(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
周波数ごとに偏波依存性損失が最も大きくなる偏光軸を予め指定された方向に規定する第1ユニタリー行列を設定し、入力光信号を当該第1ユニタリー行列で与えられる偏光特性を有する第1光信号に変換する第1ユニタリー行列発生器と、
前記第1光信号に、予め指定された周波数ごとに偏波依存性損失が最も大きくなる偏光軸の方向に、指定された光損失を周波数ごとに与えて第2光信号を生成する偏波依存損失発生器と、
前記第1ユニタリー行列のエルミート共役行列と偏波モード分散の方向を確定するユニタリー行列との積で与えられる第2ユニタリー行列を設定し、前記第2光信号を、予め設定された偏波モード分散及び偏波依存性損失に起因する偏波障害を擬似的に発生させ、周波数ごとの空間スペクトル成分を合波してエミュレート光信号として生成する第2ユニタリー行列発生器と
を備えることを特徴とする偏波障害エミュレータ。
第1ユニタリー行列発生器、偏波依存損失発生器、及び第2ユニタリー行列発生器を備え、予め設定された偏波モード分散及び偏波依存性損失に起因する偏波障害を有する光信号をエミュレート光信号として生成して出力する偏波障害エミュレータであって、
前記第1ユニタリー行列発生器は、周波数ごとに空間スペクトル分光された光信号を、当該第1ユニタリー行列発生器の偏光伝達特性を与える第1ユニタリー行列によって、周波数ごとに偏波依存性損失が最も大きくなる偏光軸を予め指定された方向に設定可能に構成されており、
入力した光信号を、周波数ごとに偏波依存性損失が最も大きくなる偏光軸を予め指定された方向に調整して出力し、
前記偏波依存損失発生器は、予め設定された偏波依存性損失の固有軸の方向に損失を与えるべく、前記第1ユニタリー行列発生器から出力された光信号の水平軸方向の偏波成分及び垂直軸方向の偏波成分のそれぞれに対して、直交偏光軸間に周波数ごとに位相差を与えることが可能とされており、
前記第1ユニタリー行列発生器から出力された光信号に、予め指定された周波数ごとに偏波依存性損失が最も大きくなる偏光軸の方向に、予め指定された大きさの光損失を周波数ごとに与えて出力し、
前記第2ユニタリー行列発生器は、前記第1ユニタリー行列発生器の偏光伝達特性を与える、前記第1ユニタリー行列のエルミート共役行列と予め指定された偏波モード分散の方向を規定するユニタリー行列の積で与えられる第2ユニタリー行列を設定可能に形成されており、
前記偏波依存損失発生器から出力された光信号を入力して、予め設定された偏波モード分散及び偏波依存性損失に起因する偏波障害を擬似的に発生させて出力し、当該擬似的に発生させた光信号を周波数ごとの空間スペクトル成分を合波してエミュレート光信号として生成して出力する
ことを特徴とする偏波障害エミュレータ。
スペクトル分光器、第1ユニタリー行列発生器、偏波依存損失発生器、第2ユニタリー行列発生器、及びスペクトル合波器を備え、予め設定された偏波モード分散及び偏波依存性損失に起因する偏波障害を有する光信号をエミュレート光信号として生成して出力する偏波障害エミュレータであって、
前記スペクトル分光器は、任意の偏光状態の入力光信号を入力して、周波数ごとに当該光信号を空間スペクトル分光し、
前記第1ユニタリー行列発生器は、当該第1ユニタリー行列発生器の偏光伝達特性を与える第1ユニタリー行列を、周波数ごとに偏波依存性損失が最も大きくなる偏光軸を予め指定された方向に設定可能に構成されており、
前記スペクトル分光器から出力された光信号を入力して、周波数ごとに偏波依存性損失が最も大きくなる偏光軸を予め指定された方向に調整して出力し、
前記偏波依存損失発生器は、予め設定された偏波依存性損失の固有軸の方向に損失を与えるべく、前記第1ユニタリー行列発生器から出力された光信号の水平軸方向の偏波成分及び垂直軸方向の偏波成分のそれぞれに対して、直交偏光軸間に周波数ごとに位相差を与えることが可能とされており、
前記第1ユニタリー行列発生器から出力された光信号に、予め指定された周波数ごとに偏波依存性損失が最も大きくなる偏光軸の方向に、予め指定された大きさの光損失を周波数ごとに与えて出力し、
前記第2ユニタリー行列発生器は、前記第1ユニタリー行列発生器の偏光伝達特性を与える、前記第1ユニタリー行列のエルミート共役行列と予め指定された偏波モード分散の方向を規定するユニタリー行列の積で与えられる第2ユニタリー行列を設定可能に形成されており、
前記偏波依存損失発生器から出力された光信号を入力して、予め設定された偏波モード分散及び偏波依存性損失に起因する偏波障害を擬似的に発生させて出力し、
前記スペクトル合波器は、前記第2ユニタリー行列発生器から出力された光信号を入力して、周波数ごとの空間スペクトル成分を合波してエミュレート光信号として生成して出力する
ことを特徴とする偏波障害エミュレータ。
前記スペクトル分光器及び前記スペクトル合波器は、VIPA(Virtually Imaged Phased Array)板、分光グレーティング、あるいはプリズム、のいずれかを備えて構成されることを特徴とする請求項3に記載の偏波障害エミュレータ。
周波数ごとに偏波依存性損失が最も大きくなる偏光軸を予め指定された方向に規定する第1ユニタリー行列を設定し、当該第1ユニタリー行列で与えられる偏光特性を有する第1ユニタリー行列発生器に、任意の偏光状態の入力光信号を通過させて第1光信号を生成する第1ステップと、
