特許第6270470号(P6270470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6270470
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】車両用シートスライド装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/07 20060101AFI20180122BHJP
【FI】
   B60N2/07
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-272541(P2013-272541)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-141245(P2014-141245A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2016年12月1日
(31)【優先権主張番号】特願2012-286785(P2012-286785)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 聡一
(72)【発明者】
【氏名】木本 政志
【審査官】 渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】 実開平07−022828(JP,U)
【文献】 特開2000−062504(JP,A)
【文献】 特開2000−142187(JP,A)
【文献】 特開2007−210597(JP,A)
【文献】 特開平08−230528(JP,A)
【文献】 米国特許第05417496(US,A)
【文献】 特開2011−235788(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0206669(US,A1)
【文献】 英国特許出願公開第02219933(GB,A)
【文献】 特開平08−170641(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/146434(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第00771689(EP,A2)
【文献】 米国特許第05192045(US,A)
【文献】 米国特許第02400374(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00− 2/72
F16C29/00−29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金から形成され、シートに固定される取付け部及び長手方向に沿って複数条のボール転走溝が形成されたスライド部を有するアッパレールと、
アルミニウム合金から形成され、車両フロアに固定される固定部を有すると共に、前記アッパレールのスライド部を収容する案内溝を有すると共に、当該案内溝内には前記スライド部のボール転走溝に対向するボール転走溝が長手方向に沿って形成されたロアレールと、
合成樹脂から形成されると共に、互いに対向する前記アッパレールのボール転走溝とロアレールのボール転走溝との間にケージを用いることなく並べられて列をなし、前記ロアレールに対するアッパレールの移動を支持する多数の案内ボールと、を備え、
前記案内ボールを形成する合成樹脂のヤング率は、前記アッパレール及びロアレールのそれよりも低く、
前記アッパレール及びロアレールの各ボール転走溝上における前記案内ボールの配列方向の両端には、当該案内ボールよりもヤング率の高い材質から形成された高強度ボールが配置され、
前記高強度ボールの直径は前記案内ボールの直径よりも大きいことを特徴とする車両用シートスライド装置。
【請求項2】
前記ロアレールは前記固定部に対して起立した一対の側壁部を有して、これら側壁部の間に前記案内溝が設けられ、前記案内溝に面した各側壁部の内側面には前記ボール転走溝が設けられる一方、各側壁部の上端には前記案内溝内に収容されたアッパレールのスライド部の離脱を防止する係止壁が設けられていることを特徴とする請求項1記載の車両用シートスライド装置。
【請求項3】
