特許第6270210号(P6270210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6270210筒内圧力センサ診断方法及び車両動作制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6270210
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】筒内圧力センサ診断方法及び車両動作制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20180122BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20180122BHJP
   G01L 19/12 20060101ALI20180122BHJP
   G01L 23/26 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   F02D45/00 368U
   F02D41/22 301K
   G01L19/12 H
   G01L23/26
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-71624(P2014-71624)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-194098(P2015-194098A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】李 先峯
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−291679(JP,A)
【文献】 特開平01−109234(JP,A)
【文献】 特開平07−293311(JP,A)
【文献】 特開2010−133353(JP,A)
【文献】 特開2005−090401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 41/22
G01L 19/12
G01L 23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダ内に配設される筒内圧力センサの故障診断方法であって、
熱力学に基づいて設定された前記シリンダ内の圧力を算出する筒内圧力算出式を用いて前記筒内圧力の計算値を算出し、次いで、前記計算値と前記筒内圧力センサによって検出された筒内圧力との圧力差を求めることを1シリンダサイクル中に所定回数行い、次いで、前記1シリンダサイクル中に得られた圧力差の標準偏差を求めることを所定のシリンダサイクル数実行し、次いで、前記所定のシリンダサイクル数の実行により得られた標準偏差の平均値を算出し、当該平均値が所定の圧力差範囲を逸脱する場合に、前記筒内圧力センサの故障と判定するものであり、
前記筒内圧力算出式は、
筒内圧力の計算値をPcyl_mod、ピストン下死点における筒内圧力をPact、ピストン下死点における1気筒(シリンダ)の体積をVc、任意のクランク角度における1気筒(シリンダ)の体積をVcyl、比熱比をκとして、
Pcyl_mod=Pact×(Vc/Vcyl)κと表され、
前記ピストン下死点における筒内圧力Pactは、インテークマニホールドにおける吸気圧に補正項を加算せしめた値とされ、前記補正項は、エンジン回転数と前記インテークマニホールドにおける吸気温度の種々の組み合わせに対して予め設定された値が用いられ、
前記比熱比κは、クランク角度とエンジン回転数の種々の組み合わせに対して予め設定された値が用いられることを特徴とする筒内圧力センサ故障診断方法。
【請求項2】
前記1シリンダサイクル中においては、シリンダ上死点近傍における筒内圧力センサによる筒内圧力のサンプリング間隔を、前記シリンダ上死点近傍を除く領域におけるサンプリング間隔に比してより小とすることを特徴とする請求項記載の筒内圧力センサ故障診断方法。
【請求項3】
車両の動作制御処理が実行されるよう構成されてなる電子制御ユニットを有すると共に、内燃機関のシリンダ内に設けられ、筒内圧力を検出する筒内圧力センサの出力信号が前記車両の動作制御処理に供されるよう構成されてなる車両動作制御装置において、