前記第1光信号に、予め指定された周波数ごとに偏波依存性損失が最も大きくなる偏光軸の方向に、指定された光損失を周波数ごとに与えて第2光信号を生成する第2ステップと、
前記第1ユニタリー行列のエルミート共役行列、及び予め指定された偏波モード分散の方向に規定するユニタリー行列を確定し、前記エルミート共役行列と偏波モード分散の方向を確定する前記ユニタリー行列との積で与えられる第2ユニタリー行列を設定し、当該第2ユニタリー行列で与えられる偏光特性を有する第2ユニタリー行列発生器に、前記第2光信号を通過させて、予め設定された偏波モード分散及び偏波依存性損失に起因する偏波障害を擬似的に発生させ、周波数ごとの空間スペクトル成分を合波してエミュレート光信号として生成する第3ステップと
を含むことを特徴とする偏波障害エミュレート方法。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図を参照してこの発明の実施の形態につき説明する。なお、
図1〜
図4、及び
図10はこの発明に係る一構成例を図示するものであり、この発明が理解できる程度に各構成要素の配置関係などを概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。
【0030】
また、以下の説明において、特定の素子および動作条件などを取り上げることがあるが、これら素子および動作条件は好適例の一つに過ぎず、この発明は何らこれらに限定されない。また、ベクトルを表記するに当り、ベクトルを示す文字の上に矢印を付するかあるいは太字によって示し、ベクトルの大きさそのものを通常の文字を以って表すのが一般的であるが、以下の説明においては、ベクトル量を数式の中で用いる場合を除き、通常の文字によって示す。また、行列を表記するに当たっても、同様に通常の文字によって示す。
【0031】
<第1の偏波障害エミュレータ>
図1〜
図4を参照して、この発明の実施形態の第1の偏波障害エミュレータの構成、その動作、及び得られる効果について説明する。
【0032】
(構成)
図1は、第1の偏波障害エミュレータの概略的ブロック構成図である。第1の偏波障害エミュレータは、スペクトル分光器101、第1ユニタリー行列発生器103、PDL発生器104、第2ユニタリー行列発生器105、及びスペクトル合波器107が、この順序に配列されて構成される。そして、任意の偏光状態の入力光信号を入力して、予め設定された偏波モード分散及び偏波依存性損失に起因する偏波障害を有するエミュレート光信号を生成して出力する。
【0033】
図1に示すように、スペクトル分光器101と第1ユニタリー行列発生器103との間にスペクトル分光器101から出力された光信号を平行光ビームにするための第1レンズ102が挿入されており、また、第2ユニタリー行列発生器105とスペクトル合波器107との間に、第2ユニタリー行列発生器105出力された平行光ビームを集光するための第2レンズ106が挿入されている。
【0034】
スペクトル分光器101は、任意の偏光状態の入力光信号を入力して、周波数ごとにこの光信号を空間スペクトル分光する役割を果たす。
図2(A)にスペクトル分光器101の概略的構成を示す。
図2(A)に示すように、スペクトル分光器101は、第1半円柱レンズ201と第1 VIPA(Virtually Imaged Phased Array)板202を備えて構成される。第1半円柱レンズ201は、光信号を第1 VIPA板202のピクセルに集光する機能を果たし、第1 VIPA板202は、第1 半円柱レンズ201からの出力光信号を平行光ビームにする機能を果たす。ここでは、VIPA板を用いたが分光グレーティング又はプリズム等を用いることもできる。
【0035】
VIPA板は、その分光特性の偏波依存性が極めて小さい。後述するように、スペクトル分光器101を、VIPA板を用いて構成すると、その偏波無依存性によって、第1ユニタリー行列発生器103を構成するために一般に3枚必要とされる液晶アレイが2枚で済むという利点がある。
【0036】
図2(B)に示すスペクトル合波器107は、第2ユニタリー行列発生器105から出力された光信号を入力して、周波数ごとの空間スペクトル成分を合波してエミュレート光信号として生成して出力する。第2VIVA板205から出力された光は第2半円柱レンズ203で平行光ビームにされる。
【0037】
第1ユニタリー行列発生器103は、第1スペクトル分光器101から出力された光信号が入力されると、周波数ごとに偏波依存性損失が最も大きくなる偏光軸を予め指定された方向に調整して出力する。そのため、第1ユニタリー行列発生器103は、この第1ユニタリー行列発生器103の偏光伝達特性を与える第1ユニタリー行列を、周波数ごとに偏波依存性損失が最も大きくなる偏光軸を予め指定された方向に設定可能に形成されている。
【0038】
一方、第2ユニタリー行列発生器105は、PDL発生器104から出力された光信号が入力されると、予め設定された偏波モード分散及び偏波依存性損失に起因する偏波障害を擬似的に発生させて出力する。そのため、第2ユニタリー行列発生器105は、第2ユニタリー行列を設定可能に形成されている。第2ユニタリー行列は、第1ユニタリー行列のエルミート共役行列と、予め指定された偏波モード分散の方向に規定するユニタリー行列との積で与えられる。
