【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例を介して、さらに詳細に説明する。しかし、該実施例は、本発明について例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がそれら実施例に限定されるものではない。
【0083】
実施例1.関節炎患者の関節液によって、UCB−MSCで特異的に誘導される分泌蛋白質の同定
UCB−MSCの軟骨再生及び炎症調節物質の同定のために、関節炎患者の関節液を、UCB−MSCが培養されている培地に、20(v/v)%濃度になるように添加した後、3時間さらに培養した。得られた培養上澄み液を分析試料として使用した。また、前記関節液を添加していない状態で培養されたUCB−MSC培養液と、培養されていない培地に前記関節液を20(v/v)%濃度になるように添加した培地とを、対照群として分析した。前記関節液は、退行性関節炎患者から得た。
【0084】
それぞれ得られた培養液または対照群試料中に含まれていると予想される蛋白質に、検出可能な標識を付けた。前記標識は、ビオチンであり、前記ビオチンは、蛍光標識されたストレプトアビジンとの特異的な結合によって形成された複合体を、蛍光検出を介して検出した。次に、各試料を507個の分泌蛋白質にそれぞれ結合する抗体が固定されている蛋白質チップ(RayBiotech,Inc.,RayBio
TM Biotin Label-based Human Antibody Array I;Cat#AAH−BLG−1−2)に添加し、生産者の指針書によって反応させた。反応後、レーザスキャナー(Axon Genepix Scanner 4000B)を使用し、前記蛋白質チップに532nmの励起光を照射し、635nmで放射光を検出した。このように得られた検出信号を、対照群から得られた標準検出信号と比較し、試料中の各蛋白質の濃度を決定した。
【0085】
分析結果、関節炎患者の関節液の存在下で、UCB−MSCを培養する場合、そうではない場合に比べ、TSP−1、TSP−2、IL−17BR及びHB−EGFが顕著に増加した。
【0086】
実施例2.TSP−2とUCB−MSCの軟骨分化との関連性
本実施例では、TSP−2がUCB−MSCの軟骨分化と関連があるか否かを調べた。また、TSP−2がUCB−MSCの軟骨分化を誘導するか否かを調べた。
【0087】
(1)UCB−MSC細胞タイプの軟骨分化能
まず、さまざまなUCB−MSC細胞タイプの軟骨分化能を確認した。各細胞タイプは、軟骨分化培地(chondrogenic culture medium)中で、ペレット培養方法で培養した。前記軟骨分化培地は、50μg/mlアスコルベート、0.1μMデキサメタゾン、40μg/ml L−プロリン、100μg/mlピルベート、10ng/ml TGF−β3、500ng/ml BMP−6、50mg/ml ITS+及び50μg/mlゲンタマイシン含有の高グルコース濃度のDMEMであり、初期細胞濃度は、5x10
5cells/mlとし、培養は、15mlポリプロピレン・チューブで4週間培養した。培地は、1週で2回交換し、28日目にペレットを、パラフィン中に内包された4%パラホルムアルデヒドで固定し、5μm切片を作った。前記切片を、サフラニン−Oで染色し、陰イオン性プロテオグリカンを検出した。
【0088】
図1は、7個のUCB−MSC細胞タイプ、C1、C2、C3、C4、C5、C6及びC7を、それぞれ分化培地で4週間分化させた結果を示す図面である。
図1に図示されているように、軟骨分化能が良好であると分類されたC1及びC2の場合、軟骨標識のラクナ(lacunae)が、明らかな境界線を有した円形に、切断面全体的に良好に形成された。軟骨分化能が中間程度であると分類されたC3及びC4は、大きさは小さいが、明らかな境界線を有したラクナが、全体面または一部切断面で形成された。軟骨分化能が低いと分類されたC5、C6及びC7は、ラクナ構造がほとんど生成されていない。これは、UCB−MSCが、個人間の遺伝的、及び臍帯血採取過程での差によって、異なる分化能を有しているということを示している。
【0089】
(2)TSP−2の軟骨分化能との関連性
軟骨分化能が異なるUCB−MSC細胞タイプを、軟骨分化培地で1週間培養した後、細胞から全体RNAをテンプレートとして、TSP−2特異的プライマーを使用したRT−PCR(real time−PCR)によって、TSP−2 mRNA量を測定した。
【0090】
図2は、軟骨分化培地で培養されたUCB−MSCのTSP−2 mRNA発現量を示す図面である。
