特許第6274364号(P6274364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6274364
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】プリプレグおよび繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/26 20060101AFI20180129BHJP
   C08G 59/24 20060101ALI20180129BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20180129BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   C08G59/26
   C08G59/24
   C08G59/50
   C08J5/24CFC
【請求項の数】11
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-534749(P2017-534749)
(86)(22)【出願日】2017年6月23日
(86)【国際出願番号】JP2017023188
【審査請求日】2017年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-127268(P2016-127268)
(32)【優先日】2016年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒田 泰樹
(72)【発明者】
【氏名】高岩 玲生
(72)【発明者】
【氏名】平野 啓之
【審査官】 海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−302533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分[A]としてエポキシ樹脂、成分[B]としてイミダゾール化合物を含み、下記条件(a)〜(d)を満たすエポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグ
(a):成分[A]として[A1]イソシアヌル酸型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部中10〜40質量部含む。
(b):成分[A]として[A2]ビスフェノール型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部中40〜90質量部含む。
(c):[A2]の平均エポキシ当量が220〜500g/eqである。
(d):成分[B]の含有量が、全エポキシ樹脂中のエポキシ基数に対するイミダゾール数の比が0.01〜0.06となる量である。
【請求項2】
成分[B]のイミダゾール当量が180g/eq以上である、請求項1に記載のプリプレグ
【請求項3】
成分[B]として[B1]一般式(I)に示す化合物を含む、請求項1または2に記載のプリプレグ
【化1】
(式中、R1、R2、R3およびR4は各々独立に、水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基又はフェニル基を示し、Xはアルキレン基又は芳香族炭化水素基を示す。)
【請求項4】
成分[B]として[B2]一般式(II)に示す化合物を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のプリプレグ
【化2】
(式中、R5、R6、R7およびR8は各々独立に、水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基又はフェニル基を示し、Yは単結合、アルキレン基、アルキリデン基、エーテル基又はスルホニル基を示す。)
【請求項5】
さらに成分[C]として酸性化合物を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のプリプレグ
【請求項6】
成分[C]として[C1]芳香族カルボン酸を含む、請求項5に記載のプリプレグ
【請求項7】
成分[C]として[C2]ホウ酸エステル化合物を含む、請求項5または6に記載のプリプレグ
【請求項8】
ジシアンジアミドの含有量が全エポキシ樹脂100質量部に対し0.5質量部以下である、請求項1〜7のいずれかに記載のプリプレグ
【請求項9】
強化繊維が織物の形態である、請求項1〜8のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項10】
強化繊維が炭素繊維である、請求項1〜9のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のプリプレグを硬化させてなる繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ用途および一般産業用途に適した繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として好ましく用いられるエポキシ樹脂組成物、ならびに、これをマトリックス樹脂としたプリプレグおよび繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂はその優れた機械的特性を生かし、塗料、接着剤、電気電子情報材料、先端複合材料など、各種産業分野に広く使用されている。特に炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などの強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料ではエポキシ樹脂が多用されている。
【0003】
炭素繊維強化複合材料の製造には、炭素繊維の基材にあらかじめエポキシ樹脂を含浸させた、プリプレグが汎用される。プリプレグは、積層もしくはプリフォーム後、加熱してエポキシ樹脂を硬化させることで、成形品を与える。プリプレグは、積層までの過程で硬化反応が進むと取扱性が低下する。そのため、プリプレグ用途のエポキシ樹脂には高い保管安定性が必要とされ、潜在硬化性の優れた硬化剤であるジシアンジアミドが広く使われている。
【0004】
