特許第6271121号(P6271121)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6271121高分子圧電材料及びその製造方法並びに高分子圧電材料用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6271121
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】高分子圧電材料及びその製造方法並びに高分子圧電材料用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/45 20130101AFI20180122BHJP
   H01L 41/193 20060101ALI20180122BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20180122BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20180122BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20180122BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   H01L41/45
   H01L41/193
   C08J5/18CFD
   C08L67/00
   C08L67/04
   C08L101/16
【請求項の数】8
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2012-237292(P2012-237292)
(22)【出願日】2012年10月26日
(65)【公開番号】特開2014-86703(P2014-86703A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月17日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】谷本 一洋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光伸
(72)【発明者】
【氏名】清水 正樹
(72)【発明者】
【氏名】西川 茂雄
【審査官】 安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−243606(JP,A)
【文献】 特開平06−142182(JP,A)
【文献】 特開2010−001338(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/026494(WO,A1)
【文献】 特開2007−126509(JP,A)
【文献】 特開2010−150711(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/081681(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/010355(WO,A1)
【文献】 特開2005−226183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/00−47
C08J 5/18
C08L 67/00
C08L 67/04
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が5万〜100万で光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)を含む水分含有量が1ppm〜500ppmの組成物を、前記脂肪族系ポリエステル(A)の融点以上の温度に加熱してシートに成形する成形工程と、
前記シートを主として1軸方向に延伸する延伸工程と、
延伸された前記シートを80℃〜160℃で1秒〜5分アニールするアニール工程と、
を経て得られるものであり、
前記組成物が、さらに、カルボジイミド基を有する重量平均分子量が100〜60000の安定化剤(B)を、前記脂肪族系ポリエステル(A)100質量部に対して0.7質量部〜1.2質量部含み、
可視光線に対する内部ヘイズが1.0%未満であり、且つ、25℃において変位法で測定した圧電定数d14pm/V以上である、高分子圧電材料。
【請求項2】
前記脂肪族系ポリエステル(A)の含有量が、80質量%以上である、請求項1に記載の高分子圧電材料。
【請求項3】
前記脂肪族系ポリエステル(A)が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である、請求項1又は請求項2に記載の高分子圧電材料。
【化1】
【請求項4】
前記脂肪族系ポリエステル(A)は、光学純度が95.00%ee以上である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
【請求項5】
DSC法で得られる結晶化度が、20%〜80%である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
【請求項6】
重量平均分子量が5万〜100万で光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)を含む水分含有量が1ppm〜500ppmの組成物を、前記脂肪族系ポリエステル(A)の融点以上の温度に加熱してシートに成形する成形工程と、
前記シートを主として1軸方向に延伸する延伸工程と、
延伸された前記シートを80℃〜160℃で1秒〜5分アニールするアニール工程と、
を有し、
前記組成物が、さらに、カルボジイミド基を有する重量平均分子量が100〜60000の安定化剤(B)を、前記脂肪族系ポリエステル(A)100質量部に対して0.7質量部〜1.2質量部含み、
可視光線に対する内部ヘイズが1.0%未満であり、且つ、25℃において変位法で測定した圧電定数d14pm/V以上である、高分子圧電材料の製造方法。
【請求項7】
重量平均分子量が5万〜100万で光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)と、カルボジイミド基を有する重量平均分子量が100〜60000の安定化剤(B)を、前記脂肪族系ポリエステル(A)100質量部に対して0.7質量部〜1.2質量部とを含み、水分含有量が1ppm〜500ppmであり、
可視光線に対する内部ヘイズが1.0%未満であり、且つ、25℃において変位法で測定した圧電定数d14pm/V以上である、高分子圧電材料用組成物。
【請求項8】
前記脂肪族系ポリエステル(A)の含有量が、80質量%以上である、請求項7に記載の高分子圧電材料用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子圧電材料及びその製造方法並びに高分子圧電材料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料としては、従来、セラミックス材料であるPZT(PbZrO−PbTiO系固溶体)が多く用いられてきたが、PZTは、鉛を含有することから、環境負荷が低く、また柔軟性に富む高分子圧電材料が用いられるようになってきている。
【0003】
現在知られている高分子圧電材料は、主に以下の2種類に大別される。すなわち、ナイロン11、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ尿素などに代表されるポーリング型高分子と、ポリフッ化ビニリデン(β型)(PVDF)と、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体(P(VDF−TrFE))(75/25)などに代表される強誘電性高分子との2種類である。しかしながら、高分子圧電材料は、圧電性においてPZTに及ばず、圧電性の向上が要求されている。そのため、種々の観点から高分子圧電材料の圧電性を向上することが試みられている。
【0004】
例えば、強誘電性高分子であるPVDF、及びP(VDF−TrFE)は、高分子の中でも優れた圧電性を有し、圧電定数d31が20pC/N以上である。PVDF、及びP(VDF−TrFE)から形成されるフィルム材料は、延伸操作により、延伸方向に高分子鎖を配向させた後に、コロナ放電などでフィルムの表裏に異種の電荷を付与することで、フィルム面垂直方向に電界を発生させ、高分子鎖の側鎖にあるフッ素を含む永久双極子を、電界方向に平行に配向させ、圧電性を付与する。しかし、分極したフィルム表面には、配向を打ち消す方向に、空気中の水やイオンのような異種電荷が付着しやすく、分極処理で揃えた永久双極子の配向が緩和し、経時的に圧電性が顕著に低下するといった実用上の課題があった。
【0005】
PVDFは、上記の高分子圧電材料の中で最も圧電性の高い材料ではあるが、誘電率が高分子圧電材料の中では比較的高く、13であるため、圧電d定数を誘電率で割った値の圧電g定数(単位応力当たりの開放電圧)は小さくなる。また、PVDFは、電気から音響への変換効率は良いものの、音響から電気への変換効率については、改善が期待されていた。
【0006】
近年、上記の高分子圧電材料以外に、ポリ乳酸等の光学活性を有する脂肪族系ポリエステルを用いることが着目されている。ポリ乳酸系高分子は、機械的な延伸操作のみで圧電性が発現することが知られている。
【0007】
光学活性を有する高分子の中でも、ポリ乳酸のような高分子結晶の圧電性は、螺旋軸方向に存在するC=O結合の永久双極子に起因する。特にポリ乳酸は、主鎖に対する側鎖の体積分率が小さく、体積あたりの永久双極子の割合が大きく、ヘリカルキラリティをもつ高分子の中でも理想的な高分子といえる。
【0008】
延伸処理のみで圧電性を発現するポリ乳酸は、ポーリング処理が不要で、圧電率は数年にわたり減少しないことが知られている。
【0009】
以上のように、ポリ乳酸には種々の圧電特性があるため、種々のポリ乳酸を用いた高分子圧電材料が報告されている。
【0010】
例えば、ポリ乳酸の成型物を延伸処理することで、常温で、10pC/N程度の圧電率を示す高分子圧電材が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
また、ポリ乳酸結晶を高配向にするために、鍛造法と呼ばれる特殊な配向方法により18pC/N程度の高い圧電性を出すことも報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0012】
さらに、ラミネート工程等の煩雑な工程を必要とせずに、電圧印加時に十分な大きさの変位を生じる積層フィルムを提供するため、ポリL−乳酸を主たる成分とする層A、およびポリD−乳酸を主たる成分とする層Bを有し、共押出法により得られた積層フィルムが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5−152638号公報
