【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) 集会名 :輻射科学研究会 開催日 :平成28年6月14日 (2) 集会名 :公益財団法人輻射科学研究会創立70周年記念シンポジウム 開催日 :平成28年9月2日 (3) 発行者 :電子情報通信学会 刊行物 :電子情報通信学会技術研究報告,AP2016−105 発行日 :平成28年9月8日 (4) 集会名 :電子情報通信学会 アンテナ・伝播研究会 開催日 :平成28年9月16日 (5) 集会名 :エンジニアリングシンポジウム2016 開催日 :平成28年10月21日
【文献】
牧野 克省 他,SSPS(宇宙太陽光発電システム)の実現に向けた高精度マイクロ波ビーム方向制御装置の開発とその技術実証試験,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.115 No.91,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2015年 6月18日,Vol.115,No.91,第37頁−第42頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パイロット信号制御手段は、前記受電側アレーアンテナの各素子アンテナで受信した前記電力波の振幅および位相の情報に基づいて前記パイロット信号の送信方向を修正する手段を備える、
請求項1に記載の電力伝送システム。
前記受電側アレーアンテナの前記複数の素子アンテナ、および前記送電側アレーアンテナの前記複数の素子アンテナは、それぞれに接続される給電回路により、直交関係にある2つの偏波面の電磁波で励振され、または前記2つの偏波面の電磁波を励振し、
前記パイロット信号制御手段は、第1偏波面で偏波された前記パイロット信号を前記受電側アレーアンテナから送信し、
前記送電側素子アンテナ回路は、前記第1偏波面に直交する第2偏波面で偏波された前記電力波を前記送電側アレーアンテナから送電する、
請求項1または2に記載の電力伝送システム。
前記受電側アレーアンテナの前記複数の素子アンテナ、および前記送電側アレーアンテナの前記複数の素子アンテナは、それぞれに接続される給電回路により、直交関係にある2つの偏波面の電磁波で励振され、または前記2つの偏波面の電磁波を励振し、
前記パイロット信号制御手段は、第1旋回方向に偏波されたパイロット信号を前記受電側アレーアンテナから送信し、
前記送電側素子アンテナ回路は、前記第1旋回方向とは逆旋回である第2旋回方向に偏波された前記電力波を前記送電側アレーアンテナから送電する、
請求項1または2に記載の電力伝送システム。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[電力伝送システム全体の構成]
図1Aは第1の実施形態に係る電力伝送システム1を含む洋上再生エネルギー電力収集用商用伝送システムの構成図である。
図1Bは第1の実施形態に係る送電局200の構成を示す図である。
【0034】
電力伝送システム1は、洋上に設けられた、マイクロ波帯の電力波を送電する送電局200と、陸上でその電力波を受電する受電局100とを備える。送電局200は、複数の素子アンテナが配列された送電側アレーアンテナ221とマイクロ波ミラー210とを備える。同様に、受電局100は、複数の素子アンテナが配列された受電側アレーアンテナ111とマイクロ波ミラー110とを備える。送電側アレーアンテナ221は鉛直方向に電力波を送出し、マイクロ波ミラー210はその電力波を90°反射して水平方向(海面に平行な方向)に導く。受電局のマイクロ波ミラー110は上記電力波を90°反射して受電側アレーアンテナ111に導く。
【0035】
図1Bに表れているように、送電側アレーアンテナ221は、配列された複数の素子アンテナ21を備えている。同様に、受電側アレーアンテナ111も、配列された複数の素子アンテナを備えている。
【0036】
後に詳述するように、受電局100は、受電側アレーアンテナ111の複数の素子アンテナの励振振幅および位相を制御することでビーム形成されたパイロット信号(ビームパイロット信号)を受電側アレーアンテナ111から送信するパイロット信号制御手段と、送電側アレーアンテナ221から送電された電力波を受電する受電回路と、を備える。また、送電局200は、送電側アレーアンテナ221の複数の素子アンテナが上記パイロット信号を受信することによる励振信号を位相反転増幅し、当該素子アンテナを駆動することで、電力波を送電する送電側素子アンテナ回路を備える。
【0037】
浮体式洋上風力発電施設300は、洋上で風力発電を行い、送電局200はその電力を電力波を介して受電局100へ伝送する。受電局100に比較的近い場所に、電力伝送システム1用の管理棟410および変電施設420が設けられている。変電施設420は受電局で受電された電力を昇圧して送電線を介して電力系統へ送電する。
【0038】
図2(A)は本実施形態の電力伝送システムにおけるビームパイロット信号と電力波との関係を示す図であり、
図2(B)は比較例の電力伝送システムにおけるパイロット信号と電力波との関係を示す図である。
【0039】
図2(B)に示す比較例の電力伝送システムでは、受電アンテナの中央部の極一部にパイロット信号送信用のアレーアンテナ111Cが設けられ、その周囲の大部分に電力波受電用のアレーアンテナ111Pが設けられている。また、送電アンテナの中央部の極一部にパイロット信号受信用のアレーアンテナ221Cが設けられ、その周囲の大部分に電力波送電用のアレーアンテナ221Pが設けられている。受電局は受電アンテナのパイロット信号送信用のアレーアンテナ111Cを用いてパイロット信号を送信し、送電局では、送電アンテナのパイロット信号受信用のアレーアンテナ221Cを用いてパイロット信号を受信することで、そのパイロット信号の到来方向を検知し、その方向に、電力波送電用のアレーアンテナ221Pを用いてビーム形成された電力波を送電する。
【0040】
このように、比較例の受電アンテナは、アレーアンテナの大部分(大面積)を電力伝送に利用するために、アレーアンテナの残りの一部の領域をパイロット信号の送受用に用いるので、受電局は言わば拡散パイロット信号を送信することになる。そのため、この従来の電力伝送システムでは、海面や散乱体でパイロット信号が反射して、送電局のパイロット信号受信用アレーアンテナ221Cに対するマルチパスが生じる。その結果、レトロディレクティブが不正確となって、電力伝送効率は大きく低下する。また、例えば宇宙太陽発電所(Solar Power Satellite/Station)に適用した場合に、拡散されたパイロット信号を他の衛生が受信してしまって、通信におけるノイズが増大する原因ともなる。
【0041】
これに対し、
図2(A)に示す、本実施形態の電力伝送システムでは、先ず、受電側アレーアンテナ111の全面の素子アンテナの励振振幅および位相を制御することで、ビームパイロット信号を受電側アレーアンテナ111から送電側アレーアンテナ221へ送信する。送電側アレーアンテナ221の各素子アンテナは上記ビームパイロット信号の受信による励振信号を位相反転増幅し、当該素子アンテナを駆動することで、結果的にビーム形成された電力波を送電する。すなわち、本発明においては、受電側アレーアンテナの全部または大部分の素子アンテナを用いてビームパイロット信号が送信され、送電側アレーアンテナの全部または大部分の素子アンテナを用いてビームパイロット信号の受信および電力波の送電が行われる。上記「大部分」とは、必ずしも全部の素子アンテナを用いてビームパイロット信号を生成することに限らないことを表すものであり、例えば90%以上の素子アンテナを用いてビームパイロット信号を生成する場合も本発明に含まれる。
