特許第6270241号(P6270241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6270241
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】接合材料及びそれを用いた半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/00 20060101AFI20180122BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180122BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20180122BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20180122BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20180122BHJP
   H01B 1/22 20060101ALN20180122BHJP
【FI】
   H01B1/00 L
   B22F1/00 L
   B22F1/00 J
   C22C9/06
   H01B1/00 K
   H01L21/60 321E
   H01L21/52 B
   !H01B1/22 A
【請求項の数】7
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-15155(P2014-15155)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-141860(P2015-141860A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石崎 敏孝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 亮太
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−258123(JP,A)
【文献】 特開2010−077501(JP,A)
【文献】 特開2013−108140(JP,A)
【文献】 特開2011−094223(JP,A)
【文献】 特開2009−295965(JP,A)
【文献】 特開2012−243655(JP,A)
【文献】 特開2013−161544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/00〜1/24
5/00〜5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が1000nm以下のCu粒子からなりかつ平均粒子径が60nm〜300nmであるCuナノ粒子と、平均粒子径が1nm〜50nmである微細CuNi合金ナノ粒子とからなる金属ナノ粒子混合物を含有しており、前記金属ナノ粒子混合物における前記微細CuNi合金ナノ粒子の含有量が0.1〜29質量%であり、かつ、前記金属ナノ粒子混合物の含有量が15質量%以上であることを特徴とする接合材料。
【請求項2】
前記微細CuNi合金ナノ粒子の平均粒子径に対する前記Cuナノ粒子の平均粒子径の比が2〜60であることを特徴とする請求項1に記載の接合材料。
【請求項3】
前記微細CuNi合金ナノ粒子に含まれるNiの含有量が2〜90質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の接合材料。
【請求項4】
粒子径が1000nm以下のCu粒子からなりかつ平均粒子径が50nm〜1000nmであるCuナノ粒子と、平均粒子径が1nm〜50nmである微細CuNi合金ナノ粒子とからなる金属ナノ粒子混合物、及び、粒子径が1μm超のCu粒子からなりかつ平均粒子径が1μm超200μm以下であるCuミクロン粒子を含有しており、前記金属ナノ粒子混合物における前記微細CuNi合金ナノ粒子の含有量が0.1〜29質量%であり、前記金属ナノ粒子混合物の含有量が15質量%以上であり、かつ、前記Cuミクロン粒子の含有量が85質量%以下であることを特徴とする接合材料。
【請求項5】
半導体素子、基板、及び前記半導体素子と前記基板とを接合する接合層を備えており、
前記接合層が請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の接合材料により形成されたCuとCuNi合金との混合物層であることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
前記混合物層に含まれるNiの含有量が0.0003〜26.1質量%であることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記混合物層の両面にNi、Co及びAgからなる群から選択される少なくとも1種の金属からなる密着層を更に備えており、
一方の密着層が前記半導体素子の接合部に接するように配置され、他方の密着層が前記基板の接合部に接するように配置されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合材料及び前記接合材料を用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の電極接合などにおいては、従来、Sn−Pb系はんだが用いられていたが、近年、環境保全の観点から、鉛フリーはんだといった新規な接合材料が求められている。また、半導体素子の接合技術においては、半導体素子への負荷を低減するために、低温での接合や無加圧での接合が可能な材料が求められている。更に、半導体素子の接合技術や微細配線形成技術においては、半導体素子への負荷を低減するために、低温での接合や無加圧での接合が可能な材料や低温での配線形成が可能な材料が求められている。
【0003】
Ag、Cu、Niなどの金属ナノ粒子は、粒径が、例えば50nm以下のように、ナノメートルサイズまで小さくなると、その融点よりはるかに低い温度(焼結温度200℃以下)で焼結させることが可能となるため、半導体素子の低温接合やインクジェットやスクリーン印刷を利用した微細配線の低温形成などへの応用が期待されている。
【0004】
しかしながら、このような金属ナノ粒子は、表面が高活性であり、凝集しやすいため、通常、界面活性剤やポリマーなどで被覆して分散安定性を確保している。このため、このような金属ナノ粒子を用いて半導体素子の接合や微細配線形成を行う際に加熱処理を施すと、金属ナノ粒子が焼結するとともに界面活性剤やポリマーなどの被膜が分解され、ガスが発生し、金属ナノ粒子間に空隙が生じる。その結果、無加圧や低温では焼結組織が密にならず、十分に高い接合強度や十分に低い抵抗率が得られなかった。
【0005】
また、Cuナノ粒子は、低コストで耐熱性及び耐マイクレーション性に優れ、抵抗率が低い金属ナノ粒子であるが、一般に、酸化されやすく、表面の酸化被膜により焼結が阻害されるという問題があった。
【0006】
そこで、このような課題を解決するために、特開2008−24969号公報(特許文献1)には、表面に有機化合物成分を吸着したニッケル被膜により被覆された単分散性の銅微粒子であって、上記ニッケルの被覆量は、質量比率でNi:Cu=1:100〜50:100であり、上記銅微粒子の平均粒径が10〜100nmであり、かつ、上記銅微粒子の粒径における標準偏差(σ)と平均粒径(d)の比を表す(σ/d)×100は、10〜30%であるニッケル被覆銅微粒子が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示されているニッケル被覆銅微粒子は、コーティング構造を有するナノ粒子のコーティング層自体が焼結阻害要因となってしまうため、低温−無加圧で高い接合強度が得られず、そのため低温度(例えば300℃以下)において無加圧で接合しても強度が十分なものではなかった。
【0007】
また、特開2011−63828号公報(特許文献2)には、炭素数6〜10の直鎖アルコールの一種以上と、分子数200〜400の有機化合物の一種以上が溶解されてなる反応溶媒に、銅及びニッケルの化合物を溶解させた後、有機−水酸化アンモニウム塩溶液を添加した製造方法により、中心部分の銅の構成割合が高く、周囲をニッケル−銅の合金を呈した銅−ニッケルナノ粒子において、分子数200〜400の有機化合物により被覆され、透過型電子顕微鏡により計測される平均粒子径DTEMが1〜30nmであって、中心部の銅構成割合が高く表層部がニッケルと銅の合金により形成される銅−ニッケルナノ粒子からなり、微細で表層部がニッケルリッチのニッケル−銅合金が開示されている。しかしながら、特許文献2に開示されているニッケル−銅合金においても、コーティング構造を有するナノ粒子のコーティング層自体が焼結阻害要因となってしまうため、低温−無加圧で高い接合強度が得られず、そのため低温度(例えば300℃以下)で無加圧で接合しても強度が十分なものではなかった。
