(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274189
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】精錬炉用ガス吹込みノズル
(51)【国際特許分類】
C21C 5/48 20060101AFI20180129BHJP
【FI】
C21C5/48 C
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-223751(P2015-223751)
(22)【出願日】2015年11月16日
(65)【公開番号】特開2017-88980(P2017-88980A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2016年5月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(72)【発明者】
【氏名】金子 詳平
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 一浩
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 亮磨
(72)【発明者】
【氏名】村上 晃陽
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−212634(JP,A)
【文献】
特開平10−007479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/48
C21C 7/072
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の本数の溶融金属へガスを吹込むための金属細管を炭素含有耐火物へ埋設してなる精錬炉用ガス吹込みノズルにおいて、金属細管の表面が、SiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、SiC、Si3N4及びBNからなる群から選択される少なくとも1種の耐火骨材と、金属アルコキシドの部分加水分解物とから構成される被覆材のコーティング層のみを有することを特徴とする金属細管を備えてなる精錬炉用ガス吹込みノズル。
【請求項2】
耐火骨材の粒度が300μm以下である、請求項1に記載の精錬炉用ガス吹込みノズル。
【請求項3】
金属アルコキシドの部分加水分解物がSiアルコキシド、Tiアルコキシド、Alアルコキシド及びZrアルコキシドからなる群から選択された少なくとも1種の金属アルコキシド部分加水分解ゾルである、請求項1または2に記載の精錬炉用ガス吹込みノズル。
【請求項4】
被覆材が耐火骨材40〜95質量%及び金属アルコキシドの部分加水分解物5〜60質量%よりなる、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の精錬炉用ガス吹込みノズル。
【請求項5】
被覆材のコーティング厚みが、0.2〜2.0mmである、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の精錬炉用ガス吹込みノズル。
【請求項6】
精錬炉用ガス吹込みノズルが多孔管型ガス吹込みノズルである、請求項1ないし5のいずれか1項記載の精錬炉用ガス吹込みノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属細管を用いた精錬炉用ガス吹込みノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
国内の製鋼用精錬炉では、1970年代後半の純酸素底吹き転炉(Q−BOP)における底吹き吹錬の開始以降、溶鋼の強撹拌の冶金学的優位性により、ガスを炉底から吹き込んで溶鋼を撹拌する底吹き羽口の使用が一般的となっている。現在では上底吹きによる複合吹錬が主流であり、底吹き羽口の改良も種々進められている。
【0003】
底吹き羽口に使われるガス吹込みノズルにはいくつかの種類があるが、その一つに金属細管を多数埋め込んだマルチプルホールプラグ(以下、「MHP」と称す)というノズルが開発されている。例えば、転炉用底吹き羽口にMHPを使用する転炉製鋼法として、特許文献1には、酸素を上吹きするとともに溶湯面下よりMHPより撹拌ガスを吹込んで溶鋼を精錬する方法において、撹拌ガスを不活性ガス及び/又はCO
