(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1または請求項2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、前記(b)成分は、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体である、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0034】
(1)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂
本発明の実施形態で用いられる(a)PPS樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【化1】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。また(a)PPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【化2】
【0035】
かかる構造を一部有するPPS共重合体は、融点が低くなる傾向にあるため、このような樹脂組成物は成形性の点で有利となる。
【0036】
本発明の実施形態で用いられる(a)PPS樹脂の重量平均分子量に特に制限はないが、より優れた機械物性を得る意味からPPS樹脂の重量平均分子量は、30000以上が好ましい。PPS樹脂の重量平均分子量は、40000以上が好ましく、45000以上がより好ましい。PPS樹脂の重量平均分子量は、さらに、50000以上が好ましい。PPS樹脂の重量平均分子量は、150000以下が好ましい。PPS樹脂の重量平均分子量は、130000以下が好ましく、90000以下がより好ましい。PPS樹脂の重量平均分子量は、さらに70000以下が好ましい。重量平均分子量が小さい場合は、PPS樹脂自体の機械物性が低下するため、30000以上が好ましい。一方、重量平均分子量が150000を超える場合には、溶融粘度が著しく大きくなるため、成形加工において好ましくない傾向である。
【0037】
なお、本発明の実施形態における重量平均分子量は、センシュー科学製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0038】
以下に、本発明の実施形態に用いる(a)PPS樹脂の製造方法について説明するが、上記構造の(a)PPS樹脂が得られれば下記方法に限定されるものではない。
【0039】
まず、製造方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0040】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ-p-キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられる。本発明の実施形態におけるポリハロゲン化芳香族化合物には、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、カルボキシル基の導入を目的に、2,4−ジクロロ安息香酸、2,5−ジクロロ安息香酸、2,6−ジクロロ安息香酸、3,5−ジクロロ安息香酸などのカルボキシル基含有ジハロゲン化芳香族化合物、およびそれらの混合物を共重合モノマーとして用いることも好ましい態様の1つである。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0041】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度の(a)PPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9モル以上が好ましく、0.95モル以上がより好ましい。ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり1.005モル以上がさらに好ましい。また、ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モル以下が好ましく、1.5モル以下がより好ましい。ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり1.2モル以下がさらに好ましい。
【0042】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0043】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができる。列挙されたアルカリ金属硫化物のなかでは、硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0044】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができる。列挙されたアルカリ金属水硫化物のなかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0045】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0046】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物および硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0047】
用いられるスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際に用いられる量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0048】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができる。アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられる。列挙されたなかでは、水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0049】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し、0.95モル以上が好ましく、1.00モル以上がより好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し、1.005モル以上がさらに好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し、1.20モル以下が好ましく、1.15モル以下がより好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し、1.10モル以下がさらに好ましい。
【0050】
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられる。列挙された有機極性溶媒は、いずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。列挙された有機極性溶媒のなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0051】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モル以上が好ましく、2.25モル以上がより好ましい。有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.5モル以上がさらに好ましい。有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり10モル以下が好ましく、6.0モル以下がより好ましい。有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり5.5モル以下がさらに好ましい。
【0052】
[分子量調節剤]
生成する(a)PPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0053】
[重合助剤]
比較的高重合度の(a)PPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られる(a)PPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましい。有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が好ましい。アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
【0054】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0055】
アルカリ金属カルボン酸塩は、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物と、有機酸と、を、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中では、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価である。また、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われる。このため、アルカリ金属カルボン酸塩には、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0056】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、用いられるアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル以上が好ましく、より高い重合度を得る意味においては0.1モル以上がより好ましく、0.2モル以上がさらに好ましい。アルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、用いられるアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常2モル以下が好ましく、より高い重合度を得る意味においては0.6モル以下がより好ましく、0.5モル以下がさらに好ましい。
