特許第6273742号(P6273742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6273742エーテル型ネットワークポリマー及びポリマーゲル電解質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6273742
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】エーテル型ネットワークポリマー及びポリマーゲル電解質
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/00 20060101AFI20180129BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20180129BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20180129BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20180129BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20180129BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20180129BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20180129BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20180129BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   C08G61/00
   H01M10/0565
   H01M10/054
   H01M10/0525
   H01B1/06 A
   H01B1/12 Z
   C08L65/00
   C08K5/17
   C08K5/56
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-199594(P2013-199594)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2015-63640(P2015-63640A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(72)【発明者】
【氏名】吉本 信子
(72)【発明者】
【氏名】山吹 一大
(72)【発明者】
【氏名】森田 昌行
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第07122229(US,B1)
【文献】 国際公開第2013/099224(WO,A1)
【文献】 特開2012−048874(JP,A)
【文献】 特表2010−540714(JP,A)
【文献】 特開2007−188709(JP,A)
【文献】 特開2004−123925(JP,A)
【文献】 特開平10−120914(JP,A)
【文献】 特表平08−502955(JP,A)
【文献】 国際公開第94/008922(WO,A1)
【文献】 特開平05−331248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00−61/12
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
H01B 1/06
H01B 1/12
H01M 10/0525
H01M 10/054
H01M 10/0565
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】
(式中、
、Y及びYは、それぞれ独立して、CR、−O−又は−S−を表し、CR中各Rはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、
1a、R1b及びR1cは、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキレン基を表し、
2a、R2b及びR2cは、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基により置換されていてもよい炭素数2〜10のアルキレン基を表し、
3a、R3b及びR3cは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す)
で表される化合物をオレフィンメタセシス反応により重合して得たネットワークポリマー。
【請求項2】
式(I)で表される化合物が、下記式(II)
【化2】
で表される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のネットワークポリマー。
【請求項3】
下記式(I)
【化3】
(式中、
、Y及びYは、それぞれ独立して、CR、−O−又は−S−を表し、CR中各Rはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、
1a、R1b及びR1cは、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキレン基を表し、
2a、R2b及びR2cは、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基により置換されていてもよい炭素数2〜10のアルキレン基を表し、
3a、R3b及びR3cは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す)
で表される化合物をオレフィンメタセシス反応により重合することを特徴とする、請求項1又は2に記載のネットワークポリマーの製造方法。
【請求項4】
電解液中に請求項1又は2に記載のネットワークポリマーを含有することを特徴とするポリマーゲル電解質。
【請求項5】
電解液が下記式(M)
【化4】
(式中、
