特許第6273859号(P6273859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6273859三元触媒及びそれを用いた排ガス浄化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6273859
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】三元触媒及びそれを用いた排ガス浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/85 20060101AFI20180129BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20180129BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20180129BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   B01J23/85 AZAB
   B01D53/86 222
   B01J35/10 301J
   F01N3/10 A
   F01N3/10 Z
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-12283(P2014-12283)
(22)【出願日】2014年1月27日
(65)【公開番号】特開2015-139719(P2015-139719A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 真利
(72)【発明者】
【氏名】濱口 豪
(72)【発明者】
【氏名】長井 康貴
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−309189(JP,A)
【文献】 特開2014−000552(JP,A)
【文献】 特開昭62−065721(JP,A)
【文献】 特開2009−090273(JP,A)
【文献】 特開平07−204510(JP,A)
【文献】 特開平08−084911(JP,A)
【文献】 特開2012−196660(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/191298(WO,A1)
【文献】 米国特許第06193942(US,B1)
【文献】 特開平08−131830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86
F01N 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素(HC)類、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を含有する燃焼排ガスを接触させて前記3成分を浄化する三元触媒であって、
酸化セリウム(CeO)を含む担体と、該担体に担持された銅(Cu)及びタングステン(W)とを含んでおり、
前記担体におけるCeOの含有量が、該担体中の金属元素に対するCeの比率が70モル%以上となる量であり、
前記担体の比表面積とCuの担持量(CuO換算)及びWの担持量(WO換算)が下記式(1):
【数1】
の関係を満たしているものであることを特徴とする三元触媒。
【請求項2】
前記担体の比表面積が、30〜200m/gの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の三元触媒。
【請求項3】
前記タングステン(W)の含有量が、前記三元触媒の全質量に対してWO換算で1〜25質量%の範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の三元触媒。
【請求項4】
前記銅(Cu)の含有量が、前記三元触媒の全質量に対してCuO換算で0.3〜15質量%の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の三元触媒。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の三元触媒に内燃機関からの排ガスを接触せしめて排ガスを浄化することを特徴とする排ガス浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三元触媒及びそれを用いた排ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される排ガス中に含まれる炭化水素(HC)類、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NO)等の有害成分を除去するために、従来から排ガス浄化用触媒が用いられてきた。このような排ガス浄化用触媒としては、理論空燃比で燃焼された排ガス中のHC、CO及びNOxを同時に浄化する三元触媒が知られており、例えばコーディエライト、金属等からなる耐熱性ハニカム基材にアルミナ、ジルコニア、セリア等の金属酸化物からなる担体層(触媒担体)を形成し、この担体層に白金(Pt)やロジウム(Rh)等の貴金属を担持させたものが広く知られている。しかしながら、これらの貴金属はいずれも産出国が特定の国に限定されしかも資源枯渇の問題を抱えている。
