特許第6273306号(P6273306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6273306
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】セラミックセル構造
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/126 20160101AFI20180122BHJP
   H01M 8/1246 20160101ALI20180122BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20180122BHJP
【FI】
   H01M8/126
   H01M8/1246
   H01M8/12 101
   H01M8/12 102A
   H01M8/12 102B
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-15635(P2016-15635)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-103196(P2017-103196A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2016年2月2日
(31)【優先権主張番号】104140398
(32)【優先日】2015年12月2日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】505294872
【氏名又は名称】国立臺北科技大學
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】王錫福
(72)【発明者】
【氏名】盧錫全
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−083611(JP,A)
【文献】 特開2011−192487(JP,A)
【文献】 特開2011−192483(JP,A)
【文献】 特開2009−009932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/126
H01M 8/12
H01M 8/1246
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部電極層と、
下部電極層と、
前記上部電極層と前記下部電極層との間に形成された電子障壁層と、
前記上部電極層と前記電子障壁層との間に形成された第1の電解質層と、
前記電子障壁層と前記下部電極層との間に形成された第2の電解質層と、を備え、
前記第1の電解質層及び前記第2の電解質層が、SDC(SmCe1−X2−δ)であり、
前記電子障壁層が、LSGM(LaSr1−XGaMg1−y3−δ)であり、
前記電子障壁層のイオン導電率が95%より大きいことを特徴とする、
セラミックセル構造。
【請求項2】
前記第1の電解質層の厚さは0.1〜50μmであることを特徴とする請求項に記載のセラミックセル構造。
【請求項3】
前記第2の電解質層の厚さは0.1〜50μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックセル構造。
【請求項4】
前記電子障壁層の厚さは0.1〜50μmであることを特徴とする請求項1乃至3のうち何れか1項に記載のセラミックセル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックセル構造に関し、特に、電子障壁層が加えられたセラミックセル構造であり、電子障壁層の存在により単独で電解質層を使用する際に生じる欠点を改善し、全製造工程が終了した後にセルの性能が向上する、セラミックセル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)は、高効率、構造が簡素で、取り扱いが容易な燃料電池であり、初期には大型建築物の補助電力システムに主に使用され、最近ではSOFC技術の発展に伴い、独立分散式の発電所として使用されている。固体酸化物形燃料電池は、従来の集中式発電所の構成システムと比べ、分散式発電システムは送電時の大量のエネルギロスを防ぐことができる上、従来の集中式発電所のように故障したり送電が中断して広い地域で停電が発生したりすることがないため、非常に理想的な発電方式であり、大型の発電所、分散式電源、電気自動車などに実際に応用することができる。
【0003】
