特許第6272777号(P6272777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6272777高pH値での制御放出特性を有する活性成分のシェラックコーティングされた粒子、その製造方法、及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6272777
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】高pH値での制御放出特性を有する活性成分のシェラックコーティングされた粒子、その製造方法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/00 20060101AFI20180122BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20180122BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20180122BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20180122BHJP
   C08L 93/02 20060101ALI20180122BHJP
   C08L 1/28 20060101ALI20180122BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   C04B22/00
   C04B24/06 Z
   C04B24/38 A
   C04B22/14 A
   C08L93/02
   C08L1/28
   C08K3/30
【請求項の数】22
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-546396(P2014-546396)
(86)(22)【出願日】2012年11月22日
(65)【公表番号】特表2015-505808(P2015-505808A)
(43)【公表日】2015年2月26日
(86)【国際出願番号】EP2012073339
(87)【国際公開番号】WO2013087391
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年11月19日
(31)【優先権主張番号】11194032.6
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503343336
【氏名又は名称】コンストラクション リサーチ アンド テクノロジー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Construction Research & Technology GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング ザイドル
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド マルシェフスキ
(72)【発明者】
【氏名】ザシャ ラスプル
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン ヴァッヘ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル シナベック
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン フリードリッヒ
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−092239(JP,A)
【文献】 特表平07−509433(JP,A)
【文献】 米国特許第05575841(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0234603(US,A1)
【文献】 特開2008−127499(JP,A)
【文献】 米国特許第06620431(US,B1)
【文献】 特開2010−180065(JP,A)
【文献】 米国特許第05709945(US,A)
【文献】 特表2002−508793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00−32/02,
C04B40/00−40/06,
C04B103/00−111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルタル、ドライモルタル、セメントスラリー、石膏スラリー又はコンクリート用の添加剤として使用するための、10から14のpH値で無機結合剤の作業可能時間の時間遅延を有する活性成分のコーティングされた粒子であって、
前記活性成分は、無機結合剤の制御のための1種又は複数種の建築用化学添加剤から選択され、
前記粒子がコア/シェル構造の形態の少なくとも2つの層を備え、前記活性成分がコア領域内に含まれ、
