特許第6270462号(P6270462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6270462
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】スキンケア剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/19 20060101AFI20180122BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20180122BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   A61K8/19
   A61K8/02
   A61Q19/00
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-264411(P2013-264411)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-120649(P2015-120649A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】599083411
【氏名又は名称】株式会社 MTG
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘道
【審査官】 松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−068313(JP,A)
【文献】 特開2004−155720(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/084097(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/156804(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/156805(WO,A1)
【文献】 特公昭61−003765(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペースト状を呈する基剤と、該基剤に分散された磁性体粉とを有し、塗布された肌から上記磁性体粉を磁力により吸着除去可能に構成されたスキンケア剤であって、
上記磁性体粉を構成する粒子は、金属鉄または強磁性を示すフェライトより構成された中心部と、該中心部よりも電気抵抗率の高い物質より構成され、上記中心部を被覆する絶縁層とを有しており、
上記磁性体粉は、間隔が6.5mmである平行平板電極の間に磁力により保持された状態で250Vの電圧を印加したときの抵抗値が1MΩ以上であり、
上記絶縁層は、酸化被膜と、該酸化被膜上に積層された樹脂膜とを有していることを特徴とするスキンケア剤。
【請求項2】
上記磁性体粉は、80質量%以上のマグネタイトを含有し、残部がヘマタイト、ウスタイト及び不可避不純物からなる化学成分を有していることを特徴とする請求項1に記載のスキンケア剤。
【請求項3】
上記磁性体粉中のヘマタイトの含有量が5質量%以下であることを特徴とする請求項2に記載のスキンケア剤。
【請求項4】
上記磁性体粉中のウスタイトの含有量が15質量%以下であることを特徴とする請求項2または3に記載のスキンケア剤。
【請求項5】
上記磁性体粉をメタノールに分散させて得られる上澄み液の、波長474nmにおける透過率が70%以上であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のスキンケア剤。
【請求項6】
上記磁性体粉の飽和磁化は80Am/kg以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のスキンケア剤。
【請求項7】
上記磁性体粉は、レーザー回折散乱法により得られる粒径分布から求めた体積平均粒径が50〜75μmであり、粒径が37μm未満である粒子の含有量が15質量%以下であり、かつ、粒径が105μm以上である粒子の含有量が5質量%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のスキンケア剤。
【請求項8】
上記磁性体粉の見掛密度は1.95〜2.65g/cmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のスキンケア剤。
【請求項9】
上記磁性体粉の含有量は15〜80質量%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のスキンケア剤。
【請求項10】
粘度が9000mPa・s以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のスキンケア剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌に塗布するスキンケア剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肌の美容のために用いられるペースト状のスキンケア剤として、肌に塗布してから暫く時間を置いた後に除去することにより、肌の汚れや老廃物等をスキンケア剤とともに除去するものがある。このようなスキンケア剤を肌から除去する方法としては、コットン等による拭き取りや、ぬるま湯等により洗い落とす方法が一般的である。最近では、これらの一般的方法よりもより簡便に使用後のスキンケア剤を除去する方法が望まれている。