図2に図示されているように、TSP−2は、軟骨分化能の大きいC1(またはC2)UCB−MSC細胞タイプで、最も多く発現される一方、軟骨分化能の弱いC5(C6またはC7)では、発現が弱かった。
【0091】
また、軟骨分化能が異なるUCB−MSC細胞タイプを軟骨分化培地で培養し、培養上澄み液中のTSP−2の濃度を、経時的にELISAを介して分析した。
【0092】
図3及び
図4は、ELISA分析を介した培養上澄み液中のTSP−2の量を示す図面である。
図3及び
図4に図示されているように、軟骨分化能の大きい細胞タイプであるC1またはC2で、TSP−2が高レベルに発現されるが(
図3)、C5、C6またはC7では、非常に低レベルに発現された(
図4)。
【0093】
(3)TSP−2の軟骨分化誘導活性
分離精製されたヒトTSP−2蛋白質(R&D System、Minneapolis、MN、USA)10ng/mlを含む軟骨分化培地で、UCB−MSCをマイクロマス培養方法で培養し、ペレット・サイズを測定した。UCB−MSCが軟骨細胞に分化されるにつれて、細胞外媒質(ECM)合成が増大するので、ペレット・サイズは、軟骨分化程度を示す尺度である。
【0094】
図5は、TSP−2存在下または不存在下で培養されたUCB−MSCのペレット・サイズを示す図面である。
図5で、対照群は、258,526.070μm
2であり、TSP−2(10ng)の場合、901,919.431μm
2(対照群の3.49倍)であった。
図5に図示されているように、TSP−2によって、UCB−MSCのペレット・サイズが増大し、これは、TSP−2が軟骨分化を誘導するということを示している。
【0095】
実施例3.軟骨分化能によるTSP−2発現レベル
本実施例では、軟骨分化能によるUCB−MSCのTSP−2発現レベルを測定した。まず、UCB−MSC C3,C4及びC5を、軟骨分化培地で同じ条件で7日間培養し、軟骨分化を誘導した。UCB−MSC C3,C4及びC5の相対的な軟骨分化能は、あらかじめ実験を介して確認し、C3>C4>C5の順序であった。次に、培養上澄み液中のTSP−2をELISAを利用して測定した。
【0096】
図6は、軟骨分化培地で培養された3個のUCB−MSCタイプの培養上澄み液中に発現されたTSP−2を示す図面である。
図6に図示されているように、軟骨分化能が最も弱いと分類された、C5 UCB−MSCは、軟骨分化誘導前(naive)には、72pg/ml/1x10
5cells、軟骨分化誘導3日目1.2ng/ml/1x10
5cells、7日目0.550ng/ml/1x10
5cellsを分泌した。軟骨分化のために使用するのに適したUCB−MSCは、C5に比べて、TSP−2を多く発現する細胞に決定する。
【0097】
実施例4:UCB−MSCとBM−MSCとの軟骨生成能
本実施例では、約10個の異なる人間供与者から由来したUCB−MSCとBM−MSCとのin vitroでの軟骨生成能(chondrogenesis)を測定した。
【0098】
(1)UCB−MSC及びBM−MSCの準備
臍帯血(UCB:umbilical cord blood)標本は、通知された母親同意(informed maternal consent)を得て分娩された放出物(deliveries)の臍帯静脈から得た。骨髄吸引物(bone marrow aspirate)は、各供与者の同意の下、供与者の腸骨稜(iliac crest)から得た。付着性及び防錘状の間葉幹細胞類似の単核細胞(adherent and spindle-shaped mesenchymal stem cell(MSC)−like mononuclear cell)は、同じ過程を経て、ヒトBM及びUCBから分離した。2つの起源から得られた前記MSC類似単核細胞に対して、次の特性を確認した:(1)幹性(stemness)(増殖性)、(2)付着性、(3)防錘状、(4)フローサイトメトリー(flow cytometry)を使用した細胞表面抗原、並びに骨及び軟骨のような間葉組織への分化能。
【0099】
前記(1)ないし(3)の基準を充足させると確認された、2つの起源から得られたMSC類似細胞で確認された細胞の表面抗原表現型は、CD14、CD34、CD45(造血マーカー:hemapoietic marker)、及びHLA−DR(クラスIIマーカー)に対して陰性であり、CD29、CD44、CD73、CD105、CD90(間葉幹細胞マーカー)、及びHLA−ABC(クラスIマーカー)に対して陽性であった。線維芽細胞も、前記のところと同じセットの表面抗原を発現し、付着性防錘状の良好に増殖する細胞であるために、骨及び軟骨のような間葉組織へのMSCの適切な分化潜在力(differentiation potential)を確認するために、MSC類似単核細胞に対してさらに特性を確認した。