前記コーティングが架橋されたシェラックからなり、
前記無機結合剤の制御のための前記建築用化学添加剤が、第I〜III族元素の塩並びにそれらの混合物から選択されることを特徴とする、前記コーティングされた粒子。
【請求項2】
前記粒子がコア/シェル構造を有し、前記活性成分がコア領域内に含まれ、かつ担体上に担持される、担体上に吸着される、担体により吸収される、又は担体と混合されることを特徴とする、請求項1に記載のコーティングされた粒子。
【請求項3】
コア/シェル構造がさらに、シェラックコーティングの下に位置する拡散制御層及び/又はバリア層を備える、請求項1又は2に記載のコーティングされた粒子。
【請求項4】
前記拡散制御層が、メチルセルロースを含み、かつ/又は前記バリア層が、硫酸ナトリウムを含む、請求項3に記載のコーティングされた粒子。
【請求項5】
無機結合剤の制御のための前記建築用化学添加剤が、促進剤、遅延剤、収縮制御添加剤、保水剤、白華防止剤、消泡剤、空気連行剤、レオロジー調整剤、及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載のコーティングされた粒子。
【請求項6】
前記無機結合剤が、セメント、水硬性結合剤、潜在水硬性結合剤、ポゾラン結合剤、アルカリ活性化可能なアルミノシリケート結合剤、石膏系結合剤、並びにそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載のコーティングされた粒子。
【請求項7】
前記セメントが、ポートランドセメント、高アルミナセメントスラグセメント、ポゾランセメント又はそれらの混合物であることを特徴とする、請求項6に記載のコーティングされた粒子。
【請求項8】
無機結合剤の制御のための前記建築用化学添加剤が、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、水ガラス、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、並びにそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載のコーティングされた粒子。
【請求項9】
無機結合剤の制御のための前記建築用化学添加剤が、硫酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、ギ酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸カルシウム水和物、エトリンガイト、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム並びにそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載のコーティングされた粒子。
【請求項10】
前記活性成分の放出が、pH10〜14の水溶液との接触後2分から8時間以内に開始することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載のコーティングされた粒子。
【請求項11】
前記活性成分の放出が、pH12〜13の水溶液との接触後2分から8時間以内に開始することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載のコーティングされた粒子。
【請求項12】
平均直径が50μmから1000μmである、請求項1から11までのいずれか1項に記載のコーティングされた粒子。
【請求項13】
平均直径が100μmから200μmである、請求項1から12までのいずれか1項に記載のコーティングされた粒子。
【請求項14】
シェラックコーティングの平均厚さが、1μmから80μmである、請求項1から13までのいずれか1項に記載のコーティングされた粒子。
【請求項15】
シェラックコーティングの平均厚さが、1μmから30μmである、請求項1から14までのいずれか1項に記載のコーティングされた粒子。
【請求項16】
前記活性成分のコア粒子が、流動床反応器内で、シェラックの溶液でコーティングされ、続いて、コーティングされた粒子が、シェラックコーティングの架橋をもたらす処理に供されることを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載のコーティングされた粒子の製造方法。
【請求項17】
前記シェラックの溶液が水溶液であることを特徴とする、請求項16に記載のコーティングされた粒子の製造方法。
【請求項18】
前記処理が、熱処理、マイクロ波エネルギー、電気プラズマ、高エネルギー粒子、電離放射線による処理、又はそれらの組合せから選択されることを特徴とする、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記熱処理が、80℃から140℃の温度で、1時間から7日間行われることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記熱処理が、100℃から120℃の温度で行われることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記熱処理が、1時間から2日間行われることを特徴とする、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
