特許第6271908号(P6271908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6271908-羽毛製品用縫製糸および羽毛製品 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6271908
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】羽毛製品用縫製糸および羽毛製品
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/46 20060101AFI20180122BHJP
   D02G 3/28 20060101ALI20180122BHJP
   D02G 3/36 20060101ALI20180122BHJP
   A41D 31/00 20060101ALI20180122BHJP
   A41D 31/02 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   D02G3/46
   D02G3/28
   D02G3/36
   A41D31/00 501A
   A41D31/02 E
   A41D31/00 G
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-168253(P2013-168253)
(22)【出願日】2013年8月13日
(65)【公開番号】特開2015-36459(P2015-36459A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】本上 健
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−092492(JP,A)
【文献】 特開平02−293429(JP,A)
【文献】 特開昭63−092743(JP,A)
【文献】 特公平08−006225(JP,B2)
【文献】 特開昭64−052841(JP,A)
【文献】 特開2012−201998(JP,A)
【文献】 特開2002−038346(JP,A)
【文献】 特開2004−169230(JP,A)
【文献】 特開2009−108453(JP,A)
【文献】 実開平02−094274(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00−3/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘型複合糸からなる羽毛製品用縫製糸であって、
芯鞘型複合糸の鞘部および芯部がともにポリエステル繊維からなるマルチフィラメントで構成され、かつ鞘部がループを形成しており、かつ鞘部を構成するマルチフィラメントと芯部を構成するマルチフィラメントにおいて沸水収縮率が互いに異なり、
かつ鞘部を構成するマルチフィラメントの巾Aと芯部を構成するマルチフィラメントの巾Bとの比(A:B)が1.1:1〜3:1の範囲内にあり、
かつ芯鞘型複合糸が、鞘部を構成するマルチフィラメントおよび芯部を構成するマルチフィラメントに下撚りをかけ、次いで両マルチフィラメントを引きそろえて下撚り方向とは逆方向に上撚りをかけたものであり、
かつ鞘部を構成するマルチフィラメントおよび芯部を構成するマルチフィラメントにおいて、ともに総繊度が70〜210dtexの範囲内であることを特徴とする羽毛製品用縫製糸。
【請求項2】
請求項1に記載の羽毛製品用縫製糸を用いてなる羽毛製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽毛の吹き出し抑制(ダウンプルーフ性)に富み、かつ縫製後の縫目外観に優れた羽毛製品を得ることが可能な羽毛製品用縫製糸、および該縫製糸を用いてなる羽毛製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジャケット、ジャンパー、ブルゾン等の防寒具などにおいて、内部に羽毛を充填することで断熱効果の高い空気層を効率的に形成し、保温効果を高めた羽毛製品が用いられている。また、かかる羽毛製品において、羽毛の吹き出しを抑制するには表地と羽毛との間および裏地と羽毛との間に袋状に縫ったダウンパックと呼ばれる中生地を設けることが一般的である。しかしながら、ダウンパックを用いた場合、工程が煩雑になるだけでなく、羽毛製品の重量が重くなるという問題があった。このため、近年では、ダウンパックを省略することも行われている。
【0003】
一方、羽毛製品用縫製糸としては、マルチフィラメントを用いたものや紡績糸を用いたものなど種々の縫製糸が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
しかしながら、マルチフィラメントを用いた縫製糸では、ミシン針が貫通した後の針穴をふさぐ効果に乏しく羽毛が吹き出すおそれがあった。一方、紡績糸を用いた縫製糸では、縫製糸が表地に露出した場合、表地を構成するマルチフィラメントと紡績糸との統一感が乏しく縫製後の縫目外観が劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−107160号公報
【特許文献2】特開2007−168901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、羽毛の吹き出し抑制(ダウンプルーフ性)に富み、かつ縫製後の縫目外観に優れた羽毛製品を得ることが可能な羽毛製品用縫製糸、および該縫製糸を用いてなる羽毛製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、鞘部および芯部がマルチフィラメントからなる芯鞘型複合糸で縫製糸を構成し、その際、鞘部がループを形成することにより、羽毛の吹き出し抑制(ダウンプルーフ性)に富み、かつ縫製後の縫目外観に優れた羽毛製品を得ることが可能な羽毛製品用縫製糸が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「芯鞘型複合糸からなる羽毛製品用縫製糸であって、