Rは置換又は非置換の炭素数1〜10のアルキル基、置換又は非置換の炭素数2〜10のアルケニル基、置換又は非置換の炭素数2〜10のアルキニル基、置換又は非置換の炭素数3〜6の環状アルキル基、置換又は非置換のチオフェン基、置換又は非置換のフェニル基又は置換又は非置換のナフチル基を表し、
XはCl、Br又はIを表す)
で表される1又は2以上のハロゲン化有機マグネシウム化合物の溶液であることを特徴とする請求項4に記載のポリマーゲル電解質。
【請求項6】
電解液が、臭化エチルマグネシウムのジエチルメチルメトキシエチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩溶液であることを特徴とする請求項4又は5に記載のポリマーゲル電解質。
【請求項7】
請求項4〜6いずれかに記載のポリマーゲル電解質を用いることを特徴とする二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規エーテル型ネットワークポリマー、特に、三官能性ベンゼン誘導体をモノマーとした前記ネットワークポリマー、該ネットワークポリマーを含有するポリマーゲル電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代二次電池として期待されている電池の一つに、多価イオン電池がある。例えば、負極活物質に2価(多価)のマグネシウムを用いたマグネシウムイオン二次電池は、負極活物質に1価のリチウムを用いたリチウムイオン二次電池に比べ、エネルギー密度の向上が期待できる。現在の電気自動車において、リチウムイオン二次電池による走行距離は150km程度であるが、二次電池のエネルギー密度を高めることで、走行距離を延ばすことができる。
【0003】
一方で、金属マグネシウムは常温では不動態被膜を形成し、可逆的な溶解析出反応に至らないという課題があり、マグネシウムイオン二次電池は実用段階には至っていない。その解決手段の一つとして、特許文献1には、グリニャール試薬と、有機金属化合物(例えば、CMgCl)またはマグネシウム以外の塩(例えば、(CAlCl)とをテトラヒドロフランに溶解した電解液が開示されている。
【0004】
発明者らもこれまでに、グリニャール試薬の不揮発性のアンモニウム系イオン液体の溶液を電解液として用いることで、グリニャール試薬単体の場合よりも安全性に優れ、高いイオン伝導度を有し、且つ良好なマグネシウムの溶解析出の可逆性を示す、マグネシウムイオン二次電池用電解液を見出している(非特許文献1)。
【0005】
さらに、発明者らは、イミダゾリウム系イオン液体又はピロリジニウム系イオン液体と、グリニャール試薬から成るマグネシウムイオン二次電池用電解液も見出している(特許文献2等)。
【0006】
しかしながら、グリニャール試薬は、反応性が高く、液漏れによって大きな事故を引き起こす可能性が高いという問題点がある。液漏れを防止するために、リチウムイオン二次電池と同様にポリマーゲル電解質を用いることが効果的であるが、通常のアクリル樹脂系等のネットワークポリマーはグリニャール試薬に対する耐性が低く分解してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−188709号公報
【特許文献2】特開2012−48874号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Power Sources,2010,195,2096
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、グリニャール試薬に対して耐性があり、分解しないネットワークポリマー及びそれを含有するポリマーゲル電解質の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ベンゼンの1,3,5位に重合性官能基を有するモノマーを用いた、エーテル型新規ネットワークポリマーの構築に成功し、且つ、当該ネットワークポリマーから得られるポリマーゲル電解質が、高い安全性と高いイオン伝導度を併せ持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は
(1)下記式(I)
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、
、Y及びYは、それぞれ独立して、CR、−O−又は−S−を表し、CR中各Rはそれぞれ独立して、H又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、
1a、R1b及びR1cは、それぞれ独立して、置換又は非置換の炭素数1〜10のアルキレン基を表し、
2a、R2b及びR2cは、それぞれ独立して、置換又は非置換の炭素数2〜10のアルキレン基を表し、
3a、R3b及びR3cは、それぞれ独立して、H又は炭素数1〜4のアルキル基を表す)
で表される化合物をオレフィンメタセシス反応により重合して得たネットワークポリマー、及び、
(2)式(I)で表される化合物が、下記式(II)
【0014】
【化2】
【0015】
で表される化合物であることを特徴とする、(1)に記載のネットワークポリマーに関する。
【0016】
また、本発明は、
(3) 下記式(I)
【0017】
【化3】
【0018】
(式中、
、Y及びYは、それぞれ独立して、CR、−O−又は−S−を表し、CR中各Rはそれぞれ独立して、H又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、
1a、R1b及びR1cは、それぞれ独立して、置換又は非置換の炭素数1〜10のアルキレン基を表し、
2a、R2b及びR2cは、それぞれ独立して、置換又は非置換の炭素数2〜10のアルキレン基を表し、
3a、R3b及びR3cは、それぞれ独立して、H又は炭素数1〜4のアルキル基を表す)
で表される化合物をオレフィンメタセシス反応により重合することを特徴とする、(1)又は(2)に記載のネットワークポリマーの製造方法に関する。
【0019】
さらに本発明は、
(4)電解液中に(1)又は(2)に記載のネットワークポリマーを含有することを特徴とするポリマーゲル電解質、
(5)電解液が下記式(M)
【0020】
【化4】
(式中、
Rは置換又は非置換の炭素数1〜10のアルキル基、置換又は非置換の炭素数2〜10のアルケニル基、置換又は非置換の炭素数2〜10のアルキニル基、置換又は非置換の炭素数3〜6の環状アルキル基、置換又は非置換のチオフェン基、置換又は非置換のフェニル基あるいは置換又は非置換のナフチル基を表し、
