特許第6274032号(P6274032)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6274032電極材料の製造方法、電極及び蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274032
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】電極材料の製造方法、電極及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20180129BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180129BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20180129BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20180129BHJP
   H01G 11/44 20130101ALI20180129BHJP
   H01G 11/34 20130101ALI20180129BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 A
   H01M4/36 E
   H01M4/587
   H01G11/30
   H01G11/44
   H01G11/34
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-132649(P2014-132649)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2015-62168(P2015-62168A)
(43)【公開日】2015年4月2日
【審査請求日】2017年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-169567(P2013-169567)
(32)【優先日】2013年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 浩司
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】保坂 幸生
(72)【発明者】
【氏名】桜井 冨士夫
(72)【発明者】
【氏名】下馬場 智
(72)【発明者】
【氏名】岡庭 求樹
(72)【発明者】
【氏名】宮木 伸行
(72)【発明者】
【氏名】江利山 祐一
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−077894(JP,A)
【文献】 特開2007−220411(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/013855(WO,A1)
【文献】 特開2012−178224(JP,A)
【文献】 特開2013−157221(JP,A)
【文献】 特開平11−322323(JP,A)
【文献】 特開2003−197193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01G 11/30
H01G 11/34
H01G 11/44
H01M 4/36
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される基と、ケイ素原子を含まない有機単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体とが結合した重合体を加熱する工程を含む、電極材料の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Rは独立にメチル基またはメトキシ基であり、mは2以上の整数であり、「*」は結合手である。)
【請求項2】
下記式(1)で表される基と、ケイ素原子を含まない有機単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体とが結合した重合体、並びに炭素材料を含有する組成物を加熱する工程を含む、電極材料の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Rは独立にメチル基またはメトキシ基であり、mは2以上の整数であり、「*」は結合手である。)
【請求項3】
前記ケイ素原子を含まない有機単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビニル重合体、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリウレタンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の電極材料の製造方法。
【請求項4】
前記炭素材料が黒鉛である、請求項2に記載の電極材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法により得られた電極材料を用いて電極を製造する、電極の製造方法
【請求項6】
請求項に記載の製造方法により得られた電極を負極として用いて蓄電デバイスを製造する、蓄電デバイスの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料の製造方法、電極及び蓄電デバイスに関し、より詳しくは、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスに好適に用いられる電極材料の製造方法、当該方法により製造された電極材料を含有する電極、並びに当該電極を負極として備える蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化・軽量化の進歩は目覚ましく、それに伴い、当該電子機器の駆動用電源として用いられる電池に対しても小型化・軽量化の要求が一層高まっている。このような小型化・軽量化の要求を満足するために、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が蓄電デバイスとして開発されている。また、高出力密度、良好なサイクル性能などの特性を有する蓄電デバイスとして、電気二重層キャパシタが知られている。さらに、高エネルギー密度特性及び高出力特性を必要とする用途に対応する蓄電デバイスとして、リチウムイオン二次電池及び電気二重層キャパシタの蓄電原理が組み合わされたリチウムイオンキャパシタが知られている。