芯鞘型複合糸の鞘部および芯部がともにポリエステル繊維からなるマルチフィラメントで構成され、かつ鞘部がループを形成しており、かつ鞘部を構成するマルチフィラメントと芯部を構成するマルチフィラメントにおいて沸水収縮率が互いに異なり、
かつ鞘部を構成するマルチフィラメントの巾Aと芯部を構成するマルチフィラメントの巾Bとの比(A:B)が1.1:1〜3:1の範囲内にあり、
かつ芯鞘型複合糸が、鞘部を構成するマルチフィラメントおよび芯部を構成するマルチフィラメントに下撚りをかけ、次いで両マルチフィラメントを引きそろえて下撚り方向とは逆方向に上撚りをかけたものであり、
かつ鞘部を構成するマルチフィラメントおよび芯部を構成するマルチフィラメントにおいて、ともに総繊度が70〜210dtexの範囲内であることを特徴とする羽毛製品用縫製糸。」が提供される。
た、本発明によれば、前記の縫製糸を用いてなる羽毛製品が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、羽毛の吹き出し抑制(ダウンプルーフ性)に富み、かつ縫製後の縫目外観に優れた羽毛製品を得ることが可能な羽毛製品用縫製糸、および該縫製糸を用いてなる羽毛製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】鞘部を構成するマルチフィラメントの巾Aおよび芯部を構成するマルチフィラメントの巾Bを示す、図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の羽毛製品用縫製糸は、芯鞘型複合糸であり、芯鞘型複合糸の鞘部および芯部がともにマルチフィラメント(長繊維)で構成される。芯鞘型複合糸の鞘部または芯部が紡績糸(スパン糸)の場合、表地を構成するマルチフィラメントとの統一感が乏しく縫製後の縫目外観が劣るため好ましくない。
ここで、鞘部を構成するマルチフィラメントおよび芯部を構成するマルチフィラメントが、ともに、ポリエステル成分を少なくとも1成分として含むポリエステル繊維からなることが、縫製糸の強度、耐候性、染色性などの点で好ましい。
【0011】
ポリエステル繊維を形成するポリエステルはジカルボン酸成分とジグリコール成分とから製造される。ジカルボン酸成分としては、主としてテレフタル酸が用いられることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた1種以上のアルキレングリコールを用いることが好ましい。また、ポリエステルには、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に第3成分を含んでいてもよい。該第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。かかるポリエステルとしては、ポリ乳酸などの生分解性を有するポリエステル、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。また、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。さらには、ポリ乳酸やステレオコンプレックスポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルであってもよい。該ポリエステルポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0012】
鞘部を構成するマルチフィラメントおよび芯部を構成するマルチフィラメントにおいて、ともに総繊度が70〜210dtexの範囲内であることが取扱い性の点で好ましい。単繊維繊度としては0.001〜5dtex(より好ましくは1〜4dtex)、フィラメント数として10〜200本であることが好ましい。
【0013】
本発明の羽毛製品用縫製糸において、鞘部がループを形成していることが肝要である。鞘部がループを形成していることにより、羽毛の吹き出し抑制(ダウンプルーフ性)効果が向上する。
ここで、鞘部を構成するマルチフィラメントの巾Aと芯部を構成するマルチフィラメントの巾Bとの比(A:B)が1.1:1〜3:1の範囲内であることが好ましい。マルチフィラメントの巾Aが該比よりも大きい場合、縫製後の縫目外観が損なわれるおそれがある。逆に、マルチフィラメントの巾Aが該比よりも小さい場合、羽毛の吹き出し抑制(ダウンプルーフ性)の効果が低下するおそれがある。なお、鞘部を構成するマルチフィラメントの巾Aと芯部を構成するマルチフィラメントの巾Bは、図1に示すように、鞘部を構成するマルチフィラメントAと芯部を構成するマルチフィラメントの巾Bともに、最も外側〜最も外側までの距離をはかるものとし、n数3でその平均値を算出する。
【0014】
本発明の羽毛製品用縫製糸を製造する方法は特に限定されず、例えば、1.鞘部を構成するマルチフィラメントおよび芯部を構成するマルチフィラメントに下撚りをかけ、次いで両マルチフィラメントを引きそろえて下撚り方向とは逆方向に上撚りをかける方法において、各々の下撚数を互いに異ならせたり、各々の沸水収縮率を互いに異ならせる方法や、2.鞘部を構成するマルチフィラメントおよび芯部を構成するマルチフィラメントを混繊(空気混繊、複合仮撚、撚糸)する方法において、各々の伸度や伸縮率を互いに異ならせたり、各々の沸水収縮率を互いに異ならせる方法、3.鞘部を構成するマルチフィラメントおよび芯部を構成するマルチフィラメントを混繊(空気混繊、複合仮撚、撚糸)する方法において、マルチフィラメントの供給速度を互いに異ならせる方法などが例示される。なお、前記マルチフィラメントには、必要に応じて空気加工や仮撚捲縮加工が施されていてもよい。次いで、熱処理や染色加工が施されていてもよい。さらには、撥水加工、防炎加工、難燃加工、マイナスイオン発生加工など公知の機能加工が付加されていてもさしつかえない。
