(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る対象物の保持装置の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。この実施形態においては、対象物が生体由来の細胞、特に細胞凝集塊である場合について説明する。生体由来の細胞凝集塊(スフェロイド;spheroid)は、細胞が数個〜数十万個凝集して形成されている。そのため、細胞凝集塊の大きさは様々である。生きた細胞が形成する細胞凝集塊は略球形であるが、細胞凝集塊を構成する細胞の一部が変質したり、死細胞となっていたりすると、細胞凝集塊の形状は歪になる、あるいは密度が不均一となる場合がある。バイオ関連技術や医薬の分野における試験において、種々の形状を呈する複数の細胞凝集塊を本実施形態の保持装置にて保持させ、試験に適した形状の細胞凝集塊のみを選別する作業を行うことは、本発明の好適な用途である。なお、対象物は細胞凝集塊に限られるものではなく、小型の電子部品や機械部品、有機又は無機の破砕片や粒子、ペレット等であっても良い。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る対象物の保持装置Dを概略的に示す側断面図である。保持装置Dは、液体Lを貯留する容器1と、対象物(細胞凝集塊)を液体L中において保持するプレート2と、プレート2上の細胞凝集塊を分散させることが可能な分散機構3とを備えている。
図2は、容器1の斜視図、
図3は、プレート2の上面図、
図4は、
図3のIV−IV線断面図である。
【0012】
容器1は、円柱形の形状を備え、その上面側に矩形の上部開口1Hを備えている。この上部開口1Hは、細胞凝集塊の投入、並びに、選別された細胞凝集塊をピックアップするための開口である。上部開口1Hの形状には特に限定はなく、例えば円形の上部開口1Hとしても良い。プレート2は、上部開口1Hの下方に配置されている。細胞凝集塊の投入の際、
図1に示す通り、細胞凝集塊を含む細胞懸濁液を吸引し保持している分注チップ4が、上部開口1Hに対向して配置される。そして、分注チップ4から前記細胞懸濁液が、容器1に貯留された細胞凝集塊を含まない液体L中に吐出される。
【0013】
容器1に貯留される液体Lは、細胞凝集塊の性状を劣化させないものであれば特に限定されず、細胞凝集塊の種類により適宜選定することができる。液体Lとしては、たとえば基本培地、合成培地、イーグル培地、RPMI培地、フィッシャー培地、ハム培地、MCDB培地、血清などの培地(細胞培養液)のほか、冷凍保存前に添加するグリセロール、セルバンカー(十慈フィールド(株)製)等の細胞凍結液、ホルマリン、蛍光染色のための試薬、抗体、精製水、生理食塩水などを挙げることができる。たとえば、細胞凝集塊として生体由来の細胞であるBxPC−3(ヒト膵臓腺癌細胞)を用いる場合には、液体LとしてはRPMI−1640培地に牛胎児血清FBS(Fetal Bovine Serum)を10%混ぜたものに、必要に応じて抗生物質、ピルビン酸ナトリウムなどのサプリメントを添加したものを用いることができる。
【0014】
容器1の形状は特に限定されないが、ここでは操作性や安定性等の観点から、高さが横幅(直径)に比べて比較的広い扁平な円柱形状のものを容器1として例示している。容器1は、透光性の樹脂材料やガラスで作製されていることが望ましい。これにより、容器1の下方に配置されたカメラ等により、プレート2に保持された細胞凝集塊を観察することができる。
【0015】
容器1は、底壁11、外周壁12、内周壁13及び天壁14を備える。底壁11は、容器1の底部を区画する平坦な円板部材である。外周壁12は、底壁11上に立設された円筒状の部材である。内周壁13は、外周壁12の内部に配置された角筒状の部材である。天壁14は、容器1の上面側において、上部開口1H以外の領域を覆う板部材である。
【0016】
外周壁12は、天壁14の外周縁に連設される上縁部121と、底壁11の外周縁に連設される下縁部122とを備える。内周壁13は、上部開口1Hから底壁11に向けて開口面積が徐々に縮小するように傾斜している。内周壁13の上端部131は、上部開口1Hを画定するものであって、天壁14の内周縁に連設されている。つまり、内周壁13の上端部131は、天壁14を介して外周壁12の上縁部121に連設されており、内周壁13は外周壁12によって支持されている。内周壁13の下端部132は、プレート2の外周縁を保持している。天壁14には、上下方向への貫通孔からなる作業孔141が穿孔されている。この作業孔141を通して、容器1のキャビティへの液体Lの注液、薬品類の注液、若しくは液体Lの吸液などの作業が行われる。さらに本実施形態では、作業孔141は、前記キャビティ内の気圧調整を行うための配管の接続口としても利用される。
【0017】
プレート2は、上面2Uと下面2Bとを有する矩形の板状部材である。プレート2は、下面2Bが容器1の底壁11に対して間隔を置いた状態で、内周壁13の下端部132にて保持されている。プレート2は、容器1内の液体L中に浸漬されている。つまり、プレート2の上面2Uが液体Lの液面LTよりも下方に位置するよう、容器1に液体Lが注液される。
【0018】
プレート2は、上面2U側に配置され細胞凝集塊を担持する複数の保持部21と、各保持部21の配置位置に形成され上面2Uから下面2Bに直線状に貫通する貫通孔22とを備えている。本実施形態では、上面視で四角形の保持部21がマトリクス状に配列されている例を示している。これは一例であり、保持部21の上面視形状は、丸形、三角形、五角形、六角形等であってもよく、これらがハニカム状、直線状、ランダムに配置されていても良い。或いは、一つの保持部21だけが備えられているプレート2としても良い。なお、容器1と同様にプレート2も、担持された細胞凝集塊の下面2B側からの撮像を可能とするために、透明な部材で形成されることが望ましい。
【0019】
図4に示すように、保持部21の縦断面の形状は、上方に開口した凹曲面211(凹部)である。貫通孔22の上面2U側の開口は、保持部21の凹曲面211の底面(もっとも深い位置)に配置されている。1の保持部21とこれに隣接する保持部21(凹曲面211)の上縁部212は、互いに近接している。
図3では、各保持部21の形状を際立たせるため、上縁部212が比較的広幅を有するように描いているが、実際は
図4に示すように上縁部212同士は隣接している。このため、隣接する凹曲面211の上縁部212同士が接することにより形成される稜線部分は、鋭利な凸状の部分となっている。保持部21の変形実施形態では、凹曲面211に代えて、保持部21の開口面積が上方から下方に向けて小さくなるような直線状の傾斜壁面、階段状の壁面とされる。或いは、開口面積が上方から下方に向けて一定の、円筒型、角筒型の凹部からなる保持部21としたり、上方部分が開口面積一定の前記円筒型又は角筒型の壁面であって下方部分が凹曲面、傾斜壁面又は階段状の壁面の凹部からなる保持部21としたりすることもできる。
