(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6273608
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】低融点合金の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 9/02 20060101AFI20180129BHJP
【FI】
C22B9/02
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-31928(P2014-31928)
(22)【出願日】2014年2月21日
(65)【公開番号】特開2015-157367(P2015-157367A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2016年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】391061646
【氏名又は名称】株式会社流機エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100082647
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 義久
(72)【発明者】
【氏名】田島 永善
(72)【発明者】
【氏名】西村 聡
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭52−014501(JP,A)
【文献】
特開平02−167707(JP,A)
【文献】
特開平10−314713(JP,A)
【文献】
特開2004−022607(JP,A)
【文献】
特開平07−336042(JP,A)
【文献】
特開2006−263533(JP,A)
【文献】
特開2001−094248(JP,A)
【文献】
特開昭63−028851(JP,A)
【文献】
米国特許第04617112(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマス、スズ、鉛、インジウム、カドミウム、アンチモンからなる群から選ばれた少なくとも1つを含み、16℃〜183℃の温度範囲で溶融する低融点合金と、金属体との混合物から、前記低融点合金を分離し、前記低融点合金を回収する方法であって、
前記金属体と前記低融点合金との混合物を、オイル中で撹拌し、オイル温度を前記低融点合金の溶融温度以上に高めて加熱し、その後、冷却して、前記金属体と前記低融点合金と分離し、低融点合金を分離回収することを特徴とする低融点合金の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低融点合金の
回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低融点合金は、特許文献1のように、樹脂成形において中子として用いることが知られている。この場合、低融点合金中子は、高周波加熱又は熱媒体による加熱により溶出させた後、高圧・高温液体を成形品内に噴射させ、低融点合金を除去して回収するようにしている。
他方、低融点合金は、タービンブレード、ジェットエンジン部品などの複雑な形状部品のチャッキング材として利用されることもある。さらに、複雑な形状部品の固定に際しては、低融点合金で鋳込み一体化することにより、締付応力変形や、熱変形を防止するようにしている。
しかるに成形後は、切削加工により複雑な形状部品を取り出すことが行われるところ、その切削屑には、低融点合金と金属部品とが混合した状態で廃棄されていた。
【0003】
しかし、低融点合金は高価であり、回収して再利用することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−167707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、上記の切削屑などに例示される、金属微小体と低融点合金との混合物(混合液)から、低融点合金を回収して利用することにより、製造コストの低減を図ることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
【0007】
<請求項1記載の発明>
ビスマス、スズ、鉛、インジウム、カドミウム、アンチモンからなる群から選ばれた
少なくとも1つを含み、16℃〜183℃の温度範囲で溶融する低融点合金と、
金属体との混合物から、前記低融点合金を分離し、
前記低融点合金を回収する方法であって、
前記
金属体と前記低融点合金との混合物を、オイル中で撹拌し、オイル温度を前記低融点合金の溶融温度以上に高めて加熱し、その後、冷却して、前記
金属体と前記低融点合金と分離し、低融点合金を分離回収することを特徴とする低融点合金の回収方法。
【0008】
<
その他の発明>
ビスマス、スズ、鉛、インジウム、カドミウム、アンチモンからなる群から選ばれた、16℃〜183℃の温度範囲で溶融する低融点合金と、金属微小体とを分離し、低融点合金を回収する方法であって、
容器内のオイル温度を前記低融点合金の溶融温度以上に高めて加熱した状態で、オイル中に前記金属微小体と前記低融点合金との混合液を撹拌し、その後、撹拌混合液から前記金属微小体をろ過分離し、低融点合金を分離回収することを特徴とする低融点合金の回収方法。
【0009】
<
その他の発明>
前記撹拌混合液から前記金属微小体をろ過分離するに際し、容器内に設けたろ材を、前記撹拌混合液に加圧力を与えながら通液して、ろ材に前記金属微小体を捕捉し、前記低融点合金は通液物として分離回収する低融点合金の回収方法。
【0010】
<
その他の発明>
前記撹拌混合液から前記金属微小体をろ過分離するに際し、前記容器内に透過メッシュを順に小さくしてろ材を多段に設け、前記撹拌混合液を前記ろ材群に順に通液し、ろ材に前記金属微小体を捕捉し、前記低融点合金は通液物として分離回収する低融点合金の回収方法。
【0011】
<
その他の発明>
ビスマス、スズ、鉛、インジウム、カドミウム、アンチモンからなる群から選ばれた、16℃〜183℃の温度範囲で溶融する低融点合金と、金属微小体とを分離し、低融点合金を回収する装置であって、
前記金属微小体と前記低融点合金との混合物を収納する容器と、この容器内にオイルを添加するオイル添加手段と、オイル中の前記金属微小体と前記低融点合金との混合液を加熱する加熱手段と、混合液を撹拌する撹拌手段と、撹拌された混合液から前記金属微小体をろ過分離する固液分離手段と、