【特許文献2】特開2005−213376号公報
【特許文献3】特開2011−243606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、従来の圧電材は、いずれも透明性において不十分である。さらに、ポリ乳酸など脂肪系ポリエステルは加水分解性があるため大気中の水分など加水分解を生じる環境下での圧電素子として用いた場合、信頼性が低いという問題があった。
本発明においては上記事情に鑑み、圧電性が高く耐湿熱性に優れる高分子圧電材料及びその製造方法並びに高分子圧電材料用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を達成するための具体的手段は、以下の通りである。
[1] 重量平均分子量が5万〜100万で光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)を含む水分含有量が1ppm〜500ppmの組成物を、前記脂肪族系ポリエステル(A)の融点以上の温度に加熱してシートに成形する成形工程と、前記シートを主として1軸方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記シートを80℃〜160℃で1秒〜5分アニールするアニール工程と、を経て得られる、高分子圧電材料。
[2] 前記組成物が、さらに、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が100〜60000の安定化剤(B)を、前記脂肪族系ポリエステル(A)100質量部に対して0.01質量部〜10質量部含む、[1]に記載の高分子圧電材料。
[3] 可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であり、且つ、25℃において変位法で測定した圧電定数d14が1pm/V以上である、[1]又は[2]に記載の高分子圧電材料。
[4] 前記脂肪族系ポリエステル(A)の含有量が、80質量%以上である、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の高分子圧電材料。
[5] 前記脂肪族系ポリエステル(A)が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の高分子圧電材料。
【0016】
【化1】
【0017】
[6] 前記脂肪族系ポリエステル(A)は、光学純度が95.00%ee以上である、[1]〜[5]のいずれか1つに記載の高分子圧電材料。
[7] DSC法で得られる結晶化度が、20%〜80%である、[1]〜[6]のいずれか1つに記載の高分子圧電材料。
[8] 重量平均分子量が5万〜100万で光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)を含む水分含有量が1ppm〜500ppmの組成物を、前記脂肪族系ポリエステル(A)の融点以上の温度に加熱してシートに成形する成形工程と、前記シートを主として1軸方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記シートを80℃〜160℃で1秒〜5分アニールするアニール工程と、を有する、高分子圧電材料の製造方法。
[9] 重量平均分子量が5万〜100万で光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)を含み、水分含有量が1ppm〜500ppmの、高分子圧電材料用組成物。
[10] 前記脂肪族系ポリエステル(A)の含有量が、80質量%以上である、[9]に記載の高分子圧電材料用組成物。
[11] さらに、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が100〜60000の安定化剤(B)を、前記脂肪族系ポリエステル(A)100質量部に対して0.01質量部〜10質量部含む[9]又は[10]に記載の、高分子圧電材料用組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、圧電性が高く耐湿熱性に優れる高分子圧電材料及びその製造方法並びに高分子圧電材料用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の高分子圧電材料及びその製造方法並びに高分子圧電材料用組成物を説明する。
【0020】
本発明の高分子圧電材料は、重量平均分子量が5万〜100万で光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)を含み、水分含有量が1ppm〜500ppmである本発明の高分子圧電材料用組成物(以下、本発明の組成物と称することがある。)を、前記脂肪族系ポリエステル(A)の融点以上の温度に加熱してシートに成形する成形工程と、前記シートを主として1軸方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記シートを80℃〜160℃で1秒〜5分アニールするアニール工程と、を経て得られるものである。
また、本発明の高分子圧電材料の製造方法は、重量平均分子量が5万〜100万で光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)を含む水分含有量が1ppm〜500ppmの組成物を、前記脂肪族系ポリエステル(A)の融点以上の温度に加熱してシートに成形する成形工程と、前記シートを主として1軸方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記シートを80℃〜160℃で1秒〜5分アニールするアニール工程と、を有するものである。
【0021】
本発明においては、高分子圧電材料を上記工程を経て製造することにより、圧電性が高く耐湿熱性に優れる高分子圧電材料を得ることができる。本発明の高分子圧電材料が、圧電性が高く耐湿熱性に優れる理由を明らかにするために、本発明者等は組成物に含まれる水分量の多寡による高分子圧電材料を構成する材料の構造や官能基の状態に対する影響について分析を試みた。具体的には、GPCによる分子量測定、KOH滴定によるカルボン酸基濃度測定、ヨウ素滴定によるカルボジイミド基濃度測定を実施した。しかし、水分量の多寡による影響を明らかにすることができなかった。
上記工程を経て高分子圧電材料を製造することにより、圧電性が高く耐湿熱性に優れる高分子圧電材料を得ることができる理由は明確ではないが、以下のように推察される。
【0022】
重量平均分子量が5万〜100万で光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)を含む組成物の水分含有量を1ppm〜500ppmに調製したうえで、当該組成物を脂肪族系ポリエステル(A)の融点以上の温度に加熱してシートに成形する成形工程に供することで、脂肪族系ポリエステル(A)に適度な加水分解が生じると推察される。そのため、前記組成物から成形されたシートを主として1軸方向に延伸する延伸工程や延伸された前記シートを特定条件の下でアニールするアニール工程において、脂肪族系ポリエステル(A)が配向して結晶化した部位が増加することにより高分子圧電材料の圧電性が向上すると推察される。また、前記組成物の水分含有量を1ppm〜500ppmとすることで、脂肪族系ポリエステル(A)に対して必要以上の加水分解の発生するのを抑制することが可能となり、その結果として高分子圧電材料の耐湿熱性が悪化するのを防止できるようになると推察される。
【0023】
前記組成物の水分含有量が1ppm未満であると、高分子圧電材料の圧電性が高まらないことがある。これは、脂肪族系ポリエステル(A)が加水分解しにくくなることで延伸工程やアニール工程等において脂肪族系ポリエステル(A)が配向しにくくなるためと推察される。一方、前記組成物の水分含有量が500ppmを超えると、高分子圧電材料の圧電性や耐湿熱性が低下することがある。これは、脂肪族系ポリエステル(A)が加熱により必要以上に加水分解してしまい、高分子圧電材料の強度が低下するためと推察される。
【0024】
本発明において、前記組成物の水分含有量は1ppm〜500ppmの範囲とされるが、10ppm〜500ppmであることが好ましく、30ppm〜400ppmであることがさらに好ましい。
本発明において、前記組成物の水分含有量は、カールフィッシャー微量水分計を用いて、JIS K0068−2001に基づき測定する。
【0025】
なお、前記高分子圧電材料は、可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であり、25℃において変位法で測定した圧電定数d14が1pm/V以上であることが好ましい態様である。
【0026】
ここで、「圧電定数d14」とは、圧電率のテンソルの一つであり、延伸した材料の延伸軸方向に、ずり応力を印加したとき、ずり応力の方向に生じた分極の程度から求める。具体的には、単位ずり応力あたりの発生電荷密度をd14と定義する。圧電定数d14の数値が大きいほど圧電性が高いことを表す。単に『圧電定数』と称するときは、「圧電定数d14」を指す。ここで、圧電定数d14は、以下の方法で算出される値である。すなわち、延伸方向に対して、斜め45°の方向を長手方向とした矩形フィルムを試験片とする。この試験片の主面の表裏全面に電極層を設け、この電極に印加電圧E(V)を加えたとき、フィルムの長手方向の歪量をXとする。印加電圧E(V)をフィルムの厚さt(m)で割った値を電界強度E(V/m)とし、E(V)印加したときのフィルムの長手方向の歪量をXとしたとき、d14は、2×歪量X/電界強度E(V/m)で定義される値である。
【0027】
また、複素圧電率d14は、「d14=d14’―id14’’」として算出され、「d14’」と「id14’’」は東洋精機製作所社製「レオログラフソリッドS−1型」より得られる。「d14’」は、複素圧電率の実数部を表し、「id14’’」は、複素圧電率の虚数部を表し、d14’(複素圧電率の実数部)は本実施形態における圧電定数d14に相当する。尚、複素圧電率の実数部が高いほど圧電性に優れることを示す。圧電定数d14には変位法で測定されるもの(単位:pm/V)と、共振法により測定されるもの(単位:pC/N)とがある。
【0028】
〔光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)〕
