特許第6270927号(P6270927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6270927
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】めっき用樹脂組成物及びめっき成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20180122BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20180122BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20180122BHJP
   C08F 253/00 20060101ALI20180122BHJP
   C25D 5/56 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08L51/04
   C08L25/12
   C08F253/00
   C25D5/56 B
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-136315(P2016-136315)
(22)【出願日】2016年7月8日
(65)【公開番号】特開2018-2989(P2018-2989A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2017年4月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399034220
【氏名又は名称】日本エイアンドエル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤原 隆祥
(72)【発明者】
【氏名】松本 なな
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−197695(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/108075(WO,A1)
【文献】 特開2014−074159(JP,A)
【文献】 特表2002−528589(JP,A)
【文献】 特開平10−279789(JP,A)
【文献】 特開2003−327817(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102719076(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08F 253/00
C25D 5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、及び共重合体(C)を含有する樹脂組成物であって、下記条件(1)〜(5)を満足するめっき用樹脂組成物。
(1)ポリカーボネート樹脂(A)の含有量が、(A)、(B)及び(C)の合計100質量%に対して、20〜60質量%。
(2)グラフト共重合体(B)が、ゴム質重合体と、スチレンとアクリロニトリルがグラフト重合して成るグラフト共重合体。
(3)共重合体(C)が、スチレンとアクリロニトリルを重合して成る共重合体。
(4)ゴム質重合体の含有量が、樹脂組成物に対して7〜20質量%。
(5)ガスクロマトグラフィーを用いてInj温度230℃で測定されるスチレンの2量体、アクリロ二トリルとスチレンの2量体、スチレンの3量体及びアクリロ二トリルとスチレンの3量体からなるオリゴマー成分の含有量が、樹脂組成物に対して1質量%未満。
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂(A)の含有量が、(A)、(B)及び(C)の合計100質量%に対して、30〜50質量%であることを特徴とする請求項1に記載のめっき用樹脂組成物。
【請求項3】
ゴム質重合体の含有量が、樹脂組成物に対して10〜15質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のめっき用樹脂組成物。
【請求項4】
共重合体(C)を構成するアクリロニトリルの含有量が、共重合体(C)に対して、30〜40質量%であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のめっき用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のめっき用樹脂組成物を成形して得られる成形品に、めっきが施されていることを特徴とするめっき成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、流動性に優れ、かつ、めっき密着強度、めっき析出性及び冷熱サイクル性のバランスに優れるめっき用樹脂組成物及びめっき成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂とABS系樹脂からなる組成物(以下、PC/ABS系樹脂と記す)は、耐衝撃性、耐熱性、成形加工性に優れることから、車輌用部品、家庭電化製品、事務機器部品をはじめとする多様な用途に使用されている。特に、車輌用部品等は大型化の傾向が見られ、形状がより複雑なデザインになる傾向にある。