SOFCは高温作動の状況下で電極の反応が速いため、貴金属を電極の触媒として用いる必要がなく、材料コストを減らすことができる。しかし、SOFCの作動温度(約800℃を超える温度)が高すぎるため、電極材料と電解質の流面とが反応し、セルの合計抵抗が増大し、電極と電解質との熱膨張率の差が大きくなりすぎて電極剥離が発生し、セルの寿命が大幅に短くなる虞がある。これらの問題点はSOFCの発展を妨げるため、作動温度を中低温度(500〜700℃)へ下げることが必要であった。
従来のYSZを基礎とするNi−YSZアノードは高めの作動温度(約700〜1000℃)でなければ、十分なエネルギにより酸素イオンを酸素空孔内で流動させることができず、高温により多くの問題が発生する虞があった(例えば、高温型SOFCの機器はコストが高すぎて使用寿命が短いなどの問題点があった)。これらの問題点を改善するために、YSZに代替し、混合SDCをアノード材料として用いる技術が多くの研究者により研究されている。
【0004】
研究結果によると、稀土類元素がドープされているセリア材料は、500℃でも導電性が高くてイオン輸率が良好な酸素イオン伝導体を有する。酸化セリウムが添加された酸化サマリウム(SmCe1−X2−δ)は最適な電解質材料であり、800℃のイオン導電率は温度が同じ条件下でYSZの3倍である。
一般の電解質材料は、焼結後に95%に達する理論密度をセルに用い、セリアを添加した酸化物を高温(1500℃より高い温度)で焼結する条件下でも、焼結して密地の状態にすることは困難であり、酸化セリウムの拡散は1450℃以上で顕著となる。
【0005】
このことから分かるように、SDCは、中低温のイオン導電率が最高であり、焼結温度が低く、カソード材料とアノード材料とのマッチングが良好であるなどの長所を有する一方、例えば、還元性雰囲気下でCe4+イオンがCe3+イオンへ還元され易く、電解質の電子導電率が高まり、開路電圧が下がってしまうなどの短所を有する。
【0006】
SDC以外には、LSGM(LaSr1−XGaMg1−y3−δ)である新たな電解質がある。このような材料は、ABOペロブスカイト構造により従来の蛍石型構造を代替し、700℃であるときにYSZ((Y(ZrO1−X)と比べて酸素イオンの伝導性に優れ、SOFCへの応用に適する。
LSGM電解質は低温下で良好な導電率を有するため、性質が良好な電解質として用いることもでき、これ以外に、LSGMは、回路電圧が高く、還元性雰囲気下で化学的性質が安定して600℃以上で使用することができるなどの長所を有する。しかし、LSGMは焼結温度が高く、焼結時の成分が変化し易く、高活性でアノード材料又はカソード材料と容易に反応してしまうなどの欠点があった。
【0007】
SDC又はLSGMをアノードとカソードとの間の電解質としてのみ使用する場合、上述したような欠点が生じるため、上部電極層(一般にアノードを指す)と下部電極層(一般にカソードを指す)との間に単一種類の電解質材料のみで電解質層を形成することは好ましくなかった(例えば、特許文献1及び特許文献2)。例えば、特許文献1では、2つの電極間に固体酸化物電解質層が使用され、特許文献1の電解質層は、YSZ及びScSZ(例えば、Scandia ceria stabilized zirconia:10Sc1CeSZ)を含むが、特許文献1では、イオン導電率が低すぎる欠点があった。合計導電率は、電子導電率にイオン導電率を加えたものであるため、イオン導電率が十分に高くなくとも電子により導電される上、電子による導電によりエネルギロスが発生し、回路電圧が下がり、高温が発生するなどの短所があった。
【0008】
特許文献2では、特許文献1と異なりSOFC中の層数が3つのみに限定されない。図3に示すように、付加層4は電解質3とアノード5との間に形成され、付加層6は電解質5とカソード7との間に形成される。付加層4,6は、ドープされたセリア、又はドープされたサマリウム酸化物、酸化ガドリニウム又は酸化イットリウムのセリアなどの材料からなる上、上述した材料以外には安定化ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア(Yttria Stabilized Zirconia:YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(Scandia Stabilized Zirconia Oxide:SSZ)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)その他混合物のセラミック材料により製作されるが、それらにはYSZ、SSZ、SCSZ又はガドリニウムドープセリア(GDC)が含まれてもよい。
