(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁石が組み込まれたピストンが、コイルが設けられたシリンダ内の、燃焼室と空気ばね室との間を往復移動することによって発電が行われる、フリーピストン式発電機の制御装置であって、
前記制御装置は、
前記ピストンが前記空気ばね室側に移動させられる膨張行程における第1速度指令値と、前記ピストンが前記燃焼室側に移動させられる圧縮行程における第2速度指令値を設定し、
発電時に、電気制動により前記ピストンの速度を前記第1及び第2速度指令値に到達させるように発電量を制御し、または、モータリング時に前記コイルを励磁させて前記ピストンの速度を前記第1及び第2速度指令値に到達させるように送電量を制御し、
前記ピストンが最も燃焼室寄りとなる上死点位置と、前記ピストンが最も空気ばね室寄りとなる下死点位置を前記ピストンが通過する間は発送電を休止するように発送電タイミングを制御することを特徴とする、フリーピストン式発電機の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、エネルギ収支に基づく制御方法では外乱要素が多く、パラメータを正確に特定することは容易ではない。例えば燃焼室では燃焼のばらつきが発生し、上記パラメータのうち、燃焼によりピストンに加わるエネルギを正確に特定することは困難となる。パラメータの特定が困難となることで、ピストン制御の精度は低くなる。そこで、本発明は、従来よりもピストンの挙動を正確に制御可能な、フリーピストン式発電機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、磁石が組み込まれたピストンが、コイルが設けられたシリンダ内を往復移動することによって発電が行われる、フリーピストン式発電機の制御装置に関するものである。前記シリンダ内には燃焼室が設けられる。前記制御装置は、前記ピストンが前記燃焼室とは反対側に移動させられる膨張行程における第1速度指令値と、前記ピストンが前記燃焼室側に移動させられる圧縮行程における第2速度指令値を設定し、発電時に、電気制動により前記ピストンの速度を第1及び第2速度指令値に到達させるように発電量を制御し、または、モータリング時に前記コイルを励磁させて前記ピストンの速度を第1及び第2速度指令値に到達させるように送電量を制御し、第1及び第2速度指令値の設定に当たり、所定の往復周期における、前記ピストンが最も燃焼室寄りとなる上死点位置と、前記ピストンが最も燃焼室から遠くなる下死点位置とに基づいて、その次の往復周期における第1及び第2速度指令値を設定する。
【0009】
また、上記発明において、前記ピストンは、前記シリンダ内に設けられた燃焼室と空気ばね室との間を往復することが好適である。
【0010】
また、上記発明において、前記制御装置は、所定の往復周期における、実際の上死点位置と上死点目標位置との差、及び、実際の下死点位置と下死点目標位置との差に基づいて、その次の往復周期における、第1速度指令値及び第2速度指令値をピーク値とする速度指令波の振幅及び当該速度指令波の速度0からのオフセット量を求めることが好適である。
【0011】
また、上記発明において、前記制御装置は、前記下死点目標位置を変更することで、第1及び第2速度指令値の絶対値差分を低減させることが好適である。
【0012】
また、上記発明において、前記制御装置は、第1速度指令値で制御中の発電電力積算量が第2速度指令値で制御中の発電電力積算量よりも大きい場合、前記ピストンの下死点目標位置を、前記ピストンのストローク中央位置から離間させるように変更し、第2速度指令値で制御中の発電電力積算量が第1速度指令値で制御中の発電電力積算量よりも大きい場合、前記ピストンの下死点目標位置を、前記ピストンのストローク中央位置寄りに変更することが好適である。
【0013】
また、上記発明において、前記制御装置は、前記燃焼室における燃焼圧力の増加に伴って、前記空気ばね室の空気圧を増加させることが好適である。
【0014】
また、上記発明において、前記制御装置は、モータリング開始時に、ストローク中央位置から見て前記ピストンの停止位置とは逆側に当該ピストンを付勢するように、前記コイルへの励磁電流を制御することが好適である。
【0015】
また、上記発明において、前記制御装置は、前記ピストンの前記上死点位置及び前記下死点位置通過中は、発送電を休止するように発送電タイミングを制御することが好適である。
【0016】
