【文献】
進藤智則,Pepperの感情生成エンジンはRNNを利用 7種の仮想的ホルモンを模擬して喜怒哀楽,日経エレクトロニクス,日本,日経BP社,2015年11月20日,第1162号,pp.100-101
【文献】
小松孝徳,外1名,ポジティブバイオフィードバックのエンタテインメント利用,人工知能学会誌,日本,(社)人工知能学会,2008年 5月 1日,第23巻,第3号,pp.342-347
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
図1は、一実施形態に係る車両10の構成を概略的に示す。車両10は、感情決定システム100と、センサ部110と、電子制御ユニットであるECU120と、車両10の乗員とのユーザインタフェース(UI)を提供するUI部180を備える。なお、車両10は、自動車である。車両10は、感情決定システム100の対象オブジェクトの一例である。
【0021】
センサ部110は、車両10の各部の状態を検出する複数のセンサを有する。例えば、センサ部110は、前輪及び後輪の少なくとも一方の回転速度を検出する車輪速センサ、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ、スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ、原動機としてのエンジン又はモータの回転数を検出するエンジン回転数センサ、変速機の出力回転数を検出する出力回転数センサ、前後方向の加速度を検出する前後加速度センサ、前後方向に実質的に直交する左右方向の加速度を検出する横加速度センサ、旋回方向への回転角の変化速度を検出するヨーレートセンサ、ドライバによるステアリングの操舵量を検出する操舵角センサ、ドライバによるブレーキペダルの踏込み量を検出するブレーキセンサ、燃料又は電池の残量を検出する残量センサ等を含んでよい。センサ部110が有する上記の各センサは、電子制御装置であるECU120に検出信号を出力する。電子制御装置29は、取得した検出信号に基づいて演算を行い、演算結果を制御指令信号として車両10の各部に出力する。
【0022】
センサ部110が有する上述の各種センサは、感情決定システム100に検出信号を出力する。なお、感情決定システム100は、ECU120からCAN等を介して検出信号を取得してもよい。感情決定システム100は、取得した検出信号に基づいて演算を行い、車両10に割り当てる感情を決定する。感情決定システム100は、決定した感情に基づいて、車両10を制御する。例えば、感情決定システム100は、UI部180に、決定した感情を表現する顔マークを表示させる。また、感情決定システム100は、感情に応じた口調の音声をUI部180から出力させて、車両10のドライバであるユーザ190と会話してよい。
【0023】
図2は、感情決定システム100のブロック構成を、記録媒体290とともに概略的に示す。感情決定システム100は、処理部270と、格納部280とを備える。処理部270は、分泌情報生成部200と、入力情報生成部210と、パラメータ調整部220と、感情決定部260と、制御部250とを備える。感情決定部260は、NN演算部230と感情判定部240とを有する。
【0024】
入力情報生成部210は、車両10に設けられている1以上のセンサからの検出信号に基づいて、車両10の感情を決定するための入力情報を生成する。例えば、入力情報生成部210は、センサ部110が有する各センサからの検出信号に基づいて、車両10の感情を決定するための入力情報を生成する。
【0025】
分泌情報生成部200は、車両10に設けられている1以上のセンサからの検出信号に基づいて、1以上の内分泌物質の分泌量を示す分泌情報を生成する。例えば、分泌情報生成部200は、センサ部110が有する各センサからの検出信号に基づいて、1以上の内分泌物質の分泌量を示す分泌情報を生成する。内分泌物質としては、ノルアドレナリン、ドーパミン、CRH(コルチコトロピン放出ホルモン)等を例示できる。なお、内分泌物質の分泌量を示す分泌情報は、感情決定システム100における内部情報として擬似的に生成されるものであり、内分泌物質を実際に分泌させるわけではない。なお、分泌情報生成部200は、検出信号が示す測定値の時間変化量に応じて、内分泌物質の分泌量を変化させてよい。