【0057】
また、水を重合助剤として用いる場合の添加量は、用いられるアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル以上が好ましく、より高い重合度を得る意味においては0.6モル以上が好ましく、1.0モル以上がさらに好ましい。水を重合助剤として用いる場合の添加量は、用いられるアルカリ金属硫化物1モルに対し、15モル以下が好ましく、より高い重合度を得る意味においては10モル以下が好ましく、5モル以下がさらに好ましい。
【0058】
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能である。例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水とを併用すると、アルカリ金属カルボン酸塩単体もしくは水単体を重合助剤として用いるより少量で高分子量化が可能となる。
【0059】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよい。重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また、水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0060】
[重合安定剤]
重合反応系を安定化して副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一例としては、チオフェノールの生成が挙げられる。重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が、重合安定剤として好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0061】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、用いられるアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02モル以上の割合で使用することが好ましく、0.03モル以上の割合で使用することがより好ましい。重合安定剤は、用いられるアルカリ金属硫化物1モルに対して、0.04モル以上の割合で使用することがさらに好ましい。重合安定剤は、用いられるアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.2モル以下の割合で使用することが好ましく、0.1モル以下の割合で使用することがより好ましい。重合安定剤は、用いられるアルカリ金属硫化物1モルに対して、0.09モル以下の割合で使用することがさらに好ましい。この割合が少ないと、安定化効果が不十分になる傾向がある。また、この割合が多いと、経済的に不利益であるとともに、ポリマー収率が低下する傾向がある。
【0062】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよい。重合安定剤の添加時期は、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
【0063】
次に、本発明の実施形態に用いる(a)PPS樹脂の好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、勿論この方法に限定されるものではない。
【0064】
[前工程]
(a)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
【0065】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、以下の方法が望ましい。すなわち、不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法で行われるのが望ましい。ここでいう常温とは、25℃のことである。また、ここでいう常圧とは、1気圧のことである。この水分を留去させる方法の段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0066】
重合反応における、重合系内の水分量は、用いられるスルフィド化剤1モル当たり0.3以上10.0モル以下であることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0067】
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることにより(a)PPS樹脂を製造する。
【0068】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。重合反応工程を開始する際の温度範囲については、常温以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。また、重合反応工程を開始する際の温度範囲については、240℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましい。重合反応工程の段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0069】
かかる混合物を通常200℃から290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01℃/分から5℃/分の範囲の速度が選択され、0.1℃/分から3℃/分の範囲の速度がより好ましい。
【0070】
一般に、最終的には250℃から290℃の範囲の温度まで昇温し、その温度で通常0.25時間から50時間の範囲、好ましくは0.5時間から20時間の範囲で反応させる。
【0071】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃から260℃の範囲の温度で一定時間反応させた後、270℃から290℃の範囲の温度に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃から260℃の範囲の温度での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25時間から10時間の範囲が選ばれる。
【0072】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点で昇温させることが有効である。
【0073】
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
【0074】
(A)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA使用量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA使用量(モル)−PHA過剰量(モル)〕。
【0075】
(B)上記(A)以外の場合
転化率=〔PHA使用量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA使用量(モル)〕。
【0076】
[回収工程]
(a)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知の如何なる方法を採用しても良い。
【0077】
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いても良い。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分から3℃/分の範囲程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良い。
【0078】
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm
2以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法である。ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられる。フラッシュさせる雰囲気の温度は通常150℃から250℃の範囲の温度が選ばれる。
【0079】
[後処理工程]
(a)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
【0080】
酸処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、(a)PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられる。列挙された酸のなかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のような(a)PPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0081】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、PH4の水溶液を80℃から200℃の範囲の温度に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のPHは4以上、例えばPH4〜PH8の範囲程度となっても良い。酸処理を施された(a)PPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0082】