2としてこれを同時に又適宜切換えて0.01〜0.20Nm
3/
minTの速度で吹込むことを特徴とする転炉製鋼法が開示されている。この転炉製鋼法では、MHPを使用することにより吹込みガスの広範囲な流量制御を可能とするものであるが、ガス吹込みによる羽口の損傷が大きく、耐用面の改善が必要であった。
【0004】
MHPの耐用性を改善するために、様々な対策が設けられている。例えば、特許文献2には、溶融金属にガスを吹き込むガス吹き込みプラグにおいて、ガス通路が形成されたノズルれんがと、ノズルれんがを囲
繞してノズルれんがを支持するスリーブれんがとが一体に形成されていることを特徴とするガス吹込みプラグが開示されている。特許文献2では、ノズルれんがとスリーブれんがを一体成形することで、目地損傷の軽減を図っている。このガス吹込みプラグにより従来よりも寿命の延長が可能となったが、このガス吹込みノズルでは、埋め込まれた金属細管が先行的に損傷することによるガス吹込みノズルの寿命低下が問題となった。そのため、寿命低下対策の観点から各種の改良技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献3には、炭素系耐火物と金属とから構成される、溶融金属取扱い器具の炭素系耐火物と金属面との接着方法において:前記炭素系耐火物面と金属面との境界に、有機または無機バインダーを混合した金属粉および/または金属酸化物を塗布、吹付けあるいは流し込みにより介在させ、接着させることを特徴とする炭素系耐火物と金属との接着強化方法が開示されており、また、実施例には、ガス吹込みノズルの金属管と耐火物の接着強化方法が示されている。これによって金属管と耐火物の接着性が増すことによる寿命延長が図られるものの、金属管の先行的な損傷への対策は不十分であった。
【0006】
また、特許文献4には、カーボンおよび黒鉛を含有する耐火物中に複数本の金属製細管のガス吹込み用貫通孔パイプを内設したアルミナ−カーボン質ガス吹込み用プラグにおいて、各金属細管のガス吹込み用貫通孔パイプの外周にMgO質コーティング材をコーティングしたMgO質コーティング層を有することを特徴とするアルミナ−カーボン質ガス吹込み用プラグが開示されている。特許文献4のアルミナ−カーボン質ガス吹込み用プラグは、金属細管の外周にマグネシア質コーティング材をコーティングし、アルミナとの反応によりスピネルを生成させ、金属細管の強度を向上させるとともに、アルミナ−カーボン質耐火物との反応によるステンレス鋼に起因するクロムからの炭化クロムの生成を抑制することで金属細管の劣化を防ぐものである。しかしながら、転炉等の精錬炉において、ガス吹込みノズルの金属細管の周囲に使用されている耐火物は、マグネシア−カーボン質耐火物であり、アルミナ不含であるため、金属細管の外周にマグネシア質コーティング材をコーティングしてもスピネル生成は起こらず、そのため、特許文献4のアルミナ−カーボン質ガス吹込み用プラグに係る技術は適用できるものではなかった。
【0007】
更に、特許文献5には、炭素含有耐火物と、該炭素含有耐火物内を貫通するように内設される複数本のガス導入用金属細管とからなるガス吹き込み用ノズルにおいて、前記ガス導入用金属細管の各々が、金属管と、該金属管の外表面に溶射によって形成した酸化物層とからなることを特徴とする精錬炉用ガス吹き込みノズルが開示されており、また、実施例には、ステンレス鋼細管の外表面に、Ni−Cr系金属を溶射した後、アルミナを溶射した処理済みステンレス鋼細管を用いたマグネシア−カーボン系材質よりなるガス吹き込みノズルが例示されている。特許文献5では、金属細管の外表面へ溶射によって酸化物層を形成することにより、マグネシア−カーボン系耐火物のような炭素含有耐火物から金属細管への浸炭現象の抑制しようとするものである。浸炭現象は、金属細管の融点低下を引き起こし金属細管の損傷を促進するため、このような浸炭現象の抑制は、金属細管の先行損傷軽減の効果が期待できるが、浸炭現象の抑制効果は不十分なものであった。
【0008】
