(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
渦巻状の固定側ラップ(21b)を含む固定スクロール(21)と、前記固定側ラップと組み合わされて圧縮室(Sc)を形成する渦巻状の可動側ラップ(22b)を含む可動スクロール(22)と、を有し、前記圧縮室で圧縮された冷媒を吐出する圧縮機構(20)と、
前記可動スクロールを駆動し、前記可動スクロールを前記固定スクロールに対して旋回させるモータ(70)と、
前記可動スクロールと前記モータとを連結する駆動軸(80)と、
前記圧縮機構、前記モータ及び前記駆動軸を収容するケーシング(10)と、
前記ケーシング内に収容されるハウジング(40)と、
前記ハウジングにより支持され、前記ハウジングとの間に形成される背圧空間(B)の圧力によって前記可動スクロールに向かって押されて、前記可動スクロールを前記固定スクロールに向かって押し付けるフローティング部材(30,130,230,330)と、
を備え、
(A)前記フローティング部材(30,130,230)は周方向に3箇所以上に配置される被支持部(37a,37b,237)を有し、前記ハウジング(40,140,240)は、前記フローティング部材の前記被支持部を前記駆動軸の軸方向にスライド可能に支持する支持部(41,141,241)を有する、
又は、
(B)前記フローティング部材(330)は、本体部材(331)と、前記本体部材の外周に取り付けられる、前記本体部材とは別部材の外周部材(332)とを有し、前記ハウジング(340)は、前記外周部材を前記駆動軸の軸方向にスライド可能に支持する、
スクロール圧縮機(100)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るスクロール圧縮機の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、下記の実施形態は実施例に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0023】
なお、方向や配置を説明するために、「上」、「下」等の表現を用いる場合があるが、特に断りの無い場合、
図1中の矢印Uの方向を上とする。
【0024】
また、以下の説明において、平行、直交、水平、垂直、同一等の表現を用いる場合があるが、これらの表現は、厳密な意味で平行、直交、水平、垂直、同一等の関係にある場合だけを意味するものではない。平行、直交、水平、垂直、同一等の表現は、実質的に平行、直交、水平、垂直、同一等の関係にある場合を含むものとする。
【0025】
<第1実施形態>
(1)全体構成
本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機100について説明する。スクロール圧縮機100は、いわゆる全密閉型圧縮機である。スクロール圧縮機100は、冷媒を吸入し、吸入した冷媒を圧縮して吐出する装置である。冷媒は、例えばHFC冷媒のR32である。なお、R32は冷媒の種類の例示に過ぎず、スクロール圧縮機100は、R32以外の冷媒を圧縮して吐出する装置であってもよい。
【0026】
スクロール圧縮機100は、冷凍装置に用いられる。スクロール圧縮機100は、例えば、空気調和装置の室外機に搭載され、空気調和装置の冷媒回路の一部を構成する。
【0027】
スクロール圧縮機100は、
図1に示されるように、ケーシング10、圧縮機構20、フローティング部材30、ハウジング40、シール部材60、モータ70、駆動軸80、及び下部軸受ハウジング90を主に有する。
【0028】
(2)詳細構成
スクロール圧縮機100の、ケーシング10、圧縮機構20、フローティング部材30、ハウジング40、シール部材60、モータ70、駆動軸80、及び下部軸受ハウジング90について以下に詳述する。
【0029】
(2−1)ケーシング
スクロール圧縮機100は、縦長円筒状のケーシング10を有する(
図1参照)。ケーシング10には、圧縮機構20、フローティング部材30、ハウジング40、シール部材60、モータ70、駆動軸80、及び下部軸受ハウジング90等の、スクロール圧縮機100を構成する各種部材を収容する(
図1参照)。
【0030】
ケーシング10の上部には、圧縮機構20が配置される。圧縮機構20の下方には、フローティング部材30及びハウジング40が配置されている(
図1参照)。ハウジング40の下方には、モータ70が配置されている。モータ70の下方には、下部軸受ハウジング90が配置されている(
図1参照)。ケーシング10の底部には、油溜空間11が形成されている(
図1参照)。油溜空間11には、圧縮機構20等を潤滑するための冷凍機油が溜められている。
【0031】
ケーシング10の内部は、第1空間S1と、第2空間S2とに仕切られている。ケーシング10の内部は、仕切板16により、第1空間S1と、第2空間S2とに仕切られている(
図1参照)。
【0032】
仕切板16は、平面視において環状に形成された板状の部材である。環状の仕切板16の内周側は、後述する圧縮機構20の固定スクロール21の上部と全周にわたって固定されている。また、仕切板16の外周側は、ケーシング10の内面と全周にわたって固定されている。仕切板16は、仕切板16より下側の空間と仕切板16より上側の空間との間で気密が保たれるように、固定スクロール21及びケーシング10と固定されている。仕切板16より下側の空間が第1空間S1で、仕切板16より上側の空間が第2空間S2である。
【0033】
第1空間S1は、モータ70が配置される空間である。第1空間S1は、スクロール圧縮機100がその一部を構成する空気調和装置の冷媒回路から、スクロール圧縮機100による圧縮前の冷媒が流入する空間である。言い換えれば、第1空間S1は、冷凍サイクルにおける低圧の冷媒が流入する空間である。第2空間S2は、圧縮機構20から吐出される冷媒(圧縮機構20により圧縮された冷媒)が流入する空間である。言い換えれば、第2空間S2は、冷凍サイクルにおける高圧の冷媒が流入する空間である。スクロール圧縮機100は、いわゆる低圧ドーム型のスクロール圧縮機である。
