(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6270122
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】SDSプラス型シャンク
(51)【国際特許分類】
B28D 1/14 20060101AFI20180122BHJP
B23B 51/00 20060101ALN20180122BHJP
【FI】
B28D1/14
!B23B51/00 P
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-273914(P2013-273914)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-127135(P2015-127135A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2016年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】392002343
【氏名又は名称】ユニカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100186679
【弁理士】
【氏名又は名称】矢田 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100189186
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】柳生 孝之
(72)【発明者】
【氏名】盛田 和久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和也
【審査官】
塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−281634(JP,A)
【文献】
特開平08−281635(JP,A)
【文献】
特開平09−174542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/14
B23B 51/00
B25D 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャンクに加工された一対のキー溝の少なくとも一方の溝に着脱可能なピンと、前記のピンが装着されるキー溝から左右に120度ずれた位置に平面をもつ、SDSプラス型シャンク
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
主としてコンクリートや石材に穿孔するコンクリートドリルやコアドリルなどの穿孔工具を、電動工具のチャック部に装着固定するために用いられるSDSプラス型シャンクに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートや石材に、アンカーボルトを取り付ける孔、配管を通過させる孔、などを明ける時は、穿孔する孔の直径、深さ、被穿孔材の材質、に適した刃先部をもつコンクリートドリル、コアドリルなどの穿孔工具のシャンクを、モータを内蔵した電動工具のチャックに挿入装着し、これを回転して穿孔することが多い。穿孔に必要な回転トルクは、電動工具に内蔵されたモータから電動工具のチャックを経由して穿孔工具のシャンクに伝達され、刃先部に伝えられる。
【0003】
穿孔時は、被穿孔材の材質などにより、連続回転穿孔、ハンマーリング穿孔、衝撃穿孔などの異なる穿孔方式から適当な方式を選択する。使われる電動工具としては、海外の工具会社が開発したSDSプラス型チャックか、汎用ボール盤などでよく使われている、いわゆる三つ爪型チャックの、いずれか一方のチャックを持つものが一般的である。
【0004】
電動工具のチャックが、SDSプラス型か三つ爪型かで把持方式が全く異なるため、それぞれのチャック方式に対応した仕様のシャンク形状をもつ穿孔工具を適用しないと、チャックとシャンクの結合はうまくいかず、正常に穿孔することはできない。
【0005】
図7及び
図8に、SDSプラス型シャンクをもつドリルを示す。
図7はコンクリートドリル10で、刃先部11とSDSプラス型シャンク1で構成されている。
図8はコアドリル11で、SDSプラス型シャンク1と、大きな直径の穿孔ができる刃先部11をもつ。これらのSDSプラス型シャンク1は、
図9で示されるようにシャンク端面5の側の円周部6に、一対の円形溝3と、これに直交する位置に一対のキー溝4が加工されていて、その断面は
図10で示すようになっている。
【0006】
このSDSプラス型シャンク1が装着される電動工具のチャック部には、一対のキー部材と、一対の半径方向に移動可能な鋼球が内蔵されていて、キー部材はシャンクのキー溝4に滑合して電動工具に内蔵されたモータの回転トルクをドリルに伝達する役目を果たし、鋼球は円形溝3にはまり込んでドリルを軸方向に移動可能な状態で把持する機能を果たす。