また、上記発明において、前記制御装置は、前記モータリングに当たり、上死点目標位置の半値から下死点目標位置の半値までの領域を前記コイルの励磁領域に設定することが好適である。
【0017】
また、本発明の別態様は、磁石が組み込まれたピストンが、コイルが設けられたシリンダ内の、燃焼室と空気ばね室との間を往復移動することによって発電が行われる、フリーピストン式発電機の制御装置に関するものである。前記制御装置は、前記ピストンが前記空気ばね室側に移動させられる膨張行程における第1速度指令値と、前記ピストンが前記燃焼室側に移動させられる圧縮行程における第2速度指令値を設定し、発電時に、電気制動により前記ピストンの速度を第1及び第2速度指令値に到達させるように発電量を制御し、または、モータリング時に前記コイルを励磁させて前記ピストンの速度を第1及び第2速度指令値に到達させるように送電量を制御し、前記ピストンが最も燃焼室寄りとなる上死点位置と、前記ピストンが最も空気ばね室寄りとなる下死点位置を前記ピストンが通過する間は発送電を休止するように発送電タイミングを制御する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来よりもピストンの挙動を正確に制御可能な、フリーピストン式発電機の制御装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<全体構成>
図1に、本実施形態に係るフリーピストン式発電システムの概要を示す。フリーピストン式発電システムは、フリーピストン式発電機10とその制御装置18を備える。フリーピストン式発電機10は、シリンダ12、ピストン14、及び検出器16を備える。
【0021】
シリンダ12内の長手方向一端には燃焼室20が設けられ、他端には空気ばね室22が設けられている。ピストン14はシリンダ12内に配置され、燃焼室20で発生する燃焼圧力と空気ばね室22の圧縮に伴う反発力とで、燃焼室20と空気ばね室22との間を往復移動する。
【0022】
ピストン14の外周面には永久磁石24が設けられ、またシリンダ12内周面にはコイル26が周方向に沿って巻き回されている。ピストン14の往復移動に伴い、永久磁石24とコイル26とが相対移動する。これにより誘導起電力が生じて発電が行われる。
【0023】
また、フリーピストン式発電機10の始動時、つまりピストン14を停止状態から往復運動状態にするために、フリーピストン式発電機10を電動機として使用する。この電動機として使用する動作として、本実施形態では、初期化とモータリングが含まれる。初期化は、ピストン14の絶対位置が不明であるときにピストン14を移動させて絶対値の探索を行う動作である。モータリングとは、初期化後にコイル26に励磁電流を流してピストン14を移動させることを指しており、ピストン14の駆動方式としては、燃焼圧力(爆発エネルギ)によりピストン14を移動させるファイアリングと対の関係にある。
【0024】
制御装置18は、発電時(ファイアリング時)には、燃焼圧力や空気ばね室22の反発力等で付勢されたピストン14を、電気制動によって速度制御することで、ピストン14の挙動を制御する。また始動時(モータリング時)には、コイル26に流す励磁電流を調整して速度制御することで、ピストン14の挙動を制御する。
【0025】
なお、電気制動とは、発電電力を抵抗器に消費させる発電制動と、発電電力を他の電気機器に分配する回生制動の両者を含むものとする。本実施形態においては、発電制動と回生制動の少なくとも一方が実施されればよい。
【0026】
<各構成の詳細>
ピストン14は、シリンダ12内に収容され、当該シリンダ12内を往復移動する。ピストン14とシリンダ12との間にはわずかなクリアランスが設けられており、燃焼室20と空気ばね室22との気体の流通を抑制しつつ、シリンダ12内のピストン14の移動を可能としている。
【0027】
図1に示す例では、ピストン14は、燃焼室20側が相対的に小径であり、空気ばね室22側が相対的に大径となっている。このようにすることで、ピストン14の空気ばね室22側の受圧面積が、燃焼室20側の受圧面積よりも大きくなり、空気ばね室22の圧力が比較的小さくても、ピストン14を燃焼室20に押し戻すことができる。
【0028】
また、ピストン14は、大径部(空気ばね室側)の最外周部に、燃焼室20側に突出するような円環部28が形成されている。円環部28はシリンダ12の燃焼室20側に設けられたガイドリング溝30に挿入されるように形成されている。円環部28がガイドリング溝30に挿入された状態でピストン14が往復移動することで、当該往復移動(ストローク)が安定する。
