(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記流体は、脈動基準信号に基づいた脈動をしつつ前記流路内を流れる流体であって、前記タイミング信号送信部が、該脈動基準信号の周波数の有理数倍の周波数でタイミング信号を送信するよう構成された
ことを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【背景技術】
【0002】
流量計測方法としては既にさまざまな方法が提案されているが、従来の流量計測方法では、計測方法自体の特性に起因して減衰や位相遅れが発生する場合が多いため、限定的な条件を除いて脈動する流量を計測することができないという課題があった(
図1)。以下、従来の流量計測方法のうち幾つかを概観する。
【0003】
非特許文献1では、電磁方式の流量計測装置を用いて50Hz程度までの脈動流を計測した例が開示されている。電磁方式は機械的可動部等を持たないため、比較的低い周波数であれば減衰や位相遅れは小さいと考えられる。ただし、その原理上、適用できるのは導電性がある流体(典型的には水)に限定される。
【0004】
非特許文献2,3では、超音波方式の流量計測装置を用いて液体窒素の脈動流を計測した例が開示されている。超音波方式は、超音波が伝播する限り、あらゆる流体に適用することができる。また、機械的可動部等を持たないため、原理的には減衰や位相遅れは小さい。ただし、超音波信号を流量値に変換するために高負荷の演算が必要であり、計測中に逐次演算を実行して流量信号を出力する場合、演算時間に応じた位相遅れが発生する。例えば
図2に示されるように、実際の流量が(1)で示されるとおりの時間変化(横軸は時間を表わす。)をする場合に、(2)で示される、適当な時間間隔が空けられた各タイミングで流体中に超音波を送信し、流体中を伝播した超音波を受信して、(3)で示されるとおり取得した超音波信号を逐次演算して流量値に変換し、(4)で示されるとおり変換が完了した時点で流量信号を記録すれば、(5)で示されるとおり流量の時間変化を表わすグラフが得られるが、記録した流量信号には演算時間に応じた位相遅れが含まれている。この位相遅れを低減するためには単純で負荷の低い演算方法を採用する必要があるが、ノイズ等に弱く、必ずしも正しく流量値に変換できないという課題がある。
【0005】
非特許文献4,5では、流路の二点間の圧力差から流量を求めた例が開示されている。一般に、流量計測と比較して、圧力計測の減衰や位相遅れは小さい。ただし、圧力差から流量を求めるためには流路抵抗や流体慣性を知る必要があるが、これらを直接計測することは困難であるため、理論値等を仮定しなければならないという課題がある。
【0006】
特許文献1,2では、自動車エンジンの吸排気を例として、脈動の1周期毎に1点ずつ流量を計測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2001/010031号明細書
【特許文献2】特開2001−208584号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Brennen, C. E., Meissner, C., Lo, E. Y. and Holfman, G. S. “Scale Effects in the Dynamic Transfer Functions for Cavitating Inducers” Journal of Fluids Engineering, Vol.104, pp.428-433, 1982
【非特許文献2】Shimura, T. and Kamijo, K. “Dynamic Response of the LE-5 Rocket Engine Liquid Oxygen Pump” Journal of Spacecraft and Rockets, Vol.22, No.2, pp.195-200, 1985
【非特許文献3】Shimura, T. “Geometry Effects in the Dynamic Response of Cavitating LE-7 Liquid Oxygen Pump” Journal of Propulsion and Power, Vol.11, No.2, pp.330-336, 1995
