特許第6271336号(P6271336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6271336
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】渦電流検査装置及び渦電流検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/90 20060101AFI20180122BHJP
【FI】
   G01N27/90
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-106150(P2014-106150)
(22)【出願日】2014年5月22日
(65)【公開番号】特開2015-222194(P2015-222194A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2016年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長沼 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】小池 正浩
(72)【発明者】
【氏名】福原 良純
(72)【発明者】
【氏名】西水 亮
(72)【発明者】
【氏名】橋本 光男
(72)【発明者】
【氏名】小坂 大吾
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−518534(JP,A)
【文献】 特開2009−079984(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0169035(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス信号で励磁された励磁コイルによって被検査体に渦電流を誘起し、前記被検査体に誘起された渦電流の変化を検出センサで検出して、前記被検査体の特性を取得する渦電流検査装置において、
前記検出センサの検出信号に対し、ノイズ以外の変化があるとみなす時間範囲を含む第1の積分範囲にて第1の積分量を演算するとともに、ノイズ以外の変化がないとみなす時間範囲である第2の積分範囲にて第2の積分量を演算し、さらに前記第1の積分量と前記第2の積分量との差分若しくは比率を演算する演算部と、
前記第1の積分量と前記第2の積分量との差分若しくは比率に対し、相関データに基づいて前記被検査体の特性を取得する特性取得部とを備えたことを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項2】
請求項記載の渦電流検査装置において、
前記演算部は、前記第1の積分範囲の長さと前記第2の積分範囲の長さが異なる場合に、前記第1の積分範囲の長さと前記第2の積分範囲の長さとの比率を乗じて前記第2の積分量を補正し、前記第1の積分量と前記補正後の第2の積分量との差分若しくは比率を演算することを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項3】
請求項1記載の渦電流検査装置において、
サンプルデータとして前記被検査体の特性毎に予め取得された前記検出センサの検出信号を記憶する記憶部と、
前記積分範囲を設定する積分範囲設定部と、
前記記憶部で記憶されたサンプルデータ及び前記積分範囲設定部で設定された積分範囲に基づき、前記相関データを作成する相関データ作成部とを備えたことを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項4】
請求項1記載の渦電流検査装置において、
前記特性取得部は、前記第1の積分量と前記第2の積分量との差分若しくは比率に対し、相関データに基づいて前記被検査体の厚さを取得することを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項5】
パルス信号で励磁された励磁コイルによって被検査体に渦電流を誘起し、前記被検査体に誘起された渦電流の変化を検出センサで検出して、前記被検査体の特性を取得する渦電流検査方法において、
前記検出センサの検出信号に対し、ノイズ以外の変化があるとみなす時間範囲を含む第1の積分範囲にて第1の積分量を演算するとともに、ノイズ以外の変化がないとみなす時間範囲である第2の積分範囲にて第2の積分量を演算し、さらに前記第1の積分量と前記第2の積分量との差分若しくは比率を演算する第1の手順と、
前記第1の積分量と前記第2の積分量との差分若しくは比率に対し、相関データに基づいて前記被検査体の特性を取得する第2の手順とを有することを特徴とする渦電流検査方法。