【0042】
本実施形態によれば、パイロット信号を、送電側アレーアンテナ221を鋭く指向するビームで送信するので、海面などでの反射が少なく、マルチパスの殆ど無い状態でビームパイロット信号が送電側アレーアンテナ221へ送信される。そのため、パイロット信号のマルチパスによる上述の問題が解消される。
【0043】
なお、パイロット信号の送受信と電力波の送受電を、アレーアンテナの全面を利用するという意味では、パイロット信号用の素子アンテナと電力波用の素子アンテナとを交互に、例えば市松模様状に混在配置することも考えられる。しかし、その構造では、それぞれの素子アンテナの配列ピッチが広くなるので、パイロット信号、電力波のいずれもサイドローブが大きくなる。そのため、パイロット信号のマルチパスを低減する効果は少なく、電力伝送効率を高める効果も少ない。
【0044】
図3は上記ビームパイロット信号と電力波との偏波の関係について示す図である。素子アンテナの構造の例については後に詳述するが、受電側アレーアンテナ111の各素子アンテナは水平偏波用の素子と、垂直偏波用の素子とを備え、同様に、送電側アレーアンテナ221の各素子アンテナも水平偏波用の素子と、垂直偏波用の素子とを備える。この例では、受電側アレーアンテナ111は、ビームパイロット信号を垂直偏波で送信し、送電側アレーアンテナ221は、電力波を水平偏波で送電する。
【0045】
このようにビームパイロット信号と電力波とは偏波面が直交していて互いに独立しているので、受電側アレーアンテナ111の各素子アンテナに接続されているパイロット信号給電用の回路が電力波に影響を受けることはない。また、送電側アレーアンテナ221の各素子アンテナに接続されるパイロット信号受信用の回路が、自身の素子アンテナが送電する電力波の影響を受けることもない。
【0046】
図4は、受電側アレーアンテナ111の一つの素子アンテナに接続される回路と、送電側アレーアンテナ221の一つの素子アンテナに接続される回路の構成について示す図である。受電側アレーアンテナ111の各素子アンテナ11は垂直偏波用の素子11Vと水平偏波用の素子11Hとで構成される。素子11Vには、発振器15、位相振幅制御回路10およびビーム制御回路19等が接続されている。素子11HにはRF−DCコンバータ30等が接続されている。RF−DCコンバータ30の出力には負荷RLが接続されている。この負荷RLは、実際には変電施設420等を含む電力系統を介して繋がる電力負荷である。
【0047】
図4に示す発振器15は例えば5.8GHzの信号を発生し、位相振幅制御回路10は、ビーム制御回路19によって所定振幅、所定位相に制御された信号を、垂直偏波に励振される素子11Vへ供給する。各素子アンテナ11の各素子11Vに対して、このように振幅、位相が制御された信号が供給されることによって、受電側アレーアンテナ111からビームパイロット信号が送信される。ビームパイロット信号の送信電力は例えば1kWである。
【0048】
送電側アレーアンテナ221の素子アンテナ21には送電側素子アンテナ回路20が接続されている。送電側アレーアンテナ221の各素子アンテナ21は垂直偏波用の素子21Vと水平偏波用の素子21Hとで構成される。素子21Vには、二逓倍器22、ミキサー23等が接続されている。素子21Hには、周波数フィルタ24および電力増幅器25等が接続されている。電力増幅器25には電力供給回路40が接続されている。
【0049】
素子アンテナ21のうち素子21Vは上記パイロット信号を受信することで励振されて受信パイロット信号を出力する。二逓倍器22は受信パイロット信号を2倍の周波数に逓倍し、ミキサー23は受信パイロット信号と二逓倍された信号とを混合することによって、上記受信パイロット信号とは位相が反転された信号(受信パイロット信号に対し位相共役関係の信号)を出力する。そのため、電力波の周波数はパイロット信号の周波数と同一周波数である。
【0050】
なお、本発明において、「同一周波数」とは、周波数が完全に同一であることに限らない。回路各部には特性の誤差があり、また伝搬経路での揺らぎもある。また、電力波の周波数とパイロット信号の周波数とに差がある場合に、その差が大きくなるに伴い、あるところから急に特性が悪化する訳ではない。したがって、同様の作用効果を奏する範囲で、上記「同一周波数」は或る幅を有する。例えば、±数%程度の差があっても、使用できる場合がある。
【0051】
周波数フィルタ24はパイロット信号および電力波の周波数である5.8GHzを帯域通過させる。電力増幅器25は、電力供給回路40から供給される電力(電圧)を電源として、周波数フィルタ24の出力信号を電力増幅し、水平偏波用素子21Hを励振する。
【0052】
送電側アレーアンテナ221の各素子アンテナ21が上記動作を行うことにより、ビーム形成された電力波が送電側アレーアンテナ221から送電される。この電力波の送電電力は例えば1MWである。
【0053】
ここで、ビームパイロット信号システムのアンプ増幅率を30dBとし、ノイズレベルとして30dBのマージンを仮定すれば、アイソレーションレベルとして−60dB以下を達成することが重要である。したがって、送電側アレーアンテナ221の各素子アンテナ21の垂直偏波用素子21Vと水平偏波用素子21Hとの入出力間は−60dB以下のアイソレーションを確保する。受電側アレーアンテナ111の各素子アンテナ11の垂直偏波用素子11Vと水平偏波用素子11Hとの入出力間についても同様に、−60dB以下のアイソレーションを確保する。
【0054】
図5は、受電局100の、より具体的な回路構成を示す図である。位相振幅制御回路10は、分配器14、可変移相器13、可変増幅器12を備える。可変移相器13および可変増幅器12は垂直偏波用素子11V毎に設けられ、分配器14で分配された信号の位相および振幅を、ビーム制御回路19から与えられる制御信号に応じて制御する。
【0055】
RF−DCコンバータ30は、水平偏波用素子11H毎に設けられたカプラ16、整流回路17および位相振幅検出回路18を備える。整流回路17は、受電側アレーアンテナ111の各素子アンテナ11のうち、垂直偏波用素子11Vが電力波を受電することにより生じる高周波電力を整流し直流電力に変換する。この整流回路17の出力電力が負荷RLに供給される。
【0056】
位相振幅検出回路18は、複数のカプラ16でそれぞれ分配された信号の位相および振幅を検出するとともに、受電側アレーアンテナ111に到達した電力波の位相分布、振幅分布またはその両方から、電力波の入射方向を検知する。ビーム制御回路19は、位相振幅検出回路18が検知した情報を基に、位相振幅制御回路10によるビームパイロット信号の放射方向を制御する。すなわち、ビームパイロット信号の放射方向が電力波の入射方向の逆方向になるように、ビームパイロット信号の放射方向を制御する。このフィードバック制御により、後述するように、伝送路に屈折率の勾配がある場合にも電力伝送効率の低下が抑制される。
【0057】
図6は、送電局200の、より具体的な回路構成を示す図である。送電局200には、送電側アレーアンテナ221の素子アンテナ21毎に送電側素子アンテナ回路20を備える。各送電側素子アンテナ回路20は同じ回路であり、その構成と作用は
図4を基に説明したとおりである。
【0058】
図5に示したとおり、受電側アレーアンテナ111の各素子アンテナのうち垂直偏波用素子11Vはフェーズドアレーアンテナとして作用させる。一方、送電側アレーアンテナ221は