光学活性を有する脂肪族系ポリエステルとは、分子構造が螺旋構造である分子光学活性を有する高分子をいう。光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(以下、「光学活性高分子」ともいう)としては、例えば、ポリ乳酸系高分子、ポリ(β―ヒドロキシ酪酸)等を挙げることができる。また光学活性を有する脂肪族系ポリエステルとしては、圧電性を増加させやすいヘリカルキラル高分子であることが好ましい。
【0029】
本実施形態に係る光学活性高分子(A)は、高分子圧電材料の圧電性を向上する観点から、光学純度が95.00%ee以上であることが好ましく、96.00%ee以上であることがより好ましく、99.00%ee以上であることがさらに好ましく、99.99%ee以上であることがさらにより好ましい。望ましくは100.00%eeである。光学活性高分子の光学純度を上記範囲とすることで、圧電性を発現する高分子結晶のパッキング性が高くなり、その結果、圧電性が高くなるものと考えられる。
【0030】
本実施形態において、光学活性高分子の光学純度は、下記式にて算出した値である。光学純度(%ee)=100×|L体量−D体量|/(L体量+D体量)すなわち、『「光学活性高分子のL体の量〔質量%〕と光学活性高分子のD体の量〔質量%〕との量差(絶対値)」を「光学活性高分子のL体の量〔質量%〕と光学活性高分子のD体の量〔質量%〕との合計量」で割った(除した)数値』に、『100』をかけた(乗じた)値を、光学純度とする。
【0031】
なお、光学活性高分子のL体の量〔質量%〕と光学活性高分子のD体の量〔質量%〕は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いる。具体的な測定の詳細については後述する。
【0032】
以上の光学活性高分子の中でも、光学純度を上げ、圧電性を向上させる観点から、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有する化合物が好ましい。
【0033】
【化2】

【0034】
前記式(1)で表される繰り返し単位を主鎖とする化合物としては、ポリ乳酸系高分子が挙げられる。中でも、ポリ乳酸が好ましく、L−乳酸のホモポリマー(PLLA)またはD−乳酸のホモポリマー(PDLA)が最も好ましい。なお、本実施形態における前記ポリ乳酸系高分子とは、「ポリ乳酸(L−乳酸及びD−乳酸から選ばれるモノマー由来の繰り返し単位のみからなる高分子化合物)」、「L−乳酸またはD−乳酸と、該L−乳酸またはD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」、又は、両者の混合物をいう。
【0035】
前記「ポリ乳酸」は、乳酸がエステル結合によって重合し、長く繋がった高分子であり、ラクチドを経由するラクチド法と、溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合させる直接重合法などによって製造できることが知られている。前記「ポリ乳酸」としては、L−乳酸のホモポリマー、D−乳酸のホモポリマー、L−乳酸およびD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むブロックコポリマー、及び、L−乳酸およびD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むグラフトコポリマーが挙げられる。
【0036】
前記「L−乳酸またはD−乳酸と共重合可能な化合物」としては、グリコール酸、ジメチルグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシカプロン酸、4−ヒドロキシカプロン酸、5−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシメチルカプロン酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸、グリコリド、β−メチル−δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状エステル、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テレフタル酸等の多価カルボン酸、及びこれらの無水物、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ヘキサンジメタノール等の多価アルコール、セルロース等の多糖類、及び、α−アミノ酸等のアミノカルボン酸等を挙げることができる。
【0037】
前記「L−乳酸またはD−乳酸と、該L−乳酸またはD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」としては、らせん結晶を生成可能なポリ乳酸シーケンスを有する、ブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーが挙げられる。
【0038】
また脂肪族系ポリエステル(A)中のコポリマー成分に由来する構造の濃度は20mol%以下であることが好ましい。例えば光学活性高分子(A)がポリ乳酸系高分子の場合、前記高分子中の乳酸に由来する構造と乳酸と共重合可能な化合物(コポリマー成分)に由来する構造のモル数の合計に対して、前記コポリマー成分が20mol%以下であることが好ましい。
【0039】
前記ポリ乳酸系高分子は、例えば、特開昭59−096123号公報、及び特開平7−033861号公報に記載されている乳酸を直接脱水縮合して得る方法や、米国特許2,668,182号及び4,057,357号等に記載されている乳酸の環状二量体であるラクチドを用いて開環重合させる方法などにより製造することができる。
【0040】
さらに、前記の各製造方法により得られた光学活性高分子は、光学純度を95.00%ee以上とするために、例えば、ポリ乳酸をラクチド法で製造する場合、晶析操作により光学純度を95.00%ee以上の光学純度に向上させたラクチドを、重合することが好ましい。
【0041】
本発明の組成物(本発明の高分子圧電材料)に含有される光学活性高分子(A)の含有量は、80質量%以上が好ましい。
【0042】
〔光学活性高分子(A)の重量平均分子量〕
本実施形態に係る光学活性高分子(A)は、重量平均分子量(Mw)が、5万〜100万である。光学活性高分子(A)の重量平均分子量の下限が、5万未満であると光学活性高分子を成型体としたときの機械的強度が不十分となる。光学活性高分子の重量平均分子量の下限は、10万以上であることが好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。一方、光学活性高分子の重量平均分子量の上限が100万を超えると、光学活性高分子を成型体としたときのフィルムなどの押出成型などの成形をすることが難しくなる。重量平均分子量の上限は、80万以下であることが好ましく、30万以下であることがさらに好ましい。
【0043】
また、前記光学活性高分子(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、高分子圧電材料の強度の観点から、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましい。さらに1.4〜3であることが好ましい。
【0044】
なお、光学活性高分子(A)の重量平均分子量Mwと、分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、測定される。
−GPC測定装置−
Waters社製GPC−100
−カラム−
昭和電工社製、Shodex LF−804
−サンプルの調製−
光学活性高分子(A)を40℃で溶媒(例えば、クロロホルム)へ溶解させ、濃度1mg/mlのサンプル溶液を準備する。
−測定条件−
サンプル溶液0.1mlを溶媒〔クロロホルム〕、温度40℃、1ml/分の流速でカラムに導入する。
【0045】
カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定する。ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、光学活性高分子(A)の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を算出する。
【0046】
本発明において、光学活性高分子(A)の融点は、示差走査型熱量計により測定された値をいう。測定条件については後述する。
【0047】
ポリ乳酸系高分子は、市販のポリ乳酸を用いてもよく、例えば、PURAC社製のPURASORB(PD、PL)、三井化学社製のLACEA(H−100、H−400)等が挙げられる。光学活性高分子としてポリ乳酸系高分子を用いるときに、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量(Mw)を5万以上とするためには、ラクチド法、または直接重合法により光学活性高分子を製造することが好ましい。
【0048】
〔安定化剤(B)〕
本発明の組成物は、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が100〜60000の安定化剤(B)をさらに含んでもよい。この安定化剤(B)は、前記脂肪族系ポリエステルの加水分解性を抑制し、得られる圧電材料の耐湿熱性を改良するために用いられる。
脂肪族系ポリエステルの加水分解性を抑制するために、ポリエステルなどのポリマー中の未反応モノマーや不純物、鎖状・環状のオリゴマー等の低分子量化合物を低減する方法(例えば、特開平9−12688号公報)や、芳香族カルボジイミドを添加する方法(例えば、特表2001−525473号公報)、オキサゾリン化合物を添加する方法(例えば、特開2007−77193号公報)など多数の方法が知られている。しかし、後述するような構造を有する光学活性を有する脂肪族系ポリエステルを含む高分子圧電材料の信頼性を、その圧電特性や透明性を大きく損なうことなく、前記圧電材料に含まれる脂肪族系ポリエステルの加水分解性を抑制することで向上させる方法は知られていなかった。
【0049】
本発明者は検討の結果、光学特性を有する脂肪族系ポリエステル(A)に特定の官能基を有する安定化剤(B)を特定の量添加することで、圧電性や透明性を大きく低下させることなく、脂肪族系ポリエステルの加水分解性を抑制し、高分子圧電材料の耐湿熱性、信頼性を向上させることができることを見出した。
【0050】
安定化剤(B)の作用は明確ではないが、以下のように考えている。