【0034】
ケーシング10には、吸入管13、吐出管14及びインジェクション管15が、ケーシング10の内部と外部とを連通するように取り付けられている(
図1参照)。
【0035】
吸入管13は、ケーシング10の上下方向における中間部に取り付けられている(
図1参照)。吸入管13は、ケーシング10の、ハウジング40とモータ70との間の高さ位置に取り付けられている。吸入管13は、ケーシング10の外部と、ケーシング10の内部の第1空間S1とを連通する。スクロール圧縮機100の第1空間S1には、吸入管13を通って、圧縮前の冷媒(冷凍サイクルにおける低圧の冷媒)が流入する。
【0036】
吐出管14は、ケーシング10の上部であって、仕切板16より上方に取り付けられている(
図1参照)。吐出管14は、ケーシング10の外部と、ケーシング10の内部の第2空間S2とを連通する。圧縮機構20により圧縮され、第2空間S2に流入した冷媒(冷凍サイクルにおける高圧の冷媒)は、吐出管14を通って、スクロール圧縮機100の外部に流出する。
【0037】
インジェクション管15は、ケーシング10の上部であって、仕切板16より下方に、ケーシング10を貫通するように取り付けられている(
図1参照)。インジェクション管15のケーシング10の内部側の端部は、
図1のように、後述する圧縮機構20の固定スクロール21に接続されている。インジェクション管15は、固定スクロール21に形成された図示しない通路を介して、後述する圧縮機構20の圧縮途中の圧縮室Scと連通している。インジェクション管15が連通する圧縮途中の圧縮室Scには、スクロール圧縮機100がその一部を構成する空気調和装置の冷媒回路から、冷凍サイクルにおける低圧と高圧との中間の圧力(中間圧)の冷媒が、インジェクション管15を介して供給される。
【0038】
(2−2)圧縮機構
圧縮機構20は、主に、固定スクロール21と、固定スクロール21と組み合わされて圧縮室Scを形成する可動スクロール22と、を有する。圧縮機構20は、圧縮室Scで冷媒を圧縮し、圧縮された冷媒を吐出する。圧縮機構20は、例えば、非対称ラップ構造の圧縮機構であるが、対称ラップ構造の圧縮機構であってもよい。
【0039】
(2−2−1)固定スクロール
固定スクロール21は、ハウジング40の上に戴置されている(
図1参照)。固定スクロール21とハウジング40とは、図示しない固定手段(例えばボルト)により固定されている。
【0040】
固定スクロール21は、
図1に示されるように、略円板状の固定側鏡板21aと、固定側鏡板21aの前面(下面)から可動スクロール22側に延びる渦巻状の固定側ラップ21bと、固定側ラップ21bを囲む周縁部21cと、を有する。
【0041】
固定側ラップ21bは、固定側鏡板21aの下面から、下方(可動スクロール22側)に突出する壁状の部材である。固定スクロール21を下方から見ると、固定側ラップ21bは、固定側鏡板21aの中心付近から外周側に向かって渦巻状(インボリュート形状)に形成されている。
【0042】
固定側ラップ21bと、後述する可動スクロール22の可動側ラップ22bとは、組み合わされて圧縮室Scを形成する。固定スクロール21と可動スクロール22とは、固定側鏡板21aの前面(下面)と後述する可動側鏡板22aの前面(上面)とが対向する状態で組み合わされ、固定側鏡板21aと、固定側ラップ21bと、可動側ラップ22bと、後述する可動スクロール22の可動側鏡板22aと、に囲まれた圧縮室Scを形成する(
図1参照)。通常の運転状態では、後述するように可動スクロール22が固定スクロール21に対して旋回すると、第1空間S1から周縁側の圧縮室Scに流入した冷媒(冷凍サイクルにおける低圧の冷媒)は、中央側の圧縮室Scへと移動するにつれ圧縮されて圧力が上昇する。
【0043】
固定側鏡板21aの略中心には、圧縮機構20により圧縮された冷媒を吐出する吐出ポート21dが、固定側鏡板21aを厚さ方向(上下方向)に貫通して形成されている(
図1参照)。吐出ポート21dは、圧縮機構20の中心側(最内側)の圧縮室Scと連通している。固定側鏡板21aの上方には、吐出ポート21dを開閉する吐出弁23が取り付けられている。吐出ポート21dが連通する最内側の圧縮室Scの圧力が、吐出弁23より上方の空間(第2空間S2)の圧力に比べて所定値以上大きくなった場合、吐出弁23が開き、吐出ポート21dから第2空間S2へ冷媒が流入する。
【0044】
また、固定側鏡板21aの吐出ポート21dより外周側に、リリーフ穴21eが、固定側鏡板21aを厚さ方向に貫通して形成されている(
図1参照)。リリーフ穴21eは、吐出ポート21dの連通する最内側の圧縮室Scよりも、外周側に形成される圧縮室Scと連通している。リリーフ穴21eは、圧縮機構20の圧縮途中の圧縮室Scと連通している。限定するものではないが、リリーフ穴21eは、固定側鏡板21aに複数形成されている。固定側鏡板21aの上方には、リリーフ穴21eを開閉するリリーフ弁24が取り付けられている。リリーフ穴21eが連通する圧縮室Scの圧力が、リリーフ弁24より上方の空間(第2空間S2)の圧力に比べて所定値以上大きくなった場合、リリーフ弁24が開き、リリーフ穴21eから第2空間S2へ冷媒が流入する。
【0045】
周縁部21cは、厚肉の円筒状に形成されている。周縁部21cは、固定側ラップ21bを取り囲むように、固定側鏡板21aの外周側に配置される(
図1参照)。
【0046】
(2−2−2)可動スクロール
可動スクロール22は、
図1に示されるように、略円板状の可動側鏡板22aと、可動側鏡板22aの前面(上面)から固定スクロール21側に延びる渦巻状の可動側ラップ22bと、可動側鏡板22aの背面(下面)から突出する円筒状に形成されたボス部22cと、を主に有する。
【0047】
可動側ラップ22bは、可動側鏡板22aの上面から、上方(固定スクロール21側)に突出する壁状の部材である。可動スクロール22を上方から見ると、可動側ラップ22bは、可動側鏡板22aの中心付近から外周側に向かって渦巻き状(インボリュート形状)に形成されている。
【0048】