【0039】
第1ユニタリー行列発生器103と第2ユニタリー行列発生器105とは、その構成が似通っているので、
図3を参照してその構成について一括して説明する。
【0040】
図3(A)に示すように、第1ユニタリー行列発生器103と第2ユニタリー行列発生器105のそれぞれは、3枚の液晶アレイの組として構成される。
図3(B)の一番左に示す液晶アレイは、第1ユニタリー行列発生器103に対しては第1液晶アレイ301に相当し、第2ユニタリー行列発生器105に対しては第4液晶アレイ304に相当する。
図3(B)の中央に示す液晶アレイは、第1ユニタリー行列発生器103に対しては第2液晶アレイ302に相当し、第2ユニタリー行列発生器105に対しては第5液晶アレイ305に相当する。同様に、
図3(B)の一番右に示す液晶アレイは、第1ユニタリー行列発生器103に対しては第3液晶アレイ303に相当し、第2ユニタリー行列発生器105に対しては第6液晶アレイ306に相当する。
【0041】
図3(B)では、第1ユニタリー行列発生器103及び第2ユニタリー行列発生器105において光信号の進行方向は、図中で右向きの矢印で示すように、図の左から右に向けて進むように設定されている。第1液晶アレイ301、第2液晶アレイ302、第3液晶アレイ303、第4液晶アレイ304、第5液晶アレイ305、及び第6液晶アレイ306は、
図3(B)に破線で区切って示してあるように、複数のピクセルからなっており、それぞれの液晶アレイに光信号の波長スペクトル成分波長ごとにこれらのピクセルに選択的に入力される。
図3(B)において破線で区切られた縦長の矩形の一つ一つが液晶ピクセルに相当する。
【0042】
第1ユニタリー行列発生器103は、
図3(A)の左側に示すように、第1液晶アレイ301、第2液晶アレイ302、及び第3液晶アレイ303を備えて構成されている。第1液晶アレイ301の固有軸は水平方向に対して+45°傾いている。第2液晶アレイ302の固有軸は水平方向に平行になっている。第3液晶アレイ303の固有軸は水平方向に対して+45°傾いている。第1液晶アレイ301、第2液晶アレイ302、及び第3液晶アレイ303のそれぞれが備える液晶ピクセルは、周波数ごとに対応する電気信号を印加することにより、入力光信号の周波数ごとに、第1液晶アレイ301、第2液晶アレイ302、第3液晶アレイ303において、それぞれ入力された光信号の偏光状態を回転させる。
【0043】
また、上述したように、VIPA板が偏波無依存性であるため、第1液晶アレイ301を備えることは必須条件ではなく、第1ユニタリー行列発生器103は、第2液晶アレイ302、第3液晶アレイ303を備えれば十分である。
【0044】
一方、第2ユニタリー行列発生器105は、
図3(A)の右側に示すように、第4液晶アレイ304、第5液晶アレイ305、及び第6液晶アレイ306を備えている。第4液晶アレイ304の固有軸は水平方向に対して+45°傾いている。第5液晶アレイ305の固有軸は水平方向に平行になっている。第6液晶アレイ306の固有軸は水平方向に対して+45°傾いている。第4液晶アレイ304、第5液晶アレイ305、及び第6液晶アレイ306のそれぞれが備える液晶ピクセルは、周波数ごとに対応する電気信号を印加することにより、PDL発生器104から出力された光信号の周波数ごとに、第4液晶アレイ304、第5液晶アレイ305、第6液晶アレイ306において、それぞれ入力された光信号の偏光状態を回転させる。
【0045】
PDL発生器104は、第1ユニタリー行列発生器103から出力された光信号に、予め指定された周波数ごとに偏波依存性損失が最も大きくなる偏光軸の方向に、予め指定された大きさの光損失を周波数ごとに与えて出力する機能を果たす。そのため、予め設定された偏波依存性損失の固有軸の方向に損失を与えるべく、第1ユニタリー行列発生器103から出力された光信号の水平軸方向の偏波成分及び垂直軸方向の偏波成分のそれぞれに対して、直交偏光軸間に周波数ごとに位相差を与えることが可能な構成とされている。
【0046】
PDL発生器104は、
図4(A)に示すように、偏光ビームスプリッタ401、固定遅延素子403、第7液晶アレイ402、第8液晶アレイ404、偏光ビームコンバイナ405、第1反射鏡406、及び第2反射鏡407を備えている。
【0047】
偏光ビームスプリッタ401は、第1ユニタリー行列発生器103から出力された光信号を水平軸方向の偏波成分(s成分)と垂直軸方向の偏波成分(p成分)とに分岐する。水平軸方向の偏波成分(s成分)は、固定遅延素子403に入力され、垂直軸方向の偏波成分(p成分)は第1反射鏡406に入力される。
【0048】
固定遅延素子403は、水平軸方向の偏波成分(s成分)と垂直軸方向の偏波成分(p成分)の経路長が等しくなるように調整する。
【0049】
第7液晶アレイ402は、その固有軸が水平方向に対して+45°傾いた液晶アレイである。第7液晶アレイ402は第1ユニタリー行列発生器103から出力された光信号の水平軸方向の偏波成分(s成分)に対して直交偏光軸間に周波数ごとに位相差を与えることが可能である。
【0050】
第8液晶アレイ404は、その固有軸が水平方向に対して+45°傾いた液晶アレイである。第8液晶アレイ404は、第1ユニタリー行列発生器から出力された光信号の垂直軸方向の偏波成分(p成分)に対して直交偏光軸間に周波数ごとに位相差を与えることが可能である。
