特許第6273313号(P6273313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6273313感情特定システム、システム及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6273313
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】感情特定システム、システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 3/00 20060101AFI20180122BHJP
   G06N 3/08 20060101ALI20180122BHJP
   G06F 3/01 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   G06N3/00 140
   G06N3/08
   G06F3/01 515
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-91998(P2016-91998)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-199319(P2017-199319A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2016年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】516096726
【氏名又は名称】cocoro SB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】孫 正義
(72)【発明者】
【氏名】筒井 多圭志
(72)【発明者】
【氏名】朝長 康介
(72)【発明者】
【氏名】大浦 清
【審査官】 多胡 滋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−074997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00
G06N 3/08
G06F 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象オブジェクトの感情を決定するための情報を取得する情報取得部と、
前記情報に基づいて、複数の感情にそれぞれ対応づけられる判定条件がそれぞれ満たされるか否かを判定する判定部と、
前記情報が前記複数の感情のうち予め定められた種別の1以上の感情に関する予め定められた条件に適合する場合に、前記複数の感情がマッピングされる空間において前記予め定められた種別の1以上の感情が占める範囲を拡大する調整部と、
前記複数の感情のうち、前記判定部により、前記対応づけられている前記判定条件が満たされたと判定された感情を特定する感情特定部と、
前記感情特定部によって特定された感情及び前記空間において前記複数の感情がそれぞれ占める前記範囲を示す情報を出力させる出力制御部と
を備える感情特定システム。
【請求項2】
前記調整部はさらに、前記情報取得部が取得した前記情報に基づいて、前記空間において範囲を拡大させる感情に対応づけられた1以上の前記判定条件が満たされ易くなるように、前記1以上の判定条件の判定に作用する演算パラメータを調整する
請求項1に記載の感情特定システム。
【請求項3】
複数の前記判定条件は、前記情報取得部が取得した前記情報に基づく入力情報を入力とするニューラルネットワークに含まれる複数の人工ニューロンが発火状態にあるか非発火状態にあるかを判定するための条件である
請求項2に記載の感情特定システム。
【請求項4】
前記複数の人工ニューロンには、前記複数の感情のうちのいずれかの感情が対応づけられており、
前記感情特定部は、前記複数の感情のうち、前記複数の人工ニューロンのうち発火状態にある人工ニューロンに対応づけられている感情を特定する
請求項3に記載の感情特定システム。
【請求項5】
前記演算パラメータは、前記ニューラルネットワークに含まれる人工シナプスの結合係数である
請求項3又は4に記載の感情特定システム。
【請求項6】
前記調整部は、前記複数の人工ニューロンのうち前記空間における前記範囲を拡大させる感情に対応づけられた前記1以上の判定条件により発火状態にあるか非発火状態にあるかが判定される人工ニューロンに接続される強結合性の人工シナプスの結合係数を増大させる
請求項5に記載の感情特定システム。
【請求項7】
前記情報取得部が取得した前記情報に基づいて、1以上の内分泌物質の分泌量を示す分泌情報を生成する分泌情報生成部
をさらに備え、
前記調整部は、前記分泌情報が示す前記内分泌物質の分泌量に基づいて前記結合係数を調整するとともに、前記空間において前記予め定められた種別の1以上の感情が占める範囲を拡大する場合に、前記複数の人工ニューロンのうち前記予め定められた種別の1以上の感情に対応づけられた1以上の判定条件により発火状態にあるか非発火状態にあるかが判定される人工ニューロンに接続される結合係数を更に調整する
請求項5又は6に記載の感情特定システム。
【請求項8】
前記予め定められた種別の1以上の感情は、妄想・分裂ポジションに対応する感情であり、
前記予め定められた条件は、前記対象オブジェクトが前記妄想・分裂ポジションに対応する予め定められた状況にある旨を判断するための条件である
請求項1から7のいずれか一項に記載の感情特定システム。
【請求項9】
前記出力制御部は、前記空間において前記感情特定部によって特定された感情が前記空間において占める前記範囲を強調して表示させる
請求項1から8のいずれか一項に記載の感情特定システム。
【請求項10】
前記感情特定部によって特定された感情に応じて、前記対象オブジェクトを制御する制御部
をさらに備える請求項1から9のいずれか一項に記載の感情特定システム。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の感情特定システムと、
前記対象オブジェクトと
を備えるシステム。
【請求項12】
コンピュータを、請求項1から10のいずれか一項に記載の感情特定システムとして機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感情特定システム、システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザと通話相手との会話を学習してユーザの問いかけに対する通話相手の返答を返答テーブルに蓄積する端末が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ユーザ情報、機器情報及び自身の現在の感情状態を入力して次回の感情状態を出力するニューラルネットを備える感情生成装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。また、方向性人工シナプス接続性を有するレイヤ・ニューラルネット関係を有する複数の電子ニューロンを含む連想メモリに時空パターンを記憶する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1]特開2011−253389号公報