【0003】
例えば特許文献1には、鉄粉を混合したスキンケア剤と、本体に磁石を備えたリムーバーとを組み合わせて用いる方法が提案されている。このように、鉄粉を混合したスキンケア剤と磁石を備えたリムーバーとを用いれば、肌に塗布された使用後のスキンケア剤を磁力により容易に除去することができ、肌の汚れや老廃物をスキンケア剤中の鉄粉と一緒に除去することができる。
【0004】
また、特許文献2〜3には、肌から磁力により吸着除去可能なスキンケア剤の一例が開示されている。これらのスキンケア剤は、栄養成分等を含むクリーム状の基剤に鉄粉ないし酸化鉄が混合されて構成されており、スキンケア剤が吸着除去された後に、肌表面に栄養成分を残留させることを図っている。これにより、肌の汚れ等を除去する作用と、栄養成分等を肌に与える作用との2つの作用を発揮させようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−187874号公報
【特許文献2】特開2004−155720号公報
【特許文献3】特開2005−239563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
肌に塗布したスキンケア剤に含まれる磁性体粉は、磁性体粉全体に作用する磁力が大きいほど肌表面から容易に吸着除去することができる。それ故、磁性体粉全体に作用する磁力を大きくする観点からは、磁化の大きい鉄粉や黒酸化鉄を磁性体粉として用いることが好ましい。しかしながら、鉄粉や黒酸化鉄を含有するスキンケア剤は、時間が経つにつれて作製当初の香りが変質し、スキンケア剤として好ましくない異臭になるという問題がある。
【0007】
この現象は、例えば以下のような原因により起こると考えられる。鉄粉の主成分である金属鉄は、容易に酸化される。また、黒酸化鉄の主成分であるマグネタイトは、2価の鉄と3価の鉄との両方を含む混合原子価化合物であるため、酸化剤または還元剤との接触により、鉄の酸化数が変化し得る。このように、鉄粉や黒酸化鉄を構成する粒子の表面は、化学反応が起こりやすい状態になっていると考えられる。そして、粒子表面の反応性が高い場合には、スキンケア剤に含まれる基剤の油分や香料等が粒子と接触して変質したり、粒子の表面に香料等が吸着されたりする等の現象が起こり、ひいてはスキンケア剤の香りを変質させると考えられる。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、磁力により吸着除去されやすく、かつ、作製当初の香りを長期間維持できるスキンケア剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、ペースト状を呈する基剤と、該基剤に分散された磁性体粉とを有し、塗布された肌から上記磁性体粉を磁力により吸着除去可能に構成されたスキンケア剤であって、
上記磁性体粉を構成する粒子は、金属鉄または強磁性を示すフェライトより構成された中心部と、該中心部よりも電気抵抗率の高い物質より構成され、上記中心部を被覆する絶縁層とを有しており、
上記磁性体粉は、間隔が6.5mmである平行平板電極の間に磁力により保持された状態で250Vの電圧を印加したときの抵抗値が1MΩ以上であり、
上記絶縁層は、酸化被膜と、該酸化被膜上に積層された樹脂膜とを有していることを特徴とするスキンケア剤にある。
【発明の効果】
【0010】
上記スキンケア剤に含まれる磁性体粉は、鉄系の強磁性体よりなる中心部を有する粒子から構成されている。鉄系の強磁性体は磁化が大きいため、磁石等を近づけた際に、上記磁性体粉全体に作用する磁力が大きくなりやすい。そのため、上記磁性体粉は、使用済みのスキンケア剤や肌の汚れ等と共に肌表面から磁力により吸着除去されやすくなる。その結果、使用済みのスキンケア剤等を肌表面から容易に吸着除去することができ、ひいては肌表面への使用済みのスキンケア剤等の残留を抑制できる。
【0011】
また、上記粒子は、上記中心部を被覆する上記絶縁層を有している。そして、上記磁性体粉の抵抗値が上記特定の範囲内にある。このように、個々の上記粒子に上記絶縁層を設け、かつ、磁性体粉全体の上記抵抗値が上記特定の範囲内となるように構成された上記磁性体粉は、スキンケア剤の香りを変質させにくい。すなわち、上記磁性体粉は、上記絶縁層の存在により、上記スキンケア剤に含まれる基剤の油分や香料等と上記中心部との直接的な接触を抑制できる。そのため、上記スキンケア剤は、作製当初の香りを長期間維持することができる。
【0012】
以上のように、上記スキンケア剤は、肌表面から磁力により吸着除去されやすく、かつ、作製当初の香りを長期間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1参考例における、スキンケア剤の使用方法の説明図。
図2参考例における、磁性体粉を構成する粒子の断面を示す説明図。
図3参考例における、反応性試験により得られた可視吸収スペクトル。
