特許第6270637号(P6270637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6270637-錠剤及びその製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6270637
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】錠剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/20 20060101AFI20180122BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20180122BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20180122BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   A61K9/20
   A61K47/02
   A61K33/06
   A61P1/04
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-117739(P2014-117739)
(22)【出願日】2014年6月6日
(65)【公開番号】特開2015-229663(P2015-229663A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2016年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】尾谷 明希
(72)【発明者】
【氏名】立花 政明
【審査官】 上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−082832(JP,A)
【文献】 特開2014−097973(JP,A)
【文献】 特開平02−059515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00 − 9/72
A61K 47/00 − 47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:20℃の水に対する溶解度が1.3g/100mL以下である酸性薬物と、(B)成分:アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属炭酸水素塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、(C)成分:アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる1種以上を含む制酸剤と、を併有する層(α)を有し、前記層(α)中の(C)成分/(B)成分で表される質量比が1.08〜5.5である、錠剤。
【請求項2】
前記層(α)中の(B)成分/(A)成分で表される質量比が0.06〜である、請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
前記層(α)中の(A)成分の含有割合が5質量%以上であり、前記層(α)中の(B)成分の含有割合が1〜80質量%であり、前記層(α)中の(C)成分の含有割合が3〜60質量%である、請求項1又は2に記載の錠剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の錠剤の製造方法であって、
前記の(A)成分と(B)成分と(C)成分とを混合して混合物を得る工程と、前記混合物を打錠して、前記層(α)を有する錠剤を成形する工程とを備える、錠剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非ステロイド系抗炎症剤の中でもイブプロフェンやアスピリン等は、優れた消炎、鎮痛、解熱作用を有することから、鎮痛・解熱剤の成分として広く用いられている。
イブプロフェンやアスピリン等は、水に溶解しにくい水難溶性の酸性薬物である。このため、イブプロフェンやアスピリン等を含有する内服用錠剤(イブプロフェン等含有錠剤)は、水溶性高分子等の賦形剤と共に湿式造粒されて造粒粒子群とされ、この造粒粒子群が打錠されて製造されるのが一般的であった。
【0003】
解熱作用等の即効性を良くするには、体内での錠剤の崩壊性を高める必要がある。しかし、イブプロフェン等含有錠剤は、薬物固有の物理化学的性質などから、体内での崩壊性が悪い傾向にある。
