【文献】
Li Qun XU, et al.,Dopamine-Induced Reduction and Functionalization of Graphene Oxide Nanosheets,Macromolecules,米国,2010年,Vol.43 No.20,Page.8336-8339
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機溶媒置換工程において、最終の溶媒除去を行うより前のいずれかの段階で、表面処理グラフェン/水分散液と有機溶媒を混合した状態で、高せん断ミキサーによりせん断速度毎秒5000〜毎秒50000で撹拌処理する強撹拌工程を行う、請求項13に記載の表面処理グラフェン/有機溶媒分散液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<表面処理グラフェン>
本発明の表面処理グラフェンは、グラフェンに下記一般式(1)で表される化合物またはその中和塩が付着してなる。
【0014】
(一般式(1)中、
A:縮合数1〜4の、フェノール性ヒドロキシ基を有しないベンゼン系芳香族基
R
1:直接結合、炭素数1〜12の2価の炭化水素基、もしくはエーテル結合、エステル結合、アルコール構造およびカルボニル構造からなる群より選択される構造を有する炭素数1〜12の2価の有機基
R
2、R
3:それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基、もしくはエーテル結合、エステル結合、アルコール構造およびカルボニル構造からなる群より選択される構造を有する炭素数1〜12の有機基
n:1〜6の整数)。
【0015】
本発明の表面処理グラフェンは、特定の化学構造を有する化合物が表面処理剤としてグラフェン表面に付着したものである。すなわち、本明細書においては、このような表面処理剤が付着した状態のグラフェンを含めて「本発明の表面処理グラフェン」または単に「表面処理グラフェン」と表記するものとする。
【0016】
グラフェンとは、単層グラフェンが積層した構造体であり、薄片状の形態を有するもの
である。本発明の表面処理グラフェンの厚みは特に制限は無いが、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。表面処理グラフェンの面方向の大きさ(最長径と最短径の平均)にも特に制限は無いが、下限として、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.7μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上であり、上限として、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。表面処理グラフェンの厚みと面方向の大きさは、表面処理グラフェンをN−メチルピロリドン(NMP)溶剤中で0.002〜0.005質量%にまで希釈し、ガラス基板などの平滑性の高い基板上に滴下、乾燥し、レーザー顕微鏡や原子間力顕微鏡で観察することで測定することができる。具体的には、後述する測定例5および測定例6にそれぞれ記載の方法で測定することができる。
【0017】
本発明の表面処理グラフェンは、表面処理剤がグラフェン表面に付着してなる。表面処理剤は、グラフェンの表面に付着して存在していることで、グラフェンの分散性を高める効果を発揮するものである。本発明においては、表面処理剤として、下記一般式(1)で表される化合物またはその中和塩を用いる。以下、当該化合物またはその中和塩を便宜的に「本発明に用いられる表面処理剤」と表記する。
【0019】
(一般式(1)中、
A:縮合数1〜4の、フェノール性ヒドロキシ基を有しないベンゼン系芳香族基
R
1:直接結合、炭素数1〜12の2価の炭化水素基、もしくはエーテル結合、エステル結合、アルコール構造およびカルボニル構造からなる群より選択される構造を有する炭素数1〜12の2価の有機基
R
2、R
3:それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基、もしくはエーテル結合、エステル結合、アルコール構造およびカルボニル構造からなる群より選択される構造を有する炭素数1〜12の有機基
n:1〜6までの整数)
一般式(1)中、Aで表されるベンゼン系芳香族基は、ヘテロ原子を含まない芳香環または当該芳香環が縮合した構造を有する有機基である。ベンゼン系芳香族基は単環でも多環でも良いが、グラフェン分散効果を高くする観点から、その縮合数は1以上4以下であることが好ましい。また、ベンゼン系芳香族基は置換基を有していてもよいが、フェノール性ヒドロキシ基は有しない。フェノール性ヒドロキシ基とは、芳香環に直接結合したヒドロキシ基を指す。ベンゼン系芳香族基が、芳香環の置換基として電気化学的酸化を受けやすいフェノール性ヒドロキシ基を有しないことで、表面処理剤による表面処理グラフェンの電気化学的安定性の低下を抑制することができる。
【0020】
アミノ基によるベンゼン系芳香族基への電子供与効果を強くする観点から、上記一般式(1)において、R
1が炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数2〜12のアルケノキシアルキレン基または直接結合であることが好ましい。より好ましくは、R
1が炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数2〜6のアルケノキシアルキレン基または直接結合である化合物であり、さらに好ましくは、R
1が炭素数1〜4のアルキレン基、炭素数2〜4のアルケノキシアルキレン基または直接結合である化合物である。中でも、より低分子となるR
1が炭素数1〜2のアルキレン基、炭素数2のアルケノキシアルキレン基または直接結合である化合物は表面処理剤による表面処理グラフェンの導電性低下を抑制することができ、特に好ましい。なお、本発明において、アルケノキシアルキレン基とは、アルキレン基の炭素原子の一つが酸素原子に置換された2価の基を表す。すなわち、アルケノキシアルキレン基とは、下記一般式
−(CH
2)
p−O−(CH
2)
q−
で表される2価の基を表す。上記一般式中、p、qは1以上の整数を表す。
【0021】
一般式(1)中、R
1が炭素数1〜12の2価の炭化水素基である場合、当該炭化水素基はフェニレン構造を有していてもよい。
【0022】
また、グラフェンと相互作用するアミノ基の立体障害効果を抑制するため、本発明の表面処理グラフェンは、上記一般式(1)において、R
2、R
3がそれぞれ水素原子、フェニル基、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数2〜12のアルコキシアルキル基であることが好ましい。より好ましくはR
2、R
3がそれぞれ水素原子、フェニル基、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数2〜6のアルコキシアルキル基である化合物であり、さらに好ましくはR
2、R
3がそれぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数2〜4のアルコキシアルキル基である化合物である。中でも、より低分子となるR
2、R
3が水素原子である化合物は表面処理剤による表面処理グラフェンの導電性低下を抑制することができ、特に好ましい。一般式(1)中、R
2、R
