特許第6274200号(P6274200)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6274200-ポリフェニレンサルファイド微粒子 図000017
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6274200
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】ポリフェニレンサルファイド微粒子
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/14 20060101AFI20180129BHJP
   C08G 75/0204 20160101ALI20180129BHJP
【FI】
   C08J3/14CEZ
   C08G75/0204
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-502433(P2015-502433)
(86)(22)【出願日】2014年12月17日
(86)【国際出願番号】JP2014083423
(87)【国際公開番号】WO2015098654
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2017年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-267094(P2013-267094)
(32)【優先日】2013年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-134154(P2014-134154)
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大坪 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】浅野 到
(72)【発明者】
【氏名】若原 葉子
(72)【発明者】
【氏名】竹崎 宏
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/043509(WO,A1)
【文献】 特開平2−163126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28
C08G 75/0204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アマニ油吸油量が40〜1000mL/100gであり、かつ、数平均粒子径が1〜200μmであり、かつ、真球度が80以上であるポリフェニレンサルファイド微粒子。
【請求項2】
粒子径分布指数が1〜3である請求項1記載のポリフェニレンサルファイド微粒子。
【請求項3】
融点が210℃〜270℃である請求項1または2に記載のポリフェニレンサルファイド微粒子。
【請求項4】
ポリフェニレンサルファイド樹脂が、p−フェニレンサルファイド単位とm−フェニレンサルファイド単位および/またはo−フェニレンサルファイド単位の共重合体であり、m−フェニレンサルファイド単位および/またはo−フェニレンサルファイド単位を、全フェニレンサルファイド単位を基準として3〜30質量%含む請求項1〜のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド微粒子。
【請求項5】
請求項1〜項のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド微粒子を含有する分散液。
【請求項6】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)とポリフェニレンサルファイド樹脂とは異なるポリマー(B)と有機溶媒(C)とを混合し溶解させたときに、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を主成分とする溶液相と、前記ポリマー(B)を主成分とする溶液相の2相に相分離する系において、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)、ポリマー(B)および有機溶媒(C)を温度Td(℃)で混合して溶解させる工程、得られた溶液に剪断力を加えることによりエマルションを形成させる工程、および該エマルションに温度Tp(℃)でポリフェニレンサルファイド樹脂(A)の貧溶媒を接触させることにより、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を析出させる工程を含むポリフェニレンサルファイド微粒子の製造方法であって、前記温度Td(℃)が200℃以上であり、かつ、前記温度Tp(℃)が、前記温度Td(℃)より10℃以上低いポリフェニレンサルファイド微粒子の製造方法。
【請求項7】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)の融点が210℃〜270℃である請求項に記載のポリフェニレンサルファイド微粒子の製造方法。
【請求項8】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)が、p−フェニレンサルファイド単位とm−フェニレンサルファイド単位および/またはo−フェニレンサルファイド単位の共重合体であり、m−フェニレンサルファイド単位および/またはo−フェニレンサルファイド単位を、全フェニレンサルファイド単位を基準として3〜30質量%含む請求項またはに記載のポリフェニレンサルファイド微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ポリフェニレンサルファイド微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
高比表面積かつ球状のポリマー微粒子は、各種ポリマーの成形加工や、材料を改質・改良するための添加剤として用いられている。具体的な用途としては、ポリマー微粒子の塗膜形成からなるコーティング加工や、フイルム、シート等の各種成形加工への使用の他、化粧品の改質剤、トナー用添加剤、塗料用添加剤、成形品への添加剤、フイルムの光拡散剤等としての使用が挙げられる。
【0003】
ポリマー微粒子によるコーティング加工や各種成形加工において、ポリマー微粒子を並べたり、もしくは粉体層を形成させたりした後、それらに熱エネルギーを加えることでポリマー微粒子同士を融着させ、ポリマーを所望の形態に成形する手法が知られている。このような用途では、ポリマー微粒子の比表面積が大きいと、粒子の融着が促進され、より低温で、かつ、より短時間でコーティングや成形加工が可能となる。
【0004】
ポリマー微粒子の比表面積を大きくする手法として、粒子の多孔質化がある。粒子の表面が多孔質な形態にある多孔質ポリマー微粒子では、ポリマー微粒子に熱エネルギーを加えて成形体を作る際に、ポリマー微粒子表面に受ける単位時間当りの熱エネルギー量が多くなるため、より小さいエネルギー、かつ、より短時間で造形物を得ることができる。
【0005】
ポリマー微粒子の比表面積を大きくする手法としては、他に粒子の小粒子径化や異形化が挙げられる。しかし、小粒子径化では、粉体取扱性が悪化したり、作業環境に悪影響を及ぼしたりする可能性があり、実用上好ましくない。また、異形化では熱エネルギーの加わり方が偏り、溶融状態にムラが生じたりする可能性があり、実用上好ましくない。
【0006】
また、ポリマー微粒子は塗料等に添加され、塗料の外観および質感を変化させる添加剤としても使用される。例えば、ポリマー微粒子は塗料のツヤ消し剤として添加される。
【0007】
これはポリマー微粒子の光散乱特性を利用したものである。光を多方向に散乱させることができる、ボカシ効果の高い粒子は、塗料のツヤ消し効果も高いものとなる。そのためのポリマー微粒子の形態としては、多孔質形状が好ましい。
【0008】
塗料への添加剤としては、シリカ粒子等の無機粒子が知られているが、無機粒子は比重が大きく、ポリマー微粒子と比較して重力沈降しやすいため、塗料から分離しやすく、実用上好ましくない。
【0009】
ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略すことがある)樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性および電気絶縁性等、エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有しており、射出成形用途および押出成形用途を中心として、各種電気部品、機械部品および自動車部品等や、オイルやグリス等の各種摺動部の改質剤への添加剤に使用されている。