前記電子制御ユニットは、
熱力学に基づいて設定された前記シリンダ内の圧力を算出する筒内圧力算出式を用いて前記筒内圧力の計算値を算出し、次いで、前記計算値と前記筒内圧力センサによって検出された筒内圧力との圧力差を求めることを1シリンダサイクル中に所定回数行い、次いで、前記1シリンダサイクル中に得られた圧力差の標準偏差を求めることを所定のシリンダサイクル数実行し、次いで、前記所定のシリンダサイクル数の実行により得られた標準偏差の平均値を算出し、当該平均値が所定の圧力差範囲を逸脱する場合に、前記筒内圧力センサの故障と判定するよう構成されてなり、
前記筒内圧力算出式は、
筒内圧力の計算値をPcyl_mod、ピストン下死点における筒内圧力をPact、ピストン下死点における1気筒(シリンダ)の体積をVc、任意のクランク角度における1気筒(シリンダ)の体積をVcyl、比熱比をκとして、
Pcyl_mod=Pact×(Vc/Vcyl)κと表され、
前記ピストン下死点における筒内圧力Pactは、インテークマニホールドにおける吸気圧に補正項を加算せしめた値とされ、前記補正項は、エンジン回転数と前記インテークマニホールドにおける吸気温度の種々の組み合わせに対して予め設定された値が用いられ、
前記比熱比κは、クランク角度とエンジン回転数の種々の組み合わせに対して予め設定された値が用いられることを特徴とする車両動作制御装置。
【請求項4】
前記電子制御ユニットは、前記1シリンダサイクル中において、シリンダ上死点近傍における筒内圧力センサによる筒内圧力のサンプリング間隔を、前記シリンダ上死点近傍を除く領域におけるサンプリング間隔に比してより小としてサンプリングを実行するよう構成されてなることを特徴とする請求項記載の車両動作制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダ内に設けられて筒内圧力を検出する筒内圧力センサの診断方法に係り、特に、診断の信頼性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関においては、安定、確実な燃焼状態を得るために、シリンダ内の圧力を如何に的確に把握し、これを燃料噴射制御に反映させるかが重要な課題であり、従来から種々の方策が提案、実用化されていることは良く知られている通りである。
シリンダ内の圧力検出には、通常、圧力センサが用いられるが、高圧、高温の環境下で用いられるため、その信頼性の確保も重要な課題である。
【0003】
このような観点から、例えば、特許文献1等には、構造的に燃焼によるデポジットが付着し易いグロープラグ一体型筒内圧力センサの較正方法が提案されている。すなわち、同文献には、圧力センサにデポジットが付着する前の使用開始初期において検出された圧力と、所定の運転状態において検出された圧力との差に基づいて、その後の使用状態における検出圧力を補正することで、グロープラグ一体型の筒内圧力センサに付着するデポジットの影響を抑圧、低減し、圧力センサの信頼性の確保を可能とした較正方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−71197号公報(第4−7頁、図1図5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の従来の手法は、特に、グロープラグ一体型筒内圧力センサの構造に起因して生ずるデポジットによる検出値への影響を低減する観点に基づくものであるが、圧力センサの検出値の信頼性の低下を誘因する要素は、必ずしもデポジットに限られるものではない。特に、上述の従来手法は、グロープラグ一体型筒内圧力センサには好適であるが、他の形態、すなわち、グロープラグとは別個に内燃機関のシリンダ内に配設される筒内圧力センサに必ずしも適するものではない。
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、種々の要因によって劣化した筒内圧力センサの確実な故障診断を可能とする筒内圧力センサ診断方法、及び、かかる筒内圧力センサ診断方法が適用される車両動作制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る筒内圧力センサ故障診断方法は、
内燃機関のシリンダ内に配設される筒内圧力センサの故障診断方法であって、