【0008】
更に、特開2011−175871号公報(特許文献3)には、平均粒径の異なる2種以上の銀系粉末を含有する接合用材料であって、第1粉末として有機成分及び銀を含む銀系粒子からなり平均粒径が10nm未満の銀系粉末、及び、第2粉末として銀を含む銀系粒子からなり平均粒径が40nm以上である銀系粉末を含む接合用材料が開示されている。しかしながら、特許文献3に開示されている接合用材料においても、耐マイグレーション性が十分ではなく、低温−無加圧で高い接合強度が得られず、そのため低温度(例えば300℃以下)において無加圧で接合しても強度が十分なものではなかった。
【0009】
また、下田将義ら、「耐高温接合材によるダイボンド技術の開発」、MES2013(第23回マイクロエレクトロニクスシンポジウム)、社団法人エレクトロニクス実装学会、2013年9月、P147−150(非特許文献1)には、平均粒径が70nm、0.8μm及び5μmの3種類のサイズの異なるCuナノ粒子を混合したペーストを用いる接合材が開示されている。しかしながら、非特許文献1に開示されているCuナノ粒子混合ペーストにおいても、粒子が十分に微細で無いため焼結温度の低温化が難しく、更にCuナノ粒子を微細化すると表面が酸化しやすくなり接合強度が向上できなくなるなど、低温−無加圧で高い接合強度が得られず、そのため低温度(例えば300℃以下)で無加圧で接合しても強度が必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−24969号公報
【特許文献2】特開2011−63828号公報
【特許文献3】特開2011−175871号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】下田将義ら、「耐高温接合材によるダイボンド技術の開発」、MES2013(第23回マイクロエレクトロニクスシンポジウム)、社団法人エレクトロニクス実装学会、2013年9月、P147−150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、接合強度が十分に高い接合層を低温(具体的には300℃以下)で形成することが可能な接合材料、及びそれを用いた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、粒子径及び平均粒子径が特定の範囲のCuナノ粒子と平均粒子径が特定の範囲の微細CuNi合金ナノ粒とを特定の割合で含む金属ナノ粒子混合物を特定の割合で含有する接合材料を用いることによって、接合強度が十分に高い接合層を低温(具体的には300℃以下)で形成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の接合材料は、粒子径が1000nm以下のCu粒子からなりかつ平均粒子径が60nm〜300nmであるCuナノ粒子と、平均粒子径が1nm〜50nmである微細CuNi合金ナノ粒子とからなる金属ナノ粒子混合物を含有しており、前記金属ナノ粒子混合物における前記微細CuNi合金ナノ粒子の含有量が0.1〜29質量%であり、かつ、前記金属ナノ粒子混合物の含有量が15質量%以上であることを特徴とするものである。
【0015】
上記本発明の接合材料においては、前記微細CuNi合金ナノ粒子の平均粒子径に対する前記Cuナノ粒子の平均粒子径の比が2〜60であることが好ましい。
【0016】
また、上記本発明の接合材料においては、前記微細CuNi合金ナノ粒子に含まれるNiの含有量が2〜90質量%であることが好ましい。
【0017】
更に、本発明の他の接合材料は粒子径が1000nm以下のCu粒子からなりかつ平均粒子径が50nm〜1000nmであるCuナノ粒子と、平均粒子径が1nm〜50nmである微細CuNi合金ナノ粒子とからなる金属ナノ粒子混合物、及び、粒子径が1μm超のCu粒子からなりかつ平均粒子径が1μm超200μm以下であるCuミクロン粒子を含有しており、前記金属ナノ粒子混合物における前記微細CuNi合金ナノ粒子の含有量が0.1〜29質量%であり、前記金属ナノ粒子混合物の含有量が15質量%以上であり、かつ、前記Cuミクロン粒子の含有量が85質量%以下であることを特徴とするものである
【0018】
本発明の半導体装置は、半導体素子、基板、及び前記半導体素子と前記基板とを接合する接合層を備えており、前記接合層が前記本発明の接合材料により形成されたCuとCuNi合金との混合物層であることを特徴とするものである。
【0019】
上記本発明の半導体装置においては、前記混合物層に含まれるNiの含有量が0.0003〜26.1質量%であることが好ましい。
【0020】
また、上記本発明の半導体装置においては、前記混合物層の両面にNi、Co及びAgからなる群から選択される少なくとも1種の金属からなる密着層を更に備えており、一方の密着層が前記半導体素子の接合部に接するように配置され、他方の密着層が前記基板の接合部に接するように配置されていることが好ましい。
【0021】
なお、本発明の接合材料によって接合強度が高い接合層を低温で形成することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0022】
すなわち、従来より、金属のナノ粒子は表面原子の活性作用により、融点よりもはるかに低い温度で焼結することが知られている。最近、こうした金属ナノ粒子の低温焼結を利用して、半導体素子の高耐熱接合技術の開発が活発に行われている。従来技術ではAgナノ粒子が用いられてきたが、最近はAgよりも低コストで耐マイグレーション性の良いCuナノ粒子での開発が強く期待されている。また、半導体素子を加圧で接合を行うと、チップの破壊による歩留まりの低下や生産工程の追加によるコストアップなどの問題点があるため、無加圧での接合が強く期待されている。更に、従来のSn−Cuはんだなどと同じ接合温度(250℃など)で接合できれば、素子への熱負荷が低減出来、既存の設備で接合可能となるため、無加圧−低温接合が望ましいとされている。しかし、従来の技術では、Cuナノ粒子の粒径が50nm以下になると酸化を抑制することが困難になるため、50nm以上のCuナノ粒子を用いて接合を行っていた。これでは粒径が大きいため焼結温度の低温化が難しく、また無加圧では焼結したとしても粒子同士が点のみで結合した状態(リンキング状態)が多く残存してしまうため、十分な焼結強度が得られないという問題点があった。
【0023】
本発明者らは、先ず、粒径が50nm以上のCuナノ粒子に対して、50nm以下の微細Cuナノ粒子を添加することにより、粒子間をより密に充填して低温・高強度化を達成しようと試みたが、微細Cuナノ粒子は酸化が抑えられないため、酸化層が焼結を阻害して高強度化できなかった。
【0024】
そこで、本発明者らは、微細Cuナノ粒子に対してCuナノ粒子の酸化を抑制することが可能な添加成分としてNiに着目した。そして、粒子径及び平均粒子径が特定の範囲のCuナノ粒子とともに平均粒子径が特定の範囲の微細CuNi合金ナノ粒を特定の割合で含む金属ナノ粒子混合物を特定の割合で含有させて接合材料を構成することにより、該材料に含まれるNiの存在によりCuナノ粒子の酸化を抑制することが可能となり、このような接合材料を用いて接合層を形成すると焼結温度の十分な低温化を実現することができ、接合温度が十分に低い温度(具体的には300℃以下)においても無加圧でも高い接合強度を得ることが可能になるものと推察される。更に、添加剤として加えたNiは、Cuナノ粒子間の結合性を向上させる効果を有しており、例えばSn−Cuはんだと同じ接合温度(250℃)においても無加圧でも高い接合強度を得ることが可能になるものと推察される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、接合強度が十分に高い接合層を低温(具体的には300℃以下)で形成することが可能な接合材料、及びそれを用いた半導体装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の半導体装置の一実施態様を示す模式図である。
図2】本発明の半導体装置の他の一実施態様を示す模式図である。
図3】本発明の半導体装置の他の一実施態様を示す模式図である。
図4】本発明の半導体装置の他の一実施態様を示す模式図である。
図5】調製例2−1〜2−6で作製したナノ粒子のXRDスペクトルを示すグラフである。
