(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ゲート絶縁層が、1層の共有結合性酸化物膜と、前記共有結合性酸化物膜に接する1層のイオン結合性酸化物層とからなる2層構造を含み、前記共有結合性酸化物膜が前記ゲート絶縁層の前記半導体層の側にある、請求項1に記載された薄膜トランジスタ。
前記ゲート絶縁層が、第1および第2の共有結合性酸化物膜と、前記第1および第2の共有結合性酸化物膜の間にあって、前記第1および第2の共有結合性酸化物膜の少なくとも一つと接している1層のイオン結合性酸化物層とを含む3層構造を含む、請求項1に記載された薄膜トランジスタ。
インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、および錫(Sn)からなる群から選択された少なくとも一つの金属の酸化物と、ジルコニウム(Zr)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、それ以外の希土類元素、アルミニウム(Al)、ボロン(B)、および炭素(C)からなる群から選択された少なくとも一つの元素の酸化物とを含む、半導体層を有する薄膜トランジスタの、前記半導体層と、ゲート電極との間のゲート絶縁層の作製方法であって、
共有結合性酸化物膜を成膜する工程と、
イオン結合性酸化物を堆積する工程と、
を含む、ゲート絶縁層の作製方法であって、
前記共有結合性酸化物膜がSiO2を含み、
前記イオン結合性酸化物が(Ta/Nb)2O5を含む、ゲート絶縁層の作製方法。
前記共有結合性酸化物膜を成膜する工程が第1の共有結合性酸化物膜を成膜する工程であって、前記第1の共有結合性酸化物膜を成膜する工程の後に、前記イオン結合性酸化物を堆積する工程を実行し、
さらに、前記イオン結合性酸化物を堆積する工程の後に、第2の共有結合性酸化物膜を成膜する工程を含む、
請求項9または10に記載されたゲート絶縁層の作製方法。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor(TFT))は、アクティブマトリクス駆動方式を採用する液晶ディスプレイや有機エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence(EL))ディスプレイのスイッチング素子として数多く利用されている。
【0003】
TFTとしては、半導体層(チャネル層)にアモルファスシリコンやポリシリコンを用いたものが知られている。近年では、種々の特性向上を図るため、半導体層にIn(インジウム)−Zn(亜鉛)−O系の金属酸化物やIn−Ga(ガリウム)−Zn−O系の金属酸化物を用いたTFTが検討されている。
【0004】
このような酸化物を用いた薄膜トランジスタはn型伝導であり、アモルファスシリコンやポリシリコンよりも高いチャネル移動度を示すことから、高精細なディスプレイや大画面のディスプレイのスイッチング素子として好適に用いることができる。また、金属酸化物を形成材料とする半導体層は、原理上p型伝導を示さないためにoff電流が極めて小さくなり、このような金属酸化物薄膜トランジスタを用いると消費電力を低減できるという利点を有する。
【0005】
このような薄膜トランジスタにおいては、上記のIn−Zn−O系の金属酸化物やIn−Ga−Zn−O系の金属酸化物では、酸化物中のGaやZnが、トランジスタを作製するプロセスで導入される水(H
2O)や水素(H)の影響を受けやすく、薄膜トランジスタの作成後に特性変化を起こしやすい。そのため、これらの金属酸化物に代わる、In−X−O系の金属酸化物を用いた薄膜トランジスタが開発されてきた(特許文献1)。
【0006】
これらの、In−Zn−O系の金属酸化物やIn−Ga−Zn−O系の金属酸化物、あるいは、上記のIn−X−O系の金属酸化物に必要とされる電気的特性としては、これらの金属酸化物を用いた薄膜トランジスタにおいて、ゲート電圧が0Vの状態では、ソース−ドレイン電極間に電流が流れない、いわゆるノーマリオフの状態が望ましい。また、これらの金属酸化物がディスプレイのスイッチング素子における薄膜トランジスタの活性層(チャネル)として用いられることから、その動作電圧、すなわち薄膜トランジスタのしきい値電圧は一般に、0V近傍であることが望ましい。
【0007】