【0026】
パラメータ調整部220は、分泌情報生成部200が生成した分泌情報が示す内分泌物質の分泌量に基づいて、入力情報から感情を決定するための演算パラメータを調整する。そして、感情決定部260は、演算パラメータを用いて、入力情報から感情を決定する。
【0027】
格納部280は、センサ部110が有する複数のセンサのそれぞれと内分泌物質の分泌量とを対応付ける対応情報を格納する。分泌情報生成部200は、複数のセンサのそれぞれの検出信号が示す測定値に応じて、当該対応情報によってそれぞれのセンサに対応づけられている内分泌物質の分泌量を変化させる。
【0028】
なお、感情決定部260は、入力情報を入力とするニューラルネットワーク(NN)を用いて、感情を決定する。具体的には、NN演算部230がニューラルネットワークの演算を行い、感情判定部240がNN演算部230によるニューラルネットワークの演算結果に基づいて感情を判定することにより、感情を決定する。ここで、パラメータ調整部220が調整する演算パラメータは、ニューラルネットワークに含まれる人工シナプスの結合係数であってよい。
【0029】
格納部280は、複数の人工シナプスのそれぞれと内分泌物質とを対応づける対応情報を格納する。パラメータ調整部220は、分泌情報生成部200が生成した分泌情報が示す内分泌物質の分泌量に応じて、対応情報によって内分泌物質が対応づけられている複数の人工シナプスのそれぞれの結合係数を変化させる。
【0030】
なお、入力情報生成部210は、検出信号が示す測定値を予め定められた頻度で取得して、ニューラルネットワークに対する予め定められた値の入力値を生成する。一方、分泌情報生成部200は、検出信号が示す測定値に応じて、内分泌物質の分泌量を変化させる。例えば、分泌情報生成部200は、検出信号が示す測定値の大きさに応じて、内分泌物質の分泌量を変化させる。
【0031】
入力情報生成部210は、複数のセンサ毎に異なる頻度で、ニューラルネットワークに対する予め定められた値の入力値を生成してよい。例えば、車両10においては、アクセル開度に基づく入力値の入力頻度を、ロール角に基づく入力値の入力頻度より高くしてよい。頻度は、対象オブジェクトの種別によって異ならせてよい。例えば、対象オブジェクトが二輪車である場合、対象オブジェクトが四輪車である場合に比べて、ロール角に基づく入力値の入力頻度より高くしてよい。二輪車においてはロール角が大きく変化するため、感情に与える影響も大きいからである。
【0032】
なお、ニューラルネットワークは、感情が定められた人工ニューロンである複数の感情人工ニューロンを含む。感情決定部260は、複数の感情人工ニューロンのそれぞれの現在の発火状態に基づいて、現在の感情を決定する。例えば、感情決定部260は、車両10の感情として、発火した感情人工ニューロンに割り当てられている感情を決定してよい。
【0033】
制御部250は、感情決定部260が決定した感情に応じて、車両10を制御する。例えば、感情決定部260によって「楽しい」という感情が決定された場合、制御部250は、笑顔の顔マークをUI部180に表示させる。また、制御部250は、明るい口調の音声をUI部180から出力させて、ユーザ190と会話してよい。また、制御部250は、明るい口調の文章をUI部180に表示させて、ユーザ190と会話してよい。
【0034】
感情決定システム100の各部の機能、コンピュータにより実現されてよい。例えば、処理部270は、MPU等のプロセッサ等によって実現され、格納部280は、不揮発性メモリ等の記録媒体により実現されてよい。格納部280は、プロセッサによって実行されるプログラムを格納してよい。プロセッサが当該プログラムを実行することで、分泌情報生成部200、入力情報生成部210及びパラメータ調整部220と、NN演算部230及び感情判定部240を含む感情決定部260と、制御部250とが実装され、格納部280の制御が実現されてよい。当該プログラムは、プロセッサが光ディスク等の記録媒体290から読み取られて格納部280に格納されてよいし、ネットワークを通じて感情決定システム100に提供されて格納部280に格納されてよい。格納部280及び記録媒体290は、コンピュータ読み取り可能な非一時的記録媒体であってよい。
【0035】