【0010】
このような優れたPPS樹脂を多孔質な形態で微粒子化し、各種成形加工、コーティング剤、耐熱性添加剤や、塗料等の改質剤または添加剤として用途展開する需要は高いが、PPS樹脂を多孔質微粒子とすることは下記に述べる技術的制約から極めて困難である。
【0011】
PPS微粒子を得る方法としては、下記に示すいくつかの手法が提案されている。特許文献1では、PPSとそれ以外の熱可塑性ポリマーを溶融混練し、PPSを島に、他の熱可塑性ポリマーを海になる海島構造の樹脂組成物を形成した後、海相を溶解洗浄して球状のPPS樹脂微粒子を得ている。他には、冷却による析出を利用したPPS微粒子の製造法が知られており、特許文献2では、PPS樹脂重合後の反応容器を冷却することでPPSを粉末として取り出している。また特許文献3では、PPS樹脂を溶解させた溶解液を加熱・加圧状態とし、その溶解液を、ノズルを介して溶剤中に噴出させ、急速冷却させることでPPS微粒子を析出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−273594号公報
【特許文献2】特開昭61−287927号公報
【特許文献3】特開2010−106232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら発明者らの検討によると、上記特許文献1に記載の方法では、PPS樹脂と他の熱可塑性樹脂を溶融混練し、海島構造体を形成することでPPS微粒子の元となる島を形成しているため、表面張力の作用により表面が平滑なPPS微粒子しか作製できない。特許文献2に開示されている析出法においては、析出工程でPPS粉末同士が融着してしまい、PPS粉末が異形化したり、粒子径分布が広くなることを防ぐのは困難である。特許文献3に記載の方法においても、噴出工程において表面張力の作用で形成した液滴が冷却され析出するため、表面が平滑なPPS微粒子しか得ることができていない。
【0014】
一方、多孔質PPS微粒子は、その用途として、成形加工においては操作性の良さ、塗料添加剤としてはツヤ消し効果に高い期待がある。そのためには、真球状で粒子径の均一な多孔質PPS微粒子が望まれるが、従来技術で得られるPPS微粒子はそれら特性を満たしていなかった。
【0015】
本発明の課題は、実用上利用可能なレベルの多孔質ポリフェニレンサルファイド微粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を達成するために、本発明者らが鋭意検討した結果、下記発明に到達した。
すなわち、本発明は、アマニ油吸油量が40〜1000mL/100gであり、かつ、数平均粒子径が1〜200μmであり、かつ、真球度が80以上であるポリフェニレンサルファイド微粒子である。
また、本発明は、上記のポリフェニレンサルファイド微粒子を含有する分散液を含む。
また、本発明は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)とポリフェニレンサルファイド樹脂とは異なるポリマー(B)と有機溶媒(C)とを混合し溶解させたときに、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を主成分とする溶液相と、前記ポリマー(B)を主成分とする溶液相の2相に相分離する系において、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)、ポリマー(B)および有機溶媒(C)を温度Td(℃)で混合して溶解させる工程、得られた溶液に剪断力を加えることによりエマルションを形成させる工程、および該エマルションに温度Tp(℃)でポリフェニレンサルファイド樹脂(A)の貧溶媒を接触させることにより、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を析出させる工程を含むポリフェニレンサルファイド微粒子の製造方法であって、前記温度Td(℃)が200℃以上であり、かつ、前記温度Tp(℃)が、前記温度Td(℃)より10℃以上低いポリフェニレンサルファイド微粒子の製造方法を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、従来技術では製造困難であった、実用上利用可能なレベルの多孔質PPS微粒子を得ることができる。本発明のPPS微粒子は、比表面積が大きいことから、例えば熱エネルギーを加えて各種成形体に加工する際に、粒子の融着が促進され、より低温、かつ、より短時間で粒子のコーティング層の形成や成形加工が可能となる。また本発明のPPS微粒子は多孔質な形状を有することから、光を多方向に散乱させることができ、かつ反射光の特定方向への特異的な反射を抑制することができることから、媒体に添加した際にボカシ効果およびツヤ消し効果を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で得られた多孔質PPS微粒子の走査型電子顕微鏡画像(倍率3,000)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明におけるポリフェニレンサルファイドとは、式(1)に示す繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたはコポリマーである。
【0020】
【化1】
【0021】
一般式(1)のArは芳香族基である。Arの例としては、以下の式(2)〜(4)で示される芳香族基等が挙げられる。ここで、R、Rは、それぞれ独立に水素、アルキル基、アルコキシル基およびハロゲン基から選ばれる基である。
【0022】
【化2】
【0023】
上記の繰り返しを主要構成単位とする限り、式(5)等で表される分岐結合または架橋結合や、
【0024】
【化3】
【0025】
式(6)〜(14)で表される共重合成分を含むこともできる。ここで、R、Rは、それぞれ独立に水素、アルキル基、アルコキシル基およびハロゲン基から選ばれる置換基である。
【0026】
【化4】
【0027】
特に好ましく用いられるPPSとしては、ポリマーの主構成単位として式(15)で表されるp−フェニレンサルファイド単位とm−フェニレンサルファイド単位および/またはo−フェニレンサルファイド単位との共重合体である。
【0028】
【化5】
【0029】
p−フェニレンサルファイド単位とm−フェニレンサルファイド単位および/またはo−フェニレンサルファイド単位との共重合比は、PPS樹脂の融点(Tm)に大きく影響する。PPS樹脂の融点はPPS微粒子の多孔度に影響を与える。さらに、PPS樹脂の融点はPPS微粒子の真球度および粒子径分布に影響を与える。そのため、共重合比を後述の範囲にすることが好ましい。PPS樹脂の融点が低すぎると、PPS微粒子の多孔度が小さくなったり、PPS微粒子が不定形化したりしてしまい、安定した多孔度を持つPPS微粒子が得られにくい。また、PPS樹脂の融点が低すぎると、PPS微粒子の真球度が低下するので粒子径分布が広くなる。PPS樹脂の融点が高すぎても、PPS微粒子の真球度が低下するため粒子径分布が広くなる。
【0030】
本発明のPPS微粒子を製造するための原料として用いるPPS樹脂(以下、原料PPS樹脂と呼ぶ)としては、融点が210℃〜270℃のものが好ましく、220℃〜260℃のものがより好ましく、230℃〜250℃のものが特に好ましい。
【0031】
原料PPS樹脂の融点をこのような範囲にすることで、得られるPPS微粒子は多孔質な形態をとりやすく、かつ、粉体取扱性の良い粒子径になる。さらには、原料PPS樹脂の融点をこのような範囲とすることで、得られるPPS微粒子は真球度が高く、粒子径分布が狭いものになる。
【0032】
ここでいうPPS樹脂の融点とは、示差走査熱量測定(DSC)にて、昇温速度20℃/分の条件で300℃まで昇温した後、20℃まで20℃/分の降温速度で降温し、再度、昇温速度20℃/分の条件で昇温し、測定したときの融解熱容量を示すピークの頂点の温度のことである。
【0033】
そのようなPPS共重合体を得るために、p−フェニレンサルファイド単位とm−フェニレンサルファイド単位および/またはo−フェニレンサルファイド単位の共重合比としては、m−フェニレンサルファイド単位および/またはo−フェニレンサルファイド単位を全フェニレンサルファイド単位を基準として1〜50質量%含むことが好ましく、より好ましくは2〜40質量%、特に好ましくは3〜30質量%である。
【0034】
