【実施例】
【0078】
必要な場合、以下の実施例で用いる動物の取り扱いは、ヘルシンキ宣言に基づいて行った。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma,和光純薬、ナカライ、等)の同等品でも代用可能である。
【0079】
(標本細菌)
本実施例では、代表的に以下の細菌を用いた。実施例7における細菌は実施例7において示す。
【0080】
歯周病菌:Fusobacteriumnucleatum F−1(選択培地:BHI寒天培地)
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌:Methicillin−resistant Staphylococcus aureus COL(MRSA;選択培地:BHI寒天培地)
多剤耐性緑濃菌:Multidrug−resistant Pseudomonas aeruginosa TUH(MDRP;選択培地:BHI寒天培地)
バンコマイシン耐性腸球菌:Vancomycin−resistant Enterococcus faecalis BM1447(VRE;選択培地:BHI寒天培地)
(亜塩素酸水の定量法)
本品約5 gを精密に量り,水を加えて正確に100mlとする。この試料液20 mlを正確に量り、ヨウ素ビンに入れ、硫酸(1→10)10 mlを加えた後、ヨウ化カリウム1 gを加え、直ちに密栓をしてよくふり混ぜる。ヨウ素瓶の上部にヨウ化カリウム試液を流し込み、暗所に15分間放置する。次に栓を緩めてヨウ化カリウム試液を流し込み、直ちに密栓してよくふり混ぜた後、遊離したヨウ素を0.1 mol/Lチオ硫酸ナトリウムで滴定する(指示薬 デンプン試液)。指示薬は液の色が淡黄色に変化した後に加える。別に空試験を行い補正する。0.1 mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液1 ml=1.711 mg HClO
2)。
【0081】
(実施例1:亜塩素酸水の生産)
以下の実施例で使用される亜塩素酸水製剤は、以下のように生産した。本明細書では、亜塩素酸水は「亜水」と略称することがあるが、同義である。
亜塩素酸水の成分分析表
【0082】
【表2】
【0083】
この亜塩素酸水を用いて、以下の配合に基づき、亜塩素酸水製剤を製造した
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
(殺菌作用(細菌殺傷作用)の測定法)
多剤耐性菌に対する亜塩素酸水の殺菌(細菌殺傷)効果
実施例1の調製方法に基づき調製した「亜塩素酸水で製造した亜塩素酸水製剤」を上記の「亜塩素酸水」の定量法に基づき「亜塩素酸水」の濃度を測定し、被検菌との接触時の「亜塩素酸水」の有効塩素濃度が10ppm、50ppm、100ppm、200ppm、500ppmになるように緩衝液の調製方法に基づき調製した各緩衝液を用いて調製した。
【0087】
試験菌液(MRSA,MDRPまたはVRE等)は0.1ml:1−2×10
9/mlをクエン酸リン酸緩衝液0.8ml(pH8.5、7.5、6.5、5.5または4.5)中に用意し、試験消毒剤0.1ml用意した。終濃度は、50ppm,100ppm,200ppm,500ppm等とし、25℃で30秒、1分または3分間、インキュベーションした。総量は0.02mlであった。
【0088】
次に、チオ硫酸ナトリウム、ポリソルベート80およびレシチンを含む中和液0.18ml(Difico D/E Neutralizing Broth)を用いて中和し、0.1mlをLBorBHI寒天平板に画線した。
【0089】
(対照薬剤)
対照の薬剤としては、亜塩素酸ナトリウムを用いた。いずれも和光純薬等から入手可能である。
【0090】
(実施例2:Methicillin−resistant Staphylococcus aureus COLに対する効果)
本実施例では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する効果を確認した。方法は上記(殺菌作用(細菌殺傷作用)の測定法)に準じた。結果は
図2に示す。
【0091】
示されるように、おおむね100ppm以上でMRSAはほぼ殺傷されたことが示された。特に、100ppmでpHが高いpH6.5以上の中性〜アルカリ性の領域では、完全にMRSAが殺傷されることがわかった。このことから、従前の予想に反してMRSA等のグラム陽性細菌では中性〜アルカリ領域が好ましいことが理解される。より詳細には、100ppmでpHが高いpH6.5〜8.5、亜塩素酸ナトリウムとの峻別を考慮するとpH6.5以上7.0未満の中性の領域では、完全にMRSAが殺傷されることがわかった。このことから、従前の予想に反してMRSA等のグラム陽性細菌では中性領域が好ましいことが理解される。
【0092】
(実施例3:Multidrug−resistant Pseudomonas aeruginosa TUHに対する効果)
本実施例では、多剤耐性緑膿菌に対する効果を確認した。方法は上記(殺菌作用(細菌殺傷作用)の測定法)に準じた。結果は