【0009】
特許文献2において、付加的中間層4及び他方の中間層6の主な目的は、高温処理を行う際にアノード又はカソードが電解質層と反応するように、化学反応障壁層(barrier layer又はbuffer layer)として使用する中間層4,6を形成してアノード又はカソードが電解質層と反応することを防ぐことにある。しかし、特許文献2の中間層も、特許文献1と同じ問題点を有し、電解質層のイオン導電率が100%に達することは容易でなかった。特許文献2では、電子による導電によりロスが生じるため、多層構造を使用しているが、電子による導電により生じるロスを考慮しない場合でも、電子による導電により開路電圧が下降して高温が発生するなどの問題が生じる虞があった。
【0010】
そのため、上述の問題点を改善するために、上部電極層と電解質層との間、下部電極層と電解質層との間、又は2つの電解質層間に少なくとも1層の電子障壁層を形成し、電子による導電の問題が生じることを防ぎ、電子による導電によるロスが生じることを防ぐ技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0261099号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0136821号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、電子障壁層を加え、電子障壁層により電子導電の問題が生じることを防ぎ、製造工程後のセルの性能を高める、セラミックセル構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態によれば、上部電極層及び下部電極層を備えたセラミックセル構造であって、前記上部電極層と前記下部電極層との間には、少なくとも1層の電解質層及び少なくとも1層の電子障壁層が形成されていることを特徴とするセラミックセル構造が提供される。
【0014】
前記電解質層は、Bi系酸化物、CeO系酸化物、ZrO系酸化物、ThO系酸化物、HfO系酸化物又はLaGaO系酸化物であることが好ましい。
【0015】
前記LaGaO系酸化物は、Sr、Mg及びCoからなる群から選ばれる一種以上を含む元素がドープされているLaGaOであることが好ましい。
【0016】
前記CeO系酸化物は、Sm、Gd又はLaの元素がドープされているCeOであることが好ましい。
【0017】
前記ZrO系酸化物は、Y又はScの元素により安定化されたZrOであることが好ましい。
【0018】
前記電子障壁層のイオン導電率95%より大きいことが好ましい。
【0019】
前記電子障壁層は、Bi系酸化物、ZrO系酸化物、ThO系酸化物、HfO系酸化物又はLaGaO系酸化物からなることが好ましい。
【0020】
前記LaGaO系酸化物は、Sr、Mg及びCoからなる群から選ばれる一種以上を含む元素がドープされているLaGaOであることが好ましい。
【0021】
前記ZrO系酸化物は、Y又はScの元素により安定化されたZrOであることが好ましい。
【0022】
前記電解質層の厚さは0.1〜50μmであることが好ましい。
【0023】
前記電子障壁層の厚さは0.1〜50μmであることが好ましい。
【0024】
前記電解質層は、前記上部電極層と前記下部電極層との間に形成され、前記電子障壁層は、前記上部電極層と前記電解質層との間に形成されることが好ましい。
【0025】
前記電解質層は、前記上部電極層と前記下部電極層との間に形成され、前記電子障壁層は、前記電解質層と前記下部電極層との間に形成されることが好ましい。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の第2の形態によれば、上部電極層と、下部電極層と、前記上部電極層と前記下部電極層との間に形成された電子障壁層と、前記上部電極層と前記電子障壁層との間に形成された第1の電解質層と、前記電子障壁層と前記下部電極層との間に形成された第2の電解質層と、を備えることを特徴とするセラミックセル構造が提供される。
【0027】
前記第1の電解質層又は/及び前記第2の電解質層は、Bi系酸化物、CeO系酸化物、ZrO系酸化物、ThO系酸化物、HfO系酸化物又はLaGaO系酸化物であることが好ましい。
【0028】
前記LaGaO系酸化物は、Sr、Mg及びCoからなる群から選ばれる一種以上を含む元素がドープされているLaGaOであることが好ましい。
【0029】