[特許文献2]特開平10−254592号公報
[特許文献3]特表2013−535067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、対象オブジェクトの感情を特定する処理において、特定の状況に応じて特定種別の感情が生まれ易くなるという状態を適切に扱うことができないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、感情特定システムは、対象オブジェクトの感情を決定するための情報を取得する情報取得部と、情報に基づいて、複数の感情にそれぞれ対応づけられる判定要素がそれぞれ満たされるか否かを判定する判定部と、情報が予め定められた種別の感情に関する予め定められた条件に適合する場合に、複数の感情がマッピングされる空間において予め定められた種別の感情が占める範囲を拡大する調整部と、複数の感情のうち、判定部により、対応づけられている判定要素が満たされたと判定された感情を特定する感情特定部と、感情特定部によって特定された感情及び空間において複数の感情がそれぞれ占める範囲を示す情報を出力させる出力制御部とを備える。
【0005】
調整部はさらに、情報取得部が取得した情報に基づいて、空間において範囲を拡大させる感情に対応づけられた1以上の判定要素が満たされ易くなるように、1以上の判定要素の判定に作用する演算パラメータを調整してよい。
【0006】
複数の判定要素は、情報取得部が取得した情報に基づく入力情報を入力とするニューラルネットワークに含まれる複数の人工ニューロンであってよい。
【0007】
複数の人工ニューロンには、複数の感情のうちのいずれかの感情が対応づけられており、感情特定部は、複数の感情のうち、複数の人工ニューロンのうち発火した人工ニューロンに対応づけられている感情を特定してよい。
【0008】
演算パラメータは、ニューラルネットワークに含まれる人工シナプスの結合係数であってよい。
【0009】
調整部は、空間における範囲を拡大させる感情に対応づけられた1以上の判定要素に接続される強結合性の人工シナプスの結合係数を増大させてよい。
【0010】
情報取得部が取得した情報に基づいて、1以上の内分泌物質の分泌量を示す分泌情報を生成する分泌情報生成部をさらに備え、調整部は、分泌情報が示す内分泌物質の分泌量に基づいて結合係数を調整するとともに、空間において予め定められた種別の感情が占める範囲を拡大する場合に、予め定められた種別の感情に対応づけられた1以上の判定要素に接続される結合係数を更に調整してよい。
【0011】
予め定められた種別の感情は、妄想・分裂ポジションに対応する感情であり、予め定められた条件は、対象オブジェクトが妄想・分裂ポジションに対応する予め定められた状況にある旨を判断するための条件であってよい。
【0012】
出力制御部は、空間において感情特定部によって特定された感情が空間において占める範囲を強調して表示させてよい。
【0013】
感情特定部によって特定された感情に応じて、対象オブジェクトを制御する制御部をさらに備えてよい。
【0014】
本発明の第2の態様においては、上記の感情特定システムと、対象オブジェクトとを備えるシステムが提供される。
【0015】
本発明の第3の態様においては、コンピュータを、上記の感情特定システムとして機能させるためのプログラムが提供される。
【0016】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係るシステム10の全体構成の一例を概略的に示す。
図2】ロボット40及びサーバ60の機能ブロック構成を概略的に示す。
図3】複数の感情がマッピングされる感情マップ300を概略的に示す。
図4】システム10が用いるニューラルネットワークの一部を概略的に示す。
図5】蓄電池の残存容量と内分泌物質とを対応づける対応情報の一例である。
図6】ノルアドレナリンの分泌量と結合係数BSとを対応づける結合係数対応情報の一例である。
図7】妄想・分裂ポジションに対応する感情の範囲を拡大させる条件と結合係数との対応情報の一例を示す。
図8】感情特定システム100における各部の動作を示すフローチャートである。
図9】ロボット40に表示される感情マップ画面を示す。
図10】ロボット40に表示される感情マップ画面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
図1は、本実施形態に係るシステム10の全体構成の一例を概略的に示す。システム10は、サーバ60と、ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cとを備える。なお、サーバ60は、感情特定システムとして機能し得る。ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cのそれぞれは、感情特定システムにおける対象オブジェクトの一例である。
【0020】
ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cは、例えば家庭に配置される。ユーザ50aは、ロボット40aのユーザである。ユーザ50aは、ロボット40aが配置された家庭の家族や、その家庭を訪れた他人である。ロボット40aは、ユーザ50aと会話する等のやりとりを行う。同様に、ロボット40b及びロボット40cは、それぞれユーザ50b及びユーザ50cと会話する等のやりとりを行う。なお、ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cは、店舗や事務所の受付等に配置されて、来訪した顧客に応対する等の利用形態も適用できる。ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cの利用形態は、これらの利用形態に限られない。
【0021】
サーバ60は、ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cとは遠隔に設けられる。サーバ60は、通信ネットワーク90を通じてロボット40a、ロボット40b及びロボット40cを制御することができる。例えば、サーバ60は、ロボット40aで検出されたセンサ情報を通信ネットワーク90を通じて取得して、取得したセンサ情報に基づいてロボット40aの感情やロボット40aに行わせる動作を決定して、通信ネットワーク90を通じて制御情報を送信してロボット40aに指示する。
【0022】
なお、ロボット40b及びロボット40cは、ロボット40aと略同一の機能を有する。システム10の説明において、ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cを、ロボット40と総称する場合がある。また、システム10では、ロボット40の感情を特定したり動作を決定したりする処理を、サーバ60が実行する。しかし、それらの処理の一部又は全てを、ロボット40が実行してもよい。