しかしながら、上記金属酸化物半導体において酸素欠損を過剰に生じると、これを活性層として用いる薄膜トランジスタのしきい値電圧が負の方向に移動し、結果として、いわゆるノーマリオンの電気特性となりやすいことが知られている。また、このしきい値電圧は、他にも、当該金属酸化物を作製する作製条件に大きく依存し、しきい値電圧が+数Vになることもある。
【0008】
これに対し、特許文献2には、しきい値電圧の制御が困難な酸化物半導体膜を活性層に用いたトランジスタにおいて、上記活性層に接する膜、または上記活性層近傍の膜にアルミニウムやホウ素などの元素を含ませて負の固定電荷を有する酸化シリコン膜を作製し、これを用いることにより、しきい値電圧を正にシフトさせる発明が示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載された発明では、不純物をゲート絶縁膜および/または層間絶縁膜に混入させることにより固定電荷を発生させているため、固定電荷をゲート絶縁膜内、および/または層間絶縁膜内の局所的な位置に制御すること、あるいは、混入する不純物の位置による金属酸化物半導体の電気的特性への考慮に関して、なんら言及したものではない。また、負の固定電荷しか考慮されておらず、しきい値電圧を負の方向にシフトするという課題の解決には寄与することができない。さらに、固定電荷の面電荷密度が小さく、小さい範囲でしか、しきい値電圧の制御ができないことが考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、In−Zn−O系の金属酸化物やIn−Ga−Zn−O系の金属酸化物、あるいは、上記のIn−X−O系の金属酸化物を半導体として用いる薄膜トランジスタにおいて、そのしきい値電圧を効率よく制御する構成を提供することを、その課題の一つとする。また、併せて、上記構成を有する薄膜トランジスタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタは、ゲート電極と、ゲート電極上のゲート絶縁層であって、共有結合性酸化物膜と、イオン結合性酸化物とを含む、ゲート絶縁層と、ゲート絶縁層上の半導体層であって、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、および錫(Sn)からなる群から選択された少なくとも一つの金属の酸化物と、ジルコニウム(Zr)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、それ以外の希土類元素、アルミニウム(Al)、ボロン(B)、および炭素(C)からなる群から選択された少なくとも一つの元素の酸化物とを含む、半導体層と、半導体層に接して設けられたソース電極およびドレイン電極と、を含む。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、ゲート絶縁層が、1層の共有結合性酸化物膜と、共有結合性酸化物膜に接する1層のイオン結合性酸化物層とからなる2層構造を含み、前記共有結合性酸化物膜が前記ゲート絶縁層の前記半導体層の側にあることができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、ゲート絶縁層が、第1および第2の共有結合性酸化物膜と、第1および第2の共有結合性酸化物膜の間にあって、第1および第2の共有結合性酸化物膜の少なくとも一つと接している1層のイオン結合性酸化物層とを含む3層構造を含むことができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、ゲート絶縁層が、共有結合性酸化物膜と、共有結合性酸化物膜の中に分布したイオン結合性酸化物とを含むことができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、半導体層がIn−Si−Oを含む酸化物からなることができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、共有結合性酸化物膜がSiO
2を含むことができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、共有結合性酸化物膜とイオン結合性酸化物との界面に正の固定電荷を有することができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、共有結合性酸化物膜とイオン結合性酸化物との界面に負の固定電荷を有することができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、イオン結合性酸化物がAl
2O