可動側鏡板22aは、フローティング部材30の上方に配置されている。
【0049】
スクロール圧縮機100の運転中には、フローティング部材30は、フローティング部材30の下方に形成される背圧空間B(
図4参照)の圧力によって可動スクロール22に向かって押される。そして、後述するフローティング部材30の上部の押圧部34が可動側鏡板22aの背面(下面)に当接して、フローティング部材30は、可動スクロール22を固定スクロール21に向かって押し付ける。フローティング部材30が可動スクロール22を固定スクロール21に向かって押し付ける力により、可動スクロール22は固定スクロール21に密着し、固定側ラップ21bの歯先と可動側鏡板22aとの間の隙間や、可動側ラップ22bの歯先と固定側鏡板21aとの間の隙間からの冷媒の漏れが抑制される。
【0050】
なお、背圧空間Bは、フローティング部材30とハウジング40との間に形成される空間である。背圧空間Bは、主に、フローティング部材30の背面側(下方側)に形成される空間である(
図4参照)。背圧空間Bには、圧縮機構20の圧縮室Scの冷媒が導かれる。背圧空間Bは、背圧空間Bの周りの第1空間S1とはシールされた空間である(
図4参照)。通常、スクロール圧縮機100の運転中には、背圧空間Bの圧力は第1空間S1内の圧力よりも高い。
【0051】
可動スクロール22とフローティング部材30との間には、オルダム継手25が配置される(
図1参照)。オルダム継手25は、可動スクロール22の自転防止機構として機能する。オルダム継手25は、可動スクロール22及びフローティング部材30の両方と摺動自在に係合し、可動スクロール22の自転を規制して、可動スクロール22を固定スクロール21に対して公転させる。
【0052】
ボス部22cは、可動側鏡板22aにより上端の塞がれた円筒状部分である。ボス部22cは、周囲をフローティング部材30の内面によって囲まれた偏心部空間38に配置されている(
図1参照)。ボス部22cの中空部には、軸受メタル26が配置されている(
図1参照)。取付方法を限定するものではないが、軸受メタル26は、ボス部22cの中空部に圧入され固定されている。軸受メタル26には、駆動軸80の偏心部81が挿入されている。軸受メタル26に偏心部81が挿入されることで、可動スクロール22と駆動軸80とが連結される。
【0053】
(2−3)フローティング部材
フローティング部材30は、可動スクロール22の背面側(固定スクロール21の配置される側とは反対側)に配置される(
図1参照)。フローティング部材30は、背圧空間Bの圧力によって可動スクロール22に向かって押されて、可動スクロール22を固定スクロール21に向かって押し付ける部材である。また、フローティング部材30は、その一部が駆動軸80を軸支する軸受としても機能する。
【0054】
フローティング部材30は、主に、円筒部30aと、押圧部34と、突出部30bと、上部軸受ハウジング31と、を有する(
図1、
図2及び
図5参照)。
【0055】
円筒部30aは、概ね円筒状に形成されている。円筒部30aの中空部には、円筒部30aの内面により囲まれた偏心部空間38が形成される(
図1参照)。偏心部空間38には、可動スクロール22のボス部22cが配置される(
図1参照)。
【0056】
押圧部34は、概ね円筒状に形成された部材である。押圧部34は、円筒部30aから可動スクロール22に向かって延びる。押圧部34の上端部のスラスト面34a(
図4参照)は、可動スクロール22の可動側鏡板22aの背面と対向する。スラスト面34aは、
図2のように平面視においてリング状に形成されている。フローティング部材30が、背圧空間Bの圧力によって可動スクロール22に向かって押されると、スラスト面34aが可動側鏡板22aの背面に当接し、可動スクロール22を固定スクロール21に向かって押し付ける。
【0057】
なお、スクロール圧縮機100の運転時には、可動スクロール22に作用する力によって可動側鏡板22aが水平面に対して傾く場合がある。このような場合にスラスト面34aと可動側鏡板22aとの片当たりを抑制するためには、スラスト面34aが可動側鏡板22aの傾きに追従して傾くことが好ましい。そのため、ここでは、押圧部34の内面に、全周にわたって弾性溝35が形成されている(
図4参照)。弾性溝35は、押圧部34の根元部(円筒部30aとの接続部付近)に形成されている。
【0058】
なお、弾性溝35を設けるにあたっては、スラスト面34aの径方向の厚みT(
図3参照)、スラスト面34aから弾性溝35までの駆動軸80の軸方向(ここでは上下方向)の距離L(
図3参照)、弾性溝35の径方向の深さD(
図3参照)との間に、以下の式(1)の関係があることが好ましい。式(1)の関係が成り立つことで、スラスト面34aを可動側鏡板22aの傾きに追従させることが特に容易となる。
【0059】
(D/T)
2/(L/T)
3≦0.6 (1)
突出部30bは、円筒部30aの外周縁から径方向外向きに延びる平板状部材である(
図2参照)。フローティング部材30は、複数の突出部30bを有する。各突出部30bには、駆動軸80を軸方向(上下方向)に貫通する孔37が形成されている(
図2参照)。各孔37には、被支持部の一例としてのブッシュ37aが配置される(
図1参照)。ブッシュ37aは、フローティング部材30を駆動軸80の軸方向に見た時に(ここでは平面視において)、周方向に複数配置される。フローティング部材30のブッシュ37aは、ハウジング40の支持部41により、駆動軸80の軸方向にスライド可能に支持される。
【0060】
支持部41は、ボルト42を含む(
図1及び
図5参照)。ブッシュ37aには、ボルト42が挿通されている。ボルト42は、後述するハウジング40のハウジング本体44に形成されたネジ穴44aにねじ込まれ、ハウジング本体44に固定されている。フローティング部材30に、可動スクロール22に向かう方向に又は可動スクロール22から遠ざかる方向に力が作用すると、各ブッシュ37aは、そのブッシュ37aに挿通されているボルト42に対して摺動し、その結果、フローティング部材30が駆動軸80の軸方向に移動する。なお、フローティング部材30に作用する力の方向は、背圧空間Bの圧力によりフローティング部材30が押される力、圧縮室Scの圧力が可動スクロール22をフローティング部材30に向かって押す力、可動スクロール22及びフローティング部材30に作用する重力等のバランスで、決定される。