炭素繊維複合材料はその軽量かつ高強度、高剛性の特長を生かし、スポーツ・レジャー用途から自動車・航空機等の産業用途まで、幅広い分野において用いられている。特に近年では、その特徴を生かし構造部材として用いられるだけでなく、織物を表面に配置してクロス目を意匠として用いる場合も増えている。そのため、マトリックス樹脂として用いられるエポキシ樹脂には、硬化物が優れた耐熱性および機械特性を示すことに加え、硬化物の低着色性や成形品の外観も重要視されるようになってきた。しかしながら、硬化剤としてジシアンジアミドを用いると、成形品の表面に白色析出物が生じて外観を損ねるという課題があった。
【0005】
ジシアンジアミド由来の白色析出物を抑える方法として、特許文献1には、粒径の小さいジシアンジアミドを用いたマスターバッチを使用することで、ジシアンジアミドとエポキシ樹脂を基材への含浸時に溶解または相溶させることにより、プリプレグの白色析出物を抑制する技術が開示されている。また、ジシアンジアミドを使用しない方法として、特許文献2には、硬化剤としてポリチオールとウレア化合物を用いる技術が開示されており、特許文献3には、硬化剤として酸無水物を用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−209580号公報
【特許文献2】特開2013−253194号公報
【特許文献3】特開2013−133407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された方法では、プリプレグ作製時にジシアンジアミドを溶解または相溶させるため、繊維強化複合材料用のプリプレグとしては、保管安定性が不十分であった。また、プリプレグ作製時にジシアンジアミドを溶解させない場合は、成形品表面に白色析出物が生じる場合があった。
【0008】
また、特許文献2では、ジシアンジアミドを使用していないため成形品表面に白色析出物は生じないが、樹脂硬化物の耐熱性や機械特性が不足する場合があった。
【0009】
さらに、特許文献3において提案されている酸無水物硬化剤を用いた場合では、成形品表面に白色析出物は生じないが、硬化剤の酸無水物が空気中の水分により劣化し、樹脂硬化物の物性が低下する場合があり、一定の保管期間が想定される繊維強化複合材料用のプリプレグ用途には好ましくなかった。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の欠点を改良し、高い耐熱性および弾性率と低着色性を両立するエポキシ樹脂硬化物が得られ、かつ繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として用いたときに成形品表面に白色析出物を生じず、優れた外観を有するエポキシ樹脂組成物、および該エポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグ、ならびに該プリプレグを硬化させてなる、表面に白色析出物が生じず、優れた外観を有する繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成からなるエポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグを見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明のプリプレグは、以下の構成からなる。
【0012】
成分[A]としてエポキシ樹脂、成分[B]としてイミダゾール化合物を含み、下記条件(a)〜(d)を満たすエポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグ
(a):成分[A]として[A1]イソシアヌル酸型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部中10〜40質量部含む。
(b):成分[A]として[A2]ビスフェノール型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部中40〜90質量部含む。
(c):[A2]の平均エポキシ当量が220〜500g/eqである。
(d):成分[B]の含有量が、全エポキシ樹脂中のエポキシ基数に対するイミダゾール数の比が0.01〜0.06となる量である。
【0014】
さらに、本発明の繊維強化複合材料は、上記プリプレグを硬化させてなる繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い耐熱性と優れた機械特性を有し、着色が少ないエポキシ樹脂硬化物が得られ、かつ繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として用いたときに成形品表面に白色析出物を生じず、優れた外観を有するエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、成分[A]としてエポキシ樹脂、成分[B]としてイミダゾール化合物を必須成分として含む。
【0017】
<成分[A]>
本発明における成分[A]はエポキシ樹脂である。例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノール化合物とジシクロペンタジエンの共重合体を原料とするエポキシ樹脂、ジグリシジルレゾルシノール、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシレンジアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0018】
本発明では、成分[A]として[A1]イソシアヌル酸型エポキシ樹脂を含む。[A1]を含むことにより、樹脂硬化物の弾性率が高くなり、耐熱性も向上するため、優れた機械特性と耐熱性を有する繊維強化複合材料が得られる。
【0019】
エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部中、[A1]を10〜40質量部含むことが必要であり、下限については15質量部以上であることが、上限については30質量部以下であることが好ましい。[A1]をこの範囲で含むことにより、樹脂硬化物の着色が少なく、弾性率と耐熱性のバランスが良好となる。
【0020】
[A1]の市販品としては、“TEPIC(登録商標)”−S、−L、−PAS B22(以上、日産化学工業(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”PT9810(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)等を使用することができる。
【0021】
本発明では、成分[A]として[A2]ビスフェノール型エポキシ樹脂を含む。[A2]を含むことにより、樹脂硬化物の着色が低減され、優れた外観を有する繊維強化複合材料が得られる。
