(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
芯部繊維として熱融着性のポリエステル繊維を含む練条上がりのスライバーを、鞘部繊維として溶剤紡糸セルロース繊維からなる練条上がりのスライバーを、それぞれ粗紡機に供給した後、得られた複合粗糸を精紡することで二層構造紡績糸を得る工程を含む請求項4に記載の織編物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に具体的に記載されている芯鞘構造紡績糸としては、セルロース系繊維がビスコースレーヨンであるため、ハリコシとシャリ感のある風合いが出にくいという問題があった。また、芯部がポリエステル系短繊維とその融点より30℃以上融点の低い融着成分を有する熱融着性繊維からなる複合繊維のため、芯鞘繊維群のバイブレーションが起こり易くなり、洗濯耐久性が低下する傾向がある。更に、このような芯鞘構造の場合、芯部用の粗糸を作成してから、精紡工程で鞘用の粗糸と共に二層構造を形成する必要があるため、工程負荷が大きくコストアップにつながると共に、芯鞘構造の内部に多くの空間を保持しにくくなるため、二層構造性が悪くなるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ハリコシがありシャリ感を持ちながら溶剤紡糸セルロース繊維特有のソフトな風合いを併せ持ち、抗ピリング性、洗濯寸法安定性、洗濯耐久性に優れる二層構造紡績糸、これを用いた織編物、及び織編物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、芯部に熱融着性のポリエステル繊維を、鞘部に溶剤紡糸セルロース繊維を、特定の質量比で配した二層構造紡績糸とすることで、上記課題を解決し得ることを見出し本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明の二層構造紡績糸は、芯部に熱融着性のポリエステル繊維が配されており、かつ鞘部に溶剤紡糸セルロース繊維が配された芯鞘構造を有し、芯部と鞘部の質量比が、芯部/鞘部=20/80〜50/50であることを特徴とする。
【0010】
本発明の二層構造紡績糸によると、鞘部に配した溶剤紡糸セルロース繊維が、レーヨン等の再生セルロース繊維に比べて、繊維の配向がそろっており、強度が高く、弾力もあるため、ソフトな風合いを持たせながら、ハリコシ、シャリ感を向上させることができる。また、芯部に熱融着性のポリエステル繊維を配することで、抗ピリング性と洗濯寸法安定性を向上させることができる。更に、両者の質量比を特定の範囲にすることで、全体の特性のバランスを良好にすることができる。その結果、ハリコシがありシャリ感を持ちながら溶剤紡糸セルロース繊維特有のソフトな風合いを併せ持ち、抗ピリング性、洗濯寸法安定性、洗濯耐久性に優れる二層構造紡績糸が得られる。
【0011】
本発明では、練条上がりのスライバーの状態で、前記熱融着性のポリエステル繊維と前記溶剤紡糸セルロース繊維とが複合糸化されたものであることが好ましい。上記のような芯鞘構造を有する二層構造紡績糸は、練条上がりのスライバーの状態で好適に複合糸化できるため、粗紡上がりの粗糸を用いて複合糸化したものと比較して、
図1に示すような紡績糸内に空間を多く保持した紡績糸を融着することができ、よりソフトな風合いを保持することができる。
【0012】
上記において、前記芯部に配されている繊維が熱融着性のポリエステル繊維のみであることが好ましい。この構造では、芯部をバインダー繊維のみとすることにより、内部の空間をより多く保持した紡績糸を、その構造のままで保持できることになるため、「ハリコシ、シャリ感」をより保つことができる。さらに、芯鞘繊維群のバイブレーションの起こる可能性も下がる為、洗濯後の耐久性(抗ピリング性、寸法安定性、ハリコシ・シャリ感)がより高くなる。
【0013】
本発明では、前記溶剤紡糸セルロース繊維がフィブリル化防止加工を施したものであることが好ましい。前記のように溶剤紡糸セルロース繊維は、配向しているがゆえに、フィブリル化が起こり易いため、抗ピリング性をより高める上で、フィブリル化防止加工を行っているものが好ましい。