【非特許文献4】Hori, S. “Advanced Stability Analysis of Propulsion System for Future Launch Vehicles” Proceedings of Asian Joint Conference on Propulsion and Power, 2010
【非特許文献5】Hori, S. and Brennen, C. E. “Dynamic Response to Global Oscillation of Propulsion Systems with Cavitating Pumps” Journal of Spacecraft and Rockets, Vol.48, No.4, pp.599-608, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上に鑑み、本発明は、流体に導電性が必要とされたり、演算時間に応じた位相遅れが発生したり、流路抵抗や流体慣性の仮定を必要としたりすることがなく、一般的な条件で脈動する流量を計測できる方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、流路内を脈動しつつ流れる流体に超音波を送信し、超音波を受信して、超音波の送受信を示す信号を記録する段階と、超音波の送信及び受信が行われたタイミングを示すタイミング信号を記録する段階とを所定回数繰り返した後に、記録された超音波の送受信を示す信号の少なくとも一部に基づき、超音波の送受信を示す信号の少なくとも一部に対応する流量を決定し、記録されたタイミング信号の少なくとも一部に基づき、タイミング信号の少なくとも一部に対応する、超音波の送受信タイミングを決定し、決定された流量の各々、及び決定された送受信タイミングの各々に基づき、流体の流量の脈動を構成することを特徴とする、流量計測方法を提供する。
【0011】
また本発明は、所定のタイミングでタイミング信号を送信する段階と、送信されたタイミング信号に応答して、流路内を脈動しつつ流れる流体に超音波を送信し、超音波を受信して、超音波の送受信を示す信号を記録する段階と、を所定回数繰り返した後に、記録された超音波の送受信を示す信号の少なくとも一部に基づき、超音波の送受信を示す信号の少なくとも一部に対応する流量を決定し、タイミング信号の少なくとも一部に基づき、タイミング信号の少なくとも一部に対応する、超音波の送受信タイミングを決定し、決定された流量の各々、及び決定された送受信タイミングの各々に基づき、流体の流量の脈動を構成することを特徴とする、流量計測方法を提供する。
【0012】
上記方法において、流体が脈動基準信号に基づいた脈動をしつつ流路内を流れる流体である場合には、タイミング信号を、脈動基準信号の周波数の有理数倍の周波数で送信することが好ましい。
【0013】
さらに本発明は、流路内を脈動しつつ流れる流体に超音波を送信し、超音波を受信する超音波送受信部と、超音波の送受信を示す信号を記録する、超音波送受信信号記録部と、超音波の送信及び受信が行われたタイミングを示すタイミング信号を記録する、タイミング信号記録部と、超音波の送受信を示す信号に基づき、流量を決定する流量決定部と、タイミング信号に基づき、超音波の送受信タイミングを決定する、超音波送受信タイミング決定部と流量決定部により決定された流量の各々、及び超音波送受信タイミング決定部により決定された超音波送受信タイミングの各々に基づき、流体の流量の脈動を構成する脈動構成部とを備え、超音波送受信部による、超音波の送受信と、超音波送受信信号記録部による、超音波の送受信を示す信号の記録と、タイミング信号記録部による、タイミング信号の記録とを所定回数繰り返した後に、記録された超音波の送受信を示す信号の少なくとも一部に基づき、超音波の送受信を示す信号の少なくとも一部に対応する流量を流量決定部が決定し、記録されたタイミング信号の少なくとも一部に基づき、タイミング信号の少なくとも一部に対応する、超音波の送受信タイミングを、超音波送受信タイミング決定部が決定し、決定された流量の各々、及び決定された送受信タイミングの各々に基づき、流体の流量の脈動を脈動構成部が構成するよう構成されたことを特徴とする、流量計測装置を提供する。
【0014】