【0020】
保持部21には、一般は1個の細胞凝集塊が収容されることが企図されている。但し、1の保持部21に、指定個数の細胞凝集塊を収容させたり、指定量(総体積又は総面積)の細胞凝集塊を収容させたりする場合もある。貫通孔22のサイズは、所望のサイズの細胞凝集塊は通過できず、所望のサイズ以外の小さな細胞凝集塊や夾雑物を通過させるサイズに選ばれている。プレート261の下面2Bと容器1の底壁11との間の距離は、前記夾雑物等を底壁11上に堆積させるのに十分な高さが選ばれる。
【0021】
容器1内には、当該容器1の底壁11、外周壁12、内周壁13、天壁14及びプレート2によって囲まれる、閉鎖領域CAが形成されている。この閉鎖領域CAと外部とは、上述の作業孔141及び貫通孔22によって連通している。液体Lの液面LTがプレート2よりも上方に位置するように容器1が液体Lを貯留した状態(
図1はこの状態を示す)であって、作業孔141が封止された状態においては、プレート2上に滞留する液体Lにて貫通孔22が塞がれることによって、閉鎖領域CAが密閉された領域となる。
【0022】
分散機構3は、貫通孔22に、下面2Bの側から上面2Uの側に向けて流れ、保持部21に担持された細胞凝集塊を上昇させる液流LCを形成するための機構である。このような液流LCを発生させる手段には限定は無く、例えば空気圧、水圧(液圧)、波動を利用することができる。上述の通り、容器1が液体Lを所定高さまで貯留した状態では、閉鎖領域CAが密閉領域となる。従って、閉鎖領域CA内において空気層の体積を増加させたり、液体Lに液面LTが上昇する方向の力を加えたりする加圧力を発生させると、これらのパワーの逃げ場は貫通孔22しかなく、液流LCが発生する。分散機構3の具体例については、後記で例示する。
【0023】
図5は、細胞凝集塊がプレート2に担持される状況を説明するための模式図である。ここでの細胞凝集塊の担持作業は、種々の細胞凝集塊や夾雑物の中から所望の細胞凝集塊を選別する作業でもある。この細胞選別動作が行われる際、細胞凝集塊を含まない液体L(細胞培養液)が作業孔141を通して容器1内に注液される。勿論、容器1の上部開口1Hから液体Lを注液しても良い。液体Lの液面LTの高さは、プレート2が液体L中に完全に浸漬される高さとされる。その後、容器1の上部開口1Hを通してプレート2上の液面LTに向けて、選別対象となる細胞凝集塊Cと不可避的に混在する夾雑物Cxとを含む細胞懸濁液が、分注チップ4から注入される。
【0024】
注入された前記細胞懸濁液に含まれる細胞凝集塊C及び夾雑物Cxは、液面LTから下方に向けて自重により液体L内を沈降する。
図5では、2つの細胞凝集塊C1、C2と3つの夾雑物Cx1、Cx2、Cx3を模式的に示している。プレート2が備える多数の保持部21は、半球状のキャビティ(凹曲面211)が密に配列されており、保持部21同士を区切る稜線(上縁部212)は鋭利である。従って、沈降する細胞凝集塊C1、C2及び夾雑物Cx1、Cx2、Cx3は、上縁部212付近に滞留することなく、いずれかの保持部21の凹曲面211内に導かれる。
【0025】
所定のサイズを備える細胞凝集塊C1、C2は、貫通孔22を通過することができない。従って、これら細胞凝集塊C1、C2は、導入された保持部21上で担持されることになる。一方、夾雑物Cxは、一般に細胞凝集塊Cよりは相当小さいサイズであり、貫通孔22を通過し得る。このため、凹曲面211内に導かれた夾雑物Cxは、貫通孔22を通過して、容器1の底壁11上に落下する。
図5では、夾雑物Cx1が貫通孔22を通過しつつあり、夾雑物Cx2、Cx3が底壁11上に落下した状態を示している。このように、選別対象の細胞凝集塊C1、C2はプレート2の保持部21にトラップされ、無用な夾雑物Cx1、Cx2、Cx3は、容器1の底壁11に回収される。以上のような細胞選別動作は、1回のみ実行される場合、或いは必要に応じて複数回繰り返される場合がある。
【0026】
一つの代表的な保持装置Dの使用例では、上記の細胞選別動作の後、容器1の下方に配置されたカメラにより、細胞凝集塊Cを担持したプレート2の画像が撮像される。取得された画像が解析され、
図3のようにn列m行にマトリクス配置された保持部21群のうち、どの保持部21に細胞凝集塊Cが担持されているかが座標情報で特定される。ここで把握される細胞凝集塊Cの担持状況に基づいて、再度の細胞懸濁液の容器1への注液を行うか否かが判断される。並行して、が装着され、XYZ方向に移動可能なヘッドが準備される。前記ヘッドが上部開口1H上に配置され、前記座標情報に基づきターゲットとする保持部21にシリンダチップがアプローチするよう、ヘッドの動作が制御される。そして、シリンダチップにより、当該保持部21に担持されている細胞凝集塊Cが吸引される。吸引された細胞凝集塊Cは、前記ヘッドにより他のシャーレやウェルプレートまで搬送され、これらに吐出される。
【0027】
上記の細胞選別動作において、1つの保持部21に複数個の細胞凝集塊Cが収容されてしまう場合がある。一般に、一つの保持部21には一つの細胞凝集塊Cが保持されることが、細胞凝集塊Cの画像観察や前記シリンダチップによる個別吸引が容易であるという観点から望ましい。しかし、このような細胞凝集塊Cの望ましい保持状態を、分注チップ4を用いた通常の細胞懸濁液の注液動作だけで形成することは難しい。すなわち、細胞懸濁液を分注チップ4から吐出させた後、自然沈降に依存してプレート2に担持される。このため、複数の細胞凝集塊Cが密集した状態でプレート2上に担持されたり、全く細胞凝集塊Cを保持していない保持部21が多く存在したりすることが多々ある。つまり、細胞凝集塊Cが概ね均等にプレート2上にばら撒かれた状態を形成することは難しい。この問題を解消するのが、分散機構3が形成する液流LCである。
【0028】
図6は、細胞凝集塊Cが密集した状態でプレート上に担持されている状態を示す、プレートの上面図、
図7は、
図6のVII−VII線断面図である。
図6及び
図7では、VII−VII線上に隣接して並ぶ3つの保持部21にのみ細胞凝集塊Cが担持されている状態を示している。しかも、1つの保持部21に2個又は3個の細胞凝集塊Cが担持されてしまっている。このような担持状態であると、1つの細胞凝集塊Cだけをシリンダチップで吸引することは難しい。また、1の細胞凝集塊Cと他の細胞凝集塊Cとが上下方向でみて重なっているので、容器1の下方からカメラで撮像しても、当該細胞凝集塊Cの全体画像を取得することができない。