【0003】
このような蓄電デバイスに用いられる負極材料としては、例えば、リチウムイオン二次電池では、黒鉛粒子等の炭素粒子が用いられてきたが、更なる高容量化を目的として、炭素とケイ素とを複合化した材料が検討されている。例えば、特許文献1には、ポリエトキシシランなどの珪素前駆体とフラン樹脂などの炭素前駆体との混合物を焼成、粉砕して珪素含有炭素質粒子を作製し、該粒子をコールタールピッチなどの炭素前駆体で被覆し、次いで該炭素前駆体を焼成することで得られる炭素質粒子を含むリチウムイオン二次電池が記載されている。また、特許文献2には、黒鉛質粒子に、フラン樹脂などの炭素前駆体有機高分子化合物とテトラメトキシシラン部分縮合物などの有機珪素化合物とを混合したものを加え、得られた混合物を焼成することで得られる複合電極材料を含むリチウムイオン二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−345100号公報
【特許文献2】特開2002−231225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、負極材料として黒鉛粒子をそのまま用いると、高活性な粒子表面での電解液の分解反応に起因すると考えられる不具合が起こり易い。また、前記特許文献に記載された材料は、充放電容量の大きい材料を得ることを目的として得られた材料であるが、炭化前の原料はいずれも、通常、相溶性が悪いもの同士の混合物又は被覆物であり、いわゆる相分離が起こりやすく、得られる炭素系材料中において、ケイ素元素を含む相のサイズが大きくなる傾向にあった。このような、ケイ素元素を含む相のサイズが大きい炭素系材料を含有する負極をリチウムイオン二次電池に用い、充放電を行う場合には、特に体積膨張の大きなケイ素元素を中心として負極の劣化が起きるため、サイクル試験を重ねるにつれて容量が低下する問題が発生した。このため、前記特許文献に記載の材料は、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスの電極材料として実際に使用するには難があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、安定した充放電サイクル特性を有し、充放電容量の大きな電極を得ることができる電極材料の製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ケイ素含有ユニットとケイ素非含有ユニットの両方を有する重合体を原料として使用することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、ケイ素含有ユニット及びケイ素非含有ユニットを有する重合体(以下、「特定重合体」とも称する。)、又は該特定重合体及び炭素材料を含有する組成物を加熱する工程を含む電極材料の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、当該方法により製造された電極材料(以下、「本電極材料」とも称する。)を含有する電極、及び当該電極を負極として備える蓄電デバイスを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安定した充放電サイクル特性を有し、充放電容量の大きな電極を得ることができる。したがって、本電極材料は、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスの電極材料として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
電極材料の製造方法
本発明の製造方法は、特定重合体、又は特定重合体及び炭素材料を含有する組成物を加熱する工程を含むことを特徴とする。このような本発明の製造方法では、原料として、通常相溶性の悪い、ケイ素含有成分とケイ素非含有成分との混合物を用いるのではなく、これらの成分が一分子中に含まれる特定重合体を用いるため、ケイ素元素を主成分として含む相が炭素を主成分として含む相中に微分散した電極材料を得ることができると考えられる。このため、本電極材料を含む電極は、充放電容量が大きく、安定した充放電サイクル特性を示す。
【0011】
前記特定重合体において、ケイ素含有ユニットは、ケイ素原子を含んでいる部分構造であれば特に限定されるものではない。ケイ素含有ユニットとしては、ケイ素原子を含む繰り返し単位を有するユニットであることが好ましく、合成の容易さの点から、ケイ素原子を含む繰り返し単位を有する直鎖状の構造であることが好ましい。ケイ素含有ユニットとしては、例えば、ポリシロキサン構造、ポリシラン構造、ポリシラザン構造、ポリカルボシラン構造等を有するユニットが挙げられる。中でも、ケイ素含有ユニットとしては、合成の容易さの点から、ポリシロキサン構造を有するユニットが好ましい。なお、前記ポリシロキサン構造とは、Si−O結合を複数有する構造のことをいい、例えば、−(Si(R)2−O)n−(Rは水酸基、ハロ基、有機基であり、nは2以上の整数である。)で表される構造のことをいう。同様に、前記ポリシラン構造とは、Si−Si結合を複数有する構造のことをいい、前記ポリシラザン構造とは、Si−N結合を複数有する構造のことをいい、前記ポリカルボシラン構造とは、Si−C結合を複数有する構造のことをいう。
特定重合体に含まれるケイ素含有ユニットは、1つであっても複数であってもよい。特定重合体にケイ素含有ユニットが複数含まれる場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0012】
前記ケイ素原子を含む繰り返し単位を有するユニットは、所望の効果を高める点から、ケイ素原子に炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基等の有機基が結合していることが好ましい。
【0013】
前記炭化水素基としては、合計炭素数が1〜20の炭化水素基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、シクロヘキシル基、フェニル基などが挙げられる。
前記アルコキシ基としては、合計炭素数が1〜20のアルコキシ基が好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基などが挙げられる。