熱水処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満では(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
【0083】
熱水洗浄による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無い。熱水処理は、所定量の水に所定量の(a)PPS樹脂を投入して圧力容器内で加熱および撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。(a)PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましい。通常、水1リットルに対し、(a)PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
【0084】
また、処理の雰囲気は、末端基の分解が好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理操作を終えた(a)PPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
【0085】
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、(a)PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はない。(a)PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0086】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒で(a)PPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温から150℃の範囲の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0087】
アルカリ金属、アルカリ土類金属処理する方法としては、上記前工程の前、前工程中、前工程後に、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。また、アルカリ金属、アルカリ土類金属処理する方法としては、重合行程前、重合行程中、重合行程後に、重合釜内に、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、最後の段階で、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でも最も容易な方法としては、有機溶剤洗浄や、温水または熱水洗浄で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酢酸塩、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの形でPPS中に導入するのが好ましい。また、過剰のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩は温水洗浄などにより取り除く方が好ましい。上記アルカリ金属、アルカリ土類金属導入の際のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン濃度としてはPPS1gに対して0.001mmol以上が好ましく、0.01mmol以上がより好ましい。温度としては、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。上限温度は特にないが、操作性の観点から通常280℃以下が好ましい。浴比(乾燥PPS重量に対する洗浄液重量)としては0.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
【0088】
本発明の実施形態においては、滞留安定性の優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得る観点から、有機溶媒洗浄と80℃程度の温水洗浄または前記した熱水洗浄を数回繰り返すことにより残留オリゴマーや残留塩を除いた後、酸処理もしくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が好ましい。特にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が更に好ましい。
【0089】
その他、(a)PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
【0090】
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160℃以上が好ましく、170℃以上がより好ましい。熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合の温度は、260℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。また、酸素濃度は、5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。処理時間は、2時間以上がさらに好ましい。処理時間は、100時間以下が好ましく、50時間以下がより好ましい。処理時間は、25時間以下がさらに好ましい。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよい。より均一に効率よく処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0091】
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。乾式熱処理の温度は130℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましい。乾式熱処理の温度は、250℃以下が好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。処理時間は、50時間以下が好ましく、20時間以下がより好ましい。処理時間は、10時間以下がさらに好ましい。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよい。より均一に効率よく処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0092】
但し、本発明の実施形態における(a)PPS樹脂は、優れた靱性を発現する観点から、熱酸化架橋処理による高分子量化を行わない実質的に直鎖状のPPS樹脂であること、もしくは、軽度に酸化架橋処理した半架橋状のPPS樹脂であること、が好ましい。その一方で、熱酸化架橋処理を施したPPS樹脂は、クリープ歪みを小さく抑制する観点からは好適であり、適宜、直線状のPPS樹脂と混合して使用することも可能である。また、本発明の実施形態では、溶融粘度の異なる複数の(a)PPS樹脂を混合して使用しても良い。
【0093】
本発明の(a)PPS樹脂は、(b)フッ素樹脂との相容性向上の観点から、カルボキシル基を25μmol/gから400μmol/gの範囲で含むことも好ましい態様として挙げられる。カルボキシル基含有量は、25μmol/g以上が好ましく、30μmol/g以上がより好ましい。また、カルボキシル基含有量は、400μmol/g以下が好ましく、250μmol/g以下がより好ましい。カルボキシル基含有量は、150μmol/g以下が好ましく、80μmol/g以下がさらに好ましい。PPS樹脂のカルボキシル基含有量が25μmol/gを下回る場合は、フッ素樹脂との相互作用が低下する傾向にあるため好ましくない。一方、PPS樹脂のカルボキシル基含有量が400μmol/gを超える場合は、加工工程における揮発性分量が増加するため好ましくない。
【0094】
(a)PPS樹脂中に、カルボキシル基を導入する方法としては、カルボキシル基を含むポリハロゲン化芳香族化合物を共重合する方法が挙げられる。また、(a)PPS樹脂中に、カルボキシル基を導入する方法としては、他に、カルボキシル基を含む化合物、例えば無水マレイン酸、ソルビン酸などを添加して、(a)PPS樹脂と溶融混練しながら反応せしめることにより導入する方法などを例示できる。
【0095】
(2)(b)フッ素樹脂
本発明の実施形態で用いられるフッ素樹脂の構造は、特に限定されるものでは無いが、少なくとも1種のフルオロオレフィンから構成されることが望ましい。本発明の実施形態で用いられるフッ素樹脂は、例えば、テトラフルオロエチレンまたはクロロトリフルオロエチレンなどの単独重合体や、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン、フッ化ビニルとの共重合体、更にはエチレン、プロピレン、ブテン、アルキルビニルエーテル類などのフッ素を含まない非フッ素エチレン性単量体との共重合体も例示できる。更に具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などが挙げられる。列挙されたフッ素樹脂の中でも、溶融成形加工が容易である観点から、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましく、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)が特に好ましい。
【0096】
本発明の実施形態で用いられるフッ素樹脂は、PPS樹脂あるいは有機シラン化合物との分子間の結合を形成する観点から反応性官能基を含有することも好ましい態様として挙げられる。
【0097】