図6に示したとおり、それ自体にはビームフォーミング制御回路を備えていない。しかし、送電側アレーアンテナ221の各素子アンテナ21および送電側素子アンテナ回路20の動作によって、送電側アレーアンテナ221は結果的にフェーズドアレーアンテナとして作用する。
【0059】
送電側アレーアンテナ221の各素子アンテナの垂直偏波用素子がパイロット信号の受信による励振信号を位相反転増幅し、当該素子アンテナの水平偏波用素子を駆動することで電力波を送電するので、送電側アレーアンテナ221の各素子アンテナは、パイロット信号の位相共役の関係にある電力波を送信する。したがって、相反定理によって、電力波はビームパイロット信号の伝搬経路を逆戻りするように伝搬する。すなわち、ビームパイロット信号と同じ経路で、電力波が受電側アレーアンテナ111へ伝搬する。しかも、ビームパイロット信号と電力波は同じ周波数であるので、伝搬路が周波数依存性を有する場合でも、正確な相反性を期待できる。
【0060】
図7、
図8、
図9は、送電側アレーアンテナ221がビームパイロット信号を受信することにより生成された電力波が送電された場合の、海面での反射による影響を示す図である。
図7、
図8においては、海面での反射により生じる虚像(鏡像)の受電側アレーアンテナ111i、および送電側アレーアンテナ221iを示している。
【0061】
図7は、電力伝送距離を10km、受電側アレーアンテナ111の直径を50m(視野角約0.5度)としてビームパイロット信号のビームを設計し、受電側アレーアンテナ111および送電側アレーアンテナ221の、海面からの高さを5mとしたとき(ビーム中心間距離60m)のビームパイロット信号の電界強度(デシベル値)を濃淡で示す図である。この
図7に表れているように、パイロット信号は受電側アレーアンテナ111の全素子アンテナを用いてビーム形成された信号であるので、送電側アレーアンテナ221は海面での反射波を殆ど受けない。この例では、ビームパイロット信号の伝送効率は99.91%に達する。
【0062】
図8は、ビームパイロット信号の伝送距離を敢えて2.5kmに設計した場合の、ビームパイロット信号の電界強度を濃淡で示す図である。
図9は、送電側アレーアンテナ221(221i)の面における電界強度を濃淡で示す図である。
図9の横軸は水平方向、縦軸は高さ方向に対応する。
【0063】
このように設計距離の4倍以上離れると、海面での反射波を送電側アレーアンテナ221が受けることになり、マルチパスの影響を受ける。換言すると、ビームパイロット信号のビームフォーミングの設計によって、マルチパスの影響を回避できる。
【0064】
なお、実際には、
図1Aに例示したとおり、マイクロ波ミラー110,210を用いるので、ビームの下端は海面から充分に高くすることができる。また、航行する大型船舶の高さを考慮して、ビームの下端を海面から充分に高くすれば、上記マルチパスの影響は充分に回避できる。
【0065】
図10(A)(B)は、伝搬路におけるマイクロ波の屈折率勾配によるビームの歪曲について示す図である。
【0066】
シミュレーション条件として送電側アレーアンテナおよび受電側アレーアンテナの直径をそれぞれ50mとし、伝送距離は10kmとした。アンテナ中心の海面からの高度hは75mとした。送電周波数は5.8GHz(λ≒5.17cm)を用いた。ビームの分布は、送受電アンテナ間の中心に12.8mのビームウェストを持つガウス状ビームの断面分布とした。このとき、エッジテーパーの値は−33dBである。
【0067】
大気屈折率n は通常1.0003 程度であり、その変化率は小さい。このため、
海面からの高さ変化による大気の屈折率の変化は次のように表現される。
【0068】
n = 1 + N(h) × 10
-6
ここでN(h) は地表からの高さh における屈折指数である。N(h) は、通常の大気では地表からの高さh に応じて減少する。このとき、標準の大気は指数関数を用いた実験式で表されることが知られているが、本電力伝送システムは狭い高度範囲を扱うため、屈折率は高度に比例して減少するものとして扱える。屈折指数の変化率は以下の式で表される。地表における屈折指数の値は、1 気圧、気温15℃、湿度55%の気象条件から計算される屈折指数315 を用いた。
【0069】
N(h) = 315 - ( ∂N / ∂h) h
このとき、∂N / ∂h を0.00 m
-1 から0.50 m
-1まで変化させた場合のビームの伝搬方向の変化をシミュレーションにより調べた。
【0070】
図10(A)は、∂N / ∂h = 0.0m
-1
としたときの、ビームパイロット信号の電界強度(デシベル値)を濃淡で示す図である。また、
図10(B)は、∂N / ∂h = 0.3m
-1
としたときの、ビームパイロット信号の電界強度(デシベル値)を濃淡で示す図である。
【0071】
図10(A)に示す状況では、ビームの伝送効率は99.91%である。一方、伝搬路の高さ方向で屈折率が傾斜していると、
図10(B)に表れているように、ビームパイロット信号のビームは歪曲する。
【0072】
このように、水平伝搬においては、伝搬路の高さ方向で屈折率が傾斜していることの影響を受けて、ビームパイロット信号のビームは歪曲する。
図10(B)に示した例では、送電側アレーアンテナ221の位置で、ビームパイロット信号の中心位置は高さ方向に14.96m下方にずれ、ビームパイロット信号の伝送効率は91.97%に低下する。
【0073】
図11は、
図10(B)に示した歪曲がある状況での、ビームパイロット信号と電力波について、それぞれのビームの電界強度(デシベル値)を濃淡で示す図である。既に述べたとおり、送電側アレーアンテナ221の各素子アンテナの垂直偏波用素子がパイロット信号の受信による励振信号を位相反転増幅し、当該素子アンテナの水平偏波用素子を駆動することで電力波を送電するので、電力波はビームパイロット信号の伝搬経路を逆戻りするように伝搬する。すなわち、ビームパイロット信号と同じ経路で、電力波が受電側アレーアンテナ111へ伝搬する。したがって、ビームパイロット信号が歪曲しても、
図11に表れているように、電力波は受電側アレーアンテナ111の全面で受電できる。この状況での、電力波の伝送効率は97.01%である。つまり、電力波の伝送効率はビームパイロット信号の伝送効率より約5ポイント改善している。
【0074】
ここで、様々な屈折指数の変化率 ∂N / ∂h におけるビームパイロット信号と送電マイクロ波の伝送効率の例を表1に示す。
【0076】
表1に表れているように、屈折指数の変化率に比例してビームパイロット信号の強度中心が下方にシフトし、伝送効率は低下する。しかしながら、ビームパイロット信号の伝送効率と比較して、送電マイクロ波の伝送効率が改善されていることがわかる。これは、ビームパイロット信号の位相を反転した電力波を送電することによる効果の一つである。
【0077】
以上に示した実施形態の電力伝送システムは次のような効果を奏する。
【0078】
(a1)ビーム形成されたパイロット信号(ビームパイロット信号)が送電側アレーアンテナに送信されるため、水平型であっても、マルチパスが大幅に軽減され、レトロディレクティブが正確となって、電力伝送効率が増大する。
【0079】
(a2)ビームパイロット信号が送電側アレーアンテナに送信されるため、パイロット信号が他のシステムに悪影響を与えない。
【0080】