【0051】
偏光ビームコンバイナ405は、第7液晶アレイ402、第8液晶アレイ404のそれぞれを通過した偏波成分を合波する。
【0052】
第1反射鏡406は、垂直軸方向の偏波成分(p成分)を、第8液晶アレイ404の方向に反射し、第2反射鏡407は、第8液晶アレイ404を通過した垂直軸方向の偏波成分(p成分)を偏光ビームコンバイナ405の方向に反射する。
【0053】
第1液晶アレイ301、第2液晶アレイ302、第3液晶アレイ303、第4液晶アレイ304、第5液晶アレイ305、第6液晶アレイ306、第7液晶アレイ402、及び第8液晶アレイ404として、例えば、パーキンエレルマー社の空間光変調器(SLM: Spatial Light Modulator)を適宜利用することができる。
【0054】
(動作)
<光信号の伝播経路>
この発明の偏波障害エミュレータの動作の概略的理解に資するように、まず、この発明の偏波障害エミュレータ内での光信号の伝播について説明する。
【0055】
図1に示すように、偏波障害エミュレータに入力された光信号は、スペクトル分光器101へ入力され、空間的にスペクトル分光される。次に、第1レンズ102により平行ビームに変換され、第1ユニタリー行列発生器103に入力される。
【0056】
第1ユニタリー行列発生器103では、第1液晶アレイ301、第2液晶アレイ302、第3液晶アレイ303のそれぞれの波長に対応する液晶ピクセルを電気信号によって、固有軸方向及びこの方向に直交する方向の偏波成分間の位相差を調整することにより、空間的にスペクトル分光された平行ビームに対し、波長ごとに光信号のSOPを任意に変換することができる。この実施形態では、第1液晶アレイ301、第2液晶アレイ302、第3液晶アレイ303の固有軸は、それぞれ水平方向に対して+45度、0度、+45度に設定されている。従って、これら液晶アレイを構成するそれぞれの液晶ピクセルを電気信号で制御することによって、光信号のSOPをストークス空間において、第1液晶アレイ301ではS
2軸、第2液晶アレイ302ではS
1軸、第3液晶アレイ303ではS
2軸を中心として回転制御することができる。
【0057】
第1ユニタリー行列発生器103から出力された光信号は、PDL発生器104へ入力される。PDL発生器104では、まず、偏光ビームスプリッタ401により、水平軸方向の偏波成分(s成分)と垂直軸方向の偏波成分(p成分)とに分離され、水平軸方向の偏波成分(s成分)は、固定遅延素子403、第7液晶アレイ402の順に通過して偏光ビームコンバイナ405に入力される。一方、垂直軸方向の偏波成分(p成分)は、第1反射鏡406で反射されて第8液晶アレイ404を通過し、第2反射鏡407で反射されて偏光ビームコンバイナ405に入力される。固定遅延素子403は、偏光ビームスプリッタ401から光ビームコンバイナ405までの間の、水平軸方向の偏波成分(s成分)と垂直軸方向の偏波成分(p成分)との光路長を等しく調整するために挿入されているものである。
【0058】
第7液晶アレイ402及び第8液晶アレイ404の固有軸は、共に水平方向に対して+45度の向きに設定されているので、第7液晶アレイ402及び第8液晶アレイ404では、これらを構成する液晶ピクセルのそれぞれを電気信号で制御することによって、光信号のSOPをストークス空間において、S
2軸を中心として回転制御することができる。
【0059】
PDL発生器104から出力された光信号は、第2ユニタリー行列発生器105へ入力される。第2ユニタリー行列発生器105を構成する、第4液晶アレイ304、第5液晶アレイ305、第6液晶アレイ306の固有軸は、それぞれ水平方向に対して+45度、0度、+45度に設定されているので、これら液晶アレイを構成するそれぞれの液晶ピクセルを電気信号で制御することによって、光信号のSOPをストークス空間において、第1液晶アレイ301では、S
2軸、第2液晶アレイ302ではS
1軸、第3液晶アレイ303ではS
2軸を中心として回転制御することができる。
【0060】
<PDL発生器の動作原理と制御方法>
次に、PDL発生器104の動作原理とその制御方法について説明する。
【0061】
光ファイバ伝送路の偏光特性は、ジョーンズ(Jones)行列J
a(ω)で表すことができる。行列J
a(ω)は正則行列であり、J
a*(ω)J
a(ω)は正定値エルミート行列となる。ここで*は、随伴作用素(エルミート共役)を意味する。
【0062】
ここで、任意のエルミート行列H
a(ω)と任意のユニタリー行列U
a(ω)を、次式(1)及び(2)で与えられるものとする。
【0064】
J
a*(ω)J
a(ω)は、エルミート行列なので対角化が可能であり、その平方根で与えられるH
a(ω)もエルミート行列である。
【0065】
ここで、U
a*(ω)U
a(ω)は、次式(3)のように変形可能であることから、U
a(ω)はユニタリー行列であることが判明する。ここで、Iは単位行列を意味する。
【0067】
このことから、上述の式(2)から、任意のジョーンズ行列J
a(ω)は、下式(4)に示すように書くことができ、エルミート行列H
a(ω)とユニタリー行列U
a(ω)の積として表すことができる。エルミート行列H
a(ω)は、PDLを意味し、ユニタリー行列U
a(ω)はPMD及びSOPの回転を意味する。
J
a(ω)=U
a(ω)H
