(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6271138
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】制震装置
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20180122BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20180122BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
F16F15/04 D
F16F15/02 D
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-57562(P2013-57562)
(22)【出願日】2013年3月21日
(65)【公開番号】特開2014-181519(P2014-181519A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2016年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】平松 剛
【審査官】
兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−236584(JP,A)
【文献】
特開2005−282230(JP,A)
【文献】
特開2011−163020(JP,A)
【文献】
特開2002−235454(JP,A)
【文献】
特開2006−257674(JP,A)
【文献】
特開2009−250254(JP,A)
【文献】
特開2011−144556(JP,A)
【文献】
米国特許第04910929(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0138402(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00−9/02
F16F 15/00−15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物における震動で相対変位する一方および他方の部分にそれぞれ取付けられる第1および第2の躯体側部材と、
これら第1および第2の躯体側部材にそれぞれ設けられた複数の相対変位部材、並びにこれら複数の相対変位部材の間に介在して取付けられた粘弾性体を有し、この粘弾性体の変形により前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との相対変位を許容する粘弾性ダンパー機構と、
前記第1および第2の躯体側部材の間に設けられて互いに摩擦接触する複数の接触部材を有しこの接触部材間の最大静止摩擦力を超える外力が作用すると前記複数の接触部材の相対移動を許容し第1の躯体側部材と第2の躯体側部材の相対変位に対して前記粘弾性ダンパー機構の前記複数の相対変位部材の間の変位を緩和する摩擦ダンパー機構
とを備えた制震装置において、
前記粘弾性ダンパー機構の前記相対変位部材の相互の回転を抑制する回転抑制機構が設けられ、
この回転抑制機構が、前記粘弾性ダンパー機構における前記複数の相対変位部材のうちのいずれかに設けられて、前記複数の相対変位部材のうちの他の相対変位部材に係合する係合片であり、
前記複数の相対変位部材は、互いに隙間を介して対面し一端で互いに結合された一対の前後プレートと、これら前後プレートの前記隙間に介在した中央プレートとであり、この中央プレートの両面と前記両前後プレートとの隙間にそれぞれ介在して前記中央プレートと前記前後プレートとに固定された複数の粘弾性体とを有し、
前記係合片が、前記中央プレートに前記前後プレートの上縁に沿って設けられている、 制震装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制震装置において、前記係合片が、前記中央プレートに前記前後プレートの上縁に沿って複数設けられ、かつ前記係合片が切り起こし片である制震装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の制震装置において、
前記中央プレートおよび前記一対の前後プレートは、前記第1および第2の躯体側部材にそれぞれ摩擦接触してこれら中央プレートおよび前後プレートまたは第1および第2の躯体側部材に設けられた長孔に挿通されたボルトにより前記第1および第2の躯体側部材に結合され、
前記中央プレートおよび前記一対の前後プレートが、前記摩擦ダンパー機構における前記接触部材と前記粘弾性ダンパー機構における前記相対変位部材とを兼ね、
前記回転抑制機構は、前記中央プレートに設けられて前記前後プレートに係合する係合片により構成される、
制震装置。