【0022】
エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部中、[A2]を40〜90質量部含むことが必要であり、下限については70質量部以上であることが、上限については90質量部以下であることが好ましい。[A2]をこの範囲で含むことにより、樹脂硬化物の着色と弾性率のバランスが良好となる。
【0023】
[A2]としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂をはじめとするビスフェノール化合物をグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂が挙げられる。
【0024】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825、828、834、1001、1002、1003、1003F、1004、1004AF、1005F、1006FS、1007、1009、1010(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。
【0025】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”806、807、4002P、4004P、4007P、4009P、4010P(以上、三菱化学(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2001、YDF2004(以上、新日鉄住金化学(株)製)、“EPICRON(登録商標)”830、830−S、835(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
【0026】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂の市販品としては、“EPICRON(登録商標)”EXA−1514(DIC(株)製)などが挙げられる。
【0027】
本発明では、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性と着色のバランスの観点から、エポキシ樹脂組成物の[A2]の平均エポキシ当量は、220〜500g/eqである必要があり、下限については300g/eq以上であることが、上限については400g/eq以下であることが好ましい。[A2]の平均エポキシ当量が220g/eq未満であると、樹脂硬化物の耐熱性が低下すると共に、着色が強くなるため、繊維強化複合材料とした場合の外観が悪くなる。また、[A2]の平均エポキシ当量が500g/eqよりも大きいと、着色は少ないものの、樹脂硬化物の耐熱性が低下する。
【0028】
上記、エポキシ樹脂組成物の[A2]の平均エポキシ当量は、以下の方法で算出される。
【0029】
(エポキシ樹脂組成物の[A2]の平均エポキシ当量の算出方法)
n種類の[A2]のエポキシ樹脂を併用し、[A2]のエポキシ樹脂の総質量部がG’であり、エポキシ当量がEx(g/eq)の[A2]のエポキシ樹脂XがWx質量部含有されているエポキシ樹脂組成物の[A2]の平均エポキシ当量(g/eq)は、以下の数式(I)によって算出される(ここで、x=1、2、3、・・・、nである。)
【0030】
【数1】
【0031】
<成分[B]>
本発明における成分[B]はイミダゾール化合物である。本発明において成分[B]のイミダゾール化合物は成分[A]のエポキシ樹脂の自己重合を進める硬化剤として働く。イミダゾール化合物を用いることで、他の自己重合型硬化剤と比較して、着色が少なく耐熱性とのバランスが良いエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【0032】
本願発明では、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性と着色のバランスの観点から、成分[B]の含有量は、全エポキシ樹脂中のエポキシ基数に対するイミダゾール数の比(すなわち全エポキシ樹脂中のエポキシ基に対するイミダゾールのモル比)が0.01〜0.06となる量であることが必要であり、下限については0.015以上であることが、上限については0.05以下であることが好ましい。成分[B]の含有量が少なく、エポキシ基数に対するイミダゾール数の比が0.01未満であると、樹脂硬化物の耐熱性が低下する。成分[B]の含有量が多く、エポキシ基数に対するイミダゾール数の比が0.06を超えると、樹脂硬化物の着色が強くなるため、繊維強化複合材料とした場合の外観が悪くなる。
【0033】
上記、エポキシ基数に対するイミダゾール数の比は、下記の方法で算出される。
【0034】
(エポキシ樹脂組成物のエポキシ基数に対するイミダゾール数の比の算出方法)
(1)全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量の算出
n種類の成分[A]のエポキシ樹脂を併用し、全エポキシ樹脂の総質量部がGであり、エポキシ当量がEy(g/eq)のエポキシ樹脂YがWy質量部含有されているエポキシ樹脂組成物の全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量(g/eq)は、以下の数式(II)によって算出される(ここで、y=1、2、3、・・・、nである。)
【0035】
【数2】
【0036】
(2)エポキシ基数に対するイミダゾール数の比の算出
全エポキシ樹脂の総質量部がGであり、エポキシ樹脂組成物中のイミダゾール化合物の質量部がW、そのイミダゾール当量がI(g/eq)であるエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂組成物のエポキシ基数に対するイミダゾール数の比は、上記(1)の値を用いて以下の数式(III)によって算出される。
【0037】
【数3】
【0038】
イミダゾール化合物としては、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールなどが挙げられる。イミダゾール化合物は単独で用いても、複数種類を組み合わせて用いても良い。イミダゾール化合物を複数種類組み合わせて用いる場合には、平均エポキシ当量の計算に倣って算出される平均イミダゾール当量を上記イミダゾール当量として用いて、エポキシ基数に対するイミダゾール数の比を算出する。なお、イミダゾール化合物を単独で用いる場合のイミダゾール当量と、イミダゾール化合物を複数種類を組み合わせて用いる場合の平均イミダゾール当量を総称して、成分[B]のイミダゾール当量と記す。