XはCl、Br又はIを表す)
で表される1又は2以上のハロゲン化有機マグネシウム化合物の溶液であることを特徴とする(4)に記載のポリマーゲル電解質、
(6)電解液が、臭化エチルマグネシウムのジエチルメチルメトキシエチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩溶液であることを特徴とする(4)又は(5)に記載のポリマーゲル電解質、及び、
(7)(4)〜(6)いずれかに記載のポリマーゲル電解質を用いることを特徴とする二次電池に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のネットワークポリマーは、ベンゼン環及びエーテル鎖からなる繰り返し単位を含有することで、従来のネットワークポリマーに比べ、負極活物質や溶媒に対する化学的安定性が高い。本発明のネットワークポリマーゲルは、その高い化学的安定性のために、グリニャール試薬等のハロゲン化有機マグネシウムを負極活物質とするポリマーゲル電解質として用いることができる。ハロゲン化有機マグネシウムを負極活物質とするポリマーゲル電解質は、従来のネットワークポリマーゲル電解質に比べ高いエネルギー密度が獲得でき、且つ安全性の高い二次電池に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】1,3,5−トリス(10−ウンデセニルオキシ)ベンゼンのH−NMRスペクトルを示す図である。
図2】1,3,5−トリス(10−ウンデセニルオキシ)ベンゼンをモノマーとするネットワークポリマーのIRスペクトルを示す図である。
図3】本発明のネットワークポリマーを用いたポリマーゲル電解質の、サイクッリックボルタンメトリー(CV)測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(ネットワークポリマー)
本発明のネットワークポリマーは、下記式(I)で表されるモノマーに由来する構成単位をその構造中に含む。
【0024】
【化5】
【0025】
式中、Y、Y及びYは、それぞれ独立して、CR、−O−又は−S−を表し、CR中各Rはそれぞれ独立して、H又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、
1a、R1b及びR1cは、それぞれ独立して、置換又は非置換の炭素数1〜10のアルキレン基を表し、
2a、R2b及びR2cは、それぞれ独立して、置換又は非置換の炭素数2〜10のアルキレン基を表し、
3a、R3b及びR3cは、それぞれ独立して、H又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0026】
式(I)で表される化合物において、炭素数1〜4のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、2−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0027】
式(I)で表される化合物において、炭素数1〜10のアルキレン基及び炭素数2〜10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基が挙げられる。
【0028】
前記炭素数1〜10のアルキレン基の置換基としては、式(I)で表される化合物がネットワークポリマーとなり、グリニャール試薬等に対して安定である限り、いかなる置換基でも良いが、具体的には前記炭素数1〜4のアルキル基が挙げられる。
【0029】
式(I)で表される化合物において、Y、Y及びYは、いずれもCRであることが好ましく、RはHであることがより好ましい。
【0030】
また、式(I)で表される化合物において、R1a、R1b及びR1cはプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、ヘプチレン基であることが好ましく、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基であることがさらに好ましく、ブチレン基であることが最も好ましい。同様に、式(I)で表される化合物において、R2a、R2b及びR2cはプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、ヘプチレン基であることが好ましく、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基であることがさらに好ましく、ブチレン基であることが最も好ましい。
【0031】
さらに、式(I)で表される化合物において、R1a、R1b及びR1c並びにR2a、R2b及びR2cは非置換のアルキレン基であることが好ましく、R1a=R1b=R1c且つR2a=R2b=R2cであることが最も好ましい。
【0032】
またさらに、式(I)で表される化合物において、R3a、R3b及びR3cはH又はメチル基であることが好ましく、R3a=R3b=R3c=Hであることが最も好ましい。
【0033】
式(I)で表されるモノマーのうち、好ましいものとしては、下記式(I’)で表される化合物が挙げられ、
【0034】
【化6】
【0035】
式中、na、nb及びncが2〜9の整数であり、より好ましくは、式(I’)で表される化合物においてna=nb=ncが2〜9の整数であり、最も好ましいものとしては、下記式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0036】
【化7】
【0037】
式(I)で表される化合物の合成方法としては、例えば以下に示すような方法がある。
置換又は非置換の1,3,5−ベンゼントリオールを塩基存在化、非プロトン性極性溶媒に溶解し、これに末端二重結合部を有する鎖状部分を反応させることで、すなわちウィリアムソンのエーテル化で目的の式(I)で表される化合物を合成することができる(反応式1)。この際に、必要であれば、相間移動触媒を用いてもよい。
【0038】
【化8】
【0039】
式中、Y、Y及びY、R1a、R1b及びR1c、R2a、R2b及びR2c、並びにR3a、R3b及びR3cは式(I)と同じ定義であり、Z、Z及びZは同一又は異なって脱離基を表す。