また、p−フェニレンサルファイド単位とm−フェニレンサルファイド単位および/またはo−フェニレンサルファイド単位の共重合比をこのような範囲とすることで、得られる多孔質PPS粒子の融点は、好ましくは210℃〜270℃、より好ましくは220℃〜260℃、特に好ましくは230℃〜250℃になる。
【0035】
このようなPPS樹脂としては、ジハロゲン芳香族化合物とアルキル金属硫化物よりN−アルキルアミド溶媒中で、通常用いられる方法によって合成されたものを用いることができる。
【0036】
PPS微粒子の多孔度は、直接的に測定することは難しいが、間接的指標として、BET等による単位重量あたりの気体吸着量や日本工業規格等に定められている顔料試験方法であるアマニ油吸油量(精製あまに油法:日本工業規格(JIS)K5101−13−1:2004)等を指標とすることができる。
【0037】
BETによる比表面積法は、平均粒子径に強く依存するため、工業用材料としてはアマニ油吸油量を指標とすることが好ましい。
【0038】
本発明のPPS微粒子は、アマニ油吸油量が、40〜1000mL/100gである。その下限としては、好ましくは45ml/100g以上であり、より好ましくは50ml/100g以上であり、さらに好ましくは55ml/100g以上であり、特に好ましくは80ml/100g以上であり、著しく好ましくは100ml/100g以上である。
【0039】
また、アマニ油吸油量の上限としては、好ましくは800ml/100g以下、より好ましくは700ml/100g以下であり、さらに好ましくは600ml/100g以下、特に好ましくは500ml/100g以下であり、著しく好ましくは400ml/100g以下である。
【0040】
アマニ油吸油量が40mL/100g未満の場合、成形加工時における成形性の向上効果を大きく望めない。また、アマニ油吸油量が1000mL/100gを超すような場合では、微粒子が嵩高くなると同時に、微粒子を塗膜成形に用いる場合等において塗液の粘度が高くなり取扱性が悪いものになってしまう。
【0041】
本発明のPPS微粒子は、走査型電子顕微鏡で観察した画像から測長される粒子径の数平均粒子径が1〜200μmである。数平均粒子径の上限は、好ましくは180μm以下であり、より好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは125μm以下であり、特に好ましくは100μm以下であり、著しく好ましくは75μm以下であり、最も好ましくは50μm以下である。また、数平均粒子径の下限は、好ましくは1μm超であり、より好ましくは3μm以上であり、さらに好ましくは5μm以上であり、特に好ましくは8μm以上であり、著しく好ましくは10μm以上である。
【0042】
数平均粒子径が1μm未満になると、微粒子が取扱い時に飛散してしまい作業環境を悪化させたり、成形加工時の成形体の厚みを制御しにくくなり、例えば肉厚化することが困難となる。また、数平均粒子径が200μmを超えるような場合では、微粒子の比表面積が小さくなるため、成形時間が長くなるだけでなく、微粒子を塗液として用いたときに分散安定性が悪くなり、微粒子が顕著に沈降してしまう。
【0043】
PPS微粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡JSM−6301NF)を用いてPPS微粒子を100倍〜500倍で観察し、100個のPPS微粒子についてその直径(粒子径)を測長する。続いて、下記式により100個の粒子の粒子径につき、その算術平均を求めることで数平均粒子径を算出する。なお、画像上で粒子が真円状でない場合(例えば楕円状のような場合や、粒子が不規則に寄せ集まった凝集体を形成している場合)は、その最長径を粒子径として測定する。
【0044】
【数1】
【0045】
Ri:粒子個々の粒子径、n:測定数100、Dn:数平均粒子径。
【0046】
多孔質PPS微粒子の真球度としては80以上が好ましく、より好ましくは85以上、特に好ましくは90以上、最も好ましくは98以上である。真球度が高いと、PPS微粒子が、流動性および密着性に優れるだけでなく、成形加工時に熱エネルギーを加えた場合に、熱が均一に微粒子へと伝わり、微粒子をより効率良く均一に溶解させることができるため、成形操作をより簡便化できる。
【0047】
多孔質PPS微粒子の真球度は、走査型電子顕微鏡にて、無作為に選択した粒子30個の真球度の算術平均値であり、下記式に従い算出した。個々の粒子の真球度は、個々の粒子の長径と、それと垂直に交わる短径の比であり、下記式に従い算出した。
【0048】
【数2】
【0049】
Sm:平均真球度(%)、Si:粒子個々の真球度、ai:粒子個々の短径、bi:粒子個々の長径、n:測定数30。
【0050】
多孔質PPS微粒子の粒子径分布の広さを示す指標である粒子径分布指数は、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1〜2.5、さらに好ましくは1〜2.0、より好ましくは1〜1.75、特に好ましくは1〜1.5である。なお、粒子径分布指数の下限値は理論上1である。粒子径分布指数が小さければ、粒子径はより均一であり、粒子間での溶解または溶融速度に差が出にくくなるため、粒子をより均一に溶解または溶融し、成形することが可能となり、ムラの少ない表面平滑な成形が可能になる等、成形加工において有利である。
【0051】
多孔質PPS微粒子の粒子径分布指数は、数平均粒子径の算出時に行った粒子径の測長結果を用いて、次の式により算出される。
【0052】
【数3】
【0053】
Ri:粒子個々の粒子径、n:測定数100、Dn:数平均粒子径、Dv:体積平均粒子径、PDI:粒子径分布指数。
【0054】
本発明のPPS微粒子は、所望の分散媒に分散させ、分散液とすることができる。分散媒としては、特に限定されないが、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、ハロゲン系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、非プロトン性極性溶媒、カルボン酸溶媒、エーテル系溶媒、イオン性液体、水などが挙げられる。
【0055】
これら分散媒として、次のものが具体的に例示される。脂肪族炭化水素系溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、テトラデカン、シクロヘキサン、シクロペンタンが挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、2−メチルナフタレンが挙げられる。エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、酪酸ブチルが挙げられる。ハロゲン化炭化水素系溶媒としては、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン等が挙げられる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、プロピレンカーボネート、トリメチルリン酸、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン等が挙げられる。カルボン酸溶媒としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、アニソール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジグライム、ジメトキシエタン等が挙げられる。イオン性液体としては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムハイドロゲンスルフェート、1−エチル−3−イミダゾリウムアセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネートなどが挙げられる。
【0056】
PPS微粒子との親和性に起因する分散性の良さと産業上での取扱いやすさの両者の観点から、これらの中でも好ましい分散媒としては、芳香族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒および水から選ばれた分散媒であり、より好ましいものとしては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒および水から選ばれた分散媒であり、さらに好ましいものとしては、アルコール系溶媒および水から選ばれた分散媒である。好ましい分散媒の具体例としては、トルエン、メチルエチルケトン、エタノール、イソプロパノールおよび水から選ばれた分散媒である。なお、これらの分散媒は、複数種を混合して用いても良い。
【0057】