【0029】
加えて、ピストン14の往復移動を安定させる更なる手段として、ピストン14の小径部の裏側、つまり空気ばね室22側には、軸方向に抉られた止まり穴32が形成されている。止まり穴32にはシリンダ12の空気ばね室22から延びるガイドシャフト34が挿入される。
【0030】
また、円環部28を含めたピストン14の大径部の外周面、つまりピストン14の最外周面には、永久磁石24が設けられている。永久磁石24はピストン14の全ストロークにおいてコイル26と対面するように配置されていることが好適である。
【0031】
燃焼室20から相対的に離間した大径部の外周面に永久磁石24を設けることで、燃焼室20からの熱が永久磁石24に伝達しにくくなり、その結果、永久磁石24の高温化に伴う減磁を防ぐことができる。
【0032】
円環部28を含めたピストン14の大径部の外周面には、永久磁石24の他にも、スリット列35が切られている。
図1に示す例では、ピストン14の紙面上下にスリット列35が切られているが、さらに両側面にもスリット列35が切られていてよい。つまりピストン14の外周面には、周廻りに90°間隔でスリット列35が切られていてよい。また、これらスリット列35は、位相をずらすようにして形成されていてよい。例えば隣り合うスリット37,37(
図2参照)同士の間隔の4分の1ごとに、各面にスリット列35を切るようにしてもよい。このようにすることで、ピストン14の位置を高精度に検出することが可能となる。
【0033】
スリット列35の拡大図、すなわち
図1の一点鎖線の円で囲った部分の拡大図を
図2に示す。スリット列35はピストン14の軸方向に沿ってスリット37を複数切ることで構成される。また、本実施形態では、隣り合うスリット37,37のピッチ(間隔)が、他のピッチとは異なるような特徴部36を設けている。例えば
図2では、スリット37,37間のピッチd1とは異なるピッチd2となるような特徴部36を、スリット列35の中央部に設けている。なお、
図1では、特徴部36を、紙面上下のスリット列35に設けているが、周廻りに複数形成されたスリット列35のいずれかひとつに、特徴部36を設けるようにしてもよい。
【0034】
スリット列35は、ピストン14の全ストロークにおいて検出器16と対向するように形成されていてよい。例えばピストン14が上死点(最も燃焼室20側の位置)にいる場合に、スリット列35の紙面最も右側のスリット37が検出器16と対向するようにし、ピストン14が下死点(最も空気ばね室22側)にいる場合に、スリット列35の紙面最も左側のスリット37が検出器16と対向するようにする。加えて、ピストン14がストローク中央、つまり、シリンダ長の中央に位置するときに検出器16と対向するように、特徴部36をピストン14に形成することが好適である。
【0035】
図1に戻り、シリンダ12は、中空の略筒形状部材である。この中空領域の長手方向の全長、つまりシリンダ長がストローク長となり、その中央位置がストローク中央(原点)となる。また、ストローク長の端部がストローク端部となる。ピストン14の形状に合わせて、シリンダの中空形状は、燃焼室20側が相対的に小径となっており、空気ばね室22側が相対的に大径となっている。
【0036】
ピストン14の往復移動方向に沿って、言い換えると、シリンダ長方向の一端には燃焼室20が形成され、他端には空気ばね室22が形成されている。燃焼室20は、掃気孔38、排気口40、排気バルブ42、インジェクタ44、及び点火手段46が設けられている。
【0037】
掃気孔38は、燃焼室20内に新気を導入する。新気の導入に際して、図示しない掃気ポンプを駆動させることによって、外部から掃気孔38に新気を導入するようにしてもよい。掃気孔38は、例えば、シリンダ12の内壁面に開口されていてよく、ピストン14が上死点に位置しているときにはピストン14によって塞がれるとともに、ピストン14が下死点に位置しているときには開放されるような位置に形成されていてよい。
【0038】
また、排気口40は、燃焼室で新気と燃料との混合気を燃焼させた後の排気を、外部に排出する。また、排気口40が無く、掃気孔38のみで掃気・排気を行うループフロー式であってもよい。
【0039】
インジェクタ44は、燃料を噴射する噴射手段である。点火手段46は、混合気に点火して燃焼圧力を生じさせる。また、点火手段46の無い、圧縮自着火方式によって燃焼圧力を生じさせてもよい。
【0040】