【0040】
前記塩基としては、具体的には水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等を挙げることができる。
【0041】
前記非プロトン性極性溶媒としては、反応が進行する限り、いかなる溶媒を用いても良いが、具体的にはアセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。
【0042】
前記Zは脱離基となる部分であり、例えば塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基等を挙げることができる。
【0043】
前記相間移動触媒としては、クラウンエーテル、4級アンモニウム塩等を用いることができ、具体的には、12−クラウン−4−エーテル、15−クラウン−5−エーテル、18−クラウン−6−エーテル等のクラウンエーテルや、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラn−ブチルアンモニウムクロリド、テトラn−ブチルアンモニウムブロミド等のテトラアルキルアンモニウムハライド等が挙げられる。これら、相間移動触媒は、前記塩基の種類や、前記溶媒の種類によって、当業者が適宜選択することができる。
【0044】
また、1,3,5−ベンゼントリオール部分と鎖状部分との反応は、反応式1に記載したように1ポット反応として行うこともできるし、1,3,5−ベンゼントリオール部分の水酸基に異なる保護基を導入し、段階的に異なる鎖状部分を導入することもできる。このような保護基については、Green&Wuts,“PROTECTIVE GROUPS in ORGANIC SYNTHESIS” 4th ed.John Wiley&Sons,Inc.を参照することができる。
【0045】
式(I)で表される化合物の鎖状部分となる式(III)
【0046】
【化9】
【0047】
(式中、Y、R及びRは、それぞれ、式(I)におけるとY〜Y、R1a〜R1c及びR2a〜R2cと同じ定義である。Zは脱離基を表す。)
で表される化合物は、試薬として購入することもできるし、また、たとえば、次に示す方法で合成することもできる。
【0048】
ジオールの片方の水酸基を保護基PGで保護した後に、もう一方の水酸基を酸化しアルデヒドへと変換する。このアルデヒドに対してWittig反応を行うことで、オレフィンを導入し、脱保護の後に残りの水酸基を脱離基Zへと変換することで、式(III)で表される化合物を合成することができる(反応式2)。
【0049】
【化10】
【0050】
前記保護基PGとして用いられるものは、Green&Wuts,“PROTECTIVE GROUPS in ORGANIC SYNTHESIS” 4th ed.John Wiley&Sons,Inc.を参照することができる。具体的には、アセチル基、ピバロイル基等のアシル基、tert−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリエチルシリル基等のシリル基等を用いることができる。
【0051】
前記水酸基の酸化方法としては、一級アルコールを選択的にアルデヒドへと酸化する方法であればいかなる方法を用いることができるが、具体的にはDess−Martin酸化、TEMPO酸化等を挙げることができる。
【0052】
前記脱保護後の水酸基の脱離基Zへの変換方法としては、トリフェニルホスフィン存在下、四塩化炭素又は四臭化炭素を反応させ塩素又は臭素を導入する方法が挙げられる。その他にも、3級アミン等の塩基存在下、アルキル又はアリール塩化スルホニルと反応することでスルホニルエステルへと導く方法が挙げられる。またスルホニルエステル部分をアセトン等の極性溶媒中でハロゲンのアルカリ金属塩を反応させることにより、ハロゲン化する方法等を挙げることができる。
【0053】
また、YがOまたはSの場合、式(III)で表される鎖状部分の左側部分(A)は、例えば以下の方法で合成することができる(反応式3)。反応式2の合成手順と同様に、ジオールの一方の水酸基を選択的に保護し、保護されていない水酸基を、酸化工程を経てオレフィン部分へと変換する。その後、保護基を除去し、脱離基Z’へと変換する(ただし、Z’は前記Zと同じ定義である)。ここで、保護基としてスルホニルエステルを用いた場合、保護基の除去及び脱離基への変換工程を省略することができる。こうして式(III)で表される鎖状部分の左側部分(A)を合成できる。
【0054】
【化11】
【0055】
さらに、式(III)で表される鎖状部分の右側部分は、例えば以下の方法で合成することができる(反応式4)。ジオールの一方の水酸基を選択的に保護し、YがOである、式(III)で表される鎖状部分の右側部分(B)を合成できる。YがSの場合、この水酸基を前記方法と同様の方法でハロゲンへと変換し、これにチオ尿素を塩基条件で作用させた後に、加水分解することで、式(III)で表される鎖状部分の右側部分(C)を合成できる。
【0056】
【化12】
【0057】
上記方法で得た、式(III)で表される鎖状部分の左側部分(A)と右側部分(B)又は(C)とを、反応式1で示した方法と同様に、塩基条件でエーテル化又はチオエーテル化を行い、保護基を除去、水酸基を脱離基Zへと変換することで、式(III)で表される鎖状部分を合成できる(反応式5)。
【0058】
【化13】
【0059】
式(I)で表される化合物の環状部分となる式(IV)
【0060】
【化14】
【0061】
(式中、R3a〜R3cは式(I)と同じ定義である。)
で表される化合物は、試薬として購入することもできるし、また、たとえば、次に示す方法で合成することもできる(反応式6)。
【0062】
まず、1,3,5−トリメトキシベンゼンをルイス酸の存在下、R−X’で表されるハロゲン化アルキルを用いて、フリーデル−クラフツアルキル化反応を行うことで、ベンゼン環にRを導入することができる。ここでX’は、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかから選ばれる。続いて、三臭化ホウ素を用いてメトキシ基を水酸基へと脱保護することにより、式(IV)で表される化合物を合成できる。