【0061】
なお、本実施形態では、フローティング部材30は、フローティング部材30の中心周りに等角度間隔で配置された、4つの突出部30bを有するが、突出部30bの数は、例示であって4つに限定されるものではない。突出部30bの数は、適宜決定されればよい。ただし、フローティング部材30の傾きを防止するという観点からは、フローティング部材30は、突出部30bを3つ以上有することが好ましい。
【0062】
上部軸受ハウジング31は、円筒部30aの下方(偏心部空間38の下方)に配置されている。上部軸受ハウジング31は、概ね円筒状に形成されている(
図1参照)。上部軸受ハウジング31の内部には、軸受メタル32が配置されている。軸受メタル32は、軸受の一例である。取付方法を限定するものではないが、軸受メタル32は、上部軸受ハウジング31の中空部に圧入され固定されている。軸受メタル32には、駆動軸80の主軸82が挿通されている。上部軸受ハウジング31の軸受メタル32は、駆動軸80の主軸82を回転自在に軸支する。
【0063】
なお、可動スクロール22に作用する力等の影響で駆動軸80の主軸82が傾いた場合であっても、軸受メタル32が主軸82に片当たりすることを抑制するため、上部軸受ハウジング31は、主軸82の傾きに追従して傾くことが好ましい。そのため、ここでは、円筒部30aと上部軸受ハウジング31との接続部に、上部軸受ハウジング31を囲むように環状の弾性溝36が形成されている(
図4参照)。
【0064】
なお、フローティング部材30が、可動スクロール22を固定スクロール21に向かって押すように構成されているだけではなく、上部軸受ハウジング31を有し駆動軸80の軸受としても機能することで、以下の様な効果を有する。
【0065】
フローティング部材30が可動スクロール22から力を受けると、この力により、フローティング部材30には、フローティング部材30を支持しているブッシュ37a周りにモーメントが作用する。これに対し、フローティング部材30が上部軸受ハウジング31を有することで、可動スクロール22から作用する力により生じるブッシュ37a周りのモーメントが、上部軸受ハウジング31が受ける力によるブッシュ37a周りのモーメントにより相殺されやすい。
【0066】
なお、このような効果を得られやすくするためには、駆動軸80の軸方向における、軸受メタル32の中心からブッシュ37aの中心までの距離A2に対する、ブッシュ37aの中心から可動側ラップ22bの中心までの距離A1の比(A2/A1)は、0.5以上1.5以下であることが好ましい(
図1参照)。より好ましくは、駆動軸80の軸方向における、軸受メタル32の中心からブッシュ37aの中心までの距離A2に対する、ブッシュ37aの中心から可動側ラップ22bの中心までの距離A1の比(A2/A1)は、0.7以上1.3以下であることが好ましい。
【0067】
ただし、フローティング部材30の構成は例示であって、フローティング部材30は、可動スクロール22を固定スクロール21に向かって押す機能だけを有するものであってもよい。そして、例えば、フローティング部材30の代わりに、ハウジング40に駆動軸80の軸受として機能を持たせてもよい。
【0068】
(2−4)ハウジング
ハウジング40は、固定スクロール21の下方に配置されている(
図1参照)。ハウジング40には、固定スクロール21が図示しないボルト等により固定されている。また、ハウジング40は、フローティング部材30の下方に配置される(
図1参照)。ハウジング40は、フローティング部材30を支持する。ハウジング40とフローティング部材30との間には背圧空間Bが形成される(
図4及び
図5参照)。
【0069】
ハウジング40は、ハウジング本体44と、支持部41と、を有する(
図1参照)。
【0070】
ハウジング本体44は、概ね円筒状に形成された部材である。ハウジング本体44は、ケーシング10の内面に取り付けられている。固定方法を限定するものではないが、ハウジング本体44は、圧入によりケーシング10の内面に取り付けられている。
【0071】
支持部41は、フローティング部材30に配置された(突出部30bの孔37に配置された)ブッシュ37aを、駆動軸80の軸方向(上下方向)にスライド自在に支持する。支持部41は、ボルト42を含む(
図1及び
図5参照)。ブッシュ37aには、ボルト42が挿通されている。ボルト42は、ハウジング本体44に形成されたネジ穴44aにねじ込まれ、ハウジング本体44に固定されている。フローティング部材30に、可動スクロール22に向かう方向に又は可動スクロール22から遠ざかる方向に力が作用すると、フローティング部材30のブッシュ37aはボルト42に対して摺動し、その結果、フローティング部材30が駆動軸80の軸方向に移動する。
【0072】
(2−5)シール部材
シール部材60(
図1参照)は、フローティング部材30とハウジング40との間に背圧空間Bを形成するための部材である。また、シール部材60は、背圧空間Bを、第1室B1と第2室B2とに区画する部材である(
図4参照)。本実施形態では、第1室B1及び第2室B2は、平面視において概ね円環状に形成されている空間である。第2室B2は、第1室B1の内側に配置される。平面視において、第1室B1の面積は、第2室B2の面積に比べて大きい。
【0073】
第1室B1は、圧縮途中の圧縮室Scと、第1流路64を介して連通している。第1流路64は、圧縮機構20における圧縮途中の冷媒を第1室B1に導く冷媒流路である。第1流路64は、固定スクロール21及びハウジング40にわたって形成されている。第2室B2は、固定スクロール21の吐出ポート21dと、第2流路65を介して連通している。第2流路65は、圧縮機構20から吐出された冷媒を第2室B2に導く冷媒流路である。第2流路65は、固定スクロール21及びハウジング40にわたって形成されている。