前記アリールオキシ基としては、合計炭素数が6〜20のアリールオキシ基が好ましく、具体的には、フェニルオキシ基などが挙げられる。
また、前記アシル基としては、合計炭素数が1〜20のアシル基が好ましく、具体的には、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基などが挙げられる。
【0014】
ケイ素原子を含む繰り返し単位を有するユニットにおいて、ケイ素原子を含む繰り返し単位の繰り返し数は、好ましくは2〜10000、より好ましくは3〜1000、さらに好ましくは3〜500である。
【0015】
一方、前記特定重合体において、ケイ素非含有ユニットは、ケイ素原子を含んでいない部分構造であれば特に限定されるものではない。ケイ素非含有ユニットとしては、酸素を実質的に含まない雰囲気下、高温(例えば、600〜3000℃)での加熱処理において、炭化するユニットであることが好ましい。
このようなケイ素非含有ユニットとしては、ケイ素原子を含まない繰り返し単位を有するユニットが好ましく、ケイ素原子を含まない有機単量体に由来する繰り返し単位を有するユニットがより好ましい。中でも、製造の容易さの点から、エポキシ樹脂構造、フェノール樹脂構造、ビニル重合体構造、ポリアミド酸構造、ポリイミド構造、ポリアミドイミド構造、ポリウレタン構造等を有するユニットが好ましい。なお、前記エポキシ樹脂構造とは、その構造部分のみを見れば、エポキシ樹脂といえる構造のことをいい、従来公知の方法でエポキシ樹脂を合成する際に使用する単量体に由来する繰り返し単位を有する構造のことをいう。前記フェノール樹脂構造、ビニル重合体構造、ポリアミド酸構造、ポリイミド構造、ポリアミドイミド構造およびポリウレタン構造などの樹脂構造も同様に、該樹脂構造とは、その構造部分のみを見れば、樹脂といえる構造のことをいい、従来公知の方法でこれらの樹脂を合成する際に使用する単量体に由来する繰り返し単位を有する構造のことをいう。
特定重合体に含まれるケイ素非含有ユニットは、1つであっても複数であってもよいが、1つであることが好ましい。特定重合体にケイ素非含有ユニットが複数含まれる場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0016】
前記エポキシ樹脂構造としては、具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂構造、ビスフェノールF型エポキシ樹脂構造、ノボラック型エポキシ樹脂構造などが挙げられる。
前記フェノール樹脂構造としては、具体的には、ノボラック型フェノール樹脂構造などが挙げられる。
【0017】
また、前記ビニル重合体構造の原料となるビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、p−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジメチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル化合物;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ブチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレートなどのアクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物;エチレン、プロピレンなどのオレフィン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどの共役ジオレフィン;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−o−クロルフェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸又はその酸無水物;酢酸ビニル;塩化ビニル;塩化ビニリデン;トリアリルイソシアヌレート;等が挙げられる。ビニル重合体構造としては、芳香族ビニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、シアン化ビニル化合物及び共役ジオレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種のビニル系単量体を用いて得られる重合体構造が好ましい。ビニル重合体構造の具体例としては、ポリスチレン構造、ポリアクリロニトリル構造、スチレン−アクリロニトリル共重合体構造、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体構造、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体構造、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体構造、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体構造、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体構造、スチレン−(メタ)アクリレート共重合体構造、スチレン−メチルメタクリレート共重合体構造が挙げられる。
【0018】
前記ポリアミド酸構造、ポリイミド構造及びポリアミドイミド構造としては、特に限定されるものではないが、その構造中に芳香環を含む構造が好ましい。
【0019】
前記特定重合体は、以上のようなケイ素含有ユニットとケイ素非含有ユニットとが化学的に結合した重合体である。
【0020】
前記特定重合体は、公知の方法により製造することができ、例えば、ポリシロキサンから誘導されるユニットが結合したエポキシ樹脂の製造方法は、特開2001−59011号公報、特開2003−48953号公報等に、ポリシロキサンから誘導されるユニットが結合したフェノール樹脂の製造方法は、特開2001−294639号公報等に、ポリシロキサンから誘導されるユニットが結合したビニル重合体の製造方法は、特開平2−8209号公報、特開平5−271549号公報等に、ポリシロキサンから誘導されるユニットが結合したポリアミド酸の製造方法は、特開2002−293933号公報等に、ポリシロキサンから誘導されるユニットが結合したポリアミドイミドの製造方法は、特開2001−240670号公報等に、ポリシロキサンから誘導されるユニットが結合したポリウレタンの製造方法は、特開2002−220431号公報等にそれぞれ開示されている。