また、車輌重量の軽量化のために、成形品肉厚は薄肉化に設計される方向にあるため、成形加工性、耐衝撃性、及び耐熱性などの性能に優れている材料が求められる。その選択肢の一つとしてPC/ABS系樹脂が採用されるケースが見られる。加えて、これら用途において、意匠的に金属調外観を有し、かつ軽量化を求められる部品にはPC/ABS系樹脂に装飾用のめっきを施して使用する例が多い。従来、PC/ABS系樹脂のめっき処理工程は、一般に脱脂、化学エッチング、中和、触媒付与、活性化、無電解めっき、酸活性、電気めっきなどの工程からなる、いわゆるキャタリスト−アクセレーター法が主流である。しかしながら、この工法で用いられる無電解めっき液において、例えば無電解ニッケルめっき液には、還元剤として次亜リン酸塩を含有しているが、この次亜リン酸塩は環境問題に影響するため、リン規制対応や、高COD廃液であるため排水規制が非常に厳しく、廃水処理のコストが非常に高くなるという問題がある。また、pH調整として用いられているアンモニア臭気による作業環境の悪化も問題となっている。また同様に、無電解銅めっき液には、還元剤としてホルマリンが使用されているが、ホルマリンの使用は、種々の健康上及び環境問題上に悪影響を与える問題が指摘されている。
さらに、このめっき液には、銅イオンをアルカリ溶液中に可溶化させるための強力な錯化剤が用いられるため、めっき液の廃水処理において、金属イオン除去のために廃水処理のコストが非常に高くなる等、種々の問題点を抱えている。
【0003】
これらキャタリスト−アクセレーター法における、健康上、及び地球環境に関わる法規制などへの対応、及び安全な作業環境の確保などの要望から、めっき工法改善の一環として、無電解めっき浴を使用しないめっき法(ダイレクトめっき法、ダイレクトプレーティング法等と呼ばれている)が実用化に向けて検討が行われている。例えば、Pd−Snコロイド触媒法が、特開平7−11487号公報(特許文献1)、特開平11−61425号公報(特許文献2)等に開示されている。
【0004】
従来の樹脂めっき工法で用いられていたPC/ABS系樹脂も、一般的にはこれらダイレクトめっき法に用いられる場合があるが、ダイレクトめっき法の電気銅めっき工程においてPC/ABS系樹脂は成形品表面にめっきが析出し難く、スキップと表現されるめっきの未着部が発生し易いという傾向があり、特に製品形状の複雑な成形品においては、その傾向が極めて高くなるという問題がある。また、めっき成形品としては、温度変動の激しい環境下で使用しても良好なめっき外観を維持できる(以下、「冷熱サイクル性」と呼ぶ)ことが望まれている。
【0005】
特開平8−269313号公報(特許文献3)には、無電解メッキ特性に優れた無電解メッキ用のPC系樹脂組成物として、ポリカーボネート系樹脂に、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、ゴム質重合体で構成され、そのグラフト率を規定した共重合体を含む無電解メッキ用樹脂組成物が開示されているが、ダイレクトめっき法におけるめっき析出性において十分満足できるものではなかった。
特開2003−327817号公報(特許文献4)には、ダイレクトめっき性、特に電気銅めっきの伸び性(析出速度)に優れ、かつ、成形性、耐衝撃性、耐熱性等の物性に優れたダイレクトめっき用樹脂組成物として、平均粒子径がある範囲のゴム状重合体、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、及び他のモノビニル化合物で構成されるグラフト共重合体とポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物が開示されているが、めっき用樹脂成形品の連続成形時における不具合により、めっき製品としての冷熱サイクル性において十分満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−11487号公報
【0007】
【特許文献2】特開平11−61425号公報
【0008】
【特許文献3】特開平8−269313号公報
【0009】
【特許文献4】特開2003−327817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、耐衝撃性、流動性に優れ、かつ、めっき密着強度、めっき析出性及び冷熱サイクル性のバランスに優れるめっき用樹脂組成物及びめっき成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリカーボネート樹脂、グラフト共重合体、及び共重合体を特定量含有し、さらに樹脂組成物中のオリゴマー成分の含有量を規定することで、上記課題を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[6]で構成される。
[1]ポリカーボネート樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、及び共重合体(C)を含有する樹脂組成物であって、下記条件(1)〜(5)を満足するめっき用樹脂組成物。
(1)ポリカーボネート樹脂(A)の含有量が、(A)、(B)及び(C)の合計100質量%に対して、20〜60質量%。
(2)グラフト共重合体(B)が、ゴム質重合体と、スチレンとアクリロニトリルがグラフト重合して成るグラフト共重合体。
(3)共重合体(C)が、スチレンとアクリロニトリルを重合して成る共重合体。