これに対し、錠剤の崩壊性を高めるため、崩壊剤としてアルカリ物質を併用する方法が提案されている。例えば、水難溶性の薬物と、崩壊剤として炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムと、を併有する錠剤が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−082197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、錠剤は、気密性の高い容器に個装され保管等がされるものである。崩壊剤としてアルカリ物質である炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムを用いた場合、イブプロフェンやアスピリン等の酸性薬物との接触により炭酸ガスが徐々に発生し、その結果として、例えばPTP(プレススルーパッケージ)包装などによる包装体においては、個々の薬物収容部が経時で膨張しやすいという問題がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、崩壊性が高く、かつ、経時に伴う炭酸ガスの発生が抑えられて包装体における薬物収容部の膨張を生じにくい錠剤を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、錠剤中において、水難溶性の酸性薬物と、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属炭酸水素塩からなる群より選ばれる1種以上の崩壊剤とを、アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる1種以上を含む制酸剤と組み合わせて同一の層内に共存させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の錠剤は、(A)成分:水難溶性の酸性薬物と、(B)成分:アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属炭酸水素塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、(C)成分:アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる1種以上を含む制酸剤と、を併有する層(α)を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の錠剤においては、前記層(α)中の(C)成分/(B)成分で表される質量比が0.6〜15であることが好ましい。
また、本発明の錠剤においては、前記層(α)中の(B)成分/(A)成分で表される質量比が0.06〜1であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の錠剤の製造方法は、前記本発明の錠剤の製造方法であって、前記の(A)成分と(B)成分と(C)成分とを混合して混合物を得る工程と、前記混合物を打錠して、前記層(α)を有する錠剤を成形する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の錠剤によれば、崩壊性が高く、かつ、経時に伴う炭酸ガスの発生が抑えられるため、包装体における薬物収容部の膨張を生じにくい。
本発明の錠剤の製造方法によれば、崩壊性が高く、かつ、経時に伴う炭酸ガスの発生が抑えられて包装体における薬物収容部の膨張を生じにくい錠剤を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例において保存試験を行った後のPTP包装体の状態(外観)を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(錠剤)
本発明の錠剤は、(A)成分:水難溶性の酸性薬物と、(B)成分:アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属炭酸水素塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、(C)成分:アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる1種以上を含む制酸剤と、を併有する層(α)を有する。
該錠剤は、層(α)のみの単層からなるものであってもよく、層(α)とこれ以外の層との積層体(積層錠)であってもよい。
【0013】
<層(α)>
層(α)は、(A)成分と(B)成分と(C)成分とを併有する層であり、必要に応じて(A)〜(C)成分以外の成分を含有していてもよい。
【0014】
≪(A)成分:水難溶性の酸性薬物≫
本発明において、水難溶性の薬物とは、20℃の水に対する溶解度が1.3g/100mL以下である薬物をいう。
本発明において、酸性薬物とは、25℃におけるpKaが7以下である薬物をいう。また、水素イオンを複数放出し、複数のpKa値を有するものについては、最も低い値のpKaが7以下である薬物をいう。