を有することを特徴とする低融点合金の回収装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属微小体と低融点合金との混合物(混合液)から、低融点合金を回収して利用することにより、製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る第1の実施形態の概要説明図である。
【
図2】第1の実施形態の操作フローの例示説明図である。
【
図3】本発明に係る第2の実施形態の概要説明図である
【
図4】第2の実施形態の操作フローの例示説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳説する。
【0015】
〔低融点合金について〕
本発明は、ビスマス、スズ、鉛、インジウム、カドミウム、アンチモンからなる群から選ばれた、16℃〜183℃の温度範囲で溶融する低融点合金の回収を目的とするものである。特には、ビスマス及びスズが主体で、必要によりインジウムを添加する低融点合金である。
この種の低融点合金は、大阪アサヒメタル工場製の「Uアロイ」シリーズが代表的なものである。融点は16℃〜183℃の範囲内で多種類販売されている。
本発明に係る金属微小体との分離を行う場合、融点が90℃〜150℃の範囲内の低融点合金が特に対象とすることができる。
【0016】
〔回収方法の概要〕
本発明は、低融点合金に金属微小体が混入した状態で得られる、たとえば、前述の切削屑から分離し、低融点合金を回収する方法である。「金属微小体」を構成する金属について限定されるものではない。「微小体」の形態としては、粉体状や粒子形態のほか、線状、塊状など限定されるものではない。代表的には、切削工具による切粉状のものである。
【0017】
本発明では、金属微小体と低融点合金との混合物を、容器中に投入し、その後オイルを添加する、あるいは混合物を、予めオイル
を入れた容器中に投入する。
かくして、混合物をオイル中で、撹拌を行うとともに、オイル温度を前記低融点合金の溶融温度以上に高めて加熱する。
【0018】
その後、冷却して、金属微小体と低融点合金とを、単純には篩を使用して固液分離し、低融点合金を分離回収する。
【0019】
本発明において、オイル、たとえば植物油、鉱物油、合成油を使用する。オイルを使用しない場合、低融点合金が溶解した状態で、その中に金属微小体が散在したままであるが、オイルを使用すると、理由は定かではないが、金属微小体が凝集する傾向がみられ、篩分けなどの固液分離における、金属微小体と低融点合金との分離性が高まる。
さらに、オイルを使用しない場合、低融点合金が容器内壁に付着したり、固液分離時におけるメッシュに付着し、目詰まりや回収効率を低下させる要因となるが、オイルを使用すると、オイル中で低融点合金の接触角度が大きくなる撥液性が高まり、容器内壁への付着、並びに固液分離材への付着を防止でき、高い回収率をもって回収できる。また、メンテナンス上も望ましい。
他方、低融点合金の溶解のために加熱が必要になるが、火を当てるなどでは酸化を避けることができない。水利用では、溶解温度が高い場合、湯気などにより手作業に向かない。これらの問題に対し、オイルを使用する場合には、非酸化状態で、高温での低融点合金の溶融を容易に行うことができる。
【0020】
本発明における、金属微小体と低融点合金との混合物のオイル中への撹拌操作、オイル温度を低融点合金の溶融温度以上に高める加熱操作に関し、各操作内における作業の経時的な前後関係、並びに各操作間の経時的な前後関係を問われるものではないことを付言しておく。
【0021】
〔第1の実施の形態〕
本発明の実施に際し、理化学実験的な器具を使用して分離回収を実施できるが、ある程度大きい処理量の場合には、たとえば
図1に示す装置により、分離回収することができる。
第1の実施の形態の低融点合金の回収装置として、金属微小体と前記低融点合金との混合物Mを収納する容器10と、この容器10内にオイル11を添加するオイル添加手段12と、オイル11中の前記金属微小体と前記低融点合金との混合液を加熱する加熱手段と、混合液を撹拌する撹拌手段14と、撹拌された撹拌混合液から前記金属微小体をろ過分離する固液分離手段20とを有する。
【0022】
かかる装置の下で、金属微小体と低融点合金との混合物Mを、容器10に投入するとともに、オイル11も加熱容器10内に流入させる。
加熱容器10には、モータ駆動の撹拌羽根を有する撹拌手段14を備えている。さらに、加熱容器10にはヒーターや、容器10の壁に設けたジャケットに熱媒体を流通させる加熱手段(図示せず)を備えている。
【0023】
一連の操作順序例は、
図2に示した。すなわち、金属微小体と低融点合金との
混合物Mを容器10
に投入し(S1)、容器10内を加熱する(S2)。オイル11を加熱容器10内に流入(添加)させる(S3)。続いて、撹拌手段14を作動させ(S4)、撹拌を図る。撹拌は連続的のほか、間欠的な撹拌でもよい。経時的に撹拌速度を変更することもできる。
【0024】
撹拌が完了した後は、振動装置21を作動させ(S5)、撹拌処理が終了した混合物Mの液を、移行弁15を開いて(S6)、容器10内からろ過容器
20内に流入させる。振動ろ過容器
20には、たとえば順に篩目を小さくする篩m1〜m3を有し、混合物Mの液の自重及び加えた振動力によって、篩m1〜m3通過させ、ろ過を行う(S7)。その過程で、篩m1〜m3に金属微小体を捕捉させるとともに、回収容器22内に低融点合金を回収する(S8)。
回収した低融点合金は、再利用を図ることができる。
なお、加熱容器10を含む領域を、集塵装置30または集煙装置により、清浄化を図ることができる。
【0025】
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態例が
図3に示されている。この形態では、加圧ろ過容器
20としたものである。
この例における操作を、
図4に示した。すなわち、金属微小体と低融点合金との撹拌を図る(S4)。その後、適宜の時点で、ろ過容器
20のエア抜きバルブ23を開とした状態で、撹拌処理が終了した混合物Mの液を、移行弁15を開いて(
S6)、容器10内からろ過容器
20内に流入させる。ろ過容器
20には、たとえば順に篩目を小さくする篩m1〜m3を備える。混合物Mの液には、加圧バルブ24を開いて、圧縮エアによる加圧力を作用させ、篩m1〜m3通過させ、ろ過を行う(
S10)。篩m1〜m3の段数や、篩目は適宜選定できる。その過程で、篩m1〜m3に金属微小体を捕捉させるとともに、回収容器22内に低融点合金を回収する(
S11)。
【0026】
(実施例)
大阪アサヒメタル工場製
の低融点合金(「Uアロイ−138」)で鋳込み一体化して成形し、その後の切削屑を第1の実施の形態及び第2の実施の形態で回収処理した。その結果、問題なく、高収率をもって回収できることが判明した。