【0021】
前記特定重合体としては、例えば、下記式(1)で表される基と、ケイ素原子を含まない有機単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体とが結合した重合体が挙げられる。前記ケイ素原子を含まない有機単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビニル重合体、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン等が挙げられる。
【0022】
【化1】
(式(1)中、Rは独立にメチル基またはメトキシ基であり、mは2以上の整数であり、「*」は結合手である。)
【0023】
このような重合体としては、例えば、以下の群で表される構造を有する重合体が挙げられる。
【0024】
【化2】
(前記群中、m、o及びpはそれぞれ独立に2以上の整数であり、Rは独立にメチル基またはメトキシ基であり、R1は、水素原子又はメチル基であり、Xは独立に連結基である。)
【0025】
また、前記特定重合体の具体例として、下記式(2)で表される基がビニル重合体の側鎖に結合した重合体を挙げることもできる。
【0026】
【化3】
【0027】
前記式(2)中、Rは独立に、炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はアシル基を示し、好ましくは炭化水素基であり、さらに好ましくはメチル基である。
nは独立に2以上の整数を示す。
Xは単結合又はアルキレン基である。
ビニル重合体としては、例えば、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−(メタ)アクリレート共重合体が挙げられる。
【0028】
前記特定重合体としては、市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製の、アルコキシ基含有シラン変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はアルコキシ基含有シラン変性ノボラック型エポキシ樹脂である商品名「コンポセランE」、アルコキシ基含有シラン変性アクリル樹脂である商品名「コンポセランAC」、アルコキシ基含有シラン変性フェノール樹脂である商品名「コンポセランP」、アルコキシ基含有シラン変性ポリアミド酸である商品名「コンポセランH800」、アルコキシ基含有シラン変性可溶性ポリイミド樹脂である商品名「コンポセランH700」、アルコキシ基含有シラン変性ポリウレタン樹脂である商品名「ユリアーノU」、アルコキシ基含有シラン変性ポリアミドイミド樹脂である商品名「コンポセランH900」が挙げられる。
【0029】
本発明では、原料として特定重合体のみを加熱して本電極材料を製造してもよいが、特定重合体と共に他の原料を加熱して本電極材料を製造してもよい。他の原料としては、特に限定されるものではないが、蓄電デバイスのサイクル特性を更に向上させることが可能な電極材料が得られる等の点から、炭素材料が好ましい。また、特定重合体をMg等の還元剤と共に加熱してもよい。
【0030】
前記炭素材料としては、例えば、石油コークス、石炭ピッチコークス、ポリ塩化ビニル炭等の易黒鉛化性炭素;カーボンブラック、ポリ塩化ビニリデン炭、砂糖炭、セルロース炭、フェノール樹脂炭、木炭類等の難黒鉛化性炭素;前記易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素を更に加熱処理して黒鉛質化したもの;ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維等の炭素繊維;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛が挙げられる。
【0031】
前記炭素材料としては、X線回折法による(002)面の面間隔d002が0.335〜0.338nmの範囲にある炭素材料が好ましく、特に黒鉛が好ましい。また、前記炭素材料としては、粒状の炭素材料であることが好ましく、その50%体積累積径(以下「D50」ともいう。)は、0.1〜20μmであることが好ましい。
本発明において、特定重合体と共に使用する炭素材料は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
本発明において、本電極材料をリチウムイオン二次電池に用いる場合、特定重合体を、前記炭素材料100質量部に対して、好ましくは20〜1000質量部、特に好ましくは50〜500質量部使用する。一方、本電極材料をリチウムイオンキャパシタに用いる場合、特定重合体を、前記炭素材料100質量部に対して、好ましくは10〜500質量部、特に好ましくは30〜200質量部使用する。
【0033】
本発明の製造方法は、以上のような特定重合体を加熱する工程を含むことを特徴とするが、より具体的には、特定重合体を、酸素を実質的に含まない雰囲気下において600〜3000℃で加熱処理する工程(以下、「炭化工程」とも称する。)を含むことが好ましい。酸素を実質的に含まない雰囲気とは、特に制限されないが、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス雰囲気等が挙げられる。加熱温度は、より好ましくは700〜2000℃であり、特に好ましくは900〜1200℃である。前記範囲の加熱温度で加熱して得られた本電極材料を用いると、放電容量の大きな電極が得られる傾向にあるため好ましい。また、加熱時間は、好ましくは0.1〜100時間であり、より好ましくは0.5〜20時間である。なお、炭化工程の際に、特定重合体をMg等の還元剤と共に加熱処理してもよい。
【0034】
本発明の製造方法では、前記炭化工程の前に、酸素含有ガス中、200〜400℃で加熱処理する工程(以下、「酸化工程」とも称する。)を含んでもよい。この工程を経ることにより、炭化工程後に残留する炭素の収率を高めることができる場合がある。酸素含有ガスは、少なくとも酸素を含むガスであれば特に制限されず、空気であってもよい。また、酸化工程において、加熱温度は、好ましくは250〜350℃であり、より好ましくは290〜310℃である。前記範囲の加熱温度で加熱する工程を経て得られた本電極材料を用いると、放電容量の大きな電極が得られる傾向にあるため好ましい。また、酸化工程において、加熱時間は、好ましくは0.1〜100時間であり、より好ましくは0.5〜20時間である。なお、酸化工程の後、炭化工程の前に、必要に応じて、得られた成分を粉砕してもよい。