【0014】
本発明の織編物は、上記いずれかに記載の二層構造紡績糸を少なくとも一部に用いた織編物である。本発明の織編物によると、上記の如き作用効果により、ハリコシがありシャリ感を持ちながら溶剤紡糸セルロース繊維特有のソフトな風合いを併せ持ち、抗ピリング性、洗濯寸法安定性、洗濯耐久性に優れる織編物が得られる。
【0015】
一方、本発明の織編物の製造方法は、上記いずれかに記載の二層構造紡績糸を少なくとも一部に用いた織編物を作製する工程と、前記芯部の熱融着性のポリエステル繊維の融点より10℃以上高い温度で、処理時間30〜120秒間で熱処理して、前記織編物を熱融着させる工程とを含むことを特徴とする。本発明の織編物の製造方法によると、上記の如き作用効果が得られる二層構造紡績糸を少なくとも一部に用いて、適切な条件で織編物を熱融着させるため、ハリコシがありシャリ感を持ちながら溶剤紡糸セルロース繊維特有のソフトな風合いを併せ持ち、抗ピリング性、洗濯寸法安定性、洗濯耐久性に優れる織編物が得られる。
【0016】
上記において、芯部繊維として熱融着性のポリエステル繊維を含む練条上がりのスライバーを、鞘部繊維として溶剤紡糸セルロース繊維からなる練条上がりのスライバーを、それぞれ粗紡機に供給した後、得られた複合粗糸を精紡することで二層構造紡績糸を得る工程を含むことが好ましい。この工程を含む場合、粗紡上がりの粗糸を用いて複合糸化したものと比較して、
図1に示すような紡績糸内に空間を多く保持した紡績糸を融着することができ、よりソフトな風合いを保持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の二層構造紡績糸は、芯鞘構造を有する二層構造紡績糸であり、その芯部に熱融着性のポリエステル繊維が配されている。芯部には、熱融着性のポリエステル繊維以外の他の繊維を含み得るが、芯部に配されている繊維が熱融着性のポリエステル繊維のみであることが好ましい。本発明において、「熱融着性のポリエステル繊維」とは、融点が210℃以下の部分(融着成分)を少なくとも含むポリエステル繊維を指す。
【0019】
他の繊維を芯部に含む場合、本発明による効果を維持する上で、他の繊維の含有量は、芯部を構成する繊維中、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、15質量%以下がいっそう好ましく、10質量%以下が特に好ましい。他の繊維としては、本発明による効果を維持する観点より、通常のポリエステル繊維やナイロン繊維、ビニロン繊維、水溶性ビニロン繊維などの化学繊維、綿や麻、毛、絹などの天然繊維などが好ましい。これらの繊維は、短繊維の形態で使用することが好ましい。
【0020】
熱融着性のポリエステル繊維は、融着成分のみからなるポリエステル繊維、又は融着成分と通常のポリエステルとを含むポリエステル繊維の何れでもよい。通常のポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類あるいはこれらの共重合体からなる繊維であり、消臭や抗菌、蓄熱保温等の機能性物質を繊維に練りこんだものや、中空や三角等の異型断面を持つ特殊ポリエステル繊維であっても良い。
【0021】
熱融着性のポリエステル繊維の融着成分としては、ポリエチレンテレフタレートを構成するモノマー単位、及び/またはポリブチレンテレフタレートを構成するモノマー単位に、イソフタル酸やε―カプロラクトンを共重合した共重合ポリエステル等が挙げられ、中でも100℃以上の融点を有するε―カプロラクトン共重合ポリエステルであるのが好ましい。これらの共重合ポリエステルには更に、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール等が共重合されていても良い。これらの付加的な共重合成分の割合は、ポリエステルの構成成分の単位モルに対し20モル%以下であることが望ましい。
【0022】
また、熱融着性のポリエステル繊維の融点(融着成分を一部に含む場合はその融点)は、100℃〜210℃であることが好ましく、更に好ましくは105℃〜190℃である。融点が100℃未満であると、この熱融着性繊維を用いた二層構造紡績糸の衣料品が、高温雰囲気下、例えば高温乾燥、アイロンプレス時に糸断面が変形して、へたり易くなる傾向がある。また、融点が210℃を超えると、加工工程での熱処理エネルギー負荷が掛かり過ぎるので現実的ではない傾向がある。