(4)ゴム質重合体の含有量が、樹脂組成物に対して7〜20質量%。
(5)ガスクロマトグラフィーを用いてInj温度230℃で測定されるスチレンの2量体、アクリロ二トリルとスチレンの2量体、スチレンの3量体及びアクリロ二トリルとスチレンの3量体からなるオリゴマー成分の含有量が、樹脂組成物に対して1質量%未満。
[2] ポリカーボネート樹脂(A)の含有量が、(A)、(B)及び(C)の合計100質量%に対して、30〜50質量%であることを特徴とする[1]に記載のめっき用樹脂組成物。
[3]ゴム質重合体の含有量が、樹脂組成物に対して10〜15質量%であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のめっき用樹脂組成物。
[4]共重合体(C)を構成するアクリロ二トリルの含有量が、共重合体(C)に対して、30〜40質量%であることを特徴とする[1]〜[3]の何れかに記載のめっき用樹脂組成物。
[5] [1]〜[4]の何れかに記載のめっき用樹脂組成物を成形して得られる成形品に、めっきが施されていることを特徴とするめっき成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐衝撃性、流動性に優れ、かつ、めっき密着強度、めっき析出性及び冷熱サイクル性のバランスに優れるめっき用樹脂組成物及びめっき成形品を提供することができる。また、用いるめっき法としては、特にダイレクトめっき法が適する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明につき詳細に説明する。
【0015】
本発明のめっき用樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、及び共重合体(C)を含有するものである。
【0016】
ポリカーボネート樹脂(A)としては、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、;“ビスフェノールA”から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0017】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第3ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルファイド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルファイドのようなジヒドロキシジアリールスルファイド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0018】
これらは単独又は2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル類等を混合しても良い。
【0019】
さらに、上記のジヒドロキシジアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用しても良い。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)エタン及び2,2−ビス−[4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン等が挙げられる。なお、これらポリカーボネート樹脂を製造するに際し、ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、通常10000〜80000であり、好ましくは15000〜60000である。分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することが出来る。なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定することができる。
【0020】
グラフト共重合体(B)は、ゴム質重合体と、芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分とがグラフト重合してなるものである。
【0021】
グラフト共重合体(B)を構成するゴム質重合体としては特に制限はなく、公知の重合方法により得られる、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等の共役ジエン系ゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン(エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等)ゴム等のエチレン−プロピレン系ゴム、ポリブチルアクリレートゴム等のアクリル系ゴム、シリコーン系ゴムを1種又は2種以上用いることができる。上記アクリル系ゴムには、コアシェル構造を有するゴムも含まれる。コアシェル構造を有するゴム(コア/シェルで記載)としては、例えば、共役ジエン系ゴム/アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム/アクリル系ゴム、硬質重合体(ガラス転移温度が20℃以上)/アクリル系ゴム等が挙げられる。硬質重合体(ガラス転移温度が20℃以上)としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体から選ばれる1種以上を含有する単量体を重合してなる重合体等が挙げられる。上記の中でも、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、共役ジエン系ゴム/アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム/アクリル系ゴム、硬質重合体(ガラス転移温度が20℃以上)/アクリル系ゴムが好ましい。硬質重合体のガラス転移温度は、FOXの式より算出することができる。