図3は、感情マップ300を概略的に示す。感情マップ300において、感情は、中心から放射状に同心円に配置されている。同心円の中心に近いほど、原始的状態の感情が配置されている。同心円のより外側には、心境から生まれる状態や行動を表す感情が配置されている。感情とは、情動や心的状態も含む概念である。同心円の左側には、概して脳内で起きる反応から生成される感情が配置されている。同心円の右側には概して、状況判断で誘導される感情が配置されている。
【0036】
NN演算部230が演算対象とするニューラルネットワークは、感情マップ300に示す各感情に割り当てられた人工ニューロンを含む。ニューラルネットワークはまた、感情マップ300において同心円の最も内側に位置する第1入力及び第2入力にも、それぞれ入力用の人工ニューロンが割り当てられている。第1入力及び第2入力に割り当てられたそれぞれの入力用の人工ニューロンには、センサ部110からの検出信号に基づく入力情報が入力される。そして、概ね内側から外側に向かって人工ニューロンが人工シナプスで接続されて、ニューラルネットワークを形成する。なお、センサ部110の各センサの検出信号に基づく入力情報が、第1入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンに入力されるか、第2入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンに入力されるか、第1入力に割り当てられた入力用の人工ニューロン及び第2入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンの両方に入力されるかは、設計によって定められてよい。
【0037】
NN演算部230は、入力情報に基づいて繰り返しニューラルネットワークの演算を行って、各人工ニューロンの発火状態を決定する。感情判定部240は、各人工ニューロンの発火状態から車両10の感情を判定する。例えば、感情判定部240は、発火した人工ニューロンが割り当てられている感情を、車両10が持つ1つの感情として判定する。
【0038】
図4は、感情決定システム100が用いるニューラルネットワークの一部を概略的に示す。図示されるニューラルネットワークの一部は、人工ニューロンN
1、N
2、N
3、N
4及びN
5と、人工シナプスS
12、S
14、S
23、S
25、S
42、S
43、S
45及びS
53とを含む。人工ニューロンは、生体におけるニューロンに対応する。人工シナプスは、生体におけるシナプスに対応する。
【0039】
E
1は、検出信号に基づく入力情報を示す。人工ニューロンN
1は、入力用の人工ニューロンである。人工ニューロンN
1には、それぞれセンサの検出信号に基づいて生成されたn個の入力情報E
11・・・入力情報E
n1が入力される。
【0040】
人工シナプスS
12は、人工ニューロンN
1と人工ニューロンN
2とを接続する人工シナプスである。特に、人工シナプスS
12は、人工ニューロンN
1の出力を、人工ニューロンN
2に入力する人工シナプスである。人工シナプスS
14は、人工ニューロンN
1と人工ニューロンN
4とを接続する人工シナプスである。特に、人工シナプスS
14は、人工ニューロンN
1の出力を、人工ニューロンN
4に入力する人工シナプスである。なお、j、kを整数として、人工ニューロンN
jの出力を人工ニューロンN
kに入力する人工シナプスを、人工シナプスS
jkと表記する。
【0041】
ここで、iを整数として、各人工ニューロンをN
iで表記するものとする。N
iは、N
iのステータスを表すS
iと、N
iが表す人工ニューロンの内部状態を表すV
imと、N
iの発火の閾値を表すT
iとをパラメータとして持つ。また、人工シナプスS
jkは、パラメータとして、結合係数BS
jkを持つ。なお、本実施形態においては、人工ニューロンを、その添え字を省略して人工ニューロンNと総称する場合がある。また、人工シナプスを、その添え字を省略して人工シナプスSと総称する場合がある。同様に、人工ニューロンのパラメータについても、それらの添え字を省略して、内部情報Vm、閾値T、ステータスSと総称する場合がある。
【0042】