【0023】
この熱融着性繊維は、その表面の少なくとも一部分が上記の融着成分からなっていれば良い。例えばこの融着成分のみからなる繊維であったり、この融着成分が繊維の表面の全部または一部を形成している芯鞘型、サイドバイサイド、海島型、花弁型等の複合繊維であっても良い。これらの内、芯鞘型で芯部がポリエチレンテレフタレート、鞘部が上記の融着成分が100℃以上の融点を有するε―カプロラクトン共重合ポリエステルからなる熱融着性繊維であるのが、接着強力の高さやハリコシのある風合いに寄与する点で好ましい。
【0024】
熱融着性のポリエステル繊維は、単糸繊度が0.1〜5.0dtexであることが好ましく、0.4〜4.5dtexであることが更に好ましい。単糸繊度が5.0dtexを越えると、糸斑、ネップが発生し易くなると共に、熱融着処理後に、繊維に融着塊等ができ易くなる傾向がある。更には、二層構造紡績糸の二層構造性が悪くなる場合がある。また、単糸繊度が0.1dtex未満であると、単繊維の曲げ剛性が低いために、熱融着処理されたとしても、ハリコシやシャリ感が得られ難くなる傾向がある。
【0025】
熱融着性のポリエステル繊維は、繊維長30〜60mmの範囲であることが好ましく、35〜55mmであることが更に好ましい。繊維長をこのような範囲とすることにより、糸斑、ネップが発生し難くなり、安定した二層構造を得ることができ、芯部と鞘部の境界付近において、それぞれの構成繊維が絡み合い、織編物が外力を受けてもズレや剥離等が生じ難くなるという効果が奏される。繊維長がこのような範囲外の場合、糸斑、ネップの発生や二層構造紡績糸の二層構造性の悪さにより、得られる織編物の表面概観の審美性を損うだけでなく、熱融着処理後に、繊維に融着塊等ができ易くなる傾向がある。なお、熱融着性のポリエステル繊維の断面形状は、特に限定されるものではない。
【0026】
本発明の二層構造紡績糸は、芯鞘構造を有する二層構造紡績糸であり、その鞘部には溶剤紡糸セルロース繊維が配されている。鞘部には、溶剤紡糸セルロース繊維以外の他の繊維を含み得るが、鞘部に配されている繊維が溶剤紡糸セルロース繊維のみであることが好ましい。
【0027】
他の繊維を鞘部に含む場合、本発明による効果を維持する上で、他の繊維の含有量は、鞘部を構成する繊維中、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。他の繊維としては、本発明による効果を維持する観点より、その他のセルロース系繊維、絹や獣毛繊維などが好ましい。これらの繊維は、短繊維の形態で使用することが好ましい。
【0028】
本発明に用いられる溶剤紡糸セルロース繊維は、パルプを原料に用い、これを溶解し得る溶剤、例えばN−メチルモルフォリン−N−オキサイド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピペリジン−N−オキサイド、ジメチルアセトアミド等に溶解させ、濾過して不純物を除去した後、溶液を乾式紡糸方法または湿式紡糸方法により紡糸することにより得られる繊維である。溶剤紡糸セルロース繊維は、セルロースそのものを溶剤に溶解させ紡糸して得られるものであり、ビスコースレーヨンのような再生セルロース繊維とは、区別されている。溶剤紡糸セルロース繊維は、優れた吸湿発熱性と静電気発生防止性を有する繊維であり、加えて、誘導体化等のプロセスを経ないため、セルロース分子の重合度の低下が少なく、強度面において優れている。
【0029】
溶剤紡糸セルロース繊維の単糸繊度は、0.1〜5.0dtexであることが好ましく、0.4〜4.5dtexであることが更に好ましい。単糸繊度が5.0dtex以下であると、糸斑、ネップが発生し難くなり、安定した二層構造の紡績糸を得ることができ、芯部と鞘部の境界付近において、それぞれの構成繊維が絡み合い、織編物が外力を受けてもズレや剥離等が生じ難くなるという効果が奏される。また、繊維の表面積が増すため、吸放湿性に好影響を与える。単糸繊度が5.0dtexを越えると、糸斑、ネップが発生し易くなると共に、風合いも硬くなり、更には二層構造紡績糸の二層構造性が悪くなる傾向がある。また、単糸繊度が0.1dtex未満であると、単繊維の曲げ剛性が低いために、熱融着処理されたとしても、ハリコシやシャリ感が得られ難くなる傾向がある。すなわち、単糸繊度が上記の範囲であると、ハリコシやシャリ感があり、肌触りが良好で、吸放湿性に優れ、紡績糸において二層構造を形成し易いという利点がある。