【0029】
本実施形態ではこのような場合に、分散機構3に液流LCを発生させて、細胞凝集塊Cの重なった担持状態を解消させる。
図8は、プレート2上の細胞凝集塊Cが、液流LCにより分散されている状態を示す図である。液流LCは、貫通孔22を、プレート2の下面2Bの側から上面2Uの側に向けて流れる。このような液流LCが発生すると、保持部21に重なり合うように担持されている細胞凝集塊Cは、上方に舞い上がる(上昇する)。保持部21の半球状のキャビティ内に深く入り込み、プレート2への振動の付与や液面LT側からの波動の付与では保持部21から容易に抜け出ない細胞凝集塊Cが存在する。このような細胞凝集塊Cも、保持部21の底面に配置された貫通孔22から吹き上げる液流LCによって、保持部21から抜け出させることができる。
【0030】
各々の細胞凝集塊Cが受ける液流LCの押し上げ力の方向は、細胞凝集塊Cの形状や収容位置によりまちまちであるので、密集状態にある細胞凝集塊Cは、
図8に示すように四散して上方に舞い上がる。液流LCを発生させる期間、液流LCの速度及び量等は、細胞凝集塊Cの性質に応じて適宜定められる。要するに、液流LCは、細胞凝集塊Cを一時的にプレート2上の液体L内へ舞い上がらせることができれば、その期間や速度等に制限はない。なお、期間が長すぎる液流LC、又は速度が速すぎる液流LCは、細胞凝集塊Cにダメージを与え得るので好ましくない。液流LCにより舞い上がった細胞凝集塊Cは、液体L内で分散され、液流LCの停止により自重で沈降し始める。この沈降を促進するために、貫通孔22に逆方向の液流、すなわち上面2Uの側から下面2Bの側に向けて流れる液流を発生させても良い。
【0031】
図9Aは、分散後の細胞凝集塊Cがプレート2上に担持されている状態を示す、プレートの上面図、
図9Bは、
図9AのIXB−IXB線断面図である。
図6と
図9Aとを比較すると明らかなように、密集状態にあった細胞凝集塊Cは分散され、1つの保持部21に1つの細胞凝集塊Cが担持されている。
【0032】
このように、本実施形態の保持装置Dによれば、一旦保持部21に担持された細胞凝集塊Cを、液流LCによって舞い上がらせることができる。このため、一つの保持部21に複数個の細胞凝集塊Cが担持されていても、これらの一部又は全部を液流LCによって舞い上がらせ、他の保持部21へ移動させることができる。従って、容器1に投入された多数の細胞凝集塊Cを、プレート2の保持部21の各々へ良好に分散担持させることができる。これにより、細胞凝集塊Cのシリンダチップによる吸引性、観察性を良好にすることができる。しかも、本体的には細胞凝集塊Cと夾雑物Cxとを篩い分けるために設けられている貫通孔22を利用して液流LCを発生させるので、細胞凝集塊Cの分散のためにプレート2に特別な形状的工夫を施す必要も無い。
【0033】
さらに、上述の液流LCによって、保持部21に残存する夾雑物Cxを取り除くことも可能である。この点を
図10に基づき説明する。
図10では、上方部分が開口面積一定の筒状部213であり、下方部分が貫通孔22に向けて開口面積が小さくなる傾斜部214とされた凹部からなる保持部21Aを例示している。夾雑物Cxは、本来貫通孔22から下方に落下する。しかし、夾雑物Cxの落下より先に細胞凝集塊Cが貫通孔22を塞ぐ形で保持部21Aに収容されたり、細胞凝集塊Cが夾雑物Cxを上に載せた状態で沈降したりすると、夾雑物Cxが保持部21Aに滞留することがある。
図10の状態(A)は、その状態の一例を示している。細胞凝集塊Cが貫通孔22を塞いだ状態で傾斜部214上に保持され、夾雑物Cxがその横に残存している。
【0034】
このような場合に、微小な液流LCを貫通孔22に発生させることで、夾雑物Cxを保持部21Aから除去することが可能である。
図10の状態(B)は、状態(A)から貫通孔22に微小な液流LCを発生させた状態を示している。液流LCとしては、傾斜部214に接地している細胞凝集塊Cを舞い上がらせるが保持部21Aから放出されない程度の強さの液流が選ばれる。当該液流LCによって、細胞凝集塊C及び夾雑物Cxが吹き上げられ、貫通孔22が開放される。従って、
図10の状態(C)で示すように、夾雑物Cxを貫通孔22から落下させ、細胞凝集塊Cだけが保持部21Aに保持された状態を形成することが可能となる。
【0035】
<第1実施形態>
以下、分散機構3の具体例を伴った、保持装置Dのいくつかの実施形態を例示する。
図11は、第1実施形態に係る対象物の保持装置D1を概略的に示すブロック図である。保持装置D1は、空気圧を利用して、容器1内の閉鎖領域CA内に加圧力を発生させ、貫通孔22に液流LCを発生させる。保持装置D1は、既述の容器1及びプレート2に加え、ポンプ31及びそのコントローラ32からなる分散機構3A(圧力調整装置)を含む。容器1の下方には、プレート2の画像を撮像するカメラ5が配置されている。コントローラ3は、分注チップ4による細胞懸濁液の吐出動作、並びにカメラ5の撮像動作も制御する。
【0036】
容器1は、先に
図1及び
図2に基づき説明したものと同じである。容器1は、予め作業孔141(
図2)を通して、液体L(細胞凝集塊Cを含まない細胞培養液)が注液される点、その液面LTがプレート2を完全に浸漬する高さであって、天壁14よりも低い高さ(内周壁13の上下方向の中間付近の高さ)である点も同様である。このような液面LTの高さであると、容器1の底壁11、外周壁12、内周壁13、天壁14及びプレート2によって囲まれる閉鎖領域CA内には空気が滞留する(閉じ込められる)空間Aが形成される。つまり、外周壁12及び内周壁13の上方部分と、天壁14と、液面LTとで囲まれる空間Aが形成される。
【0037】
天壁14の作業孔141には、配管アダプタ142が取り付けられている。この配管アダプタ142には、エア配管311の端末が取り付けられている。ポンプ31は、エア配管311の途中に組み入れられ、エアの吸引モード及び吐出モードの双方の運転を行うことが可能なポンプである。ポンプ31が吸引モードで運転されると、空間Aの空気が吸引される(負圧)。一方、ポンプ31が吐出モードで運転されると、空間Aに空気が送り込まれる(加圧)。コントローラ32は、吸引モード及び吐出モードの切り替え、及び各モードにおけるエア吸引/吐出量を制御する。
【0038】
分注チップ4は、
図11では簡略的に示しているが、細胞懸濁液を吸引して貯留することが可能なシリンジと、該シリンジ内において上下動するピストンロッドと、このピストンロッドを駆動する駆動モータとを備えている。前記ピストンロッドの上昇により先端開口41から細胞懸濁液がシリンジ内に吸引され、下降により先端開口41から細胞懸濁液が吐出される。コントローラ32は、前記駆動モータの動作を制御することで、細胞懸濁液の先端開口41からの前記吸引及び吐出を制御する。