前記CeO系酸化物は、Sm、Gd又はLaの元素がドープされているCeOであることが好ましい。
【0030】
前記ZrO系酸化物は、Y又はScの元素により安定化されたZrOであることが好ましい。
【0031】
前記電子障壁層のイオン導電率95%より大きいことが好ましい。
【0032】
前記電子障壁層は、Bi系酸化物、ZrO系酸化物、ThO系酸化物、HfO系酸化物又はLaGaO系酸化物からなることが好ましい。
【0033】
前記LaGaO系酸化物は、Sr、Mg及びCoからなる群から選ばれる一種以上を含む元素がドープされているLaGaOであることが好ましい。
【0034】
前記ZrO系酸化物は、Y又はScの元素により安定化されたZrOであることが好ましい。
【0035】
前記第1の電解質層の厚さは0.1〜50μmであることが好ましい。
【0036】
前記第2の電解質層の厚さは0.1〜50μmであることが好ましい。
【0037】
前記電子障壁層の厚さは0.1〜50μmであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の第1実施形態に係るセラミックセル構造を示す構造図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るセラミックセル構造の製造工程を示す流れ図である。
図3A】本発明の第1実施形態に係るセラミックセル構造の測定された電圧及びパワー密度と電流密度との関係を示すグラフである。
図3B】本発明の第1実施形態に係るセラミックセル構造を測定して得られたデータを示す表である。
図4A】従来の純SDCの測定された電圧及びパワー密度と電流密度との関係を示すグラフである。
図4B】従来の純SDCの測定されたデータを示す表である。
図5】本発明の第2実施形態に係るセラミックセル構造を示す構造図である。
図6】本発明の第3実施形態に係るセラミックセル構造を示す構造図である。
図7A】本発明の第4実施形態に係るセラミックセル構造を示す斜視図である。
図7B】本発明の第4実施形態に係るセラミックセル構造を示す断面図である。
図8A】本発明の第4実施形態に係るセラミックセル構造の測定された電圧及びパワー密度と電流密度との関係を示すグラフである。
図8B】本発明の第4実施形態に係るセラミックセル構造を測定して得られたデータを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、これによって本発明が限定されるものではない。
【0040】
(第1実施形態)
図1を参照する。図1は、本発明の第1実施形態に係るセラミックセル構造を示す構造図である。
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係るセラミックセル構造は、上部電極層1、下部電極層2、第1の電解質層3、電子障壁層4及び第2の電解質層5を含む。第1の電解質層3は、上部電極層1と電子障壁層4との間に形成される。第2の電解質層5は、電子障壁層4と下部電極層2との間に形成される。
【0041】
本発明の第1実施形態において、上部電極層1はカソード(又はアノード)であり、下部電極層2はアノード(又はカソード)である。第1の電解質層3及び第2の電解質層5は、Bi系酸化物、CeO系酸化物、ZrO系酸化物、ThO系酸化物、HfO系酸化物、LaGaO系酸化物を含む電解質材料からなってもよい。LaGaO系酸化物は、Sr、Mg及びCoからなる群から選ばれる一種以上を含む元素がドープされているLaGaOでもよい。CeO系酸化物は、Sm、Gd又はLaの元素がドープされているCeOでもよい。ZrO系酸化物は、Y又はScの元素により安定化されたZrOでもよい(本発明のCeO系酸化物、ZrO系酸化物、LaGaO系酸化物のドープは最適な実施例であるが、勿論、その他の化学元素がドープされてもよく、Bi系酸化物、ThO系酸化物、HfO系酸化物にはどのような元素がBi、ThO、HfOにドープされているか記載されていないが、Bi、ThO、HfOにドープされて本発明のBi系酸化物、ThO系酸化物、HfO系酸化物が形成され得る如何なる化学元素でもよい)。
【0042】
上述した電極層の材料は、イオン導電率が100%であることが好ましいが、大部分の電極層のイオン導電率は98%より低い。合計導電率は電子導電率にイオン導電率を加えたものである。
電解質層は、最も完璧な状況下では100%のイオン導電率に等しくなければならないが、実際の状況では、電解質層のイオン導電率
の大部分は98%より小さい(電子導電率は0%でない)。電子による導電にはロスが生じるため、本発明では電解質層の他、1層以上の電子障壁層を形成し、電子による導電を行う際に電子障壁層により問題が生じないようにする。