【0022】
ゴム質重合体の重量平均粒子径に特に制限はないが、耐衝撃性、及びめっき後の冷熱サイクル性の点から、0.1〜2.0μmが好ましく、めっき密着性、及びめっき析出性の点から0.2〜1.0μmがより好ましい。また、重量平均粒子径が0.05〜0.3μmのゴム質重合体を凝集肥大化させることで調整することもできる。
【0023】
本発明のグラフト共重合体(B)は、上述のゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分をグラフト重合して得られるものである。
【0024】
グラフト共重合体(B)中のゴム質重合体の含有量は、耐衝撃性、流動性などの物性バランスから、20〜80重量%が好ましく、40〜70重量%がより好ましい。
【0025】
グラフト共重合体(B)を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0026】
さらに、グラフト共重合体(B)には、芳香族ビニル系単量体と共重合可能なその他の単量体が含まれていてもよく、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アミド系単量体、不飽和カルボン酸系単量体等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等が例示でき、(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸(ジ)ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸クロルフェニル等が例示でき、アミド系単量体としてはアクリルアミド、メタクリルアミド等が例示でき、不飽和カルボン酸系単量体としてはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が例示できる。
【0027】
ゴム質重合体にグラフト重合される、上記単量体の組成比率に特に制限はないが、芳香族ビニル系単量体50〜90重量%、シアン化ビニル系単量体10〜50重量%及び共重合可能な他の単量体0〜40重量%の組成比率、芳香族ビニル系単量体30〜80重量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体20〜70重量%及び共重合可能な他のビニル系単量体0〜50重量%の組成比率、芳香族ビニル系単量体20〜70重量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体20〜70重量%、シアン化ビニル系単量体10〜60重量%及び共重合可能な他の単量体0〜50重量%の組成比率であることが好ましい(ゴム質重合体にグラフト重合される単量体合計量を100重量%とする)。
【0028】
グラフト共重合体(B)のグラフト率及びアセトン可溶分の還元粘度に特に制限はないが、耐衝撃性、流動性などの物性バランスの観点から、グラフト率は20〜150%であることが好ましく、30〜100%がより好ましく、36〜75%が特に好ましい。アセトン可溶分の還元粘度は、0.2〜1.5dl/gであることが好ましく、0.3〜1.0dl/gであることがより好ましい。
【0029】
上記グラフト率及びアセトン可溶分の還元粘度は、下記により求めることができる。
【0030】
分別方法
三角フラスコにグラフト共重合体(B)を約2g、アセトンを60ml投入し、24時間浸漬させた。その後、遠心分離器を用いて15,000rpmで30分間、遠心分離することで可溶部と不溶部に分離する。不溶分は、真空乾燥により常温で一昼夜乾燥させることで得られる。可溶分は、アセトン可溶部をメタノールに沈殿させ、真空乾燥により常温で一昼夜乾燥させることで得られる。
グラフト率
グラフト率(%)=(X―Y)/Y×100
X:真空乾燥後のアセトン不溶分量(g)
Y:グラフト共重合体中のゴム質重合体量(g)
アセトン可溶分の還元粘度(dl/g)
アセトン可溶分をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解し、0.4g/100mlの濃度の溶液とした後、キャノンフェンスケ型粘度管を用い30℃で測定した流下時間より還元粘度を求める。
【0031】
上述のようにして得られたグラフト共重合体(B)には、通常、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分がグラフトしたグラフト化重合体(b1成分)が主として含有される他、ゴム質重合体にグラフトしていない芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分が共重合された共重合体(b2成分)が含まれる。そのため、本発明ではグラフト共重合体(B)に、b2成分が含まれる場合、共重合体(C)を含有していることを意味する。