(b1)送電側アレーアンテナの各素子アンテナから、パイロット信号の受信による励振信号が位相反転増幅されて送信されるため、すなわちビームパイロット信号と電力波は位相共役の関係であるため、伝送路の屈折率の揺らぎ等があっても、相反定理によって、ビームパイロット信号の伝搬経路を逆に辿るように電力波が正確に伝搬し、受電側アレーアンテナに電力波が高精度に照射される。
【0081】
(b2)送電側アレーアンテナの各素子アンテナが、パイロット信号を受信し、その信号を位相反転増幅して送信するため、すなわち送電側アレーアンテナには、フェーズドアレー制御のための分配器や移相器が不要であるため、回路構成が簡素化される。また、分配器や移相器での電力損失の問題が生じない。
【0082】
(b3)送電側に局部発振器が不要であり、受電側の低電力回路でビーム形成すればよいので、ビーム形成が容易となる。
【0083】
(c)パイロット信号と電力波とが同一周波数であるため、伝送路に大きな周波数依存性があっても、レトロディレクティブが正確となって、高い電力伝送効率が維持できる。
【0084】
(d)伝送路に、例えば海面や地面からの高さ方向に屈折率勾配があっても、その屈折率勾配に応じて屈折する伝送路に沿って電力波が送信されて、送電側アレーアンテナの面積が高効率で利用され、システムとしての電力伝送効率を高く維持できる。
【0085】
(e)偏波面が互いに直交する2つの偏波を用いるため、同一周波数を用いながらも、パイロット信号と電力波とが干渉しない電力伝送システムが構成できる。
【0086】
(f)ビーム形成のために複雑な回路を必要とするのは受電側だけであり、送電側にはソフトウェア・レトロディレクティブのためのビーム到来方向の検知および電力波のビーム形成のための制御や、ハードウェア・レトロディレクティブのための局部発振器等も不要であるので、送電局に要する回路は単純となり、故障率を下げられる。そのため、送電局は無人化でき、電力伝送システム全体のメンテナンスコストが大幅に削減できる。
【0087】
[ビーム方向の補正]
次に、
図5に示した位相振幅検出回路18およびビーム制御回路19を介するフィードバック制御を行った場合の作用について示す。
図12は、
図10(B)に示した歪曲が生じる状況での、ビームパイロット信号と電力波について、それぞれのビームの電界強度(デシベル値)を濃淡で示す図である。先ず、受電側アレーアンテナ111からビームパイロット信号が送信され、送電側アレーアンテナ221がそれを受信し、送電側アレーアンテナ221から結果的に、ビームパイロット信号と同じ経路を辿る電力波が送電される。受電側では、受電側アレーアンテナ111が受けた電力波の位相分布、振幅分布またはその両方から、電力波のビーム中心と、その入射方向を検知する。この電力波のビーム中心と入射方向の情報に基づいて、ビームパイロット信号のビームの中心が送電側アレーアンテナ221の中心に一致するように、ビームパイロット信号の送信方向を修正する。すなわちフィードバック制御する。
【0088】
図12に表れているように、上記フィードバック制御によって、ビームパイロット信号のビーム中心は送電側アレーアンテナ221の中心に一致する。このときのビームパイロット信号の伝送効率は上記91.97%から97.01%にまで高まる(表1参照)。
【0089】
このように、伝送路の高さ方向の屈折率分布によるビームの歪曲があっても、送電側アレーアンテナ221の全面から受電側アレーアンテナ111の全面に電力波が伝送され、電力波の電力伝送効率が維持される。
【0090】
なお、上記フィードバックによるビーム方向の補正は必須ではなく、このフィードバック制御が無くても、既に述べたとおり、上記ビームパイロット信号の伝送効率より電力波の伝送効率が高いことの効果は得られる。
【0091】
[素子アンテナの構成]
次に、素子アンテナの構成について示す。受電側アレーアンテナの各素子アンテナも、送電側アレーアンテナの各素子アンテナも、基本的な構造は同じである。
【0092】
図13(A)は、一つの素子アンテナの斜視図であり、
図13(B)はその内部を透視した斜視図である。素子アンテナ11,21は、導体平面GPから突出する誘電体DHと、この誘電体DH内に設けられた2対の磁気結合プローブ(Px1,Px2)(Py1,Py2)とを備える。
【0093】
誘電体DHは、全体の概形は半球状であり、導体平面GPの平面視では十字型である。つまり、
図13(A)に表れているように、半球状の誘電体の4箇所に切り欠きCOが形成されたような形状、または半月切り形状の2つの誘電体片が十字型に組み合わされたような形状である。
図13(B)に示すように、誘電体DHの中心(導体平面GPに接する誘電体DHの面の中心)を直交x,y,z座標の原点とすると、上記2つの誘電体片の一方はx−z面に拡がり、他方はy−z面に拡がる。
【0094】
第1対の磁気結合プローブ(Px1,Px2)は、それらのループ面がx−z面内にあり、第2対の磁気結合プローブ(Py1,Py2)は、それらのループ面がy−z面内にある。
【0095】
図14は上記素子アンテナの各部の寸法を示す図である。この例では、誘電体DHの比誘電率εrは12.6であり、誘電体DHの直径dは16mm、磁気結合プローブPx1,Px2の半径rは1.75mm、磁気結合プローブPx1,Px2の半円状ループの中心高さhは1.35mm、中心から磁気結合プローブの給電点までのピッチpは6mmである。磁界結合プローブの高さhを調整することにより、入出力ポートとアンテナとの整合を調整することができる。磁気結合プローブPy1,Py2についても、各部の寸法は磁気結合プローブPx1,Px2と同様である。なお、素子アンテナ毎の導体平面GPは直径30mmの金属円板であり、例えば直径50mの金属板に所定間隔で二次元上に配列される。
【0096】
図15(A)は第1対の磁気結合プローブ(Px1,Px2)に接続される給電部の構成を示す図であり、
図15(B)は第2対の磁気結合プローブ(Py1,Py2)に接続される給電部の構成を示す図である。第1対の磁気結合プローブ(Px1,Px2)にはそれぞれ中心に近い端部が導体平面(グランド)に接続され、中心から離れた端部から給電される。磁気結合プローブPx1,Px2には、180°ハイブリッド回路から位相が180°異なる信号が給電されることにより、磁気結合プローブPx1,Px2は差動給電(平衡給電)され、矢印方向の電流が流れる。このことは第2対の磁気結合プローブ(Py1,Py2)についても同様である。
【0097】
図16(A)は、
図15(A)に示した電流が流れるときに生じる磁束を示す図である。また、
図16(B)は、
図15(A)に示した電流が流れるときに生じる磁界強度の分布を示す図である。このように、磁気結合プローブPx1,Px2を差動給電することによって、誘電体DHが磁気結合プローブPx1,Px2で励振されて、誘電体DHは(磁気ダイポールと等価な放射電磁界を持つ)TE
11Xモードの誘電体共振器として作用する。このTE
11Xモードの誘電体共振器がX偏波用の素子アンテナである。同様に、磁気結合プローブPy1,Py2を差動給電することによって、誘電体DHが磁気結合プローブ(Py1,Py2)で励振されて、誘電体DHは(磁気ダイポールと等価な放射電磁界を持つ)TE
11Yモードの誘電体共振器として作用する。このTE
11Yモードの誘電体共振器がY偏波用の素子アンテナである。TE
11XモードとTE
11Yモードとは互いに独立しているので、各素子アンテナはTE
11 二重モード誘電体共振器として作用する。この例では、共振器の放射Q係数(Qrad)は約20である。このTE
11 二重モード誘電体共振器は、本発明に係る「直交二重モード誘電体共振器アンテナ」の一例である。