【0100】
(2)各タイプのMSCの軟骨分化能及び特性確認
BM−MSCまたはUCB−MSCを、6週間軟骨分化培地にペレット培養法によって培養し、軟骨生成を誘導した。軟骨分化培地は、500ng/ml BMP−6(R&D System、Minneapolis、MN、USA)、10ng/ml TGF−β3(Sigma)、ITS+Premix(6.25μg/mlインシュリン、6.25μg/mlトランスフェリン、6.25ng/mlセレン酸(selenious acid)、1.25mg/ml BSA及び5.35mg/mlリノール酸(linoleic acid)、1:100 dilution、Becton Dickinson)、100nMデキサメタゾン(Sigma)、50μg/mlアスコルベート−2−ホスフェート、40μg/ml L−プロリン(Sigma)及び100μg/mlピルベート(Sigma)で補充された高グルコースDMEM(Dulbecco's modified Eagle medium)を使用した。前記軟骨分化培地は、軟骨生成分野の当業者に一般的に使われているものである(“Pellet Culture”in Materials and Methods of PNAS,Vol.99,No.7,pp.4397-4402(2002);“Chondrogenesis”in MATERIALS AND METHODS of Stem cells,20(2002):530-41参照)。前記軟骨分化培地で、UCB−MSC及びBM−MSCは、軟骨細胞(chondrocyte)に容易に分化すると知られている。
【0101】
培養は、4ないし6継代にあるMSCをトリプシンで除去した後、前記軟骨分化培地に懸濁し、5x10
5/mlにした。次に、この懸濁液を、15−mlポリプロピレン・チューブに添加し、500gで5分間遠心分離し、得られたペレットを培養した。培地は、1週で2回交換し、経時的にペレットをパラフィン中に内包された4%パラホルムアルデヒドで固定し、5μm切片を作った。前記切片を、サフラニン−Oで染色し、陰イオン性プロテオグリカンを検出した。また、前記切片を、タイプIIコラーゲンに対して免疫染色した。軟骨分化は、ペレット培養物中に球が形成されているか否か、サフラニン−Oまたはヘマトキシリンによるカウンター染色で、軟骨特異的プロテオグリカンに存在するか否か、及びタイプIIコラーゲンに対する免疫染色で、タイプIIコラーゲンが存在するか否かによって決定した。
【0102】
図7は、in vitroで、UCB−MSCとBM−MSCとの軟骨分化を示す図面である。
図7において、a、c及びe;b、d及びfは、UCB−MSCとBM−MSCとに係わる1週、3週、及び6週でのサフラニン−O染色結果を示している。g及びhは、UCB−MSCとBM−MSCとに係わる6週でのタイプIIコラーゲン免疫染色の結果を示している。
【0103】
6週で、サフラニン−O特異的オレンジ−レッド染色は、BM−MSCに比べ、UCB−MSCでさらに明確であった(e及びf参照)。また、6週でのコラーゲンII免疫染色(矢印で表示された部分)は、BM−MSCに比べ、UCB−MSCでさらに明確であった(g及びh参照)。
【0104】
1週でのサフラニン−O特異的オレンジ−レッド染色は、両細胞で明確な差を示していておらず、3週でのBM−MSCは、軟骨形態を全く示さない一方、UCB−MSCは、軟骨細胞の形態を示し始めている。UCB−MSCに対して、3週でのペレット外部は、軟骨膜類似細胞(perichondrium-like cells)が観察され、内部は、サフラニン−Oに弱く染色され始め、細胞外マトリックス(extra-cellular matrix)が分泌されているということを示している。6週でBM−MSCは、あたかも3週目のUCB−MSCの軟骨形成レベル程度を示す一方、UCB−MSCは、典型的な軟骨組織の様子を示した。
【0105】
機能を行う正常な軟骨細胞の形成有無を確認するために、コラーゲンII免疫染色を実施したとき、矢印が指すように褐色を呈する陽性所見を観察することができた。これは、UCB−MSCがBM−MSCと比較し、優秀な陽性を示したために、軟骨形成能にすぐれているといえる。
【0106】
結論として、
図6に図示されているように、UCB−MSCは、BM−MSCより軟骨生成能に顕著にすぐれている。
【0107】
