特許第6273868号(P6273868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6273868蓄電デバイス用負極活物質およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6273868
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用負極活物質およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20180129BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180129BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20180129BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20180129BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20180129BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20180129BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20180129BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 E
   H01M4/36 C
   H01M4/36 B
   H01M4/48
   H01M4/62 Z
   H01G11/06
   H01G11/30
   H01G11/86
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-15002(P2014-15002)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2014-167909(P2014-167909A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2016年12月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-15051(P2013-15051)
(32)【優先日】2013年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−183264(JP,A)
【文献】 特開2009−277485(JP,A)
【文献】 特開2010−140901(JP,A)
【文献】 特開2011−119263(JP,A)
【文献】 特開2005−259697(JP,A)
【文献】 特表2007−500421(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/100888(WO,A1)
【文献】 特開平11−040150(JP,A)
【文献】 特開2011−150817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36− 4/62
H01G 11/00−11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属Siと酸化物成分を含み、前記酸化物成分が、酸化物換算のモル%で、LiO 5〜85%、P+SiO+B 15〜95%、P 15〜70%を含む化合物であることを特徴とする蓄電デバイス用負極活物質。
【請求項2】
前記金属Siの表面が前記酸化物成分で被覆された構造を有することを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用負極活物質。
【請求項3】
炭素成分を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電デバイス用負極活物質。
【請求項4】
質量%で金属Si 10〜80%、酸化物成分 20〜90%、炭素成分 0〜20%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蓄電デバイス用負極活物質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の蓄電デバイス用負極活物質を製造するための方法であって、
金属Siと酸化物原料を含む混合原料をメカニカルミリング処理する工程を含み、前記酸化物原料が、P、SiおよびBから選ばれる少なくとも一種の元素の酸化物原料、およびLiの酸化物原料を含むことを特徴とする蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記メカニカルミリング処理が、非酸化性雰囲気で行われることを特徴とする請求項5に記載の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型電子機器、電気自動車、電気工具、バックアップ用非常電源等に用いられる蓄電デバイス用負極活物質およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型電子機器や電気自動車等の普及に伴い、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスの高容量化と小サイズ化に対する要望が高まっている。蓄電デバイスの高容量化が進めば、電池の小サイズ化も容易となるため、蓄電デバイスの高容量化へ向けての開発が急務となっている。
【0003】
例えば、リチウムイオン二次電池用の正極活物質には、高電位型のLiCoO、LiCo1−xNi、LiNiO、LiMn等が広く用いられている。一方、負極活物質には、一般に炭素材料が用いられている。これらの材料は、充放電によってリチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する電極活物質として機能し、非水電解液または固体電解質によって電気化学的に連結された、いわゆるロッキングチェア型の二次電池を構成する。これらの電極活物質には、例えば結着剤や導電助剤が添加され、集電体としての役割を果たす金属箔等の表面に塗布することで電極として使用される。
【0004】