【0098】
図17(A)はX偏波ポートを励振した場合の放射パターンであり、
図17(B)はY偏波ポートを励振した場合の放射パターンである。いずれも遠方界における放射パターンである。X偏波ポートはY軸に磁気ダイポールモーメントを持つTE
11X モードに結合し、Y偏波ポートはX軸に磁気ダイポールモーメントを持つTE
11Y モードに結合することがわかる。正面方向の指向性利得はどちらも5.58dBiであった。
【0099】
図1Aに示したとおり、受電側アレーアンテナ111に入出力されるマイクロ波はマイクロ波ミラー110で反射され、送電側アレーアンテナ221に入出力されるマイクロ波はマイクロ波ミラー210で反射される。例えば、上記X偏波は例えば水平偏波、Y偏波は垂直偏波にそれぞれ対応する。
【0100】
本実施形態によれば、十字型の半球誘電体共振器を用いることにより、誘電体の誘電率の不均一性によるモード間の結合を低減することができる。次に、入出力ポートを4ポートとし、ポート間結合はないものとして、Mixed-mode S パラメータの変換式を用いて差動モードの特性を評価した結果を示す。ポートXをポート1およびポート2の差動モード、ポートYをポート3およびポート4の差動モードと定義すると、透過係数Syx は次の式で与えられる。
【0101】
Syx = ( S
31- S
32 - S
41 + S
42 ) / 2
図18(A)は、各ポートにおける反射電力および透過電力の周波数特性をそれぞれシミュレーションにより求めた結果を示す図である。
図18(B)は、各ポートにおける反射電力および透過電力の周波数特性をそれぞれ実測により求めた結果を示す図である。Sxx, Sxy, Syy は上式に示したSyx と同様に、4ポートのSパラメータを変換することにより求めた。5.8GHzにおけるSxx はシミュレーションで−33.2dB、実測では−16dBであり、Syy はシミュレーションで−32.6dB、実測では−20dBであり、良好な反射損失特性、良好な放射特性が得られた。また、5.8GHzにおけるSyx ,Sxyはシミュレーションで−85.91dB、実測では−62dBであり、モード間結合は極めて小さく、システムの実現に十分なアイソレーション特性が得られた。
【0102】
[TE
11 二重モード誘電体共振器]
次に、2つの共振モードのモード間結合の低減について示す。
図19(A)は、本実施形態のTE
11 二重モード誘電体共振器の結合モードの一つを磁束の向きで表す図である。
図19(B)はTE
11 二重モード誘電体共振器の等価回路図である。
図20(A)は比較例としての半球状のTE
11 二重モード誘電体共振器の結合モードの一つを磁束の向きで表す図であり、
図20(B)はこのTE
11 二重モード誘電体共振器の等価回路図である。
【0103】
図20(A)(B)において、TE
11二重モード誘電体共振器はTE
11X モード誘電体共振器とTE
11Yモード誘電体共振器だけでなく、
図20(A)に示すθiが異なる幾つものTE
11 モード誘電体共振器が存在し、TE
11Xモード誘電体共振器とTE
11Y モード誘電体共振器は、その間の無数のTE
11 モード誘電体共振器を介して順次結合する。
図20(B)において、TE
11Xモード誘電体共振器およびTE
11Yモード誘電体共振器の共振周波数はいずれもω0で等しいだけでなく、その間の上記無数のTE
11モード誘電体共振器の共振周波数もω0である。そのため、半球誘電体共振器は無数の縮退した一次従属なモードが結合したものであり、完全対称であれば、モードの逆結合により直交性が維持される。
【0104】
しかし、完全な対称性を保つことは製作的に困難である。本実施形態のTE
11 二重モード誘電体共振器も、
図19(A)に示すθiが異なる幾つものTE
11モード誘電体共振器が存在するが、
図19(A)に示すように、上記4箇所の切り欠きが形成されているため、TE
11X モード誘電体共振器とTE
11Yモード誘電体共振器との間の無数のTE
11 モード誘電体共振器の共振周波数は次第に異なったものとなる。磁束が45°方向を向く共振器の共振周波数ωnは最も高い。したがって、隣り合う共振器同士は結合するものの、エネルギーは伝搬されない。
【0105】
このようなTE
11二重モード誘電体共振器を用いることによって、
図18(A)、
図18(B)に示したように、直交する2つの偏波間が−60dB以下である高いアイソレーションが確保できる。
【0106】
[別の素子アンテナの構成]
次に、素子アンテナの別の構成について示す。
図21(A)は、一つの素子アンテナの誘電体内に設けられる磁気プローブの斜視図であり、
図21(B)は一つの素子アンテナの平面図である。この素子アンテナは、導体平面GPから突出する誘電体DHと、この誘電体DH内に設けられた2つの磁気結合プローブPx,Pyとを備える。
【0107】
誘電体DHの形状は
図13(A)(B)に示したものと同じである。磁気結合プローブPxは、そのループ面がx−z面内にあり、磁気結合プローブPyは、そのループ面がy−z面内にある。
【0108】
磁気結合プローブPx,Pyそれぞれの中点は導体平面(グランド導体)GPに接続されている。磁気結合プローブPx、Pyそれぞれは両端から差動給電(平衡給電)される。
【0109】
このようにクロスループ構造であっても、
図16(A)(B)に示したと同様の磁束が生じ、磁気結合プローブPxはY軸に磁気ダイポールモーメントを持つTE
11X モードに結合し、磁気結合プローブPyはX軸に磁気ダイポールモーメントを持つTE
11Y モードに結合する。
【0110】
以上に示した、直交二重モード誘電体共振器アンテナを用いることにより、パイロット信号と電力波とは充分に高い偏波アイソレーションが得られ、同一周波数を用いながらも、パイロット信号と電力波との干渉の無いシステムが構成できる。
【0111】
[円偏波の利用]
次に、各素子アンテナが円偏波でパイロット信号の送受信および電力波の送受電を行う例を示す。
【0112】
図22は、
図15(A)(B)に示した2つの180°ハイブリッド回路のX偏波ポートとY偏波ポートに接続される回路を示す図である。
図22に示す90°ハイブリッド回路のInput-portは右旋円偏波の入出力ポートであり、90°ハイブリッド回路のIsolated-portは左旋円偏波の入出力ポートである。90°ハイブリッド回路の0°-portと90°-portとの位相差は90°であるので、
図15(A)(B)に示した2対の磁気結合プローブは90°位相差で励振される。この構成により、右旋円偏波でパイロット信号の送信または電力波の送電がなされ、左旋円偏波のパイロット信号の受信または電力波の受電を行うことになる。
【0113】
このようにして、パイロット信号と電力波とで旋回方向を異ならせることにより、同一周波数を用いながらも、パイロット信号と電力波とが干渉しない電力伝送システムが構成できる。
【0114】
[アイソレーションの確保]
上述の直交二重モード誘電体共振器アンテナの−85.91dBという高いアイソレーションのシミュレーション値は、プローブの機械的直交精度に大きく依存する。
図23は、X偏波ポートのプローブとY偏波ポートのプローブとが成す直交度に摂動δを与えた際のアイソレーションの変化を示す図である。アイソレーションを上述の目標値の−60dB以下に抑えるためには、δは±約0.1度以内に抑える必要があることがわかる。換言すれば、X偏波ポートのプローブとY偏波ポートのプローブとを±約0.1度の精度で直交させれば、−60dBのアイソレーションを確保できることがわかる。