a(ω) …(4)
H
a(ω)はエルミート行列であるので、ユニタリー行列を用いて対角化が可能である。ここで、ユニタリー行列をD(ω)と表すことにすると、式(4)は、式(5)のように変形できる。
H
a(ω)=U
a(ω)D
*(ω)A
a(ω)D(ω) …(5)
ここで、D(ω)はPDLの固有軸を規定し、A
a(ω)はPDLの大きさを与える。U
a(ω)とD
*(ω)はユニタリー行列であるので、U
a(ω)D
*(ω)もユニタリー行列となる。
【0068】
ここで、偏波障害エミュレータの動作と、上述の式(5)との対応について説明する。第1ユニタリー行列発生器103は、PDLの固有軸を規定するD(ω)で与えられる機能を果たし、PDL発生器104は、PDLの大きさを規定するA
a(ω)で与えられる機能を果たし、第2ユニタリー行列発生器105は、ユニタリー行列U
a(ω)D
*(ω)で与えられる機能を果たす。
【0069】
偏光素子に対してその偏光特性を与える伝達関数として上述のようにジョーンズ行列を用いることができるが、ミュラー行列も用いることもできる。ジョーンズ行列はジョーンズベクトルに作用する演算子であり、ジョーンズ行列による表示を用いる場合は偏光の状態をジョーンズベクトルで与える。また、ミュラー行列はストークスベクトルに作用する演算子であり、ミュラー行列による表示を用いる場合は偏光の状態をストークスベクトルで与える。ジョーンズ行列からミュラー行列へは数学的に変換可能である。偏光素子の伝達関数としていずれの行列表示を用いるかは、着目する偏光特性等によって適宜決定される。
【0070】
上述の議論では、説明の便宜上、偏光特性を与える伝達関数としてジョーンズ行列を用いたが、制御パラメータと行列要素との対応をつけるための利便性を考慮して、以下の議論では、伝達関数としてミュラー行列を用いる。すなわち、必要とされる制御パラメータを行列要素の関数として求めるためには伝達関数としてミュラー行列を用いるのが便利であるので、偏波障害エミュレータを構成する個々の素子をそれぞれ偏光素子と見る立場で、これらの偏光素子の偏光特性を与える伝達行列としてミュラー行列を用いる。
【0071】
第1ユニタリー行列発生器103の第1液晶アレイ301、第2液晶アレイ302、第3液晶アレイ303によって、波長ごとに発生させる直交偏光軸間の位相差を、それぞれ、α
1(ω)、β
1(ω)、γ
1(ω)とし、これらの液晶アレイの偏光特性を与えるミュラー行列を、それぞれR
11(ω)、R
12(ω)、R
13(ω)とする。同様に、第2ユニタリー行列発生器105の第4液晶アレイ304、第5液晶アレイ305、第6液晶アレイ306によって、波長ごとに発生させる直交偏光軸間の位相差を、それぞれ、α
2(ω)、β
2(ω)、γ
2(ω)とし、これらの液晶アレイの偏光特性を与えるミュラー行列を、それぞれR
21(ω)、R
22(ω)、R
23(ω)とする。そうすると、それぞれのミュラー行列は、式(6a)、式(6b)、式(6c)で与えられる。ここで、R
11,21(ω)は、R
11(ω)及びR
21(ω)をまとめて表し、R
12,22(ω)は、R
12(ω)及びR
22(ω)をまとめて表し、R
13,23(ω)は、R
13(ω)及びR
23(ω)をまとめて表している。また、α
1,2(ω)はα
1(ω)とα
2(ω)をまとめて表し、β
1,2(ω)はβ
1(ω)とβ
2(ω)をまとめて表し、γ
1,2(ω)は、γ
1(ω)とγ
2(ω)をまとめて表したものである。
【0073】
また、第1ユニタリー行列発生器103と第2ユニタリー行列発生器105の偏光特性を与えるミュラー行列を、それぞれM
1(ω)、M
2(ω)とし、M
1(ω)とM
2(ω)とをまとめてM
1,2(ω)と表すこととすれば、M
1,2(ω)は次式(7)のように書ける。また、ミュラー行列M
1(ω)は上述のユニタリー行列D(ω)に対応し、ミュラー行列M
2(ω)はユニタリー行列U
a(ω)D
*(ω)に対応する。行列D(ω)が第1ユニタリー行列発生器103によって確定される第1ユニタリー行列であり、行列U
a(ω)D
*(ω)が第2ユニタリー行列発生器105によって確定される第2ユニタリー行列である。行列D
*(ω)は第1ユニタリー行列D(ω)のエルミート共役行列であり、U
a(ω)は予め指定された偏波モード分散の方向を規定するユニタリー行列である。
【0075】
式(7)における各パラメータα
1,2(ω)、β
1,2(ω)、γ
1,2(ω)は周波数ωの関数であるが、式(7)では、煩雑となるので、(ω)を省略してある。また、この明細書において、周波数(ω)の代わりに波長(λ)ということもあるが、周波数=伝播速度/波長の関係で一義的に対応するので、周波数の代わりに波長ということもある。
【0076】
次に、PDL発生器104の制御の方法について説明する。
【0077】
PDL発生器104において、偏光ビームスプリッタ401で分岐された水平軸方向の偏波成分(s成分)が伝播する光路に配置する固定遅延素子403は、垂直軸方向の偏波成分(p成分)が伝播する光路長と等しくなるように、位相遅延を与えることを目的に配置されるものである。このため、その位相遅延特性は変化させる必要はなく固定したままでよい。そして、固定遅延素子403は、小型化するためには屈折率の大きな材料を使うのが望ましい。例えば、イットリウムバナデート(YVO