また本発明は、所定のタイミングでタイミング信号を送信する、タイミング信号送信部と、送信されたタイミング信号に応答して、流路内を脈動しつつ流れる流体に超音波を送信し、超音波を受信する超音波送受信部と、超音波の送受信を示す信号を記録する、超音波送受信信号記録部と、超音波の送受信を示す信号に基づき、流量を決定する流量決定部と、タイミング信号に基づき、超音波の送受信タイミングを決定する、超音波送受信タイミング決定部と流量決定部により決定された流量の各々、及び超音波送受信タイミング決定部により決定された超音波送受信タイミングの各々に基づき、流体の流量の脈動を構成する脈動構成部とを備え、タイミング信号送信部による、タイミング信号の送信と、超音波送受信部による、送信されたタイミング信号に応答した超音波の送受信と、超音波送受信信号記録部による、超音波の送受信を示す信号の記録と、を所定回数繰り返した後に、記録された超音波の送受信を示す信号の少なくとも一部に基づき、超音波の送受信を示す信号の少なくとも一部に対応する流量を流量決定部が決定し、タイミング信号の少なくとも一部に基づき、タイミング信号の少なくとも一部に対応する、超音波の送受信タイミングを、超音波送受信タイミング決定部が決定し、決定された流量の各々、及び決定された送受信タイミングの各々に基づき、流体の流量の脈動を脈動構成部が構成するよう構成されたことを特徴とする、流量計測装置を提供する。
【0015】
上記装置において、流体が脈動基準信号に基づいた脈動をしつつ流路内を流れる流体である場合には、タイミング信号送信部が、タイミング信号を脈動基準信号の周波数の有理数倍の周波数で送信することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の流量計測方法、流量計測装置は超音波方式を採用しており、超音波が伝播する限り、あらゆる流体に適用することができる。また、機械的可動部等を要しないため、原理的に減衰や位相遅れは小さい。本発明では流量値とは独立に超音波の送受信タイミングを求めることができるため、超音波信号の演算負荷によらず位相遅れのない脈動を得ることができる。
【0017】
さらに、タイミング信号を脈動基準信号の有理数倍の周波数で位相同期した場合、脈動周波数が大きく変化する場合でも必要十分なサンプリング速度を維持することができる。この場合、脈動波長の整数倍の長さの位相同期した区間で離散フーリエ変換が可能となるため、流量の振幅及び位相を高精度で求めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
これより図面を用いて、本発明の流量計測方法、流量計測装置の具体例を説明する。但し、本発明の流量計測方法、流量計測装置は、以下に説明する具体的態様に限定されるわけではなく、本発明の範囲内で適宜変更可能である。例えば、以下の実施例では、流路配管に2つの超音波素子を設置し、超音波素子間での双方向における超音波伝播時間の差から流量を決定する方式(伝播時間差方式)を用いるが、この方式に限らず、不透明な液体に適したパルスドップラー方式など、超音波を流体に送信し、その結果に基づく演算で流量を決定する方式であれば任意の方式を用いてよい。また、
図6,
図8,
図9で示される各回路は、物理的に隔離された別個の回路であってもよいし、1つの回路中で各機能を担う概念的機能部であってもよい。本発明を実施するために行われるそれぞれの処理を、1以上の任意の要素に対して任意に分配することが可能である。
【0020】
本発明による流量計測の原理
具体例を説明するに先立ち、本発明による流量計測の原理を、
図3〜
図5を用いて詳しく説明する。
図3は、本発明の流量計測方法の一般的原理を示している。
【0021】
まず、超音波信号の送受信に応答してタイミング信号を記録する方式について説明する。
図3中、(1)が、脈動する流体の実際の流量(横軸が時間を表わす。)を示すグラフである。(2)が示すとおりの適当な時間間隔(等間隔である必要はない)で流体中に超音波が送信され、流体中を伝播した超音波が受信される。本発明においては、取得した超音波信号を逐次演算して流量を決定することはせず、一旦、超音波の送受信を示す信号(各超音波素子が送受信した超音波の波形、各超音波素子における送信時刻、受信時刻を示す信号、各送受信に要した時間を示す信号等、任意の信号であってよい。)を記録する。さらにこのとき、(2*)が示すような、超音波の送受信タイミングを示すタイミング信号(
図3に示されるパルス波形信号でもよいし、各波形パルスが生成された時刻を示す信号等であってもよい。)を記録しておく。
【0022】