【0032】
共重合体(C)は、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体を含む単量体成分を重合して得られる。
【0033】
共重合体(C)を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0034】
共重合体(C)を構成するシアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。特にアクリロニトリルが好ましい。
【0035】
さらに、共重合体(C)には、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体と共重合可能なその他の単量体が含まれていてもよく、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アミド系単量体、不飽和カルボン酸系単量体等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸(ジ)ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸クロルフェニル等が例示でき、アミド系単量体としてはアクリルアミド、メタクリルアミド等が例示でき、不飽和カルボン酸系単量体としてはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が例示できる。
【0036】
共重合体(C)を構成する単量体の組成比率に特に制限はないが、芳香族ビニル系単量体50〜90重量%、シアン化ビニル系単量体10〜50重量%及び共重合可能な他の単量体0〜40重量%の組成比率、芳香族ビニル系単量体20〜70重量%、シアン化ビニル系単量体10〜60重量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体20〜70重量%及び共重合可能な他の単量体0〜50重量%の組成比率が挙げられる。中でも、共重合体(C)を構成するシアン化ビニル系単量体の含有量が30〜40質量%であることがめっき析出性の点で好ましい。
【0037】
共重合体(C)の還元粘度に特に制限はないが、耐衝撃性、流動性などの物性バランスの観点から0.2〜1.5dl/gであることが好ましく、0.3〜1.0dl/gであることがより好ましい。
【0038】
上記還元粘度は、下記式により求めることができる。
【0039】
共重合体(C)を、N,N−ジメチルホルムアミドに溶解し、0.4g/100mlの濃度の溶液とした後、キャノンフェンスケ型粘度管を用い30℃で測定した流下時間より還元粘度を求める。
【0040】
上記めっき用樹脂組成物を構成するグラフト共重合体(B)、共重合体(C)の重合方法には特に制限はなく、例えば乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法及びこれらを組み合わせた方法により製造することができる。
【0041】
本発明のめっき用樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)の含有量が、ポリカーボネート樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、及び共重合体(C)の合計100質量%に対して、20〜60質量%である必要があり、25〜55重量%であることが好ましく、30〜50重量%であることがより好ましい。上記範囲となるように調整することにより耐衝撃性、流動性及びめっき析出性のバランスを向上させることができる。
【0042】
本発明のめっき用樹脂組成物は、ゴム質重合体の含有量が、該樹脂組成物に対して7〜20質量%である必要があり、10〜15質量%であることがより好ましい。上記範囲となるように調整することによりめっき析出性とめっき密着強度のバランスを向上させることができる。
【0043】
本発明のめっき用樹脂組成物は、オリゴマー成分の含有量が、該樹脂組成物に対して1質量%未満である必要があり、0.8質量%未満であることが好ましい。上記範囲となるように調整することによりめっき析出性を向上させることができる。
ここで、オリゴマー成分とは、樹脂組成物中に含まれる重合に用いた単量体の2量体及び3量体であり、具体的にはスチレンの2量体、アクリロ二トリルとスチレンの2量体、スチレンの3量体及びアクリロ二トリルとスチレンの3量体などが挙げられる。
【0044】
オリゴマー成分は、ガスクロマトグラフィーを用いて下記条件にて測定することができる。
<サンプル作成>
樹脂組成物1gを精秤し、N,N−ジメチルホルムアミド50mlに溶解した後、密閉容器内で24時間放置後、これを測定試料とした。
<ガスクロマトグラフ測定条件>
装置:島津製作所社製ガスクロマトグラフGC−2010
カラム名:DB−5(液膜厚×長さ=0.25μm×30m)
カラム温度:70℃で5分間維持後、20分間かけて320℃まで昇温し、320℃に到達後9分間維持した。
サンプル量:1μl
検出器:FID
Inj温度:230℃
Det温度:330℃
キャリアガス:ヘリウム、1.38ml/min
水素:40ml/min
エアー:400ml/min
<定量方法>