図6】調製例2−1で作製した微細CuNi合金ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(スケールバー:50nm)である。
図7】調製例2−2で作製した微細CuNi合金ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(スケールバー:50nm)である。
図8】調製例2−3で作製した微細CuNi合金ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(スケールバー:50nm)である。
図9】調製例2−4で作製した微細CuNi合金ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(スケールバー:50nm)である。
図10】調製例2−5で作製した微細CuNi合金ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(スケールバー:50nm)である。
図11】調製例2−6で作製した比較用微細Cuナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(スケールバー:50nm)である。
図12】実施例で作製したせん断強度測定用接合体を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0028】
先ず、本発明の接合材料について説明する。本発明の接合材料は、粒子径及び平均粒子径が所定の範囲であるCuナノ粒子と平均粒子径が所定の範囲である微細CuNi合金ナノ粒子とを所定の割合で含む金属ナノ粒子混合物を含有するものである。本発明の接合材料は、低温(具体的には300℃以下)での熱処理により焼結し、接合強度が十分に高い接合層を形成することができる。また、本発明の接合材料を用いると、熱処理時に無加圧でも、接合強度が十分に高い接合層を形成することができる。
【0029】
(Cuナノ粒子)
本発明にかかる金属ナノ粒子混合物におけるCuナノ粒子は、粒子径が1000nm以下のCu粒子からなりかつ平均粒子径が50nm〜1000nmであることが必要である。このようなCuナノ粒子、すなわち本発明の接合材料におけるCuナノ粒子の平均粒子径としては、50nm〜800nmが好ましく、60nm〜500nmがより好ましく、60nm〜400nmが特に好ましい。Cuナノ粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、バルクに対する表面比率が大きくなるため、Cuナノ粒子の表面が大気中で酸化されやすく、その結果、接合材料中でCuナノ粒子同士の凝集が起こったり、接合時の熱処理で十分に酸化成分を除去できず、接合強度や導電性、熱伝導性などの接合材料の特性が低下する傾向にある。ただし、Cuナノ粒子を不活性ガス又は還元性ガス雰囲気下で取り扱えば、Cuナノ粒子表面の酸化が起こりにくく、上記の不具合が起こりにくくなるため、平均粒子径が前記下限未満のCuナノ粒子も本発明の接合材料に使用することが可能である。また、有機被膜を備えるCuナノ粒子を使用する場合には、有機被膜の割合がCuナノ粒子に比べて多くなるため、有機被膜が接合時の熱処理で十分に分解されずに残存し、接合強度や導電性、熱伝導性などの接合材料の特性が低下する傾向にある。他方、Cuナノ粒子の平均粒子径が前記上限を超えると、粒子サイズ効果が小さいため、Cu粒子の焼結温度が高くなり、低温(具体的には300℃以下)での加熱によるCu粒子同士の結合が起こりにくく、その結果、接合強度が低下する傾向にある。
【0030】
なお、Cuナノ粒子の直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察において測定することができ、本発明においては、前記金属ナノ粒子混合物における前記Cuナノ粒子及び前記微細CuNi合金ナノ粒子の合計量に対するCuナノ粒子の割合や含有量及びCuナノ粒子の平均粒子径を、前記TEM観察において、無作為に200個のCu粒子を抽出し、これらの直径を測定することによって求められる値とする。
【0031】
また、このようなCuナノ粒子としては、例えば、Cuナノ粒子と、このCuナノ粒子の表面に配置された、脂肪酸及び脂肪族アミンを含有する有機被膜とを備える表面被覆Cuナノ粒子が挙げられる。前記有機被膜は低温(具体的には300℃以下)で熱分解させることができるものである。この表面被覆Cuナノ粒子は、特開2012−46779号公報に記載された方法に準じて製造することができる。すなわち、アルコール系溶媒中、脂肪酸及び脂肪族アミンの共存下で、前記アルコール系溶媒に不溶なCu塩を還元せしめることによってCuナノ粒子を形成させ、かつ、このCuナノ粒子の表面に前記脂肪酸及び脂肪族アミンを含有する有機被膜を形成させることによって前記表面被覆Cuナノ粒子を製造することができる。ここで、Cu塩としては炭酸銅、水酸化銅が挙げられる。また、脂肪酸としてはオクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸やオレイン酸などの不飽和脂肪酸が挙げられ、脂肪族アミンとしてはオクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミンなどの飽和脂肪族アミンやオレイルアミンなどの不飽和脂肪族アミンが挙げられ、脂肪酸及び脂肪族アミンの炭化水素鎖の炭素数を変更することによってCuナノ粒子の粒子径を調整することができる。
【0032】
また、本発明においては、(株)イオックス製のCuナノ粒子「Cu60−BtTP」、(株)テックサイエンス製の銅ナノ粒子粉末などの市販のCuナノ粒子を使用することもできる。更に、溶媒中に分散されたCuナノ粒子を使用することもできる。このようなCuナノ粒子分散液としては、立山科学工業(株)製の銅ナノ粒子分散液、大研化学工業(株)製「NCU−09」、ハリマ化成グループ(株)製の銅ナノ粒子分散液などの市販品が挙げられる。
【0033】
(微細CuNi合金ナノ粒子)
本発明にかかる金属ナノ粒子混合物における微細CuNi合金ナノ粒子は、平均粒子径が1nm〜50nmであることが必要である。このような微細CuNi合金ナノ粒子、すなわち本発明の接合材料におけるCuNi合金粒子(CuNi合金ナノ粒子を含む)の平均粒子径としては、5nm〜50nmが好ましく、8nm〜40nmがより好ましく、10nm〜30nmが特に好ましい。微細CuNi合金ナノ粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、粒子中の有機被膜の成分割合が大きくなり、有機被膜成分の残存が起こり焼結を阻害し、接合強度や導電性、熱伝導性などの接合材料の特性が低下する傾向にある。他方、微細CuNi合金ナノ粒子の平均粒子径が前記上限を超えると、粒子サイズ効果が小さいため、Cu粒子の焼結温度が高くなり、低温(具体的には300℃以下)での加熱によるCu−CuNi合金ナノ粒子同士の結合が起こりにくくなり、その結果、CuNi合金ナノ粒子の添加による強度向上が起こり難くなり、接合強度が低下する傾向にある。
【0034】
なお、CuNi合金ナノ粒子の直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察において測定することができ、本発明においては、前記金属ナノ粒子混合物における前記Cuナノ粒子及び前記微細CuNi合金ナノ粒子の合計量に対する微細CuNi合金ナノ粒子の割合及びCuNi合金粒子(CuNi合金ナノ粒子を含む)の平均粒子径を、前記TEM観察において、無作為に200個のCu粒子を抽出し、これらの直径を測定することによって求められる値とする。
【0035】
本発明においては、このような微細CuNi合金ナノ粒子に含まれるNiの含有量としては、特に制限されないが、2〜90質量%であることが好ましく、10〜85質量%であることがより好ましく、20〜82質量%であることが特に好ましい。前記微細CuNi合金ナノ粒子に含まれるNiの含有量が前記下限未満では、微細CuNi合金ナノ粒子によるCuナノ粒子の酸化抑制が不十分となり、焼結特性に悪影響を及ぼし形成される接合層の接合強度が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、粒子の融点が上がり過ぎて焼結温度が上昇し、低温での焼結が起こりにくくなり、接合強度が高い接合層を低温で形成することができなくなる傾向にある。
【0036】
また、このような微細CuNi合金ナノ粒子としては、特に制限されず、公知のCuNi合金ナノ粒子を適宜用いることができる。例えば、Cu粒子又はCuのイオンとNiのイオンとを溶液中で反応させ、Niのイオンを還元させてCuNi合金ナノ粒子を合成する。なお、還元を促進するために還元性溶剤中で反応させることが好ましい。