(A)成分としては、例えば解熱鎮痛効果を有するもの、具体的には、アスピリン(溶解度0.46g/100mL、pKa3.5)、エテンザミド(溶解度0.1g/100mL以下)、メフェナム酸(溶解度0.01g/100mL以下、pKa4.2)、スリンダク(溶解度0.01g/100mL以下、水・メタノールを溶媒とした際の25℃におけるpKa4.5)、インドメタシン(溶解度0.01g/100mL以下、pKa4.2)、フェルビナク(溶解度0.01g/100mL以下、pKa3.9)、エトドラク(溶解度0.01g/100mL以下、pKa4.5)、イブプロフェン(溶解度0.01g/100mL以下、pKa4.5)、フルルビプロフェン(溶解度0.01g/100mL以下、pKa3.8)、ケトプロフェン(溶解度0.02g/100mL、pKa3.9)、ナプロキセン(溶解度0.01g/100mL以下、5%エタノール水溶液を溶媒とした際の25℃におけるpKa4.9)、オキサプロジン(溶解度0.01g/100mL以下、pKa4.2、pKa1.0)、ザルトプロフェン(溶解度0.01g/100mL以下、pKa3.8)、ピロキシカム(溶解度0.01g/100mL以下、pKa5.1、pKa1.8)、メロキシカム(溶解度0.01g/100mL以下、pKa4.1、pKa1.1)、ロルノキシカム(溶解度0.01g/100mL以下、pKa5.2、pKa0.8)、バルデコキシブ等が挙げられる。これらの中でも、本発明による効果が特に顕著に得られることから、イブプロフェン、アスピリン、エテンザミド、エトドラクが好ましく、イブプロフェン、アスピリンがより好ましい。
なお、上記の例示成分の後の括弧内に示す溶解度は、20℃の水に対する溶解度を意味する。pKaは、記載があるもの(スリンダク、ナプロキセン)を除き、水を溶媒とした際の25℃におけるpKaを意味する。
(A)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
錠剤中の(A)成分の含有割合は、錠剤の服用量及び製造性等を勘案して決定され、例えば5〜90質量%が好ましく、10〜70質量%がより好ましい。
錠剤中の(A)成分の含有割合が好ましい下限値以上であると、薬物以外の配合成分の含有量が相対的に少なくなるため、1錠当たりの錠剤質量が減ることで、錠剤の服用量の低減化がより図れる。一方、錠剤中の(A)成分の含有割合が好ましい上限値以下であれば、(A)成分の打錠機等への付着による打錠障害の発生がより抑制される。
【0016】
また、層(α)中の(A)成分の含有割合は、錠剤の形態及び崩壊性等を勘案して決定され、例えば5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、10〜95質量%がさらに好ましく、10〜70質量%が特に好ましい。
【0017】
≪(B)成分:アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属炭酸水素塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物≫
(B)成分は、主として錠剤の崩壊を促進する機能を有し、それにより体内での(A)成分の分散性向上を図るために配合する成分である。
(B)成分に用いられるアルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられ、炭酸ナトリウムが好ましい。アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられ、炭酸水素ナトリウムが好ましい。
(B)成分としては、なかでも、(A)成分の分散性向上がより図れることから、アルカリ金属炭酸水素塩が好ましい。
(B)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
錠剤中の(B)成分の含有割合は、錠剤中の(A)成分の含有割合等を勘案して決定され、例えば1〜60質量%が好ましく、1.2〜50質量%がより好ましく、1.5〜50質量%が特に好ましい。
錠剤中の(B)成分の含有割合が好ましい下限値以上であると、体内での(A)成分の分散性がより高まり、一方、錠剤中の(B)成分の含有割合が好ましい上限値以下であれば、(A)成分の安定性がより良好になる。
【0019】
また、層(α)中の(B)成分の含有割合は、錠剤の形態、崩壊性、及び包装体における薬物収容部の膨張の抑制等を勘案して決定され、1〜80質量%が好ましく、1.2〜70質量%がより好ましく、1.5〜50質量%が特に好ましい。
【0020】
本発明において、「(B)成分/(A)成分で表される質量比」とは、層(α)に含まれる(A)成分の含有量に対する、(B)成分の含有量の質量割合を表す。
層(α)中の(A)成分と(B)成分との混合比率は、(B)成分/(A)成分で表される質量比が、0.06〜2であることが好ましく、0.1〜2がより好ましく、0.15〜2がさらに好ましい。
(B)成分/(A)成分で表される質量比が好ましい下限値以上であれば、崩壊性に優れた錠剤が得られやすくなる。
原料として用いられる(B)成分は、一般的に硬い粒子状であることが多い。このため、(B)成分を用いる場合、圧縮成形性が悪くなりやすく、錠剤の硬度が出にくい。また、錠剤に(B)成分が多量に含まれると、(A)成分の安定性を悪化させるおそれがある。(B)成分/(A)成分で表される質量比が好ましい上限値以下であると、錠剤の小型化を図りやすくなる。
【0021】
≪(C)成分:アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる1種以上を含む制酸剤≫
(C)成分としては、胃酸を中和する作用を奏する、アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる1種以上を含む成分であればよく、例えば重質炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、乾燥水酸化アルミニウム等が挙げられる。これらの中でも、包装体における経時に伴う薬物収容部の膨張を抑制する効果がより得られやすいことから、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウムが好ましい。
