特許第6273158号(P6273158)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6273158
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】構造材用アルミニウム合金板
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/10 20060101AFI20180122BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20180122BHJP
   C22F 1/053 20060101ALN20180122BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20180122BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20180122BHJP
【FI】
   C22C21/10
   C22C21/06
   !C22F1/053
   !C22F1/047
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686B
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 691Z
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-41713(P2014-41713)
(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公開番号】特開2014-198899(P2014-198899A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2016年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-51608(P2013-51608)
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100146112
【弁理士】
【氏名又は名称】亀岡 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100167335
【弁理士】
【氏名又は名称】武仲 宏典
(74)【代理人】
【識別番号】100164998
【弁理士】
【氏名又は名称】坂谷 亨
(72)【発明者】
【氏名】松本 克史
(72)【発明者】
【氏名】有賀 康博
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 久郎
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−252573(JP,A)
【文献】 特開平05−070910(JP,A)
【文献】 特開昭60−234955(JP,A)
【文献】 特開2002−371333(JP,A)
【文献】 特開2010−077506(JP,A)
【文献】 特開2009−114514(JP,A)
【文献】 特開2010−279981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/10 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Zn:3.0〜6.0%、Mg:1.5〜4.5%、Cu:0.05〜0.5%を各々含み、かつZnの含有量[Zn]とMgの含有量[Mg]とが[Zn]≧−0.3[Mg]+4.5を満足する関係にあり、残部がAlおよび不可避的不純物からなる組成のAl−Zn−Mg系アルミニウム合金板であって、この板の示差走査熱量分析曲線において、最大の吸熱ピーク温度が130℃以下であるとともに、200〜300℃の温度範囲における発熱ピークの最大高さが50μW/mg以上であり、加工硬化指数n値(10〜20%)が0.22以上であることを特徴とする構造材用アルミニウム合金板。
【請求項2】
前記アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Zr:0.05〜0.3%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.05〜0.3%、Sc:0.05〜0.3%の1種又は2種以上を含む請求項1に記載の構造材用アルミニウム合金板。
【請求項3】
前記アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Ag:0.01〜0.2%を含む請求項1または2に記載の構造材用アルミニウム合金板。
【請求項4】
前記アルミニウム合金板のZnの含有量[Zn]とMgの含有量[Mg]とが [Zn]≧−0.5[Mg]+5.75を満足する関係にあり、人工時効硬化処理後の0.2%耐力が400MPa以上である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の構造材用アルミニウム合金板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工性を向上させ、耐食性にも優れた高強度な構造材用アルミニウム合金板に関するものである。本発明のアルミニウム合金板とは、圧延板であって、圧延によって製造された板を溶体化および焼入れ処理後に2週間以上室温時効した後の板であって、構造材への成形加工前および人工時効硬化処理前の板のことを言う。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境などへの配慮から、自動車車体の軽量化の社会的要求はますます高まってきている。かかる要求に答えるべく、自動車車体のうち、パネル(フード、ドア、ルーフなどのアウタパネル、インナパネル)や、バンパリーンフォース(バンパーR/F)やドアビームなどの補強材などを、部分的に鋼板等の鉄鋼材料に代えて、アルミニウム合金材料を適用することが行われている。
【0003】
ただ、自動車車体のより軽量化のためには、自動車部材のうちでも特に軽量化に寄与する、フレーム、ピラーなどの自動車構造部材にも、アルミニウム合金材料の適用を拡大することが必要となる。ただ、これら自動車構造部材は、要求される0.2%耐力が350MPa以上であるなど、前記自動車パネルに比べて、高強度化が必要である。この点で、前記自動車パネルに使用されている、成形性や強度、耐食性、そして低合金組成でリサイクル性に優れた、JIS乃至AA6000系アルミニウム合金板では、組成や調質(溶体化処理および焼入れ処理、更には人工時効硬化処理)を制御しても、前記高強度化を達成するにはほど遠い。