【0037】
このような還元性溶剤としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、オレイルアルコールなどの1級モノアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールなどのジオール類、グリセリンなどのトリオール、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、オレイルアミンなどの1級アミン類などを使用することができる。1級アルコールに代えて2級アルコールや、1級アミンに代えて2級又は3級アミンを用いても良い。これらの還元性溶剤に混和可能な溶剤を適宜混合してもよい。混和可能な溶剤としては、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、ジクロロメタン、THF、アセトン、アセトニトリル、DMF、水などがあげられる。また、これらの還元性溶剤、混和可能な溶剤に加えて、ナノ粒子の形状制御のために修飾剤を加えることもできる。このような修飾剤としては、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類、プロピオン酸、酪酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸類を使用することができる。また、還元剤として添加したアミン類も修飾剤としても使用することができる。
【0038】
なお、CuNi合金ナノ粒子の合成は、オレイルアミンなどの脂肪族アミン、トリオクチルフォスフィンなどの形状制御のための修飾剤の代わりにアルキル鎖長の異なる界面活性剤を用いたり、その添加割合を変化させることで、様々な粒径や有機成分含有量の粒子を合成することが可能である。
【0039】
このような本発明の微細CuNi合金ナノ粒子の形状は、特に制限されないが、球状、長方体形状、立方体形状、多面体形状などが挙げられる。なお、粒子同士が密につまって焼結密度を向上できるという観点から長方体形状、立方体形状、多面体形状であることが好ましい。
【0040】
(接合材料)
本発明の接合材料は、このようなCuナノ粒子と微細CuNi合金ナノ粒子とを所定の割合で含む金属ナノ粒子混合物を含有するものである。本発明の接合材料においては、前記金属ナノ粒子混合物における前記微細CuNi合金ナノ粒子の含有量が0.1〜29質量%(すなわち、Cuナノ粒子の含有量が99.9〜71質量%)である。微細CuNi合金ナノ粒子の含有量が前記下限未満になる(すなわち、Cuナノ粒子の含有量が前記上限を超える)と、微細CuNi合金ナノ粒子による粒子間の結合向上効果が十分に発現しなくなるため、接合強度が低下する。他方、微細CuNi合金ナノ粒子の含有量が前記上限を超える(すなわち、Cuナノ粒子の含有量が前記下限未満になる)と、有機被膜量が多くなり過ぎて有機被膜の残存により焼結が阻害され、またCuよりもCuNi合金の方が融点が高いことによりCuNi成分が増えて低温での焼結が起こり難くなり、接合強度や導電性、熱伝導性などの接合材料の特性が低下する。また、接合強度がより高くなるという観点から、微細CuNi合金ナノ粒子の含有量が1〜27質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましい。
【0041】
このような本発明の接合材料においては、前記接合材料における前記金属ナノ粒子混合物の含有量が15質量%以上である。金属ナノ粒子混合物の含有量を15質量%以上とすることにより、接合強度が十分に高い接合層を低温(具体的には300℃以下)で形成することが可能な接合材料とすることが可能となる。
【0042】
また、このような本発明の接合材料においては、前記微細CuNi合金ナノ粒子の平均粒子径に対する前記Cuナノ粒子の平均粒子径の比が2〜60であることが好ましく、3〜40であることがより好ましい。微細CuNi合金ナノ粒子の平均粒子径に対するCuナノ粒子の平均粒子径の比が前記下限未満では、Cuナノ粒子と微細CuNi合金ナノ粒子の粒子径の差が小さいため、微細CuNi合金ナノ粒子によるCuナノ粒子間の充填効果が小さくなり、形成される接合層の接合強度が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、Cuナノ粒子の粒子間を所定の添加量で微細CuNi合金ナノで充填することが難しくなり、形成される接合層の接合強度が不十分となる傾向にある。
【0043】
また、このような本発明の接合材料においては、粒子径が1μm超のCu粒子からなりかつ平均粒子径が1μm超200μm以下であるCuミクロン粒子を更に含有する接合材料であって、Cuミクロン粒子の含有量が85質量%以下であることがより好ましい。Cuミクロン粒子の含有量が前記上限を超えると、粒子径が大きい粒子の割合が多くなり過ぎて接合材料のナノサイズ効果による焼結温度の低下が起こらなくなり、形成される接合層の接合強度が不十分となる傾向にある。また、このようなCuミクロン粒子の平均粒子径としては、1.2μm〜180μm以下が好ましく、3μm〜150μmがより好ましい。Cuミクロン粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、粒子間の凝集が起こりやすくなり接合強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、粒子の微細化による焼結温度の低温化が起こりにくくなり接合強度が低下する傾向にある。
【0044】
このような本発明の接合材料は、例えば、Cuナノ粒子と微細CuNi合金ナノ粒子とが所定の割合となるように、両者を混合し、得られた混合ナノ粒子を有機溶媒などの溶剤と混合したり、Cuナノ粒子と微細CuNi合金ナノ粒子とが所定の割合となるように、Cuナノ粒子分散液と微細CuNi合金ナノ粒子分散液とを混合したりすることによって製造することができる。また、Cuナノ粒子、微細CuNi合金ナノ粒子及びCuミクロン粒子をそれぞれ有機溶媒等の溶剤中に分散させた後、所望の量となるように分散溶液を混合してエバポレータで濃縮しても良いし、ボールミルで撹拌しても良い。更に、ペースト状やインク状の接合材料を調製する場合には、ペースト状やインク状となるように、前記混合ナノ粒子と溶剤とを混合してもよいし、ペースト状やインク状のCuナノ粒子及び微細CuNi合金ナノ粒子を調製し、これらを混合してもよいし、前記混合ナノ粒子の分散液を調製した後、ペースト状やインク状になるまでエバポレータなどを用いて濃縮してもよい。
【0045】
Cuナノ粒子分散液及び微細CuNi合金ナノ粒子分散液は、Cuナノ粒子及び微細CuNi合金ナノ粒子をそれぞれ有機溶媒などの溶剤と混合して調製してもよいし、市販のナノ粒子のペーストや分散液を使用してもよい。
【0046】
本発明の接合材料に用いられる有機溶媒としては特に制限はないが、例えば、テトラデカンなどの炭素数5〜18のアルカン類;1−ブタノール、デカノール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1〜20のモノアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのグリコール類;グリセリンなどのトリオール類;α−テルピネオールなどの環状アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ブチルカルビトールなどのエーテル類;酢酸エチル、ブチルカルビトールアセテートなどのエステル類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物などが挙げられる。また、本発明の接合材料ペーストには、必要に応じて、セルロース誘導体(例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース)やグリセリド(例えば、ヒマシ油)といった粘度調整剤、などの添加剤を添加してもよい。
【0047】
ナノ粒子と溶剤との混合方法としては特に制限はないが、例えば、自転・公転ミキサー、ボールミル、スターラーなどの公知の撹拌装置を用いる方法が挙げられる。
【0048】
<半導体装置>
次に、本発明の半導体装置について説明する。本発明の半導体装置は、半導体素子、基板、及び前記半導体素子と前記基板とを接合する接合層を備えており、前記接合層が本発明の接合材料により形成されたCuとSnと遷移金属との混合物層である。また、本発明の半導体装置において、本発明の半導体装置においては、前記混合物層の両面にNi、Co及びAgからなる群から選択される少なくとも1種の金属からなる密着層を更に備えていることが好ましい。この場合、一方の密着層は前記半導体素子の接合部に接するように配置され、他方の密着層は前記基板の接合部に接するように配置されている。
