特許第6272449号(P6272449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6272449
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】水系顔料分散体
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20180122BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20180122BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20180122BHJP
   C09B 67/46 20060101ALI20180122BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20180122BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   C09D17/00
   C09D11/326
   C09B67/20 L
   C09B67/46 B
   B41J2/01 501
   B41M5/00 120
【請求項の数】10
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2016-243658(P2016-243658)
(22)【出願日】2016年12月15日
(65)【公開番号】特開2017-119845(P2017-119845A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2017年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-257513(P2015-257513)
(32)【優先日】2015年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】東 晃志
(72)【発明者】
【氏名】百田 博和
(72)【発明者】
【氏名】清水 祐介
(72)【発明者】
【氏名】江口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】川口 太生
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/025287(WO,A1)
【文献】 特開2011−094075(JP,A)
【文献】 特開2011−137102(JP,A)
【文献】 特開2011−094034(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/071177(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 17/00
C09D 11/00−54
B41J 2/01
B41M 5/00
C09B 67/20
C09B 67/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料をポリマー分散剤で水系媒体に分散させた水系顔料分散体であって、該ポリマー分散剤がカルボキシ基を有する水不溶性ポリマーであり、
該カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーが、カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位と芳香族基含有モノマー由来の構成単位を含有するビニル系ポリマーであり、
該カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価が200mgKOH/g以上320mgKOH/g以下であり、
該カルボキシ基のうち少なくとも一部がアルカリ金属水酸化物で中和されており、かつ該カルボキシ基の一部が水不溶性多官能エポキシ化合物と反応させて得られる架橋構造を有し、下記条件1及び2を満たす水系顔料分散体。
条件1:〔(100−中和度−架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が32mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
条件2:〔(中和度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が48mgKOH/g以上144mgKOH/g以下である。
ここで、中和度は「アルカリ金属水酸化物のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」、架橋度は「水不溶性多官能エポキシ化合物のエポキシ基のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」である。
【請求項2】
さらに下記条件3を満たす、請求項1に記載の水系顔料分散体。
条件3:〔(架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が40mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
【請求項3】
水不溶性ポリマーの数平均分子量が2,000以上20,000以下である、請求項1又は2に記載の水系顔料分散体。
【請求項4】
水不溶性多官能エポキシ化合物が、炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのグリシジルエーテル化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の水系顔料分散体。
【請求項5】
カルボキシ基含有モノマーが、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の水系顔料分散体。
【請求項6】
インクジェット記録用である、請求項1〜5のいずれかに記載の水系顔料分散体。
【請求項7】
下記工程1〜4を有し、かつ工程1における水不溶性ポリマーの酸価及び中和度と、工程3における架橋度の関係が、下記条件1及び2を満たす水系インクの製造方法。
工程1:カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーをアルカリ金属水酸化物で中和する工程
ここで、該カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーは、カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位と芳香族基含有モノマー由来の構成単位を含有するビニル系ポリマーであり、その酸価は200mgKOH/g以上320mgKOH/g以下である。
工程2:工程1で得られた水不溶性ポリマーと顔料を水系媒体中で混合して分散し、顔料水分散体Aを得る工程
工程3:工程2で得られた顔料水分散体Aを、水不溶性多官能エポキシ化合物で架橋処理し、水不溶性ポリマーが架橋された水系顔料分散体Bを得る工程
工程4:工程3で得られた水系顔料分散体Bと有機溶媒とを混合し、水系インクを得る工程
条件1:〔(100−中和度−架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が32mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
条件2:〔(中和度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が48mgKOH/g以上144mgKOH/g以下である。
ここで、中和度は「アルカリ金属水酸化物のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」、架橋度は「水不溶性多官能エポキシ化合物のエポキシ基のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」である。
【請求項8】
さらに下記条件3を満たす、請求項7に記載の水系インクの製造方法。
条件3:〔(架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が40mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
【請求項9】
工程1における水不溶性ポリマーのカルボキシ基の中和度が10モル%以上60モル%以下である、請求項7又は8に記載の水系インクの製造方法。
【請求項10】
工程3で架橋された水不溶性ポリマーの架橋度が5モル%以上80モル%以下である、請求項7〜のいずれかに記載の水系インクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系顔料分散体、及び水系インクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、微細なノズルからインク液滴を直接吐出し、記録媒体に付着させて、文字や画像が記録された印刷物等を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易でかつ安価であり、記録媒体として普通紙が使用可能、被記録媒体に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。特に記録物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料を用いるものが主流となってきている。
【0003】
ところで、顔料はポリマー分散剤を用いてインクビヒクルに分散させて用いられるが、染料と異なり、顔料分子をインクビヒクル中に均一に溶解できないため、顔料の分散状態を維持する保存安定性の向上や、長期間後には顔料の分散状態がくずれてインク吐出ノズル部分でポリマーや顔料の固化による吐出性低下の抑制を解決する必要がある。
例えば、特許文献1には、耐水性、経時安定性等に優れた顔料分散液を得ることを目的として、特定割合のカルボキシ基含有熱可塑性樹脂で顔料を分散させたのちにカルボキシ基含有熱可塑性樹脂が架橋剤にて架橋し、架橋剤/カルボキシ基含有熱可塑性樹脂(有効固形分重量比)が1/100〜50/100である水性顔料分散液が開示されている。さらに熱可塑性樹脂を沸点200℃以下の有機アミンで中和することが好ましいこと、中和率が100〜150%程度が好ましいこと等が開示されている。
また、顔料のインクビヒクル中での分散安定性を高めて上記の問題を解決するため、ポリマー分散剤を用いずに、分散安定性を発現する化学構造を顔料表面に直接形成するという、いわゆる自己分散型顔料が知られている。しかしながら、自己分散型顔料を用いると、インク吐出ノズル部分での顔料の固化は抑制できるが、顔料を用いる利点である耐水性が損なわれるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第1999/052966号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の水性顔料分散液は、カルボキシ基と反応する官能基を1分子中に複数有する架橋剤によって、顔料を分散する樹脂分散剤を3次元的に結合させ、強固な皮膜を得ることができるため、室温ではインクの安定性はある程度確保できる。しかしながら、高温下において、より長期間保存した場合、インクの安定性を確保することができず、近年高まる信頼性への要求を満たすには至っていない。
本発明は、顔料を用いる利点である水系顔料分散体及び水系インクの耐水性を維持しつつ、インク吐出ノズルでの顔料やポリマーの固化を抑制できる優れた保存安定性を有し、更に吐出性、定着性に優れた水系顔料分散体、及び水系インクの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
水系インクの耐水性を向上させるには、インク液滴が記録媒体と接触後、顔料粒子同士又は顔料粒子と記録媒体との接着力を強固にすることが最も有力な手法である。これを達成するためには、水系インクに配合するポリマー分散剤の量を増やし、記録媒体上で均一で密な被膜を形成させることが考えられるが、ポリマー分散剤の量を増やし過ぎるとインク吐出ノズル部分でも接着が発生するため、インク吐出ノズル部分の顔料やポリマーの固化を抑制するという点では不利となる。
そこで、本発明者らは、インク吐出ノズル部分のようにインクビヒクルが存在する環境では流体状態を維持でき、一方、記録媒体面と接触する印刷時のようにインクビヒクルがなくなってしまった環境では強固な皮膜を形成できる性能を得ること目指した。そして、ポリマー分散剤のカルボキシ基の少なくとも一部がアルカリ金属水酸化物で中和されたポリマー分散剤で顔料を分散した後、水不溶性多官能エポキシ化合物と架橋反応させることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の[1]及び[2]に関する。
[1]顔料をポリマー分散剤で水系媒体に分散させた水系顔料分散体であって、該ポリマー分散剤がカルボキシ基を有する水不溶性ポリマーであり、該カルボキシ基のうち少なくとも一部がアルカリ金属水酸化物で中和されており、かつ該カルボキシ基の一部が水不溶性多官能エポキシ化合物と反応させて得られる架橋構造を有し、下記条件1及び2を満たす水系顔料分散体(以下、単に「水系顔料分散体」ともいう)。
条件1:〔(100−中和度−架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が32mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
条件2:〔(中和度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が48mgKOH/g以上144mgKOH/g以下である。