図8は、UCB−MSC及びBM−MSCの軟骨生成細胞系(chondrogenic lineage)への分化能を示す図面である。UCB−MSC及びBM−MSCの軟骨生成細胞系への分化能を決定するための実験は、4ないし6継代にあるMSCをトリプシン処理して除去した後、前記軟骨分化培地で懸濁し、5x10
5cells/mlにした。次に、この懸濁液を15mlポリプロピレン・チューブに添加し、500gで5分間遠心分離し、得られたペレットを培養した。培地は、1週に2回交換しつつ培養した。
【0108】
図8に図示されているように、総10個のUCB−MSC試料中の7個(すなわち、70%)が分化能を示した一方、総10個のBM−MSC試料中の5個(すなわち、50%)が分化能を示した。6週でのペレット領域サイズは、BM−MSCのペレット領域(n=5,346531.3±87396.6μm
2)に比べ、UCB−MSCのペレット領域(n=7,1450123.7±24256.9μm
2)(p<0.02)がはるかに大きかった。ペレット及びサフラニン−O陽性領域は、i−solution software(IM Technology、Doosan、Daejeon)で測定した。
【0109】
図9は、6週で本実施例で分析されたそれぞれ10個のBM−MSC細胞タイプ及びUCB−MSC細胞タイプの軟骨分化を示すものである。
図9に図示されているように、サフラニン−Oによる軟骨プロテオグリカン特異的オレンジ−レッド染色は、UCB−MSCの場合、7個細胞タイプ(Aの上段で7個及び下段で2個)で明確であったが、BM−MSCの場合、5個細胞タイプ(Bの上段5個)で明確であった。すなわち、UCB−MSCは、総細胞タイプのうち70%が軟骨生成細胞系に分化されたが、BM−MSCは、50%だけ軟骨生成細胞系に分化した。
【0110】
図10は、6週でのUCB−MSCとBM−MSCとの軟骨生成能の違いを示す図面である。
図10は、同じ数のMSCを使用し、同じ軟骨生成条件(chondrogenic conditions)下で6週間培養された後、UCB−MSCから生成された軟骨ペレットと、BM−MSCから生成された軟骨ペレットとの差をさらに明確に示している。
図9に図示されているように、BM−MSCに比べ、UCB−MSC由来の軟骨ペレットが明確にさらに大きい。また、BM−MSCに比べ、ラクナを取り囲む軟骨細胞類似細胞を有したUCB−MSC由来の軟骨ペレットで、軟骨特異的プロテオグリカン・マトリックスは、さらに豊富であって明確であった。これは、同じin vivo軟骨生成条件で、BM−MSCに比べてUCB−MSCが、顕著に優秀な軟骨分化能を有するということを示している。
【0111】
前記のように、BM−MSCに比べてUCB−MSCは、統計的に有意に(significantly)高い軟骨分化能を有している。これは、同一にMSCであると命名されたとしても、互いに顕著に異なる分化的細胞特性(differential cellular feature)を有するいうことを示している。すなわち、同じMSCであっても、互いに異なる細胞タイプで分類されるということを示している。本実施例は、(1)分化が、末端分化された線維芽細胞(fibroblast)とは異なるMSCの自己同一性(identity)だけではなく、(2)特に、各タイプのMSCが分離された源泉組織(source tissue)の起源(origin)と年齢とに依存する、細胞タイプの差を検査するために使われるということを示している。
【0112】
前記軟骨生成培地は、UCB−MSC及びBM−MSCに係わって、同じものを使用した。また、前記培地に含まれた成長因子の組み合わせは、BM−MSCの軟骨生成のために導入されたものであって、当業界に周知である(Biochemical and Biophysical Research Communications 320(2004):914-919の要約書、Materials and Methodsの“Cell culture”and“Pellet culture”参照)。従って、本実施例に使われた特定の培地条件は、UCB−MSCの軟骨生成能に有利に影響を及ぼすものではない。
【0113】
結論として、UCB−MSCは、BM−MSCに比べて顕著にすぐれたin vitroでの軟骨生成活性を有している。
【0114】
実施例5:UCB−MSCでのTSP2発現誘導因子の確認
本実施例では、培養条件を異ならせ、UCB−MSCでのTSP2発現誘導因子を確認した。
【0115】
まず、単層培養中の細胞をトリプシンを処理して除去し、UCB−MSCを無血清DMEM中で、5x10