熱力学に基づいて設定された前記シリンダ内の圧力を算出する筒内圧力算出式を用いて前記筒内圧力の計算値を算出し、次いで、前記計算値と前記筒内圧力センサによって検出された筒内圧力との圧力差を求めることを1シリンダサイクル中に所定回数行い、次いで、前記1シリンダサイクル中に得られた圧力差の標準偏差を求めることを所定のシリンダサイクル数実行し、次いで、前記所定のシリンダサイクル数の実行により得られた標準偏差の平均値を算出し、当該平均値が所定の圧力差範囲を逸脱する場合に、前記筒内圧力センサの故障と判定するものであり、
前記筒内圧力算出式は、
筒内圧力の計算値をPcyl_mod、ピストン下死点における筒内圧力をPact、ピストン下死点における1気筒(シリンダ)の体積をVc、任意のクランク角度における1気筒(シリンダ)の体積をVcyl、比熱比をκとして、
Pcyl_mod=Pact×(Vc/Vcyl)κと表され、
前記ピストン下死点における筒内圧力Pactは、インテークマニホールドにおける吸気圧に補正項を加算せしめた値とされ、前記補正項は、エンジン回転数と前記インテークマニホールドにおける吸気温度の種々の組み合わせに対して予め設定された値が用いられ、
前記比熱比κは、クランク角度とエンジン回転数の種々の組み合わせに対して予め設定された値が用いられるよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る車両動作制御装置は、
車両の動作制御処理が実行されるよう構成されてなる電子制御ユニットを有すると共に、内燃機関のシリンダ内に設けられ、筒内圧力を検出する筒内圧力センサの出力信号が前記車両の動作制御処理に供されるよう構成されてなる車両動作制御装置において、
前記電子制御ユニットは、
熱力学に基づいて設定された前記シリンダ内の圧力を算出する筒内圧力算出式を用いて前記筒内圧力の計算値を算出し、次いで、前記計算値と前記筒内圧力センサによって検出された筒内圧力との圧力差を求めることを1シリンダサイクル中に所定回数行い、次いで、前記1シリンダサイクル中に得られた圧力差の標準偏差を求めることを所定のシリンダサイクル数実行し、次いで、前記所定のシリンダサイクル数の実行により得られた標準偏差の平均値を算出し、当該平均値が所定の圧力差範囲を逸脱する場合に、前記筒内圧力センサの故障と判定するよう構成されてなり、
前記筒内圧力算出式は、
筒内圧力の計算値をPcyl_mod、ピストン下死点における筒内圧力をPact、ピストン下死点における1気筒(シリンダ)の体積をVc、任意のクランク角度における1気筒(シリンダ)の体積をVcyl、比熱比をκとして、
Pcyl_mod=Pact×(Vc/Vcyl)κと表され、
前記ピストン下死点における筒内圧力Pactは、インテークマニホールドにおける吸気圧に補正項を加算せしめた値とされ、前記補正項は、エンジン回転数と前記インテークマニホールドにおける吸気温度の種々の組み合わせに対して予め設定された値が用いられ、
前記比熱比κは、クランク角度とエンジン回転数の種々の組み合わせに対して予め設定された値が用いられるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱力学に基づいた筒内圧力算出式を用いて筒内圧力の計算値を求め、これと実測値との差を診断することで、比較的簡易な手法により、信頼性のある故障診断が可能となり、ひいては車両動作制御の信頼性向上に寄与することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態における筒内圧力センサ診断方法が適用される車両動作制御装置の構成例を示す構成図である。
図2図1に示された車両動作制御装置を構成する電子制御ユニットにおいて実行される本発明の実施の形態における筒内圧力センサ診断処理の手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図1及び図2を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における筒内圧力センサ診断処理が適用される車両動作制御装置の構成例について、図1を参照しつつ説明する。
この図1は、特に、排ガス再循環装置102を備えたディーゼルエンジン1の動作制御に関する主要な構成部分についての構成例を示したものである。
【0011】