【0007】
チャックで把持した状態でドリルを手で軸方向に押したり引いたりすると、円形溝3にはまり込んだ鋼球が円形溝の長手方向の両端に当接する範囲内で、穿孔工具は電動工具に対して軸方向に摺動し、摺動している間も、チャック内のキー部材はシャンク1のキー溝4に滑合しているので、電動工具内のモータの回転トルクは穿孔工具に伝達される。
【0008】
従って、ハンマーリング穿孔と呼ばれる、穿孔工具に打撃回転力を与えながら行う穿孔作業にSDSプラス型チャックと穿孔工具を使うと、打撃で生じる穿孔工具からの反動の一部が穿孔工具と電動工具の軸方向の相対位置変動で吸収されて、電動工具を持って穿孔している作業者に伝わる衝撃振動が緩和されることになり、作業負担が軽減されるという効果がある。
【0009】
一方、三つ爪型チャックを持つ電動工具に装着して使用される穿孔工具のシャンクとしては、
図11に示すように、円筒部6が完全に円形の、いわゆる完全丸棒型シャンク13か、
図12に示すように、円周部6を三等分する位置に平面2が3か所形成された、いわゆる三面丸棒型シャンク14が一般的である。
図13は三面丸棒型シャンク14の断面図を示す。
【0010】
三面丸棒型シャンク14を持つ穿孔工具を電動工具の三つ爪型チャックで把持する時は、平面2が、チャックの爪の方向に向くように角度調整して挿入し把持する必要があり、完全丸棒型シャンク13の装着と比べると少々面倒だが、完全丸棒型シャンク13ではシャンクとチャックの爪の間で滑りが生じやすいのに対し、三面丸棒型シャンク14では、この滑りが発生しないため、大きな回転トルクが必要な穿孔を行うには三面丸棒型シャンク14を持つ穿孔工具を使うことが好ましい。
【0011】
しかし、完全な丸棒、または三つの平面を持つ丸棒、のシャンクを持ったドリルなどの穿孔工具は、三つ爪型チャックの電動工具に装着して穿孔に使うことはできるものの、キー溝も円形溝も加工されていないため、SDSプラス型チャックの電動工具には適用できない。逆に、SDSプラス型シャンク1をもつ穿孔用工具は、SDSプラス型チャックの電動工具には装着して使用できるが、三つ爪型チャックの電動工具に装着しても、SDSプラス型シャンクの特徴である円形溝とキー溝のために、三つの爪が正常にシャンクを把持できず、安定穿孔が不可能なばかりか、最悪の場合は、三つ爪型チャックの爪が破損したり、ドリルが振動で破損したりするという事故を起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上で述べたように、SDSプラス型シャンクのコンクリートドリル、コアドリルなどの穿孔工具は、SDSプラス型チャックの電動工具では使用できるが、三つ爪型チャックの電動工具に装着して使うと、十分な穿孔トルクが穿孔工具に伝わらないために安定穿孔ができないだけでなく、三つ爪型チャックの爪がSDSプラス型シャンクの円形溝やキー溝に滑り込んで、爪が破損したり、ドリルが折れたりする問題を起こす。従って、SDSプラス型シャンクの穿孔工具は、SDSプラス型チャックの電動工具に限定して使用するしかなく、三つ爪型チャックの電動工具では使えない、という問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するための本願発明は、シャンクに加工された一対のキー溝の少なくとも一方の溝に着脱可能なピンと、前記のピンが装着されるキー溝から左右に120度ずれた位置に平面をもつ、SDSプラス型シャンクである。
【0014】
電動工具のチャック方式がSDSプラス型の場合は、ピンを付けずにSDSプラス型シャンクとして使用する。電動工具のチャック方式が三つ爪型の場合は、ピンをキー溝に装着し、ピンと、シャンク円周面に加工された2つの平面の、合計3つの平面に三つ爪型チャックの爪が当接するように装着して使用する。
【発明の効果】
【0015】
本願発明に係るSDSプラス型シャンクでは、ピンを着脱するだけで、SDSプラス型シャンクの穿孔工具を、SDSプラス型チャックの電動工具と、三つ爪型チャックの電動工具のいずれにも適用できる。従って、穿孔工具としての適用範囲が広く、穿孔作業時にシャンクの形式と電動工具のチャックの組合せを気にする必要はない。更に、穿孔工具を製造する会社では、SDSプラス型シャンクの穿孔工具、三面丸棒型シャンクの穿孔工具、の2種類の穿孔工具を造らずに、本願発明の、着脱可能なピンとSDSプラス型シャンクをもつ穿孔工具を造りさえすれば、SDSプラス型チャックの電動工具と三つ爪型チャックの電動工具の2つの市場に穿孔工具を供給できるようになるため、生産品種の削減ができ、不要な在庫を抱えることもない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本願発明のSDSプラス型シャンクの一つの実施例を示す見取り図
【
図2】本願発明のSDSプラス型シャンクに着脱可能なピンのひとつの実施例を示す見取り図
【
図3】本願発明のSDSプラス型シャンクに着脱可能なピンの別の実施例を示す見取り図
【
図4】