5cells/mlの濃度に懸濁させて24時間培養した。使われた培地は、DMEM(100nMデキサメタゾン、50μg/mlアスコルベート−2−ホスフェート、40μg/ml L−プロリン及び100μg/mlピルベート含有)、及びDMEMに10ng/ml TGF−β3(Sigma)、500ng/ml BMP−6(R&D System、Minneapolis、MN、USA)及びITS+(6.25μg/mlインシュリン、6.25μg/mlトランスフェリン、6.25μg/mlセレン酸、1.25mg/ml BSA及び5.35mg/mlリノール酸、1:100 dilution、Becton Dickinson)から選択される成長因子を添加したものを使用した。培養は、単層培養またはペレット培養を行い、ペレット培養の場合、前記懸濁液を500gで5分間遠心分離し、細胞をペレット化させて培養した。
【0116】
培養上澄み液を回数した後、細胞破砕物を得て、この細胞破砕物から抽出された総RNAをテンプレートとして、RT(リアルタイム)−PCRを行い、TSP2のmRNAレベルを測定した。
【0117】
図11は、成長因子組み合わせの存在の下で、単層培養とペレット培養とを行った場合、TSP−2の発現を示す図面である。
図11に図示されているように、ペレット培養でTSP−2発現が顕著に増加した。また、
図11によれば、成長因子は、TSP2発現に影響を及ぼしていない。
【0118】
実施例6:軟骨生成に適した細胞タイプの選択
本実施例では、UCB−MSCを、軟骨生成を誘導しない培地で培養した後、TSP−2発現量が、UCB−MSCの軟骨分化能と関連性があるか否かを確認した。具体的には、C3 UCB−MSC及びC5 UCB−MSCの細胞タイプを、無血清DMEM(100nMデキサメタゾン、50μg/mlアスコルベート−2−ホスフェート、40μg/ml L−プロリン及び100μg/mlピルベートを含有)培地で、5x10
5cells/mlの濃度で単層培養及びペレット培養を行った。培養条件は、実施例5に示されているところと同一であった。上澄み液中のTSP−2発現量は、ELISAを介して測定した。また、BM−MSCも同じ条件で培養した。
【0119】
図12は、UCB−MSC細胞タイプによるTSP−2発現程度を示す図面である。
図12で、C3及びC5は、UCB−MSC細胞タイプであり、naive及びpelletは、それぞれ単層培養及びペレット培養で24時間培養したものである。培養過程及び培養後の光学顕微鏡観察の結果は、
図1のC3及びC5と同一である。
図12に図示されているように、C5について、naive培養した場合、TSP−2発現量は、33ないし72pg/ml/1.0x10
5cellsであり、pellet培養した場合、163ないし550pg/ml/1.0x10
5cellsであった。C3 UCB−MSC細胞及びC5 UCB−MSC細胞の軟骨生成能は、C3がC5に比べてすぐれているとあらかじめ確認された。従って、未知の細胞が、軟骨生成能にすぐれているか否かということは、基準細胞、例えば、C5 UCB−MSC細胞のTSP−2発現量と比較することによって決定されてもよい。例えば、標的細胞が1日naive培養された場合、TSP−2発現量が、33ないし72pg/ml/1.0x10
5cellsより高いか、あるいはpellet培養した場合、163ないし550pg/ml/1.0x10
5cellsよりも高ければ、軟骨生成能が、C5よりすぐれていると決定することができる。かような方法で、軟骨生成に適した細胞を選抜することができる。
【0120】
軟骨生成に適した細胞を選抜する基準によって、標準細胞は、当業者によって適切に選択されうる。
【0121】
図12に図示されているように、幹細胞をペレット培養することによって、TSP−2の発現が顕著に増加した。
【0122】
図13は、C3 UCB−MSC及びC5 UCB−MSCを3日間ペレット培養し、TSP−2発現量を測定した結果である。
図13に図示されているように、軟骨分化能が良好であるC3に比べて、軟骨分化能が良好ではないC5では、培養時間が経過しても、TSP−2の発現量がC3に比べて大きくなかった。
【0123】
従って、TSP−2発現量は、UCB−MSCの軟骨分化能と関連性を有しており、TSP−2発現量を測定することによって、MSCの軟骨分化能を予測することができる。
【0124】
図26は、UCB−MSCとBM−MSCとのペレット培養後のTSP−2発現レベルを測定した結果を示す図面である。
図26に図示されているように、BM−MSCに比べてUCB−MSCが、TSP−2を顕著に高い割合で発現した。これは、実際にUCB−MSCとBM−MSCとの軟骨分化度が、UCB−MSCがすぐれているということと関連性があることを提示している。
【0125】