【0023】
ロボット40は、ユーザ50の音声及び画像や、ロボット40が受けた外力の情報等、センサで検出した各種の情報を取得して、サーバ60に送信する。サーバ60は、ロボット40から取得した情報に基づいて、ニューラルネットワーク(NN)を用いて、ロボット40を制御するための制御情報を生成する。
【0024】
なお、サーバ60は、感情の特定に作用する作用情報として、生体における内分泌物質の量に対応する情報を用いて、生成した入力情報から感情を特定する。例えば、サーバ60は、ドーパミン量、ノルアドレナリン量、バソプレッシン量、セロトニン量等の脳内分泌物質の分泌量をパラメータとして用いたニューラルネットワークを用いて、感情を特定する。ニューラルネットワークにおいては、ドーパミン量の増加は、「嬉しい」に類する感情の生成に作用し得る。また、ノルアドレナリン量の増加は、「怒り」に類する感情の生成に作用し得る。また、セロトニン量の増加は、「嬉しい」や「怒り」等の感情の強さを抑制する方向に作用し得る。ニューラルネットワークにより、これらの内分泌物質の分泌量の総和によって、どのような感情が生まれ易くなるかが決まる。
【0025】
感情を特定する処理について具体的に説明する。サーバ60は、ロボット40から取得したセンサ情報から、ニューラルネットワークへの入力情報を生成する。また、サーバ60は、センサ情報から、内分泌物質の分泌量を決定する。例えば、電池残量が少ない場合に、ノルアドレナリン量を増大させる。サーバ60は、内分泌物質の作用を受けた結合係数で人工ニューロンが結ばれたニューラルネットワークを用いて、ロボット40の感情を特定する。
【0026】
ここで、サーバ60は、例えばロボット40が連続動作時間が長くなり、ロボット40が休息不足であるかのような状況にある場合に、心理学における妄想・分裂ポジションに対応する感情が生まれ易くなるように、ニューラルネットワークに関する処理を制御する。例えば、サーバ60は、妄想・分裂ポジションに属する感情に対応する人工ニューロンに作用する人工シナプスの結合係数を増大させる。また、サーバ60には、複数の感情がマッピングされる感情マップにおいて、妄想・分裂ポジションに対応する感情が感情マップ内に占める範囲を拡大する。なお、妄想・分裂ポジションに属する感情とは、例えば分裂機制の行動に繋がり易い心理状態を表す感情である。
【0027】
サーバ60は、ニューラルネットワークを用いて特定したロボット40の感情を示す情報と、感情マップにおいて拡大される感情を示す情報を含む制御情報を、ロボット40に送信する。ロボット40は、サーバ60から受信した制御情報に基づいて感情マップを表示して、サーバ60により特定されたロボット40の感情を感情マップ上で強調表示する。また、サーバ60は、妄想・分裂ポジションに属する感情が特定された場合に、分裂機制のような妄想・分裂ポジションに対応する行動を行わせる指示を、制御情報に含めてよい。これにより、人間らしい心理状態をロボット40に持たせることができる。このように、システム10によれば、ロボット40の感情を特定する処理において、ロボット40が受けた状況に応じて特定の感情が生成され易くなることを適切に扱うことができる。
【0028】
図2は、ロボット40及びサーバ60の機能ブロック構成を概略的に示す。まず、ロボット40の機能ブロック構成について説明する。ロボット40は、センサ部120と、情報処理部130と、制御対象160と、通信部102とを有する。情報処理部130は、MPU等のプロセッサであってよい。通信部102は、サーバ60との通信を担う。通信部102は、ネットワークIF等の通信デバイスであってよい。
【0029】
制御対象160は、後述する表示部を含む。制御対象160は、スピーカを含む。制御対象160はまた、ロボット40の肢部や頭部等の可動部を駆動するモータ等を含む。
【0030】
センサ部120は、マイク、ジャイロセンサ、モータセンサ、カメラ、電池残量センサ、赤外線センサ等の各種のセンサを有する。センサ部120のマイクは、周囲の音声を取得する。例えば、センサ部120のマイクは、ユーザ50の音声を取得する。センサ部120のカメラは、可視光によって撮影して動画や静止画の画像情報を生成する。センサ部120の赤外線センサは、赤外線により周囲の物体を検出する。センサ部120のジャイロセンサは、ロボット40全体及びロボット40の各部の角速度を検出する。センサ部120のモータセンサは、ロボット40の可動部を駆動するモータの駆動軸の回転角度を検出する。センサ部120の電池残量センサは、ロボット40が備える電池の残存容量を検出する。
【0031】
センサ部120は、マイクで取得された音声データ、カメラで撮影された画像、ジャイロセンサで検出された角速度、モータセンサで検出された回転角度、電池残量センサで検出した残存容量、赤外線センサで検出した物体情報等の各種のセンサデータを、情報処理部130に出力する。情報処理部130は、取得したセンサ信号を通信部102に供給して、サーバ60へ送信させる。また、情報処理部130は、サーバ60から取得した制御情報に基づいて、ロボット40のスピーカから発話させたり、ロボット40の肢部を動作させる。
【0032】
次に、サーバ60の機能ブロック構成について説明する。サーバ60は、処理部270と、通信部202と、格納部280とを有する。処理部270は、分泌情報生成部200と、入力情報生成部210と、調整部220と、感情特定部260と、制御部250と、判断部252とを備える。感情特定部260は、NN演算部230と判定部240とを有する。通信部202は、情報取得部204を有する。
【0033】
通信部202は、ロボット40との通信を担う。通信部202は、ネットワークIF等の通信デバイスであってよい。格納部280は、ハードディスク装置、フラッシュメモリ等の記憶媒体を有する。また、格納部280は、RAM等の揮発性記憶装置を有する。格納部280は、処理部270が実行時に読み出すプログラムコードや各種の一時データの他、処理部270の処理の実行に必要なデータ等を格納する。
【0034】
情報取得部204は、ロボット40の感情を決定するための情報を取得する。例えば、情報取得部202は、ロボット40のセンサ部120で検出された情報を、ネットワーク90を通じて取得する。判定部240は、情報取得部202が取得した情報に基づいて、複数の感情にそれぞれ対応づけられる判定要素がそれぞれ満たされるか否かを判定する。
【0035】
調整部220は、情報取得部202が取得した情報が予め定められた種別の感情に関する予め定められた条件に適合する場合に、複数の感情マップにおいて予め定められた種別の感情が占める範囲を拡大する。例えば、判断部252は、情報取得部202が取得した情報が、予め定められた種別の感情に関する予め定められた条件に適合するか否かを判断する。調整部220は、判断部252によって情報取得部202が取得した情報が予め定められた条件に適合すると判断された場合に、複数の感情マップにおいて予め定められた種別の感情が占める範囲を拡大する。