【0004】
したがって、このような高強度な自動車構造部材には、同じような高強度が要求される前記補強材として使用されているJIS乃至AA 7000系アルミニウム合金板を用いる必要がある。しかし、Al−Zn−Mg系アルミニウム合金である、7000系アルミニウム合金は、一般耐食性が劣る。また、Zn及びMgからなる析出物MgZnを高密度に分布させることで高強度を達成する合金であるため、応力腐食割れ(以下、SCC)を起こす危険性がある。これを防止するため、やむを得ず過時効処理を行って、0.2%耐力が300MPa程度で使用されているのが実情であり、高強度合金としての特徴が薄れている。
【0005】
このため、強度と耐SCC性の両方に優れた7000系アルミニウム合金の組成制御や、析出物などの組織制御が、従来から種々提案されている。
【0006】
組成制御の代表例として、例えば、特許文献1では、7000系アルミニウム合金押出材の、MgZnを過不足なく形成するZn及びMg量(MgZnの化学量論比)より過剰に添加されたMgが、高強度化に寄与することを利用し、MgをMgZnの化学量論比より過剰に添加することにより、MgZn量を抑えて、耐SCC性を低下させることなく、高強度化している。
【0007】
析出物などの組織制御の代表例として、例えば、特許文献2では、人工時効硬化処理後の7000系アルミニウム合金押出材の、結晶粒内における粒子径が1〜15nmの析出物を透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果で1000〜10000個/μmの密度で存在させて、粒内と粒界との電位差を小さくして、耐SCC性を向上させている。
【0008】
この他にも、全ては例示しないが、7000系アルミニウム合金押出材の強度と耐SCC性の両方に優れさせる組成制御例や析出物などの組織制御例は、押出材での実用化の多さに比例して多数存在する。これに対して、7000系アルミニウム合金板における、従来の組成制御や析出物などの組織制御例は、板での実用化の少なさに応じて、きわめて少ない。
【0009】
例えば、特許文献3には、7000系アルミニウム合金板同士が溶接接合されたクラッド板からなる構造材において、強度向上のために、人工時効硬化処理後の時効析出物の直径を50Å(オングストローム)以下の球状として一定量存在させることが提案されている。しかし、耐SCC性の性能については全く開示が無く、実施例に耐食性のデータも無い。
【0010】
また、特許文献4には、溶湯を急冷凝固後に冷間圧延し、更に人工時効硬化処理後の7000系アルミニウム合金板の結晶粒内における晶析出物について、400倍の光学顕微鏡での測定によって、大きさ(面積が等価な円相当径に換算)を3.0μm以下とし、平均面積分率を4.5%以下として、強度や伸びを向上させている。
【0011】
板の集合組織の制御に関しても若干ではあるが提案されている。例えば、特許文献5、6では、構造材用の7000系板の高強度化、高耐SCC性化を図るために、鋳塊を鍛造後に、温間加工域にて繰り返して圧延して、組織を細かくしている。これは、組織を細かくすることによって、耐SCC性低下の原因となる粒界と粒内との電位差の要因となる、方位差が20°以上の大傾角粒界を抑制して、3〜10°の小傾角粒界が25%以上である集合組織を得るためである。ただ、このような温間圧延の繰り返しは、常法の熱間圧延、冷間圧延の方式では、このような小傾角粒界が25%以上である集合組織を得ることができないために行われている。したがって、常法とは大きく工程が異なるために、板をつくるために実用的な方法とは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2011−144396号公報
【特許文献2】特開2010−275611号公報
【特許文献3】特開平9−125184号公報
【特許文献4】特開2009−144190号公報
【特許文献5】特開2001−335874号公報
【特許文献6】特開2002−241882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、強度と耐SCC性の両方に優れた7000系アルミニウム合金の組成制御や析出物、あるいは集合組織などの組織制御などの提案は、従来から押出材の分野については種々されている。ただ、鋳塊を均熱処理後に熱間圧延および冷間圧延するような、常法によって製造される圧延板については、前記クラッド板、急冷凝固法、温間圧延などの特殊な圧延あるいは製法以外には、あまり提案がないのが実状である。
【0014】
そして、押出材は、前記圧延板とは、その熱間加工工程などの製造過程が全く異なり、出来上がる結晶粒や析出物などの組織も、例えば結晶粒が押出方向に伸長した繊維状であるなど、結晶粒が基本的に等軸粒の圧延板とは大きく異なる。このため、前記押出材での組成制御や析出物などの組織制御などの提案が、7000系アルミニウム合金板にも、そして、この7000系アルミニウム合金板からなる自動車構造部材にも、そのまま適用でき、強度と耐SCC性の両方の向上に果たして有効であるかどうかは不明である。すなわち、実際に確認しない限りは、あくまで予想の域を出ない。
【0015】
したがって、前記常法によって製造される7000系アルミニウム合金板の、強度と耐SCC性の両方に優れた組織制御技術については、未だ有効な手段がなく、不明な点が多く解明の余地があるというのが現状である。また、一般耐食性に関してはZn添加による電位の卑化が関与しているため、強度と耐食性の観点からZn添加量を下げる必要がある。しかしながら、Zn含有量を下げると耐食性は改善するものの、前記構造部材での必要特性である曲げ性などの成形加工性は向上する反面強度が低下するという、高強度化と矛盾して技術的に困難な課題となる。
【0016】
以上述べた課題に鑑み、本発明の目的は、前記常法によって製造される圧延板として、強度と成形加工性とを兼備し、耐食性にも優れた、自動車部材などの構造材用7000系アルミニウム合金板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的を達成するために、本発明構造材用アルミニウム合金板の要旨は、質量%で、Zn:3.0〜6.0%、Mg:1.5〜4.5%、Cu:0.05〜0.5%を各々含み、かつZnの含有量[Zn]とMgの含有量[Mg]とが [Zn]≧−0.3[Mg]+4.