図3に示す。
【0093】
示されるように、おおむね100ppm以上でMDRPはほぼ殺傷され、500ppmでは完全に殺傷されたことが示された。特に、50ppmでもpHが低いpH6.5以下の酸性領域では、完全にMDRPが殺傷されることがわかった。このことから、従前の予想に反して、抗菌効果は、菌によって好ましいpHが異なることがわかった。
【0094】
(実施例4:Vancomycin−resistant Enterococcus faecalis BM1447に対する効果)
本実施例では、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対する効果を確認した。方法は上記(殺菌作用(細菌殺傷作用)の測定法)に準じた。結果は
図4に示す。
【0095】
示されるように、おおむね200ppm以上でVREはほぼ殺傷されたことが示された。特に、100ppmでもpHが低いpH6.5以下の酸性領域ではVREが殺傷されることがわかった。このことから、従前の予想に反して、抗菌効果は、菌によって好ましいpHが異なることがわかった。
【0096】
(多剤耐性菌に対する亜塩素酸水の殺菌効果のまとめ)
亜塩素酸水は多剤耐性菌3株に対して優れた殺菌能を示し、100 ppm以上の濃度においては30秒で、99%以上の被験菌株を完全に殺傷した。
【0097】
亜塩素酸水の多剤耐性菌に対する殺菌効果に及ぼすpHの影響については菌種により異なり、グラム陽性菌(MRSA, VRE)ではpH6.5以下の酸性側で、グラム陰性菌ではpH6.5以上の中性〜アルカリ側で殺菌能が増強する傾向を認めた。
【0098】
(実施例5:亜塩素酸水の尿中汚染細菌に対する増殖抑制効果の検討)
本実施例では、亜塩素酸水の尿中汚染細菌(MDRP)およびMRSAに対する増殖抑制効果を検討した。試験方法は、上記実施例に準ずるものであり、試料も上述のように準備したものを使用した。
【0099】
試験は、同様の試料を用いて2回行った。
【0100】
結果を
図5および6に示す。
図5および6は、同様の試験を2回実施し、これを纏めたものを試験結果として示す。
【0101】
示されるように、亜塩素酸水は、亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸ナトリウムと同様のMDRPおよびMRSAの増殖抑制効果が見られた。
【0102】
(実施例6:歯周病菌(Fusobacterium nucleatum F−1)に対する試験結果)
本実施例では、歯周病菌としてFusobacterium nucleatum F−1に対する亜塩素酸水の効果を確認した。以下にその手法および結果を示す。
【0103】
(方法)
菌液として、6.6×10
5cfu (0.1 ml)を用い、各種試験液 (0.1 ml;亜塩素酸水;次亜塩素酸ナトリウム;高度さらし粉および亜塩素酸ナトリウムを用い、緩衝液としてクエン酸リン酸緩衝液(0.8ml;pH8.5、7.5、6.5、5.5、4.5)を用いた。これを、25℃、30分で嫌気培養し、コロニー数より生残菌数を算出した。
【0104】
結果を
図9におよび10に示す。亜塩素酸水は歯周病菌に対して優れた細菌殺傷効果を示し、その効果は次亜塩素酸Naと同等かそれ以上であり、30分で生残菌数を10
−5以下に低下させた。また、歯周病菌(Fusobacteriumnucleatum F−1)に対しては50ppmで効果があった。
【0105】
以上から、亜塩素酸水は歯周病菌に対して優れた細菌殺傷効果を有するといえる。
【0106】
(実施例7;感染性病原菌に対する細菌殺傷効果確認試験結果)
本実施例では、感染性病原菌に対する細菌殺傷効果確認試験を行った。方法および結果は以下のとおりである。
【0107】
(試験方法)
亜塩素酸水の定量法は上述した(亜塩素酸水の定量法)に記載のとおりである。
【0108】
(使用被検菌)
1) 腸管出血性大腸O157:Escherichia coli O157 sakai株(1996,RIMD0509952)
2) 腸管出血性大腸O111:Escherichia coli O111患者からの分離株(2008,RIMD05092028)
3) 腸管出血性大腸O26 :Escherichia coli O26 集団食中毒からの分離株(2000,RIMD05091992)
4) 大腸菌:Escherichia coli IFO3927
5) メチシリン耐性黄色ブドウ球菌:Methicillin−resistant Staphylococcusaureus COL
6) 黄色ブドウ球菌:Stanphylococcus aureus IFO12732
7) 薬剤耐性緑濃菌:Multidrug−resistant Pseudomonasaeruginosa TUH
8) 緑濃菌:
9) バンコマイシン耐性腸球菌:Vancomycin−resistant Enterococcusfaecalis BM144710) 腸球菌:
11)サルモネラ菌:Salmonella Enteritidis IFO3313
