【実施例】
【0060】
[Zn系めっき鋼板の作製]
板厚0.5mmの極低炭素Ti添加鋼の鋼帯を基材として、連続溶融亜鉛めっき製造ラインで、溶融Zn−6質量%Al−3質量%Mg−0.020質量%Si−0.020質量%Ti−0.0005質量%B合金めっき鋼板(片面あたりのめっき付着量90g/m
2)を作製し、化成処理原板として使用した。
【0061】
[実施例1]
表1に記載の水溶性のモリブデン酸塩、バナジウム塩、アミン、4A族金属酸素酸塩、リン酸塩を水に溶解させて、化成処理液1〜50を調製した。化成処理液に添加した各化合物の名称と記号を表1に示す。また、各化成処理液の組成および色を表2〜4に示す。なお、Vの還元を防ぐため、バナジウム塩の溶解はアミンを含む液温40℃以下の水溶液中で行った。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
上記化成処理原板の表面を脱脂し、乾燥させた。次いで、当該化成処理原板の表面に表2に示される化成処理液1〜18をそれぞれ塗布し、直後に自動排出型電気式熱風オーブンを用いて低温(到達板温40℃または80℃)で加熱乾燥して、化成処理皮膜を形成した。こうして、当該化成処理皮膜を有する化成処理鋼板1〜36を作製した。なお、化成処理鋼板における化成処理皮膜の付着量は、いずれも200mg/m
2とした。
【0067】
[化成処理鋼板の評価]
各化成処理鋼板から切り出した試験片について、化成処理皮膜の構造の特定、皮膜中の全バナジウム中に占める5価のバナジウムの比率の特定、皮膜付着量の測定、耐食性試験および耐黒変性試験を行った。
【0068】
(1)化成処理皮膜の構造特定
化成処理皮膜の構造は、前述したTEM、EDS、GDSおよびXPSにより特定した。
【0069】
たとえば、
図1は、化成処理鋼板17の試験片の断面のTEM像である。
図1に示されるように、化成処理鋼板17の化成処理皮膜は、第1化成処理層および第2化成処理層を含む2層構造を有している。
【0070】
図2は、化成処理鋼板17の試験片についての、GDSを用いて測定した表面から深さ方向への元素分布である。
図2の横軸は、測定時間(表面からの深さに対応)を示しており、縦軸は、相対強度を示している。
図2に示されるように、化成処理鋼板17の化成処理皮膜における第1化成処理層には、Mo、VおよびPが多く含まれており、第2化成処理層には、Zrが含まれている。
【0071】
なお、特に図示しないが、実施例に区分される他の化成処理鋼板でも、化成処理鋼板17と同様にして、化成処理皮膜が上記の2層構造を有しており、第1化成処理層にV、MoおよびPを含み、第2化成処理層に4A族金属酸素酸塩を含むことが確認された。一方、比較例に区分される化成処理鋼板では、化成処理皮膜における上記の2層構造は確認されなかった。
【0072】
(2)化成処理皮膜の付着量の測定
付着量の確認は蛍光X線装置により皮膜中のZrを測定し、その指標とした。
【0073】
(3)化成処理皮膜中の全バナジウムに占める5価のバナジウムの比率の測定
化成処理皮膜中の全バナジウムに占める5価のバナジウムの比率(V
5+/V)は、XPS分析法(X-ray Photoelectoron Spectroscopy)により、化成処理皮膜中のVの化学結合状態を分析することによって求めた。分析箇所は、上記試験片から無作為に選択した10箇所の各部位について、化成処理皮膜の表層と化成処理皮膜/めっき層界面との2箇所とした。化成処理皮膜/めっき層界面の分析は、化成処理皮膜を表層からArビームでスパッタ後に行った。化成処理皮膜をスパッタする深さは、TEMによる皮膜断面の観察結果より、化成処理皮膜の厚さを測定し、決定した。上記全バナジウムに占める5価のバナジウムの比率は、V
5+に由来する約516.5eVのピークの面積(S
V5)と、V
4+に由来する514eVのピークの面積(S
V4)との総和に対する上記V
5+由来のピークの面積の比(S
V5/(S
V4+S
