(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材上に形成される積層皮膜であって、膜厚がいずれも10nm以上である下記の皮膜Qと皮膜Rが各々1層以上交互に積層されていることを特徴とする耐摩耗性に優れた積層皮膜。
[皮膜Q]
組成式がTi1−a−b−cBaCbNc(但し、a、b、cはそれぞれB、C、Nの原子比を示す)であり、0.2≦a≦0.7、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35及び(1−a−b−c)≧0.3を満たす皮膜。
[皮膜R]
組成式がL(BxCyN1−x−y)(但し、Lは、MoおよびVよりなる群から選択される1種以上の元素であり、x,yはそれぞれB、Cの原子比を示す)であり、
0≦x≦0.15、および
0≦y≦0.5を満たす皮膜。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、切削工具や金型などの治工具の表面に形成される硬質皮膜について鋭意研究を重ねた。詳細には、次の様な思想のもと、本発明を完成させた。即ち、TiB
2、SiC、B
4C、またはこれらにC、Nを添加したTiBN、TiBC、SiCN、BCNは、高硬度な化合物であるが、金属材料に対する摩擦係数が高い。よって、上記高硬度な化合物からなる皮膜のみを上記切削工具等の最表面に形成すると、切削時の摺動により摩擦発熱が生じ、基材が温度上昇により軟化し、この基材の軟化に伴って皮膜の損傷が進行するといった問題がある。そこで本発明では、上記高硬度な化合物からなる皮膜と、潤滑性を示す化合物層とを積層させれば、耐摩耗性に優れた皮膜が得られるのではないかとの思想のもと、下記の皮膜Qと皮膜Rを各々1層以上交互に積層させた積層皮膜を見出し、本発明を完成させた。
[皮膜Q]
組成式がTi
1-a-b-cB
aC
bN
c(但し、a、b、cはそれぞれB、C、Nの原子比を示す)であり、0.2≦a≦0.7、0≦b≦0.35、および0≦c≦0.35を満たす皮膜;
組成式がSi
1-d-eC
dN
e(但し、d、eはそれぞれC、Nの原子比を示す)であり、0.2≦d≦0.50、および0≦e≦0.3を満たす皮膜;ならびに、
組成式がB
1-f-gC
fN
g(但し、f、gはそれぞれC、Nの原子比を示す)であり、0.03≦f≦0.25、および0≦g≦0.5を満たす皮膜;
よりなる群から選択される1種以上の皮膜。
[皮膜R]
組成式がL(B
xC
yN
1-x-y)(但し、Lは、W、MoおよびVよりなる群から選択される1種以上の元素であり、x,yはそれぞれB、Cの原子比を示す)であり、
0≦x≦0.15、および
0≦y≦0.5を満たす皮膜。
【0011】
以下、各皮膜を規定した理由について説明する。
【0012】
[皮膜Qについて]
まず皮膜Qとして、組成式がTi
1-a-b-cB
aC
bN
cである皮膜(皮膜Q1)が挙げられる。皮膜Q1は、TiB
2(Ti
0.33B
0.67)からなる皮膜の他、該皮膜中にCやNを含み、高硬度を発揮するTi−N結合、Ti−C結合、B−C結合、または潤滑性を示すB−N結合を有する耐摩耗性のより高い皮膜でもよい。上記CやNを含有させる場合、C量(b)は、0.05以上であることが好ましく、より好ましくは0.10以上、更に好ましくは0.15以上である。またN量(c)は、0.05以上であることが好ましく、より好ましくは0.10以上である。しかしC、N共に過度に含まれると、硬さの低下、すなわち耐摩耗性の低下を招く。よって、C量とN量の上限はいずれも0.35である。C量の上限は、好ましくは0.20以下である。N量の上限は、好ましくは0.15以下である。
【0013】
前記皮膜Q1におけるB量(a)は、高硬度を確保する観点から0.2以上とする。好ましくは0.30以上である。尚、B量の上限は、TiB