FID検出器では、炭化水素成分に対しては、相対モル感度がほぼ含有炭素数に正比例するとして、計算により求めることが出来る。またO,Cl,Nなどのヘテロ元素を含む有機成分についてもSternbergらによって提唱された化合物中の有効炭素数から相対モル感度を算出して求めることが出来る。検定液として試薬特級DMF溶液中にスチレンを1000ppmになるように秤量し、上記法よりスチレンに対する各成分の相対モル感度を算出し、これをもとにスチレンの2量体、アクリロ二トリルとスチレンの2量体、スチレンの3量体及びアクリロ二トリルとスチレンの3量体について定量した。定量の際、1つの試料について3回測定し、平均値を樹脂組成物中のオリゴマー成分の含有量とした。
【0045】
上記オリゴマー成分の含有量の調整方法としては特に制限なく公知の方法を用いることができるが、オリゴマー含有量が低減された各構成樹脂を配合する方法、樹脂組成物を溶融混練する際の脱気工程を増やしたり、脱気の真空度を上げたりする方法などが挙げられる。各構成樹脂のオリゴマー含有量の低減方法としては、重合時の単量体組成の最適化、重合時の温度を下げる、重合時の触媒の種類や添加量の最適化等が挙げられる。
【0046】
本発明のめっき用樹脂組成物には、その目的を損なわない範囲内において、他の熱可塑性樹脂組成物を混合することもできる。このような他の熱可塑性樹脂として、例えば、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、イミド系樹脂、ポリ乳酸樹脂等を使用することができる。
【0047】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、ヒンダードアミン系の光安定剤、ヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系等の酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系等の熱安定剤、ベンゾエート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系の紫外線吸収剤、有機ニッケル系、高級脂肪酸アミド類等の滑剤、リン酸エステル類等の可塑剤、ポリブロモフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化等の含ハロゲン系化合物、リン系化合物、三酸化アンチモン等の難燃剤・難燃助剤、臭気マスキング剤、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、及び染料等を添加することもできる。更に、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスウール、炭素繊維、金属繊維等の補強剤や充填剤を添加することもできる。
【0048】
上記めっき用樹脂組成物を含有する樹脂の混合は、通常使用されるロール、バンバリーミキサー、押出機、ニーダー等公知の混練機を用い、溶融混練することで実施できる。
【0049】
このようにして得られためっき用樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、ブロー成形等により成形され、得られた樹脂成形品は、公知のめっき方法、例えば通常のABS樹脂のめっき条件と同様の条件にてめっき加工することができるが、特にダイレクトめっき法を用いることが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す部及び%は重量に基づくものである。
また、各実施例、比較例での各種物性の測定は次の方法による。
【0051】
[測定及び評価]
オリゴマー量測定
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物をガスクロマトグラフィーを用い、段落番号[0044]に記載した条件にて測定した。
【0052】
シャルピー衝撃強度(NC)
各実施例及び比較例で得られたペレットを用いISO試験方法294に準拠して各種試験片を成形し、ISO試験方法179に準拠し、4mm厚みで、ノッチ付きシャルピー衝撃値を測定した。単位:kJ/m
【0053】
メルトボリュームフローレイト(MVR)
各実施例及び比較例で得られたペレットを用い、ISO試験方法1133に準拠して、220℃、98.07N荷重の条件でメルトボリュームフローレイトを測定した。単位: cm/10分
【0054】
めっき密着強度
各実施例及び比較例で得られたペレットを射出成形機にてめっき用平板成形品(55×90×3mm)を成形し、以下の方法にてダイレクトめっきを施した後、析出しためっき膜の密着強度を、JIS H−8630に基づき、めっき成形品の金属膜に基材に達する1cm間隔の切傷を入れ、金属膜を垂直な方向に引き剥がす時の応力(N)で示した。
<めっき処理工程>
上記のめっき用平板を40℃のCRPクリーナーに3分間浸し脱脂した。脱脂後の平板を30℃の水で水洗した後、67℃のエッチング液(クロム酸:400g/l、硫酸:200cc/l)に10分間浸しエッチングを行った。エッチング後の平板を30℃の水で2分間水洗した後、25℃のCRPレデューサーに3分間浸し中和処理を行った。中和後の平板を30℃の水で2分間水洗した後、25℃の塩酸に1分間プリディップし、続いて35℃のCRPキャタリストに6分間浸し、Pd−Snコロイド触媒化処理を行った。触媒化後の平板を30℃の水で2分間水洗した後、45℃のCRPセレクターA,Bに3分間浸して導体化処理を行った。導体化処理した平板を30℃の水で2分間水洗した後、CRPカッパーを用いた電気銅めっき浴に25℃で2時間、電流密度3A/dm2の電流を通電して、膜厚50μmの電気銅めっき膜を平板に析出させた。電気銅めっき後の平板を30℃の水で水洗した後、電気銅めっきされた平板を80℃で2時間エージングし一晩放置させた。