3が炭素数1〜12の2価の炭化水素基である場合、当該炭化水素基はフェニレン構造を有していてもよい。
【0023】
本発明に用いられる表面処理剤の具体例としては、2−クロロアニリン、3−クロロアニリン、4−クロロアニリン、ベンジルアミン、フェニルエチルアミン、1−ナフチルアミン、2−ナフチルアミン、1,4−ジアミノアントラキノン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,3−ジアミノナフタレン、アニリン、4−クロロアニリン、p-トルイジン、m−トルイジン、o−トルイジン、N−メチル−p―トルイジン、1−アミノアントラセン、2−アミノアントラセン、9−アミノアントラセン、1−アミノピレン、1,6−ジアミノピレン、1,8−ジアミノピレン、3−(2−ナフチル)−L−アラニン、2−(1−ナフチル)アセトアミド、N−メチル−1−ナフチルメチルアミン、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、1,2−フェニレンジアミン、N,N−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、N−メチルアニリン、N−エチルアニリン、N−イロプロピルアニリン、4−エチルアニリン、4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、4−ニトロアニリン、1,2,4−トリアミノベンゼン、N,N,N‘,N’−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン、ジフェニルアミン、N−メチルジフェニルアミン、4−アミノジフェニルアミン、4−アミノトリフェニルアミン、2−ブロモアニリン、2,4−ジブロモアニリン、2,3−ジクロロアニリン、2,4−ジクロロアニリン、2,5−ジクロロアニリン、3,4−ジクロロアニリン、3,5−ジクロロアニリン、N,N‘−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミン、4−フルオロアニリン、3−フルオロアニリン、2−フルオロアニリン、2,6−ジフルオロアニリン、2−ヨードアニリン、4−ヨードアニリン、3−ヨードアニリン、N−メチル−1−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−1−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−2−ナフチルアミン、2,4,6−トリクロロアニリン、2−クロロ−1,4−フェニレンジアミン、2,4−ジメチルアニリン、2,6−ジメチルアニリン、3,4−ジメチルアニリン、3,5−ジメチルアニリン、4−シアノアニリン、2,6−ジアミノトルエン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、2,4,6−トリメチルアニリン、4−メトキシアニリン、4−アミノベンゼンチオール、ホルムアニリド、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4−メチルベンジルアミン、N−メチルベンジルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジエチルベンジルアミン、N−tert―ブチルベンジルアミン、N−イソプロピルベンジルアミン、4−アミノベンジルアミン、(S)−(−)−1−フェニルエチルアミン、(R)−(+)−1−フェニルエチルアミン、N−エチルベンジルアミン、ベンズアミド、4−(1−アミノエチル)トルエン、4−フルオロベンジルアミン、クロロベンジルアミン、4−メチルベンズアミド、イソフタルアミド、N−エチル−N−メチルベンジルアミン、2−アミノベンジルアミン、4−(アミノメチル)安息香酸、トリベンジルアミン、4−アミノベンズアミド、2−クロロベンズアミド、4−クロロベンズアミド、2,4−ジクロロベンズアミド、N−ベンジルアセトアミド、N,N−ジメチルベンズアミド、4−フルオロベンズアミドおよび1−(2,4−ジクロロフェニル)エチルアミン、が挙げられる。本発明に用いられる表面処理剤としては、これらのうち1種類の化合物のみを用いてもよく、複数の化合物を用いてもよい。
【0024】
中でも、前記一般式(1)で表される化合物が、下記式(2)〜(5)で表される化合物からなる群より選択される化合物であることが好ましい。すなわち、下記式(2)で表される3−クロロアニリン、下記式(3)で表されるベンジルアミン、下記式(4)で表される2−フェニルエチルアミン、下記式(5)で表される1−ナフチルアミン、またはその中和塩は、特に好ましい表面処理剤として挙げられる。
【0026】
上記一般式(1)で表される化合物と中和塩を形成する酸としては、特に限定されるものではないが、硫酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、ホウ酸、フッ酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸を挙げることができる。中でも副反応が少なく安定性が高いこと、取り扱いの容易さなどから、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸が特に好ましい。
【0027】
本発明において、表面処理剤がグラフェンに付着してなる、とは、表面処理グラフェンを質量比100倍の水に分散してろ過する洗浄工程を5回以上繰り返し、その後凍結乾燥、スプレードライ等の方法で乾燥させた後に、当該表面処理剤が表面処理グラフェン中に残存していることをいう。表面処理剤が残存していることは、乾燥後の表面処理グラフェンを飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による測定をした時に、正二次イオンスペクトルで表面処理剤分子がプロトン付加分子の形で検出できることで確認できる。表面処理剤が中和塩の場合は、アニオン分子が除去された表面処理剤分子にプロトンが付加した形で検出することができる。
【0028】
本発明の表面処理グラフェンは、前記一般式(1)で表される化合物またはその中和塩がグラフェンに対して3質量%以上50質量%以下付着してなることが好ましい。前記一般式(1)で表される化合物またはその中和塩、すなわち、表面処理剤が少なすぎると、表面処理グラフェンに十分な分散性を付与することができない。一方で表面処理剤が多すぎると、表面処理グラフェンの導電性が低下する傾向がある。表面処理剤は、グラフェンに対し5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることが更に好ましい。また、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが更に好ましい。
【0029】
表面処理剤付着量(質量%)は、本発明に用いられる表面処理剤が窒素原子を含むことから、エックス線光電子分光法により測定した窒素の質量%値(a)、表面処理剤の分子量(b)、および表面処理剤分子中の窒素の式量(c)から下記式(6)を用いて算出することが可能である。窒素の質量%値(a)は、エックス線光電子分光法により測定した窒素の原子%値と窒素の原子量を乗じた値が、同じくエックス線光電子分光法により測定した窒素を含む全元素について各元素の原子%値と当該元素の原子量を乗じて足し合わせた値に占める割合として算出することができる。