例えば塗液としてコーティング加工に使用する場合に、本発明のPPS微粒子の分散液は、PPS微粒子の特異な形態により発現される成形性の良さから、より低温かつ短時間でコーティング層を形成することができる。
【0058】
多孔質PPS微粒子の製造方法は、例えば、PPS樹脂を重合後に徐冷して顆粒状にするクエンチ法、重合後に溶媒を急速に飛散させて析出させるフラッシュ法、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、乳鉢等を用いた機械的粉砕法、強制溶融混練法、スプレードライ法あるいは冷却による析出法等が挙げられる。中でも高分子溶液の相分離現象を利用した、以下に示す方法が最も好ましい。
【0059】
高分子溶液の相分離現象を利用した粒子化法とは、PPS樹脂(A)と、PPS樹脂とは異なるポリマー(B)と、有機溶媒(C)とを溶解混合したときに、PPS樹脂(A)を主成分とする溶液相と、前記ポリマー(B)を主成分とする溶液相の2相に相分離する系において、PPS樹脂(A)を主成分とする溶液相が分散相、ポリマー(B)を主成分とする溶液相が連続相になるエマルションを形成させた後、該エマルションにPPS樹脂の貧溶媒を接触させることで、PPS微粒子を析出させる方法である。ここで、PPS樹脂(A)を主成分とする溶液相(以下、PPS樹脂溶液相と呼ぶ)とは、PPS樹脂とポリマー(B)のうちPPS樹脂の方が多く分配された溶液相である。また、ポリマー(B)を主成分とする溶液相(以下、ポリマー(B)溶液相と呼ぶ)とは、PPS樹脂とポリマー(B)のうちポリマー(B)の方が多く分配された溶液相である。
【0060】
「PPS樹脂(A)と、PPS樹脂とは異なるポリマー(B)と、有機溶媒(C)とを溶解混合したときに、PPS樹脂(A)を主成分とする溶液相と、前記ポリマー(B)を主成分とする溶液相の2相に相分離する系」とは、PPS樹脂(A)とポリマー(B)と有機溶媒(C)を混合したときに、PPS樹脂溶液相と、ポリマー(B)溶液相の2相に分かれる系をいう。
【0061】
前記ポリマー(B)としては、PPS樹脂とは異なるポリマーのうち、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が挙げられるが、有機溶媒(C)に溶解しやすいという観点から、熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(完全ケン化型や部分ケン化型のポリビニルアルコールであってもよい)、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。得られるPPS粒子の粒子径分布が狭くなることから、好ましくはポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコールおよびポリビニルアルコール(完全ケン化型や部分ケン化型のポリビニルアルコールであってもよい)から選ばれた樹脂である。
【0062】
ポリマー(B)の分子量については、重量平均分子量1,000以上のものを使用することが好ましい。そのようなポリマー(B)を用いることで、PPS樹脂を主成分とする溶液相と、ポリマー(B)を主成分とする溶液相の2相への相分離が誘発されやすく、その結果、真球度80以上の多孔質PPS微粒子が得られ易い。ポリマー(B)の分子量は、重量平均分子量で1,000〜10,000,000の範囲であることが好ましい。分子量のより好ましい上限としては5,000,000以下、さらに好ましくは2,000,000以下であり、特に好ましい上限は1,000,000以下である。また、相分離が起こりやすくなる観点から、分子量のより好ましい下限は1,000以上、さらに好ましくは10,000以上であり、特に好ましい下限は20,000以上である。
【0063】
ここでいう重量平均分子量とは、溶媒として水を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリエチレングリコールを標準資料として換算した重量平均分子量を指す。溶媒としては、水を用いることができない場合においてはジメチルホルムアミドを用い、それでも測定できない場合においてはテトラヒドロフランを用い、さらに測定できない場合においてはヘキサフルオロイソプロパノールを用いる。
【0064】
有機溶媒(C)とは、PPS樹脂(A)および前記ポリマー(B)を溶解する溶媒である。ここで、ポリマーを溶解する溶媒とは、実際に実施する温度、すなわちPPS樹脂(A)とポリマー(B)を溶解混合させる際の温度Tdにおいて、有機溶媒(C)に対し、PPS樹脂およびポリマー(B)を1質量%超、溶解できる溶媒を意味する。有機溶媒(C)は、貧溶媒を接触させ多孔質PPS微粒子を得る工程での温度Tpにおいて、PPS樹脂を準安定的に溶解できることが好ましい。PPS樹脂溶液相の有機溶媒(C)と、ポリマー(B)溶液相の有機溶媒(C)とは、同一でも異なっていても良いが、実質的に同じ溶媒であることが好ましい。
【0065】
好ましい溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルカプロラクタム等の有機アミド系溶媒である。これらの溶媒は、複数種用いても単独で用いてもかまわない。PPS樹脂の溶解度およびTpでの溶解安定性の観点からN−メチル−2−ピロリドンがより好ましい。
【0066】
また、PPS樹脂の貧溶媒とは、溶媒に対するPPS樹脂の溶解度が1質量%以下の溶媒を言い、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下である。貧溶媒としては、PPS樹脂の貧溶媒であり、かつポリマー(B)を溶解する溶媒であることが好ましい。これにより、PPS樹脂で構成される多孔質PPS微粒子を効率よく析出させることができる。また、前記有機溶媒(C)と貧溶媒とは均一に混合する溶媒であることが好ましい。
【0067】
具体的な貧溶媒の例としては、PPS樹脂とポリマー(B)の種類によって変わるが、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒;および水の中から選ばれる溶媒等が挙げられる。PPSを効率的に多孔質形態で粒子化させる観点から、好ましくは、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒および水から選ばれた溶媒であり、より好ましいのは、アルコール系溶媒および水から選ばれた溶媒であり、最も好ましくは、水である。
【0068】
相分離状態になりやすい条件を得るためには、PPS樹脂(A)とポリマー(B)のSP値の差が離れていた方が好ましい。この際、SP値の差としては1(J/cm1/2以上、より好ましくは2(J/cm1/2以上、さらに好ましくは3(J/cm1/2以上、特に好ましくは5(J/cm1/2以上、最も好ましくは8(J/cm1/2以上である。SP値がこの範囲であれば、容易に相分離しやすくなり、また相分離がしやすくなることから、PPS樹脂の含有率のより高いPPS微粒子を得ることができる。PPS樹脂(A)とポリマー(B)の両者が有機溶媒(C)に溶解するのであれば特に制限はないが、SP値の差の上限としては、好ましくは20(J/cm1/2以下、より好ましくは15(J/cm1/2以下であり、さらに好ましくは10(J/cm1/2以下である。
【0069】
なお、ここでいうSP値とは、Fedorの推算法に基づき計算されるものであり、凝集エネルギー密度とモル分子容を基に計算されるもの(以下、計算法と称することもある)である(「SP値 基礎・応用と計算方法」 山本秀樹著、株式会社情報機構、平成17年 3月 31日発行)。本方法により計算できない場合においては、溶解度パラメーターが既知の溶媒に対し溶解するか否かの判定による、実験法によりSP値を算出(以下、実験法と称することもある)し、それを代用する(「ポリマーハンドブック 第4版(Polymer Handbook Fourth Edition)」 ジェー・ブランド(J.Brand)著、ワイリー(Wiley)社1998年発行)。
【0070】
相分離状態になる条件を選択するためには、PPS樹脂(A)、ポリマー(B)およびこれらを溶解する有機溶媒(C)の3成分の比率を変化させた状態の観察による簡単な予備実験で作成可能な3成分相図で判別ができる。
【0071】
相図の作成は、PPS樹脂(A)、ポリマー(B)および有機溶媒(C)を任意の割合で混合溶解させ、静置を行った際に、界面が生じるか否かの判定を少なくとも3点以上、好ましくは5点以上、より好ましくは10点以上の点で実施し、2相に分離する領域および1相になる領域を峻別することで、相分離状態になる条件を見極めることができるようになる。
