特許第6273417号(P6273417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6273417針アセンブリおよび同針アセンブリを備える格納式注射器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6273417
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】針アセンブリおよび同針アセンブリを備える格納式注射器
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/32 20060101AFI20180129BHJP
【FI】
   A61M5/32 510H
【請求項の数】20
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-540273(P2014-540273)
(86)(22)【出願日】2012年11月9日
(65)【公表番号】特表2014-532529(P2014-532529A)
(43)【公表日】2014年12月8日
(86)【国際出願番号】AU2012001376
(87)【国際公開番号】WO2013067588
(87)【国際公開日】20130516
【審査請求日】2014年7月18日
【審判番号】不服2016-12124(P2016-12124/J1)
【審判請求日】2016年8月10日
(31)【優先権主張番号】61/557,792
(32)【優先日】2011年11月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517295698
【氏名又は名称】ユーエヌエル ホールディングス エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】UNL Holdings LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ソーリー、クレイグ スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】カール、ジョセフ ハーメス
(72)【発明者】
【氏名】ラファティー、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ウォリス、ヒュー ウンベルト
(72)【発明者】
【氏名】ウエソ−モニス、エルネスト
(72)【発明者】
【氏名】ロー、カンマン
(72)【発明者】
【氏名】ソコロフ、リチャード
【合議体】
【審判長】 内藤 真徳
【審判官】 平瀬 知明
【審判官】 二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】 特表平9−509587(JP,A)
【文献】 特開2010−259718(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/057334(WO,A1)
【文献】 特表2010−531679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/00-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャーを備える注射器の筒部に取り付け可能な針アセンブリであって、前記針アセンブリは、格納式針と、前記筒部の内側に配置される針シールと、を備えており、前記プランジャーは前記格納式針の後退のために格納式針に係合することができる部分を有しており、前記格納式針は、カニューレと、前記針シールと係合可能であり、かつ、プランジャー係合部材、少なくとも1つの開口、および前記カニューレの少なくとも一部を収容する細長部を有する針本体と、を備えており、前記カニューレは前記少なくとも1つの開口と連通している端部を備えており、前記少なくとも1つの開口は、前記プランジャー係合部材と細長部との間に位置するとともに、前記カニューレの長手軸線に対して前記針本体を横断方向に貫通して延びており、前記カニューレの端部は、前記少なくとも1つの開口によって画定された空間内に延びているが、前記プランジャー係合部材内には延びておらず、前記カニューレの端部が前記針シールの基端縁に対して先端側に配置可能となり、それによって、前記注射器の内容物の気泡を排除し、かつ、前記筒部内の死空間を最小限にするように、前記針シールは、前記プランジャー係合部材の先端側において前記格納式針と解放可能に取り付けられる、針アセンブリ。
【請求項2】
前記針シールは、前記格納式針の針本体の相補的組み合い部分に係合することができる1つ以上の組み合い部分を備えている、請求項1に記載の針アセンブリ。
【請求項3】
前記組み合い部分は前記針本体のリブに解放可能に係合することができる溝である、請求項に記載の針アセンブリ。
【請求項4】
針部および筒部係合部を有する本体を備えた注射筒部アダプターに取り付け可能である、請求項1乃のいずれか1項に記載の針アセンブリ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの開口は、注射器の筒部の流動性内容物と連通するように配置可能である、請求項1に記載の針アセンブリ
【請求項6】
前記格納式針は、単一体である、請求項1に記載の針アセンブリ
【請求項7】
前記カニューレおよび針本体は、単一体の格納式針を形成するために共成形されている、請求項に記載の針アセンブリ
【請求項8】
前記針本体およびカニューレは格納式針の別個の構成要素である、請求項1に記載の針アセンブリ
【請求項9】
前記針本体は前記カニューレのオーバーモールドである、請求項に記載の針アセンブリ
【請求項10】
前記針本体は第1本体部材と第2本体部材とを備えている、請求項に記載の針アセンブリ
【請求項11】
組立て前に、第1本体部材はカニューレを備え、第2本体部材はプランジャー係合部材を備えている、請求項10に記載の針アセンブリ
【請求項12】
前記プランジャー係合部材は1つ以上の面取り面を備えている、請求項1に記載の針アセンブリ
【請求項13】
前記プランジャー係合部材は、前記プランジャー係合部材に係合することができる前記プランジャーの部分に係合するための1つ以上のフック部を備えている、請求項1に記載の針アセンブリ
【請求項14】