【請求項4】
建物における震動で相対変位する一方および他方の部分にそれぞれ取付けられる第1および第2の躯体側部材と、
これら第1および第2の躯体側部材にそれぞれ設けられた複数の相対変位部材、並びにこれら複数の相対変位部材の間に介在して取付けられた粘弾性体を有し、この粘弾性体の変形により前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との相対変位を許容する粘弾性ダンパー機構と、
前記第1および第2の躯体側部材の間に設けられて互いに摩擦接触する複数の接触部材を有しこの接触部材間の最大静止摩擦力を超える外力が作用すると前記複数の接触部材の相対移動を許容し第1の躯体側部材と第2の躯体側部材の相対変位に対して前記粘弾性ダンパー機構の前記複数の相対変位部材の間の変位を緩和する摩擦ダンパー機構
とを備えた制震装置において、
前記粘弾性ダンパー機構の前記相対変位部材の相互の回転を抑制する回転抑制機構が設けられ、
この回転抑制機構が、前記第1または第2の躯体側部材に設けられて前記粘弾性ダンパー機構におけるいずれかの相対変位部材に係合する係合片であり、
前記複数の相対変位部材は、互いに隙間を介して対面し一端で互いに結合された一対の前後プレートと、これら前後プレートの前記隙間に介在した中央プレートとであり、この中央プレートの両面と前記両前後プレートとの隙間にそれぞれ介在して前記中央プレートと前記前後プレートとに固定された複数の粘弾性体とを有し、
前記係合片が、前記第1の躯体側部材および第2の躯体側部材に設けられ、前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との相対的な回転により前記中央プレートの上縁および前記前後プレートの下縁に接触可能である、
制震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、住宅等の建物に適用され地震等の外力による震動を減衰させる制震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の柱と横架材とで構成される軸組フレーム内に設ける制震装置として、粘弾性ダンパーが一般的に用いられている。しかし、粘弾性ダンパーで吸収できるエネルギーを超えた負荷が加わると、粘弾性ダンパーが損傷する恐れがある。このような問題を解消するものとして、摩擦接触により制震機能を果たす摩擦ダンパーを粘弾性ダンパーと併用し、過大な負荷が作用した場合に摩擦ダンパーを機能させ、粘弾性ダンパーを保護するハイブリット構造のものが提案されている(例えば、特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4245258号公報
【特許文献2】特開2012−13215号公報
【特許文献3】特開2006−257674号公報
【特許文献4】特開2009−250354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のハイブリット構造の制震装置は、粘弾性ダンパーにおける粘弾性体にねじりを与える力が作用し、粘弾性体を損傷させるという問題点がある。
【0005】
この発明の目的は、小変形時から大変形時まで安定した減衰効果を発揮でき、かつ粘弾性体にねじりが生じて損傷することが防止できるハイブリット構造の制震装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の制震装置は、建物における震動で相対変位する一方および他方の部分にそれぞれ取付けられる第1および第2の躯体側部材と、
これら第1および第2の躯体側部材にそれぞれ設けられた複数の相対変位部材、並びにこれら複数の相対変位部材の間に介在して取付けられた粘弾性体を有し、この粘弾性体の変形により前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との相対変位を許容する粘弾性ダンパー機構と、
前記第1および第2の躯体側部材の間に設けられて互いに摩擦接触する複数の接触部材を有しこの接触部材間の最大静止摩擦力を超える外力が作用すると前記複数の接触部材の相対移動を許容し第1の躯体側部材と第2の躯体側部材の相対変位に対して前記粘弾性ダンパー機構の前記複数の相対変位部材の間の変位を緩和する摩擦ダンパー機構
とを備えた制震装置において、
前記粘弾性ダンパー機構の前記相対変位部材の相互の回転を抑制する回転抑制機構
が設けられている。
【0007】