表面処理剤付着量(質量%)=(a×b÷c)÷(100−a×b÷c)×100・・・(6)
X線光電子分光法では、表面処理グラフェンを高真空チャンバー付の測定室に導入し、超高真空中に置いた試料表面に軟X線を照射し、表面から放出される光電子をアナライザーで検出する。この光電子をワイドスキャンおよびナロースキャンで測定し、物質中の束縛電子の結合エネルギー値を求めることで、物質表面の元素情報が得られる。さらに、表面処理グラフェン中に含まれる表面処理剤の化学構造は、TOF−SIMSにより特定することが可能である。なお、表面処理剤の定量は、表面処理グラフェンを、質量比100倍の水に分散してろ過する洗浄工程を5回以上繰り返し、その後凍結乾燥して得たサンプルを用いて行う。
【0030】
表面処理剤をグラフェンに付着させる手法は特に限定されず、表面処理剤とグラフェンを直接混合するか、または表面処理剤と酸化グラフェンを混合した後に酸化グラフェンを還元しても良い。
【0031】
表面処理剤とグラフェンあるいは酸化グラフェンを混合する手法には特に制限は無く、公知のミキサーや混練機を用いることができる。具体的には、自動乳鉢、三本ロール、ビーズミル、遊星ボールミル、ホモジェナイザー、ホモディスパー、ホモミクサー、プラネタリーミキサー、二軸混練機などを利用した方法が挙げられる。中でも、ホモジェナイザー、ホモディスパー、ホモミクサー、プラネタリーミキサー、二軸混練機が好適である。
【0032】
本発明の表面処理グラフェンは、BET測定法により測定される比表面積(以下、単に「比表面積」ということがある。)が80m
2/g以上250m
2/g以下であることが好ましい。グラフェンの比表面積はグラフェンの厚さとグラフェンの剥離度を反映しており、大きいほどグラフェンが薄く、剥離度が高いことを示している。グラフェンの比表面積が80m
2/g未満であると導電性ネットワークを形成することが難しくなる傾向があり、250m
2/gより大きいと分散性が低下する傾向がある。グラフェンの比表面積は、100m
2/g以上であることがより好ましく、130m
2/g以上であることがより好ましい。また、同様に200m
2/g以下であることが好ましく、180m
2/g以下であることがより好ましい。なお、BET測定法は、表面処理グラフェンに対してJIS Z8830:2013内に記載の方法で行い、吸着ガス量の測定方法はキャリアガス法で、吸着データの解析は一点法で行うものとする。
【0033】
本発明の表面処理グラフェンは、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.05以上0.40以下であることが好ましい。
【0034】
本発明の表面処理グラフェンをX線光電子分光法で測定すると284eV付近に炭素に由来するC1sピークが検出されるが、炭素が酸素に結合している場合は高エネルギー側にシフトすることが知られている。具体的には炭素が酸素に結合していないC−C結合、C=C二重結合、C−H結合に基づくピークはシフトせずに284eV付近に検出され、C−O一重結合の場合286.5eV付近に、C=O二重結合の場合287.5eV付近に、COO結合の場合288.5eV付近にシフトする。そのため、炭素に由来する信号は、284eV付近、286.5eV付近、287.5eV付近、288.5eV付近のそれぞれのピークを重ね合わせた形で検出される。また同時に、402eV付近に窒素に由来するN1sピークが検出され、533eV付近には酸素に由来するO1sピークが検出される。さらに、C1sピークとO1sピークのピーク面積からO/C比を求めることができる。
【0035】
表面処理グラフェン表面の酸素原子は、グラフェン自体に結合した酸性基や、グラフェン表面に付着した表面処理剤に含まれる酸素原子である。このような酸性基は表面処理グラフェンの分散状態を向上させる効果を持ち、表面処理グラフェン表面の酸性基が少なすぎると分散性が悪くなるが、多すぎると導電性が低下して導電助剤としての性能が悪くなる。表面処理グラフェンのO/C比は、好ましくは0.07以上であり、より好ましくは0.09以上であり、さらに好ましくは0.10以上である。また同様に、好ましくは0.30以下であり、より好ましくは0.20以下であり、さらに好ましくは0.15以下である。
【0036】
表面処理グラフェンのO/C比は、原料となる酸化グラフェンの酸化度を変えたり、表面処理剤の量を変えたりすることによりコントロールすることが可能である。酸化グラフェンの酸化度が高いほど還元後に残る酸素の量も多くなり、酸化度が低いと還元後の酸素原子量が少なくなる。
【0037】
また、本発明の表面処理グラフェンは、X線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の元素比(N/C比)が0.005以上0.020以下であることが好ましく、0.008以上0.015以下であることが好ましい。表面処理グラフェン表面の窒素原子は、本発明に用いられる表面処理剤に含まれる窒素に由来するものである。グラフェンのN/C比が0.020を超えると、窒素原子がグラフェン共役構造を置換するため低導電性になりやすい。なお、N/C比は、O/C比と同様に、C1sピークとN1sピークのピーク面積から求めることができる。
【0038】
本発明の表面処理グラフェンを有機溶媒に分散させて表面処理グラフェン/有機溶媒分散液として用いる場合、分散方法は特に限定されるものではないが、薄膜旋回方式、ローター/ステーター式、メディアミル式を採用したものが好ましい。分散に用いる装置としては、プラネタリーミキサー(井上製作所)、ホモディスパー(プライミクス社)などを例示できるが、フィルミックス(登録商標)30−30型(プライミクス社)、クレアミックス(登録商標)CLM−0.8S(エム・テクニック社)、ラボスター(登録商標)ミニLMZ015(アシザワ・ファインテック社)、スーパーシェアミキサーSDRT0.35−0.75(佐竹化学機械工業社)などがより好ましい。
【0039】
<表面処理グラフェンの製造方法>
本発明の表面処理グラフェンの製造方法は、酸化グラフェンと、下記一般式(1)で表される化合物またはその中和塩とを混合した後に、酸化グラフェンを還元処理する還元工程を有する。
【0041】
(一般式(1)中、
A:縮合数1〜4の、フェノール性ヒドロキシ基を有しないベンゼン系芳香族基
R
1:直接結合、炭素数1〜12の2価の炭化水素基、もしくはエーテル結合、エステル結合、アルコール構造およびカルボニル構造からなる群より選択される構造を有する炭素数1〜12の2価の有機基
R
2、R
3:それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基、もしくはエーテル結合、エステル結合、アルコール構造およびカルボニル構造からなる群より選択される構造を有する炭素数1〜12の有機基
n:1〜6の整数)。
【0042】
すなわち、本発明の表面処理グラフェンは、酸化グラフェンと、本発明に用いられる表面処理剤とを混合した後に、酸化グラフェンを還元処理することを含む製造方法によって製造することができる。上記一般式(1)で表される化合物の好適な態様は上述のとおりである。
【0043】
〔酸化グラフェン〕
酸化グラフェンの作製法に特に限定は無く、ハマーズ法等の公知の方法を使用できる。また市販の酸化グラフェンを購入してもよい。酸化グラフェンの作製方法として、ハマーズ法を用いる場合を以下に例示する。
【0044】