図26の結果は、単層培養中の細胞をトリプシンを処理して除去し、UCB−MSC及びBM−MSCを無血清DMEM中で、5x10
5cells/mlの濃度に懸濁させて24時間培養した。使われた培地は、DMEM(100nMデキサメタゾン、50μg/mlアスコルベート−2−ホスフェート、40μg/ml L−プロリン及び100μg/mlピルベート含有)を使用した。培養は、ペレット培養を行い、500gで5分間遠心分離して細胞をペレット化させて24時間培養した。培養上澄み液を回数した後、TSP−2ELISAを実施した。
【0126】
実施例7:軟骨分化及び軟骨脱分化の条件で、UCB−MSCによるTSP−2発現
本実施例では、軟骨分化及び軟骨脱分化の条件で、UCB−MSCによるTSP−2発現量を測定し、TSP−2発現量と軟骨分化との関連性を確認した。
【0127】
(1)軟骨分化条件での軟骨前駆細胞によるTSP−2発現
胎児マウスの肢芽(limb bud)から軟骨細胞の前駆細胞を分離した。分離された前駆細胞の4x10
7cells/mlを、培地(DMEM/F−12(2:3)、10%(v/v)FBS、50μg/mlストレプトマイシン、50ユニット/mlペニシリンを含有)に再浮遊(resuspension)させ、15μl液滴ずつ培養皿に落とし、独立した点(spot)状で付着させた後で6日間培養し、点別にそれぞれ軟骨分化を誘導した。TSP−2の発現量を、細胞から分離された総RNAをテンプレートにしたRT−PCRを介して測定した。
【0128】
図14は、分化及び脱分化の条件で、軟骨前駆細胞または軟骨細胞によるTSP−2発現量を示している。
図14のAに図示されているように、分化条件でのTSP−2発現量は、培養時間が経過するにつれて増加した。
【0129】
(2)軟骨脱分化条件で軟骨細胞によるTSP−2発現
2週齢ウサギの膝関節から軟骨細胞を分離した。分離された軟骨細胞を、5ng/ml IL−1βの存在下で、培地(DMEM、10%(v/v)FBS、50μg/mlゲンタマイシンを含有)中で培養して脱分化を誘導した。IL−1βは、炎症性サイトカインであって、軟骨細胞を脱分化させて軟骨細胞の性質を失わせる性質を有している。TSP−2の発現量を、細胞から分離された総RNAをテンプレートにしたRT−PCRを介して測定した。
【0130】
図14のBに図示されているように、脱分化条件でのTSP−2発現量は、培養時間が経過するにつれて減少した。
【0131】
以上の結果から、TSP−2の発現は、軟骨細胞の分化及び脱分化と関連があるということが分かる。
【0132】
実施例8:TSP−2によるUCB−MSCの軟骨分化誘導
本実施例では、TSP−2の存在下で、UCB−MSCを培養して軟骨分化を誘導した。培地は、前記の軟骨生成培地を使用した。組み換えTSP−2(R&D System、Minneapolis、MN、USA)は、10ng/mlないし500ng/mlの量で培地中に添加し、ペレット培養した。初期濃度は、5x10
5cells/mlであった。培養した後、細胞から分離された総RNAをテンプレートとして、軟骨細胞マーカーのコラーゲンタイプII(Col IIA1)、アゲレカン(Acan)、Sox−9及びTSP−2、並びに肥大軟骨細胞(hypertrophic chondrocyte)と骨とのマーカーであるCol 1A1及びCol XA1に特異的なプライマーを使用してRT−PCRを行い、それらマーカーのmRNA発現量を測定した。
【0133】
図15、
図16及び
図17は、TSP−2の存在下で培養されたUCB−MSCのマーカー蛋白質発現量を示す図面である。
図15、
図16及び
図17に図示されているように、軟骨細胞マーカーであるコラーゲンタイプII(Col IIA1)、アゲレカン(Acan)及びSox−9の発現は、1週で濃度依存的に増加した。一方、肥大軟骨細胞と骨とのマーカーであるCol 1A1及びCol XA1は、経時的に減少したり、あるいは発現していない。
【0134】
従って、外来から添加されたTSP−2は、UCB−MSCに対して、軟骨細胞への分化を促進するということが分かる。
【0135】
実施例9:TSP−2発現抑制条件でのUCB−MSCの軟骨分化誘導
本実施例では、TSP−2発現抑制条件で、UCB−MSCを軟骨生成培地で培養して軟骨細胞分化を誘導した。
【0136】
TSP−2のmRNAに対して相補的である配列を有するsiRNA(Bioneer、Daejeon、韓国、センス配列:配列番号9、アンチセンス配列:配列番号10)を、培地中に33nMの濃度で添加してTSP−2発現を抑制した。培地は、前記の軟骨生成培地を使用し、ペレット培養した。初期濃度は、5x10