4)結晶が好適に利用できる。
【0078】
偏光ビームスプリッタ401から分岐された光信号の水平軸方向の偏波成分(s成分)が伝播する光路に配置される第7液晶アレイ402で発生させる直交偏光軸間の位相差をφ
x(ω)とし、垂直軸方向の偏波成分(p成分)が伝播する光路に配置される第8液晶アレイ404で発生させる直交偏光軸間の位相差をφ
y(ω)とすれば、PDL発生器104の偏光特性を与える伝達行列としてのミュラー行列M
A(ω)は、次式(8)で与えられる。また、ミュラー行列M
A(ω)は、上述のPDLの大きさを規定する行列A
a(ω)に対応し、PDL発生器104によって確定される。
【0080】
ここで、X(ω)=cos
2{φ
x(ω)/2}、Y(ω)=cos
2{φ
y(ω)/2}である。
【0081】
PDL発生器104では、予め与えられるPDLに等しいPDLを発生させることがその役割である。偏波障害エミュレータで発生させる偏波特性を与えるミュラー行列をM
a(ω)とし、ここでは、M
a(ω)を次式(9)で表されるものとする。
【0083】
M
a(ω)が式(9)で与えられるとすると、偏波障害エミュレータで発生させるPDLベクトルΓ
a(ω)は、式(9)で与えられるミュラー行列成分を用いて、次のように定義される。
【0085】
ここで、|Γ
a(ω)|はPDLの大きさをデシベルで表したものである。ベクトルp
a(ω)はPDLベクトルの単位ベクトルであり、ストークス空間で損失がもっとも大きな偏光軸の方向を与える。
【0086】
PDL発生器104の役割は、予め与えられるPDLを模倣することであるので、パラメータX(ω)及びY(ω)は、式(6)と式(7)から次式(12)で与えられる。
【0088】
式(12)からX(ω)及びY(ω)について解くと、φ
x(ω)及びφ
y(ω)は、次式(13)で与えられる。
【0090】
第7液晶アレイ402と第8液晶アレイ404の各周波数に対応する液晶ピクセルにおいて、求められたφ
x(ω)及びφ
y(ω)に基づいて、直交偏波成分間の位相差を与えれば、任意のPDLをエミュレートできる。
【0091】
<第1ユニタリー行列発生器の制御方法>
次に、第1ユニタリー行列発生器103の制御のために設定するパラメータα
1(ω)、β
1(ω)、γ
1(ω)の求め方について説明する。第1ユニタリー行列発生器103の役割は、PDLベクトルの方向をエミュレートすることである。エミュレート対象の単位PDLベクトルp
a(ω)は、式(11)で与えられる。PDLベクトルの方向を、予め与えられたエミュレート対象の単位PDLベクトルの方向と一致させるには、ミュラー行列M
A(ω)M
1(ω)が規定するPDLベクトルと、式(11)で与えられる単位PDLベクトルp
a(ω)とが等しいベクトルになればよい。
【0092】
ミュラー行列M
A(ω)M
1(ω)が規定するPDLベクトルP
a(ω)は、次式(14)で与えられる。
【0094】
ここで、スペクトル分光器101に偏波依存性がなければ、第1液晶アレイ301のパラメータα
1(ω)は、常に0となる。また、式(14)で与えられるPDLベクトルP
a(ω)の第1成分、第2成分、第3成分が、式(7)で与えられる行列の01成分、02成分、03成分と対応することから、
m
01=cosγ
1(ω)
m
02=sinγ
1(ω)sinβ
1(ω)
m
03=cosγ
1(ω)sinβ
1(ω)
となる。
【0095】
この関係を用いて、第1ユニタリー行列発生器103の第1液晶アレイ301、第2液晶アレイ302、第3液晶アレイ303によって、波長ごとに発生させる直交偏光軸間の位相差α
1(ω)、β
1(ω)、γ
1(ω)が、次式(15)のように求まる。
【0097】
このように位相差が発生するように各液晶アレイを構成する液晶ピクセルを電気制御すれば、第1ユニタリー行列発生器103が、予め指定されたPDLベクトルの方向をエミュレートすることができる。
【0098】
<第2ユニタリー行列発生器の制御方法>
次に、第2ユニタリー行列発生器105の制御のために設定するパラメータα
2(ω)、β
2(ω)、γ
2(ω)の求め方について説明する。第2ユニタリー行列発生器105の役割は、ユニタリー行列U
a(ω)D
*(ω)で与えられる機能を果たすことである。第2ユニタリー行列発生器105で発生させるべきミュラー行列をM
2(ω)とすれば、M
2(ω)は、次式(16)で与えられる。
M
2(ω)=M
a(ω) M
1-1(ω) M
A-1(ω) …(16)
M
2(ω)のx行y列の行列要素をm
xy(ω)と表す。ミュラー行列をM
2(ω)の各行列要素と式(7)で与えられる行列の行列要素とを比較して、第2ユニタリー行列発生器105の制御のために設定するパラメータα
2(ω)、β
2(ω)、γ
2(ω)を求めると、次式(17a)〜(17c)のように求まる。
【0100】
以上説明したように、上述の第1ユニタリー行列発生器103の制御のために設定するパラメータα
1(ω)、β
1(ω)、γ
1(ω)、及び第2ユニタリー行列発生器105の制御のために設定するパラメータα
2(ω)、β
2(ω)、γ
2(ω)が、繰り返し演算によらずに三角関数の逆関数を求めることによって決定論的に求めることができる。
【0101】
≪偏波障害エミュレータの動作実証≫
図5〜