【0030】
溶剤紡糸セルロース繊維は、繊維長30〜60mmの範囲であることが好ましく、31〜55mmであることが更に好ましい。繊維長をこのような範囲とすることにより、糸斑、ネップが発生し難くなり、安定した二層構造を得ることができ、芯部と鞘部の境界付近において、それぞれの構成繊維が絡み合い、織編物が外力を受けてもズレや剥離等が生じ難くなるという効果が奏される。繊維長がこのような範囲外の場合、糸斑、ネップの発生や二層構造紡績糸の二層構造性の悪さにより、得られる織編物の表面概観の審美性を損ってしまう傾向がある。
【0031】
溶剤紡糸セルロース繊維の断面形状は、特に限定されるものではないが、例えば丸断面を有するものが使用できる。なお、
図1では、芯部と鞘部の繊維の区別を明確にするために、模式的に、鞘部の繊維を扁平形状に記載している。
【0032】
本発明では、溶剤紡糸セルロース繊維がフィブリル化防止加工を施したものであることが好ましい。フィブリル化防止加工としては、溶剤紡糸セルロース繊維を原綿段階で、クロルヒドリン基またはグルシジル基を有する化合物から少なくとも1つ選ばれる化合物とアルカリ性を示す化合物と中性塩からなる反応促進剤を含む水溶液中で処理する方法が挙げられる。
【0033】
この処理を行うのに使用する加工機としては、綿または糸染め用として使用されているパッケージ染色機を用いることができる。処理時間は、原綿の投入量、使用する装置、原綿の回転速度等の条件によって異なるが、10〜90分が適当である。処理時間が10分以下になると、十分なフィブリル化防止効果が得られず、また90分以上処理を行っても架橋反応が完了しているので、それ以上のフィブリル化防止効果がなくなる傾向がある。処理温度は、40℃以上、好ましくは60〜100℃が望ましい。40℃未満になると反応速度が遅くなるので処理時間が長くなり、100℃以上になると反応ムラが生じやすくなる傾向がある。
【0034】
本発明でいう二層構造紡績糸とは、
図1に示すような横断面形状を有するものである。
図1においては、鞘部1は溶剤紡糸セルロース繊維を示し、芯部2は熱融着性のポリエステル繊維を示すものである。つまり、芯部2を形成する前述の熱融着性のポリエステル短繊維群の周囲を溶剤紡糸セルロース短繊維群で被覆して鞘部1を形成させた芯鞘構造を有する複合紡績糸のことをいう。
【0035】
ここで芯部2を構成する繊維と鞘部1を構成する繊維が、繊維状態で混ざり合った通常の混紡状の紡績糸であったり、また該二層構造紡績糸の鞘部1にポリエステル短繊維が混在している状態では、溶剤紡糸セルロース繊維特有の風合いや吸放湿性が損なわれ易くなる。
【0036】
本発明の二層構造紡績糸の芯/鞘混用比率は、質量比にして20/80〜50/50の範囲であるのが好ましい。芯部の比率が20%未満になると、ポリエステル繊維の防皺性、洗濯時の収縮の防止や寸法安定性等の特長が発現し難く、また50%を越えると鞘部の繊維の被覆性が極端に悪くなり、芯部の熱融着性のポリエステル繊維が紡績糸表面に現れて溶剤紡糸セルロース繊維の風合いや吸放湿性が損なわれてしまう。更に好ましくは25/75〜45/55、特に好ましくは30/70〜40/60の範囲である。
【0037】
本発明の二層構造紡績糸に加撚される撚数は、紡調が乱れない通常の紡績で加撚される撚数範囲で良く、次式で表される撚係数Kは3.0〜4.2であるのが望ましい。
K=T/N
1/2
但し、
K:撚係数
T:撚数(回/2.54cm)
N:英式綿番手
本発明の二層構造紡績糸の製造方法は特に限定されないが、その一例について、
図2を用いて説明する。
【0038】