【0039】
成分[B]のイミダゾール当量は180g/eq以上であることが好ましい。成分[B]のイミダゾール当量を180g/eq以上とすることにより、エポキシ樹脂硬化物の着色が低減し、耐熱性が向上する傾向があるため、外観が良好で高い耐熱性を有する繊維強化複合材料が得られやすい。イミダゾール当量の上限については、1000g/eq以下であることが好ましい。
【0040】
また、イミダゾール当量を大きくする観点から、成分[B]として[B1]下記一般式(I)に示す化合物を含むことが好ましい。
【0041】
【化1】
【0042】
(式中、R、R、RおよびRは各々独立に、水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基又はフェニル基を示し、Xはアルキレン基又は芳香族炭化水素基を示す)。
【0043】
[B1]はイミダゾール化合物とイソシアネ−ト化合物の反応により得られる付加物である。かかる付加物の市販品としては、G−8009L(第一工業製薬(株))が挙げられる。
【0044】
さらに、同じくイミダゾール当量を大きくする観点から、成分[B」として[B2]下記一般式(II)に示す化合物を含むこともまた好ましい。
【0045】
【化2】
【0046】
(式中、R、R、RおよびRは各々独立に、水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基又はフェニル基を示し、Yは単結合、アルキレン基、アルキリデン基、エーテル基又はスルホニル基を示す)。
【0047】
[B2]はイミダゾール化合物とエポキシ化合物の反応により得られる付加物である。かかる付加物の市販品としては、“キュアダクト”(登録商標)P−0505(四国化成工業(株))や、“JERキュア”(登録商標)P200H50(三菱化学(株))が挙げられる。
【0048】
また、本発明では、硬化剤としてジシアンジアミドを含有する場合、成形品表面に白色析出物が生じて外観を損ねることがあるため、ジシアンジアミドの含有量は全エポキシ樹脂100質量部に対し0.5質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以下であることがより好ましく、ジシアンジアミドを含まないことが最も好ましい。
【0049】
<成分[C]>
本発明のエポキシ樹脂組成物には、成分[C]として酸性化合物を添加することもできる。本発明において成分[C]の酸性化合物は成分[B]のイミダゾール化合物の安定化剤としてはたらく。酸性化合物の添加は、エポキシ樹脂組成物およびプリプレグの保管安定性を向上させるため好ましい。
【0050】
酸性化合物は、ブレンステッド酸、またはルイス酸を利用することができる。
【0051】
ブレンステッド酸としては、カルボン酸類を好ましく用いることができる。カルボン酸類とは、脂肪族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、および芳香族ポリカルボン酸に分類され、例えば以下の化合物が挙げられる。
【0052】
脂肪族モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、オクチル酸、ペラルゴン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデカン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸およびオレイン酸、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0053】
脂肪族ポリカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ウンデンカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0054】
芳香族モノカルボン酸としては、安息香酸、ケイ皮酸、ナフトエ酸、トルイル酸、およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0055】
芳香族ポリカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸およびピロメリット酸、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0056】
これらのブレンステッド酸の中でも、[C1]として芳香族モノカルボン酸が好ましく、中でも安息香酸を用いることがさらに好ましい。
【0057】
ルイス酸としては、ホウ酸および/またはホウ酸エステル化合物などを用いることができる。
【0058】
ホウ酸および/またはホウ酸エステル化合物としては、ホウ酸、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリブチルボレート、トリn−オクチルボレート、トリ(トリエチレングリコールメチルエーテル)ホウ酸エステル、トリシクロヘキシルボレート、トリメンチルボレートなどのアルキルホウ酸エステル、トリo−クレジルボレート、トリm−クレジルボレート、トリp−クレジルボレート、トリフェニルボレートなどの芳香族ホウ酸エステル、トリ(1,3−ブタンジオール)ビボレート、トリ(2−メチル−2,4−ペンタンジオール)ビボレート、トリオクチレングリコールジボレートなどが挙げられる。
【0059】
また、ホウ酸エステル化合物として、分子内に環状構造を有する環状ホウ酸エステル化合物を用いることもできる。環状ホウ酸エステル化合物としては、トリス−o−フェニレンビスボレート、ビス−o−フェニレンピロボレート、ビス−2,3−ジメチルエチレンピロボレート、ビス−2,2−ジメチルトリメチレンピロボレートなどが挙げられる。
【0060】
これらのルイス酸の中でも、[C2]としてホウ酸エステル化合物を用いることが好ましい。かかるホウ酸エステル化合物を含む製品としては、たとえば、“キュアダクト”(登録商標)L−01B、L−07N(以上、四国化成工業(株))がある。
【0061】
成分[B]のイミダゾール化合物と成分[C]の酸性化合物には、樹脂組成物の保管安定性と、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性、機械特性、着色のバランスの観点から、適切な組み合わせが存在する。特に[B1]に対しては[C1]安息香酸を、[B2]に対しては[C2]ホウ酸エステル化合物を用いることが好ましい。
【0062】
<エポキシ樹脂組成物の調製方法>