3を含むことができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、イオン結合性酸化物が(Ta/Nb)O
xを含むことができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、固定電荷の面電荷密度の絶対値が10
12cm
−2以上であることができる。
さらに、本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタは、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、および錫(Sn)からなる群から選択された少なくとも一つの金属の酸化物と、ジルコニウム(Zr)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、それ以外の希土類元素、アルミニウム(Al)、ボロン(B)、および炭素(C)からなる群から選択された少なくとも一つの元素の酸化物とを含む、半導体層を有する薄膜トランジスタの、前記半導体層と、ゲート電極との間のゲート絶縁層の作製方法であって、共有結合性酸化物膜を成膜する工程と、イオン結合性酸化物を堆積する工程と、を含む、ゲート絶縁層の作製方法によって、作製することができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、イオン結合性酸化物が層を形成することができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、共有結合性酸化物膜を成膜する工程が第1の共有結合性酸化物膜を成膜する工程であって、第1の共有結合性酸化物膜を成膜する工程の後に、イオン結合性酸化物を堆積する工程を実行し、さらに、イオン結合性酸化物を堆積する工程の後に、第2の共有結合性酸化物膜を成膜する工程を含むことができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、イオン結合性酸化物がAl
2O
3を含むことができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、イオン結合性酸化物を堆積する工程がトリメチルアルミニウム(Al(CH
3)
3)とプラズマ酸素ガスとを原料として用いたプラズマALD(atomic layer deposition)法によることができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、イオン結合性酸化物を堆積する工程がトリメチルアルミニウム(Al(CH
3)
3)の原料とH
2O酸化ガスを用いた熱ALD法によることができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、イオン結合性酸化物が(Ta/Nb)
2O
5を含むことができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、イオン結合性酸化物を堆積する工程がTa(NtAm)(NMe
2)
3とNb(NtAm)(NMe
2)
3を1対1で混合した原料とH
2O酸化ガスを用いた熱ALD法によることができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、イオン結合性酸化物を堆積する工程が成膜温度を制御して行われることができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、成膜温度が200℃以上300℃以下であることができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、共有結合性酸化物膜がSiO
2を含むことができる。
本願発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいては、共有結合性酸化物膜を成膜する工程がテトラメトキシシラン(Si(OCH
3)
4)を原料とし、プラズマ酸素ガスを反応ガスに用いたプラズマCVD(chemical vapor deposition)法によることができる。
本発明の一態様に係る半導体装置は、基板と、基板上に設けられた上記の薄膜トランジスタを有する。
【発明の効果】
【0013】