図9を参照して、偏波障害エミュレータの動作実証について説明する。偏波障害エミュレータの動作実証をするため、ランダムに複屈折要素とPDL発生要素とを接続したモデルを用いて、周波数依存のミュラー行列をエミュレートした。
【0102】
エミュレートの対象モデルは、1.155psのDGDを有する複屈折要素を、ランダム偏波回転器を介して300セクション接続したモデルである。平均のDGDは20psであり、0.2ps/km
-2の光伝送路を想定した場合、10,000kmの光伝送路に対応する。
【0103】
また、光ファイバ増幅器の偏波依存性利得(PDG:Polarization Dependent gain)あるいはその他の受動的光素子のPDLを想定し、0.3dBのPDLを100km間隔に挿入した。PDGはその大きさの符号を変えれば、PDLとして一括して扱える。
【0104】
動作実証に用いた光信号の中心波長は、1550.0nmとして、VIPA板の分光可能な周波数範囲を200GHz、液晶アレイ(第1〜第8液晶アレイ)を構成する各液晶ピクセルの数は128とした。
【0105】
ランダムに複屈折要素とPDL発生要素とを接続したモデルから発生する偏波障害を与えるミュラー行列に対して、エミュレータに設定するパラメータα
1(ω)、β
1(ω)、γ
1(ω)、及びパラメータα
2(ω)、β
2(ω)、γ
2(ω)を計算した。これらのパラメータを設定した偏波障害エミュレータのPDLベクトル及びPMDベクトルを計算し、上述のモデルのPDLベクトル及びPMDベクトルとの比較を行った。
【0106】
図5に、予め設定したDGDとエミュレートされたDGDを波長の関数として示す。エミュレートされたDGDは、偏波障害エミュレータで発生させるPDLベクトル及びPMDベクトルを設定するためのミュラー行列M
a(ω)を与える行列要素m
a00(ω)、m
a01(ω)、m
a02(ω)、m
a03(ω)から、パラメータφ
x(ω)、φ
y(ω)、α
1(ω)、β
1(ω)、γ
1(ω)、α
2(ω)、β
2(ω)、γ
2(ω)を計算して求められる。φ
x(ω)及びφ
y(ω)は式(13)から求められ、α
1(ω)、β
1(ω)、γ
1(ω)は、式(15)から求められ、α
2(ω)、β
2(ω)、γ
2(ω)は、式(17a)〜式(17c)から求められる。ただし、α
1(ω)は、スペクトル分光器101に偏波依存性がないとして、α
1(ω)=0と設定してある。
【0107】
図5に示すように、PMDベクトルの大きさを表す予め設定したDGDを示す曲線とエミュレートされDGDを示す曲線とは、ほとんど重なっており区別できない程である。すなわち、この発明の偏波障害エミュレータによれば、DGDを非常に精度よくエミュレートできることが分かる。
【0108】
図6に、予め設定したPDLとエミュレートされたPDLを波長の関数として示す。エミュレートされたPDLは、PMDの大きさと同様に、ミュラー行列M
a(ω)を与える行列要素m
a00(ω)、m
a01(ω)、m
a02(ω)、m
a03(ω)から求められる。
図6に示すように、式(10)で与えられるPDLベクトルの大きさを表す予め設定したPDLを示す曲線とエミュレートされたPDLを示す曲線とは、ほとんど重なっており区別できない程である。すなわち、この発明の偏波障害エミュレータによれば、PDLを非常に精度よくエミュレートできることが分かる。
【0109】
図7(A)及び(B)に、単位PMDベクトルの先端がポアンカレ球面上で動く軌跡を、予め設定したPMDとエミュレートされたPMDとについて示す。
図7(A)及び(B)では、光信号の波長を1549.2nm〜1550.8nmの範囲で変化させた結果を示す。
図7(A)は予め設定した単位PMDベクトルを示し、
図7(B)はエミュレートされた単位PMDベクトルを示す。
図7(A)及び(B)に示すように、予め設定した単位PMDベクトルとエミュレートされた単位PMDベクトルの両者の先端がポアンカレ球面上で描く曲線は、ほとんど同様であり、区別できない程である。すなわち、この発明の偏波障害エミュレータによれば、単位PMDベクトルを非常に精度よくエミュレートできることが分かる。
【0110】
図8(A)及び(B)に単位PDLベクトルの先端がポアンカレ球面上で動く軌跡を、予め設定したPDLとエミュレートされたPDLとについて示す。
図8(A)及び(B)では、
図7(A)及び(B)と同様に、光信号の波長を1549.2nm〜1550.8nmの範囲で変化させた結果を示す。
図8(A)は予め設定した単位PDLベクトルを示し、
図8(B)はエミュレートされた単位PDLベクトルを示す。
図8(A)及び(B)に示すように、予め設定した単位PDLベクトルとエミュレートされた単位PDLベクトルの両者の先端がポアンカレ球面上で描く曲線は、ほとんど同様であり、区別できない程である。すなわち、この発明の偏波障害エミュレータによれば、単位PDLベクトルを非常に精度よくエミュレートできることが分かる。
【0111】
図9(A)に
図5〜
図8において用いたパラメータβ
1(ω)、γ
1(ω)を、
図9(B)にα
2(ω)、β
2(ω)、γ
2(ω)を液晶ピクセルに対して示す。
図9(A)において、α
1(ω)はα
1(ω)=0と設定してあるので省いた。
図9(A)及び(B)の横軸は波長(周波数)に対応する。また、
図9(C)は、パラメータφ
x(ω)、φ
y(ω)を示す。
図9(C)の横軸も、