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製には、例えばニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロールおよび2軸押出機といった機械を用いて混練しても良いし、均一な混練が可能であれば、ビーカーとスパチュラなどを用い、手で混ぜても良い。好ましい調製方法としては、以下の方法があげられる。すなわち、容器に成分[A]を投入し、攪拌しながら温度を130℃〜180℃の任意の温度まで上昇させ、エポキシ樹脂を均一に溶解させる。その後、攪拌しながら、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下の温度まで下げ、成分[B]ならびに成分[C]を投入し、混練する。このとき、成分[B]ならびに成分[C]を均一に混合するために、あらかじめ成分[A]の一部を用い、硬化剤マスターを作製しておくことがより好ましい。
【0063】
<繊維強化複合材料>
次に、繊維強化複合材料について説明する。本発明のエポキシ樹脂組成物を、強化繊維と複合一体化した後、硬化させることにより、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物をマトリックス樹脂として含む繊維強化複合材料を得ることができる。
【0064】
本発明に用いられる強化繊維は特に限定されるものではなく、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などが用いられる。これらの繊維を2種以上混合して用いても構わない。この中で、軽量かつ高剛性な繊維強化複合材料が得られ、かつ繊維が黒い光沢を持ち高い意匠性を有する成形品が得られる点から、炭素繊維を用いることが好ましい。
【0065】
本発明における課題である、ジシアンジアミドを硬化剤として用いた場合に成形品表面に発生する白色析出物は、エポキシ樹脂組成物を含浸する際にジシアンジアミドが繊維で漉しとられるか、もしくは成形中の樹脂の流動に伴い繊維近傍にジシアンジアミドが偏析することにより発生すると考えられる。硬化剤としてジシアンジアミドを用いた場合、単繊維径が小さい繊維において白色析出物が発生しやすいことから、繊維強化複合材料に用いられる強化繊維の単繊維径が小さい場合において、本発明の効果は大きく発揮される。この観点から、強化繊維の単繊維径は3〜20μmが好ましく、3〜10μmがさらに好ましい。
【0066】
<プリプレグ>
繊維強化複合材料を得るにあたり、あらかじめエポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグとしておくことは、保管が容易となる上、取り扱い性に優れるため好ましいものである。プリプレグは、本発明のエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させて得ることができる。含浸させる方法としては、ホットメルト法(ドライ法)などを挙げることができる。
【0067】
ホットメルト法は、加熱により低粘度化したエポキシ樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法である。具体的には、離型紙などの上にエポキシ樹脂組成物をコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで強化繊維を引き揃えたシート、もしくは強化繊維の織物(クロス)の両側または片側から前記フィルムを重ね、加熱加圧することにより強化繊維に樹脂を含浸させる方法である。
【0068】
プリプレグに用いる強化繊維の形態は特に限定されないが、成形品とした場合に織目が美しく、高い意匠性を有することから、織物であることが好ましい。硬化剤としてジシアンジアミドを用いた場合、織物を用いたプリプレグを成形すると、繊維の交点(目)近傍に白色析出物が発生することが多い。プリプレグの強化繊維として織物を用いることにより、本発明の効果が特に大きく発揮される。
【0069】
また、プリプレグに用いる強化繊維は特に限定されるものではなく、繊維強化複合材料の記載に挙げた各種繊維を用いることができる。中でも、軽量かつ高剛性な繊維強化複合材料が得られ、かつ繊維が黒い光沢を持ち高い意匠性を有する成形品が得られる点から、炭素繊維を用いることが好ましい。
【0070】
<プリプレグの成形法>
プリプレグ積層成形法において、熱および圧力を付与する方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法などを適宜使用することができる。
【0071】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物と、強化繊維を含む繊維強化複合材料は、スポーツ用途、一般産業用途および航空宇宙用途に好ましく用いられる。より具体的には、スポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケット、ホッケーなどのスティック、およびスキーポールなどに好ましく用いられる。さらに一般産業用途では、自動車、二輪車、自転車、船舶および鉄道車両などの移動体の構造材や内装材、ドライブシャフト、板バネ、風車ブレード、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラ、屋根材、ケーブル、および補修補強材料などに好ましく用いられる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0073】
特に断りのない限り、各種物性の測定は温度23℃・相対湿度50%の環境下で行った。
【0074】
各エポキシ樹脂組成物を調製するために用いた材料は以下に示す通りである。
【0075】
<使用した材料>
成分[A]:エポキシ樹脂
・[A1]イソシアヌル酸型エポキシ樹脂
[A1]−1 “TEPIC(登録商標)”−S(エポキシ当量:100、日産化学工業(株)製)
[A1]−2 “TEPIC(登録商標)”−L(エポキシ当量:101、日産化学工業(株)製)
[A1]−3 “TEPIC(登録商標)”−PAS B22(エポキシ当量:190、日産化学工業(株)製)。
【0076】
・[A2]ビスフェノール型エポキシ樹脂
[A2]−1 “EPICLON(商標登録)”830(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:172、大日本インキ化学工業(株)製)
[A2]−2 “jER(商標登録)”828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:189、三菱化学(株)製)