5を満足する関係にあり、残部がAlおよび不可避的不純物からなる組成のAl−Zn−Mg系アルミニウム合金板であって、この板を溶体化および焼入れ処理後に室温時効させた際の示差走査熱量分析曲線において、最大の吸熱ピーク温度が130℃以下であるとともに、200〜300℃の温度範囲における発熱ピークの最大高さが50μW/mg以上であり、加工硬化指数n値(10〜20%)が0.22以上であることとする。
【発明の効果】
【0018】
本発明で言うアルミニウム合金板とは、圧延によって製造された板であって、鋳塊を均熱処理後に熱間圧延され、更に冷間圧延されて冷延板とされ、更に溶体化および焼入れ処理などの調質処理(質別記号でT4)が施された、常法によって製造された7000系アルミニウム合金板のことを言う。言い換えると、前記特許文献5、6のような、鋳塊を鍛造した上で温間圧延を何回も繰り返すような特殊な圧延方法により製造される板を含まない。
【0019】
そして、更に、本発明で言うアルミニウム合金板とは、上記のように製造された7000系アルミニウム合金板の室温時効した組織を規定し、かつ素材アルミニウム合金板として用途の構造材に加工されるものである。このため、上記のように製造された板を、室温時効(室温放置)した後の板であって、用途としての構造材への成形加工前および人工時効硬化処理前の板のことを言う。
【0020】
本発明は、耐食性向上のためにZn含有量を抑える一方で、強度を確保するためにMg含有量を増やした組成の7000系アルミニウム合金板の室温時効した組織を示差走査熱分析曲線によって解析した。この結果、このような組成の7000系アルミニウム合金板では、Zn含有量が高い7000系アルミニウム合金板に比して、室温時効により生成したクラスタの組成と作用とが異なることを知見した。
【0021】
すなわち、Zn含有量を抑えた7000系アルミニウム合金板で、室温時効により生成するクラスタ(原子集合体)は、用途である構造材への成形加工後の人工時効硬化特性(BH性)だけではなく、構造材への成形加工時に必要な延性(加工硬化特性)にも寄与していることを知見した。したがって、これらのクラスタを制御することで、耐食性だけでなく、強度と延性(成形性)のバランスを向上させることができ、常法によって製造される圧延板として、強度と成形加工性とを兼備し、耐SCC性などの耐食性にも優れた構造用7000系アルミニウム合金板を提供できる。
【0022】
ただ、このようなクラスタ(原子集合体)の組成やサイズあるいは密度などを、SEMやTEMなどの通常の観察手段を用いて直接識別することは現時点でできていないため、これら組織的な因子によって定量的に規定することが難しい。
【0023】
したがって、本発明では、製造された7000系アルミニウム合金板の室温時効した組織を、示差走査熱分析曲線による解析にて、前記クラスタを間接的に規定して制御する。より具体的に、示差走査熱分析曲線による解析では、室温時効により形成されるクラスタの再固溶に対応する吸熱ピークの温度が低いほど、延性としての加工硬化特性が向上する。その一方で、人工時効硬化処理後の析出物に対応する、200〜300℃の温度範囲における発熱ピークの最大高さが高いほど、人工時効析出物量が多くなった、強度が向上する。
【0024】
本発明では、このように室温時効により生成するクラスタを規定するため、前記示差走査熱分析曲線の測定を、前記調質処理直後の室温時効していない板の状態ではなく、目安として2週間以上室温時効(室温放置)した後の板であって、構造材への成形加工前および人工時効硬化処理前の板に対して行う。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施の形態につき、要件ごとに具体的に説明する。
【0026】
アルミニウム合金組成:
先ず、本発明アルミニウム合金板の化学成分組成について、各元素の限定理由を含めて、以下に説明する。なお、各元素の含有量の%表示は全て質量%の意味である。
【0027】
本発明アルミニウム合金板の化学成分組成は、常法によって製造される圧延板として、本発明で意図する自動車部材などの構造材用としての要求特性である、強度と成形加工性とを兼備し、耐食性も満足させる前提条件となる。このため、本発明におけるAl−Zn−Mg−Cu系の7000系アルミニウム合金組成は、耐食性向上のためにZn含有量を抑える一方で、強度を確保するためにMg含有量を増やした組成とする。
【0028】
この観点から、本発明アルミニウム合金板の化学成分組成は、質量%で、Zn:3.0〜6.0%、Mg:1.5〜4.5%、Cu:0.05〜0.5%を各々含み、かつZnの含有量[Zn]とMgの含有量[Mg]とが [Zn]≧−0.3[Mg]+4.5を満足する関係にあり、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものとする。この組成に、更に加えて、遷移元素として、Zr:0.05〜0.3%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.05〜0.3%、Sc:0.05〜0.3%の1種又は2種以上を選択的に含んでも良い。また、これらの遷移元素に加えて、あるいは代えて、更に、Ag:0.01〜0.2%を選択的に含んでも良い。
【0029】
Zn:3.0〜6.0%
