特許第6271774号(P6271774)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 城戸 弘明の特許一覧

<>
  • 特許6271774-硬質研磨対象物における凹面の研磨方法 図000002
  • 特許6271774-硬質研磨対象物における凹面の研磨方法 図000003
  • 特許6271774-硬質研磨対象物における凹面の研磨方法 図000004
  • 特許6271774-硬質研磨対象物における凹面の研磨方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6271774
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】硬質研磨対象物における凹面の研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B02C 19/08 20060101AFI20180122BHJP
   B24B 31/00 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   B02C19/08
   B24B31/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-574878(P2016-574878)
(86)(22)【出願日】2016年2月14日
(86)【国際出願番号】JP2016054206
(87)【国際公開番号】WO2016129700
(87)【国際公開日】20160818
【審査請求日】2017年1月24日
(31)【優先権主張番号】特願2015-27058(P2015-27058)
(32)【優先日】2015年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515042638
【氏名又は名称】城戸 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100129159
【弁理士】
【氏名又は名称】黒沼 吉行
(72)【発明者】
【氏名】城 戸 一 正
(72)【発明者】
【氏名】城 戸 弘 明
【審査官】 宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−294125(JP,A)
【文献】 特開平05−097514(JP,A)
【文献】 特開2015−013325(JP,A)
【文献】 特開平02−107359(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第01090888(GB,A)
【文献】 特開2000−071164(JP,A)
【文献】 特開2006−169085(JP,A)
【文献】 特開2001−328831(JP,A)
【文献】 特開2014−031291(JP,A)
【文献】 特開昭51−007559(JP,A)
【文献】 ロシア国特許登録第2014137号公報,ロシア,1994年 6月15日,全文, 全図
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 31/00
B24B 31/10
B02C 19/08
B01L 3/00−3/18
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収容する為の凹んだ部分を研磨加工した実験器具の製造方法であって、
当該凹んだ部分は、当該凹んだ部分内に研磨材を投入する研磨材投入工程と、
研磨材を投入した凹んだ部分を閉塞する閉塞工程と、
前記研磨材を充填した凹んだ部分を密閉した状態において、当該研磨対象物を動かすことにより、前記凹んだ部分内の研磨材を撹拌させて、当該凹んだ部分の内面を研磨する研磨工程とからなる内面の研磨方法によって研磨加工されており、
少なくとも前記凹んだ空間又は区画された空間は、ビッカース硬度2000HV以上の材料を用いて形成される実験器具の製造方法。
【請求項2】
前記閉塞工程は、凹んだ空間の開口径が同じ研磨対象物同士を突き合せて、当該空間同士を連通させることにより、何れかの研磨対象物の凹んだ空間を、他の研磨対象物の凹んだ空間で閉塞する、請求項に記載の実験器具の製造方法。
【請求項3】
前記研磨工程では、閉塞工程で閉塞した空間内に研磨材を収容した研磨対象物を、円を描くように公転移動させると共に、当該器具自体を自転させて動かす、請求項1に記載の実験器具の製造方法。
