(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、伝熱板の流路をベース部材の深い位置に設ける場合、蓋溝の深さを大きくするとともに、蓋板の厚さを大きくする必要がある。このような場合には、摩擦攪拌接合で用いる回転ツールの攪拌ピンの長さ及び外径を大きくする必要があり、さらには、この攪拌ピンの大型化に伴って、ショルダ部の外径も大きくする必要がある。ところが、ショルダ部の外径を大きくすると、ベース部材及び蓋板とショルダ部との摩擦が大きくなるため、摩擦攪拌装置にかかる負荷が大きくなるという問題がある。これにより、伝熱板の深い位置に流路を形成することが困難になっていた。
【0005】
また、例えば、板状の金属部材同士を重ね合わせて形成された重合部に対して、金属部材の表面から垂直に回転ツールを挿入し、金属部材同士を摩擦攪拌接合する場合がある。このような場合であっても、金属部材の板厚が大きく重合部が深い位置にある場合、摩擦攪拌接合が困難になるという問題がある。
【0006】
このような観点から、本発明は、伝熱板の深い位置を容易に摩擦攪拌接合することができるとともに水密性及び気密性の高めることができる伝熱板の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、重ね合わせた金属部材の重合部が深い位置にある場合であっても、容易に摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために本発明は、
ベース部材を、前記ベース部材の裏面が下方を向くようにして前記裏面よりも広い架台に載置する準備工程と、前記ベース部材の表面に開口する凹溝の周囲に形成された蓋溝に、蓋板を挿入する蓋溝閉塞工程と、前記蓋溝の側壁と前記蓋板の側面との突合部に沿って、攪拌ピンを備えるとともに摩擦攪拌装置の回転軸に連結された回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う本接合工程と、前記本接合工程の終了後、前記本接合工程における前記回転ツールの摩擦攪拌によって生じたバリを切除
して前記ベース部材及び前記蓋板の表面を平滑にするバリ切除工程と、を含み、前記攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、
前記攪拌ピンは基端から先端に向かうにつれて先細りになっており、前記攪拌ピンの先端側には前記回転軸に垂直な先端面を備え、前記螺旋溝を
基端から先端に向かうにつれて左回りに形成する場合は、前記回転ツールを右回転させ、前記螺旋溝を
基端から先端に向かうにつれて右回りに形成する場合は、前記回転ツールを左回転させ、前記本接合工程において、回転した前記攪拌ピンを前記突合部に挿入し、前記摩擦攪拌装置及び前記回転ツールのうち前記回転ツールの前記攪拌ピンのみを前記ベース部材及び前記蓋板に接触させて摩擦熱を発生させつつ、前記攪拌ピンの基端部を露出させた状態で摩擦攪拌を行うとともに、前記凹溝に塑性流動材を流入させないことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、
ベース部材を、前記ベース部材の裏面が下方を向くようにして前記裏面よりも広い架台に載置する準備工程と、前記ベース部材の表面に開口する蓋溝の底面に形成された凹溝に、熱媒体用管を挿入する熱媒体用管挿入工程と、前記蓋溝に蓋板を挿入する蓋板挿入工程と、前記蓋溝の側壁と前記蓋板の側面との突合部に沿って、攪拌ピンを備えるとともに摩擦攪拌装置の回転軸に連結された回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う本接合工程と、前記本接合工程の終了後、前記本接合工程における前記回転ツールの摩擦攪拌によって生じたバリを切除
して前記ベース部材及び前記蓋板の表面を平滑にするバリ切除工程と、を含み、前記攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、
前記攪拌ピンは基端から先端に向かうにつれて先細りになっており、前記攪拌ピンの先端側には前記回転軸に垂直な先端面を備え、前記螺旋溝を
基端から先端に向かうにつれて左回りに形成する場合は、前記回転ツールを右回転させ、前記螺旋溝を
