(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6271625
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】放射性廃液の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
G21F 9/06 20060101AFI20180122BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
G21F9/06 G
G21F9/12 501D
G21F9/12 501F
G21F9/12 512D
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-65167(P2016-65167)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-181144(P2017-181144A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2017年1月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】住谷 貴子
(72)【発明者】
【氏名】菅野 真貴
(72)【発明者】
【氏名】野下 健司
(72)【発明者】
【氏名】三宅 俊介
(72)【発明者】
【氏名】三宮 豊
(72)【発明者】
【氏名】横北 卓也
(72)【発明者】
【氏名】山口 献
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬
(72)【発明者】
【氏名】山根 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】増子 雄太
【審査官】
藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−114315(JP,A)
【文献】
特開2016−001115(JP,A)
【文献】
特開2014−145687(JP,A)
【文献】
特開昭60−054786(JP,A)
【文献】
特開2015−059870(JP,A)
【文献】
特開2016−187789(JP,A)
【文献】
特開2013−152218(JP,A)
【文献】
特開2003−275757(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0263073(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F9/04、9/06、9/12
C02F1/28、C02F1/58−1/64
B01D15/00−15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力施設から発生する酸性または中性の放射性廃液の処理方法であって、
アルカリ成分を溶出するpH緩衝材により前記放射性廃液のpHを調整するpH調整工程と、
前記pH調整工程にて処理した液から、Sr吸着材を用いてSrを除去するSr除去工程と、を含む、放射性廃液の処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の放射性廃液の処理方法であって、
さらに、前記pH調整工程の前に、前記放射性廃液に酸を添加することにより吸着材では吸着されない形態で存在する非吸着性SrをSrイオンに分解する非吸着性Sr分解工程を含む、放射性廃液の処理方法。
【請求項3】
請求項2記載の放射性廃液の処理方法であって、
さらに、前記非吸着性SrがSr錯体であって、前記非吸着性Sr分解工程の後に前記Sr錯体が前記Srイオンと配位子とに分解し、配位子吸着材により前記配位子を除去する錯体除去工程を含む、放射性廃液の処理方法。
【請求項4】
請求項3記載の放射性廃液の処理方法であって、
前記酸は、塩酸又は硫酸であり、
前記配位子吸着材は、イミノジ酢酸型、ポリアミン型及びグルカミン型のキレート樹脂吸着材である、放射性廃液の処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の放射性廃液の処理方法であって、
前記pH緩衝材は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト又は水酸化鉄である、放射性廃液の処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の放射性廃液の処理方法であって、