必須の合金元素であるZnは、Mgとともに、製造された調質後の板の室温時効時にクラスタを形成して加工硬化特性を向上させ、構造材への成形加工性を向上させる。また、構造材への成形加工後の人工時効処理時に、時効析出物を形成して強度を向上させる。Zn含有量が3.0%未満では人工時効処理後の強度が不足する。但し、Zn含有量が多くなって6.0%を超えると、粒界析出物MgZnが増えて粒界腐食が起こりやすくなり、耐食性が劣化する。従って、本発明ではZn含有量は比較的少なめに抑制する。このため、Zn含有量は3.0〜6.0%の範囲、好ましくは3.5〜4.5%の各範囲とする。
【0030】
Mg:1.5〜4.5%
必須の合金元素であるMgは、Znとともに、製造された調質後の板の室温時効時にクラスタを形成して加工硬化特性を向上させる。また、構造材への成形加工後の人工時効処理時に時効析出物を形成して強度を向上させる。本発明ではZn含有量は比較的低目に抑制するため、逆にMg含有量は比較的多めにする。Mg含有量が1.5質量%未満では強度が不足し、加工硬化特性が低下する。但し、4.5質量%を超えると、板の圧延性が低下し、SCC感受性も強くなる。従って、Mg含有量は1.5〜4.5%、好ましくは2.5〜4.5%の各範囲とする。
【0031】
ZnとMgとのバランス式:
本発明では、ZnとMgとの含有による高強度化を保障するために、前記したZnとMgとの含有量だけではなく、Znの含有量[Zn](質量%)とMgの含有量[Mg] (質量%)とのバランスを制御することが重要となる。このために、このバランスの制御として、[Zn]と[Mg]とが、[Zn]≧−0.3[Mg]+4.5のバランス式、好ましくは[Zn]≧−0.5[Mg]+5.75のバランス式を満たすようにする。
【0032】
この[Zn]≧−0.3[Mg]+4.5を満足することによって、後述する好ましい製造方法によって、人工時効硬化処理後の構造材の0.2%耐力を350MPa以上とすることが可能となる。また、 [Zn]≧−0.5[Mg]+5.75を満足することによって、後述する好ましい製造方法によって、人工時効硬化処理後の構造材の0.2%耐力を400MPa以上とすることが可能となる。
【0033】
ZnとMgの各含有量が、[Zn]<−0.3[Mg]+4.5では、ZnとMgの各含有量が規定範囲内であっても、あるいは後述する好ましい製造方法によっても、人工時効硬化処理後の構造材の0.2%耐力を350MPa以上とできなくなる可能性がある。また、Znの含有量とMgの含有量とが [Zn]<−0.5[Mg]+5.75では、同様に人工時効硬化処理後の構造材の0.2%耐力を400MPa以上とできなくなる可能性がある。
【0034】
Cu:0.05〜0.5%
Cuは、Al−Zn−Mg系合金のSCC感受性を抑え、耐SCC性を向上させる作用がある。また、一般耐食性も向上させる。Cu含有量が0.05%未満では、耐SCC性や一般耐食性の向上効果が小さい。一方、Cu含有量が0.5%を超えると、圧延性及び溶接性などの諸特性を却って低下させる。従って、Cu含有量は0.05〜0.5%、好ましくは0.4%以下の各範囲とする。
【0035】
Zr:0.05〜0.3%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.05〜0.3%、Sc:0.05〜0.3%の1種又は2種以上
Zr、Mn、Cr、Scの遷移元素は、鋳塊及び最終製品の結晶粒を微細化して強度向上に寄与するので、必要な場合には選択的に含有させる。これらをいずれか一種、或いは二種以上を含有する場合、Zr、Mn、Cr、Scの含有量がいずれも下限未満では、含有量が不足して、強度が低下する。一方、Zr、Mn、Cr、Scの含有量がそれぞれの上限を超えた場合には、粗大晶出物を形成するため伸びが低下する。従って、これらを含有させる場合の含有量は、Zr:0.05〜0.3%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.05〜0.3%、Sc:0.05〜0.3%の各範囲、好ましくはZr:0.08〜0.2%、Mn:0.2〜1.0%、Cr:0.1〜0.2%、Sc:0.1〜0.2%の各範囲とする。
【0036】
Ag:0.01〜0.2%
Agは、構造材への成形加工後の人工時効処理によって強度向上に寄与する時効析出物を緊密微細に析出させ、高強度化を促進する効果があるので、必要に応じて選択的に含有させる。Ag含有量が0.01%未満では強度向上効果が小さい。一方、Ag含有量は0.2%を超えて含有させてもその効果が飽和し、高価となる。従って、Ag含有量は0.01〜0.2%の範囲とする。
【0037】
その他の元素:
これら以外のその他の元素は基本的に不可避的不純物である。溶解原料として、純アルミニウム地金以外に、アルミニウム合金スクラップの使用による、これら不純物元素の混入なども想定(許容)して、7000系合金のJIS規格で規定する範囲での各々の含有を許容する。例えば、Ti、Bは、圧延板としては不純物であるが、鋳塊の結晶粒を微細化する効果もあるので、Tiの上限は0.2%、好ましくは0.1%、Bの上限は0.05%以下、好ましくは0.03%とする。Fe、Siは、Fe:0.5%以下、Si:0.5%以下であれば、本発明に係るアルミニウム合金圧延板の特性に影響せず、含有が許容される。
【0038】
組織:
以上の組成を前提として、本発明の7000系アルミニウム合金板組織は、この板の溶体化および焼入れ処理後、目安として2週間以上室温時効した後の示差走査熱分析曲線において、最大の吸熱ピーク温度が130℃以下であるとともに、200〜300℃の温度範囲における発熱ピークの最大高さが50μW/mg以上とする。
【0039】
最大の吸熱ピーク温度は、この板の室温時効時に形成されるクラスタの再固溶に対応している。この最大の吸熱ピーク温度が低いほど、クラスタの熱的安定性が低い(分解しやすい)ことに対応し、熱以外にも塑性変形時の転位のカッティングによっても分解しやすくなる。したがって、このようにクラスタの安定性が低いほど、板の構造材への成形加工など、塑性変形時の転位の移動の障害やひずみ集中の原因となりにくい。この目安は最大の吸熱ピーク温度が130℃以下であり、この規定を満たすことで、クラスタの安定性が低く(不安定で)、加工硬化特性が向上し、加工硬化指数n値(10〜20%)を0.22以上とできる。
【0040】
これに対して、このクラスタの安定性が高いほど、この最大の吸熱ピーク温度が130℃を超えて高くなり、加工硬化特性が低下し、加工硬化指数n値(10〜20%)を0.22以上とできない。これは、このクラスタの安定性が高いほど、板の構造材への成形加工など、塑性変形時の転位の移動の障害となるものの、クラスタをカッティングして転位が移動しだすと、そのすべり面に転位の移動が集中するため、ひずみ集中が起こりやすくなり、加工硬化特性が低下する。
【0041】
200〜300℃の温度範囲における発熱ピークの最大高さは、強度の向上に寄与する、人工時効処理時の析出物(人工時効析出物)の析出に対応している。したがって、この発熱ピーク高さ高さが高いほど、人工時効析出物の析出量(密度)が多く、強度を高くできることになる。この目安は、200〜300℃の温度範囲における発熱ピークの最大高さが50μW/mg以上を有することであって、この発熱ピークの最大高さが50μW/mg未満では、人工時効硬化処理後の構造材の0.2%耐力を350MPa以上とできなくなる可能性が高い。
【0042】
加工硬化特性:
以上の組成や組織および後述する好ましい製造方法によって、本発明の7000系アルミニウム合金板は、成形加工性が向上するが、特に構造材への成形加工の際に用いられる、曲げ加工性を保障するために、本発明では加工硬化指数n値(10〜20%)を規定する。すなわち、以上の組成や組織および後述する好ましい製造方法によって製造した7000系アルミニウム合金板であって、この板の溶体化および焼入れ処理後、目安として2週間以上室温時効した後の加工硬化指数n値(10〜20%)を0.22以上とする。
【0043】
加工硬化は、成形加工などで応力を与えると塑性変形によって硬さが増す現象でひずみ硬化とも呼ばれる。成形加工により変形が進む程、抵抗が大きくなり、硬度を増していくのが加工硬化であり、成形加工性の目安となる特性値で「n値」と呼ぶ。このn値は降伏点以上の塑性域における応力σと、ひずみεとの関係を近似させた時の指数nのことである。近似式はアルミニウムによく合うVoceの式により行う。n値が高いほど、加工硬化しやすく、曲げなどの成形加工による塑性変形を受けた部分が硬くなり、 その周辺の方が変形しやすくなるために、曲げなどの成形加工性が向上する。この反対に、n値が低いほど、加工硬化しにくく、最初に塑性変形を受ける部分で、もっとも応力のかかる部分が硬くならずに、ますます塑性変形してしまい、くびれて破断しやすくなるため、曲げなどの成形加工性が低い。
【0044】
(製造方法)
本発明における7000系アルミニウム合金板の製造方法について、以下に具体的に説明する。
【0045】
本発明では、7000系アルミニウム合金板の通常の製造工程による製造方法で製造可能である。即ち、鋳造(DC鋳造法や連続鋳造法)、均質化熱処理、熱間圧延の通常の各製造工程を経て製造され、板厚が1.5〜5.0mmであるアルミニウム合金熱延板とされる。次いで、冷間圧延されて板厚が3mm以下の冷延板とされる。この際、冷間圧延前もしくは冷間圧延の中途において1回または2回以上の中間焼鈍を選択的に行なっても良い。
【0046】
(溶解、鋳造冷却速度)
先ず、溶解、鋳造工程では、上記7000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。
【0047】
(均質化熱処理)
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立って、均質化熱処理を施す。この均質化熱処理(均熱処理)は、組織の均質化、すなわち、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくすことを目的とする。
【0048】
但し、本発明では、前記調質処理後に室温時効した後の、構造材への成形加工時の加工硬化特性及び、構造材に成形加工後の人工時効処理後の強度をともに向上させるために、均熱処理を2段或いは2回均熱工程で行う。2段均熱とは、1回目の均熱後に冷却はするものの、200℃以下までは冷却せず、より高温で冷却を停止した上で、その温度で維持した後に、そのままの温度か、より高温に再加熱した上で熱延を開始する。これに対して、2回均熱とは、1回目の均熱後に、一旦室温を含む200℃以下の温度まで冷却し、更に、再加熱し、その温度で一定時間維持した後に、熱延を開始する。
【0049】