【0036】
なお、感情マップは、感情がマッピングされる空間の一例である。また、予め定められた種別の感情は、例えば、妄想・分裂ポジションに対応する感情である。また、予め定められた条件は、ロボット40が妄想・分裂ポジションに対応する予め定められた状況にある旨を判断するための予め定められた条件である。なお、予め定められた種別の感情は、妄想・分裂ポジションと抑鬱ポジションとの間を遷移する心理状況を示す感情であってよい。
【0037】
感情特定部260は、複数の感情のうち、判定部240により、対応づけられている判定要素が満たされたと判定された感情を特定する。制御部250は、感情特定部260によって特定された感情と、感情マップにおいて複数の感情がそれぞれ占める範囲とを示す情報を出力させる。例えば、制御部250は、当該感情及び当該範囲を示す情報を、通信部202からロボット40に送信させる。
【0038】
調整部220はさらに、情報取得部204が取得した情報に基づいて、複数の判定要素のうち、感情マップにおいて範囲を拡大させる感情に対応づけられた1以上の判定要素が満たされ易くなるように、1以上の判定要素の判定に作用する演算パラメータを調整する。これにより、情報取得部204が取得した情報から、ロボット40が妄想・分裂ポジションに対応する状況にあると判断される場合に、妄想・分裂ポジションに対応する感情がロボット40の感情として特定され易くなるようにすることができる。
【0039】
複数の判定要素は、情報取得部204が取得した情報に基づく入力情報を入力とするニューラルネットワークに含まれる複数の人工ニューロンであってよい。複数の人工ニューロンには、複数の感情のうちのいずれかの感情が対応づけられていてよい。感情特定部260は、複数の感情のうち、複数の人工ニューロンのうち発火した人工ニューロンに対応づけられている感情を特定してよい。なお、演算パラメータは、ニューラルネットワークに含まれる人工シナプスの結合係数であってよい。調整部220は、感情マップにおける範囲を拡大させる感情に対応づけられた1以上の人工ニューロンに接続される強結合性の人工シナプスの結合係数を増大させる。
【0040】
分泌情報生成部200は、情報取得部204が取得した情報に基づいて、1以上の内分泌物質の分泌量を示す分泌情報を生成する。そして、調整部220は、分泌情報が示す内分泌物質の分泌量に基づいて結合係数を調整するとともに、感情マップにおいて予め定められた種別の感情が占める範囲を拡大する場合に、予め定められた種別の感情に対応づけられた1以上の判定要素に接続される結合係数を更に調整する。これにより、内分泌に応じたシナプス結合の調整に加えて、ロボット40の状況に応じて特定種別の感情が生じ易くなるように調整することができる。
【0041】
なお、制御部250は、感情マップにおいて感情特定部260によって特定された感情が、感情マップにおいて占める範囲を強調して表示させる。これにより、ユーザ50は、ロボット40の感情を容易に認識することができる。また、ロボット40が妄想・分裂ポジションに対応する状況にあると判断された場合には、感情マップにおいて妄想・分裂ポジションに対応する感情が占める範囲が拡大されて表示される。これにより、ロボット40の心情を容易に認識することができる。
【0042】
また、制御部250は、感情特定部260によって特定された感情に応じて、ロボット40を制御する。例えば、感情特定部260によって「嬉しい」の感情が決定された場合、制御部250は、嬉しさを表す行動を実行させる制御情報を生成してロボット40へ送信させる。また、制御部250は、明るい口調の音声をロボット40のスピーカから出力する制御情報を生成して、ロボット40にユーザと会話させてよい。一方、制御部250は、ロボット40の感情として妄想・分裂ポジションに対応する感情が特定された場合、分裂機制のような妄想・分裂ポジションに対応する行動を行わせる制御情報を、通信部202からロボット40に送信させる。これにより、ロボット40の心情を、ロボット40の行動等で適切に表現することができる。
【0043】
なお、サーバ60の各部の機能、コンピュータにより実現されてよい。例えば、処理部270は、MPU等のプロセッサ等によって実現され、格納部280は、不揮発性メモリ等の記録媒体により実現されてよい。格納部280は、プロセッサによって実行されるプログラムを格納してよい。プロセッサが当該プログラムを実行することで、分泌情報生成部200、入力情報生成部210と、調整部220と、NN演算部230と、判定部240と、感情特定部260と、判断部252と、制御部250とが実装され、格納部280の制御が実現されてよい。当該プログラムは、プロセッサが光ディスク等の記録媒体290から読み取られて格納部280に格納されてよいし、ネットワークを通じてサーバ60に提供されて格納部280に格納されてよい。格納部280及び記録媒体290は、コンピュータ読み取り可能な非一時的記録媒体であってよい。
【0044】
図3は、複数の感情がマッピングされる感情マップ300を概略的に示す。感情マップ300において、感情は、中心から放射状に同心円に配置されている。同心円の中心に近いほど、原始的状態の感情が配置されている。同心円のより外側には、心境から生まれる状態や行動を表す感情が配置されている。感情とは、情動や心的状態も含む概念である。同心円の左側には、概して脳内で起きる反応から生成される感情が配置されている。同心円の右側には概して、状況判断で誘導される感情が配置されている。
【0045】
NN演算部230が演算対象とするニューラルネットワークは、感情マップ300に示す各感情に割り当てられた人工ニューロンを含む。ニューラルネットワークはまた、感情マップ300において同心円の最も内側に位置する第1入力及び第2入力にも、それぞれ入力用の複数の人工ニューロンが割り当てられている。第1入力及び第2入力に割り当てられたそれぞれの入力用の人工ニューロンには、情報取得部204が取得した情報から入力情報生成部210が生成した入力情報が入力される。そして、概ね内側から外側に向かって人工ニューロンが人工シナプスで接続されて、ニューラルネットワークを形成する。なお、入力情報が、第1入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンに入力されるか、第2入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンに入力されるか、第1入力に割り当てられた入力用の人工ニューロン及び第2入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンの両方に入力されるかは、設計によって定められてよい。第1入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンは、概して感情マップ300において左側に位置する感情に対応する人工ニューロンに繋げられている。そのため、第1入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンに入力情報が入力された場合、感情マップ300において左側に位置する感情が生成され易くなる。また、第2入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンは、概して感情マップ300において右側に位置する感情に対応する人工ニューロンに繋げられている。そして、第2入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンに入力情報が入力された場合、感情マップ300において右側に位置する感情が生成され易くなる。