フッ素樹脂に含有される反応性官能基は特に限定されるものではなく、具体的にはビニル基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、エステル基、アルデヒド基、カルボニルジオキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、水酸基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、加水分解性シリル基などを例示できる。列挙された反応性官能基の中でもエポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、水酸基が好ましく、これら反応性官能基が2種以上含まれていても良い。
【0098】
フッ素樹脂に反応性官能基を導入する方法としては、フッ素樹脂に相溶し、前記官能基を含有する化合物または樹脂を配合する方法、フッ素樹脂を重合する際に、前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する重合性モノマーと共重合する方法、フッ素樹脂を重合する際に、前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する開始剤を用いる方法、フッ素樹脂と前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する重合性モノマーとをラジカル発生剤の存在下に反応させる方法、フッ素樹脂を酸化、熱分解などの手法により変性する方法などが挙げられる。列挙された方法の中でも、共重合によりフッ素樹脂の主鎖または側鎖に官能基を導入する方法、フッ素樹脂と官能基を含有する重合性モノマーとをラジカル発生剤の存在下に反応させる方法が、品質、コストおよび導入量制御の観点から好ましい。
【0099】
前記官能基を含有する重合性モノマーは、特に限定されるものではないが、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ハイミック酸、これらの酸無水物、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エチルアクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0100】
フッ素樹脂中に含まれる官能基の量は、(a)PPS樹脂との反応が十分に進行する観点から、(b)フッ素樹脂1モルに対して、0.01モル%以上が好ましく、0.05モル%以上がより好ましく、0.1モル%以上で有ることが更に好ましい。官能基量の上限については、フッ素樹脂本来の特性が損なわれなければ特に限定されることはなく、流動性の悪化なども考慮すると、10モル%以下が好ましく、3モル%以下がより好ましい範囲として例示できる。
【0101】
本発明の実施形態におけるフッ素樹脂の配合量は特に限定されるものではない。本発明の実施形態におけるフッ素樹脂の配合量は、PPS樹脂100重量部に対して、フッ素樹脂が、5重量部以上が好ましく、10重量部以上がより好ましい。本発明の実施形態におけるフッ素樹脂の配合量は、PPS樹脂100重量部に対して、250重量部以下が好ましく、200重量部以下がより好ましい。本発明の実施形態におけるフッ素樹脂の配合量は、PPS樹脂100重量部に対して、125重量部以下が好ましく、79重量部以下がさらに好ましい。該フッ素樹脂が250重量部を超えると、フッ素樹脂が形成する1次分散相の分散径を微細化することが難しくなるため、PPS樹脂組成物が有する優れた靱性の特性が損なわれる傾向がある。また、該フッ素樹脂が5重量部未満では、所望する柔軟性や靱性の発現効果が減退する傾向がある。また、該フッ素樹脂を2種類以上併用することも、靱性、柔軟性、電気特性等の特性の付与に効果的である。
【0102】
本発明の実施形態において用いるフッ素樹脂の融点は、340℃以下が好ましく、310℃以下がより好ましく、280℃以下がさらに好ましい。融点の下限については、PPS樹脂加工温度でのフッ素樹脂の耐熱性の観点から、150℃以上が好ましく、190℃以上がより好ましい。一方、融点が340℃を越えるフッ素樹脂の場合には、溶融混練を行う温度がより高温となるため、PPS樹脂の劣化が生じ、機械的物性等の低下に繋がる。
【0103】
本発明の実施形態において用いるフッ素樹脂のMFR(Melt Flow Rate)は、0.1g/10分以上が好ましい。また、フッ素樹脂のMFRは、300g/10分以下が好ましく、100g/10分以下であることが更に好ましい。上記MFR範囲は、所望の相分離構造形成のために望ましい。また、上記MFR範囲を下回る場合は押出加工性が劣る。上記MFR範囲を上回る場合は機械物性が劣る。
【0104】
上記MFRの測定方法の一例として、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体では、ASTM−D3307(2010)に規定された372℃、5Kg荷重で10分間に、径2mm、長さ10mmのノズルを通過する量(g/10分)で定義される。また、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体では、ASTM−D2116(2007)に規定された372℃、5kg荷重での同様の通過量として定義される。エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体では、ASTM−D3159(2010)に規定された297℃、5kg荷重での同様の通過量として定義される。
【0105】
(3)(c)有機シラン化合物
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物に有機シラン化合物を添加することは、PPS樹脂に対するフッ素樹脂の分散性を高めることに有用であり、靱性向上に効果的である。
【0106】
かかる有機シラン化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などの有機シラン化合物を挙げることができる。列挙された有機シラン化合物の中でもイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物が反応性の観点から特に好ましい。
【0107】
かかる有機シラン化合物の添加量は、PPS樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上が好ましく、0.2重量部以上が特に好ましい。また、有機シラン化合物の添加量は、PPS樹脂100重量部に対して、5重量部以下が好ましく、3重量部以下が特に好ましい。
【0108】
(4)(d)無機フィラー
本発明の実施形態におけるPPS樹脂組成物には、必須成分ではないが、本発明の効果を損なわない範囲で(d)無機フィラーを配合して使用することも可能である。かかる(d)無機フィラーの具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるいはフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられる。列挙された無機フィラーの中でも、ガラス繊維、シリカ、炭酸カルシウムが好ましく、さらに炭酸カルシウムやシリカが、防食材、滑材の効果の点から特に好ましい。また、これらの(d)無機フィラーは中空であってもよく、さらに2種類以上併用することも可能である。また、これらの(d)無機フィラーを、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。列挙された無機フィラーの中でも、炭酸カルシウムやシリカ、カーボンブラックが、防食材、滑材、導電性付与の効果の点から好ましい。
【0109】
かかる無機フィラーの配合量は、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂と前記(b)フッ素樹脂の合計100重量部に対し、40重量部以下の範囲が選択され、10重量部未満の範囲が好ましく、1重量部未満の範囲がより好ましく、0.8重量部以下の範囲が更に好ましい。下限は特に無いが、無機フィラーの配合量は、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂と前記(b)フッ素樹脂の合計100重量部に対し、0.0001重量部以上が好ましい。無機フィラーの配合は材料の弾性率向上に有効である反面、40重量部を越えるような多量の配合は靱性の大きな低下をもたらすため、好ましくない。無機フィラーの含有量は、靱性と剛性のバランスから用途により適宜変えることが可能である。
【0110】
(5)(e)その他の添加物
さらに、本発明の実施形態におけるPPS樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、フッ素樹脂以外の樹脂を添加配合しても良い。フッ素樹脂以外の樹脂の具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、官能基を含有しないフッ素樹脂、エチレン/ブテン共重合体などのエポキシ基を含有しないオレフィン系重合体などが挙げられる。
【0111】
ただし、エチレン/ブテン共重合体などのエポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体は、良好な耐熱性を得る観点から、(a)PPS樹脂と(b)フッ素樹脂の合計100重量部に対し、10重量部以下の範囲が選択される。エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体は、(a)PPS樹脂と(b)フッ素樹脂の合計100重量部に対し、好ましくは4重量部以下、より好ましくは2重量部以下、更に好ましくは含まないことが良い。
【0112】
また、本発明の実施形態においては、カルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、アミノ基、ビニル基等の反応性官能基を有するオレフィン系エラストマーを含まないことが、良好な耐熱性を得る上で好ましい。
【0113】
また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は何れも組成物全体の20重量%を越えると、本発明のPPS樹脂組成物本来の特性が損なわれるため好ましくない。このため、上記化合物は、10重量%以下、更に好ましくは1重量%以下の添加がよい。