【0049】
このような本発明の半導体装置においては、前記混合物層に含まれるNiの含有量が0.0003〜26.1質量%であることが好ましく、0.003〜20質量%であることがより好ましい。Niの含有量が前記下限未満では、粒子間の焼結が不十分で接合強度が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、Ni量が多いことにより熱及び電気伝導特性が不十分となる傾向にある。
【0050】
なお、CuとCuNi合金との混合物層からなる前記接合部のNi比率は、該接合部を形成する前記本発明の接合材料中のNiの最小含有比率及びNiの最大含有比率から求めることができる。
【0051】
本発明の半導体装置を構成する半導体素子としては特に制限はなく、例えば、パワー素子、LSI、抵抗、コンデンサなどが挙げられる。また、基板としては特に制限はなく、例えば、リードフレーム、電極が形成されたセラミック基板、実装基板などが挙げられる。リードフレームとしては、例えば、銅合金リードフレームが挙げられる。また、電極が形成されたセラミックス基板としては、例えば、DBC(Direct Bond Copper:登録商標)基板、活性金属接合(AMC:Active Metal Copper)基板が挙げられる。また、実装基板としては、例えば、電極が形成されたアルミナ基板、低温同時焼成セラミックス(LTCC:Low Temperature Co−fired Ceramics)基板、ガラスエポキシ基板などが挙げられる。
【0052】
以下、図面を参照しながら本発明の半導体装置の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明の半導体装置は前記図面に限定されるものではない。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0053】
図1は、本発明の半導体装置の一実施形態を示す模式図である。この半導体装置は、半導体素子1、上部基板2a、下部基板2b、接合層3a及び3b、信号端子5、ボンディングワイヤ6、ならびにモールド樹脂7を備えるものである。半導体素子1の上表面には、接合層3aを介して上部基板2aが接合されている。半導体素子1の下表面には、接合層3bを介して下部基板2bが接合されている。また、半導体素子1の上表面の一部と信号素子5とは、ボンディングワイヤ6によって電気的に接続されている。半導体素子1、上部基板2aの一部、下部基板2bの一部、接合層3a及び3b、信号端子5の一部、ならびにボンディングワイヤ6は、モールド樹脂7に覆われている。また、上部基板2aの突出部2c、下部基板2bの突出部2d、及び信号端子5の一部は、モールド樹脂7の外部に突出している。
【0054】
このような半導体装置は、以下のようにして製造することができる。すなわち、先ず、半導体素子1の上表面及び上部基板2aの下表面のいずれか一方に本発明の接合材料を塗布して接合材料層を形成する。また、半導体素子1の下表面及び下部基板2bの上表面のいずれか一方に本発明の接合材料を塗布し接合材料層を形成する。これらの接合材料層の厚さとしては特に制限はないが、生産性や接合抵抗を考慮すると、1μm〜500μmが好ましく、50μm〜400μmがより好ましく、100μm〜300μmが特に好ましい。接合材料の塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット法、ディップ法、フレキソ印刷法などが挙げられる。また、このような塗布は、大気中もしくは不活性ガス雰囲気中で行うことができる。
【0055】
次に、半導体素子1の上表面と上部基板2aの下表面との間に接合材料層が配置されるように、半導体素子1と上部基板2aとを貼り合わせ、また、半導体素子1の下表面と下部基板2bの上表面との間に接合材料層が配置されるように、半導体素子1と下部基板2bとを貼り合わせる。このとき、接合材料層に気泡が入り込まないように、加圧してもよい。また、貼り合わせは真空中で行なってもよいが、本発明の接合材料は大気中でのCuナノ粒子の酸化が抑制されているため、大気中で貼り合わせを行うことができる。
【0056】
このようにして半導体素子1と上部基板2a及び半導体素子1と下部基板2bとを貼り合わせた接合体に加熱処理を施して接合材料を焼結させ、接合層3a及び3bを形成する。これにより、半導体素子1と上部基板2aとが接合層3aを介して接合され、半導体素子1と下部基板2bとが接合層3bを介して接合される。本発明の接合材料により形成された前記接合層3a及び3bは、CuとNiとの混合物層であるため、接合強度に優れている。なお、本発明にかかる接合層においては、接合強度が低下しない範囲において、Cu−Ni合金が形成されていてもよい。
【0057】
加熱処理の温度としては特に制限はないが、150〜450℃が好ましく、200〜400℃がより好ましい。加熱処理温度が前記下限未満になると、接合材料に含まれていた溶剤が接合層3a及び3b中に残存しやすく、十分な接合強度が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、半導体素子の耐熱温度を超える場合があり、熱応力が増大し、反りや剥離が発生しやすい傾向にある。
【0058】
また、このような加熱処理は、不活性ガス又は還元性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。更に、本発明の接合材料を用いると、無加圧で接合することができるが、加圧しながら接合することによって接合強度が向上する傾向にある。
【0059】
また、本発明の半導体装置においては、図2に示すように、半導体素子1と接合層3aとの間、上部基板2aと接合層3aとの間、半導体素子1と接合層3bとの間、下部基板2bと接合層3aとの間に、Ni、Co及びAgのうちの少なくとも1種の金属からなる密着層4a及び4bが配置されていることが好ましい。このような密着層を形成することによって、接合強度が更に向上する傾向にある。
【0060】
このような密着層の厚さについては、1nm以上であれば高い接合強度が得られるため特に制限はないが、半導体装置の生産コストや密着層の電気抵抗などを考慮すると10μm以下が好ましい。また、生産コストをより低減するという観点から200nm以下がより好ましい。
【0061】
このような半導体装置は、以下のようにして製造することができる。すなわち、先ず、半導体素子1の両面、上部基板2aの下表面、及び下部基板2bの上表面に前記密着層を形成する。密着層の形成方法としては、スパッタ法、メッキ法、塗布法などが挙げられる。
【0062】
スパッタ法により密着層を形成する場合には、先ず、半導体素子や基板などの被塗布物を真空チャンバーに挿入し、チャンバー内を減圧する。チャンバー内が真空状態になった後、アルゴンガスを導入し、被塗布物側にRFプラズマを生成して被塗布物表面の不純物の除去を行う。その後、形成する密着層の材料(例えば、Ni、Co、又はAg)のターゲットを用いてRFスパッタ法を行う。これにより、被塗布物表面に密着層を形成することができる。密着層を形成する際の被塗布物の温度としては特に制限はないが、例えば、室温(25℃程度)〜450℃が好ましい。被塗布物の温度が前記上限を超えると、半導体素子の耐熱温度を超える場合があり、熱応力が増大し、反りや剥離が発生しやすい傾向にある。
【0063】
また、塗布法により密着層を形成する場合には、先ず、半導体素子や基板などの被塗布物に、大気中もしくは不活性ガス雰囲気中でインクジェット法、スピンコート法、ディップ法、スクリーン印刷法などの手法によって、形成する密着層の材料(例えば、Ni、Co、又はAg)を含むペースト又はインクを塗布する。ペーストやインクとしては、金属粒子と溶剤などを混合して調製したものを使用してもよいし、金属粒子を含む市販のペーストを使用してもよい。ニッケル粒子を含む市販のペーストとしては、例えば、立山科学工業(株)製のニッケルナノ粒子分散液、大研化学工業(株)製「MM12−800TO」などが挙げられる。コバルト粒子を含む市販のペーストとしては、例えば、立山科学工業(株)製のコバルトナノ粒子分散液などが挙げられる。銀粒子を含む市販のペーストとしては、例えば、住友電気工業(株)製「AGIN−W4A」、ハリマ化成(株)製「NPS−J−HTB」などが挙げられる。このようにペーストを塗布した被塗布物を不活性ガス又は還元性ガス雰囲気中で加熱処理することにより前記密着層が形成される。なお、不活性ガス又は還元性ガス雰囲気中での加熱処理の前に酸化雰囲気中で加熱処理を行なってもよい。加熱処理における雰囲気温度としては特に制限はないが、150〜450℃が好ましい。雰囲気温度が前記下限未満になると、ペースト中の有機成分(例えば、有機溶媒、有機修飾剤)の揮発除去が不十分となり、密着層中の有機成分の含有量が多くなる傾向にある。他方、前記上限を超えると、半導体素子の耐熱温度を超える場合があり、熱応力が増大し、反りや剥離が発生しやすい傾向にある。