【0035】
本発明において、特定重合体と共に他の原料、特に特定重合体と前記炭素材料とを加熱して本電極材料を製造する場合には、特定重合体及び炭素材料を混合した後、得られた組成物を加熱する(必要により前記酸化工程を行った後、前記炭化工程を行う)ことが好ましい。特定重合体及び炭素材料を混合する方法としては、例えば、粉砕混合、溶液混合、溶融混合等が挙げられる。混合する際の温度は、特に限定されないが、溶融混合であれば好ましくは25〜300℃、特に好ましくは100〜250℃である。混合時間は、前記温度範囲で均一に混合される時間であればよく、特に限定されるものではない。また、前記混合を酸素含有ガス中で行い、混合温度を前記酸化工程と同様の温度で行う場合には、前記混合と同時に前記酸化工程を行うことができる。特定重合体及び炭素材料を混合する際には、具体的にはニーダー、二軸押し出し機等の装置を用いることができる。
【0036】
また、本発明においては、前記炭化工程の後、前記炭化工程で得られたものを粉砕し、得られたケイ素含有粒子を炭素前駆体と共に加熱する工程を経て本電極材料を製造してもよい。より具体的には、前記炭化工程で得られたものを好ましくはD50が20μm以下となるよう粉砕し、得られたケイ素含有粒子と炭素前駆体を混合した後、該混合物を加熱し、炭素前駆体を炭化させる工程を経て製造することが好ましい。ケイ素含有粒子と炭素前駆体を混合、加熱する際には、前記特定重合体及び炭素材料を混合、加熱する場合と同様の方法、条件を採用することができる。用いられるケイ素含有粒子及び炭素前駆体はそれぞれ、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0037】
前記炭素前駆体としては、例えば、石油系ピッチ、石炭系ピッチ等のピッチ;石炭の溶剤抽出物;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体(AES樹脂)、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体(ACS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体(ASA樹脂)、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等の合成ゴムを挙げることができる。なお、ケイ素含有粒子と炭素前駆体を加熱する際、Mg等の還元剤と共に加熱してもよい。
【0038】
本発明においては、本電極材料のD50を、0.1〜40μmにすることが好ましく、0.5〜25μmにすることがより好ましい。D50が前記範囲にある電極材料を用いることが、蓄電デバイスの出力とクーロン効率(放電容量/充電容量)を向上させる点から好ましい。また、本電極材料を、特にリチウムイオン二次電池に用いる場合には、D50が前記範囲にある物質を用いることも可能だが、充放電の際に副反応が起こりにくいことなどの点から、特にD50が10μm以上である本電極材料を用いることが好ましい。一方、本電極材料を、特にリチウムイオンキャパシタに用いる場合には、D50が0.5〜10μmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmの範囲にあるもの、更に好ましくは1〜5μmの範囲にあるものである。D50が前記下限を下回ると、電極作製時のハンドリングが難しくなるおそれがあり、前記上限を超えると、リチウムイオンキャパシタの出力特性が低くなるおそれがある。なお、D50は、レーザー回折・散乱法により測定される。
【0039】
本発明の製造方法においては、本電極材料のD50を前記範囲とするために、最終的に得られたものを粉砕する工程を含むことが好ましい。粉砕する方法としては、例えばボールミル、カッターミル、ジェットミル等を用いる方法が挙げられる。
【0040】
以上のようにして得られた本電極材料は、リチウムイオンを吸蔵、放出できるため、蓄電デバイスの負極材料として用いることが好ましく、特にリチウムイオン二次電池又はリチウムイオンキャパシタの負極材料として用いることが好ましい。
【0041】
電極
本発明の電極は、本電極材料を含む。このような電極において、本電極材料は、活物質としての役割を有すると考えられる。具体的には、集電体の少なくとも片面に本電極材料を含む活物質層を有する電極が好ましい。このような電極は、集電体上に直接活物質層を有していてもよく、集電体上に導電層等を介して活物質層を有してもよい。本電極材料は、リチウムイオンを吸蔵、放出できるため、前記電極は負極であることが好ましく、特にリチウムイオン二次電池又はリチウムイオンキャパシタの負極であることが好ましい。
なお、本発明の電極を負極として用いる場合、正極としては、本電極材料を含むものであってもよいが、本電極材料を含まないものであってもよい。
【0042】
前記活物質層は、本電極材料が含まれれば特に制限されないが、通常、バインダー、及び必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲でその他の任意成分を含む。
【0043】
このような電極の製造方法としては、例えば、バインダー、本電極材料、溶媒及びその他の任意成分を含むスラリーを集電体等に塗布し乾燥させる方法、集電体上に予め導電層等を設け、該導電層上に前記スラリーを塗布し乾燥させる方法、予めシート状の活物質層を形成し、これを好ましくは導電性接着剤等を使用して集電体に貼り付ける方法が挙げられる。
【0044】
前記活物質層中における本電極材料の含有割合は10〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは70〜97質量%である。本電極材料は、1種単独で使用してもよく、製造方法等が異なる2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
本発明の電極において、前記バインダーとしては、例えば、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等のゴム系バインダー;ポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレンの他、特開2009−246137号公報に開示されているようなフッ素変性(メタ)アクリル系バインダーが挙げられる。バインダーの使用量は、特に限定されるものではないが、本電極材料に対して、好ましくは1〜20質量%、特に好ましくは1.5〜10質量%である。