モルタル、ドライモルタル、セメントスラリー、石膏スラリー、又はコンクリート用の添加剤としての、請求項1から15までのいずれか1項に記載のコーティングされた粒子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
作業性は、材料特性に加えて、セメント系の重要な特徴の1つである。建設現場において、一方では職人に多くの施工時間を提供し、他方では遅延した凝結/固化により建設工程を妨げないように、長時間作業性及び急速凝結/固化が望ましい場合が多い。望ましいモルタル特性は、通常、ある特定の投入量の促進剤の添加により達成される。これは、例えば吹付けコンクリートの場合のように促進剤がいわゆる「急結」を生じさせるほど強力でない限り、ある程度良好に作用する。急結をもたらす促進剤は、作業可能時間が非常に短くなるため、明らかにモルタル中で使用することはできない。
【0002】
問題は、作業性と凝結時間が互いに直接関連していることである。例えば、ある用途において急速凝結が必要とされる場合、より高い投入量の促進剤又はより強力な促進剤が使用されるが、そうすることにより作業可能時間もまた低下する。逆も同様に、長時間作業性が望ましい場合、凝結は極めて遅くなり、全体的作業工程を減速させる(図1を参照されたい)。したがって、作業性と凝結時間を互いに分離することができれば、極めて有益であろう。そうすれば、長時間作業性と短い凝結時間が1つのモルタルにおいて達成され得る(図1)。これらの時間が意図されるようにさらに調節可能であれば、これはセメント調合のための非常に強力なツールとなるであろう。
【0003】
急速凝結は、高い促進剤投入量により、又は極めて強力な促進剤を使用することにより達成され得る。促進剤がある時間後にのみ放出されない限り、両方とも作業可能時間を短縮する。課題は、制御放出特性を有する促進剤を開発することである。放出時間は、2分〜8時間の範囲内であるべきであり、放出自体は、凝結が短時間で生じ得るように非常に迅速であるべきであり、また放出後の急速凝結を確実とするために、極めて強力な促進剤が使用可能であるべきである。
【0004】
制御放出特性を有する所望の粒子を開発するために、本発明の発明者らは、広範囲の研究を行い、以下の結果に至った。
【0005】
制御放出
粒子形状に関連した理論的放出メカニズム
原則的に、3つの異なる種類の放出特性が区別できる。それぞれの放出の種類は、特定の粒子形状及びコーティング機能に直接関連している(図2を参照されたい)。
1.1次放出=マトリックス粒子の溶解
2.ゼロ次放出=拡散
3.内部又は外部誘因による急速放出
【0006】
追加のコーティングをもたないマトリックス粒子は、活性化の直後に溶解し始める。初めは放出速度は高く、粒子全体が溶解するまで時間と共に放出速度は着実に減少する。マトリックス粒子と同様に、拡散制御ゼロ次放出は、活性化の直後に開始するが、放出速度は一定である。理想的な場合においては、放出速度は、活性成分が完全に溶解するまで変化しない。
【0007】
ある時間後に放出が内部又は外部から誘発される場合、全く異なる放出特性が観察される。誘因が活性化するまで、活性成分は放出されない。外部誘因は、例えば、pHの変化、温度、又はせん断応力もしくは機械的圧力等の機械的な力の印加である。内部誘因は、例えば、浸透圧である。外部誘因と内部誘因との間の大きな違いは、活性化の時間である。外部誘発により放出する機能性粒子は、誘因が活性化されない限り変化しないが、一度活性化されると、放出は通常短時間で生じる。現実には、これは、腸溶性医薬品(pH変化による放出)、レーザープリンタにおけるトナーカプセル(温度による放出)、又はノーカーボンコピー紙(ボールペン先端の圧力による放出)等の多くの用途における、活性成分を放出するための理想的な手法である。対照的に、内部誘発により放出する粒子は、活性化のためにある程度の時間を必要とする。活性化と活性化合物の放出との間にある程度の時間遅延が存在する。当然ながら、1つの粒子において異なる放出特性を組み合わせた異なる粒子形状の組合せ、例えばpH感受性コーティングでコーティングされたマトリックス粒子が、原則的に可能である。
【0008】
要求されるモルタル特性を参照すると(図1を参照されたい)、時間遅延性ではあるが急速な促進剤の放出は、モルタル促進において興味深い。なぜならば、これにより作業可能時間の制御を可能とすると考えられるからである。放出誘因は、原則的に外部又は内部誘因であり得る。ゼロ次及び1次放出特性は、活性成分の放出が活性化直後に開始し、これがまた作業可能時間を短縮すると考えられるため、好適ではない。
【0009】