【0046】
NN演算部230は、入力情報に基づいて繰り返しニューラルネットワークの演算を行い、判定部240は、各人工ニューロンの発火状態を判定する。感情特定部260は、各人工ニューロンの発火状態からロボット40の感情を判定する。例えば、感情特定部260は、発火した人工ニューロンが割り当てられている感情を、ロボット40が持つ1つの感情として判定する。
【0047】
感情マップ300において、同心円より上側には、概ね、快い心情を表す感情が配置される。また、同心円より下側には、概ね、不快な心情を表す感情が配置される。ここで、感情マップ300には、妄想・分裂ポジションに属する感情が含まれる。妄想・分裂ポジションに属する感情は、概ね、同心円の中心から横軸に沿う領域に配置される感情である。感情マップ300において妄想・分裂ポジションに属する感情は、「迷い」、「混乱動乱」、「凄い」、「怖い(もの凄い)」等である。同心円の中心から横軸に沿った領域は、同心円の中心より上側の快い心情と中心より下側の不快な心情とが交錯したような領域である。つまり、妄想・分裂ポジションは、いわば混沌とした無定形な心理状態を表すといえる。図3に示される妄想・分裂ポジション内の感情は、妄想・分裂ポジションと抑鬱ポジションとの間を遷移する心理状況を示す感情でもある。
【0048】
サーバ60は、ロボット40が妄想・分裂ポジションに陥るような状況に遭遇した場合には、妄想・分裂ポジションに対応する感情が生まれ易くなるように制御する。また、そのような状況に遭遇した場合には、妄想・分裂ポジションに対応する「迷い」等の感情が占める範囲を拡大した感情マップをロボット40に表示させることにより、ロボット40の心情をより分かり易く提示する。これらの具体的な処理内容については後述する。
【0049】
図4は、システム10が用いるニューラルネットワークの一部を概略的に示す。図示されるニューラルネットワークの一部は、人工ニューロンN、N、N、N、N及びNと、人工シナプスS12、S14、S23、S25、S36、S42、S43、S45、S53、S56とを含む。人工ニューロンは、生体におけるニューロンに対応する。人工シナプスは、生体におけるシナプスに対応する。
【0050】
は、検出信号に基づく入力情報を示す。人工ニューロンNは、入力用の人工ニューロンである。人工ニューロンNには、それぞれセンサの検出信号に基づいて生成されたn個の入力情報E・・・入力情報Eが入力される。
【0051】
人工シナプスS12は、人工ニューロンNと人工ニューロンNとを接続する人工シナプスである。特に、人工シナプスS12は、人工ニューロンNの出力を、人工ニューロンNに入力する人工シナプスである。人工シナプスS14は、人工ニューロンNと人工ニューロンNとを接続する人工シナプスである。特に、人工シナプスS14は、人工ニューロンNの出力を、人工ニューロンNに入力する人工シナプスである。なお、j、kを整数として、人工ニューロンNの出力を人工ニューロンNに入力する人工シナプスを、人工シナプスSjkと表記する。
【0052】
ここで、iを整数として、各人工ニューロンをNで表記するものとする。Nは、Nのステータスを表すSと、Nが表す人工ニューロンの内部状態を表すVmと、Nの発火の閾値を表すTとをパラメータとして持つ。また、人工シナプスSjkは、パラメータとして、結合係数BSjkを持つ。なお、本実施形態においては、人工ニューロンを、その添え字を省略して人工ニューロンNと総称する場合がある。また、人工シナプスを、その添え字を省略して人工シナプスSと総称する場合がある。同様に、人工ニューロンのパラメータについても、それらの添え字を省略して、内部情報Vm、閾値T、ステータスSと総称する場合がある。
【0053】
人工ニューロンNのステータスS、内部状態Vm、及び閾値Tは、時刻の進展とともに更新され得るパラメータである。ステータスSは、ニューロンの発火状態に関する情報であり、人工ニューロンNが発火状態にあるか非発火状態にあるかを少なくとも示す。内部状態Vmは、ニューロンの膜電位に関する情報であり、人工ニューロンNの内部状態又は出力を表すパラメータの一例である。
【0054】
また、人工シナプスSのパラメータである結合係数BSは、時刻の進展とともに更新され得るパラメータである。結合係数BSは、シナプスの可塑性に関する情報であり、人工シナプスSが結合する人工ニューロンN同士の間の結合強度を示す。
【0055】
NN演算部230は、入力情報から、ニューラルネットワークにおける上述したパラメータを更新して、各人工ニューロンNの内部状態Vmを算出する。なお、本実施形態において、人工ニューロンNは、内部状態Vmが閾値Tを超えた場合に、ステータスSが「発火」状態となる。発火状態になると、人工ニューロンNからは、予め定められた時間にわたって予め定められた信号を出力する。予め定められた時間が経過すると、NのステータスSは末発火に戻る。
【0056】
ここで、NN演算部230による演算内容を、Nを取り上げてより具体的に説明する。NN演算部230は、Nへの入力Iを、BS12×Vm×f(S)+BS42×Vm×f(S)により算出する。ここで、f(S)は、Sが未発火を表す値の場合は0を返し、Sが上昇相又は下降相を示す値の場合は1を返す関数である。なお、このf(S)は、ニューロンが発火した場合のみシナプスが活動電位を伝達するモデルに対応する。なお、f(S)=1であってもよい。これは、ニューロンの発火状態によらず膜電位を伝達するモデルに対応する。f(S)として、膜電位の他の伝達モデルに対応する関数を適用してよい。
【0057】
一般には、NN演算部230は、Nへの入力Iを、ΣBSji×Vm×f(S)+Σにより算出する。NN演算部230は、現時刻におけるBSji、Vm、S、Eを用いて、次の時刻におけるNへの入力I及びS等を算出する。NN演算部230は、これを時間的に繰り返すことにより、各人工ニューロンNのステータスSをリアルタイムに決定する。そして、判定部240は各人工ニューロンNのステータスSを判定し、感情特定部260は判定部240の判定結果からロボット40の感情を判定する。例えば、感情特定部260は、図3における「嬉しい」という感情が割り当てられた人工ニューロンが発火した場合、ロボット40の感情として「嬉しい」を特定する。