【請求項4】
前記研磨材投入工程で投入する研磨材の容量は、閉塞工程で閉塞される空間の容積の10%以上且つ80%以下である、請求項に記載の実験器具の製造方法。
【請求項5】
前記凹んだ部分の内面は曲面又は曲面と平面で構成されており、
当該内面は、研磨加工によって、表面粗さ(Ra)が0.004μm以下に形成されており、
前記曲面は、曲率半径が15mm以上である、請求項に記載の実験器具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
硬質の材料で形成された、凹んだ部分を有する研磨対象物(乳鉢や坩堝等の実験器具、又はその他の物品)を効率的に研磨する為の研磨方法及び凹部が研磨された実験器具に関する。
【背景技術】
【0002】
各種実験に際して、試薬や固体物質等の試料を粉砕、混和或いは溶融、合成等する際には、乳鉢等の粉砕器具や、坩堝等の耐熱容器といった実験器具が必要となる。かかる粉砕器具や耐熱容器は、ガラス、陶器又は金属といった様々な材料を用いて形成されており、用途に応じて使い分けられている。例えば、試料を粉砕する為の乳鉢では、錠剤など比較的硬度の低い試料を粉砕する際には、磁製やガラス製の乳鉢が用いられ、鉱物等の硬い材料を粉砕する際には、ステンレスやメノウといった硬度の高い材料からなる乳鉢が用いられている。
【0003】
従前においても従来とは異なる材料で形成した坩堝や乳鉢などの実験器具が提供されている。例えば特許文献1(特開2011−196910号公報)では、安価な材料からなり、試料が白金と合金化する成分を含んでいても、アルカリ溶融法による分析に使用することが可能な黒鉛坩堝として、灰分が10μg/g以下の黒鉛から構成した黒鉛坩堝を提案している。
【0004】
また、特許文献2(実開平04−26039号公報)では、メノウ乳鉢を確実に嵌着固定することができ、片手でもしっかりと把持できるようにした乳鉢支持台が提案されており、この文献中には、「メノウ乳鉢は天然に産出するメノウ原石を略八角柱形状に切出し、 その上端面に球面状の窪みを設けると共に下部を逆八角錐台状に削り落として形成されているのが普通であり、硬度が高いメノウを用いているところから、被粉砕物への不純物の混入が嫌われる場合、 特に実験室などで少量の試薬などを粉砕混合するような場合に利用されている」ことが開示されている。
【0005】
そして各種実験器具においては、試料を収容する面が平滑でなければならない場合もある。その為には、当該面を表面研磨することが必要となり、特に硬度の高い物質の研磨方法については、従来、特許文献3(特開2014−039054号公報)が提案されている。この特許文献3では、非常に硬度の高いサファイア基板を研磨する為に、アルカノールアミン化合物とシリカ粒子、及び水を含有してなり、pHが9.5以上11.5未満であり、pHを9.5以上11.5未満に調節するアルカリ成分として、無機アルカリ化合物、有機アミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有するサファイア基板用研磨液組成物、並びに当該サファイア基板用研磨液組成物を用いたサファイア基板の研磨方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−196910号公報
【特許文献2】実開平04−26039号公報
【特許文献3】特開2014−039054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の通り、従前においても、新たな材料を用いて坩堝や乳鉢を形成する事が提案されており、また非常に硬度の高いサファイア基板を研磨する為の研磨液組成物も提案されている。
【0008】
しかしながら、従来提案されている実験器具は、その硬さにおいて未だ改良の余地がある。特に乳鉢は、試料を粉砕する為に使用される事から、粉砕に際して粉砕面が摩耗してしまう可能性もある。そして粉砕面が摩耗した場合には、当該摩耗した成分が試料中に混入し、これがコンタミネーション等の問題を生じさせてしまう事が考えられる。また、粉砕に際して粉砕面に傷が付いた場合には、この傷に入り込んだ成分がコンタミネーションの問題を生じさせる事も考えられる。更に、十分な硬さを有しない場合には、試料の粉砕に際して、破損してしまう可能性もある。
【0009】
そこで本発明では、上記コンタミネーションや破損などの問題を解決する為に、硬度の高い試料を粉砕するのに十分な耐摩耗性を備えた実験器具を提供する事を第1の課題とする。
【0010】