負極活物質に用いられる炭素材料には、黒鉛質炭素材料、ピッチコークス、繊維状カーボン、ソフトカーボンなどがある。しかしながら、炭素材料は、理論容量が約372mAh/gであるため、電池の高容量化が困難であるという問題がある。
【0005】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であり、炭素材料からなる負極活物質を上回る高容量密度を有する負極活物質として、SiやSnを含有する負極活物質が存在する。しかしながら、SiやSnを含有する負極活物質は、充放電時におけるリチウムイオンの吸蔵および放出反応に起因する体積変化が著しく大きいため、繰り返し充放電した際に負極活物質が構造劣化して亀裂が生じやすくなる。亀裂が進行すると、場合によっては負極活物質中に空洞が形成され、微粉化してしまうこともある。その結果、電子伝導網が分断されるため、繰り返し充放電した後の放電容量(サイクル特性)の低下が問題となっていた。
【0006】
そこで、特許文献1では、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であり、SiやSnを含有する負極活物質と比較してサイクル特性に優れた負極活物質として、SiOを含有する負極活物質が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2006/011290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このSiOからなる負極活物質では、サイクル特性は向上したものの、放電容量や初回充放電効率(初回の充電容量に対する放電容量の比率)が低下するという問題があった。
【0009】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであり、放電容量と初回充放電効率を低下させることなく、サイクル特性を向上させた蓄電デバイス用負極活物質およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、金属Siと酸化物成分を含み、前記酸化物成分が、P、SiおよびBから選ばれる少なくとも一種の元素の酸化物、およびLiの酸化物を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、前記金属Siの表面が前記酸化物成分で被覆された構造を有することが好ましい。
【0012】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、炭素成分を含むことが好ましい。
【0013】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、質量%で金属Si 10〜80%、酸化物成分 20〜90%、炭素成分 0〜20%を含有することが好ましい。
【0014】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法は、金属Siと酸化物原料を含む混合原料をメカニカルミリング処理する工程を含み、前記酸化物原料が、P、SiおよびBから選ばれる少なくとも一種の元素の酸化物原料、およびLiの酸化物原料を含むことを特徴とする。
【0015】
前記メカニカルミリング処理が、非酸化性雰囲気で行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、放電容量と初回充放電効率を低下させることなく、サイクル特性を向上させた蓄電デバイス用負極活物質が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、金属Siと酸化物成分を含み、前記酸化物成分が、P、SiおよびBから選ばれる少なくとも一種の元素の酸化物、およびLiの酸化物を含むことを特徴とする。上記構成にすることにより、リチウムイオンの吸蔵・放出サイトとなる金属Siの表面が酸化物成分で被覆されたり、金属Si間に前記酸化物成分が分散したりするため、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴う金属Siの体積変化を緩和・抑制することが可能となる。結果的に、高い放電容量を低下させることなく、良好なサイクル特性と高い放電容量を維持することができる。
【0018】
さらに、前記酸化物成分が上記構成であるため、初回の充電において、金属Siに吸蔵されるリチウムイオンの一部が酸化物成分に吸収されにくい。酸化物成分にリチウムイオンが吸収されると、リチウムイオンは、その後の放電において放出されずに酸化物成分中に留まる。その結果、初回の放電容量は、初回の充電容量に対し、酸化物成分に吸収されたリチウムイオンに相当する電気量の分だけ低下するため、初回充放電効率が低下する。特に、前記酸化物成分がPを含むと、前記酸化物成分のリチウムイオン伝導性に優れ、放電容量と急速充放電特性に優れるため好ましい。前記酸化物成分を含まないと、充放電時のリチウムイオンの吸蔵および放出に伴う金属Siの体積変化を緩和できず、サイクル特性が低下しやすくなる。また、前記酸化物成分がP、SiおよびBから選ばれる少なくとも一種の元素の酸化物を含まないと、充放電時のリチウムイオンの吸蔵および放出に伴う金属Siの体積変化を緩和できず、サイクル特性が低下しやすくなる。一方、前記酸化物成分がLiを含まないと、前記酸化物成分へのリチウムイオン吸蔵量が多くなり、初回充放電効率が低下する傾向がある。
【0019】
前記酸化物成分は、酸化物換算のモル%で、LiO 5〜85%、P+SiO+B 15〜95%であることが好ましい。各成分をこのように限定した理由を以下に説明する。
【0020】
LiOは前記酸化物成分のリチウムイオン吸蔵を抑制させる作用がある。LiOの含有量は5〜85%であることが好ましく、15〜80%であることがより好ましく、25〜77%であることがさらに好ましい。LiOの含有量が少なすぎると、前記酸化物成分へのリチウムイオン吸蔵量が多くなり、初回充放電効率が低下する傾向がある。一方、LiOの含有量が多すぎると、前記酸化物成分の耐水性が低下しやすくなり、サイクル特性が低下する傾向がある。
【0021】
、SiO、Bはいずれも網目形成酸化物であり、充放電時のリチウムイオンの吸蔵および放出に伴う金属Siの体積変化を緩和することが可能になるため、サイクル特性を向上させる作用がある。それらの含有量の合量は15〜95%であることが好ましく、20〜85%であることがより好ましく、23〜75%であることがさらに好ましい。それらの含有量の合量が少なすぎると、充放電時のリチウムイオンの吸蔵および放出に伴う金属Siの体積変化を緩和できず、サイクル特性が低下しやすくなる。一方、それらの含有量の合量が多すぎると、前記酸化物成分へリチウムイオンが吸収される量が多くなり、初回充放電効率が低下する傾向がある。