V5))から求めた。各試験片における10点の測定箇所における上記比率の平均値を、化成処理鋼板における全バナジウムに占める5価のバナジウムの比率(V
5+/V)とした。
【0074】
たとえば、
図3は、No.4の化成処理液を乾燥温度80℃で乾燥させることで作製した化成処理鋼板12の試験片を測定した10点の測定箇所のある1箇所において、皮膜/めっき層界面における、Vの2p軌道に対応する化学結合エネルギーの強度プロファイルである。
図3の横軸は、結合エネルギーを示しており、縦軸は、短時間(1秒当たり)の相対強度を示している。また、
図3中の実線Mvは、当該測定点において実際に測定された化学結合エネルギーの強度プロファイルである。点線P
V5は、5価のバナジウムに由来するピークを示し、点線P
V4は、4価のバナジウムに由来するピークを示し、実線Bはベースラインを示している。
【0075】
図3から、上記試験片では、化成処理皮膜中におけるV
5+比率が0.7以上であることが確認された。なお、特に図示しないが、他の化成処理鋼板でも、化成処理皮膜中におけるV
5+比率が0.7以上であることが確認された。
【0076】
(4)平坦部耐食性試験
各化成処理鋼板の試験片の端面をシールし、JIS Z2371に準拠して塩水噴霧試験を120時間行った後、上記試験片の表面に発生した白錆を観察した。各化成処理鋼板について、白錆発生面積率が5%以下の場合は「◎」、5%を超え10%以下の場合は「○」、10%を超え30%未満の場合は「△」、30%以上の場合は「×」と評価した。
【0077】
(5)加工部耐食性試験
各化成処理鋼板の30mm×250mmの試験片に対してドロービード試験(ビード高さ:4mm、圧力:1.0kN)を行い、上記試験片の端面をシールし、JIS Z2371に準拠して塩水噴霧試験を24時間行った後、摺動面に発生した白錆を観察した。各化成処理鋼板について、白錆発生面積率が5%以下の場合は「◎」、5%を超え10%以下の場合は「○」、10%を超え30%未満の場合は「△」、30%以上の場合は「×」と評価した。
【0078】
(6)耐黒変性試験
各化成処理鋼板の試験片を湿潤雰囲気(温度60℃、湿度90%RH)に所定時間放置した後、試験前後における上記試験片の明度を比較した。上記試験片の明度(L値)は、分光型色差計(TC−1800;有限会社東京電色)を用いて測定した。各化成処理鋼板について、明度差ΔLが3.0以下の場合は「◎」、3.0を超え6.0以下の場合は「○」、6.0を超え10.0未満の場合は「△」、10.0以上の場合は「×」と評価した。
【0079】
(7)評価結果
各化成処理鋼板についての、使用した化成処理液、化成処理皮膜中の各元素の比率、耐食性試験の結果および耐黒変性試験の結果を表5、表6に示す。なお、下記表中、化成処理皮膜中の各元素の比率は、Zr:100質量部に対する各元素の質量部として表している。
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【0082】
表5、6から明らかなように、V、MoおよびPを含む第1化成処理層と、第1化成処理層の上に配置され、4A族金属酸素酸塩を含む第2化成処理層とを有し、化成処理皮膜中における全Vに対する5価のVの比率を0.7以上とする化成処理皮膜を、Alを0.1〜22.0質量%を含むZn系めっき層を有するZn系めっき鋼板上に配置してなる化成処理鋼板は、良好な耐食性および耐黒変性を有する。当該化成処理皮膜は、水溶性のモリブデン酸塩、バナジウム塩、アミン、4A族金属酸素酸塩およびリン酸塩を含み、バナジウムに対するモリブデンのモル比が0.4〜5.5であり、バナジウムに対するアミンのモル比が0.3以上である化成処理液を上記Zn系めっき鋼板に塗布、乾燥することによって得られる。また、上記化成処理鋼板における上記の良好な耐食性および耐黒変性は、上記めっき鋼板に塗布された上記化成処理液を、40℃または80℃の比較的低い乾燥温度で乾燥させても、得られる。
【0083】