【0063】
【化15】
【0064】
フリーデル−クラフツアルキル化において、用いることのできるルイス酸としては、フリーデル−クラフツアルキル化反応が進行する限り、いかなるルイス酸を用いることができるが、具体的には、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、四塩化チタン等を挙げることができる。反応溶媒としては、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ニトロベンゼン等を挙げることができる。反応温度としては、室温から反応溶媒の沸点の間で、反応を行うことができる。
【0065】
三臭化ホウ素を用いた脱保護反応では、溶媒として、ジクロロメタン、四塩化炭素等を用いることができ、−78℃から室温の間の反応温度を選択できる。
【0066】
また、2,4,6位の置換基Rを2種類以上とする場合は、以下に示す方法で、順次ベンゼン環にRを導入し、式(IV)で表される化合物を合成できる(反応式7)。1,3,5−トリメトキシベンゼンのオルトリチオ化を行い、そこにR3a−X’で表されるハロゲン化アルキルを加え、アルキル化を行うことでR3aをベンゼン環状に導入する。続いて、同様にオルトリチオ化を行い、R3b−X’で表されるハロゲン化アルキルを加え、R3bをベンゼン環状に導入する。最後に、R3cをベンゼン環状に導入し、三臭化ホウ素で脱保護をおこない、式(IV)で表される化合物を得ることができる。
【0067】
オルトリチオ化及びそれに続くアルキル化はワンポット反応として行う。リチオ化剤としては、オルトリチオ化が進行すれば、どのようなリチオ化剤を用いても良いが、具体的には、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム等が挙げられる。反応溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル等を挙げることができる。反応温度としては、−78℃から室温の間の反応温度を選択することができる。
【0068】
【化16】
【0069】
(ネットワークポリマーの製造)
本発明のネットワークポリマーの製造方法は、式(I)で表される化合物を重合することで得ることができる。重合反応としては、式(I)で表される化合物を重合することができる限り特に制限されないが、オレフィンメタセシス重合が好ましい。
【0070】
オレフィンメタセシス重合反応は式(I)で表される化合物の二重結合部位が、触媒の作用によって、二重結合部が組換わるクロスメタセシス反応により重合が起きる反応である。触媒としては、メタセシス反応が進行するものであれば特に制限されないが、好適にはグラブス触媒、より好適には第一世代のグラブス触媒であり、最も好適にはベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ジクロロルテニウムである。
用いる溶媒としては、式(I)で表される化合物及び反応に用いる触媒を溶解することができれば制限されず、好適にはジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、トルエン等であり、より好適にはジクロロメタン、クロロホルム、最も好適にはジクロロメタンである。反応温度としては、室温から反応溶媒の沸点の間で、反応を行うことができる。
【0071】
メタセシス重合反応後の炭素−炭素二重結合は、シス体、トランス体の両方が生成する可能性があり、本発明のポリマーはその両方を含む。また、生成した炭素−炭素二重結合は、例えば触媒的水素添加反応により炭素−炭素二重結合を部分的に、又は完全に飽和することもできる。
【0072】
さらに、メタセシス重合反応後の炭素−炭素二重結合に、さらなる置換基の導入を行うこともできる。一例としては、ジエン化合物等と反応させるディールス−アルダー反応や、エン反応等のペリ環状反応を行うことができる。他の例としては、パラジウム触媒を用いるHeck反応を行うことで、アルケニル基やアリール基を導入することもできる。
【0073】
本発明のネットワークポリマーは、溶媒に対する溶解度が非常に低く、合成したポリマーの数平均分子量、重量平均分子量、粘度平均分子量等を測定することが極めて困難である。
【0074】
また、本発明のネットワークポリマーのガラス転移点は、好ましくは10℃〜−40℃、より好ましくは0℃〜−30℃、さらに好ましくは−10℃〜−30℃である。本発明のネットワークポリマーのガラス転移点は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)のような周知技術によって測定できる。
【0075】
さらに、本発明のネットワークポリマーにおいて、25℃における、ジエチルメチルメトキシエチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩に対する膨潤度は好ましくは100%〜250%、より好ましくは150%〜200%、さらに好ましくは170%〜190%、最も好ましくは約180%である。
【0076】
膨潤度[%]は以下の式で算出した。
【数1】
【0077】
(ポリマーゲル電解質)
本発明のポリマーゲル電解質は、上述したネットワークポリマーと電解質溶液とを混合することによって得られる。ネットワークポリマーは、種々の溶媒に対してゲル化能を有するため、ネットワークポリマーと電解質溶液とを含有することによって、ポリマーゲル電解質を形成する。
ゲル化する溶媒としては、例えば、脂肪酸、脂肪族アルコール類、フェノール誘導体類等のプロトン性有機溶媒、グライム、アルケンカーボネート、アルキルカーボネート、環状エーテル、アミド類、ニトリル類、ケトン類、エステル類等の非プロトン性有機溶媒等が挙げられる。具体的には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエ−テル、1,3−プロパンサルトン等の非プロトン性有機溶媒が挙げられる。これらは、2種以上を混合して使用することもできる。