前記Sr吸着材は、ケイチタン酸系化合物、チタン酸化合物又はゼオライトである、放射性廃液の処理方法。
【請求項7】
原子力施設から発生する放射性廃液の処理装置であって、
前記放射性廃液とアルカリ成分を溶出するpH緩衝材とを混合するpH調整ユニットと、
前記pH調整ユニットから送られる液に含まれるSrを除去するSr吸着材を充填したSr吸着材入り容器と、を備え、
前記pH調整ユニットは、前記pH緩衝材が充填されたpH緩衝材入り容器を含む、放射性廃液の処理装置。
【請求項8】
請求項7記載の放射性廃液の処理装置であって、
前記pH緩衝材入り容器に充填された前記pH緩衝材を前記pH緩衝材入り容器から取り出し、入れ替え用のpH緩衝材を前記pH緩衝材入り容器に充填することができるように構成されている、放射性廃液の処理装置。
【請求項9】
原子力施設から発生する放射性廃液の処理装置であって、
前記放射性廃液とアルカリ成分を溶出するpH緩衝材とを混合するpH調整ユニットと、
前記pH調整ユニットから送られる液に含まれるSrを除去するSr吸着材を充填したSr吸着材入り容器と、を備え、
前記pH調整ユニットは、処理対象水貯蔵容器であるバッファタンクを含み、
前記pH緩衝材は、前記バッファタンクに供給される構成である、放射性廃液の処理装置。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の放射性廃液の処理装置であって、
さらに、前記放射性廃液を供給する第1のタンクと、処理水受入タンクである第2のタンクと、を備え、
前記pH調整ユニット及び前記Sr吸着材入り容器は、前記第1のタンクと前記第2のタンクとの間に配置されている、放射性廃液の処理装置。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか一項に記載の放射性廃液の処理装置であって、
さらに、前記放射性廃液に酸を添加して非吸着性SrをSrイオンに分解する酸添加ユニットを備え、
前記酸添加ユニットは、前記pH調整ユニットの上流側に配置されている、放射性廃液の処理装置。
【請求項12】
請求項11記載の放射性廃液の処理装置であって、
さらに、前記酸により前記放射性廃液に含まれるSr錯体が分解して生じる配位子を除去する配位子吸着材入り容器を備え、
前記配位子吸着材入り容器は、前記pH調整ユニットの上流側に配置されている、放射性廃液の処理装置。
【請求項13】
原子力施設から発生する放射性廃液の処理装置であって、
前記放射性廃液とアルカリ成分を溶出するpH緩衝材とを混合するpH調整ユニットと、を備え、
前記pH調整ユニットは、前記pH緩衝材が充填されたpH緩衝材入り容器を含み、
前記pH緩衝材入り容器には、前記pH緩衝材及びSr吸着材が充填されている、放射性廃液の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃液の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設から発生する放射性廃液には、多様な放射性核種が含まれており、特に放射性廃液中の放射性Srを除去するためには、Srを吸着除去可能な吸着材(Sr吸着材)に処理対象となる放射性廃液(以下「処理対象水」という。)を通水する方法がある。
【0003】
Sr吸着材による放射性Srの吸着除去を効率良く実施するためには、処理対象水のpH(水素イオン指数)をアルカリ領域に調整する必要があるが、酸性または中性の処理対象水に水酸化ナトリウム等のアルカリ剤を直接注入すると、処理対象水の中で局所的に高アルカリとなる箇所が発生し、処理対象水中に存在するCa
2+やMg
2+などの金属イオンが炭酸塩や水酸化物として析出してしまう。
【0004】
pHの調整方法はいくつかあるが、酸剤やアルカリ剤を処理対象水に注入して所定のpHに調整する方法が主に用いられている。使用される酸剤としては塩酸や硫酸、アルカリ剤としては水酸化ナトリウムなどがある。また、最終的に中性付近にpHを制御する場合は、炭酸ナトリウムなど使用することがある。さらに、pHを調整する材料(以下「pH緩衝材」という。)として固体の炭酸塩鉱物などを利用する方法もある。
【0005】
特許文献1には、農薬排水をpH緩衝材として作用する炭酸塩鉱物に接触させた後、生物担体で農薬を除去する農薬排水の処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−15285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸性または中性領域にある処理対象水のpHをアルカリ領域とするために、処理対象水中に水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ剤を連続的に注入すると、アルカリ剤の注入点近傍のpHが局所的に高pHとなってしまい、処理対象水に含まれるCa