また、特許文献6には、炭素含有耐火物中にガス導入用金属細管を装着してガスを吹き出せるようにしたガス吹き込みノズルであって、上記ガス導入用金属細管と炭素含有耐火物の間に耐火性焼結体を配設したことを特徴とするガス吹き込みノズルが開示されている。特許文献6では、金属細管と炭素含有耐火物の間に耐火性焼結体を配設することにより、炭素含有耐火物から金属細管への浸炭現象を防止しようとするものである。この方法では、浸炭現象の防止により金属細管の先行損傷抑制に効果があるが、耐火性焼結体は内径3〜8mm程度の筒状体であり、多数の金属細管を埋め込むMHPには適用できない。
【0009】
更に、特許文献7には、溶湯用温度センサーの保護管の内外表面を、酸化物、炭化物、窒化物の耐火骨材の少なくとも1種とSiアルコキシドを主体とする部分加水分解物をバインダーとする被覆材でコーティングすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59−31810号公報
【特許文献2】特開昭63−24008号公報
【特許文献3】特開昭62−13511号公報
【特許文献4】特開平10−265829号公報
【特許文献5】特開2000−212634号公報
【特許文献6】特開2003−231912号公報
【特許文献7】特開平8−271347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、精錬炉のガス吹込みノズルは様々な方法により改良が進められてきた。しかし、依然として金属細管の先行損傷はガス吹込みノズルの寿命を低下させる大きな要因であり、その改善が必要となる。ガス吹込みノズルの金属細管には、通常、ステンレス鋼管が使用されており、また、精錬炉のガス吹込みノズルを構成する耐火物には、マグネシア−カーボン質れんがのような炭素含有耐火物が使用されている。特許文献5、6に記載されているように、炭素含有耐火物にステンレス鋼管が接触した場合は、使用時にその周囲の炭素含有耐火物中の炭素が浸透する浸炭現象が起こり、融点の低下等によりステンレス鋼管の先行損傷を引き起こすという問題点がある。
また、特許文献3、4では、金属細管へのコーティングが実施されており、炭素含有耐火物と金属細管の直接接触を遮断しようとするものであるが、浸炭現象を抑制する効果は得られていない。このことは、炭素含有耐火物から供給される炭素は、固体炭素との直接接触のほかに、C(ガス)やCO(ガス)等の気体として金属細管へ浸透していくことを示している。
更に、特許文献5では、酸化物層により浸炭現象の抑制しようとするものであるが、これも抑制効果としては不十分であった。特許文献5の精錬炉用ガス吹き込みノズルにおいて、浸炭現象の抑制がなぜ不十分であるか詳しく調査を行ったところ、溶射によって金属細管外表面に形成された酸化物層被膜は一見緻密に見えるものの、被膜の重なり合いにおいて隙間が存在し、十分にガスを遮断できていないことが分かった。従って、金属細管への浸炭現象の抑制には十分なガスの遮断が不可欠であり、浸炭現象の抑制には、ガスを通さないコーティング層を形成することが必須であることが判明した。
また、特許文献7には、酸化物、炭化物、窒化物の耐火骨材の少なくとも1種とSiアルコキシドを主体とする部分加水分解物をバインダーとする被覆材が開示されているものの、精錬炉のガス吹込みノズルに使用される金属細管へコーティングすると、炭素含有耐火物からの浸炭を抑制できることを開示または示唆するものではない。
【0012】
従って、本発明の目的は、精錬炉用ガス吹込みノズルの金属細管の先行損傷を防止し、MHPにも適用でき、従来よりも寿命を延長することができる金属細管を用いた精錬炉用ガス吹込みノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明は、所定の本数の溶融金属へガスを吹込むための金属細管を炭素含有耐火物へ埋設してなる精錬炉用ガス吹込みノズルにおいて、金属細管の表面が、SiO
2、TiO
2、ZrO
2、Al
2O
3、SiC、Si
3N
4及びBNからなる群から選択される少なくとも1種の耐火骨材と、金属アルコキシドの部分加水分解物とから構成される被覆材のコーティング層