【0055】
めっき析出性
各実施例及び比較例で得られたペレットを射出成形機にてめっき用平板成形品(55×90×3mm)を成形し、長辺方向9mm毎に短辺方向に幅1mm長さ45mmの切込みを左右交互に入れ波形平板を作成し、以下の方法にてダイレクトめっきを施した後、めっき膜の析出度合いを析出過程におけるめっき未着部(スキップ)の発生度合いを目視判定し、以下の判定基準にて判定した。
○:スキップなしで良好。
△:一部スキップが見られる状態。
×:全体的にスキップが見られ不良。
<めっき処理工程>
上記のめっき用平板を40℃のCRPクリーナーに3分間浸し脱脂した。脱脂後の平板を30℃の水で水洗した後、67℃のエッチング液(クロム酸:400g/l、硫酸:200cc/l)に10分間浸しエッチングを行った。エッチング後の平板を30℃の水で2分間水洗した後、25℃のCRPレデューサーに3分間浸し中和処理を行った。中和後の平板を30℃の水で2分間水洗した後、25℃の塩酸に1分間プリディップし、続いて35℃のCRPキャタリストに6分間浸し、Pd−Snコロイド触媒化処理を行った。触媒化後の平板を30℃の水で2分間水洗した後、45℃のCRPセレクターA,Bに3分間浸して導体化処理を行った。導体化処理した平板を30℃の水で2分間水洗した後、CRPカッパーを用いた電気銅めっき浴に25℃で5分間、電流密度2A/dm2の電流を通電して、電気銅めっき膜を平板に析出させた。
【0056】
冷熱サイクル性
各実施例及び比較例で得られたペレットを射出成形機にてめっき用平板成形品(55×90×3mm)を成形し、以下の方法にてダイレクトめっきを施した後、−30℃(1時間)→23℃(0.5時間)→80℃(1時間)→23℃(0.5時間)の順に環境温度を変化させる。これを10サイクル実施した後、各めっき成形品外観に膨れ等の異常の有無を目視判定し、以下の判定基準にて判定した。
○:めっき膨れ/割れがなく良好。
△:一部にめっき膨れ/割れが見られる状態。
×:全体的にめっき膨れ/割れが見られ不良。
<めっき処理工程>
上記のめっき用平板を40℃のCRPクリーナーに3分間浸し脱脂した。脱脂後の平板を30℃の水で水洗した後、67℃のエッチング液(クロム酸:400g/l、硫酸:200cc/l)に10分間浸しエッチングを行った。エッチング後の平板を30℃の水で2分間水洗した後、25℃のCRPレデューサーに3分間浸し中和処理を行った。中和後の平板を30℃の水で2分間水洗した後、25℃の塩酸に1分間プリディップし、続いて35℃のCRPキャタリストに6分間浸し、Pd−Snコロイド触媒化処理を行った。触媒化後の平板を30℃の水で2分間水洗した後、45℃のCRPセレクターA,Bに3分間浸して導体化処理を行った。導体化処理した平板を30℃の水で2分間水洗した後、CRPカッパーを用いた電気銅めっき浴に25℃で15分間、電流密度2A/dm2の電流を通電して、15μmの電気銅めっき膜を平板に析出させた。続いて一般的な装飾用電気めっき工程にて、半光沢ニッケル膜:6μm、光沢ニッケル膜:4μm、クロムめっき膜:0.1〜0.3μmを析出させた。
【0057】
ポリカーボネート樹脂(A)
ポリカーボネート樹脂(A):ホスゲンとビスフェノールAからなる粘度平均分子量20,500のポリカーボネート樹脂。
【0058】
グラフト共重合体(B)の製造
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(重量平均粒子径0.25μm)を固形分換算で50重量部仕込み、撹拌を開始させ、窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し65℃に到達したところで、ラクトース0.2重量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.1重量部及び硫酸第1鉄0.005重量部を脱イオン水10重量部に溶解した水溶液を添加した後に、70℃に昇温した。その後、アクリロニトリル15重量部、スチレン35重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.05部、クメンハイドロパーオキサイド0.3重量部の混合液及びオレイン酸カリウム1.0重量部を脱イオン水20重量部に溶解した乳化剤水溶液を4時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3時間保持してグラフト共重合体ラテックスを得た。その後、塩析、脱水、乾燥し、グラフト共重合体(B)のパウダーを得た。得られたグラフト共重合体(B)のグラフト率は37.0%、アセトン可溶部の還元粘度は0.39dl/gであった。
また、上記凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックスの重量平均粒子径は下記のように求めた。