ここで、中和度は「アルカリ金属水酸化物のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」、架橋度は「水不溶性多官能エポキシ化合物のエポキシ基のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」である。
【0008】
[2]下記工程1〜4を有し、かつ工程1における水不溶性ポリマーの酸価及び中和度と、工程3における架橋度の関係が、下記条件1及び2を満たす水系インク(以下、単に「水系インク」ともいう)の製造方法。
工程1:カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーをアルカリ金属水酸化物で中和する工程
工程2:工程1で得られた水不溶性ポリマーと顔料を水系媒体中で混合して分散し、顔料水分散体Aを得る工程
工程3:工程2で得られた顔料水分散体Aを水不溶性多官能エポキシ化合物で架橋処理し、水不溶性ポリマーが架橋された水系顔料分散体Bを得る工程
工程4:工程3で得られた水系顔料分散体Bと有機溶媒とを混合し、水系インクを得る工程
条件1:〔(100−中和度−架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が32mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
条件2:〔(中和度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が48mgKOH/g以上144mgKOH/g以下である。
ここで、中和度、架橋度は前記のとおりである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、顔料を用いる利点である水系顔料分散体及び水系インクの耐水性を維持しつつ、インク吐出ノズルでの顔料やポリマーの固化を抑制できる優れた保存安定性を有し、更に吐出性、定着性に優れた水系顔料分散体、及び水系インクの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[水系顔料分散体]
本発明の水系顔料分散体は、顔料をポリマー分散剤で水系媒体に分散させた水系顔料分散体であって、該ポリマー分散剤がカルボキシ基を有する水不溶性ポリマーであり、該カルボキシ基のうち少なくとも一部がアルカリ金属水酸化物で中和されており、かつ該カルボキシ基の一部が水不溶性多官能エポキシ化合物と反応させて得られる架橋構造を有し、下記条件1及び2を満たす。
条件1:〔(100−中和度−架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が32mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
条件2:〔(中和度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が48mgKOH/g以上144mgKOH/g以下である。
ここで、中和度は「アルカリ金属水酸化物のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」、架橋度は「水不溶性多官能エポキシ化合物のエポキシ基のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」である。
なお、「水系」とは、顔料を分散させる媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味する。
本発明の水系顔料分散体は、保存安定性や定着性、耐水性に優れ、良好な印刷物を得ることができるため、フレキソ印刷インキ用、グラビア印刷インキ用、又はインクジェットインク用の水系顔料分散体として好適に用いることができ、特にインクジェットインク用水系顔料分散体として用いることが好ましい。
また、本発明の水系顔料分散体を用いた水系インクは、インクジェット記録方式における連続吐出安定性や定着性に優れることから、インクジェット記録用水系インクとして用いることが好ましい。
【0011】
本発明の水系顔料分散体を、水系インクに配合すると、インク吐出ノズルでの顔料やポリマーの固化を抑制できる保存安定性が高まり、更に吐出性、定着性が向上する。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の水系顔料分散体は、顔料表面に水不溶性のポリマー分散剤が吸着し、顔料が水系で分散していると推定される。そして、ポリマー分散剤が架橋されていることでインクに配合される溶剤等による水不溶性ポリマーの膨潤が抑制された状態で顔料に吸着すると推定される。
条件1は、ポリマー分散剤中の中和や架橋に寄与していないフリーのカルボキシ基の量を示しており、記録媒体上に水系顔料分散体を含むインクを吐出し画像を形成した場合、条件1の数値範囲であると、インクビヒクルの乾燥時に、カルボキシ基由来の水素結合により、水不溶性ポリマーが強固な被膜を形成できるため、顔料を用いる利点である耐水性が維持され、定着性に優れるものと推定される。
条件2は、中和されたカルボキシ基の量を示すものであり、条件2の数値範囲であると、顔料に吸着したポリマー分散剤とインクビヒクルとの親和性が最適な状態となり、保存安定性や吐出性が向上すると考えられる。
【0012】
<顔料>
本発明に用いられる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよく、レーキ顔料、蛍光顔料を用いることもできる。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、ベンガラ、酸化クロム等の金属酸化物、真珠光沢顔料等が挙げられる。特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料の具体例としては、アゾレーキ顔料、不溶性モノアゾ顔料、不溶性ジスアゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料類;フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ベンツイミダゾロン顔料、スレン顔料等の多環式顔料類等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンから選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
上記の顔料は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
本発明において、顔料は、水系顔料分散体及び水系インク中で、ポリマー分散剤で分散された顔料、又は顔料を含有するポリマー分散剤、即ち、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子として含有される。
顔料は、耐水性を維持しつつ、インク吐出ノズルでの顔料固化を抑制し、保存安定性、定着性等を向上させる観点から、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子(以下、単に「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)として含有されることが好ましい。
【0014】
<ポリマー分散剤>
本発明に用いられるポリマー分散剤は、カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーであり、該カルボキシ基のうち少なくとも一部がアルカリ金属水酸化物で中和されている。
本発明においては、中和剤としてアルカリ金属水酸化物を使用することで、中和後に発現する電荷反発力が大きくなり、水系顔料分散体や水系インクを保存すると増粘や凝集が発生を抑制、さらに近年要望されている高い信頼性に応えられるほどの保存安定性、定着性等が向上すると考えられる、
また、後述するように、ポリマー分散剤は、耐水性を維持しつつ、優れた保存安定性、吐出性、定着性を確保する観点から、カルボキシ基の一部が水不溶性多官能エポキシ化合物と反応させて得られる架橋構造を有し、前記条件1及び2を満たす。
【0015】
(水不溶性ポリマー)
本発明で用いられるカルボキシ基を有する水不溶性ポリマー(以下、単に「水不溶性ポリマー」ともいう)は、顔料分散作用を発現する顔料分散剤としての機能と、記録媒体への定着剤としての機能を有する。
この水不溶性ポリマーは、未中和の状態では勿論、そのカルボキシ基の一部を中和した後でも水不溶性である。ここで、「水不溶性」とは、水不溶性ポリマーの水分散体が透明とならないことを意味する。また水不溶性ポリマーの水分散体が目視で透明に見えたとしても、レーザー光や通常光による観察でチンダル現象が認められる場合は水不溶性であると判断する。
【0016】
水不溶性ポリマーの酸価はカルボキシ基に由来するが、好ましくは200mgKOH/g以上、より好ましくは220mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは320mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下、更に好ましくは270mgKOH/g以下である。酸価が前記の範囲であれば、カルボキシ基及びその中和されたカルボキシ基の量は十分であり、顔料の分散安定性が確保される。またポリマー分散剤と水系媒体の親和性と、ポリマー分散剤と顔料との相互作用とのバランスの点からも好ましい。
ポリマーの酸価は、構成するモノマーの質量比から算出することができる。また、適当な有機溶剤(例えば、MEK)にポリマーを溶解又は膨潤させて滴定する方法でも求めることができる。
【0017】
水系顔料分散体及び水系インク中での水不溶性ポリマーの存在形態は、顔料に吸着している状態、顔料を含有している顔料内包(カプセル)状態、及び顔料を吸着していない形態がある。顔料の分散安定性の観点から、本発明においては顔料含有ポリマー粒子の形態が好ましく、顔料を含有している顔料内包状態がより好ましい。
用いられる水不溶性ポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、及びビニル系ポリマーから選ばれる1種以上が挙げられるが、水系顔料分散体及び水系インクの保存安定性を向上させる観点から、ビニル化合物、ビニリデン化合物、及びビニレン化合物等から選ばれるビニルモノマーの付加重合により得られるビニル系ポリマーから選ばれる1種以上が好ましい。
【0018】
本発明に用いられるポリマー分散剤としてのビニル系ポリマーとしては、(a)カルボキシ基含有モノマー(以下、「(a)成分」ともいう)と、(b)疎水性モノマー(以下、「(b)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(a)成分由来の構成単位と(b)成分由来の構成単位を有する。このビニル系ポリマーは、更に(c)マクロモノマー(以下、「(c)成分」ともいう)由来の構成単位を含有するもの、及び/又は(d)ノニオン性モノマー(以下、「(d)成分」ともいう)由来の構成単位を含有するものが好ましい。
【0019】
〔(a)カルボキシ基含有モノマー〕
(a)カルボキシ基モノマーは、顔料含有ポリマー粒子の水系顔料分散体及び水系インク中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられる。カルボキシ基モノマーとしては、カルボン酸モノマーが用いられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられるが、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が好ましく、アクリル酸がより好ましい。
【0020】
〔(b)疎水性モノマー〕
(b)疎水性モノマーは、顔料含有ポリマー粒子の水系顔料分散体及び水系インク中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。疎水性モノマーとしては、炭素数1以上22以下のアルキル基又は炭素数6以上22以下のアリール基を有するアルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリル酸エステルとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートから選ばれる1種以上を意味する。以下における「(メタ)」も同義である。
【0021】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレートがより好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレン、2−メチルスチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
(b)疎水性モノマーは、前記のモノマーを2種以上使用してもよく、スチレン系モノマーと芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステルを併用してもよい。
【0022】
〔(c)マクロモノマー〕
(c)マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物であり、顔料含有ポリマー粒子の水系顔料分散体及び水系インク中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