(C)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
錠剤中の(C)成分の含有割合は、錠剤中の(A)成分及び(B)成分の含有割合等を勘案して決定され、例えば3〜50質量%が好ましく、4〜40質量%がより好ましく、5〜40質量%が特に好ましい。
錠剤中の(C)成分の含有割合が好ましい下限値以上であると、包装体における経時に伴う薬物収容部の膨張を抑制する効果がより得られやすくなる。一方、錠剤中の(C)成分の含有割合が好ましい上限値以下であれば、錠剤の崩壊性の低下がより抑制される。加えて、変色等の経時変化をより生じにくくなる。
【0023】
また、層(α)中の(C)成分の含有割合は、錠剤の形態、及び包装体における薬物収容部の膨張の抑制等を勘案して決定され、3〜60質量%が好ましく、4〜50質量%がより好ましく、5〜40質量%が特に好ましい。
【0024】
本発明において、「(C)成分/(B)成分で表される質量比」とは、層(α)に含まれる(B)成分の含有量に対する、(C)成分の含有量の質量割合を表す。
層(α)中の(B)成分と(C)成分との混合比率は、(C)成分/(B)成分で表される質量比が、0.6〜15であることが好ましく、0.65〜12がより好ましく、0.75〜10がさらに好ましく、0.9〜10が特に好ましく、1〜5.5が最も好ましい。
(C)成分/(B)成分で表される質量比が好ましい下限値以上であれば、経時に伴う炭酸ガスの発生が抑えられやすくなり、包装体における経時に伴う薬物収容部の膨張を抑制する効果がより得られやすくなる。
一般的に(C)成分を配合すると崩壊性が悪くなる傾向があり、錠剤に(C)成分が多量に含まれると、崩壊遅延が生じるおそれがある。(C)成分/(B)成分で表される質量比が好ましい上限値以下であると、錠剤の崩壊性がより良好となる。
【0025】
≪その他の成分≫
本発明の錠剤において、層(α)が含有していてもよい(A)〜(C)成分以外の成分としては、通常、錠剤に配合されている成分、例えば結合剤、崩壊剤((B)成分を除く)、賦形剤、滑沢剤、香料、矯味剤(甘味料、酸味料など)、(A)成分以外の薬物等が挙げられる。
【0026】
結合剤としては、澱粉、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム末、メチルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン等が挙げられる。
崩壊剤としては、クロスポビドン、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
賦形剤としては、前記崩壊剤で例示した成分に加えて、乳糖、コーンスターチ、タルク、結晶セルロース(アビセルなど)、粉糖、マンニトール、軽質無水ケイ酸、炭酸カルシウム、L−システイン等が挙げられる。
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
香料としては、メントール、リモネン、植物精油(ハッカ油、ミント油、ライチ油、オレンジ油、レモン油など)等が挙げられる。
甘味料としては、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸二カリウム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、スクラロース等が挙げられる。
酸味料としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、乳酸、又はこれらの塩などが挙げられる。
【0027】
(A)成分以外の薬物としては、アリルイソプロピルアセチル尿素、ブロムワレリル尿素等の鎮静催眠成分;塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸クレマスチン、マレイン酸カルビノキサミン等の抗ヒスタミン成分;臭化水素酸デキストロメトルファン、リン酸ジヒドロコディン、リン酸コディン、ヒベンズ酸チペピジン、塩酸クロペラスチン、ベンゾナテート等の鎮咳成分;塩酸ノスカピン、塩酸ブロムヘキシン、グアヤコールスルホン酸カリウム、グアイフェネシン等の去痰成分;塩酸L−システイン、塩酸L−メチルシステイン、アセチルシステイン等の粘膜溶解成分;カルボシステイン等の粘液修復成分;塩化リゾチーム等の消炎酵素成分;グリチルリチン酸等の抗炎症成分;塩酸アンブロキソール等の粘液潤滑成分;塩酸テルビナフィン等の抗真菌成分;シュードエフェドリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸テルブタリン、イソプロテレノール、サルブタモール、テルブタリン等のβ2−アドレナリン受容体刺激薬、テオフィリン、アミノフィリン、プロキシフィリン等のキサンチン系薬剤、クロモグリク酸等の気管支拡張成分又は喘息治療成分;アミノ酸類;生薬;ビタミンA,D,E,K,U等の脂溶性ビタミン類、ビタミンB,C,P等の水溶性ビタミン類等のビタミン;カフェイン、アセトアミノフェン等が挙げられる。