前記針本体は、前記針シールの相補的組み合い部分に係合することができる1つ以上の組み合い部分をさらに備えている、請求項1に記載の針アセンブリ
【請求項15】
前記組み合い部分は、前記針シールの溝に解放可能に係合することができるリブである、請求項1に記載の針アセンブリ
【請求項16】
筒部と、前記筒部に取り付けられた請求項1乃15のいずれか1項に記載の針アセンブリと、格納式針のプランジャー係合部材に係合することができる部分を備えたプランジャーと、を備えている、格納式注射器。
【請求項17】
前記針アセンブリは、針部と筒部係合部とを有する本体を備えている注射筒部アダプターに取り付けられている、請求項1に記載の格納式注射器。
【請求項18】
前記プランジャーは、プランジャー部材、プランジャー外装部、制御部材および付勢手段を備えており、前記プランジャー部材、プランジャー外装部および制御部材は、前記付勢手段を初期エネルギー印加状態に維持するように協働している、請求項1または1に記載の格納式注射器。
【請求項19】
前記付勢手段はばねである、請求項1に記載の格納式注射器。
【請求項20】
薬剤充填済み格納式注射器である、請求項1乃至19のいずれか1項に記載の格納式注射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は注射器に関する。より具体的には、本発明は格納式注射器用の針に関する。
【背景技術】
【0002】
連続した使用者間において適切な滅菌を行わないで注射器を共有する行為は、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)および肝炎がうつる主な原因であり、それらの病気は、患者へのその後の深刻な影響を有するとともに、患者を支援し、患者に医学的治療を施すために大きな社会的負担を伴う。さらに、医療従事者は、不注意による針刺し損傷(needlestick injuries)、および伝染性病原体または他の汚染物質に晒される可能性に結び付き得る使用済み注射器に晒され得る。
【0003】
この問題に応えて、格納式(リトラクタブル)注射器(retractable syringes)は、注射器の再使用および/または使用済み注射器による針刺し損傷を防止する目的で開発されてきた。格納式注射器は、典型的には、注射筒部に取り付けられた針アセンブリの構成要素として格納式針を備え、前記格納式針は針の後退を可能にするためにプランジャーまたはプランジャー構成要素によって係合可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多くの格納式注射器が遭遇する1つの問題は、時として複雑な針アセンブリおよび/またはプランジャーに対する格納式針の配置によって「死容積」が生じる可能性があり、それにより格納式注射器の流動性内容物の一部が送出されないことである。これは、特に高価な医薬品またはワクチンを送出する大量生産された薬剤充填済み注射器(プレフィルドシリンジ(pre−filled syringe))の情況において損害が大きいことを示し得る。
【0005】
流動性内容物中の気泡が、筒部内に位置するカニューレ端部(すなわち使用者に対して基端側でありかつカニューレの送出端部の反対側)のような構造物に引きつけられるということも問題である。使用者は、気泡を排出しようとする際に、有意量の流動性内容物を排出し得る。これは、固定投与量の流動性内容物が提供されている薬剤充填済み注射器において重大な問題となる。その場合、送出される実際の流体の量は所望よりも実質的に少なくなる。加えて、目に見える流体気泡は、該気泡が(プランジャーの開始位置および終了位置から特定され得るような)真の投与量容積の特定を混乱させるため、正確な投与量の送出を使用者が計算または制御することを困難にする。これらの問題は、とりわけ薬物送達産業において既知である格納式注射器において存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
広範な形態において、本発明は、格納式注射器の流動性内容物の送出を促進する、改良された格納式針を提供する。好ましい形態において、前記格納式針は、流体送出の効率を最大にするように配置された開口を備える。開口を有する格納式針は、多くの格納式注射器に関連する目に見える「死容積」を排除する。さらに、開口を有する格納式針は、既知の注射器において一般に見られる目に見える気泡を排除することによって、使用者による正確な投与量制御を可能にする。本発明の改良された格納式針は、そのような針の使用者によって切望される統合された安全機能を組み込むとともに、これらの問題に対処する。
【0007】
一態様において、本発明は、筒部と、格納式針の後退のために格納式針に係合することができる部分を有するプランジャーとを備えた注射器用格納式針を提供する。前記格納式針は、カニューレと、プランジャー係合部材、少なくとも1つの開口、および前記カニューレの少なくとも一部を収容する細長部を有する針本体とを備え、前記カニューレは前記少なくとも1つの開口と連通する端部を備える。前記少なくとも1つの開口は前記プランジャー係合部材と細長部との間に位置する。
【0008】
適切には、前記少なくとも1つの開口は、使用時に前記筒部の流動性内容物と連通する。
別の態様では、本発明は注射器の筒部に取り付け可能である針アセンブリを提供する。前記針アセンブリは第1態様の格納式針を備える。
【0009】
前記針アセンブリはさらに針シールを備える。適切には、前記針アセンブリは注射筒部アダプターに取り付け可能である。好ましくは、筒部アダプターは、針部と筒部係合部とを有する本体を備える。
【0010】
前記筒部はさらにカラーを備えてもよい。特定の実施形態において、前記筒部アダプターは筒部の針端部に固着され、前記カラーは筒部のプランジャー端部に固着されている。いくつかの実施形態において、前記筒部アダプターおよびカラーは、前記筒部に対して、同時に、または連続して、固着される。
【0011】
さらに別の態様において、本発明は、第2態様の針アセンブリと、筒部と、格納式針のプランジャー係合部材に係合することができる部分を有するプランジャーとを備えた格納式注射器を提供する。
【0012】
典型的には、前記少なくとも1つの開口は、前記カニューレの長手軸線に対して、格納式針本体を通って横断方向に延びている。