(c)マクロモノマーの数平均分子量は1,000以上10,000以下が好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(c)マクロモノマーとしては、顔料含有ポリマー粒子の水系顔料分散体及び水系インク中における分散安定性を向上させる観点から、芳香族基含有モノマー系マクロモノマー及びシリコーン系マクロモノマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロモノマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロモノマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記(b)疎水性モノマーで記載した芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロモノマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロモノマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0023】
〔(d)ノニオン性モノマー〕
水不溶性ポリマーには、顔料含有ポリマー粒子の水系顔料分散体及び水系インク中における分散安定性を向上させる観点から、更に、(d)ノニオン性モノマーをモノマー成分として用いることが好ましい。即ち、水不溶性ポリマーは、更に(d)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有するものが好ましい。
(d)ノニオン性モノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(n=1〜30、その中のエチレングリコール:n=1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(メタ)アクリレートが好ましく、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0024】
商業的に入手しうる(d)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM−20G、同40G、同90G、同230G等、日油株式会社のブレンマーPE−90、同200、同350等、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800、同1000等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
上記(a)〜(d)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
以上のとおり、本発明で用いられるカルボキシ基を有する水不溶性ポリマーは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上の(a)カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位と、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマー及び芳香族基含有モノマーから選ばれる1種以上の(b)疎水性モノマー由来の構成単位を含有するビニル系ポリマーであることが好ましく、更に(c)マクロモノマー由来の構成単位、及び(d)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有するビニル系ポリマーであることがより好ましい。
【0025】
(モノマー混合物中又はポリマー中における各成分又は構成単位の含有量)
水不溶性ポリマー製造時における、上記(a)及び(b)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は水不溶性ポリマー中における(a)及び(b)成分に由来する構成単位の含有量は、顔料含有ポリマー粒子の水系インク中における分散安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは75質量%未満、より好ましくは60質量%未満、更に好ましくは55質量%未満である。
(b)成分の含有量は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%未満、より好ましくは80質量%未満、更に好ましくは75質量%未満である。
【0026】
更に(c)及び/又は(d)成分を含有する場合の水不溶性ポリマー製造時における、上記(a)〜(d)成分のモノマー混合物中における含有量又は水不溶性ポリマー中における(a)〜(d)成分に由来する構成単位の含有量は、顔料含有ポリマー粒子の水系インク中における分散安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは28質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
(b)成分の含有量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
(c)成分を含有する場合、(c)成分の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
(d)成分を含有する場合、(d)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0027】
[(a)成分/(b)成分]の質量比は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.25以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは0.80以下、更に好ましくは0.60以下である。
また、(c)成分を含有する場合、[(a)成分/〔(b)成分+(c)成分〕]の質量比は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.10以上であり、そして、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.80以下、更に好ましくは0.60以下である。
【0028】
(水不溶性ポリマーの製造)
水不溶性ポリマーは、前記モノマー混合物を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に特に制限はないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、炭素数3〜5のケトン類、エーテル類、酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましく、メチルエチルケトン又はそれと水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。
重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、t−ブチルペルオキシオクトエート、ベンゾイルパーオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。
重合連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の連鎖移動剤を用いることができる。
また、重合モノマーの連鎖の様式に制限はなく、ランダム、ブロック、グラフト等のいずれの重合様式でもよい。
【0029】
好ましい重合条件は、使用する重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、通常、重合温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より80℃以下である。重合時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、そして、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下である。また、重合雰囲気は、好ましくは窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気である。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
本発明において、ポリマー分散剤を用いて顔料を分散する方法としては、任意の公知の方法を用いることができるが、後述する顔料含有ポリマー粒子の水分散体とすることが好ましい。顔料含有ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、含有する有機溶媒を後述する工程Iに用いる有機溶媒として用いるために、そのまま水不溶性ポリマー溶液として用いることが好ましい。
水不溶性ポリマー溶液の固形分濃度は、顔料含有ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。
【0030】
本発明で用いられる水不溶性ポリマーの数平均分子量は、好ましくは2,000以上、より好ましくは5,000以上であり、そして、好ましくは20,000以下、より好ましくは18,000以下である。また、その重量平均分子量は、好ましくは6,000以上、より好ましくは8,000以上であり、そして、好ましくは80,000以下、より好ましくは40,000以下である。ポリマーの分子量が前記の範囲であれば、顔料への吸着力が十分であり分散安定性を発現することができる。
なお、数平均分子量の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0031】
〔顔料含有ポリマー粒子の製造〕
顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子(顔料含有ポリマー粒子)は、水分散体として下記の工程I及び工程IIを有する方法により、効率的に製造することができる。
工程I:水不溶性ポリマー、有機溶媒、顔料、及び水を含有する混合物(以下、「顔料混合物」ともいう)を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(以下、「顔料水分散体」ともいう)を得る工程
工程III:工程IIで得られた顔料水分散体を、水不溶性多官能エポキシ化合物で架橋処理し、水不溶性ポリマーが架橋された水系顔料分散体を得る工程
【0032】
(工程I)
工程Iでは、まず、水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。水不溶性ポリマーの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、顔料の順に加えることが好ましい。
水不溶性ポリマーを溶解させる有機溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、顔料への濡れ性、水不溶性ポリマーの溶解性、及び水不溶性ポリマーの顔料への吸着性を向上させる観点から、炭素数4以上8以下のケトンがより好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが更に好ましく、メチルエチルケトンがより更に好ましい。
水不溶性ポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
【0033】
(中和)
水不溶性ポリマーのカルボキシ基の少なくとも一部は、中和剤を用いて中和される。中和する場合は、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。
中和剤としては、得られる水系顔料分散体及び水系インクの耐水性、保存安定性、定着性等の観点から、アルカリ金属水酸化物が用いられる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムが挙げられるが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。また、該水不溶性ポリマーを予め中和しておいてもよい。
中和剤は、十分かつ均一に中和を促進させる観点から、中和剤水溶液として用いることが好ましい。中和剤水溶液の濃度は、上記の観点から、3質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましく、また、50質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。
水不溶性ポリマーのカルボキシ基の中和度は、得られる水系顔料分散体及び水系インクの耐水性、保存安定性、定着性等の観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、より更に好ましくは25モル%以上であり、また、好ましくは60モル%以下、より好ましくは55モル%以下、更に好ましくは50モル%以下、より更に好ましくは45モル%以下である。
ここで中和度とは、アルカリ金属水酸化物のモル当量数を水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数で除した値、即ち「アルカリ金属水酸化物のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」の値である。本来、中和度は100モル%を超えることはないが、本発明ではアルカリ金属水酸化物のモル当量数から計算するため、アルカリ金属水酸化物を過剰に用いた場合は100モル%を超える。
【0034】
(顔料混合物中の各成分の含有量)
顔料混合物中の各成分の含有量は、得られる水系顔料分散体の耐水性、保存安定性、定着性、吐出性の観点、及び生産性の観点から、以下のとおりである。
工程Iにおける顔料の顔料混合物中の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12.5質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
水不溶性ポリマーの顔料混合物中の含有量は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上であり、また、好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、更に好ましくは6.0質量%以下である。
有機溶媒の顔料混合物中の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