一方で、表5、6から明らかなように、化成処理皮膜中における5価のVの比率が0.7以下の場合、耐食性および耐黒変性に劣る。
【0084】
[実施例2]
次に、化成処理液の種類とその付着量を下記表に示すように変更した以外は、化成処理鋼板1などと同様にして、化成処理鋼板37〜100を作製し、化成処理鋼板1〜36と同様に評価した。結果を下記表7〜10に示す。
【0085】
【表7】
【0086】
【表8】
【0087】
【表9】
【0088】
【表10】
【0089】
表7〜10から明らかなように、V、MoおよびPを含む第1化成処理層と、第1化成処理層の上に配置され、4A族金属酸素酸塩を含む第2化成処理層とを有し、化成処理皮膜中における全Vに対する5価のVの比率を0.7以上とする化成処理皮膜を、Alを0.1〜22.0質量%を含むZn系めっき層を有するZn系めっき鋼板上に配置してなる化成処理鋼板は、化成処理皮膜の付着量の幅広い範囲において、良好な耐食性および耐黒変性を有する。当該化成処理皮膜は、水溶性のモリブデン酸塩、バナジウム塩、アミン、4A族金属酸素酸塩およびリン酸塩を含み、バナジウムに対するモリブデンのモル比が0.4〜5.5であり、バナジウムに対するアミンのモル比が0.3以上である化成処理液を上記Zn系めっき鋼板に塗布、乾燥することによって得られる。また、上記化成処理鋼板における上記の良好な耐食性および耐黒変性は、上記めっき鋼板に塗布された上記化成処理液を、40℃または80℃の比較的低い乾燥温度で乾燥させても、化成処理皮膜の付着量に関わらず得られる。
【0090】
次に、化成処理液を従来技術A〜Cのそれぞれに変更した以外は、化成処理鋼板1などと同様にして、比較材である化成処理鋼板101〜106を準備した。そして、実施例1と同様にして、上記の評価基準により評価した。結果を下記表11に示す。
【0091】
[従来技術A]
市販の部分還元クロメート処理液(ZM−3387;日本パーカライジング株式会社)を化成処理原板の表面に塗布し、直後に自動排出型電気式熱風オーブンを用いて低温(到達板温40℃または80℃)で加熱乾燥して、化成処理皮膜を形成した。化成処理皮膜のCr付着量は200mg/m
2であった。
【0092】
[従来技術B]
炭酸ジルコニウムアンモニウム、酒石酸バナジル、リン酸およびクエン酸を添加した青色透明の化成処理液を化成処理原板の表面に塗布し、直後に自動排出型電気式熱風オーブンを用いて低温(到達板温40℃または80℃)で加熱乾燥して、化成処理皮膜を形成した。酒石酸バナジルは、五酸化バナジウムを酒石酸水溶液中で還元させることで調製した。化成処理皮膜のZr付着量およびV付着量は、いずれも200mg/m
2であった。
【0093】
[従来技術C]
フッ化チタン酸水素酸、リン酸を添加した無色透明の化成処理液を化成処理原板の表面に塗布し、直後に自動排出型電気式熱風オーブンを用いて低温(到達板温40℃または80℃)で加熱乾燥して、化成処理皮膜を形成した。化成処理皮膜のTi付着量は、200mg/m
2であった。
【0094】
【表11】
【0095】
市販のクロメート処理液を使用したNo.101、102の化成処理鋼板は、化成処理液を低温で乾燥させたため、平坦部耐食性および加工部耐食性が劣っていた。また、従来技術の知見に基づき、有機酸を添加してVを還元させた化成処理液またはフッ化物を含む化成処理液を使用したNo.103〜106の化成処理鋼板は、それぞれ、化成処理液を低温で乾燥させたため、平坦部耐食性、加工部耐食性および耐黒変性が顕著に劣っていた。
【0096】
以上、表11に示す従来技術での試験結果と、表5〜10に示す実施例との比較により、前述した本発明に係る化成処理鋼板は、従来技術と比較し、良好な耐食性および耐黒変性を有することがわかる。また、当該化成処理鋼板は、前述した本発明に係る化成処理液からの化成処理皮膜の作製より得られることがわかる。さらに、当該良好な耐食性および耐黒変性は、当該化成処理液の低温での乾燥によっても得られることがわかる。
【0097】
[実施例3]