【0028】
本発明の錠剤は、上述した層(α)とこれ以外の層との積層体(積層錠)であってもよい。
層(α)以外の層としては、例えば、(A)〜(C)成分を含有しないその他の成分からなる層、(A)〜(C)成分のいずれか1成分と必要に応じてその他の成分とを含有する層、(A)成分を含有せず(B)成分と(C)成分と必要に応じてその他の成分とを含有する層が挙げられる。
なお、本発明の錠剤においては、(A)成分と(B)成分との接触により炭酸ガスが徐々に発生し、包装体において薬物収容部が経時で膨張するおそれがあることから、層(α)以外の層として、(C)成分を含有せず(A)成分と(B)成分とを含有する層を設けないことが好ましい。また、変色等の経時変化を生じるおそれがあることから、層(α)以外の層として、(B)成分を含有せず(A)成分と(C)成分とを含有する層を設けないことが好ましい。
層(α)以外の層が含有していてもよい(A)〜(C)成分以外の成分としては、上述した層(α)が含有していてもよいその他の成分と同様のものが挙げられる。
【0029】
(錠剤の製造方法)
本発明の錠剤の製造方法は、上記本発明の錠剤の製造方法であって、前記の(A)成分と(B)成分と(C)成分とを混合して混合物を得る工程(混合工程)と、前記混合物を打錠して、前記層(α)を有する錠剤を成形する工程(成形工程)とを備える。
【0030】
<混合工程>
混合工程では、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分と、必要に応じてその他の成分とを混合して混合物を得る。
混合方法としては、粉体混合、造粒による方法などが挙げられる。
【0031】
粉体混合には、一般的な混合機、例えばボーレコンテナミキサー(ボーレ寿工業株式会社製)、V型混合機(ダルトン株式会社製)、リボンミキサー(ダルトン株式会社製)等を用いることができる。
混合順序は、特に限定されず、例えば、全ての成分を混合機に仕込み、これを混合してもよいし、各成分を混合機に順次投入し混合してもよい。
混合時間は、特に限定されず、各成分をおよそ均一に分散できる時間とされる。
混合物の水分含有量は、特に限定されないが、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。水分含有量が好ましい上限値以下であれば、錠剤の崩壊性がより高まる。また、乾燥効率を高められ、(A)成分が打錠機に付着しにくくなる。
【0032】
造粒は、例えば乾式造粒法、湿式造粒法を用いて行うことができる。湿式造粒法には、例えば、流動層造粒機を用い、(A)成分と(B)成分と(C)成分とを混合しつつ、結合剤を含有する水溶液又は分散液(必要に応じて任意成分が添加されていてもよい)を噴霧しながら造粒を行う方法(流動層造粒法)を用いることができる。
造粒により調製される造粒粒子群の平均粒子径は、70〜600μmが好ましく、80〜500μmがより好ましい。
本明細書において、平均粒子径とは、体積平均粒子径を意味し、レーザー回折・散乱粒度分布測定装置「LS230型」(ベックマン・コールター社製)等を用いて、レーザー回折・散乱法により測定される値を示す。
【0033】
混合工程における、(A)成分と(B)成分と(C)成分とを混合する混合方法は、崩壊性のより高い錠剤が得られやすいことから、加水せずに混合する方法が好ましく、具体的には粉体混合、乾式造粒法が好適であり、より簡便な方法であることから、粉体混合が特に好ましい。
【0034】
層(α)とこれ以外の層との積層体からなる錠剤(積層錠)を製造する場合、上述の混合方法を用いて、層(α)用の混合粉体と、層(α)以外の層用の粉体と、を別個に調製すればよい。
【0035】
<成形工程>
成形工程では、前記混合工程で得られた混合物を打錠して、層(α)を有する錠剤を成形する。
打錠方法は、特に限定されず、従来公知の打錠機、例えばロータリー式の打錠機(株式会社菊水製作所社製のLIBRA2など)等を用いた方法が挙げられる。
打錠条件は、特に限定されず、錠剤に求める硬度等を勘案して適宜決定される。
【0036】
積層錠を製造する場合、層(α)用の混合粉体、又は層(α)以外の層用の粉体のいずれかを、打錠機に充填し打錠して層を形成し、次いで、この層に重ねて他の粉体を打錠機に充填し打錠して積層していけばよい。
【0037】
成形工程の後、錠剤の保存安定性の向上等を目的として、必要に応じて錠剤にコーティング処理を施してもよい(コーティング工程)。
コーティング処理としては、特に限定されず、従来公知の方法を適用でき、例えば、コーティング剤(ポリマー、可塑剤等の水溶液など)を打錠後の成形体表面に塗布し、次いで乾燥する方法が挙げられる。
【0038】
上述した本発明の錠剤は、崩壊剤として(B)成分を含有するため、崩壊性が高い。加えて、(A)成分と(B)成分とが(C)成分とともに、同一の層内に共存していることにより、経時に伴う炭酸ガスの発生が抑えられるため、包装体における薬物収容部の膨張を生じにくい。
かかる包装体としては、水難溶性の酸性薬物を、ストリップパッケージに収容したSP包装体、プレススルーパッケージに収容したPTP包装体などが挙げられる。