2+やMg
2+等の金属イオンが、炭酸塩や水酸化物として析出してしまう。その結果、析出物が配管内面や後段のSr吸着材に付着し、配管の閉塞やSr吸着塔の差圧上昇の要因になるといった問題が生じる。析出物の発生を抑制するため、低濃度の水酸化ナトリウム溶液を注入してpHを調整しようとすると、反応性が低い分、多量の溶液が必要となり、廃棄物の増加につながるといった課題が生じる。
【0008】
処理対象水に含まれる放射性Srを除去するためには、Sr吸着材に処理対象水を通水する方法がある。Sr吸着材の除去性能は、処理対象水のpHを適切なアルカリ領域とした上で通水すると効率よく発揮されることが判明している。
【0009】
図1は、Sr吸着材であるケイチタン酸化合物のSr吸着性能のpH依存性を示したものである。ここで、ケイチタン酸化合物は、ケイ素、チタン、酸素などが結合して形成された化合物であって、細孔を含む立体構造を有するものであり、ストロンチウムを吸着する機能を有する。
【0010】
図1では、pH3のときのSr吸着性能(Srに対する分配係数)を1として、その他のpHにおけるSr吸着性能は、pH3のときのSr吸着性能に対する相対値で示している。
【0011】
図1のとおり、pHがアルカリ領域になるにつれて、ケイチタン酸化合物のSr吸着性能が向上している。しかしながら、pHが酸性から中性領域の処理対象水へのアルカリ剤の直接注入によってpHを上げようとしても、注入したアルカリ剤が析出物の生成により多く寄与してしまい、処理対象水のpHを上げることができない状態でSr吸着材へ通水することになり、Sr吸着材の除去性能が効率良く発揮されずに短寿命になるといった課題がある。
【0012】
本発明の目的は、放射性廃液の処理においてSr吸着材の性能を維持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、原子力施設から発生する酸性または中性の放射性廃液の処理方法であって、アルカリ成分を溶出するpH緩衝材により放射性廃液のpHを調整するpH調整工程を含む。
【0014】
また、本発明は、原子力施設から発生する放射性廃液の処理装置であって、放射性廃液とpH緩衝材とを混合するpH調整ユニットを備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、放射性廃液の処理においてSr吸着材の性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】Sr吸着材であるケイチタン酸化合物のSr吸着性能のpH依存性を示すグラフである。
【
図2】実施例1の放射性廃液の処理方法を示すフロー図である。
【
図3】実施例1の放射性廃液の処理装置を示す概略構成図である。
【
図4】実施例1のpH緩衝材の試験結果を示すグラフである。
【
図5】実施例2の放射性廃液の処理方法を示すフロー図である。
【
図6】実施例2の放射性廃液の処理装置を示す概略構成図である。
【
図7】実施例2のSr吸着材の性能試験結果を示すグラフである。
【
図8】実施例3の放射性廃液の処理方法を示すフロー図である。
【
図9】実施例3の放射性廃液の処理装置を示す概略構成図である。
【
図10】実施例3の非吸着性Srのイオン化処理の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、廃水などを処理する水処理においてアルカリ成分を溶出するpH緩衝材を充填した容器に処理対象水を通水することによりpHを調整する方法及び処理装置に関する。
【0018】
本発明は、廃水などを処理する水処理においてアルカリ成分を溶出するpH緩衝材を充填した容器に処理対象水を通水することによりpHを調整した後、Srを吸着する材料を用いて処理対象水中のSrを除去する方法及び処理装置に関する。
【0019】
すなわち、本発明においては、酸性または中性の処理対象水を、固体のpH緩衝材を充填した容器に連続通水する。pH緩衝材からのアルカリ成分の放出は、用いるpH緩衝材の溶解平衡で制限されるため、処理対象水のpHは、局所的な高pHとならず、炭酸塩や水酸化物といった析出物の発生を防止することが可能になるとともに、Sr吸着材の吸着処理に最適なアルカリ領域にすることが可能となる。
【0020】
具体例として、pH緩衝材に酸化マグネシウム(MgO)を使用した場合の作用を示す。以下は、MgOが水と接触してアルカリ成分を放出する反応式を示したものである。