のみを有することを特徴とする金属細管を備えてなる精錬炉用ガス吹込みノズルを提供することにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶融金属へガスを吹込むための金属細管を備えてなる精錬炉用ガス吹込みノズルにおいて、炭素含有耐火物に埋め込まれた金属細管の浸炭現象を抑制し、金属細管の先行損傷を低減することで、精錬炉用ガス吹込みノズルの寿命を延長することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、溶融金属へガスを吹込むための金属細管を備えてなる精錬炉用ガス吹込みノズルにあり、更に詳しくは、炭素含有耐火物に、溶融金属へガスを吹込むための金属細管を所定の本数(1本または複数本)貫通するように埋設された構成の精錬炉用ガス吹込みノズルにある。
【0016】
金属細管:
本発明の金属細管を備えてなる精錬炉用ガス吹込みノズルにおいて、使用可能な金属細管は、融点が1300℃以上の金属細管であり、例えば、ステンレス鋼細管、普通鋼細管、耐熱鋼細管の金属製細管及び合金製細管を挙げることができる。金属細管の内径は、特に限定されるものではないが、通常0.5〜4mm程度、好ましくは0.8〜2mm程度であり、肉厚は通常0.25〜2mm程度、好ましくは0.4〜1.5mm程度である。なお、金属細管の内径が0.5mm未満となると、精錬炉内の溶融金属の撹拌に十分なガスの供給
ができなくなることがあり、また、4mmを超えると、金属細管内に溶融金属が流入して閉塞を生じることがあるために好ましくない。
【0017】
ここで、精錬炉用ガス吹込みノズルにおいて、炭素含有耐火物内に埋設される金属細管の本数は、特に限定されるものではなく、必要とされるガス吹き流量や稼働部の面積等を勘案して適宜設計されるものである。例えば、転炉などの高流量が必要とされる精錬炉用ガス吹込みノズルでは、60〜250本程度埋設することができ、また、電気炉や取鍋のようにガス吹き流量が小さい精錬炉用ガス吹込みノズルでは、1本〜数十本埋設することができる。本発明の製造方法は、上述のいずれの精錬炉用ガス吹込みノズルにも適用可能である。
【0018】
被覆材:
本発明において、金属細管の表面にコーティング層を形成するために使用される被覆材は、耐火骨材と、金属アルコキシドの部分加水分解物とから構成されるものである。ここで、被覆材中の金属アルコキシドの部分加水分解物は、バインダーとして機能し、コーティング後に加水分解等による重合が進行することで非晶質の酸化物の結合を形成し、通気性のない緻密な塗膜を形成し、金属細管の浸炭現象の抑制に効果を発揮することができる。また、強い耐熱性を持ち、高温環境においても緻密な塗膜を持続させることができる。
【0019】
被覆材を構成する耐火骨材は、酸化物、炭化物及び窒化物からなる群から選択される少なくとも1種である。ここで、酸化物としては、例えば、SiO
2、TiO
2、ZrO
2、Al
2O
3などの耐火性酸化物を、炭化物としては、例えば、SiCなどの耐火性炭化物を、窒化物としては、例えば、Si
3N
4、BNなどの耐火性窒化物を使用できる。これらは、金属アルコキシドの部分加水分解物に対して安定で、高融点を有するものである。なお、耐火骨材の粒度は、300μm以下、好ましくは200μm以下とすることが望ましい。これは、粒度が300μmを超えると、耐火骨材の沈降が早くなり塗膜の均一性が悪くなるほか、緻密な塗膜が得られずに、浸炭現象の抑制効果が小さくなるためである。また、耐火骨材は、粒度の異なる粉粒体を数種類(例えば、2〜6種類)配合することが好ましい。粒度の異なる耐火骨材を数種類組み合わせることにより、厚膜化が可能で組織的に強固な塗膜が得られるようになる。
【0020】
次に、被覆材に用いられる金属アルコキシドの部分加水分解物は、バインダーとして機能する。金属アルコキシドの部分加水分解物としては、例えば、Siアルコキシド、Tiアルコキシド、Alアルコキシド及びZrアルコキシドからなる群から選択された少なくとも1種からなる金属アルコキシドの部分加水分解ゾルを挙げることができる。ここで、「部分加水分解ゾル」は、溶液内で分子どうしが完全に加水分解重合して網目構造を形成しているのではなく、部分的にOR基が残存して重合している状態の高分子を含んでいる溶液を意味する。また、これらの金属アルコキシド部分加水分解ゾルは2種以上を組み合わせて複合金属アルコキシド部分加水分解ゾルとして用いることもできる。
【0021】