【0114】
(6)樹脂組成物の製造方法
溶融混練としては、少なくとも(a)PPS樹脂、(b)フッ素樹脂および(c)有機シラン化合物を二軸の押出機に供給して(a)PPS樹脂及び(b)フッ素樹脂のうち融点が高い方の樹脂の融点より5℃から100℃高い加工温度で混練する方法を代表例として挙げることができる。フッ素樹脂分散相の分散径を1μm以下に低下させ、さらにフッ素樹脂の1次分散相内に更に別成分の2次分散相を形成するには、剪断流動に加えて伸張流動しつつ溶融混練をする必要がある。
【0115】
剪断流動しつつ溶融混練する具体例としては、二軸押出機を使用し、ニーディング部を2箇所以上有することが好ましく、ニーディング部が3箇所以上あることがより好ましい。ニーディング部の上限としては、一箇所あたりのニーディング部の長さとニーディング部の間隔との兼ね合いであるが、10箇所以下が好ましく、8箇所以下がより好ましい。二軸押出機の「L/D」(L:スクリュー長さ、D:スクリュー直径)としては、10以上が望ましく、20以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。二軸押出機のL/Dの上限は通常60であり、50以下が好ましく、45以下が更に好ましい。この際の周速度としては、15m/分から50m/分の範囲が好ましく、20m/分から40m/分の範囲がより好ましく選択される。二軸押出機の「L/D」が10未満の場合には、混練部分が不足となる傾向にある。このため、フッ素樹脂の分散相が粗大化し、耐熱性と耐薬品性および靱性、表面平滑性に優れたPPS樹脂組成物を得ることが難しくなる。また、ニーディング部が2箇所未満の場合、あるいは周速度が15m/分未満の場合も、剪断力の低下に伴いフッ素樹脂の分散性が低下するため、所望の物性を得ることが難しい傾向にある。一方、周速度が50m/分を越える場合には、二軸押出機への負荷が大きくなるため生産性において好ましくない。
【0116】
また、本発明の実施形態において、フッ素樹脂の分散をより細かくするためには、押出機のスクリューの全長に対するニーディング部の合計の長さの割合は、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。押出機のスクリューの全長に対するニーディング部の合計の長さの割合は、60%以下が好ましく、55%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましい。全長に対するニーディング部の合計の長さの割合が10%未満である場合には、混練不足となり、フッ素樹脂の分散性が低下する。その結果、耐熱性と耐薬品性および靱性、表面平滑性に優れたPPS樹脂組成物を得ることが難しくなる。一方、全長に対するニーディング部の合計の長さの割合が60%を越える場合には、過剰なせん断による発熱が生じるため、樹脂温度が上昇し、混練する樹脂の分解を招く傾向にある。
【0117】
また、本発明の実施形態において、押出機のスクリューにおける一箇所あたりのニーディング部の長さを「Lk」とし、スクリュー直径を「D」とすると、混練性の観点から、「Lk/D」は、以下の範囲が好ましい。すなわち、「Lk/D」は、0.1以上が好ましく、1以上がより好ましく、2以上がさらに好ましい。また、「Lk/D」は、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0118】
また、本発明の実施形態において、押出機のスクリューにおけるニーディング部同士の間隔を「Ld」とし、スクリュー直径を「D」とすると、連続するニーディング部でのせん断による、溶融樹脂の過剰な発熱を抑制する観点から、「Ld/D」は、以下の範囲が好ましい。すなわち、「Ld/D」は、0.5以上が好ましく、1以上がより好ましく、2以上がさらに好ましい。また、「Ld/D」は、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0119】
混合時の樹脂温度は、上述の通り(a)PPS樹脂及び(b)フッ素樹脂のうち融点が高い方の樹脂の融点より5℃から100℃高い範囲の温度が好ましく選択される。混合時の樹脂温度は、(a)PPS樹脂及び(b)フッ素樹脂のうち融点が高い方の樹脂の融点より10℃から70℃高い範囲の温度がより好ましく、具体的には350℃以下であることが好ましく、340℃以下であることがより好ましい。混練温度が、(a)PPS樹脂及び(b)フッ素樹脂のうち融点が高い方の樹脂の融点より5℃高い温度よりも低い場合には、部分的に融解しない(a)PPS樹脂または(b)フッ素樹脂の存在により、組成物の粘度が大幅に上昇する。その結果、二軸押出機への付加が大きくなるため生産性上好ましくない。また、得られる組成物の樹脂相分離構造に関してもフッ素樹脂の分散相が粗大化する傾向にある。一方、混練温度が、(a)PPS樹脂及び(b)フッ素樹脂のうち融点が高い方の樹脂の融点より100℃高い温度を越える場合には、混練する樹脂あるいは添加剤の分解が生じるため好ましくない。
【0120】
上記の通り、剪断流動場での溶融混練により、フッ素樹脂の分散径が微細化する傾向がある。本発明の実施形態が所望する1μm以下のフッ素樹脂の1次分散相および該1次分散相内にPPS樹脂を主成分とする2次分散相の相分離構造を制御するには、剪断流動場での溶融混練とともに、伸張流動場での溶融混練を用いることが好ましい。
【0121】
伸張流動は、溶融混練時に一般的に用いられる剪断流動と比較し、分散効率が高いことから、生成されたアロイにおいて、より微分散化した相分離構造の形成が可能となる。
【0122】
伸張流動しつつ溶融混練してPPS樹脂組成物を製造する場合、伸張流動しつつ溶融混練する伸張流動ゾーン手前の圧力差と伸張流動ゾーン内での圧力差との差が10kg/cm
2から1000kg/cm
2の範囲であることが好ましい。伸張流動ゾーン手前の圧力差と伸張流動ゾーン内での圧力差との差である流入効果圧力降下とは、伸張流動ゾーン手前の圧力差(ΔP)から、伸張流動ゾーン内での圧力差(ΔP0)を差し引くことで求めることができる。伸張流動ゾーン手前と伸張流動ゾーンの内側との間における流入効果圧力降下が10kg/cm
2未満である場合には、伸張流動ゾーン内で伸張流動が形成される割合が低く、また圧力分布の不均一化が生じるため好ましくない。また、伸張流動ゾーン手前と伸張流動ゾーンの内側との間における流入効果圧力降下が1000kg/cm
2より大きい場合には、押出機内での背圧が大きくなりすぎるため安定的な製造が困難となるため好ましくない。また、伸張流動ゾーン手前と伸張流動ゾーンの内側との間における流入効果圧力降下は、50kg/cm
2以上が好ましく、100kg/cm
2以上が最も好ましい。伸張流動ゾーン手前と伸張流動ゾーンの内側との間における流入効果圧力降下は、600kg/cm
2以下が好ましく、500kg/cm
2以下が最も好ましい。
【0123】
押出機を使用して伸張流動しつつ溶融混練してPPS樹脂組成物を製造する場合、本発明の実施形態が所望する相分離構造を得るためには、押出機のスクリューの全長「L」に対する伸張流動しつつ溶融混練する伸張流動ゾーンの合計の長さの割合が、3%以上が好ましく、4%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましい。また、押出機のスクリューの全長「L」に対する伸張流動ゾーンの合計の長さの割合は、20%以下が好ましく、17%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。伸張流動ゾーンの合計の長さの割合が押出機のスクリュー全長の3%未満の場合、充分な分散効率が得られないため、本発明の実施形態における相分離構造を形成する上で好ましくない。一方、伸張流動ゾーンの合計の長さの割合が押出機のスクリュー全長の20%を超える場合、過剰な発熱が生じるため、樹脂温度が上昇し、混練する樹脂の分解を招く傾向にある。
【0124】
押出機を使用して伸張流動しつつ溶融混練してPPS樹脂組成物を製造する場合、押出機のスクリューにおける一つの伸張流動しつつ溶融混練する伸張流動ゾーンの長さを「Lm」とし、スクリュー直径を「D」とすると、混練性、反応性の観点から、Lm/Dは、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。また、Lm/Dは、10以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。また、本発明の実施形態において、二軸押出機の伸張流動しつつ溶融混練する伸張流動ゾーンは、スクリュー内の特定の位置に偏在することなく、全域に渡って配置されることが好ましい。
【0125】
押出機を使用して伸張流動しつつ溶融混練してPPS樹脂組成物を製造する場合、伸張流動しつつ溶融混練するゾーンの具体的な方法としては、以下の好ましい例が挙げられる。ニーディングディスクよりなり、かかるニーディングディスクのディスク先端側の頂部とその後面側の頂部との角度である螺旋角度θが、スクリューの反回転方向に0°<θ<90°の範囲内にあるツイストニーディングディスクであること、フライトスクリューからなり、かかるフライトスクリューのフライト部にスクリュー先端側から後端側に向けて断面積が縮小されてなる樹脂通路が形成されていること、押出機中に溶融樹脂の通過する断面積が暫時減少させた樹脂通路からなること、である。
【0126】
本発明の実施形態において、フッ素樹脂の1次分散相をより細かくし、かつ2次分散相を形成するためには、切り欠き型撹拌スクリューは用いないことが好ましい。また、伸張流動しつつ溶融混練する伸張流動ゾーンと切り欠き型撹拌スクリューを組み合わせることも望ましくない。
【0127】
周速度としては、15m/分から50m/分の範囲が好ましく、20m/分から40m/分の範囲がより好ましく選択される。
【0128】