【0021】
(式1) MgO(s)+H
2O→Mg
2++2OH
−
(式2) 2OH
−+2H
+→2H
2O
式1は、MgOの溶解を示している。式2は、処理対象水が酸性の場合、式1のMgOの溶解に引き続き、酸(H
+)が中和される反応を示している。また、MgOの中性の水に対する溶解量は9.8×10
−3g/L(Mg(OH)
2換算)であり、MgOが飽和溶解した水のpHは10.3のため、MgOから放出されるアルカリ成分(OH
−)によって処理対象水が局所的にも高pHとならず、処理対象水にCaやMg、または炭酸イオンが含まれる場合であっても、沈殿物やスケールの発生を防ぐことが可能になる。
【0022】
本発明によれば、上記作用によって、pH緩衝材を充填した容器に酸性または中性の処理対象水を通水することで、処理対象水のpHが局所的に高pHになることを回避し、析出物の発生を防止する効果が得られる。また、処理対象水をSr吸着処理に適したpH領域にした上でSr吸着材を充填した容器に通水することで、容器内のSr吸着材の吸着性能維持期間を長期にわたって維持することができる。
【0023】
本発明は、廃水などを処理する水処理において、酸を添加することにより、処理対象水中の非吸着性ストロンチウム(吸着材で吸着可能なSrイオンの他に、Sr錯体やコロイド状のSrといったSr吸着材で吸着不可の形態のSrを「非吸着性Sr」と称す。)を分解した後、アルカリ成分を溶出するpH緩衝材を充填した容器に処理対象水を通水することでpHを調整した後、Srを吸着する材料を用いて処理対象水中のSrを除去する方法及び処理装置に関する。
【0024】
なお、本発明の処理方法により得られた液は、「処理済水」と呼ぶ。
【実施例1】
【0025】
以下、本発明の一実施例を
図2、
図3および
図4に沿って説明する。
【0026】
図2は、本実施例の放射性廃液の処理方法を示すフロー図である。
【0027】
図2のとおり、処理対象水を固体のpH緩衝材を充填した容器に通水することでpHを調整する(pH調整工程)。なお、pH緩衝材は、pH緩衝作用を有する固体材料である。
【0028】
このときの処理対象水は、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを調整すると、水酸化物等の析出物が生成する。
【0029】
表1は、実施例1で使用した処理対象水の水質を示したものである。なお、後述の実施例2においても同じ水質の処理対象水を用いた。
【0030】
なお、処理済水にSr除去工程を施した場合(実施例2参照。)、処理対象水のpHが初期値より増加することで使用するSr吸着材のSr吸着性能が向上する。
【0031】
【表1】
【0032】
本実施例においては、処理対象水のpHの初期値は、中性以下の所定値で調整している。本実施例では、通水流速を空間速度(SV)15(hr
−1)で設定しており、pH緩衝材は酸化マグネシウムを使用している。
【0033】
図3は、本実施例で用いた試験装置を示す概略構成図である。
【0034】
本図に示す試験装置は、処理対象水Sを貯留する処理対象水収集タンク1(第1のタンク)、供給ポンプ2、pH緩衝材入り容器3および処理水受入タンク4(第2のタンク)で構成されている。ここで、pH緩衝材入り容器3は、pH調整ユニットの構成要素である。ここで、処理対象水Sは、酸性又は中性の廃液である。
【0035】
なお、本図においては、pH緩衝材入り容器3にあらかじめpH緩衝材を入れておき、これに処理対象水Sを注入することにより、pH緩衝材と処理対象水Sとを混合しているが、本発明は、これに限定されるものではなく、pH調整ユニットにおいて処理対象水を貯留した状態でpH緩衝材を投入してもよい。本明細書においては、これらの方式を合わせて「pH緩衝材と処理対象水とを混合する」という。
【0036】
図4は、本実施例での通水日数ごとの処理対象水(ここで、処理対象水とは、表1に示す処理対象水のpHをpH3.5〜3.8に調整した水をいう。)のpHに対するpH緩衝材入り容器3の出口で採取した水のpHを測定し、pH緩衝材入り容器3を通過する前の処理対象水のpHとの差を、pH増加分を示したものである。pH増加分について式で表すと、次のようになる。
【0037】
(pH増加分)=(pH緩衝材入り容器出口水pH)−(処理対象水のpH)
図4のとおり、pH緩衝材入り容器出口水のpHは、通水期間が50日以上経過しても、処理対象水のpH初期値より高くできることを確認した。また、NaOH溶液等による連続的な薬液注入では、局所的にpHが高くなることで析出物が生成してしまう可能性があったが、pH緩衝材である酸化マグネシウムを充填した容器に処理対象水を通水することで、析出物が生成するpHを下回り、且つ後段のSr除去性能が発揮されるpHを上回る範囲に処理対象水のpHを調整できることを確認した。