また、ゲル化する溶媒としては、種々のイオン液体を挙げることもできる。前記、イオン液体としては、ハロゲン化有機マグネシウムを安定に溶解する限り、限定されるものではないが、アンモニウム系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、ホスホニウム系イオン液体、ピラゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体、ピロリジニウム系イオン液体、スルホニウム系イオン液体等を用いることができる。
なお、本発明においてゲル化とは、流動性がある液体の流動性が失われた状態になることを指す。
【0078】
本発明のポリマーゲル電解質は、本発明のネットワークポリマーが化学的に安定であるため、グリニャール試薬等のハロゲン化有機マグネシウムの溶液を非水電解質溶液として用いることができる。ハロゲン化有機マグネシウム化合物としては、これらに限定されるものではないが、下記式(M)で表される化合物を用いることができる。
【0079】
【化17】
【0080】
式中、Rは置換又は非置換の炭素数1〜10のアルキル基、置換又は非置換の炭素数2〜10のアルケニル基、置換又は非置換の炭素数2〜10のアルキニル基、置換又は非置換の炭素数3〜6の環状アルキル基、置換又は非置換のチオフェン基、置換又は非置換のフェニル基あるいは置換又は非置換のナフチル基を表し、XはCl、Br又はIを表す。式(M)で表される化合物において、Rは、Mg−Xで表される部位を1つ又は2つ以上有していても良い。
【0081】
前記炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、3−ペンチル基、n−ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブタン−2−イル基、2,3-ジメチルブタン−2−イル基、3−ヘキシル基、2-エチルペンチル基、2-メチルペンタン−3−イル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0082】
前記炭素数2〜10のアルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロぺニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタンジエニル基、1-エチルビニル基、1-メチル−1−プロペニル基、2-メチル−1−プロペニル基、2-メチル−2−プロペニル基、ペンテニル基、ペンタジエニル基、ヘキセニル基、ヘキサジエニル基、ヘキサトリエニル基、ヘプテニル基、ヘプタジエニル基、ヘプタトリエニル基、オクテニル基、オクタジエニル基、オクタトリエニル基、オクタテトラエニル基、ノネニル基、ノナジエニル基、ノナトリエニル基、ノナテトラエニル基、デセニル基、デカジエニル基、デカトリエニル基、デカテトラエニル基、デカペンタエニル基が挙げられる。
【0083】
前記炭素数2〜10のアルキニル基としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1,3−ブタンジイニル基、1-メチル−2−プロピニル基、ペンチニル基、ペンタジイニル基、ヘキシニル基、ヘキサジイニル基、ヘキサトリイニル基、ヘプチニル基、ヘプタジイニル基、ヘプタトリイニル基、オクチニル基、オクタジイニル基、オクタトリイニル基、オクタテトライニル基、ノニニル基、ノナジイニル基、ノナトリイニル基、ノナテトライニル基、デシニル基、デカジイニル基、デカトリイニル基、デカテトライニル基、デカペンタイニル基等が挙げられる。
【0084】
前記炭素数3〜6の環状アルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0085】
前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、環状アルキル基、チオフェニル基、フェニル基、ナフチル基の置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、環状アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0086】
上記、式(M)で表される化合物としては、具体的には例えば、塩化メチルマグネシウム、臭化メチルマグネシウム、ヨウ化メチルマグネシウム、塩化エチルマグネシウム、臭化エチルマグネシウム、ヨウ化エチルマグネシウム、塩化ブチルマグネシウム、臭化ブチルマグネシウム、ヨウ化ブチルマグネシウム、塩化ベンジルマグネシウム、臭化ベンジルマグネシウム、ヨウ化ベンジルマグネシウム等が挙げられ、より好適には、塩化メチルマグネシウム、臭化メチルマグネシウム、塩化エチルマグネシウム、臭化エチルマグネシウム、塩化ブチルマグネシウム、臭化ブチルマグネシウム、塩化ベンジルマグネシウム、臭化ベンジルマグネシウムが挙げられ、さらに好適には、臭化メチルマグネシウム、臭化エチルマグネシウム、臭化ブチルマグネシウムが挙げられ、最も好適には臭化メチルマグネシウム又は臭化エチルマグネシウムが挙げられる。
【0087】
式(M)で表される有機ハロゲン化マグネシウムは定法によりR−Xで示される化合物とマグネシウムから調製することができる。ただしRは上記で定義した通りである。定法で調製することが困難な式(M)で表される化合物を調製する場合、リーケ法により活性化したマグネシウムと前記R−Xで示される化合物とを反応させることで、式(M)で表される化合物を調製することもできる。
【0088】
前記、電解質溶液の溶媒としては、ハロゲン化有機マグネシウムを安定に溶解する限り、限定されるものではないが、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等のアルカン系有機溶媒、ベンゼンやトルエン等の芳香族系有機溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロピラン、ジオキサン等のエーテル系有機溶媒等を挙げることができる。また、前記有機溶媒の他にも、安全性に優れ、高いイオン伝導度を有し、且つ良好なマグネシウムの溶解析出の可逆性を示すことのできるイオン液体を用いることができる。
【0089】