脂肪族ポリエステル(A)の加水分解は以下のスキームにて進行するものと推定される。よって、加水分解を抑制するためには、水分との接触をラミネートなどにより抑制するか、或いは、系中で加水分解した部分に架橋構造を形成するか、フリーのカルボキシ基を封鎖する方法が考えられる。本発明においては、水酸基及びカルボキシ基の両方の官能基と相互作用を形成しやすい官能基を有する安定化剤、より好ましくは、複数の水酸基やカルボキシ基と相互作用を形成しやすい官能基を有する安定化剤を用いることで、上記加水分解を抑制しうると考えられる。
水酸基とカルボキシ基の双方と相互作用する官能基を有する安定化剤であって、特定の範囲内の分子量を持つ化合物を用いることで、脂肪族ポリエステル(A)が結晶化する際に、結晶になりやすい部分(具体的には、分子鎖が切れていない領域)から結晶になりにくい部分(一部分子鎖が切れていて水酸基やカルボキシ基が生じている領域)に移動しやすい。このため、安定化剤は、結晶になりやすい部分の結晶化を阻害することなく、結晶性が高い部分よりも耐湿熱性が低い結晶性が低い部分に多く、且つ、均一に存在することになり、効率的に耐湿熱性を向上させることができると考えられる。
他方、脂肪族ポリエステル(A)の安定化剤として知られているオキサゾリン基を有する化合物を用いた場合、オキサゾリン基は、カルボキシ基と反応するが、水酸基とは反応し難い。このため、脂肪族ポリエステル(A)が結晶化する際に、結晶になりやすい部分にもオキサゾリンが存在して結晶化し難くなり、また、用いる化合物の構造によっては結晶成長の核となって局所的に大きな結晶が形成される可能性がある。そのため、高分子圧電材料の透明性が低下する懸念がある。また、より結晶性が低い部分にオキサゾリンが移動し難いために、耐湿熱性改良効果を充分に得難いと考えられる。
【0051】
【化3】

【0052】
上記スキームの加水分解反応を抑制するために、水酸基及びカルボキシ基の両方と相互作用しうる特定官能基としては、以下の構造を有するカルボジイミド基、イソシアネート基、及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基が挙げられ、なかでも、効果の観点からカルボジイミド基が好ましい。
【0053】
【化4】

【0054】
本実施形態に使用される安定化剤(B)の重量平均分子量は、100〜60000が好ましく、200〜30000がより好ましく、300〜18000がさらに好ましい。分子量が前記範囲内ならば、前述の作用にあるように、安定化剤(B)の移動がしやすくなり、耐湿熱性改良効果を十分に得ることができると推測される。
【0055】
(カルボジイミド化合物)
本発明において安定化剤(B)として用いられる、カルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物は、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する。カルボジイミド化合物(ポリカルボジイミド化合物を含む)としては、一般的に良く知られた方法で合成されたものを使用することができる。例えば、触媒として有機リン系化合物又は有機金属化合物を用い、各種イソシアネートを約70℃以上の温度で、無溶媒又は不活性溶媒中で、脱炭酸縮合反応に付することより合成することができるものを挙げることができる。
上記カルボジイミド化合物に含まれるモノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド等を例示することができ、これらの中では、特に工業的に入手が容易であるという面から、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、またはビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが好適である。
【0056】
また、上記カルボジイミド化合物に含まれるポリカルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができる。従来のポリカルボジイミドの製造方法(例えば、米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.0rg.Chem.28,2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621)により、製造されたものを用いることができる。具体的には特許4084953号公報に記載のカルボジイミド化合物を用いることもできる。
【0057】
ポリカルボジイミド化合物としては、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(テトラメチルキシリレンカルボジイミド)、ポリ(N,N−ジメチルフェニルカルボジイミド)、ポリ(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)等があり、そのような機能を有する分子中に1個以上のカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物であれば、特に限定されない。
カルボジイミド化合物としては、市販品を用いてもよく、例えば、東京化成製、B2756(商品名)、日清紡ケミカル社製、カルボジライトLA−1、ラインケミー社製、Stabaxol P、Stabaxol P400、Stabaxol I(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0058】
(イソシアネート化合物)
本発明において安定化剤(B)として用いられる、イソシアネート基を有する化合物(イソシアネート化合物)としては、ヘキシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ベンジルイソシアネート、フェネチルイソシアネート、イソシアナト酢酸ブチル、ドデシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、イソシアン酸3-(トリエトキシシリル)プロピル、2 , 4 − トリレンジイソシアネート、2 , 6− トリレンジイソシアネート、m − フェニレンジイソシアネート、p − フェニレンジイソシアネート、4 , 4 '− ジフェニルメタンジイソシアネート、2 , 4 '− ジフェニルメタンジイソシアネート、2 , 2 '− ジフェニルメタンジイソシアネート、3 , 3 '− ジメチル−4 , 4 '− ビフェニレンジイソシアネート、3 , 3 '− ジメトキシ− 4 , 4 '− ビフェニレンジイソシアネート、3 , 3 '− ジクロロ− 4 , 4 '− ビフェニレンジイソシアネート、1, 5 − ナフタレンジイソシアネート、1 , 5 − テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1 , 6 − ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1 , 3 − シクロヘキシレンジイソシアネート、1 , 4 − シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4 , 4 '− ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、又は、3 , 3 '− ジメチル− 4 , 4 '− ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート系ポリイソシアネート、1 , 6 − ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート系ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート系ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0059】
(エポキシ化合物)
本発明において安定化剤(B)として用いられる、エポキシ基を有する化合物(エポキシ化合物)としては、N−グリシジルフタルイミド、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
【0060】
本実施形態に係る安定化剤(B)は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。安定化剤(B)の好ましい態様としては、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有し、且つ、数平均分子量が100〜900の安定化剤(B1)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群よりばれる1種類以上の官能基を1分子内に2以上有し、且つ、重量平均分子量が1000〜60000の安定化剤(B2)とを併用するという態様が挙げられる。なお、数平均分子量が100〜900の安定化剤(B1)の重量平均分子量は、大凡100〜900であり、安定化剤(B1)の数平均分子量と重量平均分子量とはほぼ同じ値となる。
ここで、安定化剤(B1)としては、具体的には、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ヘキシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、N−グリシジルフタルイミド、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル等が挙げられる。
また、安定化剤(B2)としては、具体的には、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(テトラメチルキシリレンカルボジイミド)、ポリ(N,N−ジメチルフェニルカルボジイミド)、ポリ(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ジフェニルメタンジイソシアネート系ポリイソシアネート、1 , 6 − ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート系ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート系ポリイソシアネート、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
【0061】
分子量が比較的小さい安定化剤(B1)と、多官能で比較的分子量の多い安定化剤(B2)を含むことで、耐湿熱性が特に向上する。両者の添加量のバランスを考慮すれば、単官能で分子量が比較的小さい安定化剤(B1)を多く含むことが透明性向上の観点から好ましく、安定化剤(B1)100質量部に対して、安定化剤(B2)が10質量部〜150質量部の範囲であることが、透明性と耐湿熱性の両立という観点から好ましく、50質量部〜100質量部の範囲であることが、より好ましい。