かかる図1に示された構成において、ディーゼルエンジン(以下「エンジン」と称する)1のインテークマニホールド4aには、燃料の燃焼のために必要な空気を取り入れる吸気管2が、また、エキゾーストマニホールド4bには、排気ガスを排気するための排気管3が、それぞれ接続されている。
【0012】
そして、吸気管2と排気管3を連通する連通路5が、吸気管2と排気管3の適宜な位置に設けられると共に、この連通路5の途中には、吸気管2側から、連通路5の連通状態、換言すれば、排気ガスの還流量を調整するためのEGRバルブ6と、通過排気ガスの冷却を行うためのEGRクーラ7が順に配設されている。
【0013】
また、排気管3において連通路5より下流側に設けられた可変タービン9と、吸気管2において連通路5より上流側に設けられた圧縮機10とを主たる構成要素としてなる公知・周知の構成を有する可変ターボ8が設けられている。そして、可変タービン9により得られた回転力により圧縮機10が回転せしめられて、圧縮された空気が吸入空気としてインテークマニホールド4aへ送出されるようになっている。
さらに、吸気管2には、先に述べた連通路5と可変ターボ8の間の適宜な位置において、吸入空気の冷却を行うインタークーラ11が設けられている。
そして、このインタークーラ11と連通路5との間には、吸入空気の量を調整するためのインテークスロットルバルブ12が設けられている。
【0014】
本発明の実施の形態においては、エンジン1における燃焼状態の安定性、信頼性、燃料効率の向上等の観点に基づいた燃料噴射制御に供するため、エンジン1の各シリンダ(図示せず)内の圧力(筒内圧力)が検出可能に構成されていることを前提としている。
すなわち、エンジン1がn個のシリンダを有する構成とした場合、筒内圧力を検出するための筒内圧力センサ15−1〜15−nが、各シリンダ(図示せず)の内部に取り付けられており、その検出信号は、後述する電子制御ユニット101に入力されるようになっている。
【0015】
電子制御ユニット(図1においては「ECU」と表記)101は、エンジン1への燃料噴射制御処理やEGR制御処理、本発明の実施の形態における筒内圧力センサ診断処理等を行う他、インテークスロットルバルブ12の動作制御等を行うものとなっている。
かかる電子制御ユニット101は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を備えると共に、入力インターフェイス回路(図示せず)や出力インターフェイス回路(図示せず)を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
【0016】
この電子制御ユニット101には、可変ターボ8の上流側における吸気管2の適宜な位置に設けられて吸入空気量を検出するエアマス量センサ16の出力信号、大気圧を検出する大気圧センサ17の出力信号、インテークマニホールド4a近傍の吸気温度を検出する吸気温センサ18の出力信号、エンジン回転数を検出するエンジン回転センサ27の出力信号、及び、クランク角を検出するクランク角センサ28の出力信号が入力されると共に、筒内圧力センサ15−1〜15−nの出力信号等が入力され、エンジン動作制御処理や後述する本発明の実施の形態における筒内圧力センサ故障診断処理等に供されるようになっている。
さらに、アクセル開度センサ19、エンジン冷却水温センサ20、インマニ圧力センサ21、バルブ開度センサ22、スロットル開度センサ23、フラップセンサ24、変速段検出センサ25、及び、クラッチストロークセンサ26の各出力信号が電子制御ユニット101に入力され、前述と同様にエンジン動作制御処理や後述する本発明の実施の形態における筒内圧力センサ故障診断処理等に供されるようになっている。
【0017】
次に、電子制御ユニット101において実行される筒内圧力センサ診断処理の手順について、図2に示されたサブルーチンフローチャートを参照しつつ説明する。
電子制御ユニット101による処理が開始されると、最初に、この後の一連の診断処理を開始するための所定の診断開始条件が満たされているか否かが判定される(図2のステップS102参照)。
【0018】