【0003】
このような課題を解決するために、近年、白金等の希少で高価な貴金属を使用しない排気浄化用触媒(貴金属フリー触媒)の研究が盛んに行われている。例えば、特開2010−104973号公報(特許文献1)には、貴金属を必須成分として用いない場合でも浄化性能を示す浄化触媒であって、平均粒子径が1nm〜2μmであり、且つ、酸素の電子の結合エネルギが531.3eVより低エネルギ側にシフトしている遷移金属酸化物(Mn、Fe、Co、Ni及びCuの少なくとも1種の遷移元素を含む遷移金属酸化物)から成る触媒粉末と、前記遷移金属酸化物の表面に担持又は前記遷移金属酸化物と固溶体を形成している酸素放出材料(Ce、Pr、Nd、Y及びScの少なくとも1種の希土類元素を含む希土類酸化物)とを含有する浄化触媒、並びに、該浄化触媒においてZr、Ti、Si及びWの少なくとも1種の元素を含む無機酸化物をさらに含有する浄化触媒が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示されている浄化触媒は、触媒活性が十分ではなく、NOx浄化性能が必ずしも十分なものではなかった。
【0004】
また、特開2012−196660号公報(特許文献2)には、3d遷移金属の酸化物(Fe及び/又はCu)と5価又は6価の遷移金属(W、Mo、Nb、及びTaの少なくとも1種)の酸化物、及び/又は3d遷移金属と5価又は6価の遷移金属との酸化物固溶体を含有する炭化水素選択酸化触媒、並びに、該触媒に酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、及び二酸化珪素から選ばれる少なくとも1種をさらに含有することを特徴とする炭化水素選択酸化触媒が開示されている。しかしながら、特許文献2に開示されている触媒においても、300℃前後の低温域における触媒活性が十分ではなく、NOx浄化性能が必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−104973号公報
【特許文献2】特開2012−196660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、貴金属を用いない場合であっても、排ガス中に含まれるHC、CO及びNOxを効率よく浄化することができる優れた排ガス浄化性能(高度に優れた触媒活性)を示す三元触媒及びそれを用いた排ガス浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化セリウム(CeO)を含む担体に、銅(Cu)及びタングステン(W)を担持すると共に、前記担体の比表面積とCuの担持量(CuO換算)及びWの担持量(WO換算)が特定の関係となるようにすることにより、貴金属を用いない場合であっても優れた排ガス浄化性能(高度に優れた触媒活性)を発現させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の三元触媒は、炭化水素(HC)類、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を含有する燃焼排ガスを接触させて前記3成分を浄化する三元触媒であって、酸化セリウム(CeO)を含む担体と、該担体に担持された銅(Cu)及びタングステン(W)とを含んでおり、前記担体におけるCeOの含有量が該担体中の金属元素に対するCeの比率が70モル%以上となる量であり、前記担体の比表面積とCuの担持量(CuO換算)及びWの担持量(WO換算)が下記式(1):
【0009】
【数1】
【0010】
の関係を満たしているものであることを特徴とするものである。
【0011】
上記本発明の三元触媒においては、前記担体の比表面積が、30〜200m/gの範囲にあることが好ましい。
【0012】
また、上記本発明の三元触媒においては、前記タングステン(W)の含有量が、前記三元触媒の全質量に対してWO換算で1〜25質量%の範囲にあることが好ましい。
【0013】
更に、上記本発明の三元触媒においては、前記銅(Cu)の含有量が、前記三元触媒の全質量に対してCuO換算で0.3〜15質量%の範囲にあることが好ましい。