また、実験器具において、試料が接する面が粗面である場合には、その前の実験等で使用した試料が残留してしまう可能性もあり、これがコンタミネーション等の問題を生じさせてしまう事も考えられる。よって硬い材料で形成した場合であっても、試料が接する面は平滑に形成されているのが望ましい。
【0011】
そこで本発明では、上記コンタミネーションの問題を解決するために、耐摩耗性が高くて硬い材料を使用しながらも、試薬が接する面を平滑に形成して、試薬が残留しないようにした実験器具を提供する事を第2の課題とする。
【0012】
また実験等では、粉砕した試料等を加熱する場合もあるが、石英ガラス製の実験器具では、1000℃以上の高温では、熱による変形或いは破損が生じてしまう可能性があった。またメノウも耐熱温度は1000℃であることから、これ以上の高温に晒した場合には、熱による変形或いは破損が生じてしまう可能性があった。
【0013】
そこで、本発明は、1000℃以上の高温環境下でも使用できる程度の耐熱性を備えた実験器具を提供する事を第3の課題とする。
【0014】
また硬度の高い試料(鉱物等)の粉砕に使用する乳鉢は、試料以上に高い硬度を有する材料で形成する必要があった。しかしながら、硬度の高い材料で形成された面(粉砕面)を平滑に精度良く研磨する為には、特許文献3のような、特殊な研磨組成物を使用しなければならなかった。そして、この研磨組成物は、pHや液温などの調整が煩雑であり、またこの研磨組成物を使用して研磨パッドで研磨する際には、研磨荷重の調整が煩雑な上、曲面の研磨が困難であった。更に、研磨パッドで研磨する事から、研磨対象領域が大きく、また曲面の場合には、歪みが生じてしまう恐れがあった。
【0015】
そこで本発明では、試料収容領域が大きく、それに伴って研磨対象領域が大きく又は曲面であっても、研磨作業を短時間で行う事ができ、極力平滑で、更に歪みを生じさせることなく研磨可能な研磨方法を提供する事を第4の課題とする。
【0016】
また、従前においてはメノウ製の乳鉢なども提供されているが、当該メノウは天然資源であることから枯渇の問題があった。また、天然鉱物であるメノウを使用して形成する場合には、不純物が含有する等、品質や強度の安定が困難であった。
【0017】
そこで、本発明では優れた強度と耐摩耗性を備えながらも、資源枯渇の問題がなく、品質も安定している材料を使用して形成した実験器具を提供する事を第5の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題の少なくとも何れかを解決するべく、本発明では、試料を収容する為の凹んだ部分を有する実験器具であって、少なくとも当該凹んだ部分がビッカース硬度2000HV以上の材料を用いて形成されると共に、前記凹んだ部分を形成する内面は曲面又は曲面と平面で構成されており、当該内面は、表面粗さ(Ra)が0.004μm以下となるように研磨加工されていることを特徴とする実験器具を提供する。そして当該実験器具における曲面は、曲率半径が1mm以上であることが望ましい。
【0019】
前記実験器具は、試料(試薬や固体物質等)を粉砕、混和或いは溶融、合成等する際に使用される粉砕器具や耐熱容器等が含まれる。具体的には乳鉢や坩堝、ビーカー、或いはフードプロセッサー等に使用されるケース(容器)等、有底筒体形状等の各種形状であって、試料を収容する為の凹んだ部分を具備する器具である。当該凹んだ部分を形成している内面は、曲面、又は曲面と平面で形成される。本発明にかかる実験器具は、後述する研磨方法で研磨することにより、凹み内面の平滑度を高めることができる。
【0020】
本発明にかかる実験器具は、ビッカース硬度が2000HV以上の材料を用いて形成することで、優れた耐摩耗性及び耐熱性を発揮できる。かかる硬度の材料としては、例えばサファイアガラスや炭化ケイ素等が挙げられる。そして当該実験器具は、試料を収容する為の凹んだ部分の内面は、曲面又は曲面と平面で構成されている。そして、当該曲面の曲率半径を1mm以上、望ましくは2mm以上、特に望ましくは15mm以上とすることにより、当該内面の研磨加工を隅々まで行う事ができる。この点、仮に角状に屈折するなど、曲率半径が5mm未満の屈曲部分が存在すると、硬度の高い材料で形成する事とも相俟って、その角部の研磨が困難になってしまう。また当該角部が存在することにより、試料が角部に圧入されてしまい、取り出しが困難になる等の問題も考えられる。よって、本発明にかかる実験器具は、内面研磨の精度や試料の取り出しなどを考慮して、曲率は1以上、特に0.5以上である事が望ましい。