図1に示されたSDSプラス型シャンクに、
図2で示されたピンを装着した状態を示す見取り図
【
図5】
図1に示されたSDSプラス型シャンクの断面図
【
図6】
図4の、SDSプラス型シャンクにピンが装着されたシャンク部の断面図
【
図7】SDSプラス型シャンクをもつコンクリート用ドリルのひとつの例を示す図
【
図8】SDSプラス型シャンクをもつコアドリルのひとつの例を示す図
【
図12】三つの平面をもつ三面丸棒型シャンクの見取り図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明に係る、着脱可能なピンと組み合わせて使用されるSDSプラス型シャンクは、一対のキー溝のひとつの溝から左右に120度ずれた位置に平面が加工されているが、その他の部分は、従来のSDSプラス型シャンクと同じで、従って製造方法も従来とほぼ同じである。
【0018】
シャンクに平面を加工するので、円形溝の一部は削り取られることになるが、削り取られる量がわずかなので、SDSプラス型チャックに内蔵された鋼球がシャンクを安定して把持できる溝深さが残り、SDSプラス型チャックに装着して使用しても把持特性には全く問題はない。また、キー溝は従来と同じ形状を維持しているので、回転伝達性能も劣化しない。
【0019】
このシャンクと、キー溝に着脱可能でキー溝断面とほぼ同じ台形をしたピンとを組み合わせて使うと、ピンと、シャンクに予め加工された2つの平面で、合計三つの平面が構成されることになり、三つ爪チャックに装着した時、平面と爪が当接して穿孔工具がしっかり把持されるので、電動工具の回転トルクは確実に穿孔工具に伝達される。一旦、三つ爪型チャックで把持されると、ピンは穿孔振動などで抜け落ちることが無いため、単純な構造のピンでも実用可能で、従って、ピンの製造コストは穿孔工具の製造コストと比べれば微小である。
【実施例】
【0020】
図1から
図6を用いて、本願発明に係るSDSプラス型シャンクと、このシャンクに着脱可能なピンの実施例を説明する。
本願発明のSDSプラス型シャンク1は、
図1に示すように、従来型のSDSプラス型シャンクの円周部6に平面2をもつことが特徴である。断面を
図5に示すが、平面2は、一対のキー溝4のうち、片方のキー溝から左右に120度ずれた位置に合計で2ヶ所設けられていて、その加工深さは、円形溝3の形状に大きな変化が生じない範囲に抑えられている。
【0021】
このSDSプラス型シャンク1に着脱可能なコ形ピン7を
図2に示す。形が片仮名の「コ」の字と似ていて、SDSプラス型シャンク1の一対のキー溝4にしっかり嵌りこむ2本の台形爪8を持っている。
【0022】
このコ形ピン7を本願発明の
図1のSDSプラス型シャンク1にはめ込んだ状態を
図4に、その断面を
図6に示す。
図6で判るように、一対のキー溝4には台形爪8が嵌りこんでいて、片側の台形爪4から左右に120度ずれた位置に2つの平面2が配置されている。
【0023】
本願発明の
図1に示される、着脱可能なピンが付いていないSDSプラス型シャンク1は、円周部6に2つの平面2が加工されてはいるものの、2つの円形溝3は、まだ十分、円形を維持している上に、2つのキー溝4は平面2と重ならないため、SDSプラス型チャックの電動工具に装着して使用しても、平面2がない従来のSDSプラス型シャンクと同等の把持特性と回転トルク伝達特性が維持され、穿孔作業では全く問題が生じない。
【0024】
三つ爪型チャックの電動工具で穿孔する必要がある時は、
図2のコ形ピン7を二つのキー溝4に挿入して、
図4のようにピン7とSDSプラス型シャンク1を一体化してから、三つ爪型チャックの爪と、シャンク1の2つの平面2と台形爪8の位置が合うようにして挿入し把持すれば、三つ爪型チャックの電動工具でも穿孔が可能である。
【0025】
なお、着脱可能なピンとして、
図3に示すように、断面がSDSプラス型シャンク1のキー溝4の断面と同じ、棒状の、いわゆる台形ピン9を使ってもよい。チャックに装着する時に落としてしまうこともありえるので、台形ピン9を磁化するか、台形ピン9の一部に小さな磁石を固着しておくと、磁力でシャンクとピンが一体化するので、ドリル着脱時にピンが脱落しづらくなり、作業性が向上する。
【0026】
また、
図2のコ形ピンで、2つの台形爪8の一方または両方の先端部を内側に折り曲げた構造とし、シャンクには、この折り曲げに対応する位置に小さな窪みを加工しておくと、コ形ピンをキー溝に差し込んだ時、ピンの折り曲げ部がシャンクの窪みにはまり込むので、コ形ピンとシャンクとの組み合わせが安定し、三つ爪型チャックの電動工具に着脱する時の作業が容易になる上に、工具箱などで保管している際にピンを紛失してしまう、といった問題も起きづらい。
【符号の説明】
【0027】
1 SDSプラス型シャンク
2 平面
3 円形溝
4 キー溝
5 シャンク端面
6 円周部
7 コ形ピン
8 台形爪
9 台形ピン
10 コンクリートドリル
11 刃先部
12 コアドリル
13 完全丸棒型シャンク
14 三面丸棒型シャンク