【0022】
は酸化物成分のリチウムイオン伝導性を向上させる成分である。Pの含有量は0〜70%であることが好ましく、15〜60%であることがより好ましく、20〜55%であることがさらに好ましい。Pの含有量が多すぎると、前記酸化物成分の耐水性が低下しやすくなり、サイクル特性が低下する傾向がある。
【0023】
なお、SiOの含有量は0〜75%であることが好ましく、0〜70%であることがより好ましく、0〜67%であることがさらに好ましい。Bの含有量は0〜75%であることが好ましく、0〜70%であることがより好ましく、0〜67%であることがさらに好ましい。
【0024】
前記酸化物成分は、結晶、非晶質のいずれでもよく、両者が共存していてもかまわない。
【0025】
前記結晶は、LiPO、Li、LiPO、LiSiO、LiSiO、LiSi、Li、Li、Li、Liから選ばれる少なくとも一種が好ましい。なかでも、リチウムイオン伝導性に優れるLiPO、LiSiO、Liがより好ましく、LiPO、LiSiOがさらに好ましく、LiPOが特に好ましい。
【0026】
金属Siとは、Si単体からなる金属だけでなく、Si金属を含有する合金も含む。
【0027】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、炭素成分を含むことが好ましい。電子伝導性に優れる炭素成分を含むことにより、負極活物質の放電容量が高くなる傾向がある。
【0028】
前記炭素成分は、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の導電性カーボンブラック、グラファイト等のカーボン粉末、炭素繊維などから構成される。なかでも、電子伝導性が高いアセチレンブラックが好ましい。
【0029】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、質量%で金属Si 10〜80%、酸化物成分 20〜90%、炭素成分 0〜20%を含有することが好ましく、金属Si 25〜70%、酸化物成分 29〜74%、炭素成分 1〜10%を含有することがより好ましい。上記構成にすることにより、放電容量と初回充放電効率を低下させることなく、サイクル特性が向上することが可能となる。
【0030】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質の形状は特に限定されないが、好ましくは粉末状である。
【0031】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質の形状が粉末状である場合、平均粒子径は0.1〜20μmであることが好ましく、0.2〜15μmであることがより好ましく、0.3〜10μmであることがさらに好ましく、0.5〜5μmであることが特に好ましい。最大粒子径は150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、75μm以下であることがさらに好ましく、55μm以下であることが特に好ましい。平均粒子径や最大粒子径が大きすぎると、充放電した際にリチウムイオンの吸蔵および放出に伴う負極活物質の体積変化を緩和できず、集電体から剥れやすくなり、サイクル特性が著しく低下する傾向がある。一方、平均粒子径が小さすぎると、ペースト化した際に粉末の分散状態に劣り、均一な電極を製造することが困難になる傾向がある。また、比表面積が大きくなりすぎて、電極形成用のペーストを製造する際に負極活物質粉末が分散しにくくなるため、多量の結着剤や溶剤が必要となる。さらに、電極形成用ペーストの塗布性に劣り、均一な厚みを有する負極を形成しにくくなる。
【0032】
ここで、平均粒子径と最大粒子径は、それぞれ一次粒子のメイジアン径でD50(50%体積累積径)とD90(90%体積累積径)を示し、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された値をいう。
【0033】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法は、金属Siと酸化物原料を含む混合原料をメカニカルミリング処理する工程を含み、前記酸化物原料が、P、SiおよびBから選ばれる少なくとも一種の元素の酸化物原料、およびLiの酸化物原料を含むことを特徴とする。
【0034】
メカニカルミリング処理することにより、前記混合原料に高い衝撃エネルギーを与えることができる。その高い衝撃エネルギーにより、リチウムイオンの吸蔵・放出サイトとなる金属Siの表面が酸化物成分で被覆されたり、金属Si間に前記酸化物成分が分散したりすることが容易となる。
【0035】
前記メカニカルミリング処理には、乳鉢、らいかい機、ボールミル、アトライター、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、ビーズミルなどの一般的な粉砕機を用いることができる。特に、遊星型ボールミルを使用することが好ましい。遊星型ボールミルは、ポットが自転回転しながら、台盤が公転回転し、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができる。
【0036】
さらに、前記混合原料は、炭素原料を含有することが好ましい。炭素原料を含有させることにより、前述のとおり、負極活物質の放電容量が高くなるとともに、金属Siと酸化物原料を含む混合原料をメカニカルミリング処理する際に、凝集物の形成を防止することが可能となり、より短時間で負極活物質を作製することが可能となる。
【0037】
前記メカニカルミリング処理は、非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気とすることにより、金属Siの酸化を抑制することができる。なお、非酸化性雰囲気は、還元性雰囲気と不活性雰囲気を含む。
【0038】
還元雰囲気とするためには、メカニカルミリング処理中に還元性ガスを供給することが好ましい。還元性ガスの組成は、体積%で、N 90〜99.5%、H 0.5〜10%を含有する混合気体を用いることが好ましく、N 92〜99%、Hが1〜4%を含有する混合気体を用いることがより好ましい。