基端から先端に向かうにつれて右回りに形成する場合は、前記回転ツールを左回転させ、前記本接合工程において、回転した前記攪拌ピンを前記突合部に挿入し、前記摩擦攪拌装置及び前記回転ツールのうち前記回転ツールの前記攪拌ピンのみを前記ベース部材及び前記蓋板に接触させて摩擦熱を発生させつつ、前記攪拌ピンの基端部を露出させた状態で摩擦攪拌を行うとともに、前記凹溝に塑性流動材を流入させないことを特徴とする。
【0009】
かかる方法によれば、回転ツールのうちの攪拌ピンのみがベース部材及び蓋板に接触することになるので、従来の製造方法に比べて接合するベース部材及び蓋板と回転ツールとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。すなわち、本発明によれば、摩擦攪拌装置への負荷を小さくすることができるため、突合部の深い位置を容易に摩擦攪拌接合することができる。これにより、伝熱板の深い位置に流路を容易に形成することができる。また、突合部の深い位置まで摩擦攪拌できるため、伝熱板の水密性及び気密性を高めることができる。
【0010】
また、前記本接合工程の前に、前記突合部を仮接合する仮接合工程を含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、本接合工程の際の突合部の目開きを防止することができる。
【0011】
また、本発明は、
ベース部材を、前記ベース部材の裏面が下方を向くようにして前記裏面よりも広い架台に載置する準備工程と、前記ベース部材の表面に開口する凹溝又は凹部を覆うように、
前記ベース部材の表面に蓋板を重ね合わせる閉塞工程と、前記蓋板の表面から、攪拌ピンを備えるとともに摩擦攪拌装置の回転軸に連結された回転ツールを挿入し、前記ベース部材の表面と前記蓋板の裏面との重合部に沿って前記回転ツールを相対移動させる本接合工程と、前記本接合工程の終了後、前記本接合工程における前記回転ツールの摩擦攪拌によって生じたバリを切除
して前記蓋板の表面を平滑にするバリ切除工程と、を含み、前記攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、
前記攪拌ピンは基端から先端に向かうにつれて先細りになっており、前記攪拌ピンの先端側には前記回転軸に垂直な先端面を備え、前記螺旋溝を
基端から先端に向かうにつれて左回りに形成する場合は、前記回転ツールを右回転させ、前記螺旋溝を
基端から先端に向かうにつれて右回りに形成する場合は、前記回転ツールを左回転させ、前記本接合工程では、前記摩擦攪拌装置及び前記回転ツールのうち前記回転ツールの前記攪拌ピンのみを前記ベース部材と前記蓋板の両方、又は、前記蓋板のみに接触させて摩擦熱を発生させつつ、前記攪拌ピンの基端部を露出させた状態で前記重合部の摩擦攪拌を行うとともに、前記凹溝又は前記凹部に塑性流動材を流入させないことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、
ベース部材を、前記ベース部材の裏面が下方を向くようにして前記裏面よりも広い架台に載置する準備工程と、前記ベース部材の表面に開口する凹溝又は凹部を覆うように、
前記ベース部材の表面に蓋板を重ね合わせる閉塞工程と、前記ベース部材の裏面から、攪拌ピンを備えるとともに摩擦攪拌装置の回転軸に連結された回転ツールを挿入し、前記ベース部材の表面と前記蓋板の裏面との重合部に沿って前記回転ツールを相対移動させる本接合工程と、前記本接合工程の終了後、前記本接合工程における前記回転ツールの摩擦攪拌によって生じたバリを切除
して前記ベース部材の裏面を平滑にするバリ切除工程と、を含み、前記攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、
前記攪拌ピンは基端から先端に向かうにつれて先細りになっており、前記攪拌ピンの先端側には前記回転軸に垂直な先端面を備え、前記螺旋溝を
基端から先端に向かうにつれて左回りに形成する場合は、前記回転ツールを右回転させ、前記螺旋溝を
基端から先端に向かうにつれて右回りに形成する場合は、前記回転ツールを左回転させ、前記本接合工程では、前記摩擦攪拌装置及び前記回転ツールのうち前記回転ツールの前記攪拌ピンのみを前記ベース部材と前記蓋板の両方、又は、前記ベース部材のみに接触させて摩擦熱を発生させつつ、前記攪拌ピンの基端部を露出させた状態で前記重合部の摩擦攪拌を行うとともに、前記凹溝又は前記凹部に塑性流動材を流入させないことを特徴とする。