水の顔料混合物中の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、また、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0035】
水不溶性ポリマーに対する顔料の顔料混合物中の質量比〔顔料/水不溶性ポリマー〕は、得られる水系顔料分散体の耐水性、保存安定性、定着性等を向上させる観点から、好ましくは30/70以上、より好ましくは40/60以上、更に好ましくは50/50以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは75/25以下である。
【0036】
(顔料混合物の分散処理)
工程Iにおいては、前記顔料混合物を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の分散体を得る。分散体を得る分散方法に特に制限はない。本分散だけで顔料粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは顔料混合物を予備分散させた後、更に剪断応力を加えて本分散を行い、顔料粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
工程Iにおける温度、とりわけ予備分散における温度は、好ましくは0℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは25℃以下であり、分散時間は好ましくは0.5時間以上、より好ましくは0.8時間以上であり、また、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは5時間以下である。
顔料混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができるが、中でも高速撹拌混合装置が好ましい。
【0037】
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidic社製)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて本分散を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは130MPa以上であり、また、好ましくは200MPa以下、より好ましくは180MPa以下である。
また、パス回数は、好ましくは3以上、より好ましくは10以上であり、また、好ましくは30以下、より好ましくは25以下である。
【0038】
(工程II)
工程IIでは、工程Iで得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を除去することで、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(顔料水分散体)を得ることができる。得られた顔料水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた顔料水分散体は、顔料含有ポリマー粒子が水を主媒体とする媒体中に分散しているものである。ここで、顔料含有ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、水不溶性ポリマーに顔料が内包された粒子形態、水不溶性ポリマー中に顔料が均一に分散された粒子形態、水不溶性ポリマーの粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
【0039】
得られた顔料水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点及び水系インクの調製を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
なお、顔料水分散体の固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、粗大粒子を低減し、水系インクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは70nm以上であり、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは160nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
なお、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
また、水系インク中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、顔料水分散体中の平均粒径と同じであり、好ましい平均粒径の態様は、顔料水分散体中の平均粒径の好ましい態様と同じである。
【0040】
(工程III)
工程IIIでは、得られる水系顔料分散体及び水系インクの耐水性、保存安定性、吐出性、及び定着性を向上させる観点から、工程IIで得られた顔料水分散体を、後述する水不溶性多官能エポキシ化合物(架橋剤)で架橋処理し、水不溶性ポリマーが架橋された水系顔料分散体を得る。この工程で、顔料含有ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーのカルボキシ基の一部を架橋し、顔料含有ポリマー粒子の表層部に架橋構造を形成させる。顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子に含まれる水不溶性ポリマーが架橋剤によって架橋され、架橋された水不溶性ポリマーとなる。
この場合、上記工程IIで得られた顔料水分散体と水不溶性多官能エポキシ化合物を混合し、架橋処理して本発明の水系顔料分散体を得ることが好ましく、こうすることによって、本発明の水系顔料分散体は、顔料をポリマー分散剤で水系媒体に分散させた水系顔料分散体となる。
【0041】
<水不溶性多官能エポキシ化合物>
本発明で用いられる水不溶性多官能エポキシ化合物は、水を主体とする媒体中で効率よく水不溶性ポリマーのカルボキシ基と反応させる観点から、20℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が好ましくは50g以下、より好ましくは40g以下、更に好ましくは35g以下である。
また、水不溶性多官能エポキシ化合物は、得られる水系顔料分散体及び水系インクの耐水性、保存安定性、吐出性、及び定着性の観点から、水溶率(質量比)は好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは35%以下である。ここで、水溶率%(質量比)とは、室温25℃にて水90質量部にエポキシ化合物10質量部を溶解したときの溶解率(%)をいい、より具体的には、実施例に記載の方法により測定される。
【0042】
水不溶性多官能エポキシ化合物としては、好ましくは分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、より好ましくはグリシジルエーテル基を有する化合物、更に好ましくは炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのグリシジルエーテル化合物である。
水不溶性多官能エポキシ化合物の分子量は、反応のし易さ、及び得られる架橋ポリマーの保存安定性の観点から、好ましくは120以上、より好ましくは150以上、更に好ましくは200以上であり、そして、好ましくは2000以下、より好ましくは1500以下、更に好ましくは1000以下である。
水不溶性多官能エポキシ化合物のエポキシ基の数は、効率よくカルボキシ基と反応させて顔料含有ポリマー粒子の保存安定性等を高める観点から、1分子あたり2以上、好ましくは3以上であり、そして、1分子あたり好ましくは6以下、市場入手性の観点から、より好ましくは4以下である。
【0043】
水不溶性多官能エポキシ化合物の具体例としては、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(水溶率31%)、グリセリンポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(水溶率27%)、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
これらの中では、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(水溶率27%)、及びペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(水不溶性)から選ばれる1種以上が好ましい。
【0044】
(架橋反応)
本発明においては、ポリマー分散剤である水不溶性ポリマーが有するカルボキシ基の一部を中和して顔料を分散させ、顔料水分散体を得た後、更に該水不溶性ポリマーが有するカルボキシ基の一部を水不溶性多官能エポキシ化合物と反応させて得られる架橋構造を形成させ、顔料をポリマー分散剤で水系媒体に分散させた水系顔料分散体とするが、その際、得られる水系顔料分散体及び水系インクの耐水性、保存安定性、吐出性、及び定着性の観点から、下記の条件1及び2を満たし、更に好ましくは条件3を満たす量で、水不溶性多官能エポキシ化合物を用いることが好ましい。
【0045】
〔条件1〕
条件1は、〔(100−中和度−架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が32mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
条件1は、カルボキシ基が中和されておらず、かつ水不溶性多官能エポキシ化合物と反応していないカルボキシ基の量(残酸価)を示すものであり、水不溶性多官能エポキシ化合物とを反応させる前の水不溶性ポリマーを基準とする。
条件1の値が32mgKOH/g以上、好ましくは35mgKOH/g以上、より好ましくは40mgKOH/g以上、更に好ましくは45mgKOH/g以上、より更に好ましくは48mgKOH/g以上、より更に好ましくは55mgKOH/g以上、より更に好ましくは65mgKOH/g以上であれば、静電反発により分散安定性が阻害されずに安定性を確保することができ、また130mgKOH/g以下、好ましくは120mgKOH/g以下、より好ましくは100mgKOH/g以下、更に好ましくは90mgKOH/g以下であれば、水不溶性ポリマーの膨潤が抑制され、強固な皮膜を形成することができ、優れた耐水性、定着性を確保することができる。
【0046】
〔条件2〕
条件2は、〔(中和度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が48mgKOH/g以上144mgKOH/g以下である。
条件2は、水不溶性ポリマーが有するカルボキシ基の中和される量を示す。
条件2の値が48mgKOH/g以上、好ましくは60mgKOH/g以上、より好ましくは65mgKOH/g以上、更に好ましくは70mgKOH/g以上であれば、静電反発により分散安定性が阻害されずに保存安定性を確保することができ、また該中和量が144mgKOH/g以下、好ましくは120mgKOH/g以下、より好ましくは110mgKOH/g以下であれば、水不溶性ポリマーの顔料への吸着が阻害さずに保存安定性を確保することができる。
また、条件2の値は、高温での保存安定性の観点から、より更に好ましくは80mgKOH/g以上であり、そして、定着性の観点から、更に好ましくは100mgKOH/g以下、より更に好ましくは90mgKOH/g以下である。
【0047】
〔条件3〕
条件3は、〔(架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が好ましくは40mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
なお、架橋度は、用いた水不溶性多官能エポキシ化合物のエポキシ基のモル数を水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル数で除して、顔料を分散させるのに用いた水不溶性ポリマー1gあたりの酸価に換算して表す。
条件3の値が好ましくは40mgKOH/g以上、より好ましくは45mgKOH/g以上、更に好ましくは50mgKOH/g以上、より更に好ましくは55mgKOH/g以上であれば、水不溶性ポリマーの顔料への吸着が阻害さずに保存安定性を確保することができ、好ましくは130mgKOH/g以下、より好ましくは100mgKOH/g以下、更に好ましくは90mgKOH/g以下、より更に好ましくは80mgKOH/g以下、より更に好ましくは75mgKOH/g以下であれば、皮膜の脆化が抑制されることで優れた耐水性、定着性を確保することができる。
【0048】
水不溶性多官能エポキシ化合物とポリマー分散剤のカルボキシ基との反応は、ポリマー分散剤で顔料を分散した後に行うことが好ましいが、その反応時間は、反応の完結と経済性の観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは1.5時間以上、より更に好ましくは3.0時間以上であり、そして、好ましくは12時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは8.0時間以下、より更に好ましくは5時間以下である。
また、反応温度は、上記と同様の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは55℃以上、より更に好ましくは60℃以上、より更に好ましくは70℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下である。