【0062】
また安定化剤(B)が、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に1つ有する安定化剤(B3)を含む態様も寸法安定性も向上させるという観点からは好ましい態様である。安定化剤(B3)はカルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に1つしか有さないので、加水分解により生じた水酸基やカルボキシル基を有する光学活性高分子(A)の部位が、安定化剤(B3)を間に挟んで架橋されにくくなる。このため、光学活性高分子(A)の分子鎖が適度に柔軟に変位し、高分子圧電材料の内部応力が分散され、高分子圧電材料の寸法安定性が向上すると推測される。
カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に1つ有する化合物の重量平均分子量としては、100〜2000が好ましく、200〜1500がより好ましく、300〜900がさらに好ましい。
カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に1つ有する化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ヘキシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、N−グリシジルフタルイミド、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテルが挙げられる。これらの中でも、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが好ましく、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドがさらに好ましい。
また安定化剤(B3)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に2つ以上有する安定化剤(B4)(例えば前述の安定化剤(B2)が含まれる)を併用してもよい。安定化剤(B3)100質量部に対して、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に2つ以上有する安定化剤(B4)が5質量部〜200質量部の範囲であることが、透明性、耐湿熱性及び寸法安定性バランスという観点から好ましく、10質量部〜100質量部の範囲であることが、より好ましい。
【0063】
〔安定化剤(B)の重量平均分子量及び数平均分子量〕
上記安定化剤(B)の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)は、いずれも、光学活性高分子(A)の項にて記載したゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用いた測定方法により同様に測定される。
【0064】
安定化剤(B)の添加量は、光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)100質量部に対して0.01質量部〜10質量部が好ましい。また、より高い信頼性を得るためには、添加量は0.7質量部以上がより好ましい。特に、安定化剤として脂肪族カルボジイミドを用いる場合は0.01質量部〜2.8質量部含まれるのが透明性という観点からはさらに好ましい。添加量が上記の範囲になることで、本発明の高分子圧電材料の内部へイズを著しく損なうことなく、圧電材料の信頼性を高めることができる。
なお、上記添加量は、安定化剤(B)を2種以上併用する場合、それらの総量を示す。
一方、内部ヘイズを低くし、かつ圧電定数を高めるか又は維持するという観点からは、安定化剤(B)の添加量は、光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)100質量部に対して0.01質量部〜1.2質量部が好ましく、0.01質量部〜0.7質量部がさらに好ましく、0.01質量部〜0.6質量部がさらにより好ましい。
【0065】
〔その他の成分〕
本発明の組成物は、本実施形態の効果を損なわない限度において、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン樹脂やポリスチレン樹脂に代表される公知の樹脂や、シリカ、ヒドロキシアパタイト、モンモリロナイト等の無機フィラー、フタロシアニン等の公知の結晶核剤等他の成分を含有していてもよい。
【0066】
−無機フィラー−
例えば、高分子圧電材料を、気泡等のボイドの発生を抑えた透明なフィルムとするために、本発明の組成物中に、ヒドロキシアパタイト等の無機フィラーをナノ分散してもよい。但し、無機のフィラーをナノ分散させるためには、凝集塊の解砕に大きなエネルギーが必要であり、また、フィラーがナノ分散しない場合、フィルムの透明度が低下する場合がある。本実施形態に係る高分子圧電材料が無機フィラーを含有するとき、高分子圧電材料全質量に対する無機フィラーの含有量は、1質量%未満とすることが好ましい。なお、高分子圧電材料が脂肪族系ポリエステル以外の成分を含む場合、脂肪族系ポリエステル以外の成分の含有量は、高分子圧電材料全質量中に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
−結晶促進剤(結晶核剤)−
結晶促進剤は、結晶化促進の効果が認められるものであれば、特に限定されないが、脂肪族系ポリエステルの結晶格子の面間隔に近い面間隔を持つ結晶構造を有する物質を選択することが望ましい。面間隔が近い物質ほど核剤としての効果が高いからである。例えば、脂肪族系ポリエステルとしてポリ乳酸系高分子を用いた場合、有機系物質であるフェニルスルホン酸亜鉛、ポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート、フェニルホスホン酸亜鉛、フェニルホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸マグネシウム、無機系物質のタルク、クレー等が挙げられる。それらのうちでも、最も面間隔がポリ乳酸の面間隔に類似し、良好な結晶形成促進効果が得られるフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。なお、使用する結晶促進剤は、市販されているものを用いることができる。具体的には例えば、フェニルホスホン酸亜鉛;エコプロモート(日産化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0068】
結晶核剤の含有量は、脂肪族系ポリエステル100質量部に対して通常0.01質量部〜1.0質量部、好ましくは0.01質量部〜0.5質量部、より良好な結晶促進効果とバイオマス度維持の観点から特に好ましくは0.02質量部〜0.2質量部である。結晶核剤の上記含有量が、0.01質量部未満では結晶促進の効果が十分でなく、1.0質量部を超えると結晶化の速度を制御しにくくなり、高分子圧電材料の透明性が低下する傾向にある。
【0069】
なお、高分子圧電材料は、透明性の観点からは、光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)及び安定化剤(B)以外の成分を含まないことが好ましい。
【0070】
〔構造〕
本発明の高分子圧電材料は、高度に分子が配向していることが望ましい。この配向を表す指標として、「分子配向度MOR」がある。分子配向度MOR(Molecular Orientation Ratio)は、分子の配向の度合いを示す値であり、以下のようなマイクロ波測定法により測定される。すなわち、試料(フィルム)を、周知のマイクロ波分子配向度測定装置(マイクロ波透過型分子配向計ともいう)のマイクロ波共振導波管中に、マイクロ波の進行方向に前記試料面(フィルム面)が垂直になるように配置する。そして、振動方向が一方向に偏ったマイクロ波を試料に連続的に照射した状態で、試料をマイクロ波の進行方向と垂直な面内で0〜360°回転させて、試料を透過したマイクロ波強度を測定することにより分子配向度MORを求める。
【0071】
本実施形態における規格化分子配向MORcとは、基準厚さtcを50μmとしたときのMOR値であって、下記式により求めることができる。
MORc=(tc/t)×(MOR−1)+1
(tc:補正したい基準厚さ、t:試料厚さ)
規格化分子配向MORcは、公知の分子配向計、例えば王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−2012AやMOA−6000等により、4GHzもしくは12GHz近傍の共振周波数で測定することができる。
【0072】
規格化分子配向MORcは、後述の通り、主に一軸延伸フィルムの延伸前の加熱処理条件(加熱温度および加熱時間)や延伸条件(延伸温度および延伸速度)等によって制御されうる。
【0073】
なお規格化分子配向MORcは、位相差量(レターデーション)をフィルムの厚さで除した複屈折率Δnに変換することもできる。具体的には、レターデーションは大塚電子株式会社製RETS100を用いて測定することができる。またMORcとΔnとは大凡、直線的な比例関係にあり、かつΔnが0の場合、MORcは1になる。
例えば、脂肪族系ポリエステル(A)がポリ乳酸系高分子で複屈折率Δnを測定波長550nmで測定した場合、規格化分子配向MORcの好ましい範囲の下限である2.0は、複屈折率Δn 0.005に変換できる。また高分子圧電材料の規格化分子配向MORcと結晶化度の積の好ましい範囲の下限である40は、高分子圧電材料の複屈折率Δnと結晶化度の積が0.1に変換することができる。
【0074】
<成形工程>
本発明に係る成形工程は、本発明の組成物を前記脂肪族系ポリエステル(A)の融点以上の温度に加熱してシートに成形する工程である。
本発明の高分子圧電材料の組成物は、既述の脂肪族系ポリエステル(A)と必要に応じて他の成分とを混合して混合物とされる。該混合物は溶融混練をしてもよい。具体的には、混合する脂肪族系ポリエステル(A)と必要に応じて用いられる他の成分とを、溶融混練機〔東洋精機社製、ラボプラストミル〕を用い、前記脂肪族系ポリエステル(A)の融点以上の温度に加熱して溶融混練してもよい。
溶融混練の条件としては、具体的には、ミキサー回転数30rpm〜70rpm、180℃〜250℃の条件で、5分〜20分間としてもよい。溶融混練することで、脂肪族系ポリエステル(A)と安定化剤(B)とのブレンド体、複数種の脂肪族系ポリエステルのブレンド体や脂肪族系ポリエステルと無機フィラーなどの他の成分とのブレンド体を得ることができる。
【0075】