前記ロアレールの各側壁部の外側面には当該ロアレールの長手方向に沿って補強突部が設けられていることを特徴とする請求項2記載の車両用シートスライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種車両の搭乗者シートを車両フロアに対して前後に移動可能に支持する車両用シートスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両用シートスライド装置としては、例えば特許文献1に開示されるものが知られている。この車両用シートスライド装置は、車両フロアに固定されるロアレールと、シートに固定されると共に前記ロアレールに対して移動自在に支持されたアッパレールと、これらロアレールとアッパレールの間に配設された鋼製のローラやボール等の転動体とを備えている。前記ロアレール及びアッパレールは金属板をロールフォーミング加工やプレス加工で所定形状に折り曲げて形成されており、前記転動体はこれらロアレール及びアッパレールの長手方向の前端寄り及び後端寄りの二箇所にのみ配置されている。また、各レールの前後2箇所に配置された転動体の間隔を一定に保つため、ロアレールとアッパレールとの隙間にはこれらレールの長手方向に延びる転動体ケージが設けられており、かかる転動体ケージも金属板を折り曲げて形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−12849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の車両用シートスライド装置は、ロアレールとアッパレールの長手方向の前端寄り及び後端寄りの二箇所にのみ転動体が配置されていることから、各転動体に作用する荷重が大きく、転動体としては直径の大きなものを使用する必要があった。このため、ロアレールの車両フロアに対する固定面からアッパレールのシート取付け位置までの高さが高くなってしまい、車両の室内高の設計に影響を及ぼしていた。
【0005】
また、各転動体に作用する荷重が大きいことから、ロアレールと転動体の間、アッパレールと転動体の間の面圧が高く、長期使用における摩耗を考慮した結果としてロアレール及びアッパレールは鋼板から製作されていた。このため、シートスライド装置の重量が嵩み、車両の燃費性能に影響を及ぼしていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明の目的とするところは、車両の室内高の設計自由度を向上させると共に、軽量化を図ることが可能な車両用シートスライド装置を提供することにある。
【0007】
このような目的を達成する本発明の車両用シートスライド装置は、アルミニウム合金から形成され、シートに固定される取付け部及び長手方向に沿って複数条のボール転走溝が形成されたスライド部を有するアッパレールと、アルミニウム合金から形成され、車両フロアに固定される固定部を有すると共に、前記アッパレールのスライド部を収容する案内溝を有すると共に、当該案内溝内には前記スライド部のボール転走溝に対向するボール転走溝が長手方向に沿って形成されたロアレールと、合成樹脂から形成されると共に、互いに対向する前記アッパレールのボール転走溝とロアレールのボール転走溝との間にケージを用いることなく並べられて列をなし、前記ロアレールに対するアッパレール移動を支持する多数の案内ボールとを備えている。
【発明の効果】
【0008】
このような構成を有する本発明の車両用シートスライド装置によれば、ロアレール及びアッパレールのボール転走溝に対してケージを用いることなく多数の案内ボールを配列し、それによってロアレールに対するアッパレールの移動を支持しているので、個々の案内ボールに作用する荷重は小さくなり、案内ボールの径を小さくすることができる。これにより、ロアレールの底面からアッパレールのシート取付け位置までの高さを抑え、車室内の高さ設計に自由度を与えることが可能となる。
【0009】
また、ロアレール及びアッパレールのボール転走溝に対して多数の案内ボールを配列することで、個々の案内ボールに作用する荷重が小さくなり、各案内ボールとレールとの接触面圧は低下する。加えて、合成樹脂製のボールは鋼製ボールに比べて荷重に対する変形量が大きく、この点においても各案内ボールとレールとの接触面圧は低下する。これにより、ロアレール及びアッパレールを鋼板ではなくアルミニウム合金から製作することが可能となり、シートスライド装置の軽量化を図り、車両の燃費性能の改善に貢献することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明を適用した車両用シートスライド装置の第一実施形態を示す一部切欠き斜視図である。
図2図1に示した車両用シートスライド装置のアッパレールをロアレールに対して移動させた状態を示す斜視図である。
図3図1に示す車両用シートスライド装置の正面断面図である。