本願発明の態様によれば、固定電荷の深さ位置を、ゲート絶縁膜中の共有結合性酸化物膜とイオン結合性酸化物層との界面の位置として設計・作製することができ、固定電荷を十分に制御された態様で誘起することができるため、金属酸化物半導体への影響を十分考慮した薄膜トランジスタを作製することができる。また、共有結合性酸化物膜とイオン結合性酸化物層との組み合わせにより、負の固定電荷のみならず、正の固定電荷を誘起することができ、しきい値電圧の制御の方向を自由に選択することができる。さらに、共有結合性酸化物膜とイオン結合性酸化物膜との組み合わせによっては、固定電荷の面電荷密度を大きくすることが可能であり、より大きなしきい値電圧の制御が可能となる。また、上記のとおり、薄膜トランジスタのしきい値電圧の制御を自由に行うことができるため、しきい値電圧を0V近傍でない電圧に設定することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
以下、
図1を参照しながら、本願発明の第1の実施形態に係る薄膜トランジスタ、薄膜トランジスタの製造方法および半導体装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは、実際の製品とは適宜異ならせて示している。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の半導体装置10は、基板20と、基板20上に形成された本実施形態の薄膜トランジスタ15とを備えている。半導体装置10は、その他に薄膜トランジスタ15と電気的に接続する不図示の配線や素子を有していてもよい。
【0017】
(薄膜トランジスタの構造)
基板20としては、公知の形成材料で形成されたものを用いることができ、光透過性を有するもの及び光透過性を有しないもののいずれも用いることができる。例えば、ケイ酸アルカリ系ガラス、石英ガラス、窒化ケイ素などを形成材料とする無機基板;シリコン基板;表面が絶縁処理された金属基板;アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)やPBT(ポリブチレンテレフタレート)などのポリエステル樹脂などを形成材料とする樹脂基板;紙性の基板などの種々のものを用いることができる。また、これらの材料を複数組み合わせた複合材料を形成材料とする基板であっても構わない。
【0018】
基板20の厚さは、設計に応じて適宜設定することができる。
【0019】
図1の薄膜トランジスタ15は、いわゆるボトムゲート型のトランジスタである。薄膜トランジスタ15は、基板20上に設けられたゲート電極30と、ゲート電極30を覆って設けられたゲート絶縁層40と、ゲート絶縁層40の上面に設けられた半導体層50と、半導体層50の上面において半導体層50に接して設けられたソース電極60およびドレイン電極70、および層間絶縁膜80を有している。ゲート電極30は、半導体層50のチャネル領域に対応させて(チャネル領域と平面的に重なる位置に)設けられている。ここで、ゲート絶縁層40は、ゲート電極30の側の第1の絶縁体層41と、半導体層50の側の第2の絶縁体層42と、からなる。
【0020】
ゲート電極30、ソース電極60、ドレイン電極70としては、通常知られた材料で形成されたものを用いることができる。これらの電極の形成材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)などの金属材料やこれらの合金;インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide、ITO)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性酸化物を挙げることができる。また、これらの電極は、2層以上の積層構造を有してもよく、この積層構造は、例えば表面を金属材料でめっきすることにより形成されてもよい。
【0021】
ゲート電極30、ソース電極60、ドレイン電極70は、同じ形成材料で形成されたものであってもよく、異なる形成材料で形成されたものであってもよい。製造が容易となることから、ソース電極60とドレイン電極70とは同じ形成材料であることが好ましい。
【0022】
ゲート絶縁層40には、ゲート電極30の絶縁耐圧を確保し、かつ、ゲート電極30の半導体層50に形成されるチャネルへの制御性を高めるためなどの目的で、例えば窒化物などの、誘電率の高い、いわゆるHigh−k材料を用いることがある。
【0023】
このとき、High−k材料を構成する物質の構成元素の種類によっては、半導体層50の特性に影響を与えることがある。そのため、上記絶縁体層を、