適切には、前記格納式針の少なくとも1つの開口は、注射筒部内の「死空間」を最小限にするように配置されている。前記開口の配置は、好ましくは、開口の少なくとも一部または全体がプランジャー係合部材に係合することができるプランジャーの部分とカニューレの端部との間に位置するようになされる。それにより、注射器の流動性内容物の送出の効率を向上させる。
【0013】
一実施形態において、前記カニューレ端部は少なくとも1つの開口によって画定された空間内に延びてもよい。別の実施形態において、前記カニューレ端部は、少なくとも1つの開口によって画定された空間内に延びることなく、少なくとも1つの開口の周囲において終了してもよい。さらに別の実施形態において、前記カニューレ端部は細長本体内で終了してもよい。適切には、この実施形態のカニューレ端部は、前記開口と連通する孔と連通している。
【0014】
一実施形態において、格納式針は単一体である。一形態において、前記カニューレおよび針本体は、単一体の格納式針を形成するために共成形(co−moulded)されている。別の実施形態において、格納式針本体およびカニューレは、格納式針の別個の構成要素である。1つの特定の実施形態において、格納式針本体はカニューレのオーバーモールドである。別の特定の実施形態において、格納式針本体は第1本体部材と第2本体部材とを備える。好ましくは、組立前において、第1本体部材はカニューレを備え、かつ、第2本体部材はプランジャー係合部材を備えるか、またはその逆である。
【0015】
前記格納式針は、針シールの相補的組み合い部分と係合する1つ以上の組み合い部分をさらに備えてもよい。前記組み合い部分はリブであり、かつ、前記針シールの相補的組み合い部分は溝であってもよく、またはその逆であってもよい。前記格納式針と針シールとが組み立てられると、各相補的組み合い部分の間の係合が、例えば皮膚またはバイアルのふたを穿刺するときに、格納式針の基端方向の(すなわち使用者に向かう)移動を防止する。適切には、前記格納式針は針シールと係合することができる。
【0016】
適切には、前記プランジャーは、プランジャー部材、プランジャー外装部(plunger outer)、制御部材、およびばねのような付勢手段を備える。前記プランジャー部材、プランジャー外装部および制御部材は、前記付勢手段を、初期エネルギー印加状態(initially energized state)に維持するように協働する。適切には、前記付勢手段の初期エネルギー印加状態からの解放は、プランジャー部材と係合されたときに、前記格納式針の後退を促進する。一実施形態において、前記付勢手段はばねである。この実施形態によれば、前記ばねは初期圧縮され、それにより前記ばねの復元が、プランジャー部材と係合されたときに格納式針の後退を促進する。
【0017】
適切には、前記プランジャーはプランジャーシールをさらに備える。好ましくは、前記プランジャーシールはプランジャー部材に連結される。一実施形態において、前記プランジャーシールは、前記格納式針のプランジャー係合部材と係合することができるプランジャーの部分からなる。
【0018】
本発明の他の好ましい目的および実施形態は、軸線方向移動の間に、あまり揺動(wobble)および/または傾斜を示さない改良されたプランジャー、プランジャーシールとプランジャーとの間の改良された連結、改良されたばね保持システムおよび/または改良された筒部を提供することを含むが、これらに限定されるものではない。
【0019】
特定の実施形態において、本発明はプランジャーを提供し、
(a)前記プランジャーは、プランジャー部材をプランジャーシールに連結するコネクターをさらに備え、
(b)前記プランジャー部材は、前記プランジャーシールに係合する鋭端部(edged portion)を備えた可撓性部材を有するプランジャーシール係合部材を備え、
(c)プランジャー外装部および制御部材は、ばねを初期圧縮するように、解放部材によって解放可能に係合されており、その解放部材は、前記プランジャー外装部および前記制御部材の解放を促進するように側方方向に可動であり、それにより前記ばねの復元を促進し、
(d)前記プランジャーは、前記プランジャー外装部が、プランジャー部材およびそれと係合した針の後退後に、前記プランジャー部材と係合するアームを備えるロッキングシステムをさらに備え、かつ/または、
(e)前記プランジャーは、前記プランジャー部材およびそれと係合した針の後退後に、前記制御部材のアームが前記プランジャー外装部と係合するロッキングシステムを備える。
【0020】
任意で、前記プランジャー部材は、前記プランジャーシールと接し(abuts)、それにより使用時における前記プランジャー部材の傾斜または揺動を低減するフランジをさらに備える。
【0021】
さらに別の実施形態において、本発明は注射器のための筒部を提供する。前記筒部は楕円断面形状を有する。適切には、前記筒部は、プランジャー部材のプランジャーシールへの螺着(thereading)を容易にする。1つの特定の実施形態において、前記プランジャーシールは楕円断面形状を有する。
【0022】
さらなる態様において、本発明は格納式注射器用のばね保持具を提供する。前記ばね保持具は、前記ばねを初期圧縮状態に解放可能に保持するように協働する内側部材と外側部材とを備え、それにより前記内側部材および外側部材の解放がばねの復元を促進し、それによって針の後退を促進する。
【0023】
適切には、前述の態様および実施形態の注射器は格納式薬剤充填済み注射器である。
この文脈において、「薬剤充填済み(pre−filled)」とは、格納式注射器が、使用者への供給または使用者による購入もしくは操作の前に、送出可能な流動性内容物を収容していることを意味する。したがって、薬剤充填済み注射器は、使用者が注射器を流動性内容物で充填する工程を不要にする。
【0024】
別段の指示がない限り、この明細書の全体にわたって、「comprise」「comprises」および、「comprising」は、述べられた整数または整数群が1つ以上の他の述べられていない整数または整数群を含み得るように、排他的ではなく、包含的に用いられる。
【0025】
本発明の非限定的な実施形態について本願において以下の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】格納式注射器の実施形態を示す図。
図2】格納式注射器の筒部に取り付けられた針アセンブリおよびアダプターの実施形態を示す図。
