【実施例】
【0046】
原料粉末の種類(組成、粒度等)、配合組成、成形条件、焼結条件、熱処理条件(冷却速度等)等を種々変更した多数の試料(鉄基焼結材)を製作すると共に、各試料の測定、組織観察および評価を行った。こうして得られた多くの知見に基づいて、以下、本発明をより具体的に説明する。
【0047】
《試料の製造》
(1)原料粉末
原料粉末として、ベース鉄粉と、炭素源粉末である黒鉛(Gr)粉(日本黒鉛社製天然黒鉛J−CPB/平均粒径:5μm)と、強化粉末であるCr系鉄粉およびFeMSC粉とを用意した。
【0048】
ベース鉄粉には、表1に示すように、純鉄粉と、Mo量の異なる4種のFe−Mo粉(Mo系鉄粉)と、CrとMoを含有したFe−Cr−Mo粉とを用意した。各ベース鉄粉は、いずれも、目開き150μmの篩いを用いて粒度:150μm以下(適宜「−150μm」と表す。)に分級して用いた。
【0049】
Cr系鉄粉には、表2に示すように、Cr量または平均粒径の異なる7種のFe−Cr粉(Cr系鉄粉)を用意した。FeMSC粉には、Fe−69%Mn−20%Si−1.1%Cの合金(化合物)を粉砕して分級したもの(平均粒径:1μm)を用意した。なお、本明細書では、特に断らない限り、組成に関する「%」は質量%を意味し、平均粒径は上述したようにして求めた。
【0050】
(2)混合粉末
表3Aと表3B(適宜、両者を併せて「表3」という。)に示す割合(配合量)で各原料粉末を秤量し、それをボールミルで30分間回転混合して均一な混合粉末を調製した(混合工程)。
【0051】
(3)成形工程
キャビティ形状の異なる3種の金型を用意して、前述した金型潤滑温間加圧成形法により各混合粉末を加圧成形した。この際、金型はバンドヒータにより150℃(成形温度)に加熱した。この加熱した金型の内周面には、水に分散させた1%の溶液ステアリン酸リチウム(LiSt)溶液(高級脂肪酸系潤滑剤)を塗布した。成形圧力は表3に示すように392〜980MPaの範囲で調整した。その他、金型潤滑温間加圧成形法に関しては、特許3309970号公報等の記載を参照にした。
【0052】
こうして、円柱状の計測用試験片(φ23×10mm)、
図1に示す平板状の引張試験片(概形55×20×3mm)および角柱状のシャルピー衝撃試験片(10×10×55mm、ノッチ無し)となる3種の成形体を得た。
【0053】
(4)焼結工程
バッチ式焼結炉(島津メクテム株式会社製PVSGgr20/20)を用いて、100%窒素ガス雰囲気中で各成形体を焼結した。焼結温度は表3に示すように1100〜1250℃の範囲で調整した。その焼結温度を保持する均熱保持時間は30分間とした。
【0054】
この焼結に続けて加熱状態の焼結体を、炉冷による徐冷または冷却ファンを用いた強制冷却により急冷した。表3に示す焼結後の900℃から300℃までの平均冷却速度は、炉冷が5℃/分(0.083℃/秒)、急冷が50℃/分(0.83℃/秒)または100℃/分(1.66℃/秒)であった(冷却工程)。
【0055】
(5)焼戻工程
冷却後の各焼結体を、再度、大気雰囲気中で200℃×60分間加熱して、低温焼戻しを行った。
【0056】
《測定・観察》
(1)密度、密度変化、寸法変化、
各試料に係る計測用試験片を用いて、焼結前後の寸法および重量を測定し、成形体の密度(G.D.)、焼結体の(嵩)密度(S.D.)、焼結前後の密度変化率(Δρ)、焼結前後の寸法変化率(ΔD)を算出した。なお、変化率は、焼結後の数値から焼結前の数値値を引いた差分を、焼結前の数値で除して求めた。こうして得られた結果を表4Aと表4B(適宜、両者を併せて「表4」という。)にまとめて示した。
【0057】
(2)引張強さ、破断伸び、硬さおよび衝撃値
各試料に係る焼結後の引張試験片を用いて、オートグラフ(株式会社島津製作所)で引張試験を行い、各試験片が破断するまでの強度(引張強さ)と伸びを測定した。このときの試験速度は1.2mm/minとした。また、各引張試験片のチャック部のビッカース硬さを30kgfで測定した。さらに、各試料に係る焼結後のシャルピー衝撃試験片を用いて、シャルピー衝撃試験機(30kg・m)により各試験片の衝撃値を測定した。こうして得られた結果を表4にまとめて示した。
【0058】
(3)組織観察
各試料の金属組織を、光学顕微鏡を用いて400倍で観察した。各金属組織中にあるマルテンサイト相の割合(マルテンサイト面積率)は,画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社製A像君)を用いて算出した。得られた結果を表4に併せて示した。なお、各試料の金属組織の観察には、上述した衝撃試験片から採取した切断片を樹脂に埋め込み、その表面を鏡面研磨後、3%ナイタールで数十秒間腐食させて得られた標本を用いた。
【0059】
《評価》
表3および表4に示すように、各試料の製造条件と特性を試料群1〜9に分類して整理した。これら各試料群ごとに、各試料の特徴を以下に説明する。
【0060】
[試料群1](Fe−Cr粉の影響)
(1)Cr量の影響