【請求項6】
請求項記載の渦電流検査方法において、
前記第1の手順は、前記第1の積分範囲の長さと前記第2の積分範囲の長さが異なる場合に、前記第1の積分範囲の長さと前記第2の積分範囲の長さとの比率を乗じて前記第2の積分量を補正し、前記第1の積分量と前記補正後の第2の積分量との差分若しくは比率を演算することを特徴とする渦電流検査方法。
【請求項7】
請求項記載の渦電流検査方法において、
前記積分範囲を設定する第3の手順と、
サンプルデータとして前記被検査体の特性毎に予め取得された前記検出センサの検出信号と前記第3の手順で設定された積分範囲に基づき、前記相関データを作成する第4の手順とを有することを特徴とする渦電流検査方法
【請求項8】
請求項記載の渦電流検査方法において、
前記第2の手順は、前記第1の積分量と前記第2の積分量との差分若しくは比率に対し、相関データに基づいて前記被検査体の厚さを取得することを特徴とする渦電流検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス励磁型の渦電流検査装置及び渦電流検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス励磁型の渦電流検査方法は、磁性材料からなる被検査体の検査や、被検体とプローブとの距離を大きくとる検査などに適している。この渦電流検査方法では、プローブの励磁コイルにパルス信号を印加して、励磁コイルを励磁し、電磁誘導によって被検査体に渦電流を誘起する。そして、パルス信号の変化に起因して発生した渦電流の変化(若しくはそれに伴う磁束密度の変化)をプローブの検出センサで検出し、これに基づいて被検査体の特性(詳細には、例えば厚さ、欠陥、又は材質等)を取得する。
【0003】
例えば特許文献1に記載の従来技術では、検出センサの検出信号の時間変化の勾配(傾き又は変化率)を演算し、この勾配に対し、相関データに基づいて被検査体の特性を取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−79984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術には次のような改善の余地があった。すなわち、検出信号にノイズ変動(詳細には、例えば磁性ノイズの影響による変動)がある場合は、検出信号の時間変化の勾配も変動する。具体的には、例えば演算時間の前後で正のノイズと負のノイズが生じれば、勾配が変動する。そのため、被検査体の特性も変動し、不安定となる。すなわち、再現性が低下する。
【0006】
本発明の目的は、検出信号にノイズ変動がある場合でも、被検査体の特性を再現性よく取得することができる渦電流検査装置及び渦電流検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、パルス信号で励磁された励磁コイルによって被検査体に渦電流を誘起し、前記被検査体に誘起された渦電流の変化を検出センサで検出して、前記被検査体の特性を取得する渦電流検査装置において、前記検出センサの検出信号に対し、ノイズ以外の変化があるとみなす時間範囲を含む第1の積分範囲にて第1の積分量を演算するとともに、ノイズ以外の変化がないとみなす時間範囲である第2の積分範囲にて第2の積分量を演算し、さらに前記第1の積分量と前記第2の積分量との差分若しくは比率を演算する演算部と、前記第1の積分量と前記第2の積分量との差分若しくは比率に対し、相関データに基づいて前記被検査体の特性を取得する特性取得部とを備える。
【0008】
また、上記目的を達成するために、本発明は、パルス信号で励磁された励磁コイルによって被検査体に渦電流を誘起し、前記被検査体に誘起された渦電流の変化を検出センサで検出して、前記被検査体の特性を取得する渦電流検査方法において、前記検出センサの検出信号に対し、ノイズ以外の変化があるとみなす時間範囲を含む第1の積分範囲にて第1の積分量を演算するとともに、ノイズ以外の変化がないとみなす時間範囲である第2の積分範囲にて第2の積分量を演算し、さらに前記第1の積分量と前記第2の積分量との差分若しくは比率を演算する第1の手順と、前記第1の積分量と前記第2の積分量との差分若しくは比率に対し、相関データに基づいて前記被検査体の特性を取得する第2の手順とを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検出信号にノイズ変動がある場合でも、被検査体の特性を再現性よく取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施形態における渦電流検査装置の構成を表す図である。