黒鉛(石墨粉)と硝酸ナトリウムを濃硫酸中に入れて攪拌しながら、過マンガン酸カリウムを温度が上がらないように徐々に添加し、25〜50℃下、0.2〜5時間攪拌反応する。その後イオン交換水を加えて希釈して懸濁液とし、80〜100℃で5〜50分間反応する。最後に過酸化水素と脱イオン水を加え1〜30分間反応して、酸化グラフェン分散液を得る。得られた酸化グラフェン分散液を濾過、洗浄し、酸化グラフェンゲルを得る。この酸化グラフェンゲルを希釈して、表面処理剤との混合処理や還元処理をしても良い。
【0045】
酸化グラフェンの原料となる黒鉛は、人造黒鉛、天然黒鉛のどちらでも良いが、天然黒鉛が好ましく用いられる。原料とする黒鉛のメッシュ数は20000以下が好ましく、5000以下がさらに好ましい。
【0046】
各反応物の割合は、一例として、黒鉛10gに対し、濃硫酸を150〜300ml、硝酸ナトリウムを2〜8g、過マンガン酸カリウムを10〜40g、過酸化水素を40〜80gである。硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムを加える時は、氷浴を利用して温度を制御する。過酸化水素と脱イオン水を加える時、脱イオン水の質量は過酸化水素質量の10〜20倍である。濃硫酸は、質量含有量が70%以上のものを利用することが好ましく、97%以上のものを利用することがさらに好ましい。
【0047】
酸化グラフェンは高い分散性を有するが、それ自体は絶縁性で導電助剤等に用いることはできない。酸化グラフェンの酸化度が高すぎると、還元して得られるグラフェンの導電性が悪くなる場合があるため、酸化グラフェンの、X線光電子分光法によって測定される酸素原子に対する炭素原子の割合は、0.5以上であることが好ましい。酸化グラフェンをX線光電子分光法で測定する際には、十分に溶媒を乾燥させた状態で行う。
【0048】
また、内部までグラファイトが酸化されていないと、還元した時に薄片状のグラフェンが得られにくい。そのため、酸化グラフェンは、乾燥させてX線回折測定をした時に、グラファイト特有のピークが検出されないことが望ましい。
【0049】
酸化グラフェンの酸化度は、黒鉛の酸化反応に用いる酸化剤の量を変化させることで調整することができる。具体的には、酸化反応の際に用いる、黒鉛に対する硝酸ナトリウムおよび過マンガン酸カリウムの量が多いほど高い酸化度になり、少ないほど低い酸化度になる。黒鉛に対する硝酸ナトリウムの質量比は特に限定されるものではないが、0.200以上0.800以下であることが好ましく、0.250以上0.500以下であることがより好ましく、0.275以上0.425以下であることがさらに好ましい。黒鉛に対する過マンガン酸カリウムの比は特に限定されるものではないが、1.00以上であることが好ましく、1.40以上であることがより好ましく、1.65以上であることがさらに好ましい。また、4.00以下であることが好ましく、3.00以下であることがより好ましく、2.55以下であることがさらに好ましい。
【0050】
〔表面処理剤混合工程〕
次に、酸化グラフェンと表面処理剤とを混合する。表面処理剤としては、前述のものを用いる。酸化グラフェンと表面処理剤とを混合する方法は特に限定されないが、プラネタリーミキサー(井上製作所)、ホモディスパー(プライミクス社)、フィルミックス(プライミクス社)などを用いることができる。
【0051】
酸化グラフェンと表面処理剤を良好に混合するには、酸化グラフェンと表面処理剤のいずれもが水溶液中に分散している状態で混合することが好ましい。この際、酸化グラフェンと表面処理剤はいずれも完全に溶解している事が好ましいが、一部が溶解せずに固体のまま分散していても良い。水溶液中に水以外の溶媒が一部含まれていても良く、水以外の溶媒としては、特に限定されるものではないが、極性溶媒が好ましく、エタノール、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、或いは上記の混合物等が挙げられる。
【0052】
〔微細化工程〕
必要に応じて、還元工程の前、表面処理剤混合工程の前後に酸化グラフェンを微細化する処理を行っても良い。微細化処理により、還元後のグラフェンの大きさを小さくすることが可能である。微細化工程における溶媒としては、表面処理剤混合工程で述べたものと同様のものを用いることができる。また、微細化する手法としては特に限定はないが、酸化グラフェン分散液に超音波を印加する手法や、圧力を印加した酸化グラフェン分散液をセラミックボールに衝突させる手法、あるいは圧力を印加した酸化グラフェン分散液同士を衝突させて分散を行う液―液せん断型の湿式ジェットミルを用いる手法を挙げることができる。微細化処理の種類、処理条件、処理時間により還元後のグラフェンの大きさを調製することが可能である。
【0053】
〔還元工程〕
次に、溶媒中で酸化グラフェンを還元する還元工程を行うことで表面処理グラフェン/水分散液が得られる。また、前述の表面処理剤混合工程を溶媒中で行う場合には、当該工程の終了後の状態でそのまま還元工程に移るか、あるいは表面処理剤混合工程で用いた溶媒と同じ溶媒で希釈して還元することが好ましい。
【0054】
酸化グラフェンを還元する方法は特に限定されないが、化学還元が好ましい。化学還元の場合、還元剤としては、有機還元剤、無機還元剤が挙げられるが、還元後の洗浄の容易さから無機還元剤がより好ましい。
【0055】
有機還元剤としてはアルデヒド系還元剤、ヒドラジン誘導体還元剤、アルコール系還元剤が挙げられ、中でもアルコール系還元剤は比較的穏やかに還元することができるため、特に好適である。アルコール系還元剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ベンジルアルコール、フェノール、エタノールアミン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、などが挙げられる。
【0056】
無機還元剤としては亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウム、亜リン酸、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジンなどが挙げられ、中でも亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウムは、低毒性かつ反応時間が短い上、酸性基を比較的保持しながら還元できるので溶媒への分散性の高いグラフェンが製造でき、好適に用いられる。
【0057】
〔洗浄工程〕
還元工程後かつ乾燥工程の前の段階で、還元剤の除去を目的として表面処理グラフェン/水分散液を溶媒で希釈し濾過する洗浄工程を行っても良い。洗浄工程で用いる溶媒としては、表面処理剤混合工程で述べたものと同様のものを用いることができる。
【0058】
〔乾燥工程〕
還元工程後または洗浄工程後の表面処理グラフェン/水分散液を乾燥処理し溶媒を除去することで本発明の表面処理グラフェンを得ることができる。乾燥方法は特に限定されるものではないが、凍結乾燥又はスプレードライなどを好適に用いることができる。
【0059】
<表面処理グラフェン/有機溶媒分散液>
本発明の表面処理グラフェン/有機溶媒分散液は、本発明の表面処理グラフェンが有機溶媒に分散されてなる。すなわち、本発明の表面処理グラフェンが有機溶媒に分散状態で含まれた分散液である。グラフェンを分散させる有機溶媒としては、1−プロパノール、2−プロパノール、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン或いは上記の混合物などが例示できる。