【0013】
かかる方法によれば、回転ツールのうちの攪拌ピンのみがベース部材もしくは蓋板、又は、ベース部材と蓋板の両方に接触することになるので、従来の製造方法に比べて回転ツールとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。すなわち、本発明によれば、摩擦攪拌装置への負荷を小さくすることができるため、深い位置にある重合部を容易に摩擦攪拌接合することができる。これにより、伝熱板の深い位置にも容易に流路を形成することができる。
【0014】
また、前記本接合工程の前に、前記重合部を仮接合する仮接合工程を含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、本接合工程の際の重合部の目開きを防止することができる。
【0015】
また、前記本接合工程の終了後、前記回転ツールの摩擦攪拌によって生じたバリを切除するバリ切除工程を含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、ベース部材又は蓋板をきれいに成形することができる
。
【0016】
また、本発明は、攪拌ピンを備えるとともに摩擦攪拌装置の回転軸に連結された回転ツールを用いて二つの金属部材を接合する内部に流路を設けない複合板の製造方法であって、一方の前記金属部材の表面と他方の前記金属部材の裏面とを重ね合わせて重合部を形成する重合部形成工程と、他方の前記金属部材の表面から回転した前記攪拌ピンを挿入し、前記摩擦攪拌装置及び前記回転ツールのうち前記回転ツールの前記攪拌ピンのみを一方の前記金属部材と他方の前記金属部材の両方、又は、他方の前記金属部材のみに接触させて摩擦熱を発生させつつ、前記攪拌ピンの基端部を露出させた状態で前記重合部の摩擦攪拌を行う本接合工程と、前記本接合工程の終了後、前記本接合工程における前記回転ツールの摩擦攪拌によって生じたバリを切除
して他方の前記金属部材の表面を平滑にするバリ切除工程と、を含み、前記攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、
前記攪拌ピンは基端から先端に向かうにつれて先細りになっており、前記攪拌ピンの先端側には前記回転軸に垂直な先端面を備え、前記螺旋溝を
基端から先端に向かうにつれて左回りに形成する場合は、前記回転ツールを右回転させ、前記螺旋溝を
基端から先端に向かうにつれて右回りに形成する場合は、前記回転ツールを左回転させることを特徴とする。
【0017】
かかる方法によれば、回転ツールのうちの攪拌ピンのみが金属部材の両方又は片方に接触することになるので、従来の製造方法に比べて回転ツールとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。すなわち、本発明によれば、摩擦攪拌装置への負荷を小さくすることができるため、深い位置にある重合部を容易に摩擦攪拌接合することができる。
【0018】
また、前記本接合工程の前に、前記重合部を仮接合する仮接合工程を含むことが好ましい。かかる方法によれば、本接合工程の際の重合部の目開きを防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る伝熱板の製造方法によれば、深い位置にある突合部を容易に摩擦攪拌接合することができるとともに水密性及び気密性を高めることができる。また、本発明に係る摩擦攪拌接合方法によれば、重ね合わせた金属部材の重合部が深い位置にある場合であっても、容易に摩擦攪拌接合することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔第一実施形態〕
本発明の第一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。まずは、本実施形態で用いる本接合用回転ツール及び仮接合用回転ツールについて説明する。
【0023】
本接合用回転ツールFは、