【0039】
カメラ5は、プレート2及び該プレート2に担持されている細胞凝集塊Cを撮像するために配置されている。本実施形態において、容器1及びプレート2は透明な部材で形成されている。コントローラ32は、カメラ5の撮像動作を制御する機能を備えると共に、カメラ5が撮像した画像を解析する機能を備える。すなわち、コントローラ32は、前記画像に基づいて、マトリクス配置された複数の保持部21(
図3)の、どの保持部21に細胞凝集塊Cが担持されているかを特定し、その座標情報を求める処理を行う。
【0040】
続いて、保持装置D1による細胞凝集塊Cの分散動作を説明する。
図12Aは、保持装置D1において、分注チップ4によって上部開口1Hから容器1に細胞凝集塊Cが投入された状態を示す図である。ここでは、エア配管311及びポンプ31に記載が省かれている。細胞凝集塊Cの投入の際には、空間Aは大気開放される。つまり、空間Aには加圧力及び吸引力のいずれも作用しない。このため、液面LTの高さは、閉鎖領域CAにおいて表面張力の作用によって上昇することはなく、閉鎖領域CA及び上部開口1Hにおいて一定である。この
図12Aの状態では、先に
図6及び
図7に基づき説明した場合と同様に、細胞凝集塊Cがプレート2上の狭い領域に密集して担持されている。
【0041】
図12Bは、空間Aへの圧力印加によって液流LCが発生し、細胞凝集塊Cがプレート2上に舞い上がっている状態を示す図である。この状態は、コントローラ32がポンプ31を吐出モードで運転し、配管アダプタ142を通して空間Aに所定量の空気が送り込まれた直後の状態である。この空気の送り込みにより空間A内は加圧される。閉鎖領域CAの液面(空間Aに面する液面)LTには、矢印P1で示すように圧力が加わり、当該液面LTのレベルは押し下げられ、下位レベルLT1になる。閉鎖領域CAの液面LTにおいて矢印P1の圧力を受けた液体Lの当該圧力の解放先は、プレート2の貫通孔22となる。このため、矢印P1の圧力の印加によって、貫通孔22を下から上へ流れる液流LCが発生する。
【0042】
液流LCの発生に伴い、液体Lの一部がプレート2の上面側に流れ込む。これにより、矢印P2で示すように上部開口1Hの領域の液面LTは上昇し、上位レベルLT2になる。また、液流LCによって、プレート2に担持されていた細胞凝集塊Cは、上位レベルLT2となったプレート2上の液体L内において上方に舞い上がる。従って、密集状態であった細胞凝集塊Cは分散される。
【0043】
その後、コントローラ32は、ポンプ31を停止させると共に図略の弁装置を制御することで、空間A内が加圧された状態を解除する。これにより、空間Aは徐々に外気圧に戻る。上位レベルLT2の上部開口1Hの領域の液面LTは下降し、また、下位レベルLT1の閉鎖領域CAの液面LTは上昇し、やがて
図12Aの状態ように、容器1全体に亘って一定な液面LTとなる。そして、舞い上がった細胞凝集塊Cは自重で沈降し、やがてプレート2(保持部21)に担持される。分散後の沈降を細胞凝集塊Cの自然沈降に委ねる場合は、これで分散動作は終わりである。
【0044】
沈降後、コントローラ32は、カメラ5を動作させ、細胞凝集塊Cを担持しているプレート2の画像を撮像する。さらに、コントローラ32は、カメラ5が撮像した画像を解析して、細胞凝集塊Cのプレート2上における担持位置を特定する情報(座標情報)を導出する。なお、画像解析の結果、細胞凝集塊Cの分散が不十分である場合、つまり、重なり合った細胞凝集塊Cが多く存在することが前記画像において確認された場合、コントローラ32は、上記の分散動作を再度実行させる。
【0045】
細胞凝集塊Cの自然沈降速度が遅い場合は、空間Aを負圧にすることで、沈降を促進することが望ましい。本実施形態の分散機構3Aは、上述の空間Aの加圧を実行した後、空間Aを減圧する機能をさらに備える。
図12Cは、負圧にアシストされて、細胞凝集塊Cがプレート2上に沈降する状態を示す図である。この状態は、コントローラ32がポンプ31を吸引モードで運転し、配管アダプタ142を通して空間Aの空気を吸引し、空間Aが減圧された状態である。
【0046】
空間Aが負圧とされることで、矢印P3で示すように閉鎖領域CAの液面LTは上昇する。これにより、貫通孔22には、液流LH(
図12B)とは逆方向の液流が発生し、矢印P4で示すように上部開口1Hの領域の液面LTは下降する。そして、前記逆方向の液流によって、細胞凝集塊Cは貫通孔22に吸引されるようになり、プレート2上への沈降が促進される。沈降の後、コントローラ32は、ポンプ31を停止させると共に図略の弁装置を制御することで、空間A内が負圧とされた状態を徐々に解除する。やがて液面LTは、容器1全体に亘って一定な状態に戻る。このような負圧による沈降アシストを実行するか否かは、選別対象とする細胞凝集塊Cの特性に応じて予め定められる。
【0047】
以上は、細胞凝集塊Cをプレート2上に大きく舞い上がらせて分散させる例を示したが、微小な液流LCを発生させて、保持部21に担持されている細胞凝集塊Cの姿勢を変更させるようにしても良い。本実施形態では、保持部21に担持された細胞凝集塊Cを、容器1の下方に配置されたカメラ5にて撮像することができる。しかし、下方からのアングルで撮像できるのは細胞凝集塊Cの一側面だけであり、当該細胞凝集塊Cの全体像を認識するには不十分な画像である。担持された細胞凝集塊Cを姿勢変更させることができれば、細胞凝集塊Cの異なる側面を撮像することができる。
【0048】
図13は、保持部21に担持された細胞凝集塊Cの姿勢を、液流LCによって変更させる例を示す図である。
図13の(A)図は、一つの保持部21に一つの細胞凝集塊Cが、ある姿勢で担持されている状態を示す側断面図、(B)図は、(A)図の担持状態をプレート2の下方側(カメラ5の撮像アングル)から見た平面図である。ここで例示している細胞凝集塊Cの3D形状は、略U字形に湾曲した円柱体である。しかし、(A)図のように当該細胞凝集塊Cが立っている状態で保持部21に担持されていると、プレート2の下方側から観察した2D形状は、(B)図の通り略楕円形となる。つまり、当該細胞凝集塊Cの本来の形状を捉えることができていない。
【0049】
そこで、
図13の(C)図に示すように、貫通孔22に微小な液流LCを発生させて、細胞凝集塊Cを保持部21から僅かに浮き上がらせ、当該細胞凝集塊Cの姿勢を変更させる。この場合、コントローラ32は、ポンプ31を吐出モードで微小時間だけ駆動し、弱い衝撃波のような圧力を、閉鎖領域CAの液面LTに加えさせる。そうすると、衝撃波的な圧力に応じた微小時間の弱い液流LCが貫通孔22に発生する。
【0050】