【0060】
本発明の表面処理グラフェン/有機溶媒分散液は、固形分率が0.3質量%以上40質量%以下であることが好ましい。固形分率は20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、7質量%以下が一層好ましく、5質量%以下が特に好ましい。また、固形分率は0.7質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。固形分率が5質量%以下であると、流動性が出やすく取り扱い性に優れる。固形分率が40質量%を超えると、分散液中でグラフェンのスタックが起こりやすくなり、良好な分散状態を維持しにくく、0.3質量%未満であると、電極ペーストの製造に用いた際、分散液中の溶媒により電極ペーストの固形分率が下がり粘度が低下するため、塗工性が悪化する傾向がある。
【0061】
表面処理グラフェン/有機溶媒分散液の固形分率は、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液から溶媒を乾燥させた後の質量を測定し、測定値を表面処理グラフェン/有機溶媒分散液自体の質量で除すことで算出できる。具体的には、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液1g程度を質量既知のガラス基板上に付着させ、120℃に温度調整したホットプレート上で1.5時間加熱して溶媒を揮発させた際に残存したグラフェンの質量を測定する。
【0062】
<表面処理グラフェン/有機溶媒分散液の製造方法>
本発明の表面処理グラフェン/有機溶媒分散液の製造方法は、酸化グラフェンと、下記一般式(1)で表される化合物とを溶媒中に分散している状態で混合した後に、酸化グラフェンを還元処理し、さらに溶媒を有機溶媒に置換する有機溶媒置換工程を有する。
【0064】
(一般式(1)中、
A:縮合数1〜4の、フェノール性ヒドロキシ基を有しないベンゼン系芳香族基
R
1:直接結合、炭素数1〜12の2価の炭化水素基、もしくはエーテル結合、エステル結合、アルコール構造およびカルボニル構造からなる群より選択される構造を有する炭素数1〜12の2価の有機基
R
2、R
3:それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基、もしくはエーテル結合、エステル結合、アルコール構造およびカルボニル構造からなる群より選択される構造を有する炭素数1〜12の有機基
n:1〜6の整数)。
【0065】
上記一般式(1)で表される化合物の好適な態様は上述のとおりである。
【0066】
本発明の表面処理グラフェン/有機溶媒分散液は、還元工程後または洗浄工程後の表面処理グラフェン/水分散液の溶媒を、乾燥工程を経ることなく有機溶媒で置換する有機溶媒置換工程を有する製造方法で作製することができる。表面処理グラフェン/水分散液の溶媒を置換する有機溶媒としては、1−プロパノール、2−プロパノール、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン或いは上記の混合物などが例示できる。置換に用いる有機溶媒中に水が一部含まれていても良い。表面処理グラフェン/有機溶媒分散液を一度乾燥させてしまうとグラフェン層間の凝集が強くなるため、グラフェンを乾燥させずに有機溶媒置換処理、せん断による剥離処理を両方行うことが、有機溶媒中におけるグラフェンの良分散化に特に有効である。
【0067】
有機溶媒置換工程は、還元工程を終えたグラフェンの溶媒分散液と、有機溶媒とを混合した後、溶媒の一部を吸引濾過または蒸留により除去する工程であることが好ましい。加圧濾過や遠心分離のような、分散液に含有されたグラフェンに対し強い力がかかる溶媒除去手段では、グラフェンがスタックする傾向がある。吸引濾過としては、減圧吸引濾過を行うことが好ましい。また、還元工程で用いた溶媒の残存率を下げるために、この操作を複数回繰り返しても良い。また、還元工程後かつ有機溶媒置換工程の前の段階で還元剤の除去を目的として表面処理グラフェン/水分散液を水で希釈し濾過する洗浄工程を行っても良い。
【0068】
有機溶媒置換工程において、還元工程を終えた表面処理グラフェン/水分散液と有機溶媒とを混合する際の混合比は特に限定されないが、混合する有機溶媒が少なすぎると混合液が高粘度になるため取り扱いが困難であり、混合する有機溶媒が多すぎると単位処理量あたりのグラフェン量が少なくなるため処理効率が悪くなる。取り扱いの容易な低粘度の分散液を得つつ処理効率を良くする観点から、還元工程を終えたグラフェンの溶媒分散液100質量部に対して、好ましくは有機溶媒を10〜3000質量部、より好ましくは20〜2000質量部、さらに好ましくは50〜1500質量部混合するとよい。
【0069】
表面処理グラフェン/水分散液と有機溶媒を混合する方法は特に限定されないが、プラネタリーミキサー(井上製作所)、ホモディスパー(プライミクス社)、フィルミックス(プライミクス社)などを用いることができる。
【0070】
なお、還元工程の溶媒として有機溶媒を用いることにより、還元工程後にグラフェンが有機溶媒に分散した分散液として存在する場合には、有機溶媒置換工程は必須ではない。
【0071】
〔強撹拌工程〕
本発明の表面処理グラフェン/有機溶媒分散液の製造方法は、前記有機溶媒置換工程において、最終の溶媒除去を行うより前のいずれかの段階で、表面処理グラフェン/水分散液と有機溶媒を混合した状態で、高せん断ミキサーによりせん断速度毎秒5000〜毎秒50000で撹拌処理する強撹拌工程を行うことが好ましい。なお、還元工程の溶媒として有機溶媒を用いたことにより有機溶媒置換工程を行わない場合には、還元工程後の表面処理グラフェン/有機溶媒分散液に対し直接強攪拌工程を行ってもよい。強撹拌工程において高せん断ミキサーによりグラフェンを剥離することで、グラフェン同士のスタックを解消することができる。
【0072】
強撹拌工程におけるせん断速度は、上述のとおり、毎秒5000〜毎秒50000とすることが好ましい。せん断速度が小さすぎると、グラフェンの剥離が起こりにくく、グラフェンの剥離度が低くなる。一方、せん断速度が大きすぎると、グラフェンの剥離度が高くなりすぎて、分散性が低下する。せん断速度は毎秒10000以上であることがより好ましく、毎秒15000以上であることがさらに好ましく、毎秒20000以上であることが特に好ましい。また、同様に毎秒45000以下であることがより好ましく、毎秒40000以下であることがさらに好ましい。また、強撹拌工程の処理時間は15秒から300秒が好ましく、20秒から120秒がより好ましく、30秒から80秒がさらに好ましい。
【0073】
強撹拌工程に用いる高せん断ミキサーとしては、薄膜旋回方式、ローター/ステーター式、メディアミル式を採用したものが好ましい。このようなミキサーとしては、例えば、フィルミックス(登録商標)30−30型(プライミクス社)、クレアミックス(登録商標)CLM−0.8S(エム・テクニック社)、ラボスター(登録商標)ミニLMZ015(アシザワ・ファインテック社)、スーパーシェアミキサーSDRT0.35−0.75(佐竹化学機械工業社)などが挙げられる。
【0074】
<表面処理グラフェン−電極活物質複合体粒子>
本発明の表面処理グラフェン−電極活物質複合体粒子は、本発明の表面処理グラフェンと電極活物質粒子とが複合化してなる。
【0075】