この構成によると、常時は、地震等により建物が変形して第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との間に外力が作用したときに、前記粘弾性ダンパー機構の前記粘弾性体がせん断変形することで震動エネルギーを吸収し、制震効果を発揮する。すなわち、前記摩擦ダンパー機構は、接触部材間の最大静止摩擦力を超える外力が作用するまでは、接触部材間に相対的な動作は生じない。そのため、第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との間に外力が作用すると、第1の躯体側部材と、第2の躯体側部材とにそれぞれ設けられた相対変位部材の間に介在した粘弾性体にその外力が伝わり、粘弾性体がせん断変形することで、第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との相対移動を許容する。この粘弾性体のせん断変形により、粘弾性ダンパーとして機能し、震動エネルギーが吸収される。なお、第1および第2の躯体側部材は、地震等により作用する水平方向力等の主な外力が前記粘弾性体にせん断力して伝わるように取付けておく。建物の通常の地震等による小変形時は、この粘弾性体のせん断変形で吸収される。
【0008】
建物の変形が大きくなったり,応答速度が大きくなることで粘弾性体の抵抗力が摩擦ダンパー機構の接触部材間の静止摩擦力を超えることにより、互いに摩擦接触する接触部材間に相対移動が生じる。これにより前記粘弾性体に過大な変形が作用することが回避され、過大な変形による粘弾性体の損傷が保護されると共に、摩擦接触しながらの相対移動により摩擦減衰作用が生じる。すなわち摩擦ダンパーとして機能する。
このように粘弾性ダンパー機構と摩擦ダンパー機構とを併用したため、小変形時から大変形時まで安定した減衰効果を発揮できる。
【0009】
また、地震動によっては、第1の躯体側部材と第2の躯体側部材の間に、相互に傾斜させる動作、つまり相対的な回転を生じる力が作用することがある。この回転動作が前記粘弾性部材に作用すると、粘弾性部材にねじりを与える力が作用し、粘弾性体を損傷させる恐れがある。これにつき、この発明は、前記粘弾性ダンパー機構の前記相対変位部材の相互の回転を抑制する回転抑制機構を設けたため、第1の躯体側部材と第2の躯体側部材の間に相互に傾斜させる動作が生じても、粘弾性部材にねじりを与える力が作用することが抑制され、粘弾性部材のねじれによる損傷が防止される。
【0010】
この発明において、前記回転抑制機構
は、前記粘弾性ダンパー機構における前記複数の相対変位部材のうちのいずれかに設けられて、前記複数の相対変位部材のうちの他の相対変位部材に係合する係合片、または前記第1または第2の躯体側部材に設けられて前記粘弾性ダンパー機構におけるいずれかの相対変位部材に係合する係合片
である。前記係合片は、第1または第2の躯体側部材に取付けたものであっても、第1または第2の躯体側部材に形成した切り起こし片等の曲げ片であっても良い。
このように回転抑制機構を係合片とした場合、簡単な構成で、粘弾性部材にねじりを与える力が作用することを防止できる。
【0011】
この発明の制震装置において、前記複数の相対変位部材は、互いに隙間を介して対面し一端で互いに結合された一対の前後プレートと、これら前後プレートの前記隙間に介在した中央プレートとであり、この中央プレートの両面と前記両前後プレートとの隙間にそれぞれ介在して前記中央プレートと前記前後プレートとに固定された複数の粘弾性体とを有
している。
前記回転抑制機構が,前記粘弾性ダンパー機構における前記複数の相対変位部材のうちのいずれかに設けられて、前記複数の相対変位部材のうちの他の相対変位部材に係合する係合片である場合、前記係合片は、前記中央プレートに前記前後プレートの上縁に沿って設けら
れる。
この
構成の場合に、前記中央プレートおよび前記一対の前後プレートは、前記第1および第2の躯体側部材にそれぞれ摩擦接触してこれら中央プレートおよび前後プレートまたは第1および第2の躯体側部材に設けられた長孔に挿通されたボルトにより前記第1および第2の躯体側部材に結合され、
前記中央プレートおよび前記一対の前後プレートが前記摩擦ダンパー機構における前記接触部材と前記粘弾性ダンパー機構における前記相対変位部材とを兼ね
る。
前記回転抑制機構が、前記第1または第2の躯体側部材に設けられて前記粘弾性ダンパー機構におけるいずれかの相対変位部材に係合する係合片である場合、前記係合片は、前記第1の躯体側部材および第2の躯体側部材に設けられ、前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との相対的な回転により前記中央プレートの上縁および前記前後プレートの下縁に接触可能とされる。
【0012】