図3A】格納式針の実施形態を示す図。
図3B】格納式針の実施形態を示す図。
図3C】格納式針の実施形態を示す図。
図4】格納式針の別の代替実施形態を示す図。
図5】格納式針の別の代替実施形態を示す図。
図6】筒部アダプターおよび針シールの実施形態に取り付けられた格納式針の別の実施形態を示す図。
図7】針シールの別の実施形態に取り付けられた格納式針の別の実施形態を示す図。
図8】筒部アダプターおよび針シールの実施形態に取り付けられた格納式針の別の実施形態を示す図。
図9】筒部アダプターおよび針シールの実施形態に取り付けられた格納式針の別の実施形態を示す図。
図10】筒部アダプターおよび針シールの実施形態に取り付けられた格納式針の別の実施形態を示す図。
図11】プランジャーの実施形態を示す図。
図12】プランジャーシールの実施形態を示す図。
図13】格納式針の実施形態と係合するプランジャーの実施形態を示す図。
図14A】格納式針の他の実施形態を示す図。
図14B】格納式針の他の実施形態を示す図。
図15】格納式針のプランジャー係合部材の実施形態を示す図。
図16】格納式針のプランジャー係合部材の別の実施形態を示す図。
図17】プランジャー外装部、制御部材および圧縮されたばねのための側方解放システムの実施形態を示す図。
図18】プランジャーに取り付けられたばね保持具の実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1を参照すると、格納式注射器100の実施形態は、プランジャー端部114と針端部115とを有する筒部110を備える。筒部110はほぼ円筒形であり、好ましくはガラスから形成されている。筒部110のプランジャー端部104には解放リング130を有するカラー113が配置されている。カラー113は、筒部110に取り付けられているか、接着されているか、嵌合されていてもよいし、または筒部110と一体的に形成されていてもよい。筒部110がガラスから形成されている実施形態では、カラー113は筒部110に接着されているか、または他の場合には固着されている。筒部110がプラスチックまたは他の成形可能材料で形成されている別の実施形態では、カラー113は筒部110と(例えば成形によって)一体的に形成されている。解放リング130は、筒部110に取り付けられているか、または別の場合には嵌合されていてもよいし、またはカラー113および筒部110と共成形されていてもよい。典型的には、注射器100には、カニューレ端部411を保護するためにカニューレ410を覆う保護カバー121が提供されている。筒部110の針端部105には、筒部アダプター300と、カニューレ410、針本体420および針シール430を備えた格納式針400とが取り付けられている。注射器100は、それに取り付けられたプランジャーシール800を有するプランジャー200をさらに備える。筒部110は、針本体420、針シール430およびプランジャーシール800と共に、筒部110の内部に流体空間120を画定する内壁118をさらに備える。
【0028】
図1に示すように、使用時に、プランジャー200は、格納式注射器100の流動性内容物の送出を促進するために、実線矢印の方向において流体空間120内へ軸線方向に可動である。好ましい実施形態において、流体空間120は、格納式注射器100によって送出される流動性内容物によって充填済みである。この文脈において、「充填済み(prefilled)」とは、使用者が筒部110を流動性内容物で充填する必要なく、送出可能な流動性内容物で充填された格納式注射器100が使用者に提供されることを意味する。
【0029】
図1および図2を参照すると、筒部アダプター300は、挿口311および針開口312を有する針部310と、環状あご部322と肩部323とを有する取付リング321を備えた針シール係合部材320と、筒部110の端119に当接する(bears against)周方向肩部331を備えた筒部係合部330とを備える。格納式針400は、端部411を有するカニューレ410と、細長部421および基端部422を有する針本体420とを備え、前記基端部422はプランジャー係合部材423を備える。開口425は、カニューレ410の長手軸線に対して格納式針本体420を通って横断方向に延び、筒部110の流動性内容物と連通している。図2に示すようないくつかの実施形態において、基端部422は、開口425の先端側に胴部または拡径部(increased diameter portion)1421を備える。
【0030】
針本体420はさらに、格納式針400と筒部アダプター300との解放可能な連結を支援するために、挿口311のフック端314によって係合される基端側環状突起部1422を備える。針本体420はさらに、筒部アダプター300の内側肩部315と解放可能に係合し、それにより格納式針400の先端方向の移動を防止する先端側環状突起部1423を備える。針シール430は、あご座部(barb seat)432と、筒部110の内壁118に対する流体シールを容易にする密閉リブ433A,433Bと、端434とを有する本体431を備える。
【0031】
また図2において最もよく分かるように、あご座部432は、筒部アダプター300の取付リング321の環状あご部322を収容し、それによって針シール430を筒部アダプター300に連結する。挿口311は針本体420の環状突起部1422に当接しており、またカニューレ410は、カバー121が取り外されるとカニューレ端部411が流動性内容物の送出に対して自由になるように、針開口312を通って延びている。この配列は、格納式注射器100の使用の間じゅう針シール430を不動にする。この実施形態によれば、解放リング130および筒部アダプター300を備えたカラー113は、ガラス筒部110に接着または固着されたプラスチック部品である。
【0032】
一形態において、筒部アダプター300およびカラー113はガラス筒部110に連続して接着されるか、または固着され、各接着または固着工程の後にUV硬化工程が続く。代替形態において、筒部アダプター300およびカラー113は、筒部110に対して同時に接着または固着され、その後にUV硬化工程が続く。次に、格納式針400が筒部アダプター300に取り付けられる。
【0033】