本実施形態において、好ましくは使用する電子障壁層のイオン導電率
は、95%以上(例えば、95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、100%)であるが、イオン導電率が0〜100%の電解質材料を利用してもよい。
【0043】
電子障壁層4は、Bi系酸化物、ZrO系酸化物、ThO系酸化物、HfO系酸化物又はLaGaO系酸化物である電解質材料からなってもよい。LaGaO系酸化物は、Sr、Mg、Coからなる群から選ばれる一種以上を含む元素がドープされているLaGaOでもよい。ZrO系酸化物は、Y又はScの元素により安定化されたZrOでもよい(本発明のZrO系酸化物、LaGaO系酸化物のドープは最適な実施例であるが、勿論、その他の化学元素がドープされてもよく、Bi系酸化物、ThO系酸化物、HfO系酸化物にはどのような元素がBi、ThO、HfOにドープされているか記載されていないが、Bi、ThO、HfOにドープされて本発明のBi系酸化物、ThO系酸化物、HfO系酸化物が形成され得る如何なる化学元素でもよい)。
【0044】
図2を参照する。図2は、本発明の第1実施形態に係るセラミックセル構造の製造工程を示す流れ図である。
図2に示すように、本発明の第1実施形態に係るセラミックセル構造の製造工程は、以下のステップ(201)〜(203)を含む。
(201)スクレイピングテープ成形のスラリーでは、2段階のボールミル工程を採用する。ボールミル材料はジルコニアボールである。溶剤には、重量比6:4のトルエンとアルコールとの混合液が使用され、分散剤を加えてスラリー中で顆粒を集中しないように分散させておき、接着剤及び可塑剤を別途添加し、スクレイピングテープを成形する際、テープに連結・支持の力を与える。
(202)アノードはNiOとSDCとの混合体であり、NiOとSDCとの重量比は6:4であり、造孔剤としてカーボンブラックを添加する。スクレイピングテープ成形法によりアノード、電解質層及び電子障壁層を形成した後、それらを1250〜1500℃で焼結する。
(203)スクリーン印刷技術により、焼結された電解質上にカソード層を印刷する。焼結温度は1000〜1200℃である
【0045】
上述した本発明のセラミックセル構造の製造工程は一実施方式であるが、実際の製造工程は特に限定されず、例えば、ブレード成形法、スパッタ法、塗布法、スクリーン印刷法、ビーディング法など如何なる製造工程を採用してもよい。
本発明の製造工程は、焼結マッチング性、熱膨張マッチング性、化学マッチング性及び焼結収縮率マッチング性を克服しなければならず、本発明の製造工程においてアノードの焼結温度は1250〜1500℃であり、カソードの焼結温度は1000〜1200℃であり、製造工程が完了した後の第1の電解質層3、第2の電解質層5及び電子障壁層4の厚さは0.1〜50μm(例えば、0.1、0.5、2.5、5、7.5、10、12.5、15、17.5、20、22.5、25、27.5、30、32.5、35、37.5、40、42.5、45、47.5又は50μm)であり、層構造に応じてその厚さも異なる。このため、得られる効果もそれぞれ僅かに異なり、厚さによりその性質が決定されるため、原則として厚さが一定レベルより大きい場合(材料により決定する)パワーが低下するが、電解質フィルムの安定性及び機械性が好ましい。
【0046】
本発明の第1実施形態に係る製造工程を行った後(第1の電解質層3及び第2の電解質層5はSDCを使用し、電子障壁層4はLSGMを使用する)、電気的測定を行った結果を図3A及び図3Bに示す。
従来の純SDC(カソード+SDC+アノード)と比べるために、従来の純SDCを示す図4A及び図4Bの電気測定を行った後に得た結果と、図3A及び図3Bに示す本発明の電気的測定の結果を比較する(異なる温度で測定した電圧及びパワー密度と電流密度との関係)。
本発明の第1実施形態の図3A図3B及び従来の純SDCを使用した図4A及び図4Bから分かるように、本発明の第1実施形態では6組の実施グループ(550、600、650、700、750、800℃)を有し、従来の純SDCは5組の実施グループ(500、550、600、650、700℃)を有する。以下、比較結果を説明する。
【0047】
(1)本発明の第1実施形態において、550℃、600℃、650℃、700℃、750℃、800℃の6組の実施グループ(図3A及び図3Bに示す)において、最高開路電圧は純SDC(図4A及び図4Bに示す)より高く、650℃の場合、本発明の第1実施形態は0.968Vであり、純SDCは0.79Vであるため、650℃の場合、第1実施形態の最高開路電圧は純SDCが得た最高開路電圧より高い。