※ 4)大腸菌、6)黄色ブドウ球菌、8)緑濃菌、10)腸球菌は、現場におけるモニタリング時の指標菌として参照することを目的として設定した。
【0109】
(被検菌の調製方法)
1) O157:腸管出血性大腸菌O157:H7 (選択培地:マッコンキー培地)
2) O111:腸管出血性大腸菌O111:HNM(選択培地:マッコンキー培地)
3) O26:腸管出血性大腸菌O26:H11(選択培地:マッコンキー培地)
4) 大腸菌:Escherichia coli IFO3927(選択培地:デゾキシコレート培地)
選択培地に画線し、37℃で24時間、培養した被検菌を各々滅菌生理食塩水に懸濁し、菌液(10
7 個/ml)を調製した。
5) サルモネラ菌:Salmonella Enteritidis IFO3313(選択培地:DHL培地)
選択培地に画線し、37℃で24時間、培養した被検菌を各々滅菌生理食塩水に懸濁し、菌液(10
7 個/ml)を調製した。
6) 黄色ブドウ球菌:Stanphylococcus aureus IFO 12732(選択培地:卵黄加マンニット食塩培地)
選択培地に画線し、37℃で24〜48時間、培養した被検菌を各々滅菌生理食塩水中に均一に懸濁し、菌液(10
7個/ml)を調製した。
【0110】
(操作方法)
調製方法に基づき調製した「亜塩素酸水」を上記の「亜塩素酸水」の定量法に基づき「亜塩素酸水」の濃度を測定し、被検菌との接触時の「亜塩素酸水」の有効塩素濃度が10ppm、50 ppm、100 ppm、200 ppm、500 ppmになるように緩衝液の調製方法に基づき調製した各緩衝液を用いて調製した。それらの液9 mlを各々滅菌済試験管に加え、これらの検体を試料液とした。これらの試料液に被検菌液1mlを加え、均一に混合し、1分後、5分後、10分後に、再度均一に混合し、各1 mlを採取した。その採取した液を、滅菌済の0.01 mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液(各種緩衝液で調整)9 mLが入った試験管に加え、均一に混合し中和した後に、各0.1 mLを採取し、シャーレ1プレートに撒く。その後、各選択培地を約20 mL加えて混釈し、各温度と時間で培養後、生残菌数を測定した。
【0111】
(試験結果)
感染症の原因菌、並びに、当該原因菌の指標菌に対する「亜塩素酸水」の細菌殺傷効果確認試験結果
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
【表6A】
【0115】
(実施例8;鶏肉に付着させた感染性病原菌に対する細菌殺傷効果確認試験結果)
本実施例では、感染性病原菌に対する細菌殺傷効果確認試験を行った。方法および結果は以下のとおりである。
【0116】
(試験方法)
亜塩素酸水の定量法は上述した(亜塩素酸水の定量法)に記載のとおりである。
【0117】
(使用被検菌)
1)腸管出血性大腸O157:Escherichia coli O157 sakai株(1996,RIMD0509952)
2)カンピロバクター:Campylobacter jejuni JCM2013
(被検菌の調製方法)
1)O157:腸管出血性大腸菌O157:H7 (選択培地:マッコンキー培地)
選択培地に画線し、37℃で24時間、培養した被検菌を各々滅菌生理食塩水に懸濁し、菌液(10
9 個/ml)を調製した。
2)カンピロバクター:Campylobacter jejuni JCM2013(選択培地:CCDA平板培地)
選択培地に画線し、37℃で48時間、微好気条件下で培養した被検菌のシングルコロニーを白金耳で釣菌し、BHI培地50mL×3に植菌し、37℃で48時間、微好気条件下で震盪培養(震盪速度:100rpm)した。
【0118】
(対象食材)
鶏肉(ムネ肉):量販店で国産(産地不明)の鶏ムネ肉を試験前日に約2kg購入したものを用いた。
【0119】
(操作方法)
各培養した菌液を遠心分離(遠心速度:6000rpm)をかけ、上清の液体培地を捨て、滅菌済の生理食塩水で10
7程度になるように希釈調製した菌液を等量手動式噴霧器に入れ、10
6菌懸濁液を作成した。
【0120】
下記操作方法で試験を実施した。
【0121】
【表7】
【0122】
(試験結果)
結果を以下の表8および9に示す。
【0123】
【表8】
【0124】
【表9】
【0125】
(結論・考察)
感染性病原菌として、腸管出血性大腸菌O157、カンピロバクターでも殺傷しうることが実証された。
【0126】
以上から、他のグラム陰性菌についても同様に有効であることが明らかになった。
【0127】
実施例の結果から、pH6.5であれば、グラム陽性およびグラム陰性の両方に有効な細菌殺傷剤として利用しうることも明らかになった。
【0128】
(実施例9:無菌マウス飼育用アイソレーターから分離した細菌類の細菌殺傷効果)
本実施例では、無菌マウス飼育用アイソレーターが環境細菌に汚染された為、このアイソレーターから細菌類を分離し、各種対象消毒剤を用いて、細菌殺傷効果をIn vitroで確認した。
【0129】
<分離菌種>
(1)Paenibacillus属細菌
(2)Bacillus属細菌
(3)N.D.