【0074】
上記のように構成されることで、スクロール圧縮機100の運転中、通常であれば、第2室B2の圧力が第1室B1の圧力より高くなる。ここでは、平面視において、第1室B1の面積が第2室B2の面積に比べて大きいので、背圧空間Bによる可動スクロール22の固定スクロール21への押付力が過大になりにくい。また、圧縮室Scの圧力は、通常、内側ほど大きくなるので、通常圧力の高い第2室B2を、第1室B1よりも内側に配置することで、圧縮室Scの圧力により可動スクロール22が下方に押されると力と、フローティング部材30が可動スクロール22を上方に押す力とが、バランスしやすい。
【0075】
シール部材60には、第1シール部材61と、第2シール部材62と、第3シール部材63と、を含む(
図1参照)。
【0076】
第2シール部材62及び第3シール部材63は、限定するものではないが、ここではOリングである。Oリングは、断面が円形状の、環状のガスケットである。第2シール部材62及び第3シール部材63は、例えば合成樹脂製である。なお、第2シール部材62及び第3シール部材63の材質は、使用温度や、第2シール部材62及び第3シール部材63が接触する冷凍機油や冷媒の種類等に応じて適宜決定されればよい。
【0077】
第2シール部材62は、フローティング部材30の円筒部30aの外側面に形成された環状溝に配置される(
図4参照)。環状溝が配置される円筒部30aの外側面は、ハウジング40のハウジング本体44の内側面と対向する。第3シール部材63は、ハウジング本体44の内側面に形成された環状溝に配置される(
図4参照)。環状溝が配置されるハウジング本体44の内側面は、フローティング部材30の、円筒部30aと上部軸受ハウジング31との接続部に対向する。なお、ここでは、第2シール部材62は、フローティング部材30に形成された環状溝に配置されるが、これに代えてハウジング40に形成された環状溝に配置されてもよい。また、ここでは、第3シール部材63は、ハウジング40に形成された環状溝に配置されるが、これに代えてフローティング部材30に形成された環状溝に配置されてもよい。
【0078】
フローティング部材30とハウジング40との間には、第2シール部材62及び第3シール部材63により背圧空間Bが形成される(
図4参照)。つまり、第2シール部材62及び第3シール部材63は、背圧空間Bと第1空間S1とを気密を保つようにシールする。特に、第2シール部材62は、背圧空間Bの第1室B1と第1空間S1とをシールする。特に、第3シール部材63は、背圧空間Bの第2室B2と第1空間S1とをシールする。
【0079】
第1シール部材61は、背圧空間Bを第1室B1と第2室B2とに区画する部材である。第1室B1と第2室B2とは、第1シール部材61を挟んで隣接する(
図4参照)。
【0080】
第1シール部材61は、フローティング部材30の、フローティング部材30の移動方向(駆動軸80の軸方向、ここでは上下方向)と直交する面に形成された収容溝33に収容されている(
図4参照)。収容溝33は、フローティング部材30の円筒部30aの底面に形成されている。フローティング部材30の円筒部30aの底面は、ハウジング40のハウジング本体44の上面と対向する面である。なお、ここでは、フローティング部材30に収容溝33が形成されるが、これに代えて、ハウジング40のハウジング本体44の、フローティング部材30の移動方向と直交する面に、第1シール部材61が収容される収容溝が形成されてもよい。
【0081】
第1シール部材61は、断面がU字形状の(
図6に参照)、環状のガスケットである。
【0082】
第1シール部材61の構造について説明する。第1シール部材61は、断面がU字形状の、環状のU字シール61aと、板バネ61bと、を含む(
図6参照)。U字シール61aは、例えば合成樹脂製である。板バネ61bは、例えば金属製である。板バネ61bは、U字シール61aと同様に、断面がU字形状に形成されている。板バネ61bは、U字シール61aと同様に環状の部材であってもよいし、U字シール61aの内部の数箇所に配置される非連続な(非環状の)部材であってもよい。板バネ61bは、U字シール61aの内部に、U字シール61aと同方向に開口するような姿勢で配置されている(
図6参照)。板バネ61bは、U字シール61aを押し広げるように、U字シール61aをフローティング部材30に対して付勢する。
【0083】
第1シール部材61は、U字の開口部分が広がるように、又、U字の開口部分が狭まるように変形可能なガスケットである。第1シール部材61は、上記のように、開口を側方に向けた状態で収容溝33に収容されているので、フローティング部材30の移動に追随して寸法が変化する。
【0084】
スクロール圧縮機100が運転されておらず、ケーシング10の内部全体が概ね同一圧力である状態では、第1シール部材61は、可動スクロール22及びフローティング部材30の重みで上方から押されている状態にある。この状態では、第1シール部材61のU字の開口部分は、第1シール部材61に力が作用していない場合に比べて狭まった状態にある。ただし、このような状態でも、第1シール部材61は、可動スクロール22及びフローティング部材30の重みで押し潰された状態にあるのではなく、板バネ61bが、U字シール61aをフローティング部材30に対して付勢している状態にある。
【0085】
U字状の断面を有する第1シール部材61は、開口を側方に向けた状態で、フローティング部材30の収容溝33に収容される。特に、第1シール部材61は、開口を内周側に向けた状態で、フローティング部材30の収容溝33に収容される。つまり、第1シール部材61は、開口を第2室B2側に向けた状態で、フローティング部材30の収容溝33に収容される。このような姿勢で、第1シール部材61が収容溝33に形成されることで、第1シール部材61は以下の様に機能する。
【0086】