図1の(a)に示すように、連結部F1と、攪拌ピンF2とで構成されている。本接合用回転ツールFは、特許請求の範囲の「回転ツール」に相当する。本接合用回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されている。連結部F1は、
図1の(b)に示す摩擦攪拌装置の回転軸Dに連結される部位である。連結部F1は円柱状を呈し、ボルトが締結されるネジ孔B,Bが形成されている。
【0024】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンF2の外周面には螺旋溝F3が刻設されている。本実施形態では、本接合用回転ツールFを右回転させるため、螺旋溝F3は、上から下に向かうにつれて左回りに形成されている。
【0025】
なお、本接合用回転ツールFを左回転させる場合は、螺旋溝F3を上から下に向かうにつれて右回りに形成することが好ましい。螺旋溝F3をこのように設定することで、摩擦攪拌の際に塑性流動化した金属が螺旋溝F3によって攪拌ピンF2の先端側に導かれる。これにより、被接合金属部材(後記するベース部材2及び蓋板5)の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。
【0026】
図1の(b)に示すように、本接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌接合をする際には、被接合金属部材に回転した攪拌ピンF2のみを挿入し、被接合金属部材と連結部F1とは離間させつつ移動させる。言い換えると、攪拌ピンF2の基端部は露出させた状態で摩擦攪拌接合を行う。本接合用回転ツールFの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域Wが形成される。
【0027】
仮接合用回転ツールGは、
図2の(a)に示すように、ショルダ部G1と、攪拌ピンG2とで構成されている。仮接合用回転ツールGは、例えば工具鋼で形成されている。ショルダ部G1は、
図2の(b)に示すように、摩擦攪拌装置の回転軸Dに連結される部位であるとともに、塑性流動化した金属を押える部位である。ショルダ部G1は円柱状を呈する。ショルダ部G1の下端面は、流動化した金属が外部へ流出するのを防ぐために凹状になっている。
【0028】
攪拌ピンG2は、ショルダ部G1から垂下しており、ショルダ部G1と同軸になっている。攪拌ピンG2はショルダ部G1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンG2の外周面には螺旋溝G3が刻設されている。
【0029】
図2の(b)に示すように、仮接合用回転ツールGを用いて摩擦攪拌接合をする際には、回転した攪拌ピンG2とショルダ部G1の下端を被接合金属部材に挿入しつつ移動させる。仮接合用回転ツールGの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域W1が形成される。
【0030】
次に、本実施形態の伝熱板について説明する。
図3に示すように、本実施形態に係る伝熱板1は、ベース部材2と、蓋板5とで主に構成されている。ベース部材2は、略直方体を呈する。ベース部材2には、凹溝3と、蓋溝4とが形成されている。ベース部材2の材料は摩擦攪拌可能であれば特に制限されないが、本実施形態ではアルミニウム合金である。
【0031】
凹溝3は、ベース部材2の中央において、一方の側面から他方の側面に向けて貫通している。凹溝3は、蓋溝4の底面に凹設されている。凹溝3の底部は、円弧状になっている。凹溝3の開口は、ベース部材2の表面2a側に開放されている。
【0032】
蓋溝4は、凹溝3よりも幅広になっており、凹溝3の表面2a側において凹溝3に連続して形成されている。蓋溝4は、断面視矩形を呈し、表面2a側に開放されている。
【0033】
蓋板5は、蓋溝4に挿入される板状部材である。蓋板5は、本実施形態では、ベース部材2と同等の材料であるアルミニウム合金で形成されている。蓋板5は、蓋溝4に隙間無く挿入されるように、蓋溝4の中空部と同じ形状になっている。
【0034】
蓋溝4の一対の側壁と蓋板5の一対の側面とが突き合わされて突合部J,Jが形成される。突合部J,Jは、深さ方向の全長に亘って摩擦攪拌により接合されている。伝熱板1の凹溝3と蓋板5の下面とで囲まれた空間が、流体が流通する流路となる。