セメント系における外部誘発は、比較的複雑である。セメント水和中に水酸化カルシウムが発生するため、pHは変化させることができない。温度が上昇するとセメント水和は常に促進され、凝結を加速して作業可能時間を低下させるため、温度もまた上昇させるべきではない。その一方で、モルタルが過度に温まると遅延剤の放出により結合剤の水和が減速されるため、遅延には温度誘発放出が非常に興味深い。フレッシュモルタルのペースト様の稠度のため、外部圧力の印加もまた選択できない。1つの可能性は、超音波の影響を受けやすい機能性粒子に対するそのようなエネルギー入力の使用である。薄いモルタル層に対しては、これは有用な概念であるが、より大きな構造部品に対しては、この目的を達成するのは容易ではない。
【0010】
モルタルに水を添加すると、活性化が開始され、ある時間遅延後に促進剤が放出されるため、内部誘発がはるかに有利である。当然ながら、そのような系において、活性化と放出との間の時間遅延の厳密な制御が可能でなければならない。粒子内の浸透圧の増加によりコーティングが破裂すると、急速放出が達成される。
【0011】
内部誘発機能性粒子の大きな利点は、フレッシュモルタルに均一に混合できること、及び放出がマトリックス全体にわたり同時に開始し、均一な凝結が得られることである。
【0012】
基材特性
コーティングされた粒子のための理想的な基材は、いくつかの特徴を組み合わせていなくてはならず、意図される用途に応じて、好適な生成法を選択する必要がある(図3を参照されたい)。
【0013】
粒子形態
粒子形態/外形は、良好で材料効率的なコーティングに対する影響を有する。理想的な場合は、完全に球状の粒子である。そのような基材上に塗布されたコーティングは、粒子表面上のいかなる場所でも均一な層厚を有し、最小限のコーティング材料が必要とされる。コーティング材料は一般に高価であるため、より少ないコーティング材料が有利である。粒子がより球状でなく、おそらくはいくつかの隆起部を有するじゃがいものような形態である場合、理想的な球形と比較して大きな問題とはならない。しかしながら、粒子が極めて不定形である場合、状況は異なる。その場合、空隙及び隙間を充填するためにより多くのコーティング材料が必要であり、コーティング層が均一な厚さを有さず、効果的なコーティング厚は、粒子全体における最も薄いコーティング厚に限定されることになる。さらに、機械的な取り扱いにより、不定形粒子及びコーティングが縁部及び角部において磨耗する高い危険性がある。例えば天然脂肪をコーティングに使用することができる場合のように、コーティング材料が安価である場合、よりコーティングが多量であることは関係せず、活性成分を厚いコーティング層内に充填し、不定形の基材の形態は無視することができる。ソーセージ生産のための脂肪コーティングされたクエン酸等のいくつかの用途においてはこれで十分であるが、より高度な用途においては、これは重大な問題となり得る。さらに、コーティングが多い程、活性成分/コーティング比が低下し、したがって粒子当たりの利用可能な活性成分がより低くなる。コーティングが高価である場合、高い活性成分/コーティング比が常に好ましい。
【0014】
粒子の種類
球状基材は、純粋な活性成分で構成されてもよく(完全粒子)、又は活性成分がすでにコア上に塗布されている(コアシェル粒子)。図3には示されていない別の可能性は、球状マトリックス粒子であろう。等しい直径の完全粒子とコアシェル粒子との間の違いは、粒子当たりの活性成分の異なる含量である。用途に応じて、いずれかの種類を選択することが必要となり得る。完全粒子は可能な最善の活性成分/コーティング比を有するため、完全粒子が原則的に好ましい。重要な点は、基材が縁部及び角部を含むべきではないことである。
【0015】
粒子表面
後に塗布されるコーティングのいかなる乱れも回避するために、基材表面は可能な限り滑らかであるべきである。ある特定の表面粗度が極めて有用であるが、これは、コーティングが次いで基材と密に結合するためである。実験では、均一で完全に滑らかなガラスビーズが、硫酸リチウム一水和物等の活性成分のための好適な担体であることが示されている(図3、中央の写真を参照されたい)。示される粒子は、流動床プロセスにより生成された。
【0016】
粒径
基材の適切な粒径は、おそらくは、機能性粒子が使用される全ての用途において重要な特徴である。粒径と用途が適合しない場合、結果は意図されるものではない可能性がある。そのような不適合の良い例は、図4に見出すことができる。ここでは、異なる直径を有する硫酸リチウム一水和物のシェラックコーティングされた粒子を、通常のポートランドセメント、高アルミナセメント及び石膏からなる三元結合剤系において試験している。活性成分の全投入量は、全ての実験において一定であった。粒子が非常に大きい(800μm)場合、単一斑点が形成され、促進剤の局所的過飽和を明確に示している。約330μmのより小さい粒径では、まだ不均一性が見られるが、促進剤はすでにモルタルのほぼ全ての単位体積に達している。粒径、及びそれと共に活性成分の局所的濃度がさらに低下すると、不均一性は見られず、これは、促進剤がモルタルマトリックスの全ての部分に達したことを明らかに示している。図4の右側の実験において、完全粒子の代わりにコーティングされたコアシェル粒子(150μm未満)が使用されていることに言及することが重要である。