【0014】
本発明の排ガス浄化方法は、前記本発明の三元触媒に内燃機関からの排ガスを接触せしめて排ガスを浄化することを特徴とするものである。
【0015】
なお、本発明の三元触媒及びそれを用いた排ガス浄化方法によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明においては、セリア含有担体の表面上に銅(Cu)及びタングステン(W)が分散性の高い状態で担持されており、HCによるNO選択還元反応が十分発現されるようになるものと推察される。また、セリア(CeO)と銅(Cu)が高いCO酸化能とHC酸化能を有し、更に、セリア(CeO)とタングステン(W)とが相互作用することにより、前記タングステン(W)の近傍又は前記タングステン(W)上に担持された前記銅(Cu)の原子がより一層活性化されるため、高温域においてNO還元活性が保ちつつ、低温域から高温域においても高水準のNO浄化活性が達成されるようになるものと推察される。これらより、本発明の三元触媒においては、Cu/CeOの500℃以上のNO還元活性を保つと共に、200℃から500℃の温度域のNOの浄化率を向上させることができるようになるものと推察される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、貴金属を用いない場合であっても、排ガス中に含まれるHC、CO及びNOxを効率よく浄化することができる優れた排ガス浄化性能(高度に優れた触媒活性)を示す三元触媒及びそれを用いた排ガス浄化方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1、比較例1及び2で得られた触媒の活性評価試験の結果を示すグラフで、NO_T10及びNO_T50におけるNO転化温度(℃)を示すグラフである。
図2】実施例1及び比較例3〜7で得られた触媒の活性評価試験の結果を示すグラフで、NO_T10におけるNO転化温度(℃)を示すグラフである。
図3】実施例1〜7及び比較例8〜11で得られた触媒の活性評価試験の結果を示すグラフで、NO_T50におけるNO転化温度(℃)と数値Aとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
[三元触媒]
先ず、本発明の三元触媒について説明する。すなわち、本発明の三元触媒は、炭化水素(HC)類、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を含有する燃焼排ガスを接触させて前記3成分を浄化する三元触媒であって、酸化セリウム(CeO)を含む担体と、該担体に担持された銅(Cu)及びタングステン(W)とを含んでおり、前記担体の比表面積とCuの担持量(CuO換算)及びWの担持量(WO換算)が下記式(1):
【0020】
【数2】
【0021】
の関係を満たしているものであることを特徴とするものである。
【0022】
(担体)
本発明にかかる担体は、酸化セリウム(CeO、セリア)を含む担体(セリア含有担体)であることが必要である。このようなセリア含有担体は、酸化セリウムを単独で用いてもよく、また酸化セリウムをその他の1種以上の金属酸化物と固溶させて得られる複合酸化物、又は、それらの混合物を用いることができる。
【0023】
本発明においては、このようなセリア含有担体におけるCeOの含有量としては、特に制限されないが、セリア含有担体中の金属元素に対するCeの比率が50モル%以上となる量であることが好ましく、70モル%以上となる量であることがより好ましく、90モル%以上となる量であることが特に好ましい。CeOの含有量が前記下限未満では、セリアと銅(Cu)及び/又はタングステン(W)との相互作用が十分に発現しないため、得られる三元触媒の排ガス浄化性能が不十分となる傾向にある。
【0024】
このような酸化セリウムを含む担体に含有させることが可能なセリウム以外の成分としては、触媒の担体に利用することが可能な公知の他の成分を適宜利用することができる。このようなセリア含有担体に含有するセリウム以外の他の成分としては、触媒の担体に利用することが可能な公知の他の成分を適宜利用することができる。このようなセリア含有担体に含有させることが可能なセリウム以外の他の成分としては、担体の熱安定性や触媒活性の観点から、例えば、チタニウム(Ti)、ケイ素(Si)、リン(P)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、ランタン(La)等の元素の酸化物を好適に用いることができる。また、このような他の成分を含有するセリア含有担体としては、セリアと他の成分の金属酸化物の混合物、セリアと他の成分の金属酸化物の固溶体、セリアと他の成分の金属酸化物の複合酸化物等が挙げられる。