【0115】
また、上記−85.91dBという高いアイソレーションのシミュレーション値は、プローブに入力される差動信号の位相差の精度に大きく依存する。X偏波ポートおよびY偏波ポートに入力される差動信号の、逆相から位相φだけ摂動した場合の透過特性は、ポート2およびポート4の参照面を移動させることにより、以下の式で評価可能であると考えられる。
【0116】
Syx′= ( S
31 −S
32 e
jφ − S
41 e
jφ + S
42 ej
2φ )/2
図24は、上記摂動φがアイソレーションに与える影響を示す図である。アイソレーションを上述の目標値の−60dB以下に抑えるためには、φは±約10度以内に抑える必要があることがわかる。換言すれば、X偏波ポートおよびポートY偏波ポートに入力される差動信号が±約10度以内の精度であれば、−60dBのアイソレーションを確保できることがわかる。
【0117】
[素子アンテナ間の結合]
複数の素子アンテナをアレー化した場合に、隣接する素子間の相互結合に注意する必要がある。
図25は、隣接する2つの素子アンテナの関係を示す図である。ここでは、素子アンテナAと素子アンテナBとの距離を一定にして、2つの素子アンテナ間の角度(x軸に対して成す角度)θを0度から360度まで変化させ、素子アンテナAのポートXから素子アンテナBのポートYに回り込む電力をSパラメータにより評価した。各素子アンテナの寸法は既に示したとおりである。導体平面GP(
図13、
図14参照)としては無限大グラウンドを仮定した。アンテナ素子間距離は36.2mm(5.8GHzにおける0.7波長)である。
【0118】
図26(A)は、上記素子アンテナ間の角度θに対するSパラメータの絶対値の変化を示す図であり、
図26(B)は、角度θに対するSパラメータの位相角の変化を示す図である。
図26(A)より、0度、90度、180度、270度におけるアイソレーションは−60dBを下回ることがわかる。しかし、それ以外の角度においては結合が大きくなり、45度方向において最大−33.2dBとなる。一方、これらの位置関係での結合は、
図26(B)に示すように、各象限で逆相の結合となる。
【0119】
図27は、各象限と結合の極性との関係を示す図である。
図27において、中央の素子アンテナは
図25に示した素子アンテナAであり、その他の素子アンテナは素子アンテナBの位置を表している。この
図27に示すように、素子アンテナを平面上に正方配列した場合、或る素子アンテナ(素子アンテナA)と、それを取り囲む周辺の素子アンテナ(素子アンテナB)との結合は、素子アンテナAを中心にして対向する象限にある素子アンテナBとの結合が互い逆極性の関係となる。したがって、素子アンテナAを取り囲む周辺の素子アンテナBから素子アンテナAに回り込む電力は相殺される。このため、パイロット信号と送電波との全体としての相互結合は小さなものとなり、素子アンテナ単体で十分に高いアイソレーションレベルが得られれば十分であることがわかる。
【0120】
図28は送電側アレーアンテナ221の各素子アンテナの配列の例を示す平面図である。ここでは、各素子アンテナの黒丸で表している。ここで、リング方向に配列された素子アンテナの数をN、中心から何周目のリングであるかの数をiで表すと、
図28に示す例は(N
i+1 = N
i + 6)の関係のリング配列である。周方向と放射方向のそれぞれについてのアンテナ素子間距離を36.2mm(5.8GHzにおける0.7波長)とし、アレーアンテナの直径を単純に1mとすれば、リング数は14であり、素子アンテナの数は547個である。
【0121】
このように、多重円形(リング)状配列することにより、次のような効果を奏する。
【0122】
(1)リングごとに等しい振幅と位相で励振されるので、回路をグループ化でき、設計パラメータが低減される。
【0123】
(2)後述する回転対称の球面波に対応した励振が可能であるので、球面波ビームとの設計相関性に優れる。
【0124】
(3)リングごとの測定・診断ができるので、回路調整が容易であり、高精度なビームが形成しやすい。
【0125】
なお、このような多重円形状配列であっても、
図27に示したような正方配列の場合と同様に、或る素子アンテナ(素子アンテナA)と、それを取り囲む周辺の素子アンテナ(素子アンテナB)との結合は、素子アンテナAを中心にして略対向する位置にある素子アンテナBとの結合が互い逆極性の関係となる。したがって、素子アンテナAを取り囲む周辺の素子アンテナBから素子アンテナAに回り込む電力は実質的に相殺される。
【0126】
[ビームフォーミング]
以下、ビームパイロット信号のビーム形成方法の例について示す。
図29は、ビームの設計方法の概要を示す模式図である。
図30は、ビームの設計方法の概要を示すフローチャートである。まず、球面波による平面波の展開係数を用いて球面放射波および球面吸収波を合成することにより、理想的なビーム電磁界(設計電磁界)の分布を得る(S11)。次に、設計電磁界の断面の振幅分布および位相分布を抽出する(S12)。
【0127】
次に、フェーズドアレーアンテナのシミュレーションモデルを用意する(S13)。次に、抽出した振幅分布および位相分布で、フェーズドアレーアンテナを構成する各素子アンテナに給電することにより、フェーズドアレーアンテナから出力されるビーム電磁界(出力電磁界)の分布を得る(S14)。出力電磁界と設計電磁界との差異が許容範囲内にある場合(S15:Yes)、設計手順を終了する。出力電磁界と設計電磁界との差異が許容範囲内にない場合(S15:No)、フェーズドアレーアンテナを構成する素子アンテナの種類、並べ方、配置間隔等を調整した後、ステップS14を行う。このようにして、フェーズドアレーアンテナおよびビームを設計する。
【0128】
次に、設計電磁界の球面波による合成方法について説明する。
図31は、球面放射波および球面吸収波の合成を示す模式図である。球面波はマックスウェル方程式の球座標系における直交基底関数であり、その電界および磁界は球ベッセル関数および球面調和関数を用いて解析的に表現される。球面波は、次数l,mで表される無数のモードを持つ。球面波には、原点にある多重極から外向きに進行する球面放射波(
図31(A)参照)、および、原点にある多重極に向かって内向きに進行する球面吸収波(
図31(B)参照)の2種類が存在する。球面放射波の動径部分は第1種球ハンケル関数h
l(1)(kr)であり、球面吸収波の動径部分は第2種球ハンケル関数h
l(2)(kr)である。ここで、rは動径であり、kは波数である。原点近傍には、非伝搬の波(共振電磁界)が存在する遮断領域が形成されている。
【0129】
球面波による平面波の展開係数を用いて、次数l=1からl=l
maxまでの球面放射波を合成すると、+Z方向に指向性を有する放射電磁界が得られる(
図31(C)参照)。次数lのTEモード(磁気多重極輻射に対応するモード)およびTMモード(電気多重極輻射に対応するモード)の球面放射波に対する合成係数は、次数lのTEモードおよびTMモードの球面波に対する平面波の展開係数a
l=a
l(TE)=a
l(TM)である。球面波による平面波の展開係数を用いて、次数l=1からl=l
maxまでの球面吸収波を合成すると、−Z方向に指向性を有する吸収電磁界が得られる(
図31(D)参照)。次数lのTEモードおよびTMモードの球面吸収波に対する合成係数は展開係数a
lである。さらに、同じ最大次数l
maxをもつ放射電磁界および吸収電磁界を同振幅で合成すると、多重極および共振電磁界が消滅し、Z方向へのエネルギー流のみが存在する球面波合成ビームが形成される(