2の場合(CやNを含まない場合)を考慮して0.7である。CおよびNのいずれか1種以上の元素を含む場合には、B量を0.60以下、更には0.50以下とすることができる。
【0014】
前記皮膜Q1におけるTi量(1−a−b−c)は、他の元素の含有量によって決まる。Ti量の下限は、例えば0.30以上、更には0.40以上とすることができる。またTi量の上限は、例えば0.50以下、更には0.45以下とすることができる。
【0015】
また前記皮膜Qは、組成式がSi
1-d-eC
dN
eである皮膜(皮膜Q2)であってもよい。皮膜Q2は、SiC(Si
0.50C
0.50)からなる皮膜の他、該皮膜中にNを含んだ皮膜でもよい。Nを含有させることによって潤滑性を高めることができる。このNによる効果を得るには、N量(e)を0.05以上とすることが好ましい。しかし、N量が過剰になると硬さが低下するため、N量の上限は0.3である。N量は好ましくは0.1以下である。
【0016】
前記皮膜Q2におけるC量(d)は、高硬度を確保する観点から0.2以上である。好ましくは0.30以上である。尚、C量の上限は、SiCを考慮して0.50である。上記Nを含む場合、C量は0.40以下とすることができる。
【0017】
前記皮膜Q2におけるSi量(1−d−e)は、他の元素(C、N)の含有量によって決まる。前記Si量は、おおよそ0.3〜0.6の範囲内とすることができる。
【0018】
また前記皮膜Qは、組成式がB
1-f-gC
fN
gである皮膜(皮膜Q3)であってもよい。皮膜Q3は、B
4C(B
0.80C
0.20)からなる皮膜の他、該皮膜中にNを含んだ皮膜であってもよい。Nを含有させることによって、潤滑性を示すB−N結合を生成することができる。このNによる効果を得るには、N量(g)は0.10以上であることが好ましく、より好ましくは0.15以上である。しかし、N量が過剰になると硬さが低下するため、N量の上限は0.5である。N量は好ましくは0.4以下である。
【0019】
前記皮膜Q3におけるC量(f)は、高硬度を確保する観点から0.03以上である。好ましくは0.04以上、より好ましくは0.08以上、更に好ましくは0.10以上である。尚、C量の上限は、B
4Cを考慮して0.25である。上記Nを含む場合、C量は0.20以下、更には0.16以下とすることができる。
【0020】
前記皮膜Q3におけるB量(1−f−g)は、他の元素(C、N)の含有量によって決まる。B量は、おおよそ0.50〜0.80の範囲内とすることができる。
【0021】
前記皮膜Qは、前記皮膜Q1、前記皮膜Q2および前記皮膜Q3よりなる群から選択される1種以上の皮膜であればよい。前記皮膜Qを構成する前記皮膜Q1、前記皮膜Q2、前記皮膜Q3の各皮膜は、上記各組成範囲内で組成の互いに異なる2種以上の皮膜が積層されたものであってもよい。
【0022】
[皮膜Rについて]
皮膜Rは、摺動下において潤滑性の酸化物を形成するL(以下、「元素L」という)、具体的には、W、MoおよびVよりなる群から選択される1種以上の元素を含む。前記元素LとしてVが最も低温で潤滑性酸化物を形成するため好ましい。
【0023】
前記皮膜Rは、前記元素Lの窒化物で構成される他、更にBおよびCのいずれか1種以上の元素を含む化合物で構成されていてもよい。BやCを含むことによって、硬さを更に増加させることができる。該効果を得るには、Bを含む場合、B量(x)は好ましくは0.05以上である。しかしB量が過剰になると、硬さがかえって低下する。よってB量は0.15以下とする。好ましくは0.10以下である。またCを含む場合、C量(y)は好ましくは0.15以上、より好ましくは0.20以上である。しかしC量が過剰になると、硬さがかえって低下する。よってC量は0.5以下とする。好ましくは0.25以下である。
【0024】
前記皮膜Rは、上記組成範囲内で組成の互いに異なる2種以上の皮膜が積層されたものであってもよい。
【0025】