【0064】
次に、このようにして形成した密着層の表面に、図1に示した半導体装置の場合と同様に、本発明の接合材料を用いて接合材料層を形成し、半導体素子1と上部基板2a、半導体素子1と下部基板2bとを貼り合わせ、得られた接合体に加熱処理を施して接合材料を焼結させ、接合層3a及び3bを形成する。これにより、半導体素子1と上部基板2aとが接合層3a及び密着層4a及び4bを介して接合され、半導体素子1と下部基板2bとが接合層3b及び密着層4a及び4bを介して接合される。このようにNi、Co及びAgのうちの少なくとも1種の金属からなる密着層を形成することによって、接合強度が更に向上する傾向にある。
【0065】
なお、前記密着層を形成することによって、接合強度が更に向上する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、Niなどの金属表面に形成されている不働態の酸化物層は薄く、容易に還元されるとともに、Niなどの金属層にはCuナノ粒子表面の酸化物層を還元する作用もある。また、Niなどの金属層は焼結時のCuナノ粒子との濡れ性が非常に大きいため、無加圧でも高い接合強度を有する密着層を形成することができる、と推察される。
【0066】
以上、半導体素子を上部電極と下部電極とで挟持する場合(図1及び図2)を例に本発明の半導体装置を説明したが、本発明の半導体装置はこれらに限定されるものではなく、例えば、図3及び図4に示すように、半導体素子の一方の面のみを接合層を介して基板と接合した半導体装置などが挙げられる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用した接合材料は以下の方法により調製した。
【0068】
(調製例1−1)
<Cuナノ粒子の調製1−1>
Cuナノ粒子は、特開2012−46779号公報に記載の方法に従って調製した。すなわち、フラスコにエチレングリコール(HO(CHOH)300mlを入れ、これに炭酸銅(CuCO・Cu(OH)・HO)30mmolを添加したところ、炭酸銅はエチレングリコールにほとんど溶解せずに沈殿した。これに、オクタン酸(C15COOH)30mmol及びオクチルアミン(C17NH)30mmolを添加した後、窒素ガスを1L/minで流しながら、エチレングリコールの沸点で1時間加熱還流させたところ、微粒子が生成した。得られた微粒子をヘキサン中に分散させて回収し、アセトン及びエタノールを順次添加して洗浄した後、遠心分離(3000rpm、20min)により回収し、真空乾燥(35℃、30min)を施した。
【0069】
得られた微粒子について、X線回折装置((株)リガク製「試料水平型強力X線回折装置RINT−TTR」)を用い、X線源:CuKα線(λ=0.15418nm)、管電圧:50kV、管電流:300mAの条件で粉末X線回折(XRD)測定を行なった。得られたXRDスペクトルから金属成分を同定し、Cuが主成分であることを確認した。
【0070】
また、得られたCu微粒子をヘキサンに分散させ、この分散液をエラスチックカーボン支持膜(高分子材料膜(15〜20nm厚)+カーボン膜(20〜25nm厚))付きCuマイクログリッド(応研商事(株)製)上に滴下した後、自然乾燥させて観察用試料を作製した。この観察用試料を、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子(株)製「JEM−2000EX」)を用いて加速電圧200kVで観察した。このTEM観察において、無作為に200個のCu微粒子を抽出し、その直径を測定したところ、これらの平均粒子径は300nmであった。得られた結果を表1に示す。なお、Cu微粒子の粒子径は全て1000nm以下であった。
【0071】
【表1】
【0072】
(調製例1−2〜1−4)
<Cuナノ粒子の調製1−2〜1−4>
オクタン酸に代えて表1に示す脂肪酸を、オクチルアミンに代えて表1に示す脂肪族アミンを用い、表1に示す割合とした以外は調製例1−1と同様にしてCu微粒子を調製した。得られた微粒子について、調製例1−1と同様にして粉末X線回折(XRD)測定を行ない、いずれもCuが主成分であることを確認した。次に、得られたCu微粒子を用い、調製例1−1と同様にして観察用試料を作製し、調製例1−1と同様にしてTEM観察を行い、平均粒子径を求めた。得られた結果を表1に示す。なお、Cu微粒子の粒子径は調製例1−2〜1−4のいずれにおいても全て1000nm以下であった。
【0073】
(調製例2−1〜2−5)
<微細CuNi合金ナノ粒子の調製2−1〜2−5>
フラスコにオレイルアミン(OA、C1835NH)30mmol及びCuアセチルアセトナト(Cu(acac)、Cu(C)1.7mmolを入れ、窒素ガスを0.4L/minで流しながら、200℃で1時間撹拌して合成反応を行い、Cu微粒子を含むオレイルアミン分散液を得た。
【0074】
得られたオレイルアミン分散液を水冷した後、トリオクチルホスフィン(TOP、P(C17)2.4mmol及び塩化ニッケル(NiCl)を表2に示す量を添加し、窒素ガスを0.4L/minで流しながら200℃で1時間撹拌して合成反応を行い、生成物を得た。得られた生成物をヘキサンで洗浄後、遠心分離(3000rpm、20min)を施して微粒子を回収し、真空乾燥(35℃、30min)を施した。
【0075】
【表2】
【0076】
(調製例2−6)
<比較用微細Cuナノ粒子の調製2−6>
塩化ニッケル(NiCl)を添加しない以外は調製例2−1〜2−5と同様にして、比較用微細Cuナノ粒子を調製した。
【0077】
(調製例2−7)
<比較用CuSnナノ粒子の調製2−7>
フラスコにテトラヒドロフラン(THF)10mlを入れ、これに塩化スズ(SnCl)1.7mmol、オレイルアミン(C1835NH)32mmol及びテトラブチルアンモニウムボロハイドライド(TBABH)3.6mmolを添加した後、窒素ガスを0.1L/minで流しながら、60℃で1時間撹拌して合成反応を行い、微粒子を含むTHF分散液を得た。
【0078】
このTHF分散液に遠心分離(3000rpm、20min)を施し、得られた沈殿物をエタノールに分散させた後、再度、遠心分離(3000rpm、20min)を施して微粒子を回収し、真空乾燥(35℃、30min)を施して、Sn微粒子を得た。
【0079】
次に、フラスコにエチレングリコール18mLを入れ、これに得られたSn微粒子0.17g(1.4mmol)を添加し、Cuアセチルアセトナト1.2mmolを添加した後、超音波処理(出力:100W)を施してSnナノ粒子を分散させた。次に、窒素ガスを0.1L/minで流しながら、100℃で3時間撹拌して合成反応を行い、CuSnナノ粒子を含むエチレングリコール分散液を得た。
【0080】
このエチレングリコール分散液に遠心分離(3000rpm、20min)を施して洗浄し、得られた沈殿物をエタノールに分散させた後、再度、遠心分離(3000rpm、20min)を施して微粒子を回収し、真空乾燥(35℃、30min)を施した。
【0081】
(調製例2−1〜2−7の評価試験)
調製例2−1〜2−7により得られた微粒子について、評価試験を行った。
【0082】
先ず、調製例2−1〜2−6により得られた微粒子について、各微粒子の成分の同定を、調製例1−1と同様にして粉末X線回折(XRD)測定により行った。得られたXRDスペクトルを、図5に示す。
【0083】
図5に示した結果から明らかなように、Niを添加しなかったCuナノ粒子(調製例2−6)はCu以外にもCuOが見られたが、塩化ニッケルの添加量が0.05mmol(調製例2−1)ではCuOのピークが弱くなり、塩化ニッケルの添加量が0.3mmol以上(調製例2−2〜2−5)のNi添加量ではCuOのピークはほとんど見られなくなり、耐酸化性が向上することが確認された。また、Ni添加量を増やすにつれて、各粒子のピークはCuからNiのピーク位置に徐々にシフトしていくことが確認された。
【0084】
次に、調製例2−1〜2−6により得られた微粒子について、各微粒子の平均粒子径を、調製例1−1と同様にしてTEM観察を行い、平均粒子径を求めた。得られた結果を表2に示す。また、調製例2−1〜2−6で作製した微細CuNi合金ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(スケールバー:50nm)を、調製例2−1は図6に、調製例2−2は図7に、調製例2−3は図8に、調製例2−4は図9に、調製例2−5は図10に、調製例2−6は図11に、それぞれ示す。