前記バインダーは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0046】
前記溶媒としては、特に制限されないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、イソプロパノール、水が挙げられる。前記溶媒は、前記スラリー中の固形分濃度が、好ましくは35〜70質量%、より好ましくは40〜65質量%となる量で用いることが好ましい。
【0047】
本発明の電極を構成する活物質層には、更にカーボンブラック、黒鉛、金属粉末等の導電剤;カルボキシルメチルセルロース、そのNa塩若しくはアンモニウム塩、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等の増粘剤などが含有されていてもよい。
【0048】
本発明の電極において、前記集電体の材質としては、本発明の電極が正極である場合、アルミニウム、ステンレス等が好ましく、一方、本発明の電極が負極である場合、銅、ニッケル、ステンレス等が好ましい。集電体の厚みは、正負極どちらであっても、通常10〜50μmである。また、リチウムイオンキャパシタに用いる電極である場合、正負極の集電体は、表裏面を貫通する貫通孔を備えていることが好ましく、その開口率は10〜70%であることが好ましい。かかる貫通孔を備える集電体として、例えば、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチングにより貫通孔が形成された多孔質金属箔が挙げられる。
【0049】
本電極材料を含有する活物質層の厚さは、特に限定されるものではないが、通常5〜500μm、好ましくは10〜200μm、特に好ましくは10〜100μmである。また、本電極材料を含有する活物質層の密度は、リチウムイオン二次電池に用いる場合、好ましくは1.50〜2.00g/ccであり、特に好ましくは1.60〜1.90g/ccである。一方、リチウムイオンキャパシタに用いる場合、好ましくは0.50〜1.50g/ccであり、特に好ましくは0.70〜1.20g/ccである。活物質層の密度がかかる範囲にあると、電解液の保液性と本電極材料との接触抵抗のバランスが良いため、高容量で且つ低抵抗な蓄電デバイスを提供することが可能となる。
【0050】
蓄電デバイス
本発明の蓄電デバイスは、本発明の電極を負極として備えてなるものである。蓄電デバイスとしては、例えば、非水電解質二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタが挙げられる。本発明の蓄電デバイスは、本発明の電極を負極として備えてなるリチウムイオン二次電池又はリチウムイオンキャパシタであることが好ましい。
【0051】
本発明の蓄電デバイスは、負極として用いられる本発明の電極の他、少なくとも正極及び電解質を備える。負極として用いられる本発明の電極の構成及び製造方法は、前記「電極」において説明した通りである。
【0052】
本発明の蓄電デバイスにおいて、前記正極の基本的な構成及び製造方法は、前記本電極材料の代わりに、以下の正極活物質を用いる以外は、前記「電極」において説明したものと同様である。本発明の蓄電デバイスがリチウムイオン二次電池である場合、用いられる正極活物質としては、例えば、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物、二酸化マンガン等の遷移金属酸化物、フッ化黒鉛等の炭素質材料が挙げられる。一方、本発明の蓄電デバイスがリチウムイオンキャパシタである場合、用いられる正極活物質としては、例えば、活性炭、ポリアセン系物質が挙げられる。これらの正極活物質は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0053】
本発明の蓄電デバイスにおいて、前記電解質は、通常、溶媒中に溶解された電解液の状態で用いられる。本発明において電解質としては、リチウムイオンを生成することのできるものが好ましく、具体的には、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiPF6、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO22、LiN(FSO22等が挙げられる。
これらの電解質は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0054】
電解質を溶解させるための溶媒としては、非プロトン性の有機溶媒が好ましく、具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、1−フルオロエチレンカーボネート、1−(トリフルオロメチル)エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン、スルホラン等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0055】
電解液中の電解質の濃度は、電解液による内部抵抗を小さくするため、0.1モル/L以上とすることが好ましく、0.5〜1.5モル/Lの範囲内とすることがより好ましい。また、電解液には、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水コハク酸、無水マレイン酸、プロパンスルトン、ジエチルスルホン等の添加剤が含有されていてもよい。
電解質は、前記のように通常は液状に調製されて使用されるが、漏液を防止する目的でゲル状又は固体状のものを使用してもよい。
【0056】
電解質が電解液の状態で用いられる場合、正極と負極との間には、通常、正極と負極が物理的に接触しないようにするためにセパレータが設けられる。前記セパレータとしては、例えば、セルロースレーヨン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド等を原料とする不織布又は多孔質フィルムが挙げられる。
【0057】