【0072】
この際、相分離状態であるかどうかを判定するためには、実際にエマルションを形成させる際の温度および圧力において、PPS樹脂(A)、ポリマー(B)および有機溶媒(C)を任意の比に調整し、PPS樹脂(A)およびポリマー(B)を完全に溶解させ、十分な攪拌を行い、3日放置した後に、巨視的に相分離をするかどうかを確認する。しかし、十分に安定なエマルションになる場合においては、3日放置しても巨視的な相分離をしない場合がある。その場合は、光学顕微鏡・位相差顕微鏡等を用い、微視的に相分離しているかどうかで相分離を判別する。
【0073】
有機溶媒(C)に対するPPS樹脂(A)およびポリマー(B)の濃度は、有機溶媒(C)に溶解する範囲内であることが前提であるが、混合物の全質量に対していずれも、下限は好ましくは1質量%超であり、より好ましくは2質量%以上であり、さらに好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上である。また、PPS樹脂(A)およびポリマー(B)の濃度の上限は、いずれも混合物の全質量に対して、50質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0074】
相分離して得られるPPS樹脂溶液相とポリマー(B)溶液相の2相間の界面張力は、両相とも有機溶媒であることから、その界面張力が小さい。その性質により、生成するエマルションが安定であり、液滴径分布の非常に狭いエマルションが得られることから、得られるPPS微粒子の粒子径分布が小さくなると考えられる。この傾向は、有機溶媒(C)として単一溶媒を用いて、PPS樹脂(A)およびポリマー(B)の両方を溶解する際に顕著である。
【0075】
相分離した2相間の界面張力は、界面張力が小さすぎることから、通常用いられる溶液に異種の溶液を加えて測定する懸滴法等では直接測定することはできないが、各相の空気との表面張力から推算することにより、界面張力を見積もることができる。各相の空気との表面張力をr、rとした際、その界面張力r1/2は、r1/2=r−rの絶対値で推算することができる。
【0076】
この際、このr1/2の好ましい上限は10mN/m以下であり、より好ましくは5mN/m以下であり、さらに好ましくは3mN/m以下であり、特に好ましくは2mN/m以下である。また、その好ましい下限は0mN/m超である。
【0077】
相分離した2相の粘度比は、得られるPPS微粒子の数平均粒子径および粒子径分布に影響を与える。粘度比の好ましい範囲としては、その下限としては0.1以上が好ましく、より好ましくは0.2以上であり、さらに好ましくは0.3以上であり、より好ましくは0.5以上であり、著しく好ましいのは0.8以上である。また粘度比の上限としては10以下が好ましく、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは3以下であり、特に好ましくは1.5以下であり、著しく好ましくは1.2以下である。ここでいう2相の粘度比は、実際に実施しようとする温度条件下での、PPS樹脂溶液相の粘度/ポリマー(B)溶液相の粘度と定義する。
【0078】
このようなPPS樹脂(A)、ポリマー(B)および有機溶媒(C)を混合し、PPS樹脂(A)およびポリマー(B)完全に溶解させる。このときの温度をTd(℃)とする。
【0079】
Tdは、用いるPPS樹脂の共重合比や有機溶媒(C)の種類によって好ましい温度が変わるため、一義的に決めることはできないが、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは220℃以上、特に好ましくは230℃以上、著しく好ましくは240℃以上である。またその上限は、特に制限はないが、工業的な実現性の観点から、300℃以下が好ましい。
【0080】
このように相分離する系を用い、得られた溶液に剪断力を加えることにより、エマルションを形成させる。
【0081】
エマルション形成工程の温度は、有機溶媒(C)にPPS樹脂およびポリマー(B)が溶解する温度以上である。その温度範囲は、特に制限はないが、工業的な実現性の観点から0℃〜300℃が好ましい。温度範囲の上限は、PPS樹脂を溶解させる温度Tdとの兼ね合いになるが、好ましくは290℃以下であり、より好ましくは280℃以下であり、さらに好ましくは270℃以下であり、特に好ましくは260℃以下である。また温度範囲の下限としては、PPS樹脂の共重合比や有機溶媒(C)の種類によって適正な温度が変わるため、一義的に決めることはできないが、PPS樹脂が析出する温度より高ければ特に制限はない。具体的に挙げるとすれば、エマルション形成工程の温度の下限は、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは220℃以上、特に好ましくは230℃以上、著しく好ましくは240℃以上である。
【0082】
エマルション形成工程の圧力は、工業的な実現性の観点から、常圧から100気圧(10.1MPa)の範囲が好ましい。TdおよびTpにおける混合溶媒の飽和蒸気圧によるが、圧力の好ましい上限としては75気圧(7.5MPa)以下であり、さらに好ましくは50気圧(5.0MPa)以下であり、特に好ましくは、30気圧(3.0MPa)以下である。また、圧力の好ましい下限は、TdおよびTpにおける溶媒の飽和蒸気圧以上である。
【0083】
また、エマルション形成工程は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンまたは二酸化炭素が好ましく、より好ましくは、窒素またはアルゴンである。
【0084】
エマルションを形成させるのに十分な剪断力を得るためには、公知の方法による攪拌を用いれば十分であり、攪拌羽による液相攪拌法、連続2軸混合機による攪拌法、ホモジナイザーによる混合法、超音波照射等を用いることができる。
【0085】
攪拌羽による攪拌の場合、攪拌羽の形状にもよるが、攪拌速度は好ましくは50rpm〜1,200rpm、より好ましくは100rpm〜1,000rpm、さらに好ましくは200rpm〜800rpm、特に好ましくは300rpm〜600rpmである。
【0086】
攪拌羽としては、プロペラ型、パドル型、フラットパドル型、タービン型、ダブルコーン型、シングルコーン型、シングルリボン型、ダブルリボン型、スクリュー型、ヘリカルリボン型等が挙げられるが、系に対して十分に剪断力をかけられるものであれば、これらに特に限定されるものではない。また、効率的な攪拌を行うために、槽内に邪魔板等を設置してもよい。
【0087】
また、エマルションを発生させるためには、必ずしも攪拌機である必要はなく、乳化機、分散機等の装置を用いてもよい。具体的に例示するならば、ホモジナイザー(IKAジャパン(株)社製)、ポリトロン(登録商標)(キネマティカ社製)、TKオートホモミキサー(特殊機化工業(株)社製)等のバッチ式乳化機、エバラマイルダー((株)荏原製作所社製)、TKフィルミックス、TKパイプラインホモミキサー(特殊機化工業(株)社製)、コロイドミル((株)日本精機製作所社製)、スラッシャー、トリゴナル湿式微粉砕機(日本コークス工業(株)社製)、超音波ホモジナイザー、スタティックミキサー等が挙げられる。
【0088】
このようにして得られたエマルションは、引き続き微粒子を析出させる工程に供する。貧溶媒を前記工程で製造したエマルションに接触させることで、エマルションの液滴径に応じた径でPPS微粒子が析出する。
【0089】
貧溶媒を接触させるときの反応槽内温度Tpは、有機溶媒(C)にPPS樹脂(A)を溶解させる温度Tdよりも10℃以上低い温度であることが好ましく、そのような温度で貧溶媒を接触させることで、多孔質な形態でPPS微粒子を得ることができる。
【0090】
また、貧溶媒を接触させる温度TpをTdよりも10℃以上低くすることで、PPS樹脂の溶解度が低下し、より急速にPPS微粒子を析出させることができるため、微粒子の析出(核生成)と成長を制御することができ、多孔質のPPS微粒子を、真球度が高く粒子径分布の狭い形態で得ることができる。
【0091】
TpとTdの温度差は、より好ましくは10℃以上80℃以下、さらに好ましくは10℃以上70℃以下、特に好ましくは20℃以上60℃以下、最も好ましくは30℃以上50℃以下の範囲である。TpとTdの温度差をこのような範囲とすることで、多孔質のPPS微粒子を、より真球度が高く、かつ、粒子径分布指数が小さい形態で得られるので好ましい。
【0092】
TpとTdの温度差が80℃を超えてTpが低温になると、PPS樹脂が貧溶媒との接触由来ではなく、温度が下がったことによる溶解度の低下によって析出してしまう。そのようなPPS微粒子は多孔度が低く、微粒子の真球度も低くなり、好ましい態様の多孔質PPS粒子を得られない。