前記、イオン液体としては、ハロゲン化有機マグネシウムを安定に溶解する限り、限定されるものではないが、アンモニウム系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、ホスホニウム系イオン液体、ピラゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体、ピロリジニウム系イオン液体、スルホニウム系イオン液体等を用いることができる。中でも、好ましくはアンモニウム系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、ピロリジニウム系イオン液体を挙げることができ、最も好適にはアンモニウム系イオン液体が挙げられる。
【0090】
前記、アンモニウム系イオン液体としては、具体的にはジエチルメチルメトキシエチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩、メチルトリn−オクチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩、エチルジメチルプロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩、テトラブチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩、ベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド、テトラオクチルアンモニウムクロリド等が挙げられ、より好適には、ジエチルメチルメトキシエチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩、メチルトリn−オクチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩、エチルジメチルプロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩、テトラブチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩が挙げられ、さらに好適には、ジエチルメチルメトキシエチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩、メチルトリn−オクチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩が挙げられ、最も好適にはジエチルメチルメトキシエチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩が挙げられる。
【0091】
上記ハロゲン化有機マグネシウムを用いた電解質の他にも、電解質としては、非水電解質溶液に用いられる従来公知の無機イオン塩を用いることができ、例えば、塩化リチウム(LiCl)、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、リチウムテトラフェニルボレート(LiB(C)、メタンスルホン酸リチウム(LiCHSO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(Li(CSON)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(Li(CFSON)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチルリチウム(LiC(CFSO)、臭化リチウム(LiBr)を用いることが可能であり、これらの2種以上を混合して使用することもできる。
【0092】
上記ハロゲン化有機マグネシウムを用いた電解質以外の電解質に使用する溶媒としては、非水電解質溶液に用いられる従来公知の溶媒を用いることができ、例えば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、アセトニトリル、プロピオニトリル、アニソール、酢酸エステル、酪酸エステル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、メチルスルホラン、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、エチレンスルフィド、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド、トリメチルヘキシルアンモニウム等を用いることが可能であり、これらの2種以上を混合して使用することもできる。
【0093】
前記電解質溶液の中でも、ジエチルメチルメトキシエチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩を含む溶媒に、臭化エチルマグネシウムを溶解した電解質溶液が好ましい。
【0094】
電解液中の溶質と溶媒の割合は、溶質が溶媒に溶解する限り、いかなる割合であっても良いが、溶質:溶媒が物質量比で0.1:10〜10:0.1であり、より好ましくは1:10〜10:1、さらに好ましくは1:5〜5:1、もっとも好ましくは1:2〜2:1である。
【0095】
本発明のポリマーゲル電解質は、電解質溶液をネットワークポリマーでゲル化させることで得ることができる。具体的には、所定量の電解質溶液に所定量のネットワークポリマーを浸漬させるという製造方法が例示される。通常、ハロゲン化有機マグネシウムは空気中の水分及び酸素と反応し不動体を形成するため、上記操作は不活性ガス下で行うことが好ましい。
【0096】
(非水電解質二次電池)
前記ポリマーゲル電解質は、マグネシウム二次電池やリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池として使用することができる。
【0097】
本発明の非水電解質二次電池としては、上記ポリマーゲル電解質を使用する以外は、従来公知の構成から成る。
【0098】
例えば、正極としては、放電時に正イオンを吸収するもの、もしくは負イオンを放出するものであれば特に限定されず、金属酸化物やポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン等の導電性高分子やその誘導体、ジスルフィド化合物等の二次電池の正極材料として従来公知のものが使用できる。
【0099】