図2に示す格納式針400の実施形態において、カニューレ端部411は、気泡を排除しかつ死空間を最小限にするために、シール430の端434に対して「ほぼ同一平面上にある(sub−flush)」。より具体的には、プランジャーシール800がプランジャー係合部材423に係合するときに、カニューレ端部411をシールの端434より先端側(すなわち使用者から先端側)に配置することは、死空間を形成し得るカニューレ端部411より先端側の流体含有容積が存在しないことを意味する。針本体420内の開口425はまた、カニューレ端部411への流動性内容物のアクセスを向上させ、それによってカニューレ410に進入し損なうことによる流動性内容物の消耗を最小限にする。
【0034】
開口425の別の利点は、典型的にはカニューレ端部411に集まる気泡に関連する。従来技術の注射器において、使用者は、注射の前に流動性内容物を排出することによって目に見える気泡を排出しようと試みることがある。これは、送出される体積が薬剤充填済み注射器100によって提供される原体積よりも実質的に少なくなる程度まで流動性内容物の喪失をもたらし得る。カニューレ端部411を注射器100においてより先端側に、かつ、使用者に見えないように配置することにより、使用者は気泡の除去および流動性内容物の浪費をし続ける傾向が少なくなる。図2に示される実施形態では、開口425は、針シール430より基端側(つまり、使用者に対して基端側)の位置に位置するが、他の実施形態では、開口425は、部分的に、または完全に針シール430内に位置し得る。
【0035】
当然のことながら、開口425に対するカニューレ端部411の配置を変更することもできる。図1図2および図3Aに示した実施形態では、カニューレ端部411は、先端側棚部426を越えて、すなわち先端側棚部426の基端側から、開口425内へと延びている。これに代わって、図3Bに示すように、カニューレ端部411は、開口425の先端側棚部426を超えない、すなわち先端側棚部426において終了する。図3Cに示す別の実施形態では、カニューレ端部411は開口425の先端側棚部426の手前で、すなわちその先端側で終了する。この実施形態では、穴またはチャネル427により、カニューレ端部411と開口425が連通する。
【0036】
本発明はまた、特に針本体420およびカニューレ410が組み立てられる、または製造される方法に関して、針本体420の様々な実施形態を想定する。概して、針本体420およびカニューレ410は別個の構成要素であってもよいし、あるいは共成形もしくはデュアルショット組立または製造工程による事前に形成された単一構造体であってもよい。
【0037】
図4に示す実施形態では、針本体420はカニューレ410に対する「オーバーモールド」である。このオーバーモールドは比較的迅速な一段階の組立工程を提供する。図5に示す代替実施形態では、針本体420は別個の本体部材440A,440Bを備え、それらの本体部材は接着剤によって固着されている。第1針本体部材440Aはカニューレ410に対する「オーバーモールド」であり、一方、第2針本体部材440Bはプランジャー係合部材423を備える。第2針本体部材440Bは針シール430(図示せず)と係合する。この実施形態では、成形中に開口425がカニューレ端部411を支持する必要がないため、死空間を低減する。
【0038】
図6に示す別の実施形態では、カニューレ410は針本体420の穴427内に接着され得る。穴427は穿設または成形されてもよいし、またはそれらの組み合わせであってもよい。さらに図11に示すように、アダプター300の筒部係合部330の延長部340は筒部110の外壁190に接着されており、その利点はアセンブリの長さが比較的短くなることである。
【0039】
格納式針400および針シール430の別の実施形態を図7に記載する。この実施形態では、格納式針400は、カニューレ410と、細長部421および基端部422を有する針本体420とを備える。前記基端部422は、プランジャー係合部材423、胴部または拡径部1422における周囲リブ428A,428B、および開口425を備える。針シール430は、筒部110の内壁118および周方向溝435A,435Bに対する流体シールを容易にする密閉リブ433A,433Bを有する本体431を備える。格納式針400Bの周囲リブ428A,428Bは、後退前に初めは格納式針400の保持を容易にするが、後退中には格納式針400の針シール430からの効率的で円滑な解放を容易にする方法で、針シール430の周方向溝435A,435Bと解放可能に係合する。
【0040】
また当然のことながら、アダプター300、針シール430および筒部110の間の係合は変更されてもよい。図8および図10において、アダプター300の延長部340は、筒部110の内壁118と針シール430との間に接着されている。図10では、アダプター300の筒部係合部330の延長部340は、筒部110の外壁190に接着されており、その利点はアセンブリの長さが比較的短くなることである。当然のことながら、筒部アダプター300と格納式針本体420との間の係合も変更されてもよい。図2図6図9および図10に示した実施形態では、挿口311は基端方向に(つまり使用者の方に)突出しているが、図8では、挿口311が針本体420と係合するように先端方向に(つまり使用者から離れて)突出する別例が想定されている。
【0041】
特に図11および図12に言及すると、プランジャー200は、シャフト211、環状棚部212およびシール係合部材216を有するプランジャー部材210を備える。シール係合部材216は、この実施形態では、プランジャーシール800の相補的凹部820と係合するねじ山付き突出部(screw−threaded projection)217である。代替実施形態において、シール係合部材216は、プランジャーシール800内の相補的凹部と係合するスナップロック突出部の形態にあってもよい。特に図12を参照すると、プランジャーシール800は単一構造であり、プランジャー200と筒部110の内壁118との間を液密封止(fluid−tight seal)するシール本体840および密閉リブ850A,850B,850Cを備える。プランジャーシール800の凹部820は、プランジャー部材210の相補的シール係合部材216と係合する。この実施形態では、凹部820は、プランジャー部材の雄ねじ山付き突出部217と係合する雌ねじ山821を備える。プランジャーシール800は針本体420のプランジャー係合部材421を受け入れることができるフランジ811を備えた凹座部(recessed seat)810の形態にある針係合部材をさらに備える。