【0035】
次に、第一実施形態に係る伝熱板の製造方法について説明する。伝熱板の製造方法では、準備工程と、蓋溝閉塞工程と、タブ材配置工程と、仮接合工程と、本接合工程とを行う。
【0036】
図4の(a)に示すように、準備工程は、ベース部材2を用意する工程である。まず、クランプ(図示省略)を介して架台Kにベース部材2を固定する。そして、エンドミル等を用いて凹溝3及び蓋溝4を切削加工により形成する。なお、ダイキャスト又は押し出し成形等によって予め凹溝3及び蓋溝4が形成されたベース部材2を用いてもよい。
【0037】
図4の(b)に示すように、蓋溝閉塞工程は、蓋溝4に蓋板5を挿入する工程である。蓋溝4の側壁と、蓋板5の側面とがそれぞれ突き合わされて突合部J,Jが形成される。蓋板5の上面と表面2aとは面一になる。
【0038】
図5に示すように、タブ材配置工程は、ベース部材2の側面にタブ材10,10を配置する工程である。タブ材10は、後記する摩擦攪拌の開始位置及び終了位置を設定する部材である。タブ材10は、ベース部材2の対向する側面に面接触されるとともに、突合部J,Jの延長線上に配置される。タブ材10は、本実施形態では、ベース部材2と同等の材料であるアルミニウム合金で形成されている。タブ材10は、タブ材10とベース部材2との入り隅部を溶接することにより接合される。
【0039】
図6の(a)に示すように、仮接合工程は、仮接合用回転ツールGを用いて突合部J,Jに対して予備的に摩擦攪拌接合を行う工程である。仮接合工程の開始位置及び終了位置は、ベース部材2及びタブ材10の表面上であれば特に制限されないが、本実施形態では、タブ材10の表面に設定している。
【0040】
具体的には、仮接合工程の開始位置を一方のタブ材10の表面に設定し、一方の突合部Jの全長に摩擦攪拌接合を行う。仮接合用回転ツールGの移動軌跡には、塑性化領域W1が形成される。他方のタブ材10まで仮接合用回転ツールを移動させたら、そのままタブ材10の表面で折り返させ、他方の突合部Jの全長に摩擦攪拌接合を行う。仮接合用回転ツールGを一方のタブ材10まで移動させたら、タブ材10から仮接合用回転ツールGを離脱させる。
【0041】
図6の(b)に示すように、本接合工程は、本接合用回転ツールFを用いて突合部J,Jに対して摩擦攪拌接合を行う工程である。本接合工程の開始位置及び終了位置は、タブ材10の表面に設定することが好ましい。本接合用回転ツールFをタブ材10に挿入する際には、仮接合用回転ツールGの抜き孔を利用してもよいし、タブ材10に別途下穴を設けて、当該下穴から本接合用回転ツールFを挿入してもよい。
【0042】
本接合工程では、仮接合工程で形成された塑性化領域W1をなぞるようにして摩擦攪拌接合を行う。本接合工程では、本接合用回転ツールFの先端が、蓋溝4の底面に達するように本接合用回転ツールFを挿入することが好ましい。攪拌ピンF2は、蓋溝4の深さよりも長くなっているため、攪拌ピンF2の先端が蓋溝4の底面に達しても、連結部F1がベース部材2及び蓋板5に当接しない。つまり、本接合工程では、連結部F1の下面でベース部材2及び蓋板5の表面を押えない。
【0043】
本接合用回転ツールFの移動軌跡には、塑性化領域Wが形成される。突合部Jと凹溝3との距離は、本接合工程を行った際に、凹溝3に塑性流動材が流入しないように設定することが好ましい。本接合工程が終了したら、タブ材10をベース部材2から切除する。
【0044】
なお、本接合工程の終了後、摩擦攪拌によって生じたバリを切除するバリ切除工程を行ってもよい。バリ切除工程を行うことで、ベース部材2及び蓋板5の表面を平滑にすることができる。
【0045】
以上説明した本実施形態に係る伝熱板の製造方法によれば、本接合工程の際に、本接合用回転ツールFのうちの攪拌ピンF2のみがベース部材2及び蓋板5に接触することになるので、従来の製造方法に比べてベース部材2及び蓋板5と本接合用回転ツールFとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。すなわち、本実施形態によれば、深い位置を摩擦攪拌しても摩擦攪拌装置への負荷を小さくすることができるため、伝熱板1の流路を深い位置に容易に形成することができる。
【0046】