上記超音波の送受信、超音波の送受信を示す信号の記録、及びタイミング信号の記録を所定回数繰り返す。その後、(3)で示されるとおり、記録された超音波の送受信を示す信号を演算して流量の瞬間値に変換する。具体的演算は、伝播時間差方式を用いるのであれば後述の式(1)による単純な演算であってよいが、管路の形状、流速分布、その他各種要因に基づく補正を含む演算であってもよい。特に本発明においては、演算が複雑で処理時間を要するものであるほど、従来技術に対して位相遅れを防ぐことができるため有利である。さらに(3*)で示されるとおり、記録されたタイミング信号から、超音波の送受信各々に対する送受信タイミングを決定する。タイミング信号がパルス波形信号として記録されている場合には、パルスがピークを迎えた時刻を送受信タイミングと決定してもよいし、タイミング信号として、各波形パルスが生成された時刻を示す信号が記録されている場合は、当該時刻を送受信タイミングと決定してもよい。なお、超音波の送受信と、(2*)のパルス波形信号の発生との間に時間差が生じる場合には、パルスのピーク時刻よりも所定時間早い時刻を「送受信タイミング」とするなど、適宜補正を加えてもよい。
【0023】
記録された超音波の送受信を示す信号の各々を演算して流量を決定し、記録されたタイミング信号の各々から、超音波の送受信各々に対する送受信タイミングを決定する。なお、記録された超音波の送受信を示す信号、記録されたタイミング信号の全てについて、流量と送受信タイミングとを決定する必要はなく、要求される計測精度等に応じて記録された信号の一部の処理を省いてもよい。
【0024】
(4)に示されるとおり、決定された流量の各々、及び決定された送受信タイミングの各々を対応付けることで、流量の脈動を構成することができる。従来は、超音波の送受信を行うたびに逐次流量を決定していたため、流量の脈動として得られるグラフは、流量の瞬間値と「流量が決定された時刻」の関係を表わすものであったが、本発明においては記録したタイミング信号から送受信タイミングを決定して流量と対応付けるため、(5)に示されるとおり、超音波信号の演算負荷によらず位相遅れのない脈動を得ることができる。
【0025】
次に、タイミング信号に応答して超音波信号を送受信し、超音波の送受信を示す信号を記録する方式について説明する。この方式では、
図3中(2*)が示すタイミング信号が予め設定された所定のタイミングで超音波送受信回路等に送信され、このタイミング信号に応答して、(2)が示す各タイミングで流体中に超音波が送信され、流体中を伝播した超音波が受信される。本方式においても逐次流量を決定はせず、超音波の送受信を示す信号が記録される。
【0026】
上記タイミング信号の送信、超音波の送受信、及び超音波の送受信を示す信号の記録を所定回数繰り返す。その後、(3)で示されるとおり、記録された超音波の送受信を示す信号を演算して流量の瞬間値に変換する。さらに(3*)で示されるとおり、上記所定のタイミングで送信されたタイミング信号(タイミング信号送信回路等に予め記録されているとする。)から、超音波の送受信各々に対する送受信タイミングを決定する。なお、超音波信号の送受信に応答してタイミング信号を記録する方式と同様に、要求される計測精度等に応じて記録された各種信号の一部の処理を省いてもよい。
【0027】
(4)に示されるとおり、決定された流量の各々、及び決定された送受信タイミングの各々を対応付けることで、流量の脈動を構成することができる。(5)に示されるとおり、超音波信号の演算負荷によらず位相遅れのない脈動を得ることができる。
【0028】
なお、タイミング信号に応答して超音波信号を送受信し、超音波の送受信を示す信号を記録する方式において、特に流体が任意の脈動基準信号に基づいた脈動をしている場合には、タイミング信号の周波数を脈動基準信号の周波数の有理数倍とすることが好ましい。タイミング信号の周波数が脈動基準信号の周波数の有理数倍となっていない場合、なっている場合のそれぞれを比較することにより、このことを説明する。
【0029】
図4は、脈動基準信号とタイミング信号とが位相同期しない(周波数が有理数倍の関係にない)場合の流量計測を示す概念図である。(1)に示す脈動基準信号により、アクチュエータ等の脈動源が駆動されて、流体に脈動が印加される。このときの流量が(3)で表わされる。アクチュエータの反応時間、流体の慣性等に起因して、実際の脈動は脈動基準信号よりも遅れるのが通常である。(2)に示す、等間隔のタイミング信号は脈動基準信号に位相同期されてはおらず、したがって超音波の送受信タイミングも脈動に位相同期したものとはならない。超音波の送受信を示す信号から流量を決定し、タイミング信号から超音波の送受信タイミングを決定することで(4)に示すとおり脈動を構成できるが、必ずしも脈動周期の整数倍の区間で離散フーリエ変換を行うことができないため、正確に脈動周波数に対する流量の振幅及び位相を得ることはできない。