空気ばね室22は、ピストン14を燃焼室20側に押し戻す機能を有している。ピストン14が燃焼室20側から空気ばね室22側に移動する際に、空気ばね室22が圧縮される。この圧縮により反発力が生じ、当該反発力により、ピストン14が燃焼室20側に押し戻される。内圧を一定範囲に収めるため、空気ばね室22には、調圧弁48が設けられていてもよい。さらに、調圧弁48に代えて、コンプレッサ等の加圧源を空気ばね室22に接続してもよい。
【0041】
コイル26は、シリンダ12の内周面に設けられている。コイル26は、ピストン14の全ストロークに亘って、永久磁石24と対向するような位置に設けられていることが好適である。また、コイル26は、外部に設けられたインバータ等の電力変換器(図示せず)に接続される。コイル26で発生した交流電力は電力変換器によって直流電力に変換されてバッテリ等の直流電源に供給される。また、初期化時及びモータリング時には、直流電源から供給された直流電力が電力変換器によって交流電力に変換されてコイル26に供給される。
【0042】
検出器16は、対向するスリット列35の通過を検出することでピストン14の変位を検出する。また、スリット列35の特徴部36を検出する。検出器16は、コイル26とともに、シリンダ12の大径部分の内周面に設けられる。上述したように、検出器16はピストン14の全ストロークに亘って、スリット列35と対向するような位置に設けられていることが好適である。
【0043】
検出器16は、スリット37の凹凸に応じて2つの値を取るようにしてもよい。例えば、検出器16がスリット37の底面と相対しているときに、検出器16は、検出信号S1Hを出力する。また、スリット37,37間の突出面と相対しているときに、検出器16は、検出信号S1Lを出力する。
【0044】
検出器16内には、検出信号S1の値をカウントするカウンタが設けられてよい。例えば、検出器16内のハードウェア回路によってカウンタが構成されてよい。検出信号S1の値(H/L)が増加する度にカウンタが増えるように構成されており、このカウンタ値によって、ピストン14の位置が算出できる。また、カウンタ値は、スリット列35の特徴部36を検知したときにはリセットするように設定されていてもよい。このリセット動作により、ピストン14の絶対位置を検出することが可能となる。カウンタ値は制御装置18に送信される。
【0045】
検出器16は、例えば、渦電流センサ、光学センサ、静電容量センサ等の非接触センサのいずれかから構成されてよい。なお、シリンダ12内は潤滑用のオイル等がシリンダ12の内表面やピストン14の外表面に付着しており、光学的に良好な検出環境を確保することは困難となる場合がある。このような観点から、検出器16として、渦電流センサや静電容量センサを用いることが好適である。
【0046】
制御装置18は、フリーピストン式発電機10が安定的な発電を行うために、ピストン14の挙動を制御する。また、初期化時及びモータリング時には、フリーピストン式発電機10を電動機として機能させ、ピストン14を移動させる。
【0047】
制御装置18は、コンピュータから構成されてよく、例えば、演算回路であるCPU、メモリ等の記憶部、及び機器・センサインターフェースが内部バスを介して互いに接続されている。記憶部には、後述する速度制御プログラムが記憶されており、CPUが当該プログラムを実行することで、当該速度制御が行われる。
【0048】
制御装置18は、機器・センサインターフェースを介して、周辺機器との信号授受を行う。具体的には、検出器16からカウンタ値を受信し、また、排気バルブ42、インジェクタ44、及び、点火手段46に対して作動信号を送信する。電気制動を行う際には、フリーピストン式発電機10の発電量を制御する。例えば、発電電力の供給先(電気機器、バッテリ、抵抗器等)を選択する。さらに、モータリング時にはコイル26に供給する励磁電流量を制御する。
【0049】
<速度制御によるピストン制御>
本実施形態に係る制御装置18は、速度制御に基づいてピストン14の挙動を制御する。制御装置18は、ピストン14が空気ばね室22側に移動させられる膨張行程において第1速度指令値を定めるとともに、ピストン14が燃焼室20側に移動させられる圧縮工程において第2速度指令値を定める。
【0050】
膨張行程及び圧縮過程では、ピストン14の速度がそれぞれ定められた速度指令値となるように速度制御を行う。発電時(ファイアリング時)は、電気制動によって速度制御を行う。すなわち、制御装置18は、ピストン14の速度を第1速度指令値(膨張行程)及び第2速度指令値(圧縮行程)に到達させるように発電量を制御する。始動時(モータリング時)は、励磁電流制御によって速度制御を行う。すなわち、制御装置18は、ピストン14の速度を第1速度指令値(膨張行程)及び第2速度指令値(圧縮行程)に到達させるように、コイル26への送電量を制御する。