本発明の組成物由来のシートは、押出成形法などで上述のように溶融混練された本発明の組成物を、脂肪族系ポリエステル(A)の融点以上の温度に加熱した状態でシート状に押出成形した後、シートを急冷することで成形されてもよい。シートを急冷することで、シートの結晶化度が調整される。
【0076】
ここで、シートを「急冷する」とは、シートを押出成形した直後に、例えば氷水中等に浸漬して、少なくとも脂肪族系ポリエステル(A)のガラス転移点Tg以下に冷やすことをいい、キャスターでの押し出しと氷水中等への浸漬との間に他の処理が含まれないことをいう。
【0077】
急冷の方法は、水、氷水、エタノール、ドライアイスを入れたエタノールやメタノール、液体窒素などの冷媒にシートを浸漬する方法や、蒸気圧の低い液体スプレーを吹き付け、蒸発潜熱により冷却したりする方法が挙げられる。連続的にシートを冷却するには、脂肪族系ポリエステル(A)のガラス転移温度Tg以下の温度に管理された金属ロールとシートとを接触させるなどして、急冷することが可能である。また、冷却の回数は、1回のみであっても、2回以上であってもよい。
【0078】
本発明においては、非晶状態のシートを延伸工程に供してもよいし、シートを結晶化して(予備結晶化工程)予備結晶化シート(結晶化原反ともいう)として延伸工程に供してもよい。なお、本発明において非晶状態のシートとは、通常、結晶化度が3%未満のシートをいう。
非晶状態のシートを延伸工程に供した場合、結晶化の進んだシートよりも柔軟性が高いため、延伸工程において結晶化の進んだシートよりも延伸しやすくなる。
非晶状態のシートの厚みは、延伸工程における延伸により得ようとする高分子圧電材料の厚みと延伸倍率によって主に決められるが、好ましくは50μm〜1000μmであり、より好ましくは200μm〜800μm程度である。
【0079】
一方、結晶化されたシート(予備結晶化シート)を延伸工程に供した場合、以下のような利点が挙げられる。
一般的に延伸時にフィルムにかける力を増やすことで、脂肪族系ポリエステルの配向が促進され圧電定数も大きくなり、結晶化が進み、結晶サイズが大きくなることでヘイズが大きくなる傾向にある。また内部応力の増加により寸法変形率も増加する傾向がある。単純にフィルムに力をかけた場合、球晶のように配向していない結晶が形成される。球晶のような配向が低い結晶は、ヘイズを上げるものの圧電定数の増加には寄与しにくい。よって、圧電定数が高く、ヘイズ及び寸法変形率が低いフィルムを形成するためには、圧電定数に寄与する配向結晶を、ヘイズを増大させない程度の微小サイズで効率よく形成する必要がある。
【0080】
本発明において、例えば延伸の前にシートを予備結晶化させ微細な結晶を形成した後に延伸した場合、延伸時にフィルムにかけた力を微結晶と微結晶の間の結晶性が低い高分子部分に効率よくかけることができるようになり、脂肪族系ポリエステルを主な延伸方向に効率よく配向させることができる。具体的には、微結晶と微結晶の間の結晶性が低い高分子部分内に、微細な配向結晶が生成すると同時に、予備結晶化によって生成された球晶がくずれ、球晶を構成しているラメラ晶が、タイ分子鎖につながれた数珠繋ぎ状に延伸方向に配向することで、所望の値のMORcを得ることができる。このため、圧電定数を大きく低下させることなく、ヘイズ及び寸法変形率の値が低いシートを得ることができる。
【0081】
規格化分子配向MORcを制御するには、結晶化原反の結晶化度の調整、および延伸工程における延伸速度および延伸温度の調整が重要である。前述のとおり、脂肪族系ポリエステルは、分子光学活性を有する高分子である。脂肪族系ポリエステル(A)を含む非晶状態のシートは、市場から入手可能なものでもよく、押出成形などの公知のフィルム成形手段で作製されてもよい。非晶状態のシートは単層であっても、多層であっても構わない。
【0082】
予備結晶化シートは、脂肪族系ポリエステルを含む非晶状態のシートを加熱処理して結晶化させることで得ることができる。
【0083】
また1)予め結晶化した予備結晶化シートを、後述する延伸工程に送り、延伸装置にセットして延伸してもよいし(オフラインによる加熱処理)、2)加熱処理により結晶化されていない非晶状態のシートを、延伸装置にセットして、延伸装置にて加熱して予備結晶化し、その後、連続して延伸工程(第二の工程)に送って、延伸してもよい(インラインによる加熱処理)。
【0084】
非晶状態の脂肪族系ポリエステルを含むシートを予備結晶化するための加熱温度Tは特に限定されないが、本発明で製造される高分子圧電材料の圧電性や透明性など高める点で、脂肪族系ポリエステルのガラス転移温度Tgと以下の式の関係を満たし、結晶化度が3%〜70%になるように設定されるのが好ましい。
Tg−40℃≦T≦Tg+40℃
(Tgは、前記脂肪族系ポリエステルのガラス転移温度を表す)
【0085】
予備結晶化するための加熱時間またはシート状に押出成形するときに結晶化する場合の加熱時間は、所望の結晶化度を満たし、かつ延伸後の高分子圧電材料の規格化分子配向MORcと延伸後の高分子圧電材料の結晶化度の積が好ましくは40〜700、さらに好ましくは125〜650、さらに好ましくは250〜350になるように調整されればよい。加熱時間が長くなると、延伸後の結晶化度も高くなり、延伸後の規格化分子配向MORcも高くなる。加熱時間が短くなると、延伸後の結晶化度も低くなり、延伸後の規格化分子配向MORcも低くなる。
【0086】
延伸前の予備結晶化シートの結晶化度が高くなると、シートが硬くなってより大きな延伸応力がシートにかかるので、前記シート中の結晶性が比較的低い部分も配向が強くなり、延伸後の規格化分子配向MORcも高くなる。逆に、延伸前の予備結晶化シートの結晶化度が低くなると、シートが柔らかくなって延伸応力がよりシートにかかりにくくなるので、前記シート中の結晶性が比較的低い部分も配向が弱くなり、延伸後の規格化分子配向MORcも低くなると考えられる。
【0087】
加熱時間は、加熱温度、シートの厚み、シートを構成する樹脂の分子量、添加剤などの種類または量によって異なる。また、シートを結晶化させる実質的な加熱時間は、後述する延伸工程の前に行なってもよい予熱において、非晶状態のシートが結晶化する温度で予熱した場合、前記予熱時間と、予熱前の予備結晶化工程における加熱時間の和に相当する。
【0088】
非晶状態のシートの加熱時間またはシート状に押出成形するときに結晶化する場合の加熱時間は、通常は5秒〜60分であり、製造条件の安定化という観点からは1分〜30分でもよい。例えば、脂肪族系ポリエステルとしてポリ乳酸系高分子を含む非晶状態のシートを予備結晶化する場合は、20℃〜170℃で、5秒〜60分加熱することが好ましく、1分〜30分でもよい。
【0089】
延伸後のシートに効率的に圧電性、透明性、高寸法安定性を付与するには、延伸前の予備結晶化シートの結晶化度を調整することが重要である。すなわち、延伸により圧電性や寸法安定性が向上する理由は、延伸による応力が、球晶状態にあると推測される予備結晶化シート中の結晶性が比較的高い部分に集中し、球晶が破壊されつつ配向することで圧電性d14が向上する一方、球晶を介して延伸応力が結晶性の比較的低い部分にもかかり、配向を促し、圧電性d14を向上させるからと考えられるからである。
【0090】
延伸後のシートの結晶化度、または後述するアニール処理を行う場合はアニール処理後の結晶化度は、好ましくは20%〜80%、より好ましくは25%〜70%、さらに好ましくは30%〜50%になるように設定される。そのため、予備結晶化シートの延伸直前の結晶化度は3%〜70%、好ましくは10%〜60%、さらに好ましくは15%〜50%になるように設定される。
【0091】
予備結晶化シートの結晶化度は、延伸後の本発明の高分子圧電材料の結晶化度の測定と同様に行なえばよい。
【0092】
予備結晶化シートの厚みは、延伸工程における延伸により得ようとする高分子圧電材料の厚みと延伸倍率によって主に決められるが、好ましくは50μm〜1000μmであり、より好ましくは200μm〜800μm程度である。
【0093】
<延伸工程>
本発明の延伸工程は、前記成形工程において得られたシートを主として1軸方向に延伸する工程である。
延伸工程における延伸方法は、1軸延伸とされる。シートを延伸することにより、主面の面積が大きな高分子圧電材料を得ることができる。
【0094】
ここで、「主面」とは、高分子圧電材料の表面の中で、最も面積の大きい面をいう。本発明の高分子圧電材料は、主面を2つ以上有してもよい。例えば、高分子圧電材料が、10mm×0.3mm四方の面Aと、3mm×0.3mm四方の面Bと、10mm×3mm四方の面Cとをそれぞれ2面ずつ有する板状体である場合、当該高分子圧電材料の主面は面Cであり、2つの主面を有する。
【0095】
本発明において、主面の面積が大きいとは、高分子圧電材料の主面の面積が5mm以上であることをいう。また主面の面積が10mm以上であることが好ましい。
【0096】
高分子圧電材料を1軸延伸することで、高分子圧電材料に含まれる脂肪族系ポリエステルの分子鎖を、一方向に配向させ、かつ高密度に整列させることができ、より高い圧電性が得られると推測される。
【0097】
ここで、高分子圧電材料のガラス転移温度Tg〔℃〕および高分子圧電材料の融点Tm〔℃〕は、示差走査型熱量計(DSC)を用い、高分子圧電材料に対して、昇温速度10℃/分の条件で温度を上昇させたときの融解吸熱曲線から、曲線の屈曲点として得られるガラス転移温度(Tg)と、吸熱反応のピーク値として確認される温度(Tm)である。
【0098】
高分子圧電材料の延伸温度は、1軸延伸方法のように引張力のみで高分子圧電材料を延伸するには、高分子圧電材料のガラス転移温度より10℃〜20℃程度高い温度範囲であることが好ましい。
【0099】
延伸処理における延伸倍率は、3倍〜30倍が好ましく、4倍〜15倍の範囲で延伸することがより好ましい。
【0100】
予備結晶化シートの延伸を行なうときは、延伸直前にシートを延伸しやすくするために予熱を行なってもよい。この予熱は、一般的には延伸前のシートを軟らかくし延伸しやすくするために行なわれるものであるため、前記延伸前のシートを結晶化してシートを硬くすることがない条件で行なわれるのが通常である。しかし、上述したように本実施形態においては、延伸前に予備結晶化を行なう場合があるため、前記予熱を、予備結晶化を兼ねて行なってもよい。具体的には、予備結晶化工程における加熱温度や加熱処理時間に合わせて、予熱を通常行なわれる温度よりも高い温度や長い時間行なうことで、予熱と予備結晶化を兼ねることができる。
【0101】
<アニール工程>
本発明のアニール工程は、延伸工程において延伸されたシートを80℃〜160℃で1秒〜5分アニールする工程である。アニール工程により、本発明の高分子圧電材料の結晶化が進行する。