被覆材において、耐火骨材と金属アルコキシドの部分加水分解物の比率は、耐火骨材40〜95質量%、好ましくは50〜90質量%、金属アルコキシドの部分加水分解物5〜60質量%、好ましくは10〜50質量%の範囲内である。金属アルコキシドの部分加水分解物の比率が5質量%未満では、被覆材として流動性が乏しくなり、塗布が困難となり、また、塗布しても緻密な塗膜を形成することができなくなるため好ましくない。また、金属アルコキシドの部分加水分解物の比率が60質量%を超えると耐火骨材の沈降が著しく速くなり、塗膜の均一性が悪くなり、保護機能が低下するために好ましくない。
【0022】
本発明において、金属細管の表面への被覆材のコーティング法は特に限定されるものではなく、例えば、刷毛塗り、スプレー法、ディッピング法等が利用できる。なお、ディッピング法は、多数本の金属細管に同時に塗布することが可能となる。
【0023】
金属細管へのコーティング厚みは、0.2〜2.0mm、好ましくは0.7〜1.5mmの範囲内である。コーティング厚みが2.0mmを超えると、乾燥時にクラックの発生が多くなるため好ましくない。また、コーティング厚みが0.2mm未満であると、耐火骨材の粒度等に起因して緻密な塗膜を形成することができなくなる場合があるために好ましくない。
【0024】
なお、本発明の精錬炉用ガス吹込みノズルを構成する炭素含有耐火物は、特に限定されるものではなく、炭素含有耐火物を構成する骨材としては、マグネシア、アルミナ、ドロマイト、ジルコニア、クロミア、スピネル(アルミナ−マグネシア質スピネル、クロミア−マグネシア質スピネル)等を使用することができる。また、炭素源としては、市販されている一般的な固体状炭素、例えば、鱗状黒鉛、土状黒鉛、カーボンブラック、無煙炭、人造黒鉛などを使用することができ、これらを単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0025】
また、炭素含有耐火物には、添加物として、例えば、金属Al、金属Si、Al−Mg合金等の炭素含有耐火物に一般的に添加されている金属類や、SiC、B
4Cなどの炭化物を使用することもできる。また、バインダーとしては、フェノール樹脂、液体状ピッチなどの一般的な定形耐火物のバインダーを使用することができる。
【0026】
次に、本発明の精錬炉用ガス吹込みノズルの製造方法をMHPを例に説明するが、精錬炉用ガス吹込みノズルの製造方法は、以下の方法に限定されるものではないことを理解されたい:
まず、炭素含有耐火物を構成する骨材と炭素源、さらに必要に応じて適宜金属類等の添加物を加えて配合し、バインダーと共に混練機により混練する。混練機は、ハイスピードミキサー、タイヤミキサー(コナーミキサー)、アイリッヒミキサーなどの一般的な定形耐火物に使用される混練機が使用でき、これらの混練機には加圧もしくは減圧、加温や冷却等の制御装置が設置される場合もある。混練時間は原料の種類、配合量、バインダーの種類、温度、混練機の種類や大きさによって異なるが、通常は数分から数時間の範囲内である。
MHPの成形には、上述のようなコーティングを施した金属細管を、混練した炭素含有耐火物の上に敷設しながら、積層状に金属細管を埋設して成形し、その後、金属細管をガス溜まりに溶接,接続する方法や、あらかじめガス溜まり部の上面板に金属細管を溶接し、その周囲に混練した炭素含有耐火物を充填した上で、冷間等方圧加圧法[Cold
Isostatic Pressing(CIP)]による成形、あるいは油圧式プレスやフリクションプレスなどの一軸成形機による成形を行う方法などがある。成形圧力は、通常0.2〜3.0トン/cm
2程度であり、締め回数は、通常2〜8回程度である。
上述のようにして得られた成形品を次に乾燥処理する。乾燥処理は、一般的には乾燥温度180〜350℃、保持時間5〜30時間程度で行うことにより、MHPを製造することができる。
【実施例】
【0027】
以下の表1及び表2に配合にて、精錬炉用ガス吹込みノズルの金属細管のコーティング層を形成するために使用される被覆材(本発明用被覆材及び比較用被覆材)を作製し、得られた被覆材の性能を下記の項目にて評価した。得られた結果を表1及び2に併記する。なお、表中の各評価において、「◎」は最適を、「○」は良好を、「△」は可を、「×」は不可をそれぞれ意味する。
表中、
「通気性」は、液体の浸透性により評価したものである。これは、通気性が材料の開気孔率に依存し、開気孔率は液体がどの程度浸透するかによって評価が可能であることによる。液体には水を使用し、普通鋼の金属板の表面に被覆材を厚さ1mmにコーティングしたものの上に10gの液滴を垂らし、1時間後に目視による評価を行った。まったく水が浸透せず残っているものを「最適」、少々の浸透は見られるがほとんど浸透していないものを「良好」、やや浸透しているものを「可」、明らかに浸透しているものを「不可」とした。