[皮膜の厚さ]
前記皮膜Qおよび皮膜Rの各機能を発揮させるには、各皮膜が一定以上の厚さを有し、独立した積層状態で存在する必要がある。よって、皮膜Q、皮膜Rの各々の膜厚(本発明において、この「膜厚」は、1層の膜厚(厚さ)を示し、積層皮膜の全膜厚(総厚さ)とは区別される)は、いずれも2nm以上とすることが好ましく、より好ましくは5nm以上、更に好ましくは10nm以上である。積層皮膜の全膜厚を例えば3μmとした場合、膜厚が1500nmの皮膜Qと、膜厚が1500nmの皮膜Rの2層構造の積層皮膜とすることもできる。しかし、皮膜Qによる高硬度化と皮膜Rによる潤滑膜の効果とを最大限に発揮させるには、積層皮膜が、皮膜Qと皮膜Rが各々2層以上交互に積層した構造を有していることが好ましい。この観点から、皮膜Qと皮膜Rの膜厚はいずれも100nm以下であることが好ましい。より好ましい上限はいずれも50nm以下、更に好ましい上限はいずれも30nm以下である。
【0026】
また皮膜Qと皮膜Rの膜厚は必ずしも同じである必要はなく、目的に応じて皮膜Qと皮膜Rの膜厚を変えてもよい。例えば、皮膜Qの膜厚を例えば20nmで一定とし、皮膜Rを例えば2〜100nmの間で変えてもよい。
【0027】
積層皮膜の全膜厚、即ち、皮膜Qと皮膜Rの総厚さは、薄すぎると優れた耐摩耗性が十分に発揮され難い。よって前記全膜厚は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。一方、積層皮膜の全膜厚が厚すぎると、切削中に膜の欠損や剥離が発生しやすくなる。よって前記全膜厚は、5μm以下であることが好ましく、より好ましくは4μm以下である。
【0028】
[積層皮膜の形成方法について]
本発明は、前記積層皮膜の形成方法まで規定するものではなく、該積層皮膜は、物理気相成長法(PVD法、Physical Vapor Deposition法)や化学気相成長法(CVD法、Chemical Vapor Deposition法)など公知の方法を用いて製造できる。基材との密着性確保等の観点から、前記PVD法を用いて製造することが好ましい。具体的には、スパッタリング法や真空蒸着法、イオンプレーティング法などが挙げられる。
【0029】
皮膜Qの形成方法として、例えば、蒸発源(ターゲット)として、皮膜Qを構成するCやN以外のTi、Si、Bといった成分を含むターゲットを用い、雰囲気ガス(反応性ガス)として、窒素ガスやメタン、アセチレン等の炭化水素ガスを用いて、成膜することが挙げられる。また、皮膜Qを構成する元素を含む化合物からなるターゲットとして、窒化物、炭窒化物、炭化物、炭ほう化物、窒ほう化物、または炭窒ほう化物からなるターゲットを用いて成膜してもよい。
【0030】
皮膜Rの形成方法として、例えば、蒸発源(ターゲット)として、元素Lからなるターゲット、Bを含む皮膜を形成する場合は、更にBを含むターゲットを用い、雰囲気ガス(反応性ガス)として、窒素ガスやメタン、アセチレン等の炭化水素ガスを用いて成膜を行うことができる。また、皮膜Rを構成する元素を含む化合物からなるターゲット(窒化物、炭窒化物、炭化物、炭ほう化物、窒ほう化物、炭窒ほう化物)を用いて成膜してもよい。前記窒素ガスや炭化水素ガスといった反応性ガスを用いる場合、この反応性ガス以外に、Ar、Ne、Xe等の希ガスを放電安定性のために添加しても良い。
【0031】
前記積層皮膜を製造する装置としては、例えば、特開2008−024976号公報の
図1に示された、アーク蒸発源とスパッタ蒸発源をそれぞれ2箇所備えた成膜装置を用いることができる。該成膜装置を用いた成膜方法として、例えば2箇所のスパッタ蒸発源のうち、一方に皮膜Q形成用ターゲットを取り付け、他方に皮膜R形成用ターゲットを取り付け、交互に放電させて、皮膜Qと皮膜Rの両方をスパッタリング法により積層皮膜を形成する方法が挙げられる。尚、皮膜Qと皮膜Rのうち、一方をイオンプレーティング法、他方をスパッタリング法で形成することも可能である。