また、負極としては、カチオンを吸蔵・放出可能な材料であれば特に限定されず、天然黒鉛、石炭・石油ピッチ等を高温で熱処理して得られる黒鉛化炭素等の結晶質カーボン、石炭、石油ピッチコークス、アセチレンピッチコークス等を熱処理して得られる非晶質カーボン、金属リチウムやAlLi等のリチウム合金等、二次電池の負極活物質として従来公知のものが使用できる。
【0100】
さらに、電極を形成する際に、これらの電極活物質を適当な結着剤や機能性材料と混合し、電極層を形成することもできる。この結着剤としてはポリフッ化ビニリデン等のハロゲン含有高分子等が用いられ、また機能性材料としては電子伝導性を確保するためのアセチレンブラックやポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子、イオン伝導性を確保するための高分子電解質、それらの複合体等が挙げられる。
【0101】
本発明の非水電解質二次電池は、前記ポリマーゲル電解質、前記正極及び負極等を用いて電池を組み立てることにより得ることができる。その他の構成要素や構造については特に制限は無く、従来公知の非水電解質二次電池で採用されている各種構成要素、構造を適用することができる。
【0102】
例えば、セパレータ基材にポリマーゲル電解質を担持させることもできる。セパレータ基材としては、通常非水電解質二次電池用のセパレータ基材として用いられているものを使用することができる。例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリエステル不織布、PTFE多孔体フィルム、クラフト紙、レーヨン繊維・サイザル麻繊維混抄シート、マニラ麻シート、ガラス繊維シート、セルロース系電解紙、レーヨン繊維からなる抄紙、セルロースとガラス繊維との混抄紙、またはこれらを組み合せて複数層に構成したもの等を使用することができる。
【0103】
また、本発明の非水電解質二次電池では、その形状等についても特に制限はない。例えば、コイン形、ボタン形、シート形、積層形、円筒形、偏平形、角形、電気自動車等に用いる大型のもの等、いずれであってもよい。本発明のポリマーゲル電解質は、電解質溶液の含有量が従来の二次電池に比べて大幅に少ないため、特に大型の電池作製の際に、安全性及び製造コストの面で本発明の効果が顕著に表れる。
【実施例】
【0104】
以下に、実施例において本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術範囲は、これらに限定されるものではない。
【0105】
1.モノマーの合成
1,3,5−トリス(10−ウンデセニルオキシ)ベンゼンの合成は、以下の手順で合成した。
【0106】
【化18】
【0107】
1,3,5−ベンゼントリオール(0.5g,3.08mmol)、11−ブロモ−1−ウンデセン(2.877g,12.32mmol)、炭酸セシウム(5.058g,18.84mmol)のジメチルホルムアミド溶液(50ml)をフラスコに入れ、120℃で24時間加熱撹拌した。その後、反応液を熱時濾過し、濾液を蒸留した。蒸留後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=40:1(v/v))に供し、1,3,5−トリス(10−ウンデセニルオキシ)ベンゼンの黄色粘性液体を1.62g(収率90.1%)で得た。この化合物のH−NMRスペクトルを図1に示す。
【0108】
2.ポリマー膜の合成
1,3,5−トリス(ウンデセニルオキシ)ベンゼン(40mg,0.069mmol)とベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ジクロロルテニウム(2.83mg,3.41×10−3mmol)のジクロロメタン溶液をガラス板に滴下し、50℃で24時間加熱した。その後、エチルビニルエーテルを添加することで反応を停止し、メタノール及び酢酸エチルで順次洗浄し、紫色固体のネットワークポリマーの膜を得た。前記ネットワークポリマーのIRスペクトルを図2に示す。
示差走査熱量測定(DSC)で測定した、上記ネットワークポリマーのガラス転移点は,−21.6℃であった。
【0109】
3.ネットワークポリマー膜の安定性試験
上記2で合成したネットワークポリマーを、臭化エチルマグネシウムの1Mテトラヒドロフラン溶液にグローブボックス中アルゴン雰囲気下、室温で浸漬した。24時間浸漬した後でも、膜の破れや劣化等は観測されず、安定性が確認された。
【0110】
4.ネットワークポリマーを用いた電解質のイオン伝導度の測定
上記2で合成したネットワークポリマーを十分に乾燥した後に、臭化エチルマグネシウムとジエチルメチルメトキシエチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド塩の物質量比が1:1の混合溶液からなる電解液に、グローブボックス中アルゴン雰囲気下で浸漬し、ポリマーゲル電解質を調製した。調製した電解質の膨潤度とイオン伝導度の測定結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
5.ネットワークポリマー電解質中でのマグネシウムの析出/溶解挙動
上記4で調製したネットワークポリマー電解質を用いて、サイクッリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。結果を図3に示す。ネットワークポリマー電解質中で酸化/還元の挙動が観測され、マグネシウムの析出/溶解が起こっていることが明らかとなった。また、連続して3回測定を行ったところ、それぞれの最大酸化電位および還元電位にはほとんど差がないことから、本発明のネットワークポリマー電解質が、二次電池用の電解質として利用できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明で得られるネットワークポリマーは、求核剤と反応する部位を持たないため、従来のネットワークポリマーに対して高い安定性を有する。したがって、従来のポリマーゲル電解質では扱えなかった、グリニャール試薬を含む有機ハロゲン化マグネシウム含有する電解液として用いた、高い安全性と高いイオン伝導度を併せ持つネットワークポリマー電解質を供給することができる。このネットワークポリマー電解質を用いることで、従来のリチウムイオン二次電池よりもエネルギー密度の高いマグネシウムイオン二次電池を供給することが可能となる。
図1
図2
図3