(2)図4Aに示すように、純SDCは650℃以上に長時間維持することはできないが、図3Aに示すように、本発明の第1実施形態は、650℃以上に長時間維持することができる。
(3)図3B図4Bとを比べてパワー密度を見ると分かるように、本発明の第1実施形態では最高パワーは800℃のときに1.08W/cmであり、純SDC最高パワー密度は650℃のときに1.11W/cmである。
(4)上述したことから分かるように、従来の純SDCと純LSGMは、以下(a)〜(d)の長所及び短所を有する。
(a)純SDCを使用する長所は、中低温イオン導電率が最高であり、焼結温度が低く、カソード材料とアノード材料とのマッチングが好ましい点である。
(b)純SDCを使用する短所は、600℃以下で使用する以外に、Ce4+イオンが還元性雰囲気下でCe3+イオンへ還元し易いため、電解質の電子導電率が高く、開路電圧が低下するなどの点である。
(c)純LSGMを使用する長所は、開路電圧が高く、還元性雰囲気下で化学性質が安定し、600℃以上で使用することができる点である。
(d)純LSGMを使用する短所は、焼結温度が高く、焼結時の成分が変化し易く、高活性で、アノード材料又はカソード材料と反応し易い点である。
(5)上述した従来の純SDC及び純LSGMの長所及び短所と、本発明の図3A及び図3Bの測定結果から分かるように、LSGMとSDCとを組み合わせると純SDC及び純LSGMがもたらす欠点を克服することができるとともに、純SDC及び純LSGMが有する長所を保持することができる。
電解質層を単独で使用するため、電子導電の問題を発生させるため、開路電圧が下がって高温のパワーを発生させるその欠点があるが、測定結果から分かるように、電子障壁層を加えると、電子導電の問題が生じることを防ぎ、開路電圧及び700℃以上のパワー密度が増大する。
【0048】
(第2、第3実施形態)
第1実施形態以外には、単一層の電解質層及び単一層の電子障壁層により同じ目的を達成してもよい。
図5に示すように、製造工程を行った後の構造は、第2の電解質層5を有さずに第1の電解質層3及び電子障壁層4のみを備えてもよいし、第1の電解質層3及び電子障壁層4の製造工程を行った構造を図6に示すような状態に変化させ、電子障壁層4を上部電極層1と第1の電解質層3との間に形成してもよく、図5及び図6の構造により本発明の第1実施形態と同様の効果を得てもよいが、その測定結果については詳説しない。
【0049】
本発明のSDCとLSGMとの組合せは、SDC又はLSGMを単独で使用した場合と比べると分かるように、SDC又はLSGMを単独で使用したときの欠点が無く、SDC又はLSGMを単独で使用したときの長所を維持することができる。
そのため、本発明の電解質層と電子障壁層の電解質材料の選択により異なる材料又は異なる特性の材料を選択し(ただし、電解質層又は電子障壁層が1層よりも多い場合は同じ材料を使用する)、電解質層を単独で使用すると電子による導電の問題により開路電圧が下がって高温となるが、電子障壁層が加えられると電子による導電の問題が発生することを防ぐことができる。そのため、電解質層及び電子障壁層の電解質材料を選択し、電子障壁層で使用する材料は電解質層が使用する材料の欠点を克服することはできず(及び/又は電解質層で使用する材料は、電子障壁層で使用する材料の欠点を克服することはできない)、本発明で考慮する範囲には含まれない。
【0050】
また、上部電極層1と下部電極層2との間には、少なくとも1つの電解質層と1つの電子障壁層が形成されるが、1つの電解質層と複数の電子障壁層、又は、複数の電解質層及び1つの電子障壁層、又は、複数の電解質層及び複数の電子障壁層を使用し、電解質層及び電子障壁層の配列組合せは、以下(1)〜(5)のうちの1つ又はそれらの組み合わせでもよい。
(1)電解質層は、一方の面が上部電極層1と接触され、他方の面が電子障壁層と接触される。
(2)電解質層は、一方の面が下部電極層2と接触され、他方の面が電子障壁層と接触される。
(3)電子障壁層は、一方の面が上部電極層1と接触され、他方の面が電解質層と接触される。
(4)電子障壁層は、一方の面が下部電極層2と接触され、他方の面が電解質層と接触される。
(5)1つ又は複数の電子障壁層と、1つ又は複数の電解質層とが上部電極層1と下部電極層2との間に形成される場合、少なくとも2つの電子障壁層の間には、1つの電解質層又は少なくとも2つの電解質層の間に電子障壁層が形成される。