3種の細菌を分離し、16SrDNAを解析した結果、上記の菌種を同定した(PaenibacillusやBacillusの属名は解析出来たが、類縁の種が多数存在する為、種名は同定出来てない。また、No.(3)の菌種に関しては属名を同定することが出来なかった)。
【0130】
<対象薬剤>
Control:滅菌イオン交換水
(1)次亜塩素酸ナトリウム(南海化学社製)
(2)上記実施例で製剤化した「亜塩素酸水」
(3)Exspor (エコラボ社製:二酸化塩素)
<試験方法>
(1)BHI寒天培地で培養した各分離菌のシングルコロニーを5mLのBHI培地で37℃、2日間培養した。
(2)培養した菌液を遠心分離(3000×g、4℃、10min)によって集菌後、滅菌生理食塩水(0.85%)で2回洗浄し、約10
7CFU/mlの菌液を調製した(Inoculam値)。
(3)各対象薬剤を滅菌イオン交換水で所定濃度になるように希釈調製し、滅菌済試験管に9mLずつ分注した。
(4)この薬剤入試験管に(2)で調製した菌液を1 mL添加し、ボルテックスを用いて、よく混合した。
(5)所定時間に(4)の試験管から1 mL抜取、9mL 0.05mol/Lのチオ硫酸Na液に添加・混合し、中和を行った。
(6)中和処理後の液1 mLをシャーレに撒き、BHI寒天培地で混釈し、37℃、24時間培養を行い生育してきた生残菌数を測定した。
【0131】
この操作を3回行い、平均値±標準偏差(S.D.)で細菌殺傷評価を行った。
<結果>
【0132】
【表10】
【0133】
【表11】
【0134】
上記表10で使用されたExspor(日本クレア)は、BASE(基剤)とACTIVATOR(活性剤)を使用直前に混合する二剤型の殺菌剤であり、BASE(基剤)の主成分は亜塩素酸ナトリウム、ACTIVATOR(活性剤)の主成分は有機酸であり、混合して発生する二酸化塩素ガスを用いて、噴霧し、ガス殺菌する目的で使用されるものである。しかしながら、本試験(In vitro)では、試験形態から、二酸化塩素ガスを評価することは出来ない為、2剤を混合した混合液をそのまま使用しており、この混合液中には、殺菌成分である二酸化塩素と、亜塩素酸の両方が存在しているために、結果として、亜塩素酸水よりも高い殺菌効果が得られたものと考えられる。
【0135】
しかしながら、Exsporは、使用時に用時調製をするという手間や、あくまで、二酸化塩素ガスを発生させることで使用するように設計されており、二酸化塩素ガスの人体への影響が懸念される。他方で、亜塩素酸水は、1剤であることから調製時の手間がかからず、また、二酸化塩素ガスの発生が少ない為に、ほぼ同等の殺菌効果でありながら、Exsporよりも安全に使用することができる。このように、本発明の亜塩素酸水は、同程度の殺菌効果を発揮するために安全に使用することができるということが示された。
【0136】
以上のように、本発明の好ましい実施形態および実施例を用いて本発明を例示してきたが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載した構成の範囲内において様々な態様で実施することができ、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。