図13の(D)図は、姿勢変更後の細胞凝集塊Cが、保持部21に担持されている状態を示す側断面図、(E)図は、(D)図の担持状態をプレート2の下方側から見た平面図である。(E)図の2D形状によれば、当該細胞凝集塊Cの形状的特徴を相当程度に把握することができる。また、(B)図及び(E)図の2D形状から、当該細胞凝集塊Cの3D形状をある程度推定することができる。
【0051】
続いて、コントローラ32の制御シーケンスを説明する。
図14Aは、コントローラ32による保持装置D1の制御フローの一例を示すフローチャートである。コントローラ32は、予め細胞懸濁液を吸引している分注チップ4を動作させ、液体Lが予め注液されている容器1へ、上部開口1Hを通して前記細胞懸濁液を吐出させる(ステップS1)。ステップS1の分注動作後、細胞凝集塊Cの沈降に要する時間の経過を待って、コントローラ32は、カメラ5を動作させ、細胞凝集塊Cを担持しているプレート2の画像を撮像させる(ステップS2)。
【0052】
その後、コントローラ32は、カメラ5が撮像した画像を解析して、細胞凝集塊Cの分散動作が必要であるか否かを判定する(ステップS3)。この判定は、例えば画像上のエッジ検出により細胞凝集塊Cの個体を特定し、該個体の分布度合を求めるアルゴリズムを適用することができる。他の実施形態では、カメラ5が撮像した画像をモニターに表示させ、ユーザーがモニター上で分散動作の要否を判定し、コントローラ32は分散動作の要否指示を受け付ける態様とされる。或いは、分散動作の要否判定を行わず、分注動作後には必ず分散動作を実行させる態様とすることもできる。
【0053】
分散動作が要と判定された場合(ステップS3でYES)、コントローラ32はポンプ31を吐出モードで運転し、容器1の空間Aを加圧する(ステップS4)。この加圧動作により、貫通孔22を下から上へ流れる液流LCが発生し、密集状態でプレート2に担持されていた細胞凝集塊Cは上方に舞い上がる。前記加圧動作の時間は、例えば0.5秒〜5秒程度である。その後、コントローラ32は、ポンプ31を停止させると共に図略の弁装置を制御することで、空間A内が加圧された状態を解除する(ステップS5)。
【0054】
続いてコントローラ32は、上述の加圧動作の後に空間Aの減圧を実行する設定が為されているか否かを確認する(ステップS6)。既述の通り、自然沈降速度が遅い細胞凝集塊Cの場合に、減圧が実行される。減圧の実行が設定されている場合(ステップS6でYES)、コントローラ32はポンプ31を吸引モードで運転し、空間Aを減圧する(ステップS7)。所定時間経過後、コントローラ32はポンプ31を停止させ、空間Aの減圧状態を解除する(ステップS8)。その後、処理はステップS2に戻り、再度のプレート2の撮像が行われ、処理が繰り返される。減圧の実行が設定されていない場合(ステップS6でNO)も同様である。
【0055】
一方、分散動作が不要と判定された場合(ステップS3でNO)、すなわち、細胞凝集塊Cがプレート2上において良好に分散した状態で担持されていることが確認された場合、細胞選別処理が実行される(ステップS9)。この細胞選別処理は、プレート2に担持された細胞凝集塊Cのうち、予め定められた基準を満たす細胞凝集塊Cを特定する処理である。細胞凝集塊Cの中には、十分な大きさを有していない、又は形状が歪であるというような、その後の培養や試験等に適さないものが混在している。このステップS9では、コントローラ32は、ステップS2で取得された画像を解析することで合格検体を特定する。或いは、ユーザーがモニター上で合格検体を目視で特定し、コントローラ32はその特定指示を受け付ける態様としても良い。
【0056】
その後、コントローラ32は、合格検体として特定された細胞凝集塊Cの、プレート2上における担持位置(保持部21の位置)を特定する座標情報を導出する(ステップS10)。そして、細胞凝集塊Cを吸引することが可能なシリンダチップを複数備えたヘッド(図示せず)が上部開口1H上に配置される。前記座標情報に基づいて前記シリンダチップの細胞凝集塊Cに対する位置合わせが行われ、当該細胞凝集塊Cが個々のシリンダチップにより個別に吸引(ピックアップ)される(ステップS11)。前記ピックアップを終えたら、前記ヘッドは、細胞凝集塊Cの吐出先となる他のシャーレやウェルプレートに向けて移動される。
【0057】
図14Bは、コントローラ32による保持装置D1の制御フローの他の一例を示すフローチャートである。ここでは、分注動作後にピックアップ可能な細胞凝集塊Cを先ずプレート2からピックアップするものとし、その後に分散動作が実行されるシーケンスを例示する。コントローラ32は、分注チップ4を動作させ、容器1へ前記細胞懸濁液を吐出させる(ステップS21)。細胞凝集塊Cの沈降後、コントローラ32は、カメラ5を動作させ、細胞凝集塊Cを担持しているプレート2の画像を撮像させる(ステップS22)。
【0058】
コントローラ32は、取得された画像に基づいて、ピックアップ可能な細胞凝集塊Cを特定する。つまり、合格検体の条件を満たす細胞凝集塊Cが1つだけ担持されている保持部21を特定する。そして、特定された保持部21の座標情報が導出される(ステップS23)。この座標情報に基づき、合格検体の細胞凝集塊Cが前記シリンダチップによりプレート2上からピックアップされる(ステップS24)。
【0059】
続いて、コントローラ32は、ステップS22で取得された画像、若しくはステップS24の実行後に新たに撮像された画像を解析して、細胞凝集塊Cの分散動作が必要であるか否かを判定する(ステップS25)。仮にステップS21の分注動作が良好に行われ、細胞凝集塊Cの分散状態が良好で、ステップS24で細胞凝集塊Cのピックアップが必要な数だけ行えたならば、分散動作は不要と判定される。分散動作が要と判定された場合(ステップS25でYES)、つまり、細胞凝集塊Cが重なり合って担持されているような場合、コントローラ32はポンプ31を吐出モードで運転し、容器1の空間Aを加圧する(ステップS26)。この加圧動作により、貫通孔22を下から上へ流れる液流LCが発生し、細胞凝集塊Cは分散される。所定時間の経過後、コントローラ32は、空間A内が加圧された状態を解除する(ステップS27)。
【0060】
続いてコントローラ32は、上述の加圧動作の後に空間Aの減圧を実行する設定が為されているか否かを確認する(ステップS28)。減圧の実行が設定されている場合(ステップS28でYES)、コントローラ32はポンプ31を吸引モードで運転し、空間Aを減圧する(ステップS29)。所定時間経過後、コントローラ32はポンプ31を停止させ、空間Aの減圧状態を解除する(ステップS30)。その後、処理はステップS22に戻り、再度のプレート2の撮像が行われ、処理が繰り返される。減圧の実行が設定されていない場合(ステップS28でNO)も同様である。これにより、分散動作によりピックアップ可能となった細胞凝集塊Cが、ステップS24でピックアップされることになる。