また、本接合工程では、必ずしも突合部J,Jの深さ方向の全長に亘って摩擦攪拌を行う必要は無いが、本実施形態のように突合部Jの深さの全長に亘って摩擦攪拌することで、伝熱板1の水密性及び気密性を高めることができる。
【0047】
また、仮接合工程を行うことで、本接合工程を行う際に、ベース部材2と蓋板5との目開きを防ぐことができる。また、仮接合工程及び本接合工程では、摩擦攪拌の途中で仮接合用回転ツールG及び本接合用回転ツールFをベース部材2から離脱させず、一筆書きの要領で各回転ツールを移動させるため、作業手間を少なくすることができる。
【0048】
なお、仮接合工程では、仮接合用回転ツールGによる塑性化領域W1が断続的に形成されるように不連続に摩擦攪拌を行ってもよい。また、仮接合工程では、溶接によって突合部J,Jを接合してもよい。また、タブ材10とベース部材2とを仮接合用回転ツールGを用いて仮接合してもよい。
【0049】
〔第二実施形態〕
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態に係る伝熱板は、熱媒体用管6を備えている点で第一実施形態と相違する。熱媒体用管6は、その内部に流体が流通する部材である。
【0050】
第二実施形態に係る伝熱板の製造方法では、準備工程と、熱媒体用管挿入工程と、蓋溝閉塞工程と、仮接合工程と、本接合工程とを行う。
【0051】
図7の(a)に示すように、準備工程は、ベース部材2を用意する工程である。
【0052】
図7の(b)に示すように、熱媒体用管挿入工程は、凹溝3に熱媒体用管6を挿入する工程である。凹溝3及び熱媒体用管6の大きさ等は適宜設定すればよいが、本実施形態では、熱媒体用管6の外径と、凹溝3の幅及び深さは略同等になっている。
【0053】
蓋溝閉塞工程は、蓋溝4に蓋板5を挿入する工程である。蓋溝4の側壁と蓋板5の側面とが突き合わされて突合部Jが形成される。蓋溝4に蓋板5を挿入すると、熱媒体用管6と蓋板5とが接触するとともに、ベース部材2の表面2aと蓋板5の上面とは面一になる。
【0054】
仮接合工程は、突合部Jに対して予備的に接合を行う工程である。仮接合工程は、第一実施形態と同じ要領で行う。
【0055】
図8に示すように、本接合工程は、本接合用回転ツールFを用いて突合部J,Jに対して摩擦攪拌接合を行う工程である。本接合工程は、第一実施形態と同じ要領で行う。本接合用回転ツールFの移動軌跡には、塑性化領域W,Wが形成される。塑性化領域Wは、突合部J,Jの深さ方向の全長に亘って形成される。
【0056】
第二実施形態に係る伝熱板の製造方法によっても第一実施形態と略同等の効果を奏することができる。また、熱媒体用管6を備えた伝熱板1Aを容易に製造することができる。
【0057】
また、例えば、第一実施形態及び第二実施形態に係る凹溝3、蓋溝4、蓋板5及び熱媒体用管6の形状は、あくまで例示であって、他の形状であってもよい。また、本接合工程後に、ベース部材2の表面2aと塑性化領域Wの表面との間に段差が生じた場合は、当該段差を埋めるように肉盛り溶接を行ってもよい。もしくは、塑性化領域Wの表面に金属部材を配置し、当該金属部材とベース部材2とを回転ツールで摩擦攪拌接合してもよい。
【0058】
また、本実施形態では、蓋溝4を設ける場合を例示したが、蓋溝4を設けず、凹溝3に直接蓋板5を挿入するようにしてもよい。
【0059】
また、
図8の(b)に示すように、熱媒体用管6の周囲に空隙部Qが形成されている場合、本接合工程によって、この空隙部Qを埋めてもよい。蓋溝閉塞工程において、蓋溝4に蓋板5を挿入すると、凹溝3、蓋板5の下面及び熱媒体用管6によって空隙部Qが形成される。本接合工程では、本接合用回転ツールFによって形成された塑性流動材を空隙部Qに流入させる。これにより、熱媒体用管6の周囲の空隙部Qが金属で充填されるため、水密性及び気密性をより高めることができる。
【0060】
〔第三実施形態〕
次に、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態に係る伝熱板の製造方法は、ベース部材2に蓋溝4が形成されておらず、ベース部材2の表面2aに蓋板5を載置する点で第一実施形態と相違する。
【0061】
第三実施形態に係る伝熱板の製造方法では、準備工程と、凹溝閉塞工程と、仮接合工程と、本接合工程とを行う。
【0062】