架橋された水不溶性ポリマーの架橋度は、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。架橋度はポリマーの酸価と架橋剤のエポキシ基の当量から計算される見かけの架橋度である。即ち、架橋度は「水不溶性多官能エポキシ化合物のエポキシ基のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」である。
【0049】
本発明の水系顔料分散体には、乾燥防止のために保湿剤としてグリセリンやトリエチレングリコール等を1〜10質量%配合してもよいし、防黴剤等の添加剤を配合することもできる。
上記の添加剤は水不溶性ポリマーで顔料を分散するときに配合してもよいし、顔料の分散後や架橋反応後に配合してもよい。
【0050】
[水系インクの製造方法]
本発明の水系インクの製造方法は、下記工程1〜4を有し、かつ工程1における水不溶性ポリマーの酸価及び中和度と、工程3における架橋度の関係が、下記条件1及び2を満たす。
工程1:カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーをアルカリ金属水酸化物で中和する工程
工程2:工程1で得られた水不溶性ポリマーと顔料を水系媒体中で混合して分散し、顔料水分散体Aを得る工程
工程3:工程2で得られた顔料水分散体Aを水不溶性多官能エポキシ化合物で架橋処理し、水不溶性ポリマーが架橋された水系顔料分散体Bを得る工程
工程4:工程3で得られた水系顔料分散体Bと有機溶媒とを混合し、水系インクを得る工程
条件1:〔(100−中和度−架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が32mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
条件2:〔(中和度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が48mgKOH/g以上144mgKOH/g以下である。
ここで、中和度は「アルカリ金属水酸化物のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」、架橋度は「水不溶性多官能エポキシ化合物のエポキシ基のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」である。
【0051】
工程1は、カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーをアルカリ金属水酸化物で中和する工程であり、工程2は工程1で得られた水不溶性ポリマーと顔料を水系媒体中で混合して分散し、顔料水分散体Aを得る工程である。
工程1〜3の詳細は、前述した〔顔料含有ポリマー粒子の製造〕の工程I、工程II、及び工程IIIに記載したとおりである。なお、「水系媒体」とは、顔料を分散させる媒体中で、水が最大割合を占めている媒体を意味する。
条件1及び2の詳細は、前述したとおりである。
【0052】
工程4は、工程3で得られた水系顔料分散体Bと有機溶媒とを混合し、水系インクを得る工程であるが、その混合方法に特に制限はない。
有機溶媒は、水系インクの保存安定性等を向上させる観点から用いられる。ここで用いられる有機溶媒は、沸点90℃以上の1種又は2種以上の有機溶媒を含むことが好ましく、沸点の加重平均値が250℃以下である有機溶媒が好ましい。有機溶媒の沸点の加重平均値は、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは240℃以下、より好ましくは220℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
当該有機溶媒の具体例としては、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等が挙げられる。これらの中では、多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコールジエチルエーテルから選ばれる1種以上がより好ましく、グリセリン、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパンから選ばれる1種以上が更に好ましい。
【0053】
本発明の水系インクの製造方法においては、更に必要に応じて、水系インクに通常用いられる保湿剤、湿潤剤、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を添加し、更にフィルター等によるろ過処理を行うことができる。
本発明の製造方法により得られる水系インクの各成分の含有量、インク物性は以下のとおりである。
【0054】
(顔料の含有量)
水系インク中の顔料の含有量は、水系インクの印刷濃度を向上させる観点から、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上である。また、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、吐出安定性、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは15.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下、更に好ましく7.0質量%以下である。
(顔料と水不溶性ポリマーとの合計含有量)
水系インク中の顔料と水不溶性ポリマーとの合計含有量は、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上、より更に好ましくは3.5質量%以上であり、そして、好ましくは17.0質量%以下、より好ましくは12.0質量%以下、更に好ましくは10.0質量%以下、より更に好ましくは8.0質量%以下、より更に好ましくは6.0質量%以下である。
【0055】
(水系インク物性)
水系インクの32℃の粘度は、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは2.0mPa・s以上であり、より好ましくは3.0mPa・s以上であり、更に好ましくは5.0mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下であり、より好ましくは9.0mPa・s以下であり、更に好ましくは7.0mPa・s以下である。
水系インクのpHは、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは7.0以上であり、より好ましくは7.2以上であり、更に好ましくは7.5以上である。また、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、pHは、好ましくは11.0以下であり、より好ましくは10.0以下であり、更に好ましくは9.5以下である。
なお、pHは、実施例に記載の方法により測定される。
【0056】
[インクジェット記録方法]
本発明の水系インクは、公知のインクジェット記録装置に装填し、記録媒体にインク液滴として吐出させて画像等を記録することができる。
インクジェット記録装置としては、サーマル式及びピエゾ式があるが、ピエゾ式のインクジェット記録用水系インクとして用いることがより好ましい。
用いることができる記録媒体としては、高吸水性の普通紙、低吸水性のコート紙及びフィルムが挙げられる。コート紙としては、汎用光沢紙、多色フォームグロス紙等が挙げられ、フィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等が挙げられる。
【0057】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の水系顔料分散体、及び水系インクの製造方法を開示する。
<1> 顔料をポリマー分散剤で水系媒体に分散させた水系顔料分散体であって、該ポリマー分散剤がカルボキシ基を有する水不溶性ポリマーであり、該カルボキシ基のうち少なくとも一部がアルカリ金属水酸化物で中和されており、かつ該カルボキシ基の一部が水不溶性多官能エポキシ化合物と反応させて得られる架橋構造を有し、下記条件1及び2を満たす水系顔料分散体。
条件1:〔(100−中和度−架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が32mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
条件2:〔(中和度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が48mgKOH/g以上144mgKOH/g以下である。
ここで、中和度は「アルカリ金属水酸化物のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」、架橋度は「水不溶性多官能エポキシ化合物のエポキシ基のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」である。
【0058】
<2> 〔(100−中和度−架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が、好ましくは35mgKOH/g以上、より好ましくは40mgKOH/g以上、更に好ましくは45mgKOH/g以上、より更に好ましくは48mgKOH/g以上、より更に好ましくは55mgKOH/g以上、より更に好ましくは65mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは120mgKOH/g以下、より好ましくは100mgKOH/g以下、更に好ましくは90mgKOH/g以下である、上記<1>に記載の水系顔料分散体。
<3> 〔(中和度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が、好ましくは60mgKOH/g以上、より好ましくは65mgKOH/g以上、更に好ましくは70mgKOH/g以上、より更に好ましくは80mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは120mgKOH/g以下、より好ましくは110mgKOH/g以下、更に好ましくは100mgKOH/g以下、より更に好ましくは90mgKOH/g以下である、上記<1>又は<2>に記載の水系顔料分散体。
<4> さらに下記条件3を満たす、上記<1>〜<3>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
条件3:〔(架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が40mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
<5> 〔(架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が、好ましくは45mgKOH/g以上、より好ましくは50mgKOH/g以上、更に好ましくは55mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは100mgKOH/g以下、より好ましくは90mgKOH/g以下、更に好ましくは80mgKOH/g以下、より更に好ましくは75mgKOH/g以下である、上記<4>に記載の水系顔料分散体。
<6> カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価が、好ましくは200mgKOH/g以上、より好ましくは220mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは320mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下、更に好ましくは270mgKOH/g以下である、上記<1>〜<5>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
【0059】
<7> カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーが、好ましくはポリエステル、ポリウレタン及びビニル系ポリマーから選ばれる1種以上、より好ましくはビニル化合物、ビニリデン化合物、及びビニレン化合物等から選ばれるビニルモノマーの付加重合により得られるビニル系ポリマーから選ばれる1種以上である、上記<1>〜<6>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
<8> ビニル系ポリマーが、好ましくは(a)カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位と、(b)疎水性モノマー由来の構成単位を有するビニル系ポリマーであり、より好ましくは更に(c)マクロモノマー由来の構成単位を含有するビニル系ポリマーである、上記<7>に記載の水系顔料分散体。
<9> ビニル系ポリマーが、好ましくは、更に(d)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有する、上記<7>又は<8>に記載の水系顔料分散体。
<10> カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーが、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上のカルボキシ基含有モノマー由来の構成単位と、炭素数1以上22以下のアルキル基又は炭素数6以上22以下のアリール基を有するアクリレートモノマー、メタクリレートモノマー及び芳香族基含有モノマーから選ばれる1種以上の疎水性モノマー由来の構成単位を含有するビニル系ポリマーである、上記<1>〜<9>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
【0060】
