化されたテトラメトキシケルセチンであることが明らかとなった。CdFOMT5が示す部位選択性及びE. coli 自身がケルセチンの3'OHをメチル化することから、単離した産物は3,3',5,7-テトラメトキシケルセチンであることが推測される。
【0124】
ケルセチンは水溶性が低く、メチル化反応が起こりにくい一つの要因であると推測される。そこで水溶性を上げるための補助溶剤として各種添加剤(有機溶媒、界面活性剤)の効果を検討した。各添加剤存在下において3-メトキシケルセチンの生産量を比較した時、0.1% MEGA-9 を添加したサンプルにおいて最も高い生産量が得られた。その一方で、3,3',5,7-テトラメトキシケルセチンと推測される反応産物の生産量は低下した。他の極性有機溶媒を添加した場合、コントロールサンプルと比較して両生産物とも顕著な増加は見られないか、もしくは生産性の低下が確認された(表3)。
【0125】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、フラボノイド-O-メチル転移酵素(FOMT)に関する技術分野に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0127】
SEQ ID NO:1 CdFOMT5 cDNA配列
SEQ ID NO:2 CdFOMT5 アミノ酸配列
SEQ ID NO:3 CdFOMT6 cDNA配列
SEQ ID NO:4 CdFOMT5 アミノ酸配列
SEQ ID NO:71 CdFOMT1 cDNA配列
SEQ ID NO:72 CdFOMT1 アミノ酸配列
SEQ ID NO:73 CdFOMT3 cDNA配列
SEQ ID NO:74 CdFOMT3 アミノ酸配列
SEQ ID NO:75 CdFOMT4 cDNA配列
SEQ ID NO:76 CdFOMT4 アミノ酸配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]