【0025】
また、このようなセリア含有担体の形状としては、特に制限されないが、高い比表面積が得られるという観点から、粉末状であることが好ましい。
【0026】
更に、このようなセリア含有担体の比表面積としては、特に制限されないが、30〜200m/gの範囲にあることが好ましく、50〜150m/gの範囲にあることがより好ましい。前記比表面積が前記上限を超えると、担体が焼結し易くなり、得られる三元触媒の耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では、活性金属の分散性が低下する傾向にある。このような比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。なお、このようなセリア含有担体の製造方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。また、このようなセリア含有担体としては、市販のものを用いてもよい。
【0027】
また、本発明の三元触媒においては、酸素過剰下において高いCO酸化能と高いHC酸化能を発揮させ、炭化水素過剰下においてHCによるNO選択還元反応を発現させ窒素酸化物の還元反応を達成するという観点から、前記セリア含有担体に後述する銅(Cu)並びに後述するタングステン(W)が担持されていることが必要である。本発明においては、セリア含有担体の表面上に銅(Cu)及びタングステン(W)が分散性の高い状態で担持されてHCによるNO選択還元反応が十分発現されるようになるものと推察される。また、セリア(CeO)と銅(Cu)が高いCO酸化能とHC酸化能を有し、更に、セリア(CeO)とタングステン(W)とが相互作用することにより、前記タングステン(W)の近傍又は前記タングステン(W)上に担持された前記銅(Cu)の原子がより一層活性化されるため、高温域においてNO還元活性が保ちつつ、低温域から高温域においても高水準のNO浄化活性が達成されるようになるものと推察される。
【0028】
(担持金属/タングステン(W))
このような本発明の三元触媒においては、セリア含有担体に担持されたタングステン(W)を含んでいることが必要である。このようなタングステン(W)の担持量(含有量)としては、前記三元触媒の全質量に対して酸化物(WO)換算で1〜25質量%の範囲にあることが好ましく、2〜15質量%の範囲であることがより好ましい。このようなタングステン(W)の担持量が前記下限未満では、セリアとタングステン(W)との相互作用が十分に発現しないため、得られる三元触媒の低温域におけるNO浄化活性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると触媒の比表面積が低下するため、得られる三元触媒の低温域におけるNO浄化活性が不十分となる傾向にある。
【0029】
(担持金属/銅(Cu))
このような本発明の三元触媒においては、セリア含有担体に担持された銅(Cu)を含んでいることが必要である。このような銅(Cu)の担持量(含有量)としては、前記三元触媒の全質量に対して酸化物(CuO)換算で0.3〜15質量%の範囲にあることが好ましく、2〜10質量%の範囲であることがより好ましい。前記銅(Cu)の担持量が前記下限未満では、前記銅(Cu)元素に由来する触媒の活性点の数が少なくなるため、得られる三元触媒の低温域におけるNO浄化活性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると反応に不活性な前記銅(Cu)元素の酸化物結晶(例えばCuOの結晶等)が形成されるため、得られる三元触媒の低温域におけるNO浄化活性が不十分となる傾向にある。
【0030】
(Cu及びWの担持量と担体の比表面積との関係式)
このような本発明の三元触媒においては、前記セリア含有担体の比表面積とCuの担持量(CuO換算)及びWの担持量(WO換算)が下記式(1):
【0031】
【数3】
【0032】
の関係を満たしているものであることが必要である。
【0033】
(以下、上記式(1)中、「(5.77×Cuの担持量(質量%)+3.63×Wの担持量(質量%))/担体の比表面積(m/g)」を関係式Aとし、得られる値を数値Aとする。)
なお、上記式(1)に記載の関係式におけるCuの担持量にかかる係数(A)及びWの担持量にかかる係数(B)は、次のように算出する。
A=(CuO1g中に含まれるCuの原子数)×(CuOのCu原子1個が占有する面積)/100=5.77
B=(WO1g中に含まれるWの原子数)×(WOのW原子1個が占有する面積)/100=3.63