【0032】
以下では、皮膜Q、皮膜Rの少なくともいずれかをスパッタリング法で成膜する場合の好ましい成膜条件について述べる。
【0033】
まず成膜時の基材(被処理体)の温度は、基材の種類に応じて適宜選択すればよい。基材と積層皮膜との密着性を確保する観点からは、300℃以上が好ましく、より好ましくは400℃以上である。一方、基材の変形防止等の観点から、基材の温度は700℃以下とすることが好ましく、より好ましくは600℃以下とすることが推奨される。
【0034】
成膜時の基材(被処理体)に印加するバイアス電圧は、30〜200V(アース電位に対して基材がマイナス電位となる負バイアス電圧である。以下同じ)の範囲とすることが望ましい。基材にバイアス電圧を印加することで基材(被処理体)へのイオン衝撃が有効に行われ、岩塩構造型の形成が促進されると考えられる。この様な効果を発揮させるため、前記バイアス電圧を30V以上とすることが好ましい。しかし前記バイアス電圧が高すぎると、イオン化した成膜ガスによって膜がエッチングされ、成膜速度が極端に小さくなりやすい。よって、前記バイアス電圧は200V以下とすることが好ましい。
【0035】
さらに本発明では、形成時の反応ガスの分圧または全圧を0.1〜0.6Paの範囲とすることが好ましい。前記分圧または全圧が0.1Pa未満の場合、形成される皮膜中の窒素量が欠乏し、量論組成の皮膜が形成されないためである。
【0036】
本発明の積層皮膜は、好ましくは治工具の表面に形成されることによってその効果が十分に発揮される。該治工具として、チップ、ドリル、エンドミル等の切削工具や、鍛造加工、プレス成形、押し出し成形、せん断などの各種金型や、打ち抜きパンチ等の治工具が挙げられる。特には、湿式環境下での切削加工に使用される工具に適している。更に特には、湿式での加工が主流となっているドリルに好適である。
【0037】
本発明の積層皮膜を形成する基材は、上述した治工具の種類によって適宜決定される。上記基材として、機械構造用炭素鋼、構造用合金鋼、工具鋼、ステンレス鋼などの各種鋼材や超硬合金などの、金属材で形成されたものが挙げられる。また、該金属材の表面にめっき層、溶射層などの中間層が形成されたものも、上記基材として挙げられる。
【0038】
上記基材と、本発明の積層皮膜との間には、更に、TiAlN、TiN、CrN等の下地層が形成されていてもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
[実施例1]
実施例1では、皮膜Q、皮膜Rの各組成が種々の積層皮膜(皮膜Qと皮膜Rの各厚さは一定)を形成し、該組成が耐摩耗性に及ぼす影響について検討した。
【0041】
表1に示す組成の皮膜Qおよび皮膜Rを交互に積層させた積層皮膜を、複数の蒸発源を有する成膜装置で形成した。詳細には次の通りである。基材として、切削工具(2枚刃超硬ドリル、φ8.5mm、切削試験用)を用意した。この基材を、エタノール中にて超音波脱脂洗浄し、成膜装置に導入した。5×10
-3Paまで排気後、基材を500℃まで加熱し、その後、Arイオンによるエッチングを5分間実施した。次いで、積層皮膜として皮膜Qおよび皮膜Rを、全膜厚が約3μm=約3000nmとなるよう、下記に詳述する通り基材上に形成した。
【0042】
皮膜Q形成用ターゲットとして、表1に示される皮膜Qを構成するCやN以外の、Ti、Si、Bといった成分からなるターゲットを用いた。皮膜Q形成時の雰囲気ガスとして、皮膜QがNを含む場合は窒素ガス、皮膜QがCを含む場合は炭化水素ガスを用いた。また必要に応じて更にArガスを用いた。また皮膜QがNとCを含まない場合はArガスのみを用いた。
【0043】
皮膜R形成用ターゲットとして、表1に示される皮膜Rを構成する元素Lからなるターゲット、皮膜RがBを含む場合は、更にBを含むターゲットを用いた。皮膜R形成時の雰囲気ガスとして、皮膜QがNを含む場合は窒素ガス、皮膜QがCを含む場合は炭化水素ガスを用いた(必要に応じて更にArガスを用いた)。