【0042】
特に図11を参照すると、プランジャー部材210はさらに係止溝(locking groove)219を備える。係止溝219の機能について以下により詳細に記載する。プランジャー200は、基部225と頭部222とを備えた細長本体221を有するプランジャー外装部220をさらに備え、頭部222はキャップ223と嵌合している。第1係止部材(locking member)は、頭部222およびキャップ223を通って延びるスロット226を介して取り付けられ、それによりプランジャー200の組み立てを支援するロックスプリング224を備える。ロックスプリング224および係止溝219は、後退の終了時に、プランジャー部材210とプランジャー外装部220とを一緒にロックするように協働する。
【0043】
細長本体221は、国際特許出願番号第WO2011/137488号に記載されている支持台(abutment)を有するロックキングフィンガーを含む第2係止部材をさらに備える。前記ロックキングフィンガーとカラー113の解放リング130との間の係合は、本質的に国際特許出願番号第WO2011/137488号に述べられている通りである。制御部材230は、ボタン231、アーム232およびシャフト233を備える。プランジャー200は、プランジャー部材210とプランジャー外装部220との間に取り付けられ、プランジャー部材210の環状棚部212とプランジャー外装部220の基部225との間で初期圧縮状態に保持されている圧縮されたばね270をさらに備える。ボタン231は、使用者に対する感触および握りを向上させるためにテクスチャ表面(textured surface)を有してもよい。制御部材230はまた、プランジャー外装部220と解放可能に係合し、それによりばね270を、プランジャー部材210の環状棚部212とプランジャー外装部220の基部225との間で初期圧縮状態に保持する。最初は、アーム232の棚部235は、プランジャー外装部220の頭部222のリム229に当接し、それにより制御部材230を保持し、かつ、プランジャー外装部220に対する制御部材230の軸線方向の移動を防止する。しかしながら、制御部材230のアーム232は、国際特許出願番号第WO2011/137488号に記載されているように、弾性的に可撓性であり、ばね270の復元を促進するために、制御部材230と離脱してプランジャー外装部220から移動可能である。
【0044】
格納式針400の後退を促進するために、格納式針400が針シール430から脱係合する事象のシーケンスは以下の通りである。一般的には、注射器100は送出するための流動性内容物によって充填済みの状態で提供される。したがって、プランジャー200は、注射器100の流動性内容物を送出するために押下される状態にある(ready for depression)初期位置において提供される。流動性内容物の送出中、プランジャー200は、プランジャーシール800の凹座部810があご状構造(barb−like in structure)であるプランジャー係合部材423と連結されるまで、筒部110内を図13に示した実線矢印の方向の軸線方向に移動し、それにより針本体420とプランジャー部材210とを連結する。
【0045】
プランジャー200は、シール800が針シール430に当接し続けるように、軸線方向に移動し続ける。針シール430は、筒部アダプター300に対して軸線方向に移動できないため、針シール430の本体431は、制御部材230のアーム232をカラー113の解放リング130と接触させるのに十分なほど圧縮し、それによりアーム232の棚部235をプランジャー外装部220の頭部222のリム229から脱係合させる。これは、制御部材230のプランジャー外装部220からの脱係合を可能にし、針アセンブリ400を注射器100の筒部110内に後退させるために針本体420を針シール430から脱係合させる(引き抜く)ように機能するばね270の復元を促進する。
【0046】
本質的には国際特許出願番号第WO2011/137488号に記載されているように、流動性内容物の注入の終了時に、プランジャー外装部220のロッキングフィンガー227の支持台228は解放リング130の下面131と係合し、それによりプランジャー外装部220の筒部110からの移動を防止する。プランジャー部材210に連結された格納式針本体420およびカニューレ410が後退するためには、圧縮されたばね270が復元しなければならない。これはプランジャー部材210がプランジャー外装部220から脱係合することによって促進される。制御部材230のアーム232は、筒部110のプランジャー端部114にあるカラー113の解放リング130に当接する。解放リング130は、アーム232を半径方向内側に移動させて、プランジャー外装部220の頭部222のリム229と脱係合させる。この脱係合は、国際特許出願番号第WO2011/137488号に本質的に記載されているように、圧縮されたばね270が復元してプランジャー部材210の棚部212を押すことにより、プランジャー部材210をそれに連結された制御部材230によって後退させることを可能にする。針の後退はばね270の復元によって「自動的に」駆動されるが、後退の速度は、使用者が制御部材230のボタン231に対する圧力(例えば親指の圧力による)を緩めることによって調節することができる。
【0047】
プランジャー部材210の後退の終了時において、プランジャー外装部220および/または筒部110に対するプランジャー部材210のさらなる移動は、プランジャー部材210内の係止溝219のまわりに「スナップロックする(snap locking)」ロックスプリング224によって防止される。後退の終了時におけるプランジャー部材210のロックは、プランジャー部材210のプランジャー外装部220からの不注意な離脱を防止し、またプランジャー部材210の不注意な押下も防止する。この不注意な離脱および押下の双方は、カニューレ端部411を露出させて、使用者を潜在的な針指し損傷に晒すものである。
【0048】