上記式(1)においては、「(5.77×Cuの担持量(質量%)+3.63×Wの担持量(質量%))/担体の比表面積(m/g)」の値が0.05〜0.5の範囲となるようにすることが必要であり、0.1〜0.4の範囲となるようにすることが好ましく、0.15〜0.3の範囲となるようにすることがより好ましい。このような前記値が前記下限未満では、前記Cu元素に由来する触媒活性点の不足及び活性点の性能を補佐するW量の不足により低温域におけるNOx浄化性能を十分に得ることができない傾向にある。他方、前記上限を超えると、CeO表面がCu及びWにより埋没してしまい、CeOとCu又はCeOとWの相互作用の効果が得られなくなり、低温域におけるNOx浄化活性が不十分となる傾向にある。
(三元触媒の製造方法)
このような本発明の三元触媒は、タングステン(W)と銅(Cu)とを、酸化セリウム(CeO)を含むセリア含有担体に担持せしめることにより得ることができる。このように、前記セリア含有担体に前記タングステン(W)及び前記銅(Cu)を担持せしめる方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、(i)タングステン(W)源及び前記銅(Cu)源を含有する水溶液に前記セリア含有担体を含浸させて前記タングステン(W)源並びに前記銅(Cu)源を前記担体に担持せしめた後に乾燥し、焼成する方法、(ii)前記タングステン(W)源及び前記銅(Cu)源、更には前記セリア含有担体を物理混合して焼成する方法、等を採用することができる。これらの方法の中でも、前記タングステン(W)及び前記銅(Cu)を高分散にセリア含有担体上に担持するという観点から、前記タングステン(W)源及び前記銅(Cu)源を含有する水溶液に前記セリア含有担体を含浸させて前記タングステン(W)源及び前記銅(Cu)源を前記担体に担持せしめた後に乾燥し、焼成する方法が好ましい。なお、このような方法において、乾燥や焼成の際の条件は特に制限されず、公知の条件を適宜採用することができ、例えば、乾燥条件としては80〜140℃で1〜24時間程度加熱する条件を、焼成条件としては300〜600℃で1〜5時間程度加熱する条件を、それぞれ採用してもよい。
【0034】
なお、このようなタングステン(W)源としては、タングステン(W)の塩であればよく、特に限定されないが、例えば、1原子の塩(例えば、HWO)、ポリ酸塩(例えば、(NH101241、(NHHW1240)、PやSiを含むヘテロポリ酸塩(例えば、HPW1240、HSiW1240)が挙げられる。
【0035】
また、このような前記銅(Cu)源としては、前記銅(Cu)の塩であればよく、特に限定されないが、硝酸塩(例えば、硝酸銅[Cu(NO])、ハロゲン塩(例えば、塩化銅[CuCl、CuCl、CuCl等])、硫酸塩(例えば、硫酸銅[CuSO])等が挙げられる。
【0036】
本発明の三元触媒においては、その形状(形態)としては、特に制限されず、例えば、粉粒状、粒状、球状、円筒状、螺旋状、ペレット状、ハニカム状が挙げられる。これらの形状、大きさなどは目的とする設計(触媒性能、使用条件など)に応じて任意に選択すればよい。ここで用いられる基材も特に制限されず、得られる触媒の用途等に応じて適宜選択されるが、モノリス状基材、ペレット状基材、プレート状基材等を好適に採用することができる。また、ここで用いられる基材の材質も特に制限されないが、コージェライト、炭化ケイ素、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用することができる。また、このような基材に前記三元触媒を担持する方法も特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、モノリス状基材に担体を担持せしめて担体の粉末からなるコート層を形成した後、前記コート層に前記金属粒子を担持せしめ、その後、前記コート層に前記第三の金属を担持せしめる方法や、あらかじめ前記金属粒子を担持せしめた担体を用い、これをモノリス状基材に担持せしめてコート層を形成した後、前記コート層に前記第三の金属を担持せしめる方法等を採用することができる。なお、本発明の三元触媒は、非多孔質であってもよく、多孔質であってもよい。
【0037】
なお、このような三元触媒においては、本発明の効果を損なわない範囲で用いることが可能な他の成分を適宜担持してもよい。
【0038】
また、本発明の三元触媒は、単独で用いてもよく、他の触媒と組み合わせて利用してもよい。このような他の触媒としては、特に制限されず、公知の触媒(例えば、自動車の排ガス浄化用触媒の場合は、酸化触媒、NOx還元触媒、NOx吸蔵還元型(NSR触媒)、NOx選択還元触媒(SCR触媒)、NO分解触媒、HC選択酸化触媒等)を適宜用いてもよい。
【0039】