【0038】
処理対象水の水質によっては、pH緩衝材入り容器出口水のpHが変化する。従って、最適なpH緩衝材を選定することで、析出物を発生させることなく目的のpHに調整することが可能となる。pH緩衝材の例としては、酸化マグネシウムのほかに、水酸化マグネシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、水酸化鉄等が挙げられる。
【実施例2】
【0039】
以下、本発明の一実施例を
図5、
図6および
図7に沿って説明する。
【0040】
なお、実施例1と重複する箇所は説明を省略する。
【0041】
図5は、
図2に示す実施例1の処理方法にSr除去工程を追加した実施例2の処理方法を示すフロー図である。
【0042】
図5においては、処理対象水をpH緩衝材に通してpHを調整した後に、Srイオンを吸着する材料(Sr吸着材)を充填した容器に通水することでSrを除去する(Sr除去工程)。本実施例に用いた処理対象水、通水流速およびpH緩衝材は、実施例1と同様である。また、Srイオンを吸着する材料として、ケイチタン酸化合物を使用している。
【0043】
図6は、本実施例の試験装置の概略構成を示したものである。
【0044】
図6の試験装置は、
図3の試験装置を構成する処理対象水収集タンク1、供給ポンプ2、pH緩衝材入り容器3及び処理水受入タンク4のほかに、Sr吸着材入り容器5を備えている。Sr吸着材入り容器5は、pH緩衝材入り容器3と処理水受入タンク4との間に配置されている。この構成により、pH緩衝材入り容器3を通過した液は、Sr吸着材入り容器5を通過する間に、Srが除去されるようになっている。
【0045】
図7は、本実施例のSr吸着材の性能がどれくらい維持されるか実測した結果を示すグラフである。縦軸のSr吸着性能は、処理対象水のSr濃度を1としたときの相対値であり、試験装置最終出口Sr濃度Cと試験装置入口Sr濃度C
0との比C/C
0で表している。また、比較例1としてpH緩衝材によるpH調整なしのときのデータも記載している。
【0046】
図7のとおり、pH調整なしのときの試験装置入口出口のSr濃度比C/C
0は、10日通水した時点でおよそ0.5にまで上昇している。これに対し、実施例1の
図4に示すpH調整後の処理対象水を通水したときの試験装置入口出口のSr濃度比C/C
0は、pH調整なしのときと比較すると低い値を示しており、50日以上通水しても顕著な上昇傾向は見られていない。言い換えると、Sr吸着性能は、50日以上維持されている。
【0047】
本図に示す結果から、pH緩衝材によるpH調整により、ケイチタン酸化合物のSr吸着性能維持期間が延びたことがわかる。なお、Srイオンを吸着する材料としては、ケイチタン酸化合物のほかにチタン酸化合物およびゼオライトが挙げられる。
【実施例3】
【0048】
以下、本発明の一実施例を
図8、
図9および
図10に沿って説明する。
【0049】
なお、実施例1および実施例2と重複する箇所は説明を省略する。
【0050】
図8は、処理対象水中に非吸着性Srが存在する場合の処理工程を示すフロー図である。
【0051】
図8においては、
図5に示す実施例2の処理方法の前処理として、酸を添加することにより、処理対象水中の非吸着性SrをSrイオンと配位子(ここで、配位子とは、非吸着性SrからSrイオンを分離した物質の総称とする。)とに分解し、その後、pH緩衝材に通してpHを調整し、Sr吸着材を充填した容器に通水することにより、Srを除去する。さらに、配位子を吸着する吸着材又はフィルタを用いて、配位子を除去してもよい。ここで、この前処理を「錯体分解除去工程」と呼ぶ。なお、「錯体分解除去工程」に含まれる分解工程は「非吸着性Sr分解工程」と呼び、「錯体分解除去工程」に含まれる除去工程は、「錯体除去工程」と呼ぶ。
【0052】
図9は、本実施例の試験装置の概略構成を示したものである。
【0053】
図9の試験装置は、
図6の試験装置を構成する処理対象水収集タンク1、供給ポンプ2、pH緩衝材入り容器3、Sr吸着材入り容器5及び処理水受入タンク4のほかに、酸供給タンク6、酸を供給するための供給ポンプ2、及び配位子吸着材入り容器7を備えている。処理対象水収集タンク1から供給された処理対象水は、酸供給タンク6から供給される酸と混合され、配位子吸着材入り容器7に送られる。配位子吸着材入り容器7で配位子を除去した後、pH緩衝材入り容器3に送られる。これにより、錯体となっていた非吸着性Srも除去することができる。なお、酸供給タンク6及び供給ポンプ2を合わせて「酸添加ユニット」と呼ぶ。