押出機を使用して伸張流動しつつ溶融混練してPPS樹脂組成物を製造する場合、押出機中での滞留時間は、1分以上が好ましく、1.5分以上がより好ましく、2分以上がさらに好ましい。また、押出機中での滞留時間は、30分以下が好ましく、28分以下がより好ましく、25分以下がさらに好ましい。かかる滞留時間とは、押出機に原材料を供給してから吐出するまでの滞留時間の平均である。また、滞留時間とは、無着色の反応制御組成物が所定の押出量に調節された定常的な溶融混練状態において、原料が供給されるスクリュー根本の位置から、原料と共に、着色剤を通常1g程度投入し、着色剤等を投入した時点から押出機の吐出口より押出され、その押出物への着色剤による着色度が最大となる時点までの時間としても定義される。滞留時間が1分未満である場合、押出機中での反応時間が短く、十分に反応が促進されないため好ましくない。また、滞留時間が30分より長い場合、滞留時間が長いことによる樹脂の熱劣化が起こるため好ましくない。
【0129】
溶融混練する際の原料の混合順序については特に制限されるものではない。溶融混練する際の原料の混合順序として、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、これと更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。列挙した方法の中でも、(a)PPS樹脂と(b)フッ素樹脂および(c)有機シラン化合物との反応を効率的に進行させるためには、前記スクリュー構成を満足しながら、全ての原材料を配合後に溶融混練する方法が好ましい。
【0130】
なお、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも勿論可能である。
【0131】
(7)PPS樹脂組成物
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物は、PPS樹脂が本来有する優れた耐熱性や耐薬品性等とともに、優れた靱性、機械特性、表面平滑性を有するものである。かかる特性を発現させるためには、PPS樹脂組成物において、電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造が、(a)PPS樹脂が連続相(海相あるいはマトリクス)を形成しているとともに(b)フッ素樹脂が数平均分散径1μm以下の1次分散相(島相、ドメイン)を形成している状態であって、かつ、組成物中の(b)成分が形成する1次分散相内に(a)PPS樹脂の2次分散相を包含している必要がある。
【0132】
上記の樹脂相分離構造を形成することで、PPS樹脂が本来有する優れた耐熱性や耐薬品性等を損なうことなく、優れた靱性、機械特性、表面平滑性を発現することができる。本出願の溶融混練法を用いることで、フッ素樹脂が数平均分散径1μm以下に微分散化し、かつ2次分散相を内包する相分離構造が得られることを初めて見出した。
【0133】
さらに、本発明の実施形態のPPS樹脂組成物の相分離構造における、1次分散相の数平均分散径は1μm以下が必要であり、0.8μm以下が好ましく、0.7μm以下が更に好ましく、0.6μm以下が最も好ましい。
【0134】
数平均分散径が上記範囲であることは、PPS樹脂とフッ素樹脂との相容性が良好であることを意味し、良好な靱性の発現に繋がる。
【0135】
なお、「1次分散相の数平均分散径」とは以下の方法で算出した。(a)PPS樹脂及び(b)フッ素樹脂のうち融点が高い方の樹脂の融点より20℃から40℃高い範囲の成形温度で、本発明の実施形態におけるPPS樹脂組成物の曲げ試験片((長さ)125mm×(幅)12mm×(厚さ)3mm)を成形した。次に、曲げ試験片の中心部から0.1μm以下の薄片をダンベル片の断面積方向に切削し、透過型電子顕微鏡で1000〜5000倍程度の倍率で撮影した。該写真から、任意の100個の1次分散相について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値を求め、その後にそれらの値から求めた数平均値を、「1次分散相の数平均分散径」とした。
【0136】
2次分散相の有無は、上記と同様の方法にて透過型電子顕微鏡で観察した際の1次分散相内にPPS樹脂を主成分とする2次分散相が存在するか否かで判断した。PPS樹脂組成物中のフッ素樹脂の分散状態を上記の通りに制御する手段としては、少なくとも(a)PPS樹脂、(b)フッ素樹脂および(c)有機シラン化合物の二軸押出機での溶融混練において、伸張流動ゾーンを有する押出機にて溶融混練する条件を満たすことが好ましい。
【0137】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物について、材料強度を示す物性値の一つである引張伸度(ASTM1号ダンベル試験片、引張速度10mm/min、23℃、ASTM−D638(2010)に準拠して測定する)が、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。
【0138】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物の曲げ弾性率は、3.5GPa以下が好ましく、3.2GPa以下がより好ましい。
【0139】
なお、曲げ弾性率は、射出成形機を用いて、(長さ)125mm×(幅)12mm×(厚さ)3mmの曲げ試験片を本発明の実施形態におけるPPS樹脂組成物を用いて作製し、その曲げ試験片を、歪み速度1.5mm/min、23℃、スパン間距離50mmの条件で行う曲げ試験に適用した際の曲げ弾性率の値をいう。
【0140】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物のウェルド特性としては、ウェルド伸度は2%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、8%以上が更に好ましい。
【0141】
なお、ウェルド伸度は、両端にゲートを有し、試験片中央部付近にウェルドラインを有するASTM1号ダンベル試験片を本発明の実施形態におけるPPS樹脂組成物を用いて作製し、そのASTM1号ダンベル試験片を、引張速度10mm/min、支点間距離114mmの条件で行う引張試験に適用した際の破断伸度の値をいう。
【0142】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物の耐熱性の指標である熱処理後の引張伸度は、以下の範囲であることが好ましい。空気中200℃、500時間での熱処理後の引張伸度が10%以上であることが好ましく、13%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましい(ASTM1号ダンベル試験片、引張速度10mm/min、23℃、ASTM−D638(2010)に準拠して測定する)。
【0143】
熱処理後の引張破断伸度の下限については特に制限はない。熱処理後の引張破断伸度が上記範囲であることは、PPS樹脂組成物として耐熱性が良好であることを意味する。PPS樹脂組成物の熱処理前後の引張破断伸度にはフッ素樹脂の分散状態の影響が大きい。相分離構造において、フッ素樹脂が粗大分散化し、本発明の実施形態が所望する相分離構造を形成していない場合には引張伸度の低下を招く。
【0144】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物は、熱処理後の引張破断伸度が高いことから、高温環境下での連続使用において高い耐熱性を示すと考えられる。
【0145】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物の耐薬品性の指標であるATF(Automatic Transmission Fluid)浸漬処理後の引張伸度は、以下の範囲であることが好ましい。165℃、500時間でのATF浸漬処理後のPPS樹脂組成物における引張伸度が、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、19%以上であることがさらに好ましい。
【0146】
ATF浸漬処理後の引張破断伸度の下限については特に制限はない。ATF浸漬処理後の引張破断伸度が上記範囲であることは、PPS樹脂組成物として耐薬品性が良好であることを意味する。PPS樹脂組成物のATF浸漬処理前後の引張破断伸度にはフッ素樹脂の分散状態の影響が大きい。相分離構造において、フッ素樹脂が粗大分散化し、本発明の実施形態が所望する相分離構造を形成していない場合には引張伸度の低下を招く。
【0147】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物は、ATF浸漬処理後の引張破断伸度が高いことから、ATFをはじめとするオイルや冷媒等に晒される環境下での連続使用において高い耐薬品性を示すと考えられる。
【0148】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物は、表面平滑性の指標である中心線平均粗さ(Ra)が、1.00μm以下が好ましく、0.50μm以下がより好ましく、0.30μm以下がさらに好ましく、0.20μm以下が特に好ましい。
【0149】
なお、表面平滑性は、前記した曲げ試験片について、ミツトヨ(株)製表面粗さ測定器を用いて測定された。測定器の測定端子を曲げ試験片における樹脂流動方向(ゲート部→充填末端部)に2cm走査させて、JIS B0601に規定されている中心線平均粗さRaを測定して、n=3の平均値を採用した。中心線平均粗さRaの平均値が小さい程、表面平滑性に優れているといえる。
【0150】
(8)用途
本発明の実施形態におけるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形など、各種成形手法により成形可能であるが、中でも射出成形、押出成形用樹脂組成物として有用である。また、本発明の実施形態におけるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、耐薬品性、耐熱性に優れると共に、柔軟性、靱性、表面平滑性も有する。このため、本発明の実施形態におけるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、電気電子部品、通信機器部品、自動車部品、家電部品、OA機器部品などに利用するのが好適である。