図2】本発明の第1の実施形態におけるパルス信号の一例を表す図である。
図3】本発明の第1の実施形態における検出信号の積分範囲の一例を表す図である。
図4】本発明の第1の実施形態におけるマスターカーブの一例を表す図である。
図5】本発明の第1の実施形態におけるサンプルデータの具体例を表す図である。
図6】本発明の第1の実施形態における表示画面の一例を表す図である。
図7】本発明の第1の実施形態における動作を説明するためのフローチャートである。
図8】本発明の第2の実施形態における渦電流検査装置の構成を表す図である。
図9】本発明の第2の実施形態における検出信号の積分範囲の一例を表す図である。
図10】本発明の第2の実施形態における検出信号の積分範囲の他の例を表す図である。
図11】本発明の第2の実施形態における動作を説明するためのフローチャートである。
図12】検出信号のバイアスが異なる場合を説明するための図である。
図13】本発明の第3の実施形態における渦電流検査装置の構成を表す図である。
図14】本発明の第3の実施形態における動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施形態を、図1図7により説明する。
【0012】
図1で示すように、渦電流検査装置は、大別して、プローブ1と、制御装置2とを備えている。
【0013】
プローブ1は、励磁コイル3と、この励磁コイル3の中心に設けられたコア4と、このコア4の下面側(言い換えれば、被検査体5側)に設けられた検出センサ6とを備えている。コア4は、磁束の広がりを抑え、被検査体5に大きな磁束を与えるためのものである。
【0014】
制御装置2は、機能的構成として、パルス信号発生部7、パルス信号増幅部8、検出信号増幅部9、A/D変換部10、演算部11、特性取得部12、記憶部13、表示部14、積分範囲設定部15、及び相関データ作成部16を有している。
【0015】
パルス信号発生部7は、例えば図2で示すような矩形波状のパルス信号を出力する。パルス信号増幅部8は、パルス信号発生部7からのパルス信号を増幅して励磁コイル3に印加する。これにより、励磁コイル3が励磁し、電磁誘導によって被検査体5に渦電流が誘起する。そして、パルス信号の変化に起因して発生した渦電流の変化(若しくはそれに伴う磁束密度の変化)が検出センサ6で検出され、検出信号として出力される。
【0016】
検出センサ6の検出信号は、パルス信号の立下り時に(又は立上り時に)時間減衰曲線となる。例えば図3で示す検出信号SAは、被検査体5の厚さtが比較的薄い場合のものであり、比較的早く小さくなっている(すなわち、積分量が比較的小さくなる)。一方、例えば図3で示す検出信号SBは、被検査体5の厚さtが比較的厚い場合でのものであり、比較的遅く小さくなっている(すなわち、積分量が比較的大きくなる)。また、検出信号SA,SBには、ノイズ変動(詳細には、例えば磁性ノイズの影響による変動)が生じている。また、検出信号SA,SBは、時間の経過とともに、バイアスN(但し、N≠0、又はN≒0)に漸近するようになっている。
【0017】
検出信号増幅部9は、検出センサ6からの検出信号を増幅する。A/D変換部10は、検出信号増幅部9からの検出信号をデジタル化して、演算部11に出力するとともに、記憶部13に出力して記憶させる。
【0018】
本実施形態の演算部11は、積分部17で構成されている。積分部17は、A/D変換部10からの検出信号(若しくは記憶部13から読み込んだ検出信号)に対し、設定された積分範囲にて積分量を演算する。この積分範囲は、積分開始時間T1から積分終了時間T2までの範囲であり、ノイズ以外の変化(詳細には、例えば1%以上の変化)があるとみなす時間範囲を含むという条件を満たすように、パルス信号の立下り時T0(又は立上り時)を基準として設定されている(図3及び図2参照)。
【0019】
記憶部13は、例えば図4で示すような検出信号の積分量と被検査体5の厚さt(特性)との相関データ(マスターカーブ)を記憶している。特性取得部12は、演算部11で演算された積分量に対し、記憶部13で記憶されたマスターカーブに基づいて被検査体5の厚さtを取得する。そして、被検査体5の厚さt等を表示部14に出力して表示させるとともに、記憶部13に出力して記憶させる。
【0020】
表示部14は、例えば図5で示すような画面18を表示するようになっている。画面18は、検出信号表示領域19、積分範囲表示領域20、積分量表示領域21、マスターカーブ表示領域22、及び特性表示領域23を有している。
【0021】