【0093】
貧溶媒とエマルションの接触方法は、貧溶媒にエマルションを入れる方法でも良いし、エマルションに貧溶媒を入れる方法でも良いが、エマルションに貧溶媒を入れる方法がより好ましい。
【0094】
この際、貧溶媒を投入する方法としては、本発明のPPS微粒子が得られる限り特に制限はなく、連続滴下法、分割添加法および一括添加法のいずれでも良い。貧溶媒添加時にエマルションの液滴が凝集、融着または合一し、得られるPPS微粒子の粒子径分布が大きくなり、200μmを超える塊状物が生成することを防ぐために、好ましくは連続滴下法または分割滴下法であり、工業的に効率的に実施するためには、最も好ましいのは連続滴下法である。
【0095】
貧溶媒を加える時間としては、5分以上50時間以内であることが好ましい。より好ましくは10分以上10時間以内であり、さらに好ましくは30分以上5時間以内であり、特に好ましくは1時間以上5時間以内である。この時間の範囲内で貧溶媒の添加を行うことにより、エマルションからPPS微粒子を析出させる際に、粒子間の凝集を抑制することができ、粒子径が揃った粒子径分布の狭いPPS微粒子を得ることができる。この範囲よりも短い時間で貧溶媒の添加を実施すると、エマルションの液滴の凝集融着または合一に伴い、得られるPPS微粒子の粒子径分布が広くなったり、塊状物が生成したりする場合がある。また、これ以上長い時間で実施する場合は、工業的に不利である。
【0096】
貧溶媒を加える量は、ポリマー(B)の分子量、およびPPS樹脂(A)の有機溶媒(C)への溶解度によってエマルションの状態が変化するため最適量は変化するが、エマルション1質量部に対して、通常0.1質量部から10質量部であることが好ましい。より好ましい上限としては、5質量部以下、さらに好ましくは、3質量部以下であり、特に好ましくは、2質量部以下であり、最も好ましくは、1質量部以下である。また、好ましい下限は、0.1質量部以上、さらに好ましくは、0.5質量部以上である。
【0097】
貧溶媒とエマルションとの接触時間は、微粒子が析出するのに十分な時間であればよいが、十分な析出を引き起こし、かつ効率的な生産性を得るために、貧溶媒添加終了後5分以上50時間以下が好ましく、より好ましくは5分以上10時間以下であり、さらに好ましくは10分以上5時間以下であり、特に好ましくは20分以上4時間以下であり、最も好ましくは30分以上3時間以下である。
【0098】
このようにして作られたPPS微粒子分散液は、ろ過、減圧濾過、加圧ろ過、遠心分離、遠心ろ過、スプレードライ等の通常公知の方法で固液分離することにより、微粒子を回収することができる。
【0099】
固液分離した微粒子は、必要に応じて溶媒等で洗浄を行うことにより、付着または含有している不純物等の除去を行い、精製を行う。
【0100】
本方法においては、微粒子を得る際に行った固液分離工程で分離された有機溶媒(C)およびポリマー(B)を再度利用するリサイクルが実施可能である。
【0101】
固液分離工程で分離された溶媒は、ポリマー(B)、有機溶媒(C)および貧溶媒の混合物である。この溶媒から、貧溶媒を除去することにより、エマルション形成用の溶媒として再利用することができる。貧溶媒を除去する方法としては、公知の方法が使用可能である。具体的には、単蒸留、減圧蒸留、精密蒸留、薄膜蒸留、抽出、膜分離等が挙げられる。好ましくは単蒸留、減圧蒸留または精密蒸留による方法である。
【0102】
単蒸留、減圧蒸留等の蒸留操作を行う際は、PPS微粒子製造時と同様、系に熱がかかり、ポリマー(B)や有機溶媒(C)の熱分解を促進する可能性があることから、極力酸素のない状態で行うことが好ましく、より好ましくは不活性雰囲気下で行う。具体的には、窒素、ヘリウム、アルゴンまたは二酸化炭素雰囲気下で実施することが好ましい。また、蒸留操作を行う際に、酸化防止剤としてフェノール系化合物を添加しても良い。
【0103】
リサイクルする際、貧溶媒は極力除くことが好ましい。具体的には、貧溶媒除去後の溶媒において、貧溶媒の残存量が有機溶媒(C)およびポリマー(B)の合計量に対して、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1質量%以下であると良い。貧溶媒の残存量がこの範囲を超える場合には、エマルション形成用の溶媒として再利用した際に、得られる多孔質PPS微粒子の粒子径分布が広くなったり、粒子が凝集したりするので好ましくない。リサイクルする溶媒中の貧溶媒の量は、ガスクロマトグラフィー法、カールフィッシャー法等の公知の方法で測定できる。
【0104】
貧溶媒を除去する操作において、現実的には有機溶媒(C)やポリマー(B)をロスすることもあるので、回収した溶媒を再利用する際には、適宜、組成を調整し直すのが好ましい。
【0105】
このようにして得られた本発明のPPS微粒子は、粒子表面の形態が多孔質であることにより、熱エネルギーを加えて各種成形体に加工する際に、粒子の融着が促進され、より低温で、かつ、より短時間で粒子のコーティング層の形成や成形加工が可能となる。また本発明のPPS微粒子は多孔質な形状を有することから、光を多方向に散乱させることができ、かつ光の反射強度を低減させることから、媒体に添加した際にボカシ効果およびツヤ消し効果を付与できる。加えて、好ましい態様においては、多孔質PPS微粒子は真球状であり、かつ、粒子径が均一であることによって、成形加工操作時の多孔質PPS微粒子の取扱性の向上と、得られる成形体の平滑さ向上およびムラ抑制を可能にする。さらに、多孔質PPS微粒子が真球状であり、かつ、粒子径が均一である場合、粒子を塗料に添加した際に、塗料中で粒子が凝集または分離等して塗料の品質を損なうことなく、塗料のツヤ消し剤としての効果を発揮する。
【0106】
上記のように、本発明のPPS微粒子は、各種用途に実用的に利用することが可能である。具体的には、射出成形、微細加工等に代表される成形加工用材料;および該材料を用いて得られる電子電気材料部品部材、エレクトロニクス製品筐体パーツ部材;各種成形加工時の増粘剤、成形寸法安定化剤等の添加剤;分散液、塗液、塗料等の形態としての塗膜、コーティング用材料;ラピッドプロトタイピング、ラピッドマニュファクチャリングおよびアディティブマニュファクチャリング用材料;粉体としての流動性改良剤、潤滑剤、研磨剤および増粘剤用途;プラスチックフイルム、シートの滑り性向上剤、ブロッキング防止剤、光沢調節剤およびツヤ消し仕上げ剤用途;プラスチックフイルム、シート、レンズの光拡散材、表面硬度向上剤および靭性向上剤等の各種改質剤;各種インク;トナーの光沢調節剤、ツヤ消し仕上げ材等の用途としての添加剤;各種塗料の光沢調節剤、ツヤ消し仕上げ材等の用途としての添加剤;液晶表示操作用スペーサー用途;クロマトグラフィー用充填剤;化粧品用基材および添加剤;化学反応用触媒および担持体;ガス吸着剤等の用途に用いることができる。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0108】
(アマニ油吸油量の測定)
日本工業規格(JIS)K5101−13−1:2004に記載の方法に準拠してアマニ油吸油量を測定した。
【0109】
(数平均粒子径の測定)
本発明における多孔質PPS微粒子の粒子径は、数平均粒子径である。走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡JSM−6301NF)を用いてPPS微粒子を100倍〜500倍で観察し、100個のPPS微粒子についてその直径(粒子径)を測長した。続いて、下記式により100個の粒子の粒子径につき、その算術平均を求めることで数平均粒子径を算出した。なお、画像上で粒子が真円状でない場合(例えば楕円状のような場合や、粒子が不規則に寄せ集まった凝集体を形成している場合)は、その最長径を粒子径として測定した。
【0110】
【数4】
【0111】
Ri:粒子個々の粒子径、n:測定数100、Dn:数平均粒子径。
【0112】
(真球度の測定)
多孔質PPS微粒子の真球度は、走査型電子顕微鏡にて、無作為に選択した粒子30個の真球度の算術平均値であり、下記式に従い算出した。真球度は、個々の粒子の長径と、それと垂直に交わる短径の比であり、下記式に従い算出した。
【0113】
【数5】
【0114】
Sm:平均真球度、Si:粒子個々の真球度、ai:粒子個々の短径、bi:粒子個々の長径、n:測定数30。
【0115】
(粒子径分布指数の算出)
多孔質PPS微粒子の粒子径分布指数は、数平均粒子径の算出時に行った粒子径の測長結果を用いて、次の式により算出される。
【0116】
【数6】
【0117】