【0058】
ここで、調整部220は、ロボット40から取得した情報に基づいて、人工シナプスSの結合係数BSを調整する。例えば、ロボット40が有する蓄電池の残量である残存容量が50%以下であることが検出された場合、分泌情報生成部200は、内部変数としての「ノルアドレナリン」の分泌量を増加させる。そして、調整部220は、「ノルアドレナリン」の分泌量に基づいて、「ノルアドレナリン」に対応づけられた人工シナプスSの結合係数BSを調整する。後述するように、「ノルアドレナリン」の生成は、例えば、「不安」や「怒り」等の感情に対応する人工感情ニューロンが発火する経路上の人工シナプスSの結合係数BSを強化するように設定されている。これにより、「ノルアドレナリン」は、「不安」や「怒り」等の感情が生成され易くなる方向に作用する。
【0059】
内部分泌物質の分泌量は特定の人工シナプスSの結合係数BSに対応づけられている。これにより、ロボット40で取得した情報によって、内部分泌物質の分泌量を介して、ニューラルネットワークにおける各所の人工シナプスSにおける信号の伝わり易さを変えることができる。そのため、ロボット40で取得した情報から多様な感情を生み出すことが可能になる。
【0060】
図5は、蓄電池の残存容量と内分泌物質とを対応づける対応情報の一例である。格納部280は、蓄電池の残存容量の複数の値に対応づけて、ノルアドレナリンを示す情報を格納する。より具体的には、格納部280は、蓄電池の残存容量のそれぞれに対応づけて、ノルアドレナリンの分泌量の増加量を示す情報を格納する。なお、分泌量の増加量は、NN演算部230が使用する内部変数が表す分泌量の上限値1に対する割合で示す。これにより、蓄電池の残存容量が減少するほど、ノルアドレナリンの分泌量が多くなり、「不安」や「怒り」の感情が生成され易くなる。
【0061】
図6は、ノルアドレナリンの分泌量と結合係数BSとを対応づける結合係数対応情報の一例である。格納部280は、ノルアドレナリンの総分泌量に対応づけて、人工シナプスS14の結合係数BS14の増加係数と、人工シナプスS45の結合係数BS45の増加係数と、人工シナプスS43の結合係数BS43の増加係数とを対応づける情報を格納する。なお、ここで取り上げる人工シナプスSは、強結合で人工ニューロンNを接続しているとする。
【0062】
図示されるように、BS14の増加係数及びBS45の増加係数には、ノルアドレナリン量が多くなるほどより大きい値が対応づけられる。一方、BS43の増加係数には、ノルアドレナリン量が多くなるほどより小さい値が対応づけられる。これにより、例えば、図4に示すニューラルネットワークにおいて、NからNに向かう方向より、NからNに向かう方向の方が、入力情報により生じた信号が伝わり易くなる。そのため、NからNに向かう方向に配置された人工ニューロンが、より発火し易くなる。そのため、例えば図3に示す感情マップにおいて、ノルアドレナリンが増えるほど、同心円の中心部に対して特定の方向に配置された感情、例えば「不安」や「怖い」という感情が発火し易くなる。そのため、人間が空腹な場合に生じる感情に似た感情がロボット40で生まれ易くなるようにすることができる。
【0063】
なお、ここでは、人工シナプスSの結合係数BSを、出力先の人工ニューロンNを発火させ易くする方向に調整する場合について説明した。しかし、人工シナプスSの結合係数BSを、出力先の人工ニューロンNを発火させにくくする方向に調整できるように、増加係数が設定されていてもよい。例えば、人工シナプスSが強結合の場合は、増加係数を小さくすることで、出力先の人工ニューロンNを発火させにくくすることができる。一方、人工シナプスSが抑制結合で人工ニューロンNを接続している場合、増加係数を大きくすることで、出力先の人工ニューロンNを発火させにくくすることができ、増加係数を小さくすることで、出力先の人工ニューロンNを発火させ易くすることができる。
【0064】
調整部220は、結合係数対応情報を参照して、各内部分泌物質の総分泌量に応じた量だけ、対応する結合係数BSを調整する。これにより、ロボット40で取得された情報から、結合係数BSの調整量を複雑に調整することができ、ひいては、多様な組み合わせで感情人工ニューロンを発火させることができる。しかも、ロボット40で取得された情報と内分泌物質との関係、及び、各内分泌物質と結合係数BSとの関係を、人間に置き換えて意味づけして対応づけることで、人間にとって違和感のない自然な感情を生成できる。
【0065】
なお、図5に関連して、ロボット40から取得する情報としての蓄電池の残存容量とノルアドレナリンとの対応関係を例示した。また、図6に関連して、ノルアドレナリンと結合係数BSとの対応関係を例示した。しかし、これらの情報の対応関係は、ニューラルネットワークおける内分泌物質の作用を分かり易く説明するために例示したものである。図5及び図6に関連して説明した対応関係以外の対応関係を定めてよいことは言うまでもない。
【0066】
図7は、妄想・分裂ポジションに対応する感情の範囲を拡大させる条件と結合係数との対応情報の一例を示す。図7に示す妄想・分裂条件は、妄想・分裂ポジションに対応する感情が占める範囲を拡大させる場合に満たされるべき条件である。結合係数情報は、人工シナプスを特定する情報と、結合係数の増加量を示す情報を含む。なお、人工ニューロンN、N、N、N、N及びNはそれぞれ、感情マップ300における第2入力、「安心」、「安穏」、「不安」、「恐怖」及び「迷い」に対応づけられた人工ニューロンNであるとする。また、各人工ニューロンNの間の人工シナプスSは、強結合性の人工シナプスであるとする。
【0067】
格納部280は、「セロトニン量>閾値」という条件に対応づけて、BS12、BS23、BS36、BS14、BS45、BS56のそれぞれの識別情報と増加量を対応づける情報を格納する。格納部280は、「休息不足の継続時間>閾値」という条件に対応づけて、BS12、BS23、BS36、BS14、BS45、BS56のそれぞれの識別情報と増加量を対応づける情報を格納する。また、格納部280は、「家族の非存在状態の継続時間>閾値」という条件に対応づけて、同様にBS12、BS23、BS36、BS14、BS45、BS56のそれぞれの識別情報と増加量を対応づける情報を格納する。
【0068】
判断部252は、分泌情報生成部200からセロトニンの内分泌量を取得して、図7に示す対応情報を参照して、セロトニンの分泌量が予め定められた分泌量閾値を超えた場合に、「セロトニン量>閾値」の条件が満たされたと判断する。この場合、調整部220は、当該条件に対応するBS12、BS23、BS36、BS14、BS45及びBS56を、当該条件に対応する増加量だけ増加させる。例えば、調整部220は、BS56を0.6だけ増加させる。
【0069】