「流動性」は、粘度により評価した。粘度計は東機産業製BH型回転粘度計を使用し、No.5ローター、回転数20rpmの条件で評価を行った。300〜5000Pa・秒の範囲のものを「最適」、100Pa・秒以上300Pa・秒未満並びに5000Pa・秒より高く15000Pa・秒以下のものを「良好」、50Pa・秒以上100Pa・秒未満並びに15000Pa・秒より高く20000Pa・秒以下のものを「可」、それ以外を「不可」とした。不可のものは被覆材の粘度として相応しくないので、表1と表2には含めていない。
「沈降性」は、一定時間における骨材の沈降量により評価した。直径15mmの試験管に20mlの被覆材を入れて静置し、1時間後に目視による評価を行った。耐火骨材がほとんど沈降せず、金属アルコキシドの部分加水分解物の上澄みができていないものを「最適」、やや沈降がみられるものの小程度のものを「良好」、沈降が見られるものを「可」、著しい沈降が見られるものを「不可」とした。
「浸炭性」は、焼成後の金属細管の炭素分析により評価した。金属細管の材質はSUS304で、外径3.5mm、内径2.0mmのものを使用した。被覆材をコーティングした金属細管をマグネシア−カーボン質耐火物に埋め込み、油圧プレスにより2.0トン/cm
2で成形した。マグネシア−カーボン質耐火物は、黒鉛20質量%の一般品を使用した。得られた成形品は乾燥炉で230℃、24時間の乾燥を行い、その後還元雰囲気下において1400℃、3時間の焼成を行った。焼成した煉瓦から金属細管を取り出し、堀場製作所製炭素・硫黄分析装置EMIA−920Vにて金属細管の定量分析を行った。金属細管は被覆材を完全に除去し、1gを試料とした。炭素量が1質量%以下のものを「最適」、1質量%より多く2質量%以下のものを「良好」、2質量%より多く3質量%以下のものを「可」、3質量%より多いものを「不可」とした。なお、コーティングを施さない金属細管を同様にマグネシア−カーボン質耐火物に埋め込み焼成したが、炭素量は3質量%より多くなり、表面の一部は浸炭によって融点が低下し、溶融した跡が確認された(表3には掲載せず)。
「クラック性」は、亀裂の本数により評価した。被覆材を金属細管にコーティングし、室内で24時間の自然乾燥後の亀裂の本数を目視で確認した。亀裂がないものを「最適」、亀裂が1〜2本のものを「良好」、亀裂が3〜5本のものを「可」、亀裂が6本以上のものを「不可」とした。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
表1及び2から、本発明用被覆材は、いずれも金属細管への浸炭の抑制などに優れていることが判る。
一方、表3の比較用被覆材1は、特許文献3に準じた有機バインダーを混合した金属粉および金属酸化物を塗布したものであるが、通気性ならびに浸炭性に劣り浸炭抑制の効果を持たないために好ましいものではなかった。
また、比較用被覆材2は、特許文献4に準じたものであるが、比較用被覆材1と同様に通気性と浸炭性に劣り、浸炭抑制の効果を持たないために好ましいものではなかった。
更に、比較用被覆材3は、特許文献5に準じた溶射によって酸化物層を形成したものであり、浸炭抑制の効果が不十分であって好ましいものではなかった。
このように、本発明用被覆材の優位性は明らかである。
【0032】
実施例
本発明用被覆材1を用いて形成された厚さ1.0mmのコーティング層を備える金属細管(SUS304、外径3.5mm、内径2.0mm)、比較用被覆材3を用いた溶射による酸化物層(厚さ1.0mm)を有する金属細管(SUS304、外径3.5mm、内径2.0mm)及び未処理品の金属細管(SUS304、外径3.5mm、内径2.0mm)の3本をマグネシア−カーボン質耐火物(黒鉛20質量%品)に埋設したガス吹込みノズルを250トン転炉の底吹き羽口として使用してテストを行い、2438ch使用後に回収した。未処理品の損傷速度を100として比較すると、溶射処理品の損傷速度は96となり、一定の効果は認められた。これに対し、本発明用被覆材1をコーティングした金属細管の損傷速度は84となり著しい効果が認められた。
このように、本発明の優位性は明らかである。