図1に示すように、第1の絶縁体層41と第2の絶縁膜42との2つの膜で構成し、半導体層50に接触する第2の絶縁体層42は、半導体層50に影響の少ないSiO
2膜とし、第1の絶縁体層41に、窒化物などのHigh−k材料の膜を用いることが行われる。なお、ゲート絶縁層40を第1の絶縁体層41と第2の絶縁体層42とで構成する場合、ゲート絶縁層40全体の絶縁耐圧とチャネルの制御性の両方を考慮して、ゲート絶縁層40のほとんどの部分をHigh−k材料の層とし、第2の絶縁体層42は薄い層とすることが好ましい。このときでも、第2の絶縁体層42を構成するSiO
2膜の厚さは、2nm以上とすることが好ましい。
【0024】
半導体層50は、金属酸化物から構成されていても良いが、好ましくは、酸素欠損が導入されることで電子キャリアを生成できる第1金属酸化物と、酸素とのかい離エネルギーが第1金属酸化物の酸素のかい離エネルギーよりも200kJ/mol以上大きい第2酸化物とを含む複合酸化物で形成される。第1金属酸化物は、好ましくは、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、および錫(Sn)からなる群から選択された少なくとも1つを含む金属酸化物であり、第2酸化物は、好ましくはジルコニウム(Zr)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、それ以外の希土類元素、アルミニウム(Al)、ボロン(B)、および炭素(C)からなる群から選択された少なくとも1つを含む酸化物である。
【0025】
好ましくは、第1金属酸化物の元素がInである場合、第2酸化物の元素は、Zr、Pr、Si、Ti、W、Ta、La、Hf、B、Cからなる群から選択された少なくとも1つであり、第1金属酸化物の元素がSnである場合、第2酸化物の元素は、Sc、Ti、W、Nd、Gdからなる群から選択された少なくとも1つの元素である。
【0026】
それぞれの添加量は目的に応じて適宜、定めることができる。
【0027】
なお、当然のことであるが、本願発明の作用効果に甚だしい悪影響が出ない限り、半導体層には上記以外の成分や不可避の不純物が含まれていてもよい。
【0028】
層間絶縁膜80は、絶縁性を有し、ソース電極60、ドレイン電極70、及びソース電極60とドレイン電極70に重畳していない領域の半導体層50との間を電気的に絶縁することが可能であれば、無機材料および有機材料のいずれを用いて形成してもよい。無機材料としては、例えばSiO
2、SiN
x、SiON、Al
2O
3、HfO
2などの通常知られた絶縁性の酸化物、窒化物、酸窒化物を挙げることができる。有機材料としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、フッ素系樹脂などを挙げることができる。有機材料としては、製造や加工が容易であることから、光硬化型の樹脂材料であることが好ましい。
【0029】
(薄膜トランジスタの製造方法)
次に、本実施形態の薄膜トランジスタ15の製造方法、特に、本実施形態の薄膜トランジスタのゲート絶縁層40の製造方法について説明する。
【0030】
ゲート絶縁層40、すなわち、第1の絶縁体層41と第2の絶縁体層42は、実施例で詳細に述べるように、プラズマCVD法、あるいはALD法により作製される。また、MOCVD法や物理蒸着法(または物理気相成長法)を用いることにより形成することも可能である。ここで、物理蒸着法としては、蒸着法やスパッタリング法が挙げられる。蒸着法としては、真空蒸着法、分子線蒸着法(MBE)、化学蒸着法(CVD)、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法などを例示することができる。また、スパッタリング法としては、コンベンショナル・スパッタリング、マグネトロン・スパッタリング、イオンビーム・スパッタリング、ECR(電子サイクロトロン共鳴)・スパッタリング、反応性スパッタリングなどを例示することができる。スパッタリング法においてプラズマを用いた場合は、反応性スパッタリング法、DC(直流)スパッタリング法、高周波(RF)スパッタリング法等の成膜法を用いることができる。
【0031】
より具体的には、下記の製造方法を用いて薄膜トランジスタを製造することが好ましい。下記の製造方法を用いると、より高品質な薄膜トランジスタを製造することができる。
【0032】
なお、本実施形態においては、いわゆるボトムゲート型の薄膜トランジスタについて説明したが、本願発明はいわゆるトップゲート型の薄膜トランジスタに適用することもできる。