【0030】
図5は、脈動基準信号とタイミング信号とが位相同期する(周波数が有理数倍の関係にある)場合の流量計測を示す概念図である。
図4の場合と同様に、(1)に示す脈動基準信号によりアクチュエータ等の脈動源が駆動されて、流体に脈動が印加される。このときの流量が(3)で表わされる。(2)に示す等間隔のタイミング信号は脈動基準信号に位相同期されており、この例では脈動基準信号の3周期がタイミング信号の10周期に一致する。超音波の送受信を示す信号から流量を決定し、タイミング信号から超音波の送受信タイミングを決定することで(4)に示すとおり脈動を構成でき、さらに、(5)で示す脈動周期のちょうど整数倍の期間について、(4)に示す離散的な流量を離散フーリエ変換することにより、正確に脈動周波数に対する流量の振幅及び位相を高精度で求めることができる。具体的には、(5)の期間に亘る周期をTとし、当該周期中の各送受信タイミングをt
j(j=0,1,…,9)とし(11番目の送信タイミングは計算に不要である。)、t
jにおける流量値をf
jとすれば、N=10として
【数1】
と、n=0,1,・・・N−1についての離散フーリエ係数c
nが得られ、これを用いて、時刻tに依存する流量f(t)を
【数2】
と表わすことができる。
【実施例1】
【0031】
本発明による流量計測装置の構成
本発明による流量計測装置の一例として、超音波信号の送受信に応答してタイミング信号を記録する方式で流量計測するための装置を
図6に示す。
図6において、流量計測装置は、流路配管1に設置された超音波素子3a,3b及び超音波送受信回路(これらが超音波送受信部を構成する。)、超音波送受信信号記録回路、タイミング信号記録回路、流量演算回路、送受信タイミング演算回路、及び脈動演算回路から構成されている。なお、流路配管1にはアクチュエータが接続されており、アクチュエータ制御回路から送信される脈動基準信号に基づき、アクチュエータがピストン2を周期運動させる等して、流路配管1内の流体には脈動が印加されている。
【0032】
超音波素子3a,3bは、
図7に示すとおり、流路を挟み、角度θで傾斜しつつ対向して配置された超音波素子のペアである。流路を流れる流体に一方の超音波素子が超音波を送信し、この流体を伝播した超音波を他方の超音波素子が受信する。単純な一例においては、特許文献2に記載されているとおり、超音波素子3aから超音波素子3bに対して超音波を送信したとき、長さLの経路を通って超音波素子3bに到達するまでの伝播時間をt
1とし、超音波素子3bから超音波素子3aに対して超音波を送信したとき超音波素子3aに到達するまでの伝播時間をt
2として、以下の式(1)により流速Vを決定し、この流速Vに流路配管1の断面積を乗じる等の演算により、流量の瞬間値を決定することができる。その他、十分なS/N比で伝播時間を求めるために種々の工夫(例えば、超音波信号の相関をとる、複数データを平均化する等)をしてもよい。
【数3】
【0033】
超音波送受信回路は、超音波素子3a,3bに超音波の送信を指示する信号を送信し、超音波素子3a,3bが受信した超音波信号を受信するとともに、タイミング信号記録回路に対して超音波送受信のタイミングを通知する信号を送信し、超音波送受信信号記録回路に対しては超音波の送受信を示す信号を送信する回路である。
【0034】
超音波送受信信号記録回路は、超音波送受信回路から送信された超音波の送受信を示す信号を記録する回路である。一例においては、上記式(1)中のt
1,t
2を示す信号が超音波送受信回路から送信されて、超音波送受信信号記録回路に記録される。
【0035】
タイミング信号記録回路は、超音波の送受信タイミングを示すタイミング信号を記録する回路である。一例においては、超音波送受信回路から、超音波の送受信のタイミングを通知する信号を受信したときに、タイミング信号記録回路が
図3等に示すパルス波形信号を生成し、これを記録する。
【0036】
流量演算回路は、超音波送受信信号記録回路から超音波の送受信を示す信号を受信し、これを演算して流量を決定する回路である。一例において、流量演算回路は、超音波送受信信号記録回路から上記式(1)中のt