原料粉末の配合組成を、Cr量の異なるFe−Cr粉:2%または0%(無配合)、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉(ベース鉄粉)とした各試料について、引張強さとシャルピー衝撃値(単に「衝撃値」ともいう。)をそれぞれ
図2Aと
図2Bに示した。
【0061】
先ず
図2Aからわかるように、引張強さは、Fe−Cr粉中のCr量が3%から13%へ変化するとき(鉄基焼結材全体(単に「試料全体」という。)ではCr量が0.06%から0.26%へ変化するとき)に大きく増加して1000MPaを超えている。次に
図2Bからわかるように、衝撃値はあまり変化せず、いずれの試料でも50J/cm
2超という著しく高くなった。
【0062】
これら各試料の金属組織を
図3に示した。いずれの金属組織も、微細なベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が島状に分散した島状複合組織を示すことがわかった。このような金属組織が、各試料の高靱性化に大きく寄与していると考えられる。なお、
図3および表4に示したマルテンサイト面積率からわかるように、Fe−Cr粉中のCr量が3%から13%へ変化するとき、ベイナイト相が減少してマルテンサイト相が大幅に増加している。このような金属組織の変化が、強度向上に影響していると考えられる。
【0063】
(2)FeMSC粉とFe−Cr粉の相関
FeMSC粉を無配合または1%配合とし、Fe−Cr粉の種類と配合量を変化させた各試料について、引張強さを
図4A(FeMSC粉:0%)および
図4B(FeMSC粉:1%)に、衝撃値を
図5A(FeMSC粉:0%)および
図5B(FeMSC粉:1%)にそれぞれ示した。なお、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉(ベース鉄粉)は前述した場合と同様である。
【0064】
先ず、
図4Aおよび
図4Bから、いずれのFe−Cr粉を用いても、その配合量の増加と共に引張強さも増加する傾向を示すことがわかった。但し、FeMSC粉を1%含む場合、
図4Bからわかるように、Fe−13%Cr粉またはFe−18%Cr粉の配合量が4〜6%(試料全体ではいうとCr:0.5%〜1.1%)となるとき、引張強さはピークを示した。
【0065】
次に、
図5Aおよび
図5Bから、FeMSC粉の配合の有無やFe−Cr粉の組成に拘わらず、Fe−Cr粉を1〜2%配合した試料(試料全体でいうとCr:0.03%〜0.4%の試料)で衝撃値はピークを示した。なお、強化粉末としてFe−3%Cr粉を用いた場合、配合量の増加と共に引張強さは直線的に増加して高強度化し、衝撃値は殆ど低下せずに高靱性を維持した状態となることがわかった。特にFeMSC粉が配合されると、高強度化と高靱性化が高次元で両立されることがわかる。
【0066】
さらに、FeMSC粉を無配合または1%配合したときに、Fe−13%Cr粉の配合量を変化させた各試料の金属組織を、
図6A(FeMSC粉:0%)および
図6B(FeMSC粉:1%)にそれぞれ示した。FeMSC粉が無配合の場合、Fe−13%Cr粉の配合量が0%であると(つまり強化粉末が無配合のとき)、金属組織はベイナイト単相となり、マルテンサイト相は認められなかった。但し、Fe−13%Cr粉の配合量の増加と共に、ベイナイト相(基地)の微細化とマルテンサイト相の増加が進行する傾向が観られた。
【0067】
逆にFeMSC粉を1%配合したとき、Fe−13%Cr粉の配合量が0%でも、島状複合組織が観察された。この島状複合組織は、Fe−13%Cr粉の配合量の増加と共に、微細なベイナイト相が減少してマルテンサイト相が増加する傾向となった。なお、Fe−13%Cr粉の配合量が5%(試料全体でいうとCr:0.65%)以上になると、ベイナイト相が島状化し、マルテンサイト相がネットワーク化したネットワーク状複合組織が生じた。
【0068】
[試料群2](ベース鉄粉中のMo量の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:ベース鉄粉とした各試料について、引張強さと衝撃値をそれぞれ
図7Aと
図7Bに示した。
【0069】
先ず
図7Aからわかるように、引張強さは、ベース鉄粉中のMo量が増加するほど大きくなり、Fe−0.85%Mo粉を用いたとき(試料全体でいうとMo:0.8%となるとき)に引張強さが1000MPa超となった。次に
図7Bからわかるように、衝撃値は、Fe−0.5%Mo粉またはFe−0.85%Mo粉をベース鉄粉としたときにピークとなった。具体的にいうと、それらのとき、純鉄粉をベース鉄粉としたときと同様に衝撃値が50J/cm
2超となり靱性が著しく高くなった。
【0070】
これら各試料の金属組織を
図8に示した。ベース鉄粉が純鉄粉のとき(Moを含まないとき)、微細パーライトと少量のフェライトからなる複合組織となった。Mo量の増加と共にベイナイト相(基地)の微細化とマルテンサイト相の増加が進行する傾向が観られた。そしてベース鉄粉中のMo量が0.85%までのときは微細なベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が島状に分散した島状複合組織が観察された。しかし、ベース鉄粉中のMo量が1.5%になると、逆にベイナイト相が島状化し、マルテンサイト相がネットワーク化したネットワーク状複合組織が観察されるようになった。