上述したように、通常、内側の第2室B2内の圧力は、外側の第1室B1の圧力より高くなる。第2室B2の圧力が第1室B1の圧力より高いと、第1シール部材61は開口が開くように変形するので、第2室B2から第1室B1への冷媒の流れはシールされる。そのため、第1室B1及び第2室B2が共に比較的高圧の(圧縮機構20から吐出される冷媒と同じ圧力の)空間になることを防止できる。そのため、背圧空間Bによる可動スクロール22の固定スクロール21への押付力が過大になりにくい。
【0087】
なお、前述のように、通常は、内側の第2室B2内の圧力が外側の第1室B1の圧力より高くなるものの、運転条件によれば(例えば、冷凍サイクルにおける低圧の圧力が比較的高い場合には)、圧縮途中の圧縮室Scの圧力が(最内側の圧縮室Scよりも外周側の圧縮室Scの圧力が)、最内側の圧縮室Scの圧力よりも高くなる場合がある。この時、外側の第1室B1の圧力は、内側の第2室B2内の圧力より高くなる。第1室B1の圧力が第2室B2の圧力より高い場合には、第1シール部材61は、その構造上、第1室B1から第2室B2への冷媒の流れをシールしない。その結果、圧縮途中の圧縮室Scの圧力を、第1室B1、第2室B2を介して圧縮機構から吐出された冷媒が流入する空間(第2空間S2)へと逃がすことができる。そのため、圧縮機構20に液圧縮等により過大な圧力が作用することや、背圧空間Bの圧力増大により可動スクロール22の固定スクロール21への押付力が過大となること等を防止することができる。
【0088】
(2−6)モータ
モータ70は、可動スクロール22を駆動する。モータ70は、ケーシング10の内壁面に固定された環状のステータ71と、ステータ71の内側に僅かな隙間(エアギャップ)を空けて回転自在に収容されたロータ72とを有する(
図1参照)。
【0089】
ロータ72は、円筒状の部材で、内部に駆動軸80が挿通されている。ロータ72は、駆動軸80を介して可動スクロール22と連結されている。ロータ72が回転することで、モータ70は、可動スクロール22を駆動し、可動スクロール22を固定スクロール21に対して旋回させる。
【0090】
(2−7)駆動軸
駆動軸80は、モータ70のロータ72と、圧縮機構20の可動スクロール22とを連結する。駆動軸80は、上下方向に延びる。駆動軸80は、モータ70の駆動力を可動スクロール22に伝達する。
【0091】
駆動軸80は、偏心部81と、主軸82と、を主に有する(
図1参照)。
【0092】
偏心部81は、主軸82の上端に配置されている。偏心部81の中心軸は、主軸82の中心軸に対して偏心している。偏心部81は、可動スクロール22のボス部22cの内部に配置された軸受メタル26に連結される。
【0093】
主軸82は、フローティング部材30に設けられた上部軸受ハウジング31に配置された軸受メタル32、及び後述する下部軸受ハウジング90に配置された軸受メタル91により、回転自在に軸支される。また、主軸82は、上部軸受ハウジング31と下部軸受ハウジング90との間で、モータ70のロータ72に挿通され連結される。主軸82は、上下方向に延びる。
【0094】
駆動軸80には、図示しない油通路が形成されている。油通路は、主経路(図示せず)と、分岐経路(図示せず)と、を有する。主経路は、駆動軸80の下端から上端まで、駆動軸80を軸方向に延びる。分岐経路は、主経路から、駆動軸80の径方向に延びる。油溜空間11の冷凍機油は、駆動軸80の下端に設けられたポンプ(図示せず)により汲み上げられ、油経路を通って、駆動軸80と軸受メタル26,32,91との摺動部や、圧縮機構20の摺動部等に供給される。
【0095】
(2−8)下部軸受ハウジング
下部軸受ハウジング90(
図1参照)は、ケーシング10の内面に固定されている。下部軸受ハウジング90(
図1参照)は、モータ70の下方に配置される。下部軸受ハウジング90は、略円柱状の中空部を有する。中空部には、軸受メタル91が配置されている。取付方法を限定するものではないが、軸受メタル91は、下部軸受ハウジング90の中空部に、圧入により固定される。軸受メタル91には、駆動軸80の主軸82が挿通されている。軸受メタル91は、駆動軸80の主軸82の下部側を回転自在に軸支する。
【0096】
(3)スクロール圧縮機の動作
スクロール圧縮機100の動作について説明する。なお、ここでは、通常状態(圧縮機構20の吐出ポート21dから吐出される冷媒の圧力が、圧縮途中の圧縮室Scの圧力よりも高い状態)のスクロール圧縮機100の動作について説明する。
【0097】
モータ70が駆動されると、ロータ72が回転し、ロータ72と連結された駆動軸80も回転する。駆動軸80が回転すると、オルダム継手25の働きにより、可動スクロール22は自転せずに、固定スクロール21に対して公転する。そして、吸入管13から第1空間S1に流入した冷凍サイクルにおける低圧の冷媒が、ハウジング40に形成された冷媒通路(図示せず)を通過して、圧縮機構20の周縁側の圧縮室Scに吸入される。可動スクロール22が公転するのに従い、第1空間S1と圧縮室Scとは連通しなくなる。そして、可動スクロール22が公転し、圧縮室Scの容積が減少するのに伴って、圧縮室Scの圧力が上昇する。また、圧縮途中の圧縮室Scには、インジェクション管15から冷媒がインジェクションされる。冷媒は、周縁側(外側)の圧縮室Scから、中央側(内側)の圧縮室Scへ移動するにつれ圧力が上昇し、最終的に冷凍サイクルにおける高圧となる。圧縮機構20によって圧縮された冷媒は、固定側鏡板21aの中央付近に位置する吐出ポート21dから第2空間S2に吐出される。第2空間S2の冷凍サイクルにおける高圧の冷媒は、吐出管14から吐出される。
【0098】
(4)特徴
(4−1)