ここで、本発明の実施の形態における筒内圧力センサ診断処理は、アクセル(図示せず)が踏まれておらず、エンジン1の燃焼室(図示せず)において燃焼が生じていない状態において実行することで、燃焼等の影響を受けることなく確実な診断が実現できるようにしている。そのため、まず、上述の診断開始条件が満たされているか否かの判断対象とされる要素としては、車両がそのような運転状態にあると判定するために予め設定された複数の診断開始判断要素が用いられ、それぞれについて、条件設定がなされたものとなっている。
【0019】
本発明の実施の形態における診断開始判断要素として、具体的には、アクセル開度、燃料噴射の状態、エンジン回転数、エンジン温度、インマニ温度、インマニ圧、EGRバルブ開度、スロットルバルブ開度、エキゾーストフラップ使用状態、ギア設定、クラッチストロークが選定されている。
”アクセル開度”は、アクセル開度センサ19によって検出されて電子制御ユニット101に入力されるアクセル(図示せず)の開度である。
”燃料噴射の状態”は、電子制御ユニット101によって従来同様実行される燃料噴射制御によってエンジン1に対して行われる燃料噴射が、如何なる状態にあるかを意味し、例えば、具体的には、吸入行程、圧縮行程、膨張行程、燃料行程等で表されるものである。これらの情報は、電子制御ユニット101において実行される燃料噴射制御処理などにおいて把握されるものであり、その情報を流用するのが好適である。
【0020】
”エンジン温度”は、エンジン冷却水温センサ20によって検出されるエンジン1の冷却水温によって表されるものとなっている。
”インマニ温度”は、吸気温センサ18によって検出されるインテークマニホールド4bにおける吸気温度である。
”インマニ圧”は、インマニ圧力センサ21によって検出されるインテークマニホールド4bにおける吸気圧である。
”EGRバルブ開度”は、バルブ開度センサ22によって検出されるEGRバルブ6の開度である。
【0021】
”スロットルバルブ開度”は、スロットル開度センサ23によって検出されるスロットルバルブ(図示せず)の開度である。
”エキゾーストフラップ使用状態”は、エキゾーストフラップ(図示せず)が開かれているか、閉じられているかを表すもので、フラップセンサ24によって検出されるエキゾーストフラップ(図示せず)の開閉に対応した開閉信号である。なお、エキゾーストフラップは、車両によっては備えられていないものもあるため、必須の要素ではない。
”ギア設定”は、図示されない変速装置において設定されるギア段の設定であり、ギア段の設定を検出する変速段検出センサ25によって検出されるものである。
”クラッチストローク”は、図示されないクラッチの踏み込み量(クラッチストローk)であり、クラッチストロークを検出するクラッチストロークセンサ26によって検出されるものとなっている。
【0022】
本発明の実施の形態においては、先に述べたように、アクセル(図示せず)が踏まれておらず、エンジン1のシリンダ(図示せず)において燃焼が生じていない状態において診断開始とすることとしているため、上述の診断開始判断要素の内、”アクセル開度”については、アクセル開度零が診断開始条件となり、”燃料噴射の状態”については、燃焼が生じていない状態にあることが診断開始条件となる。そして、他の診断開始判断要素については、上述の”アクセル開度”及び”燃料噴射の状態”の各々診断開始条件が満たされる前提の下、診断開始として支障のない適切な条件が、車両の具体的な仕様等を考慮して試験結果やシミュレーション結果を基に設定されるものとなっている。
【0023】
しかして、ステップS102において、診断開始条件が満たされていると判定されるためには、上述の複数の診断開始要素の全てが、それぞれの診断開始条件を満足することが前提である。
ステップS102において、診断開始条件が満たされていると判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS104の処理へ進む一方、診断開始条件が満たされていないと判定された場合(NOの場合)には、これ以後の処理を実行するに適した状態ではないとして、一連の処理は終了されて、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0024】
ステップS104においては、後述するステップS106の圧力モデル演算及びステップS108の圧力差算出の繰り返し数を表すサイクル変数Ncに1が設定されることとなる。