【0033】
また、本実施形態においては、いわゆるトップコンタクト型の薄膜トランジスタについて説明したが、本発明はいわゆるボトムコンタクト型の薄膜トランジスタに適用することもできる。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本願発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本願発明は斯かる例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本願発明の要件から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0035】
(実施例)
以下に本実施形態を実施例により説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
図2は、本願発明の第1の実施形態による薄膜トランジスタの実施例の構造を示す図である。この
図2に示す薄膜トランジスタ100は、
図1に示した薄膜トランジスタ15に用いられる構成と比較して、その性能評価の目的で簡素化した、同様の構成になっており、
図1の薄膜トランジスタ15が有するゲート電極30に代わって、p型不純物を多量にドープしたSi基板130を用いる構成となっている。
図2で実現された本願発明の実施例の特徴が、
図1に示した構成の薄膜トランジスタでも同様に実現されることは言うまでもない。
【0037】
本実施例では、まず、p型不純物をドープしたSi基板130上に、イオン結合性酸化物層140として、Al
2O
3膜を成膜した。このAl
2O
3膜は、トリメチルアルミニウム(Al(CH
3)
3)とプラズマ酸素ガスとを原料として用いたプラズマALD(atomic layer deposition)法で、成膜温度を200℃として成膜され、膜厚は10〜100nmである。なお、上記の成膜温度は、厚さ0.5〜0.9mmのSi基板130の裏側を輻射温度計により測定することで得られた。続いて、このイオン結合性酸化物層140上に、共有結合性酸化物膜145としてSiO
2膜を成膜した。このSiO
2膜は、テトラメトキシシラン(Si(OCH
3)
4)を原料とし、プラズマ酸素ガスを反応ガスに用いたプラズマCVD(chemical vapor deposition)法により、成膜温度200℃で作製し、その膜厚は2〜50nmである。
【0038】
この後、共有結合性酸化物膜145の表面に、In−Si−Oターゲットをターゲット材とし、スパッタリング法(DCスパッタリング)により、以下のスパッタ条件で半導体層150を成膜した。In−Si−Oターゲットは、3%重量SiO
2添加In
2O
3系のサンプル品を用いた。成膜した酸化物半導体膜150の厚さは30nmであった。
(スパッタリング条件)
DC power :100W
真空度 :0.2Pa
プロセスガス流量 :Ar 20sccm/O
2 2sccm
(sccm:Standard Cubic Centimeter per Minute)
基板温度 :25℃(熱電対で測定)。加熱なし
【0039】
最後に、ソース電極160およびドレイン電極170を、金(Au)を形成材料とし、半導体層150の表面にマスク蒸着することにより形成した。ソース電極160およびドレイン電極170の層の厚さはいずれも50nmとし、ソース電極160とドレイン電極170との離間距離(ゲート長)は350μmであり、対向している部分の長さ(紙面に垂直な方向の長さ)は940μmであった。
【0040】
なお、これに併せて、同じ方法で作成したAl
2O
3膜を用いた、Pt/Al
2O
3/SiO
2/p−Si MOSキャパシタ(Ptを金属層、p−Siを半導体層、Al
2O
3/SiO
2を絶縁層とするMOSキャパシタ)を以下の手順で作製し、このAl
2O
3膜とSiO
2膜との界面に生成する固定電荷の面電荷密度を調べた。すなわち、p−Si基板を酸素雰囲気中で900℃に加熱して、熱酸化SiO
2膜を形成し、その上に、上記の方法でAl
2O
3膜を成膜した。その後、上記のAl
2O
3膜上にPt電極を、リソグラフィーを用いたプロセスで形成して、Pt/Al
2O
3/SiO
2/p−Si MOSキャパシタを作製した。
【0041】
Al
2O
3/SiO
2複合膜のSiO
2に換算した膜厚(EOT:equivalent oxide thickness)EOT