Ri:粒子個々の粒子径、n:測定数100、Dn:数平均粒子径、Dv:体積平均粒子径、PDI:粒子径分布指数。
【0118】
(融点の測定方法)
原料PPS樹脂およびPPS微粒子の融点は、示差走査熱量測定(TAインスツルメント株式会社製示差走査熱量計Q20)を用いて、昇温速度20℃/分の条件で300℃まで昇温した後、20℃まで20℃/分の降温速度で降温し、再度、昇温速度20℃/分の条件で昇温して測定した際の、2回目の昇温過程における融解熱容量を示すピークの頂点温度を算出することで測定した。
【0119】
(熱重量測定)
示差熱・熱重量同時測定装置(TG−DTA、株式会社島津製作所製DTG−60)にて、昇温速度10℃/分の条件で、20℃から500℃まで昇温し、300℃における重量減少量を測定した。
【0120】
(PPS微粒子のフイルム成形性評価)
多孔質PPS微粒子0.3gを不融性のポリイミドフイルムで挟み、ホットプレス機に挿入し、異なるサンプルについて、230℃、250℃、290℃および340℃の各温度で、それぞれ2分間プレスを行った後、水中に浸漬して急冷し、フイルムを得た。フイルム成形性の評価基準は次のとおりである。
A:表面平滑で透明度の高いフイルムを成形できた
B:フイルム状に成形できたが透明度が低い、微粒子の溶け残りが見られた
C:微粒子が圧着もしくは融着したのみでフイルム状にならなかった。
【0121】
(粒子の粉体取扱性評価)
多孔質PPS微粒子の重量を計測するときの取扱性、および上記フイルム成形性評価でポリイミドフイルムに微粒子を挟み込む操作をするときの取扱性に基づいて、多孔質PPS微粒子の粉体取扱性を、次のように評価した。
A:微粒子は流動性に優れ、問題なく秤量でき、微粒子をフイルム上に間隙なく敷き詰めることができる
B:微粒子は流動性に優れ、問題なく秤量できるが、微粒子をフイルム上に敷き詰めるときの充填特性が低い
C:微粒子の付着性が強く、秤量時の取り扱いが困難であり、フイルム上に薄く広げるのが困難である。
【0122】
(粒子の総合評価)
上記4段階の温度におけるフイルム成形性の評価および粉体取扱性の評価の結果を受け、多孔質PPS微粒子を以下の基準で総合評価した。
A:A評価が4つ以上で、かつC評価がない
B:A評価が3つ以下で、かつC評価がない
C:C評価が1つ以上。
【0123】
(粒子のボカシ効果評価)
三次元変角分光測色システム(村上色彩技術研究所社製GCMS−4型)を用いて、D65光源、入射角45度、受光角−80度〜80度(2度ピッチ)、あおり角0度の測定条件で粒子の反射強度の角度依存性を測定し、粒子の反射分布図を得た。測定サンプルは、透明粘着テープの粘着面にPPS微粒子が単層となるように均一に塗布することで調製した。測定結果より、下記式を用いて、反射強度の平均値、標準偏差および最大偏差を算出した。当該粒子の反射強度の標準偏差および最大偏差の値がそれぞれ小さければ、粒子は特定方向への特異的な反射を有さず、角度に依存せず光を多方向に散乱させることができていると言え、ボカシ効果を発現していると言える。本発明の方法により製造した多孔質PPS微粒子のボカシ効果につき、その原料として用いたPPS樹脂粉体を基準として、次のように評価した。
A:反射強度の標準偏差と最大偏差がともに原料粉体と比べて小さい
B:反射強度の標準偏差または最大偏差のどちらか一方は原料粉体と比べて小さいが、他方は原料粉体と比べて大きい
C:反射強度の標準偏差と最大偏差がともに原料粉体と比べて大きい
【0124】
【数7】
【0125】
Ii:各角度での反射強度、n:測定数(−80度〜80度、2度ピッチ、n=81)、Im:反射強度の平均値、σ:標準偏差、Imax:反射強度の最大値、Tmax:最大偏差。
【0126】
(粒子の塗料ツヤ消し効果評価)
PPS微粒子を二液ウレタン系塗料(関西ペイント社製、黒色、レタン(登録商標)PG60)に2wt%の濃度で投入した後、塗料をプラスチック板にエアーブラシで塗装し、粒子の塗料への分散性および塗料のツヤ消し効果を次のように評価した。
【0127】
分散性:粒子が塗料中で凝集ダマとならず均一に分散しているかを、目視で次のように5段階評価した(5:均一に分散している〜1:完全に凝集している)
ツヤ消し効果:塗装面のツヤ消し効果を、目視で次のように5段階評価した(5:非常に優れている〜1:効果がない)。
【0128】
[参考例1]p−PPSの調製
(脱水工程)
攪拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.3kg、96%水酸化ナトリウム2.9kg、N−メチル−2−ピロリドン11.5kg、酢酸ナトリウム1.9kg、およびイオン交換水5.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.8kgおよびN−メチル−2−ピロリドン0.3kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、N−メチル−2−ピロリドンの加水分解に消費された水分を含めて1.1モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0129】
(重合工程)
次に、p−ジクロロベンゼン10.4kg、N−メチル−2−ピロリドン9.4kgを加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで攪拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温し、270℃で140分反応した。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.4kgを圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し、内容物を取り出した。
【0130】
(洗浄および乾燥工程)
取り出した内容物を約35リットルのN−メチル−2−ピロリドンで希釈し、スラリーとした。得られたスラリーを、85℃で30分攪拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分攪拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPS粉体を得た。得られたPPSの融点は281℃であった。また、300℃における熱重量減少量は0.66%であった。
【0131】
[参考例2]p−/m−PPS共重合体の調製
(脱水工程)
攪拌機付きの1リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム118g、96%水酸化ナトリウム42.4g、N−メチル−2−ピロリドン163g、酢酸ナトリウム32.0g、およびイオン交換水150gを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水210gおよびN−メチル−2−ピロリドン4gを留出した後、反応容器を150℃に冷却した。硫化水素の飛散量は1.8モル%であった。
【0132】
(重合工程)
次に、p−ジクロロベンゼン125g、m−ジクロロベンゼン22.1g、N−メチル−2−ピロリドン131gを加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで攪拌しながら、227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、その後270℃/分まで0.6℃/分の速度で昇温し、270℃で170分保持した。その間、270℃に到達後30分経過した時点から水14.4gを10分かけて添加した。その後180℃まで0.4℃/分の速度で冷却し、次に室温近傍まで急冷した。
【0133】
(洗浄および乾燥工程)
内容物を取り出し、0.5リットルのN−メチル−2−ピロリドンで希釈し、スラリーとした。得られたスラリーを85℃で30分攪拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を1リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分攪拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPS粉体を得た。得られたPPSの融点は239℃であった。また、300℃における熱重量減少量は0.58%であった。
【0134】
[実施例1]