[A2]−3 “エポトート(登録商標)”YDF−2001(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:475、東都化成(株)製)
[A2]−4 “jER(商標登録)”1001(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:470、三菱化学(株)製)
[A2]−5 “jER(商標登録)”4004P(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:910、三菱化学(株)製)
[A2]−6 “jER(商標登録)”1007(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:910、三菱化学(株)製)。
【0077】
・[A3]その他のエポキシ樹脂
[A3]−1 “スミエポキシ(登録商標)”ELM434(ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、エポキシ当量:120、住友化学工業(株)製)
[A3]−2 “jER(商標登録)”154(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:175、三菱化学(株)製)。
【0078】
成分[B]:イミダゾール化合物
・[B1]一般式(I)に示す化合物
[B1]−1 G−8009L(イミダゾール当量:195、一般式(I)において、R1およびR2がエチル基、R3およびR4がメチル基、Xがヘキサメチレン基である化合物、第一工業製薬(株)製)。
【0079】
・[B2]一般式(II)に示す化合物
[B2]−1 “キュアダクト(登録商標)”P−0505(イミダゾール当量:280、一般式(II)において、R5およびR6がエチル基、R7およびR8がメチル基、Yがイソプロピリデン基である化合物、四国化成工業(株)製)。
【0080】
・[B3]その他のイミダゾール化合物
[B3]−1 “キュアゾール(登録商標)”2MZ−H(イミダゾール当量:82、2−メチルイミダゾール、四国化成工業(株)製)
[B3]−2 “キュアゾール(登録商標)”2PZ(イミダゾール当量:144、2−フェニルイミダゾール、四国化成工業(株)製)。
【0081】
・[B’]イミダゾール化合物以外の硬化剤
[B’]−1 “jERキュア(登録商標)”DICY7(ジシアンジアミド、三菱化学(株)製)
[B’]−2 DCMU99(3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、保土ヶ谷化学工業(株)製)。
【0082】
成分[C]:酸性化合物
・[C1]芳香族カルボン酸
[C1]−1 安息香酸(東京化成工業(株)製)。
【0083】
・[C2]ホウ酸エステル化合物 を含む混合物
[C2]−1 “キュアゾール(登録商標)”L−01B(酸性化合物としてホウ酸エステル化合物を5質量部含む混合物、四国化成工業(株)製)
[C2]−2 “キュアゾール(登録商標)”L−07N(酸性化合物としてホウ酸エステル化合物を5質量部含む混合物、四国化成工業(株)製)。
【0084】
<樹脂組成パラメータの算出方法>
(1)エポキシ樹脂組成物の[A2]の平均エポキシ当量の算出方法
n種類の[A2]のエポキシ樹脂を併用し、[A2]のエポキシ樹脂の総質量部がG’であり、エポキシ当量がEx(g/eq)の[A2]のエポキシ樹脂XがWx質量部含有されているエポキシ樹脂組成物の[A2]の平均エポキシ当量(g/eq)を、以下の数式(I)によって算出した(ここで、x=1、2、3、・・・、nである。)
【0085】
【数4】
【0086】
(2)エポキシ樹脂組成物の全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量の算出方法
n種類の成分[A]のエポキシ樹脂を併用し、全エポキシ樹脂の総質量部がGであり、エポキシ当量がEy(g/eq)のエポキシ樹脂YがWy質量部含有されているエポキシ樹脂組成物の全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量(g/eq)を、以下の数式(II)によって算出した(ここで、y=1、2、3、・・・、nである。)
【0087】
【数5】
【0088】
(3)エポキシ樹脂組成物のエポキシ基数に対するイミダゾール数の比の算出方法
全エポキシ樹脂の総質量部がGであり、エポキシ樹脂組成物中のイミダゾール化合物の質量部がW、そのイミダゾール当量がI(g/eq)であるエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂組成物のエポキシ基数に対するイミダゾール数の比を、上記(2)の値を用いて以下の数式(III)によって算出した。
【0089】
【数6】
【0090】
<エポキシ樹脂組成物の調製方法>
(1)硬化剤マスターの調製
液状の[A2]ビスフェノール型エポキシ樹脂([A2]−1または[A2]−2のうち、樹脂組成に含まれるもの)を10質量部(全ての成分[A]のエポキシ樹脂100質量部に対して10質量部)用意した。ここに成分[B]のイミダゾール化合物、[B’] イミダゾール化合物以外の硬化剤、成分[C]の酸性化合物のうち、樹脂組成に含まれるものを添加し、ニーダーを用いて室温で混練した。混合物を三本ロールに2回通すことで、硬化剤マスターを調製した。
【0091】
(2)エポキシ樹脂組成物の調製
ニーダー中に、前記(1)で使用した液状の[A2]ビスフェノール型エポキシ樹脂10質量部を除いた成分[A]のエポキシ樹脂90質量部を投入した。混練しながら、150℃まで昇温した後、同温度で1時間保持することで、透明な粘調液を得た。混練を続けながら60℃まで降温した後、前記(1)で調製した硬化剤マスターを投入し、同温度で30分間混練することで、エポキシ樹脂組成物を得た。表1〜4に各実施例および比較例のエポキシ樹脂組成物の組成を示した。
【0092】
<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>
上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中で、130℃の温度で90分間硬化させ、厚さ2mmの板状のエポキシ樹脂硬化物を得た。
【0093】
<織物炭素繊維複合材料(以下、織物CFRP)の作製方法>