蓄電デバイスの構造としては、例えば、板状の正極と負極とがセパレータを介して各々3層以上積層された電極体が外装フィルム内に封入された積層型セル、帯状の正極と負極とがセパレータを介して捲回された電極体が角型又は円筒型の容器に収納された捲回型セル等が挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0059】
[二次電池としての適用例]
[実施例1]
<電極材料の製造>
市販の人造黒鉛(D50は10μm、X線回折によるd002面間隔は0.3356nm)100質量部と、ポリシロキサンユニットが結合したビスフェノールA型エポキシ樹脂(荒川化学工業株式会社製、商品名コンポセランE201、無溶剤、硬化残分中のケイ素含有量がシリカ換算で26質量%)100質量部とを、ニーダーで200℃に加熱しながら2時間混練した。
得られた混練物を窒素雰囲気下にて1000℃で2時間加熱した。その後、ボールミルにより粉砕し、ふるいにかけ分級した。得られた電極材料のD50は、18μmであった。なお、得られた電極材料及び原料として使用した人造黒鉛のD50は、株式会社堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2を用いて測定した。
【0060】
<負極の製造>
前記「電極材料の製造」で得られた電極材料100質量部、ポリフッ化ビニリデン5質量部、N−メチル−2−ピロリドン100質量部を混合して、負極スラリーを作製した。得られた負極スラリーをダイコーターにて厚み20μmの銅箔上に塗布し、乾燥させることで銅箔上に負極活物質層が形成された負極(1)を製造した。負極の厚みは61μmであった。
【0061】
<負極単極セルの製造>
負極単極セルは、電池評価用の組立て2極セル(TYS-00DM01、東洋システム株式会社製)を用いて作製した。
前記の手順で作製した負極(1)をφ12mmの大きさに1枚カットし、対極として同じ大きさで厚さ150μmの金属リチウムからなるリチウム極を準備した。カットした負極1枚とリチウム極1枚とを、セパレータとしてセルロース/レーヨン混合不織布を介して積層することで積層体を得た。
得られた積層体を前記2極セル内に配置した。その後、電解液(エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートを質量比で1:1:1とした混合溶媒に、1.2モル/Lの濃度となるようにLiPF6を溶解した溶液)を前記容器内に注入し、減圧含浸処理を行うことで、負極単極セルを作製した。
【0062】
<負極単極セルの特性評価>
前記「負極単極セルの製造」で得られた負極単極セルに対して、(1)60℃、2mA定電流で0Vまで充電し、(2)0Vに到達後、定電圧にて3時間充電し続けた。(3)その後、1mA定電流にて3.0Vまで放電し(以上の(1)〜(3)の工程を1サイクルとする)、このサイクルを10サイクル繰り返した。1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例2]
実施例1において、ポリシロキサンユニットが結合したビスフェノールA型エポキシ樹脂の代わりに、ポリシロキサンユニットが結合したノボラックフェノール樹脂(荒川化学工業株式会社製、商品名コンポセランP501、無溶剤、硬化残分中のケイ素含有量がシリカ換算で44質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして、電極材料を製造した。得られた電極材料のD50は、22μmであった。
得られた電極材料を用いて、実施例1と同様に負極及び負極単極セルを製造し、1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
[実施例3]
実施例1において、ポリシロキサンユニットが結合したビスフェノールA型エポキシ樹脂100質量部の代わりに、ポリシロキサンユニットが結合したポリアミド酸溶液(荒川化学工業株式会社製、商品名コンポセランH802、トリグライム溶液、硬化残分60質量%、硬化残分中のケイ素含有量がシリカ換算で2質量%)300質量部を用い、室温で2時間混練した。混練後、減圧により混練物中の溶剤を除去した。なお、硬化残分とは、重合体を硬化させ揮発性成分を除いた固形分を意味する。得られた混練物を用いて、実施例1と同様にして、電極材料を製造した。得られた電極材料のD50は、17μmであっ
た。
得られた電極材料を用いて、実施例1と同様に負極及び負極単極セルを製造し、1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
[実施例4]
実施例1において、ポリシロキサンユニットが結合したビスフェノールA型エポキシ樹脂100質量部の代わりに、ポリシロキサンユニットが結合したポリアミドイミド溶液(荒川化学工業株式会社製、商品名コンポセランH903、N−メチル−2−ピロリドン溶液、硬化残分30質量%、硬化残分中のケイ素含有量がシリカ換算で2質量%)500質量部を用い、室温で2時間混練した。混練後、減圧により混練物中の溶剤を除去した。得られた混練物を用いて、実施例1と同様にして、電極材料を製造した。得られた電極材料のD50は、16μmであった。
得られた電極材料を用いて、実施例1と同様に負極及び負極単極セルを製造し、1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
[実施例5]
特開2002−220431号公報の実施例4の記載に基づいて、ポリシロキサンユニットが結合したポリウレタンを製造した。該ポリウレタンの固形分中のケイ素含有量は、シリカ換算で8質量%であった。実施例1において、ポリシロキサンユニットが結合したビスフェノールA型エポキシ樹脂の代わりに、得られたポリウレタンを用いた以外は実施例1と同様にして、電極材料を製造した。得られた電極材料のD50は、20μmであった。
得られた電極材料を用いて、実施例1と同様に負極及び負極単極セルを製造し、1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
[実施例6]
特開平2−8209号公報の実施例7の記載に基づいて、ポリシロキサンユニットが結合したスチレン−アクリロニトリル共重合体粉末を製造した。得られた重合体粉末を大気下にて300℃で3時間加熱した後、窒素雰囲気下にて1100℃で1時間加熱した。得られたケイ素含有炭素を瑪瑙乳鉢で粉砕後、受け皿付の25μm篩に乗せ、メタノールを篩に乗せたケイ素含有炭素粉末に振りかけた。次いで、直径が5mmのジルコニアビーズを乗せて、篩を回転させることで25μmの篩を通過したケイ素含有炭素粉末を受け皿から回収した。得られたケイ素含有炭素粉末を70℃の熱風乾燥機で3時間乾燥させることで電極材料を製造した。得られた電極材料のD50は、17μmであった。