本発明の表面処理グラフェンおよび表面処理グラフェン/有機溶媒分散液の用途は限定されるものではないが、一例として、グラフェンとリチウムイオン電池電極活物質粒子等の電極活物質粒子を複合化する際に有益に用いられる。ここにおいて複合化とは、電極活物質粒子の表面にグラフェンが接した状態を維持せしめることを意味する。複合化の態様としては、グラフェンと電極活物質粒子を一体として造粒したものや、電極活物質粒子の表面にグラフェンを付着せしめたものが挙げられる。
【0076】
表面処理グラフェン−電極活物質複合体粒子の製造に適用する場合、活物質としては、正極活物質、負極活物質のいずれであってもよい。すなわち、本発明の表面処理グラフェンおよび表面処理グラフェン/有機溶媒分散液は、正極の製造にも負極の製造にも用いることができる。リチウムイオン電池電極活物質粒子に適用する場合、正極活物質は特に限定はされないが、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、あるいは、コバルトをニッケル、マンガンで一部置換した三元系(LiMn
xNi
yCo
1−x−yO
2)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)などのリチウムと遷移金属の複合酸化物、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)などのオリビン系(リン酸系)活物質、V
2O
5等の金属酸化物やTiS
2、MoS
2、NbSe
2などの金属化合物等などが挙げられる。負極活物質としては、特に限定されないが、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボンなどの炭素系材料、SiOやSiC、SiOC等を基本構成元素とするケイ素化合物、チタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)、リチウムイオンとコンバージョン反応しうる酸化マンガン(MnO)や酸化コバルト(CoO)などの金属酸化物などが挙げられる。
【0077】
表面処理グラフェン−電極活物質複合体粒子は、例えば、本発明の表面処理グラフェンまたは表面処理グラフェン/有機溶媒分散液と活物質粒子とを混合した後に、スプレードライ、凍結乾燥などの手法で乾燥することにより作製することができる。表面処理グラフェンまたは表面処理グラフェン/有機溶媒分散液と活物質粒子とを混合する方法としては、三本ロール、湿式ビーズミル、湿式遊星ボールミル、ホモジェナイザー、プラネタリーミキサー、二軸混練機などを利用した方法が挙げられる。
【0078】
<電極ペーストの製造方法>
本発明の電極ペーストは、本発明の表面処理グラフェン、電極活物質粒子およびバインダーを含む。
【0079】
本発明の表面処理グラフェンおよび表面処理グラフェン/有機溶媒分散液は、リチウムイオン電池用電極等の製造に用いられる電極ペーストの製造に用いることもできる。すなわち、電極活物質、バインダーおよび導電助剤としての本発明の表面処理グラフェンまたは表面処理グラフェン/有機溶媒分散液を、必要に応じて適量の溶媒を加えた上で混合することにより、電極ペーストを調製することができる。
【0080】
リチウムイオン電池の電極ペーストの製造に適用する場合の電極活物質としては、前述の表面処理グラフェン−活物質複合体粒子の製造方法で述べたものと同様の活物質を用いることができる。
【0081】
バインダーとしては、特に限定されないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系重合体、あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴムなどのゴム、カルボキシメチルセルロース等の多糖類、ポリイミド前駆体および/またはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。これらは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0082】
導電助剤は、本発明の表面処理グラフェンまたは表面処理グラフェン/有機溶媒分散液に含まれる表面処理グラフェンのみであってもよいし、更に別に追加の導電助剤を添加しても良い。追加の導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック等のカーボンブラック類、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、炭素繊維および金属繊維等の導電性繊維類、銅、ニッケル、アルミニウムおよび銀等の金属粉末類などが挙げられる。
【0083】
追加的に使用される溶媒としては、NMP、γ−ブチロラクトン、水、ジメチルアセトアミドなどが挙げられ、NMPを用いることが最も好ましい。
【実施例】
【0084】
〔測定例1:X線光電子分光法による測定〕
各サンプルのX線光電子分光法による測定はQuantera SXM (PHI社製)を使用して測定した。励起X線は、monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6eV)であり、X線径は200μm、光電子脱出角度は45°であった。炭素原子に基づくC1sメインピークを284.3eVとし、酸素原子に基づくO1sピークを533eV付近のピーク、窒素原子に基づくN1sピークを402eV付近のピークに帰属し、各ピークの面積比からO/C比、およびN/C比を求めた。測定は、下記実施例で作製した還元後の表面処理グラフェン/水分散液を吸引濾過器で濾過後、水で0.5質量%まで希釈して吸引濾過する洗浄工程を5回繰り返して洗浄、さらに凍結乾燥して得た表面処理グラフェンに対して行った。
【0085】
〔測定例2:表面処理剤付着量〕
測定例1のX線光電子測定で求めた窒素の質量%値(a)、表面処理剤の分子量(b)、および表面処理剤分子中の窒素の式量(c)から下記式(6)を用いて表面処理剤付着量(質量%)を算出した。
表面処理剤付着量(質量%)=(a×b÷c)÷(100−a×b÷c)×100・・・(6)
〔測定例3:比表面積の評価(BET測定法)〕
グラフェンの比表面積測定はHM Model−1210(Macsorb社製)を使用して測定した。測定はJIS Z8830:2013に準拠し吸着ガス量の測定方法はキャリアガス法で、吸着データの解析は一点法で測定した。脱気条件は、100℃×180分とした。測定は、下記実施例で調製した還元後の表面処理グラフェン/水分散液を吸引濾過器で濾過後、水で0.5質量%まで希釈して吸引濾過する洗浄工程を5回繰り返して洗浄し、さらに凍結乾燥して得た表面処理グラフェンに対して行った。
【0086】
〔測定例4:固形分率〕
表面処理グラフェン/有機溶媒分散液を質量既知のガラス基板上に付着させて質量を測定し、120℃に温度調整したホットプレート上で1.5時間加熱して溶媒を揮発させた。加熱前の表面処理グラフェン/有機溶媒分散液の付着量と、加熱前後の質量差から算出した溶媒揮発量から、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液の固形分率を測定した。これを3回繰り返し、平均して求めた。
【0087】
〔測定例5:グラフェンの厚み〕