5cells/mlであり、7日間培養した。TSP−2の発現量は、UCB−MSCから抽出された総RNAをテンプレートとして、TSP−2に特異的なプライマーをプライマーとして使用したRT−PCRによって測定するか、あるいは培養上澄み液に係わるELISAを介して測定した。軟骨細胞マーカーであるCol IIA1とアゲレカンは、RT(リアルタイム)−PCRを介して測定した。
【0137】
図18は、TSP−2発現抑制条件で、軟骨生成培地で培養されたUCB−MSCの軟骨分化程度を示している。
図18に図示されているように、TSP−2発現抑制条件、すなわち、TSP−2 siRNAの存在下で、UCB−MSCは、軟骨細胞マーカーであるCol IIA1及びアグレカンの発現が、対照群に比べて顕著に減少した。これは、TSP−2が、UCB−MSCの軟骨分化を誘導したり促進するということを示している。
図18で、A及びBは、TSP−2の濃度をそれぞれRT−PCR及びELISAを介して測定したものであり、C及びDは、Col IIA1及びアグレカンを、RT−PCTを介して測定したものである。
【0138】
実施例10:骨関節炎患者の血漿でのTSP−2レベル
本実施例では、正常人(15人)と骨関節炎患者(28人)との血液を採取した後、血漿中のTSP−2のレベルをELISAを利用して測定した。
【0139】
図19は、正常人と関節炎患者との血漿でのTSP−2レベルを示す図面である。
図19に図示されているように、正常人の血漿に比べ、関節炎患者で、TSP−2レベルが高かった。これは、血液中のTSP−2レベルが、関節炎を診断できるマーカーとして作用しうるということを示している。また、関節炎だけではなく、軟骨分化と関連した疾患の診断のためのマーカーとして作用しうるということを示している。
【0140】
実施例11:関節炎患者の関節液によるUCB−MSCでのTSP−1発現
本実施例では、関節炎患者の関節液が、UCB−MSCでTSP−1発現に及ぼす影響を確認した。
【0141】
関節炎患者の関節液の存在下で、UCB−MSCを培養した。UCB−MSCは、MEM−α、10%(v/v)FBS及び50μg/mlゲンタマイシン含有の培地で、5−6日間培養した。関節液を添加するときにUCB−MSCは、培養容器面積の70−80%レベルで培養中であった。関節炎患者の関節液は、UCB−MSCが培養されている培地を、MEM−α及び50μg/mlゲンタマイシン含有培地に交換した後、20(v/v)%濃度に添加した後、3時間さらに培養した。その後、得られた培養液を分析試料として使用した。また、前記関節液を添加していない状態で培養されたUCB−MSC培養液と、培養されていない培地に前記関節液を20(v/v)%濃度になるように添加した培地とを対照群として分析した。前記関節液は、退行性関節炎患者から得た。
【0142】
図20及び21は、関節炎患者の関節液存在下で、UCB−MSCのTSP−1発現量を示している。
図20でMSC onlyは、UCB−MSCを関節液なしに培養したものであり、JF#1、JF#2及びJF#3は、それぞれ異なる患者の関節液であり、triplicateで実験した結果である。
図21でTSP−1発現量は、UCB−MSCから抽出された総RNAをテンプレートとして、TSP−1に特異的なプライマーをプライマーとしたRT−PCRによって測定した。
【0143】
図21でJFは、患者の関節液を示す。
図21でTSP−1発現量は、UCB−MSCの培養上澄み液に対してELISAを介して測定した。
図21に図示されているように、関節炎患者の関節液存在下で培養されるUCB−MSCは、関節炎患者の関節液が存在しない培地で培養されたUCB−MSC、または20%関節炎患者の関節液のみ添加された培地で培養された培養物中のTSP−1発現量に比べ、相乗的に増加したTSP−1を発現した。
【0144】
実施例12:IL−17BRの軟骨分化能との関連性
軟骨分化能の差を示すUCB−MSC細胞タイプを、軟骨分化培地で1週間ペレット培養して軟骨分化を誘導する。細胞を溶解させて得た全体RNAをテンプレートとして、RT−PCR(real time−PCR)を行い、IL−17BR mRNA量を測定した。
【0145】
図22は、軟骨に分化されたUCB−MSCを溶解させ、IL−17BR mRNAの量を、RT−PCRを介して分析する結果を示す図面である。
【0146】
図22に図示されているように、細胞の軟骨分化能によって、IL−17BR mRNA発現レベルが変わった。すなわち、C2とC3との細胞は、IL−17BR mRNAを発現し、その程度は分化能の高いC2が、C3に比べて8.9倍高かった。一方、軟骨分化能の弱いC5は、IL−17BR mRNAを発現していない。