これら2段或いは2回均熱工程における1段目或いは1回目の均熱工程においては、遷移元素系の化合物を微細分散させて、構造材への成形性に影響する化合物の微細化を狙い、2段目或いは2回目の均熱工程においては、Zn、Mg、Cuの固溶を促進し、室温時効時の加工硬化特性及び人工時効処理時の強度向上を狙う。
【0050】
このために、1段目或いは1回目の均熱温度を400〜450℃、好ましくは400〜440℃に制御する。この温度範囲に鋳塊を加熱、保持することによって、Zr系化合物や、Mn、Cr、Scからなる化合物を微細に分散させることができる。この均熱温度が400℃未満では十分な微細化効果が得られず、室温時効時の加工硬化特性向上が図れない。また、一方で450℃を超えると、これらの化合物が粗大化して、やはり室温時効時の加工硬化特性の向上が図れない。これら1段目或いは1回目の均熱処理の保持時間は1〜8時間程度で良い。
【0051】
また、2段目或いは2回目の均熱処理温度を450℃〜固相線温度、好ましくは470℃〜固相線温度に制御する。この温度範囲に鋳塊を加熱、保持することによって、Zn、Mg、Cuの固溶を促進し、溶体化後の人工時効処理時の強度を向上させることができる。この均熱温度が450℃未満では、これらの元素の固溶が十分に得られず、室温時効時の加工硬化特性や人工時効後の強度が増大しない。また、一方で固相線温度を超えると、部分溶融が起こり、機械的特性が劣化するので、上限は固相線温度以下とする。これら2段目或いは2回目の均熱時の保持時間は1〜8時間程度で良い。
【0052】
(熱間圧延)
熱間圧延は、熱延開始温度が固相線温度を超える条件では、バーニングが起こるため熱延自体が困難となる。また、熱延開始温度が350℃未満では熱延時の荷重が高くなりすぎ、熱延自体が困難となる。したがって、熱延開始温度は350℃〜固相線温度の範囲から選択して熱間圧延し、2〜7mm程度の板厚の熱延板とする。この熱延板の冷間圧延前の焼鈍 (荒鈍) は必ずしも必要ではないが実施しても良い。
【0053】
(冷間圧延)
冷間圧延では、上記熱延板を圧延して、1〜3mm程度の所望の最終板厚の冷延板 (コイルも含む) に製作する。冷間圧延パス間で中間焼鈍を行っても良い。
【0054】
(溶体化処理)
冷間圧延後は調質として溶体化処理を行う。この溶体化処理については、通常の連続熱処理ラインによる加熱,冷却でよく、特に限定はされない。ただ、各元素の十分な固溶量を得ることや結晶粒の微細化のためには、450℃〜固相線温度以下、好ましくは480〜550℃の溶体化処理温度で、保持時間は所定の溶体化処理温度に到達後、2秒か3秒以上、30分以下の範囲で行う。
【0055】
溶体化処理後の平均冷却(降温)速度は特に問わないが、溶体化処理後の冷却は、ファンなどの空冷、ミスト、スプレー、浸漬等の水冷手段など、強制的な冷却手段を選択あるいは組み合わせて用いるか、室温〜100℃までの温湯に焼き入れる。ちなみに、溶体化処理は基本的に1回のみであるが、室温時効硬化が進みすぎた場合などには、自動車部材への成形性の確保のため、溶体化処理や復元処理を前記好ましい条件にて再度施して、この進みすぎた室温時効硬化を一旦キャンセルしても良い。
【0056】
そして、本発明のアルミニウム合金板は、素材として、自動車部材に成形加工され、自動車部材として組み立てられる。また、自動車部材に成形加工された後で、別途人工時効硬化処理されて、自動車部材あるいは自動車車体とされる。
【0057】
人工時効硬化処理:
本発明の7000系アルミニウム合金板は、構造材への成形加工後に人工時効硬化処理によって、自動車部材などの構造材としての所望の強度、0.2%耐力で350MPa以上、好ましくは400MPa以上とされる。この人工時効硬化処理を行う時点は、素材7000系アルミニウム合金板の自動車部材への成形加工後が好ましい。人工時効硬化処理後の7000系アルミニウム合金板は、強度は高くなるものの、成形性は低下しており、自動車部材の形状の複雑化によっては成形できない場合も生じるからである。
【0058】
この人工時効硬化処理の温度や時間の条件は、所望の強度や素材の7000系アルミニウム合金板の強度、あるいは室温時効の進行程度などから、一般的な人工時効条件(T6、T7)の範囲で自由に決定される。ちなみに、人工時効硬化処理の条件を例示すると、1段の時効処理であれば、100〜150℃での時効処理を12〜36時間(過時効領域を含む)行う。また、2段の工程においては、1段目の熱処理温度が70〜100℃の範囲で2時間以上、2段目の熱処理温度が100〜170℃の範囲で5時間以上の範囲(過時効領域を含む)から選択する。
【実施例】
【0059】
下記表1、2に示すAl−Zn−Mg−Cu系成分組成の7000系アルミニウム合金冷延板を、前記DSC曲線により解析される組織を種々変えて製造した。これら製造した冷延板について、この板を溶体化および焼入れ処理後に室温時効させた際のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度や200〜300℃の温度範囲における発熱ピークの最大高さ、加工硬化指数n値(10〜20%)を測定した。また、人工時効硬化処理後の強度などの機械的な特性と一般耐食性についても評価した。これらの結果を下記表3、4に示す。
【0060】