【0085】
また、調製例2−7により得られた比較用CuSnナノ粒子について、上記と同様にして測定試験を行い、XRDスペクトルからCuSnが主成分であることが、TEM観察の結果から平均粒子径が10nmであることが確認された。
【0086】
次いで、調製例2−1〜2−6により得られた微粒子について、ナノ粒子中のNi比率の組成分析を、高周波誘導結合プラズマ発光(ICP)分析装置(リガク社製、型式:CIROS−120EOP)を用い、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−OES)により行った。得られた結果を表2に示す。
【0087】
(実施例1−1)
調製例1−2で調製したCuナノ粒子と調製例2−3で調製した微細CuNi合金ナノ粒子とを乳鉢ですりつぶして混合し、全金属ナノ粒子に対して95質量%のCuナノ粒子と5質量%の微細CuNi合金ナノ粒子を含有する混合粉末を調製した。この混合粉末0.4gにデカノール20μL及びテルピネオール20μLを添加し、自転・公転ミキサーにより撹拌して接合材料ペーストを調製した。
【0088】
<接合強度測定>
リードフレームや半導体素子などにより構成される半導体装置において、接合層の接合強度を直接測定することは困難である。従って、得られた接合材料により形成される接合層の接合強度は、図12に示すせん断強度測定用接合体を用いて、以下の方法により測定した。
【0089】
先ず、無酸素銅(C1020)からなる試験片8a(直径5mmφ×高さ2mm)の一方の面及び無酸素銅(C1020)からなる試験片8b(10mm×22mm×3mm)の一方の面にそれぞれRFスパッタリング法により厚さ40nmのNi密着層10a及び10bを形成した。
【0090】
次に、試験片8b上のNi密着層10bの表面に、メタルマスク(直径5mmφ×厚さ0.15mm)を用いて接合材料ペーストを塗布し、接合材料層(直径5mmφ×厚さ150μm)を形成した。この接合材料層と試験片8a上のNi密着層10aとが接するように試験片8aと試験片8bとを貼り合わせ、水素雰囲気中、無加圧の条件下、200℃で10分間予備加熱した後、接合温度250℃で5分間の加熱処理を施し、試験片8aと試験片8bが接合層9により接合された、せん断強度測定用接合体(図12)を作製した。
【0091】
このようにして3個のせん断強度測定用接合体を作製し、これらのせん断強度を、インストロン型万能試験機(インストロン社製)を用いて、室温(20℃)、剪断速度1mm/分でそれぞれ測定し、これらの平均値を接合材料により形成された接合層の接合強度とした。その結果を表3に示す。また、接合層(混合物層)に含まれるNiの含有量を表3に示す。
【0092】
(実施例1−2〜1−5)
Cuナノ粒子として表3の「Cuナノ粒子(A)」に示したもの及び微細CuNi合金ナノ粒子として表3の「微細CuNi合金ナノ粒子又は微細Cuナノ粒子(B)」に示した微細CuNi合金ナノ粒子を用いた以外は実施例1−1と同様にして接合材料ペーストを調製した。得られた接合材料ペーストについて、実施例1−1と同様にして接合強度測定を行なった。得られた結果を表3に示す。
【0093】
(実施例1−6〜1−10)
Cuナノ粒子として表3の「Cuナノ粒子(A)」に示したもの及び微細CuNi合金ナノ粒子として表3の「微細CuNi合金ナノ粒子又は微細Cuナノ粒子(B)」に示した微細CuNi合金ナノ粒子を用いた以外は実施例1−1と同様にして接合材料ペーストを調製した。得られた接合材料ペーストについて、接合温度を300℃とした以外は実施例1−1と同様にして接合強度測定を行なった。得られた結果を表3に示す。
【0094】
(比較例1−1)
微細CuNi合金ナノ粒子を混合しなかった以外は実施例1−1と同様にして接合材料ペーストを調製し、更に、せん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度を求めた。その結果を表3に示す。
【0095】
(比較例1−2)
微細CuNi合金ナノ粒子に代えて調製例2−6の微細Cuナノ粒子を用いた以外は実施例1−1と同様にして接合材料ペーストを調製し、更に、せん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度を求めた。その結果を表3に示す。
【0096】
(比較例1−3)
微細CuNi合金ナノ粒子に代えて調製例2−7のCuSnナノ粒子を用いた以外は実施例1−1と同様にして接合材料ペーストを調製し、更に、せん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度を求めた。その結果を表3に示す。
【0097】
(比較例1−4)
調製例1−2のCuナノ粒子に代えて調製例1−4のCuナノ粒子を用い、調製例2−4の微細CuNi合金ナノ粒子を用いた以外は実施例1−1と同様にして接合材料ペーストを調製し、更に、せん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度を求めた。その結果を表3に示す。
【0098】
(比較例1−5)
微細CuNi合金ナノ粒子を混合しなかった以外は実施例1−1と同様にして接合材料ペーストを調製した。得られた接合材料ペーストについて、接合温度を300℃とした以外は実施例1−1と同様にして接合強度測定を行なった。得られた結果を表3に示す。
【0099】
(比較例1−6)
微細CuNi合金ナノ粒子に代えて調製例2−6の微細Cuナノ粒子を用いた以外は実施例1−1と同様にして接合材料ペーストを調製した。得られた接合材料ペーストについて、接合温度を300℃とした以外は実施例1−1と同様にして接合強度測定を行なった。得られた結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
<接合強度測定試験の結果>
表3に示した実施例1−1〜1−10の結果と比較例1−1〜1−6の結果との比較から明らかなように、実施例1−1〜1−10の接合材料ペーストは、接合温度が同じ比較用接合材料ペーストに対して接合強度が高い接合層が得られていることが確認された。この結果から、本実施例では、接合強度が高い接合層を低温(具体的には300℃以下)で形成することが可能な接合材料が得られていることが確認された。
【0102】
一方、比較例では、Cuナノ粒子(平均粒子径150nm)のみの接合材料により形成された接合層は、接合温度250℃で接合強度が11.7MPa(比較例1−1)、接合温度300℃で接合強度が18.6MPa(比較例1−5)であり、いずれも接合強度が低いことが確認された。また、調製例1−2のCuナノ粒子に対してNiを添加していない調製例2−6の微細Cuナノ粒子を添加した接合材料により形成された接合層は、接合温度250℃で接合強度が3.6MPa(比較例1−2)、接合温度300℃で接合強度が14.8MPa(比較例1−6)であり、いずれも接合強度が低いことが確認された。更に、調製例1−2のCuナノ粒子に対して、調製例2−7のCuSnナノ粒子を添加した接合材料により形成された接合層(比較例1−3)は、接合温度250℃で接合強度が7.4MPaと接合強度が低いことが確認された。これに対して、調製例1−2のCuナノ粒子に対して、微細CuNi合金ナノ粒子を添加した接合材料により形成された接合層は、接合温度250℃(実施例1−1〜1−3)及び接合温度300℃(実施例1−6〜1−10)ともにいずれの場合も、調製例1−2のCuナノ粒子のみの接合材料により形成された接合層(比較例1−1)の場合よりも接合強度が向上することが確認された。
【0103】
以上の結果から、粒子径及び平均粒子径が特定の範囲のCuナノ粒子と平均粒子径が特定の範囲の微細CuNi合金ナノ粒子とからなる金属ナノ粒子混合物を含有する接合材料は、該材料により形成される接合層の接合強度が向上することが確認された。これは、Niを添加することにより、微細Cuナノ粒子の耐酸化性が向上するためによると考えられる。一方、Niを添加しなかった微細Cuナノ粒子や、Ni以外のSnを添加した微細Cuナノ粒子では、粒子が酸化しやすいため、接合強度の向上は期待できないことが確認された。
【0104】