<11> 水不溶性ポリマー中における(a)カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位の含有量が、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは75質量%未満、より好ましくは60質量%未満、更に好ましくは55質量%未満である、上記<8>〜<10>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
<12> 水不溶性ポリマー中における(b)疎水性モノマー由来の構成単位の含有量が、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%未満、より好ましくは80質量%未満、更に好ましくは75質量%未満である、上記<8>〜<11>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
<13> 水不溶性ポリマーが更に(c)マクロモノマー及び/又は(d)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有する場合の、水不溶性ポリマー中における(a)カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位の含有量が、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは28質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である、上記<8>〜<12>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
<14> 水不溶性ポリマーが更に(c)マクロモノマー由来の構成単位及び/又は(d)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有する場合の、水不溶性ポリマー中における(b)疎水性モノマー由来の構成単位の含有量が、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である、上記<8>〜<13>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
<15> 水不溶性ポリマーが(c)マクロモノマー由来の構成単位を含有する場合、水不溶性ポリマー中における(c)成分由来の構成単位の含有量が、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である、上記<8>〜<14>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
<16> 水不溶性ポリマーが(d)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有する場合、水不溶性ポリマー中における(d)成分由来の構成単位の含有量が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である、上記<9>〜<15>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
【0061】
<17> 水不溶性ポリマーの数平均分子量が、好ましくは2,000以上、より好ましくは5,000以上であり、そして、好ましくは20,000以下、より好ましくは18,000以下である、上記<1>〜<16>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
<18> 水不溶性ポリマーのカルボキシ基の中和度が、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、より更に好ましくは25モル%以上であり、また、好ましくは60モル%以下、より好ましくは55モル%以下、更に好ましくは50モル%以下、より更に好ましくは45モル%以下である、上記<1>〜<17>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
【0062】
<19> 水不溶性多官能エポキシ化合物が、好ましくは分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、より好ましくはグリシジルエーテル基を有する化合物、更に好ましくは炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのグリシジルエーテル化合物である、上記<1>〜<18>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
<20> 水不溶性多官能エポキシ化合物の分子量が、好ましくは120以上、より好ましくは150以上、更に好ましくは200以上であり、そして、好ましくは2000以下、より好ましくは1500以下、更に好ましくは1000以下である、上記<1>〜<19>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
<21> 水不溶性多官能エポキシ化合物のエポキシ基の数は、1分子あたり2以上、好ましくは3以上であり、そして、1分子あたり好ましくは6以下、より好ましくは4以下である、上記<1>〜<20>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
<22> 水不溶性多官能エポキシ化合物が、好ましくはポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル及び水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテルから選ばれる1種以上の化合物であり、より好ましくはトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル及びペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種以上の化合物である、上記<1>〜<21>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
<23> 架橋された水不溶性ポリマーの架橋度が、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である、上記<1>〜<22>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
<24> インクジェット記録用である、上記<1>〜<23>のいずれかに記載の水系顔料分散体。
【0063】
<25> 下記工程1〜4を有し、かつ工程1における水不溶性ポリマーの酸価及び中和度と、工程3における架橋度の関係が、下記条件1及び2を満たす水系インクの製造方法。
工程1:カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーをアルカリ金属水酸化物で中和する工程
工程2:工程1で得られた水不溶性ポリマーと顔料を水系媒体中で混合して分散し、顔料水分散体Aを得る工程
工程3:工程2で得られた顔料水分散体Aを、水不溶性多官能エポキシ化合物で架橋処理し、水不溶性ポリマーが架橋された水系顔料分散体Bを得る工程
工程4:工程3で得られた水系顔料分散体Bと有機溶媒とを混合し、水系インクを得る工程
条件1:〔(100−中和度−架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が32mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
条件2:〔(中和度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が48mgKOH/g以上144mgKOH/g以下である。
ここで、中和度は「アルカリ金属水酸化物のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」、架橋度は「水不溶性多官能エポキシ化合物のエポキシ基のモル当量数/水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」である。
<26> 〔(100−中和度−架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が、好ましくは35mgKOH/g以上、より好ましくは40mgKOH/g以上、更に好ましくは45mgKOH/g以上、より更に好ましくは48mgKOH/g以上、より更に好ましくは55mgKOH/g以上、より更に好ましくは65mgKOH/g以上であり、そして、また130mgKOH/g以下、好ましくは120mgKOH/g以下、より好ましくは100mgKOH/g以下、更に好ましくは90mgKOH/g以下である、上記<25>に記載の水系インクの製造方法。
<27> 〔(中和度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が、好ましくは60mgKOH/g以上、より好ましくは65mgKOH/g以上、更に好ましくは70mgKOH/g以上、より更に好ましくは80mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは120mgKOH/g以下、より好ましくは110mgKOH/g以下、更に好ましくは100mgKOH/g以下、より更に好ましくは90mgKOH/g以下である、上記<25>又は<26>に記載の水系インクの製造方法。
【0064】
<28> さらに下記条件3を満たす、前記<25>〜<27>のいずれかに記載の水系インクの製造方法。
条件3:〔(架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が40mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。
<29> 〔(架橋度)/100〕×(カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーの酸価)の値が、好ましくは45mgKOH/g以上、より好ましくは50mgKOH/g以上、更に好ましくは55mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは100mgKOH/g以下、より好ましくは90mgKOH/g以下、更に好ましくは80mgKOH/g以下、より更に好ましくは75mgKOH/g以下である、上記<28>に記載の水系インクの製造方法。
<30> 工程1における水不溶性ポリマーの酸価が、好ましくは200mgKOH/g以上、より好ましくは220mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは320mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下、更に好ましくは270mgKOH/g以下である、上記<25>〜<29>のいずれかに記載の水系インクの製造方法。
<31> 工程1における水不溶性ポリマーのカルボキシ基の中和度が、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、より更に好ましくは25モル%以上であり、また、好ましくは60モル%以下、より好ましくは55モル%以下、更に好ましくは50モル%以下、より更に好ましくは45モル%以下である、上記<25>〜<30>のいずれかに記載の水系インクの製造方法。
<32> 工程3で架橋された水不溶性ポリマーの架橋度が、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である、上記<25>〜<31>のいずれかに記載の水系インクの製造方法。
<33> 上記<1>〜<23>のいずれかに記載の水系顔料分散体の水系インクへの使用。
<34> 上記<1>〜<23>のいずれかに記載の水系顔料分散体のインクジェット記録用水系インクへの使用。
【実施例】
【0065】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
【0066】
(1)水不溶性ポリマーの数平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業株式会社製、高速液体クロマトグラフィー用)に、リン酸(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)及びリチウムブロマイド(東京化成工業株式会社製、試薬)をそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質として分子量が既知の単分散ポリスチレンを用いて測定した。
【0067】
(2)水不溶性ポリマー粒子、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS−8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定濃度が5×10−3質量%(固形分濃度換算)になるように水で希釈して行った。
【0068】
(3)顔料水分散体の固形分濃度の測定
30mlのポリプロピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で更に15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0069】
(4)エポキシ化合物の水溶率の測定
室温25℃にてイオン交換水90質量部及び架橋剤10質量部をガラス管(25mmφ×250mmh)に添加し、該ガラス管を水温25℃に調整した恒温槽中で1時間静置した。次いで、該ガラス管を1分間激しく振とうした後、再び恒温槽中で10分間静置した。次いで、未溶解物を秤量し、水溶率(質量%)を算出した。
【0070】
<ポリマー分散剤の調製>
調製例1
メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製、試薬)46部、スチレン(和光純薬工業株式会社製、試薬)94部、スチレンマクロマー(東亞合成株式会社製、商品名:AS−6S、数平均分子量:6000、固形分濃度50%)40部(固形分として20部)、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製、商品名:ブレンマーPP−800、プロピレンオキシド平均付加モル数13、末端:水酸基)40部を混合し、モノマー混合液を調製した。反応容器内に、メチルエチルケトン(MEK)20部及び2−メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部、及びアゾ系ラジカル重合開始剤(和光純薬工業株式会社製、商品名:V−65、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))2.2部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の前記モノマー混合液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.3部をMEK5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、カルボキシ基を有するポリマー溶液(a)(ポリマーの数平均分子量:11000)を得た。
【0071】
調製例2
メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製)74部、スチレン(和光純薬工業株式会社製)66部、前記スチレンマクロマー(AS−6S)40部(固形分として20部)、前記ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(ブレンマーPP−800)40部を混合し、モノマー混合液を調製した。反応容器内に、MEK20部、2−メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部、及びアゾ系ラジカル重合開始剤(V−65)2.2部の混合液を入れ、以降は調製例1と同様にして、カルボキシ基を有するポリマー溶液(b)(ポリマーの数平均分子量:12000)を得た。
【0072】
調製例3
メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製)114部、スチレン(和光純薬工業株式会社製)26部、前記スチレンマクロマー(AS−6S)40部(固形分として20部)、前記ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(ブレンマーPP−800)40部を混合し、モノマー混合液を調製した。反応容器内に、MEK20部、2−メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部、及びアゾ系ラジカル重合開始剤(V−65)2.2部の混合液を入れ、以降は調製例1と同様にして、カルボキシ基を有するポリマー溶液(c)(ポリマーの数平均分子量:12500)を得た。
【0073】
調製例4
アクリル酸(和光純薬工業株式会社製、試薬)39部、スチレン(和光純薬工業株式会社製)151部、α−メチルスチレン(和光純薬工業株式会社製、試薬)10部を混合しモノマー混合液を調製した。反応容器内に、MEK20部、2−メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に、行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部及びアゾ系ラジカル重合開始剤(V−65)2.2部の混合液を入れ、以降は調製例1と同様にして、カルボキシ基を有するポリマー溶液(d)(ポリマーの数平均分子量:11000)を得た。
【0074】
調製例5
アクリル酸(和光純薬工業株式会社製)55部、スチレン(和光純薬工業株式会社製)136部、α−メチルスチレン(和光純薬工業株式会社製)9部を混合しモノマー混合液を調製した。反応容器内に、MEK20部、2−メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に、行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部及びアゾ系ラジカル重合開始剤(V−65)2.2部の混合液を入れ、以降は調製例1と同様にして、カルボキシ基を有するポリマー溶液(e)(ポリマーの数平均分子量:12500)を得た。
【0075】
調製例6
アクリル酸(和光純薬工業株式会社製)62部、スチレン(和光純薬工業株式会社製)129部、α−メチルスチレン(和光純薬工業株式会社製、試薬)9部を混合しモノマー混合液を調製した。反応容器内に、MEK20部、2−メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部及びアゾ系ラジカル重合開始剤(V−65)2.2部の混合液を入れ、以降は調製例1と同様にして、カルボキシ基を有するポリマー溶液(f)(ポリマーの数平均分子量:12500)を得た。
【0076】
調製例7
アクリル酸(和光純薬工業株式会社製)77部、スチレン(和光純薬工業株式会社製)114部、α−メチルスチレン(和光純薬工業株式会社製、試薬)9部を混合しモノマー混合液を調製した。反応容器内に、MEK20部、2−メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部及びアゾ系ラジカル重合開始剤(V−65)2.2部の混合液を入れ、以降は調製例1と同様にして、カルボキシ基を有するポリマー溶液(g)(ポリマーの数平均分子量:13500)を得た。
【0077】
調製例8
アクリル酸(和光純薬工業株式会社製)95部、スチレン(和光純薬工業株式会社製)96部、α−メチルスチレン(和光純薬工業株式会社製)9部を混合しモノマー混合液を調製した。反応容器内に、MEK20部、2−メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に、行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部及びアゾ系ラジカル重合開始剤(V−65)2.2部の混合液を入れ、以降は調製例1と同様にして、カルボキシ基を有するポリマー溶液(h)(ポリマーの数平均分子量:13500)を得た。
【0078】
調製例9
メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製)74部、ベンジルメタクリレート(和光純薬工業株式会社製、試薬)66部、前記スチレンマクロマー(AS−6S)40部(固形分として20部)、前記ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(ブレンマーPP−800)40部を混合し、モノマー混合液を調製した。反応容器内に、MEK20部、2−メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部及びアゾ系ラジカル重合開始剤(V−65)2.2部の混合液を入れ、以降は調製例1と同様にして、カルボキシ基を有するポリマー溶液(i)(ポリマーの数平均分子量:13500)を得た。
【0079】
調製例10
メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製)114部、ベンジルメタクリレート(和光純薬工業株式会社製)26部、前記スチレンマクロマー(AS−6S)40部(固形分として20部)、前記ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(ブレンマーPP−800)40部を混合し、モノマー混合液を調製した。反応容器内に、MEK20部、2−メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部及びアゾ系ラジカル重合開始剤(V−65)2.2部の混合液を入れ、以降は調製例1と同様にして、カルボキシ基を有するポリマー溶液(j)(ポリマーの数平均分子量:14500)を得た。
【0080】
<顔料水分散体の製造>
製造例1
調製例1で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー25部をMEK78.6部と混合し、更に5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム固形分16.9%、和光純薬工業株式会社製、容量滴定用)6.3部を加え、ポリマーのカルボキシ基のモル数に対する水酸化ナトリウムのモル数の割合が40%になるように中和した(中和度40%)。更にイオン交換水400部を加え、その中にシアン顔料(C.I.ピグメント・ブルー15:3、ディーアイシー株式会社製、商品名:TGR−SD)100部を加え、ディスパー(浅田鉄工株式会社製、ウルトラディスパー:商品名)を用いて、20℃でディスパー翼を7000rpmで回転させる条件で60分間攪拌した。
得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で200MPaの圧力で10パス分散処理した。得られた分散液にイオン交換水250部を加え、攪拌した後、減圧下で60℃でMEKを完全に除去し、更に一部の水を除去し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去することにより、固形分濃度が20%の顔料水分散体1を得た。
【0081】
製造例2
製造例1において、調製例1で得られたポリマー溶液の代わりに調製例2で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー25部とし、5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム固形分16.9%、和光純薬工業株式会社製、容量滴定用)6.3部に代えて5.1部(中和度20%)とした以外は製造例1と同様の手順で顔料水分散体2を得た。
【0082】
製造例3〜4
製造例2において、5N水酸化ナトリウム水溶液5.1部に代えて7.6部(中和度30%)、又は10.1部(中和度40%)とした以外は製造例2と同様の手順で顔料水分散体3〜4を得た。
【0083】
製造例5
製造例4において、5N水酸化ナトリウム水溶液10.1部の代わりに5N水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム固形分23.1%、和光純薬工業社製 容量滴定用)10.1部(中和度40%)とした以外は製造例4と同様の手順で顔料水分散体5を得た。
【0084】
製造例6
製造例2において、5N水酸化ナトリウム水溶液5.1部に代えてトリエチルアミン4.3部(中和度40%)とした以外は製造例2と同様の手順で顔料水分散体6を得た。
【0085】
製造例7〜9
製造例2において、5N水酸化ナトリウム水溶液5.1部に代えて12.7部(中和度50%)、15.2部(中和度60%)、又は25.4部(中和度100%)とした以外は製造例2と同様の手順で顔料水分散体7〜9を得た。
【0086】
製造例10
製造例6において、トリエチルアミン4.3部に代えて10.8部(中和度100%)とした以外は製造例6と同様の手順で顔料水分散体10を得た。
【0087】
製造例11
製造例1において、調製例1で得られたポリマー溶液の代わりに調製例3で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー25部とし、5N水酸化ナトリウム水溶液を15.6部(中和度40%)とした以外は製造例1と同様の手順で顔料水分散体11を得た。
【0088】
製造例12
製造例1において、調製例1で得られたポリマー溶液の代わりに調製例4で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー25部とした以外は製造例1と同様の手順で顔料水分散体12を得た。
【0089】
製造例13
製造例12において、調製例4で得られたポリマー溶液の代わりに調製例5で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー25部とし、5N水酸化ナトリウム水溶液を9.0部(中和度40%)とした以外は製造例12と同様の手順で顔料水分散体13を得た。
【0090】
製造例14
製造例12において、調製例4で得られたポリマー溶液の代わりに調製例6で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー25部とし、5N水酸化ナトリウム水溶液を10.1部(中和度40%)とした以外は製造例12と同様の手順で顔料水分散体14を得た。
【0091】
製造例15
製造例12において、調製例4で得られたポリマー溶液の代わりに調製例7で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー25部とし、5N水酸化ナトリウム水溶液を12.7部(中和度40%)とした以外は製造例12と同様の手順で顔料水分散体15を得た。
【0092】
製造例16
製造例12において、調製例4で得られたポリマー溶液の代わりに調製例8で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー25部とし、5N水酸化ナトリウム水溶液を15.6部(中和度40%)とした以外は製造例12と同様の手順で顔料水分散体16を得た。
【0093】
製造例17
製造例1において、調製例1で得られたポリマー溶液の代わりに調製例9で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー25部、5N水酸化ナトリウム水溶液6.3部の代わりに5N水酸化カリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製、容量滴定用)10.2部(中和度40%)とした以外は製造例1と同様の手順で顔料水分散体17を得た。
【0094】
製造例18