【0044】
そして、前記皮膜Q形成用ターゲットと前記皮膜R形成用ターゲットを別々の蒸発源に取り付け、基材を搭載したテーブルを装置内で回転させ、各ターゲットを交互に放電させて、各皮膜の1層の厚さが表1に示す通りの積層皮膜をスパッタリング法により形成した。尚、いずれの例も、上記スパッタリングは、基材温度:500℃、雰囲気ガスの全圧力を0.6Paとし、スパッタ蒸発源(ターゲット直径:6インチ=152mm)に3kWの電力を投入し、かつ負バイアス電圧:100Vの条件で行った。各皮膜の厚さや積層回数は、前記基材を搭載したテーブルの回転数、即ち、基材の回転数や、ターゲットの放電時間を変えて調整した。
【0045】
比較例として、表1のNo.1に示すTiAlN単層膜、表1のNo.2に示すTiN単層膜を上記基材上に成膜したサンプルや、表1のNo.31〜37に示す皮膜Qのみを上記基材上に成膜したサンプルも用意した。
【0046】
[切削試験]
上記切削工具表面に成膜したサンプルを用い、下記条件で切削試験を行った。この切削試験では、超硬ドリルが折損に至るまでの加工穴数を工具性能の指標とした。そして、前記「超硬ドリルが折損に至るまでの加工穴数」(切削可能穴数)が1500個以上の場合を耐摩耗性に優れると評価した。
[切削試験条件]
被削材:S50C(生材)
切削速度:100m/分
送り:0.24mm/回転
穴深さ:23mm
潤滑:外部給油、エマルジョン
評価指標:超硬ドリルが折損に至るまでの加工穴数
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、No.3〜5、7、8、10〜15、17〜20、22〜26、28、および30は、本発明の規定を満たす積層皮膜が形成されているため、耐摩耗性が良好であった。一方、上記No.以外の例は、本発明の範囲を満足していないため、優れた耐摩耗性が得られなかった。具体的には以下の通りである。
【0049】
No.1、2はそれぞれ、Ti
0.50Al
0.50N単層膜、TiN単層膜を形成した従来例(比較例)である。これらの例では、いずれも切削可能穴数が少なく、耐摩耗性に劣っている。
【0050】
No.6は、皮膜QのC量が過剰であり、No.9は、皮膜QのN量が過剰であるため、いずれも耐摩耗性に劣る結果となった。
【0051】
No.16は、皮膜QのN量が過剰となりC量が不足したため、耐摩耗性に劣る結果となった。
【0052】
No.21は、皮膜QのC量が不足しているため、No.27は、皮膜RのC量が過剰であるため、またNo.29は、皮膜RのB量が過剰であるため、いずれも耐摩耗性に劣る結果となった。
【0053】
No.31〜37は、皮膜Qのみ、即ち、高硬度な化合物からなる皮膜の単層であるため、優れた耐摩耗性が得られなかった。
【0054】
[実施例2]
実施例2では、皮膜Qと皮膜Rの皮膜組成を一定とし、サンプルごとに皮膜Qと皮膜Rの各膜厚・積層回数が異なるが総厚さはほとんどの例で3000nmである皮膜を形成し、この皮膜Qと皮膜Rの各膜厚・積層回数が、切削性能に及ぼす影響について検討した。
【0055】
皮膜Qの組成はSi
0.50C
0.50、皮膜Rの組成はVNで一定とし、表2に示す通り、サンプルごとに皮膜Q、皮膜Rの各膜厚と総厚さを変えたことを除き、実施例1と同様にしてサンプルを作製した。そして、実施例1と同様にして切削試験を行った。その結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示すように、No.1〜13は、規定の皮膜Qと皮膜Rを積層させているため、いずれも耐摩耗性が良好であった。特にNo.1、3〜6、10〜12は、皮膜Qと皮膜Rの各膜厚がより好ましい範囲内にあるため、更に優れた耐摩耗性が得られた。