人工ニューロンNのステータスS、内部状態Vm、及び閾値Tは、時刻の進展とともに更新され得るパラメータである。ステータスSは、ニューロンの発火状態に関する情報であり、人工ニューロンが発火状態にあるか非発火状態にあるかを少なくとも示す。内部状態Vmは、ニューロンの膜電位に関する情報であり、人工ニューロンNの内部状態又は出力を表すパラメータの一例である。
【0043】
また、人工シナプスSのパラメータである結合係数BSは、時刻の進展とともに更新され得るパラメータである。結合係数BSは、シナプスの可塑性に関する情報であり、人工シナプスSが結合する人工ニューロンN同士の間の結合強度を示す。
【0044】
NN演算部230は、入力情報から、ニューラルネットワークにおける上述したパラメータを更新して、各人工ニューロンNの内部状態Vmを算出する。なお、本実施形態において、人工ニューロンNは、内部状態Vmが閾値Tを超えた場合に、ステータスSが「発火」状態となる。発火状態になると、人工ニューロンNからは、予め定められた時間にわたって予め定められた信号を出力する。予め定められた時間が経過すると、NのステータスSは末発火に戻る。
【0045】
ここで、NN演算部230による演算内容を、N
2を取り上げてより具体的に説明する。NN演算部230は、N
2への入力I
2を、BS
12×Vm
1×f(S
1)+BS
42×Vm
4×f(S
4)により算出する。ここで、f(S)は、Sが未発火を表す値の場合は0を返し、Sが上昇相又は下降相を示す値の場合は1を返す関数である。なお、このf(S)は、ニューロンが発火した場合のみシナプスが活動電位を伝達するモデルに対応する。なお、f(S)=1であってもよい。これは、ニューロンの発火状態によらず膜電位を伝達するモデルに対応する。f(S)として、膜電位の他の伝達モデルに対応する関数を適用してよい。
【0046】
一般には、NN演算部230は、N
iへの入力I
iを、Σ
jBS
ji×Vm
j×f(S
j)+Σ
jE
jiにより算出する。NN演算部230は、現時刻におけるBS
ji、Vm
j、S
j、E
jを用いて、次の時刻におけるN
iへの入力I
i及びS
i等を算出する。NN演算部230は、これを時間的に繰り返すことにより、各人工ニューロンNのステータスSをリアルタイムに決定する。そして、感情判定部240は、各人工ニューロンNのステータスSに基づき、車両10の感情を判定する。例えば、
図3における「楽しい」という感情が割り当てられた人工ニューロンが発火した場合、感情判定部240は、車両10が「楽しい」という感情を持つと判定し得る。
【0047】
ここで、分泌情報生成部200は、センサ部110からの検出信号に基づいて、BSを調整する。例えば、センサ部110のアクセル開度センサによって、アクセル開度が100%であることが検出された場合、分泌情報生成部200は、内部変数としての「ノルアドレナリン」の分泌量及び「ドーパミン」の分泌量を増加させる。そして、「ノルアドレナリン」の分泌量及び「ドーパミン」の分泌量に基づいて、「ノルアドレナリン」及び「ドーパミン」の少なくとも一方に対応づけられた人工シナプスSの結合係数BSを調整する。
【0048】
センサ部110の各センサには、特定の内分泌物質が対応づけられており、内部分泌物質の分泌量は、特定の人工シナプスSの結合係数BSに対応づけられている。これにより、センサ部110の検出信号によって、内部分泌物質の分泌量を介して、ニューラルネットワークにおける各所の人工シナプスSにおける信号の伝わり易さを変えることができる。そのため、センサ部110で検出された検出信号から多様な感情を生み出すことが可能になる。
【0049】
図5は、アクセル開度と内分泌物質とを対応づけるセンサ対応情報の一例である。格納部280は、アクセル開度の複数の値に対応づけて、ドーパミン及びノルアドレナリンを示す情報を格納する。より具体的には、格納部280は、アクセル開度のそれぞれに対応づけて、ドーパミンの分泌量の増加量と、ノルアドレナリンの分泌量の増加量の組み合わせを示す情報を格納する。なお、分泌量の増加量は、NN演算部230が使用する内部変数が表す分泌量の上限値に対する割合で示す。
【0050】
アクセルを踏み込むことは、車両10を走行させようとすることを意味する。これは、人間に例えると、人間が走ろうとすることに対応する。人間においては、走る場合にはノルアドレナリンが分泌され、糖が血液中に送り込まれる。また、人間においては、運動をするとドーパミンが分泌される。そこで、車両10におけるアクセルの踏み込み量は、ノルアドレナリンやドーパミンの分泌に対応づけられる。