まず、常法にて製造した熱融着性のポリエステル繊維を、混打綿にて混綿を行い、常法の梳綿、練条を経て二層構造紡績糸の芯部用とするスライバーS1を作製する。他方、常法にて製造した溶剤紡糸セルロース繊維を、前述の同工程を経て二層構造紡績糸の鞘部用とするスライバーS2を作製する。次に、得られた熱融着性のポリエステル繊維からなる練条上りのスライバーS1と、溶剤紡糸セルロース繊維からなる練条上りのスライバーS2とを粗紡機に並行に供給する。各々のスライバーは、バックローラー3を通過後、エプロン4及びセカンドローラー5を通過する過程で送り出され、次いで、別途設けられたフロントローラー6AへS1が、6BへS2がそれぞれ送り出される。ここで、フロントローラー6Aの表面速度をセカンドローラー5の表面速度と同一にし、フロントローラー6Bの表面速度をセカンドローラー5の表面速度より速くすることで、スライバーS2をスライバーS1より速い速度、すなわち低張力で走行させて、S1にS2を巻き付けながら繊維束7とする。この繊維束7をフライヤーヘッド8に巻き付けることにより、複合粗糸を得て、これを精紡して二層構造紡績糸を得ることができる。
【0039】
このように、本発明の二層構造紡績糸の製造方法としては、芯部繊維として熱融着性のポリエステル繊維を含む練条上がりのスライバーを、鞘部繊維として溶剤紡糸セルロース繊維からなる練条上がりのスライバーを、それぞれ粗紡機に供給した後、得られた複合粗糸を精紡することで二層構造紡績糸を得る工程を含むことが好ましい。
【0040】
次に本発明の織編物の製造方法について、以下に説明する。本発明の織編物は、前記の二層構造紡績糸を少なくとも一部に用いた織編物である。本発明の織編物は、本発明の製造方法によって好適に製造することができる。
【0041】
本発明の製造方法では、まず、本発明の二層構造紡績糸を予め作製する。該二層構造紡績糸を少なくとも一部に用いて、公知慣例の方法で織編物を製造する。その後、得られた織編物をプレセット処理することなどにより、熱融着性のポリエステル繊維を融着させる(融着工程)。このようにすることで、熱融着性のポリエステル繊維の形状が、プレセットの熱によって固定されるために二層構造が保持され、得られる織編物が衣服となった後、洗濯又はアイロン掛けなどによって二層構造がつぶされ難くなるからである。
【0042】
プレセットの条件は、熱融着性のポリエステル繊維の種類を考慮して適宜設定すれば良いが、例えば、熱融着性のポリエステル繊維の融点より10℃以上高い温度で、処理時間30〜120秒間であることが好ましく、熱融着性のポリエステル繊維の融点より10℃以上高い温度で、処理時間40〜110秒間であることがより好ましい。上記の温度が低過ぎたり、処理時間が短過ぎたりすると、熱量が不足するため、熱融着性のポリエステル繊維が十分に融着されない場合がある。一方、上記温度が高過ぎたり処理時間が長過ぎたりすると、熱量が多過ぎて、溶剤紡糸セルロース繊維が黄変したり、織編物の風合いを必要以上に硬化させたりする場合がある。
【0043】
なお、紡績糸の段階で融着工程を経た二層構造紡績糸を用いて直接織編物を製造した場合は、糸が硬化しているため、製編織が困難となる。
【0044】
紡績糸に融着部が形成されることで、織編物にハリコシやシャリ感と抗ピリング性を付与することが可能となる。本発明においては、上記のように、織編物となした後、二層構造紡績糸内の熱融着性のポリエステル繊維を融着させることが好ましい。
【0045】
本発明の織編物は、本発明の効果を損なわない範囲において、通常の方法で染色されていても良い。
【0046】
本発明の織編物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、他の糸が用いられていても良い。但し、本発明の効果を十分に発現するには、織編物中に占める二層構造紡績糸の質量比率が60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上が更に好ましい。なお、用いられる他の糸の種類は特に限定されないが、更に、織編物中における他の糸の複合形態も、配列、交編織以外にも二層構造紡績糸との混繊、合撚等特に限定されるものではない。また、製織・製編される方法も特に限定されない。
【0047】