図31(E)参照)。球面波合成ビームの動径部分は球ベッセル関数j
l(kr)になる。すなわち、球面波合成ビームの動径部分は、球ノイマン関数を含まない狭義の球ベッセル関数である。なお、平面波は、次数l=1,2,…、m=1の球面波を用いて展開される。第1の実施形態では、次数m=1の球面波のみが合成される。
【0130】
次に、球面波および球面波合成ビームを特徴づけるパラメータについて説明する。
図32は、遮断領域の半径を導出するための模式図である。次数m=1の球面波はXZ断面において2l個の節(電気壁および磁気壁)を有しているので(
図34参照)、互いに隣り合う節の間の角度はπ/lとなる。また、電磁波は、遮断導波管で見られるように、電磁波の幅が概ね半波長以上になるときに伝搬し始める。このため、遮断領域の半径R
lは、球面波の波長をλとして、R
l=λl/(2π)と表される。このように、遮断領域の半径は球面波の次数lに比例する。
【0131】
図33は、球面波合成ビームを特徴づけるパラメータを示す模式図である。合成される球面波の中で最大次数の球面波の遮断領域の半径が最も大きいので、球面波合成ビームのビームウェストの直径Dwは最大次数の球面波の遮断領域の大きさで規定される。このため、球面波合成ビームのビームウェストの直径D
wはD
w=2Rl
max=λl
max/πと表される。このように、球面波合成ビームのビームウェストの直径は、合成される球面波の最大次数に比例する。また、球面波合成ビームの半値角θ
0は角度と角運動量との不確定性関係からθ
0=π/l
maxと表される。また、ビーム開き角θは、ηを定数として、θ=ηθ
0=ηπ/l
maxと表される。このように、球面波合成ビームのビーム開き角は、合成される球面波の最大次数に反比例する。
【0132】
図34は、次数l=1,…,10の球面放射波における瞬時電力密度分布のXZ断面を示す図である。瞬時電力密度分布は瞬時ポインティングベクトルの絶対値で与えられている。
図34に図示された数値は、原点から放射されている電力値を示している。単一モードの球面放射波は、原点から外向きに全方位的に放射しており、特定の方向に対して指向性を有しない。原点近傍には共振電磁界が存在している。遮断領域の直径は、球面波の次数lが高くなるほど大きくなる。
【0133】
図35(A)(B)(C)は、放射電磁界、吸収電磁界および球面波合成ビームの瞬時電力密度分布のXZ断面を示す図である。
図35(A)は、球面波による平面波の展開係数を用いて、次数l=1からl=10までの球面放射波を合成して得られた放射電磁界を示している。
図35(B)は、球面波による平面波の展開係数を用いて、次数l=1からl=10までの球面吸収波を合成して得られた吸収電磁界を示している。
図35(C)は、同振幅の放射電磁界および吸収電磁界を合成して得られた球面波合成ビームを示している。図示されたλは電磁波の波長である。波長λおよび電力は
図35(B)および
図35(C)でも同様である。上記のように、球面放射波を合成することにより、+Z方向に指向性を有する放射が得られている。球面吸収波を合成することにより、−Z方向に指向性を有する吸収が得られている。球面放射波および球面吸収波を合成することにより、−Z方向から+Z方向に伝搬するエネルギービームが現れる。
【0134】
図36は、球面波による平面波の展開係数を用いて、次数l=1からl=20までの球面放射波および球面吸収波を合成して得られた球面波合成ビームを示す図である。球面波合成ビームの周波数は5.8GHzである。最大次数が20である球面波合成ビームでは、最大次数が10である球面波合成ビーム(
図35(C)参照)に比べて、ビームウェストの直径が大きくなるとともに、指向性が向上する。一方、
図35(C)および
図36に示す球面波合成ビームには、比較的大きなサイドローブが現れる。
【0135】
次に、
図36に示すようなサイドローブを低下させてエネルギー閉じ込め性を高める方法について説明する。上記のように、球面波の合成に用いる合成係数として、球面波による平面波の展開係数を用いた場合、合成する球面波をある最大次数で打ち切ると、球面波合成ビームに比較的大きなサイドローブが存在する。このサイドローブは、最大次数より高次のモードのサイドローブを打ち消す役割を持つが、有限個の球面波を合成する場合、エネルギー漏洩の原因となる。そこで、球面波の合成係数として、例えば次の式を用いる。
【0137】
ここで、b
l(TE)は次数lのTEモードの球面波に対する合成係数である。b
l(TM)は次数lのTMモードの球面波に対する合成係数である。i
ll(l+1)/(2l+1)は球面波による平面波の展開係数a
lである。σは実数値の調整変数である。球面波の合成係数は、球面波による平面波の展開係数に調整係数(次数lを独立変数とするガウス関数)を乗じたものである。このような調整係数を用いる場合、合成される球面波の振幅は、球面波の次数lが高くなるにつれて滑らかに小さくなる。なお、調整係数は、より一般的に、合成される球面波の中で高次モードの球面波の振幅を抑制するものでもよい。調整係数は、上記の例に限定されず、サイドローブを低下させるように、球面波による平面波の展開係数を調整するものであればよい。
【0138】
図37は、調整変数σ=0から5までの球面波合成ビームの瞬時電力密度分布を示す図である。球面波合成ビームの最大次数は20である。球面波合成ビームの伝搬方向は+Z方向である。球面波合成ビームの周波数は5.8GHzである。調整変数が大きくなるにつれて、球面波合成ビーム内にエネルギーが強く閉じ込められている。一方、調整変数が大きくなるにつれて、ビームウェストの直径が小さくなるとともに、指向性が低下する。これは、調整変数の増加により実効的な球面波合成ビームの最大次数が小さくなるためである。
【0139】
図38は、調整変数σ=0,2,5の球面波合成ビームの放射パターンを示す図である。
図38では、各球面波合成ビームのピーク電力を基準とした相対電力密度を示している。球面波合成ビームの最大次数は100である。球面波合成ビームの伝搬方向は0度方向である。球面波合成ビームの周波数は5.8GHzである。上記のように、調整変数が大きくなるにつれて、サイドローブが低下してメインローブ内にエネルギーが集中する。一方、調整変数が大きくなるにつれて、メインローブのヌル点までの角度が大きくなり、指向性が低下する。
【0140】
図39は、最大次数lmaxおよび調整変数σを変化させたときの球面波合成ビームの電力密度分布を示す図である。破線で示された直線間の角度はビーム開き角である。実線で示された直線間の角度は半値角である。破線で示された楕円は、最大次数の球面波の遮断領域を示している。なお、この遮断領域は、円形であるが、図の縦横の縮尺の影響により楕円として図示されている。最大次数lmax=60および調整変数σ=3の場合、比較的大きなサイドローブが存在している。次に、最大次数lmaxを60に固定したまま調整変数σを3から9に変化させると、サイドローブが低下する。しかし、実効的な最大次数が小さくなるので、球面波合成ビームが広がっている。次に、調整変数σを9に固定したまま最大次数lmaxを60から120に変化させると、最大次数が大きくなることにより、ビームウェストの直径が大きくなるとともに、指向性が向上する。このため、球面波合成ビームの利得が改善される。次に、調整変数σを9に固定したまま最大次数lmaxを120から180にさらに変化させると、実効的なビームウェストの直径とアンテナサイズとが一致する。このように、最大次数および調整変数を調整することにより、球面波合成ビームを最適化することができる。すなわち、最大次数および合成係数を調整することにより、球面波合成ビームを最適化して設計電磁界を得ることができる。なお、この例では、実効的なビームウェストの直径とアンテナサイズとが一致する球面波合成ビームを設計電磁界としたが、他の形状の球面波合成ビームを設計電磁界としてもよい。