本実施形態のスクロール圧縮機100は、圧縮機構20と、モータ70と、駆動軸80と、フローティング部材30と、ハウジング40と、を備える。圧縮機構20は、固定スクロール21と、可動スクロール22と、を有する。固定スクロール21は、渦巻状の固定側ラップ21bを含む。可動スクロール22は、固定側ラップ21bと組み合わされて圧縮室Scを形成する渦巻状の可動側ラップ22bを含む。圧縮機構20は、圧縮室Scで圧縮された冷媒を吐出する。モータ70は、可動スクロール22を駆動し、可動スクロール22を固定スクロール21に対して旋回させる。駆動軸80は、可動スクロール22とモータ70とを連結する。フローティング部材30は、背圧空間Bの圧力によって可動スクロール22に向かって押されて、可動スクロール22を固定スクロール21に向かって押し付ける。ハウジング40は、フローティング部材30を支持する。ハウジング40と、フローティング部材30との間に背圧空間Bが形成される。フローティング部材30は、周方向に複数配置される被支持部(ブッシュ37a)を有する。ハウジング40は、支持部41を有する。支持部41は、フローティング部材30の被支持部(ブッシュ37a)を駆動軸80の軸方向にスライド可能に支持する。
【0099】
本実施形態のスクロール圧縮機100では、フローティング部材30の外周側面がハウジング40の内周側面に支持されるのではなく、フローティング部材30に設けられた複数の被支持部(ブッシュ37a)が対応するハウジング40側の支持部41により支持される。そして、被支持部(ブッシュ37a)及び支持部41の精度(加工精度や取付精度)を確保することは、フローティング部材30の外周全体の精度を確保する場合に比べて比較的容易である。そのため、スクロール圧縮機100では、フローティング部材30の傾きを抑制可能で、かつ、組立・製造の工数を抑制可能である。
【0100】
(4−2)
本実施形態のスクロール圧縮機100では、被支持部は、フローティング部材30に配置されたブッシュ37aである。支持部41は、ブッシュ37aに挿通されるボルト42を含む。
【0101】
本実施形態のスクロール圧縮機100では、被支持部のブッシュ37aの軸線と支持部41のボルト42の軸線とが一致していない場合でも、ボルト42をブッシュ37aに無理なく取り付けることができる。そのため、スクロール圧縮機100の組立性を向上させることができる。
【0102】
(4−3)
本実施形態のスクロール圧縮機100では、フローティング部材30は、駆動軸80を軸支する軸受メタル32(軸受)を有する。駆動軸80の軸方向における、軸受メタル32の中心からブッシュ37aの中心までの距離A2に対する、ブッシュ37aの中心から可動側ラップ22bの中心までの距離A1の比(A1/A2)は、0.5以上1.5以下である。
【0103】
本実施形態のスクロール圧縮機100では、ブッシュ37a周りの回転モーメントを相殺して、フローティング部材30の可動スクロール22に対する傾きを抑制することができる。そのため、スクロール圧縮機100では、ラップ先端とスクロールの鏡板との隙間からの冷媒の漏れを抑えて、効率のよいスクロール圧縮機を実現できる。
【0104】
(4−4)
本実施形態のスクロール圧縮機100では、フローティング部材30は、円筒状の押圧部34を有する。押圧部34は、可動スクロール22に向かって延びる。押圧部34は、その端部に可動スクロール22と当接するスラスト面34aを有する。押圧部34には、内面に全周にわたって弾性溝35が形成されている。スラスト面34aの径方向の厚みT、スラスト面34aから弾性溝35までの駆動軸80の軸方向の距離L、弾性溝35の径方向の深さDは、(D/T)
2/(L/T)
3≦0.6の関係を満たす。
【0105】
本実施形態のスクロール圧縮機100では、可動スクロール22の傾きに、フローティング部材30のスラスト面34aの傾きを追従させることができる。そのため、可動スクロール22とフローティング部材30のスラスト面34aとの片当たりの発生を抑えることができる。
【0106】
(5)変形例
以下に第1実施形態の変形例を示す。なお、以下の変形例は、互いに矛盾しない範囲で適宜組み合わされてもよい。
【0107】
(5−1)変形例A
上記実施形態のスクロール圧縮機100は、圧縮機構20から冷媒が吐出される高圧空間(第2空間S2)と、圧縮機構20を駆動するモータ70が配置される低圧空間(第1空間S1)とに分けられている、いわゆる低圧ドーム型のスクロール圧縮機である。ただし、本発明に係るスクロール圧縮機は、低圧ドーム型のスクロール圧縮機に限定されるものではない。上記実施形態の、支持部41によりフローティング部材30を摺動自在に支持する構造は、いわゆる高圧ドーム型のスクロール圧縮機に適用されてもよい。
【0108】
(5−2)変形例B
上記実施形態のスクロール圧縮機100では、第1室B1が第2室B2より外側に配置されるが、これに限定されるものではない。第2室B2が第1室B1より外側に配置されてもよい。しかし、可動スクロール22を固定スクロール21に適切な力で押し付けるという観点からは、第2室B2を第1室B1よりも内側に配置することが好ましい。
【0109】
(5−3)変形例C
上記実施形態のスクロール圧縮機100では、平面視において、第1室B1の面積が第2室B2の面積よりも大きいが、これに限定されるものではない。平面視において、第2室B2の面積が、第1室B1の面積より大きくてもよい。しかし、可動スクロール22の固定スクロール21への押付力が過大になることを防止するという観点からは、第1室B1の面積を、第2室B2の面積に比べて大きくすることが好ましい。
【0110】
(5−4)変形例D
上記実施形態のスクロール圧縮機100では、背圧空間Bは、第1室B1及び第2室B2に区画されるが、これに限定されるものではない。背圧空間Bは、圧縮機構20による圧縮途中の冷媒が導かれる、又は、圧縮機構20から吐出された冷媒が導かれる、区画されていない空間であってもよい。
【0111】
(5−5)変形例E
上記実施形態のスクロール圧縮機100は、駆動軸80が垂直方向に延びる縦型のスクロール圧縮機であるが、これに限定されるものではない。スクロール圧縮機の駆動軸が水平方向に延びる横型のスクロール圧縮機にも、本願発明の構成は適用可能である。
【0112】
(5−6)変形例F
上記実施形態では、ボルト42を含むハウジング40の支持部41が、被支持部としてのフローティング部材30に配置されるブッシュ37aを、駆動軸80の軸方向にスライド可能に支持する。しかし、被支持部及び支持部の構成は、これに限定されるものではない。
【0113】
例えば、被支持部は、