[三元触媒を用いた排ガス浄化方法]
次に、上記本発明の三元触媒を用いて内燃機関からの排ガスを浄化する本発明の方法について説明する。
【0040】
本発明の排ガス浄化方法は、前記本発明の三元触媒に内燃機関からの排ガスを接触せしめて排ガスを浄化することを特徴とする方法である。
【0041】
このように、本発明は、内燃機関からの排ガスを上記本発明の三元触媒を用いて浄化する方法である。ここにおいて、内燃機関としては特に制限されず、公知の内燃機関を適宜利用でき、例えば、自動車の内燃機関(ガソリン車のエンジン、ディーゼルエンジンや燃料消費率の低い希薄燃焼式(リーンバーン)エンジン等)が挙げられる。
【0042】
また、前記内燃機関からの排ガスを上記本発明の三元触媒に接触させるための具体的な方法は特に制限されるものではなく、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、内燃機関からの排ガスのガス流路に、上記本発明の三元触媒を配置して排ガスを接触せしめる方法を採用してもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
先ず、酢酸銅(Cu(CHCOO)・HO)0.63gとメタタングステン酸アンモニウム((NH[H1240]・6HO)0.23gを100mlの蒸留水に溶解し、そこへ市販品のCeO(比表面積160m/g)4.50gを加えて含浸せしめ、180℃で加熱攪拌して蒸発乾燥させて凝固物を得た(蒸発乾固)。次に、得られた凝固物を、大気中で120℃、12時間の条件で乾燥処理を行い、次いで、大気中で500℃、4時間の条件で熱処理を行い、焼成して三元触媒を得た。
【0045】
(実施例2)
CeOとして市販品のCeO(比表面積146m/g)4.50gを用いた以外は実施例1と同様にして実施例2の三元触媒を得た。
【0046】
(実施例3)
CeOとして市販品のCeO(比表面積119m/g)4.50gを用いた以外は実施例1と同様にして実施例3の三元触媒を得た。
【0047】
(実施例4)
銅源として酢酸銅(Cu(CHCOO)・HO)0.06gを用い、CeOとして市販品のCeO(比表面積160m/g)4.73gを用いた以外は実施例1と同様にして実施例4の三元触媒を得た。
【0048】
(実施例5)
銅源として酢酸銅(Cu(CHCOO)・HO)0.06gを用い、CeOとして市販品のCeO(比表面積146m/g)4.73gを用いた以外は実施例1と同様にして実施例5の三元触媒を得た。
【0049】
(実施例6)
銅源として酢酸銅(Cu(CHCOO)・HO)0.06gを用い、CeOとして市販品のCeO(比表面積119m/g)4.73gを用いた以外は実施例1と同様にして実施例6の三元触媒を得た。
【0050】
(実施例7)
銅源として酢酸銅(Cu(CHCOO)・HO)0.06gを用い、CeOとして市販品のCeO(比表面積81m/g)4.73gを用いた以外は実施例1と同様にして実施例7の三元触媒を得た。
【0051】
(実施例8)
タングステン源としてメタタングステン酸アンモニウム((NH[H1240]・6HO)0.09gを用い、CeOとして市販品のCeO(比表面積160m/g)4.65gを用いた以外は実施例1と同様にして実施例8の三元触媒を得た。
【0052】
(比較例1)
先ず、硝酸第二鉄(Fe(NO・9HO)5.06gとメタタングステン酸アンモニウム((NH[H1240]・6HO)1.60gを100mlの蒸留水に溶解し、そこへ市販品のAl(比表面積200m/g)3.00gを加えて含浸せしめ、180℃で加熱攪拌して蒸発乾燥させて凝固物を得た(蒸発乾固)。次に、得られた凝固物を、大気中で120℃、12時間の条件で乾燥処理を行い、次いで、大気中で600℃4時間の条件で熱処理を行い、焼成して比較用触媒を得た。
【0053】
(比較例2)
先ず、硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)5.78gと硝酸セリウム(Ce(NO・6HO)0.53gを150mlの蒸留水に溶解し、そこへNaOH水溶液を滴下しpHを9に調整し、得られた沈殿物をろ過した後、少量の蒸留水を加え遠心分離機を用いて洗浄した。次に、大気中で120℃、12時間の条件で乾燥処理を行い、次いで、大気中で400℃4時間の条件で熱処理を行い、焼成して比較用触媒を得た。
【0054】
(比較例3)
CeOとして市販品のCeO(比表面積160m/g)4.75gを用い、タタングステン源としてのメタタングステン酸アンモニウムを用いなかった以外は実施例1と同様にして比較用触媒を得た。
【0055】
(比較例4)
銅源としての酢酸銅の代わりに硝酸第二鉄(Fe(NO・9HO)1.26gを用いた以外は実施例1と同様にして比較用触媒を得た。