【0051】
ピストン14の速度は上死点及び下死点で最低速度を取り、ストローク中央位置で最高速度を取る。このような挙動に合わせて、発電制動及び励磁を行う。
【0052】
発電量とピストン14の制動量、及び、送電量(励磁電流量)とピストン14の推進量との関係は既知であることから、従来のような外乱要素の多いエネルギ収支に基づくピストン制御と比較して、本実施形態に係る速度制御は、ピストン14の挙動をより高精度に制御することが可能となる。
【0053】
上記のような発電制動及びコイル26の励磁は、ピストン14の全ストロークに亘って行ってもよいが、速度制御の効率が相対的に高い領域のみを狙って制御を実行するようにしてよい。一般的に、ピストン14が上死点または下死点近傍にいるときはピストン14の速度が低くなり、この範囲の発電効率や励磁電流による推進効率は相対的に低くなる。そこで、例えば
図3のハッチングで示すように、ピストン14が上死点及び下死点を通過中は、電気制動及び励磁電流の送電を休止(自由運動させる)して、それ以外の領域で発送電を行うよう、発送電タイミングを制御してもよい。ここで、
図3の下段には電力変化が示されている。ファイアリング(発電)時の発電量を実線で示し、モータリング時の送電量を破線で示している。
【0054】
発送電領域は(したがって発送電休止領域も)任意に定めることができる。例えば、上死点目標位置の半値(上死点目標位置と原点の中間位置)から下死点目標位置の半値(下死点目標位置と原点の中間位置)までの領域をコイルの励磁領域及び発電領域に設定してもよい。また、ピストン14の最高速度の90%以内の領域を励磁領域及び発電領域に設定してもよい。
【0055】
なお、モータリング開始時において、上記のように上死点及び下死点近傍にて送電(励磁)を休止する場合、ピストン14の停止位置が上死点または下死点に寄っており、かつ、モータリングによって上死点側または下死点側にピストン14を移動させようとすると、短期間のうちに送電が休止されてピストン14の付勢が不十分となる。
【0056】
そこで、
図4のように、ピストン14の停止位置が既知である場合には、ストローク中央位置から見て当該ピストン14の停止位置とは逆側にピストン14を付勢するように、コイル26への励磁電流を制御することが好適である。例えば、ピストン14の停止位置がストローク中央位置から見て空気ばね室22(下死点)側に寄っている場合は、制御装置18は、ピストン14を燃焼室20(上死点)側に移動させるように励磁電流をコイル26に供給する。
【0057】
また、他の始動方法として、ピストン14の移動領域を、上述のように上死点及び下死点近傍を除いた励磁領域に限定するようにしてもよい。この場合、速度制御の実行によってピストン14が上死点及び下死点まで移動しないように調整することが好適である。例えば、後述する速度制御の振幅比例項ゲインk
pA、振幅積分項ゲインk
iA、オフセット比例項ゲインk
pO、オフセット積分項ゲインk
iOを通常の1/10程度とする。
【0058】
<速度指令波の生成>
上述したように、速度制御においては、ピストン14の速度を、膨張行程では第1速度指令値に制御し、圧縮過程では第2速度指令値とするような制御が行われる。したがって、ピストン14のストロークに応じた速度指令波は、
図3にて示したように、第1速度指令値と第2速度指令値をピーク値とする矩形波となる。この速度指令波の生成について、以下説明する。
【0059】
制御装置18は、第1及び第2速度指令値の設定に当たり、所定の往復周期における、ピストン14の上死点位置と下死点位置とに基づいて、その次の往復周期における第1及び第2速度指令値を設定する。
【0060】
具体的には、
図5に示すように、予め定めた、上死点目標位置及び下死点目標位置と、k−1周期目における、実際の上死点と下死点との差を求める。上死点目標位置と実際の上死点との差ΔS
TDCと、下死点目標位置と実際の下死点との差ΔS
BDCが求められると、制御装置18は、これらの値を用いて速度指令波の振幅Aと、速度0からのオフセット量Oとを求める。
【0061】
速度指令値の振幅Aは、下記数式(1)により求めることができる。また、速度指令値のオフセット量Oは、下記数式(2)により求めることができる。数式(1)(2)で求められた振幅A及びオフセット量Oに基づいてk周期目の速度指令波(したがって第1速度指令値及び第2速度指令値)が生成される。