【0054】
追加した処理プロセス(酸添加による非吸着性Srのイオン化)の効果を確認するため、
図9に示すとおり、非吸着性Sr(Sr錯体)を含有する処理対象水に塩酸を添加した後、Sr吸着材入り容器5に通水する試験を実施した。このときの通水流速は、実施例1および実施例2と同様である。また、Srイオンを吸着する材料は、実施例2と同様である。配位子を吸着する材料としては、キレート樹脂吸着材を使用している。キレート樹脂吸着材としては、イミノジ酢酸型、ポリアミン型及びグルカミン型といった型式の化合物が知られている。
【0055】
表2は、本実施例で使用した処理対象水の水質を示したものである。
【0056】
本表に示すとおり、実施例1及び2とはpHのみ異なる処理対象水を用いた。すなわち、ほぼ中性(pH7.1)の処理対象水を用いた。
【0057】
【表2】
【0058】
図10は、
図9の試験装置による試験でおよそ14日通水したときのSr吸着材のSr吸着性能を示すグラフである。試験条件は、配位子吸着材入り容器7の入口で処理対象水のpHが3.5になるように酸供給タンク6から酸を供給するための供給ポンプ2によって塩酸を注入し、pH緩衝材入り容器3の出口で
図4に示すように処理対象水のpHを増加させて、Sr吸着材入り容器5に通水するものとしている。
図10の縦軸は、試験装置最終出口Sr濃度Cと試験装置入口Sr濃度C
0との比C/C
0で表しており、値が小さいほどSr吸着性能が高いことを示している。また、比較例2として
図9の試験装置による試験のうち非吸着性Srのイオン化処理およびpH緩衝材によるpH調整をしていないときのデータを、比較例3として
図9の試験装置による試験のうち非吸着性Srのイオン化処理のみを実施したときのデータを記載している。なお、およそ1日通水のしたときのSr吸着材のSr吸着性能も併記している。
【0059】
図10のとおり、非吸着性Srのイオン化処理およびpH緩衝材を用いたpH調整ともになし、すなわち比較例2におけるSr濃度比C/C
0は、通水1日でも14日でも0.1と変化しなかった。一方、非吸着性Srのイオン化処理あり、すなわち比較例3におけるSr濃度比C/C
0は、通水1日では4×10
−3と低い値を示すが通水14日になると5×10
−2に上昇した。この結果は、非吸着性Srのイオン化処理により初期のSr除去性能は向上するが、処理対象水のpHが酸性のままSr吸着材に通水されたため性能持続時間が短いことを意味している。
【0060】
これらに対し、非吸着性Srのイオン化処理およびpH緩衝材を用いたpH調整ともにあり、すなわち本実施例におけるSr濃度比C/C
0は、通水1日で1×10
−3と低い値を示し、通水14日でもその値を維持している。即ち本実施例により、Sr除去性能及び性能持続時間ともに向上することが確認された。
【0061】
本図に示す結果から、非吸着性Srのイオン化を実施した後にpH緩衝材を用いたpH調整をすることにより、ケイチタン酸化合物のSr吸着性能は向上することがわかる。
【実施例4】
【0062】
実施例1〜実施例3におけるpH緩衝材を用いたpH調整方法を、pH緩衝材入り容器への圧送通水ではなく、処理対象水貯蔵容器(バッファタンク)へのpH緩衝材浸漬とする。言い換えると、バッファタンクにpH緩衝材を供給する。これにより、容器への圧送通水が不要となるため、pH緩衝材および容器の差圧は不要となり、差圧起因による設備停止の必要性が無くなる。その結果、連続的に処理運転を継続することが可能となり、高い設備稼働率の維持が可能となる。なお、バッファタンクは、pH調整ユニットを構成する。
【実施例5】
【0063】
実施例1、2、3および4で使用するpH緩衝材が劣化し、pHが目標範囲外となった場合、容器ごと交換とはせず、使用済のpH緩衝材のみを取り出して新しいpH緩衝材を容器に充填する運用とする。言い換えると、容器に充填されたpH緩衝材は、容器から取り出し、入れ替え用のpH緩衝材を容器に充填する。これにより、容器の再利用が可能となり、ランニングコストの低減が可能となる。
【実施例6】
【0064】
実施例2〜実施例4で使用するpH緩衝材およびSr吸着材を1つの容器に充填し、処理対象水のpH調整とSr除去を行う。これにより、必要容器の員数の低減が可能となる。
【符号の説明】
【0065】
1:処理対象水収集タンク、2:供給ポンプ、3:pH緩衝材入り容器、4:処理水受入タンク、5:Sr吸着材入り容器、6:酸供給タンク、7:配位子吸着材入り容器。