以下の手順で作製した化成処理鋼板を準備した。化成処理原板は板厚0.5mmの極低炭素Ti添加鋼の鋼帯を基材として、連続溶融亜鉛めっき製造ラインで、溶融Zn−0.18質量%Alめっき鋼板(片面あたりのめっき付着量90g/m
2)を作製し、化成処理原板として使用した。
【0098】
化成処理原板の表面を脱脂し、乾燥させた。次いで、化成処理原板の表面に表2〜4に示される化成処理液19〜50を塗布し、直後に自動排出型電気式熱風オーブンを用いて低温(到達板温40℃または80℃)で加熱乾燥して、化成処理皮膜を形成した。こうして、化成処理鋼板107〜170を作製した。
【0099】
各化成処理鋼板から切り出した試験片について、化成処理皮膜の構造の特定、皮膜中の全バナジウム中に占める5価のバナジウムの比率の特定、皮膜付着量の測定、耐食性試験および耐黒変性試験を行った。各化成処理鋼板についての、使用した化成処理液、化成処理皮膜中の各元素の比率、耐食性試験の結果および耐黒変性試験の結果を表12〜15に示す。なお、化成処理皮膜中の各元素の比率は、Zr:100質量部に対する各元素の質量部として表している。
【0100】
【表12】
【0101】
【表13】
【0102】
【表14】
【0103】
【表15】
【0104】
表12〜15から明らかなように、V、MoおよびPを含む第1化成処理層と、第1化成処理層の上に配置され、4A族金属酸素酸塩を含む第2化成処理層とを有し、化成処理皮膜中における全Vに対する5価のVの比率を0.7以上とする化成処理皮膜を、Alを0.1〜22.0質量%を含むZn系めっき層を有するZn系めっき鋼板上に配置してなる化成処理鋼板は、いずれも、良好な耐食性および耐黒変性を有していることがわかる。当該化成処理皮膜は、水溶性のモリブデン酸塩、バナジウム塩、アミン、4A族金属酸素酸塩およびリン酸塩を含み、バナジウムに対するモリブデンのモル比が0.4〜5.5であり、バナジウムに対するアミンのモル比が0.3以上である化成処理液を上記Zn系めっき鋼板に塗布、乾燥することによって得られる。また、上記化成処理鋼板における上記の良好な耐食性および耐黒変性は、比較的低い温度で化成処理液を乾燥させた化成処理鋼板であっても、化成処理皮膜の付着量の幅広い範囲において、得られる。
【0105】
以上の結果から、本発明の化成処理鋼板は、化成処理液を低温かつ短時間で乾燥させた場合であっても、加工部耐食性および耐黒変性に優れていることがわかる。
【0106】
[実施例4]
[化成処理液51の調製]
表1に示すモリブデン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、エタノールアミン、炭酸ジルコニウムアンモニウム(AZC)、リン酸水素ニアンモニウムおよび水を、表16に示す濃度となるように混合し、化成処理液51を得た。各化成処理液の組成および色を表16に示す。表16中、「Mo/V」は、バナジウム元素に対するモリブデン元素のモル比であり、「アミン/V」は、バナジウム元素に対するアミンのモル比である。
【0107】
[化成処理液52〜57の調製]
モリブデン濃度、バナジウム塩の種類およびバナジウム濃度、アミンの種類および濃度、ジルコニウム濃度、リン酸塩の種類およびリン濃度を、表16に示すように変更した以外は化成処理液51と同様にして、化成処理液52〜57をそれぞれ得た。
【0108】
【表16】
【0109】
[化成処理液58〜64の調製]
親水性樹脂としての有機樹脂を表17に示す濃度となるようにさらに混合した以外は化成処理液51〜57と同様にして、化成処理液58〜64をそれぞれ得た。表17中、「AR」はアクリル樹脂を、「PO」はポリオレフィンを、「ER」はエポキシ樹脂を、「PU」はポリウレタンを、それぞれ表す。また、表17中の有機樹脂の量は、化成処理液中のバナジウムおよびモリブデンの合計量に対する有機樹脂の量(質量%)である。
【0110】