図4】実施例における、絶縁層が多層積層構造を有する粒子の断面を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記スキンケア剤の基剤は、アスコルビン酸誘導体、コウジ酸、アルブチン、トラネキサム酸等の美白成分、アミノ酸、ビタミン、植物エキス、微生物発酵物等の栄養成分、及び保湿成分等の、肌に美容効果を与える美容成分を含んでいてもよい。また、上記基剤は、上述した各成分に加えて、さらに化粧品に通常用いられる添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、潤滑剤、抗菌剤、香料、pH調整剤等がある。これらの添加剤は、本発明の作用効果を損なわない範囲で適宜添加することができる。
【0015】
また、スキンケア剤は、得ようとする美容効果に応じて、磁性体粉が肌から磁力により吸着除去される際にその少なくとも一部が肌表面に残留するように構成されていてもよく、磁性体粉に伴って肌表面からほとんど全部が除去されるように構成されていてもよい。
【0016】
上記磁性体粉の中心部は、鉄系の強磁性体より構成されている。鉄系の強磁性体としては、例えば、金属鉄や強磁性を示すフェライトが挙げられる。
【0017】
上述した強磁性を示すフェライトとしては、スピネル型フェライトや、マグネトプランバイト型フェライト、ガーネット型フェライト、ペロブスカイト型フェライト等を用いることができる。これらのフェライトの中で、飽和磁化が高く、残留磁化及び保磁力の両方が低いソフトフェライトを主成分とすることが好ましい。ソフトフェライトの具体例としては、(MO)(Fe(但し、x+y=100mol%であり、MはFe、Mn、Mg、Sr、Ca、Ba、Cu、Zn、Ni、Li、Co等の金属元素から選ばれる1種または2種以上の元素である。)で表される組成式を有するスピネル型フェライトが挙げられる。また、スピネル型フェライトの中でも、飽和磁化の高いフェライトを用いることがより好ましい。
【0018】
一方、スキンケア剤に用いる磁性体粉は、構成する元素の種類が少ない方が好ましい。それ故、上記磁性体粉の中心部にフェライトを用いる場合には、当該フェライトとして、高い飽和磁化を有すると共にFe及びOの2種類の元素から構成されているマグネタイト(Fe)を用いることがさらに好ましい。なお、上述した強磁性を示すフェライトは、通常、ウスタイトやヘマタイト等の酸化度の異なる鉄系酸化物や不可避不純物を含有している。
【0019】
上記中心部を被覆する絶縁層は、単一の物質から構成されていてもよく、複数の物質から構成されていてもよい。また、絶縁層が複数の物質から構成されている場合には、絶縁層は、複数の層が積層された多層積層構造であってもよい。
【0020】
磁性体粉の抵抗値は、その値が高いほど、スキンケア剤の香りの変質を抑制する効果の高いものとなる。スキンケア剤の香りを長期間維持する観点から、磁性体粉の抵抗値は1MΩ以上とする。
【0021】
また、磁性体粉の抵抗値が高いほどスキンケア剤の香りを維持できる期間をより長くできる。それ故、磁性体粉の抵抗値は1000MΩ以上であることが好ましく、10000MΩ以上であることがより好ましい。
【0022】
一方、磁性体粉の抵抗値が1MΩ未満の場合には、絶縁層による上述の効果が不十分となる。そのため、スキンケア剤の香りが変質しやすくなり、作製当初の香りを維持することが難しい。
【0023】
なお、磁性体粉の抵抗値は、絶縁層を構成する物質によって定まる最大値以上の値は取り得ない。例えば絶縁層が後述する酸化被膜よりなる場合には、抵抗値の上限は600000MΩ程度である。
【0024】
磁性体粉の抵抗値の測定は、以下の方法により行うことができる。電極間間隔6.5mmにて非磁性の平行平板電極(10mm×40mm)を対向させ、その間に、予め秤量した200mgの磁性体粉を配置する。次いで、磁石(表面磁束密度:1500Gauss、電極に接する磁石の面積:10mm×30mm)を平行平板電極に接触させ、電極間に磁場を発生させる。これにより、磁性体粉が両電極に接触しつつ、両電極の間に保持される。この状態で電極間に250Vの電圧を印加し、磁性体粉の抵抗値を絶縁抵抗計(SM−8210、東亜ディケーケー(株)製)にて測定する。
【0025】
また、絶縁層は、ヘマタイトを主成分として含有する酸化被膜を有していることが好ましい。ヘマタイトは、化学的に安定であるため、スキンケア剤に含まれる基剤の油分や香料等と接触してもこれらを変質させるおそれが小さい。また、酸化被膜は、欠陥が少なく緻密な膜になりやすいため、上記中心部とスキンケア剤に含まれる基剤の油分や香料等との直接的な接触を防止できる。その結果、スキンケア剤は、作製当初の香りをより長期間維持することができる。なお、「主成分」とは、最も含有量の多い化学成分であることをいう。すなわち、酸化被膜には、主成分としてのヘマタイト以外に、不可避不純物等の他の化学成分が含まれ得る。
【0026】
また、酸化被膜は、例えば、鉄系の強磁性体よりなる粒子に、その表面を酸化させる酸化被膜処理を施すことにより形成される。そして、酸化被膜を形成する場合の磁性体粉の抵抗値は、酸化被膜処理の条件を制御することにより容易に調整できる。それ故、絶縁層として酸化被膜を有する磁性体粉は、製造容易であると共に、抵抗値や磁気特性等の特性を容易に調整できる。
【0027】
上述した酸化被膜処理は、例えば、酸素がある雰囲気下で上記粒子を加熱することにより実施することができる。酸化被膜処理における加熱は、ロータリー式電気炉、バッチ式電気炉等の一般的な炉により実施される。また、酸化被膜処理における典型的な加熱温度は200〜700℃である。かかる処理において、加熱温度が過度に高い場合には、磁性体粉が過度に酸化するおそれがあり、場合によっては飽和磁化が低下したり、赤色微粉が多く発生するおそれがある。一方、加熱温度が過度に低い場合には、酸化被膜の形成が不十分となり、磁性体粉の抵抗値が過度に低くなるおそれがある。そのため、場合によっては酸化被膜に由来する作用効果が不十分となり、スキンケア剤の香りが変質しやすくなるおそれがある。