積分範囲表示領域20は、設定された積分範囲(詳細には、設定された積分開始時間T1及び積分終了時間T2)を表示しており、積分範囲設定部15によって変更可能としている。具体的には、キーボードやマウス等の入力部の操作に応じて、積分範囲表示領域20で表示された積分開始時間T1及び積分終了時間T2を変更して設定可能としている。検出信号表示領域19は、記憶部13から読み込んだ検出信号の時間変化を図示するとともに、設定された積分開始時間T1及び積分終了時間T2を図示している。これにより、検査者は、検出信号表示領域19で表示された検出信号の時間変化を見ながら、積分範囲を設定変更可能としている。
【0022】
積分量表示領域21は、検出信号表示領域19で表示された検出信号の時間変化と積分範囲表示領域20(及び検出信号表示領域19)で表示された積分範囲に対応しており、演算部11で演算された積分量を表示する。
【0023】
マスターカーブ表示領域22は、記憶部13で記憶されたマスターカーブを表示するとともに、積分量表示領域21で表示された積分量を示す表示線22aを表示する。なお、マスターカーブは、積分範囲の設定変更に応じて更新されるようになっている。詳しく説明すると、記憶部13は、サンプルデータとして、被検査体5の厚さt毎に予め取得された検出センサ6の検出信号を記憶している。すなわち、例えば図6(a)で示すように、厚さt=aの試験体を用いて取得された検出センサ6の検出信号DA、厚さt=b(但し、b>a)の試験体を用いて取得された検出センサ6の検出信号DB、厚さt=c(但し、c>b)の試験体を用いて取得された検出センサ6の検出信号DC等を記憶している。あるいは、例えば図6(b)で示すように、ノイズを抑える処理が施された検出信号(詳細には、例えば同じ試験体を用いて取得された複数の検出信号を平均化処理したもの)DA,DB,DC等を記憶している。相関データ作成部16は、記憶部13で記憶されたサンプルデータと積分範囲設定部15で設定変更された積分範囲に基づいてマスターカーブを新たに作成し、記憶部13で更新させる。これに伴い、マスターカーブ表示領域22で表示されるマスターカーブも更新する。
【0024】
特性表示領域23は、検出信号表示領域19で表示された検出信号の時間変化と積分範囲表示領域20(及び検出信号表示領域19)で表示された積分範囲と積分量表示領域21(及びマスターカーブ表示領域22)で表示された積分量とマスターカーブ表示領域22で表示されたマスターカーブに対応しており、特性取得部12で取得された被検査体5の厚さtを表示する。
【0025】
次に、本実施形態の渦電流検査装置の動作を、図7を用いて説明する。
【0026】
まず、プローブ1を被検査体5の検査位置に配置し(ステップ101)、プローブ1の励磁コイル3にパルス信号を印加して、被検査体5に渦電流を誘起する(ステップ102)。そして、被検査体5に誘起した渦電流の変化(若しくはそれに伴う磁束密度の変化)をプローブ1の検出センサ6で検出する(ステップ103)。
【0027】
制御装置2の演算部11は、検出センサ6の検出信号に対し、設定された積分範囲(積分開始時間T1から積分終了時間T2までの範囲)にて積分量を演算する(ステップ104)。制御装置2の特性取得部12は、演算部11で演算された積分量に対し、記憶部13で記憶されたマスターカーブに基づいて被検査体5の厚さを取得する(ステップ105)。
【0028】
そして、制御装置2の表示部14は、検出信号、積分範囲、積分量、マスターカーブ、及び被検査体5の厚さを表示する。例えば表示部14で表示された積分範囲を設定変更した場合には、ステップ106の判定が満たされ、制御装置2の相関データ作成部1は、サンプルデータと設定変更された積分範囲に基づいてマスターカーブを新たに作成し、記憶部13で更新させる(ステップ107)。また、演算部11は、検出センサ6の検出信号に対し、設定変更された積分範囲にて積分量を新たに演算する(ステップ104)。特性取得部12は、更新された積分量に対し、更新されたマスターカーブに基づいて被検査体5の厚さを新たに取得する(ステップ105)。表示部14は、更新されたマスターカーブ、積分量、及び被検査体5の厚さを表示する。
【0029】
そして、例えば被検査体5に検査すべき他の位置があれば、ステップ108の判定が満たされず、次の検査位置にプローブ1を移動し(ステップ109)、上述したステップ102〜105(及びステップ106,107)の手順を繰り返す。一方、被検査体5に検査すべき他の位置がなければ、ステップ108の判定が満たされて、検査終了となる。
【0030】
以上のような本実施形態においては、被検査体5の厚さを取得するのに検出信号の積分量を用いるので、例えば検出信号の時間変化の勾配を用いる場合とは異なり、検出信号にノイズ変動があっても、その影響を抑えることができる。したがって、被検査体5の厚さを再現性よく取得することができる。また、積分範囲の設定により、所望の分解能を得ることができる。