図4】ボール転走溝に対するボールの配列長を示す模式図である。
図5】本発明を適用した車両用シートスライド装置の第二実施形態におけるボールの配列を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を用いて本発明の車両用シートスライド装置を詳細に説明する。
【0012】
図1乃至図3は本発明を適用した車両用シートスライド装置の第一実施形態を示すものである。このシートスライド装置1は、車両の搭乗者シートが取り付けられるアッパレール2と、車両フロアに固定されるロアレール3と、これらアッパレール2とロアレール3との間でこれらレールの長手方向に沿って配列された多数の案内ボール4とを備えている。前記案内ボール4がアッパレール2とロアレール3との間で転動することにより、図2に示すように、ロアレール3に対してアッパレール2を自在に移動させることが可能となっている。
【0013】
前記アッパレール2は、搭乗者シートの脚部に固定される板状の取付け部20と、この取付け部20の下端に当該取付け部20と直交するように設けられたスライド部21を備えている。このアッパレール2はロアレール3に対する移動方向に沿って長尺に形成されており、当該移動方向に関する垂直断面は略T字状の一様な形状を有している。また、前記取付け部20には搭乗者シートの脚部の固定に利用されるボルト取付け孔22が設けられている。尚、本実施形態におけるアッパレール2の形状はあくまでも一例であり、例えば、前記取付け部20とスライド部21が略L字状に交わったものであっても差し支えない。
【0014】
相反する方向に面した前記スライド部21の両側面には、アッパレール2の長手方向に沿って1条ずつのボール転走溝23が形成されており、前記案内ボール4はこのボール転走溝23の上を転動する。また、各ボール転走溝23の長手方向の両端付近には当該ボール転走溝23から僅かに突出したストッパ24が設けられており、ボール転走溝23における案内ボール4の転動範囲を制限している。尚、前記スライド部21の下面側、すなわち前記取付け部20と反対側の面には凹部25が設けられているが、この凹部25は前記ロアレール3を車両フロアに固定するボルトの頭部との干渉を回避する目的で設けられている。
【0015】
一方、前記ロアレール3は前記アッパレール2の移動方向に沿って長尺に形成されており、車両フロアに固定される固定部30を有すると共に、前記アッパレール2のスライド部21を収容する案内溝31を有している。前記固定部には車両フロアに対するロアレールの固定に利用されるボルト取付け孔34が設けられている。また、このロアレール3は前記固定部30に対して起立した一対の側壁部32を有しており、これら側壁部32は互いに間隔をおいて前記固定部30の両側に設けられており、各側壁部32は前記アッパレール2の移動方向に沿って延びている。従って、この実施形態では、これら固定部30及び一対の側壁部32に囲まれた空間が前記案内溝31となっている。
【0016】
前記案内溝31に面した各側壁部32の内側面には前記ロアレール3の長手方向に沿ってボール転走溝33が形成されている。このボール転走溝33は前記アッパレール2のスライド部21に形成されたボール転走溝23と対向しており、前記案内ボール4はアッパレール2のボール転走溝23とロアレール3のボール転走溝33の双方に接触しながら転動する。このため、アッパレール2はその移動方向と直交する方向に関してはロアレール3に拘束された状態にあり、当該方向に作用するあらゆる荷重を負荷しながらロアレール3に対して自在に移動可能である。尚、アッパレール2のボール転走溝23と同様、ロアレール3のボール転走溝33の長手方向の両端付近には当該ボール転走溝33から僅かに突出したストッパ35が設けられており、ボール転走溝33における案内ボール4の転動範囲を制限している。
【0017】
本発明のシートスライド装置では、前記アッパレール2及びロアレール3の夫々に対して2条のボール転走溝23,33を形成し、これらボール転走溝23,33を転走する2条のボール列のみによってアッパレール2をロアレール3に対して移動自在に支持している。これにより、アッパレール2のスライド部21及びロアレール3の案内溝31を小型化し、ロアレール3の固定部30からアッパレール2の取付け部20までの高さを抑えることができる。
【0018】