また、凹んだ部分の内面は、表面粗さ(Ra)を0.004μm以下に形成している。よって表面における凹凸が無くなり、凸部が損壊して試料中に混入するなどの問題がない。また微細に粉砕した試料が当該凹部に圧入され、これが次の実験におけるコンタミネーションの原因となるなどの問題を解消できる。
【0021】
上記ビッカース硬度が2000HV以上の材料で形成した実験器具によれば、鉱物等の高い硬度の試料を粉砕する場合にも、実験器具の破損のおそれをなくして、試料を目的の微細形状になるまで確実に粉砕できる。よって、破損片が試料に混入することによるコンタミネーション等の問題を未然に防止する事ができる。よって、当該実験器具は、特に乳鉢である場合に優れた効果を発揮できる。特に当該材料がサファイアガラスや炭化ケイ素である場合、その溶融点は2000℃以上である為、高温での熱処理を行っても、器具が熱によって変形したり破損したりする可能性が少ない。つまり、当該サファイアガラスや炭化ケイ素からなる実験器具を使用すれば、例えば溶岩中のバクテリアを解析する場合でも、採取から解析まで破損等を心配する事無く行うことができる。よって本発明の実験器具が坩堝である場合に、上記加熱処理時のメリットを享受する事ができる。
【0022】
特に、サファイアガラスを用いて形成した場合には、当該サファイアガラスは、高純度のアルミナ(Al)を巨大結晶へと成長させたものであり、人工的に製造できる為、資源の枯渇の問題がない。そして当該サファイアガラスを用いて形成する事により、紫外線や赤外線領域において高い透過率を有し、ほとんどの酸性物質やアルカリ性物質に対する耐腐食性を有し、更に熱伝導率が高くて耐熱性に優れ、そして優れた絶縁性を有する実験器具となる。
【0023】
また、サファイアガラスには不純物が混入し難い為、これを用いて形成すれば器具自体に異物が混入することを避ける事ができる。その結果、異物混入等による強度の低下や外観不良、更には試料への不純物の混入の可能性を大幅に低減することができる。
【0024】
上記本発明の実験器具、少なくとも当該器具の凹んだ部分を形成する材料として使用される「ビッカース硬度2000HV以上の材料」は、非常に硬度の高い材料である。その為、従来の機械加工による研磨方法によって、実験器具の凹んだ部分を研磨した場合には、硬度が高すぎる故に、均一に研磨することができず、表面上に凹凸或いは歪みが生じてしまう。そこで本発明では、上記実験器具などの研磨対象物における凹んだ空間又は区画された空間を、効率的に研磨する方法を提供する。即ち、当該凹んだ空間内又は区画された空間内に研磨材を収容した研磨対象物を動かし、当該空間内の研磨材を撹拌(又は流動)させることで内面を研磨する方法を提供する。かかる研磨方法では、研磨対象物を動かすことで生じる遠心力を利用して、研磨材を空間内面に沿うよう流動させることで、研磨対象物の内面を研磨する。
【0025】
即ち本発明では、凹んだ空間又は区画された空間を備えた研磨対象物における、当該空間の内面を研磨する研磨方法であって、当該凹んだ空間又は区画された空間内に研磨材を投入する研磨材投入工程と、研磨材を投入した空間を閉塞する閉塞工程と、前記研磨材を充填した空間を密閉した状態において、当該研磨対象物を動かすことにより、前記空間内の研磨材を撹拌させて、当該凹んだ空間又は区画された空間の内面を研磨する研磨工程とからなる研磨方法を提供する。かかる研磨方法によれば、研磨材を収容した研磨対象物を動かすだけで、研磨材は研磨対象物の内面に沿うように流動し、凹凸や歪みが発生を抑えて、高い平滑度を持つ内面を完成させることができる。そして、機械加工による研磨加工とは異なり、研磨工具と研磨対象物との距離の微調整等の煩雑な調整を無くすことができる。
【0026】
上記本発明の研磨方法を行うには、始めに超硬エンドミルやダイヤコートエンドミル等を用いた機械加工によって、研磨対象物の内面形状をおおよその形状に加工するのが望ましい。当該機械加工は任意の方法で行う事ができるが、研磨対象物面における表面上の凹凸の高さが0.01mm〜0.3mm程度まで加工するのが望ましい。本発明の研磨方法を実施する際、研磨時間を短縮し、短時間で目的の平滑度を確保する為である。
【0027】
研磨材投入工程で使用する研磨材は、用途及び研磨対象物の硬度に応じて適宜選択使用することができる。かかる研磨材は、砥粒(用途に応じてポリマー粒子も)及び加工液などで構成することができ、砥粒としてはダイヤモンドや炭化ケイ素、或いはコランダムなどを選択使用できる。但し、研磨対象物の研磨は、研磨材との激しい接触によって行われる為、研磨材の消耗を抑える為にも、研磨対象物と同等以上の硬度を持つ砥粒を使用するのが望ましい。またこの研磨材は、異なる粒径(望ましくは外径が2倍以上)の砥粒又は異なる種類の砥粒を混合したものを使用する事もできる。