【0017】
粒径の変化と共に、モルタルの単位体積当たりの粒子の数もまた変化する。粒子直径が800μmから150μmに低下すると、立方センチメートル当たりの粒子数は約9個から2400個の粒子に増加する。原則的に、完全粒子を考慮すると、粒子数及び粒子当たりの活性成分濃度は、互いに三乗の逆数の関係となる。粒子直径が2分の1低下すると、粒子数は8倍増加する。さらに、全投入量が一定の場合、コーティングされたコアシェル粒子はより少ない活性成分を含有するため、コーティングされたコアシェル粒子の単位体積当たりの粒子数は、等しいサイズの完全粒子よりも常に高い。均一なモルタル試料における立方センチメートル当たり2400個の粒子を考慮すると、促進剤の拡散路は、長さ約500μmである。約150μmの粒子直径に関連して、及び、モルタルがまだ放出が生じる際の輸送媒体として水を含有するペーストであることを考慮すると、活性成分がこの距離を克服し得る可能性が高い。当然ながら、これは、より強力な促進剤が使用されるか、又はモルタル系が変更されると、すでに著しく異なっている可能性がある。研究結果から、100μmから150μmの粒径が最も好ましいと考えられると結論付けることができる。
【0018】
基材の生成
用途に意図される粒径に応じて、いくつかの生成法が使用可能となり得る。上述のように、100〜200μmの直径を有する粒子が、ほとんどの用途に対して好ましい。そのような粒子の基材品質に関して最善の生成方法は、流動床技術であるが、これは、上述の要求される特徴の全てを提供するためである。残念ながら、これは、必要となる大型の技術的装置のため、大量に生成されない限り、ペレット化又は高せん断混合器内での湿式造粒による粒子生成に比べて相対的に高額となる生成技術である。したがって、コスト効率に関しては、他の生成方法が有利であろう。問題は、例えばペレット化に関しては、最小約300μmまでの直径の粒子しか製造できないことがある。上述のように、これらは、使用するには大きすぎることが多い。
【0019】
pH>10での制御放出用のコーティング
pH>10での制御放出用の適切なコーティングに対する要件は、以下の図5に示されている。
【0020】
塗膜形成
第1に、コーティングは、良好な塗膜形成を示すべきであり、さもなければ、コーティングは、塗布後に閉じた機能性シェルを提供しない。不十分な塗膜形成は、原則的に、可塑剤の添加により改善され得る。コーティングを行うことが多い者には、可塑剤の使用が、塗膜形成だけでなく、溶解性、透過性、弾性率等の他のコーティング特性も変化させることが知られている。したがって、可塑剤が使用されるときはいつでも、コーティング特性の他の変化を考慮に入れる必要がある。多くの薬学的用途において、可塑剤の添加は最新技術である。
【0021】
コーティングの溶解性
第2に、コーティングは、コーティングプロセスの前は水溶性であり、コーティングプロセスの後は水に対し不溶性であるが透過性であるべきである。
【0022】
水溶性コーティングは、コーティングプロセスにおいて蒸発した水を直接環境中に放出することができ、追加の安全対策が不要であるため、通常、使用が容易で便利である。対照的に、流動床反応器内で溶媒系コーティングを行う場合、溶媒は、空気が環境中に放出され得る前に、排気から凝縮されなければならない。さらに、コーティングプロセス中の爆発を防止するために、例えば不活性ガス雰囲気下での作業等、生成のための追加の安全対策を行わなければならない。毎日の使用には、水系コーティングが好ましいことは明らかである。
【0023】
しかしながら、第1に、コーティングは、コーティング手順の後は不溶性であり、第2に、コーティングは水に対してまだ透過性であるという2つの側面が満たされる場合にのみ、水溶性コーティングは水含有系において制御放出コーティングとして使用可能である。コーティングがコーティングプロセスの後にまだ水溶性である場合、コーティングは容易に溶解し、したがって水の添加直後に活性成分を放出する(図6、左側)ため、可溶性から不溶性への変化は重要である。コーティングが水に対し不溶性で非透過性である場合、コーティングは全く溶解せず、したがって、活性成分のいかなる放出も妨げる(図6、右側)。これは、例えば、水系ワックス分散液がコーティングとして使用される場合に生じる。したがって、浸透圧による内部誘発放出の場合、コーティングは、コーティングの後、溶媒に対し不溶性であるが、透過性となるはずである(図6、中央)。したがって、水は、コーティングを通ってコア内に透過することができ、そこで部分的にコアを溶解して浸透圧を増加させる。浸透圧が十分高い場合、コーティングは破裂し、塩を含む溶液を周囲のマトリックスに放出する。
【0024】