判断部252は、情報取得部204が取得した情報に基づいて、休息不足の継続時間を計測する。具体的には、判断部252は、情報取得部204が取得した情報に基づいてロボット40が動作中であるか否かを判断して、ロボット40の連続動作時間が予め定められた時間を超えた場合に、休息不足の継続時間のカウントを開始する。そして、判断部252は、図7に示す対応情報を参照して、休息不足の継続時間が予め定められた閾値を超えた場合に、「休息不足の継続時間>閾値」の条件が満たされたと判断する。この場合、調整部220は、当該条件に対応するBS12、BS23、BS36、BS14、BS45及びBS56を、当該条件に対応する増加量だけ増加させる。例えば、調整部220は、BS56を0.6だけ増加させる。
【0070】
また、判断部252は、情報取得部204が取得した情報に基づいて、家族の非存在状態の継続時間を計測する。具体的には、判断部252は、情報取得部204が取得した情報に基づいて認識された人物の中に、ロボット40が家族として学習した人物が含まれているか否かを判断する。そして判断部252は、家族として学習した人物が含まれていないと判断された状態が生じた場合に、家族非存在状態の継続時間のカウントを開始する。そして、判断部252は、図7に示す対応情報を参照して、家族非存在状態の継続時間が予め定められた閾値を超えた場合に、「家族の非存在状態の継続時間>閾値」の条件が満たされたと判断する。この場合、調整部220は、当該条件に対応するBS12、BS23、BS36、BS14、BS45及びBS56を、当該条件に対応する増加量だけ増加させる。例えば、調整部220は、BS56を0.5だけ増加させる。
【0071】
これにより、人工ニューロンNから人工ニューロンNに至る経路上の人工シナプスSの結合係数BSが強化され、第2入力に情報が入力された場合に、人工ニューロンNが発火し易くなる。そのため、図3の感情マップ300において、妄想・分裂ポジションに属する「迷い」の感情が、ロボット40の感情として特定され易くなる。例えば休息不足の継続時間が閾値を超えていない場合は、「安心」及び「安穏」に対応する人工ニューロンが発火しても「迷い」の感情は発火しにくい一方で、休息不足の継続時間が閾値を超えている場合は、「安心」及び「安穏」に対応する人工ニューロンが発火すると「迷い」の人工ニューロンが発火し易くなる。また、「不安」及び「恐怖」に対応する人工ニューロンが発火し易くなるので、「迷い」に対応する人工ニューロンが更に発火し易くなる。
【0072】
なお、図7では、「混乱動乱」に対応する人工ニューロンや、図3の感情マップ300における「凄い」及び「怖い(もの凄い)」にそれぞれ対応する人工ニューロンに接続された経路上の人工シナプスSの結合係数BSについての図示を省略した。しかし、これらの結合係数BSの増加量も、図7に示すBSの増加量と同様に定義できる。これにより、ロボット40が妄想・分裂ポジションに陥る状況に遭遇した場合に、妄想・分裂ポジションに対応する各感情に対応づけられた各人工ニューロンNを発火させ易くすることができる。
【0073】
図8は、感情特定システム100における各部の動作を示すフローチャートである。感情生成処理を開始することが指示されると、ステップ802において、NN演算部230は、ニューラルネットワークのパラメータの初期設定を行う。例えば、NN演算部230は、格納部280からパラメータの初期値を読み出して、ニューラルネットワークのパラメータを初期化する(ステップ802)。初期設定が完了すると、ステップ804において、時刻毎の処理ループを開始する。
【0074】
ステップ806において、入力情報生成部210及び分泌情報生成部200は、情報取得部204がロボット40から受信した情報を取得する。ステップ808において、入力情報生成部210は、第1入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンへの入力情報と、第2入力に割り当てられた入力用の人工ニューロンへの入力情報を生成する。ステップ810において、分泌情報生成部200は、例えば図5図6等に関連して説明した対応情報と、ステップ806で取得した情報とに基づいて、内分泌物質の分泌量を算出する。
【0075】
ステップ811において、判断部252は、ステップ806で取得した情報に基づいて、妄想・分裂条件が満たされたか否かを判断する。妄想・分裂条件が満たされた(Y)と判断した場合はステップ830に処理を移行し、妄想・分裂条件が満たされていない(N)と判断した場合はステップ812に処理を移行する。妄想・分裂条件が満たされている場合は、ステップ830において、調整部220は結合係数BSの増加量を決定する。例えば、調整部220は、図7等に関連して説明したように、満たされた妄想・分裂条件に対応する増加量を決定する。
【0076】
続いて、ステップ832において、調整部220は、妄想・分裂ポジションに属する各感情の拡大量を決定する。例えば、調整部220は、休息不足の継続時間が長いほど、妄想・分裂ポジションに対応する感情が占める範囲の拡大量を大きく決定する。また、調整部220は、家族の非存在状態の継続時間が長いほど、妄想・分裂ポジションに対応する感情が占める範囲の拡大量を大きく決定してよい。なお、調整部220は、妄想・分裂ポジションに対応する感情が占める範囲の拡大量に応じて、他の感情が占める範囲を減少させる。ステップ832の処理の後、ステップ812に処理を移行する。
【0077】
ステップ812において、調整部220は、各人工シナプスSの結合係数BSを算出する。例えば、ステップ811の判断がNの場合、調整部220は、ステップ810で決定された内分泌量に基づいて、各結合係数BSを決定する。一方、ステップ811の判断がYの場合、調整部220は、ステップ810で決定された内分泌量に基づいて決定した結合係数BSと、ステップ830で決定した増減量との和により、各結合係数BSを決定する。
【0078】
続いて、ステップ814において、NN演算部230は、図4等に関連して説明した式により、各人工ニューロンNへの入力Iを算出する。続いて、ステップ816において、NN演算部230は、各人工ニューロンNへの入力Iに基づいて、各人工ニューロンNの内部状態Vmを算出する。
【0079】
続いて、ステップ820において、判定部240は、各人工ニューロンNの内部状態Vm及び閾値Tに基づいて、発火している人工ニューロンNを判定する。ステップ822において、感情特定部260は、発火している人工ニューロンに基づいて、ロボット40の感情を判定する。これにより、感情特定部260は、ロボット40の感情として、発火している人工ニューロンに対応する感情を割り当てる。なお、感情特定部260は、発火している人工ニューロンのうち、内部状態Vmがより大きい人工ニューロンNに対応する感情を、ロボット40がより強く感じていると判断してよい。続いて、ステップ824において、制御部250は、ステップ822において判定された感情に基づいて、ロボット40の各部を制御する。
【0080】
S830において、サーバ60は、ループを終了するか否かを判断する。例えば、感情生成処理を終了することが指示された場合に、ループを終了すると判断する。ループを終了しない場合、S804に戻り、更に次の時時間ステップの計算を行う。ループを終了する場合、このフローを終了する。