なお、「アクリル樹脂」には、DIC株式会社製の「ボンコート40−418EF」(「ボンコート」は同社の登録商標)を、「ポリオレフィン」には、住友精化株式会社製の「ザイクセン」Aタイプ−AC(「ザイクセン」は同社の登録商標)を、「エポキシ樹脂」には、株式会社ADEKA製の「アデカレジンEM−0434AN」(「アデカレジン」は同社の登録商標)を、そして「ポリウレタン」には、株式会社ADEKA製の「アデカポンタイターHUX−232(「アデカポンタイター」は同社の登録商標)を、それぞれ用いた。
【0111】
[化成処理液65、66の調製]
モリブデン濃度、バナジウム塩の種類およびバナジウム濃度、アミンの種類および濃度、ジルコニウム濃度、リン酸塩の種類およびリン濃度、有機樹脂の種類および濃度を、表17に示すように変更した以外は化成処理液51と同様にして、化成処理液65、66をそれぞれ得た。
【0112】
【表17】
【0113】
[化成処理液67〜73の調製]
水中でフッ素イオンまたはフルオロメタルイオンを生成するフッ素化合物を表18に示す濃度となるようにさらに混合した以外は化成処理液51〜57と同様にして、化成処理液67〜73をそれぞれ得た。表18中のフッ素化合物の量は、化成処理液中のバナジウムおよびモリブデンの合計量に対するフッ素元素の量(質量%)である。当該フッ素元素は、化成処理液中のフッ素イオンまたはフルオロメタルイオンに由来している。
【0114】
【表18】
【0115】
[化成処理液74〜80の調製]
水中でシラノール基を生成するケイ素化合物を表19に示す濃度となるようにさらに混合した以外は化成処理液51〜57と同様にして、化成処理液74〜80をそれぞれ得た。表19中のケイ素化合物の量は、化成処理液中のバナジウムおよびモリブデンの合計量に対するケイ素元素の量(質量%)である。当該ケイ素元素は、化成処理液中のシラノール基に由来している。
【0116】
【表19】
【0117】
なお、上記化成処理液の調製において、Vの還元を防ぐため、アミンを含む液温40℃以下の水溶液にバナジウム塩を添加し、溶解させた。各化成処理液の色が黄色であることから、各化成処理液に含まれるVの価数は、5価(V
5+)であると考えられる。
【0118】
[化成処理鋼板171〜200の作製]
上記化成処理原板の表面を脱脂し、乾燥させた。次いで、化成処理原板の表面に表16に示される化成処理液51を、表20に示す化成処理皮膜の付着量となる量で塗布し、直後に自動排出型電気式熱風オーブンを用いて乾燥温度(到達板温)40℃で2秒間加熱乾燥して、化成処理皮膜を形成した。こうして、化成処理鋼板171を作製した。
【0119】
また、化成処理液51に代えて化成処理液52〜80のそれぞれを用い、表20または表21に示す付着量で当該化成処理液を化成処理原板に塗布し、表20または表21に示す乾燥温度で加熱乾燥する以外は、化成処理鋼板51と同様にして、化成処理鋼板172〜200をそれぞれ作製した。なお、乾燥温度が80℃の場合の乾燥時間は6秒間である。
【0120】
[化成処理鋼板の測定、評価]
各化成処理鋼板から切り出した試験片について、実施例1と同様にして化成処理皮膜の構造を特定すると共に、耐食性試験および耐黒変性試験を行った。
【0121】
その結果、実施例に区分される化成処理鋼板では、たとえば化成処理鋼板17と同様の2層構造が、すなわち第1化成処理層にV、MoおよびPを含み、第2化成処理層に4A族金属酸素酸塩を含むことが確認された。一方、比較例に区分される化成処理鋼板では、化成処理皮膜における上記の2層構造は確認されなかった。
【0122】
化成処理鋼板171〜200における、化成処理液の種類、付着量、乾燥温度、化成処理皮膜中のモリブデン、バナジウムおよびリンの含有比、5価のバナジウムの比率、および各種評価結果を表20、表21にそれぞれ示す。なお、モリブデン、バナジウムおよびリンの各含有比は、Zr元素100質量部に対する各元素の質量部である。
【0123】
【表20】
【0124】
【表21】
【0125】