したがって、機能性成分の要求される放出特性(図5)は、コーティングプロセス前の可溶性の状態から、コーティングプロセス後の不溶性であるが透過性である状態に、コーティングの溶解性が切り替え可能である場合に達成され得る。
【0025】
溶解性の変化は、例えば、−COOH又は−NR等の官能基がプロトン化又は脱プロトン化される場合、pHの変化により達成され得る。腸溶性コーティングは、そのような特性を示すコーティングのクラスである。別の可能性は、追加的な架橋分子又はコーティングの内部反応性の活性化により、コーティングを塗布後に不可逆的に架橋させることである。しかしながら、これは、水の透過性を維持するように非常に慎重に行う必要がある。
【0026】
放出メカニズム
第3に、遅延されているが迅速な放出を達成するためには、浸透圧により内部から放出を誘発することが最も良いであろう。内部誘発の前提条件は、コーティングが内部圧力の影響を受けやすいことである。コーティングが過度に弾性である、又は過度に剛性である場合、コーティングは、意図されるようには破裂しないであろう(図7、左側及び中央を参照されたい)。いずれの場合においても、放出特性は拡散性のものである(図2を参照されたい)。内部浸透圧がコーティングの剛性よりも高い場合にのみ、コーティングは破裂し(図7、右側を参照されたい)、急速放出が観察される。当然ながら、コーティングの剛性は、コーティング層の厚さと相関する。層が厚いほど、破裂をもたらすためにより高い圧力が必要である。
【0027】
コーティングプロセス
第4に、流動床技術は、100μmを超える直径を有する粒子に対して良好に作用し、優れたコーティング品質を提供するため、コーティングはこの技術によって最も良好に塗布される。流動床技術以外のコーティング技術も原則的に使用可能であるが、そのほとんどは、500μmを超える粒子に対してのみ効率的である。前述したように、そのような粒径は、意図される用途には大きすぎる場合が多い。
【0028】
要約すると、pH>10における制御放出のためのコーティングは、以下の特性を提供すべきである:
− 良好な塗膜形成。
− 塗布前は水溶性である。
− 塗布後、pH>10において不溶性であるが水透過性である。
− コーティングの剛性は、急速放出を提供するために、内部浸透圧より低くなければならない。
【0029】
コーティングのスクリーニング
要求される特性を有する好適なコーティングを見つけるために、粗硫酸リチウム一水和物ペレット(直径約750μm)上の多くの異なるコーティングのスクリーニングを行った。ペレットは、その滑らかな表面及びほぼ円形の外形のため、コーティングのスクリーニングのための基材として使用された。
【0030】
活性成分の放出は、導電性電極を使用して、開放ビーカー内で、合成細孔溶液中室温で測定した。合成細孔溶液は、セメントを水と混合し、次いで溶液を濾過した後に得られる溶液と類似した、アルカリ性のCa2+飽和Na、K、SO2−含有溶液であるが、合成溶液は過飽和していない点が異なる。アルカリ性のpH値は、セメント水和中の水酸化カルシウムの形成のため、ポートランドセメントに内在する。導電率測定のために、コーティングされたペレットを、測定開始から30秒後に溶液に添加した。図8中の放出測定及びその後の全ての放出測定は、合成細孔溶液中での導電率測定である。
【0031】
シェラックは、所望の段階的放出特性を示す唯一のコーティングであった(図8を参照されたい)。ワックス又は高弾性水ガラス等の他のコーティングは、活性成分を全く放出しないか、又は、Kollicoat SR 30D等、望ましくない拡散放出を示した。コーティングのほとんどは、合成細孔溶液に急速に可溶であるため、スクリーニングに不合格であった。これらの結果に基づき、シェラックがセメント系における制御放出粒子用コーティングとして選択された。
【0032】
シェラックはこれまで、薬学的用途において腸溶性コーティングとして使用されており、小腸液(pH8〜8.5)中ですでに溶解するため、シェラックが10〜14のpH値で使用され得るという発見は、極めて驚くべきことである。
【0033】
シェラック
シェラックは、インド及びタイにおいて樹木上で雌のラック虫により分泌される、約8個のモノマー単位を有する天然オリゴマーエステルである(化学構造については図9を参照されたい)。シェラックは、シェラックに覆われた木の枝を切り、それを木材から分離することにより回収される。精製は、エタノールへの溶解、脱ろう及び活性炭を用いた清浄化により行われる。シェラックは、約50%のアロイリチン酸(9,10,16−トリヒドロキシパルミチン酸)及び異なる種類のテルペン酸を含有する。シェラックは、エタノールに可溶であるか、又は、遊離カルボン酸基が脱プロトン化される場合、pH=8の弱アルカリ溶液に可溶である。酸性媒体には不溶である。高温アルカリ溶液中では、シェラックは鹸化され得る。遊離カルボン酸基の含量は、酸価(中和するためのmg KOH/gシェラック)により定義され、これは、典型的には、1gのシェラック当たり約70mgのKOHである。多数のOH−基のため、シェラックは優れた塗膜形成特性を示す。
【0034】