【0031】
本発明の第2の実施形態を、図8図12により説明する。本実施形態は、検出信号のバイアスによる影響を抑えるための実施形態である。なお、本実施形態において、上記実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0032】
図8で示すように、本実施形態の演算部11Aは、積分部17、積分部24、及び減算部25で構成されている。積分部17は、A/D変換部10からの検出信号(若しくは記憶部13から読み込んだ検出信号)に対し、設定された第1の積分範囲にて第1の積分量AR1を演算する。この第1の積分範囲は、第1の実施形態の積分範囲と同様、積分開始時間T1から積分終了時間T2までの範囲であり、ノイズ以外の変化(詳細には、例えば1%以上の変化)があるとみなす時間範囲を含むという条件を満たすように、パルス信号の立下り時T0(又は立上り時)を基準として設定されている(図9及び図10参照)。
【0033】
積分部24は、A/D変換部10からの検出信号(若しくは記憶部13から読み込んだ検出信号)に対し、設定された第2の積分範囲にて第2の積分量AR2を演算する。この第2の積分範囲は、積分開始時間T3から積分終了時間T4までの範囲であり、ノイズ以外の変化(詳細には、例えば1%以上の変化)がないとみなす時間範囲であるという条件を満たすように、パルス信号の立下り時T0(又は立上り時)を基準として設定されている(図9及び図10参照)。なお、第2の積分範囲は、例えば図9で示すように第1の積分範囲と重なるように設定されてもよいし、あるいは例えば図10で示すように第1の積分範囲と重ならないように設定されてもよい。
【0034】
そして、通常は、例えば図9で示すように、第1の積分範囲の長さ(T2−T1)と第2の積分範囲の長さ(T4−T3)が異なるように設定されるので、第1の積分範囲の長さと第2の積分範囲の長さとの比率(T2−T1)/(T4−T3)を第2の積分量AR2に乗じて、第2の積分量AR2を補正する。これにより、検出信号のバイアスをNとしたときに、N×(T2−T1)にほぼ相当する積分量を求めることができる。なお、例えば図10で示すように、第1の積分範囲の長さ(T2−T1)と第2の積分範囲の長さ(T4−T3)が同じとなるように設定されれば、第2の積分量AR2を補正する必要がない。
【0035】
減算部25は、第1の積分量からバイアスの分を取り除いたものとして、第1の積分量と第2の積分量の差分(AR1−AR2)を演算する。
【0036】
記憶部13は、図示しないが、差分(AR1−AR2)と被検査体5の厚さtとの相関データ(マスターカーブ)を記憶している。特性取得部12Aは、演算部11Aで演算された差分(AR1−AR2)に対し、記憶部13で記憶されたマスターカーブに基づいて被検査体5の厚さtを取得する。
【0037】
次に、本実施形態の渦電流検査装置の動作を、図11を用いて説明する。
【0038】
まず、プローブ1を被検査体5の検査位置に配置し(ステップ101)、プローブ1の励磁コイル3にパルス信号を印加して、被検査体5に渦電流を誘起する(ステップ102)。そして、被検査体5に誘起した渦電流の変化(若しくはそれに伴う磁束密度の変化)をプローブ1の検出センサ6で検出する(ステップ103)。
【0039】
制御装置2の演算部11Aは、検出センサ6の検出信号に対し、設定された第1の積分範囲(積分開始時間T1から積分終了時間T2までの範囲)にて第1の積分量AR1を演算する(ステップ104)。また、検出センサ6の検出信号に対し、設定された第2の積分範囲(積分開始時間T3から積分終了時間T4までの範囲)にて第2の積分量AR2を演算し、必要であれば補正する(ステップ110)。さらに、第1の積分量と補正後の第2の積分量との差分(AR1−AR2)を演算する(ステップ111)。制御装置2の特性取得部12Aは、演算部11Aで演算された差分(AR1−AR2)に対し、記憶部13で記憶されたマスターカーブに基づいて被検査体5の厚さを取得する(ステップ112)。
【0040】