製造例1において、シアン顔料100部の代わりにカーボンブラック顔料(キャボットスペシャルティケミカルズ社製、Monarch880)100部とした以外は製造例1と同様の手順で顔料水分散体18を得た。
【0095】
<水系顔料分散体の製造>
実施例1
製造例2で得られた顔料水分散体2の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、1分子内に3個のエポキシ基を有する架橋剤としてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX−321、分子量302、エポキシ価140、水溶率27%)0.72部を加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。5時間経過後、室温まで降温し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過して、水系顔料分散体1を得た。
【0096】
実施例2
製造例3で得られた顔料水分散体3の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、架橋剤として前記デナコールEX−321を0.72部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。5時間経過後、室温まで降温し、実施例1と同様に濾過して、水系顔料分散体2を得た。
実施例3
実施例2において、架橋剤として前記デナコールEX−321 0.72部に代えて0.96部とした以外は実施例2と同様にして、水系顔料分散体3を得た。
実施例4
実施例2において、架橋剤として前記デナコールEX−321 0.72部に代えて1.20部とした以外は実施例2と同様にして、水系顔料分散体4を得た。
【0097】
実施例5
製造例4で得られた顔料水分散体4の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、架橋剤として前記デナコールEX−321を0.48部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。5時間経過後、室温まで降温し、実施例1と同様に濾過して、水系顔料分散体5を得た。
実施例6
実施例5において、前記デナコールEX−321 0.48部に代えて0.60部とした以外は実施例5と同様にして、水系顔料分散体6を得た。
【0098】
実施例7
製造例5で得られた顔料水分散体5の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.6部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。5時間経過後、室温まで降温し、実施例1と同様に濾過して、水系顔料分散体7を得た。
【0099】
実施例8
実施例5において、前記デナコールEX−321 0.48部に代えてペンタエリスシトールテトラグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、デナコールEX−411、エポキシ価229、水不溶性)0.98部とした以外は実施例5と同様にして、水系顔料分散体8を得た。
実施例9〜10
実施例5において、前記デナコールEX−321 0.48部に代えて0.84部、又は0.96部とした以外は実施例5と同様にして、水系顔料分散体9〜10を得た。
【0100】
実施例11
製造例7で得られた顔料水分散体7の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.84部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、水系顔料分散体11を得た。
【0101】
比較例1
製造例1で得られた顔料水分散体1の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.60部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、比較用の水系顔料分散体1を得た。
【0102】
比較例2
製造例4で得られた顔料水分散体4の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、架橋剤としてポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX−521、エポキシ価183、水溶率100%)0.78部を加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、比較用の水系顔料分散体2を得た。
【0103】
比較例3
製造例6で得られた顔料水分散体6の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.60部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、比較用の水系顔料分散体3を得た。
【0104】
比較例4
製造例7で得られた顔料水分散体7の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.96部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、比較用の水系顔料分散体4を得た。
【0105】
比較例5
製造例8で得られた顔料水分散体8の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、デナコールEX−321を0.72部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、比較用の水系顔料分散体5を得た。
【0106】
比較例6
製造例9で得られた顔料水分散体9の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.72部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、比較用の水系顔料分散体6を得た。
【0107】
比較例7
製造例10で得られた顔料水分散体10の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.72部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、比較用の水系顔料分散体7を得た。
【0108】
比較例8
製造例11で得られた顔料水分散体11の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.96部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、比較用の水系顔料分散体8を得た。
【0109】
比較例9
製造例12で得られた顔料水分散体12の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.45部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、比較用の水系顔料分散体9を得た。
【0110】
<水系インクの評価試験>
(水系インクの調製)
実施例、比較例で得られた各水系顔料分散体を用いて、水系インク全体に対する顔料濃度5%、グリセリン(花王株式会社製、化粧品用濃グリセリン)5%、トリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、試薬)7%、アセチレノールE100(川研ファインケミカル株式会社製、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキシド10モル付加物)0.5%とし、イオン交換水を加えて、全量が100%になるよう計量し、マグネチックスターラーで撹拌してよく混合し、1.2μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジで濾過して、水系インクを得た。
得られた水系インクを用いて、下記の試験1〜4を行い、評価した。結果を表1、2に示す。
【0111】
試験1(吐出性評価)
インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型番:EM−930C、ピエゾ方式)に上記で得られた水系インクを装填し、普通紙100枚に全面ベタ印刷(ファインモード)し、100枚目の印刷物を観察し、白線(吐出されていないノズル数に相当)の数を計測した。次にノズルクリーニング操作を実施した後、更に100枚の全面ベタ印刷を実施して再度100枚目の印刷物を観察し、白線の発生本数を吐出ノズル幅当たりで計測して、以下の基準で吐出性を評価した。
(評価基準)
A:100枚目の印刷物及び200枚目の印刷物で白線発生なし
B:100枚目の印刷物と200枚目の印刷物で白線発生2本以下
C:100枚目又は200枚目の印刷物で白線発生3〜5本
D:100枚目又は200枚目の印刷物で白線発生6本以上
【0112】
試験2(保存安定性評価)
各水系インクを、株式会社マルエム社製のスクリュー管に密栓して20℃及び60℃に設定した恒温室内にそれぞれ1週間静置した後、平均粒径を測定して、下記式から平均粒径増大率を算出した。粒径増大率が小さいほど粒子の凝集量が小さく、保存安定性が優れている。
平均粒径増大率(%)=〔(保存後のインクの平均粒径−インク調製に用いた水分散体の平均粒径)/インク調製に用いた水分散体の平均粒径〕×100
【0113】
試験3(定着性評価)
試験1(吐出性評価)で用いた印刷パターンを使用して、普通紙の代わりにコート紙(王子製紙株式会社製、OKトップコート)1枚に印刷して温度23℃、湿度50%の環境で24時間放置後、得られた印刷物について、クロックメーター(株式会社井元製作所製、QC−621A)を用いて、摩擦材としてコート紙(王子製紙株式会社製、OKトップコート)で5回(5往復)擦過することで、印刷物の擦過試験を行った。
試験後の摩擦材として用いたコート紙に転写したインクの印字濃度を、光学分光光度計(サカタインクスエンジニアリング株式会社製、SpectroEye)により測定した。
転写濃度が小さいほど、インクの転写が少なく、定着性が良い。
【0114】
試験4(耐水性評価)
試験1(吐出性評価)で用いた印刷パターンを1枚印刷し、温度23℃湿度50%の環境で24時間放置後、イオン交換水に浸漬した綿棒(ジョンソンエンドジョンソン社製、天然コットン100%)で印刷表面を10往復擦り、印刷物の耐水性試験を行った。擦った印刷物について、インクの印字濃度を測定した。印字濃度の値が小さい程、インクの耐水性が劣る。インクの耐水性を以下の基準で評価した。
(評価基準)
印字濃度差=(擦った後の印刷物の印字濃度)−(擦る前の印刷物の印字濃度)
印字濃度差が0に近いほど、インクの剥がれが少なく、耐水性が良い。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
実施例12
製造例13で得られた顔料水分散体13の体100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、架橋剤として前記デナコールEX−321を0.75部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、水系顔料分散体12を得た。
得られた水系顔料分散体を用いて、前記と同様にして水系インクを調製し、前記の試験1〜4により評価した。結果を表3に示す。
【0118】
実施例13
製造例14で得られた顔料水分散体14の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.60部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、水系顔料分散体13を得た。実施例12と同様にして評価した結果を、表3に示す。
【0119】
実施例14
製造例15で得られた顔料水分散体15の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.9部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、水系顔料分散体14を得た。実施例12と同様にして評価した結果を、表3に示す。
【0120】
比較例10
製造例16で得られた顔料水分散体16の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.96部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、比較用の水系顔料分散体10を得た。実施例12と同様にして評価した結果を、表3に示す。
【0121】
実施例15
製造例17で得られた顔料水分散体17の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.60部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、水系顔料分散体15を得た。実施例12と同様にして評価した結果を、表3に示す。
【0122】
実施例16
製造例18で得られた顔料水分散体18の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、前記デナコールEX−321を0.72部加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、実施例1と同様に濾過して、水系顔料分散体16を得た。実施例12と同様にして評価した結果を、表3に示す。
【0123】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明によれば、顔料を用いる利点である水系顔料分散体及び水系インクの耐水性を維持しつつ、インク吐出ノズルでの顔料やポリマーの固化を抑制できる優れた保存安定性を有し、更に吐出性、定着性に優れた水系顔料分散体、及び水系インクの製造方法を提供することができる。