表16および表20から明らかなように、化成処理液51〜57を使用した化成処理鋼板171〜177の平坦部耐食性、加工部耐食性および耐黒変性は、いずれも十分良好であった。
【0126】
一方、表17および表20から明らかなように、親水性樹脂を含有する以外は化成処理液51〜57と同じ組成の化成処理液58〜64を使用した化成処理鋼板178〜184では、平坦部耐食性、加工部耐食性および耐黒変性の少なくともいずれかが不十分となることがあった。具体的には、親水性樹脂の濃度が比較的低い化成処理液60、62、63を使用した化成処理鋼板180、182、183では、平坦部耐食性、加工部耐食性および耐黒変性のいずれもが十分良好であった。これに対して、親水性樹脂の濃度が比較的高い化成処理液58、59、61、64を使用した化成処理鋼板178、179、181、184では、平坦部耐食性、加工部耐食性および耐黒変性のいずれもが不十分であった。これは、化成処理液中に親水性樹脂が比較的高い濃度で含まれると、化成処理皮膜中の上記2層構造の構築が阻害されるため、と考えられる。
【0127】
また、化成処理鋼板185、186でも、平坦部耐食性、加工部耐食性および耐黒変性のいずれもが不十分であった。これは、化成処理液65、66中の「Mo/V」および「アミン/V」が同じであっても、リンの有無に関わらず、親水性樹脂を高い濃度で含有しているので、上記と同じ理由で化成処理皮膜中の上記2層構造の構築が阻害されるため、と考えられる。
【0128】
また、表18および表21から明らかなように、フッ素イオンまたはフルオロメタルイオンとしてフッ素を含有する以外は化成処理液51〜57と同じ組成の化成処理液67〜73を使用した化成処理鋼板187〜193では、平坦部耐食性、加工部耐食性および耐黒変性の少なくともいずれかが不十分となることがあった。具体的には、フッ素濃度が比較的低い化成処理液69、70を使用した化成処理鋼板189、190では、平坦部耐食性、加工部耐食性および耐黒変性のいずれもが十分良好であった。これに対して、フッ素濃度が比較的高い化成処理液67、68、71〜73を使用した化成処理鋼板187、188、191〜193では、平坦部耐食性、加工部耐食性および耐黒変性のいずれもが不十分であった。これは、化成処理液中に上記のフッ素が比較的高い濃度で含まれると、化成処理皮膜中の上記2層構造の構築が阻害されるため、と考えられる。
【0129】
また、表19および表21から明らかなように、シラノール基由来のケイ素を含有する以外は化成処理液51〜57と同じ組成の化成処理液74〜80を使用した化成処理鋼板194〜200では、平坦部耐食性、加工部耐食性および耐黒変性の少なくともいずれかが不十分となることがあった。具体的には、ケイ素濃度が比較的低い化成処理液76、79を使用した化成処理鋼板196、199では、平坦部耐食性、加工部耐食性および耐黒変性のいずれもが十分良好であった。これに対して、ケイ素濃度が比較的高い化成処理液74、75、77、78、80を使用した化成処理鋼板194、195、197、198、200では、平坦部耐食性、加工部耐食性および耐黒変性のいずれもが不十分であった。これは、化成処理液中に上記のケイ素が比較的高い濃度で含まれると、化成処理皮膜中の上記2層構造の構築が阻害されるため、と考えられる。
【0130】
以上より、0.1〜22.0質量%のアルミニウムを含むZn系めっき層を有するZn系めっき鋼板に、水溶性のモリブデン酸塩、バナジウム塩、アミン、4A族金属酸素酸塩およびリン酸化合物を含み、バナジウムに対するモリブデンのモル比が0.4〜5.5であり、かつバナジウムに対するアミンのモル比が0.3以上である化成処理液であって、バナジウムおよびモリブデンの合計量に対し、上記親水性樹脂の含有量が多くとも100質量%であり、上記フッ素濃度が多くとも30質量%であり、あるいは、上記ケイ素濃度が多くとも50質量%である化成処理液を適用すると、化成処理液を低温かつ短時間で乾燥させた場合であっても、加工部耐食性および耐黒変性に優れる化成処理鋼板が得られることがわかる。