【0063】
ここで、数式(1)のk
pAは振幅比例項ゲイン、k
iAは振幅積分項ゲインを示す。また、数式(2)のk
pOはオフセット比例項ゲイン、k
iOはオフセット積分項ゲインを示す。
【0064】
<速度指令値のバランス調整>
図3に示すように、膨張行程と圧縮行程での発電電力(モータリングにおいては送電電力)が均等でない場合、一般に、より大きな電力が発生しているときに、効率が低下する。また、電力の不均等により、発電時に送電が生じたり、逆にモータリング(送電)時に発電が生じることも効率低下の要因となる。このような膨張行程と圧縮行程における電力(発電電力及び送電電力)のアンバランスを緩和させて両行程で電力を平準化させるために、本実施形態では下死点の目標位置を変更させる。
【0065】
膨張行程と圧縮行程における電力のアンバランスを緩和させるには、下死点目標位置を調節すればよい。一般的に、下死点目標位置は所定の調節幅を持つ(なお、上死点位置は燃焼制御のための圧縮率と関連しており、上死点目標位置に調節幅を持たせることは困難となる)。下死点目標位置を引き下げる(シリンダ端部側に移動させる)と、膨張行程におけるピストン14の移動距離が相対的に長くなることから、膨張行程中の電気制動力が相対的に小さくなり(モータリング時においては駆動力が相対的に大きくなり)、その結果、発電電力は減少する(送電電力は増加する)。その一方で、ピストン14がより下死点側まで到達するので空気ばね室22に蓄えられるエネルギが増加する。このエネルギは圧縮行程で放出されることから、これに併せて発電制動力を大きくする必要がある。その結果、圧縮行程での発電電力は増加する(送電電力は減少する)。つまり、膨張行程と圧縮行程の電力がバランスされる。
【0066】
下死点目標位置の調整は、例えば、下記のような基準で行われる。第1速度指令値で制御中の発電電力積算量が、第2速度指令値で制御中の発電電力積算量よりも大きい場合は、下死点目標位置を、ピストン14のストローク中央位置から離間させるように変更する。また、第2速度指令値で制御中の発電電力積算量が第1速度指令値で制御中の発電電力積算量よりも大きい場合は、下死点目標位置を、ピストン14のストローク中央位置寄りに変更する。このような変更を行うことで、第1速度指令値と第2速度指令値の絶対値差分が低減され、膨張行程と圧縮行程の電力がバランスされる。
【0067】
<空気ばね室圧協調制御>
出力増加を狙って燃焼室20に噴射する燃料を増量させることが考えられる。このとき、燃焼圧力が増加してピストン14が空気ばね室22の端部壁に衝突するおそれがある。そこで、燃焼圧力の増加に併せて空気ばね室22内の空気圧(ばね係数)を増加させるようにしてもよい。例えば、空気ばね室22にコンプレッサ等の加圧源を接続する。制御装置18は、燃焼圧力の増加に追従するように、空気ばね室22内の空気圧を増加させるように、加圧源を制御する。
【0068】
<その他の実施形態>
上述した実施形態では、燃焼室20と対向して空気ばね室22を設けていたが、この形態に限らない。要するにピストン14の付勢に抗してピストン14を燃焼室20に押し戻す反発力を生じさせるものであればよい。例えば、空気ばね室22の代わりにばね室を設けてもよい。具体的には、ピストン14のストローク方向に垂直なシリンダ12の内壁に弾性体を設ける。弾性体は、金属や樹脂をばね状(コイルばね、皿ばね)に加工したものであってよい。また、空気ばね室22を構成する空間にゴム等の弾性体を充填してもよい。さらに、空気ばね室22の代わりに磁石室を設けてもよい。例えばピストン14とシリンダ12との互いの対向面に磁石を設け、その反発力を利用する。磁石は永久磁石であっても電磁石であってもよい。ただし、ピストン14に給電手段を設けることが困難な場合は、ピストン14には永久磁石を設けることが好適である。加えて、空気ばね室22に上記のばねや弾性体、及び磁石の少なくとも一つを組み合わせてもよい。また、空気ばね室22の代わりに第2の燃焼室を設けてもよい。
【0069】
なお、上述した燃焼室20の燃焼圧力に応じたばね係数の調整については、例えばばねや弾性体であればピストン14のストローク方向の位置を可変にする移動手段を設ければよい。また、電磁石であれば電流量を調整すればよい。また、空気ばね室22の代わりに第2の燃焼室を設ける場合には、燃焼室20に噴射する燃料の供給量の変化と協調するようにして、第2の燃焼室に噴射する燃料の供給量を調整すればよい。