この構成の場合、粘弾性ダンパー機構が、摩擦ダンパー機構を介して躯体側部材に取付られることになり、摩擦ダンパー機構による粘弾性ダンパー機構の保護が行い易い。またこの構成の場合、回転抑制機構を係合片としたため、簡単な構成で、粘弾性部材にねじりを与える力が作用することを防止できる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の制震装置は、建物における震動で相対変位する一方および他方の部分にそれぞれ取付けられる第1および第2の躯体側部材と、これら第1および第2の躯体側部材にそれぞれ設けられた複数の相対変位部材、並びにこれら複数の相対変位部材の間に介在して取付けられた粘弾性体を有し、この粘弾性体の変形により前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との相対変位を許容する粘弾性ダンパー機構と、前記第1および第2の躯体側部材の間に設けられて互いに摩擦接触する複数の接触部材を有しこの接触部材間の最大静止摩擦力を超える外力が作用すると前記複数の接触部材の相対移動を許容し第1の躯体側部材と第2の躯体側部材の相対変位に対して前記粘弾性ダンパー機構の前記複数の相対変位部材の間の変位を緩和する摩擦ダンパー機構とを備えた制震装置において、前記粘弾性ダンパー機構の前記相対変位部材の相互の回転を抑制する回転抑制機構が設けられ、この回転抑制機構が、前記粘弾性ダンパー機構における前記複数の相対変位部材のうちのいずれかに設けられて、前記複数の相対変位部材のうちの他の相対変位部材に係合する係合片であり、前記複数の相対変位部材は、互いに隙間を介して対面し一端で互いに結合された一対の前後プレートと、これら前後プレートの前記隙間に介在した中央プレートとであり、この中央プレートの両面と前記両前後プレートとの隙間にそれぞれ介在して前記中央プレートと前記前後プレートとに固定された複数の粘弾性体とを有し、前記係合片が、前記中央プレートに前記前後プレートの上縁に沿って設けられているため、小変形時から大変形時まで安定した減衰効果を発揮でき、かつ粘弾性体にねじりが生じて損傷することが防止できる。
この発明の他の制震装置は、建物における震動で相対変位する一方および他方の部分にそれぞれ取付けられる第1および第2の躯体側部材と、これら第1および第2の躯体側部材にそれぞれ設けられた複数の相対変位部材、並びにこれら複数の相対変位部材の間に介在して取付けられた粘弾性体を有し、この粘弾性体の変形により前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との相対変位を許容する粘弾性ダンパー機構と、前記第1および第2の躯体側部材の間に設けられて互いに摩擦接触する複数の接触部材を有しこの接触部材間の最大静止摩擦力を超える外力が作用すると前記複数の接触部材の相対移動を許容し第1の躯体側部材と第2の躯体側部材の相対変位に対して前記粘弾性ダンパー機構の前記複数の相対変位部材の間の変位を緩和する摩擦ダンパー機構とを備えた制震装置において、前記粘弾性ダンパー機構の前記相対変位部材の相互の回転を抑制する回転抑制機構が設けられ、この回転抑制機構が、前記第1または第2の躯体側部材に設けられて前記粘弾性ダンパー機構におけるいずれかの相対変位部材に係合する係合片であり、前記複数の相対変位部材は、互いに隙間を介して対面し一端で互いに結合された一対の前後プレートと、これら前後プレートの前記隙間に介在した中央プレートとであり、この中央プレートの両面と前記両前後プレートとの隙間にそれぞれ介在して前記中央プレートと前記前後プレートとに固定された複数の粘弾性体とを有し、前記係合片が、前記第1の躯体側部材および第2の躯体側部材に設けられ、前記第1の躯体側部材と第2の躯体側部材との相対的な回転により前記中央プレートの上縁および前記前後プレートの下縁に接触可能であるため、小変形時から大変形時まで安定した減衰効果を発揮でき、かつ粘弾性体にねじりが生じて損傷することが防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の第1実施形態の制震装置を示すもので、図(イ)は正面図、図(ロ)は側面図である。
【
図2】図(イ)は粘弾性ダンパー機構を示す正面図、図(ロ)は粘弾性ダンパー機構と躯体側部材とを分離状態にして示す側面図である。
【
図3】同制震装置の大変位時の作動状態を示す正面図である。
【
図4】同制震装置の傾き時の作動状態を示す正面図である。
【
図5】制震装置が適用された制震パネルの正面図である。
【
図6】同制震フレームのせん断変形および曲げ変形の説明図である。
【
図7】同制震フレームの最大変形を示す説明図である。
【
図8】他の実施形態を示すもので、図(イ)は正面図、図(ロ)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の第1の実施形態を
図1ないし
図4と共に説明する。この制震装置1は、住宅等の建物に用いられて地震等の外力による震動を減衰させる装置であって、