【0151】
また、本発明の実施形態におけるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、高温までの幅広い温度領域において電気絶縁性を保持するため、電気絶縁部材の用途にも好適である。
【0152】
押出成形により得られる成形品としては、丸棒、角棒、シート、フィルム、チューブ、パイプなどが挙げられる。押出成形により得られる成形品について、更に具体的な用途としては、給湯器モーター、エアコンモーター、駆動モーター用などの電気絶縁材料、フィルムコンデンサー、スピーカー振動板、記録用の磁気テープ、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、工程・離型フィルム、保護フィルム、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、リチウムイオン電池内の絶縁ワッシャー、熱水や冷却水、化学薬品用のチューブ、自動車用の燃料チューブ、熱水配管、化学プラントなどの薬品配管、超純水や超高純度溶媒用の配管、自動車配管、フロンや超臨界二酸化炭素冷媒用の配管パイプ、研磨装置用のワークピース保持リングなどが例示できる。その他、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体、家電用の耐熱電線ケーブル、自動車内の配線に使用されるフラットケーブル等のワイヤーハーネスやコントロールワイヤー、通信、伝送用、高周波用、オーディオ用、計測用などの信号用トランスまたは車載用トランスの巻線の被覆成形体、スパイラルチューブなどが例示できる。
【0153】
射出成形により得られる成形品の用途としては、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器・精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、ターボダクト、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、ミリ波レーダー等の自動車・車両関連部品、携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラ、ハイブリッド自動車、電気自動車などの一次電池または二次電池用のガスケット、ギア、ワッシャー、ネジ、ナット、結束バンド、配管継ぎ手、ノズル、軸受、保持器、シールリング等々を例示できる。
【0154】
その他の成形により得られる成形品としては、ライニング、コーティング、ボトル、タンクなどが例示できる。
【0155】
その他の成形により得られる成形品の中でも、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体やエアコン部品の膨張弁、閉鎖弁、逆止弁、サービスポート等の冷媒調整弁、高温環境下に晒される自動車の燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、とりわけターボダクトとして有用である。
【実施例】
【0156】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれのみに限定されるものではない。
【0157】
実施例および比較例において、(a)PPS樹脂、(b)フッ素樹脂(c)有機シラン化合物として以下のものを用いた。
【0158】
[(a)PPS樹脂(a−1〜3)]
a−1:リニア型PPS樹脂 重量平均分子量:50000、カルボキシル基量:42μmol/g
a−2:リニア型PPS樹脂 重量平均分子量:70000、カルボキシル基量:33μmol/g
a−3:リニア型PPS樹脂 重量平均分子量:130000、カルボキシル基量:26μmol/g。
[(b)フッ素樹脂(b−1〜4)]
b−1:エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ダイキン(株)社製ネオフロンETFE、EP−610、融点:225℃、MFR:30g/10分(297℃、5kg荷重))
b−2:テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(ダイキン(株)社製ネオフロンFEP、NP−20、融点:270℃、MFR:6.5g/10分(372℃、5kg荷重))
b−3:反応性官能基含有エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(旭硝子(株)社製ETFE、AH−2000、融点:240℃、MFR:22g/10分(297℃、5kg荷重))、反応性官能基量:0.4モル%
b−4:反応性官能基含有エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ダイキン(株)社製ETFE、RP−5000、融点:195℃、MFR:25g/10分(265℃、5kg荷重))、反応性官能基量:0.4モル%
[(c)有機シラン化合物(c−1〜2)]
c−1:γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)社製KBE−9007)
c−2:3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)社製KBE−903)
【0159】
以下の実施例において、材料特性については次の方法により評価した。
【0160】
[1次分散相の数平均分散径]
住友重機械工業製射出成形機(SE75DUZ−C250)を用い、樹脂温度:(a)PPS樹脂及び(b)フッ素樹脂のうち融点が高い方の樹脂の融点より30℃高い温度、金型温度150℃にて、(長さ)125mm×(幅)12mm×(厚さ)3mmの曲げ試験片を成形した。得られた曲げ試験片の中心部から−80℃雰囲気下で0.1μm以下の薄片を試験片の断面積方向に切削し、日立製作所製H−7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50〜60万倍)にて、1000〜1万倍に拡大して写真撮影した。該写真から、(a)PPS樹脂中に分散する(b)フッ素樹脂の分散部分について、任意の100個の1次分散相について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値を求め、それらの値から求めた数平均値を1次分散相の数平均分散径とした。
【0161】
[2次分散相の有無]
上記と同様の方法にて透過型電子顕微鏡で観察した際の1次分散相内にPPS樹脂を主成分とする2次分散相が存在するか否かで判断した。
【0162】
[引張試験]
住友重機械工業製射出成形機(SE75DUZ−C250)を用い、樹脂温度:(a)PPS樹脂及び(b)フッ素樹脂のうち融点が高い方の樹脂の融点より30℃高い温度、金型温度150℃にて、ASTM1号ダンベル試験片を成形した。得られた試験片について、支点間距離114mm、引張速度10mm/min、温度23℃、相対湿度50%条件下で、ASTM D638(2010)に従って引張強度、引張破断伸度を測定した。
【0163】
[200℃、500時間処理後 引張破断伸度]
上記と同様の方法にて得たダンベル試験片を、200℃の雰囲気で500時間処理後、支点間距離114mm、引張速度10mm/min、温度23℃、相対湿度50%条件下で、ASTM−D638(2010)に準拠した条件で引張試験を実施し、試験片破断時の伸度を測定した。
【0164】
[薬品浸漬処理後 引張破断伸度]
上記と同様の方法にて得たダンベル試験片を、ATFオイル浸漬下165℃の雰囲気で500時間処理後、支点間距離114mm、引張速度10mm/min、温度23℃、相対湿度50%条件下で、ASTM−D638(2010)に準拠した条件で引張試験を実施し、試験片破断時の伸度を測定した。
【0165】
[曲げ試験]
住友重機械工業製射出成形機(SE75DUZ−C250)を用い、樹脂温度:(a)PPS樹脂及び(b)フッ素樹脂のうち融点が高い方の樹脂の融点より30℃高い温度、金型温度150℃にて、(長さ)125mm×(幅)12mm×(厚さ)3mmの曲げ試験片を成形した。得られた試験片について、歪み速度1.5mm/分、23℃、スパン間距離50mmの条件で曲げ試験を実施し、曲げ弾性率、曲げ強度を測定した。
【0166】
[ウェルド試験]
住友重機械工業製射出成形機(SE75DUZ−C250)を用い、樹脂温度:(a)PPS樹脂及び(b)フッ素樹脂のうち融点が高い方の樹脂の融点より30℃高い温度、金型温度150℃にて、両端にゲートを有し、試験片中央部付近にウェルドラインを有するASTM1号ダンベル試験片を成形した。得られた試験片について、支点間距離114mm、引張速度10mm/min、温度23℃、相対湿度50%条件下で引張強度、引張破断伸度を測定した。
【0167】
[PPS樹脂の重量平均分子量]
PPS樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:SSC−7110(センシュー科学)
カラム名:Shodex UT806M×2
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL(スラリー状:約0.2重量%)。
【0168】
[PPS樹脂のカルボキシル基量]
PPS樹脂のカルボキシル基含有量は、フーリエ変換赤外分光装置(以下、FT−IRと略す)を用いて算出した。
【0169】