天然産物であるため、シェラックの組成及び特性は変動し得る。シェラックの世界取引量は、年間約20,000tであり、価格は1kg当たり約10ユーロである。本説明において参照される実験全体を通して、シェラックタイプSSB Aquagold(登録商標)(HARKE Group、Muelheim an der Ruhr;25%シェラック水溶液)が使用されている。
【0035】
シェラックの経時劣化
室温で4カ月の保存後、シェラックコーティングされた硫酸リチウム試料を再び測定すると、はるかに長い放出時間が観察された。シェラックコーティングは、明らかに経時劣化していた(図10を参照されたい)。ドライセメント系は、少なくとも約6カ月の期間にわたりその特性を維持しなければならないため、この挙動はこれらの系において極めて問題である。調合により調節された作業性及び凝結時間は、この期間の間大きく変化すべきではない。したがって、約10分から60分超の放出の変化を伴う徐々に経時劣化するコーティングは、許容されない。
【0036】
このシェラックの経時劣化は、オリゴマーエステル分子内の−OH基と遊離カルボン酸基との間のさらなるエステル化の結果であると考えられる。この架橋がより多く生じる程、シェラックの溶解性及び透過性は低くなり、シェラックコーティングの剛性は高くなる。
【0037】
シェラックの熱硬化
経時劣化を停止させるために必要な温度及び硬化時間を確認するために、一連の実験を行った。硬化時間に依存して、80℃から140℃の間の温度で十分であることが分かった。温度が高い程、シェラックの経時劣化を停止させるために必要な硬化時間は短い。80℃では、硬化時間は1日から7日間、100℃では6時間から4日、120℃では1時間から2日、及び140℃では1時間から1日の範囲であるべきである。しかしながら、これらの時間は、単なる近似的な数字であり、シェラックタイプと共に変動し得る。熱硬化をこれらの硬化時間より延長させると、放出時間は着実に増加するが、放出中の傾きは、より低透過性及びより高剛性のコーティングに起因してよりなだらかとなる(図12を参照されたい)。それと共に、放出特性は、活性成分の段階的な急速放出から、意図されないより拡散的な放出に徐々に変化する。
【0038】
シェラックコーティングされた粒子の試料を、1日から6日間100℃で熱硬化させ、次いで室温で保存し、最後に次の8週間の間に数回測定した(図11を参照されたい)。放出時間は実際には変化せず、経時劣化が熱硬化により停止され得ることを証明していた。観察される放出時間の不正確性は、主に、導電率測定及び細孔溶液の鮮度の結果である。
【0039】
硬化温度を140℃に上昇させると、同じ期間100℃で熱硬化させた試料と比較して、シェラックコーティングはその段階的放出特性をほぼ完全に失う(図13を参照されたい)。
【0040】
熱硬化後、シェラック中に含有される反応性カルボン酸基とOH−基は、互いに反応して追加的なエステル結合を形成すると考えられる。コーティング中、単一オリゴマー間に結合が確立され、3次元架橋マトリックスを形成する。この架橋により、分子量及び融点が増加する。増加した分子量により、シェラックは事実上不溶性となるが、まだ水に対して透過性であり、これは内部浸透圧の増加のための前提条件である。
【0041】
シェラックはその約60℃の融点を超えて加熱されると粘着性となるため、熱硬化は、コーティングされた粒子が互いに粘着するのを防止するために、固結防止剤を用いて行われるべきである。連続的な架橋反応により、シェラックは再び剛性となる。完全に「重合した」シェラックは、150℃を超える温度でのみ溶融する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】最新技術の促進モルタルの作業性と凝結時間、及び制御放出促進による作業性と凝結時間に関する概略図を示す。
図2】粒子形状に関連した放出特性を示す。
図3】基材の重要な特徴を示す。
図4】粒径及び粒子の種類が異なる制御放出粒子の試験を示す。
図5】制御放出コーティングの重要な特徴を示す。
図6】放出に対するコーティングの溶解性の効果を示す。
図7】放出メカニズムに対するコーティングの剛性の結果を示す。
図8】異なるコーティングの放出特性を示す。
図9】シェラックの一般的化学構造を示す。
図10】室温でのシェラックの経時劣化を示す。
図11】室温で長期保存後のシェラックコーティングを有する熱硬化硫酸リチウム一水和物ペレットの特性を示す。
図12】100℃で異なる硬化時間硬化した後の、ガラスビーズ上でシェラックコーティングされた硫酸リチウムの放出特性を示す。
図13】異なる温度及び時間での熱硬化後の放出特性を示す。
図1
図2
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図6
図7
図8
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図10
図11
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図13