図5に示すような建物用の制震パネル2用の制震装置として構成した場合のものである。制震パネル2は、階上側に一体化され、階上側から階下側に垂れ下がる上剛体3と、階下側に一体化され、階下側から階上側に立ち上がる下剛体4とを備え、パネル2の高さ方向の中間部位置において上剛体3の下端部と下剛体4の上端部とを制震装置1を介して連結したものである。震動によって建物に層間変位を生じると、上下の剛体3,4が左右方向に相対変位をして制震装置1がエネルギーを吸収し、制震作用を行うようになされている。前記上下の剛体3,4が、請求項1で言う「建物における震動で相対変位する一方および他方の部分」である。
【0016】
制震装置1は、
図1及び
図2に示すように、中央プレート5と一対の前後プレート6,6が面部を向き合わせるように前後方向に配列されると共に、これら中央プレート5と前後プレート6,6間に粘弾性体7,7が接着状態に介在している。一対の前後プレート6,6は、下端で互いに一体化されている。これら中央プレート5、前後プレート6,6、および粘弾性体7,7により、粘弾性ダンパー機構Aが構成される。中央プレート5と前後の第1プレート6,6とが左右方向に相対変位を行うと、各粘弾性体7,7がせん断変形をしてエネルギーを吸収する。前記中央プレート5および前後プレート6,6は、請求項で言う「相対変位部材」である。
【0017】
摩擦ダンパー機構Bは、次のように構成される。前記粘弾性ダンパー機構Aの中央プレート5に対応して、プレートからなる第1の躯体側部材8が備えられ、この躯体側部材8は、溶接などにより上剛体3に一体的に取り付けられている。
また、粘弾性ダンパー機構Aの前後プレート6,6に対応して、プレートからなる第2の躯体側部材9が備えられ、この躯体側部材が溶接などにより下剛体4に一体的に取り付けられている。
【0018】
前記中央プレート5および前後プレート6,6は、前述のように粘弾性ダンパー機構Aにおける相対変位部材となるが、これら中央プレート5および前後プレート6,6は、摩擦ダンパー機構Bにおける、第1,第2の躯体側部材8,9にそれぞれ摩擦接触する接触部材を兼ねる。また、第1,第2の躯体側部材8,9は、中央プレート5および前後プレート6,6に摩擦接触する相手側の接触部材となる。
【0019】
中央プレート5と第1の躯体側部材8とは重なり状態にされ、この重なり部分において、中央プレート5には、左右方向に延びる貫通した複数の長孔10,10が設けられると共に、第1の躯体側部材8には複数のボルト11,11が溶接などで一体化されて設けられ、各ボルト11の軸部11aは、長孔10に通され、各軸部11aには抜止め用のナット12が螺合されている。ナット12は、軸部11aが長孔10から抜け出てしまうのを阻止するもので、中央第1プレート5と第1の躯体側部材8とを摩擦接合状態にしているものではない。
【0020】
前後プレート6,6と第2の躯体側部材9についても、重なり状態にされ、この重なり部分において、前後プレート6,6には、左右方向に延びる貫通した複数の長孔10,10が設けられると共に、第2の躯体側部材9には複数のボルト11,11が溶接などで一体化されて設けられ、各ボルト11の軸部11aは、長孔10に通され、各軸部11aには抜止め用のナット12が螺合されている。このナット12も、軸部11aが長孔10から抜け出てしまうのを阻止するもので、前後の第1プレート5と第2の躯体側部材9とを摩擦接合状態にしているものではない。
【0021】
回転抑制機構15につき説明する。中央プレート5には、前後プレート6の上縁に沿って左右方向に並ぶ複数の係合片15aが設けられている。これら係合片15aは、前後プレート6の上方に僅かな隙間を介して設けられていて、中央プレート5と前後プレート6とが相対回転すると、前後プレート6の上縁に係合してこの相対回転を抑制する回転抑制機構15を構成する。係合片15aは、一つとして前後プレート6の上縁に沿って左右方向に延びるように設けても良い。これら係合片15aは、中央プレート5に設けられた切り起こし片であっても良く、また中央プレート5に断面L形部材の折り曲げ板(図示せず)を固定してその立ち片部分を前記係合片15aとしても良い。
【0022】
この構成によると、常時は、地震等により建物が変形して第1の躯体側部材8と第2の躯体側部材9との間に左右方向の外力が作用したときに、前記粘弾性ダンパー機構Aの粘弾性体5がせん断変形することで震動エネルギーを吸収し、制震効果を発揮する。すなわち、摩擦ダンパー機構Bは、それぞれ接触部材である中央プレート5と第1の躯体側部材8間、および前後プレート6と第2の躯体側部材9間の最大静止摩擦力を超える外力が作用するまでは、接触部材間に相対的な動作は生じない。そのため、第1の躯体側部材8と第2の躯体側部材9との間に外力が作用すると、第1の躯体側部材8と第2の躯体側部材9とにそれぞれ摩擦接触で保持された中央プレート5と前後プレート6間に介在する粘弾性体7にその外力が伝わり、粘弾性体7がせん断変形することで、第1の躯体側部材8と第2の躯体側部材9との相対移動を許容する。この粘弾性体7のせん断変形により、粘弾性ダンパーAとして機能し、震動エネルギーが吸収される。建物の通常の地震等による小変形時は、この粘弾性体7のせん断変形で吸収される。