冷延板の組織は、主として、表3、4に示す、均熱処理条件を種々変えて制御した。具体的には、各例とも共通して、下記表1、2に示す各成分組成の7000系アルミニウム合金溶湯をDC鋳造し、45mm厚み×220mm幅×145mm長さの鋳塊を得た。この鋳塊を表3、4の条件で2段均熱あるいは2回均熱を行った。2段均熱は1回目の均熱後に250℃まで冷却し、その温度で冷却を一旦停止した上で、2段目の均熱温度に再加熱および保持し、熱延開始温度まで冷却した上で熱延を開始した。2回均熱は、1回目の均熱後に、一旦室温まで冷却した上で、2回目の均熱温度に再加熱および保持し、熱延開始温度まで冷却した上で熱延を開始した。表3、4の1回のみの均熱処理は、一旦冷却した上での2回目の再加熱は行わず、通常通り、その均熱温度と時間保持した上で、熱延開始温度まで冷却し熱延を開始した。
【0061】
これらの均熱処理後に、表3、4に示す開始温度で熱間圧延を行い、板厚5mmtの熱延板を製造した。この熱延板を、500℃で30秒保持後に強制空冷を行う荒鈍処理を施し、2mmtまで冷間圧延を行った。この冷延板を、各例とも共通して500℃×1分の溶体化処理を施し、この溶体化処理後に強制空冷して室温まで冷却し、T4調質材を得た。この溶体化処理後のアルミニウム合金板を、各例とも共通して2週間室温時効させた板から、板状試験片を採取して、DSC測定と引張試験を行った。各特性は以下の要領にて調査した。
【0062】
DSC測定(示差熱分析):
DSC測定(示差熱分析)条件は、各例とも共通して下記の同一条件で行った。
試験装置:セイコ-インスツルメンツ社製DSC220C、
標準物質: 純アルミ、
試料容器: 純アルミ、
昇温条件:15℃/min、
雰囲気(試料容器内): アルゴンガス(ガス流量50ml/min)、
試験試料重量:24.5〜26.5mg。
なお、示差熱分析での試料採取は、前記室温時効後のアルミニウム合金板の長手方向に亙る先端部、中央部、後端部とを各々必須で含む10箇所から行って、測定値を各々平均化した。
【0063】
各々得られた示差熱分析のプロファイル(μW)を試料重量で割って規格化した(μW/mg)後に、前記示差熱分析プロファイルでの0〜100℃の区間において、示差熱分析のプロファイルが水平になる領域を0の基準レベルとし、この基準レベルからの発熱ピークの最大高さとして、200〜300℃の温度範囲の発熱ピークのうちの最も高い発熱ピーク高さを測定した。
【0064】
また、自動車部材への成形加工後の人工時効硬化処理を模擬して、前記室温時効後のアルミニウム合金板を、T6処理として、90℃×3hr+140℃×8hrの人工時効硬化処理を行った。この人工時効硬化処理後のアルミニウム合金板の中央部から板状試験片を採取して、機械的特性や耐食性を以下のようにして調査した。これらの結果も各々表3、4に示す。
【0065】
(機械的特性)
各例とも機械的特性は、共通して、各板状試験片の圧延直角方向の室温引張試験を行い、0.2%耐力(MPa)、全伸び(%)を測定した。室温引張り試験はJIS2241(1980)に基づき、室温20℃で試験を行った。引張り速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
【0066】
(n値)
n値は、前記人工時効硬化処理後の板状試験片を、JIS5号引張試験片(標点間距離50mm)として、圧延直角方向の室温引張試験を行い測定した。そして、降伏伸びの終点から真応力と真歪みを計算し、横軸を歪み、縦軸を応力とした対数目盛上にプロットし、測定点が表す直線の勾配を、公称ひずみ10%、20%の2点で計算して、n値(10〜20%)とした。
【0067】
(粒界腐食感受性)
一般的な耐食性評価のために、旧JIS-W1103 の規定に準じた粒界腐食感受性試験を、前記人工時効硬化処理後の板状試験片(試験片3個)に対して行った。試験条件は、試験片を硝酸水溶液(30質量%)に室温で1分間浸漬した後、水酸化ナトリウム水溶液(5質量%)に40℃で20秒浸漬した後、硝酸水溶液(30質量%)に室温で1分間浸漬することによって試験片の表面を洗浄した。その後、塩化ナトリウム水溶液(5質量%)に浸漬した状態で、1mA/cm2の電流密度の電流を24時間流した後、試料を引き上げ、その後、試験片の断面を切断・研磨し、光学顕微鏡を用いて、試料表面からの腐食深さを測定した。倍率は×100 とし、腐食深さが200 μm 以下までを軽微な腐食として「○」と評価した。また、200 μm を超える場合を大きな腐食として「×」と評価した。
【0068】
表1、3から明らかなように、各発明例は、本発明アルミニウム合金組成範囲内であり、前記した好ましい製造条件の範囲内で製造されている。
【0069】
この結果、この板を溶体化および焼入れ処理後に室温時効させた際の示差走査熱量分析曲線において、最大の吸熱ピーク温度が130℃以下であるとともに、200〜300℃の温度範囲における発熱ピークの最大高さが50μW/mg以上であり、前記DSC曲線により解析される組織規定を満たしている。
【0070】
このため、室温時効後であっても、加工硬化指数n値(10〜20%)が0.22以上と高く、延性に優れ、構造材への成形加工性に優れている。これと同時に、室温時効後であってもBH性に優れており、強度が高い。また、耐食性にも優れている。
これら発明例のうち、組成が[Zn]≧−0.3[Mg]+4.5を満足する発明例は人工時効硬化処理後の0.2%耐力が350MPa以上であり、 [Zn]≧−0.5[Mg]+5.75を両方満足する発明例2、4、6、8〜12、16〜19、21の場合には、人工時効硬化処理後の0.2%耐力が400MPa以上である。