【0028】
また、使用する砥粒は、任意の粒度(粒径)であって良い。前述した機械加工による表面上の凹凸の高さに応じて、または目的とする仕上がり具合に応じて、砥粒を適宜選択使用できる。例えば、前述した機械加工による表面上の凹凸の高さが凡そ1.0mm程度の場合には、最初は粒度の粗い砥粒を用いて研磨し、その後、徐々に粒度の細かい砥粒を用いて研磨していくのが望ましい。一方で、表面上の凹凸の高さが凡そ0.01mm程度の場合には、始めから粒度の細かい砥粒を用いて研磨を行うことができる。
【0029】
さらに、当該研磨材の使用量は、研磨対象面によって区画された空間内の容積に対して、10%以上、80%以下の容量(特に望ましくは20%以上、60%以下の容量)とするのが望ましい。研磨材の使用量が空間容積に対して10%未満であると、研磨時間が長くなり、一方で、研磨材の使用量が空間容積の80%を超える場合には、研磨材の容量が多すぎて、研磨材を効果的に流動させることが困難になり、効率的な研磨ができない為である。
【0030】
また、前記閉塞工程では、凹んだ空間の開口径が同じ研磨対象物同士を突き合せて、当該空間同士を連通させることにより、何れかの研磨対象物の凹んだ空間を、他の研磨対象物の凹んだ空間で閉塞するのが望ましい。凹んだ空間の開口径が同じ研磨対象物同士を突き合せることで、凹んだ空間同士が繋がった空間を形成する事ができ、研磨材を円滑に流動させることができる為である。そして当該空間の内面に沿うように研磨材を流動させることで、精度の高い研磨が可能になり、凹凸や歪みが発生し難くなる。研磨対象物の突き合せ部分は、研磨材が漏出しないように密着させる必要があり、パッキンやシーリング材等を用いて、互いの研磨対象物間を密封するのが望ましい。研磨対象物を突き合せて研磨対象領域を形成し、そして研磨を行う事で、複数の研磨対象物を同時に研磨できる。
【0031】
前記閉塞工程で突き合せる研磨対象物は、大きさの異なる研磨対象物同士を突き合せても良い。但し、突き合せによって形成された空間内を、研磨材が円滑に流動できるように、凹んだ空間の開口径は同じものを用いるのが望ましい。仮に開口径が異なるとすれば、当該突き合せ部分に段差が生じてしまい、研磨材の流動が阻害されたり、開口部の角が削れたりすることが考えられる為である。
【0032】
そして、前記研磨工程では、内部空間内に研磨材が充填されている研磨対象物を動かし、当該空間内の研磨材を内面に沿うよう撹拌(又は流動)させる。かかる研磨対象物の動かし方は、円運動や往復運動、或いは三角形状(又は多角形状)に動かす等、様々な運動であって良くい。また研磨対象物の運動は、研磨対象物を保持して、これを動かす装置により実施する事ができる。また当該研磨対象物を、転がすことによっても行うことができる。但し、研磨材を空間内面に沿って円滑に流動させる為にも、研磨対象物は円運動(公転移動)させるのが望ましい。また研磨対象物の運動方向及び運動速度は、研磨対象物の形状等に応じて調整できる。例えば、乳鉢の様に、凹んだ部分の内面を滑らかな曲面に形成したい場合には、円運動によって研磨を実施するのが有効である。なお、この研磨対象物は、その縦軸又は横軸などの軸周りに回転させる(以下、「自転」とする)ことによっても、空間内の研磨材を撹拌(又は流動)させることができる。
【0033】
そして当該研磨工程では、閉塞工程で閉塞した空間(研磨対象面で区画された空間)内に研磨材を収容した研磨対象物を、円を描くように公転運動させると共に、当該研磨対象物自体を自転させることで、より一層研磨の効果を向上させることもできる。空間内に存在する研磨材が複雑に撹拌(又は流動)されることから、研磨時間を短くする事ができる。特に、研磨対象領域が大きい場合や、高硬度で研磨しにくい場合には、研磨対象物の公転のみによる研磨では時間がかかる可能性も高い為、自転運動を併用するメリットが高い。
【0034】
上記のような研磨対象物を公転及び自転運動させる場合、その回転方向は同じであっても異なっていても良い。例えば自転運動の回転軸が、自転運動と同じ方向又は逆方向に移動するように公転運動させる他、当該回転軸が自転運動の回転面に交差する方向に移動するように公転運動させることもできる。更に、公転方向に対して自転方向を水平方向に90度傾けて回転させたり、60度傾けて回転させたりすることもできる。また、公転運動と自転運動の回転速度は、同じである他、両者を異ならせることもできる。これは、研磨対象物の形状や材質等を考慮した上で適宜決定する事ができる。