また、前記ロアレール3は前記案内溝31の上方を覆う一対の係止壁36を有している。これら係止壁36は各側壁部32の上端から案内溝31の中央に向けて突出すると共に前記ロアレール3の長手方向に沿って延びており、一対の係止壁36の先端同士は互いに対向して前記アッパレール2の移動のための開口部37を形成している。前記アッパレール2の移動方向と直交する開口部37の開口幅は、前記アッパレール2のスライド部21の横幅、すなわち前記ボール転走溝23が形成されたスライド部21の両側面の間の距離よりも小さく設定されている。このため、アッパレール2に対してこれをロアレール3の案内溝31から上方へ引き抜く荷重が過大に作用し、仮に、案内ボール4がアッパレール2のボール転走溝23又はロアレール3のボール転走溝33から離脱してしまったとしても、アッパレール2がロアレール3から分離してしまう事態を回避することができ、搭乗者シートが車両フロアから外れることがない。
【0019】
更に、前記ロアレール3の各側壁部32の外側面には補強突部38が設けられている。この補強突部38はロアレール3の長手方向に沿って延びており、前記アッパレール2の移動方向と直交する断面に関して、前記係止壁36よりも大きな断面積で形成されている。この補強突部38を設けたことにより、前記案内ボール4を介してアッパレール2からロアレール3に対して局所的に荷重が作用した場合でも、当該ロアレール3の変形を防止することが可能となっている。
【0020】
前記アッパレール2及びロアレール3はアルミニウム合金を用いた押出成形によって製作されている。前記アッパレール2及びロアレール3ともに、長手方向に関する垂直断面は一様な形状を有しているので、押出成形による製作に最適である。この場合、前記ボルト取付け孔22,34は押出成形後に加工され、ボール転走溝23,33上に設けられた前記ストッパ24,35も押出成形後に加工される。ボール転走溝23,33は押出成形の際に同時に形成され、その表面に対しては押出成形後に何ら特別な加工を行っていない。従って、アッパレール2及びロアレール3共に安価に製造することが可能である。
【0021】
また、前記アッパレールのストッパ24及び前記ロアレールのストッパ35は、前記押出成形によって設けられたボール転走溝23,33に対して、別部材として形成されたストッパを固定するようにしても良いし、アッパレール2及びロアレール3の一部を曲げ起こすことで形成しても良い。
【0022】
前記アッパレール2はボール転走溝23に配列された案内ボール4のみでロアレール3に対して移動自在に支持されており、アッパレール2とロアレール3は直接的に接触していない。図1に示すように、前記案内ボール4は配列間隔を一定に保つケージを用いることなく、前記ボール転走溝23,33に並べられて列をなしている。これにより、ケージを用いて隣接するボールの間に一定の隙間を設ける場合と比較して、アッパレール2のボール転走溝23とロアレール3のボール転走溝33との間により多くの案内ボール4を配列し、各案内ボール4とアッパレール2又はロアレール3との接触面圧を低減させることができる。
【0023】
また、ロアレール3に対してアッパレール2を支持する案内ボール4は合成樹脂から形成されている。合成樹脂製の案内ボール4は鋼製のボールに比べて荷重に対する変形量が大きく、案内ボール4とボール転走溝23,33との接触面積が増加する分、各案内ボール4とアッパレール2及びロアレール3との接触面圧を低減させることができる。従って、案内ボール4となる合成樹脂は、アルミニウム合金製のアッパレール2及びロアレール3よりもヤング率の低いものが好ましい。これにより、経時的な使用に伴うアッパレール2及びロアレール3の摩耗が防止される他、各レール2,3のボール転走溝23,33に対して圧痕が発生するのを防止できる。例えば、前記案内ボール4としては、ポリアセタール(POM)製のボールが使用可能である。
【0024】
アッパレール2のボール転走溝23とロアレール3のボール転走溝33における案内ボール4の配列長さは以下のようにして決定される。例えば、車室内における搭乗者シートの位置調整に必要なストローク量、すなわちロアレール3に対するアッパレール2の最大移動可能距離をLとした場合、案内ボール4はアッパレール2が距離L移動する際にボール転走溝23,33の上を距離L/2だけ転動する。このため、図4に示すように、ロアレール3のボール転走溝33の有効長、すなわちロアレール3の両端に位置する一対のストッパ35の間の距離をDとした場合、案内ボール4はボール転走溝33に対して距離L/2のみを残して配列するのが好ましい。これにより、ボール転走溝23,33に対するボール4の配列数を最大化することができる。尚、この実施形態ではアッパレール2に比べてロアレール3が短く形成されていることから、図4ではロアレール3のボール転走溝33を例に挙げて説明したが、アッパレール2がロアレール3よりも短い場合には、アッパレール2のボール転走溝に対して同じ考えを適用することになる。