次に、接合材料における金属ナノ粒子混合物中のCuナノ粒子の粒子径に着目し、調製例1−2のCuナノ粒子(平均粒子径150nm)から粒子径が変化した場合について考察する。調製例1−4のCuナノ粒子(平均粒子径20nm)に対して調製例2−4の微細CuNi合金ナノ粒子(平均粒子径15.1nm)を添加した接合材料により形成された接合層(比較例1−4)は、接合温度250℃で接合強度が0.93MPaであったのに対し、調製例1−1のCuナノ粒子(平均粒子径300nm)及び調製例1−3のCuナノ粒子(平均粒子径60nm)に対して調製例2−4の微細CuNi合金ナノ粒子(平均粒子径15.1nm)を添加した接合材料により形成された接合層は、接合温度250℃で接合強度が13.1MPa(実施例1−4)及び接合温度250℃で接合強度が11.8MPa(実施例1−5)と、いずれも調製例1−2のCuナノ粒子のみの接合材料により形成された接合層(比較例1−1)よりも接合強度が高くなることが確認された。また、微細CuNi合金ナノ粒子の平均粒子径に対するCuナノ粒子の平均粒子径の比が4〜20の場合において接合強度の向上が見られることが確認された。
【0105】
以上の結果から、Cuナノ粒子の平均粒子径が50nm〜1000nmの範囲でかつ微細CuNi合金ナノ粒子の平均粒子径が1nm〜50nmの範囲にある接合材料の場合、該材料により形成された接合層の接合強度の向上が見られることが確認された。なお、Cuナノ粒子の粒子径が50nm未満の場合は、Cuナノ粒子の耐酸化性が不十分であるため、接合層の焼結が不十分となり強度が低下したと考えられる。また、Cuナノ粒子と微細CuNi合金ナノ粒子の平均粒子径の比が4〜20である接合材料において、該材料により形成された接合層の接合強度の向上が見られることが確認された。
【0106】
(実施例2−1〜2−9)
調製例1−2で調製したCuナノ粒子と調製例2−4で調製した微細CuNi合金ナノ粒子とを乳鉢ですりつぶして混合し、全金属ナノ粒子に対して99.9〜71.0質量%のCuナノ粒子と0.1〜29.0質量%の微細CuNi合金ナノ粒子を含有する混合粉末を調製した(実施例2−1〜2−9)。この混合粉末0.4gにデカノール20μL及びテルピネオール20μLを添加し、自転・公転ミキサーにより撹拌して接合材料ペーストを調製した。得られた接合材料ペーストについて、実施例1−1と同様にしてせん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度測定を行なった。得られた結果を表4に示す。
【0107】
(比較例2−1)
微細CuNi合金ナノ粒子を混合しなかった以外は実施例2−1と同様にして接合材料ペーストを調製し、更に、せん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度を求めた。その結果を表4に示す。
【0108】
(比較例2−2)
調製例1−2で調製したCuナノ粒子の含有量が70.0質量%及び調製例2−4で調製した微細CuNi合金ナノ粒子の含有量が30.0質量%からなる混合粉末を調製した以外は、実施例2−1と同様にして接合材料ペーストを調製し、更に、せん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度を求めた。その結果を表4に示す。
【0109】
(比較例2−3)
Cuナノ粒子を混合しなかった以外は実施例2−1と同様にして接合材料ペーストを調製し、更に、せん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度を求めた。その結果を表4に示す。
【0110】
【表4】
【0111】
<接合強度測定試験の結果>
表4に示した実施例2−1〜2−9の結果と比較例2−1〜2−3の結果との比較から明らかなように、実施例2−1〜2−9の接合材料ペーストは、微細CuNi合金ナノ粒子の含有量を0.1〜29質量%の範囲とすることにより、すなわち、Cuナノ粒子の含有量をCuナノ粒子及び微細CuNi合金ナノ粒子の合計量に対して99.9〜71質量%の範囲とすることにより、低温において接合強度が高い接合層が得られることが確認された。この結果から、本実施例では、接合強度が高い接合層を低温(具体的には300℃以下)で形成することが可能な接合材料が得られることが確認された。
【0112】
一方、調製例2−4の微細CuNi合金ナノ粒子を添加しなかった接合材料により形成された接合層(比較例2−1)、及び、微細CuNi合金ナノ粒子の添加量を30質量%とした接合材料により形成された接合層(比較例2−2)は、いずれも接合強度が低いことが確認された。また、調製例2−4の微細CuNi合金ナノ粒子のみからなる接合材料により形成された接合層(比較例2−3)は、ほとんど強度が出ず、容易に破断したことが確認された。
【0113】
以上の結果から、微細CuNi合金ナノ粒子の含有量を0.1〜29質量%とすることにより、低温において接合強度が高い接合層が得られることが確認された。また、微細CuNi合金ナノ粒の含有量は0.1〜29質量%であることが好ましく、1〜27質量%であることがより好ましいことが確認された。
【0114】
(実施例3−1〜3−3)
調製例1−2で調製したCuナノ粒子と調製例2−4で調製した微細CuNi合金ナノ粒子とを乳鉢ですりつぶして混合し、全金属ナノ粒子に対して95.0質量%のCuナノ粒子と5.0質量%の微細CuNi合金ナノ粒子を含有する混合粉末を調製した。
【0115】
次に、このCuナノ粒子−微細CuNi合金ナノ粒子混合粉末に、粒子径が1μm超のCu粒子からなりかつ平均粒子径が5μmのCuミクロン粒子を表5に示す量で混合した粉末0.3gに対して、デカノール15μL、テルピネオール15μLを添加し、自転・公転ミキサーにより撹拌して接合材料ペースト(金属ナノ粒子混合物)を調製した。得られた接合材料ペーストについて、実施例1−1と同様にしてせん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度測定を行なった。得られた結果を表5に示す。
【0116】
(比較例3−1)
Cuナノ粒子−微細CuNi合金ナノ粒子混合粉末に対してCuミクロン粒子の混合量を90.0質量%とした以外は実施例3−1と同様にして接合材料ペーストを調製し、更に、せん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度を求めた。その結果を表5に示す。
【0117】
【表5】
【0118】
<接合強度測定試験の結果>
表5に示した結果から明らかなように、接合材料(Cuナノ粒子−微細CuNi合金ナノ粒子混合粉末からなる金属ナノ粒子混合物+Cuミクロン粒子)におけるCuミクロン粒子の含有量を25〜85質量%とした接合材料により形成された接合層(実施例3−1〜3−3)の接合強度は、Cuミクロン粒子の含有量を90.0質量%とした接合材料により形成された接合層(比較例3−1)、及び調製例1−2で調製したCuナノ粒子のみの接合材料により形成された接合層(比較例2−1)の接合強度に比べて、高くなることが確認された。
【0119】
以上の結果から、接合材料におけるCuミクロン粒子の含有量を全金属粉末の85質量%以下とした接合材料に場合においても、調製例1−2で調製したCuナノ粒子のみの接合材料(比較例2−1)よりも、接合強度が高い接合層を低温(具体的には300℃以下)で形成することが可能であることが確認された。
【0120】
以上より、表3及び表4に示した実施例1−1〜1−10及び実施例2−1〜2−9の結果と、比較例1−1〜1−6及び比較例2−1〜2−9の結果との比較から明らかなように、実施例1−1〜1−10及び実施例2−1〜2−9の接合材料ペーストは、粒子径が1000nm以下のCu粒子からなりかつ平均粒子径が50nm〜1000nmであるCuナノ粒子と、平均粒子径が1nm〜50nmである微細CuNi合金ナノ粒子とからなる金属ナノ粒子混合物を含有しており、金属ナノ粒子混合物における微細CuNi合金ナノ粒子の含有量が0.1〜29質量%であり、かつ、金属ナノ粒子混合物の含有量が15質量%以上の範囲に含有する接合材料とすることにより、接合強度が高い接合層を低温(具体的には300℃以下)で形成することが可能な接合材料とすることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
以上説明したように、本発明によれば、接合強度が十分に高い接合層を無加圧、低温(具体的には300℃以下)で形成することが可能な接合材料を得ることができる。したがって、本発明の接合材料は、低温や無加圧での半導体素子の接合技術において接合材料として有用である。
【符号の説明】
【0122】
1:半導体素子、2:基板、2a:上部基板、2b:下部基板、2c,2d:各基板の突出部、3,3a,3b:接合層、4a,4b:密着層、5:信号端子、6:ボンディングワイヤ、7:モールド樹脂、8a,8b:試験片、9:接合層、10a,10b:密着層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12