本発明の織編物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、その他の糸として、綿、絹、毛、熱融着性のポリエステルフィラメント、その他のポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリウレタン弾性繊維等が用いられていても良い。
【0048】
このようにして得られた織編物は、ハリコシがありシャリ感を持ちながら溶剤紡糸セルロース繊維のソフトな風合いも維持して、なおかつ抗ピリング性及び寸法安定性を有するため、各種衣料用途に好適に用いられる。
【0049】
本発明の織編物は、特に、二層構造紡績糸の芯部に配されている繊維が熱融着性のポリエステル繊維のみである場合に、これを用いた織編物の洗濯耐久性がより優れたものとなる。このような効果を得る上で、本発明の織編物の洗濯後の寸法変化率が、タテ及びヨコ共に5%以下が好ましく、3.5%以下がより好ましい。ここで、織編物の寸法変化率は、JISL0217:1995(103法1洗、ライン乾燥)に記載された方法に準じて、タテ、ヨコの寸法変化率を測定した値である。
【実施例】
【0050】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例における評価は以下の測定方法により行った。
【0051】
(1)風合い
5人の被験者のハンドリング検査を行い、生地風合いにおける硬さを次の5段階にて評価した。
1:柔らかくハリコシとシャリ感がない。
2:やや柔らかい。
3:普通(適度なハリコシとシャリ感)
4:やや硬めでハリコシとシャリ感がある。
5:非常に硬い。
【0052】
(2)抗ピリング性
JISL1076 8.1A法(ICI形試験機を用いる方法)に記載された方法を採用する。具体的には、編地をICI形試験機に5時間投入し、JISL1076 9.2に準じて等級判定して、この値を本発明における抗ピリング性とする。
【0053】
(3)寸法変化率
JISL0217:1995(103法1洗、ライン乾燥)に記載された方法に準じて、タテ、ヨコの寸法変化率をパーセンテージで評価した。
【0054】
(4)洗濯耐久性(洗濯外観変化)
JIS−L 0217 (103法)で30回洗濯した後、編地の初期からの外観変化度合い(特に白化現象(フィブリル化現象)、毛羽立ち現象)を、目視で以下の4段階にて評価した。
◎:初期に比べ外観変化がほとんど無く、実用上全く問題とならない。
○:初期に比べ外観変化がわずかに見られるが、実用上ほとんど問題とならない。
△:初期に比べ外観変化が見られ、実用上やや問題となる。
×:初期に比べ外観変化が大きく見られ、実用上問題となる。
【0055】
(実施例1)
融着成分としてポリエチレンテレフタレート単位にε−カプロラクトロンを共重合した融点が160℃の共重合ポリエステルを鞘部に配し、ポリエチレンテレフタレートを芯部に配した熱融着性のポリエステル繊維(日本エステル社製、商品名「キャスベン」)(4.4dtex×38mm)を用い、混打綿にて混綿を行い、常法の梳綿、練条を経て二層構造紡績糸の芯部用とするスライバー(S1)を作製した。他方、鞘部は、溶剤紡糸セルロース繊維(ユニチカトレーディング社製、商品名「シルフ」)(0.9dtex×38mm)を用い、原綿段階でフィブリル化防止加工を施した溶剤紡糸セルロース繊維原綿を、前述の同工程を経て二層構造紡績糸の鞘部用とするスライバー(S2)を作製した。これら2種のスライバーの単位長さ当りの質量比率は、S1/S2=3/7であった。
なお、フィブリル化防止加工は、原綿段階の溶剤紡糸セルロース繊維を、パッケージ染色機を用いて、クロルヒドリン基を有する化合物(ポリエチレングリコールジクロルヒドリン)と、アルカリ性を示す化合物(水酸化ナトリウム)と、中性塩からなる反応促進剤(無水芒硝(硫酸ナトリウム))を含む水溶液中で、処理温度60℃、処理時間60分で処理した。
【0056】
次に、