【0028】
また、絶縁層は、樹脂よりなる樹脂膜を有していてもよい。樹脂膜は、上述した酸化被膜と同様に、スキンケア剤に含まれる基剤の油分や香料等を変質させるおそれが小さい。また、上記中心部と香料等との直接的な接触を防止できる。そのため、スキンケア剤は、作製当初の香りをより長期間維持することができる。
【0029】
樹脂膜を構成する樹脂としては、例えば、アクリレーツコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、カチオン化セルロース、ポリアクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体等の樹脂を用いることができる。また、樹脂膜を構成する樹脂には、磁性体粉の色調を調整する目的で、酸化チタン等の顔料を配合しても良い。
【0030】
また、上記磁性体粉は、80質量%以上のマグネタイト(Fe)を含有し、残部がヘマタイト(Fe)、ウスタイト(FeO)及び不可避不純物よりなる化学成分を有していることが好ましい。マグネタイトはフェリ磁性を持つ強磁性体であるが、ヘマタイト及びウスタイトは反強磁性体である。そのため、マグネタイトの含有量を多くすることにより、磁性体粉全体に作用する磁力がより大きくなる。その結果、磁性体粉及び使用済みのスキンケア剤等を肌からより容易に吸着除去することができる。かかる観点から、マグネタイトの含有量は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0031】
また、磁性体粉に含まれるヘマタイトの含有量が5質量%以下であることが好ましい。この場合には、磁性体粉中の反磁性体の割合が減少するため、磁性体粉全体に作用する磁力がより強くなる。その結果、磁性体粉及び使用済みのスキンケア剤等を肌からより容易に吸着除去することができる。また、赤褐色を呈するヘマタイトの含有量が少ないため、スキンケア剤が赤みを帯びる現象の発生を抑制できる。そのため、スキンケア剤の調色がより容易となる。
【0032】
また、磁性体粉に含まれるウスタイトの含有量が15質量%以下であることが好ましい。この場合には、磁性体粉中の反磁性体の割合が減少するため、磁性体粉全体に作用する磁力がより強くなる。その結果、磁性体粉及び使用済みのスキンケア剤等を肌からより容易に吸着除去することができる。また、ウスタイトはマグネタイト等に比べて酸化度が低いため、ウスタイトの含有量を低減することにより、磁性体粉が更なる酸化を受けにくくなる。その結果、磁性体粉の性能がより長期間にわたって安定しやすくなり、ひいてはスキンケア剤の性能がより長期間にわたって安定しやすくなる。
【0033】
また、上記磁性体粉をメタノールに分散させて得られる上澄み液の、波長474nmにおける透過率が70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。上澄み液の透過率は、主としてヘマタイトからなり、メタノールに分散可能な程度に極めて粒径の小さい粒子の含有量を示す値として用いられる。
【0034】
上記透過率が70%以上の場合には、上述した極めて粒径の小さい粒子の含有量を十分に低減できる。このような粒径の極めて小さい粒子は、磁性体粉の吸着除去効率の低下や、スキンケア剤が赤みを帯びる原因となるため、過度に多く含まれることは好ましくない。また、粒子の粒径が小さくなるほど、磁性体粉の磁気特性等が悪化しやすくなる。そこで、上澄み液の透過率を指標として、その値を上記特定の範囲に制御することにより、磁性体粉の吸着除去効率がより向上するとともに、スキンケア剤が赤みを帯びる現象をより確実に抑制できる。
【0035】
また、磁性体粉の飽和磁化は、80Am/kg以上であることが好ましい。この場合には、磁性体粉全体に作用する磁力がより大きくなりやすい。その結果、磁性体粉を肌からより容易に吸着除去することができる。なお、磁性体粉の飽和磁化の値は大きいほど好ましいが、上記鉄系の強磁性体がマグネタイトの場合には、通常、飽和磁化は95Am/kg以下である。
【0036】
また、磁性体粉は、レーザー回折散乱法により得られる粒径分布から求めた体積平均粒径が50〜75μmであり、粒径が37μm未満である粒子の含有量が15質量%以下であり、かつ、粒径が105μm以上である粒子の含有量が5質量%以下であることが好ましい。
【0037】
体積平均粒径は、レーザー回折散乱法により得られた粒径分布において、体積分布モード、ふるい下表示により得られる累積50%粒子径(メジアン径)として算出される。
【0038】
また、粒径が37μm未満である粒子(以下、「小径粒子」ということがある。)の含有量は、例えば、呼び寸法37μm(400メッシュ)の標準ふるいを通過できる粒子の量として測定される。
【0039】
また、粒径が105μm以上である粒子(以下、「大径粒子」ということがある。)の含有量は、例えば、呼び寸法105μm(145メッシュ)の標準ふるいを通過できない粒子の量として測定される。
【0040】