Al2O3と、上記のMOSキャパシタのC−V特性より求められたフラットバンド電圧V
fbとの関係を
図3に示す。ここで、Al
2O
3/SiO
2界面の固定電荷の面電荷密度(Q
IL)は、EOT
Al2O3とV
fbとは次式で表される関係を有する。
【0043】
ここで、φ
m,effは金属の実効仕事関数、φ
SiはSiのフェルミ準位、ε
SiO2はSiO
2の誘電率である。
【0044】
上記の式にしたがって
図3より算出されたAl
2O
3/SiO
2界面のQ
ILの値は約−2.0×10
12/cm
2であった。
【0045】
このイオン結合性酸化物層140と共有結合性酸化物膜145との組み合わせについては、イオン結合性酸化物層140を他の方法で作成することもできる。例えば、トリメチルアルミニウム(Al(CH
3)
3)の原料とH
2O酸化ガスを用いた熱ALD法で、成膜温度を200℃とし、膜厚が10〜100nmのAl
2O
3膜を成膜することができる。このAl
2O
3膜の成膜方法を除いて、他の膜の作製方法等は、上記の場合と実質的に同一とした。
【0046】
このときに作製されたイオン結合性酸化物層140と共有結合性酸化物膜145との組み合わせの場合の固定電荷の面電荷密度を算出するために、同様のPt/Al
2O
3/SiO
2/p−Si MOSキャパシタを作製すると、Al
2O
3膜厚のSiO
2換算膜厚EOT
Al2O3とC−V特性より求められたフラットバンド電圧V
fbの関係は、
図4のようになった。この図におけるデータは、
図3の結果と逆の符号の勾配を示しており、面電荷密度が約+2.5×10
12/cm
2の正の固定電荷がAl
2O
3/SiO
2界面に生じていることがわかった。
【0047】
以上は、イオン結合性酸化物層140であるAl
2O
3膜に対し、その成膜方法を変えることにより、異なる面電荷密度の固定電荷を生成する例である。
【0048】
ここで、さらに、イオン結合性酸化物層140として、Ta(NtAm)(NMe
2)
3とNb(NtAm)(NMe
2)
3を1対1で混合した原料とH
2O酸化ガスを用いた熱ALD法で、膜厚が10〜100nmの(Ta/Nb)
2O
5膜を成膜した例を示す。この(Ta/Nb)
2O
5膜の成膜を除けば、他の膜の作製方法等は、上記の場合と実質的に同一である。
【0049】
この(Ta/Nb)
2O
5/SiO
2の固定電荷の面電荷密度を算出するために、同様のPt/(Ta/Nb)
2O
5/SiO
2/p−Si MOSキャパシタを作製した。ここでのMOSキャパシタの作製方法は、上記のPt/Al
2O
3/SiO
2/p−Si MOSキャパシタの作製方法と同様である。すると、この固定電荷の面電荷密度は(Ta/Nb)
2O
5膜の成膜温度で変わり、200℃で+1.5×10
12/cm
2、250℃で+1.0×10
11/cm
2、300℃で+4.0×10
9/cm
2となった。このように、成膜方法は同一でも、成膜温度によって、異なる面電荷密度の固定電荷を得ることができることがある。
【0050】
次に、
図2に示されるように、これらのイオン結合性酸化物層140と共有結合性酸化物膜145とを組み合わせたゲート絶縁膜の構成により薄膜トランジスタを作製した場合のMOSキャパシタを考える。すなわち、より具体的には、
図2において、Si基板130が金属層、酸化物半導体層150が半導体層、イオン結合性酸化物層140と共有結合性酸化物膜145とで構成されるゲート絶縁膜が絶縁層に、それぞれ該当するMOSキャパシタである。
【0051】
すると、このMOSキャパシタは、ゲート絶縁膜全体としての絶縁膜の静電容量C
oxと半導体層中の空乏層の静電容量が直列に配置されているものと等価と考えられるが、絶縁膜中に面電荷密度Q
sの固定電荷の層があるときのしきい値電圧V
Tは、以下の式で表される。
【0053】
ここで、φ
MSは金属層を構成する金属の仕事関数と半導体層を構成する半導体の仕事関数の差、E
iは当該半導体の真性時のフェルミレベル、E
fは当該半導体のフェルミ中央、ε
0は真空誘電率、ε
Sは当該半導体の比誘電率、qは電気素量、Naは当該半導体のキャリア濃度である。すなわち、上記の式によれば、しきい値電圧V
Tは、絶縁膜中の面電荷密度Q
sの固定電荷の層により、Q
s/C
ox分だけ減じられることになる。
【0054】
C
oxは、ゲート絶縁膜全体の厚さに反比例し、一般には、共有結合性酸化膜であるSiO
2膜は薄く(約2nm)作製される。したがって、イオン結合性酸化物層140とSiO