図9の(a)に示すように、準備工程は、ベース部材2を用意する工程である。ベース部材2の表面2aに凹溝3を形成する。
【0063】
凹溝閉塞工程(閉塞工程)は、ベース部材2の表面2aに蓋板5を載置して凹溝3の上方を覆う工程である。凹溝閉塞工程では、ベース部材2の表面2aと蓋板5の裏面5bとが重ね合わされて重合部J1が形成される。
【0064】
仮接合工程は、重合部J1に対して予備的に接合を行う工程である。仮接合工程は、本実施形態では、ベース部材2及び蓋板5の側面から仮接合用回転ツールGを挿入し、重合部J1に対して摩擦攪拌接合を行う。仮接合工程後には、ベース部材2及び蓋板5の側面には、塑性化領域W1が形成される。
【0065】
図9の(b)に示すように、本接合工程は、本接合用回転ツールFを用いて重合部J1に対して摩擦攪拌接合を行う工程である。本実施形態では、蓋板5の表面5aから垂直に挿入し、本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2の先端をベース部材2に入り込ませる。また、本接合工程では、連結部F1を蓋板5に接触させない状態で摩擦攪拌を行う。これにより、伝熱板1Aが形成される。
【0066】
第三実施形態に係る伝熱板の製造方法のように、蓋溝4を設けず、ベース部材2の表面2aに板厚の大きい蓋板5を載置する形態であっても、伝熱板1Aを容易に製造することができる。つまり、第三実施形態では、蓋板5の板厚が大きく、重合部J1が深い位置に位置しているが、攪拌ピンF2のみがベース部材2及び蓋板5に接触するようにしたため、従来の製造方法に比べてベース部材2及び蓋板5と本接合用回転ツールFとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。すなわち、本実施形態によれば、深い位置を摩擦攪拌しても摩擦攪拌装置への負荷を小さくすることができるため、伝熱板1Aの流路を深い位置に容易に形成することができる。
【0067】
また、仮接合工程を行うことで、本接合工程を行う際に、ベース部材2と蓋板5との目開きを防ぐことができる。
【0068】
なお、仮接合工程では、仮接合用回転ツールGによる塑性化領域W1が断続的に形成されるように不連続に摩擦攪拌を行ってもよい。また、仮接合工程では、溶接によって重合部J1を接合してもよい。また、第一実施形態のようにタブ材を用いて仮接合工程及び本接合工程を行ってもよい。
【0069】
また、本実施形態では、攪拌ピンF2の先端が、ベース部材2に達する位置まで押し込むように設定したが、ベース部材2に達しないように設定する、つまり、攪拌ピンF2と蓋板5のみとが接触する位置まで押し込み、重合部J1を摩擦攪拌するように設定してもよい。このような場合は、攪拌ピンF2と蓋板5との接触によって生じた摩擦熱で、ベース部材2及び蓋板5が塑性流動化されることにより、重合部J1が接合される。
【0070】
また、本実施形態では、蓋板5の表面5aから本接合用回転ツールFを挿入したが、ベース部材2の裏面2bから本接合用回転ツールFを挿入して、重合部J1を摩擦攪拌するようにしてもよい。このような場合であっても、攪拌ピンF2は、ベース部材2及び蓋板5の両方と接触する位置まで押し込んでもよいし、ベース部材2のみと接触する位置まで押し込んで、摩擦攪拌するように設定してもよい。
【0071】
〔第四実施形態〕
次に、本発明の第四実施形態について説明する。第四実施形態に係る伝熱板の製造方法は、大きな窪みを備えた凹部20が形成されている点で第三実施形態と相違する。
【0072】
第四実施形態に係る伝熱板の製造方法は、準備工程と、閉塞工程と、仮接合工程と、本接合工程とを行う。
【0073】
図10の(a)に示すように、準備工程は、ベース部材2を用意する工程である。ベース部材2の表面2aに凹部20を形成する。凹部20は、凹溝3よりも十分に広い窪みとなっている。
【0074】
凹部閉塞工程(閉塞工程)は、ベース部材2の表面2aに蓋板5を載置して凹部20の上方を覆う工程である。凹部閉塞工程では、ベース部材2の表面2aと蓋板5の裏面5bとが重ね合わされて重合部J1が形成される。
図10の(b)に示すように、仮接合工程及び本接合工程は、第三実施形態と同等であるため、詳細な説明は省略する。これにより、伝熱板1Bが形成される。
【0075】