体積平均粒径が50μm未満の場合には、磁性体粉の粒径分布が、粒径が過度に小さい粒子の含有量が多い分布となりやすい。個々の粒子に作用する磁力は粒径が小さいほど弱くなる。そのため、粒径が過度に小さい粒子を多く含有する場合には、磁性体粉全体に作用する磁力が弱くなりやすい。その結果、磁性体粉及び使用済みのスキンケア剤等が肌から吸着除去されにくくなり、これらが肌表面に残留しやすくなるおそれがある。
【0041】
しかしながら、体積平均粒径を50μm以上に制御するだけでは、粒径が過度に小さい粒子の含有量を確実に減少させることが困難である。そのため、体積平均粒径を50μm以上に制御することに加えて、小径粒子の含有量を15質量%以下に規制することが重要である。小径粒子の含有量を15質量%以下に規制することにより、粒径が過度に小さい粒子の含有量を確実に減少させることができる。
【0042】
一方、体積平均粒径が75μmを超える場合には、磁性体粉の粒径分布が、粒径が過度に大きい粒子の含有量が多い粒径分布となりやすい。そのため、この場合には、スキンケア剤の肌触りが悪くなる等、使用感が悪化するおそれがある。
【0043】
しかしながら、体積平均粒径を75μm以下に制御するだけでは、粒径が過度に大きい粒子の含有量を確実に減少させることが困難である。そのため、体積平均粒径を75μm以下に制御することに加えて、大径粒子の含有量を5質量%以下に規制することが重要である。大径粒子の含有量を5質量%以下に規制することにより、粒径が過度に大きい粒子の含有量を確実に減少させることができる。
【0044】
以上のように、磁性体粉の体積平均粒径を上記特定の範囲に制御した上で、さらに小径粒子の含有量及び大径粒子の含有量の双方を規制することにより、適切な大きさの粒子の含有量を多くした最適な粒径分布を実現できる。そして、最適な粒径分布を有する磁性体粉は、磁石等を接近させた際に磁性体粉全体に作用する磁力がより大きくなる。その結果、上記磁性体粉を肌からより容易に吸着除去することができ、ひいては使用済みのスキンケア剤等の肌表面への残留を防止することができる。また、上記磁性体粉は、肌表面に残留しにくいため、磁性体粉の除去のために別途洗顔等を行う必要がなくなり、使用者にとってより扱いやすいものとなる。
【0045】
また、磁性体粉の見掛密度が1.95〜2.65g/cmであることが好ましい。磁性体粉の見掛密度は、磁性体粉を構成する粒子の平均的な形状の指標として用いられる値であり、見掛密度が高いほど粒子の平均的な形状が真球に近づくことを示す。すなわち、見掛密度が高い磁性体粉は、略球状を呈し、凹凸が比較的小さい粒子を多く含有するものとなりやすい。一方、見掛密度が低い磁性体粉は、略楕円体状や塊状等の非球状を呈し、凹凸が比較的大きい粒子を多く含有するものとなりやすい。
【0046】
また、見掛密度が高い磁性体粉は、見掛密度が低い磁性体粉に比べて個々の粒子の質量が大きくなりやすい。そのため、磁性体粉全体に作用する磁力が大きくなりやすい。この原因としては、例えば、見掛密度が高くなると、粒子内部に存在する空洞の体積が小さくなること等が考えられる。
【0047】
磁性体粉の見掛密度が2.65g/cmを超える場合には、過度に質量の大きな粒子の含有量が多くなるおそれがある。そのため、スキンケア剤に混合した状態で磁性体粉が均一に分散しにくくなるおそれがあり、場合によっては、磁性体粉が保管中等に沈降することも考えられる。
【0048】
一方、見掛密度が1.95g/cm未満となる場合は、粒子の凹凸形状が過度に大きくなるおそれがある。これにより、スキンケア剤の粘度が高くなるおそれがあり、場合によっては肌に塗布しにくくなることも考えられる。
【0049】
見掛密度が1.95g/cm未満となる場合は、粒子の結晶成長が不十分な可能性と、粒子の結晶成長が過度に進んだ可能性との2つの可能性が考えられる。粒子の結晶成長が不十分な場合には、上述したように凹凸が過度に大きな形状となるおそれがあるほか、粒子の強度が低くなるおそれがある。そのため、場合によっては使用中に粒子の割れや欠けが発生することが考えられる。このような、過度に大きな凹凸形状や、粒子の割れあるいは欠けの発生は、肌触りを悪化させたり、粒子に作用する磁力が低くなったりする原因となるため、好ましくない。
【0050】
また、粒子の結晶成長が過度に進んだ場合には、粒子同士が過度に融着しやすくなり、融着によって上述したように粒子の凹凸が過度に大きくなるおそれがある。また、これに伴い、融着された粒子が解砕される際に、解砕によって生じる粒子の凹凸が過度に大きくなるおそれがある。そのため、この場合には、スキンケア剤を肌に塗布する際の広がりやすさが悪化したり、塗布する際の肌触りが悪化したりするなど、使用感を悪化させるおそれがある。
【0051】
また、空気透過法を用いて測定したときの表面積が200〜450cm/gであることが好ましい。磁性体粉の比表面積は、粒子の表面に形成される細孔等の微細構造の指標であり、比表面積の値が大きいほど細孔等が多く形成されることを示す。
【0052】
磁性体粉の比表面積が200cm/g未満の場合には、細孔等の微細構造が十分に形成されていない可能性がある。そのため、粒子の表面にスキンケア剤が保持されにくくなり、磁性体粉の粒子がスキンケア剤に分散しにくくなるおそれがある。一方、磁性体粉の比表面積が450cm/gを超える場合には、微細構造が過度に形成されている可能性があり、美容成分が微細構造に入り込むおそれがある。そのため、肌に直接作用し得る美容成分の量が減少し、美容効果が低下するおそれがある。