後退の終了時に、制御部材230は格納式注射器100から手動で取り外され、「汚染されていない(clean)」廃棄物として廃棄することができ、そのため、プランジャー200を筒部110に押し戻そうとしたり、針(図示せず)に再係合させようとする、プランジャー外装部220から外部に突出するプランジャー220は、ほとんど存在しない。
【0049】
本発明は、プランジャーシール800と針本体420との間の向上した係合についても想定する。図13および図14Aでは、プランジャー係合部材423は、傾斜した肩部428を有するあご状構造である。図14Bでは、プランジャーに係合する部材423は、あご状構造であるが、プランジャーシール800が針の後退の前にプランジャー係合部材423に係合して「捕捉する」するために必要な力を低減するために、面取り面429を有する。
【0050】
図15に示す一実施形態では、針本体420は、フック端部461A,461Bを有するプランジャー係合部材423を備える。フック端部461A,461Bは、係合された時にプランジャーシール800に「食い込む(digging into)」またはプランジャーシール800を「掴持する(grabbing)」ことによって、プランジャーシール800とより効果的に係合し得る。
【0051】
図16に示す別の実施形態では、針本体420は、弾性のある可撓性アーム461A,461Bを有するプランジャー係合部材423を備える。プランジャーシール800は、可撓性アーム461A,461Bを受け入れて係合する針係合部材810を備える。可撓性アーム461A,461Bは、半径方向内側に(影付き矢印(hatched arrows)によって示すように)効果的に旋回して、針係合部材810のネックキャビティ811に進入し、その後、針係合部材810の針係合部材810のヘッドキャビティ812内においていったん半径方向外側に旋回する。可撓性アーム461A,461Bはそれぞれ、ヘッドキャビティ812の内壁813に食い込むことによってプランジャーシール800(典型的にはゴムから形成)と効果的に係合する鋭端部462A,462Bを備える。
【0052】
また当然のことながら、プランジャーシール800における針係合部材810の軸線方向の配置は、使用者によって掛けられる力(例えばピーク使用者力(Peak User Force)、すなわち「PUF」)の量を低減するように選択されてもよい。典型的には、針係合部材810がプランジャーシール800において使用者に対してより先端側に位置するほど、前記針係合部材は針本体420とより早期に係合する。したがって、当業者は、プランジャーシール800内における針係部材810の適切な先端側の位置を保証することによって、(i)針本体420のプランジャーシール800との係合と、(ii)(前述したように)ばね70の復元を可能にするプランジャー外装部220および制御部材230の解放とを、より効果的に一時的に分離し得る。これは(i)と(ii)の双方が同時(その場合にはピーク使用者力の合計は(i)および(ii)に必要とされる力の和となる)には起こらないが、代りに連続して起こることを保証し、それによりPUFの合計を低減する。適切には、針本体420のプランジャーシール800との係合は、プランジャー外装部220および制御部材230の解放のわずかに前に生じ、そのため針本体420は後退が起こり得る前にプランジャーシール800によって完全に係合される。
【0053】
典型的には、図1に示すように、ガラス筒部110はほぼ円筒形であるが、本発明は任意のガラス筒部形状に関して実施することができる。一実施形態では、筒部110は、プランジャーシール800の回転を防止するために楕円形断面を有し、それによりプランジャーシール800とプランジャー部材210との間におけるより信頼性の高い螺合(threading engagement)を容易にする。楕円筒部110は、トーションクラッチによって設定された、プランジャー部材210のプランジャーシール800への機械による螺入(machine screwing)を容易にする。その場合、プランジャーシール800は常に楕円筒部110内において回転するのを止められているため、すべてのプランジャー部材210は、同じねじり力で螺入し(screw in)、したがって、あらかじめ設定された力でドライバーは停止し、すべてのアセンブリは同一になる。この実施形態は、楕円筒部110および楕円形を有するプランジャーシール800も想定する。例として、非常にわずかな程度の楕円を提供するために、筒部110を熱して、わずかに平らにすることが可能であり、そのため、プランジャーシール800は螺着工程(threading process)の間にそのシール機能を維持する。
【0054】
ガラス筒部110に関連して、通常、ガラス筒部の長さに対する製造公差は+/−0.5mmであり、+/−0.1mmの軸線方向の公差が達成可能であるプラスチック射出成形よりもはるかに大きい。これは、後退を行うタイミングが安全に後退するためには重要であることから、格納式注射器100において問題になり得る。課題は、以下の通りである。
【0055】
(a)薬物投与量は、後退の前に、最小の死空間で、常に完全に送出されなければならない。
(b)プランジャーシール800は、後退ばね270が復元する前に、針本体420に完全に係合して針本体420を捕捉しなければならない。
【0056】
(c)針本体420は、後退が起こったときに針本体420がプランジャー200によって後退させられることを保証するために、プランジャーシール800によって常に係合されなければならない(例えば、1,000,000回の注射中4回以下の不具合は商業的に許容可能であろう)。
【0057】
(d)プランジャーシール800による針本体420の係合は、筒部110の針端部105において生じるが、アーム232が解放リング130に接触することによるばねの解放は筒部110のプランジャー端部104において生じる。+/−0.5mLであるガラス筒部の公差のために、これらの2つの動作のタイミングは制御することが困難である。
【0058】
本発明の実施形態は、ガラス公差の問題への解決策を提供する。この実施形態によれば、解放リング130および筒部アダプター300を備えたカラー113は、+/−0.05mmの公差で、カラー113とアダプター300との間に一定の距離を設定するために、治具および取付具を用いてガラス筒部110に接着されることによって、より大きなガラス筒部の公差を克服する。
【0059】