【0056】
(比較例5)
銅源としての酢酸銅の代わりに硝酸第二鉄(Fe(NO・9HO)1.26gを用い、CeOとして市販品のCeO(比表面積160m/g)4.75gを用い、タタングステン源としてのメタタングステン酸アンモニウムを用いなかった以外は実施例1と同様にして比較用触媒を得た。
【0057】
(比較例6)
銅源としての酢酸銅の代わりに硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)0.91gを用いた以外は実施例1と同様にして比較用触媒を得た。
【0058】
(比較例7)
銅源としての酢酸銅の代わりに硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)0.91gを用い、CeOとして市販品のCeO(比表面積160m/g)4.75gを用い、タタングステン源としてのメタタングステン酸アンモニウムを用いなかった以外は実施例1と同様にして比較用触媒を得た。
【0059】
(比較例8)
CeOとして市販品のCeO(比表面積81m/g)4.50gを用いた以外は実施例1と同様にして比較用触媒を得た。
【0060】
(比較例9)
銅源として酢酸銅(Cu(CHCOO)・HO)0.06gを用い、CeOとして市販品のCeO(比表面積26m/g)4.50gを用いた以外は実施例1と同様にして比較用触媒を得た。
【0061】
(比較例10)
CeOとして市販品のCeO(比表面積52m/g)4.50gを用いた以外は実施例1と同様にして比較用触媒を得た。
【0062】
(比較例11)
CeOとして市販品のCeO(比表面積26m/g)4.50gを用いた以外は実施例1と同様にして比較用触媒を得た。
【0063】
(比較例12)
CeOとして市販品のCeO(比表面積70m/g)4.75gを用い、銅源としての酢酸銅を用いなかった以外は実施例1と同様にして比較用触媒を得た。
【0064】
(触媒評価試験)
実施例1〜8において得られた三元触媒試料及び比較例1〜12において得られた比較用触媒試料について、以下に示す性能評価試験を行った。
【0065】
<CeO担体の比表面積評価試験>
CeO担体の比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出した。すなわち、全自動比表面積測定装置(MICRO・DATA社製、商品名「MICRO SORP4232II」)を用い、液体窒素温度(−196℃)におけるN吸着を利用したBrunauer−Emmett−Teller(BET)一点法により算出した。
【0066】
<CuとWの合計面積の算出>
CuとWの合計面積は、CuとWがCuOとWOの状態でCeO表面上にモノレイヤーを形成していると仮定し、各酸化物の密度と各成分の担持量から算出した。
【0067】
<関係式Aによる値(数値A)の算出>
実施例1〜8において得られた三元触媒試料及び比較例1〜12において得られた比較用触媒試料について、上記式(1)の「(5.77×Cuの担持量(質量%)+3.63×Wの担持量(質量%))/担体の比表面積(m/g)」(関係式A)における値を計算により求めた(数値Aとする)。
【0068】
<触媒活性評価試験>
先ず、実施例1〜8において得られた三元触媒試料及び比較例1〜12において得られた比較用触媒試料を準備し、圧粉成型により1000kgf/cmでペレット状に粉砕して、触媒活性の評価試験用の触媒試料(大きさ:500〜700μm)をそれぞれ調製した。
【0069】
次に、得られたペレット状の触媒試料を固定床流通式評価装置(ベスト測器製、製品名「CATA−4000」)にそれぞれ設置し、三元ガスを模擬した排気モデルガス(NO:3000ppm、CO:4500ppm、C:1000ppm、O:5250ppm、CO:10vol%、HO:3vol%、N:残部)を、300℃の温度条件下、3.5L/分の流量で15分間供給した(前処理)。その後、各試料の温度を100℃になるまで冷却した後、前記排気モデルガスを7L/分の流量で供給しながら20℃/分の昇温速度で100℃から600℃まで加熱していき、供給した排気モデルガス中のNOの浄化率が10%に到達する温度(NO転化温度、℃)(以下、「NO_T10」と表す。)及び供給した排気モデルガス中のNOが50%浄化される温度(NO転化温度、℃)(以下、「NO_T50」と表す。)を測定した。得られた結果を、表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
<触媒活性評価試験の結果>