【0035】
前記研磨対象物は、外力を受けて運動することになるが、これは任意の動力及び機構であって良い。但し、回転トルク及び回転数の調節が容易な動力及び機構で構成されるのが望ましい。
【0036】
上記研磨方法によれば、硬度が高い材料であっても、短い研磨時間で、歪みが無く、高い平滑度に研磨する事ができる。そして表面粗さ(Ra)を0.004μm以下に研磨できる事から、前記実験器具の製造に際しても実施できる。
【0037】
また、研磨対象領域が大きい場合(研磨対象物が大型な場合など)や、硬度の高い材料を研磨する場合であっても、研磨装置を大型化する必要が無く、使用する研磨組成物も調整も容易である。その為、簡易な構造によって研磨装置を構成でき、研磨作業を容易に行う事ができる。
【0038】
さらに、上記研磨方法は、研磨対象物の材料を限定すること無く実施することができる。即ち、サファイアガラスの様な硬度の高い材料の場合に特に有用であるが、その他にも、金属、プラスチック、セラミックス等の材料で形成した研磨対象物の研磨にも実施する事ができる。かかる研磨方法を実施する事により、歪みの無い平滑な研磨面に仕上げる事ができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明にかかる実験器具は、ビッカース硬度2000HV以上の材料を使用して形成されている。よって、優れた耐摩耗性及び耐熱性を具有している為、硬度の高い鉱物等の試料を粉砕する場合にも、目的の微細形状になるまで確実に粉砕できる他、高温での熱処理にかけた場合にも、傷や破損等を生じる可能性が極力少ない。
【0040】
また、ビッカース硬度2000HV以上の材料としてサファイアガラスを使用した場合には、当該材料を人工的に形成できる為、資源枯渇の問題を解消する事ができる。
【0041】
さらに、サファイアガラスは不純物が混入し難い為、器具を製造する際、異物が混入する等、器具の強度が低下する要因を極力排除することもできる。よって、器具を製造する上で、異物混入等による強度低下品又は外観不良品が大幅に減少する為、良品率が向上し、効率の良い製品製造が可能となる。
【0042】
また、研磨対象物における凹んだ空間又は区画された空間の内面の研磨では、当該空間内に研磨材を収容した研磨対象物を動かし、空間内の研磨材を撹拌(流動)させることで、高精度な表面状態を実現できる。具体的には研磨対象物内面の表面粗さ(Ra)を0.004μm以下にて形成することができる。よって、形成された内面を利用して、試料を粉砕或いは混和等する際にも、試料に対する影響を極力減ずることができる。
【0043】
さらに、研磨対象領域が大きい場合(研磨対象物が大型な場合)や、硬度の高い材料にて形成されている場合であっても、研磨装置を大型化する必要が無く、使用する研磨組成物も調整の困難性が無い。その為、研磨装置にかかる費用を抑えることが出来る他、研磨時間の短縮も可能になる為、製造にかかる費用の大幅な削減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本実施の形態にかかる実験器具を示す斜視図であり、(A)乳鉢を示す斜視図、(B)坩堝を示す斜視図である。
図2】本実施の形態にかかる実験器具内面の研磨方法を示す工程図であり、(A)研磨材投入工程の一部を示す要部縦断面正面略図、(B)閉塞工程の一部を示す要部縦断面正面略図、(C)研磨工程の一部を示す要部縦断面正面略図、(D)完成した実験器具の斜視図である。
図3】器具自体も自転させた研磨工程の一部を示す要部縦断面正面略図である。
図4】様々な形状の器具を突き合せて研磨を行う研磨工程の幾つかの実施例を示す要部縦断面正面略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、図面を参照しながら本実施の形態にかかる実験器具、及び当該器具内面の研磨方法を具体的に説明する。
【0046】
図1は本実施の形態にかかる実験器具を示す斜視図であり、(A)乳鉢を示す斜視図、(B)坩堝を示す斜視図である。図1(A)における実験器具10Aは、有底円筒体形状の乳鉢11として形成し、凹んだ部分は曲面からなり、半球形状に凹むように形成されている。当該凹んだ部分の内面は研磨加工されている為、乳棒12を使用して、鉱物等の硬度の高い試料を粉砕或いは混和するのに適している。特に、本実施の形態にかかる実験器具10Aの材料には、ビッカース硬度2000HV以上の材料として、サファイアガラスを使用している。かかるサファイアガラスはダイヤモンドに次ぐ硬度を有しており、優れた耐摩耗性を具有していることから、試料を確実に粉砕或いは混和することができる。また当該実験器具自体が、損傷したり破損する心配が無く、コンタミネーション等のおそれを回避できる。さらに、本器具10Aにおける凹んだ部分の内面は極力平滑に研磨されている為、試料に対する影響を極力減ずることができる。