本発明の特定の実施形態は、さらにばね270復元の作動に関係する問題に対処する。国際特許出願番号第WO2011/137488号に記載されているような先行技術の格納式注射器では、ばね270はプランジャー200内で初期圧縮されているが、ばね270の復元および針400の後退の作動の直前に、針本体420の係合後のプランジャー200押下の終わり近くに、ばね270のさらなる圧縮が存在する。このさらなるばね270の圧縮は、解放リング130が制御部材230のアーム232を半径方向内側に移動させて、プランジャー外装部220の頭部222のリム229と離脱する際に起こる。解放リングによるアーム232の移動は、ばね270のさらなる軸線方向の圧縮を必要とする棚部235のいくらかの角度をなした「上向き」または基端方向の移動(すなわち使用者に向かう)を伴う。
【0060】
ばね270のこの付加的な圧縮は、使用者によって加えられる付加的力を必要とする。
図17は、上述の角度をなした「上向き」または基端方向の移動を排除または低減することによるこの問題の解決策の実施形態を示している。前記角度をなした「上向き」または基端方向の移動は、制御部材230およびプランジャー外装部220の解放を促進し、ばね270(図示せず)が復元することを可能にする、タング295の本質的な側方移動と置き換えられる。この脱係合を引き起こす全体に側方の移動は、制御部材230のさらなる軸線方向の進行および後退ばね270のさらなる圧縮を防止する。
【0061】
一実施形態では、タング295は、中間付勢部材297によって制御部材1230に接続されている。中間付勢部材297は、この実施形態ではコイルスプリングである。タング295の傾斜面296は解放リング130に当接し、プランジャー外装部220の頭部222との係合から実線矢印の方向にばね297に対して側方に移動する。
【0062】
別の実施形態では、タング295はプランジャー外装部220の頭部222の構成要素であり、初期には制御部材230の凹部298と係合している。解放リング130は頭部222に当接し、それによりタング295を実線矢印の方向において制御部材230の凹部298との係合から外れるように側方に移動させる。この実施形態では、タング295は、制御部材230の凹部298との係合から外れて側方に移動することができるように、頭部222に蝶番式に接続されている。
【0063】
図18を参照すると、本発明はまた、ばね270が内側部材276および外側部材277を備えた固定装置275内に位置し、内側部材276および外側部材277は初期係合形態においてばね270を圧縮状態に保持する実施形態を提供する。固定装置275は制御部材230に取り付けられており、プランジャー200の押下の終了時に、内側部材276および外側部材277は軸線方向に脱係合して、ばね270の復元を可能にし、制御部材230およびプランジャー部材210を、プランジャー部材210に連結された針400とともに後退させる。内側部材276は、制御部材230を実線矢印の方向に後退させながら、軸線方向かつ基端方向に(つまり使用者の方に)移動し、最終的に外側部材277とインターロックする。プランジャー部材210の係止アーム(locking arm)244は、プランジャー200が筒部110から引き抜かれるのを防止するために、カラー113の下でロックする。この実施形態は、例えば、国際特許出願番号第WO2011/137488号の図6に示されている実施形態において使用されているものよりも、より大きな後退ばね270の使用を可能にする。さらに、プランジャー部材210とプランジャー外装部220との間に後退ばね270のための空間を提供する必要がないため、プランジャー内側部材210は直径が(例えば国際特許出願番号第WO2011/137488号の図6中のそれと比較して)相対的に増大され得る。したがって、プランジャー部材210は筒部110内で「ぴったりと(snag)」嵌合し、それによりプランジャー部材210の揺動を低減して安定性を増大させるとともに、「ロックアウト」タブの組み込みおよび「発射(shooting)」を防止できるようにする。
【0064】
プランジャー200の別の実施形態が考えられ、該実施形態ではプランジャー部材210は、プランジャーシール800に接し、プランジャー200の軸線方向移動中のプランジャー部材210の揺動および傾斜を低減するように作用するフランジをシャフト211上にさらに備える。前記フランジはさらにプランジャー部材210の「発射」を防止するようにも作用する。
【0065】
前述を考慮すれば、当然のことながら、本発明は、格納式注射器の流動性内容物の送出を促進する改良された格納式針を提供する。格納式針開口は、流体の送出の効率を最大にし、かつ、多くの格納式注射器に関連した目に見える「死容積」を排除するように配置される。さらに、開口を有する格納式針は、既知の注射器において一般的に見られる目に見える気泡を排除することによって、使用者による正確な投与量制御を可能にする。
【0066】
また、前記格納式針およびカラーは、注射筒部に既に嵌合されており、製薬会社が改造を必要とすることなく、通常の充填製造ラインにおいて筒部を充填することを可能にする。
【0067】
さらに、本発明の他の実施形態は、軸線方向移動中にあまり揺動および/または傾斜を示さない改良されたプランジャー、流体消耗が最小限にされる改良された針アセンブリ、針とプランジャーシールとの間の改良された連結、プランジャーシールとプランジャーとの間の改良された接続、注射器の再使用を防止する改良されたプランジャーロックアウト、初期圧縮されたばねの収容および/またはばね復元の作動のための改良されたシステムを提供するが、これらに限定されるものではない。
【0068】
本願に記載した実施形態の各々は、単独で、あるいは格納式注射器における1つ以上の他の実施形態と組み合わせて使用されてもよい。
明細書の全体にわたって、本発明を特徴のいずれか1つの実施形態または特定の集合に限定することなく、本発明の好ましい実施形態を説明することを目標としてきた。本発明から逸脱することなく、記載および図示した実施形態に対して様々な変更および改変がなされ得る。
【0069】
この明細書に引用された各特許および科学文書、コンピュータプログラム、およびアルゴリズムの開示は、参照により余すところなく援用される。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18