得られた電極材料を用いて、実施例1と同様に負極及び負極単極セルを製造し、1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
[実施例7]
実施例1において、ポリシロキサンユニットが結合したビスフェノールA型エポキシ樹脂の代わりに、実施例6で得られたポリシロキサンユニットが結合したスチレン−アクリロニトリル共重合体粉末を用いた以外は実施例1と同様にして、電極材料を製造した。得られた電極材料のD50は、18μmであった。
得られた電極材料を用いて、実施例1と同様に負極及び負極単極セルを製造し、1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
[実施例8]
特開平2−8209号公報の実施例4の記載に基づいて、ポリシロキサンユニットが結合したスチレン重合体粉末を製造した。実施例1において、ポリシロキサンユニットが結合したビスフェノールA型エポキシ樹脂の代わりに、得られたスチレン重合体粉末を用いた以外は実施例1と同様にして、電極材料を製造した。得られた電極材料のD50は、15μmであった。
得られた電極材料を用いて、実施例1と同様に負極及び負極単極セルを製造し、1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
[実施例9]
特開平2−8209号公報の実施例6の記載に基づいて、ポリシロキサンユニットが結合したスチレン−メチルメタクリレート共重合体粉末を製造した。実施例1において、ポリシロキサンユニットが結合したビスフェノールA型エポキシ樹脂の代わりに、得られたスチレン−メチルメタクリレート共重合体粉末を用いた以外は実施例1と同様にして、電極材料を製造した。得られた電極材料のD50は、17μmであった。
得られた電極材料を用いて、実施例1と同様に負極及び負極単極セルを製造し、1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
[比較例1]
特開平2−8209号公報の実施例1の記載を参考にして、2−(p−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン1.5質量部及びオクタメチルシクロテトラシロキサン98.5質量部を縮合してポリオルガノシロキサンを製造した。実施例6において、ポリシロキサンユニットが結合したスチレン−アクリロニトリル共重合体粉末の代わりに、得られたポリオルガノシロキサンを用いた以外は実施例6と同様にして、電極材料を製造した。得られた電極材料のD50は、18μmであった。
得られた電極材料を用いて、実施例1と同様に負極及び負極単極セルを製造し、1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
[比較例2]
特開平2−8209号公報の実施例1の記載を参考にして、スチレン46.5質量部及びアクリロニトリル18.5質量部を重合してスチレン−アクリロニトリル共重合体を製造した。実施例6において、ポリシロキサンユニットが結合したスチレン−アクリロニトリル共重合体粉末の代わりに、得られたスチレン−アクリロニトリル共重合体を用いた以外は実施例6と同様にして、電極材料を製造した。得られた電極材料のD50は、19μmであった。
得られた電極材料を用いて、実施例1と同様に負極及び負極単極セルを製造し、1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例3]
実施例6において、ポリシロキサンユニットが結合したスチレン−アクリロニトリル共重合体粉末の代わりに、比較例1で得られたポリオルガノシロキサン40質量部と比較例2で得られたスチレン−アクリロニトリル共重合体60質量部とを混合した混合物を用いた以外は実施例6と同様にして、電極材料を製造した。得られた電極材料のD50は、17μmであった。
得られた電極材料を用いて、実施例1と同様に負極及び負極単極セルを製造し、1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
[比較例4]
実施例1において、実施例1で得られた電極材料の代わりに、実施例1で用いた市販の人造黒鉛を用いた以外は実施例1と同様に負極及び負極単極セルを製造し、1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例5]
実施例1において、ポリシロキサンユニットが結合したビスフェノールA型エポキシ樹脂の代わりに、比較例1で得られたポリオルガノシロキサン40質量部と比較例2で得られたスチレン−アクリロニトリル共重合体60質量部とを混合した混合物を用いた以外は実施例1と同様にして、電極材料を製造した。得られた電極材料のD50は、18μmであった。
得られた電極材料を用いて、実施例1と同様に負極及び負極単極セルを製造し、1サイクル目及び10サイクル目の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
[リチウムイオンキャパシタとしての適用例]
前記実施例1〜5及び7〜9において、市販の人造黒鉛の代わりに、該人造黒鉛を微粒化した黒鉛(D50は3μm、X線回折によるd002面間隔は0.3365nm)を用い、ポリシロキサンユニットが結合した重合体の使用量を実施例1〜5及び7〜9に対して各々1/3とした以外は、前記実施例1〜5及び7〜9と同様に電極材料を製造した。なお、得られた電極材料においては、D50が4μmになるよう粉砕、分級した。
得られた電極材料を負極活物質として用いることで、リチウムイオンプレドープ時にガスが発生せず、エネルギー密度及び出力密度の高いリチウムイオンキャパシタが得られることを確認した。この際、正極活物質としては比表面積2050m2/gの活性炭を用い、電解液としてはエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートを体積比で3:1:4とした混合溶媒に、1.2モル/Lの濃度となるようにLiPF6を溶解した溶液を用いた。
一方、負極活物質として、前記微粒化した人造黒鉛のみからなる負極活物質を用いた場合、リチウムイオンプレドープ時にガスが発生した。