1リットルオートクレーブに、PPS樹脂(A)として参考例2で得られたPPS(融点239℃)5質量部、ポリマー(B)としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、G型‘ゴーセノール(登録商標)’GM−14、重量平均分子量29,000)15質量部、有機溶媒(C)としてN−メチル−2−ピロリドン80質量部を入れ、攪拌羽としてパドル翼を用いて回転数555rpmで攪拌しながら250℃まで約1時間かけて昇温し、250℃で保持したまま1時間攪拌を行い、PPS樹脂(A)およびポリマー(B)を溶解させた。続いて、オートクレーブ系内の温度を210℃にし、555rpmで攪拌しながら、貧溶媒(D)として100質量部のイオン交換水を、送液ポンプを経由して、0.83質量部/分のスピードで滴下し(、懸濁液を得た。得られた懸濁液を濾過し、イオン交換水100質量部で洗浄し、濾別した固形物を、80℃で真空乾燥することで、PPS微粒子の白色粉体を得た。得られたPPS微粒子のアマニ油吸油量は126mL/100g、数平均粒子径は22.4μm、真球度は95%、粒子径分布指数は1.4であった。得られた多孔質PPS微粒子の融点は242℃であり、300℃における熱重量減少量は0.64%であった。また、得られたPPS微粒子のフイルム成形性および粉体取扱性を表2に示した。
【0135】
なお、上記の250℃における攪拌工程において、実際にエマルションが形成されていることを確認する実験を別途行った。上記のPPS樹脂(A)、ポリマー(B)および有機溶媒(C)を、上記の組成割合で、耐圧試験管に入れて、250℃に加熱攪拌して溶解混合させ、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を採取し、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製VHX−100)を用いて形態観察したところ、エマルションの形成を確認した。
【0136】
[実施例2]
PPS樹脂(A)として参考例2で得られたPPS(融点239℃)5質量部、ポリマー(B)としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、G型‘ゴーセノール(登録商標)’GM−14、重量平均分子量29,000)10質量部、有機溶媒(C)としてN−メチル−2−ピロリドン85質量部とした以外は実施例1と同様に粒子化を行った。得られたPPS微粒子のアマニ油吸油量は70mL/100g、数平均粒子径は37.0μm、真球度は98%、粒子径分布指数は1.4であった。得られた多孔質PPS微粒子の融点は248℃であり、300℃における熱重量減少量は0.53%であった。また、得られたPPS微粒子のフイルム成形性および粉体取扱性を表2に示した。なお、実施例1と同様に耐圧試験管を用いた試験で、上記組成でのエマルションの形成を別途確認した。
【0137】
[実施例3]
PPS樹脂(A)として参考例2で得られたPPS(融点239℃)3質量部、ポリマー(B)としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、G型‘ゴーセノール(登録商標)’GM−14、重量平均分子量29,000)10質量部、有機溶媒(C)としてN−メチル−2−ピロリドン87質量部とした以外は実施例1と同様に粒子化を行った。得られたPPS微粒子のアマニ油吸油量は90mL/100g、数平均粒子径は30.3μm、真球度は99%、粒子径分布指数は1.3であった。得られた多孔質PPS微粒子の融点は245℃であり、300℃における熱重量減少量は0.66%であった。また、得られたPPS微粒子のフイルム成形性および粉体取扱性を表2に示した。なお、実施例1と同様に耐圧試験管を用いた試験で、上記組成でのエマルションの形成を別途確認した。
【0138】
[実施例4]
PPS樹脂(A)として参考例2で得られたPPS(融点239℃)5質量部、ポリマー(B)としてポリエチレンオキサイド(明成化学工業株式会社製、‘アルコックス(登録商標)’E−60、重量平均分子量600,000)5質量部、有機溶媒(C)としてN−メチル−2−ピロリドン90量部とした以外は実施例1と同様に粒子化を行った。得られたPPS微粒子のアマニ油吸油量は80mL/100g、数平均粒子径は8.1μm、真球度は95%、粒子径分布指数は1.5であった。得られた多孔質PPS微粒子の融点は245℃であり、300℃における熱重量減少量は0.72%であった。また、得られたPPS微粒子のフイルム成形性および粉体取扱性を表2に示した。なお、実施例1と同様に耐圧試験管を用いた試験で、上記組成でのエマルションの形成を別途確認した。
【0139】
[実施例5]
PPS樹脂(A)として参考例2で得られたPPS(融点239℃)5質量部、ポリマー(B)としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、G型‘ゴーセノール(登録商標)’GM−14、重量平均分子量29,000)5質量部、有機溶媒(C)としてN−メチル−2−ピロリドン90質量部とし、貧溶媒(D)として82質量部のイオン交換水とし、貧溶媒を滴下するときの温度Tpを230℃とした以外は実施例1と同様に粒子化を行った。得られたPPS微粒子のアマニ油吸油量は61mL/100g、数平均粒子径は5.6μm、真球度は81%、粒子径分布指数は3.0であった。得られた多孔質PPS微粒子の融点は239℃であり、300℃における熱重量減少量は0.74%であった。また、得られたPPS微粒子のフイルム成形性および粉体取扱性を表2に示した。なお、実施例1と同様に耐圧試験管を用いた試験で、上記組成でのエマルションの形成を別途確認した。
【0140】
[実施例6]
PPS樹脂(A)として参考例2で得られたPPS(融点239℃)5質量部、ポリマー(B)としてポリエチレンオキサイド(明成化学工業株式会社製、‘アルコックス(登録商標)’E−30、重量平均分子量400,000)10質量部、有機溶媒(C)としてN−メチル−2−ピロリドン85量部とした以外は実施例1と同様に粒子化を行った。得られたPPS微粒子のアマニ油吸油量は60mL/100g、数平均粒子径は8.7μm、真球度は92%、粒子径分布指数は3.2であった。得られた多孔質PPS微粒子の融点は244℃であり、300℃における熱重量減少量は0.45%であった。また、得られたPPS微粒子のフイルム成形性および粉体取扱性を表2に示した。なお、実施例1と同様に耐圧試験管を用いた試験で、上記組成でのエマルションの形成を別途確認した。
【0141】
[実施例7](現在は比較例である)
PPS樹脂(A)として参考例1で得られたPPS(融点281℃)5質量部、ポリマー(B)としてポリエチレンオキサイド(明成化学工業株式会社製、‘アルコックス(登録商標)’E−60、重量平均分子量600,000)5質量部、有機溶媒(C)としてN−メチル−2−ピロリドン90量部とした以外は実施例1と同様に粒子化を行った。得られたPPS微粒子のアマニ油吸油量は128mL/100g、数平均粒子径は77.0μm、真球度は71%、粒子径分布指数は1.7であった。得られた多孔質PPS微粒子の融点は280℃であり、300℃における熱重量減少量は0.62%であった。また、得られたPPS微粒子のフイルム成形性および粉体取扱性を表2に示した。なお、実施例1と同様に耐圧試験管を用いた試験で、上記組成でのエマルションの形成を別途確認した。

【0142】
[比較例1]
参考例1で得られたPPS粉体(融点281℃)について、アマニ油吸油量、数平均粒子径、真球度、および粒子径分布指数を測定した。その結果、アマニ油吸油量は36mL/100g、数平均粒子径は119.2μm、真球度は64%、粒子径分布指数は4.4であった。また、参考例1で得られたPPS粉体のフイルム成形性および粉体取扱性を表2に示した。
【0143】
[比較例2]
参考例2で得られたPPS粉体(融点239℃)について、アマニ油吸油量、数平均粒子径、真球度、および粒子径分布指数を測定した。その結果、アマニ油吸油量は27mL/100g、数平均粒子径は259.9μm、真球度は60%、粒子径分布指数は4.8であった。また、参考例2で得られたPPS粉体のフイルム成形性および粉体取扱性を表2に示した。
【0144】
実施例1、実施例6で得られた多孔質PPS微粒子について、粒子のボカシ効果性能、および塗料への分散性および塗料に添加した際のツヤ消し効果を評価し、各評価結果を表3に示した。なお、比較例として参考例2で得られたPPS粉体(比較例2)につき、同様の評価を実施した。本発明の多孔質PPS微粒子は、その多孔質形態により、光の反射を抑えるボカシ効果を有しており、ボカシ効果が角度に依存せず広範囲の角度で均等に発現するとともに、塗料への分散性も良好で、優れた塗料ツヤ消し効果を示した。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
図1