【0061】
一方、分散動作が不要と判定された場合(ステップS25でNO)、追加で分注動作を行うか否かが判定される(ステップS31)。ここでの「分散動作不要」には、複数回の上記分散動作を行っても、もはやピックアップすべき細胞凝集塊Cが存在しない場合も含む。例えば、合格検体として特定された細胞凝集塊Cが規定値よりも少ない場合には追加分注が要と判定され(ステップS31でYES)、ステップS21に戻って追加の分注動作が実行される。これに対し、追加分注が不要と判定された場合(ステップS31でYES)、コントローラ32は処理を終える。
【0062】
<第2実施形態>
図15は、第2実施形態に係る対象物の保持装置D2を概略的に示すブロック図である。保持装置D2は、ダイアフラム型の分散機構3Bにより液体Lに圧力を加えることで、貫通孔22に液流LCを発生させる。分散機構3Bは、作動棒331を備えた駆動機構33と、そのコントローラ34とを含む。容器1の底壁11の一部は弾性変形が可能なダイアフラム15(膨出部材)で形成されている。作動棒331は、このダイアフラム15に接する状態で配置されている。この第2実施形態では、分散時には作業孔141は使用しないため、
図15ではその記載を省いている。その他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0063】
駆動機構33は、作動棒331を出没させることが可能なものであれば良く、例えば油圧機構、空気圧機構、ソレノイドアクチュエータ、或いは駆動モータを用いた電動アクチュエータなどを採用することができる。ダイアフラム15は、ゴムや樹脂で形成された弾性薄膜からなり、容器1の底壁11に設けられた開口を塞ぐ形で、底壁11に取り付けられている。ダイアフラム15は、作動棒331に押圧されて容器1内の閉鎖領域CAに存在する液体L内に膨出する膨出状態と、作動棒331による押圧が解除されて前記膨出が解消された退避状態との間で状態変更が可能である。
【0064】
図16Aは、保持装置D2において、分注チップ4によって上部開口1Hから容器1に細胞凝集塊Cが投入された状態を示す図である。細胞凝集塊Cの投入の際には、コントローラ34は駆動機構33を動作させない。つまり、作動棒331を突出させず、ダイアフラム15を前記退避状態とする。この
図16Aの状態では、細胞凝集塊Cがプレート2上の狭い領域に密集して担持されている。
【0065】
図16Bは、ダイアフラム15からの圧力印加によって液流LCが発生し、細胞凝集塊Cがプレート2上に舞い上がっている状態を示す図である。この状態は、コントローラ34が駆動機構33を動作させ、作動棒331を突出させた状態である。作動棒331の突出によりダイアフラム15は上方に押し上げられる。これにより、閉鎖領域CA内の液体Lには圧力が加えられる。この圧力によって、プレート2の貫通孔22には液流LCが発生する。
【0066】
液流LCの発生に伴い、液体Lの一部がプレート2の上面側に流れ込む。これにより、上部開口1Hの領域の液面LTは上昇し、上位レベルLT2になる。一方、閉鎖領域CAの液面LTは下降し、下位レベルLT1になる。また、液流LCによって、プレート2に担持されていた細胞凝集塊Cは、上位レベルLT2となったプレート2上の液体L内において上方に舞い上がる。従って、密集状態であった細胞凝集塊Cは分散される。
【0067】
その後、コントローラ34は、作動棒331を駆動機構33内へ没入させ、ダイアフラム15を前記退避状態に復帰させる。これにより、液体Lが加圧された状態が解除される。上位レベルLT2の上部開口1Hの領域の液面LTは下降し、また、下位レベルLT1の閉鎖領域CAの液面LTは上昇し、やがて
図16Aの状態ように、容器1全体に亘って一定な液面LTとなる。そして、舞い上がった細胞凝集塊Cは、自重で沈降し、やがてプレート2(保持部21)に担持される。
【0068】
<第3実施形態>
図17は、第3実施形態に係る対象物の保持装置D3を概略的に示すブロック図、
図18Aは、保持装置D3に用いられる容器の上面図である。保持装置D3は、第1実施形態の保持装置D1の変形実施形態であって、プレート2に担持された細胞凝集塊Cを部分的に分散させることが可能な構造を備えた保持装置である。
【0069】
保持装置D3の容器1Aは、容器1A内の閉鎖領域CAを4つに区画する仕切り壁16を備えている。仕切り壁16は、2枚の矩形平板を直交状態で組み付けたもので、上面視(
図18A)で十字型の形状を備える。仕切り壁16の高さは、容器1Aの底壁11とプレート2との間隔に等しい。このような仕切り壁16が存在することで、閉鎖領域CAは、第1区画RA、第2区画RB、第3区画RC及び第4区画RDに区画され、各々の区画に存在する液体Lは他の区画へ直接流入することはない。但し、各区画は、上部開口1Hに対応する領域においてプレート2上に存在する上部液体層LSと、プレート2の貫通孔22とを通して互いに間接的に連通している。
【0070】
なお、上部液体層LSにおいても、仕切り壁16による区画に合わせた仕切りを設けるようにしても良い。
図18Bは、容器1Aの上部開口1Hに嵌め込まれる蓋体17の斜視図である。蓋体17は、プレート2と上面視でほぼ同じ大きさを有する下面開口の箱状部材である。蓋体17の内部には、十字型の仕切り板171が備えられている。仕切り板171の下端縁はプレート2の上面2U(上縁部212)に接し、上端縁は上部液体層LSの液面よりも高い。仕切り板171は、仕切り壁16の区画に倣う十字型の形状を備え、仕切り壁16の真上に配置される。このような蓋体17を上部開口1Hに嵌め込むことにより、第1、第2、第3、第4区画RA、RB、RC、RDを、それぞれ他の区画に対して完全に独立させることができる。蓋体17は、例えば分注後に、各区画に成分の異なる薬品や濃度の異なる薬品を添加する場合などに有用である。
【0071】
第1、第2、第3、第4区画RA、RB、RC、RDの位置に各々対応する天壁14には作業孔がそれぞれ設けられ、これら作業孔には配管アダプタ142A、142B、142C、142Dが取り付けられている。各配管アダプタにはエア配管の端末がそれぞれ取り付けられる。
図17において、第1、第2区画RA、RBの配管アダプタ142A、142Bに取り付けられる第1、第2エア配管311A、311Bを図示している。
【0072】
保持装置D3は、上述の容器1A及びプレート2に加え、第1、第2、第3、第4区画RA、RB、RC、RD毎に分散機構3Cを備えている。