高分子圧電材料の圧電定数を向上させる観点から、延伸処理を施した後の高分子圧電材料に対して、一定の熱処理(以下「アニール処理」とも称する)が施される。なおアニール処理により主に結晶化する場合は、前述の予備結晶化工程で行う予備結晶化を省略できる場合がある。
【0102】
本発明においては、アニール処理の温度は、80℃〜160℃とされるが、100℃〜155℃あることが好ましい。
【0103】
アニール処理の温度印加方法は、特に限定されないが、熱風ヒータや赤外線ヒータを用いて直接加熱する方法、加熱したシリコンオイルなど、加熱した液体に高分子圧電材料を浸漬して加熱する方法等が挙げられる。
【0104】
このとき、線膨張により高分子圧電材料が変形すると、実用上平坦なフィルムを得ることが困難になるため、高分子圧電材料に一定の引張応力(例えば、0.01MPa〜100Mpa)を印加し、高分子圧電材料がたるまないようにしながら温度を印加することが好ましい。
【0105】
アニール処理の温度印加時間は、1秒〜5分とされるが、5秒〜3分であることが好ましく、10秒〜2分であることがさらに好ましい。5分を超えてのアニールは生産性の観点から好ましくない。一方、アニール処理時間が1秒未満であると、アニール不足による結晶化度低下の問題を生ずることがある。
【0106】
上記のようにしてアニール処理された高分子圧電材料は、アニール処理した後に急冷することが好ましい。アニール処理において、「急冷する」とは、上述のシートを「急冷する」場合と同様である。
冷却の回数は、1回のみであっても、2回以上であってもよく、さらには、アニールと冷却とを交互に繰り返し行なうことも可能である。
【0107】
<高分子圧電材料の物性>
本実施形態に係る高分子圧電材料は、圧電性が高く耐湿熱性に優れる。
【0108】
〔圧電定数(変位法)〕
本実施形態において、高分子圧電材料の圧電定数(変位法)は、例えば次のようにして変位法により測定される値をいう。
【0109】
高分子圧電材料を、延伸方向(MD方向)に40mm、延伸方向に直交する方向(TD方向)に40mmでそれぞれカットして、矩形の試験片を作製する。次に、アルバック社製スパッタ薄膜形成装置JSP−8000の試験台に、得られた試験片をセットし、ロータリーポンプによりコータチャンバー内を真空状態(例えば、10−3Pa以下)にする。その後、Ag(銀)ターゲットに、印加電圧280V、スパッタリング電流0.4Aの条件で、試験片の一方の面に500秒間スパッタリング処理をする。次いで、試験片の他方の面を、同様の条件で500秒間スパッタリング処理をして、試験片の両面にAgを被覆し、Agの導電層を形成する。
【0110】
両面にAgの導電層が形成された40mm×40mmの試験片を、高分子圧電材料の延伸方向(MD方向)に対して45°なす方向に32mm、45°なす方向に直交する方向に5mmにカットして、32mm×5mmの矩形のフィルムを切り出す。これを、圧電定数測定用サンプルとした。
【0111】
得られたサンプルに、10Hz、300Vppの正弦波の交流電圧を印加したときの、フィルムの変位の最大値と最小値の差分距離を、キーエンス社製レーザ分光干渉型変位計SI−1000により計測した。計測した変位量(mp−p)を、フィルムの基準長30mmで割った値を歪量とし、この歪量をフィルムに印加した電界強度((印加電圧(V))/(フィルム厚))で割った値に2を乗じた値を圧電定数d14とした。
【0112】
圧電定数は高ければ高いほど、高分子圧電材料に印加される電圧に対する前記材料の変位、逆に高分子圧電材料に印加される力に対し発生する電圧が大きくなり、高分子圧電材料としては有用である。具体的には、25℃における変位法で測定した圧電定数d14は1pm/V以上が好ましく、4pm/V以上がより好ましく、6pm/V以上がさらに好ましく、8pm/V以上がさらにより好ましい。また圧電定数の上限は特に限定されないが、後述する透明性などのバランスの観点からは、脂肪族系ポリエステルを用いた圧電材料では50pm/V以下が好ましく、30pm/V以下がより好ましい場合がある。また同様に透明性とのバランスの観点からは以下に示す共振法で測定した圧電定数d14が15pC/N以下、さらに好ましくは10pC/N未満であることが好ましい場合がある。
【0113】
〔圧電定数(共振法)〕
本実施形態において、高分子圧電材料の圧電定数(共振法)は、例えば次のようにして共振法により測定される値をいう。
高分子圧電材料を、延伸方向(MD方向)に32mm、延伸方向に直交する方向(TD方向)に30mmにカットして、矩形の試験片を作製する。
サンユー電子社製クイックコータSC−701の試験台に、得られた試験片をセットし、ロータリーポンプによりコータチャンバー内を真空状態(例えば、10−3Pa以下)にする。その後、Au(金)ターゲット、スパッタリング電流4mAの条件で、試験片の一方の面に3分間スパッタリング処理をする。次いで、試験片の他方の面を、同様の条件で3分間スパッタリング処理をして、試験片の両面にAuを被覆し、Auの導電層を形成する。
【0114】
両面にAuの導電層が形成された32mm×30mmの試験片を、高分子圧電材料の延伸方向(MD方向)に10mm、延伸方向に直交する方向(TD方向)に9mmにカットして、矩形のフィルムを切り出す。これを、共振−反共振法測定用サンプルとする。
得られた共振−反共振法測定用サンプルについて、横河ヒューレットパッカード社製インピーダンスアナライザHP4194Aを用いて、50kHz〜100kHzの帯域に現れるインピーダンスの共振曲線を測定する。得られるインピーダンスの共振曲線及び比誘電率εから、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.37(1998)pp.3374−3376,part1,No.6A,June 1998に示されている方法に準じて圧電定数d14を算出する。
得られた圧電定数を、高分子圧電材料の圧電定数とする。
【0115】
なお、比誘電率εは、共振−反共振法測定用サンプルについて、ヒューレットパッカード社製LCRメータHP4284Aを用いて測定した静電容量C〔F〕から、下記式(A)により算出する。
【0116】
【数1】

【0117】
上記式(A)において、ε、C、d、ε、及びSは次のとおりである。
ε:共振−反共振法測定用サンプルの比誘電率
C:共振−反共振法測定用サンプルの静電容量〔F〕
d:共振−反共振法測定用サンプルの厚さ〔m〕
ε:真空の誘電率
S:共振−反共振法測定用サンプルの面積〔m
【0118】
〔結晶化度〕
高分子圧電材料の結晶化度は、DSC法によって求められるものであり、本実施形態の高分子圧電材料の結晶化度は20%〜80%であることが好ましく、より好ましくは25%〜70%、さらに好ましくは30%〜50%である。前記範囲に結晶化度があれば、高分子圧電材料の圧電性、透明性のバランスがよく、また高分子圧電材料を延伸するときに、白化や破断がおきにくく製造しやすい。
【0119】
〔透明性(内部ヘイズ)〕
高分子圧電材料の透明性は、例えば、目視観察やヘイズ測定により評価することができる。高分子圧電材料のヘイズは、可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。
ここで内部ヘイズは、厚さ0.05mmの高分子圧電材料に対して、JIS−K7105に準拠して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色製、TC−HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値であり、測定方法の詳細は実施例において後述する。高分子圧電材料のヘイズは、低ければ低いほどよいが、圧電定数などとのバランスの観点からは、0.01%〜13%であることが好ましく、0.1%〜5%であることがさらに好ましい。なお、本願でいう「ヘイズ」または「内部ヘイズ」とは、本発明の高分子圧電材料の内部へイズをいう。内部へイズとは、実施例において後述するように前記高分子圧電材料の外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズである。
【0120】
〔規格化分子配向MORc〕
本実施形態の高分子圧電材料は、規格化分子配向MORcが2.0〜15.0であることが好ましく、3.0〜10.0であることが好ましく、4.0〜8.0であることがより好ましい。規格化分子配向MORcが2.0〜15.0の範囲にあれば、延伸方向に配列する脂肪族系ポリエステルの分子鎖が多く、その結果、配向結晶の生成する率が高くなり、高い圧電性を発現することが可能となる。
【0121】
〔規格化分子配向MORcと結晶化度の積〕
高分子圧電材料の結晶化度と規格化分子配向MORcとの積は好ましくは40〜700、より好ましくは75〜680、さらに好ましくは90〜660、さらにより好ましくは125〜650、特に好ましくは150〜350である。高分子圧電材料の結晶化度と、規格化分子配向MORcとの積が40〜700の範囲にあれば、高分子圧電材料の圧電性と透明性とのバランスが良好であり、かつ寸法安定性も高く、後述する圧電素子として好適に用いることができる。
【0122】
本発明の高分子圧電材料は、スピーカー、ヘッドホン、タッチパネル、リモートコントローラー、マイクロホン、水中マイクロホン、超音波トランスデューサ、超音波応用計測器、圧電振動子、機械的フィルター、圧電トランス、遅延装置、センサー、加速度センサー、衝撃センサー、振動センサー、感圧センサー、触覚センサー、電界センサー、音圧センサー、ディスプレイ、ファン、ポンプ、可変焦点ミラー、遮音材料、防音材料、キーボード、音響機器、情報処理機、計測機器、医用機器などの種々の分野で利用することができる。
【0123】
このとき、本発明の高分子圧電材料は、少なくとも2つの面を有し、当該面には電極が備えられた圧電素子として用いられることが好ましい。電極は、高分子圧電材料の少なくとも2つの面に備えられていればよい。前記電極としては、特に制限されないが、例えば、ITO、ZnO、IZO(登録商標)、導電性ポリマー等が用いられる。
【0124】
また本発明の高分子圧電材料と電極を繰り返し重ねて積層圧電素子として用いることもできる。例としては電極と高分子圧電材料のユニットを繰り返し重ね、最後に電極で覆われていない高分子圧電材料の主面を電極で覆ったものが挙げられる。具体的にはユニットの繰り返しが2回のものは、電極、高分子圧電材料、電極、高分子圧電材料、電極をこの順で重ねた積層圧電素子である。積層圧電素子に用いられる高分子圧電材料はそのうち1層の高分子圧電材料が本発明の高分子圧電材料であればよく、その他の層は本発明の高分子圧電材料でなくてもよい。