2膜との界面で生成する固定電荷の面電荷密度Q
ILを変数とした、イオン結合性酸化物層140の膜厚tとしきい値電圧のシフトΔV
Tとの関係は、
図5に示されるようになる。
【0055】
すなわち、負の固定電荷が発生すると正のしきい値電圧のシフトになり、正の固定電荷が発生すると負のしきい値電圧のシフトを生じる。この図からはさらに、現実的なゲート絶縁層の厚みの約100nmでは、しきい値電圧を5Vだけシフトさせようとすると、固定電荷の面電荷密度Q
ILが10
12/cm
2のオーダーで必要になることがわかる。
【0056】
上記のプラズマALD法で作製した、膜厚(物理膜厚)が50nmのAl
2O
3膜(40nm)/SiO
2(10nm)のゲート絶縁膜上に、In−Si−O半導体層を30nmの厚さで作製した薄膜トランジスタの特性を、評価環境を25℃、暗所、真空中として測定し、そのときに得られたI
d−V
g特性を
図6に、(b)として示す。また、比較のため、上記の方法で作製したSiO
2のみで厚さ50nmのゲート絶縁膜を構成したときの薄膜トランジスタのI
d−V
g特性を併せて、(a)として示す。これらの薄膜トランジスタのしきい値電圧を比較すると、Al
2O
3/SiO
2によりゲート絶縁層を構成した薄膜トランジスタのしきい値電圧は、SiO
2のみでゲート絶縁層を構成した薄膜トランジスタのしきい値電圧と比べ、正方向へ約2Vシフトしていることがわかる。
【0057】
以上のように、本願発明により、薄膜トランジスタのしきい値電圧は、Q
IL(=Q
ox)により制御することが可能となる。
【0058】
(第2の実施形態)
図7は、本願発明の第2の実施形態に係る薄膜トランジスタ102の構成を示す概略断面図である。本実施形態では、ゲート絶縁層が、イオン結合性酸化物層140を2層の共有結合性酸化物膜145、148で挟み込む、3層構造としている。このようにゲート絶縁層の構成が異なる点以外は、第1の実施形態と同様である。
【0059】
本実施形態では、共有結合性酸化物膜145、148とイオン結合性酸化膜結晶層140との界面が、イオン結合性酸化膜結晶層140の上下2箇所に生成するため、上記固定電荷の効果はおよそ2倍になる。
【0060】
なお、
図7に示す薄膜トランジスタ102では、イオン結合性酸化膜結晶層140がその上下の共有結合性酸化物膜145、148と接触し、イオン結合性酸化膜結晶層140の上下2箇所の界面で固定電荷を誘起しているが、イオン結合性酸化膜結晶層140の上下のいずれか一方のみで共有結合性酸化物膜と接触する構成でもよい。このとき、固定電荷は、共有結合性酸化物膜と接触しているイオン結合性酸化膜結晶層140の界面でのみ生成することは、理解されよう。
【0061】
また、本実施形態がボトムゲート型の薄膜トランジスタについて説明されていることについて、いわゆるトップゲート型の薄膜トランジスタにも適用することができることは、第1の実施形態と同様である。また、本実施形態がトップコンタクト型の薄膜トランジスタについて説明されていることについても、いわゆるボトムコンタクト型の薄膜トランジスタに適用することができることも、第1の実施形態と同様である。
【0062】
(第3の実施形態)
図8は、本願発明の第3の実施形態に係る薄膜トランジスタ104の構成を示す概略断面図である。本実施形態では、上記の第2の実施形態において、イオン結合性酸化膜結晶層140が十分に成長しておらず、層を形成することなく、島状のイオン結合性金属酸化物結晶142が共有結合性酸化膜層145の内部に挿入されている状態に該当する。この場合でも、共有結合性酸化膜層とイオン結合性金属酸化膜結晶との界面が存在するため、実施例2の場合と同様に、ゲート酸化膜中に固定電荷を誘起することができる。
【0063】
なお、この場合、先に説明した、イオン結合性酸化膜結晶142の構成元素による、半導体層150の特性への影響を低減するため、イオン結合性酸化膜結晶142の、半導体層150と共有結合性酸化膜層145との界面からの深さを、2nm以上とすることが好ましいことがある。
【0064】
なお、本実施形態がボトムゲート型の薄膜トランジスタについて説明されていることについて、いわゆるトップゲート型の薄膜トランジスタにも適用することができることは、第1および第2の実施形態と同様である。また、本実施形態がトップコンタクト型の薄膜トランジスタについて説明されていることについても、いわゆるボトムコンタクト型の薄膜トランジスタに適用することができることも、第1および第2の実施形態と同様である。