【0081】
図9は、ロボット40に表示される感情マップ画面を示す。図9は、図7に示す妄想・分裂条件が満たされておらず、調整部220が妄想・分裂ポジションの感情が占める範囲を拡大していない場合の感情マップ画面を示す。
【0082】
サーバ60の制御部250は、感情マップ300に対応するオブジェクト900を、ロボット40の表示部162に表示させる。具体的には、制御部250は、各同心円内において各感情が占める範囲及び感情名を示す情報を、ロボット40への制御情報に含めて送信させる。また、制御部250は、発火した人工ニューロンNに対応する感情を識別する情報を制御情報に含めて送信させる。
【0083】
ロボット40の情報処理部130は、受信した制御情報に基づいて、表示部162にオブジェクト900を表示させる。「安心」、「安穏」及び「心強い」に対応する人工ニューロンが発火した場合、情報処理部130は、オブジェクト900に示されるように、「安心」、「安穏」及び「心強い」が占める範囲を、他の感情が占める範囲より強調して、表示部162に表示させる。例えば、情報処理部130は、「安心」、「安穏」及び「心強い」の感情が占める範囲を、他の感情が占める範囲とは異なる色で表示部162に表示させてよい。
【0084】
図10は、ロボット40に表示される感情マップ画面を示す。図10は、図7に示す妄想・分裂条件が満たされており、調整部220が妄想・分裂ポジションの感情の占有範囲を拡大した場合の感情マップ画面を示す。
【0085】
サーバ60の制御部250は、制御部250は、調整部220から受け取った感情の占有範囲の拡大量に基づいて、各同心円上の各感情が占める範囲を決定する。そして、制御部250は、決定した各感情が占める範囲及び感情名を示す情報を、ロボット40への制御情報に含めて送信させる。また、制御部250は、発火した人工ニューロンNに対応する感情を識別する情報を制御情報に含めて送信させる。
【0086】
ロボット40の情報処理部130は、受信した制御情報に基づいて、表示部162にオブジェクト1000を表示させる。図10に示す例では、妄想・分裂条件が満たされているため、ニューラルネットワークの入力から「迷い」の感情に対応する人工ニューロンNへの経路上の人工シナプスSが発火し易くなっている。これにより、「安心」及び「安穏」の感情に対応する人工ニューロンNに加えて、「不安」、「恐怖」及び「迷い」の感情に対応する人工ニューロンNが発火している。
【0087】
また、妄想・分裂条件が満たされているため、妄想・分裂ポジションに属する「迷い」及び「混乱動乱」、「凄い」及び「怖い(もの凄い)」の感情が占める範囲が拡大される。一方、「迷い」及び「凄い」の拡大に応じて、「迷い」及び「凄い」の感情と同心円上にマッピングされる「愛しい」、「楽しい」、「心強い」、「怖い」、「哀しい」、「許せない」、「悲しい」、「惨い」、「欲しい」及び「嬉しい」の感情が占める範囲は、縮小して表示される。また、「混乱動乱」及び「怖い(もの凄い)」の感情と同心円上にマッピングされる「誇らしい」、「やさしい」、「恨しい」、「悔しい」、「憎い」、「居た堪えれない」、「疚しい」及び「素晴らしい」の感情が占める範囲は、縮小して表示される。そのため、ユーザ50は、ロボット40の状況や心情を容易に認識することができる。
【0088】
以上に説明したように、システム10によれば、ロボット40が妄想・分裂ポジションに陥る状況に遭遇した場合に、妄想・分裂ポジションに対応する感情が生まれ易くなる。また、ロボット40の表示部162には、妄想・分裂ポジションに対応する感情が占める範囲が拡大した感情マップが表示されるので、ロボット40の心情をより分かり易く提示することができる。このように、システム10によれば、ロボット40の感情を特定する処理において、状況に応じて特定種別の感情が生まれ易くなるという状態を適切に扱うことができる。
【0089】
なお、上記実施形態のシステム10においては、妄想・分裂条件が満たされた場合に、妄想・分裂ポジションに対応する感情が占める範囲を拡大するだけでなく、調整部220によって、妄想・分裂ポジションに対応する感情が生じ易くなるように制御される。しかし、妄想・分裂条件が満たされた場合でも、調整部220により妄想・分裂ポジションに対応する感情が生じ易くなるようにすることは行わなくてもよい。
【0090】
また、上記実施形態のシステム10においては、人工ニューロンNのそれぞれに感情が割り当てられている。しかし、人工ニューロンNには感情が割り当てられていなくてもよい。この場合においては、妄想・分裂条件が満たされた場合に、妄想・分裂ポジションに対応する感情が占める範囲を拡大することによって、妄想・分裂ポジションの感情により多くの人工ニューロンNが対応づけられることになる。これにより、妄想・分裂ポジションに対応する感情が生成され易くなるように制御することもできる。
【0091】
また、上記実施形態のシステム10においては、妄想・分裂条件が満たされた場合に、妄想・分裂ポジションに対応する感情が占める範囲を拡大する。しかし、妄想・分裂ポジションに対応する感情が占める範囲を拡大することに替えて、感情マップ300における同心円の中心の周りに、感情マップ300を回転させてもよい。
【0092】
以上に説明したサーバ60の機能は、1以上のコンピュータによって実装されてよい。サーバ60の少なくとも一部の機能は、仮想マシンによって実装されてよい。また、サーバ60の機能の少なくとも一部は、クラウドで実装されてよい。また、ロボット40は、対象オブジェクトの一例である。対象オブジェクトとして、ロボット以外の様々な形態を採用し得る。例えば、対象オブジェクトは、自動車や自動二輪車等の車両や、家電製品等であってよい。
【0093】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0094】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階などの各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」などと明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」などを用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0095】
10 システム
40 ロボット
50 ユーザ
90 ネットワーク
102 通信部
120 センサ部
130 情報処理部
160 制御対象
162 表示部
120 センサ部
200 分泌情報生成部
210 入力情報生成部
220 調整部
230 NN演算部
240 判定部
250 制御部
252 判断部
260 感情特定部
270 処理部
280 格納部
290 記録媒体
300 感情マップ
900 オブジェクト
1000 オブジェクト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10