【0015】
本発明の羽毛製品用縫製糸は、前記のように鞘部および芯部がともにマルチフィラメントで構成され、かつ鞘部を構成するマルチフィラメントの巾Aと芯部を構成するマルチフィラメントの巾Bとの比(A:B)が特定の範囲内であるので、羽毛の吹き出し抑制(ダウンプルーフ性)に富み、かつ縫製後の縫目外観に優れた羽毛製品を得ることが可能となる。
【0016】
次に、本発明の羽毛製品は前記の縫製糸を用いてなるものである。かかる羽毛製品は前記の縫製糸を用いているので、羽毛の吹き出し抑制(ダウンプルーフ性)に富み、かつ縫製後の縫目外観に優れる。特に、羽毛製品が、マルチフィラメント使いの表地を含むものであればその効果が顕著となる。なお、かかる羽毛製品には、ジャケット、ジャンパー、ブルゾン、羽毛布団、まくら、こたつ布団、座布団、その他各種の衣料や寝装具やインテリア製品などが含まれる。
【実施例】
【0017】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0018】
(1)鞘部を構成するマルチフィラメントの巾Aと芯部を構成するマルチフィラメントの巾Bとの比(A:B)
図1に示すように、鞘部を構成するマルチフィラメントAと芯部を構成するマルチフィラメントの巾Bともに、最も外側〜最も外側までの距離をはかった。n数3でその平均値を算出した。
【0019】
(2)沸水収縮率(BWS)
供試マルチフィラメントを、周長1.125mの検尺機のまわりに10回巻きつけて、かせを調製し、このかせを、スケール板の吊るし釘に懸垂し、懸垂しているかせの下端に、かせの総質量の1/30の荷重をかけて、かせの収縮処理前の長さL1を測定した。このかせから荷重を除き、かせを木綿袋に入れ、このかせを収容している木綿袋を沸騰
水から取り出し、この木綿袋からかせを取り出し、かせに含まれる水をろ紙により吸収除去した後、これを室温において24時間風乾した。この風乾されたかせを、前記スケール板の吊し釘に懸垂し、かせの下部分に、前記と同様に、かせの総質量の1/3の荷重をかけて、収縮処理後のかせの長さL2を測定した。
供試マルチフィラメントの沸水収縮率(BWS)を、下記式により算出する。
BWS(%)=((L1−L2)/L1)×100
【0020】
(3)ダウンプルーフ性
まず、ポリエステル繊維を用いて、目付けが20g/m、下記式で示すカバーファクターCFが2400の平組織織物を得た。次いで、該織物を30cm×30cmに裁断した試験布を2枚作製した。次いで、羽毛20gr(ダウン10gr、フェザー10gr)を2枚の試験布の間にほぼ均一に分布するよう入れ、試験布の周囲および経方向に10cm間隔、緯方向に10cm間隔で縫製糸を用いて縫製してサンプルを得た。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
次いで、該サンプルを、長さ15cmのゴム管10本とともにタンブラー乾燥機に入れ、温度60℃で30分間運転した。
該前記サンプルにおいて、縫い目から吹き出した羽毛の個数をカウントした。
【0021】
[実施例1]
イソフタル酸成分が全酸成分を基準として10モル%共重合された、固有粘度0.64の共重合ポリエチレンテレフタレートを紡糸して得た未延伸糸を加熱延伸してなる100dtex/36filの高収縮マルチフィラメント(沸水収縮率は35%)にS1200T/mの下撚りを施した。
一方、固有粘度0.64のポリエチレンテレフタレートを紡糸、延伸して得た延伸糸(マルチフィラメント、沸水収縮率は5%)にS1200T/mの下撚りを施した。
次いで、下撚りが施された前記高収縮マルチフィラメント1本と延伸糸1本を引き揃えてZ400T/mで合撚した後、130℃で30分間の綛染色を行った後、常温で20%の伸張加工を施し、さらにミシン糸用油剤を3重量%付与して本発明の羽毛製品用縫製糸を得た。該羽毛製品用縫製糸において、鞘部がループを形成しており、鞘部を構成するマルチフィラメントの巾Aと芯部を構成するマルチフィラメントの巾Bとの比(A:B)が1.3:1であった。
該羽毛製品用縫製糸を用いてダウンプルーフ性を評価したところ、縫い目から吹き出した羽毛の個数は0個であった。
次いで、該羽毛製品用縫製糸を用いて羽毛製品(ジャケット)を得たところ、羽毛の吹き出し抑制(ダウンプルーフ性)に富み、かつ縫製後の縫目外観に優れるものであった。
【0022】
[比較例1]
実施例1において、高収縮マルチフィラメントにかえて実施例1と同じ延伸糸を用いること以外は実施例1と同様にした。鞘部がループを形成していないものであった。得られた縫製糸についてダウンプルーフ性を評価したところ、縫い目から吹き出した羽毛の個数は10個であった。
また、該縫製糸を用いて羽毛製品(ジャケット)を得たところ、得られた羽毛製品(ジャケット)において、羽毛の吹き出し抑制(ダウンプルーフ性)に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、羽毛の吹き出し抑制(ダウンプルーフ性)に富み、かつ縫製後の縫目外観に優れた羽毛製品を得ることが可能な羽毛製品用縫製糸、および該縫製糸を用いてなる羽毛製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
図1