上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて離型紙上に塗布し、目付66g/mの樹脂フィルムを作製した。炭素繊維“トレカ(登録商標)”T300(東レ(株)製)を用いた二方向クロス(2/2綾織、目付198g/m)を用意し、これに2枚の樹脂フィルムを両面に貼り合わせた後、これをプリプレグ化装置で両面から加熱加圧含浸し織物プリプレグを得た。プリプレグの樹脂含有率は40質量%であった。
【0094】
この織物プリプレグの繊維方向を揃えて10プライ積層した後、ナイロンフィルムで隙間の無いように覆い、これをオートクレーブ中で130℃、内圧0.3MPaで2時間かけて加熱加圧成形して硬化し、織物CFRPを作製した。
【0095】
<物性評価方法>
(1)エポキシ樹脂組成物の保管安定性
エポキシ樹脂組成物の保管安定性は、以下の方法で得られたTg変化量によって評価した。直径4cmの円形の底面を持つ容器に、上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物を2g取り分け、温度25℃・相対湿度50%RHの環境に保った恒温恒湿槽内で7日間保管した。保管前後の樹脂それぞれ3mgをサンプルパンに量り取り、示差走査熱量分析計(Q−2000:TAインスツルメント社製)を用い、−50℃から100℃まで10℃/分の等速昇温条件で測定した。得られた熱量−温度曲線における変曲点の中点をガラス転移温度(以下、Tgと記す)とした。保管後のTgから保管前のTgを差し引いたものをTg変化量とした。Tg変化量が小さいほど、保管安定性は良好と判断される。
【0096】
(2)エポキシ樹脂硬化物のTg
上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従い作製したエポキシ樹脂硬化物から、幅10mm、長さ40mm、厚さ2mmの試験片を切り出し、動的粘弾性測定装置(DMA−Q800:TAインスツルメント社製)を用い、変形モードを片持ち曲げ、スパン間を18mm、歪みを20μm、周波数を1Hzとし、40℃から200℃まで5℃/分の等速昇温条件で測定した。得られた貯蔵弾性率−温度曲線における貯蔵弾性率のオンセット温度をTgとした。
【0097】
(3)エポキシ樹脂硬化物の弾性率
上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従い作製したエポキシ樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、スパンを32mm、クロスヘッドスピードを100mm/分とし、JIS K7171(1994)に従って3点曲げを実施し、弾性率を測定した。試験片数n=6で測定した値の平均値を弾性率とした。
【0098】
(4)エポキシ樹脂硬化物の黄色度
上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従い作製したエポキシ樹脂硬化物から3cm角、厚さ2mmの試験片を切り出した。この試験片について、分光測色計MSC−P(スガ試験機(株)製)を用い、JIS Z8722(2009)に従って透過物体色を測定し、三刺激値を求めた。イルミナントはD65、幾何条件e、測定方法は分光測色方法、有効波長幅は5nm、波長間隔は5nmとし、表色系はXYZ表色系とした。得られた三刺激値を基に、JIS K7373(2006)に従って黄色度を計算した。
【0099】
(5)織物CFRPの外観
上記<織物CFRPの作製方法>に従い作製した織物CFRPを40℃の水に7日間浸漬した。浸漬後の織物CFRPについて、織目部分の外観を目視で確認した。結果は、白色析出物が認められない場合をgood、認められる場合をpoorと表記した。
【0100】
(実施例1)
成分[A]のエポキシ樹脂として“TEPIC(登録商標)”−L 20質量部、“jER(商標登録)”828 25質量部、“エポトート(商標登録)”YDF2001 55質量部、成分[B]のイミダゾール化合物としてG−8009L 3質量部、成分[C]の酸性化合物として安息香酸 1質量部を用い、上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従ってエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0101】
このエポキシ樹脂組成物についてTg変化量を測定したところ、+4℃であり、保管安定性は良好であった。
【0102】
得られたエポキシ樹脂組成物から、<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従って、エポキシ樹脂硬化物を作製した。このエポキシ樹脂硬化物についてTg、曲げ弾性率、黄色度を測定したところ、Tgは135℃、曲げ弾性率は3.5GPa、黄色度は54であり、樹脂硬化物の物性は良好であった。また、得られたエポキシ樹脂組成物から織物CFRPを作製して外観を評価したところ、白色析出物は認められなかった。
【0103】
(実施例2〜19)
樹脂組成をそれぞれ表1および2に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。
【0104】
各実施例について、エポキシ樹脂組成物の保管安定性、エポキシ樹脂硬化物のTg、弾性率、黄色度、織物CFRPの外観は表1および2に記載の通りであり、いずれも良好であった。
【0105】
(実施例20)
樹脂組成を表2に示したような酸性化合物を含まない組成に変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。エポキシ樹脂組成物の保管安定性は実施例1に対して若干劣るが、それ以外の物性評価結果は、実施例1とほぼ同程度で良好であった。
【0106】
(比較例1)
表3に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。物性評価結果は表3に併せて示した。エポキシ樹脂組成物の保管安定性、エポキシ樹脂硬化物のTg、弾性率、織物CFRPの外観は良好であったが、全エポキシ樹脂100質量部中[A2]の含有量が40質量部に満たず、エポキシ樹脂硬化物の黄色度が不良であった。
【0107】
(比較例2)
表3に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。物性評価結果は表3に併せて示した。エポキシ樹脂硬化物のTg、弾性率、CFRPの外観は良好であったが、エポキシ樹脂組成物の保管安定性は若干低かった。また、全エポキシ樹脂100質量部中[A2]の含有量が40質量部に満たず、エポキシ樹脂硬化物の黄色度が不良であった。
【0108】
(比較例3)