また、本発明の錠剤は、(A)〜(C)成分を同一の層内に併有していることにより、変色等の経時変化も生じにくい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、「%」は、特に断りがない限り「質量%」を示す。また、実施例3、4、6、8〜10、15は、参考例である。
本実施例において使用した原料は下記の通りである。
【0040】
・(A)成分:水難溶性の酸性薬物
イブプロフェン、商品名「イブプロフェンDC85」(BASF社製)。20℃の水に対する溶解度0.01g/100mL。水を溶媒とした際の25℃におけるpKa4.5。
【0041】
・(B)成分:アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属炭酸水素塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物
炭酸水素ナトリウム、商品名「重炭酸ナトリウムKF」(旭硝子株式会社製)。
【0042】
・(B’)成分:(B)成分の比較成分
炭酸マグネシウム、商品名「炭酸マグネシウム」(和光純薬工業株式会社製)。
【0043】
・(C)成分:アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる1種以上を含む制酸剤
乾燥水酸化アルミニウムゲル、商品名「S−100」(協和化学工業株式会社製)。
【0044】
・(C’)成分:(C)成分の比較成分
無水第二リン酸カルシウム(松尾薬品産業株式会社製)。
【0045】
・その他の成分
マンニトール、商品名「ペアリトール200SD」(ロケット社製)。
クロスポビドン、商品名「Kollidon CL−SF」(BASF社製)。
結晶セルロース、商品名「セオラスUF702」(旭化成ケミカルズ株式会社製)。
無水カフェイン、商品名「無水カフェイン0.2/0.5」(白鳥製薬株式会社製)。
アリルイソプロピルアセチル尿素、商品名「アリプロナール粉砕品」(金剛化学株式会社製)。
ステアリン酸マグネシウム、商品名「ステアリン酸マグネシウム」(太平化学産業株式会社製)。
アセトアミノフェン、商品名「アセトアミノフェン」(岩城製薬株式会社製)。
ヒドロキシプロピルセルロース、商品名「HPC−SSL」(日本曹達株式会社製)。
【0046】
<錠剤の製造方法>
表1〜5に示す組成(配合成分、含有割合(質量%/錠))に従い、各例の錠剤を下記の製造方法によりそれぞれ製造した。表に記載されている各成分の含有割合(質量%/錠)は、錠剤1錠中の各配合成分の含有割合である。表中、配合成分の含有割合は、純分換算量での値を示す。
「層(α)中の質量比(C)/(B)」は、(A)〜(C)成分を併有する層(α)中の、(B)成分の含有量に対する、(C)成分の含有量の質量割合を意味する。比較例3については、(A)成分と(B’)成分と(C)成分とを併有する層中の、(B’)成分の含有量に対する、(C)成分の含有量の質量割合を意味する。比較例4については、(A)成分と(B)成分と(C’)成分とを併有する層中の、(B)成分の含有量に対する、(C’)成分の含有量の質量割合を意味する。実施例13〜15及び比較例5については、第1層中の、(B)成分の含有量に対する、(C)成分の含有量の質量割合を意味する。
「層(α)中の質量比(B)/(A)」は、(A)〜(C)成分を併有する層(α)中の、(A)成分の含有量に対する、(B)成分の含有量の質量割合を意味する。比較例3については、(A)成分と(B’)成分と(C)成分とを併有する層中の、(A)成分の含有量に対する、(B’)成分の含有量の質量割合を意味する。比較例4については、(A)成分と(B)成分と(C’)成分とを併有する層中の、(A)成分の含有量に対する、(B)成分の含有量の質量割合を意味する。実施例13〜15及び比較例5については、第1層中の、(A)成分の含有量に対する、(B)成分の含有量の質量割合を意味する。
【0047】
(実施例1〜11)
混合工程:
表1及び表3に示す組成となるように、ボーレコンテナミキサー(ボーレ寿工業株式会社製、20L LM−20型)を用い、各成分(ステアリン酸マグネシウムを除く)を約30分間混合し、その後、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、合計3kgになる混合粉体を得た。
成形工程:
ロータリー式の打錠機(株式会社菊水製作所社製、LIBRA2)を用い、前記混合工程で得られた混合粉体を、錠剤硬度が5〜7kgf(49〜69N)となるように打錠圧を調整して打錠し、直径8.0mmの錠剤(単層からなる錠剤)約250mgを得た。
【0048】
(比較例1〜4)
混合工程:
表2に示す組成となるように、前記ボーレコンテナミキサーを用い、各成分(ステアリン酸マグネシウムを除く)を約30分間混合し、その後、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、合計3kgになる混合粉体を得た。
成形工程:
ロータリー式の打錠機(株式会社菊水製作所社製、LIBRA2)を用い、前記混合工程で得られた混合粉体、錠剤硬度が5〜7kgf(49〜69N)となるように打錠圧を調整して打錠し、直径8.0mmの錠剤(単層からなる錠剤)約250mgを得た。