表面処理グラフェン/有機溶媒分散液または表面処理グラフェンを、NMPを用いて0.002質量%にまで希釈した。この時、表面処理グラフェンについてはフィルミックス(登録商標)30−30型(プライミクス社)で回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20000)で60秒処理した。希釈液をマイカ基板上に滴下、乾燥し、基板上に付着させた。基板上のグラフェンを、原子間力顕微鏡(Dimension Icon;Bruker社)で観察して、グラフェンの厚みをランダムに50個測定し、平均値を求めた。一小片で厚みにバラつきがあった場合は面積平均を求めた。
【0088】
〔測定例6:グラフェンの面方向の大きさ〕
表面処理グラフェン/有機溶媒分散液または表面処理グラフェンを、NMP溶媒を用いて0.002質量%に希釈した。この時、表面処理グラフェンについてはフィルミックス(登録商標)30−30型(プライミクス社)で回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20000)で60秒処理した。希釈液をガラス基板上に滴下、乾燥し、基板上に付着させた。基板上のグラフェンをキーエンス社製レーザー顕微鏡VK−X250で観察して、グラフェンの小片の最も長い部分の長さ(長径)と最も短い部分の長さ(短径)をランダムに50個測定し、(長径+短径)/2で求められる数値を50個分平均して求めた。
【0089】
〔測定例7:サイクリックボルタンメトリー測定〕
サイクリックボルタンメトリー(CV)測定は、各実施例、比較例において特に記載した場合を除き、以下のように測定した。
【0090】
各実施例、比較例で調整した表面処理グラフェン2質量部、NMPを98質量部配合したものをフィルミックス(登録商標)30−30型(プライミクス社)で回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20000)で60秒処理し、分散液とした。この分散液、または各実施例、比較例で調製した表面処理グラフェン/有機溶媒分散液をグラフェン固形分として80質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン20質量部を配合し、溶媒としてNMPを加えて、全体の固形分率を26質量%に調整したものをあわとり練太郎(登録商標)ARE−310(シンキー社)を用いて2000rpmで5分処理して電極ペーストを得た。
【0091】
表面処理グラフェン/有機溶媒分散液または表面処理グラフェンから作製した上述の電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(100μm)を用いて塗布し、80℃15分間乾燥後、120℃2時間の真空乾燥を行い電極板を得た。
【0092】
作製した電極板を直径15.9mmに切り出して正極とし、対極として金属リチウムからなる負極を用いた。直径17mmに切り出したセルガード#2400(セルガード社製)をセパレータとし、LiPF
6を1M含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=7:3の溶媒を電解液として、2032型コイン電池を作製した。
作製したコイン電池を用いてCV測定を行った。CV測定条件は、電位範囲2.0V〜5.0V(vsLi/Li+)、掃引速度1mV/secとした。1サイクル目はOCVから正の電位方向へ掃引し、その際、電流値2.0×10
−5A/cm
2に到達した時の電位を酸化電位とした。
【0093】
〔測定例8:電池性能評価〕
放電容量は、各実施例、比較例において特に記載した場合を除き、以下のように測定した。
【0094】
各実施例、比較例で調製した表面処理グラフェン2質量部、NMPを98質量部配合したものをフィルミックス(登録商標)30−30型(プライミクス社)で回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20000)で60秒処理し、分散液とした。この分散液をグラフェン固形分として0.75質量部、電極活物質としてLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を97質量部、追加の導電助剤としてアセチレンブラックを0.75質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン1.5質量部、溶媒としてNMPを40質量部配合したものをプラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。
【0095】
各実施例、比較例で調製した表面処理グラフェン/有機溶媒分散液は、グラフェン固形分として0.75質量部、電極活物質としてLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を97質量部、追加の導電助剤としてアセチレンブラックを0.75質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン1.5質量部、溶媒としてNMPを60質量部配合したものをプラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。
【0096】
表面処理グラフェン/有機溶媒分散液または表面処理グラフェンから作製した上述の電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(300μm)を用いて塗布し、80℃15分間乾燥後、120℃2時間の真空乾燥を行い電極板を得た。
【0097】
作製した電極板を直径15.9mmに切り出して正極とし、対極として黒鉛98質量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム1質量部、SBR水分散液1質量部からなる負極を直径16.1mmに切り出して用いた。直径17mmに切り出したセルガード#2400(セルガード社製)をセパレータとし、LiPF
6を1M含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=7:3の溶媒を電解液として、2032型コイン電池を作製した。上限電圧4.2V、下限電圧3.0Vでレート0.1C、1C、5Cの順に充放電測定を各3回ずつ行った後、1Cでさらに491回、計500回の充放電測定を行った。レート1Cの3回目、レート5Cの3回目、その後のレート1Cの491回目(計500回目)のそれぞれの放電容量を測定した。
【0098】
(合成例1:酸化グラフェンゲルの調製方法)
1500メッシュの天然黒鉛粉末(上海一帆石墨有限会社)を原料として、氷浴中の10gの天然黒鉛粉末に、220mlの98%濃硫酸、5gの硝酸ナトリウム、30gの過マンガン酸カリウムを入れ、1時間機械攪拌し、混合液の温度は20℃以下で保持した。この混合液を氷浴から取り出し、35℃水浴中で4時間攪拌反応し、その後イオン交換水500mlを入れて得られた懸濁液を90℃で更に15分反応を行った。最後に600mlのイオン交換水と50mlの過酸化水素を入れ、5分間の反応を行い、酸化グラフェン分散液を得た。熱いうちにこれを濾過し、希塩酸溶液で金属イオンを洗浄し、イオン交換水で酸を洗浄し、pHが7になるまで洗浄を繰り返して酸化グラフェンゲルを調製した。調製した酸化グラフェンゲルの、X線光電子分光法により測定される酸素原子の炭素原子に対する元素比は0.53であった。
【0099】
[実施例1]
合成例1で調製した酸化グラフェンゲルを、イオン交換水で濃度30mg/mlに希釈し、超音波洗浄機で30分処理し、均一な酸化グラフェン分散液を得た。
【0100】