四酸化オスミウム(OsO4)で染色し、乾燥後に透過型電子顕微鏡で写真撮影した。画像解析処理装置(装置名:旭化成(株)製IP−1000PC)を用いて800個のゴム粒子の面積を計測し、その円相当径(直径)を求め、重量平均粒子径を算出した。
【0059】
共重合体(C−1)の製造
アクリロニトリルを33部、スチレンを67部、溶媒としてエチルベンゼンを15部、開始剤として1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロへキサン(10時間半減期温度90.7℃)を0.021部、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタンを0.15部用いた混合溶液を調整し、5℃以下に冷却保存した。調整した混合溶液を反応温度127℃に保たれた容積20Lのダブルヘリカルリボン翼付きの反応器に1.44kg/hrで連続的に供給し重合を行った。共重合体を含む混合溶液を供給速度と同じ速度でポンプにより連続的に抜き出し、289℃、45torrに保たれた気液分離装置に送液することで、共重合体と未反応溶液に分離した。分離した共重合体をペレット化することで共重合体(C−1)を得た。重合が安定した時の重合率は51%であり、その重合率になったときの共重合体を物性等の評価に用いた。
【0060】
共重合体(C−2)の製造
アクリロニトリルを27部、スチレンを73部、溶媒としてエチルベンゼンを12部、開始剤として1,1−ジ(t−へキシルペルオキシ)シクロへキサン(10時間半減期温度86.7℃)を0.018部、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタンを0.33部用いた混合溶液を調整し、5℃以下に冷却保存した。調整した混合溶液を反応温度125℃に保たれた容積20Lのダブルヘリカルリボン翼付きの反応器に1.52kg/hrで連続的に供給し重合を行った。共重合体を含む混合溶液を供給速度と同じ速度でポンプにより連続的に抜き出し、285℃、45torrに保たれた気液分離装置に送液することで、共重合体と未反応溶液に分離した。分離した共重合体をペレット化することで共重合体(C−2)を得た。重合が安定した時の重合率は45%であり、その重合率になったときの共重合体を物性等の評価に用いた。
【0061】
共重合体(C−3)の製造
アクリロニトリルを29部、スチレンを71部、溶媒としてエチルベンゼンを16部、開始剤としてt−ブチルクミルペルオキシド(10時間半減期温度119.5℃)を0.025部、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタンを0.39部用いた混合溶液を調整し、5℃以下に冷却保存した。調整した混合溶液を反応温度155℃に保たれた容積20Lのダブルヘリカルリボン翼付きの反応器に1.32kg/hrで連続的に供給し重合を行った。共重合体を含む混合溶液を供給速度と同じ速度でポンプにより連続的に抜き出し、260℃、45torrに保たれた気液分離装置に送液することで、共重合体と未反応溶液に分離した。分離した共重合体をペレット化することで共重合体(C−3)を得た。重合が安定した時の重合率は56%であり、その重合率になったときの共重合体を物性等の評価に用いた。
【0062】
実施例1〜8及び比較例1〜5
ポリカーボネート樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、共重合体(C)を表1記載の配合割合で混合した後、シリンダー温度250℃に設定したφ35mmの2軸押出機にて主スクリュー回転数300rpm、吐出量15kg/hrの条件で溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットを用いて、オリゴマー成分の含有量の測定を行った。また、このペレットを用いて射出成形機(シリンダー温度250℃、金型温度60℃)にて物性測定用試験片及びめっき用平板を成形した。次いで、その試験片及び平板を用いて物性ならびにめっき密着強度、めっき析出性、冷熱サイクル性を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から明らかなように、本発明のめっき用樹脂組成物を使用した実施例1〜8はいずれも、耐衝撃性、流動性、めっき密着強度、めっき析出性及び冷熱サイクル性のバランスに優れるものが得られた。
比較例1は、ポリカーボネート樹脂(A)量が本願で規定する下限に達しないことから、耐衝撃性に劣るものであった。
比較例2は、ゴム質重合体の含有量が本願で規定する下限に達しないことから、めっき密着強度、めっき析出性、冷熱サイクル性に劣るものであった。
比較例3は、ゴム質重合体の含有量が本願で規定する上限を超えることから、流動性、めっき析出性、冷熱サイクル性に劣るものであった。
比較例4は、オリゴマー含有量が本願で規定する上限を超えることから、めっき析出性、冷熱サイクル性に劣るものであった。
比較例5は、ポリカーボネート樹脂(A)量が本願で規定する上限を超えることから、流動性、めっき密着強度、めっき析出性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上記のとおり、本発明のめっき用樹脂組成物は、耐衝撃性、流動性に優れ、かつ、めっき密着強度、めっき析出性及び冷熱サイクル性のバランスに優れることから、例えば車両内装、外装用部品等、市場のニーズに合わせて多彩な用途に使用することができる。