【0053】
磁性体粉は、表面に美容成分を結合させたり、コーティングを施したりする等の手法により、磁性体粉が別の機能を発揮し得るように構成してもよい。磁性体粉に付与する機能の例としては、界面活性剤等を用いて磁性体粉の分散性を改善したり、皮脂を吸着する樹脂成分等を用いて磁性体粉とともに肌の皮脂を吸着除去できるようにする等が考えられる。
【0054】
このように、コーティング剤等の表面改質剤により磁性体粉の表面を改質する場合には、磁性体粉が適度に大きな凹凸形状が付与された粒子を多く含むことが好ましい。適度に大きな凹凸形状を有する粒子は、凹凸形状が小さい場合に比べて表面積が大きくなるため、表面改質剤を保持しやすい。そのため、このような粒子を多く含有する磁性体粉は、表面改質剤による表面改質の効果をより得やすくなる。一方、凹凸形状が小さい略球状等の粒子を多く含有する場合には、個々の粒子に表面改質剤が付着しにくくなり、表面改質の効果を得にくくなるおそれがある。
【0055】
表面改質剤の効果をより得やすくするためには、見掛密度が1.95〜2.65g/cmであることが好ましく、空気透過法を用いて測定したときの比表面積が200〜450cm/gであることが好ましい。見掛密度及び比表面積の値のうち、いずれか一方が上記特定の範囲であれば表面改質の効果が得られやすくなり、双方ともに上記特定の範囲を満たすことにより、表面改質の効果が一層得られやすくなる。
【0056】
また、磁性体粉の含有量は、スキンケア剤全体に対して15〜80質量%であることが好ましい。磁性体粉の含有量が上記特定の範囲である場合には、スキンケア剤に磁石等を近づけた際に、磁性体粉全体に作用する磁力が大きくなりやすい。それ故、磁性体粉及び使用済みのスキンケア剤等を肌表面からより容易に吸着除去することができる。
【0057】
磁性体粉の含有量が15質量%未満の場合には、磁性体粉の含有量が少ないため、磁石等を近づけた際に磁性体粉全体に作用する磁力が不十分となりやすい。そのため、磁性体粉が肌表面から吸着除去されにくくなるおそれがあり、場合によっては使用済みのスキンケア剤等が肌表面に残留しやすくなる。従って、スキンケア剤の肌表面への残留を抑制する観点から、磁性体粉の含有量は15質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。
【0058】
一方、磁性体粉の含有量が80質量%を超える場合には、基剤が不足するため、スキンケア剤の粘度が過度に高くなるおそれがある。そして、粘度が過度に高いスキンケア剤は、肌に塗布する際に伸ばしにくくなる等の問題が生じるおそれがあるため、好ましくない。かかる問題を回避するため、磁性体粉の含有量は80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
【0059】
また、スキンケア剤の粘度は、9000mPa・s以上であることが好ましい。この場合には、磁性体粉がスキンケア剤中に分散した状態をより長時間維持できる。そのため、肌表面に塗布したスキンケア剤中に、吸着除去のために十分な量の磁性体粉が含まれる状態をより容易に実現できる。その結果、磁性体粉及び使用済みのスキンケア剤を肌表面からより容易に吸着除去することができ、使用済みのスキンケア剤や、磁性体粉中の微小な粒子がより肌表面に残留しにくい。
【実施例】
【0060】
参考例
上記スキンケア剤用磁性体粉の参考例について、図1図3を用いて説明する。スキンケア剤1は、ペースト状を呈する基剤と、該基剤に分散された磁性体粉2とを有している。また、スキンケア剤1は、図1に示すように、塗布された肌から磁性体粉2を磁力により吸着除去可能に構成されている。
【0061】
磁性体粉2は、80質量%以上のマグネタイトを含有し、残部がウスタイト、ヘマタイト及び不可避不純物からなる化学成分を有している。また、図2に示すように、磁性体粉2を構成する粒子20は、鉄系の強磁性体より構成された中心部21と、中心部21よりも電気抵抗率の高い物質より構成され、中心部21を被覆する絶縁層3を有している。そして、磁性体粉2は、間隔が6.5mmである平行平板電極の間に磁力により保持された状態で250Vの電圧を印加したときの抵抗値が1MΩ以上である。
【0062】
本例の磁性体粉2の絶縁層3は、ヘマタイトを主成分として含有する酸化被膜30である。図2に示した中心部21と酸化被膜30との境界は便宜上のものであり、実際には、酸化被膜30と中心部21との境界は不明瞭である。すなわち、粒子20の化学成分は、中心部21から酸化被膜30へ向かうにつれて、次第にマグネタイトが減少すると共にヘマタイトが増加するように連続的に変化している。
【0063】
スキンケア剤1は、図1に示すように、ペースト状を呈しており、肌に塗布して使用される。また、スキンケア剤1は、リムーバー4の磁力発生面から発生する磁力により、磁性体粉2と共に使用済みのスキンケア剤及び肌の汚れ等が吸着除去されるよう構成されている。また、スキンケア剤1は、磁性体粉2等が吸着除去された後、肌表面に美容成分5が残留するように構成されている。
【0064】
本例においては、以下の製造方法により磁性体粉2(試料1〜試料7)を作製した。
【0065】
<磁性体粉2の作製方法>
試料1〜試料7を作製するに当たっては、まず、磁性体粉2の原料となるマグネタイト粉末を作製した。そして、得られたマグネタイト粉末に対して酸化被膜処理を施すことにより、絶縁層3としての酸化被膜30を有する磁性体粉2(試料1〜試料7)を作製した。