当該酸化グラフェン分散液20mlと、表面処理剤として0.3gの3−クロロアニリン塩酸塩を混合し、ホモディスパー2.5型(プライミクス社)を用いて回転数3000rpmで60分処理した。処理後の酸化グラフェン分散液を、超音波装置UP400S(hielscher社)を使用して、出力300Wで超音波を30分間印加(微細化工程)した。当該処理後に酸化グラフェン分散液をイオン交換水で5mg/mlに希釈し、希釈した分散液20mlに0.3gの亜ジチオン酸ナトリウムを入れて、40℃で1時間還元反応を行った。その後、減圧吸引濾過器で濾過し、さらに水で0.5質量%まで希釈して吸引濾過する洗浄工程を5回繰り返して洗浄して、グラフェン水分散液を得た。得られたグラフェン水分散液を凍結乾燥し、表面処理グラフェンを得た。
【0101】
[実施例2]
表面処理剤を0.3gのベンジルアミン塩酸塩に変えた以外は実施例1と同様にして、表面処理グラフェンを調製した。
【0102】
[実施例3]
表面処理剤を0.3gの2−フェニルエチルアミン塩酸塩に変えた以外は実施例1と同様にして、表面処理グラフェンを調製した。
【0103】
[実施例4]
表面処理剤を0.3gの1−ナフチルアミン塩酸塩に変えた以外は実施例1と同様にして、表面処理グラフェンを調製した。
【0104】
[実施例5]
実施例1で得られたグラフェン水分散液に0.5質量%となるようにNMPを添加し、希釈してフィルミックス(登録商標)30−30型(プライミクス社)で回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20000)で60秒処理(強撹拌工程)した。処理後に減圧吸引濾過により溶媒を除去した。さらに水分を除くために、0.5質量%になるまでNMPを添加しホモディスパー2.5型(プライミクス社)を使用して回転数3000rpmで30分処理して希釈し、希釈後に減圧吸引濾過する工程を2回繰り返し、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液を得た。
【0105】
[実施例6]
表面処理剤を0.3gのベンジルアミン塩酸塩に変えた以外は実施例5と同様にして、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液を調製した。
【0106】
[実施例7]
表面処理剤を0.3gの2−フェニルエチルアミン塩酸塩に変えた以外は実施例5と同様にして、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液を調製した。
【0107】
[実施例8]
表面処理剤を0.3gの1−ナフチルアミン塩酸塩に変えた以外は実施例5と同様にして、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液を調製した。
【0108】
[実施例9]
実施例5と同様にして得た表面処理グラフェン/有機溶媒分散液と、電極活物質LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を固形分の質量比で3:100となるように混合した後、固形分率が10質量%となるようNMPで希釈してフィルミックス(登録商標)(30−30型、プライミクス社)を用いて回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20000)で60秒処理した。処理物をスプレードライで入口温度250℃、出口温度160℃で乾燥させ、グラフェンと電極活物質LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2との複合体粒子(表面処理グラフェン−電極活物質複合体粒子)を得た。
【0109】
正極の電極活物質として当該複合体粒子を用い(97質量部)、グラフェン分散液を単体で添加しなかった以外は測定例8と同様にして電池性能評価を行った。
【0110】
[実施例10]
表面処理剤を0.3gのベンジルアミン塩酸塩に変えた以外は実施例9と同様にして、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液を調製した。
【0111】
[実施例11]
表面処理剤を0.3gの2−フェニルエチルアミン塩酸塩に変えた以外は実施例9と同様にして、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液を調製した。
【0112】
[実施例12]
表面処理剤を0.3gの1−ナフチルアミン塩酸塩に変えた以外は実施例9と同様にして、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液を調製した。
【0113】
[比較例1]
表面処理剤を添加しなかった以外は実施例5と同様にして、グラフェン/有機溶媒分散液を調整した。
【0114】
[比較例2]
表面処理剤を0.3gのドーパミン塩酸塩に変えた以外は実施例1と同様にして、表面処理グラフェンを調製した。
【0115】
[比較例3]
表面処理剤を0.3gのドーパミン塩酸塩に変えた以外は実施例5と同様にして、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液を調製した。
【0116】
[実施例13]
フィルミックス(登録商標)30−30型(プライミクス社)で回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20000)で60秒処理(強撹拌工程)する部分を、ホモディスパー2.5型(プライミクス社)で回転数3000rpm、30分処理に変えた以外は実施例5と同様にして、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液を調製した。
【0117】
[実施例14]
減圧吸引濾過で処理する部分を、遠心分離して上澄みを除去し沈降物を回収する形に変えた以外は実施例5と同様にして、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液を調製した。
【0118】
各実施例、比較例の表面処理グラフェンあるいは表面処理グラフェン/有機溶媒分散液の製造条件、物性、それらを用いて作製したリチウムイオン二次電池の電池性能評価を表1〜表4に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
実施例1〜14の表面処理グラフェン、表面処理グラフェン/有機溶媒分散液、表面処理グラフェン−電極活物質複合体粒子は、いずれも電池性能評価において、高い放電容量1C、放電容量5C、放電容量1C(500サイクル)を示すことから、高分散性、高導電性を有することが示された。また、高い酸化電位を示すことから、高い電気化学的安定性を有することが示された。
かかる目的を達成するため、本発明の表面処理グラフェンは、グラフェンに下記一般式(1)で表される化合物またはその中和塩が付着してなる表面処理グラフェンである。
:直接結合、炭素数1〜12の2価の炭化水素基、もしくはエーテル結合、エステル結合、アルコール構造およびカルボニル構造からなる群より選択される構造を有する炭素数1〜12の2価の有機基
:それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基、もしくはエーテル結合、エステル結合、アルコール構造およびカルボニル構造からなる群より選択される構造を有する炭素数1〜12の有機基