図7Bからわかるように、Fe−1.5%Mo粉をベース鉄粉としたときに衝撃値が急減しているのは、このような組織変化が生じたためと考えられる。
【0071】
[試料群3](ベース鉄粉中のCr量の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:0%(無配合)または2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉またはFe−1.5%Cr−0.2%Mo粉とした各試料について、引張強さと衝撃値をそれぞれ
図9Aと
図9Bに示した。
【0072】
図9AからCrを含有したベース鉄粉を用いることにより引張強さが向上する一方、
図9BからCrを含有したベース鉄粉を用いることにより衝撃値が30J/cm
2 以下に急減することがわかる。なお、両図から、それらの傾向はFe−Cr粉の配合の有無とはあまり関係がないこともわかる。
【0073】
それら各試料の金属組織を
図10に示した。いずれの金属組織も、微細なベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が島状に分散した島状複合組織を示した。
図9Bと
図10の比較から、微細なベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が島状に分散した島状複合組織が得られる場合でも、ベース鉄粉の化学成分(特にCr含有の有無)によって,鉄基焼結材の靱性(衝撃値)が大きく変化することがわかる。この理由として、ベース鉄粉にCrが含有されている場合、1150℃程度の焼結温度では、その粉末粒子表面に存在する酸化膜等が焼結時に十分に還元等されず、粒子間に酸化物として残存し、各粒子間の焼結ネックの形成が不十分となったか、またはその酸化物が破壊起点となったことが考えられる。
【0074】
[試料群4](FeMSC粉の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:2%、FeMSC粉:x%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉とした各試料について、引張強さと衝撃値を
図11に示した。また、それら各試料の金属組織を
図12に示した。
【0075】
図11から、引張強さは、FeMSC粉の配合量が1.5%(試料全体でいうとMn:1.1%、Si:0.3%)付近でピークとなり、それ以降は横ばい傾向となることがわかった。また衝撃値は、FeMSC粉の配合量が0.5%(試料全体でいうとMn:0.3%、Si:0.1%)付近でピークとなり、それ以降は急激に低下した。
【0076】
図12から、FeMSC粉が無配合(0%)の場合、金属組織はベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が極少量点在する島状複合組織となることがわかった。またFeMSC粉の配合量が増加するほど、そのベイナイト相が微細化されると共にマルテンサイト相が増加した島状複合組織となることがわかった。
【0077】
これらの結果から、FeMSC粉の配合量は0.5〜1.5%(試料全体でいうと、Mn:0.3〜1.1%またはSi:0.1〜0.3%)とすると、強度と靱性を高次元で両立し得ることがわかった。
【0078】
[試料群5](Gr粉の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:x%、残部:Fe−0.85%Mo粉とした各試料について、引張強さと衝撃値を
図13に示した。また、それら各試料の金属組織を
図14に示した。
【0079】
図13から、引張強さは、Gr粉の配合量が0.7%(試料全体でもほぼ同様)付近でピークとなり、それ以降は横ばい傾向となることがわかった。また衝撃値は、Gr粉の配合量の増加と共に単調減少した。但し、Gr粉を0.8%配合した試料でも、衝撃値は40J/cm
2程度もあった。
【0080】
図14から、Gr粉が0.4%の場合、金属組織はベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が少量点在する島状複合組織となることがわかった。またGr粉の配合量が増加するほど、そのベイナイト相が微細化されると共にマルテンサイト相が増加した島状複合組織となることがわかった。
【0081】
これらの結果から、特に、Gr粉の配合量を0.5〜0.7%(試料全体でも同様)とすると、強度と靱性を高次元で両立し得ることがわかる。
【0082】
[試料群6](Fe−Cr粉の粒度の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉とし、そのFe−13%Cr粉の粒度(平均粒径)を種々変更した各試料について、引張強さと衝撃値をそれぞれ
図15Aと
図15Bに示した。また、それら各試料の金属組織を
図16に示した。
【0083】