【0051】
なお、ノルアドレナリンは、血糖値の低下を抑制することに加えて、不安感や恐怖心にも関与している。そのため、図示されるように、アクセル開度が大きいほど、ノルアドレナリンの分泌増加量が多くなるようにすることが好ましい。アクセル開度が大きくすることは車両10の走行速度が上がることにつながるので、不安感や恐怖感が生じ易くなるためである。一方、ドーパミンについては、アクセル開度が100%の場合に、アクセル開度が20%の場合より少ない分泌増加量が対応づけられている。人間においてドーパミンは幸福感に関連するので、アクセル開度が非常に高い場合は、ドーパミンの分泌増加量を減少させることが望ましい。例えば、アクセル開度が100%未満の開度において、ドーパミンの分泌増加量が極大値を持つようにすることが好ましい。
【0052】
なお、本図に示す対応情報によれば、アクセル開度にドーパミン及びノルアドレナリンが対応づけられる。しかし、より多くの内分泌物質の分泌増加量が、アクセル開度に対応づけられてよい。
【0053】
なお、アクセル開度に対応づけられる分泌増加量は、対象オブジェクトの種別毎に異なってよい。例えば、対象オブジェクトが二輪車の場合、対象オブジェクトが四輪車の場合と比べて、より多量のノルアドレナリンの分泌増加量が対応づけられてよい。また、対象オブジェクトが二輪車の場合、対象オブジェクトが四輪車の場合と比べて、より少量のドーパミンの分泌増加量が対応づけられてよい。二輪車においては、四輪車に比べて、事故が生じた場合の人体への影響が大きくなるので、アクセル開度を大きくすれば恐怖感がより高まったり、幸福感がより減少したりすると考えられるからである。
【0054】
図6は、ロール角と内分泌物質とを対応づけるセンサ対応情報の一例である。格納部280は、ロール角に対応づけて、CRHを示す情報を格納する。より具体的には、格納部280は、ロール角の複数の値に対応づけて、CRHの分泌量の増加量を示す情報を格納する。
【0055】
車両10のロール角が大きくなることは、人間に例えると体が傾くことに対応する。体が傾いた場合は、ストレスから防御するためにCRHの分泌が促される。そこで、ロール角は、CRHの分泌に対応づけられる。具体的には、ロール角が大きいほど、CRHの分泌増加量としてより多い値が対応づけられる。ロール角が大きいほど、より大きなストレスがかかると考えられるためである。
【0056】
なお、本図に示す対応情報によれば、ロール角にCRHのみが対応づけられる。しかし、より多くの内分泌物質の分泌増加量が、ロール角に対応づけられてよい。
【0057】
なお、ロール角に対応づけられる分泌増加量は、対象オブジェクトの種別毎に異なってよい。例えば、対象オブジェクトが二輪車の場合、対象オブジェクトが四輪車の場合と比べて、より多量のCRH分泌増加量が対応づけられてよい。二輪車においては、四輪車に比べて、ロール角が高まることによる転倒の危険性が高まるので、ロール角を大きくすることによる恐怖心がより高まると考えられるからである。
【0058】
図5及び
図6において、アクセル開度及びロール角の測定値が内部分泌物質の分泌増加量と対応づけられることを説明した。しかし、他の任意のセンサの測定値が、内部分泌物質の分泌増加量と対応づけられてよい。また、分かり易く説明することを目的として、アクセル開度やロール角の測定値及び内部分泌物質の分泌増加量について離散的な数値を示したが、測定値の連続的な変化に対して連続的な内部分泌物質の分泌増加量が得られるよう、測定値を変数とする連続関数等によって、内部分泌物質の分泌増加量が対応づけられるようにしてよい。なお、センサ対応情報として、測定値を内部分泌物質の分泌増加量と対応づけることに代えて、又は測定値を内部分泌物質の分泌増加量と対応づけることに加えて、測定値の時間変化量を内部分泌物質の分泌増加量と対応づけてよい。
【0059】
図7は、ノルアドレナリン量と結合係数BSとを対応づける結合係数対応情報の一例である。格納部280は、ノルアドレナリンの総分泌量に対応づけて、人工シナプスS
14の結合係数BS
14の増加係数と、人工シナプスS
45の結合係数BS
45の増加係数と、人工シナプスS
43の結合係数BS
43の増加係数とを対応づける情報を格納する。なお、ここで取り上げる人工シナプスSは、強結合で人工ニューロンNを接続しているとする。