【0066】
[マグネタイト粉末の作製]
まず、ヘマタイト(Fe)を粉砕した粉末に対し、固形分が55質量%となるように水を加えてスラリーを調製した。次いで、得られたスラリーの固形分に対して1質量%のポリビニルアルコールと、0.9質量%のカーボンブラックと、0.5質量%のポリカルボン酸塩とをスラリーに加えた後、この混合物に水を加えて固形分が55質量%のスラリーを調製した。次いで、アトライターを用いて得られたスラリーを1時間攪拌した。その後、スプレードライヤーを用いてスラリーを球状に造粒し、ジャイロシフターを用いて得られた造粒物の粒度調整を行った。
【0067】
次いで粒度調整を行った球状の造粒物を1320℃で3時間加熱することにより原料のヘマタイトを還元し、マグネタイトを主成分とする焼成物を得た。なお、造粒物の加熱はトンネル式電気炉を用いて窒素雰囲気下にて行った。
【0068】
得られた焼成物を解砕した後、ジャイロシフターと気流分級機とを組み合わせて用いることにより分級処理を行い、粒度分布を調整した。その後、磁力選鉱を行って磁化率の大きい粒子を選別し、表1に示す各試料の原料(マグネタイト粉末)を得た。
【0069】
[酸化被膜処理]
酸化被膜処理は、上述の方法により得られたマグネタイト粉末を、ロータリー式の電気炉を用いて大気雰囲気下で加熱することにより実施された。試料1〜試料7は、マグネタイト粉末を表1に示す加熱温度で加熱することにより作製された。
【0070】
<磁性体粉2の特性評価>
次に、試料1〜試料7の各種特性の評価を、以下の方法により実施した。また、試料1〜試料7との比較のため、原料(マグネタイト粉末)についても同様に評価を実施した。
【0071】
[体積平均粒径]
試料に0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を加えた後、ウルトラソニックホモジナイザー(超音波工業社製、UH−3C)を用いて1分間の超音波処理を行って試料の分散液を調製した。この分散液をマイクロトラック粒度分析計(日機装株式会社製、Model9320−X100)に導入し、屈折率1.81、温度25±5℃、湿度55±15%の条件下で測定を行い、レーザー回折散乱法による粒径分布を得た。得られた粒径分布から、体積分布モード、ふるい下表示での累積50%粒子径を算出し、これを体積平均粒径(メジアン径)とした。
【0072】
[小径粒子の含有量及び大径粒子の含有量]
JIS Z 8801に規定される標準ふるいを用いて、JIS H 2601に準じた方法により試料の分級を行った。これにより、呼び寸法37μm(400メッシュ)の標準ふるいを通過した粒子(小径粒子)の含有量及び呼び寸法105μm(145メッシュ)の標準ふるいを通過しなかった粒子(大径粒子)の含有量を測定した。
【0073】
[見掛密度]
JIS Z 2504に規定される金属粉の見掛密度試験方法に準じて、以下の方法により測定を行った。見掛密度の測定装置は、孔径2.5+0.2/0mmのオリフィスを有する漏斗、コップ、漏斗支持器、支持棒及び支持台からなるものを用いた。まず、少なくとも150gの試料を漏斗に注ぎ、漏斗から流れ出す試料を漏斗の下方に設置したコップに直接流し入れた。コップが試料で満たされた後、試料がコップからあふれ出した時点で直ちに試料の流入を止めた。
【0074】
次いで、非磁性材料から形成された水平なヘラをコップの開口面に沿って水平に移動させ、コップの上に盛り上がった試料をかき取った。その後、コップの側面を軽く叩いて試料を安定させ、コップの側面に付着した試料を拭き取った後、秤量200g、感量50mgの天秤を用いてコップ内の試料の重量を秤量した。得られた重量の値に0.04を乗じ、この値をJIS Z 8401に規定される数値の丸め方を用いて小数点以下第2位に丸めた値を見掛密度(g/cm)とした。
【0075】
[飽和磁化、残留磁化及び保磁力]
積分型B−Hトレーサー((株)理研電子製、BHU−60型)を使用して以下の手順で測定した。まず、電磁石間に磁場測定用Hコイル及び磁化測定用4πIコイルを入れ、試料を4πIコイル内に入れた。次いで、電磁石の電流を変化させ磁場Hを変化させたHコイル及び4πIコイルの出力をそれぞれ積分し、X軸にH出力をとり、Y軸に4πIコイルの出力をとったヒステリシスループを記録紙に描いた。このヒステリシスループから飽和磁化、残留磁化及び保持力を算出した。なお、ヒステリシスループの測定条件は、試料充填量:約1g、試料充填セル:内径7mmφ±0.02mm、高さ10mm±0.1mm、4πIコイル:巻数30回、印加磁場:3000エルステッドであった。
【0076】
[上澄み透過率]
15gの試料を秤量し、これを50mlのサンプル瓶に入れた。このサンプル瓶に20mlのメタノールを加えて蓋をした後、回転式撹拌機を用いて150rpmで20分間撹拌を行った。撹拌が完了した後、サンプル瓶の底に磁石を当接させて試料を吸着させ、この状態でサンプル瓶を手で3回振り混ぜた。その後、サンプル瓶の上澄み液を3ml採取し、可視分光光度計(オガワ精機社製、Model6100)を用いて波長474nmにおける上澄み液の透過率を測定した。なお、透過率の測定におけるブランクサンプルとしては、メタノールを用いた。
【0077】
[化学成分分析]
各試料について、X線回折法によるマグネタイト(Fe)、ヘマタイト(Fe)及びウスタイト(FeO)の化学成分比を以下の方法で算出した。