そして、制御装置2の表示部14は、検出信号、第1の積分範囲、第1の積分量、第2の積分範囲、第2の積分量、差分、マスターカーブ、及び被検査体5の厚さを表示する。例えば表示部14で表示された第1の積分範囲及び第2の積分範囲のうちの少なくとも一方を設定変更した場合には、ステップ106の判定が満たされ、制御装置2の相関データ作成部1は、サンプルデータと少なくとも一方が設定変更された第1の積分範囲及び第2の積分範囲に基づいてマスターカーブを新たに作成し、記憶部13で更新させる(ステップ107)。また、演算部11Aは、検出センサ6の検出信号に対し、設定変更された第1の積分範囲及び第2の積分範囲のうちの少なくとも一方にて積分量を新たに演算し(ステップ104,110)、さらに第1の積分量と第2の積分量との差分(AR1−AR2)を新たに演算する(ステップ111)。特性取得部12Aは、更新された差分(AR1−AR2)に対し、更新されたマスターカーブに基づいて被検査体5の厚さを新たに取得する(ステップ112)。表示部14は、更新された積分量、差分、マスターカーブ、及び被検査体5の厚さを表示する。
【0041】
そして、例えば被検査体5に検査すべき他の位置があれば、ステップ108の判定が満たされず、次の検査位置にプローブ1を移動し(ステップ109)、上述したステップ102〜104,110〜112(及びステップ106,107)の手順を繰り返す。一方、被検査体5に検査すべき他の位置がなければ、ステップ108の判定が満たされて、検査終了となる。
【0042】
以上のような本実施形態においては、被検査体5の厚さを取得するのに検出信号の第1の積分量と第2の積分量との差分(AR1−AR2)を用いるので、例えば検出信号の時間変化の勾配を用いる場合とは異なり、検出信号にノイズ変動があっても、その影響を抑えることができる。また、検出信号の第1の積分量と第2の積分量との差分(AR1−AR2)すなわち第1の積分量からバイアスの分を取り除いたものを用いるので、バイアスの影響も抑えることができる。具体的に説明すると、例えばパルス信号に起因して発生した検出信号が小さくてバイアスの占める割合が大きい場合でも、その影響を抑えることができる。また、例えばマスターカーブを作成するために予め取得された検出信号のバイアスと検査時に取得された検出信号のバイアスが異なるような場合でも、その影響を抑えることができる。また、例えば図12で示すように、検出信号SAのバイアスNAと検出信号SBのバイアスNBが異なるような場合でも、その影響を抑えることができる。したがって、被検査体5の厚さを再現性よく取得することができる。
【0043】
本発明の第3の実施形態を、図13及び図14により説明する。本実施形態は、第2の実施形態と同様、検出信号のバイアスによる影響を抑えるための実施形態である。なお、本実施形態において、上記実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0044】
図13で示すように、本実施形態の演算部11Bは、積分部17、積分部24、及び除算部26で構成されている。積分部17は、A/D変換部10からの検出信号(若しくは記憶部13から読み込んだ検出信号)に対し、設定された第1の積分範囲にて第1の積分量AR1を演算する。この第1の積分範囲は、第2の実施形態と同様、積分開始時間T1から積分終了時間T2までの範囲であり、ノイズ以外の変化(詳細には、例えば1%以上の変化)があるとみなす時間範囲を含むという条件を満たすように、パルス信号の立下り時T0(又は立上り時)を基準として設定されている(上述の図9及び図10参照)。
【0045】
積分部24は、A/D変換部10からの検出信号(若しくは記憶部13から読み込んだ検出信号)に対し、設定された第2の積分範囲にて第2の積分量AR2(但し、AR2<AR1)を演算する。この第2の積分範囲は、第2の実施形態と同様、積分開始時間T3から積分終了時間T4までの範囲であり、ノイズ以外の変化(詳細には、例えば1%以上の変化)がないとみなす時間範囲であるという条件を満たすように、パルス信号の立下り時T0(又は立上り時)を基準として設定されている(上述の図9及び図10参照)。なお、第2の積分範囲は、第1の積分範囲と重なるように設定されてもよいし、あるいは第1の積分範囲と重ならないように設定されてもよい。
【0046】
そして、通常は、第1の積分範囲の長さ(T2−T1)と第2の積分範囲の長さ(T4−T3)が異なるように設定されるので、第1の積分範囲の長さと第2の積分範囲の長さとの比率(T2−T1)/(T4−T3)を乗じて第2の積分量AR2を補正する。これにより、検出信号のバイアスをNとしたときに、N×(T2−T1)にほぼ相当する積分量を求めることができる。なお、第1の積分範囲の長さ(T2−T1)と第2の積分範囲の長さ(T4−T3)が同じとなるように設定されれば、第2の積分量AR2を補正する必要がない。
【0047】
除算部26は、第1の積分量からバイアスの影響を取り除いたものとして、第1の積分量と第2の積分量の比率AR1/AR2を演算する。
【0048】