【0025】
このように、本実施形態ではシートスライド装置1に必要とされるアッパレール2の最大移動可能距離Lとボール転走溝23,33の有効長Dとの関係から、ボール転走溝23,33上における案内ボール4の配列長さを決定し、その範囲内で案内ボール4を可及的に多く配列している。
【0026】
以上のように構成された本実施形態の車両用シートスライド装置によれば、前記アッパレール2及びロアレール3のボール転走溝23,33に対して多数の案内ボール4を配列し、しかもケージを用いることなく可及的に多くの案内ボール4を配列し、これら案内ボール4の転動によってアッパレール2をロアレール3に対して移動自在に支持しているので、シートスライド装置1が負荷しなければならない荷重が大きい場合でも、個々の案内ボール4に作用する荷重は小さくすることができる。このため、使用する案内ボール4の直径を小さくして、アッパレール2及びロアレール3の小型化及び薄型化を図ることができ、ロアレール3の底面からアッパレール2のシート取付け位置までの高さを抑え、車両の室内高さの設計に自由度を与えることが可能となる。
【0027】
また、個々の案内ボール4に作用する荷重が小さくなることで、各案内ボール4とアッパレール2及びロアレール3との接触面圧は低下させることができ、加えて鋼製ボールよりも荷重に対する変形量が大きな合成樹脂製の案内ボール4を使用することにより、荷重が作用した際には個々の案内ボール4とボール転走溝23,33との接触面積が増加し、前記接触面圧は更に低下する。これにより、アッパレール2及びロアレール3をアルミニウム合金製とすることが可能となり、鋼製の従来のシートスライド装置に比べて軽量なシートスライド装置の提供が可能となり、車両の燃費性能の改善に貢献することができる。
【0028】
更に、各案内ボール4とアッパレール2及びロアレール3との接触面圧が低いことから、ボール転走溝23,33の摩耗を低減することができ、低発塵、長寿命のシートレール装置を提供することが可能となる。
【0029】
また、合成樹脂製の案内ボール4でアッパレールの移動を支持しているので、ロアレール3に対してアッパレール2を移動させる際の案内ボール4の走行音の発生を抑えることができると共に、耳障りな金属音の発生も防止することが可能となる。
【0030】
更に、前記ロアレール3に対して前記案内溝31の上方を覆う一対の係止壁36を設けることで、仮にアッパレール2に対して作用した過大な荷重によって案内ボール4がボール転走溝23,33から抜け出してしまったとしても、ロアレール3の案内溝31の内部からアッパレール2のスライド部21が離脱するのを防止することができ、車両フロアから搭乗者シートが外れるのを防ぐことが可能となる。
【0031】
次に、図5を参照しながら本発明を適用した車両用シートスライド装置の第二実施形態について説明する。
【0032】
この第二実施形態のシートスライド装置は、前記アッパレール2及びロアレール3の各ボール転走溝23,33に対して材質の異なる2種類のボール、すなわち案内ボール4及び高強度ボール5を配列することにより、前述の第一実施形態のそれに比べて耐荷重性能の向上を図ったものである。
【0033】
図5は、前記アッパレール2がロアレール3に対して矢印方向へ限度一杯まで移動した状態、すなわちアッパレール2がロアレール3に対するストロークの終端まで移動した状態を示す模式図である。この状態では、前記案内ボール4及び高強度ボール5からなるボール列がアッパレール2のストッパ24とロアレール3のストッパ35とに挟み込まれており、これによって前記アッパレール2の矢印方向への更なる移動が規制されている。同図では前記案内ボール4と高強度ボール5を区別することができるよう、当該高強度ボール5のみを黒く塗りつぶして示している。
【0034】
前記高強度ボール5は前記案内ボール4の配列方向の両端に位置している。すなわち、前記ボール転走溝23,33上では高強度ボール5が一群の案内ボール4の転走方向の前後に配置されている。また、前記高強度ボール5は前記案内ボール4の材質よりもヤング率が高い材質によって形成されている。例えば、鋼等の金属、あるいはセラミクスから前記高強度ボール5を形成することができる。また、前記案内ボール4よりもヤング率が高い材質であれば、合成樹脂から高強度ボール5を形成しても良い。
【0035】