【0141】
図40(A)(B)(C)は、フェーズドアレーアンテナのビームおよび電力伝送システムの設計方法を示す模式図である。ここでは、対称性が良い伝送系として、送受電アンテナの大きさが同じであり、ビームウェストが送受電アンテナ間の中心にあることを仮定している。
図40(A)に示すように、アレーアンテナの直径をD
aとし、送電距離をL
Tとして、D
a/L
T=tanθによりビーム開き角θを得る。次に、
図40(B)に示すように、ビーム開き角θ=ηπ/l
maxおよびビームウェストの直径Dw=λl
max/πを考慮して、球面波合成ビームを最適化して設計電磁界を得る。そして、フェーズドアレーアンテナが配置される設計電磁界の断面における設計電磁界の振幅分布および位相分布を得る。
【0142】
次に、
図40(C)に示すように、送電側アレーアンテナおよび受電側アレーアンテナのシミュレーションモデルを用意する。そして、設計電磁界から得られた振幅分布および位相分布をフェーズドアレーアンテナに入力することにより、フェーズドアレーアンテナが出力する出力電磁界を得る。次に、出力電磁界を設計電磁界に近づけるように、素子アンテナの種類、並べ方、配置間隔等を調整して、フェーズドアレーアンテナを最適化する。また、フェーズドアレーアンテナと対となるように送電側アレーアンテナを最適化する。このようにして、フェーズドアレーアンテナのビームおよび電力伝送システムを設計することができる。
【0143】
図41および
図42はフェーズドアレーアンテナのビームおよび電力伝送システムの設計例を示す図である。
図41(A)は設計電磁界の電力密度分布のXZ断面を示す図である。ビームの伝搬方向は+Z方向である。破線で示された直線間の角度はビーム開き角である。実線で示された直線間の角度は半値角である。
図41(B)は、設計電磁界の放射パターンを示す図である。
図41(A)(B)では、ビームのピーク電力を基準とした相対電力密度を示す図である。ビームの伝搬方向は0度方向である。設計パラメータは次のように設定される。
【0144】
[設計パラメータ]
送受電アンテナの直径 D
a=50m
送電距離 L
T=10km
ビーム開き角 θ=0.57°
合成された球面波の最大次数 l
max=1508
ビームウェストの直径 D
w=24.81m
調整変数 σ=3
周波数 5.8GHz
ここで、
図41(B)に示すように、第1サイドローブレベルを−40dBまで抑圧するために、調整変数σ=3としている。また、メインローブのヌル点間の角度をビーム開き角としている。
【0145】
図42(A)は、フェーズドアレーアンテナから出力される出力電磁界の電力密度分布のXZ断面を示す図である。
図42(B)はフェーズドアレーアンテナの入力電圧振幅分布を示す図である。
図42(C)はフェーズドアレーアンテナの入力位相分布を示す図である。
図42(D)は送電側アレーアンテナの受電面における出力電磁界の電力密度分布を示す図である。ここで、フェーズドアレーアンテナの計算には、各素子アンテナの放射パターンの電界を線形に重ね合わせる手法(電界合成法)を用いている。各素子アンテナの放射パターンには、電磁界シミュレータを用いて計算した円形パッチアンテナの電界の値を使用している。素子アンテナは四角配置で並べられている。アンテナピッチは半波長(2.59cm)である。素子アンテナ数は1933×1933=3736489個である。
【0146】
図42(B)に示すように、入力振幅分布において、中心で振幅が最も大きく、外側に向かうほど振幅が小さくなっている。
図42(C)に示すように、入力位相分布において、中心で位相が最も遅れており、外側に向かうほど位相が進んでいる。
図42(D)に示すように、受電面の電力密度分布において、中心で電力密度が最も大きく、外側に向かうほど電力密度が小さくなっている。
【0147】
以上のように設計することで、離散波源を用いた場合でも、高いエネルギー閉じ込め性を持つビーム電磁界を形成できる。
【0148】
なお、上記の設計例では、素子アンテナを正方形状に並べているが、設計電磁界の断面の振幅分布および位相分布に合わせて、例えば
図28に示したように、素子アンテナを円形状に並べてもよい。これにより、設計電磁界を実現するために必要な素子アンテナ数を低減することができる。また、上記の設計例では、素子アンテナを四角配置で並べているが、素子アンテナを三角配置等の他の配置方法で並べてもよい。また、上記の設計例では、アンテナピッチを半波長に設定しているが、アンテナピッチを半波長と異なる長さに設定してもよい。
【0149】
また、上記の実施形態では、球面波による平面波の展開係数を調整して合成係数を決定するが、別の実施形態では、所望の球面波合成ビームが形成されるように合成係数を適宜決定してもよい。
【0150】
また、
図11、
図12等に示した例では、受電側アレーアンテナの中心を通る法線と、送電側アレーアンテナの中心を通る法線とが一致する例を示したが、必ずしも一致していなくてもよい。有効開口面積が極端に減少しない範囲で、受電側アレーアンテナの中心を通る法線と、送電側アレーアンテナの中心を通る法線とが平行関係であってもよい。
【0151】
また、
図11、
図12等に示した例では、受電側アレーアンテナの中心を通る法線と送電側アレーアンテナの中心を通る法線とが光学的に平行である例を示したが、有効開口面積が極端に減少しない範囲で、これら法線が非平行であってもよい。
【0152】
また、本発明は宇宙太陽発電所(SolarPower Satellite/Station)にも適用できる。この場合、静止軌道上の宇宙太陽発電衛星に送電局を構成し、地上に受電局を構成する。既に述べたとおり、送電局に要する回路は単純化されるので、無人である静止軌道衛星の故障率を下げられ、電力伝送システム全体のメンテナンスコストが大幅に削減できる。仮に、送電局の相対位置やビームの方向が相対的に変動しても、送電側アレーアンテナの素子アンテナ毎に設けられた送電側素子アンテナ回路のそれぞれは、パイロット信号を受けてから、その位相共役関係の電力波を送信するまで極短時間であるので、送電局の位置やビーム方向の変動による問題は殆ど生じない。すなわち、ビームパイロット信号の伝搬経路を逆戻りして電力波が受電側アレーアンテナに正確に到達する。したがって、送電局には、送電局の位置やビーム方向の変動に応じた電力波ビームの指向制御のための回路は不要であり、送電局に要する回路はやはり単純となる。
【0153】
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【解決手段】電力伝送システムは、複数の素子アンテナ11が配列された送電側アレーアンテナを有する送電局と、複数の素子アンテナ21が配列された受電側アレーアンテナを有する受電局と、を備える。受電局において、受電側アレーアンテナの複数の素子アンテナ11の励振振幅および位相が制御されることでビーム形成されたパイロット信号が受電側アレーアンテナから送電側アレーアンテナへ送信される。送電局において、送電側アレーアンテナの複数の素子アンテナ21の前記パイロット信号の受信による励振信号が位相反転増幅され、当該素子アンテナが駆動されることで、ビーム状の電力波が受電側アレーアンテナへ送電される。