表1に示した実施例1〜8の結果と比較例1〜12の結果との比較から明らかなように、実施例1〜8の三元触媒は、酸化セリウム(CeO)を含む担体と該担体に担持された銅及びタングステンとを含んでおり、上記式(1)における「(5.77×Cuの担持量(質量%)+3.63×Wの担持量(質量%))/担体の比表面積(m/g)」の値が0.05〜0.5の範囲にあることにより、NO_T10及びNO_T50が低いNO転化温度であることから、高度に優れた触媒活性示す三元触媒が得られていることが確認された。
【0072】
なお、本発明と従来の卑金属酸化物触媒との比較のため、実施例1、比較例1及び2で得られた結果について、「NO_T10」(単に、T10と示すことがある)及び「NO_T50」(単に、T50と示すことがある)におけるNO転化温度(℃)を図1に示す。
【0073】
図1に示した実施例1の結果と比較例1及び2の結果との比較から明らかなように、実施例1の三元触媒は、従来の卑金属酸化物触媒を用いた比較例1及び2の比較用触媒に比較して、NO_T10及びNO_T50がともに本実施例の方がNO転化温度が低いことから、本発明の触媒は従来の卑金属酸化物触媒よりも高い活性を示すことが確認された。
【0074】
また、Cu及びWの担持(添加)効果を調べるため、実施例1及び比較例3〜7で得られた結果について、「NO_T10」におけるNO転化温度(℃)を図2に示す。
【0075】
図2に示した実施例1の結果と比較例3〜7の結果との比較から明らかなように、実施例1の三元触媒は、NO_T10(NO転化温度)が267℃と優れた低温NO活性が発現していることが確認された。一方、比較例では、同じCeO担体とW源試薬を用いてFe又はCoを含浸担持した触媒(比較例4、6)、Wを添加せずにCeO担体にCu,Fe又はCoを含浸した触媒(比較例3、5、7)のいずれもNO_T10(NO転化温度)が高く(389〜417℃)、触媒活性が低いことが確認された。この結果から、CeO担体にCuとWを担持したときのみ、200℃近傍からのNO還元反応が発現することが確認された。
【0076】
次に、CuとWの組成範囲を調べるため、実施例1〜8及び比較例8〜12で得られた結果について、「NO_T50」におけるNO転化温度(℃)と数値Aとの関係を、図3に示す。図3に示した実施例1〜7の結果と比較例8〜11の結果との比較から明らかなように、実施例1〜7の三元触媒は数値Aが0.05〜0.5の範囲にある場合において、NO_T50及びNO_T10がともに低いNO転化温度であることが確認された。したがって、200℃から600℃の温度範囲において高度に優れた触媒活性示す三元触媒とするためには、数値Aが0.05〜0.5の範囲にあることが好ましいことが確認された。
【0077】
なお、上記式(1)は、CuとWがCuOとWOの状態でCeO表面上にモノレイヤーを形成していると仮定し、各酸化物の密度と各成分の担持量から担体単位表面積当りのCuとWの合計表面積を算出する式と見ることができる。このような観点でみると、数値Aは、担体単位表面積当たりのCu及びWの合計表面積に相当するものと見ることができ、したがって、図3を「NO_T50」におけるNO転化温度(℃)と担体単位表面積当たりのCu及びWの合計表面積との関係と見ることができる。このような関係から、図3に示した実施例1〜7の三元触媒は、担体の表面積1m当たりのCu及びWの合計表面積(酸化物換算)が0.05〜0.5mの範囲にある場合において、NO_T50及びNO_T10がともに低いNO転化温度であることが確認された。これより、200℃から600℃の温度範囲において高度に優れた触媒活性示す三元触媒とするためには、担体の表面積1m当たりのCu及びWの合計表面積(酸化物換算)が0.05〜0.5mの範囲にあることが好ましいことが確認された。
【0078】
また、実施例6、8及び比較例3、12で得られた結果について表2に示す。これら結果、上記関係式Aより算出される数値A、及び一般的に使用されるCeO担体の比表面積から、Wの担持量(含有量)が触媒の全質量に対して酸化物換算で1〜25質量%の範囲にあることが好ましいことが、Cuの担持量(含有量)が触媒の全質量に対して酸化物換算で0.3〜15質量%の範囲にあることが好ましいことが確認された。
【0079】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明によれば、貴金属を用いない場合であっても、優れた排ガス浄化性能(高度に優れた触媒活性)を示す三元触媒及びそれを用いた排ガス浄化方法を提供することが可能となる。
【0081】
このように本発明の三元触媒及びそれを用いた排ガス浄化方法は、貴金属を用いない場合であっても、排ガス中に含まれるHC、CO及びNOxを効率よく浄化することが可能であるため、特に、自動車等の内燃機関から排出される排ガス中に含まれるHC、CO及びNOxを効率よく浄化するために有用である。
図1
図2
図3