図7のように、フローティング部材130に設けられた複数のリング部37bであってもよい。リング部37bは、例えば、孔37の形成された突出部30bである。また、例えば、ハウジング140の支持部141は、
図7のように、リング部37b(例えば、突出部30bに形成された孔37)に挿通される複数の規制ピン142を含むものであってもよい。そして、規制ピン142を含むハウジング140の支持部141が、被支持部としてのフローティング部材130のリング部37bを、駆動軸80の軸方向にスライド可能に支持してもよい。なお、このように構成される場合、駆動軸80の軸方向における、軸受メタル32の中心からリング部37bの中心(孔37の中心)までの距離A1に対する、リング部37bの中心から可動側ラップ22bの中心までの距離A2の比(A2/A1)は、好ましくは0.5以上1.5以下であり、より好ましくは0.7以上1.3以下である(
図7参照)。
【0114】
また、例えば、被支持部は、
図8のように、フローティング部材230の各突出部30bに形成された凹部237であってもよい。また、例えば、ハウジング240の支持部241は、
図8のように、ハウジング240の本体部244に設けられ、凹部237に嵌合する、上方に突出する凸部242であってもよい。そして、ハウジング240の凸部242が、被支持部としてのフローティング部材230の凹部237を、駆動軸80の軸方向にスライド可能に支持してもよい。なお、このように構成される場合、駆動軸80の軸方向における、軸受メタル32の中心から凹部237の中心までの距離(A2)に対する、凹部237の中心から可動側ラップ22bの中心までの距離(A1)の比(A2/A1)は、好ましくは0.5以上1.5以下であり、より好ましくは0.7以上1.3以下である。
【0115】
なお、図示は省略するが、フローティング部材230に被支持部としての凸部が、ハウジング240に支持部としての凹部が形成されてもよい。
【0116】
これらの構成を用いる場合、比較的単純な構造でフローティング部材130,230の傾きを抑制でき、組立・製造の工数を抑制可能なスクロール圧縮機を提供できる。
【0117】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係るスクロール圧縮機について説明する。第2実施形態に係るスクロール圧縮機は、フローティング部材330の構造及び、ハウジング340によるフローティング部材330の支持方法を除いて第1実施形態と同様である。そのため、ここでは、フローティング部材330の構造及び、ハウジング340によるフローティング部材330の支持方法について主に説明する。
【0118】
フローティング部材330は、本体部材331と、本体部材331の外周に取り付けられる外周部材332と、を有する。
【0119】
本体部材331は、第1実施形態におけるフローティング部材30から突出部30bを無くした構成である。本体部材331についての説明は省略する。
【0120】
外周部材332は、本体部材331とは別部材である。外周部材332は、平板状かつ環状の部材である。外周部材332は、図示しない固定手段(例えば図示しないボルト)により本体部材331と固定される。
【0121】
ハウジング340は、外周部材332の外周を囲むように形成されている。ハウジング340の内周面は、外周部材332を駆動軸80の軸方向にスライド可能に支持する。
【0122】
この様に構成する効果について説明する。
【0123】
例えば、本体部材331と外周部材332とを互いに別部材とせず、一体に形成した場合、フローティング部材のスクロール圧縮機100への組付後に、フローティング部材の外周部にひずみ等が生じる場合がある。このようなひずみが生じると、フローティング部材の外周面と、ハウジング340の内周面とが片当たりする等の問題が発生しやすい。フローティング部材の外周面と、ハウジング340の内周面との隙間を大きく確保すると、片当たりを避けることはできるが、この場合にはフローティング部材の支持が不十分となりやすく、フローティング部材330が上下に移動する時に傾きやすい。そのため、フローティング部材330による可動スクロール22の押し付けが不均一になりやすい。
【0124】
一方、本実施形態のように本体部材331と外周部材332とを別部材とすることで、本体部材331のスクロール圧縮機100への組付後に、外周部材332を本体部材331に取り付けることができる。そのため、例えば、本体部材331の組付時に本体部材331にひずみ等が生じたとしても、外周部材332の精度(真円度等)は確保可能である。そのため、本実施形態のように構成されることで、フローティング部材330の傾きを抑制可能で、かつ組立・製造の工数を抑制可能なスクロール圧縮機100を提供できる。
【0125】
なお、本実施形態のように構成される場合には、駆動軸80の軸方向における、軸受メタル32の中心から外周部材332の中心までの距離に対する、外周部材332の中心から可動側ラップ22bの中心までの距離の比は、好ましくは0.5以上1.5以下であり、より好ましくは0.7以上1.3以下である。
【0126】
以上の第2実施形態のスクロール圧縮機には、互いに矛盾しない範囲で、第1実施形態の変形例と組み合わされてもよい。
【課題】フローティング部材により可動スクロールを固定スクロールに押し付けるスクロール圧縮機であって、フローティング部材の傾きを抑制でき、組立・製造の工数を抑制できるスクロール圧縮機を提供する。
【解決手段】スクロール圧縮機100は、圧縮機構20、可動スクロール22を駆動するモータ70、可動スクロールとモータとを連結する駆動軸80、可動スクロールを固定スクロール21に押し付けるフローティング部材30、及びフローティング部材を支持するハウジング40を備える。スクロール圧縮機では、(A)フローティング部材は周方向に複数配置されるブッシュ37aを有し、ハウジングの支持部41がブッシュを駆動軸の軸方向にスライド可能に支持する、又は、(B)フローティング部材は、本体部材と、その外周に取り付けられる本体部材とは別部材の外周部材とを有し、ハウジングは外周部材を駆動軸の軸方向にスライド可能に支持する。