1,t
2を示す信号を受信して、上記式(1)に基づいて流速を決定し、この流速に流路配管1の断面積を乗じる等の演算により流量の瞬間値を決定する。
【0037】
送受信タイミング演算回路は、タイミング信号記録回路に記録されたタイミング信号に基づき、超音波の送受信タイミングを決定する回路である。一例において、送受信タイミング演算回路は、タイミング信号記録回路から上述のパルス波形信号を受信して、パルスがピークを迎えた時刻値に任意の補正演算を加える等して、送受信タイミングを決定する。
【0038】
脈動演算回路は、流量演算回路により決定された流量の各々、及び送受信タイミング演算回路により決定された送受信タイミングの各々に基づき、流量の脈動を構成する回路である。具体的には、送受信タイミング演算回路により決定された各々の送受信タイミングと、流量演算回路により決定された各々の流量とを対応付けることで流量の経時的変化を決定し、脈動を構成する。
【0039】
本発明による流量計測方法
以下、
図6の流量計測装置を用いて実施可能である、本発明の流量計測方法の一例を説明する。
【0040】
既に述べたとおり、流路配管1内の流体にはアクチュエータにより脈動が印加されている。超音波送受信回路は、超音波素子3a,3bに超音波の送信を指示する信号を送信するとともに、タイミング信号記録回路に対しては超音波送受信のタイミングを通知する信号を送信する。超音波の送信を指示する信号に応答して、超音波素子3aから超音波素子3bに超音波が送信されて、超音波素子3bの受信した超音波信号が超音波送受信回路へと送信される。さらに、超音波素子3bから超音波素子3aに超音波が送信されて、超音波素子3aの受信した超音波信号が超音波送受信回路へと送信される。超音波送受信回路は、超音波素子3a,3bに対して超音波の送信を指示する信号を送信した時刻、及び超音波素子3a,3bからそれぞれ超音波信号を受信した時刻を用いる等して(あるいは、各超音波素子3a,3bにおける超音波の送受信時刻が逐次超音波送受信回路に送信されるよう構成して、これらの差を計算することにより)、超音波素子3a,3b間を各々の方向に超音波が伝播するのに要した時間t
1,t
2を決定し、これを示す信号を超音波送受信信号記録回路に送信する。上記t
1,t
2を示す信号は、超音波送受信信号記録回路に記録される。またタイミング信号記録回路は、超音波送受信回路から受信した、超音波の送受信のタイミングを通知する信号に応答してパルス波形信号を生成し、これを記録する。以上の段階を任意の時間間隔で所定回数繰り返す。
【0041】
流量演算回路は、超音波送受信信号記録回路から、上記所定回数の繰り返し処理の各々に対応した、上記t
1,t
2を示す信号を受信し、上記式(1)を用いて流量の瞬間値を決定する。送受信タイミング演算回路は、タイミング信号記録回路から、上記所定回数の繰り返し処理の各々に対応した上記パルス波形信号を受信し、パルスがピークを迎えた時刻値に任意の補正演算を加える等して、送受信タイミングを決定する。脈動演算回路は、流量演算回路により決定された流量の各々、及び送受信タイミング演算回路により決定された送受信タイミングの各々を受信し、これらを対応付けて流量の脈動を構成する。
【0042】
なお、この例においては超音波送受信回路がt
1,t
2を決定していたが、t
1,t
2の決定を流量演算回路が行ってもよい。例えば、超音波素子3aから超音波信号が送信された時刻、この信号が超音波素子3bにより受信された時刻、及び、超音波素子3bから超音波信号が送信された時刻、この信号が超音波素子3aにより受信された時刻が、超音波の送受信を示す信号として、超音波送受信信号記録回路に記録される場合には、これらの信号が示す時刻の差としてt
1,t
2を決定できる。この点は、以下の実施例2,3においても同様である。
【実施例2】
【0043】
本発明による流量計測装置の構成
次に、本発明による流量計測装置の別の例として、タイミング信号に応答して超音波信号を送受信し、超音波の送受信を示す信号を記録する方式で流量計測するための装置を
図8に示す。
【0044】
図8において、流量計測装置は、タイミング信号送信回路、流路配管1に設置された超音波素子3a,3b及び超音波送受信回路(これらが超音波送受信部を構成する。)、超音波送受信信号記録回路、流量演算回路、送受信タイミング演算回路、及び脈動演算回路から構成されている。