【0060】
図示されるように、BS
14の増加係数及びBS
45の増加係数には、ノルアドレナリン量が多くなるほどより大きい値が対応づけられる。一方、BS
43の増加係数には、ノルアドレナリン量が多くなるほどより小さい値が対応づけられる。これにより、例えば、
図4に示すニューラルネットワークにおいて、N
1からN
3に向かう方向より、N
1からN
5に向かう方向の方が、入力情報により生じた信号が伝わり易くなる。そのため、N
1からN
5に向かう方向に配置された人工ニューロンが、より発火し易くなる。そのため、例えば
図3に示す感情マップにおいて、ノルアドレナリンが増えるほど、同心円の中心部に対して特定の方向に配置された感情、例えば「不安」や「怖い」という感情が発火し易くなる。そのため、人間に生じる感情に似た感情が車両10で生まれ易くなるようにすることができる。
【0061】
なお、ここでは、人工シナプスSの結合係数BSを、出力先の人工ニューロンNを発火させ易くする方向に調整する場合について説明した。しかし、人工シナプスSの結合係数BSを、出力先の人工ニューロンNを発火させにくくする方向に調整できるように、増加係数が設定されていてもよい。例えば、人工シナプスSが強結合の場合は、増加係数を小さくすることで、出力先の人工ニューロンNを発火させにくくすることができる。なお、人工シナプスSが抑制結合で人工ニューロンNを接続している場合、増加係数を大きくすることで、出力先の人工ニューロンNを発火させにくくすることができ、増加係数を小さくすることで、出力先の人工ニューロンNを発火させ易くすることができる。
【0062】
パラメータ調整部220は、結合係数対応情報を参照して、各内部分泌物質の総分泌量に応じた量だけ、対応する結合係数BSを調整する。上述したように、分泌情報生成部200は、各内部分泌物質の総分泌量を、各センサからの測定値に応じて決定する。そのため、各センサの測定値から、結合係数BSの調整量を複雑に調整することができ、ひいては、多様な組み合わせで感情人工ニューロンを発火させることができる。しかも、車両10における各センサと内部分泌物質との関係、及び、各内部分泌物質と結合係数BSとの関係を、人間に置き換えて意味づけして対応づけることで、人間にとって違和感のない感情を生成できる。
【0063】
図8は、感情決定システム100における各部の動作を示すフローチャートである。感情生成処理を開始することが指示されると、ステップ502において、NN演算部230は、ニューラルネットワークのパラメータの初期設定を行う。例えば、NN演算部230は、格納部280からパラメータの初期値を読み出して、ニューラルネットワークのパラメータを初期化する(ステップ802)。初期設定が完了すると、ステップ804において、時刻毎の処理ループを開始する。
【0064】
ステップ806において、入力情報生成部210及び分泌情報生成部200は、センサ部110からの検出信号を取得する。ステップ808において、入力情報生成部210は、第1入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンへの入力情報と、第2入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンへの入力情報を生成する。入力情報生成部210は、各センサのそれぞれから検出信号を取得する規定のサンプリング間隔で生じる一定値の入力パルスを、入力情報として生成する。
【0065】
ステップ810において、分泌情報生成部200は、例えば
図5、
図6等に関連して説明したセンサ対応情報と、ステップ506で取得した各センサによる検出信号による測定値とに基づいて、内分泌物質の分泌量を算出する。続いて、ステップ812において、パラメータ調整部220は、各人工シナプスSの結合係数BSを算出する。
【0066】
続いて、ステップ814において、NN演算部230は、
図4等に関連して説明した式により、各人工ニューロンへの入力Iを算出する。続いて、ステップ816において、NN演算部230は、各人工ニューロンへの入力Iに基づいて、各人工ニューロンの内部状態Vmを算出する。
【0067】