【0051】
前述した実施形態では、平板構造に成形されているが、管状構造に成形されてもよい。図7A及び図7Bに示すように、最外側は外側電極層6であり(即ち、LSCF+GDC材料結合をカソードとして使用し、外側電極層6をアノードとして使用する)、最内側は内側電極層7である(即ち、NiO+GDC材料混合をアノードとして使用し、内側電極層7をカソードとして使用する)。
外側電極層6と内側電極層7との間には、電解質層8(GDCからなる)及び電子障壁層9(LSGMからなる)が形成される。電解質層8は、内側電極層7と接触され、電子障壁層9は外側電極層6と接触される。
【0052】
(第4実施形態)
図8A及び図8Bを参照する。図8Aは、本発明の第4実施形態に係る管状構造に成形されたセラミックセル構造の測定された電圧及びパワー密度と電流密度との関係を示すグラフであり、図8Bは、本発明の第4実施形態に係るセラミックセル構造を測定して得られたデータを示す表である。
図8A及び図8Bの第4実施形態の実験結果と、図4A及び図4Bの純SDCの実験結果とを比べた結果を以下(1)〜(3)に示す。
(1)図8A及び図8Bから分かるように、650℃の実施グループの最高開路電圧は0.91であるため、純SDCが650℃であるときの最高開路電圧と比べて明らかに高く(図4A及び図4Bを参照する)、純SDCが700℃であるときの最高開路電圧は0.73Vであるが、第4実施形態において、700℃であるときの最高開路電圧は0.88Vであるため、本発明の第4実施形態の最高開路電圧は、純SDCが得る最高開路電圧よりも高い。
(2)図8A図4Aとを比べると分かるように、純SDCは650℃以上を長時間維持することはできないが、本発明の第4実施形態の図8Aから分かるように、650℃以上を長時間維持することができる。
(3)また、パワー密度では、図8B図4Bとを比べると分かるように、パワー密度が純SDCより低いが、図4A及び図4Bは純SDCが平板構造により測定して得られたデータであるが、純SDCの管状構造により測定する場合、本発明の第4実施形態の特性は、純SDCの管状構造により得た測定結果よりも好ましい。
【0053】
上述したことから分かるように、本発明のセラミックセル構造は平板構造で形成されているが、管状構造でも本発明の目的を達成することができる。第4実施形態から分かるように、管状構造に形成してもよく、主に必要に応じて異なる形状に成形するが、その構造内部の層状積層の構造層についてはここでは詳説しない。
【0054】
また、複数層、平板又は管状の構造であっても、本発明の電解質層及び電子障壁層が焼結される際、異なる層間に第2相が発生するか否かを考慮しなければならず、熱膨張率がマッチする場合、亀裂が発生して層と層とが分離されることはない。各層間の材料には、化学物性のマッチングが必要であり、結合性を高める以外に、酸素イオンの伝送能力を高め、セルシートの導電性能が高く、電子障壁層4は、上部電極及び下部電極の触媒作用の性質を有さないため、加えて使用することができる。
【0055】
上述したことから分かるように、本発明のセラミックセル構造は、従来技術と比べて以下(1)〜(3)の長所を有する。
(1)電子障壁層を加えることにより電解質層を単独で使用した場合に生じる欠点を克服し、製造工程全体が終了した後のセル性能が向上する。
(2)一般の電解質層では100%イオンによる導電を行うことができないため、電子による導電が行われるためロスが発生するが、高イオン導電率の電子障壁層と電解質層とが結合されるため、電子による導電を防ぐことができる。
(3)電解質層を単独で使用すると、電子による導電が発生する欠点により、開路電圧が下がって高温となるが、本発明には電子障壁層が加えられているため、電子による導電の問題を防ぐことができ、開路電圧及び700℃以上のパワー密度を高めることができる。
【0056】
当該分野の技術を熟知するものが理解できるように、本発明の好適な実施形態を前述の通り開示したが、これらは決して本発明を限定するものではない。本発明の主旨と領域を逸脱しない範囲内で各種の変更や修正を加えることができる。従って、本発明の特許請求の範囲は、このような変更や修正を含めて広く解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0057】
1 上部電極層
2 下部電極層
3 第1の電解質層
4 電子障壁層
5 第2の電解質層
6 外側電極層
7 内側電極層
8 電解質層
9 電子障壁層
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B