第四実施形態に係る伝熱板の製造方法では、第三実施形態と略同等の効果を奏することができる。また、第四実施形態によれば、凹溝3よりも大きな凹部20を備えるとともに板厚の大きい蓋板5を載置する場合であっても、伝熱板1Bを容易に形成することができる。
【0076】
なお、本実施形態では、攪拌ピンF2の先端が、ベース部材2に達する位置まで押し込むように設定したが、ベース部材2に達しないように設定する、つまり、攪拌ピンF2と蓋板5のみとが接触する位置まで押し込み、重合部J1を摩擦攪拌するように設定してもよい。このような場合は、攪拌ピンF2と蓋板5との接触によって生じた摩擦熱で、ベース部材2及び蓋板5が塑性流動化されることにより、重合部J1が接合される。
【0077】
また、本実施形態では、蓋板5の表面5aから本接合用回転ツールFを挿入したが、ベース部材2の裏面2bから本接合用回転ツールFを挿入して、重合部J1を摩擦攪拌するようにしてもよい。この場合であっても、攪拌ピンF2は、ベース部材2及び蓋板5の両方と接触する位置まで押し込んでもよいし、ベース部材2のみと接触する位置まで押し込んで、摩擦攪拌するように設定してもよい。
【0078】
〔第五実施形態〕
次に、本発明の第五実施形態に係る摩擦攪拌接合方法について説明する。第五実施形態では、凹溝3や凹部20等の流路を備えていない金属部材同士を接合する点で他の実施形態と相違する。
【0079】
第五実施形態に係る摩擦攪拌接合方法では、準備工程と、重ね合わせ工程と、仮接合工程と、本接合工程とを行う。
【0080】
図11の(a)に示すように、準備工程は、金属部材31,32を用意する工程である。金属部材31,32は、板状の金属部材である。金属部材31,32の種類は、摩擦攪拌可能な金属から適宜選択すればよい。
【0081】
重ね合わせ工程は、金属部材31,32を重ね合わせる工程である。重ね合わせ工程では、金属部材31の表面31aに、金属部材32の裏面32bを重ね合わせて、重合部J1を形成する。
【0082】
仮接合工程は、重合部J1に対して予備的に接合を行う工程である。仮接合工程は、本実施形態では、金属部材31,32の側面から仮接合用回転ツールGを挿入し、重合部J1に対して摩擦攪拌接合を行う。仮接合工程後には、金属部材31,32の側面には、塑性化領域W1が形成される。
【0083】
本接合工程は、本接合用回転ツールFを用いて重合部J1に対して摩擦攪拌接合を行う工程である。本実施形態では、金属部材32の表面32aから垂直に本接合用回転ツールFを挿入し、攪拌ピンF2の先端が金属部材31に入り込むように設定する。また、本接合工程では、連結部F1を金属部材32に接触させない状態で摩擦攪拌を行う。これにより、複合板1Cが形成される。
【0084】
第五実施形態に係る
摩擦攪拌接合方法によれば、内部に流路を設けない複合板1Cが容易に形成される。特に、金属部材32の板厚が大きく、重合部J1が深い位置に位置している場合であっても、攪拌ピンF2のみが金属部材31,32に接触するようにしたため、従来の製造方法に比べて金属部材31,32と本接合用回転ツールFとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。これにより、重合部J1が深い位置にある場合であっても、容易に摩擦攪拌接合することができる。
【0085】
また、仮接合工程を行うことで、本接合工程を行う際に、金属部材31,32間の目開きを防ぐことができる。
【0086】
なお、仮接合工程では、仮接合用回転ツールGによる塑性化領域W1が断続的に形成されるように不連続に摩擦攪拌を行ってもよい。また、仮接合工程では、溶接によって重合部J1を接合してもよい。また、第一実施形態のようにタブ材を用いて仮接合工程及び本接合工程を行ってもよい。
【0087】
また、
図11の(b)に示すように、本接合工程を行う際に、攪拌ピンF2の先端が金属部材31に達しないようにする、つまり、攪拌ピンF2が金属部材32のみと接触するように設定して摩擦攪拌を行ってもよい。このような場合は、塑性化領域Wと重合部J1とを接触させることで、金属部材31,32同士を接合することができる。つまり、攪拌ピンF2と金属部材32との接触によって生じた摩擦熱で、金属部材31,32が塑性流動化されることにより、重合部J1を接合することができる。