図17では、第1、第2区画RA、RBの分散機構3Cを示している。第1区画RAに対する分散機構3Cは、第1エア配管311Aに取り付けられた第1ポンプ35A及び第1弁装置36Aを含む。第2区画RBに対する分散機構3Cは、第2エア配管311Bに取り付けられた第2ポンプ35B及び第2弁装置36Bを含む。これらポンプ35A、35B及び弁装置36A、36Bは、共通のコントローラ37により制御される。第3、第4区画RC、RDの分散機構3Cも同様である。
【0073】
第1、第2ポンプ35A、35Bは、エアの吸引モード及び吐出モードの双方の運転を行うことが可能なポンプである。第1、第2弁装置36A、36Bは、配管アダプタ142A、142Bの直近に設けられ、それぞれ第1、第2エア配管311A、311Bを開閉する弁である。コントローラ37は、第1、第2ポンプ35A、35Bの吸引モード及び吐出モードの切り替え、及び各モードにおけるエア吸引/吐出量を制御する。また、コントローラ37は、第1、第2弁装置36A、36Bを必要に応じて独立的に開閉制御する。
【0074】
なお、第1、第2、第3、第4区画RA、RB、RC、RDを、必要に応じてさらに細分区画しても良い。
図19は、第4区画RDが細分区画された例を示している。第4区画RD内には細分仕切り壁161、162が配置され、第41区画RD1、第42区画RD2及び第43区画RD3の3つの細分区画が独立的に形成されている。各細分区画の位置に各々対応する天壁14には作業孔がそれぞれ設けられ、これら作業孔には、それぞれ配管アダプタ142D1、142D2、142D3が取り付けられている。第41区画RD1、第42区画RD2及び第43区画RD3ごとに、分散機構3Cが付設される。第4区画RD以外の他の区画も、同様に細分区画するようにしても良い。
【0075】
以上の構成を備える保持装置D3によれば、細胞凝集塊Cの分散動作を第1、第2、第3、第4区画RA、RB、RC、RD毎に行わせることが可能である。このような部分的な分散動作の例を
図20A〜
図20Cに基づいて説明する。
図20Aは、保持装置D3において、分注チップ(図略)によって上部開口1Hから容器1Aに細胞凝集塊Cが投入された状態を示す図である。細胞凝集塊Cの投入の際には、コントローラ37は第1、第2ポンプ35A、35Bを動作させない。従って、閉鎖領域CAにおける第1区画RAの空間AA及び第2区画RBの空間ABには加圧力及び吸引力のいずれも作用しない。
【0076】
ここで、
図20Aでは、細胞凝集塊Cのプレート2上における分散状態が、第1区画RAでは良好ではなく、第2区画RBでは良好である状態を例示している。例えば、第3、第4区画RC、RDにおける細胞凝集塊Cの分散状態も良好である場合、コントローラ37は第1区画RAについてのみ分散動作が必要であると判定する。判定後、コントローラ37は、第1弁装置36Aを「開」とする一方、第2弁装置36Bを「閉」(第3、第4区画RC、RDの弁装置も同様)とする。つまり、第1区画RAの空間AAを加圧又は減圧可能とする一方で、第2区画RBの空間ABを外気から遮断する。
【0077】
図20Bは、第1区画RAの空間AAに圧力が印加された状態を示す図である。この圧力を印加するため、コントローラ37は第1ポンプ35Aを吐出モードで運転し、配管アダプタ142Aを通して空間AAに所定量の空気を送り込む。この空気の送り込みにより空間AA内は加圧され、第1区画RAにおける閉鎖領域CAの液面LTのレベルは押し下げられ、下位レベルLT1になる。圧力を受けた液体Lの当該圧力の解放先は、第1区画RAに属するプレート2の貫通孔22となる。このため、第1区画RAの貫通孔22には、下から上へ流れる液流LCが発生する。
【0078】
液流LCの発生に伴い、第1区画RAの液体Lの一部がプレート2の上面側に流れ込む。これにより、プレート2上の上部液体層LSの液面LTは上昇し、上位レベルLT2になる。また、液流LCによって、プレート2の第1区画RAに属する領域に担持されていた細胞凝集塊Cは、上位レベルLT2となった上部液体層LS内において上方に舞い上がる。従って、密集状態であった細胞凝集塊Cは分散される。
【0079】
一方、第2区画RBにおいては、液流LCは発生しない。また、上部液体層LSの液面が上昇に伴い圧力が増加しても、第2区画RBの配管アダプタ142Bは閉じられているので、空間ABの容積は変化しない。つまり、第2区画RBにおける閉鎖領域CAの液面LTのレベルは不変である。従って、プレート2の第2区画RAに属する領域に担持されている細胞凝集塊Cは、不動である。
【0080】
その後、コントローラ37は、第1ポンプ35Aを停止させ、空間AA内が加圧された状態を解除する。これにより、空間AAは徐々に外気圧に戻る。上位レベルLT2の上部液体層LSの液面LTは下降し、また、下位レベルLT1である第1区画RAの液面LTは上昇し、やがて
図20Aの状態ように、容器1全体に亘って一定な液面LTとなる。そして、第1区画RAにおいて舞い上がった細胞凝集塊Cは、自重で沈降し、やがてプレート2(保持部21)に担持される。
【0081】
なお、細胞凝集塊Cの自然沈降速度が遅い場合は、
図12Cに基づき先に説明した通り、空間AAを負圧にすることが望ましい。
図20Cは、負圧にアシストされて、第1区画RAにおいて細胞凝集塊Cがプレート2上への沈降が促進されている状態を示している。この状態は、コントローラ37がポンプ35Aを吸引モードで運転し、配管アダプタ142Aを通して空間AAの空気を吸引し、空間AAが減圧された状態である。これにより、細胞凝集塊Cの沈降を促進することができる。
【0082】
以上は、第1区画RAのみ細胞凝集塊Cの分散が必要である場合を例示した。第1、第2、第3、第4区画RA、RB、RC、RDの全てについて細胞凝集塊Cの分散が必要である場合、全ての区画の配管アダプタに繋がっている弁装置を「開」とし、上記で説明した第1区画RAの分散動作を全区画について実行させれば良い。
【0083】
<配管例の説明>
以下、容器1に対する配管の好ましい例を
図21〜
図23に基づいて説明する。ここで挙げるのは、第1実施形態で例示した、空気圧を利用する実施形態におけるエア配管311に代替される配管態様である。
図21では、エルボ管143とワンタッチジョイント144とを備える配管例を示している。エルボ管143の一端は容器1の配管アダプタ142に接続され、他端にワンタッチジョイント144が取り付けられている。容器1はテーブルBの上に載置されている。
【0084】
テーブルBには、
図11で示したポンプ31付きのエア配管311と同様なエアの吸引/吐出配管系統が備えられている。テーブルBの上面には、前記吸引/吐出配管系統の終端部であって、ワンタッチジョイント144を受け入れるレセプタクル144Aが設けられている。この配管例によれば、容器1をテーブルBに載置すると共に、ワンタッチジョイント144をレセプタクル144Aに接続するだけで、空間Aに対するエアの吸引/吐出の経路が確保できる利点がある。