【0039】
不活性雰囲気とするためには、メカニカルミリング処理中に不活性ガスを供給することが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれかを用いることが好ましい。
【0040】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質に対し、結着剤や導電助剤を添加することにより蓄電デバイス用負極材料が得られる。
【0041】
結着剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体またはポリビニルアルコール等の水溶性高分子;熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。
【0042】
導電助剤としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の導電性カーボンブラック、グラファイト等のカーボン粉末、炭素繊維などが挙げられる。
【0043】
蓄電デバイス用負極材料を、集電体としての役割を果たす金属箔等の表面に塗布することで蓄電デバイス用負極として用いることができる。
【0044】
なお、本発明の負極活物質を用いて作製した蓄電デバイスを充放電した後は、負極活物質中に金属リチウムやリチウム酸化物(ケイ酸、リン酸、ホウ酸等の酸化物とリチウム原子が複合化されたリチウム複合酸化物も含む)等の酸化物、Si金属等、Si−Li合金等を含有する場合がある。
【0045】
本発明の負極活物質は、リチウムイオン二次電池だけでなく、他の非水系二次電池や、さらには、リチウムイオン二次電池用の負極活物質と非水系電気二重層キャパシタ用の正極活物質とを組み合わせたハイブリットキャパシタ等にも適用できる。
【0046】
ハイブリットキャパシタであるリチウムイオンキャパシタは、正極と負極の充放電原理が異なる非対称キャパシタの1種である。リチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン二次電池用の負極と電気二重層キャパシタ用の正極を組み合わせた構造を有している。ここで、正極は表面に電気二重層を形成し、物理的な作用(静電気作用)を利用して充放電するのに対し、負極は既述のリチウムイオン二次電池と同様にリチウムイオンの化学反応(吸蔵および放出)により充放電する。
【0047】
リチウムイオンキャパシタの正極には、活性炭、ポリアセン、メソフェーズカーボンなどの高比表面積の炭素質粉末などからなる正極活物質が用いられる。一方、負極には、本発明の負極活物質を用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0049】
(1)負極活物質の作製
実施例1〜7、および、比較例1の負極活物質は、金属Si、酸化物原料および炭素原料であるアセチレンブラックからなる混合原料を表1及び表2に記載の質量%になるように秤量し、その混合原料30gとφ5mmのZrO1kgとを500mL ZrOポットに入れ、遊星型ボールミル装置(装置名:Fritch社製P6)を用いて、Ar雰囲気下、370rpmの公転回転数で40時間(実施例1〜4、および、比較例1)または20時間(実施例5〜7)メカノミリング処理することにより作製した。
【0050】
比較例2の負極活物質は、SiO粉末とした。
【0051】
得られた負極活物質について粉末X線回折測定することにより構造を同定した。その結果を表1に示す。
【0052】
(2)負極の作製
得られた負極活物質と導電助剤と結着剤を質量比で80:5:15の割合になるように秤量し、脱水したN−メチルピロリドンに分散した後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化した。ここで、導電助剤としては導電性カーボンブラック(SuperC65,Timcal社製)、結着剤としては熱硬化性ポリイミド樹脂を用いた。
【0053】
次に、隙間75μmのドクターブレードを用いて、得られたスラリーを負極集電体である厚さ20μmの銅箔上にコートし、70℃の乾燥機で真空乾燥後、一対の回転ローラー間に通してプレスすることにより電極シートを得た。この電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに打ち抜き、温度200℃にて8時間、減圧下で乾燥させて円形の作用極(非水二次電池用負極)を得た。
【0054】
(3)試験電池の作製
次に、得られた負極を、銅箔面を下に向けてコインセルの下蓋に載置し、その上に70℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜(ヘキストセラニーズ社製 セルガード#2400)からなるセパレータ、および、対極である金属リチウムを積層し、試験電池を作製した。電解液としては、1M LiPF溶液/EC:DEC=1:1(EC=エチレンカーボネート、DEC=ジエチルカーボネート)を用いた。なお試験電池の組み立ては露点温度−40℃以下の環境で行った。
【0055】
(4)充放電試験
上記試験電池に対し、30℃で1Vから0VまでCC(定電流)充電(負極活物質へのリチウムイオン吸蔵)を行い、単位質量の負極活物質へ充電された電気量(充電容量)を求めた。次に、0Vから1VまでCC放電(負極活物質からのリチウムイオン放出)させ、単位質量の負極活物質から放電された電気量(放電容量)を求めた。なお、Cレートは0.5Cとした。表2に、充放電特性の結果を示す。なお、初回充放電効率は、初回充電容量に対する初回放電容量の割合を、放電容量維持率は、初回放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合をいう。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
実施例1〜7の初回放電容量は817mAh/g以上、初回充放電効率は61%以上、放電容量維持率は51%以上と、高容量で、初回充放電効率に優れ、かつサイクル性も良好であった。一方、比較例1及び2は、放電容量維持率は79%以上と高かったが、初回放電容量は586mAh/g以下、初回充放電効率は46%以下と低かった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、携帯型電子機器、電気自動車、電気工具、バックアップ用非常電源等に用いられる蓄電デバイス用負極活物質として好適である。