【0147】
実施例13.関節炎患者の関節液が細胞のHB−EGF発現に及ぼす影響
実施例1に記載された方法と類似の方法で、関節炎患者の関節液を10(v/v)%濃度になるように添加された培地で、UCB−MSCを6時間培養した後、細胞から全体RNAを得た後、RT−PCRによって、HB−EGF mRNA量を測定した。対照群として、関節液を添加していない培地を使用したことを除いては、同じ条件でUCB−MSCを培養した。
【0148】
図23は、関節炎患者の関節液の存在下で培養されたUCB−MSCで、HB−EGF mRNAを測定した結果を示す図面である。
図23で、C3及びC5は、UCB−MSCであり、BM−MSCは、骨髄由来間葉幹細胞であり、BEAS−2Bは、肺由来気管支上皮細胞であり、JFは、関節液(joint fluid)である。
図23に図示されているように、UCB−MSCでのHB−EGF発現は、関節炎患者の関節液によって顕著に増加した一方、BM−MSC及びBEAS−2Bでは、大きく増加していない。関節炎患者の関節液によって、UCB−MSCは、BM−MSCに比べて2倍(C5 UCB−MSC)ないし8.4倍(C3UCB−MSC)多くHB−EGFを発現した。
【0149】
これは、関節炎患者の関節液によって、特異的にUCB−MSCでHB−EGF発現が誘導されるということを示している。これはまた、関節炎病変部位で、BM−MSCに比べてUCB−MSCが、HB−EGFを顕著に多く発現させるということを示している。
【0150】
また、UCB−MSC及び患者によるUCB−MSCで、関節液によるHB−EGF発現の程度を測定した。UCB−MSCは、C3及びC5を使用し、3人の患者から採取された関節液(それぞれJF1、JF5及びJF11と表記)を使用した。培養条件及びHB−EGF測定条件は、
図20に示されている通りである。表1は、UCB−MSC及び患者によるUCB−MSCで、関節液によるHB−EGF発現量をRT(real time)−PCRによって分析した結果を示している。
【0151】
【表1】
【0152】
表1に図示されているように、UCB−MSCは、関節炎患者の関節液と培養する場合、UCB−MSCは、HB−EGFを対照群に比べて9.2ないし46.9倍多く発現した。
【0153】
実施例14:軟骨細胞死滅条件でのUCB−MSCによるHB−EGFの発現
本実施例では、軟骨細胞死滅条件で、UCB−MSCによるHB−EGF発現程度を分析した。まず、2週齢ウサギの関節から軟骨細胞を分離した。分離された軟骨細胞を、DMEM及び10%(v/v)FBS含有培地中で5日間6ウェルプレートで培養し、この培養中である軟骨細胞を実験に使用した。UCB−MSC培養は、SNP(sodium nitroprusside)、または前記ウサギ由来軟骨細胞存在下でなされた。培養は、前記条件で24時間なされた。SNPは、500μMで添加した。SNPは、一酸化窒素を生成する化合物であり、軟骨細胞の死滅を誘導すると知られている。SNP添加は、関節炎患者で起こる環境を、in vitroで摸倣したものである。また、前記ウサギ由来軟骨細胞は、トランスウェル・チャンバ(transwell chamber)(BD Falcon、San Jose、California、USA、Cell Culture inserts for 6−well plates、0.4μm、translucent PET membrane)の下段で培養し、前記UCB−MSCは、チャンバの上段で共同培養した。
【0154】
HB−EGFの発現いかんは、培養物から細胞を分離して破砕した後、同じ濃度の破砕物に対して、抗HB−EGF抗体及び抗HB−EGF抗体に特異的に結合する抗体に、蛍光標識を付着させて使用した免疫ブロッティングによって測定した。
【0155】
図24は、軟骨細胞死滅条件で培養されたUCB−MSCでのHB−EGF発現量を示している。
図24に図示されているように、軟骨細胞死滅条件でUCB−MSCは、HB−EGFを発現していないが、ウサギ由来軟骨細胞と共同培養する場合、HB−EGFを発現した。
【0156】
また、HB−EGF存在下で、前記ウサギ由来軟骨細胞を培養して軟骨細胞が保護されるか否かを確認した。
図25は、HB−EGF存在下で培養されたウサギ由来軟骨細胞を、光学顕微鏡で観察した結果を示す図面である。
図25に図示されているように、対照群(上段)では、SNP濃度依存的に軟骨細胞が死滅したが、50ng/ml HB−EGFを含む培地では、軟骨細胞の死滅が濃度依存的に抑制されている。これは、HB−EGFによって、軟骨細胞のSNPによる死滅が抑制されるということを示している。