【0085】
図22の配管例は、ワンタッチジョイント144と、容器1内に配置される内部管145とを備えている。内部管145は、容器1に貯留される液体の液面高さよりも長い長さを有する直線管である。内部管145の上端は空間A内に開口し、下端にはワンタッチジョイント144が取り付けられている。ワンタッチジョイント144のジョイント部分は、容器1の底壁から下方に突出している。テーブルBには、
図21の配管例と同様なレセプタクル144Aが具備されている。この配管例によれば、ワンタッチジョイント144をレセプタクル144Aに位置合わせした状態で、容器1をテーブルBに載置するだけで、空間Aに対するエアの吸引/吐出経路を確保できる。
【0086】
図23の配管例は、配管アダプタ142にピペットチップ146の先端を嵌め入れる配管例である。配管アダプタ142の内周面には、密閉性を確保するためのシールリング146Cが取り付けられる。ピペットチップ146は、先端開口を通して空気の吸引/吐出を行うことができる。ピペットチップ146は、ピストン部材の機械的動作により前記吸引/吐出を行うものや、手動で前記吸引/吐出を行うものを用いることができる。あるいは、吸液していない分注チップ4を、ピペットチップ146に代替して用いることもできる。ピペットチップ146の動作により、空間Aに対する空気の吐出及び吸引を行うことができる。
【0087】
以上説明した通りの本実施形態の対象物の保持装置によれば、対象物(細胞凝集塊C)を担持する複数の保持部21を備えたプレート2に、対象物を良好に分散させた状態で保持させることができる。従って、プレート2上における対象物の観察、プレート2からの対象物のピックアップ作業等を良好に行うことができる。
【0088】
なお、上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
【0089】
本発明の一局面に係る対象物の保持装置は、液体を貯留し、貯留した液体中に対象物を投入させるための上部開口と、底壁とを備える容器と、上面と下面とを有し、前記下面が前記容器の前記底壁に対して間隔を置いた状態で前記液体中に浸漬され、前記上面側に配置され前記対象物を担持する1又は複数の保持部と、前記保持部の配置位置に形成され前記上面から前記下面に貫通する貫通孔とを備えるプレートと、前記貫通孔に、前記下面の側から前記上面の側に向けて流れ、前記保持部に担持された前記対象物を上昇させる液流を形成する分散機構とを備える。
【0090】
この保持装置によれば、各々の保持部には貫通孔が備えられている。分散機構は、前記貫通孔に、前記下面の側から前記上面の側に向けて流れる液流を発生させる。この液流は、前記保持部に担持された前記対象物を上昇させる。このため、一旦保持部に担持された対象物を、前記液流によって舞い上がらせることができる。例えば、一つの保持部に複数個の対象物が担持されていても、これらの一部又は全部を前記液流によって舞い上がらせ、他の保持部へ移動させることができる。従って、容器に投入された多数の対象物を、プレート上面の保持部の各々へ良好に分散担持させることが可能となる。或いは、保持部に担持された対象物の向きを前記液流によって変更させ、当該対象物の観察性を良好にすることができる。
【0091】
上記の対象物の保持装置において、前記保持部は、上方に開口した凹部であり、前記貫通孔の前記上面の側の開口は、前記凹部の底面に配置されていることが望ましい。
【0092】
この保持装置によれば、保持部が凹部からなるので、対象物を凹部の側壁面で拘束した状態で良好に保持することができる。一方、貫通孔の開口が凹部の底面に配置されているので、凹部に入り込んでいる対象物を前記液流によって容易に舞い上がらせ、分散させることができる。
【0093】
上記の対象物の保持装置において、前記容器は、前記上部開口を画定する上端部と、前記プレートの周縁を保持する下端部とを備える筒状の内周壁と、前記内周壁に連設される上縁部と、前記底壁に連設される下縁部とを備える筒状の外周壁と、を備え、前記内周壁、前記外周壁、前記底壁及び前記プレートによって閉鎖領域が形成され、前記液体の液面が前記プレートよりも上方に位置するように当該容器が前記液体を貯留した状態においては、前記プレート上に滞留する液体にて前記貫通孔が塞がれることによって前記閉鎖領域が密閉された領域となり、前記分散機構は、前記閉鎖領域内において加圧力を発生させることにより前記液流を形成することが望ましい。
【0094】
この保持装置によれば、容器及びプレートの形状的な特徴によって閉鎖領域が形成される。前記液流は、前記閉鎖領域内において加圧力を発生させることにより形成される。従って、前記液流をシンプルな機構で発生させることができる。
【0095】
この場合、対象物の保持装置は、前記閉鎖領域内には空気が滞留する空間が形成され、前記分散機構は、前記空間を加圧する圧力調整装置を含むことが望ましい。この保持装置によれば、空気圧を利用して前記液流を発生させることができる。
【0096】
また、前記圧力調整装置は、前記空間を減圧する機能をさらに備え、前記加圧の後、前記減圧を行うことが望ましい。
【0097】
この保持装置によれば、前記液流によって対象物を舞い上がらせた後、当該対象物の液体中においてプレートに向けて沈降する速度を、前記減圧によって加速させることができる。従って、対象物の分散のための作業時間を短縮することができる。
【0098】
上記の対象物の保持装置において、前記分散機構は、前記閉鎖領域に存在する液体内に膨出する膨出状態と前記膨出が解消された退避状態との間で状態変更が可能な膨出部材を含むことが望ましい。この保持装置によれば、液体内における膨出部材の膨出動作に基づいて、前記液流を発生させることができる。
【0099】
上記の対象物の保持装置において、前記閉鎖領域を複数に区画する仕切り壁をさらに備え、前記分散機構は、前記閉鎖領域の区画毎に設けられていることが望ましい。
【0100】
この保持装置によれば、仕切り壁で区画された領域毎に、対象物の保持部への担持及び液流による分散を行わせることができる。これにより、例えば、対象物の分散状態が良好でない領域について分散動作を行わせ、良好な領域については分散動作を行わないようにするといった運用が可能となる。
【0101】
上記の対象物の保持装置において、前記対象物が、生体由来の細胞であること、とくに細胞凝集塊であることが望ましい。
【0102】
以上説明した本発明によれば、対象物を前記保持部に良好に保持させることが可能なプレートを提供することができる。従って、対象物の選別、観察及び培養などの実行に好適なプレートを提供することができる。