【0078】
測定装置にはパナリティカル社製「X’PertPRO MPD」を用いた。X線源としてCo管球(CoKα線)を、光学系として集中光学系及び高速検出器「X’Celarator」を用いて、測定は0.2°/secの連続スキャンで行った。測定結果の解析は、解析用ソフトウエア「X’PertHighScore」を用いて通常の粉末の結晶構造解析と同様に行い、結晶構造を同定した後、得られた結晶構造を精密化することで重量換算の存在比率を算出した。なお、存在比率の算出に際しては、Fe及びOを必須元素として、マグネタイト、ヘマタイト及びウスタイトの存在比率を算出した。
【0079】
X線回折測定に用いるX線源は、Cu管球でも問題なく測定できるが、Feを多く含んだサンプルの場合には測定対象となるピークと比較してバックグラウンドが大きくなるので、Co管球を用いる方が好ましい。また、光学系は平行法でも同様の結果が得られる可能性があるが、X線強度が低く測定に時間がかかるため集中光学系での測定が好ましい。さらに、連続スキャンの速度は特に制限はないが結晶構造の解析を行う際に十分なS/N比を得るためにマグネタイトのメインピークである(311)面のピーク強度が50000cps以上となるようにし、粒子の特定の優先方向への配向がないようにサンプルセルに試料をセットして測定を行った。
【0080】
[抵抗値]
上述の方法により各試料の抵抗値を測定した。なお、抵抗値の測定は、室温25℃、湿度55%に制御された恒温恒湿室内で行われた。
【0081】
以上の方法により評価した磁性体粉2の各種特性を表1に示した。
【0082】
【表1】
【0083】
次に、得られた磁性体粉2の反応性について、以下の方法により評価を行った。
【0084】
<反応性試験>
カプリル酸トリグリセリドにアボベンゼンを溶解させ、アボベンゼンの濃度が2.5質量%である溶液を作製した。この溶液は、作製した時点で無色透明であった。次いで、サンプル瓶に7.5gの上記溶液と、0.5gの試料と、0.06gの水とを量り取り、良く攪拌した後、55℃の恒温槽に静置した。24時間経過後、恒温槽から取り出した混合物を遠心分離し、得られた上澄み液の可視吸収スペクトルを測定した。
【0085】
図3に、試料2及び原料(マグネタイト粉末)を用いた場合の上澄み液の可視吸収スペクトルを示す。縦軸は吸光度であり、横軸は波長である。図3より知られるように、試料2を用いた場合の可視吸収スペクトルは、原料を用いた場合に比べて、波長500nm付近のピークが小さくなった。
【0086】
このように、表面に絶縁層3としての酸化被膜30を形成した試料2は、絶縁層3を有さない原料に比べてアボベンゼンを変質させにくく、上澄み液の着色が小さかった。従って、絶縁層3を有する磁性体粉2は、粒子20の表面における反応性が低くなるため、スキンケア剤1の香りを変質させにくくなると推測できる。
【0087】
(実施例)
本例は、絶縁層3が多層積層構造を有する磁性体粉2の例である。図4に示すように、本例の磁性体粉2は、酸化被膜30とアクリレーツコポリマーよりなる樹脂膜31とが順に積層された2層積層構造の絶縁層3を有している。表2に示すように、本例において作製した試料11〜試料18は、実施例1における試料1〜試料7及び原料であるマグネタイト粉末のそれぞれに、アクリレーツコポリマーよりなる樹脂膜31を形成する表面処理を施したものである。
【0088】
本例においては、磁性体粉2の抵抗値の測定及びスキンケア剤1の保存性評価を以下の方法により実施した。
【0089】
<磁性体粉2の抵抗値>
試料11〜試料18について、実施例1と同様に抵抗値を測定した。その結果を表2に示す。
【0090】
<スキンケア剤1の保存性評価>
まず、試料11〜試料18を用いて、下記の組成を有するスキンケア剤1を作製した。
・磁性体粉2(試料11〜試料18) 68質量%
・増粘剤
グリセリン 16質量%
ポリアクリル酸ナトリウム 0.01質量%
・界面活性剤
モノラウリン酸ポリグリセリル 0.2質量%
・美容成分
L−アスコルビン酸−2−リン酸ナトリウム 0.1質量%
・香料 0.1質量%
・潤滑剤、pH調整剤、保存料、水等 残部
【0091】
次に、得られたスキンケア剤1を50℃の恒温槽内に静置した。そして、作製直後のスキンケア剤1の香りを基準として、2週間経過時点でのスキンケア剤1の香りの変化及び4週間経過時点でのスキンケア剤1の香りの変化のパネル評価を実施した。その結果を表2に示す。なお、表2中の記号A〜Cの意味は、以下の通りである。
【0092】
A:作製直後のスキンケア剤1の香りとほぼ同等であり、香りが変質しているか否かが不明確である
B:作製直後のスキンケア剤1から香りが変質していることが明確に感じられる
C:作製直後のスキンケア剤1から香りが変質し、異臭が感じられる
【0093】
【表2】
【0094】
表2より知られるように、2層積層構造の絶縁層3を有する試料12及び試料13は、絶縁層3が酸化被膜30のみからなる試料2及び試料3(表1参照)や、樹脂膜31のみからなる試料18に比べて高い抵抗値を示した。そして、試料12及び試料13は、4週間経過後においてもスキンケア剤1の香りがほとんど変質しなかった。このように、多層積層構造の絶縁層3を有する磁性体粉2は、スキンケア剤1の香りをより長期間維持させやすい。
【符号の説明】
【0095】
1 スキンケア剤
2 磁性体粉
20 粒子
3 絶縁層
図1
図2
図3
図4