【0047】
また、サファイアガラスは溶融点が2000℃以上あり、優れた耐熱性も具有している。よって、図1(B)に示す実験器具10Bのように、坩堝13として形成した場合に高温での実験にも耐える事ができる。具体的には、溶岩中のバクテリアを採取し解析する場合など、1000℃以上に加熱する場合でも使用できる。この点、仮にプラスチックや石英ガラスのような材料で形成された容器では、当該容器自体が溶融したり変形してしまうことから、当該サファイアガラス製の実験器具により、初めて実施できることになる。また粉砕した試料を収容した器具を、そのまま1000℃以上の高温で熱処理する場合にも使用できる。高温での熱処理をする際には、蓋14などを利用して中身の試料が飛散しないよう工夫することが望ましい。
【0048】
次に、図2を参照しながら、本実施の形態にかかる実験器具20等を形成する際に実施できる内面の研磨方法を説明する。本実施の形態にかかる実験器具20は、非常の硬度の高いサファイアガラスを用いて形成している。従って、従来の機械加工による研磨方法によって器具の凹んだ部分の内面を研磨した場合には、均一に研磨することができず、表面上に凹凸或いは歪みが生じていた。そこでこの図に示す研磨方法では、実験器具における凹んだ空間内に研磨材を収容し、この器具を円運動させて、研磨材を器具空間内で撹拌(又は流動)させることで、内面を研磨している。
【0049】
具体的には、まず図2(A)に示すように、研磨対象となる実験器具20'の凹んだ空間内に、砥粒22及び加工液23からなる研磨材21を投入する。当該器具20'の凹んだ空間の内面は、事前にガラスコートエンドミル等を用いた機械加工によって、凡その内面形状であって、内面の表面上の凹凸の高さが0.05mm程度まで加工されている。当該研磨材21は、ダイヤモンドパウダー等の砥粒22を使用するのが望ましいが、用途及び器具の硬度に応じて、他種の砥粒22を使用しても良い。また研磨材は、空間容積に対して50%程度の容量で使用している。
【0050】
次に、図2(B)に示すように、研磨材21を投入する凹んだ空間の開口径が同じである、2つの実験器具20'を突き合せて、双方の空間を閉塞する。この時、当該空間同士は連通し、何れかの器具20'の凹んだ空間を、他の器具20'の凹んだ空間で閉じた状態となる。研磨対象となる器具20'同士を突き合せることで、凹んだ空間同士は連通し、突き合せた実験器具を動かすことにより、連通した空間内で研磨材21が撹拌(流動)される。そして、開口径が同じ実験器具を突き合せている事から、その接続部分は平坦になり、研磨材2も円滑に連通した空間の内面を沿うように移動する事ができる。これにより高精度の研磨が可能になる為、当該器具20'の凹んだ部分の内面は、凹凸や歪みが極力生じない曲線として形成できる。また、実験器具同士の突き合せ部分間には、図示しないパッキン等を挟んで密封し、研磨材21の漏れを防止することもできる。
【0051】
そして、図2(C)に示すように、突き合せた2つの実験器具20'を円運動させる。ここで、器具20'の動かし方は、円運動や往復運動、或いは三角形状(又は多角形状)に動かす運動等、様々な動かし方であって良い。本実施の形態では、研磨材21を空間内面に沿って流動させ易くする為に、円運動で動かしている。円運動させることによって、研磨材21には遠心力が働き、この遠心力を利用して当該研磨材21を内面に沿うよう流動させて内面を研磨することができる。当該研磨方法によれば、研磨材21を収容した器具20'を円運動させるだけで、研磨材21の流動エネルギーによって高精度な研磨を実現できる。なお、突き合せ状に組み合わせた2つの実験器具20'を動かす時間、即ち研磨材の撹拌時間は、研磨対象となる材料や、使用する研磨材、或いは要求される平滑度に応じて、任意に調整する。
【0052】
上記研磨方法を終了し、突き合せた実験器具20'を分離することで、図2(D)に示すように、平滑度の高い内面を具備した実験器具20が完成する。当該実験器具20には、材料としてサファイアガラスが使用されている為、不純物が含有し難く、器具20を製造する際、異物が混入する等、器具20の強度が低下する要因を極力排除することができる。よって、器具20を製造する上で、異物混入等による強度低下品又は外観不良品が大幅に減少する為、良品率が向上する。