表3に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。物性評価結果は表3に併せて示した。エポキシ樹脂組成物の保管安定性、エポキシ樹脂硬化物のTg、黄色度、織物CFRPの外観は良好であったが、全エポキシ樹脂100質量部中[A1]の含有量が10質量部に満たず、エポキシ樹脂硬化物の弾性率が低かった。
【0109】
(比較例4)
表3に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。物性評価結果は表3に併せて示した。エポキシ樹脂組成物の保管安定性、エポキシ樹脂硬化物のTg、黄色度、織物CFRPの外観は良好であったが、全エポキシ樹脂100質量部中[A1]の含有量が10質量部に満たず、エポキシ樹脂硬化物の弾性率が低かった。
【0110】
(比較例5)
表3に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。物性評価結果は表3に併せて示した。エポキシ樹脂組成物の保管安定性、エポキシ樹脂硬化物のTg、黄色度、織物CFRPの外観は良好であったが、全エポキシ樹脂100質量部中[A1]の含有量が10質量部に満たず、エポキシ樹脂硬化物の弾性率が低かった。
【0111】
(比較例6)
表3に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。物性評価結果は表3に併せて示した。エポキシ樹脂組成物の保管安定性、エポキシ樹脂硬化物のTg、弾性率、織物CFRPの外観は良好であったが、全エポキシ樹脂100質量部中[A1]の含有量が40質量部を超え、エポキシ樹脂硬化物の黄色度が不良であった。
【0112】
(比較例7)
表3に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。物性評価結果は表3に併せて示した。エポキシ樹脂組成物の保管安定性、エポキシ樹脂硬化物の弾性率、黄色度、織物CFRPの外観は良好であったが、[A2]の平均エポキシ当量が220g/eqに満たず、エポキシ樹脂硬化物のTgが低かった。
【0113】
(比較例8)
表4に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。物性評価結果は表4に併せて示した。エポキシ樹脂組成物の保管安定性、エポキシ樹脂硬化物の弾性率、黄色度、織物CFRPの外観は良好であったが、[A2]の平均エポキシ当量が500g/eqを超え、エポキシ樹脂硬化物のTgが低かった。
【0114】
(比較例9)
表4に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。物性評価結果は表4に併せて示した。エポキシ樹脂組成物の保管安定性、エポキシ樹脂硬化物の弾性率、黄色度、織物CFRPの外観は良好であったが、成分[B]の含有量が少なく、エポキシ基数に対するイミダゾール数の比が0.01に満たなかったため、エポキシ樹脂硬化物のTgが低かった。
【0115】
(比較例10)
表4に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。物性評価結果は表4に併せて示した。エポキシ樹脂硬化物のTg、弾性率、織物CFRPの外観は良好であったが、成分[B]の含有量が多く、エポキシ基数に対するイミダゾール数の比が0.06を超えたため、エポキシ樹脂組成物の保管安定性が低く、エポキシ樹脂硬化物の黄色度が不良であった。
【0116】
(比較例11)
表4に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。物性評価結果は表4に併せて示した。エポキシ樹脂組成物の保管安定性、エポキシ樹脂硬化物の弾性率、黄色度、織物CFRPの外観は良好であったが、成分[B]を含んでおらず、エポキシ樹脂硬化物のTgが低かった。
【0117】
(比較例12)
表4に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。物性評価結果は表4に併せて示した。エポキシ樹脂組成物の保管安定性、エポキシ樹脂硬化物のTg、弾性率、黄色度は良好であったが、成分[B]を含んでおらず、ジシアンジアミドを含んでいたため、織物CFRPに白色析出物が認められた。
【0118】
(比較例13)
表4に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、織物CFRPを作製した。物性評価結果は表4に併せて示した。エポキシ樹脂硬化物のTg、織物CFRPの外観は良好であったが、[A1]を含んでおらず、エポキシ樹脂硬化物の弾性率が低かった。また、成分[B]の含有量が多く、エポキシ基数に対するイミダゾール数の比が0.06を超えたため、エポキシ樹脂組成物の保管安定性とエポキシ樹脂硬化物の黄色度が不良であった。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、高い耐熱性・弾性率と低着色性を両立するエポキシ樹脂硬化物が得られるため、これをマトリックス樹脂として用いた繊維強化複合材料は、優れた耐熱性・機械特性と低着色性を有する。また、繊維強化複合材料の成形品表面に白色析出物を生じないため、その低着色性と併せて優れた意匠性を有する。本発明のエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、繊維強化複合材料は、スポーツ用途および一般産業用途に好ましく用いられる。
【要約】
高い耐熱性および弾性率と低着色性を両立するエポキシ樹脂硬化物が得られ、かつ繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として用いたときに成形品表面に白色析出物を生じず、優れた外観を有するエポキシ樹脂組成物を提供する。
成分[A]としてエポキシ樹脂、成分[B]としてイミダゾール化合物を含み、下記条件(a)〜(d)を満たすエポキシ樹脂組成物。
(a):成分[A]として[A1]イソシアヌル酸型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部中10〜40質量部含む。
(b):成分[A]として[A2]ビスフェノール型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部中40〜90質量部含む。
(c):[A2]の平均エポキシ当量が220〜500g/eqである。
(d):成分[B]の含有量が、全エポキシ樹脂中のエポキシ基数に対するイミダゾール数の比が0.01〜0.06となる量である。