図15Aから、引張強さは、Fe−Cr粉の粒度が大きくなるほど緩やかに低下する傾向を示すことがわかった。
図15Bから、衝撃値は、Fe−Cr粉の平均粒径が10μm付近であるときにピークとなり、それ以降は緩やかに低下する傾向を示すことがわかった。但し、いずれの試料でも、引張強さは1000MPa以上で、衝撃値も45J/cm
2 以上であり、強度と靱性が十分に高次元で両立されているといえる。
【0084】
図16から、いずれの試料の金属組織も、ベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が分散した複合組織となることがわかった。但し、Fe−Cr粉の平均粒径が4μmの試料は、他の試料よりもマルテンサイト面積率が遙かに大きく、マルテンサイト相がネットワーク状に分布した金属組織となることがわかった。もっとも、Fe−Cr粉の平均粒径が10μm以上になると、微細なベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が島状に分布した島状複合組織となることもわかった。そして、Fe−Cr粉の平均粒径が大きくなるほど、島状のマルテンサイト相の大きさも大きくなる傾向にあった。
【0085】
[試料群7](焼結温度の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉とし、焼結温度を種々変更した各試料の引張強さと衝撃値を
図17に示した。また、それら各試料の金属組織を
図18に示した。
【0086】
図17からわかるように、引張強さは、焼結温度が1100℃のときに最大となり、焼結温度が大きくなるほど低下した。また衝撃値は、焼結温度が1150℃のときにピークとなり、焼結温度が大きくなると緩やかに低下する傾向を示した。
【0087】
図18からわかるように、焼結温度を1100℃とした試料の金属組織は、マルテンサイト相中に微細なベイナイト相が分散した複合組織となった。しかし、焼結温度が上昇すると、マルテンサイト相が減少して、逆に、微細なベイナイト相の基地中に島状のマルテンサイト相が分散した島状複合組織となることがわかった。
【0088】
[試料群8](冷却速度の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉とし、焼結後の冷却速度を種々変更した各試料の引張強さと衝撃値を
図19に示した。また、それら各試料の金属組織を
図20に示した。
【0089】
図19からわかるように、冷却速度が大きくなるほど、引張強さは増大し、逆に衝撃値は減少する傾向となった。また
図20からわかるように、冷却速度が5℃/分の試料の金属組織は、ベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が僅かに分散した島状複合組織となった。しかし、冷却速度の増加と共にマルテンサイト面積率も増加し、冷却速度が100℃/分の試料の金属組織では、ベイナイト相の微細化とマルテンサイト相のネットワーク化が進行した複合組織となることがわかった。
【0090】
[試料群9](成形圧力(成形体密度)・焼結体密度の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:0%(無配合)または2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉とし、成形圧力を変更して種々の焼結体密度からなる各試料の引張強さと衝撃値をそれぞれ
図21Aと
図21Bに示した。
【0091】
これらからわかるように、高密度成形して焼結体密度が高い試料ほど、引張強さおよび衝撃値は大きくなることが確認された。また、Fe−13%Cr粉を含む試料の方が、全体的に引張強さおよび衝撃値が高くなることも確認された。
【0092】
[マルテンサイト面積率の影響]
表4に示した各試料の特性に基づいて、マルテンサイト面積率と、引張強さまたは衝撃値との関係を、それぞれ
図22Aと
図22Bにまとめて示した。なお、成形圧力が784MPaでない試料と、ベース鉄粉がFe−1.5%Cr−0.2%Mo粉の試料については、
図22Aおよび
図22Bにプロットしなかった。同系統のベース鉄粉(Mo系鉄粉)を用いており密度も同レベルである試料について、マルテンサイト面積率と引張強さまたは衝撃値との関係を表すためである。
【0093】
図22Aからわかるように、引張強さは、マルテンサイト面積率が40〜60%となる付近でピークとなり、それ以降は緩やかに低下する傾向を示すことがわかった。また
図22Bからわかるように、衝撃値は、マルテンサイト面積率の増加と共に減少する傾向を示すことがわかった。但し、マルテンサイト面積率が50%以内さらには40%以内であると、その減少傾向が緩やかになることもわかった。これらから、マルテンサイト面積率を5〜50%さらには10〜40%とすると、強度と靱性を著しく高い次元で両立できることが明らかとなった。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3A】
【0097】
【表3B】
【0098】
【表4A】
【0099】
【表4B】