また積層圧電素子に複数の本発明の高分子圧電材料が含まれる場合は、ある層の本発明の高分子圧電材料に含まれる脂肪族系ポリエステル(A)の光学活性がL体ならば、他の層の高分子圧電材料に含まれる脂肪族系ポリエステル(A)はL体であってもD体であってもよい。高分子圧電材料の配置は圧電素子の用途に応じて適宜調整することができる。
【0125】
例えば、L体の脂肪族系ポリエステル(A)を主たる成分として含む高分子圧電材料の第1の層が電極を介してL体の脂肪族系ポリエステル(A)を主たる成分として含む第2の高分子圧電材料と積層される場合は、第1の高分子圧電材料の一軸延伸方向(主たる延伸方向)を、第2の高分子圧電材料の一軸延伸方向(主たる延伸方向)と交差、好ましくは直交させると、第1の高分子圧電材料と第2の高分子圧電材料の変位の向きを揃えることができ、積層圧電素子全体としての圧電性が高まるので好ましい。
【0126】
一方、L体の脂肪族系ポリエステル(A)を主たる成分として含む高分子圧電材料の第1の層が電極を介してD体の脂肪族系ポリエステル(A)を主たる成分として含む第2の高分子圧電材料と積層される場合は、第1の高分子圧電材料の一軸延伸方向(主たる延伸方向)を、第2の高分子圧電材料の一軸延伸方向(主たる延伸方向)と略平行となるように配置すると第1の高分子圧電材料と第2の高分子圧電材料の変位の向きを揃えることができ、積層圧電素子全体としての圧電性が高まるので好ましい。
【0127】
特に高分子圧電材料の主面に電極を備える場合には、透明性のある電極を備えることが好ましい。ここで、電極について、透明性があるとは、具体的には、内部ヘイズが20%以下(全光線透過率が80%以上)であることをいう。
【0128】
本発明の高分子圧電材料を用いた前記圧電素子は、スピーカーやタッチパネル等、上述の種々の圧電デバイスに応用することができる。特に、透明性のある電極を備えた圧電素子は、スピーカー、タッチパネル、アクチュエータ等への応用に好適である。
【実施例】
【0129】
以下、本発明の実施形態を実施例により更に具体的に説明するが、本実施形態はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0130】
[実施例1]
三井化学(株)製ポリ乳酸系樹脂(登録商標LACEA、H−400(重量平均分子量Mw:20万)、融点166℃)100質量部に対して、安定化剤(B)〔カルボジイミド化合物〕としてカルボジライド(日清紡ケミカル株式会社、LA−1)を0.9質量部添加しドライブレンドし原料を作製した。原料を除湿乾燥機で120℃6時間乾燥した後、押出成形機ホッパーに入れて、220℃〜230℃に加熱しながらTダイから押し出し、50℃のキャストロールに18秒間接触させて、厚さ150μmの予備結晶化シートを製膜した(成形工程)。前記予備結晶化シートの結晶化度を測定したところ5.63%であった。
得られた予備結晶化シートを70℃に加熱しながらロールツーロールで、延伸倍率990mm/分で延伸を開始し、3.3倍までMD方向に一軸延伸した(延伸工程)。得られたフィルムの厚さは53μmであった。
その後、前記一軸延伸フィルムを、ロールツーロールで、130℃に加熱したロール上に78秒間接触させアニール処理した後、50℃に設定したロールで急冷し、高分子圧電材料を作製した(アニール工程)。
【0131】
[比較例1]
実施例1において、原料を除湿乾燥機で120℃6時間乾燥する工程を除いた以外は同様にして、比較例1の高分子圧電材料を作製した。
【0132】
表1に、実施例1及び比較例1に係る使用材料及び製造条件等についてまとめて示す。
【0133】
【表1】
【0134】
−水分量の測定−
カールフィッシャー微量水分計を用いて、JIS K0068−2001に基づき測定した。
【0135】
−樹脂(光学活性高分子)のL体量とD体量の測定−
50mLの三角フラスコに1.0gのサンプル(高分子圧電材料)を秤り込み、IPA(イソプロピルアルコール)2.5mLと、5.0mol/L水酸化ナトリウム溶液5mLとを加えた。次に、サンプル溶液が入った前記三角フラスコを、温度40℃の水浴に入れ、ポリ乳酸が完全に加水分解するまで、約5時間攪拌した。
【0136】
前記サンプル溶液を室温まで冷却後、1.0mol/L塩酸溶液を20mL加えて中和し、三角フラスコを密栓してよくかき混ぜた。サンプル溶液の1.0mLを25mLのメスフラスコに取り分け、移動相で25mLとしてHPLC試料溶液1を調製した。HPLC試料溶液1を、HPLC装置に5μL注入し、下記HPLC条件で、ポリ乳酸のD/L体ピーク面積を求め、L体の量とD体の量を算出した。
−HPLC測定条件−
・カラム
光学分割カラム、(株)住化分析センター製 SUMICHIRAL OA5000・測定装置
日本分光社製 液体クロマトグラフィ
・カラム温度
25℃
・移動相
1.0mM−硫酸銅(II)緩衝液/IPA=98/2(V/V)
硫酸銅(II)/IPA/水=156.4mg/20mL/980mL
・移動相流量
1.0ml/分
・検出器
紫外線検出器(UV254nm)
【0137】
<分子量分布>
ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、実施例および比較例の各高分子圧電材料に用いられる樹脂(光学活性高分子)の重量平均分子量Mw及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
−GPC測定方法−
・測定装置
Waters社製GPC−100
・カラム
昭和電工社製、Shodex LF−804
・サンプルの調製
実施例および比較例の各高分子圧電材料を、それぞれ40℃で溶媒〔クロロホルム〕へ溶解させ、濃度1mg/mlのサンプル溶液を準備した。
・測定条件
サンプル溶液0.1mlを溶媒(クロロホルム)、温度40℃、1ml/分の流速でカラムに導入し、カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定した。樹脂の分子量は、ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、各樹脂の重量平均分子量(Mw)を算出した。実施例、比較例で用いた樹脂について測定した結果を表1に示した。なお、表1において、「LA」はLACEA H−400を表す。またカルボジライトLA1の添加量は、LACEA H−400を100質量部としたときの質量部である。
【0138】
<物性測定および評価>
以上のようにして得られた実施例1及び比較例1の高分子圧電材料について、各高分子圧電材料の結晶化度、内部ヘイズ、圧電定数、規格化分子配向MORc、重量平均分子量Mw、耐湿熱性に係る信頼性を測定した。結果を表2に示す。なお、具体的には、次のようにして測定した。
【0139】
〔結晶化度〕
実施例および比較例の各高分子圧電材料を、それぞれ10mg正確に秤量し、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC−1)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定し、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線から結晶化度を得た。
【0140】
〔内部ヘイズ〕
本願でいう「ヘイズ」または「内部ヘイズ」とは本発明の高分子圧電材料の内部へイズのことをいい、測定方法は一般的な方法で測定される。具体的には、実施例および比較例の各高分子圧電材料の内部ヘイズ値は、下記測定条件下で下記装置を用いて、厚さ方向の光透過性を測定することにより、測定した。高分子圧電材料の内部ヘイズ(以下、内部ヘイズ(H1)ともいう)は、予めガラス板2枚の間に、シリコンオイル(信越化学工業株式会社製信越シリコーン(商標)、型番:KF96−100CS)のみを挟んでヘイズ(H2)を測定し、次にシリコンオイルで表面を均一に塗らしたフィルムを、ガラス板2枚で挟んでヘイズ(H3)を測定し、下記式のようにこれらの差をとることで高分子圧電材料の内部ヘイズ(H1)を得た。
内部ヘイズ(H1)=ヘイズ(H3)−ヘイズ(H2)
【0141】
実施例および比較例の各高分子圧電材料のヘイズ値を測定するためにヘイズ(H2)とヘイズ(H3)とを、下記測定条件下で下記装置を用いて、厚さ方向の光透過性を測定することにより、高分子圧電材料の内部ヘイズ(H1)を算出した。
測定装置:東京電色社製、HAZE METER TC−HIIIDPK
試料サイズ:幅30mm×長さ30mm、厚さ0.05mm
測定条件:JIS−K7105に準拠
測定温度:室温(25℃)
【0142】
〔圧電定数d14(変位法による)〕
両面にAgの導電層が形成された40mm×40mmの試験片を、高分子圧電材料の延伸方向(MD方向)に対して45°なす方向に32mm、45°なす方向に直交する方向に5mmにカットして、32mm×5mmの矩形のフィルムを切り出した。これを、圧電定数測定用サンプルとした。得られたサンプルに、10Hz、300Vppの正弦波の交流電圧を印加したときの、フィルムの変位の最大値と最小値の差分距離を、キーエンス社製レーザ分光干渉型変位計SI−1000により計測した。
【0143】
計測した、変位量(mp−p)を、フィルムの基準長30mmで割った値を歪量とし、この歪量をフィルムに印加した電界強度((印加電圧(V))/(フィルム厚))で割った値に2を乗じた値を圧電定数d14(pm/V)とした。
【0144】
〔規格化分子配向MORc〕
規格化分子配向MORcは、王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA6000により測定した。基準厚さtcは、50μmに設定した。
【0145】
〔信頼性試験〕
製造直後の高分子圧電材料を長手方向に50mm×幅方向に50mmの矩形にカットし試験片を作成した。試験片を、60℃ 95%RHに保った恒温恒湿器内に吊り下げた。前記恒温恒湿器内で所定の時間保持した後、試験片を取り出し、前述の「GPC測定方法」と同様にして分子量Mwを測定した。表2には、製造直後の試験片の分子量Mwに対する、400時間及び500時間、前記恒温恒湿器内に置いた後の試験片の分子量Mwの変化率を示す。
また、表2には、製造直後の試験片の圧電定数に対する、400時間及び500時間、前記恒温恒湿器内に置いた後の試験片の圧電定数の変化率を示す。
いずれの変化率も、小さいほど耐湿熱性に優れることを表す。
【0146】
【表2】
【0147】
表2から明らかなように、組成物中の水分量が本発明の範囲内である実施例1に係る高分子圧電材料は、組成物中の水分量が本発明の範囲外である比較例1に係る高分子圧電材料に比較して、圧電性が高い。さらに、信頼性試験において、実施例1に係る高分子圧電材料は、比較例1に係る高分子圧電材料に比較して、圧電定数の変化率及び分子量の変化率が小さいことから耐湿熱性に優れることがわかる。