まず、標準物質として安息香酸をFT−IRにて測定し、ベンゼン環のC−H結合の吸収である3066cm−1のピークの吸収強度(b1)とカルボキシル基の吸収である1704cm−1のピークの吸収強度(c1)を読み取り、ベンゼン環1単位に対するカルボキシル基量(U1)を求めた。カルボキシル基量(U1)は、(U1)=(c1)/[(b1)/5]の式から算出した。次に、PPS樹脂を320℃にて1分間溶融プレスした後、急冷して得られた非晶フィルムのFT−IR測定を行った。3066cm−1の吸収強度(b2)と1704cm−1の吸収強度(c2)を読み取り、ベンゼン環1単位に対するカルボキシル基量(U2)を求めた。カルボキシル基量(U2)は、(U2)=(c2)/[(b2)/4]の式から算出した。PPS樹脂1gに対するカルボキシル基含有量を以下の式から算出した。
PPS樹脂のカルボキシル基量(μmol/g)=(U2)/(U1)/108.161×1000000
【0170】
[表面平滑性試験]
住友重機械工業製射出成形機(SE75DUZ−C250)を用い、樹脂温度:(a)PPS樹脂及び(b)フッ素樹脂のうち融点が高い方の樹脂の融点より30℃高い温度、金型温度150℃にて、(長さ)125mm×(幅)12mm×(厚さ)3mmの曲げ試験片を成形した。得られた試験片について、ミツトヨ(株)製表面粗さ測定器を用い、測定端子を樹脂流動方向(ゲート部→充填末端部)に2cm走査させて、JIS B0601に規定されている中心線平均粗さRaを測定し、n=3の平均値を採用した。
【0171】
[実施例1〜7、実施例12〜15、比較例5]
表1〜3に示すPPS樹脂、フッ素樹脂、有機シラン化合物を表1〜3に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45)を用いて、溶融混練した。二軸押出機については、スクリューアレンジを伸張流動ゾーン2箇所、スクリュー全長に対する伸張流動ゾーンの割合を10%とし、ニーディング部3箇所、スクリュー全長に対するニーディング部の割合を45%とし、シリンダー温度は320℃に設定されたものを用いた。本混練方法をA法とする。その後、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1晩乾燥してから、射出成形に供した。得られた成形品について、モルフォロジー観察、引張試験、耐熱性試験、耐薬品性試験、曲げ試験、ウェルド試験、表面平滑性試験を行った。
【0172】
[実施例8]
表2に示すPPS樹脂、フッ素樹脂、有機シラン化合物を表2に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した二軸押出機(40mmφ、L/D=60)を用いて、溶融混練した。二軸押出機については、スクリューアレンジを伸張流動ゾーン2箇所、スクリュー全長に対する伸張流動ゾーンの割合を10%とし、ニーディング部3箇所、スクリュー全長に対するニーディング部の割合を45%とし、シリンダー温度は320℃に設定にされたものを用いた。本混練方法をD法とする。その後、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1晩乾燥してから、射出成形に供した。得られた成形品について、モルフォロジー観察、引張試験、耐熱性試験、耐薬品性試験、曲げ試験、ウェルド試験、表面平滑性試験を行った。
【0173】
[実施例9]
表2に示すフッ素樹脂、有機シラン化合物を表2に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45)を用いて、溶融混練した。二軸押出機については、スクリューアレンジを伸張流動ゾーン2箇所、スクリュー全長に対する伸張流動ゾーンの割合を10%とし、ニーディング部3箇所、スクリュー全長に対するニーディング部の割合を45%とし、シリンダー温度は320℃に設定にされたものを用いた。その後、ストランドカッターによりペレット化し、得られたペレットを130℃で1晩乾燥した。その後、本ペレットと表2に示すPPS樹脂を表2に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45)を用いて、溶融混練した。二軸押出機については、スクリューアレンジを伸張流動ゾーン2箇所、スクリュー全長に対する伸張流動ゾーンの割合を10%とし、ニーディング部3箇所、スクリュー全長に対するニーディング部の割合を45%とし、シリンダー温度は320℃に設定されたものを用いた。本混練方法をE法とする。その後、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1晩乾燥してから、射出成形に供した。得られた成形品について、モルフォロジー観察、引張試験、耐熱性試験、耐薬品性試験、曲げ試験、ウェルド試験、表面平滑性試験を行った。
【0174】
[実施例10]
表2に示すPPS樹脂、フッ素樹脂、有機シラン化合物を表2に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45)を用いて、溶融混練した。二軸押出機については、スクリューアレンジを伸張流動ゾーン2箇所、スクリュー全長に対する伸張流動ゾーンの割合を29%とし、ニーディング部3箇所、スクリュー全長に対するニーディング部の割合を45%とし、シリンダー温度は320℃に設定されたものを用いた。本混練方法をF法とする。その後、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1晩乾燥してから、射出成形に供した。得られた成形品について、モルフォロジー観察、引張試験、耐熱性試験、耐薬品性試験、曲げ試験、ウェルド試験、表面平滑性試験を行った。
【0175】
[実施例11]
表2に示すPPS樹脂、フッ素樹脂、有機シラン化合物を表2に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45)を用いて、溶融混練した。二軸押出機については、スクリューアレンジを伸張流動ゾーン2箇所、スクリュー全長に対する伸張流動ゾーンの割合を10%とし、ニーディング部3箇所、スクリュー全長に対するニーディング部の割合を35%とし、切り欠き部を有する撹拌スクリュー部のスクリュー全長に対する割合を10%とし、シリンダー温度は320℃に設定されたものを用いた。本混練方法をG法とする。その後、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1晩乾燥してから、射出成形に供した。得られた成形品について、モルフォロジー観察、引張試験、耐熱性試験、耐薬品性試験、曲げ試験、ウェルド試験、表面平滑性試験を行った。
【0176】
[比較例1、4]
表3に示すPPS樹脂、フッ素樹脂、有機シラン化合物を表3に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45)を用いて、溶融混練した。二軸押出機については、伸張流動ゾーンを設けず、ニーディング部3箇所、スクリュー全長に対するニーディング部の割合を45%、シリンダー温度は320℃に設定されたものを用いた。本混練方法をB法とする。その後、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1晩乾燥してから、射出成形に供した。得られた成形品について、モルフォロジー観察、引張試験、耐熱性試験、耐薬品性試験、曲げ試験、ウェルド試験、表面平滑性試験を行った。
【0177】
[比較例2、3]
表3に示すPPS樹脂、フッ素樹脂、有機シラン化合物を表3に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45)を用いて、溶融混練した。二軸押出機については、伸張流動ゾーンを設けず、ニーディング部3箇所、ニーディング部のスクリュー全長に対する割合を45%、切り欠き部を有する撹拌スクリュー部のスクリュー全長に対する割合を10%とし、シリンダー温度は320℃に設定されたものを用いた。本混練方法をC法とする。その後、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1晩乾燥してから、射出成形に供した。得られた成形品について、モルフォロジー観察、引張試験、耐熱性試験、耐薬品性試験、曲げ試験、ウェルド試験、表面平滑性試験を行った。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0178】
上記実施例と比較例の結果を説明する。
【0179】
実施例1〜15では、(b)フッ素樹脂分散相の数平均分散粒子径が1μm以下に制御されており、かつフッ素樹脂の1次分散相内にPPS樹脂を主成分とする2次分散相が形成れている。このため、弾性率が低く柔軟で有り、かつ良好な引張伸度とウェルド伸度を発現している。また、表面平滑性の指標である中心線平均粗さも良好である。
【0180】
一方、伸張流動ゾーンを有さない条件で溶融混練を行った比較例1は、フッ素樹脂の分散相は数平均分散径1μm以下を示すものの、2次分散相の形成は確認出来ない。また、得られた成形品の物性は、十分な引張伸度、ウェルド伸度は発現せず、靱性に優れるPPS組成物が得られない。中心線平均粗さにも劣る。
【0181】
また、溶融混練にて切り欠き部を有する撹拌スクリューを用いた比較例2、3は、フッ素樹脂が形成する1次分散相内に、PPS樹脂からなる2次分散相の形成は確認出来るものの、1次分散相の数平均分散径が粗大(4.3〜6.1μm)である。このため、得られた成形品の機械物性としては、十分な引張伸度、ウェルド伸度が発現せず、こちらも靱性に優れるPPS組成物が得られない。中心線平均粗さにも劣る。
【0182】
伸張流動ゾーンを有さない条件で溶融混練を行った比較例4は、フッ素樹脂の分散相は数平均分散径1μm以下を示すものの、2次分散相の形成は確認出来ない。また、得られた成形品の物性は、良好な引張伸度は発現するものの、ウェルド伸度は十分ではない。中心線平均粗さにも劣る。メカニズムは判然としないが、混練条件によりPPS樹脂とフッ素樹脂間の相容性が変化し、2次分散相の形成とウェルド特性に影響していると考えられる。
【0183】
有機シラン化合物を用いなかった比較例5は、粗大なフッ素樹脂の分散相を形成し、2次分散相の形成は確認出来ない。また、得られた成形品の物性は、引張伸度、ウェルド伸度ともに十分ではなく、靱性に優れるPPS組成物が得られない。中心線平均粗さにも劣る。