記憶部13は、図示しないが、比率AR1/AR2と被検査体5の厚さtとの相関データ(マスターカーブ)を記憶している。特性取得部12Bは、演算部11Bで演算された比率AR1/AR2に対し、記憶部13で記憶されたマスターカーブに基づいて被検査体5の厚さtを取得する。
【0049】
次に、本実施形態の渦電流検査装置の動作を、図14を用いて説明する。
【0050】
まず、プローブ1を被検査体5の検査位置に配置し(ステップ101)、プローブ1の励磁コイル3にパルス信号を印加して、被検査体5に渦電流を誘起する(ステップ102)。そして、被検査体5に誘起した渦電流の変化(若しくはそれに伴う磁束密度の変化)をプローブ1の検出センサ6で検出する(ステップ103)。
【0051】
制御装置2の演算部11Bは、検出センサ6の検出信号に対し、設定された第1の積分範囲(積分開始時間T1から積分終了時間T2までの範囲)にて第1の積分量AR1を演算する(ステップ104)。また、検出センサ6の検出信号に対し、設定された第2の積分範囲(積分開始時間T3から積分終了時間T4までの範囲)にて第2の積分量AR2を演算し、必要であれば補正する(ステップ110)。さらに、第1の積分量と補正後の第2の積分量との比率AR1/AR2を演算する(ステップ113)。制御装置2の特性取得部12Bは、演算部11Bで演算された比率AR1/AR2に対し、記憶部13で記憶されたマスターカーブに基づいて被検査体5の厚さを取得する(ステップ114)。
【0052】
そして、制御装置2の表示部14は、検出信号、第1の積分範囲、第1の積分量、第2の積分範囲、第2の積分量、比率、マスターカーブ、及び被検査体5の厚さを表示する。例えば表示部14で表示された第1の積分範囲及び第2の積分範囲のうちの少なくとも一方を設定変更した場合には、ステップ106の判定が満たされ、制御装置2の相関データ作成部1は、サンプルデータと少なくとも一方が設定変更された第1の積分範囲及び第2の積分範囲に基づいてマスターカーブを新たに作成し、記憶部13で更新させる(ステップ107)。また、演算部11Bは、検出センサ6の検出信号に対し、設定変更された第1の積分範囲及び第2の積分範囲のうちの少なくとも一方にて積分量を新たに演算し(ステップ104,110)、さらに第1の積分量と第2の積分量との比率AR1/AR2を新たに演算する(ステップ113)。特性取得部12Bは、更新された比率AR1/AR2に対し、更新されたマスターカーブに基づいて被検査体5の厚さを新たに取得する(ステップ114)。表示部14は、更新された積分量、比率、マスターカーブ、及び被検査体5の厚さを表示する。
【0053】
そして、例えば被検査体5に検査すべき他の位置があれば、ステップ108の判定が満たされず、次の検査位置にプローブ1を移動し(ステップ109)、上述したステップ102〜104,110,113,114(及びステップ106,107)の手順を繰り返す。一方、被検査体5に検査すべき他の位置がなければ、ステップ108の判定が満たされて、検査終了となる。
【0054】
以上のような本実施形態においては、被検査体5の厚さを取得するのに検出信号の第1の積分量と第2の積分量との比率AR1/AR2を用いるので、例えば検出信号の時間変化の勾配を用いる場合とは異なり、検出信号にノイズ変動があっても、その影響を抑えることができる。また、検出信号の第1の積分量と第2の積分量との比率AR1/AR2すなわち第1の積分量からバイアスの影響を取り除いたものを用いるので、バイアスの影響も抑えることができる。したがって、被検査体5の厚さを再現性よく取得することができる。
【0055】
なお、上記第1〜第3の実施形態において、検出センサ6は、励磁コイル3と別体のものとして構成された場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、励磁コイルと同心に巻かれた検出コイルであってもよい。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0056】
また、被検査体5の特性として厚さtを取得する場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば材質(導電率や透磁率)等を取得する場合に適用してもよい。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0057】
3 励磁コイル
5 被検査体
6 検出センサ
11,11A,11B 演算部
12,12A,12B 特性取得部
13 記憶部
15 積分範囲設定部
16 相関データ作成部
図1
図2
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