本発明の実施の形態における、この一連の筒内圧力センサ診断処理は、全ての筒内圧力センサ15−1〜15−nについて、換言すれば、全てのシリンダ(図示せず)について行われることとなっている。さらに、各筒内圧力センサ15−1〜15−nについては、後述するステップS106の圧力モデル演算及びステップS108の圧力差算出を、診断精度の信頼性向上等の観点から、1シリンダサイクルにおいて所定のサンプリング回数実行すると共に、所定のシリンダサイクル数Ks繰り返し実行することとしている。
先のサイクル変数Ncは、後述するようにステップS106及びステップS108のシリンダサイクル数を判定するために用いられるものである。
【0025】
次いで、圧力モデル演算が実行される(図2のステップS106参照)。
この圧力モデル演算は、筒内圧力の計算値、換言すれば推定値を算出する処理で、次述するように、筒内(シリンダ内)の圧力モデルに基づく筒内圧力の推定値を算出する筒内圧力算出式により筒内圧力の計算値を算出するものである。
【0026】
すなわち、本発明の実施の形態においては、下記する式1により筒内圧力の計算値Pcyl_modが算出されるようになっている。
【0027】
Pcyl_mod=Pact×(Vc/Vcyl)κ・・・式1
【0028】
ここで、”Pact”は、ピストン下死点における筒内圧力であり、この圧力はインテークマニホールド4aの吸気圧にほぼ等しいため、基本的には、インマニ圧力センサ21によって検出されたインマニ圧力を、ピストン下死点における圧力の実測値として用いられるものであるが、本発明の実施の形態においては、後述するように、このPactの値の精度向上等の観点から所定の補正が施されて用いられるものとなっている。
【0029】
”Vc”は、ピストン下死点における1気筒(シリンダ)の体積であり、かかる値は、エンジン1の具体的な仕様に基づいて計算式により算出された計算値が用いられるようになっている。
”Vcyl”は、任意のクランク角度における1気筒(シリンダ)の体積であり、かかる値は、エンジン1の具体的な仕様に基づいて設定された体積算出式により、ステップS106の実行時のクランク角度に対するシリンダ(図示せず)の体積の計算値が算出され用いられるようになっている。
”κ”は、比熱比である。
【0030】
上述の式1は、熱力学に基づいて導かれる式であるが、本願発明者は、鋭意研究の結果、シリンダ内のピストン(図示せず)の上下動の影響により、式1が必ずしも常に成立するものではなく、式1を用いるためには、次述するような補正を施すことが必要であるという結論を導くに至った。
【0031】
まず、ピストン下死点における圧力Pactは、式1によって得られる推定値の精度に大きく影響するため、インマニ圧力の実測値とするだけでは不十分であり、本発明の実施の形態においては、Pact=インマニ圧+インマニ補正項として扱うこととしている。
インマニ補正項は、エンジン回転数とインマニ温度とに対応した補正値(以下、説明の便宜上「インマニ補正値」と称する)が定められるものとなっている。
なお、インマニ温度は、吸気温センサ18によって検出されるインテークマニホールド4a近傍の吸気温度である。
【0032】
すなわち、本発明の実施の形態におけるインマニ補正値は、エンジン1の具体的な仕様等を考慮して、試験結果やシミュレーション結果に基づいて、種々のエンジン回転数とインマニ温度に対する値が定められたものとなっている。
さらに、本発明の実施の形態においては、エンジン回転数とインマニ温度を入力パラメータとして対応するインマニ補正値が読み出し可能にマップ化され(以下、このマップを説明の便宜上「インマニ補正マップ」と称する)、予め電子制御ユニット101の適宜な記憶領域に記憶されたものとなっている。
【0033】
したがって、ステップS106において、先の式1に基づいて筒内圧力の計算値Pcyl_modが算出される際には、算出時におけるエンジン回転数とインマニ温度に対応するインマニ補正値がインマニ補正マップから読み出され、インマニ圧に加算されてピストン下死点における圧力Pactの値として用いられることとなる。
【0034】
また、比熱比κは、温度によってその値が異なるものであるが、シリンダ内においては、ピストン(図示せず)の移動によって変化するため、通常の固定値を用いて式1の演算を行った場合、その値は、ピストンの位置によって大きく異なり、式1によって算出される筒内圧力の計算値Pcyl_modも大きく変化するため、式1を圧力モデルとする意味を失うこととなる。