【0053】
図3は突き合せた2つの実験器具20'の、他の動かし方を示している。即ち、研磨工程において実験器具20'を円運動させる際、更に図3に示すように、当該器具20'自体も自転させることができる。このように自転運動させることにより、研磨効率を向上させることもできる。即ち、器具20'を円運動(公転移動)させると共に、器具20'自体も自転させることで、空間内に存在する研磨材21を複雑に撹拌(流動)させることができる。実際、器具20'の公転方向と自転方向を水平方向に対して同方向に回転させて研磨することにより、表面粗さ(Ra)0.003172μmを実現できた。

【0054】
また、研磨対象物を自転及び公転させることで、研磨材21の撹拌(又は流動)が激化することから、研磨時間が短くて済む。特に、研磨対象領域が大きい場合や研磨対象物が硬い場合には、器具の公転又は自転のみによる研磨では時間がかかることから、両者を併用して研磨をするのが望ましい。
【0055】
上記では2つの同じ実験器具を突き合せた研磨方法を説明したが、形状などが異なる実験器具を組み合わせる事もできる。例えば、図4(A)では、凹んだ部分を具備する有底円筒体形状の実験器具40Aと、凹んだ部分を具備しない長方形状の器具40A'とを対向配置し、両者を突き合せ状に組み合わせて、前記研磨工程を実施する。即ち、これは実験器具40Aの製造を目的としており、器具40A'は、凹んだ部分を閉塞し、当該空間に収容した研磨材21が飛散しないようにする為の蓋部材として使用している。
【0056】
また、図4(B)のように、凹んだ部分の深さが異なる実験器具同士を組み合わせても良い。即ち、底が浅い有底円筒体形状の実験器具40Bと、底が深い有底円筒体形状の実験器具40B'とを突き合せて、前記研磨工程により研磨することもできる。底が深い円筒体形状の実験器具40B'は、採取した試料を保管しておく為に使用でき、例えば、溶岩の中、即ち高温の中に存在するバクテリアを採取する為の坩堝等として使用できる。
【0057】
さらに、凹んだ部分は、全てが曲面で形成される必要は無く、平面で形成されている部分が存在しても良い。例えば、図4(C)のように、有底円筒体形状の実験器具40Cと、凹んだ部分の内面が曲面と平面とで構成されている有底円筒体形状の実験器具40C'とを突き合せて、前記研磨工程により研磨することもできる。研磨材を撹拌させることにより、凹んだ部分の内面が曲面と平面とで構成されている場合であっても、平滑に研磨する事ができる。かかる実験器具40C'は、ビーカーや様々なケース(容器)として利用でき、幅広い分野で利用できる実験器具40C'が実現する。
【0058】
その他にも、突き合せ状に組み合わせる実験器具同士は、その外面形状や大きさが異なっていても良い。図4(D)は、有底円筒体形状の実験器具40Dと、器具40Cよりも外郭の大きさが小さい実験器具40D'とを突き合せて研磨することもできる。即ち、サイズの異なる実験器具同士も同時に研磨できることで、器具の大きさによって研磨方法を変更したり、設定を変更したりする必要が無い為、効率よく研磨作業を行う事ができる。
【0059】
但し、上記は何れも互いの実験器具の凹んだ空間の開口径が同じものを使用している。これは、空間内における研磨材21の流動を円滑に行い、高精度な研磨を可能にする為である。よって、上記のように器具同士を突き合せて研磨する際には、大きさの異なる器具同士を突き合せて研磨することも可能であるが、凹んだ空間の開口径は同じ器具を用いるのが望ましい。
【0060】
また、本発明にかかる実験器具、及び当該実験器具をはじめとする研磨対象物を効率的に研磨する為の研磨方法は、本実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することが可能である。例えば、実験器具を形成する材料として、サファイアガラスの他、炭化ケイ素やダイヤモンド等で形成しても良い。また、研磨対象物の内面を研磨する際にも、研磨対象物を動かす為の運動手段としては、円運動や往復運動、或いは三角形状(又は多角形状)に動かす運動、等いずれの運動手段を用いても構わない。
【符号の説明】
【0061】
10、20、40 実験器具
11 乳鉢
12 乳棒
13 坩堝
14 蓋
20' 初期(研磨前)の実験器具
21 研磨材
22 砥粒
23 加工液
図1
図2
図3
図4