図9(A)及び(B)の横軸と同様に目盛ってある。
【0112】
この発明の偏波障害エミュレータでは、第1〜第8液晶アレイとして、複数の液晶ピクセルで構成されたSLMを用いている。そのため、各液晶アレイにおいて隣接する液晶ピクセルに設定するパラメータ値の差が大きいほど、予め設定されたPMDベクトル及びPDLベクトル、とエミュレートされるPMDベクトル及びPDLベクトルとの差異が大きくなる。このため、入力側である第1ユニタリー発生器103を構成する第1〜第3液晶アレイに設定するパラメータの傾き(隣接する液晶ピクセルに設定される位相値の差)に大きな箇所が存在すると、後段に進むにつれて、その位相差の影響が蓄積していく。このため、第1ユニタリー発生器103を構成する第1〜第3液晶アレイに設定するパラメータの傾きを、第2ユニタリー発生器105を構成する第4〜第6液晶アレイに設定するパラメータの傾きよりも小さく設定するのが得策である。
【0113】
図9(A)に示す、第1ユニタリー発生器103に設定するパラメータβ
1(ω)、γ
1(ω)と、
図9(B)に示す、第2ユニタリー発生器105に設定するパラメータα
2(ω)、β
2(ω)、γ
2(ω)とを比較すると、後者のパラメータのほうが横軸(周波数に対応する)に対する変化が大きい。すなわち、隣接する液晶ピクセルに設定する位相差が大きくなっている。このように、この発明においては、入力側である第1ユニタリー発生器103に設定するパラメータβ
1(ω)、γ
1(ω)の周波数依存性を、第2ユニタリー発生器105に設定するパラメータα
2(ω)、β
2(ω)、γ
2(ω)より小さくなるように設定されている。
【0114】
また、既に式(5)を用いて説明したように、任意のジョーンズ行列J
a(ω)は、エルミート行列H
a(ω)とユニタリー行列U
a(ω)の積として表すことができる。このように、ジョーンズ行列J
a(ω)をエルミート行列H
a(ω)とユニタリー行列U
a(ω)の積として分解して考えた場合、入力側である第1ユニタリー行列発生器103でPMDを発生させる必要がある。任意のPMDを発生させるためには、3つの液晶アレイを操作する必要がある。しかしながら、スペクトル分光器101に偏波依存性がない素子を用いれば、第1ユニタリー行列発生器103の第1液晶アレイ301に設定するパラメータα(ω)を0に設定することができる。すなわち、第1液晶アレイ301を配置しなくても良くなる。
【0115】
<第2の偏波障害エミュレータ>
この発明の偏波障害エミュレータの第2の実施形態として、
図10に示す構成とすることが可能である。
図10に示す偏波障害エミュレータと、
図1に示した偏波障害エミュレータとの相違は、PDL発生器である。
【0116】
図1に示した第1の偏波障害エミュレータのPDL発生器104(
図4(A)に示す)は、偏光ビームスプリッタ401によって分岐された水平軸方向の偏波成分(s成分)と垂直軸方向の偏波成分(p成分)の偏光ビームコンバイナ405に至るまでの幾何的な経路長が異なっている。そしてこの経路長を補正して両者の光路長を等しくするために固定遅延素子403が利用されている。
【0117】
一方、
図10に示す第2の偏波障害エミュレータのPDL発生器204は、水平軸方向の偏波成分(s成分)と垂直軸方向の偏波成分(p成分)の幾何的な経路長が等しくなるように構成されており、固定遅延素子403は利用されない。
【0118】
このような構成の相違から、第1の偏波障害エミュレータは、入力から出力されるまでの光路を一直線上に形成することができる特徴がある。これに対して、第2の偏波障害エミュレータは、入力から出力されるまでの光路を一直線上に形成できず、入力光信号の入力方向と、エミュレート光信号の出力方向とは直交する方向となる。いずれの構成も、その機能は同一であるので、いずれの構成とするかは利用する状況に応じて適宜決定すればよい。
【0119】
<この発明の偏波障害エミュレータのその他の変形例>
この発明の偏波障害エミュレータの実施形態では、スペクトル分光器101及びスペクトル合波器107として、VIPA板を利用したが、この他に、偏波依存性の小さなブレーズドグレーティングを利用することもできる。
【0120】
また、ユニタリー行列を発生させるために光信号のSOPをストークス空間において、S
2軸−S
1軸−S
2軸を中心として回転制御する方法を示したが、S
1軸−S
1軸−S
3軸、S
1軸−S
3軸−S
2軸、S
2軸−S
1軸−S
3軸、S
2軸−S
3軸−S
1軸、S
3軸−S
1軸−S
2軸、S
3軸−S
2軸−S
1軸、S
1軸−S
2軸−S
1軸、S
3軸−S
3軸−S
1軸、S
2軸−S
3軸−S
1軸、S
3軸−S
1軸−S
3軸、S
3軸−S
2軸−S
3軸を中心として回転制御することでも同様にユニタリー行列を発生させることが可能である。
【0121】
また、この発明の偏波障害エミュレータは、偏波障害を補償する補償器の構成要素としてそのまま利用することができる。偏波障害補償器を構成するに当たっては、光ファイバ伝送路から出力される光信号のPMDベクトルおよびPDLベクトルをなんらかの方法で検出する検出器が必要である。PMDベクトルおよびPDLベクトルが検出されたら、このPMDベクトルおよびPDLベクトルに対してそれぞれ逆ベクトルを偏波障害エミュレータによって発生させる構成とすれば、偏波障害補償器が実現される。