【0035】
本願発明者は、鋭意研究の結果、特に、ピストンが上死点に向かう場合、上死点の近傍付近から比熱比κが大きく変化することを知見するに至り、その知見に基づいて、さらに研究の結果、クランク角とエンジン回転数とに対して比熱比を試験結果やシミュレーション結果に基づいて定めるのが、式1の計算値の精度向上に最適であるとの結論を導くに至った。
本発明の実施の形態においては、かかる点に着目し、比熱比κは、クランク角とエンジン回転数とに対して予め定められた値が読み出し可能に構成されたマップ(以下、説明の便宜上「比熱比マップ」と称する)を用いて、演算時のクランク角とエンジン回転数との組み合わせに対して定められる比熱比が式1の演算に用いられるようになっている。
【0036】
なお、比熱比マップも、先のインマニ補正マップ同様、エンジン1の具体的な仕様等を考慮して、試験結果やシミュレーション結果に基づいて、種々のクランク角度とエンジン回転数に対する比熱比を定め、その値を、クランク角度とエンジン回転数を入力パラメータとして読み出し可能に構成し、電子制御ユニット101の適宜な記憶領域に記憶するのが好適である。
【0037】
しかして、ステップS106においては、式1に基づいて、筒内圧力の計算値Pcyl_modが算出されるが、この際、ピストン下死点における圧力Pactとして、インマニ圧に上述したインマニ補正値が加算された値が用いられ、また、比熱比κは、クランク角度とエンジン回転数に対応した値が用いられることとなる。
【0038】
次に、ステップS108においては圧力差算出が行われる。
すなわち、ステップS106で算出された筒内圧力の計算値Pcyl_modと、筒内圧力センサ15−1〜15−nの内、対象となるシリンダ(図示せず)の筒内圧力センサにより検出された筒内圧Pcylとの圧力差ΔPが下記する式2により算出され、算出された圧力差ΔPは、電子制御ユニット101の適宜な記憶領域に、暫定的に記憶されることとなる。
【0039】
ΔP=Pcyl−Pcyl_mod・・・式2
【0040】
次いで、1シリンダサイクルにおいて、所定サンプリングが完了したか、すなわち、所定のサンプリング数の圧力差ΔPが得られたか否かが判定される(図2のステップS110参照)。
すなわち、本発明の実施の形態においては、先のステップS106の演算と、このステップS108の演算を、1シリンダサイクルにおいて、適宜な間隔で複数回行い、複数の圧力差ΔPを得るようにしている。
ここで、実測値である筒内圧Pcylを電子制御ユニット101に読み込む(サンプリング)するタイミングは、先に述べたように比熱比κが、比較的上死点近傍で大きく変化することを考慮して、上死点を含むその近傍では、比較的短い間隔に設定して、比較的多くサンプリング値を得るようにし、それ以外の領域では、比熱比κの変動が少ないことを考慮して、サンプリングのタイミングを比較的疎に設定すると好適である。
【0041】
しかして、ステップS110において、所定サンプリングが完了したと判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS112の処理へ進む一方、未だ所定サンプリングが完了していないと判定された場合(NOの場合)には、先のステップS106からの処理が繰り返されることとなる。
【0042】
ステップS112においては、1シリンダサイクル中に取得された所要数の圧力差ΔPについて、標準偏差が良く知られた算出手法に基づいて算出されることとなる。
算出された標準偏差は、電子制御ユニット101の適宜な記憶領域に暫定的に記憶されることとなる
【0043】
次いで、サイクル変数Ncが所定サイクル数Ksを超えたか否かが判定されることとなる(図2のステップS114参照)。
すなわち、筒内圧力センサ15−1〜15−nの中で、この時点で圧力差ΔPの取得対象である筒内圧力センサについて、Ksシリンダサイクルに亘って圧力差ΔPの取得がなされたか否かが判定され、サイクル変数Ncが所定サイクル数Ksを超えたと判定された場合(YESの場合)には、所要数の標準偏差が得られたとして、次述するステップS118の処理へ進むこととなる。
【0044】