続いて、ステップ820において、NN演算部230は、各感情人工ニューロンの内部状態Vm及び閾値Tに基づいて、発火している感情人工ニューロンを決定する。ステップ822において、感情判定部240は、発火している感情人工ニューロンに基づいて、車両10の感情を判定する。これにより、感情決定部260は、車両10の感情として、発火している感情人工ニューロンに対応する感情を割り当てる。なお、感情判定部240は、発火している感情人工ニューロンのうち、内部状態Vmがより大きい感情人工ニューロンに対応する感情を、車両10がより強く感じていると判断してよい。続いて、ステップ824において、制御部250は、ステップ822において判定された感情に基づいて、車両10の各部を制御する。
【0068】
S830において、感情決定システム100は、ループを終了するか否かを判断する。例えば、感情生成処理を終了することが指示された場合に、ループを終了すると判断する。ループを終了しない場合、S804に戻り、更に次の時間ステップの計算を行う。ループを終了する場合、このフローを終了する。
【0069】
図9は、UI部180から出力される情報を概略的に示す。例えば、感情決定部260により、車両10が「愛しい」、「悲しい」及び「不安」の感情を持つと決定されたとする。このような場合、制御部250は、UI部180の一例としてのナビゲーション装置の表示部182に、決定された感情に対応づけられた表情のオブジェクト900を表示させる。また、制御部250は、決定された感情と現在の車両10の状況に対応づけられた音声を、音声出力部184から出力させる。
【0070】
これにより、ドライバは、あたかも車両10と喜びを分かち合ったり、苦しみを分かち合ったりできているような感覚を得ることができる。このように、ドライバは、車両10と感情を共有するような感覚を得ることができる。
【0071】
また、例えば日頃はステアリング操作が拙いドライバが、スムーズなステアリング操作で急カーブを通過したような場合には、車両10の感情として「嬉しい」が決定され、嬉しい気持ちを表す表情が表示部182に表示される。これにより、ドライバの気持ちがより良くなり、より上手に車両10を運転しようという気持ちになり易い。そのため、センサ情報に基づく情報を車両10の感情として表現することで、ドライバの運転技術の向上につながる場合がある。
【0072】
なお、以上の説明においては主として、例えば
図7等に関連して説明したように、調整パラメータとして人工シナプスSの結合係数BSを取り上げて説明した。しかし、調整パラメータは、人工シナプスSの結合係数BSに限られない。例えば、調整パラメータとして、人工ニューロンNの閾値T、人工ニューロンNが発火した場合における当該人工ニューロンNからの出力値等を例示できる。
【0073】
また、感情決定システム100の機能は、複数のコンピュータによって実装されてよい。例えば、感情決定システム100の機能の一部の機能は、車両10に設けられたコンピュータによって実装され、感情決定システム100の他の機能は、車両10に設けられたコンピュータと通信ネットワークを介して通信する、車両10外に設けられた1以上のコンピュータによって実装されてよい。車両10外に設けられる1以上のコンピュータの機能は、クラウドで実装されてよい。
【0074】
車両10は、四輪車に限らず、二輪車等の種々の自動車であってよい。車両10は、少なくとも一部の動力として電動機を備える電気自動車又はハイブリッド自動車等であってよい。なお、車両10は、感情決定システムを備えるシステムの一例である。感情決定システムを備えるシステムとして、車両以外の様々な形態を採用し得る。感情決定システムを備えるシステムとして、車両以外の様々な乗物、ロボット、電気機器、建造物等を例示できる。
【0075】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0076】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階などの各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」などと明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」などを用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。