【0049】
(実施例12)
混合工程:
表4に示す組成となるように、スパイラフロー(フロイント産業株式会社製)を用い、(A)成分と(B)成分と(C)成分とを混合しつつ6質量%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧しながら造粒した。
前記噴霧の終了後、排気温度が43℃になるまで乾燥させて、平均粒子径200μmの造粒粒子を得た。
次いで、前記ボーレコンテナミキサーを用い、得られた造粒粒子とその他の成分(ステアリン酸マグネシウムを除く)とを約30分間混合し、その後、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、合計3kgになる混合粉体を得た。
成形工程:
ロータリー式の打錠機(菊水製作所社製、LIBRA2)を用い、前記混合工程で得られた混合粉体を、錠剤硬度が5〜7kgf(49〜69N)となるように打錠圧を調整して打錠し、直径8.0mmの錠剤(単層からなる錠剤)約250mgを得た。
【0050】
(実施例13〜15、比較例5)
混合工程:
表5に示す組成となるように、前記ボーレコンテナミキサーを用い、第1層を構成する各成分(ステアリン酸マグネシウムを除く)を約30分間混合し、その後、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、合計2.5kgになる混合粉体(1)を得た。
同様にして、第2層を構成する各成分(ステアリン酸マグネシウムを除く)を約30分間混合し、その後、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、合計2kgになる混合粉体(2)を得た。
成形工程:
ロータリー式の打錠機(菊水製作所社製、LIBRA2)を用い、これに、前記混合工程で得られた混合粉体(1)の所定量を充填して第1層を形成した。次いで、該第1層に重ねて、混合粉体(2)を第2層となるように積層した。次いで、錠剤硬度が5〜7kgf(49〜69N)となるように打錠圧を調整して打錠し、直径9.0mmの錠剤(積層錠)約350mgを得た。
なお、実施例13〜15、比較例5の錠剤においては、第1層が層(α)であり、第2層が層(α)以外の層である。
【0051】
<評価>
[錠剤の崩壊性についての評価]
各例の錠剤の崩壊性を、第16改正日本薬局方に収載の崩壊試験方法にて評価した。かかる評価は、崩壊時間を指標として実施した。その崩壊時間(分)を表1〜5に示した。崩壊時間が4分以内であれば、本発明による効果が有り、と判断した。
【0052】
[包装体における薬物収容部の膨張を抑制する効果についての評価]
各例の錠剤を、それぞれPTP(住友ベークライト株式会社製、VSL−4610N)の薬物収容部に収容し、PTP包装機(大和化成工業株式会社製、K−200Kシール機)を用いて、薬物収容部を塞ぐようにアルミ箔(東洋アルミニウム株式会社製、PVC用)をPTPにシールすることによりPTP包装体を作製した。
次いで、得られたPTP包装体を、温度50℃、相対湿度75%RHの条件下で1日間保存する試験(PTP包装体の保存試験)を行った。
その後、PTP包装体の状態(外観)を目視で観察し、下記の評価基準に従い、包装体における薬物収容部の膨張を抑制する効果について評価した。この結果を表1〜5に示した。かかる評価が◎◎、◎、○のいずれかであれば、本発明による効果が有り、と判断した。
【0053】
図1は、上述の保存試験を行った後のPTP包装体の状態(外観)を示す写真であり、下記評価基準(◎◎、◎、○、×)のそれぞれの状態を示すPTP包装体の一例である。
図1に示すPTP包装体においては、平面視略円形状の薬物収容部1に錠剤が収容され、アルミ箔2が薬物収容部1を塞ぐように設けられている。
【0054】
評価基準
◎◎:薬物収容部1の膨張も、アルミ箔2の剥がれも認められなかった。
◎:薬物収容部1の膨張が少し認められたが、アルミ箔2の剥がれは認められなかった。
○:薬物収容部1の膨張が認められ、薬物収容部1の縁の一部に、アルミ箔2の剥がれが認められた。
×:薬物収容部1が膨張し、薬物収容部1の縁全体に、アルミ箔2の剥がれが認められた。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表1〜3に示す結果から、本発明を適用した実施例1〜11の錠剤(単層からなる錠剤)は、崩壊性が高く、かつ、包装体における薬物収容部の膨張を生じにくいことが確認できる。
【0059】
【表4】
【0060】
質量比(C)/(B)及び質量比(B)/(A)が同程度であり、かつ、製造方法が異なる、実施例1(混合工程における混合方法が粉体混合)と実施例12(混合工程における混合方法が湿式造粒法)との対比より、該混合方法として粉体混合を採用した実施例1の錠剤の方が、錠剤の崩壊性が良好であることが確認できる。
【0061】
【表5】
【0062】
表5に示す結果から、本発明を適用した実施例13〜15の錠剤(積層錠)は、崩壊性が高く、かつ、包装体における薬物収容部の膨張を生じにくいことが確認できる。
【符号の説明】
【0063】
1 薬物収容部、2 アルミ箔。
図1