【実施例1】
【0023】
異なる4種類の粉末組成物をボールミルの中で粉砕した。その組成を表2
Aに示す。PEGを圧縮剤として添加した。この粉末をGallenkamp炉(モデル135/30027)の中で75℃で乾燥させ、500μmメッシュの篩で篩い分けし、Toxプレス(モデルSTE 510−008−102)を用いて圧縮し、40×25×5mmのファーゴ(Fargo)片にした。これらのサンプルをFCT Anlagenbau社の焼結用HIP炉の中に入れ、50バールの大きなアルゴン静水圧で、1450℃で焼結させた。
【0024】
【表2A】
【0025】
焼結後、200μmと80μmのグリットを用いて各焼結体を研磨し、次いで9.3μmと1μmのダイヤモンド・ペーストで研磨した。破壊靱性値K
1Cと硬度HV30を測定した。表3から、サンプル間で、K
1Cと硬度HV30の測定値に顕著な差がないことが判明した。
【0026】
【表3】
【0027】
図2A〜
図2Dは、4種類の変形それぞれの多孔性を示す写真である。反射電子検出器を用い、電子高電圧(EHT)を10kV、ワーキングディスタンス(WD)を6mmにして、2万倍の倍率でSEM画像を撮影し、EHTを21kV、WDを13mmにして、EDXマップを取得することにより、作製した組成物に存在するミクロ組織と相を調べた。
【表2B】
【0028】
図3A〜
図3Dは電子顕微鏡画像であり、
図3Eはサンプル15/0.9のEDXマップであり、
図4A〜
図4Dは電子顕微鏡画像であり、
図4Eはサンプル20/1.8のEDXマップである。WC粒は丸くて粒径が1μm未満であることがわかる。そのため、粒径は出発WC材料の大きさに近い。したがって、焼結中に、粒は成長しないようである。全てにおいて、粒の丸さは、溶解−再沈殿を通じて粒の成長が起こることはほとんどなく、むしろ粒が結合していることを示唆している。
【0029】
図3E及び
図4Eは、3つの相が認められることを示唆している。
【0030】
B611摩耗試験は、多孔性が最も優れていたサンプルで実施した。B611摩耗試験は全て、ASTM、85(2005年)に従って実施した。結果を
図5のグラフに示す。
【0031】
このグラフからわかるように、4つのサンプル15/0.9、20/0.9、15/1.8、及び20/1.8は、従来の結合剤を含まない変形よりも、優れた摩耗結果を示した。
【0032】
前述したのと同様に実験を実施し、反応抑制剤である炭化クロムを除去することの効果を調べた。粒径が1μm未満であることがわかっているため、反応抑制剤である炭化クロムを添加せずに、別の粉砕を実施した。これにより、炭化クロムが特性に及ぼす影響が評価された。
【0033】
炭化クロムなしである15/0.9の変形の組成を表4に示す。
【0034】
【表4】
【0035】
炭化クロムを含む15/0.9の変形と、炭化クロムなしである15/0.9の変形について、K
1C及びHV30を測定した。結果を表5に示す。
【0036】
【表5】
【0037】
K
1C及びHV30に変化は認められなかったため、炭化クロムの存在は、これらの特性に影響を与えないようである。
【0038】
Cr
3C
2なしのサンプル15/0.9について、
図7A〜
図7Dは電子顕微鏡画像であり、
図7EはEDXマップである。観察結果は、15/0.9の従前の変形と同じであり、特に、粒は丸くて大きさは約1μm未満である。3つの相は
図7Eでも認められる。Cr
3C
2は、耐腐食性を向上させることが知られているが、ミクロ組織及び組成には影響しないと考えられるため、硬度及び破壊靭性には影響しない。
【0039】
Cr
3C
2を含むサンプルとCr
3C
2を含まない変形で摩耗試験を実施した。結果を
図8に示す。
【0040】
従前の全ての実験において、焼結は、50バールの大きなアルゴン静水圧で、1450℃で実施した。以下に示す別の実施例は、20/1.8の変形を、1450℃にしたCarbolite社の真空炉(モデル16/75/450)の中で焼結させる例を示している。
【0041】
【表6】
【0042】
表6は、硬度及び破壊靭性に顕著な変化がなかったことを示している。
【0043】
20/1.8は、約600cm
−3の耐摩耗性、摩耗経路上に空孔がない点での信頼性、及びMoとCoの分布の均一性に関し、最良の変形であるようである。
【0044】
さらに別の実施例において、破壊靭性を大きくする実験を実施した。典型的には、K
1Cを大きくすると、割れの伝播が防止される。通常は、コバルトの含有量が増えるほど硬度が低下し、破壊靭性が大きくなる。そのため、表7に示した実施例は、Coの含有量をより多くして粉砕した。粒径が破壊靭性に及ぼす影響を調べるため、表7には、2.0μmのWCの代わりに0.8μmのWCを用いた、別の実施例も示してある。
【0045】
【表7】
【0046】
粉末をGallenkamp炉(モデル135/30027)の中で、75℃で乾燥させ、500μmメッシュの篩で篩い分けし、Toxプレス(モデルSTE 510−008−102)を用いて圧縮し、40×25×5mmのFargo片にした。これらのサンプルを、FCT Anlagenbau社の焼結用HIP炉の中で、50バールの大きなアルゴン静水圧で、1450℃で焼結した。
図9及び
図10を参照し、新しい3種類の変形とグレード20/1.8 2の間で、HV30とK
1Cを比較した。コバルトの含有量が増えるにつれて硬度が低下するという結果は、予想通りであった。しかし、破壊靭性の向上は認められなかった。
【0047】
これらサンプルの多孔性を
図11A〜
図11Cに示す。
【0048】
図12を参照すると、耐摩耗性の測定結果は、硬度の測定結果と矛盾しない。すなわち硬度に伴って耐摩耗性が低下する。さらに別の実施例では、炭化モリブデンにMo+Cを元素成分で添加することにより、まるで化合物の形態でMo
2Cを添加したかのように、同じ材料特性を実現できることも判明した。84.1%のWCと、0.9%のCoと、14.12%のMoと、0.88%のCと、2.0%のPEGを含む組成の15/0.9の変形を粉砕して圧縮した後、50バールの大きなアルゴン静水圧のもとで、1450℃で焼結した。HV30の測定値は2185であり、K
1Cの測定値は7.2であった。これらの値は、15%のMo
2Cを化合物の形態で添加し、同じ組成として作製したサンプルと同等である。
【0049】
さらに別の実施例では、異なる結合系の効果も調べた。いくつかの用途、例えばポンプの用途では、ニッケル(Ni)結合剤も使用できる。
【0050】
【表8】
【0051】
表8からわかるように、Niの場合、硬度がわずかに低いが、それでも高いレベルである。K
1Cには変化がない。
【0052】
本発明を具体的な実施態様に関して説明してきたが、他の多くのバリエーション、改変、及び他の用途が当業者には明らかであろう。したがって本発明は、この明細書の具体的な開示内容によって制限されるのではなく、添付の請求項だけによって制限されることが好ましい。