【0023】
建物の変形が大きくなったり,応答速度が大きくなって粘弾性体7の抵抗力が摩擦ダンパー機構Aの接触部材間の静止摩擦力を超えると、互いに摩擦接触する接触部材間、つまり中央プレート5と第1の躯体側部材8間、および前後プレート6と第2の躯体側部材9間に
図3のように相対移動が生じる。なお、この相対移動は、ボルト11の軸部11aが長孔10内を移動可能な構成により許容されている。これにより粘弾性体7に過大な変形が作用することが回避され、過大な変形による粘弾性体7の損傷が保護されると共に、摩擦接触しながらの相対移動により摩擦減衰作用が生じる。すなわち摩擦ダンパーBとして機能する。そのため、小変形時から大変形時まで安定した減衰効果を発揮できる。
【0024】
地震動によっては、第1の躯体側部材8と第2の躯体側部材9の間に、相互に傾斜させる動作、つまり相対的な回転を生じる力が作用することがある。この回転動作がそのまま前記粘弾性体7に作用すると、粘弾性体7にねじりを与える力が作用し、粘弾性体7を損傷させる恐れがある。その損傷防止が回転抑制機構15により行われる。すなわち、粘弾性ダンパーAの相対変位部材である中央プレート5と前後プレート6とに相対的な傾きが生じると、
図4に示すように、中央プレート5の係合片15に前後プレート6の上縁が係合し、中央プレート5と前後プレート6との相対的な傾きが阻止される。このため、粘弾性体7にねじりを与える力が作用することが抑制され、粘弾性体7のねじれによる損傷が防止される。また、そのため粘弾性体6に原点回帰性を持たせることができる。
【0025】
上記の相対的な回転を生じる力が作用する理由を説明する。上記構成の制震フレーム2に地震等の外力が加わったときの変形を
図6に示す。
図6(A)に示す制震フレーム2に外力が加わったときの変形は、
図6(B)に示すせん断変形だけでなく、
図6(C)に示すように曲げ変形が加わった混成の変形となる。例えば、せん断変形時の上部での水平方向への変形量δ1 は、曲げ変形時の上部での水平方向への変形量δ2 とは異なる。また、制震フレーム20の大変形時には、
図7に示すように水平方向の変形量δ3 だけでなく、上下方向の変形量ho も大きくなる。なお、この場合の上下方向の変形量ho は、制震フレーム20の高さをHP 、最大層間変形角をθとしたとき、次式
ho =HP (1−cosθ)………(1)
で与えられる。
【0026】
このように生じる第1の躯体側部材8と第2の躯体側部材9の間の相対的な傾きによる粘弾性体7のねじり変形が上記のように緩和され、粘弾性体7のねじれによる損傷が防止される。
【0027】
図8は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、
図1〜
図4に示す第1の実施形態において、回転抑制機構15を構成する係合片15aを、第1の躯体側部材8および第2の躯体側部材9に設け、中央プレート5の上縁および前後プレート6,6の下縁に接するように配置している。具体的には、係合片15aは、中央プレート5の上縁および前後プレート6,6の下縁に対して僅かな隙間を介して配置され、第1の躯体側部材8と第2の躯体側部材9との間に相対的な回転が生じると、上下の係合片15aと中央プレート5の上縁および前後プレート6,6の下縁とがそれぞれ接するように設けている。中央プレート5および前後プレート6,6に設ける長孔10は、幅方向の1箇所としている。その他の構成は、
図1〜
図4に示す第1の実施形態と同様である。
【0028】
この構成の場合、地震動によって第1の躯体側部材8と第2の躯体側部材9の間に相対的な回転を生じさせる力が作用した場合、上下の係合片15aが中央プレート5の上縁および前後プレート6の下縁とそれぞれ接することで、中央プレート5の回転と前後プレート6の回転が阻止される。これら中央プレート5と前後プレート6のいずれもが回転阻止されることで、中央プレート5と前後プレート6との相対回転が阻止され、粘弾性体7にねじり変形が生じることが防止され、粘弾性体7のねじれによる損傷が防止される。
【0029】
なお、上記各実施形態では、粘弾性ダンパー機構Aを中央プレートと前後プレートとで構成したが、この発明は、図示の粘弾性ダンパー機構Aや摩擦ダンパー機構Bに限らず、種々の構成の粘弾性ダンパー機構および摩擦ダンパー機構を併用した制震装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1…制震装置
2…制震パネル
3…上剛体(一方の部材)
4…下剛体(他方の部材)
5…中央プレート(相対変位部材)(接触部材)
6…前後プレート(相対変位部材)(接触部材)
7…粘弾性体
8…第1の躯体側部材(接触部材)
9…第2の躯体側部材(接触部材)
10…長孔
11…ボルト
11a…軸部
15…回転抑制機構
15a…係合片
A…粘弾性ダンパー機構
B…摩擦ダンパー機構