図6の構成と同様に、流路配管1にはアクチュエータが接続されており、アクチュエータ制御回路から送信される脈動基準信号に基づき、アクチュエータがピストン2を周期運動させる等して、流路配管1内の流体には脈動が印加されている。なお、以下において、
図6に示す流量計測装置内の要素と同様の要素については、説明を省略する。
【0045】
タイミング信号送信回路は、超音波送受信回路に対して所定のタイミングでタイミング信号を送信する回路である。一例において、タイミング信号送信回路は所定の周波数で繰り返しパルス波形信号を生成し、超音波送受信回路へと送信する。
【0046】
超音波送受信回路は、タイミング信号送信回路から送信されたタイミング信号に応答して、超音波素子3a,3bに超音波の送信を指示する信号を送信し、超音波素子3a,3bが受信した超音波信号を受信する。また、超音波送受信回路は、超音波送受信信号記録回路に対して、上記式(1)中のt
1,t
2を示す信号のような、超音波の送受信を示す信号を送信する。超音波送受信信号記録回路がこの信号を記録する。
【0047】
流量演算回路は、
図6の構成中の流量演算回路と同様に、超音波送受信信号記録回路から超音波の送受信を示す信号を受信し、これを演算して流量を決定する。送受信タイミング演算回路は、タイミング信号送信回路から送信された、予め設定されたタイミング信号に基づき、超音波の送受信タイミングを決定する。流量、送受信タイミングの具体的決定方法は、
図6の構成において行われていた方法と同様であってよい。脈動演算回路の動作も、
図6の構成におけるものと同様であってよい。
【0048】
本発明による流量計測方法
以下、
図8の流量計測装置を用いて実施可能である、本発明の流量計測方法の一例を説明する。
【0049】
既に述べたとおり、流路配管1内の流体にはアクチュエータにより脈動が印加されている。タイミング信号送信回路は、予め設定された所定のタイミングで、超音波送受信回路に対してタイミング信号を送信する。これに応答して、超音波送受信回路は、超音波素子3a,3bに超音波の送信を指示する信号を送信する。超音波の送信を指示する信号に応答して、超音波素子3aから超音波素子3bに超音波が送信されて、超音波素子3bの受信した超音波信号が超音波送受信回路へと送信される。さらに、超音波素子3bから超音波素子3aに超音波が送信されて、超音波素子3aの受信した超音波信号が超音波送受信回路へと送信される。超音波送受信回路は、超音波素子3a,3bに対して超音波の送信を指示する信号を送信した時刻、及び超音波素子3a,3bからそれぞれ超音波信号を受信した時刻を用いる等して、超音波素子3a,3b間を各々の方向に超音波が伝播するのに要した時間t
1,t
2を決定し、これを示す信号を超音波送受信信号記録回路に送信する。上記t
1,t
2を示す信号は、超音波送受信信号記録回路に記録される。以上の段階を、任意の時間間隔で所定回数繰り返す。
【0050】
流量演算回路は、超音波送受信信号記録回路から、上記所定回数の繰り返し処理の各々に対応した、上記t
1,t
2を示す信号を受信し、上記式(1)を用いて流量の瞬間値を決定する。送受信タイミング演算回路は、タイミング信号送信回路から、上述のタイミング信号を受信し、パルスがピークを迎えた時刻値に任意の補正演算を加える等して、送受信タイミングを決定する。脈動演算回路は、流量演算回路により決定された流量の各々、及び送受信タイミング演算回路により決定された送受信タイミングの各々を受信し、これらを対応付けて流量の脈動を構成する。
【実施例3】
【0051】
図9に、上述の
図8の構成の変形例として、脈動基準信号の周波数の有理数倍の周波数でタイミング信号を送信するための接続態様を示す。
図8の構成に加えて、アクチュエータ制御回路からタイミング信号送信回路に対して、脈動基準信号(又はその周波数を通知する任意の信号)が送信可能な構成となっている。脈動基準信号の周波数の有理数倍の周波数でタイミング信号を送信するよう、タイミング信号送信回路を構成することにより、既に述べたとおり、計測された脈動に対して離散フーリエ変換を行うことが可能となる。
【0052】
なお、以上においては、説明を単純化するために流体の流れが脈動のみであるとしたが、
図10に示されるとおり、定格作動によるバルク流に対する微小外乱として脈動が印加されるシステムにおいても、本発明に従って同様に流量を計測することが可能である。