図2に示すような構造を有する粗紡機へ、S1が芯成分の繊維からなるスライバーとなりS2が鞘成分の繊維からなるスライバーとなるように、上記2種のスライバーを供給した。ここで、フロントローラー6Aの表面速度とセカンドローラー5の表面速度を、同一とした。また、フロントローラー6Bの表面速度をセカンドローラー5の表面速度の1.03倍とした。スライバーS1にスライバーS2を巻付けて繊維束7とした後、フライヤ8を介して粗糸木管に巻取り、粗糸質量180gr/30yd(1gr:0.065g、1yd:0.9144m)、撚数1.06T/2.54cmの複合粗糸として巻取った。この複合粗糸を精紡し、40番手(英式綿番手)、撚数24.9T/2.54cmの二層構造紡績糸を得た。
【0057】
得られた紡績糸において、芯部の熱融着性のポリエステル繊維と鞘部の溶剤紡糸セルロース繊維の芯/鞘質量比率は30/70であった。
【0058】
この紡績糸と、予め用意した22dtexのポリウレタン弾性繊維とを用いて(質量比:前者/後者=94/6)、釜径34in(1in=2.54cm)、28ゲージのシングル編機でベア天竺組織を編成した。得られた生機に対し、芯部の熱融着性のポリエステル繊維の融点より高い温度(170℃)で、処理時間60秒間で熱処理して熱融着させるためにプレセットを施し、精練・リラックス、液流染色、ファイナルセットの順で染色加工し、巾160cm、目付け185g/m
2及び編物密度60コース×41ウェールである編地を得た。
【0059】
(実施例2)
芯部の熱融着性のポリエステル繊維と鞘部の溶剤紡糸セルロース繊維の芯/鞘質量比率を40/60とすること以外は実施例1と同様にして本発明の二層構造紡績糸を得て、実施例1と同様にして本発明の編地を得た。
【0060】
(比較例1)
芯部をポリエチレンテレフタレートからなるレギュラーポリエステル繊維にて構成すること以外は、実施例1と同様にして比較例1の二層構造紡績糸を得て、実施例1と同様にして比較例1の編地を得た。
【0061】
(比較例2)
前記の溶剤紡糸セルロース繊維を100%用いて、常法の梳綿、練条、粗紡を経て紡績糸を得ること以外は、実施例1と同様にして比較例2の編地を得た。
【0062】
(比較例3)
実施例1において、芯部用の繊維として、前記熱融着性のポリエステル繊維に加えて、通常のポリエステル短繊維を用い、鞘部用の繊維として、ビスコースレーヨン繊維を用いて、次のようにして芯鞘構造紡績糸を得たこと以外は、実施例1と同様にして比較例3の編地を得た。
【0063】
即ち、ポリエチレンテレフタレートからなるポリエステル短繊維(1.7dtex×38mm)と、バインダー繊維である前記熱融着性のポリエステル繊維を用い、ポリエステル繊維とバインダー繊維の混綿重量比率を60:40として混打綿にて混綿を行い、常法の梳綿、練条、粗紡を経て芯鞘構造紡績糸の芯部用とする粗糸を作成し、他方、常法にて製造したビスコースレーヨンステープル(1.7dtex×38mm)を、前述の同工程を経て芯鞘構造紡績糸の鞘用とする粗糸を、得られる芯鞘構造紡績糸の芯/鞘重量比率が40/60となるように作成した。
【0064】
これらの粗糸を1本ずつを、前記ポリエステルステープルとバインダー繊維の混紡粗糸を真中にして川の字状に各々の粗糸を接触させつつ、計3本リング精紡機のバックローラーに配したあと、延伸して撚係数K=3.6にて加撚することによりポリエステルステープルとバインダー繊維の混綿繊維群が芯部、ビスコースレーヨンステープルの繊維群が鞘部を構成する英式綿番手40番手の芯鞘構造紡績糸を得た。
得られた実施例1〜2及び比較例1〜3の編地の評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1からも明らかなように、実施例1〜2の二層構造紡績糸を用いた編地は、ハリコシとシャリ感のある風合いを有し、抗ピリング性と寸法安定性、洗濯耐久性に優れた布帛であった。
【0067】
これに対して、芯部をレギュラーポリエステル繊維とした比較例1の布帛は、ややハリコシのない風合いで、抗ピリング性も悪かった。溶剤紡糸セルロース繊維100%の比較例2の布帛は、柔らかくハリコシのない風合いであり、抗ピリング性や寸法安定性も悪かった。また、芯部用の繊維として、前記熱融着性のポリエステル繊維に加えて、通常のポリエステル短繊維を用い、鞘部用の繊維として、ビスコースレーヨン繊維を用いた比較例3の布帛は、抗ピリング性、寸法安定性がやや劣り、ハリコシを保ちながら柔軟性がでるとまでは評価できず、風合いは区別できるくらいに劣るものであり、洗濯耐久性も不十分であった。