図5から把握されるように、前記アッパレール2がロアレール3に対して矢印方向へ限度一杯まで移動した状態では、前記高強度ボール5が各ストッパ24,35に接触している。このため、図5に示す状態からアッパレール2を更に矢印方向へ移動させようとすると、各ストッパ24,35が高強度ボール5を強く押圧することになる。この際、高強度ボール5は前記案内ボール4に比べてヤング率が高いことから、案内ボール4に対してストッパ24,35が直接接触して当該案内ボール4が変形する場合と比べると、高強度ボール5の変形量は小さなものとなる。
【0036】
このため、前述の第一実施形態のように案内ボール4のみをボール転走面23,33に配列している場合と比べて、ボールがアッパレール2のストッパ24又はロアレール3のストッパ35を乗り越えてしまう可能性を可及的に小さくすることができる。つまり、この第二実施形態のシートスライド装置ではアッパレール2のストローク方向に関する耐荷重性能が向上する。
【0037】
また、車両用シートスライド装置に要求される性能の一つとして、所謂ベルトアンカー強度が存在する。このベルトアンカー強度は、搭乗者シートに着座する搭乗者がシートベルトを装着することを前提とし、シートベルトのアンカーに所定の引っ張り荷重が一定時間作用しても、車両用シートスライド装置のアッパレール2そのものが破断しないこと、アッパレール2が車両フロアに固定されたロアレール3と分離しないことを条件とする。この場合、前記アンカーに作用する引っ張り荷重の方向は、アッパレール2のストローク方向に対して90度未満の角度を有しているので、当該アッパレール2に対しては前記引っ張り荷重に起因したモーメント荷重が作用することになる。
【0038】
このとき、ボール転走溝23,33に配列されたボール列に対しては、当該ボール列の中央付近に位置するボールよりも両端近傍に位置するボールに対して大きな荷重が作用することになる。このため、ボール列の両端に対してヤング率の高い高強度ボール5を配置した第二実施形態のシートスライド装置では、前述の第一実施形態のごとく案内ボール4のみをボール転走面23,33に配列している場合と比べて、前記モーメント荷重に対する耐荷重性能が向上する。
【0039】
前記アッパレール2のストローク方向に関する耐荷重性能を考慮した場合、前記高強度ボール5は一群の案内ボール4の両端に少なくとも1個ずつ配置すれば足りる。しかし、前記モーメント荷重に対する耐荷重性能を考慮した場合には、一群の案内ボール4の両端に少なくとも2個以上の高強度ボール5を配置するのが効果的である。
【0040】
但し、高強度ボール5の材質は案内ボール4のそれに比べてヤング率が高いので、当該高強度ボール5は荷重に対する変形量が小さく、アッパレール2及びロアレール3に対する接触面圧が高くなる傾向にある。このため、案内ボール4の個数に対する高強度ボール5の個数の割合が増加すると、その分だけ各レール2,3に発塵や疲労破壊が発生し易くなる。かかる観点から、前記高強度ボール5の個数は前記案内ボール4の個数よりも少なくすることが好ましい。
【0041】
また、前記ボール転走溝23,33を転走する案内ボール4及び高強度ボール5は作用する荷重の大きさに応じて僅かに弾性変形を生じることになるが、前述の如くアッパレール2に対してモーメント荷重が作用する場合には、案内ボール4よりも当該案内ボール4の転走方向の両端に配置された高強度ボール5に対してより大きな荷重が作用することになる。このため、モーメント荷重が作用した場合に、高強度ボール5に隣接する案内ボール4に対して過度の荷重が作用するのを防止するために、高強度ボール5の直径は前記案内ボール4の直径に比べてわずかに大きく設定するのが好ましい。このように高強度ボール5の直径を案内ボール4の直径よりも僅かに大きく設定した場合でも、当該高強度ボール5は荷重を受けて変形するため、案内ボール4もアッパレール2及びロアレール3に確実に接触して荷重を負荷することになり、アッパレール2はボール転走溝23に配列された総てのボール4,5で支持される。
【0042】
尚、以上説明してきた第一実施形態及び第二実施形態の車両用シートスライド装置はあくまでも本発明の適用例であって、アッパレール及びロアレールの形状、長さ及び材質、ボール転走溝の条数とその向き、ボールの材質及び配列個数などは、本発明の要旨を逸脱しない限り適宜設計変更することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1…車両用シートスライド装置、2…アッパレール、3…ロアレール、4…案内ボール、20…取付け部、21…スライド部、23,33‥ボール転走溝、30…固定部、31…案内溝、32…側壁部、36…係止壁
図1
図2
図3
図4
図5