一方、ステップS114において、サイクル変数Ncが所定サイクル数Ksを未だ超えていないと判定された場合(NOの場合)には、この時点のサイクル変数Ncに1が加算されて新たなサイクルNcとされて(図2のステップS116参照)、先のステップS106からの処理が繰り返されることとなる。
【0045】
ステップS118においては、Nc個の標準偏差について平均値の算出が行われることとなる。
なお、本発明の実施の形態においては、先に述べたように、1つの筒内圧力センサにについて、1シリンダサイクル中に予め定められた所定回数のサンプリングが行われて圧力差ΔPについて標準偏差が算出される処理がNcシリンダサイクル繰り返されるため、1つの筒内圧力センサの圧力差ΔPについて、Nc個の標準偏差が得られるようになっている。
【0046】
次いで、上述のように算出された平均値が、予め定められた所定圧力差範囲内にあるか否かが判定され(図2のステップS120参照)、この時点で診断の対象となっている筒内圧力センサの圧力差の平均値(図2のステップS118参照)は、所定圧力差範囲にあると判定された場合(YESの場合)は、診断対象の筒内圧力センサは故障ではないとして後述するステップS128の処理へ進む一方、算出された圧力差の平均値は所定圧力差範囲にはないと判定された場合(NOの場合)には、診断対象の筒内圧力センサは暫定的に故障であるとして次述するステップS122の処理へ進むこととなる。
なお、ここで、所定圧力差範囲は、筒内圧力センサ15−1〜15−nの具体的な仕様等を考慮して、試験結果やシミュレーション結果を基に設定するのが好適である。
【0047】
ステップS122においては、故障カウンタの計数動作が実行される。
本発明の実施の形態においては、先に説明したように、ある筒内圧力センサの圧力差の平均値が所定圧力差範囲を超えた場合に、直ぐさま故障であるとして、警報音の発生や警告表示等の警報動作を行うのではなく、所定圧力差範囲を超えることが予め定めた回数(基準回数)を超えた場合に最終的に故障であると判定することとしている(図2のステップS126参照)。
そのため、ある筒内圧力センサの圧力差の平均値が所定圧力差範囲を超えたと判定された場合(図2のステップS120参照)には、まず、故障カウンタの計数値を所定数増加せしめることとしている。
なお、故障カウンタは、電子制御ユニット101において良く知られたこの種のソフトウェア処理の実行によって実現されるもので、筒内圧力センサ15−1〜15−nの各々に対して1つずつ設けられるものとなっている。
【0048】
そして、ステップS124において、故障カウンタの計数値が所定計数値(警報基準値)Csを超えたか否かが判定され、警報基準値を超えたと判定された場合(YESの場合)には、診断対象となる筒内圧力センサが故障であると判定され(図2のステップS126参照)、図示されないメインルーチンにおいては、所要の警報処理が実行され、警報音の発生や表示素子による警報表示等の警報動作が実行されることとなる。
【0049】
一方、ステップS124において、故障カウンタの計数値は未だ警報基準値Csを超えていないと判定された場合(NOの場合)には、未だ警報に至る故障状態には無いとして、ステップS128の処理へ進むこととなる。
ステップS128においては、全シリンダについて診断が終了したか否か、すなわち、全シリンダにおける筒内圧力センサ15−1〜15−nについて、上述した処理が行われたか否かが判定され、未だ全シリンダについての診断が終了されていないと判定された場合(NOの場合)には、先のステップS104へ戻り、上述した一連の処理が、次のシリンダの筒内圧力センサについて実行されることとなる。
【0050】
また、ステップS128において、全シリンダについての診断が終了されたと判定された場合(YESの場合)には、一連の処理は終了され、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる。
なお、図示されないメインルーチンへ戻った後は、メインルーチンで定められた所要のタイミングで、図2に示されたサブルーチンが繰り返し実行されるようになっている。
【産業上の利用可能性】
【0051】
種々の要因によって劣化した筒内圧力センサの確実な故障判別が所望される内燃機関に適する。
【符号の説明】
【0052】
1…エンジン
15−1〜15−n…筒内圧力センサ
18…吸気温センサ
27…エンジン回転センサ
28…クランク角センサ
101…電子制御ユニット
図1
図2