【0071】
これに対して、各比較例は、表2、4の通り、合金組成が本発明範囲から外れるか、製造条件が好ましい範囲から外れているため、加工性と強度とを兼備できていない。
【0072】
表4の比較例22〜25は、表2の合金番号22〜25の通り、Zn、Mgの含有量は各々規定範囲内であるが、[Zn]≧−0.3[Mg]+4.5や[Zn]≧−0.5[Mg]+5.75の関係を両方満足していない。このため、均熱処理を含めて、好ましい製造条件内で製造されているものの、前記DSC曲線により解析される組織規定を満たさず、室温時効後の加工硬化指数n値(10〜20%)は0.22以上だが、人工時効硬化処理後の0.2%耐力が350MPa未満となって、加工性と強度とを兼備できていない。
【0073】
表4の比較例26は、表2の合金番号26の通り、Znが下限を外れる。比較例27は、表2の合金番号27の通り、Znが上限を超えている。比較例28は、表2の合金番号28の通り、Cuが下限を外れる。比較例29は、表2の合金番号29の通り、Cuが上限を超えている。このため、均熱処理を含めて、好ましい製造条件内で製造されているものの、前記DSC曲線により解析される組織規定を満たさず、室温時効後の加工硬化指数n値(10〜20%)が0.22未満であり、加工性と強度とを兼備できていない。また、比較例27はZnが多すぎ、比較例28はCuが少なすぎて、どちらも耐食性が劣っている。
【0074】
表4の比較例30〜32は、表1の合金番号2の発明例アルミニウム合金を用いているものの、好ましい製造条件範囲から外れて製造されている。比較例30は1回のみ(2回目の均熱に相当する)の均熱処理である。比較例31は1回目の均熱温度が低すぎる。比較例32は2回目の均熱温度が低すぎる。このため、これら均熱処理条件が好ましい範囲から外れた比較例は、前記DSC曲線により解析される組織規定を満たさず、室温時効後の加工硬化指数n値(10〜20%)が0.22未満となるか、人工時効硬化処理後の0.2%耐力が350MPa未満となって、加工性と強度とを兼備できていない。
【0075】
表4の比較例33は、表2の合金番号30の通り、Zn、Mgの含有量は各々規定範囲内であるが、[Zn]≧−0.3[Mg]+4.5や[Zn]≧−0.5[Mg]+5.75の関係を両方満足していない。このため、均熱処理を含めて、好ましい製造条件内で製造されているものの、前記DSC曲線により解析される組織規定を満たさず、室温時効後の加工硬化指数n値(10〜20%)は0.22レベルだが、人工時効硬化処理後の0.2%耐力が350MPa未満となって、加工性と強度とを兼備できていない。
【0076】
表4の比較例34、35、36は、表2の合金番号31、32、33の通り、Mgの含有量が下限を外れている。このため、 例え[Zn]≧−0.3[Mg]+4.5や[Zn]≧−0.5[Mg]+5.75の関係の両方を満足していても、また、均熱処理を含めて、好ましい製造条件内で製造されていても、前記DSC曲線により解析される組織規定を満たさない。この結果、室温時効後の加工硬化指数n値(10〜20%)は0.21〜0.22レベルだが、人工時効硬化処理後の0.2%耐力が350MPa未満となって、加工性と強度とを兼備できていない。
【0077】
表4の比較例37、38、39は、表2の合金番号34、35、36の通り、Znの含有量が上限を外れている。このため、[Zn]≧−0.3[Mg]+4.5や[Zn]≧−0.5[Mg]+5.75の関係を両方満足していても、また、均熱処理を含めて、好ましい製造条件内で製造されていても、前記DSC曲線により解析される組織規定を満たさない。この結果、室温時効後の加工硬化指数n値(10〜20%)は0.21レベルで、加工性と強度とを兼備できていない。また、これら比較例はZnが多すぎて耐食性も劣っている。
【0078】
表4の比較例40〜43は、表2の合金番号37〜40の通り、Mgの含有量が上限を外れている。このため、 [Zn]≧−0.3[Mg]+4.5や[Zn]≧−0.5[Mg]+5.75の関係を両方満足していても、また、均熱処理を含めて、好ましい製造条件内で製造されていても、前記DSC曲線により解析される組織規定を満たさない。この結果、Znが比較的高い比較例40、41は、室温時効後の加工硬化指数n値(10〜20%)が0.21レベルと低く、加工性と強度とを兼備できていない。また、Znが比較的低い比較例42、43は、室温時効後の加工硬化指数n値(10〜20%)は0.22レベルだが、人工時効硬化処理後の0.2%耐力が350MPa未満となって、加工性と強度とを兼備できていない。また、これら比較例はMgが多すぎて耐食性も劣っている。
【0079】
以上の結果から、本発明アルミニウム合金板が高強度と高延性(成形性)そして耐SCC性を兼備するための本発明各要件の臨界的な意義が裏付けられる。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明したように、本発明は、強度と成形性、耐食性とを兼備した自動車部材用7000系アルミニウム合金板を提供できる。したがって、本発明は車体軽量化に寄与する、フレーム、ピラーなどの自動車構造材や、これ以外の他の用途の構造材などにも好適である。